JPWO2002029090A1 - 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびその利用方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質が提供する。さらに、本発明は、該物質を用いたKDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法、細胞増殖を阻害する方法、血管新生を阻害する方法、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法、血管新生阻害剤のスクリーニング法、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法、組織での血管新生を検出する方法、およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法を提供する。
Description
技術分野
本発明は1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質に関する。さらに、本発明は、該物質を用いたKDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法、細胞増殖を阻害する方法、血管新生を阻害する方法、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法、血管新生阻害剤のスクリーニング法、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法、組織での血管新生を検出する方法、およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法に関する。
背景技術
血管新生は、脊椎動物の個体の発生および組織の構築に重要な役割を果たすとともに、成熟個体(雌)の性周期における黄体形成、子宮内膜の一過性の増殖および胎盤形成などにも密接に関与している。さらに、病的状態としては、固形腫瘍の増殖もしくは転移形成、糖尿病性網膜症および慢性関節リュウマチの病態形成あるいは促進に血管新生が深く関与している[J.Biol.Chem.,267,10931(1992)]。血管新生は、血管新生因子の分泌が引き金となり、分泌された血管新生因子の近傍にある既存の血管の内皮細胞からのプロテアーゼ分泌による基底膜、間質の破壊、続いて起こる血管内皮細胞の遊走、増殖により、管腔が形成され、血管が新生される過程よりなる[J.Biol.Chem.,267,10931(1992)]。血管新生を誘導する因子としては、vascular permeability factor(以下、VPFと略記する)、vascular endothelial growth factor(以下、VEGFと略記する)があり(以下、VPF/VEGFと記す)、これらは発生過程における血管新生および病的な状態における血管新生において最も重要な因子として知られている[Advances in Cancer Research,67,281(1995)]。VPF/VEGFはホモダイマーよりなる分子量約4万の蛋白質であり、1983年に血管透過性促進因子(Vascular permeability factor:VPF)として[Science,219,983(1983)]、1989年に血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor:VEGF)として[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]報告されたが、cDNAクローニングの結果、両者は同一の物質であることが明らかとなった[Science,246,1306(1989);Science,246,1309(1989)](以下、VPF/VEGFはVEGFと記す)。VEGFの活性としてはこれまでに、血管内皮細胞に対する、増殖促進活性[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]、遊走促進活性[J.Immunology,152,4149(1994)]、メタロプロテアーゼ分泌促進活性[J.Cell.Physiol.,153,557(1992)]、ウロキナーゼ、tPA分泌促進活性[Biochem.Biophys.Res.Comm.,181,902(1991)]などが知られており、イン・ビボ(in vivo)において血管新生促進活性[Circulation,92,suppl II,365 (1995)]、血管透過性促進活性[Science,219,983(1983)]などがこれまでに知られている。VEGFは血管内皮細胞に極めて特異性の高い増殖因子であり[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]、またmRNAのオルタナティブ・スプライシング(Alternative splicing)により分子量の異なる4種類の蛋白質が存在することが報告されている[J.Biol.Chem.,67,26031(1991)]。
血管新生を伴う疾患の中で、固形腫瘍の増殖もしくは転移形成、糖尿病性網膜症、慢性関節リュウマチの病態形成にVEGFが深く関与していることが報告されている。固形腫瘍については、これまでに腎癌[Cancer Research,54,4233(1994)]、乳癌[Human Pathology,26,86(1995)]、脳腫瘍[J.Clinical Investigation,91,153(1993)]、消化器癌[Cancer Research,53,4727(1993)]、卵巣癌[Cancer Research,54,276(1994)]などの多くのヒト腫瘍組織におけるVEGFの産生が報告されている。また、乳癌患者の腫瘍におけるVEGF発現量と患者の生存率との相関性を検討した結果、VEGF高発現腫瘍は、VEGF低発現腫瘍に比べて腫瘍血管新生が盛んであり、かつVEGF高発現腫瘍の乳癌患者は、VEGF低発現腫瘍の乳癌患者に比べて生存率が低いことも明らかとなっている[Japanese J.Cancer Research,85,1045(1994)]。また、ヌードマウスにヒト腫瘍を皮下移植したゼノグラフトモデル実験系において、抗VEGFモノクローナル抗体は腫瘍増殖抑制効果を示すことが報告されている[Nature,362,841(1993)]。さらに、ヌードマウスにおけるヒト腫瘍の転移癌モデルにおいて、抗VEGFモノクローナル抗体は癌転移を抑制できることが報告されている[Cancer Research,56,921(1996)]。また、ヒトの癌性胸水、腹水中に高濃度のVEGFが検出されることから、胸水、腹水貯留の主要な因子である可能性も示されている[Biochimica et Biophysica Acta,1221,211(1994)]。
糖尿病網膜症においては、血管新生の異常により網膜剥離や硝子体出血をおこして失明にいたるが、糖尿病性網膜症における血管新生と患者眼球内のVEGFレベルが正相関することが報告されている[New England J.Medicine,331,1480(1994)]。また、サルの網膜症モデルにおいて抗VEGF中和モノクローナル抗体の眼内投与によりVEGF活性を抑制すると血管新生が抑制されることが報告されている[Arch Opthalmol.,114,66(1996)]。
慢性関節リュウマチの関節炎の病態の進展(骨、軟骨の破壊)には血管新生を伴うが、慢性関節リュウマチ患者の関節液中にはVEGFが高濃度で含まれていること、関節中のマクロファージがVEGFを産生することが報告されている[Journal of Immunology,152,4149(1994);J.Experimental Medicine,180,341(1994)]。
VEGFの受容体として、Flt−1(fms−like tyrosine kinase)[Shibuya M et al.,Oncogene,5,519(1990)、de Vries C et al.,Science,255,989(1992)]およびKDR(kinase insert domain−containing receptor)[WO92/14748、Terman BI et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,187,1579(1992)]が報告されている。KDRはマウスではFlk−1(fetal liver kinase−1)として発見された[W.Matthews et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,9026(1991)、WO94/11499、Millauer B et al.,Cell,72,835(1993)]ので、ここではKDR/Flk−1と総称する。
Flt−1およびKDR/Flk−1は両者とも、細胞外ドメインは7個のイムノグロブリン様ドメインからなり、細胞内ドメインにはチロシンキナーゼドメインを有する、分子量180〜200kDaの受容体型チロシンキナーゼファミリーに属する膜蛋白である。VEGFはFlt−1およびKDR/Flk−1にはそれぞれK0値が20pmol/lおよび75pmol/lで特異的に結合する。Flt−1およびKDR/Flk−1は血管内皮細胞に特異的に発現していると報告されている[Quinn TP et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,7533(1993)、Kendall RL et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,8915(1993)]。
ヒト脳腫瘍組織の腫瘍血管内皮細胞[Hatva E et al.,Am.J.Pathol.,146,368(1995)]、ヒト消化器癌組織の腫瘍血管内皮細胞[Brown LF et al.,Cancer Res.,53,4727(1993)]において、正常組織の血管内皮細胞に比べKDR/Flk−1のmRNAレベルの発現が上昇していることが報告されている。これらの結果は、腫瘍血管新生においてVEGF−KDR/Flk−1系が重要な役割を果たしていることを強く示唆するものである。さらに、慢性関節リウマチ患者の関節の血管内皮細胞においてもイン・サイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションによりKDR/Flk−1のmRNAの発現が認められることが報告されており[Fava RA et al.,J.Exp.Med.,180,341,(1994)]、慢性関節リウマチにおけるVEGF−KDR/Flk−1系の重要性を示唆している。
KDR/Flk−1の機能については、ブタ動脈の血管内皮細胞にKDR/Flk−1を発現させるとVEGFに反応し増殖、遊走することから、VEGFの多様な活性の中でKDR/Flk−1は血管内皮細胞の増殖、遊走に関与すると報告されている[Waltenberger J et al.,J.Biol.Chem.,269,26988(1994)]。また、KDR/Flk−1遺伝子を破壊したノックアウトマウスでは血管内皮細胞の増殖や血管の形成が全く認められず、卵黄嚢の血島も形成されず、発生後8.5から9.5日の胎児期に死亡したことから、動物個体においてもKDR/Flk−1は血管内皮細胞の増殖、分化に関与することが報告されている[Shalaby F et al.,Nature,376,62(1995)]。
一方、Flt−1遺伝子のノックアウトマウスも同じ胎児期に死亡するが、その原因は内皮細胞の過剰な増殖と正常な血管の構造が形成できないためであることから[Fong G−H et al.,Nature,376,66(1995)]、Flt−1は内皮細胞の増殖を抑制するネガティブな調節因子として血管内皮の正常な構造形成に関与していると考えられ、KDR/Flk−1とFlt−1はVEGFがその作用を示すうえでそれぞれ別の役割を果たしていると考えられる。
VEGFとKDR/Flk−1との結合を阻害できるようなKDR/Flk−1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体が、in vitroで血管内皮細胞におけるKDR/Flk−1の情報伝達を阻害し増殖を阻害すること[Rockwell P et al.,Mol.Cell.Differ.,3,91(1995)]、およびこの抗体が、マウスに移植した種々の癌細胞の血管新生や増殖、転移を抑制することが報告されている[Prewett M et al.,Cancer Res.,59,5209(1999)]。また、KDR/Flk−1のチロシンキナーゼに特異的な阻害剤SU5416が、マウスに移植した種々の癌細胞の血管新生や増殖、あるいは転移を抑制することが報告されている[Annie T et al.,Cancer Res.,59,99(1999)、Shaheen RM et al.,Cancer Res.,59,5412 (1999)]。
一般にチロシンキナーゼ型受容体の情報伝達は、リガンドとの結合により自己のチロシンキナーゼが活性化され、自己および他の分子のチロシン残基をリン酸化することで情報伝達が開始されると考えられている。この場合、受容体の自己リン酸化チロシンにSH2ドメインを介して別の蛋白質分子が結合し、この分子が他の分子と結合したり酵素反応をおこすことにより情報の伝達がなされていくと考えられている。KDR/Flk−1の場合も、血管内皮細胞において、VEGFとの結合により自己のチロシン残基がリン酸化を受けることが報告されている[J.Waltenberger et al.,J.Biol.Chem.,269,26988(1994)]。自己リン酸化されるチロシンの位置としては、これまで、大腸菌で発現させたKDR/Flk−1の中の951、996、1054、1059位のチロシンが自己リン酸化されること[Dougher−Vermazen M et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,205,728(1994)]、酵母を用いた系では、ホスホリパーゼC−γ(以下、PLC−γと略記する)が結合するコンセンサス配列に類似した配列中にある801位と1175位のチロシンがリン酸化を受けること[Cunningham SA et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,240,635(1997)]が報告されている。動物細胞で発現させたKDR/Flk−1の主な自己リン酸化部位は1175位、1214位のチロシンであり、801位チロシンはほとんど自己リン酸化を受けないことが報告されている(高橋ら、第5回Vascular Medicine学会2000年)。また、酵母ツーハイブリッドシステムにより、KDR/Flk−1の1175位のチロシンにアダプター蛋白質SckがそのSH2ドメインを介して結合していることが見出されている[Igarashi K et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,251,72(1998)]。
KDR/Flk−1の血管内皮細胞の増殖に至る情報伝達では、他のチロシンキナーゼ型受容体と異なりRasやPI3キナーゼの関与はほとんどなく、VEGFの刺激により活性化し自己リン酸化したKDR/Flk−1に、PLC−γが結合してリン酸化を受けて活性化し、さらにPKCが活性化されその結果MAPキナーゼの活性化とDNA合成の誘導がおこるという、PLC−γ−PKC−MAPキナーゼの系が主に関与していると考えられている「Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)、Takahashi T et al.,Oncogene,2221(1999)]。KDR/Flk−1の1175位、1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換した変異体を内皮細胞由来の細胞株に発現させることにより、1175位のチロシンのリン酸化がPLC−γのリン酸化やMAPキナーゼの活性化と関与することが報告されている(高橋ら、第58回日本癌学会総会1999年)。
また、内皮細胞内でVEGF依存的に1175位チロシンがリン酸化されることが報告されている。さらに、リン酸化した1175位チロシンに対するポリクローナル抗体を作製し、この抗体が1175位のチロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に認識することも報告されている(高橋ら、第5回Vascular Medicine学会2000年)。しかし、このリン酸化した1175位チロシンに対する抗体と、細胞増殖の阻害との因果関係については知られていない。
発明の開示
ヒト型VEGF受容体KDRの情報伝達を阻害できれば、ヒトにおける固形腫瘍の増殖、転移形成、慢性関節リュウマチにおける関節炎、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾鮮等の異常な血管新生により病態が進行する疾患の治療に有用であることが期待される。
本発明の目的は、KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質を取得し、さらに該物質の利用方法を提供することである。
KDR/Flk−1の情報伝達に重要な自己リン酸化部位である、1175位チロシンをリン酸化したKDR/Flk−1に対する抗体を作製した。そして、この抗体が1175位チロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に検出できるのみならず、この抗体を内皮細胞に注入するとKDR/Flk−1の情報伝達を阻害し、VEGFに依存的な細胞の増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下に示す(1)〜(38)に関する。
(1)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
(2)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
(3)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
(4)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法。
(5)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生阻害剤のスクリーニング法。
(6)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法。
(7)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
(8)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
(9)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法。
(10)情報伝達分子がホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(12)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつPLC−γのリン酸化を阻害する抗体である、上記(11)記載の方法。
(13)抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(11)または(12)記載の方法。
(14)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
(15)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
(16)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
(17)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
(18)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
(19)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を有効成分として含有する薬剤。
(20)薬剤が、チロシンリン酸化阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(21)薬剤が、細胞増殖阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(22)薬剤が、血管新生阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(23)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、上記(19)〜(22)のいずれかに記載の薬剤。
(24)抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害する抗体である、上記(23)に記載の薬剤。
(25)抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(23)または(24)に記載の薬剤。
(26)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有するKDR/Flk−1のチロシンリン酸化阻害剤。
(27)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する細胞増殖阻害剤。
(28)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する血管新生阻害剤。
(29)上記(4)〜(6)および(9)のいずれかに記載の方法により得られる化合物。
(30)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を認識するモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(31)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(32)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)または(31)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(33)ハイブリドーマKM3035(FERM BP−7729)が生産するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)〜(32)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(34)抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、1本鎖抗体(scFv)、2量体化可変領域(V領域)断片(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)および相補性決定領域(CDR)を含むペプチドから選ばれる抗体断片である上記(30)〜(33)のいずれか1項に記載の抗体断片。
(35)上記(30)〜(34)のいずれか1項に記載されたモノクローナル抗体またはその抗体断片が、放射性同位元素、蛋白質または薬剤と化学的または遺伝子工学的に結合しているモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(36)上記(30)〜(35)のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
(37)上記(36)記載のDNAを含む組換えベクター。
(38)上記(37)記載の組換えベクターが宿主細胞に導入された形質転換体。
KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質があげられる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体またはその抗体断片、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と情報伝達分子との結合を阻害する化合物などがあげられる。
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体またはその抗体断片としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識して結合し、1175位チロシンがリン酸化を受けていないKDR/Flk−1とは結合しない特異性を有する抗体(以下、「1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体」または「本発明の抗体」とも表記する)またはその抗体断片であれば、いずれでも用いられるが、好ましくはリン酸化されたKDR/Flk−1とPLC−γとの結合を阻害する抗体またはその抗体断片があげられる。
本発明の抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体などがあげられるが、好ましくはモノクローナル抗体があげられる。
モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産された抗体および、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体をあげることができる。
遺伝子組換え抗体としては、ヒト化抗体、ヒト抗体および抗体断片など、遺伝子組換えにより製造される抗体を包含する。遺伝子組換え抗体において、モノクローナル抗体の特徴を有し、抗原性が低く、血中半減期が延長されたものが好ましく用いられる。
ヒト化抗体は、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体を包含する。
抗体断片は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に特異的に反応する抗体断片であるFab(Fragment of antigen bindingの略)、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(single chain Fv;以下、scFvと称す)(Science,242,423(1988))、2量体化可変領域(V領域とも称す)断片(以下、Diabodyと表記する)(Nature Biotechnol.,15,629(1997))、およびジスルフィド安定化V領域断片(disulfide stabilized Fv;以下、dsFvと称す)(Molecular Immunol.,32,249(1995))を包含する。
また、抗体断片には、上記抗体の抗体V領域重鎖(H鎖とも称す)(以下、抗体可変領域重鎖をVHとも称す)および抗体V領域軽鎖(L鎖とも称す)(以下、抗体可変領域軽鎖をVLとも称す)の相補性決定領域(complementary determining region;以下、CDRと称す)のアミノ酸配列を含むペプチド(以下、CDRを含むペプチドと称す)(J.Biol.Chem.,271,2966(1996))も包含する。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体可変領域重鎖および可変領域軽鎖とヒト抗体の定常領域重鎖(以下、CHと称す)およびヒト抗体の定常領域軽鎖(以下、CLと称す)とからなる抗体を意味する。
