JPH10140294A - 疲労特性に優れたフラッパーバルブ用高強度オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

疲労特性に優れたフラッパーバルブ用高強度オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法

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JPH10140294A
JPH10140294A JP30751596A JP30751596A JPH10140294A JP H10140294 A JPH10140294 A JP H10140294A JP 30751596 A JP30751596 A JP 30751596A JP 30751596 A JP30751596 A JP 30751596A JP H10140294 A JPH10140294 A JP H10140294A
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克久 宮楠
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高性能圧縮機等のフラッパーバルブに要求さ
れる優れた強度,疲労特性,耐食性をともに兼ね備えた
フラッパーバルブ用ステンレス鋼板を提供する。 【解決手段】 質量%において、C:0.15%以下、Si:
1.0〜4.0%、Mn:5.0%以下、Ni:4.0〜10.0%、C
r:12.0〜18.0%、Cu:0〜3.5%、Mo:1.0〜5.0%、
N:0.15%以下を含み、C+N≧0.10%、Si+Mo≧
3.5%を満足し、かつ、Md(N)=580−520×[%C]−2×
[%Si]−16×[%Mn]−16×[%Cr]−23×[%Ni]−30
0×[%N]−26×[%Cu]−10×[%Mo]と定義されるMd
(N)の値が20〜100の範囲にあり、残部がFeおよび不可
避的不純物元素からなる鋼板であって、該鋼板中には析
出物が存在し、その析出物の最大サイズが0.5μm以下で
あり、引張強さが1800N/mm2以上である疲労特性に優れ
たフラッパーバルブ用高強度オーステナイト系ステンレ
ス鋼板。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性と共に高い
強度および疲労特性が要求される圧縮機の弁(フラッパ
ーバルブ)用オーステナイト系ステンレス鋼板、および
その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、弁用鋼としてはCを1%程度含有
する炭素鋼(焼入れ鋼)が一般的に使用されているが、
より高い耐熱性・耐食性が要求される環境ではステンレ
ス鋼を用いたフラッパーバルブも使用されている。この
ような用途に適用するステンレス鋼としては、これまで
高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が使用されてき
た。これは、焼入れ処理でほぼマルテンサイト単相とす
ることによって高い引張強さを得るとともに、焼戻し処
理でマルテンサイト中に大きさ1μm程度の炭化物を析出
させることによってフラッパーバルブが弁座に衝突する
際の耐磨耗性を確保しようとするものである。
【0003】例えば、日立金属技報 vol.2(1986),p.47-
50には、フラッパーバルブに適用できるステンレス鋼素
材として、Cを0.4%含有する高炭素マルテンサイト系
ステンレス鋼が紹介されている。その鋼は、炭素鋼より
も疲労特性に優れているという。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが最近では、圧
縮機の性能向上等に伴い、さらに高い疲労特性・耐食性
を有するフラッパーバルブ用素材が要求されるようにな
ってきた。しかし、上記のような高炭素マルテンサイト
系ステンレス鋼では、焼戻し過程で析出した炭化物は粗
大化し易く、そのサイズは通常2μm程度にまで達する。
このような比較的大きな炭化物は疲労破壊の起点となり
やすく、また、腐食発生の起点ともなりやすい。このた
