【発明の詳細な説明】
リグノセルロース材料を脱リグニン化
するための改良された方法と組成物
発明の背景 発明の分野
本発明は製紙分野、更に詳しくは化学木材パルプのようなリグノセルロース材
料をモノ過硫酸とケトンとの混合物を用いて脱リグニン化するための方法と組成
物に関する。情報の開示
パルプは紙、板紙等の製造用原材料である。パルプは、精製された形では、レ
ーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品の原料である。パルプは
木材、藁、竹及びサトウキビの残分のような植物繊維から得られる。木材は米国
で製造されるパルプ繊維の95%の原料である。
乾燥木材はセルロース40〜50%、ヘミセルロースとして知られるその他の
多糖類15〜25%、セルロース繊維のマトリックスとして作用する生重合体で
あるリグニン20〜30%、並びに鉱物性塩、糖、脂肪、樹脂及び蛋白質のよう
なその他の物質5%より成る。リグニンは主として種々の安定な炭素−炭素結合
と炭素−酸素(エーテル)結合で連結されているメトキシ化フェニルプロパン単
量体単位から構成されるものである。針葉樹のリグニンは、明らかに、コニフェ
リルアルコール〔3−(3’−メトキシ−4’−ヒドロキシフェニル)アリルア
ルコール〕の酸化重合生成物であり、一方落葉樹のリグニンはコニフェリルアル
コールとシナピルアルコール〔3−(3’,5’−ジメトキシ−4’−ヒドロキ
シフェニル)アリルアルコール〕に由来すると考えられる。
パルプから最終的に製造される紙の強さはセルロースの化学的な完全さに依存
し、一方その色はリグニンから来ている。所望とされる選択性は低カッパー価(
ほとんど未漂白のリグニン)、高粘度の残留パルプ(長鎖セルロースはほとんど
開裂していない)の反映される。
化学パルプはリグニンを(1)水酸化ナトリウム、(2)重亜硫酸のカルシウ
ム塩、マグネシウム塩若しくはアンモニウム塩又は(3)水酸化ナトリウムと硫
化ナトリウムとの混合物(石灰と還元硫酸ナトリウムとから製造)の熱溶液を用
いて溶解させることによって製造される。ソーダーパルプ、亜硫酸パルプ又は硫
酸塩(クラフト)パルプとしてそれぞれ知られる製品は不純物を含むセルロース
より成る。その化学プロセスにおいて、ヘミセルロースもその大部分が溶解され
る。従って、化学パルプ化の収率は、典型的には、木材重量基準で40〜60%
である。砕木パルプは収率が高いことと、リグニン含量が高いことに特徴がある
。これらのパルプは、木材チップを分解するのに有意量の機械的エネルギー(粉
砕と精錬)が必要とされることから“機械的”であると称される。化学パルプは
約5%(重量基準)のリグニンを含有するが、一方砕木パルプは15%以上のリ
グニンを含有するのが一般的である。化学パルプから白色のシートを製造するた
めには、残留リグニンをほとんど全部除去しなければならない。これは、普通、
オキシダント類を使用する多段漂白で達成される。オキシダント類の幾つか〔塩
素(Cl2)、二酸化塩素(ClO2)及び次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)
は塩素を含有する。現在、漂白化学パルプのメーカーは塩素含有化学薬品の使用
を少なくし、或いは使用しないようにする方法を求めている。塩素含有化学薬品
の使用は有機塩素化合物を生成させ、それらが後に排出されることになるのであ
る。吸着性の有機ハロゲン類(AOX)の排出を制限する法令が幾つかの国で既
に制定されている。
現在商業的に使用され、又は研究段階にある代替化学薬品に酸素、オゾン、過
酸化水素及び他の過酸化物がある。酸素は塩素及び二酸化塩素より選択性が小さ
く、従って部分的なリグニンの除去に使用できるに過ぎない。セルロースは、特
にリグニン含量が低いときに、強い影響を受ける。従って、酸素処理は期間が短
いものでなければならない。
モノ過硫酸(monopersufuric acid)、即ちカロ酸(Caro's acid)とそのカロ
