JPH1163176A - 遊星歯車装置の潤滑油供給構造 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 入力軸に被嵌する薄肉筒状部材に油孔を設け
ることなく、入力軸内の給油路に導かれた潤滑油を歯
車、クラッチ装置等変速装置の各構成部品に確実に供給
できるような潤滑油供給構造を提供する。 【解決手段】 第１給油路４１内に供給される潤滑油を
歯車やクラッチ装置などの潤滑部に導くための油溜４４
及び第２給油路４５は充分な強度を有するサンギヤ２１
内に設けられる。この場合、サンギヤはトルク伝達部材
であるため元来充分な強度を有しており、これら油溜や
給油路がスリーブ３などの薄肉部材に設けられた場合と
比較して孔周りの応力集中や肉厚減少に伴う強度低下の
影響を軽減することができる。又、油溜や給油路の加工
も薄肉部材に施す場合と比較して容易であり、コスト面
でも有利である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、遊星歯車装置の潤
滑油供給構造に関する。特に、入力軸内に設けられた給
油路に導かれた潤滑油を歯車、クラッチ装置等の構成部
品へ供給するタイプの潤滑油供給構造に関する。

【０００２】

【従来の技術】遊星歯車装置は、サンギヤ、ピニオンギ
ヤ、キャリヤ及びリングギヤのような要素を組み合わせ
て構成される遊星歯車機構のほか、所定要素を他の要素
と係合させるクラッチ装置や、所定要素をケーシング
（トランスミッションケース）に固定して回転を規制す
るブレーキ装置を有する。このようなクラッチ装置やブ
レーキ装置が係合されるときにはこれらを構成する摩擦
板に摩擦熱が発生するため、歯車のみならず、クラッチ
装置やブレーキ装置には確実に潤滑油を供給する必要が
ある。

【０００３】この歯車等変速装置の各構成部品へ潤滑油
を供給する方法として一般的なのは、変速装置の入力軸
内の給油路に導かれた潤滑油を、給油路から入力軸半径
方向外側に穿設した出口開口から放出する方法である
が、通常入力軸にはスリーブ等の筒状部材が被嵌してい
るので、これら筒状部材にも同様の油孔を設けることに
より潤滑油をその外部に放出できるようにする。従って
これらの油孔は給油路の出口開口位置に合わせて設けら
れるが、油孔の入口側（筒状部材の内径側）に油溜（凹
状溝）を形成することにより、多少の位置ずれは許容で
きるようにしている。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
ようなスリーブ等の筒状部材に油孔や油溜を設ける方法
では、筒状部材が薄肉部材であるときには、設けられた
油孔周りの応力集中や油溜の形成による肉厚の減少に伴
う強度低下等を引き起こし、このため肉厚を厚くすれば
装置重量の増加や装置の小型化が妨げられるという問題
があった。

【０００５】本発明は、このような問題に鑑みてなされ
たものであり、入力軸に被嵌する薄肉筒状部材に油孔を
設けることなく、入力軸内の給油路に導かれた潤滑油を
歯車、クラッチ装置等変速装置の各構成部品に確実に供
給できるような潤滑油供給構造を提供することを目的と
する。

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、本発明に係る遊星歯車装置の潤滑油供給構造は、
入力軸上に回転自在に取り付けられたサンギヤを有して
入力軸上に配設された遊星歯車機構と、この遊星歯車機
構の要素間結合及び要素の固定を行うクラッチ装置及び
ブレーキ装置とを備え、入力軸からの回転駆動力の伝達
を行う遊星歯車装置の潤滑油供給構造において用いられ
る。そして入力軸の内部を軸方向に延びて形成されると
ともに入力軸の外周面におけるサンギヤが取り付けられ
た箇所に出口開口を有する潤滑油の第１給油路と、サン
ギヤの内周部に出口開口を覆って形成された油溜と、サ
ンギヤの内部に、油溜から軸方向に延びて形成され、サ
ンギヤの側面に開口する第２給油路とを備える。