本発明のヒト型キメラ抗体は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ製造することができる。
本発明のヒト型キメラ抗体の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにはIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のイムノグロブリンのC領域が好ましい。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト抗体のVHおよびVLのCDRをヒト以外の動物の抗体のCDR配列でそれぞれ置換した抗体を意味する。
本発明のヒト型CDR移植抗体は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に特異的に反応する、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDR配列で任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列をそれぞれ置換したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。
本発明のヒト型CDR移植抗体C領域の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のイムノグロブリンのC領域が好ましい。
Fabは、IgGのヒンジ領域で2本のH鎖を架橋している2つのジスルフィド結合の上部のペプチド部分を酵素パパインで分解して得られた、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体で構成された、分子量約5万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体を意味するが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体等も含まれる。
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ不死化、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養でき、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFv等の抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物を意味する。具体的には、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニック動物を作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体産生ハイブリドーマを得、培養することで培養物中にヒト抗体を産生蓄積させることができる。
本発明のFabは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体をパパイン処理して得ることができる。または、該抗体のFab断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ間のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
本発明のFab’は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することができる。
F(ab’)2は、IgGのヒンジ領域の2個のジスルフィド結合の下部を酵素トリプシンで分解して得られた、2つのFab領域がヒンジ部分で結合して構成された、分子量約10万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
本発明のF(ab’)2は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体をトリプシン処理して得ることができる。または、該抗体のF(ab’)2断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、F(ab’)2を製造することができる。
scFvは、一本のVHと一本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと称す)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドを示す。本発明で使用されるscFvに含まれるVHおよびVLは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のいずれをも用いることができる。
本発明のscFvは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFv発現ベクターを構築したのち該cDNAを挿入し、大腸菌、酵母、あるいは動物細胞へ該発現ベクターを導入することにより発現させ製造することができる。
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性または異なる抗原に対する2特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のDiabodyは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、3〜10残基のポリペプチドリンカーを有するscFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することによりDiabodyを発現させ、製造することができる。
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法[Protein Engineering,7,697(1994)]に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明のdsFvに含まれるVHあるいはVLは1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のいずれをも用いることができる。
本発明のdsFvは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させることにより製造することができる。
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることにより製造することができる。
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のVHおよびVLのCDRをコードするcDNAを構築し、該cDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片は、該抗体またはその抗体断片に放射性同位元素、蛋白質または薬剤などを化学的にあるいは遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。
本発明の抗体の誘導体は、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のH鎖或いはL鎖のN末端側或いはC末端側、抗体または抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体または抗体断片中の糖鎖に放射性同位元素、蛋白質あるいは薬剤などを化学的手法(抗体工学入門、金光修著、(株)地人書館(1994))により結合させることにより製造することができる。
または、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させて発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入する。以上のような遺伝子工学的手法によっても製造することができる。
放射性同位元素としては、131I、125I等があげられ、例えば、クロラミンT法等により、抗体に結合させることができる。
薬剤としては、低分子のものが好ましく、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤等の抗癌剤(臨床腫瘍学、日本臨床腫瘍研究会編、癌と化学療法社(1996))、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤等の抗炎症剤(炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社(1982))などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法等があげられる。
蛋白質としては、免疫担当細胞を活性化するサイトカインが好適であり、例えば、ヒトインターロイキン2(hIL−2)、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM−CSF)、ヒトマクロファージコロニー刺激因子(以下、hM−CSFと表記する)、ヒトインターロイキン12(hIL−12)等があげられる。また、癌細胞を直接障害するため、リシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。例えば、蛋白質との融合抗体ついては、抗体または抗体断片をコードするcDNAに蛋白質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と情報伝達分子との結合を阻害する化合物としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対するアンチセンスRNAあるいはDNA、情報伝達分子に対する抗体またはその抗体断片、情報伝達分子に対するアンチセンスRNAまたはDNA、または後述するスクリーニング方法あるいはドラッグデザイン方法により得られた化合物などがあげられる。情報伝達分子としては、例えばPLC−γがあげられる。
また、本発明のKDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する物質としては、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する抗体またはその抗体断片、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する作用を有するキナーゼ阻害剤、または後述するスクリーニング方法あるいはドラッグデザイン方法により得られた化合物などがあげられる。
以下に、KDR/Flk−1の1175位のチロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する物質およびそれらの物質を含む医薬の用途について説明する。
1.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の取得方法
1−1.1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体の製造法
(1)抗原とするペプチドの調製
1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、配列番号7に示したKDR/Flk−1のアミノ酸配列のうちの、1175位のチロシンを含む連続した5〜20残基のアミノ酸配列からなり、1175位チロシンに相当するアミノ酸がリン酸化チロシンになっているペプチドを化学合成し、このペプチドを抗原として動物を免疫することにより作製することができる。必要によってはペプチドのN末端またはC末端には、後述する担体蛋白質との結合に用いるためのシステイン残基を付加した配列にする。このような抗原のペプチドとして、KDR/Flk−1のアミノ酸配列の1171〜1180番めの配列のN末端にシステインを付加した配列を有し、1175位のチロシン残基に相当する4番目のアミノ酸がリン酸化チロシンである配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドをあげることができる。チロシンがリン酸化されたペプチドは、文献の方法[Kitas EA et al.,Helv.Chim.Acta,74,1314(1991)、Bannworth W and Kitas EA,Helv.Chem.Acta,75,707(1992)、Kitas EA et al.,Tetrahedron Lett.,30,6229(1989)、Kitas EA et al.,Tetrahedron Lett.,29,3591(1988)]に基づきペプチド合成機等を用いて固相合成を行うことにより化学合成することができる。
(2)1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRポリクローナル抗体の調製
上記のペプチドに対するポリクローナル抗体を含む抗血清は、文献[Harlow E and Lane D,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press.(1988)](以下、Antibodies:A Laboratory Manualと略記する)等に記載の一般的な方法により、マウス、ラット、ハムスター、ウサギなどの動物の皮下、静脈内または腹腔内に、適当なアジュバントとともに抗原を10日から4週間おきに数回投与して免疫を行うことにより調製することができる。抗原は(1)で調製したペプチドだけでは抗原として抗体を惹起する力が弱いので、ペプチドをキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanine,KLH)、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、破傷風毒素などの担体蛋白質に結合させたものを抗原とし、例えばウサギでは200〜1000μg、マウスで10〜100μgを1回あたり投与する。ペプチドと担体蛋白質との結合はm−マレインイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミド(MBS)、グルタルアルデヒドを用いて行うことができる。アジュバンドとしては、フロインドの完全アジュバント(Complete Freun d’s Adjuvant)または、水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどがあげられる。各投与後3〜10日目に免疫動物の眼底静脈叢あるいは尾静脈より採血し、抗原に用いたリン酸化ペプチドに対する反応性について、酵素免疫測定法で確認し、その血清が十分な抗体価を示した動物から採取した血清を抗血清とする。酵素免疫測定法は、抗原に用いたリン酸化ペプチドをプレートにコートし、サンプルである血清を第一抗体として反応させ、さらに第二抗体としてビオチン、酵素、化学発光物質あるいは放射性同位体等で標識した抗イムノグロブリン抗体(免疫に用いた動物のイムノグロブリンに対する抗体)を反応させた後に標識物質に応じた反応を行ない、抗原ペプチドを認識し結合する抗体を検出および定量する方法である[酵素免疫測定法(ELISA法):医学書院刊(1976年)]。
(1)で調製した抗原用のペプチドを、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(N−hydroxysuccinimide、NHS)により活性化したセファロース−4B[アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)社製]やその充填済カラムであるハイトラップNHS−活性化カラム(HiTrap NHS−activated column、アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)等に固定化して作製したアフィニティーカラムを用いて、上記の抗血清に対してアフィニティークロマトグラフィーを行うことにより、容易に抗原ペプチドと結合するポリクローナル抗体を精製することができる。ペプチドの固定化やアフィニティークロマトグラフィーはメーカーのマニュアルに従って行うことができる。
このようにして精製したポリクローナル抗体中には、抗原としたペプチドの配列中のリン酸化チロシン以外の部分をエピトープとするために、抗原としたペプチドあるいは1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と結合するばかりでなく、1175位チロシンがリン酸化されていないKDR/Flk−1とも結合できるような抗体も含まれている。そこで、(1)で調製した抗原用のペプチドと同じアミノ酸配列において、リン酸化チロシンが(リン酸化されていない)チロシンになっているペプチドをペプチド合成機などで化学合成し、このペプチドを上記と同様にして固定化したアフィニティーカラムに、上記で精製したポリクローナル抗体を通すことにより、1175位チロシンがリン酸化を受けていないKDR/Flk−1も認識する抗体(このような抗体は、アフィニティーカラム上の非リン酸化チロシンペプチドとも結合する)をカラムに結合させて除き、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRポリクローナル抗体を精製することができる。
(3)モノクローナル抗体の調製
(2)と同様にして3〜20週令のマウスまたはラットを免疫し、血清中に十分な抗体価を示した動物の脾臓、リンパ節、末梢血より抗体産生細胞を採取する。例えば脾臓を摘出し、脾細胞を採取する。
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞である、8−アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3−X63Ag8−U1(P3−U1)[Kohler G et al.,Europ.J.Immunol.,6,511(1976)]、SP2/0−Ag14(SP−2)[Shulmanet M et al.,Nature,276,269(1978)]、P3−X63Ag8653(653)[Kearney JF et al.,J.Immunol.,123,1548(1979)]、P3−X63Ag8(X63)[Kohler G et al.,Nature,256,495(1975)]など、イン・ビトロ(in vitro)で増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養および継代については公知の方法(Antibodies:A Laboratory Manual)に従い、細胞融合時までに2×107個以上の細胞数を確保する。
抗体産生細胞と骨髄腫細胞と最小培地(minimal essential medium、MEM)あるいはPBS(phosphate buffered saline)で洗浄したのち、ポリエチレングリコール−1000などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させる。融合細胞をHAT培地[正常培地(RPMI−1640培地に1.5mmol/lグルタミン、5×10−5mol/l 2−メルカプトエタノール、10μg/mlジェンタマイシンおよび10%ウシ胎児血清(FCS)を加えた培地)に10−4mol/lヒポキサンチン、1.5×10−5mol/lチミジンおよび4×10−7mol/lアミノプテリンを加えた培地]に懸濁させ、96穴プレートに分注して培養する。
培養後、各穴の培養上清の一部をとり酵素免疫測定法により、(2)の抗原のペプチドと同一の配列の非リン酸化ペプチドとは反応せずに、抗原としたリン酸化ペプチドと特異的に反応するものを選択する。選択した穴内の細胞から、限界希釈法によりクローニングを2回繰り返し[1回目は、HT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いた培地)、2回目は、正常培地を使用する]、安定して強い抗体価の認められたものを1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
プリスタン(Pristane、2、6、10、14−テトラメチルペンタデカン)0.5mlを腹腔内投与し、2週間飼育した8〜10週令のマウスまたはヌードマウスに、上記で得られた1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体産生ハイブリドーマ細胞2×107〜5×106細胞/匹を腹腔内に注射する。10〜21日間でハイブリドーマは腹水癌化する。該マウスまたはヌードマウスから腹水を採取し、遠心分離、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿法、DEAE−セファロースカラム、プロテインAカラムあるいはセルロファインGSL2000(生化学工業社製)のカラムなどを用いて、IgGあるいはIgM画分を回収し、精製モノクローナル抗体とする。
精製モノクローナル抗体のサブクラスの決定は、モノクローナル抗体タイピングキットなどを用いて行うことができる。蛋白質量は、ローリー法あるいは波長280nmでの吸光度より算出することができる。
1−2.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質をスクリーニングする方法
上記1−1で得られた抗体とKDR/Flk−1を発現する細胞を用いて、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質または1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質をスクリーニングすることができる。具体的には、該抗体、KDR/Flk−1を発現する細胞および/または被験試料とを接触させ、抗体とKDR/Flk−1の結合や、リン酸化の誘導または抑制などを、定性的または定量的に調べることにより、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質または1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質をが選択される。
被験物質としては、KDR/Flk−1を発現する細胞の培養系に加えることができるものであれば特に限定されず、例えば、低分子化合物、高分子化合物、有機化合物、無機化合物、蛋白質、遺伝子、ウイルス、細胞などが挙げられる。遺伝子を除く被験物質は、培養培地中に直接添加すればよい。
遺伝子を効率的に培養系に導入する方法としては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス等のウイルスベクターに乗せて培養系に添加する方法、またはリポソームなどの人工的なベジクル構造に封入して培養系に添加する方法などが挙げられる。その具体的例としては、組換えウイルスベクターを用いた遺伝子解析に関する報告[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,6733(1995);Nucleic Acids Res.,18,3587,1990;Nucleic Acids Res.,23,3816(1995)]を挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法としては、免疫学的測定法を利用したスクリーニング方法があげられる。免疫学的測定法としては、任意の公知の免疫学的測定方法があげられる。免疫学的測定法としては、例えば、競合法、サンドイッチ法[免疫学イラストレイテッド第5版(南光堂)]があげられるが、サンドイッチ法が好ましい。
サンドイッチ法を利用したスクリーニング方法とは、具体的には、固相に第一の抗体を結合させた後、被験物質と、VEGF含有培地で培養したKDR/Flk−1発現細胞とを反応させた後、標識した第二の抗体を反応させる方法である。
サンドイッチ法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、上述したFab、Fab’、F(ab)2などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチ法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体あるいは抗体フラグメントの組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体あるいは抗体フラグメントの組み合わせでもよいが、高感度のサンドイッチELISAを行うためには、特異的な結合活性を有するモノクローナル抗体が好ましい。例えば、KDR/Flk−1の細胞外領域を認識する抗体またはその抗体断片と、前記1で製造された1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片との組み合わせがあげられる。固相に結合させる抗体および標識する抗体は、2つの抗体のいずれでもよい。
標識方法としては、放射性同位元素、酵素、蛍光、発光などがあげられるが、好ましくは酵素での標識があげられる。
以下にスクリーニング方法を具体的に説明する。
96穴プレートに1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を分注し、4℃で一晩放置して吸着させる。洗浄後、1%牛血清アルブミンを含むPBSを加えて、室温で1時間静置して非特異的吸着をブロックする。PBSで洗浄後、VEGFを含まない培地で培養したKDR/Flk−1を発現する細胞の細胞抽出液を分注した後に、VEGFおよび試験物質を添加してKDR/Flk−1を活性化し反応させる。洗浄後にウェルに結合したKDR/Flk−1の量を、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体とは別のエピトープを認識する抗体例えばKDR/Flk−1の細胞外領域を認識する抗KDR/Flk−1抗体を用いて酵素免疫測定法により測定する。試験物質を添加しない場合のKDR/Flk−1の結合量と試験物質を添加した場合の結合量を測定し比較することにより、1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質、あるいは、1175位のチロシンリン酸とPLC−γなどのアダプター分子の結合を阻害する物質をスクリーニングすることができる。
1−3.ドラックデザインによる1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の取得方法
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1の細胞内領域と情報伝達分子との構造を、X線結晶解析またはNMR解析などの構造解析により得られた数値をもとに、計算機上のシミュレーションを行ってKDR/Flk−1の細胞内領域と情報伝達分子との結合領域を推定し、かつそれらの分子間結合を阻害することが可能な化合物を既存のデータベースあるいはコンピューターソフトを用いた構築により、取得することができる。
また、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、1175位がリン酸化される際のチロシンキナーゼの構造を、X線結晶解析またはNMR解析などによる構造解析により得られた数値をもとに、計算機上のシミュレーションにより構造を推定し、新規化合物を既存のデータベースから選択するか、あるいはコンピューターソフトを用いた構築により、取得することができる。