酸塩(caroate)アニオンには、クラフトパルプの漂白に魅力があると言う特徴
がある。即ち、1)カロ酸はH2O2より一層効率的な可溶化剤であり、2)H2
SO4はそれをH2O2から生成させるのに必要な唯一の反応体であるので、
カロ酸の値段はH2O2より最小限度高いだけであり、そして3)生成する漂白流
出液中の硫酸塩アニオンはクラフトパルプの回収系に再循環することができる。
パルプを漂白する目的でのカロ酸の使用は、米国特許第4,404,061号、
同第4,475,984号、同第4,756,800号、同第4,773,96
6号、同第5,004,523号及び欧州特許第415 149号明細書に開示
される。カロ酸及びカロ酸塩アニオンの生成反応は次式にまとめられる:
選択されたケトンはカロ酸塩と反応して、アセトンに関して反応図式A:
に示されるように、ジオキシラン中間体を形成する。
ジオキシランは酸素原子を色々な供与体化合物に転移させることができ、酸化
生成物とケトン前駆体を生成させる。〔ジェヤラマン(Jeyaraman)とミュレー
(Murray)のJ.Am.Chem.Soc.、106、2462−2463(1984)を
参
照されたい。〕
リー(Lee)(PCT出願WO91/12369)は、ジメチルジオキシラン
(DMD)がクラフトパルプの脱リグニン化に有効であることを開示する。しか
し、DMD及びアセトンは共に極めて揮発性であるので、それらはカロ酸塩/ア
セトン混合物から一緒に単離されてしまう。従って、リーによるDMDのオキシ
ダントとしての使用では、パルプを大量のアセトンで処理することが求められる
。WO91/12369では、パルプはその重量のざっと2.72〜5.28倍
のアセトンで処理された。商業的な事情で、そのような処理又は段階から出る流
出液は全てアセトンの回収系に送られなければならないだろう。その溶媒の5%
だけが回収されずに逃れるとすると、パルプ1トンにつき最低136kgのアセト
ンを二次処理で除去しなければならなくなってしまうか、又は環境に排出しなけ
ればならなくなってしまう。WO91/12369に記載される方法は、従って
、商業規模では、現在魅力がない。
かくして、塩素系漂白剤の使用を最少限に抑えるか、又は回避し、同時にそれ
自体の廃棄問題を生じさせない、化学木材パルプの漂白法の必要が存在する。
更に、リグニンを可溶化する選択性が高いが、セルロースに対しては極く少な
い影響しか及ぼさない方法と組成物の必要も存在する。
発明の概要
本発明の1つの目的は、塩素含有漂白剤の使用を回避する化学木材パルプの漂
白法を提供することである。
更なる目的は、リグニンに対して選択性で、セルロースの分解を最少限に抑え
る方法と組成物を提供することである。
更に他の目的は、廃棄問題を最少限に抑える、化学パルプを漂白するための方
法と組成物を提供することである。
更にまた他の目的は、現存する系に比較して経済的に魅力のある方法と組成物
を提供することである。
これらの及び他の目的、特徴並びに利点は本発明によって与えられる。
本発明は、1つの側面から見ると、リグノセルロース材料を脱リグニン化する
ための、特に木材パルプ、最も特定的には、クラフト木材パルプを漂白するため
の方法に関する。この方法はパルプをpH6.0〜9.5においてモノ過硫酸と式
(式中、R1及びR2は独立にアルキル及びアリールより成る群から選択されるか
、又はR1とR2が一緒になって炭素環を形成している。)
を有するケトンとの混合物に暴露することから成る。ケトンはパルプの乾燥重量
に対して1〜4%で存在するのが好ましく、ここで好ましいケトンはアセトン、
メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンであり;またpHは約7.0に保つのが
最適である。1つの態様は木材パルプのカッパー価が10以上低下され、同時に
パルプの粘度が5cp未満低下される点に特徴がある。
好ましい態様の他の側面から見ると、コンシステンシーが水中約1〜約35%