【０００７】

【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態
について図を参照して説明する。図１及び図２は第１の
実施例に関するものであり、図２には本発明に係る潤滑
油供給構造を有した車両用ベルト式無段変速装置におけ
る動力伝達経路構成を示し、図１にはこの潤滑油供給構
造を詳細に示す。このベルト式無段変速装置ＣＶＴは、
入力軸１とカウンター軸２との間に配設された金属Ｖベ
ルト機構１０と、入力軸１とドライブ側可動プーリ１１
との間に配設された遊星歯車式前後進切換機構２０と、
カウンター軸２と出力側部材（ディファレンシャル機構
８等）との間に配設されたメインクラッチ５とから構成
される。又、入力軸１はカップリング機構ＣＰを介して
エンジンＥＮＧの出力軸に繋がり、ディファレンシャル
機構８に伝達された動力は左右の車輪に伝達される。

【０００８】金属Ｖベルト機構１０は、入力軸１上に配
設されたドライブ側可動プーリ１１と、カウンター軸２
上に配設されたドリブン側可動プーリ１６と、両プーリ
１１、１６間に巻掛けられた金属Ｖベルト１５とからな
る。

【０００９】ドライブ側可動プーリ１１は、入力軸１上
に回転自在に配設されたスリーブ３上に固設された固定
プーリ半体１２と、この固定プーリ半体１２に対してス
リーブ３上を軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体１
３とからなる。可動プーリ半体１３の側方には、固定プ
ーリ半体１２に結合されたシリンダ壁１２ａにより囲ま
れてドライブ側シリンダ室１４が形成されており、給油
口４６から入力軸１内に形成された給油路４１を経てド
ライブ側シリンダ室１４内に供給される油圧により、可
動プーリ半体１３を軸方向に移動させる側圧が発生され
る。

【００１０】ドリブン側可動プーリ１６は、カウンター
軸２に固設された固定プーリ半体１７と、この固定プー
リ半体１７に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ
半体１８とからなる。可動プーリ半体１８の側方には、
固定プーリ半体１７に結合されたシリンダ壁１７ａによ
り囲まれてドリブン側シリンダ室１９が形成されてお
り、ドリブン側シリンダ室１９内に供給される油圧によ
り、可動プーリ半体１８を軸方向に移動させる側圧が発
生される。

【００１１】このため、上記両シリンダ室１４、１９へ
の供給油圧を適宜制御することにより、ベルト１５の滑
りを発生することのない適切なプーリ側圧を設定すると
ともに両プーリ１１、１６のプーリ幅を変化させること
ができ、これにより、Ｖベルト１５の巻掛け半径を変化
させて変速比を無段階に変化させることができる。

【００１２】遊星歯車式前後進切換機構２０はダブルピ
ニオンタイプのプラネタリギヤ列を有し、内周を入力軸
１に相対回転自在に支持されたサンギヤ２１は前進クラ
ッチ２６を構成するクラッチアウタ２８に結合され、こ
のクラッチアウタ２８は更にスリーブ３の後端に固設さ
れる。キャリヤ２２は入力軸１に固設されるとともにア
ウタピニオンギヤ２４及びインナピニオンギヤ２５を回
転自在に支承する。又このキャリヤ２２は前進クラッチ
２６を構成するクラッチインナ２９と結合する。リング
ギヤ２３は入力軸１に相対回転自在に内周を支持される
とともに後進ブレーキ２７により固定保持可能である。
又、アウタピニオンギヤ２４とインナピニオンギヤ２５
は互いに噛合し、アウタピニオンギヤ２４はリングギヤ
２３に噛合するとともにインナピニオンギヤ２５はサン
ギヤ２１に噛合する。