め、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼において更な
る疲労特性・耐食性の向上を期待することは困難であ
る。
【0005】そこで、本発明では、焼入れマルテンサイ
ト基地中での炭化物析出強化現象を利用せずに、別の強
化手段を採用することによって疲労特性・耐食性をさら
に改善し、フラッパーバルブ用途に一層適したステンレ
ス鋼板を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、質量%にお
いて、C:0.15%以下、Si:1.0〜4.0%、Mn:5.0
%以下、Ni:4.0〜10.0%、Cr:12.0〜18.0%、C
u:0〜3.5%(無添加を含む)、Mo:1.0〜5.0%、
N:0.15%以下を含み、C+N≧0.10%、Si+Mo≧
3.5%を満足し、かつ、 Md(N)=580−520×[%C]−2×[%Si]−16×[%Mn]−
16×[%Cr]−23×[%Ni]−300×[%N]−26×[%Cu]
−10×[%Mo] と定義されるMd(N)の値が20〜100の範囲にあり、残部
がFeおよび不可避的不純物元素からなる鋼板であっ
て、該鋼板中には析出物が存在し、その析出物の最大サ
イズが0.5μm以下であり、引張強さが1800N/mm2以上で
ある疲労特性に優れたフラッパーバルブ用高強度オース
テナイト系ステンレス鋼板によって達成される。
【0007】また本発明では、溶体化処理後の冷間圧延
で30〜80体積%の加工誘起マルテンサイトを生成させた
素材に対して300〜650℃の温度範囲で0.5〜5分の短時間
時効処理を施すことによって、上記の疲労特性に優れた
フラッパーバルブ用高強度オーステナイト系ステンレス
鋼板を製造する方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明者らは、過酷な使用環境に
耐え得るフラッパーバルブに特に適したステンレス鋼板
を得る手段を種々検討した結果、そのような鋼板はマル
テンサイト系ステンレス鋼ではなく、オーステナイト系
ステンレス鋼によって達成されることを見出した。ただ
し、単に鋼種をオーステナイト系に変更するだけでフラ
ッパーバルブ用途にそのまま適用できるわけではない。
それには工夫を要する。すなわち、溶体化処理後にオ
ーステナイト単相となり、冷間加工によって適量の加工
誘起マルテンサイトが生成し、かつ、フラッパーバルブ
として使用することによっても適量のマルテンサイトが
生成するようにオーステナイト安定度が調整された特定
組成のオーステナイト系ステンレス鋼を素材として用
い、「加工硬化」,「変態強化」および「時効硬化」
の現象を利用して強度上昇を図り、低温・短時間の時
効処理により粗大析出物の生成を防止して疲労特性およ
び耐食性の向上を図ることによってはじめて、本用途に
特に適したオーステナイト系ステンレス鋼板が得られる
のである。以下、本発明を特定する事項について説明す
る。なお、各元素の含有量を表す「%」は特に示さない
限り「質量%」を意味する。
【0009】Cは、オーステナイト形成元素であり、高
温で生成するδフェライトの抑制,冷間加工で誘起され
たマルテンサイト相の強化に極めて有効であるが、本発
明で対象とする鋼はSi含有量が高いためCの固溶限が
低下している。このためC量を高くすると時効処理で粗
大なCr炭化物が析出し、耐粒界腐食や疲労特性低下の
原因となるので、Cは0.15%以下とした。なお、好まし
いC含有量範囲は0.05〜0.1%である。
【0010】Siは、通常脱酸の目的で添加され、この
目的を達成するには市販の加工硬化型ステンレス鋼(SU
S301,SUS304等)にみられるように、1.0%未満の添加
量で十分である。しかし本発明ではSi含有量をより高
め、それによって生じるSiの種々の作用を利用する。
すなわち、冷間加工の際、加工誘起マルテンサイトの
生成を促進させる作用,その加工誘起マルテンサイト
相を硬くするとともに、オーステナイト相にも固溶して
これを硬化させ、冷間加工後の強度を大きくする作用,
時効処理においてはCuとの相互作用により時効硬化
能を高める作用等を利用するのである。このようなSi
の作用は、通常の1.0%未満の含有量では十分に発揮さ
