JPH0860291A - 耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼 - Google Patents

耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼

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JPH0860291A
JPH0860291A JP19395494A JP19395494A JPH0860291A JP H0860291 A JPH0860291 A JP H0860291A JP 19395494 A JP19395494 A JP 19395494A JP 19395494 A JP19395494 A JP 19395494A JP H0860291 A JPH0860291 A JP H0860291A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼を提供す
る。 【構成】重量%で、C:0.50〜0.90%、Si:0.5 〜2.0
%、Mn:0.5 %未満、P: 0.015%以下、S:0.01%以
下、Cu:0.10〜1.00%、Cr: 1.5〜5.0 %、Mo:0.05〜
1.0 %、Al:0.01〜0.10%、Nb: 0.005〜0.20%、Ni:
0.05〜0.50%、V:0.01〜0.30%を含有し、かつ、Cu+
Mo≧ 0.4%を満たし、残部:Feおよび不可避的不純物か
らなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。これらの成
分に加えて更に、Zr:0.01〜0.15%、Ti:0.01〜0.10%
およびB: 0.003〜0.0050%のうちの1種以上を含有し
ていても良い。また、組織は焼入れ焼戻し組織であるこ
とが望ましい。 【効果】定期的な取り替えを前提とした140kgf/mm2以上
の引張強さを持つ機械構造用鋼を得ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、140kgf/mm2以上の引張
強さを有し、かつ、耐遅れ破壊性に優れた高張力ボルト
やPC鋼棒、更には大型機械用の高張力鋼板に使用され
る機械構造用鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、特に構造物の大型化、自動車やト
ラックおよび土木・鉱山機械などの軽量化に伴い、今ま
で以上に高強度な機械構造用鋼、特に高張力ボルトやP
C鋼棒の開発が必要とされている。
【0003】従来、一般に使用されている機械構造用鋼
は、引張強度100kgf/mm2レベルでは例えば、 0.4%C−
1.05%Cr−0.23%Moの組成を有するJIS G 4105(1989)に
規定されたSCM440の低合金鋼、引張強度130kgf/mm2レベ
ルでは、例えば、0.17%C−3%Ni− 1.6%Cr− 0.5%
Moの組成を有するJIS G 4103(1989)に規定されたSNCM61
6 の低合金鋼の熱間圧延材に焼入れ焼戻し処理を施すこ
とによって製造されている。また、引張強度174kgf/mm2
レベルのものは、上記の低合金鋼の熱間圧延材に熱処理
条件を変えて焼入れ焼戻し処理を施すことによって製造
されている。しかしこれらの機械構造用鋼を実用に供し
た場合、使用中に遅れ破壊を生じることがあるため、高
張力ボルトやPC鋼棒を始めとして自動車や土木用機械
の重要保安部品として用いるに際し、品質の安定性に欠
けることが問題となっていた。
【0004】なお、遅れ破壊とは静荷重下におかれた鋼
がある時間経過後に突然脆性的に破断する現象であり、
外部環境から鋼中に侵入した水素による一種の水素脆性
とされている。
【0005】このようなことから、上記の機械構造用鋼
においては、今のところその強度レベルを引張強さで10
0kgf/mm 2 以下にすることが実用上望ましいとされてい
る。
【0006】これに対して、上記の通常の低合金鋼より
耐遅れ破壊性の優れた鋼として、例えば、18%Ni−7.5
%Co−5%Mo− 0.5%Ti− 0.1%Alの組成を有する18%
Niマルエージング鋼があるが、極めて高価であるために
経済性の観点から用途が限られている。そこで、経済性
を考慮した高強度かつ耐遅れ破壊性に優れた構造用鋼お
よび高強度ボルト用鋼が、例えば、特開昭58−84960