【００１３】固定プーリ半体１２は前記スリーブ３に固
設されており、前進クラッチ２６が係合されると全ギヤ
２１、２２、２３が入力軸１と一体に回転し、ドライブ
側プーリ１１は入力軸１と同方向（前進方向）に駆動さ
れる。一方、後進ブレーキ２７が係合されると、リング
ギヤ２３が固定保持されるため、サンギヤ２１は入力軸
１と一体となって回転するキャリヤ２２とは逆の方向に
駆動され、ドライブ側プーリ１１は入力軸１とは逆方向
（後進方向）に駆動される。

【００１４】メインクラッチ５は、カウンター軸２と出
力側部材との間の動力伝達を制御するクラッチであり、
係合時には両者間での動力伝達が可能となるとともに、
係合力を制御することにより入力側と出力側との間のト
ルクの伝達容量（トルク容量）も制御できる。このた
め、メインクラッチ５が係合のときには、金属Ｖベルト
機構１０により変速されたエンジン出力がギヤ６ａ、６
ｂ、７ａ、７ｂを介してディファレンシャル機構８に伝
達され、このディファレンシャル機構８により左右の車
輪（図示せず）に分割されて伝達される。又、メインク
ラッチ５が解放（トルク容量が零）のときには、この動
力伝達が行えず、変速装置は中立状態となる。

【００１５】前進側レンジのときには、前進クラッチ２
６が完全係合されるとともに後進ブレーキ２７が完全解
放される。前進クラッチ２６の係合により、サンギヤ２
１とキャリヤ２２とが一体に結合されるため、前後進切
換機構２０を構成するプラネタリギヤ列全体が一体回転
し、これにより車両は前方へ走行することができる。

【００１６】後進側レンジのときには、前進クラッチ２
６が完全解放され、且つメインクラッチ５が完全係合さ
れ、その上で後進ブレーキ２７の係合が行われると、車
両は後方へ走行することができる。

【００１７】図１に示すように、前進クラッチ２６を構
成するクラッチアウタ２８及びクラッチインナ２９間に
は複数の摩擦板３２が配設され、クラッチアウタ２８の
内部に配設されてこの摩擦板３２を押圧可能なクラッチ
ピストン３１と、クラッチピストン３１を押し戻すスプ
リング３４とを備える。後進ブレーキ２７は、リングギ
ヤ２３の外周とケーシング３０との間に配設された複数
枚の摩擦板３５と、ケーシング３０に摺動自在に支持さ
れてこの摩擦板３５を押圧可能なブレーキピストン３６
とを備える。

【００１８】クラッチアウタ２８及びクラッチピストン
３１間には油室３３が形成されており、ここに給油口４
７から入力軸１内に形成された給油路４２及び出口開口
４２ａを経て作動油を供給すると、クラッチピストン３
１は右方に駆動されて摩擦板３２が相互に密着し、クラ
ッチアウタ２８とクラッチインナ２９は係合される。
又、ブレーキピストン３６とケーシング３０との間に形
成される油室３７に作動油が供給されると、ブレーキピ
ストン３６が右方に駆動されて摩擦板３５が相互に密着
し、リングギヤ２３とケーシング３０が係合される。

【００１９】入力軸１のスリーブ３後端付近には、給油
口４８から入力軸１内に形成された給油路４３（特許請
求の範囲の第１給油路に相当）を経て供給される潤滑油
の出口開口４３ａが設けられ、この出口開口４３ａを覆
うようにサンギヤ２１の内周部に油溜４４が形成され
る。この油溜４４はサンギヤ２１の内周に沿って一条の
凹条溝となるように設けられる。更にサンギヤ２１の内
部には、この油溜４４から軸方向に延びてサンギヤ２１
の側面（図１に示すサンギヤ２１左端）に開口する給油
路４５（特許請求の範囲の第２給油路に相当）が形成さ
れる。

【００２０】上記構造により、給油路４３より出口開口
４３ａを通った潤滑油は、スリーブ３の後端と入力軸１
に形成されたリング状の凸状部１ａとの間隙を抜けてサ
ンギヤ２１内の油溜４４へ達し、ここで潤滑油が蓄えら
れつつ給油路４５を通ってサンギヤ２１とクラッチイン
ナ２９との間の空間３８へ放出される。この放出された
潤滑油は歯車や前進クラッチ等変速装置の構成部品を潤
滑する。