れない。ただしSi含有量が高くなりすぎると高温割れ
を誘発しやすくなる等、製造上の問題が顕在化するよう
になるのでその上限は4.0%とするのが適当である。そ
こで本発明ではSi含有量を1.0〜4.0%に規定した。な
お、好ましいSi含有量の範囲は1.0〜3.5%である。
【0011】Mnは、オーステナイト相の安定度を調整
するうえで有効な元素であり、その含有量は他の元素と
のバランスによって決定される。Mnの含有量が高いと
冷間加工の際にマルテンサイトが誘起されにくくなるの
で、本発明では5.0%以下にする必要がある。なお、好
ましいMn含有量の範囲は0.2〜4.5%である。
【0012】Niは、高温および室温でオーステナイト
相を得るために必須の元素であるが、本発明に適用する
鋼ではさらに、溶体化処理後に室温で準安定オーステナ
イト単相組織となり、かつ冷間圧延により適量のマルテ
ンサイト相が生成するように成分調整されてなくてはな
らない。Ni含有量が4.0%未満では溶体化処理温度で
多量のδフェライト相が生成し、しかも冷却過程でマル
テンサイト変態が起きて、室温でオーステナイトが単相
として存在できなくなる。一方10.0%を越えると冷間加
工でマルテンサイト相が誘起されにくくなる。そこで、
Ni含有量を4.0〜10.0%に規定した。なお、好ましい
Ni含有量の範囲は5.0〜9.5%である。
【0013】Crは、ステンレス鋼としての耐食性を付
与するうえで必須の元素であり、そのためには少なくと
も12.0%以上の含有を要する。しかし、Crはフェライ
ト形成元素でもあるので、含有量が多くなるほど高温で
δフェライト相が多量に生成するようになる。このため
δフェライト相の生成を抑制するためにオーステナイト
形成元素(C,N,Ni,Mn,Cu等)を添加しなけ
ればならないが、これらの元素の過度の添加は室温での
オーステナイト相の過度の安定化をもたらし、冷間圧延
によるマルテンサイト相の誘起を妨げる原因となる。こ
のため、本発明ではCrの含有量の上限を18.0%とし
た。なお、好ましいCr含有量の範囲は12.0〜16.5%で
ある。
【0014】Cuは、時効処理の際、前述のようにSi
との相互作用により鋼の硬化に寄与する元素であるか
ら、積極的に添加することが望ましい。ただし、Cuの
過剰添加は熱間加工性を劣化させ、割れ発生の原因とも
なるので、本発明では3.5%以下の含有量に制限した。
なお、好ましいCu含有量の範囲は1.0〜3.0%である。
【0015】Moは、Cr含有鋼の耐食性を向上させる
とともに、時効処理で炭窒化物を微細に分布させる効果
をもたらす元素であるが、本発明においてはさらに次の
ような重要な役割を担う。すなわち、本発明では疲労特
性に悪影響を及ぼす「過度の」冷間加工歪を低減するた
めに時効温度を高くするが、Moは高温時効での急激な
歪の開放を抑制するうえで非常に有効であるとともに、
Mo自体が強度に寄与する析出物を形成する。つまり、
高温時効を行ったときに「適度の」冷間加工歪を残すこ
とが可能となり、しかもMo自体の析出強化作用も利用
できるので、高温時効での強度低下を防止しつつ疲労特
性の改善が図られるのである。このようなMoの効果は
1.0%以上の添加で有効に発揮される。ただし、Moを
多量に添加すると高温でδフェライトが生成するように
なるので、本発明では5.0%以下の含有量に抑える必要
がある。なお、Mo含有量が高くなると高温での変形抵
抗が高くなり熱間加工性が低下するようになるので、こ
の点を考慮すると好ましいMo含有量の範囲は1.0〜4.5
%である。
【0016】Nは、オーステナイト形成元素であるとと
もに、オーステナイト相およびマルテンサイト相を硬化
させるうえで極めて有効な元素であるが、多量の含有は
鋳造時のブローホールの原因となるので0.15%以下とし
た。
【0017】CとNは、互いに同様な硬化作用を示し、
その効果を十分に発揮させるためにはC+Nの合計量を
0.10%以上にする必要がある。
【0018】また、本発明では時効によりMo系の析出
物を形成させるが、Siの添加によりその析出物が微細
に分散し、それにより析出物の大きさも微細になる。し
たがって、本発明では対象鋼のSi+Moの合計量を3.