ここで、(1)構造未知のタンパク質の立体構造を既知類似酵素の立体構造から自動構築する場合には、例えば、Insight II/Modeler(Accelrys)が用いられる。(2)タンパク質の立体構造からリガンド結合部位を予測する場合には、例えば、Cerius2/LigandFit(Accelrys)が用いられる。(3)タンパク質の立体構造がわかっていて,リガンド結合部位がだいたい(領域として)わかっているときに、リガンドの結合様式を予測する場合、あるいは、任意の化合物が結合(阻害)するかどうか予測する場合には、例えば、Insight II/Affinity(Accelrys)、GOLD(CCDC)、FlexX(Tripos)、DOCK(Prof.Kuntz)が用いられる。(4)リガンド結合部位から、結合(阻害)すると予想される化合物を生成する場合には、例えば、Insight II/Ludi(Accelrys)が用いられる。
上記で取得した化合物は、前記1−2のスクリーニング方法で示したアッセイ方法を用いることにより、阻害活性を有しているか否かを確認することができる。
2.1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体によるKDR/Flk−1の情報伝達の阻害および細胞増殖の阻害
本発明で使用される1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質が、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害すること、細胞増殖あるいは血管新生を阻害することは、以下の方法で確認することができる。
(1)PLC−γとKDR/Flk−1の結合の阻害
KDR/Flk−1発現細胞、例えばNIH3T3−KDR[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]をVEGFで刺激してKDR/Flk−1を活性化した後に細胞抽出液を調製する。ここにPLC−γあるいはPLC−γのSH2ドメイン、例えばGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)とPLC−γC末端側SH2ドメイン融合蛋白質[サンタ・クルズ・バイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotecnology Inc.)製]を添加し結合させる。この系に該抗体を添加した場合と添加しない場合について、PLC−γあるいはPLC−γのSH2ドメインを免疫沈降やグルタチオン固定化ビーズ等により分離した後に、抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量を比較する。該抗体を添加した場合に、非添加時と比較して免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量が減少していれば、in vitroで該抗体がKDR/Flk−1とPLC−γの結合を阻害しているといえる。
また、KDR/Flk−1を発現している血管内皮細胞例えば、洞様血管内皮細胞やヒト臍帯静脈血管内皮細胞の中に該抗体をマイクロインジェクションにより注入した細胞と注入しない細胞について、VEGFにより刺激した後に細胞抽出液を調製する。それぞれの細胞抽出液について上記と同様に抗PLC−γ抗体によりPLC−γを免疫沈降した後に、免疫沈降物について抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量が減少していれば、in vivoで該抗体がKDR/Flk−1とPLC−γの結合を阻害しているといえる。免疫沈降やイムノブロットはAntibodies:A Laboratory Manual等の実験書に記載の方法で行うことができる。
(2)PLC−γリン酸化の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞からVEGF刺激後に調製した細胞抽出液について、抗PLC−γ抗体によりPLC−γを免疫沈降した後に、免疫沈降物について抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のリン酸化したPLC−γの量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して免疫沈降物中のリン酸化したPLC−γの量が減少していれば、in vivoで該抗体がPLC−γのリン酸化すなわちPLC−γの活性化を阻害しているといえる。
(3)MAPキナーゼ活性化の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞からVEGF刺激後に調製した細胞抽出液について、リン酸化MAPキナーゼに特異的な抗体を用いたイムノブロットを行い、リン酸化したMAPキナーゼの量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して細胞内のリン酸化したMAPキナーゼの量が減少していれば、in vivoで該抗体がMAPキナーゼのリン酸化すなわちMAPキナーゼの活性化を阻害しているといえる。
(4)細胞増殖の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞について、VEGFで刺激する際にブロモデオキシウリジン(BrdU)を添加し、VEGF刺激により新たに合成されたDNAを標識する。細胞を免疫組織染色用に固定化し、抗BrdU抗体で染色することにより、新たにDNAが合成された細胞を検出する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して染色された細胞数が減少していれば、in vivoで該抗体がDNAの合成すなわち細胞増殖のシグナルを阻害しているといえる。あるいは、BrdUのかわりに[3H]チミジンを添加して培養して新たに合成されたDNAを標識した後、細胞をグラスフィルター等で回収して細胞の放射能を測定することにより、DNA合成量を測定する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して放射能が減少していれば、in vivoで該抗体がDNAの合成すなわち細胞増殖のシグナルを阻害しているといえる。
3.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の用途
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、KDR/Flk−1の情報伝達分子の結合を阻害し、細胞増殖を阻害する活性または血管新生を阻害する活性を有している。これらの性質を有する物質は、以下の用途に使用することができる。
(1)本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の使用方法
前記2より、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、KDR/Flk−1の情報伝達分子の結合を阻害し、細胞増殖または血管新生などを阻害するために用いることができる。
固形腫瘍の増殖など細胞増殖に関わる疾患、または転移形成、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症などの血管新生に関わる疾患の診断または治療に用いることができる。
また、血管内皮細胞などの細胞内における細胞増殖の情報伝達には、KDR/Flk−1が重要であるため、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、KDR/Flk−1を介した血管内皮の増殖を阻害するために用いることができる。従って、ヒト型VEGF受容体KDRの情報伝達を阻害できれば、ヒトにおける固形腫瘍の増殖、転移形成、慢性関節リュウマチにおける関節炎、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾鮮等の異常な血管新生により病態が進行する疾患の診断または治療に用いることができる。
(2)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質を有効成分として含有する薬剤
これまでに、このような阻害剤としては、1)細胞外ドメインに対する中和抗体、可溶性KDR/Flk−1などの、KDR/Flk−1とVEGFとの結合を阻害する物質、2)キナーゼ阻害剤など細胞内のキナーゼを阻害することにより以降の情報伝達を阻害する物質が知られている。これらの物質に対し、前記2で確認される性質を有する、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、新規なメカニズムのVEGF−KDR/Flk−1の情報伝達の阻害剤、すなわち細胞増殖阻害剤および血管新生阻害剤として使用することができる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質を含有する医薬は、治療薬として単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができ、抗体製剤の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等があげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製する。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該化合物または抗体そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該化合物または抗体を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該化合物または抗体および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
本医薬組成物の投与量は、患者の年齢、症状等によって異なるが、ヒトを含む哺乳動物に対し、各化合物または抗体として0.1〜20mg/kg/日投与する。投与は、各化合物または抗体を同時に投与する場合は、1日1回(単回投与または連日投与)または間歇的に1週間に1〜3回、2、3週間に1回、別々に投与する場合は、各々の化合物または抗体を、適宜時間をおいて、1日1回(単回投与または連日投与)または間歇的に1週間に1〜3回、2、3週間に1回静脈注射により行う。
(3)血管新生の早期検出
前記1−1で製造された本発明の抗体が、リン酸化されたKDR/Flk−1、すなわち情報伝達を行っているKDR/Flk−1のみを検出できることを利用して、臨床組織材料について、該抗体を用いた免疫組織染色を行うことができる。染色された部位は、KDR/Flk−1が活性化していることを示すため、染色部位を観察することにより新生血管を検出するよりも早い時期に、血管新生の初期の段階またはこれから血管新生がおこる部位を検出することができる。免疫組織染色は、Antibodies:A Laboratory Manual等の実験書に記載する方法で行うことができる。
(4)VEGF−KDR/Flk−1の系での情報伝達を阻害するか否かの判定方法
被験物質が実際に、動物個体においてVEGF−KDR/Flk−1の系の情報伝達の阻害効果があるかどうかを判定するには、非ヒト動物、例えばマウスに腫瘍を移植し、被験物質を投与した場合と非投与の場合で、移植した腫瘍の成長や腫瘍周辺の血管新生を観察し、比較する方法が用いられてきたため、効果を判定するまでに数週間を要した。
本発明は、本発明の抗体が、情報伝達を行っているKDR/Flk−1のみを検出できることを利用し、以下の方法で短期間に被験物質がVEGFの阻害効果を有するか否かを判定することができる。被験物質としては、上記スクリーニング方法で例示された物質があげられる。
被験物質を投与したマウスおよび未投与マウス(コントロール)について、被験物質を投与した1〜2日後にそれぞれ血管内皮を採取し、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体による免疫組織染色を行う。該抗体による染色量は、リン酸化したKDR/Flk−1の量を示す。したがって、被験物質を投与したマウス血管内皮の染色量が未投与マウス血管内皮の染色量と比較して減少していれば、動物個体においてVEGF−KDR/Flk−1の系の情報伝達が阻害されていると判定することができる。
以下に実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
発明を実施するための最良の形態
実施例1 1175位チロシンのリン酸化を検出できる抗体
(1)KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を特異的に検出できる抗体の作製
配列番号1に示す配列(ヒトKDR/Flk−1のアミノ酸配列の1171〜1180番めの配列のN末端にシステインを付加した配列で、1175位に相当するチロシンがリン酸化されている配列)のペプチドPY1175を化学合成した。このペプチドPY1175をシステインを利用してKLHとのコンジュゲートにしたものを抗原として、ウサギを免疫することにより抗血清を得た。ハイトラップNHS活性化カラム(HiTrap NHS−activated column、アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)にペプチドPY1175を固定化し、PY1175アフィニティーカラムを作製し、得られた抗血清を通すことによりPY1175と結合する抗体を精製した。さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列(PY1175と同じアミノ酸配列だが、チロシンがリン酸化されていない配列)を有するペプチドY1175を化学合成し、ハイトラップNHS活性化カラムに固定化してY1175アフィニティーカラムを作製し、上記のPY1175アフィニティーカラムにより精製した抗体を通すことにより、リン酸化チロシン以外の部分をエピトープとする抗体をY1175アフィニティーカラムに結合させて除き、KDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに特異的な抗体(抗PY1175抗体)だけを精製した。なお、マウスKDR/Flk−1(GenBankアクセス番号X59397)にはPY1175の2〜10番めと同じ配列(Asp Gly Lys Asp Tyr Ile Val Leu Pro)が1169〜1179番めに存在するので、上記のようにして調製した抗PY1175抗体は、ヒトKDR/Flk−1だけでなくリン酸化したマウスKDR/Flk−1も認識できると考えられる。
(2)抗PY1175抗体の特異性
マウスの内皮細胞系の細胞株であるMSS31細胞[Yanai N et al.,Cell Struct.Funct.,16,87(1991)]は、上記文献の培養条件で培養した。この細胞に天然型KDR/Flk−1、1175位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY1175F、1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY1214F、801位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY801Fの各変異型KDR/Flk−1発現アデノウイルスベクター(参考例1参照)を37℃で1時間感染させた。それぞれの細胞を感染後2日間培養した後、培地を0.1%FCSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に交換して12時間培養し、10ng/ml VEGF[Cohen T et al.,Growth Fact.,7,131(1992)の記載に従って、VEGF発現昆虫細胞Sf−9の培養上清からヘパリンカラムクロマトグラフィーにより精製した組換えヒトVEGF]を添加して37℃で5分間培養した。この細胞と、コントロールのVEGFを添加しなかった細胞について、細胞溶解用緩衝液[50mmol/l HEPES(pH7.4)、150mmol/l NaCl、10%グリセロール、1%トリトンX−100、5mmol/l EDTA、2%アプロチニン、1mmol/l PMSF、50mmol/l NaF、10mmol/lピロリン酸ナトリウム、2mmol/lバナジン酸ナトリウム]を用いて細胞抽出液を調製した。それぞれの細胞抽出液について抗PY1175抗体を用いてイムノブロットを行った。以降のイムノブロットは、文献[Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)]の方法で行った。また、同時に抗KDR/Flk−1抗体[化学合成した配列番号6に示す配列のペプチド(ヒトKDR/Flk−1のアミノ酸配列の947〜966番目に相当する)を抗原として、ウサギを免疫して作製したポリクローナルな抗血清]および抗リン酸化チロシン抗体[ICNバイオケミカルズ(ICN Biochemicals)社製]を用いたイムノブロットを行い、KDR/Flk−1(リン酸化の有無にかかわらない)、自己リン酸化したKDR/Flk−1を含むリン酸化蛋白質をそれぞれ検出した。その結果を第1A図に示したが、1175位がフェニルアラニンのためリン酸化できないY1175FはVEGF添加細胞でも検出されないのに対し、Y1175F以外の各KDR/Flk−1は、VEGFを添加した細胞のみに抗PY1175抗体でバンドが検出され、内皮細胞の細胞内でもVEGFに依存して1175位チロシンがリン酸化を受けることが見出された。なお、抗PY1175抗体では、VEGFを添加した細胞でのみバンドが検出できたことから、抗PY1175抗体はKDR/Flk−1の1175位チロシンの自己リン酸化を特異的に検出できることが確認された。
また、他のチロシンキナーゼ型受容体であるbFGF受容体、PDGF受容体、VEGF受容体Flt−1、PDGF受容体、EGF受容体を発現している細胞として、KDR/Flk−1を恒常的に発現させたNIH3T3細胞であるNIH3T3−KDR[天然型KDR/Flk−1の他に内在性のbFGF受容体およびPDGF受容体を発現、Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]、Flt−1を恒常的に発現させたNIH3T3細胞であるNIH3T3−Flt−1[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]、HeLa細胞(内在性EGF受容体を発現、ATCC番号CCL−2)を培養した。培養は、NIH3T3−KDRおよびNIH3T3−Flt−1は、10%FCS、2mmol/l L−グルタミン、40μg/mlカナマイシン、200μg/ml G418を添加したDMEMで、HeLa細胞は10%FCS、2mmol/l L−グルタミン、40μg/mlカナマイシンを添加したDMEMを用いて行った。培地の血清濃度を0.1%に低下させて6〜7時間培養後、それぞれのリガンドであるVEGF、ヒトbFGF[オンコジーン・サイエンス社製(Oncogene Science Inc.)]、PDGF B/B[ロシュ(Roche)社製]、EGF(東洋紡社製)で刺激した細胞と刺激しない細胞の各細胞抽出液について、抗PY1175抗体および抗KDR/Flk−1抗体、抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行った。その結果を第1B図に示したが、抗リン酸化チロシン抗体では、全てのチロシンキナーゼ受容体のリガンド依存的な自己リン酸化が検出されたのに対し、抗PY1175抗体ではNIH3T3−KDRをVEGFで刺激した場合にのみバンドが検出された。したがって、全てのリン酸化受容体を検出できる抗リン酸化チロシン抗体と異なり、抗PY1175抗体は、1175位のチロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に認識することが確認された。
実施例2 抗PY1175抗体を用いたイムノブロットによる内在性自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
内在性KDR/Flk−1を発現しているヒト臍帯静脈内皮細胞(森永生化学研究所社製)を5%FCSおよび各種増殖因子を添加した完全培地(日水製薬社製)またはヒューメディア−EG2培地(HuMedia−EG2、倉敷紡績社製)で培養した。また、同様に内在性KDR/Flk−1を発現しているラット洞様血管内皮細胞をラット肝臓から文献[Yamane A et al.,Oncogene 9,2683(1994)]に記載の方法で単離し、10ng/ml VEGFを含むヒューメディア−EG2培地で培養した。これらの細胞について、培地を0.1%FCSを含むDMEMに交換して6〜7時間培養後、VEGF、bFGF、HGF[R アンドD・システムズ社(R & D Systems Inc.)製]を添加して刺激した。VEGF等で刺激した細胞とコントロールの刺激しなかった細胞について細胞抽出液を調製し、抗PY1175抗体、抗KDR/Flk−1抗体、抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行った。その結果を第1C図に示したが、抗PY1175抗体ではヒト臍帯静脈血管内皮細胞およびラット洞様血管内皮細胞の両者とも、VEGFで刺激した場合にのみ、230kDaの1175位チロシンリン酸化KDR/Flk−1のバンドが検出された。したがって、血管内皮細胞の内在性のKDR/Flk−1についても、VEGF依存的に1175位チロシンが自己リン酸化を受けることが確認された。
実施例3 抗PY1175抗体を用いた免疫組織染色による自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
ヒト臍帯静脈内皮細胞を培養し、培地を0.1%FCSを含むDMEMに交換して6〜7時間培養後、10ng/ml VEGFあるい50ng/ml bFGFで刺激した。コントロールの刺激をしなかった細胞、VEGF刺激後5分後の細胞、VEGF刺激後30分後の細胞、bFGF刺激後5分後の細胞をそれぞれアセトン/メタノールで2分間処理することにより固定した。固定した細胞を1%ヤギ血清を含むPBSで30分間ブロッキングした後、抗PY1175抗体を用いて免疫組織染色を行った。検出は1/100に希釈したFITC標識抗ウサギIgG抗体[カッペル(Cappel)社製]で30分間処理後、蛍光顕微鏡観察により行った。その結果、VEGFで刺激後5分後の細胞でのみ細胞膜および細胞質にKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化が検出されたが、VEGF刺激後30分後の細胞ではもはや1175位チロシンのリン酸化は検出されなかった。したがってVEGFの刺激によりすぐに1175位チロシンのリン酸化がおこるが、このリン酸化は一過的なものであることがわかった。刺激をしなかった細胞、bFGFで刺激をした細胞では染色はみられず、この1175位チロシンのリン酸化はVEGF刺激特異的であった。またVEGFで刺激後5分後の細胞の免疫組織染色時に1μg/mlのペプチドPY1175を共存させた場合は、染色が阻害された。このように抗PY1175抗体はイムノブロットだけでなく、免疫組織染色によるKDR/Flk−1の1175位チロシンリン酸化の検出にも有用であった。
実施例4 抗PY1175抗体によるPLC−γとKDR/Flk−1の結合の阻害
(1)細胞内でのKDR/Flk−1とPLC−γの結合
実施例1(2)と同様にしてアデノウイルスベクターを用いてMSS31細胞に天然型KDR/Flk−1またはY1175Fを発現させ、10ng/ml VEGFで刺激した。この細胞およびコントロールのVEGF刺激をしなかった細胞の細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1抗体を用いて免疫沈降を文献[Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)]に記載の方法で行った。免疫沈降物について抗PLC−γ抗体[アップステート・バイオテクノロジー社(Upstate Biotechnology Inc.)製]を用いたイムノブロットを行った。その結果を第2図に示したが、天然型KDR/Flk−1発現細胞では、VEGFで刺激した場合にのみ免疫沈降物からPLC−γが検出され、VEGFの刺激によりKDR/Flk−1にPLC−γが結合することが確認された。一方、Y1175F発現細胞では、VEGF刺激した場合でもPLC−γは検出されず、Y1175FにはPLC−γは結合しないことがわかった。したがって、1175位チロシンのリン酸化がPLC−γの結合に必須であることがわかった。
(2)in vitroでのKDR/Flk−1とPLC−γのSH2ドメインとの結合
実施例1(2)と同様にして、10ng/mlのVEGFで刺激したNIH3T3−KDRとコントロールのVEGFで刺激しなかった細胞から細胞抽出液を調製した。1.5μgのGST、GSTとPLC−γのSH2ドメイン(2個)の融合蛋白質(GST−PLC−γ SH2−SH2)、GSTとPLC−γのN末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PLC−γ N−SH2)、GSTとPLC−γのC末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PLC−γ C−SH2)[以上全てサンタ・クルズ・バイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotecnology Inc.)製]を、それぞれグルタチオン−セファロース4B・ビーズ(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に固定化し、細胞抽出液に添加して、4℃で2時間反応させた。ビーズを冷却した細胞抽出用緩衝液で3回洗浄後、SDSサンプルバッファー中で加熱することにより、ビーズに結合した蛋白質を溶解させ、SDS−PAGEを行った。抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットによりそれぞれの添加した蛋白質に結合したKDR/Flk−1を検出した。その結果を第3図に示したが、GST−PLC−γ SH2−SH2およびGST−PLC−γ C−SH2では、VEGFで刺激した細胞でKDR/Flk−1が検出されたのに対し、GST−PLC−γ N−SH2ではKDR/Flk−1が検出されなかった。したがって、PLC−γの2つのSH2ドメインのうちC末端側のSH2ドメインが自己リン酸化したKDR/Flk−1と結合していることがわかった。
上記と同じ実験をGST、GST−PLC−γ C−SH2、GSTとGrb2のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−Grb2 SH2)、GSTとPI3キナーゼのN末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PI3K N−SH2)(以上全てサンタ・クルズバイオテクノロジー社製)を用いて行ったところ、第4図に示すようにGST−PLC−γ C−SH2のみ、VEGFで刺激した細胞でKDR/Flk−1が検出され、GST−Grb2 SH2、GST−PI3K N−SH2ではKDR/Flk−1は検出されなかった。したがって自己リン酸化したKDR/Flk−1はPLC−γのSH2ドメインとは結合するが、Grb2やPI3キナーゼのSH2ドメインとは結合しないことが確認された。