で、モノ過硫酸がパルプの乾燥重量基準で0.1〜2.0%の活性酸素を供給す
る。
本発明は、もう1つの側面から見ると、
(a)水;
(b)1リットルにつき約0.05〜約0.3モルの式:
(式中、R1及びR2は独立にアルキル及びアリールより成る群から選択されるか
、又はR1とR2が一緒になって炭素環式環を形成している。)
を有するケトン;
(c)1リットルにつき約0.0008〜約0.50モルのモノ過硫酸;及び
(d)得られる組成物のpHを約pH7〜pH約8.5に保つのに十分な緩衝剤
を組み合わせで含んで成る、リグノセルロース材料を脱リグニン化するための組
成物に関する。好ましくは、ケトンはアセトン、メチルエチルケトン及びシクロ
ヘキサノンより成る群から選択され、また緩衝剤は重炭酸ナトリウムである。
本発明は、他の側面から見ると、上記の方法で脱リグニン化されたパルプと対
応する脱リグニン化用混合物に関する。化学パルプはそのパルプ内部でジメチル
ジオキシランを生成させるアセトンとモノ過硫酸を含有していることができる。
図面の簡単な説明
図1はカロ酸塩だけの組成物とケトンを含有する本発明による組成物に関する
、パルプの重量基準での%活性酸素に対するカッパー価のグラフである。関与す
る過酸化物化合物は各々1分子につき1個の活性酸素原子を含有する。
図2は2種のケトン、即ちアセトンとメチルエチルケトン(MEK)に関する
、パルプの重量基準での%ケトン量に対するカッパー価のグラフである。
発明の詳細な説明
本発明の基礎はモノ過硫酸とケトンとの組み合わせが化学木材パルプ用の優れ
た漂白組成物と漂白法を提供すると言う発見にある。
本発明のカロ酸塩/ケトンによる脱リグニン化法は、反応図式B:
で模式的に表すことができる、幾つかの、相互に関係のある競争反応を含む。こ
こで、(1)カロ酸塩はケトンと反応してジオキシランを生成させ;(2)ジオ
キシランはリグニンと反応してそのリグニンを酸化し;(3)カロ酸塩はリグニ
ンと反応してそのリグニンを酸化し;(4)ジオキシランはカロ酸塩/リグニン
間の反応生成物と反応してリグニンを更に分解し;(5)カロ酸塩はジオキシラ
ン/リグニン間の反応生成物と反応してリグニンを更に分解し;そして(6)カ
ロ酸塩はジオキシランと反応して分子状酸素を遊離し、反応図式C:
に従ってそのジオキシランを分解する。反応図式Bの反応(1)は公知で、ジェ
ヤマンとミュレーが考察している〔J.Am.Chem.Soc.、106、2462−2
463(1984)〕。反応(2)は公知で、公開されたリーのPCT出願(W
O91/12369)の基礎である。反応(3)も公知で、上記特許の基礎であ
る。本発明の高い効率と選択性、更にはケトンの必要性の低下は反応(4)と(
5)を含む経路の従来知られていなかった実施の容易さから来ていると考えられ
る。しかし、反応(6)は生成物を生成させずにオキシダントを消費するので、
反応(4)と(5)の実施のし易さは反応(6)が抑えられるときに観察、実現
されるだけである。(反応図式Bに示されるリグニンの分解に加えて、それと並
行して同時に起こるセルロースの一連の競争分解反応が存在することを思い起こ
さなければならない。)かくして、脱リグニン化を好結果で達成する鍵は反応(
4)と(5)を利用し、そしてリグニンの、有効に酸化されたリグニンへの総転
化率を最大にする条件を発見することにある。ここで、“有効に酸化されたリグ
ニン(usefully oxidized lignin)”とは、その酸化反応と加水分解反応がセル
ロースマトリックスから洗い出される生成物(例えば、カルボン酸類)を生成さ
せるに余りあるほど十分に進行していることを意味する。純ジオキシラン法と純
カロ酸塩法の“有効に酸化された”生成物は必ずしも同じではなく、事実は、多
分お互いに相違しているのみならず、交叉型酸化反応の生成物とも相違している
だろう。有効に酸化されたリグニンに至る最も容易な経路はリグニンに対するジ