5%以上とした。
【0019】本発明では前述のとおり、フラッパーバル
ブの強度・疲労特性を向上させる手段の一つとして、冷
間加工時および製品(フラッパーバルブ)使用時におけ
るマルテンサイト誘起変態を利用する。このため、本発
明に適用される鋼は、溶体化処理後の冷間圧延によって
付与される歪、およびフラッパーバルブとして使用され
る際の変形によって付与される歪に対して最適にマルテ
ンサイト相が生成するよう、オーステナイト安定度が調
整されたものでなくてはならない。その指標として本発
明では次式で定義されるMd(N)値を採用する。 Md(N)=580−520×[%C]−2×[%Si]−16×[%Mn]−
16×[%Cr]−23×[%Ni]−300×[%N]−26×[%Cu]
−10×[%Mo] ここで、[%C],[%Si],・・・,[%Mo]は、それぞ
れ当該鋼のC含有量,Si含有量,・・・,Mo含有量
(いずれも質量%で表される値)を意味する。
【0020】Md(N)値が20未満の鋼はマルテンサイトが
非常に誘起され難いため、素材製造過程でフラッパーバ
ルブの強度に寄与できる量のマルテンサイト相を誘起さ
せるためには、工業的に非常に困難な低温での冷間圧延
を余儀なくされる。加えて、時効後の製品(フラッパー
バルブ)の使用時においても疲労特性の向上に有効に働
くマルテンサイトが十分に誘起されない。一方、Md(N)
値が100を越えた鋼ではフラッパーバルブ使用中の変形
に対してマルテンサイト相がはやく生成してしまい、フ
ラッパーバルブの疲労特性は逆に劣化する。したがっ
て、本発明ではMd(N)値が20〜100の範囲にある鋼を採
用する必要がある。
【0021】本発明ではフラッパーバルブの強度向上手
段として時効処理による析出強化も利用する。強化に寄
与する析出物は主として(Cr・Mo)236である。
本発明対象鋼はオーステナイト系ステンレス鋼だから、
従来の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼焼戻処理材
のような粗大炭化物は生成しない。ただし、本発明で利
用する時効析出物も、その大きさがあまり大きくなると
疲労破壊や腐食の起点になり得る。本発明者らの実験の
結果、析出物の最大サイズを0.5μm以下にしたとき、フ
ラッパーバルブは良好な疲労特性を示し、なおかつ耐食
性も十分に確保できることがわかった。そこで本発明で
は、析出物の最大サイズを0.5μm以下に規定した。
【0022】本発明に係るフラッパーバルブ用鋼板は、
通常次のような工程で製造される。溶製→熱間圧延→
(冷間圧延)→溶体化処理→冷間圧延→時効処理。ここ
で、溶体化処理後の組織は準安定オーステナイト相であ
り、続く冷間圧延で導入された加工歪みによってオース
テナイト相の一部はマルテンサイト相に変態する。時効
処理後に高強度を得るには時効前の段階である程度のマ
ルテンサイト量が必要であり、しかも冷間圧延で付与さ
れた加工歪も強化に寄与する。このため、溶体化処理後
の冷間圧延率を高めることは時効後の強度を向上させる
ことに直接つながる。しかしそれは、同時に靭性を低下
させることにもつながる。本発明者らの検討の結果、お
およそ30〜70%の冷間圧延率によって30〜80体積%の加
工誘起マルテンサイト相を生成させるのが、フラッパー
バルブの強度・靭性のバランスを確保するうえで望まし
いことがわかった。時効処理前の冷間圧延で生成させる
マルテンサイトの量が30体積%未満では材料自体の強度
が低すぎるとともに、時効析出物生成のための核サイト
の数が不足して時効による強度上昇が不十分となる。一
方、疲労特性の面からは未変態オーステナイト相をある
程度残しておくことも必要であり、そのためには冷間圧
延で生成させる加工誘起マルテンサイトの量を80体積%
以下に抑える必要がある。
【0023】冷間圧延後に行う時効処理は、例えば冷延
鋼帯を熱処理炉に連続的に通板することによって実施す
ることができる。時効温度が300℃未満では析出強化現
象が十分に現れないため必要な強度が得られないだけで
なく、過剰な加工歪を除去できないので靭性を確保する
ことも難しい。一方、650℃を越えて加熱すると加工誘
起マルテンサイト相の一部がオーステナイト相に逆変態
して強度低下をもたらす恐れがある。また、時効処理時
間(均熱時間)が0.5分未満では十分な時効硬化が期待
できない。一方、5分を越える長時間の時効処理では析
出物が0.5μmより大きくなる恐れがあり、その場合には
前述のように析出物が疲労破壊・腐食の起点となり得
る。したがって、本発明に係るフラッパーバルブ用鋼板
は、300〜650℃の温度範囲で0.5〜5分の短時間時効処理
を施して製造することが望ましい。
【0024】
【実施例】表1に、供試材の化学成分値(質量%)およ