(3)抗PY1175抗体によるKDR/Flk−1とPLC−γの結合の阻害
(2)と同様の実験をGST−PLC−γ C−SH2を固定化したビーズと細胞抽出液の反応時に抗PY1175抗体、PY1175ペプチドを共存させて行った。その結果、VEGF刺激した細胞でもKDR/Flk−1が検出されず抗PY1175抗体、PY1175ペプチドにより自己リン酸化したKDR/Flk−1とPLC−γの結合が阻害された。一方、コントロールのウサギIgGあるいはY1175ペプチドを共存させた場合は、阻害はみられなかった(第5A図、第5B図)。したがって、PLC−γのC末端側のSH2ドメインがKDR/Flk−1の自己リン酸化した1175位のチロシンと直接結合していることが強く示唆された。
実施例5 抗PY1175抗体による細胞増殖シグナルの抑制
まず初代培養したラット洞様血管内皮細胞をコラーゲンでコートしたスライドグラス上にのせ、チミジンを除いたDMEMにヒューメディア−EG2調製用増殖添加剤(倉敷紡績社製)およびVEGFを添加した培地で2日間培養後、VEGF非添加の同じ培地で6〜7時間培養した。細胞に50ng/ml VEGFを添加して刺激すると同時に、100μmol/l 5−ブロモデオキシウリジン(BrdU、シグマ・アルドリッチ社製)を添加して20時間培養し、新たに合成されたDNAに取り込ませた。コントロールとしてVEGFを添加しなかった細胞についても同様の処理を行った。次いでそれぞれの細胞を3.7%のホルムアルデヒドを含むPBSで固定化し、メタノールで10分間、2mol/l塩酸で10分間処理することにより、細胞の透過性を上げた。この細胞を1%のヤギ血清を含むPBSで1/200希釈した抗BrdU抗体(宝酒造社製)と60分間反応させ免疫組織染色を行うことにより、BrdUが取り込まれた細胞を検出した。その結果第6図に示すように、VEGFで刺激しなかった細胞ではBrdUの取り込みがほとんど観察されなかったのに対し、VEGFを添加した場合には、BrdUが取り込まれた細胞が多数観察され、ラット洞様血管内皮細胞における細胞増殖のシグナルはVEGFの刺激に非常に依存していることが確認された。
そこで同様にスライドグラス上で培養したラット洞様血管内皮細胞について、VEGF非添加の培地で6〜7時間培養した後にVEGFで刺激する前にこの細胞の細胞質に自動マイクロインジェクター5246[エッペンドルフ(Eppendorf)社製]およびマイクロマニュピレーター5171(エッペンドルフ社製)を用いて抗PY1175抗体あるいはコントロールのウサギIgGを注入した。注入の1〜3時間後に細胞に上記と同様に50ng/ml VEGFおよび100μmol/l BrdUを添加して20時間培養し、新たに合成されたDNAに取り込ませた。上記と同様にして細胞を固定化およびメタノールおよび塩酸で処理し、1/200希釈抗BrdU抗体(宝酒造社製)と60分間反応させた後、1/200希釈したFITC標識抗マウスIgG(抗BrdU抗体と反応、カッペル社製)および1/100希釈したRITC標識抗ウサギIgG(抗PY1175抗体、ウサギIgGと反応、カッペル社製)の混合物と30分間反応させ免疫組織染色を行うことにより、BrdUが取り込まれた細胞および抗体(抗PY1175またはウサギIgG)が注入された細胞を検出した。その結果第6図に示すようにウサギIgGを注入した細胞では、VEGFの刺激により半数以上の細胞にBrdUが取り込まれ、VEGFの刺激により細胞の増殖シグナルが伝わりDNAの合成が行われたことが示された。一方、抗PY1175抗体を注入した細胞では1/4程度の細胞にしかBrdUが取り込まれておらず、VEGF刺激による細胞の増殖のシグナルが阻害されたことが示された。
実施例6 KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に検出できるモノクローナル抗体の作製
実施例1で取得したPY1175に特異的な抗体は、KDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに対するポリクローナル抗体を、Y1175アフィニティーカラムに通塔させることにより得ることができるが、ポリクローナル抗体の中からPY1175のみに反応する抗体を得るためには、大量なポリクローナル抗体が必要となる。そこで、PY1175に特異的なモノクローナル抗体を作製することとした。
(1)免疫原の調製
配列番号1記載のアミノ酸配列で表されるペプチドPY1175は、免疫原性を高める目的で以下の方法で調製した。
まず、KLH(カルビオケム社製)をPBSに溶解して10mg/mlに調製し、1/10容量の25mg/ml MBS[N−(m−Maleimidobenzoyloxy)succinimide;ナカライテスク社製]を滴下して30分間撹拌反応させた。あらかじめPBSで平衡化したセファデックスG−25カラムなどのゲルろ過カラムでフリーのMBSを除いて得られたKLH−MBS2.5mgを0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に溶解した1mgのペプチドPY1175と混合し、室温で3時間、攪拌反応させた。反応後、PBSで透析したものを免疫原として用いた。
(2)動物の免疫と抗体産生細胞の調整
実施例6(1)で調製した化合物PY1175のKLHコンジュゲート50μgを水酸化アルミニウムアジュバント(Antibodies:A Laboratory Manual,p99)2mgおよび百日咳ワクチン(千葉県血清研究所製)1×109細胞とともに4週令雌SDラット3匹に投与した。投与2週間後より、KLHコンジュゲート50μgを1週間に1回、計4回投与した。該ラットの心臓より部分採血し、その血清抗体価を以下に示す酵素免疫測定法で調べ、十分な抗体価を示したラットから最終免疫3日後に脾臓を摘出した。
脾臓をMEM(Minimum Essential Medium)培地(日水製薬社製)中で細断し、ピンセットでほぐし、遠心分離(250×g、5分間)した。得られた沈殿画分にトリス−塩化アンモニウム緩衝液(pH7.6)を添加し、1〜2分間処理することにより赤血球を除去した。得られた沈殿画分(細胞画分)をMEM培地で3回洗浄し、細胞融合に用いた。
(3)酵素免疫測定法(バインディングELISA)
アッセイ用の抗原には実施例1(1)で得られたPY1175およびY1175をサイログロブリン(以下、THYと略す)とそれぞれコンジュゲート(PY1175−THYおよびY1175−THYと称す)したものを用いた。作製方法は実施例6(1)に記した通りであるが、架橋剤にはMBSの代わりにSMCC[4−(N−Maleimidomethyl)−cyclohexane−1−carboxylic acid N−hydroxysuccinimido ester;シグマ社製]を用いた。96穴のEIA用プレート(グライナー社製)に、上記のように調製したPY1175−THYまたはY1175−THYを5μg/ml、50μl/穴でそれぞれ分注し、4度で一晩放置して吸着させた。該プレートを洗浄後、1%牛血清アルブミン(BSA)/ダルベッコりん酸バッファー(Phosphate buffered saline:PBS)を100μl/穴加え、室温で1時間放置し、残っている活性基をブロックした。
放置後、1%BSA/PBSを捨て、該プレートに一次抗体として被免疫ラット抗血清またはハイブリドーマ培養上清を50μl/穴分注し、2時間放置した。該プレートを0.05%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート[(ICI社商標Tween 20相当品:和光純薬社製)]/PBS(以下Tween−PBSと表記)で洗浄後、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを50μl/穴加えて室温、1時間放置した。該プレートをTween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[1mmol/l ABTSを0.1mol/lクエン酸バッファーに溶解(pH4.2)]を添加し、発色させOD415nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;Molecular Devices社製)を用いて測定した。
(4)マウス骨髄腫細胞の調製
8−アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株P3X63Ag8U.1(P3−U1:ATCCより購入)を正常培地(10%ウシ胎児血清添加RPMI培地)で培養し、細胞融合時に2×107個以上の細胞を確保し、細胞融合に親株として供した。
(5)ハイブリドーマの作製
実施例6(2)で得られたラット脾細胞と実施例6(4)で得られた骨髄腫細胞とを10:1になるよう混合し、遠心分離(250×g、5分間)した。得られた沈澱画分の細胞群をよくほぐした後、攪拌しながら、37℃で、ポリエチレングリコール−1000(PEG−1000)1g、MEM培地1mlおよびジメチルスルホキシド0.35mlの混液を108個のマウス脾細胞あたり0.5ml加え、該懸濁液に1〜2分間毎にMEM培地1mlを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mlになるようにした。
該懸濁液を遠心分離(900rpm、5分間)し、得られた沈澱画分の細胞をゆるやかにほぐした後、該細胞を、メスピペットによる吸込み吸出しでゆるやかにHAT培地[10%ウシ胎児血清添加RPMI培地にHAT Media Supplement(インビトロジェン社製)を加えた培地]100ml中に懸濁した。該懸濁液を96穴培養用プレートに200μl/穴ずつ分注し、5%CO2インキュベーター中、37℃で10〜14日間培養した。
培養後、培養上清を実施例6(3)に記載した酵素免疫測定法で調べ、ペプチドPY1175に反応してペプチドY1175に反応しない穴を選択した。しかしながら、大部分の細胞培養上清はPY1175およびY1175のいずれにも反応していた。そのため、上記工程を繰り返し、PY1175に反応してY1175に反応しない穴を選択し、そこに含まれる細胞から限界希釈法によるクローニングを2回繰り返し、抗PY1175モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマKM3035およびKM3036を確立した。ハイブリドーマKM3035は、平成13年9月13日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)にFERM BP−7729として寄託されている。
(6)モノクローナル抗体の精製
プリスタン処理した8週令ヌード雌マウス(BALB/c)に実施例6(5)で得られたハイブリドーマ株を5〜20×106細胞/匹それぞれ腹腔内注射した。10〜21日後、ハイブリドーマが腹水癌化することにより腹水のたまったマウスから、腹水を採取(1〜8ml/匹)した。
該腹水を遠心分離(1200×g、5分間)し、固形分を除去した。
精製IgGモノクローナル抗体は、カプリル酸沈殿法(Antibodies:A Laboratory Manual)により精製することにより取得した。モノクローナル抗体のサブクラスはサブクラスタイピングキットを用いたELISA法により決定した。モノクローナル抗体KM3035およびモノクローナル抗体KM3036のサブクラスは共にIgG2aであった。
実施例7 モノクローナル抗体の反応性の検討
(1)抗原固相系における抗原化合物との反応性(バインディングELISA)
実施例6で得られたモノクローナル抗体の抗原ペプチドとの反応性は、実施例6(3)に示した方法に準じて調べた。PY1175−THYまたはY1175−THYをそれぞれ吸着させたプレートに、1次抗体として実施例6(5)で得られたハイブリドーマKM3035およびKM3036の生産したモノクローナル抗体を含んだ培養上清、該上清を51、52、53および54倍希釈した希釈液を反応させ、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを反応させた。結果を第7図に示す。ハイブリドーマKM3035およびKM3036が生産したモノクローナル抗体はいずれも、ペプチドPY1175にのみ反応し、ペプチドY1175には全く反応しなかった。
(2)抗原液相系における抗原化合物に対する反応性(インヒビションELISA)
実施例6(3)に示した方法に準じてPY1175−THYを固相化したプレートを作製し、20μg/mlより5倍希釈で段階的に希釈したペプチドPY1175およびペプチドY1755を50μl/穴でそれぞれ分注後、ハイブリドーマKM3035またはKM3036の生産したモノクローナル抗体を含む培養上清をそれぞれ希釈して(希釈倍率;KM3035:×120、KM3036:×1000)50μl/穴で分注し、室温で2時間反応させた。ウェルをTween−PBSで洗浄後、希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリン(ダコ社製)を50μl/穴で加えて室温、1時間反応させ、Tween−PBSで洗浄後ABTS基質液を用いて発色させOD415nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;和光純薬社製)にて測定した。
第8図に示すように、ハイブリドーマKM3035およびKM3036が生産したモノクローナル抗体はいずれも液相系においてペプチドPY1175にのみに反応した。
実施例8 モノクローナル抗体KM3035を用いたイムノブロットによる自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
実施例1(2)と同様にして、10ng/mlのVEGFで刺激したNIH3T3−KDRおよびコントロールのVEGF未刺激細胞から細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った。
第9図に示すように、KDR/Flk−1の947〜966番目のアミノ酸配列からなるペプチドをウサギに免疫して得られたウサギポリクローナル抗体ではVEGF刺激、無刺激に関係なく230kDaのKDR/Flk−1のバンドが検出された。
一方、モノクローナル抗体KM3035ではVEGFで刺激した場合にのみ、230kDaのリン酸化KDR/Flk−1のバンドが検出された。したがって、KM3035はKDR/Flk−1の1175位チロシンの自己リン酸化を特異的に検出できることが確認された。
参考例1 変異型KDR/Flk−1発現アデノウイルスベクターの作製
変異型のKDR/Flk−1であるY1175F(1175位のチロシンをフェニルアラニンに置換)、Y1214F(1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換)、Y801F(801位のチロシンをフェニルアラニンに置換)を発現するアデノウイルスベクターを以下のように作製した。
Y1175FをコードするDNAは配列番号3で表される塩基配列を有するプライマー用いて、天然型のKDR/Flk−1 cDNA[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]を鋳型にしてPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのApaI/PstIサイト間に挿入することにより作製した。Y1214FをコードするDNAは配列番号4で表される塩基配列のプライマーを用いて同様にPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのApaI/PstIサイト間に挿入することにより作製した。また、Y801FをコードするDNAは配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーを用いて同様にPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのSphI/BamHIサイト間に挿入することにより作製した。これらの変異型KDR/Flk−1をコードするDNAは、塩基配列を決定して変異が導入されていることを確認した。これらの変異型KDR/Flk−1をコードするDNAについてアデノウイルス発現ベクターキット(宝酒造社製)を用いることにより、それぞれのKDR/Flk−1発現アデノウイルスベクター(組換えアデノウイルス)を作製した。
産業上の利用可能性
本発明により、KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質が提供される。さらに、該物質を用いたKDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法、細胞増殖を阻害する方法、血管新生を阻害する方法、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法、血管新生阻害剤のスクリーニング法、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法、組織での血管新生を検出する方法、およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法が提供される。
配列フリーテキスト
配列番号1−人工配列の説明:合成アミノ酸
配列番号2−人工配列の説明:合成アミノ酸
配列番号3−人工配列の説明:合成DNA
配列番号4−人工配列の説明:合成DNA
配列番号5−人工配列の説明:合成DNA
【配列表】
【図面の簡単な説明】
第1図はKDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに特異的な抗体(以下、抗PY1175抗体とする)を用いたイムノブロットによる、種々の細胞内の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1の検出を示す図である。第1A図は左から天然型KDR/Flk−1(Wt)、Y1175F、Y1214F、Y801Fの各変異型KDR/Flk−1を発現させた細胞株MSS31の細胞抽出液のイムノブロットを示す。各レーンの−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の結果である。第1B図は左からNIH3T3−KDR、NIH3T3−Flt−1、HeLaの各細胞の細胞抽出液のイムノブロットを示す。−は刺激しなかった細胞、VEGF、bFGF、PDGF、EGFはそれぞれで刺激した細胞の結果である。第1C図は左からヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびラット洞様血管内皮細胞(ratSEC)の細胞抽出液のイムノブロットを示す。−は刺激しなかった細胞、VEGF、bFGF、HGFはそれぞれで刺激した細胞の結果である。第1A〜C図ともに上段は抗PY1175抗体を用いたイムノブロット、中段は抗リン酸化チロシン抗体(抗PY抗体)を用いたイムノブロット、下段は抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。矢印は上段および中段は自己リン酸化したKDR/Flk−1(pKDR/Flk−1)のバンドの位置を示し、下段はKDR/Flk−1(自己リン酸化しているもの、していないもの両者を含む)のバンドの位置を示す。
第2図はKDR/Flk−1を発現させたMSS31細胞におけるin vivoでのKDR/Flk−1とPLC−γの結合を示す図である。Wtは天然型KDR/Flk−1、Y1175FはY1175F変異型KDR/Flk−1を発現させた細胞、−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞それぞれの抗KDR/Flk−1抗体による免疫沈降物について、上段は抗PLC−γ抗体、下段は抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。矢印は上段はPLC−γ、下段はKDR/Flk−1のバンドの位置を示す。TCLは、MSS31細胞の細胞抽出液(免疫沈降なし)の抗PLC−γ抗体によるイムノブロットの結果を示す。
第3図はPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合を示す図である。GSTあるいはGSTと種々の蛋白質のSH2ドメインの融合蛋白質とNIH3T3−KDRの細胞抽出液を反応させ、グルタチオンアフィニティーカラムにより単離したGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質について、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。左からGST、GST−PLC−γ SH2−SH2、GST−PLC−γ N−SH2、GST−PLC−γ C−SH2を用いた場合である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第4図はPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合を示す図である。GSTあるいはGSTと種々の蛋白質のSH2ドメインの融合蛋白質とNIH3T3−KDRの細胞抽出液を反応させ、グルタチオンアフィニティーカラムにより単離したGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質について、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。左からGST、GST−PLC−γ C−SH2、GST−Grb2 SH2、GST−PI3K N−SH2を用いた場合である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第5図は抗PY1175抗体およびPY1175ペプチドによるPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合の阻害を示す図である。GST−PLC−γ C−SH2とNIH3T3−KDRの細胞抽出液および抗体/ペプチドを添加して反応させた後にGST−PLC−γ C−SH2を単離したものについての、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。第5A図は左から、添加なし、ウサギIgG、抗PY1175抗体を添加した場合、第5B図は左から、添加なし、PY1175ペプチド、Y1175ペプチドを添加した場合の結果である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGST−PLC−γ C−SH2のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第6図は抗PY1175抗体を注入したラット洞様血管内皮細胞におけるVEGFによる細胞増殖シグナルの阻害を示す図である。左から抗体の注入なし(VEGF刺激なし)、抗体の注入なし(VEGF刺激)、ウサギIgG注入(VEGF刺激)、抗PY1175抗体注入(VEGF刺激)の場合の、BrdUを取り込んだ細胞の割合(%)を示すグラフである。
第7図はPY1175−THYまたはY1175−THYをそれぞれ吸着させたプレートに、1次抗体として得られたハイブリドーマKM3035およびKM3036の生産したモノクローナル抗体を含んだ培養上清、該上清の希釈液を反応させ、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを反応させた結果を示すグラフである。
第8図は、PY1175−THYを固相化したプレートを作製し、段階的に希釈したペプチドPY1175およびペプチドY1175をそれぞれ分注後、実施例1で得られたKDR/Flk−1の947〜966位の合成ペプチドを免疫して得られたウサギポリクローナル抗体またはハイブリドーマKM3035の生産したモノクローナル抗体を含む培養上清をそれぞれ希釈してで分注して反応させ、希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを加えて反応させた後に、ABTS[2.2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾール−6−スルホン酸)アンモニウム]基質液を用いて発色させた結果を示すグラフである。
第9図は、VEGFで刺激したNIH3T3−KDRおよびコントロールのVEGF未刺激細胞から細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った結果を示す図である。第9A図は抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いた結果で、第9B図は抗PY1175モノクローナル抗体を用いた結果である。各レーンの−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の結果である。
本発明は1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質に関する。さらに、本発明は、該物質を用いたKDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法、細胞増殖を阻害する方法、血管新生を阻害する方法、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法、血管新生阻害剤のスクリーニング法、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法、組織での血管新生を検出する方法、およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法に関する。
背景技術