号、同61−117248号、同58−157921号および同58−6121
9 号の各公報で提案されている。更に、特開平3−2437
45号公報や特開平2−145746号公報等に、各種成分を添
加して耐遅れ破壊性を改善した鋼およびその製造法が提
案されているが、靱性や水素透過性の点で必ずしも十分
とは言えない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した産業
界の要請に応えるべく、140kgf/mm2以上の引張強度を有
し、かつ耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼を提供する
ことを目的とするもので例えば、橋梁用高張力ボルト等
のように恒久的に使用するのではなくて、定期的な補修
あるいは取り替えを前提とし、一定期間内に遅れ破壊の
発生の恐れのない140kgf/mm2以上の引張強さを有する機
械構造用鋼を安価で提供することを目的とする。このよ
うな用途としては、各種構造物用高張力鋼、自動車、土
木機械、産業機械用のボルト用鋼および高張力鋼板があ
り、これらに本発明鋼を使用することによって上記の産
業界の要求に応えることができる。
【0008】すなわち、本発明は所定の期間ならば遅れ
破壊の発生する危険がなく、従って定期的な取り替えを
前提として安全に使用できる140kgf/mm2以上の引張強さ
を有する機械構造用鋼を安価で提供することを目的とし
てなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】これまでにCr含有量が低
くCuを添加した耐遅れ破壊性に優れた構造用鋼は開発さ
れているが、Cuの耐遅れ破壊性向上に対する機構の解明
は十分ではなかった。
【0010】そこで本発明者は、まずCu添加が耐遅れ破
壊性に及ぼす影響について研究した結果、Cuは腐食速度
を下げることにより水素の侵入を抑制し、遅れ破壊の原
因である水素脆化を防止することにより耐遅れ破壊性を
向上するという知見を得た。
【0011】本発明鋼はこれまでの鋼より更に強度増加
を確実にするためにCの含有量を高めた。そこで、これ
によるCuの水素侵入抑制効果の低下を防ぐため、本発明
者はCu以外に水素侵入抑制効果を持つ元素を調査した。
その結果、これまでに開発されている多くの耐遅れ破壊
性に優れた構造用鋼に添加されているMoが、水素過電圧
を下げることにより水素侵入抑制効果を示し、この効果
により遅れ破壊の原因となる水素脆化を防止して耐遅れ
破壊性を向上させることを知見した。そこで、Cuおよび
Mo以外の元素の含有量は一定として、すなわち、重量%
で、C: 0.8%、Si:1.25%、Mn:0.33%、P: 0.004
%、S: 0.006%、Cr: 1.0%、Al:0.10%、Ni:0.45
%、Nb: 0.171%、V:0.05%とし、Cuを無添加または
0.3重量%添加した鋼に水素侵入抑制機構の異なるMoを
追加添加して、更なる水素侵入抑制効果を期待したが、
図1に示すように、この化学組成の鋼に対しては顕著な
効果は得られなかった。
【0012】そこで、更に実験、研究を重ねた結果、図
2に示すように、CuとMoを複合添加し、更にCr含有量を
増加させることにより水素侵入抑制効果が飛躍的に向上
し、Cu単独添加鋼にCrを含有させた場合よりも有効であ
るという新しい知見を得た。
【0013】なお、図2の結果は、Mo添加鋼(Mo:0.50
%、C:0.81%、Si:1.26%、Mn:0.35%、P: 0.005
%、S: 0.008%、Cu: 0.3%、Cr: 3.3%、sol.Al:
0.10%、Ni:0.46%、Nb: 0.173%、V:0.05%)およ
びMo非添加鋼(Mo: 0.003%、Mo以外の化学組成は、Mo
添加鋼に同じ)でのものである。
【0014】また、これまでに低P・低S化による粒界
偏析の軽減および清浄化が耐遅れ破壊性を向上すること
が知られており、本発明鋼においてもPおよびSの含有
量を低下させて、耐遅れ破壊性の一層の向上を図った。
【0015】本発明は上記の知見に基づいてなされたも
ので、その要旨は下記(1)〜(5)の耐遅れ破壊性に
優れた機械構造用鋼にある。
【0016】(1)重量%で、C:0.50〜0.90%、Si:
0.5〜2.0 %、Mn: 0.5%未満、P: 0.015%以下、
S:0.01%以下、Cu:0.10〜1.00%、Cr: 1.5〜5.0
%、Mo:0.05〜1.0 %、Al:0.01〜0.10%、Nb: 0.005
〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、V:0.01〜0.30%を含有
し、かつ、Cu+Mo≧ 0.4%を満たし、残部は実質的にFe
および不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機
械構造用鋼。
【0017】(2)上記(1)に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.15%のZrを含有し、かつ、Cu+
Mo≧ 0.4%を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊性に優
れた機械構造用鋼。
【0018】(3)上記(1)に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.10%のTi及び0.0003〜0.0050%
のBのうちの1種以上を含有し、かつ、Cu+Mo≧ 0.4%
を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた機械構
造用鋼。
【0019】(4)上記(1)に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.15%のZr、ならびに0.01〜0.10
%のTiおよび0.0003〜0.0050%のBのうちの1種以上を
含有し、かつ、Cu+Mo≧ 0.4%を満たすことを特徴とす
る耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
【0020】(5)焼入れ焼戻し組織からなる上記
(1)〜(4)のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れ
た機械構造用鋼。
【0021】
【作用】以下に、本発明における鋼の化学組成および組
織を上記のように限定する理由について述べる。なお、
「%」は「重量%」を意味する。
【0022】(A)鋼の化学組成 C:Cは炭化物を形成し析出強度によって鋼を強化し、
また、焼入時に安定なマルテンサイト組織を生成させて
変態強度によっても鋼を強化するので高強度化する上で
必須の元素である。また、焼入性の増加および結晶の細
粒化にも有効な成分である。0.50%未満では焼入性の劣
化をきたし、また、炭化物の析出量が少なく強度を損な
う。一方、 0.90%を超える場合には、 焼入時の焼割れ感
受性が増加し、加えて鋼が著しく硬化して延性、溶接性
および加工性が低下する。従って、C量は0.50〜0.90%
とする。
【0023】Si:Siは鋼の脱酸および強度増加のために
有効な元素である。その含有量が 0.5%未満では前記作
用に所望の効果が得られず、他方その含有量が 2.0%を
超えると鋼の清浄性が損なわれ靱性が劣化する場合があ
るため、本発明ではその含有量を0.5〜2.0 %と定め
た。
【0024】Mn:Mnは脱酸のほか、焼入性向上に有効な
元素であるが、多量に含有させると粒界脆化現象が生
じ、遅れ破壊の発生を促進する。更にMnはSと結合し
て、これが割れの起点となることからも、耐遅れ破壊性
の改善のためには極力その含有量を低下させなければな
らない。従って、耐遅れ破壊性の改善を目的とする本発
明ではMnの含有量を 0.5%未満とした。なおMn含有量は
実質的に0でもよい。
【0025】P:Pはいかなる熱処理を施してもその粒
界偏析を完全に消滅することはできず、かつ粒界強度を
低下させ耐遅れ破壊性を劣化させるため、本発明では不
純物としてのPの上限を 0.015%とした。
【0026】S:Sは前述したようにMnと結合して割れ
の起点となり、更に単独でも粒界に偏析して遅れ破壊の
原因となる水素脆化を促進するため、極力その含有量を
低く制限することが必要である。したがって、本発明で
は不純物としてのS含有量を0.01%以下とした。
【0027】Cu:Cuは外部環境からの鋼中への水素侵入
を抑制すると共に、Nb、MoおよびCrと複合添加すること
よって鋼の焼戻し軟化抵抗を著しく高めることができる
ので高い焼戻し温度が取れることと相まって、耐遅れ破
壊性を向上する作用を有する。しかしその含有量が0.10
%未満ではその効果が小さく、一方、1.00%を超えて含
有させると溶接性、熱間加工性および靱性の劣化をきた
すので、本発明ではCuの含有量を0.10〜1.00%とした。
