JP6223124B2 - 高強度複相組織ステンレス鋼板およびその製造法 - Google Patents
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Cr当量=Cr+Mo+1.5Si …(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu …(2)
Ms={3000[0.068−(C+N)]+50[0.47−Si]+60[1.33−Mn]+110[8.9−(Ni+Cu)]+75[14.6−Cr]−32}×5/9 …(3)
ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。
これに対し、オーステナイト安定温度域からMs点以下の温度への冷却によって生じるマルテンサイト相を、本明細書では特に「冷却マルテンサイト相」と呼ぶことがある。本発明で対象とする高Cr鋼の場合、普通鋼とは異なり、特段の急冷(いわゆる焼入れ処理)を行わなくてもMs点以下の温度への冷却によってマルテンサイト変態が起こり、冷却マルテンサイト相が生成する。生成する冷却マルテンサイト相の量は組成に依存する。冷却マルテンサイト相への変態が生じなかったオーステナイト相の部分は残留オーステナイト相として残存する。
〔マルテンサイト組織の量の測定〕
振動試料型磁力計(VSM)に被測定材料から採取した試験片をセットし、磁気モーメントM(A・m2)を求める。この実測Mの値と、試料の質量W(kg)から下記(4)式により試料の飽和磁化I(A・m2/kg)を求める。
I=M/W …(4)
一方、上記組成範囲のステンレス鋼におけるマルテンサイト組織の理論的な飽和磁化の値として、成分組成の回帰式である下記(5)式により定まるIS(A・m2/kg)を採用する。
IS=214.5−3.12(Cr+Mo+0.5Ni)−12C−1.9Mn−6N−3P−7S−2.6Si−2.3Cu …(5)
ここで、(5)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。
上記飽和磁化IおよびISを下記(6)式に代入することにより、マルテンサイト組織の量VM(体積)を定める。
マルテンサイト組織の量VM(体積%)=(I/IS)×100 …(6)
前記残留オーステナイト相を残存させた鋼板に冷間圧延を施すことにより、加工誘起マルテンサイト相を生成させ、オーステナイト相:1.0〜15.0体積%、残部がマルテンサイト組織である複相組織とする工程、
前記加工誘起マルテンサイト相を生成させた鋼板を180〜550℃で時効処理することにより、0.2%耐力σ 0.2 が1500N/mm2以上、0.01%耐力σ0.01(N/mm2)と0.2%耐力σ0.2(N/mm2)の比σ0.01/σ0.2が0.70以上の特性を付与する工程、
を有する製造法が提供される。
本発明では、高温のオーステナイト安定温度域からの冷却でオーステナイト相の一部がマルテンサイトに変態し、残留オーステナイト相が存在するように組成調整された鋼種を適用する。以下、化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cr当量=Cr+Mo+1.5Si …(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu …(2)
(1)式、(2)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。無添加の元素についてはゼロが代入される。
本発明ではCr当量が13.0〜17.0、かつNi当量が7.0〜13.0に調整された鋼を採用することにより、オーステナイト安定温度域からMs点以下の所定の温度に冷却したときに残留オーステナイト相が35体積%以上であるオーステナイト+マルテンサイト複相組織が得られるようにしている。
Ms={3000[0.068−(C+N)]+50[0.47−Si]+60[1.33−Mn]+110[8.9−(Ni+Cu)]+75[14.6−Cr]−32}×5/9 …(3)
(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。無添加の元素についてはゼロが代入される。
本発明で規定する組成範囲の鋼に関しては、(3)式により推定されるMs点が20〜120℃となる組成の鋼を適用する。Ms点が120℃を超えると、常温まで冷却したときの冷却マルテンサイト相の生成量が多くなり、加工誘起マルテンサイトの母相である残留オーステナイト相を安定して35体積%以上存在させることが難しくなる。残留オーステナイト母相の量が35体積%より少ないと、加工誘起マルテンサイト相を30体積%以上生成させ、かつ最終的に残留するオーステナイト相の量を1.0〜15.0体積%の範囲にコントロールするための冷間圧延条件範囲が狭くなる。一方、Ms点が20℃を下回ると、冷却マルテンサイト相を生成させるための冷却終了温度を常温よりかなり低温に設定する必要が生じ、製造性を損なう。