血管新生は、脊椎動物の個体の発生および組織の構築に重要な役割を果たすとともに、成熟個体(雌)の性周期における黄体形成、子宮内膜の一過性の増殖および胎盤形成などにも密接に関与している。さらに、病的状態としては、固形腫瘍の増殖もしくは転移形成、糖尿病性網膜症および慢性関節リュウマチの病態形成あるいは促進に血管新生が深く関与している[J.Biol.Chem.,267,10931(1992)]。血管新生は、血管新生因子の分泌が引き金となり、分泌された血管新生因子の近傍にある既存の血管の内皮細胞からのプロテアーゼ分泌による基底膜、間質の破壊、続いて起こる血管内皮細胞の遊走、増殖により、管腔が形成され、血管が新生される過程よりなる[J.Biol.Chem.,267,10931(1992)]。血管新生を誘導する因子としては、vascular permeability factor(以下、VPFと略記する)、vascular endothelial growth factor(以下、VEGFと略記する)があり(以下、VPF/VEGFと記す)、これらは発生過程における血管新生および病的な状態における血管新生において最も重要な因子として知られている[Advances in Cancer Research,67,281(1995)]。VPF/VEGFはホモダイマーよりなる分子量約4万の蛋白質であり、1983年に血管透過性促進因子(Vascular permeability factor:VPF)として[Science,219,983(1983)]、1989年に血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor:VEGF)として[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]報告されたが、cDNAクローニングの結果、両者は同一の物質であることが明らかとなった[Science,246,1306(1989);Science,246,1309(1989)](以下、VPF/VEGFはVEGFと記す)。VEGFの活性としてはこれまでに、血管内皮細胞に対する、増殖促進活性[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]、遊走促進活性[J.Immunology,152,4149(1994)]、メタロプロテアーゼ分泌促進活性[J.Cell.Physiol.,153,557(1992)]、ウロキナーゼ、tPA分泌促進活性[Biochem.Biophys.Res.Comm.,181,902(1991)]などが知られており、イン・ビボ(in vivo)において血管新生促進活性[Circulation,92,suppl II,365 (1995)]、血管透過性促進活性[Science,219,983(1983)]などがこれまでに知られている。VEGFは血管内皮細胞に極めて特異性の高い増殖因子であり[Biochem.Biophys.Res.Comm.,161,851(1989)]、またmRNAのオルタナティブ・スプライシング(Alternative splicing)により分子量の異なる4種類の蛋白質が存在することが報告されている[J.Biol.Chem.,67,26031(1991)]。
血管新生を伴う疾患の中で、固形腫瘍の増殖もしくは転移形成、糖尿病性網膜症、慢性関節リュウマチの病態形成にVEGFが深く関与していることが報告されている。固形腫瘍については、これまでに腎癌[Cancer Research,54,4233(1994)]、乳癌[Human Pathology,26,86(1995)]、脳腫瘍[J.Clinical Investigation,91,153(1993)]、消化器癌[Cancer Research,53,4727(1993)]、卵巣癌[Cancer Research,54,276(1994)]などの多くのヒト腫瘍組織におけるVEGFの産生が報告されている。また、乳癌患者の腫瘍におけるVEGF発現量と患者の生存率との相関性を検討した結果、VEGF高発現腫瘍は、VEGF低発現腫瘍に比べて腫瘍血管新生が盛んであり、かつVEGF高発現腫瘍の乳癌患者は、VEGF低発現腫瘍の乳癌患者に比べて生存率が低いことも明らかとなっている[Japanese J.Cancer Research,85,1045(1994)]。また、ヌードマウスにヒト腫瘍を皮下移植したゼノグラフトモデル実験系において、抗VEGFモノクローナル抗体は腫瘍増殖抑制効果を示すことが報告されている[Nature,362,841(1993)]。さらに、ヌードマウスにおけるヒト腫瘍の転移癌モデルにおいて、抗VEGFモノクローナル抗体は癌転移を抑制できることが報告されている[Cancer Research,56,921(1996)]。また、ヒトの癌性胸水、腹水中に高濃度のVEGFが検出されることから、胸水、腹水貯留の主要な因子である可能性も示されている[Biochimica et Biophysica Acta,1221,211(1994)]。
糖尿病網膜症においては、血管新生の異常により網膜剥離や硝子体出血をおこして失明にいたるが、糖尿病性網膜症における血管新生と患者眼球内のVEGFレベルが正相関することが報告されている[New England J.Medicine,331,1480(1994)]。また、サルの網膜症モデルにおいて抗VEGF中和モノクローナル抗体の眼内投与によりVEGF活性を抑制すると血管新生が抑制されることが報告されている[Arch Opthalmol.,114,66(1996)]。
慢性関節リュウマチの関節炎の病態の進展(骨、軟骨の破壊)には血管新生を伴うが、慢性関節リュウマチ患者の関節液中にはVEGFが高濃度で含まれていること、関節中のマクロファージがVEGFを産生することが報告されている[Journal of Immunology,152,4149(1994);J.Experimental Medicine,180,341(1994)]。
VEGFの受容体として、Flt−1(fms−like tyrosine kinase)[Shibuya M et al.,Oncogene,5,519(1990)、de Vries C et al.,Science,255,989(1992)]およびKDR(kinase insert domain−containing receptor)[WO92/14748、Terman BI et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,187,1579(1992)]が報告されている。KDRはマウスではFlk−1(fetal liver kinase−1)として発見された[W.Matthews et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,9026(1991)、WO94/11499、Millauer B et al.,Cell,72,835(1993)]ので、ここではKDR/Flk−1と総称する。
Flt−1およびKDR/Flk−1は両者とも、細胞外ドメインは7個のイムノグロブリン様ドメインからなり、細胞内ドメインにはチロシンキナーゼドメインを有する、分子量180〜200kDaの受容体型チロシンキナーゼファミリーに属する膜蛋白である。VEGFはFlt−1およびKDR/Flk−1にはそれぞれK0値が20pmol/lおよび75pmol/lで特異的に結合する。Flt−1およびKDR/Flk−1は血管内皮細胞に特異的に発現していると報告されている[Quinn TP et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,7533(1993)、Kendall RL et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,8915(1993)]。
ヒト脳腫瘍組織の腫瘍血管内皮細胞[Hatva E et al.,Am.J.Pathol.,146,368(1995)]、ヒト消化器癌組織の腫瘍血管内皮細胞[Brown LF et al.,Cancer Res.,53,4727(1993)]において、正常組織の血管内皮細胞に比べKDR/Flk−1のmRNAレベルの発現が上昇していることが報告されている。これらの結果は、腫瘍血管新生においてVEGF−KDR/Flk−1系が重要な役割を果たしていることを強く示唆するものである。さらに、慢性関節リウマチ患者の関節の血管内皮細胞においてもイン・サイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションによりKDR/Flk−1のmRNAの発現が認められることが報告されており[Fava RA et al.,J.Exp.Med.,180,341,(1994)]、慢性関節リウマチにおけるVEGF−KDR/Flk−1系の重要性を示唆している。
KDR/Flk−1の機能については、ブタ動脈の血管内皮細胞にKDR/Flk−1を発現させるとVEGFに反応し増殖、遊走することから、VEGFの多様な活性の中でKDR/Flk−1は血管内皮細胞の増殖、遊走に関与すると報告されている[Waltenberger J et al.,J.Biol.Chem.,269,26988(1994)]。また、KDR/Flk−1遺伝子を破壊したノックアウトマウスでは血管内皮細胞の増殖や血管の形成が全く認められず、卵黄嚢の血島も形成されず、発生後8.5から9.5日の胎児期に死亡したことから、動物個体においてもKDR/Flk−1は血管内皮細胞の増殖、分化に関与することが報告されている[Shalaby F et al.,Nature,376,62(1995)]。
一方、Flt−1遺伝子のノックアウトマウスも同じ胎児期に死亡するが、その原因は内皮細胞の過剰な増殖と正常な血管の構造が形成できないためであることから[Fong G−H et al.,Nature,376,66(1995)]、Flt−1は内皮細胞の増殖を抑制するネガティブな調節因子として血管内皮の正常な構造形成に関与していると考えられ、KDR/Flk−1とFlt−1はVEGFがその作用を示すうえでそれぞれ別の役割を果たしていると考えられる。
VEGFとKDR/Flk−1との結合を阻害できるようなKDR/Flk−1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体が、in vitroで血管内皮細胞におけるKDR/Flk−1の情報伝達を阻害し増殖を阻害すること[Rockwell P et al.,Mol.Cell.Differ.,3,91(1995)]、およびこの抗体が、マウスに移植した種々の癌細胞の血管新生や増殖、転移を抑制することが報告されている[Prewett M et al.,Cancer Res.,59,5209(1999)]。また、KDR/Flk−1のチロシンキナーゼに特異的な阻害剤SU5416が、マウスに移植した種々の癌細胞の血管新生や増殖、あるいは転移を抑制することが報告されている[Annie T et al.,Cancer Res.,59,99(1999)、Shaheen RM et al.,Cancer Res.,59,5412 (1999)]。
一般にチロシンキナーゼ型受容体の情報伝達は、リガンドとの結合により自己のチロシンキナーゼが活性化され、自己および他の分子のチロシン残基をリン酸化することで情報伝達が開始されると考えられている。この場合、受容体の自己リン酸化チロシンにSH2ドメインを介して別の蛋白質分子が結合し、この分子が他の分子と結合したり酵素反応をおこすことにより情報の伝達がなされていくと考えられている。KDR/Flk−1の場合も、血管内皮細胞において、VEGFとの結合により自己のチロシン残基がリン酸化を受けることが報告されている[J.Waltenberger et al.,J.Biol.Chem.,269,26988(1994)]。自己リン酸化されるチロシンの位置としては、これまで、大腸菌で発現させたKDR/Flk−1の中の951、996、1054、1059位のチロシンが自己リン酸化されること[Dougher−Vermazen M et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,205,728(1994)]、酵母を用いた系では、ホスホリパーゼC−γ(以下、PLC−γと略記する)が結合するコンセンサス配列に類似した配列中にある801位と1175位のチロシンがリン酸化を受けること[Cunningham SA et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,240,635(1997)]が報告されている。動物細胞で発現させたKDR/Flk−1の主な自己リン酸化部位は1175位、1214位のチロシンであり、801位チロシンはほとんど自己リン酸化を受けないことが報告されている(高橋ら、第5回Vascular Medicine学会2000年)。また、酵母ツーハイブリッドシステムにより、KDR/Flk−1の1175位のチロシンにアダプター蛋白質SckがそのSH2ドメインを介して結合していることが見出されている[Igarashi K et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,251,72(1998)]。
KDR/Flk−1の血管内皮細胞の増殖に至る情報伝達では、他のチロシンキナーゼ型受容体と異なりRasやPI3キナーゼの関与はほとんどなく、VEGFの刺激により活性化し自己リン酸化したKDR/Flk−1に、PLC−γが結合してリン酸化を受けて活性化し、さらにPKCが活性化されその結果MAPキナーゼの活性化とDNA合成の誘導がおこるという、PLC−γ−PKC−MAPキナーゼの系が主に関与していると考えられている「Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)、Takahashi T et al.,Oncogene,2221(1999)]。KDR/Flk−1の1175位、1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換した変異体を内皮細胞由来の細胞株に発現させることにより、1175位のチロシンのリン酸化がPLC−γのリン酸化やMAPキナーゼの活性化と関与することが報告されている(高橋ら、第58回日本癌学会総会1999年)。
また、内皮細胞内でVEGF依存的に1175位チロシンがリン酸化されることが報告されている。さらに、リン酸化した1175位チロシンに対するポリクローナル抗体を作製し、この抗体が1175位のチロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に認識することも報告されている(高橋ら、第5回Vascular Medicine学会2000年)。しかし、このリン酸化した1175位チロシンに対する抗体と、細胞増殖の阻害との因果関係については知られていない。
発明の開示
ヒト型VEGF受容体KDRの情報伝達を阻害できれば、ヒトにおける固形腫瘍の増殖、転移形成、慢性関節リュウマチにおける関節炎、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾鮮等の異常な血管新生により病態が進行する疾患の治療に有用であることが期待される。
本発明の目的は、KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質を取得し、さらに該物質の利用方法を提供することである。
KDR/Flk−1の情報伝達に重要な自己リン酸化部位である、1175位チロシンをリン酸化したKDR/Flk−1に対する抗体を作製した。そして、この抗体が1175位チロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に検出できるのみならず、この抗体を内皮細胞に注入するとKDR/Flk−1の情報伝達を阻害し、VEGFに依存的な細胞の増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下に示す(1)〜(38)に関する。
(1)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
(2)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
(3)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
(4)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法。
(5)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生阻害剤のスクリーニング法。
(6)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法。
(7)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
(8)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
(9)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法。
(10)情報伝達分子がホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(12)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつPLC−γのリン酸化を阻害する抗体である、上記(11)記載の方法。
(13)抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(11)または(12)記載の方法。
(14)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
(15)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
(16)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
(17)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
(18)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
(19)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を有効成分として含有する薬剤。
(20)薬剤が、チロシンリン酸化阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(21)薬剤が、細胞増殖阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(22)薬剤が、血管新生阻害剤である上記(19)に記載の薬剤。
(23)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、上記(19)〜(22)のいずれかに記載の薬剤。
(24)抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害する抗体である、上記(23)に記載の薬剤。
(25)抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(23)または(24)に記載の薬剤。
(26)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有するKDR/Flk−1のチロシンリン酸化阻害剤。
(27)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する細胞増殖阻害剤。
(28)KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する血管新生阻害剤。
(29)上記(4)〜(6)および(9)のいずれかに記載の方法により得られる化合物。
(30)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を認識するモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(31)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(32)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)または(31)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(33)ハイブリドーマKM3035(FERM BP−7729)が生産するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、上記(30)〜(32)記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(34)抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、1本鎖抗体(scFv)、2量体化可変領域(V領域)断片(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)および相補性決定領域(CDR)を含むペプチドから選ばれる抗体断片である上記(30)〜(33)のいずれか1項に記載の抗体断片。
(35)上記(30)〜(34)のいずれか1項に記載されたモノクローナル抗体またはその抗体断片が、放射性同位元素、蛋白質または薬剤と化学的または遺伝子工学的に結合しているモノクローナル抗体またはその抗体断片。
(36)上記(30)〜(35)のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
(37)上記(36)記載のDNAを含む組換えベクター。
(38)上記(37)記載の組換えベクターが宿主細胞に導入された形質転換体。
KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質があげられる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体またはその抗体断片、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と情報伝達分子との結合を阻害する化合物などがあげられる。
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体またはその抗体断片としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識して結合し、1175位チロシンがリン酸化を受けていないKDR/Flk−1とは結合しない特異性を有する抗体(以下、「1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体」または「本発明の抗体」とも表記する)またはその抗体断片であれば、いずれでも用いられるが、好ましくはリン酸化されたKDR/Flk−1とPLC−γとの結合を阻害する抗体またはその抗体断片があげられる。
本発明の抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体などがあげられるが、好ましくはモノクローナル抗体があげられる。
モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産された抗体および、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体をあげることができる。
遺伝子組換え抗体としては、ヒト化抗体、ヒト抗体および抗体断片など、遺伝子組換えにより製造される抗体を包含する。遺伝子組換え抗体において、モノクローナル抗体の特徴を有し、抗原性が低く、血中半減期が延長されたものが好ましく用いられる。
ヒト化抗体は、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体を包含する。
抗体断片は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に特異的に反応する抗体断片であるFab(Fragment of antigen bindingの略)、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(single chain Fv;以下、scFvと称す)(Science,242,423(1988))、2量体化可変領域(V領域とも称す)断片(以下、Diabodyと表記する)(Nature Biotechnol.,15,629(1997))、およびジスルフィド安定化V領域断片(disulfide stabilized Fv;以下、dsFvと称す)(Molecular Immunol.,32,249(1995))を包含する。
また、抗体断片には、上記抗体の抗体V領域重鎖(H鎖とも称す)(以下、抗体可変領域重鎖をVHとも称す)および抗体V領域軽鎖(L鎖とも称す)(以下、抗体可変領域軽鎖をVLとも称す)の相補性決定領域(complementary determining region;以下、CDRと称す)のアミノ酸配列を含むペプチド(以下、CDRを含むペプチドと称す)(J.Biol.Chem.,271,2966(1996))も包含する。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体可変領域重鎖および可変領域軽鎖とヒト抗体の定常領域重鎖(以下、CHと称す)およびヒト抗体の定常領域軽鎖(以下、CLと称す)とからなる抗体を意味する。
本発明のヒト型キメラ抗体は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ製造することができる。
本発明のヒト型キメラ抗体の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにはIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のイムノグロブリンのC領域が好ましい。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト抗体のVHおよびVLのCDRをヒト以外の動物の抗体のCDR配列でそれぞれ置換した抗体を意味する。
本発明のヒト型CDR移植抗体は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に特異的に反応する、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDR配列で任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列をそれぞれ置換したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。
本発明のヒト型CDR移植抗体C領域の構造としては、いずれのイムノグロブリン(Ig)クラスに属するものでもよいが、IgG型、さらにIgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のイムノグロブリンのC領域が好ましい。
Fabは、IgGのヒンジ領域で2本のH鎖を架橋している2つのジスルフィド結合の上部のペプチド部分を酵素パパインで分解して得られた、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体で構成された、分子量約5万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体を意味するが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体等も含まれる。
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ不死化、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養でき、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFv等の抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物を意味する。具体的には、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニック動物を作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体産生ハイブリドーマを得、培養することで培養物中にヒト抗体を産生蓄積させることができる。
本発明のFabは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体をパパイン処理して得ることができる。または、該抗体のFab断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ間のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