びMd(N)値を示す。表中のT1〜T9は化学組成が本発
明規定範囲内の鋼、a〜jはそれ以外の鋼(比較鋼)で
ある。このうちiおよびjは従来の高炭素マルテンサイ
ト系ステンレス鋼である。
【0025】
【表1】
【0026】これらの鋼を真空溶解炉にて溶製し、鍛
造,熱延,中間焼鈍,冷延を経たのち、1050℃×1分間
保持の溶体化処理→水冷を行い、その後、種々の圧延率
で板厚0.30mmまで冷延して加工誘起マルテンサイトを生
成させた。さらにこの冷延材に570℃×1分の時効処理を
施した。ただし、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼
であるiおよびjについては0.30mmまで冷延したのち焼
入処理を施した。
【0027】各供試材について、冷延材(0.30mm材)に
存在するマルテンサイト量,時効材(i,jでは焼入
材)における析出物の最大サイズ,引張強さ,曲げ−疲
労特性,耐食性を調査した。
【0028】マルテンサイト量は、試料振動型磁力計で
飽和磁化を求め、マルテンサイト量と飽和磁化量が比例
することを利用して、その比率より算出した。析出物の
最大サイズは電子顕微鏡で100個以上の析出物を観察
し、そのうち最もサイズの大きいもので評価した。な
お、個々の析出物のサイズは最大部分の長さをその析出
物のサイズとした。引張強さは、JIS Z 2201に規定され
ている13B号試験片を用い、JIS Z 2241に規定されてい
る引張試験方法によって求めた。曲げ−疲労特性は、平
行部の長さが100mm,幅が3mmの試験片を直径40,42.5,
45mmのプーリーに掛け、3水準の最大応力(最小応力50
N)を付与して500rpmでの曲げ−引張変形を1000×104
イクルまで繰り返す試験を実施し、破断に至ったときの
サイクル数を求めて評価した。この疲労試験はフラッパ
ーバルブの使用条件に非常に近い試験方法である。耐食
性は、JIS H 8502に規定されている方法に基づいて720
時間のキャス試験を行い、発銹の有無で評価した。表2
には、各供試材に施した冷間圧延率、および上記試験結
果を示す。
【0029】
【表2】
【0030】表2から判るように、本発明で規定する範
囲の化学組成を有する鋼では、いずれも30〜70%の冷間
圧延によって30〜80体積%のマルテンサイト相が誘起さ
れており、570℃×1分の時効によって析出物の最大サイ
ズは0.5μm以下に抑えられていた。その時効材は1800N/
mm2以上の引張強さおよび400×104回以上の曲げ−引張
疲労特性を示し、なおかつ発銹も見られなかったので、
これらはフラッパーバルブとしての使用に十分耐え得る
ものであった。これに対し比較鋼では、曲げ−引張疲労
試験の破断回数がいずれも400×104回未満であり、引張
強さもほとんどが1800N/mm2未満であった。
【0031】上述したようにMd(N)値はオーステナイト
相の加工に対する安定度の指標であり、この値が小さけ
れば変形時に加工誘起マルテンサイトが形成され難い
し、逆に値が大きくなれば形成されやすいことを意味す
る。本発明範囲のT1〜T9鋼はいずれもMd(N)値が20
〜100の範囲にあり、疲労試験での変形中にオーステナ
イト→マルテンサイトの変態が起こり、その適度な変態
の起こりやすさが材料の疲労特性を支配していると言え
る。これに対し、Md(N)値が20未満の比較鋼a,bでは
疲労試験での変形中にマルテンサイト変態が起こらない
ために、またMd(N)値が100を越えた比較鋼c,dでは
逆にマルテンサイトの形成がはやいために、それぞれ十
分な疲労特性が得られなかったものと考えられる。
【0032】比較鋼e,fはMo含有量が少ないために
時効処理で軟化がはやく開始し、その結果引張強さが低
かったと考えられる。比較鋼g,hはSi含有量が低い
ために時効による強化の寄与が少なく、その結果引張強
さが低かったと考えられる。また、高炭素マルテンサイ
ト系ステンレス鋼であるi,jでは焼入処理で完全に固
溶できない炭化物あるいは焼戻し処理で析出する炭化物
の存在によって、疲労特性および耐食性が劣化したもの
と考えられる。
【0033】表3には、1050℃で1分間保持の溶体化処
理を施したのち55%の冷間圧延を施したT9鋼につい
て、種々の条件で時効処理を行ったときの析出物最大サ
イズ,引張強さ,最大応力1450N/mm2での曲げ−引張疲
労特性を示す。
【0034】
【表3】
【0035】本発明で規定する条件で時効処理を行った
ものでは析出物の最大サイズが0.5μm以下になり、引張
強さ:1800N/m2以上,疲労破断回数:700×104回以上と
フラッパーバルブに適した特性を示した。これに対し時
効条件が本発明で規定する範囲を外れる場合には、析出