本発明に従う鋼板は、オーステナイト相:1.0〜15.0体積%、残部がマルテンサイト組織である複相組織に調整されている。オーステナイト相は、少量の存在によって顕著な延性改善効果を発揮する。具体的には、オーステナイト相の存在量を1.0体積%以上確保することが効果的であり、1.5体積%以上とすることがより効果的である。一方、オーステナイト相の量が15体積%を超えると、その分、残部のマルテンサイト組織の量が不足して、高強度特性、ばね性を十分に確保することが難しくなる。本発明に従う鋼板は、後述するように、Ac1点未満の温度での時効処理を経て、高強度特性、ばね性の改善を図ったものである。本発明に従う高強度複相組織ステンレス鋼板のマルテンサイト組織は、冷却マルテンサイト相と加工誘起マルテンサイト相で構成されるマルテンサイト相に由来する磁性相と、0〜2.0体積%のδフェライト相からなる。マルテンサイト組織の量は、前述のように磁気特性によって定めることができる。上記オーステナイト相の量(体積%)は、100−[マルテンサイト組織の量(体積%)]によって求まる。
高い応力レベルで使用されるばね用途を考慮すると、0.2%耐力σ0.2が高く、かつ、弾性限度が高いことが有利となる。弾性限度の指標として0.01%耐力σ0.01を採用することができる。発明者らの検討によれば、0.2%耐力が1500N/mm2以上、かつ0.01%耐力と0.2%耐力の比σ0.01/σ0.2が0.70以上である特性を有していれば、高い応力が付与されるばね用途に適したばね性を有すると判断できる。σ0.01/σ0.2は0.75以上であることがより好ましく、0.80以上であることが更に好ましい。硬さは450HV30以上であることが好ましい。引張強さTS(N/mm2)と全伸びEl(%)の積で表される靭性指標TS×El(N/mm2×%)は6000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。
このような特性を有する複相組織ステンレス鋼板は、以下の各工程を経ることによって製造することができる。
上述の化学組成を有する中間製品の鋼板を、オーステナイト安定温度域に加熱して溶体化処理を行う。溶体化処理条件は900〜1200℃、均熱0〜60minとすることができる。溶体化処理後、上記(3)式により定まるMs点より低い温度まで冷却し、冷却マルテンサイト相を生成させる。溶体化処理温度からMs点を通過するまでの平均冷却速度は2℃/sec以上とすることが好ましい。冷却マルテンサイト相の生成量は鋼の化学組成に依存するが、Mf点(マルテンサイト変態終了温度)より高い温度で冷却を終了する場合は、その冷却終了温度によっても冷却マルテンサイト相の生成量をコントロールすることができる。Mf点が常温より高い場合は、常温への冷却によって、化学組成に依存した一定量の冷却マルテンサイト相が生成する。
上記の工程で得た35体積%以上の残留オーステナイト相を有する鋼板に対し、冷間圧延を施すことにより、上記残留オーステナイト相の一部を加工誘起マルテンサイト相に変態させる。発明者らの検討によれば、加工誘起マルテンサイト相を生成させることで容易かつ飛躍的に強度を向上させることができるが、特に加工誘起マルテンサイト相を形成させた後に後述の時効処理を施すことによって、上述の0.01%耐力と0.2%耐力の比σ0.01/σ0.2を0.70以上に向上させた複相組織ステンレス鋼板を得ることができることが明らかとなった。加工誘起マルテンサイト相の生成量を30体積%以上とすることが特に効果的である。
上記の冷間圧延によって加工硬化させながら加工誘起マルテンサイト相の生成によるマルテンサイト相の増量を図った鋼板に対し、Ac1点より低温での時効処理を施すことによって、強度、靭性、および0.01%耐力と0.2%耐力の比σ0.01/σ0.2を向上させることができる。この時効処理では、冷却マルテンサイト相と加工誘起マルテンサイト相に対して「焼戻し」と同様な構造変化を与えて靭性を向上させる効果と、固溶炭素によるひずみ時効の現象を利用して0.2%耐力やσ0.01/σ0.2を向上させる効果を得る。時効処理温度は180〜550℃の範囲とすることができる。550℃はAc1点より低い温度である。より好ましい時効処理条件として、200〜550℃、均熱0〜60minの範囲を例示することができる。特に時効処理温度400〜500℃の範囲で下記(7)式を満たす条件とすることが一層好ましい。
13000<T(logt+20)<16000 …(7)
ここで、Tは時効処理温度(K)、tは時効処理均熱時間(h)である。
0.2%耐力σ0.2が高く、かつ、弾性限度が高い材料は、高い応力レベルで弾性変形を付与した場合でも永久変形が起こりにくいという、優れたばね性を有する材料であると評価することができる。弾性限度の指標としては0.01%耐力σ0.01が採用できる。発明者らの検討によれば、ばね性の評価指標として、0.2%耐力σ0.2に加え、0.01%耐力と0.2%耐力の比σ0.01/σ0.2を採用することが有効である。これらの特性を表2中に示す。