本発明のFab’は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することができる。
F(ab’)2は、IgGのヒンジ領域の2個のジスルフィド結合の下部を酵素トリプシンで分解して得られた、2つのFab領域がヒンジ部分で結合して構成された、分子量約10万の抗原結合活性を有するフラグメントである。
本発明のF(ab’)2は、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体をトリプシン処理して得ることができる。または、該抗体のF(ab’)2断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、F(ab’)2を製造することができる。
scFvは、一本のVHと一本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと称す)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドを示す。本発明で使用されるscFvに含まれるVHおよびVLは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のいずれをも用いることができる。
本発明のscFvは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFv発現ベクターを構築したのち該cDNAを挿入し、大腸菌、酵母、あるいは動物細胞へ該発現ベクターを導入することにより発現させ製造することができる。
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性または異なる抗原に対する2特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明のDiabodyは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、3〜10残基のポリペプチドリンカーを有するscFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することによりDiabodyを発現させ、製造することができる。
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法[Protein Engineering,7,697(1994)]に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明のdsFvに含まれるVHあるいはVLは1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のいずれをも用いることができる。
本発明のdsFvは、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させることにより製造することができる。
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることにより製造することができる。
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のVHおよびVLのCDRをコードするcDNAを構築し、該cDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片は、該抗体またはその抗体断片に放射性同位元素、蛋白質または薬剤などを化学的にあるいは遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。
本発明の抗体の誘導体は、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体のH鎖或いはL鎖のN末端側或いはC末端側、抗体または抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体または抗体断片中の糖鎖に放射性同位元素、蛋白質あるいは薬剤などを化学的手法(抗体工学入門、金光修著、(株)地人書館(1994))により結合させることにより製造することができる。
または、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させて発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入する。以上のような遺伝子工学的手法によっても製造することができる。
放射性同位元素としては、131I、125I等があげられ、例えば、クロラミンT法等により、抗体に結合させることができる。
薬剤としては、低分子のものが好ましく、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤等の抗癌剤(臨床腫瘍学、日本臨床腫瘍研究会編、癌と化学療法社(1996))、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤等の抗炎症剤(炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社(1982))などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法等があげられる。
蛋白質としては、免疫担当細胞を活性化するサイトカインが好適であり、例えば、ヒトインターロイキン2(hIL−2)、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM−CSF)、ヒトマクロファージコロニー刺激因子(以下、hM−CSFと表記する)、ヒトインターロイキン12(hIL−12)等があげられる。また、癌細胞を直接障害するため、リシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。例えば、蛋白質との融合抗体ついては、抗体または抗体断片をコードするcDNAに蛋白質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と情報伝達分子との結合を阻害する化合物としては、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対するアンチセンスRNAあるいはDNA、情報伝達分子に対する抗体またはその抗体断片、情報伝達分子に対するアンチセンスRNAまたはDNA、または後述するスクリーニング方法あるいはドラッグデザイン方法により得られた化合物などがあげられる。情報伝達分子としては、例えばPLC−γがあげられる。
また、本発明のKDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する物質としては、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する抗体またはその抗体断片、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する作用を有するキナーゼ阻害剤、または後述するスクリーニング方法あるいはドラッグデザイン方法により得られた化合物などがあげられる。
以下に、KDR/Flk−1の1175位のチロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を阻害する物質およびそれらの物質を含む医薬の用途について説明する。
1.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の取得方法
1−1.1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体の製造法
(1)抗原とするペプチドの調製
1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、配列番号7に示したKDR/Flk−1のアミノ酸配列のうちの、1175位のチロシンを含む連続した5〜20残基のアミノ酸配列からなり、1175位チロシンに相当するアミノ酸がリン酸化チロシンになっているペプチドを化学合成し、このペプチドを抗原として動物を免疫することにより作製することができる。必要によってはペプチドのN末端またはC末端には、後述する担体蛋白質との結合に用いるためのシステイン残基を付加した配列にする。このような抗原のペプチドとして、KDR/Flk−1のアミノ酸配列の1171〜1180番めの配列のN末端にシステインを付加した配列を有し、1175位のチロシン残基に相当する4番目のアミノ酸がリン酸化チロシンである配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するペプチドをあげることができる。チロシンがリン酸化されたペプチドは、文献の方法[Kitas EA et al.,Helv.Chim.Acta,74,1314(1991)、Bannworth W and Kitas EA,Helv.Chem.Acta,75,707(1992)、Kitas EA et al.,Tetrahedron Lett.,30,6229(1989)、Kitas EA et al.,Tetrahedron Lett.,29,3591(1988)]に基づきペプチド合成機等を用いて固相合成を行うことにより化学合成することができる。
(2)1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRポリクローナル抗体の調製
上記のペプチドに対するポリクローナル抗体を含む抗血清は、文献[Harlow E and Lane D,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press.(1988)](以下、Antibodies:A Laboratory Manualと略記する)等に記載の一般的な方法により、マウス、ラット、ハムスター、ウサギなどの動物の皮下、静脈内または腹腔内に、適当なアジュバントとともに抗原を10日から4週間おきに数回投与して免疫を行うことにより調製することができる。抗原は(1)で調製したペプチドだけでは抗原として抗体を惹起する力が弱いので、ペプチドをキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanine,KLH)、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、破傷風毒素などの担体蛋白質に結合させたものを抗原とし、例えばウサギでは200〜1000μg、マウスで10〜100μgを1回あたり投与する。ペプチドと担体蛋白質との結合はm−マレインイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミド(MBS)、グルタルアルデヒドを用いて行うことができる。アジュバンドとしては、フロインドの完全アジュバント(Complete Freun d’s Adjuvant)または、水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどがあげられる。各投与後3〜10日目に免疫動物の眼底静脈叢あるいは尾静脈より採血し、抗原に用いたリン酸化ペプチドに対する反応性について、酵素免疫測定法で確認し、その血清が十分な抗体価を示した動物から採取した血清を抗血清とする。酵素免疫測定法は、抗原に用いたリン酸化ペプチドをプレートにコートし、サンプルである血清を第一抗体として反応させ、さらに第二抗体としてビオチン、酵素、化学発光物質あるいは放射性同位体等で標識した抗イムノグロブリン抗体(免疫に用いた動物のイムノグロブリンに対する抗体)を反応させた後に標識物質に応じた反応を行ない、抗原ペプチドを認識し結合する抗体を検出および定量する方法である[酵素免疫測定法(ELISA法):医学書院刊(1976年)]。
(1)で調製した抗原用のペプチドを、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(N−hydroxysuccinimide、NHS)により活性化したセファロース−4B[アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)社製]やその充填済カラムであるハイトラップNHS−活性化カラム(HiTrap NHS−activated column、アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)等に固定化して作製したアフィニティーカラムを用いて、上記の抗血清に対してアフィニティークロマトグラフィーを行うことにより、容易に抗原ペプチドと結合するポリクローナル抗体を精製することができる。ペプチドの固定化やアフィニティークロマトグラフィーはメーカーのマニュアルに従って行うことができる。
このようにして精製したポリクローナル抗体中には、抗原としたペプチドの配列中のリン酸化チロシン以外の部分をエピトープとするために、抗原としたペプチドあるいは1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1と結合するばかりでなく、1175位チロシンがリン酸化されていないKDR/Flk−1とも結合できるような抗体も含まれている。そこで、(1)で調製した抗原用のペプチドと同じアミノ酸配列において、リン酸化チロシンが(リン酸化されていない)チロシンになっているペプチドをペプチド合成機などで化学合成し、このペプチドを上記と同様にして固定化したアフィニティーカラムに、上記で精製したポリクローナル抗体を通すことにより、1175位チロシンがリン酸化を受けていないKDR/Flk−1も認識する抗体(このような抗体は、アフィニティーカラム上の非リン酸化チロシンペプチドとも結合する)をカラムに結合させて除き、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDRポリクローナル抗体を精製することができる。
(3)モノクローナル抗体の調製
(2)と同様にして3〜20週令のマウスまたはラットを免疫し、血清中に十分な抗体価を示した動物の脾臓、リンパ節、末梢血より抗体産生細胞を採取する。例えば脾臓を摘出し、脾細胞を採取する。
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞である、8−アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3−X63Ag8−U1(P3−U1)[Kohler G et al.,Europ.J.Immunol.,6,511(1976)]、SP2/0−Ag14(SP−2)[Shulmanet M et al.,Nature,276,269(1978)]、P3−X63Ag8653(653)[Kearney JF et al.,J.Immunol.,123,1548(1979)]、P3−X63Ag8(X63)[Kohler G et al.,Nature,256,495(1975)]など、イン・ビトロ(in vitro)で増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養および継代については公知の方法(Antibodies:A Laboratory Manual)に従い、細胞融合時までに2×107個以上の細胞数を確保する。
抗体産生細胞と骨髄腫細胞と最小培地(minimal essential medium、MEM)あるいはPBS(phosphate buffered saline)で洗浄したのち、ポリエチレングリコール−1000などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させる。融合細胞をHAT培地[正常培地(RPMI−1640培地に1.5mmol/lグルタミン、5×10−5mol/l 2−メルカプトエタノール、10μg/mlジェンタマイシンおよび10%ウシ胎児血清(FCS)を加えた培地)に10−4mol/lヒポキサンチン、1.5×10−5mol/lチミジンおよび4×10−7mol/lアミノプテリンを加えた培地]に懸濁させ、96穴プレートに分注して培養する。
培養後、各穴の培養上清の一部をとり酵素免疫測定法により、(2)の抗原のペプチドと同一の配列の非リン酸化ペプチドとは反応せずに、抗原としたリン酸化ペプチドと特異的に反応するものを選択する。選択した穴内の細胞から、限界希釈法によりクローニングを2回繰り返し[1回目は、HT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いた培地)、2回目は、正常培地を使用する]、安定して強い抗体価の認められたものを1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
プリスタン(Pristane、2、6、10、14−テトラメチルペンタデカン)0.5mlを腹腔内投与し、2週間飼育した8〜10週令のマウスまたはヌードマウスに、上記で得られた1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体産生ハイブリドーマ細胞2×107〜5×106細胞/匹を腹腔内に注射する。10〜21日間でハイブリドーマは腹水癌化する。該マウスまたはヌードマウスから腹水を採取し、遠心分離、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿法、DEAE−セファロースカラム、プロテインAカラムあるいはセルロファインGSL2000(生化学工業社製)のカラムなどを用いて、IgGあるいはIgM画分を回収し、精製モノクローナル抗体とする。
精製モノクローナル抗体のサブクラスの決定は、モノクローナル抗体タイピングキットなどを用いて行うことができる。蛋白質量は、ローリー法あるいは波長280nmでの吸光度より算出することができる。
1−2.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質をスクリーニングする方法
上記1−1で得られた抗体とKDR/Flk−1を発現する細胞を用いて、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質または1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質をスクリーニングすることができる。具体的には、該抗体、KDR/Flk−1を発現する細胞および/または被験試料とを接触させ、抗体とKDR/Flk−1の結合や、リン酸化の誘導または抑制などを、定性的または定量的に調べることにより、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質または1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質をが選択される。
被験物質としては、KDR/Flk−1を発現する細胞の培養系に加えることができるものであれば特に限定されず、例えば、低分子化合物、高分子化合物、有機化合物、無機化合物、蛋白質、遺伝子、ウイルス、細胞などが挙げられる。遺伝子を除く被験物質は、培養培地中に直接添加すればよい。
遺伝子を効率的に培養系に導入する方法としては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス等のウイルスベクターに乗せて培養系に添加する方法、またはリポソームなどの人工的なベジクル構造に封入して培養系に添加する方法などが挙げられる。その具体的例としては、組換えウイルスベクターを用いた遺伝子解析に関する報告[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,6733(1995);Nucleic Acids Res.,18,3587,1990;Nucleic Acids Res.,23,3816(1995)]を挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法としては、免疫学的測定法を利用したスクリーニング方法があげられる。免疫学的測定法としては、任意の公知の免疫学的測定方法があげられる。免疫学的測定法としては、例えば、競合法、サンドイッチ法[免疫学イラストレイテッド第5版(南光堂)]があげられるが、サンドイッチ法が好ましい。
サンドイッチ法を利用したスクリーニング方法とは、具体的には、固相に第一の抗体を結合させた後、被験物質と、VEGF含有培地で培養したKDR/Flk−1発現細胞とを反応させた後、標識した第二の抗体を反応させる方法である。
サンドイッチ法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、上述したFab、Fab’、F(ab)2などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチ法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体あるいは抗体フラグメントの組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体あるいは抗体フラグメントの組み合わせでもよいが、高感度のサンドイッチELISAを行うためには、特異的な結合活性を有するモノクローナル抗体が好ましい。例えば、KDR/Flk−1の細胞外領域を認識する抗体またはその抗体断片と、前記1で製造された1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体またはその抗体断片との組み合わせがあげられる。固相に結合させる抗体および標識する抗体は、2つの抗体のいずれでもよい。
標識方法としては、放射性同位元素、酵素、蛍光、発光などがあげられるが、好ましくは酵素での標識があげられる。
以下にスクリーニング方法を具体的に説明する。
96穴プレートに1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体を分注し、4℃で一晩放置して吸着させる。洗浄後、1%牛血清アルブミンを含むPBSを加えて、室温で1時間静置して非特異的吸着をブロックする。PBSで洗浄後、VEGFを含まない培地で培養したKDR/Flk−1を発現する細胞の細胞抽出液を分注した後に、VEGFおよび試験物質を添加してKDR/Flk−1を活性化し反応させる。洗浄後にウェルに結合したKDR/Flk−1の量を、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体とは別のエピトープを認識する抗体例えばKDR/Flk−1の細胞外領域を認識する抗KDR/Flk−1抗体を用いて酵素免疫測定法により測定する。試験物質を添加しない場合のKDR/Flk−1の結合量と試験物質を添加した場合の結合量を測定し比較することにより、1175位のチロシンリン酸化を阻害する物質、あるいは、1175位のチロシンリン酸とPLC−γなどのアダプター分子の結合を阻害する物質をスクリーニングすることができる。
1−3.ドラックデザインによる1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の取得方法
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質は、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1の細胞内領域と情報伝達分子との構造を、X線結晶解析またはNMR解析などの構造解析により得られた数値をもとに、計算機上のシミュレーションを行ってKDR/Flk−1の細胞内領域と情報伝達分子との結合領域を推定し、かつそれらの分子間結合を阻害することが可能な化合物を既存のデータベースあるいはコンピューターソフトを用いた構築により、取得することができる。
また、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、1175位がリン酸化される際のチロシンキナーゼの構造を、X線結晶解析またはNMR解析などによる構造解析により得られた数値をもとに、計算機上のシミュレーションにより構造を推定し、新規化合物を既存のデータベースから選択するか、あるいはコンピューターソフトを用いた構築により、取得することができる。
ここで、(1)構造未知のタンパク質の立体構造を既知類似酵素の立体構造から自動構築する場合には、例えば、Insight II/Modeler(Accelrys)が用いられる。(2)タンパク質の立体構造からリガンド結合部位を予測する場合には、例えば、Cerius2/LigandFit(Accelrys)が用いられる。(3)タンパク質の立体構造がわかっていて,リガンド結合部位がだいたい(領域として)わかっているときに、リガンドの結合様式を予測する場合、あるいは、任意の化合物が結合(阻害)するかどうか予測する場合には、例えば、Insight II/Affinity(Accelrys)、GOLD(CCDC)、FlexX(Tripos)、DOCK(Prof.Kuntz)が用いられる。(4)リガンド結合部位から、結合(阻害)すると予想される化合物を生成する場合には、例えば、Insight II/Ludi(Accelrys)が用いられる。
上記で取得した化合物は、前記1−2のスクリーニング方法で示したアッセイ方法を用いることにより、阻害活性を有しているか否かを確認することができる。
2.1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体によるKDR/Flk−1の情報伝達の阻害および細胞増殖の阻害
本発明で使用される1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質が、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害すること、細胞増殖あるいは血管新生を阻害することは、以下の方法で確認することができる。
(1)PLC−γとKDR/Flk−1の結合の阻害
KDR/Flk−1発現細胞、例えばNIH3T3−KDR[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]をVEGFで刺激してKDR/Flk−1を活性化した後に細胞抽出液を調製する。ここにPLC−γあるいはPLC−γのSH2ドメイン、例えばGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)とPLC−γC末端側SH2ドメイン融合蛋白質[サンタ・クルズ・バイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotecnology Inc.)製]を添加し結合させる。この系に該抗体を添加した場合と添加しない場合について、PLC−γあるいはPLC−γのSH2ドメインを免疫沈降やグルタチオン固定化ビーズ等により分離した後に、抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量を比較する。該抗体を添加した場合に、非添加時と比較して免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量が減少していれば、in vitroで該抗体がKDR/Flk−1とPLC−γの結合を阻害しているといえる。