【0028】Cr:Crは鋼の焼入性を向上させ、かつ鋼に
焼戻し軟化抵抗を付与する作用がある。
【0029】特に、NbやCuとの複合添加で著しい焼戻し
軟化抵抗を鋼に付与するが、その添加量が1.50%未満で
はCuとMo複合添加による水素侵入抑制効果が発揮され
ず、耐遅れ破壊性を飛躍的に向上させることができな
い。一方、Crは高価な合金元素であるため経済性を考慮
し、本発明ではその含有量を1.50〜5.0 %と定めた。
【0030】Mo:Moは機構は異なるがCuと同様に水素侵
入抑制効果を示す。また鋼の焼入性を向上させ、かつ鋼
に焼戻し軟化抵抗を付与する作用があり、特に、Cu、N
b、Crとの複合添加で焼戻し軟化抵抗を著しく増大さ
せ、高い焼戻し温度の採用を可能にして耐遅れ破壊性の
改善に有効である。しかしその含有量が0.05%未満では
前記の効果が十分に得られず、一方、 1.0%を超えて添
加してもその効果は飽和し、コストの上昇を招くだけで
あるため、本発明ではその含有量を0.05〜1.0 %と定め
た。
【0031】Al:Alは鋼の脱酸の安定化、均質化および
細粒化を図るのに有効であるが、0.01%未満では所望の
効果を得ることができず、一方、 0.1%を超えて含有さ
せてもその効果は飽和してしまい、また介在物の増大に
より疵が発生し靱性も劣化するので、本発明ではその含
有量を0.01〜0.1 %と定めた。
【0032】Nb:Nbを添加することにより鋼における細
粒化が促進され、粒界偏析が軽減されて耐遅れ破壊性が
一段と向上する。しかし、 0.005%未満では所望の効果
が得られず、一方、0.20%を超えると強度、延性などが
損なわれる。従って、その含有量を 0.005〜0.20%とし
た。
【0033】Ni:Niは鋼の靱性を高めるのに有効である
と共に、Cuチェッキングによる熱間加工性の低下を防ぐ
効果がある。しかしその含有量が0.05%未満では前記作
用に所望の効果が得られない。一方、0.50%を超えると
その効果が飽和し、またNiは高価な合金元素であるため
経済性を考慮して本発明ではその含有量を0.05〜0.50%
とした。
【0034】V:Vの添加はNbの場合と同様に鋼の細粒
化の促進作用があり、粒界偏析の軽減により耐遅れ破壊
性を一段と向上させる。しかし、0.01%未満では所望の
効果が得られず、一方、0.30%を超えると靱性が損なわ
れる。従って、その含有量を0.01〜0.30%とした。
【0035】Cu+Mo:CuとMoの複合添加は本発明におい
て重要な要素である。これらの水素侵入抑制機構の異な
る元素を組み合わせることにより、水素侵入抑制効果は
各元素の単独添加で得られる効果を相乗的に向上させる
ことができる。しかし、図3に示すように、その合計含
有量が 0.4%未満では所望の効果が得られない。従っ
て、耐遅れ破壊性の飛躍的向上を目的とする本発明で
は、CuとMoの合計含有量を 0.4%以上とした。なお図3
で用いた鋼は、C:0.82%、Si:1.31%、Mn:0.15%、
P:0.013%、S:0.01%、Cr: 4.0%、Al: 0.015
%、Nb:0.09%、Ni: 0.009%、V:0.02%の成分のも
のでCuとMoをそれぞれ0.04〜0.31%、0.04〜0.31%の範
囲で変えて、Cu+Moの量を調整した。
【0036】本発明の耐遅れ破壊性に優れた機械構造用
鋼には、上記の成分に加えて更に、Zr、TiおよびBのう
ちの1種以上を含んでいても良い。これらの合金元素の
作用効果と望ましい含有量は下記の通りである。
【0037】Zr:Zrは鋼中に炭化物を球状微細に分散さ
せて耐遅れ破壊性を一層改善させる効果を有するため、
特に高強度鋼の場合に高い耐遅れ破壊性を確保する目的
で含有させるが、0.01%未満ではその効果が小さく、一
方、0.15%を超えて含有させると靱性劣化をきたすよう
になる。従って、Zrを添加する場合には0.01〜0.15%の
含有量とするのがよい。
【0038】TiおよびB:TiおよびBは鋼の焼入性を著
しく高めて高強度化し、かつ粒界を強化することにより
耐遅れ破壊性をいっそう改善する作用を有している。特
に製品寸法が大きい場合には高強度を確保する目的で添
加するが、それぞれTi:0.01%未満、B:0.0003%未満
では所望の効果が得られず、また、Ti、BはそれぞれT
i:0.10%、B:0.0050%を超えて含有させると、鋼の
靱性を劣化するようになる。従って、これらの合金元素
を1種以上添加する場合は、Ti:0.01〜0.10%、B:0.