【００２１】このように、給油路４３内に供給される潤
滑油を上記潤滑部に導くための油溜４４及び給油路４５
がサンギヤ２１内に設けられる。この場合、サンギヤ２
１はトルク伝達部材であるため元来充分な強度を有して
おり、これら油溜や給油路がスリーブ３やクラッチアウ
タ２８等の薄肉部材に設けられた場合と比較して、孔周
りの応力集中や肉厚減少に伴う強度低下の影響を軽減す
ることができる。又、油溜や給油路の加工も薄肉部材に
施す場合と比較して容易であり、コスト面でも有利であ
る。

【００２２】次に、図３に基づいて本発明の第２の実施
例を説明する。図３は、二組の遊星歯車装置を入力軸５
１の前後方向に配設した車両用変速装置における潤滑油
供給構造を示す。前方サンギヤ５２と後方サンギヤ５６
とは一体となってその内周を入力軸５１に対して相対回
転自在に支持され、入力軸５１に固設された後方リング
ギヤ５９の内周と噛合する後方ピニオンギヤ５７を回転
自在に支承する後方キャリヤ５８は前方ピニオンギヤ５
３と内周で噛合する前方リングギヤ５５と結合すると共
に、出力軸６０と一体となっている。又、前方ピニオン
ギヤ５３を回転自在に支承する前方キャリヤ５４はワン
ウェイクラッチ（図示せず）及びブレーキ（図示せず）
と係合可能である。

【００２３】入力軸５１の前方サンギヤ５２後端付近に
は潤滑油の給油路６１（特許請求の範囲の第１給油路に
相当）の出口開口６１ａが設けられ、この出口開口６１
ａを覆うように後方サンギヤ５６の内周面に油溜６３が
形成される。この油溜６３は後方サンギヤ５６の内周に
沿って一条の凹条溝となるように設けられる。更に後方
サンギヤ５６の内部には、この油溜６３から軸方向に延
びて後方サンギヤ５６の側面に開口する給油路６４（特
許請求の範囲の第２給油路に相当）が形成される。又、
この油溜６３からは後方サンギヤ５６の半径方向外側へ
貫通する給油路６５が設けられる。ここで後方サンギヤ
５６は後方ピニオンギヤ５７との噛合面よりも軸方向に
若干長く形成され、給油路６５はこの後方サンギヤ５６
と後方ピニオンギヤ５７とが咬み合わない部分に開けら
れる。

【００２４】給油路６１から出口開口６１ａを通過した
潤滑油は、前方サンギヤ５２の最後端と後方リングギヤ
５９の入力軸５１結合部との間隙６２を通って油溜６３
へ溜まるとともに給油路６４及び給油路６５から後方サ
ンギヤ５６外部へ放出され、歯車等変速装置の各構成部
品を潤滑する。このように、第１の実施例と同様の効果
を奏する。

【００２５】次に、図４に基づいて本発明に係る第３の
実施例を説明する。図４に遊星歯車装置を備えたＯＤ
（オーバードライブ）機構における潤滑油供給構造を示
す。このＯＤ機構は主変速装置９２の前方に位置し、Ｏ
Ｄ走行以外のときはエンジン（図示せず）の出力を変速
せずそのまま主変速装置９２の入力軸９１に伝達し、Ｏ
Ｄ走行のときは増速して入力軸９１に出力するものであ
る。ＯＤサンギヤ７２は内周をＯＤ入力軸７１に対して
相対回転自在に支持され、このＯＤサンギヤ７２と噛合
するＯＤピニオンギヤ７３を回転自在に支承するＯＤキ
ャリヤ７４はＯＤ入力軸７１に固設される。