また、KDR/Flk−1を発現している血管内皮細胞例えば、洞様血管内皮細胞やヒト臍帯静脈血管内皮細胞の中に該抗体をマイクロインジェクションにより注入した細胞と注入しない細胞について、VEGFにより刺激した後に細胞抽出液を調製する。それぞれの細胞抽出液について上記と同様に抗PLC−γ抗体によりPLC−γを免疫沈降した後に、免疫沈降物について抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して免疫沈降物中のKDR/Flk−1の量が減少していれば、in vivoで該抗体がKDR/Flk−1とPLC−γの結合を阻害しているといえる。免疫沈降やイムノブロットはAntibodies:A Laboratory Manual等の実験書に記載の方法で行うことができる。
(2)PLC−γリン酸化の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞からVEGF刺激後に調製した細胞抽出液について、抗PLC−γ抗体によりPLC−γを免疫沈降した後に、免疫沈降物について抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行い、免疫沈降物中のリン酸化したPLC−γの量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して免疫沈降物中のリン酸化したPLC−γの量が減少していれば、in vivoで該抗体がPLC−γのリン酸化すなわちPLC−γの活性化を阻害しているといえる。
(3)MAPキナーゼ活性化の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞からVEGF刺激後に調製した細胞抽出液について、リン酸化MAPキナーゼに特異的な抗体を用いたイムノブロットを行い、リン酸化したMAPキナーゼの量を比較する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して細胞内のリン酸化したMAPキナーゼの量が減少していれば、in vivoで該抗体がMAPキナーゼのリン酸化すなわちMAPキナーゼの活性化を阻害しているといえる。
(4)細胞増殖の阻害
(1)と同様にして該抗体を細胞内に注入した血管内皮細胞と注入しない細胞について、VEGFで刺激する際にブロモデオキシウリジン(BrdU)を添加し、VEGF刺激により新たに合成されたDNAを標識する。細胞を免疫組織染色用に固定化し、抗BrdU抗体で染色することにより、新たにDNAが合成された細胞を検出する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して染色された細胞数が減少していれば、in vivoで該抗体がDNAの合成すなわち細胞増殖のシグナルを阻害しているといえる。あるいは、BrdUのかわりに[3H]チミジンを添加して培養して新たに合成されたDNAを標識した後、細胞をグラスフィルター等で回収して細胞の放射能を測定することにより、DNA合成量を測定する。該抗体を注入した場合に、非注入時と比較して放射能が減少していれば、in vivoで該抗体がDNAの合成すなわち細胞増殖のシグナルを阻害しているといえる。
3.1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の用途
本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、KDR/Flk−1の情報伝達分子の結合を阻害し、細胞増殖を阻害する活性または血管新生を阻害する活性を有している。これらの性質を有する物質は、以下の用途に使用することができる。
(1)本発明の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質の使用方法
前記2より、本発明の1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、KDR/Flk−1の情報伝達分子の結合を阻害し、細胞増殖または血管新生などを阻害するために用いることができる。
固形腫瘍の増殖など細胞増殖に関わる疾患、または転移形成、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症などの血管新生に関わる疾患の診断または治療に用いることができる。
また、血管内皮細胞などの細胞内における細胞増殖の情報伝達には、KDR/Flk−1が重要であるため、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体は、KDR/Flk−1を介した血管内皮の増殖を阻害するために用いることができる。従って、ヒト型VEGF受容体KDRの情報伝達を阻害できれば、ヒトにおける固形腫瘍の増殖、転移形成、慢性関節リュウマチにおける関節炎、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾鮮等の異常な血管新生により病態が進行する疾患の診断または治療に用いることができる。
(2)1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質を有効成分として含有する薬剤
これまでに、このような阻害剤としては、1)細胞外ドメインに対する中和抗体、可溶性KDR/Flk−1などの、KDR/Flk−1とVEGFとの結合を阻害する物質、2)キナーゼ阻害剤など細胞内のキナーゼを阻害することにより以降の情報伝達を阻害する物質が知られている。これらの物質に対し、前記2で確認される性質を有する、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質は、新規なメカニズムのVEGF−KDR/Flk−1の情報伝達の阻害剤、すなわち細胞増殖阻害剤および血管新生阻害剤として使用することができる。
1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質またはKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に阻害する物質を含有する医薬は、治療薬として単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができ、抗体製剤の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等があげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製する。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該化合物または抗体そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該化合物または抗体を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該化合物または抗体および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
本医薬組成物の投与量は、患者の年齢、症状等によって異なるが、ヒトを含む哺乳動物に対し、各化合物または抗体として0.1〜20mg/kg/日投与する。投与は、各化合物または抗体を同時に投与する場合は、1日1回(単回投与または連日投与)または間歇的に1週間に1〜3回、2、3週間に1回、別々に投与する場合は、各々の化合物または抗体を、適宜時間をおいて、1日1回(単回投与または連日投与)または間歇的に1週間に1〜3回、2、3週間に1回静脈注射により行う。
(3)血管新生の早期検出
前記1−1で製造された本発明の抗体が、リン酸化されたKDR/Flk−1、すなわち情報伝達を行っているKDR/Flk−1のみを検出できることを利用して、臨床組織材料について、該抗体を用いた免疫組織染色を行うことができる。染色された部位は、KDR/Flk−1が活性化していることを示すため、染色部位を観察することにより新生血管を検出するよりも早い時期に、血管新生の初期の段階またはこれから血管新生がおこる部位を検出することができる。免疫組織染色は、Antibodies:A Laboratory Manual等の実験書に記載する方法で行うことができる。
(4)VEGF−KDR/Flk−1の系での情報伝達を阻害するか否かの判定方法
被験物質が実際に、動物個体においてVEGF−KDR/Flk−1の系の情報伝達の阻害効果があるかどうかを判定するには、非ヒト動物、例えばマウスに腫瘍を移植し、被験物質を投与した場合と非投与の場合で、移植した腫瘍の成長や腫瘍周辺の血管新生を観察し、比較する方法が用いられてきたため、効果を判定するまでに数週間を要した。
本発明は、本発明の抗体が、情報伝達を行っているKDR/Flk−1のみを検出できることを利用し、以下の方法で短期間に被験物質がVEGFの阻害効果を有するか否かを判定することができる。被験物質としては、上記スクリーニング方法で例示された物質があげられる。
被験物質を投与したマウスおよび未投与マウス(コントロール)について、被験物質を投与した1〜2日後にそれぞれ血管内皮を採取し、1175位チロシンリン酸化特異的抗KDR抗体による免疫組織染色を行う。該抗体による染色量は、リン酸化したKDR/Flk−1の量を示す。したがって、被験物質を投与したマウス血管内皮の染色量が未投与マウス血管内皮の染色量と比較して減少していれば、動物個体においてVEGF−KDR/Flk−1の系の情報伝達が阻害されていると判定することができる。
以下に実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
発明を実施するための最良の形態
実施例1 1175位チロシンのリン酸化を検出できる抗体
(1)KDR/Flk−1の1175位のチロシンのリン酸化を特異的に検出できる抗体の作製
配列番号1に示す配列(ヒトKDR/Flk−1のアミノ酸配列の1171〜1180番めの配列のN末端にシステインを付加した配列で、1175位に相当するチロシンがリン酸化されている配列)のペプチドPY1175を化学合成した。このペプチドPY1175をシステインを利用してKLHとのコンジュゲートにしたものを抗原として、ウサギを免疫することにより抗血清を得た。ハイトラップNHS活性化カラム(HiTrap NHS−activated column、アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)にペプチドPY1175を固定化し、PY1175アフィニティーカラムを作製し、得られた抗血清を通すことによりPY1175と結合する抗体を精製した。さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列(PY1175と同じアミノ酸配列だが、チロシンがリン酸化されていない配列)を有するペプチドY1175を化学合成し、ハイトラップNHS活性化カラムに固定化してY1175アフィニティーカラムを作製し、上記のPY1175アフィニティーカラムにより精製した抗体を通すことにより、リン酸化チロシン以外の部分をエピトープとする抗体をY1175アフィニティーカラムに結合させて除き、KDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに特異的な抗体(抗PY1175抗体)だけを精製した。なお、マウスKDR/Flk−1(GenBankアクセス番号X59397)にはPY1175の2〜10番めと同じ配列(Asp Gly Lys Asp Tyr Ile Val Leu Pro)が1169〜1179番めに存在するので、上記のようにして調製した抗PY1175抗体は、ヒトKDR/Flk−1だけでなくリン酸化したマウスKDR/Flk−1も認識できると考えられる。
(2)抗PY1175抗体の特異性
マウスの内皮細胞系の細胞株であるMSS31細胞[Yanai N et al.,Cell Struct.Funct.,16,87(1991)]は、上記文献の培養条件で培養した。この細胞に天然型KDR/Flk−1、1175位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY1175F、1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY1214F、801位のチロシンをフェニルアラニンに置換したY801Fの各変異型KDR/Flk−1発現アデノウイルスベクター(参考例1参照)を37℃で1時間感染させた。それぞれの細胞を感染後2日間培養した後、培地を0.1%FCSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に交換して12時間培養し、10ng/ml VEGF[Cohen T et al.,Growth Fact.,7,131(1992)の記載に従って、VEGF発現昆虫細胞Sf−9の培養上清からヘパリンカラムクロマトグラフィーにより精製した組換えヒトVEGF]を添加して37℃で5分間培養した。この細胞と、コントロールのVEGFを添加しなかった細胞について、細胞溶解用緩衝液[50mmol/l HEPES(pH7.4)、150mmol/l NaCl、10%グリセロール、1%トリトンX−100、5mmol/l EDTA、2%アプロチニン、1mmol/l PMSF、50mmol/l NaF、10mmol/lピロリン酸ナトリウム、2mmol/lバナジン酸ナトリウム]を用いて細胞抽出液を調製した。それぞれの細胞抽出液について抗PY1175抗体を用いてイムノブロットを行った。以降のイムノブロットは、文献[Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)]の方法で行った。また、同時に抗KDR/Flk−1抗体[化学合成した配列番号6に示す配列のペプチド(ヒトKDR/Flk−1のアミノ酸配列の947〜966番目に相当する)を抗原として、ウサギを免疫して作製したポリクローナルな抗血清]および抗リン酸化チロシン抗体[ICNバイオケミカルズ(ICN Biochemicals)社製]を用いたイムノブロットを行い、KDR/Flk−1(リン酸化の有無にかかわらない)、自己リン酸化したKDR/Flk−1を含むリン酸化蛋白質をそれぞれ検出した。その結果を第1A図に示したが、1175位がフェニルアラニンのためリン酸化できないY1175FはVEGF添加細胞でも検出されないのに対し、Y1175F以外の各KDR/Flk−1は、VEGFを添加した細胞のみに抗PY1175抗体でバンドが検出され、内皮細胞の細胞内でもVEGFに依存して1175位チロシンがリン酸化を受けることが見出された。なお、抗PY1175抗体では、VEGFを添加した細胞でのみバンドが検出できたことから、抗PY1175抗体はKDR/Flk−1の1175位チロシンの自己リン酸化を特異的に検出できることが確認された。
また、他のチロシンキナーゼ型受容体であるbFGF受容体、PDGF受容体、VEGF受容体Flt−1、PDGF受容体、EGF受容体を発現している細胞として、KDR/Flk−1を恒常的に発現させたNIH3T3細胞であるNIH3T3−KDR[天然型KDR/Flk−1の他に内在性のbFGF受容体およびPDGF受容体を発現、Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]、Flt−1を恒常的に発現させたNIH3T3細胞であるNIH3T3−Flt−1[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]、HeLa細胞(内在性EGF受容体を発現、ATCC番号CCL−2)を培養した。培養は、NIH3T3−KDRおよびNIH3T3−Flt−1は、10%FCS、2mmol/l L−グルタミン、40μg/mlカナマイシン、200μg/ml G418を添加したDMEMで、HeLa細胞は10%FCS、2mmol/l L−グルタミン、40μg/mlカナマイシンを添加したDMEMを用いて行った。培地の血清濃度を0.1%に低下させて6〜7時間培養後、それぞれのリガンドであるVEGF、ヒトbFGF[オンコジーン・サイエンス社製(Oncogene Science Inc.)]、PDGF B/B[ロシュ(Roche)社製]、EGF(東洋紡社製)で刺激した細胞と刺激しない細胞の各細胞抽出液について、抗PY1175抗体および抗KDR/Flk−1抗体、抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行った。その結果を第1B図に示したが、抗リン酸化チロシン抗体では、全てのチロシンキナーゼ受容体のリガンド依存的な自己リン酸化が検出されたのに対し、抗PY1175抗体ではNIH3T3−KDRをVEGFで刺激した場合にのみバンドが検出された。したがって、全てのリン酸化受容体を検出できる抗リン酸化チロシン抗体と異なり、抗PY1175抗体は、1175位のチロシンがリン酸化されたKDR/Flk−1を特異的に認識することが確認された。
実施例2 抗PY1175抗体を用いたイムノブロットによる内在性自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
内在性KDR/Flk−1を発現しているヒト臍帯静脈内皮細胞(森永生化学研究所社製)を5%FCSおよび各種増殖因子を添加した完全培地(日水製薬社製)またはヒューメディア−EG2培地(HuMedia−EG2、倉敷紡績社製)で培養した。また、同様に内在性KDR/Flk−1を発現しているラット洞様血管内皮細胞をラット肝臓から文献[Yamane A et al.,Oncogene 9,2683(1994)]に記載の方法で単離し、10ng/ml VEGFを含むヒューメディア−EG2培地で培養した。これらの細胞について、培地を0.1%FCSを含むDMEMに交換して6〜7時間培養後、VEGF、bFGF、HGF[R アンドD・システムズ社(R & D Systems Inc.)製]を添加して刺激した。VEGF等で刺激した細胞とコントロールの刺激しなかった細胞について細胞抽出液を調製し、抗PY1175抗体、抗KDR/Flk−1抗体、抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットを行った。その結果を第1C図に示したが、抗PY1175抗体ではヒト臍帯静脈血管内皮細胞およびラット洞様血管内皮細胞の両者とも、VEGFで刺激した場合にのみ、230kDaの1175位チロシンリン酸化KDR/Flk−1のバンドが検出された。したがって、血管内皮細胞の内在性のKDR/Flk−1についても、VEGF依存的に1175位チロシンが自己リン酸化を受けることが確認された。
実施例3 抗PY1175抗体を用いた免疫組織染色による自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
ヒト臍帯静脈内皮細胞を培養し、培地を0.1%FCSを含むDMEMに交換して6〜7時間培養後、10ng/ml VEGFあるい50ng/ml bFGFで刺激した。コントロールの刺激をしなかった細胞、VEGF刺激後5分後の細胞、VEGF刺激後30分後の細胞、bFGF刺激後5分後の細胞をそれぞれアセトン/メタノールで2分間処理することにより固定した。固定した細胞を1%ヤギ血清を含むPBSで30分間ブロッキングした後、抗PY1175抗体を用いて免疫組織染色を行った。検出は1/100に希釈したFITC標識抗ウサギIgG抗体[カッペル(Cappel)社製]で30分間処理後、蛍光顕微鏡観察により行った。その結果、VEGFで刺激後5分後の細胞でのみ細胞膜および細胞質にKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化が検出されたが、VEGF刺激後30分後の細胞ではもはや1175位チロシンのリン酸化は検出されなかった。したがってVEGFの刺激によりすぐに1175位チロシンのリン酸化がおこるが、このリン酸化は一過的なものであることがわかった。刺激をしなかった細胞、bFGFで刺激をした細胞では染色はみられず、この1175位チロシンのリン酸化はVEGF刺激特異的であった。またVEGFで刺激後5分後の細胞の免疫組織染色時に1μg/mlのペプチドPY1175を共存させた場合は、染色が阻害された。このように抗PY1175抗体はイムノブロットだけでなく、免疫組織染色によるKDR/Flk−1の1175位チロシンリン酸化の検出にも有用であった。
実施例4 抗PY1175抗体によるPLC−γとKDR/Flk−1の結合の阻害
(1)細胞内でのKDR/Flk−1とPLC−γの結合
実施例1(2)と同様にしてアデノウイルスベクターを用いてMSS31細胞に天然型KDR/Flk−1またはY1175Fを発現させ、10ng/ml VEGFで刺激した。この細胞およびコントロールのVEGF刺激をしなかった細胞の細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1抗体を用いて免疫沈降を文献[Takahashi T & Shibuya M,Oncogene,14,2079(1997)]に記載の方法で行った。免疫沈降物について抗PLC−γ抗体[アップステート・バイオテクノロジー社(Upstate Biotechnology Inc.)製]を用いたイムノブロットを行った。その結果を第2図に示したが、天然型KDR/Flk−1発現細胞では、VEGFで刺激した場合にのみ免疫沈降物からPLC−γが検出され、VEGFの刺激によりKDR/Flk−1にPLC−γが結合することが確認された。一方、Y1175F発現細胞では、VEGF刺激した場合でもPLC−γは検出されず、Y1175FにはPLC−γは結合しないことがわかった。したがって、1175位チロシンのリン酸化がPLC−γの結合に必須であることがわかった。
(2)in vitroでのKDR/Flk−1とPLC−γのSH2ドメインとの結合
実施例1(2)と同様にして、10ng/mlのVEGFで刺激したNIH3T3−KDRとコントロールのVEGFで刺激しなかった細胞から細胞抽出液を調製した。1.5μgのGST、GSTとPLC−γのSH2ドメイン(2個)の融合蛋白質(GST−PLC−γ SH2−SH2)、GSTとPLC−γのN末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PLC−γ N−SH2)、GSTとPLC−γのC末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PLC−γ C−SH2)[以上全てサンタ・クルズ・バイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotecnology Inc.)製]を、それぞれグルタチオン−セファロース4B・ビーズ(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に固定化し、細胞抽出液に添加して、4℃で2時間反応させた。ビーズを冷却した細胞抽出用緩衝液で3回洗浄後、SDSサンプルバッファー中で加熱することにより、ビーズに結合した蛋白質を溶解させ、SDS−PAGEを行った。抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットによりそれぞれの添加した蛋白質に結合したKDR/Flk−1を検出した。その結果を第3図に示したが、GST−PLC−γ SH2−SH2およびGST−PLC−γ C−SH2では、VEGFで刺激した細胞でKDR/Flk−1が検出されたのに対し、GST−PLC−γ N−SH2ではKDR/Flk−1が検出されなかった。したがって、PLC−γの2つのSH2ドメインのうちC末端側のSH2ドメインが自己リン酸化したKDR/Flk−1と結合していることがわかった。
上記と同じ実験をGST、GST−PLC−γ C−SH2、GSTとGrb2のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−Grb2 SH2)、GSTとPI3キナーゼのN末端側のSH2ドメインの融合蛋白質(GST−PI3K N−SH2)(以上全てサンタ・クルズバイオテクノロジー社製)を用いて行ったところ、第4図に示すようにGST−PLC−γ C−SH2のみ、VEGFで刺激した細胞でKDR/Flk−1が検出され、GST−Grb2 SH2、GST−PI3K N−SH2ではKDR/Flk−1は検出されなかった。したがって自己リン酸化したKDR/Flk−1はPLC−γのSH2ドメインとは結合するが、Grb2やPI3キナーゼのSH2ドメインとは結合しないことが確認された。
(3)抗PY1175抗体によるKDR/Flk−1とPLC−γの結合の阻害
(2)と同様の実験をGST−PLC−γ C−SH2を固定化したビーズと細胞抽出液の反応時に抗PY1175抗体、PY1175ペプチドを共存させて行った。その結果、VEGF刺激した細胞でもKDR/Flk−1が検出されず抗PY1175抗体、PY1175ペプチドにより自己リン酸化したKDR/Flk−1とPLC−γの結合が阻害された。一方、コントロールのウサギIgGあるいはY1175ペプチドを共存させた場合は、阻害はみられなかった(第5A図、第5B図)。したがって、PLC−γのC末端側のSH2ドメインがKDR/Flk−1の自己リン酸化した1175位のチロシンと直接結合していることが強く示唆された。
実施例5 抗PY1175抗体による細胞増殖シグナルの抑制
まず初代培養したラット洞様血管内皮細胞をコラーゲンでコートしたスライドグラス上にのせ、チミジンを除いたDMEMにヒューメディア−EG2調製用増殖添加剤(倉敷紡績社製)およびVEGFを添加した培地で2日間培養後、VEGF非添加の同じ培地で6〜7時間培養した。細胞に50ng/ml VEGFを添加して刺激すると同時に、100μmol/l 5−ブロモデオキシウリジン(BrdU、シグマ・アルドリッチ社製)を添加して20時間培養し、新たに合成されたDNAに取り込ませた。コントロールとしてVEGFを添加しなかった細胞についても同様の処理を行った。次いでそれぞれの細胞を3.7%のホルムアルデヒドを含むPBSで固定化し、メタノールで10分間、2mol/l塩酸で10分間処理することにより、細胞の透過性を上げた。この細胞を1%のヤギ血清を含むPBSで1/200希釈した抗BrdU抗体(宝酒造社製)と60分間反応させ免疫組織染色を行うことにより、BrdUが取り込まれた細胞を検出した。その結果第6図に示すように、VEGFで刺激しなかった細胞ではBrdUの取り込みがほとんど観察されなかったのに対し、VEGFを添加した場合には、BrdUが取り込まれた細胞が多数観察され、ラット洞様血管内皮細胞における細胞増殖のシグナルはVEGFの刺激に非常に依存していることが確認された。
そこで同様にスライドグラス上で培養したラット洞様血管内皮細胞について、VEGF非添加の培地で6〜7時間培養した後にVEGFで刺激する前にこの細胞の細胞質に自動マイクロインジェクター5246[エッペンドルフ(Eppendorf)社製]およびマイクロマニュピレーター5171(エッペンドルフ社製)を用いて抗PY1175抗体あるいはコントロールのウサギIgGを注入した。注入の1〜3時間後に細胞に上記と同様に50ng/ml VEGFおよび100μmol/l BrdUを添加して20時間培養し、新たに合成されたDNAに取り込ませた。上記と同様にして細胞を固定化およびメタノールおよび塩酸で処理し、1/200希釈抗BrdU抗体(宝酒造社製)と60分間反応させた後、1/200希釈したFITC標識抗マウスIgG(抗BrdU抗体と反応、カッペル社製)および1/100希釈したRITC標識抗ウサギIgG(抗PY1175抗体、ウサギIgGと反応、カッペル社製)の混合物と30分間反応させ免疫組織染色を行うことにより、BrdUが取り込まれた細胞および抗体(抗PY1175またはウサギIgG)が注入された細胞を検出した。その結果第6図に示すようにウサギIgGを注入した細胞では、VEGFの刺激により半数以上の細胞にBrdUが取り込まれ、VEGFの刺激により細胞の増殖シグナルが伝わりDNAの合成が行われたことが示された。一方、抗PY1175抗体を注入した細胞では1/4程度の細胞にしかBrdUが取り込まれておらず、VEGF刺激による細胞の増殖のシグナルが阻害されたことが示された。