0003〜0.0050%の含有量とするのがよい。
【0039】(B)鋼の組織 上記した化学組成を有する鋼であっても、140kgf/mm2
上の引張強さと良好な耐遅れ破壊性とを具備させるには
焼入れ焼戻し組織とするのが望ましい。そのための熱処
理例としては、通常の熱間圧延(加熱温度:1000〜1250
℃)を行い、圧延後、直ちにAr3点以上の温度(好まし
くは 850〜1020℃)から油や空気で焼入れするか、また
は 850〜1050℃、好ましくは 920〜1020℃に再加熱して
から油や空気で焼入れを施して低温変態生成物 (マルテ
ンサイトやベイナイト) となし、これをAc1点以下の温
度で焼戻しする処理がある。しかし、本発明鋼の組織
は、必ずしも焼入れ焼戻し(QT)組織である必要はな
い。何故ならば、本発明鋼は使用中の水素侵入量を低減
させて耐遅れ破壊性を向上させるものであるため内部組
織にそれほど依存しないからである。例えば、熱間圧延
のまま、または焼入れのまま(As Q)などの組織でも
後述の実施例に示すように、140kgf/mm2以上の引張り強
さと優れた耐遅れ破壊性を示す。
【0040】ただし、焼入れままの鋼は引張強さは高い
が、降伏点が低く機械構造用鋼として使用する場合に使
用中に応力緩和の増大が生じるという問題がある。
【0041】従って、鋼に所定の強度と耐遅れ破壊性を
付与するためには焼入れ後焼戻し処理をして、鋼の組織
を焼入れ焼戻し組織(主として焼戻しマルテンサイト組
織)とするのが望ましい。
【0042】
【実施例】次に本発明を一実施例により比較鋼と対比し
ながら説明する。なお、これらの実施例は本発明の効果
を示す例示であって、本発明の技術的範囲を何ら制限す
るものではない。まず通常の方法によって、下記表1〜
3に示す成分組成の鋼(No.1〜44)を50kg大気溶解炉に
て溶製した。鋼1〜37は本発明の組成を有しているもの
であり、鋼38〜44は表2中 *印を付した点で、本発明の
範囲から外れた組成の鋼である。また、鋼45〜47は従来
鋼であり、45はJIS G 4105(1989)のSCM440、46はJIS G
4103(1989)のSNCM616 鋼、47は特開昭58−84960 号記載
の鋼である。
【0043】鋼1〜4、8〜16、20〜24、28〜32、36〜
39、43および44は、1100〜1200℃で熱間鍛造および熱間
圧延して厚さ15mmの板材とし、 950℃に再加熱して45分
保持し油焼入れした後、 600℃で焼戻して空冷し、その
組織が焼入れ焼戻し組織で、その引張強さが140kgf/mm2
以上となるように調整して遅れ破壊性を調査した。ま
た、45〜47の従来鋼についても同様の焼入れ焼戻し処理
を行った。すなわち45、46、47についてそれぞれ 870,
900, 950℃に再加熱して45分保持した後油焼き入れし、
その後45、46は 500℃で、47は 600℃で焼戻しを施し
た。さらに、上記以外の熱間圧延まま材(No.5、17、2
5、33、40) 、焼入れまま材(No.6、18、26、34、41)
、熱間圧延後加速冷却を施した鋼(No.7、19、27、3
5、42) についても調査した。加速冷却条件は 400〜500
℃までを10〜15℃/sの冷却速度となるように水冷をし
た。
【0044】なお遅れ破壊性の調査は、定荷重試験方法
によった。すなわち、図4に示すような形状、寸法の試
験片1を図5に示すように定荷重試験機8にセットし
て、pH=2のワルポール液(塩酸と酢酸ナトリウム水溶
液の混合液)2をポンプ3で循環させた環境下で 750時
間の間重錘4で静荷重 (引張応力: 140kgf/mm2)をか
け、試験片1を陰極として対極6との間に定電流 (1mA
/cm2) を流して試験片1に水素をチャージしながら、破
断の発生の有無を観察した。試験温度は温度調節装置7
で25℃に保持した。この試験結果は表4〜6に、破断し
なかったものは○、破断したものは×で各鋼の強度レベ
ルを添えて示した。なお、図4中において数字はmmの単
位の長さを示す。
【0045】試験環境としてpH=2は、実使用環境にお
いて実現可能な最も厳しい環境に相当する。したがっ
て、この結果は実使用のうち最も厳しい環境での耐遅れ
破壊性を評価するものと考えられる。試験温度としての
25℃は遅れ破壊試験を行う上での一つの標準温度であ
る。
【0046】表4〜6より、本発明の鋼は定荷重破断時
間がいずれも 750時間を超えていることから耐遅れ破壊
性に優れていることが明らかである。また、靱性の点で