靭性は、材料に応力を付与した場合、破断に至るまでにどのくらいの仕事を受けることができるかという観点から、応力−歪曲線で囲まれた面積の大きさで表現されることがある。ここでは、その概算値となる引張強さTS(N/mm2)と全伸びEl(%)の積算値TS×Elにより靭性を評価した。この値を表2中に示す。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜5.0%、Ni:1.0〜6.0%、Cr:10.0〜18.0%、Cu:0〜4.0%、Mo:0〜2.0%、N:0.01〜0.20%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C含有量とN含有量の合計が0.12質量%以上、下記(1)式で定義されるCr当量が13.0〜17.0、下記(2)式で定義されるNi当量が7.0〜13.0、下記(3)式のMsで定まるマルテンサイト変態開始温度Ms点が20〜120℃である化学組成を有し、オーステナイト相:1.0〜15.0体積%、残部がマルテンサイト組織である複相組織を有し、0.2%耐力が1500N/mm2以上、0.01%耐力σ0.01(N/mm2)と0.2%耐力σ0.2(N/mm2)の比σ0.01/σ0.2が0.70以上である高強度複相組織ステンレス鋼板。
Cr当量=Cr+Mo+1.5Si …(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu …(2)
Ms={3000[0.068−(C+N)]+50[0.47−Si]+60[1.33−Mn]+110[8.9−(Ni+Cu)]+75[14.6−Cr]−32}×5/9 …(3)
ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。 - 前記複相組織は、加工誘起マルテンサイト相を生成させる過程を経て形成されたものである請求項1に記載の高強度複相組織ステンレス鋼板。
- 前記複相組織は、加工誘起マルテンサイト相を生成させた後、Ac1点未満の温度で加熱処理を受けたものである請求項1に記載の高強度複相組織ステンレス鋼板。
- 前記加工誘起マルテンサイト相の生成量は30.0体積%以上である請求項2または3に記載の高強度複相組織ステンレス鋼板。
- 質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜5.0%、Ni:1.0〜6.0%、Cr:10.0〜18.0%、Cu:0〜4.0%、Mo:0〜2.0%、N:0.01〜0.20%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C含有量とN含有量の合計が0.12質量%以上、下記(1)式で定義されるCr当量が13.0〜17.0、下記(2)式で定義されるNi当量が7.0〜13.0、下記(3)式のMsで定まるマルテンサイト変態開始温度Ms点が20〜120℃である化学組成を有する鋼板を、オーステナイト安定温度域で溶体化処理したのちMs点より低温に冷却することにより、マルテンサイト相を生成させ、35体積%以上の残留オーステナイト相を残存させる工程、
前記残留オーステナイト相を残存させた鋼板に冷間圧延を施すことにより、加工誘起マルテンサイト相を生成させ、オーステナイト相:1.0〜15.0体積%、残部がマルテンサイト組織である複相組織とする工程、
前記加工誘起マルテンサイト相を生成させた鋼板を180〜550℃で時効処理することにより、0.2%耐力σ 0.2 が1500N/mm2以上、0.01%耐力σ0.01(N/mm2)と0.2%耐力σ0.2(N/mm2)の比σ0.01/σ0.2が0.70以上の特性を付与する工程、
を有する高強度複相組織ステンレス鋼板の製造法。
Cr当量=Cr+Mo+1.5Si …(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu …(2)
Ms={3000[0.068−(C+N)]+50[0.47−Si]+60[1.33−Mn]+110[8.9−(Ni+Cu)]+75[14.6−Cr]−32}×5/9 …(3)
ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。 - 前記加工誘起マルテンサイト相の生成量を30.0体積%以上とする請求項5に記載の高強度複相組織ステンレス鋼板の製造法。
- 前記時効処理を、200〜550℃、均熱0〜60minの範囲で行う請求項5または6に記載の高強度複相組織ステンレス鋼板の製造法。
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