【００２６】ＯＤリングギヤ７５はＯＤ入力軸７１に対
して相対回転自在に支持されると共に前記ＯＤピニオン
ギヤ７３と内周で噛合し、主変速装置９２の入力軸９１
と直結する。又、前記ＯＤサンギヤ７２はＯＤクラッチ
アウタ７６と結合し、前記ＯＤキャリヤ７４はＯＤクラ
ッチインナ７７と結合する。このＯＤクラッチインナ７
７はＯＤワンウェイクラッチＦｏを介してＯＤサンギヤ
７２及びＯＤクラッチアウタ７６と接続可能である。Ｏ
Ｄクラッチアウタ７６とＯＤクラッチインナ７７との間
にはＯＤクラッチＣｏが介装され、このＯＤクラッチＣ
ｏをＯＤクラッチピストン７８により押圧することによ
り、クラッチアウタ７６とクラッチインナ７７は係合さ
れる。又、クラッチアウタ７６とケーシング９３との間
にはＯＤブレーキＢｏが介装される。

【００２７】ＯＤ入力軸７１のＯＤサンギヤ厚肉部７９
近傍には潤滑油の給油路８１（特許請求の範囲の第１給
油路に相当）の出口開口８１ａが設けられ、この出口開
口８１ａを覆うように前記ＯＤサンギヤ厚肉部７９の内
周部に油溜８２が形成される。この油溜８２はＯＤサン
ギヤ厚肉部７９の内周面に沿って一条の凹条溝となるよ
うに設けられる。更にＯＤサンギヤ厚肉部７９の内周部
には、この油溜８２から軸方向に延びて開口する給油路
９４（特許請求の範囲の第２給油路に相当）が形成され
る。

【００２８】上記構造により、ＯＤ入力軸７１内の給油
路８１より出口開口８１ａを通った潤滑油は、油溜８２
へ達する。この油溜８２で蓄えられた潤滑油は給油路９
４から放出され、変速装置の各構成部品を潤滑する。こ
のように、第１の実施例と同様の効果を奏する。

【００２９】

【発明の効果】以上のように、本発明に係る遊星歯車装
置の潤滑油供給構造によれば、給油路内に供給される潤
滑油を歯車やクラッチ装置などの潤滑部に導くための油
溜及び給油路は、入力軸上に配設されたサンギヤ内に設
けられる。この場合、サンギヤはトルク伝達部材である
ため元来充分な強度を有しており、これら油溜や給油路
がスリーブなどの薄肉部材に設けられた場合と比較して
孔周りの応力集中や肉厚減少に伴う強度低下の影響を軽
減することができる。又、油溜や給油路の加工も薄肉部
材に施す場合と比較して容易であり、コスト面でも有利
である。

【図面の簡単な説明】

【図１】第１の実施例による潤滑油供給構造の断面図で
ある。

【図２】第１の実施例におけるベルト式無段変速装置に
おける動力伝達経路構成を示すスケルトン図である。

【図３】第２の実施例による潤滑油供給構造の断面図で
ある。

【図４】第３の実施例による滑油供給構造の断面図であ
る。

【符号の説明】

１ 入力軸 ２１ サンギヤ ４３ 給油路 ４３ａ 出口開口 ４４ 油溜 ４５ 給油路

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 入力軸上に回転自在に取り付けられたサ
   ンギヤを有して前記入力軸上に配設された遊星歯車機構
   と、この遊星歯車機構の要素間結合及び要素の固定を行
   うクラッチ装置及びブレーキ装置とを備え、前記入力軸
   からの回転駆動力の伝達を行う遊星歯車装置の潤滑油供
   給構造において、 前記入力軸の内部を軸方向に延びて形成されるとともに
   前記入力軸の外周面における前記サンギヤが取り付けら
   れた箇所に出口開口を有する潤滑油の第１給油路と、 前記サンギヤの内周部に前記出口開口を覆って形成され
   た油溜と、 前記サンギヤの内部に、前記油溜から軸方向に延びて形
   成され、前記サンギヤの側面に開口する第２給油路とを
   備えることを特徴とする遊星歯車装置の潤滑油供給構
   造。