実施例6 KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を特異的に検出できるモノクローナル抗体の作製
実施例1で取得したPY1175に特異的な抗体は、KDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに対するポリクローナル抗体を、Y1175アフィニティーカラムに通塔させることにより得ることができるが、ポリクローナル抗体の中からPY1175のみに反応する抗体を得るためには、大量なポリクローナル抗体が必要となる。そこで、PY1175に特異的なモノクローナル抗体を作製することとした。
(1)免疫原の調製
配列番号1記載のアミノ酸配列で表されるペプチドPY1175は、免疫原性を高める目的で以下の方法で調製した。
まず、KLH(カルビオケム社製)をPBSに溶解して10mg/mlに調製し、1/10容量の25mg/ml MBS[N−(m−Maleimidobenzoyloxy)succinimide;ナカライテスク社製]を滴下して30分間撹拌反応させた。あらかじめPBSで平衡化したセファデックスG−25カラムなどのゲルろ過カラムでフリーのMBSを除いて得られたKLH−MBS2.5mgを0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に溶解した1mgのペプチドPY1175と混合し、室温で3時間、攪拌反応させた。反応後、PBSで透析したものを免疫原として用いた。
(2)動物の免疫と抗体産生細胞の調整
実施例6(1)で調製した化合物PY1175のKLHコンジュゲート50μgを水酸化アルミニウムアジュバント(Antibodies:A Laboratory Manual,p99)2mgおよび百日咳ワクチン(千葉県血清研究所製)1×109細胞とともに4週令雌SDラット3匹に投与した。投与2週間後より、KLHコンジュゲート50μgを1週間に1回、計4回投与した。該ラットの心臓より部分採血し、その血清抗体価を以下に示す酵素免疫測定法で調べ、十分な抗体価を示したラットから最終免疫3日後に脾臓を摘出した。
脾臓をMEM(Minimum Essential Medium)培地(日水製薬社製)中で細断し、ピンセットでほぐし、遠心分離(250×g、5分間)した。得られた沈殿画分にトリス−塩化アンモニウム緩衝液(pH7.6)を添加し、1〜2分間処理することにより赤血球を除去した。得られた沈殿画分(細胞画分)をMEM培地で3回洗浄し、細胞融合に用いた。
(3)酵素免疫測定法(バインディングELISA)
アッセイ用の抗原には実施例1(1)で得られたPY1175およびY1175をサイログロブリン(以下、THYと略す)とそれぞれコンジュゲート(PY1175−THYおよびY1175−THYと称す)したものを用いた。作製方法は実施例6(1)に記した通りであるが、架橋剤にはMBSの代わりにSMCC[4−(N−Maleimidomethyl)−cyclohexane−1−carboxylic acid N−hydroxysuccinimido ester;シグマ社製]を用いた。96穴のEIA用プレート(グライナー社製)に、上記のように調製したPY1175−THYまたはY1175−THYを5μg/ml、50μl/穴でそれぞれ分注し、4度で一晩放置して吸着させた。該プレートを洗浄後、1%牛血清アルブミン(BSA)/ダルベッコりん酸バッファー(Phosphate buffered saline:PBS)を100μl/穴加え、室温で1時間放置し、残っている活性基をブロックした。
放置後、1%BSA/PBSを捨て、該プレートに一次抗体として被免疫ラット抗血清またはハイブリドーマ培養上清を50μl/穴分注し、2時間放置した。該プレートを0.05%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート[(ICI社商標Tween 20相当品:和光純薬社製)]/PBS(以下Tween−PBSと表記)で洗浄後、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを50μl/穴加えて室温、1時間放置した。該プレートをTween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[1mmol/l ABTSを0.1mol/lクエン酸バッファーに溶解(pH4.2)]を添加し、発色させOD415nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;Molecular Devices社製)を用いて測定した。
(4)マウス骨髄腫細胞の調製
8−アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株P3X63Ag8U.1(P3−U1:ATCCより購入)を正常培地(10%ウシ胎児血清添加RPMI培地)で培養し、細胞融合時に2×107個以上の細胞を確保し、細胞融合に親株として供した。
(5)ハイブリドーマの作製
実施例6(2)で得られたラット脾細胞と実施例6(4)で得られた骨髄腫細胞とを10:1になるよう混合し、遠心分離(250×g、5分間)した。得られた沈澱画分の細胞群をよくほぐした後、攪拌しながら、37℃で、ポリエチレングリコール−1000(PEG−1000)1g、MEM培地1mlおよびジメチルスルホキシド0.35mlの混液を108個のマウス脾細胞あたり0.5ml加え、該懸濁液に1〜2分間毎にMEM培地1mlを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mlになるようにした。
該懸濁液を遠心分離(900rpm、5分間)し、得られた沈澱画分の細胞をゆるやかにほぐした後、該細胞を、メスピペットによる吸込み吸出しでゆるやかにHAT培地[10%ウシ胎児血清添加RPMI培地にHAT Media Supplement(インビトロジェン社製)を加えた培地]100ml中に懸濁した。該懸濁液を96穴培養用プレートに200μl/穴ずつ分注し、5%CO2インキュベーター中、37℃で10〜14日間培養した。
培養後、培養上清を実施例6(3)に記載した酵素免疫測定法で調べ、ペプチドPY1175に反応してペプチドY1175に反応しない穴を選択した。しかしながら、大部分の細胞培養上清はPY1175およびY1175のいずれにも反応していた。そのため、上記工程を繰り返し、PY1175に反応してY1175に反応しない穴を選択し、そこに含まれる細胞から限界希釈法によるクローニングを2回繰り返し、抗PY1175モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマKM3035およびKM3036を確立した。ハイブリドーマKM3035は、平成13年9月13日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)にFERM BP−7729として寄託されている。
(6)モノクローナル抗体の精製
プリスタン処理した8週令ヌード雌マウス(BALB/c)に実施例6(5)で得られたハイブリドーマ株を5〜20×106細胞/匹それぞれ腹腔内注射した。10〜21日後、ハイブリドーマが腹水癌化することにより腹水のたまったマウスから、腹水を採取(1〜8ml/匹)した。
該腹水を遠心分離(1200×g、5分間)し、固形分を除去した。
精製IgGモノクローナル抗体は、カプリル酸沈殿法(Antibodies:A Laboratory Manual)により精製することにより取得した。モノクローナル抗体のサブクラスはサブクラスタイピングキットを用いたELISA法により決定した。モノクローナル抗体KM3035およびモノクローナル抗体KM3036のサブクラスは共にIgG2aであった。
実施例7 モノクローナル抗体の反応性の検討
(1)抗原固相系における抗原化合物との反応性(バインディングELISA)
実施例6で得られたモノクローナル抗体の抗原ペプチドとの反応性は、実施例6(3)に示した方法に準じて調べた。PY1175−THYまたはY1175−THYをそれぞれ吸着させたプレートに、1次抗体として実施例6(5)で得られたハイブリドーマKM3035およびKM3036の生産したモノクローナル抗体を含んだ培養上清、該上清を51、52、53および54倍希釈した希釈液を反応させ、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを反応させた。結果を第7図に示す。ハイブリドーマKM3035およびKM3036が生産したモノクローナル抗体はいずれも、ペプチドPY1175にのみ反応し、ペプチドY1175には全く反応しなかった。
(2)抗原液相系における抗原化合物に対する反応性(インヒビションELISA)
実施例6(3)に示した方法に準じてPY1175−THYを固相化したプレートを作製し、20μg/mlより5倍希釈で段階的に希釈したペプチドPY1175およびペプチドY1755を50μl/穴でそれぞれ分注後、ハイブリドーマKM3035またはKM3036の生産したモノクローナル抗体を含む培養上清をそれぞれ希釈して(希釈倍率;KM3035:×120、KM3036:×1000)50μl/穴で分注し、室温で2時間反応させた。ウェルをTween−PBSで洗浄後、希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリン(ダコ社製)を50μl/穴で加えて室温、1時間反応させ、Tween−PBSで洗浄後ABTS基質液を用いて発色させOD415nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;和光純薬社製)にて測定した。
第8図に示すように、ハイブリドーマKM3035およびKM3036が生産したモノクローナル抗体はいずれも液相系においてペプチドPY1175にのみに反応した。
実施例8 モノクローナル抗体KM3035を用いたイムノブロットによる自己リン酸化KDR/Flk−1の検出
実施例1(2)と同様にして、10ng/mlのVEGFで刺激したNIH3T3−KDRおよびコントロールのVEGF未刺激細胞から細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った。
第9図に示すように、KDR/Flk−1の947〜966番目のアミノ酸配列からなるペプチドをウサギに免疫して得られたウサギポリクローナル抗体ではVEGF刺激、無刺激に関係なく230kDaのKDR/Flk−1のバンドが検出された。
一方、モノクローナル抗体KM3035ではVEGFで刺激した場合にのみ、230kDaのリン酸化KDR/Flk−1のバンドが検出された。したがって、KM3035はKDR/Flk−1の1175位チロシンの自己リン酸化を特異的に検出できることが確認された。
参考例1 変異型KDR/Flk−1発現アデノウイルスベクターの作製
変異型のKDR/Flk−1であるY1175F(1175位のチロシンをフェニルアラニンに置換)、Y1214F(1214位のチロシンをフェニルアラニンに置換)、Y801F(801位のチロシンをフェニルアラニンに置換)を発現するアデノウイルスベクターを以下のように作製した。
Y1175FをコードするDNAは配列番号3で表される塩基配列を有するプライマー用いて、天然型のKDR/Flk−1 cDNA[Sawano A et al.,Cell Growth Differ.,7,213(1996)]を鋳型にしてPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのApaI/PstIサイト間に挿入することにより作製した。Y1214FをコードするDNAは配列番号4で表される塩基配列のプライマーを用いて同様にPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのApaI/PstIサイト間に挿入することにより作製した。また、Y801FをコードするDNAは配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーを用いて同様にPCRを行うことにより変異を導入した断片を、KDR/Flk−1 cDNAのSphI/BamHIサイト間に挿入することにより作製した。これらの変異型KDR/Flk−1をコードするDNAは、塩基配列を決定して変異が導入されていることを確認した。これらの変異型KDR/Flk−1をコードするDNAについてアデノウイルス発現ベクターキット(宝酒造社製)を用いることにより、それぞれのKDR/Flk−1発現アデノウイルスベクター(組換えアデノウイルス)を作製した。
産業上の利用可能性
本発明により、KDR/Flk−1の細胞内情報伝達を遮断し、VEGFによる細胞増殖を阻害する物質が提供される。さらに、該物質を用いたKDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法、細胞増殖を阻害する方法、血管新生を阻害する方法、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法、血管新生阻害剤のスクリーニング法、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法、組織での血管新生を検出する方法、およびKDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法が提供される。
配列フリーテキスト
配列番号1−人工配列の説明:合成アミノ酸
配列番号2−人工配列の説明:合成アミノ酸
配列番号3−人工配列の説明:合成DNA
配列番号4−人工配列の説明:合成DNA
配列番号5−人工配列の説明:合成DNA
【配列表】
【図面の簡単な説明】
第1図はKDR/Flk−1の1175位のリン酸化チロシンに特異的な抗体(以下、抗PY1175抗体とする)を用いたイムノブロットによる、種々の細胞内の1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1の検出を示す図である。第1A図は左から天然型KDR/Flk−1(Wt)、Y1175F、Y1214F、Y801Fの各変異型KDR/Flk−1を発現させた細胞株MSS31の細胞抽出液のイムノブロットを示す。各レーンの−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の結果である。第1B図は左からNIH3T3−KDR、NIH3T3−Flt−1、HeLaの各細胞の細胞抽出液のイムノブロットを示す。−は刺激しなかった細胞、VEGF、bFGF、PDGF、EGFはそれぞれで刺激した細胞の結果である。第1C図は左からヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびラット洞様血管内皮細胞(ratSEC)の細胞抽出液のイムノブロットを示す。−は刺激しなかった細胞、VEGF、bFGF、HGFはそれぞれで刺激した細胞の結果である。第1A〜C図ともに上段は抗PY1175抗体を用いたイムノブロット、中段は抗リン酸化チロシン抗体(抗PY抗体)を用いたイムノブロット、下段は抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。矢印は上段および中段は自己リン酸化したKDR/Flk−1(pKDR/Flk−1)のバンドの位置を示し、下段はKDR/Flk−1(自己リン酸化しているもの、していないもの両者を含む)のバンドの位置を示す。
第2図はKDR/Flk−1を発現させたMSS31細胞におけるin vivoでのKDR/Flk−1とPLC−γの結合を示す図である。Wtは天然型KDR/Flk−1、Y1175FはY1175F変異型KDR/Flk−1を発現させた細胞、−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞それぞれの抗KDR/Flk−1抗体による免疫沈降物について、上段は抗PLC−γ抗体、下段は抗KDR/Flk−1抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。矢印は上段はPLC−γ、下段はKDR/Flk−1のバンドの位置を示す。TCLは、MSS31細胞の細胞抽出液(免疫沈降なし)の抗PLC−γ抗体によるイムノブロットの結果を示す。
第3図はPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合を示す図である。GSTあるいはGSTと種々の蛋白質のSH2ドメインの融合蛋白質とNIH3T3−KDRの細胞抽出液を反応させ、グルタチオンアフィニティーカラムにより単離したGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質について、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。左からGST、GST−PLC−γ SH2−SH2、GST−PLC−γ N−SH2、GST−PLC−γ C−SH2を用いた場合である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第4図はPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合を示す図である。GSTあるいはGSTと種々の蛋白質のSH2ドメインの融合蛋白質とNIH3T3−KDRの細胞抽出液を反応させ、グルタチオンアフィニティーカラムにより単離したGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質について、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。左からGST、GST−PLC−γ C−SH2、GST−Grb2 SH2、GST−PI3K N−SH2を用いた場合である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGSTあるいはGSTと各SH2ドメインの融合蛋白質のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第5図は抗PY1175抗体およびPY1175ペプチドによるPLC−γのSH2ドメインとKDR/Flk−1のin vitroでの結合の阻害を示す図である。GST−PLC−γ C−SH2とNIH3T3−KDRの細胞抽出液および抗体/ペプチドを添加して反応させた後にGST−PLC−γ C−SH2を単離したものについての、上段は抗KDR/Flk−1抗体、下段は抗GST抗体を用いたイムノブロットの結果を示す。−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の細胞抽出液を用いた場合である。第5A図は左から、添加なし、ウサギIgG、抗PY1175抗体を添加した場合、第5B図は左から、添加なし、PY1175ペプチド、Y1175ペプチドを添加した場合の結果である。矢印は上段はKDR/Flk−1、下段はGST−PLC−γ C−SH2のバンドの位置を示す。TCLは、NIH3T3−KDRの細胞抽出液のみ(アフィニティーカラムなし)のイムノブロットの結果を示す。
第6図は抗PY1175抗体を注入したラット洞様血管内皮細胞におけるVEGFによる細胞増殖シグナルの阻害を示す図である。左から抗体の注入なし(VEGF刺激なし)、抗体の注入なし(VEGF刺激)、ウサギIgG注入(VEGF刺激)、抗PY1175抗体注入(VEGF刺激)の場合の、BrdUを取り込んだ細胞の割合(%)を示すグラフである。
第7図はPY1175−THYまたはY1175−THYをそれぞれ吸着させたプレートに、1次抗体として得られたハイブリドーマKM3035およびKM3036の生産したモノクローナル抗体を含んだ培養上清、該上清の希釈液を反応させ、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを反応させた結果を示すグラフである。
第8図は、PY1175−THYを固相化したプレートを作製し、段階的に希釈したペプチドPY1175およびペプチドY1175をそれぞれ分注後、実施例1で得られたKDR/Flk−1の947〜966位の合成ペプチドを免疫して得られたウサギポリクローナル抗体またはハイブリドーマKM3035の生産したモノクローナル抗体を含む培養上清をそれぞれ希釈してで分注して反応させ、希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリンを加えて反応させた後に、ABTS[2.2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾール−6−スルホン酸)アンモニウム]基質液を用いて発色させた結果を示すグラフである。
第9図は、VEGFで刺激したNIH3T3−KDRおよびコントロールのVEGF未刺激細胞から細胞抽出液を調製し、抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った結果を示す図である。第9A図は抗KDR/Flk−1モノクローナル抗体を用いた結果で、第9B図は抗PY1175モノクローナル抗体を用いた結果である。各レーンの−はVEGFで刺激しなかった細胞、+はVEGFで刺激した細胞の結果である。
Claims (38)
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、細胞増殖阻害剤のスクリーニング法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、血管新生阻害剤のスクリーニング法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する物質のスクリーニング法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質のスクリーニング法。
- 情報伝達分子がホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)である、請求の範囲1〜9のいずれかに記載の方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、請求の範囲1〜9のいずれかに記載の方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつPLC−γのリン酸化を阻害する抗体である、請求の範囲11記載の方法。
- 抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、請求の範囲11または12記載の方法。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、KDR/Flk−1の情報伝達を阻害する方法。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、細胞増殖を阻害する方法。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、血管新生を阻害する方法。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、被験物質がKDR/Flk−1の情報伝達を阻害するか否かを判定する方法。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を用いる、組織での血管新生を検出する方法。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質を有効成分として含有する薬剤。
- 薬剤が、チロシンリン酸化阻害剤である請求の範囲19に記載の薬剤。
- 薬剤が、細胞増殖阻害剤である請求の範囲19に記載の薬剤。
- 薬剤が、血管新生阻害剤である請求の範囲19に記載の薬剤。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害する物質が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体である、請求の範囲19〜22のいずれかに記載の薬剤。
- 抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を特異的に認識する抗体が、1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害する抗体である、請求の範囲23に記載の薬剤。
- 抗体がモノクローナル抗体またはその抗体断片である、請求の範囲23または24に記載の薬剤。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有するKDR/Flk−1のチロシンリン酸化阻害剤。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する細胞増殖阻害剤。
- KDR/Flk−1の1175位チロシンのリン酸化を阻害する物質を有効成分として含有する血管新生阻害剤。
- 請求の範囲4〜6および9のいずれかに記載の方法により得られる化合物。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1を認識するモノクローナル抗体またはその抗体断片。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつリン酸化したKDR/Flk−1に対する情報伝達分子の結合を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、請求の範囲30記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
- 1175位チロシンがリン酸化したKDR/Flk−1に結合し、かつホスホリパーゼC−γ(PLC−γ)のリン酸化を阻害するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、請求の範囲30または31記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
- ハイブリドーマKM3035(FERM BP−7729)が生産するモノクローナル抗体またはその抗体断片である、請求の範囲30〜32記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片。
- 抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、1本鎖抗体(scFv)、2量体化可変領域(V領域)断片(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)および相補性決定領域(CDR)を含むペプチドから選ばれる抗体断片である請求の範囲30〜33のいずれか1項に記載の抗体断片。
- 請求の範囲30〜34のいずれか1項に記載されたモノクローナル抗体またはその抗体断片が、放射性同位元素、蛋白質または薬剤と化学的または遺伝子工学的に結合しているモノクローナル抗体またはその抗体断片。
- 請求の範囲30〜35のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗体断片をコードするDNA。
- 請求の範囲36記載のDNAを含む組換えベクター。
- 請求の範囲37記載の組換えベクターが宿主細胞に導入された形質転換体。
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