物が生成しないか、あるいはその最大サイズが0.5μmを
越えるため、疲労特性は著しく劣化した。
【0036】図1は、表3に示したデータのうち、析出
物最大サイズと曲げ−引張疲労特性の関係をプロットし
たものである。ここで示している疲労特性は前述のとお
り、フラッパーバルブの使用状態を想定した試験方法に
よるものである。したがって図1から、析出物最大サイ
ズを0.5μm以下にすることによって、フラッパーバルブ
の疲労特性を飛躍的に向上させることができることがわ
かる。
【0037】図2は、本発明対象鋼T7,比較鋼c,i
の時効処理材について、前述の曲げ−引張疲労試験での
最大負荷応力を種々の段階に設定した場合の疲労試験結
果を示したものである。T7鋼はほとんどが107回(=1
000×104回)まで破断せず、良好な疲労特性を示した。
これに対し、c鋼は疲労試験中の変形に対するオーステ
ナイト安定度が不安定すぎるために、またi鋼は350℃
×1時間の焼戻し処理で生成する粗大炭化物が疲労破壊
のクラックになるために、それぞれT7鋼に比較して疲
労特性は大きく劣っていた。なお、図2中には曲げ−引
張疲労試験方法を表す概念図およびその応力付与サイク
ルを表す概念図を併せて示している。
【0038】
【発明の効果】以上のように、本発明ではオーステナイ
ト安定度を適度に調整したオーステナイト系ステンレス
鋼において、冷延時のマルテンサイト変態,加工硬化,
時効硬化,さらにはフラッパーバルブ使用時におけるマ
ルテンサイト変態の各々の作用を有効に引き出すことに
よって、高性能圧縮機等のフラッパーバルブに要求され
る優れた強度,疲労特性,耐食性をともに兼ね備えたフ
ラッパーバルブ用鋼板の提供を可能にした。このような
諸特性を同時に満足する材料は、通常のオーステナイト
系ステンレス鋼はもとより、フラッパーバルブ用途を特
に想定した従来の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼
によっても得られなかったものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】時効処理材における析出物の最大サイズと曲げ
−引張疲労試験における破断までの振幅回数の関係を表
すグラフ。
【図2】曲げ−引張疲労試験で付与する最大応力と破断
までの振幅回数の関係を表すグラフ,その曲げ−引張疲
労試験方法を表す概念図,およびその応力付与サイクル
を表す概念図。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%において、C :0.15%以下、S
    i:1.0〜4.0%、Mn:5.0%以下、Ni:4.0〜10.0
    %、Cr:12.0〜18.0%、Cu:0〜3.5%(無添加を含
    む)、Mo:1.0〜5.0%、N :0.15%以下を含み、C
    +N≧0.10%、Si+Mo≧3.5%を満足し、かつ、 Md(N)=580−520×[%C]−2×[%Si]−16×[%Mn]−
    16×[%Cr]−23×[%Ni]−300×[%N]−26×[%Cu]
    −10×[%Mo] と定義されるMd(N)の値が20〜100の範囲にあり、残部
    がFeおよび不可避的不純物元素からなる鋼板であっ
    て、該鋼板中には析出物が存在し、その析出物の最大サ
    イズが0.5μm以下であり、引張強さが1800N/mm2以上で
    ある疲労特性に優れたフラッパーバルブ用高強度オース
    テナイト系ステンレス鋼板。
  2. 【請求項2】 溶体化処理後の冷間圧延で30〜80体積%
    の加工誘起マルテンサイトを生成させた素材に対して30
    0〜650℃の温度範囲で0.5〜5分の短時間時効処理を施す
    請求項1に記載の疲労特性に優れたフラッパーバルブ用
    高強度オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
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WO2021153549A1 (ja) * 2020-01-27 2021-08-05 日立金属株式会社 マルテンサイト系ステンレス鋼帯の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼帯
WO2022180869A1 (ja) * 2021-02-24 2022-09-01 日鉄ステンレス株式会社 オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに板ばね
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