はシャルピー試験のシェルフエネルギー値が高くなって
いることから、および延性の点では高温圧縮試験の変形
必要応力が小さくなっていることから、それぞれ改善さ
れていることがわかる。
【0047】すなわち、本発明によると140kgf/mm2以上
の引張強さを有する機械構造用鋼を得ることができ、前
述したように定期補修または取り替えを前提とし、必要
な耐遅れ破壊性の程度の明確な用途の鋼には、本発明に
おける機械構造用鋼を広範囲に使用できる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【発明の効果】上記したごとく、本発明は140kgf/mm2
上の引張強さを有し、かつ耐遅れ破壊性に優れた機械構
造用鋼で、定期補修または取り替えを前提とした一定期
間内での遅れ破壊発生の恐れのない、特に高張力ボルト
やPC鋼棒、更には大型機械用の高張力鋼板に使用され
る機械構造用鋼に安価な低合金高強度鋼として提供する
ことができる産業上有効な発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Cr:1%を含有するCu添加鋼及びCu無添加鋼に
おける、Mo含有量と水素透過量との関係を示す図であ
る。
【図2】Cu:0.3 %を含有するMo添加鋼及び Mo 無添加
鋼における、Cr含有量と水素透過量との関係を示す図で
ある。
【図3】(Cr+Mo)含有量と水素透過量との関係を示す
図である。
【図4】実施例における定荷重試験で用いた試験片とノ
ッチの形状および寸法を示す図であり、(イ)は試験片
を示し、(ロ)は試験片のノッチ部の詳細を示す。
【図5】定荷重試験方法の概要を示す図である。
【符号の説明】
1:試験片、2:ワルポール液、3:ポンプ、4:重
錘、5:ポテンシオスタット、6:対極、7:温度調節
装置、8:定荷重試験機

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.50〜0.90%、Si: 0.5〜
    2.0 %、Mn: 0.5%未満、P: 0.015%以下、S:0.01
    %以下、Cu:0.10〜1.00%、Cr: 1.5〜5.0 %、Mo:0.
    05〜1.0 %、Al:0.01〜0.10%、Nb: 0.005〜0.20%、
    Ni:0.05〜0.50%、V:0.01〜0.30%を含有し、かつ、
    Cu+Mo≧ 0.4%を満たし、残部は実質的にFeおよび不可
    避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造用
    鋼。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.15%のZrを含有し、かつ、Cu+Mo≧ 0.4
    %を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物か
    らなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
  3. 【請求項3】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.10%のTi及び0.0003〜0.0050%のBのう
    ちの1種以上を含有し、かつ、Cu+Mo≧ 0.4%を満た
    し、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物からなる耐
    遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
  4. 【請求項4】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.15%のZr、ならびに0.01〜0.10%のTi及
    び0.0003〜0.0050%のBのうちの1種以上を含有し、か
    つ、Cu+Mo≧ 0.4%を満たし、残部は実質的にFeおよび
    不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造
    用鋼。
  5. 【請求項5】焼入れ焼戻し組織からなる請求項1〜4の
    いずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
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