オキシランによる初期攻撃(反応式2)とそれに続く中間体のカロ酸塩による酸
化(反応式5)であると思われる。
パルプ中の残留リグニン量はそのカッパー価によって測定される。即ち、カッ
パー価の0.15倍がリグニンの重量%である。クラフト法から得られる軟材パ
ルプのカッパー価は20〜30であり;硬材パルプのそれは軟材パルプより若干
低く、10〜20である。大部分の用途にはカッパー価をできるだけ大きく下げ
ることが望ましいが、いずれにしても軟材の場合は約10以下まで、硬材の場合
は約5以下までである。同時に、所望度の強さを有する紙の製造では、セルロー
スの分解を最少限に抑えることが必要である。セルロース構造の完全さは、銅−
エチレンジアミン溶液の粘度をTAPPI標準法T230に記載される方法に従
って求めることによって測定される。クラフト法から得られる軟材パルプの粘度
はこの試験で約22〜40センチポイズ(cp)である。脱リグニン化中は粘度を
15cp以上に保つことが望ましい。ある選択性脱リグニン化法の評価基準は、従
って、粘度対カッパー価の比が高いことである。
表1の結果(パルプに対して0.47%の活性酸素を使用)はカロ酸塩が自ら
パルプのかなり効率的な脱リグニン化剤となることを示している。サウザーン・
マツ(Southern pine)のクラフトパルプを、オキシダントでパルプに対して0
.47%の活性酸素において、コンシステンシー2.67%、pH7.0〜7.5
、25℃で2時間処理し、続いてパルプに対して2%のNaOHでコンシステン
シー12%において80℃で2時間抽出した。アセトンが存在する場合、アセト
ンはパルプに対して15%であった。ジメチルジオキシラン(DMD)はカロ酸
塩より著しく有効であって、カロ酸塩単独の場合のカッパー価の低下8.3に比
較して14.7のカッパー価の低下をもたらした。本発明のカロ酸塩/ケトン混
合物による脱リグニン化度は純カロ酸塩の脱リグニン化度と純DMDの脱リグニ
ン
化度の間に来る。
本発明の組成物と方法で好ましい少量のケトンでは、ジオキシランの濃度はリ
グニン分子を完全に酸化するに十分な酸化力を提供するほど十分に高いとは考え
られない。より可能性のある考えは、低定常状態濃度のジオキシランがカロ酸塩
とはゆっくりとしか反応しないリグニン中の完全にエーテル化された芳香族構造
の酸化を開始させると言うことである。芳香核が一旦開裂されてしまうと、その
二次構造ははるかに高濃度で存在するカロ酸塩によりカルボン酸に酸化されるの
である。本発明者は、DMDがフェノール性の完全エーテル化リグニンのモデル
化合物の脱芳香族化を開始するに際して極めて有効であることを観察している。
ジオキシラン濃度がカロ酸塩/ケトンによる脱リグニン化中は低いと言う仮説
を支持する証拠は、表2に見いだすことができる。ここでは、表1に記載された
処理と同様の処理で低カッパー価のパルプがもたらされた。このパルプはサウザ
ーン・マツから修正クラフトパルプ化とそれに続く酸素による脱リグニン化で製
造されたものである。前に述べたように、アセトンはパルプに対して15%で用
いられた。もしオキシダントがセルロースを解重合させるならば、この効果は、
通常、リグニンの濃度が低下されるにつれて更に顕著になる。リグニンははるか
に反応性で、セルロースを保護するように働くのである。
DMDはパルプの粘度を有意に低下させたが、これに対してカロ酸塩単独では
それは達成されなかったことが分かる。このカロ酸塩/ケトンの結果は、酸化力
の大部分をカロ酸塩が供給し、DMDは供給しなかったことを示しているカロ酸
塩単独の結果と同様である。
上記のように、ジオキシランとカロ酸塩とを(反応4及び5に対して)酸化
に有効なレベルでなお存在させつつその両者の反応(反応6)を抑えることが、
本発明の方法の諸利点を達成することにとっては決定的に重要なことである。前
記反応図式Cの諸反応式に関し、反応C2の速度は反応C1より25倍速い。
応のpHをpH8.5以下に保つと、存在するSO5 =の量は最低になり、それによっ
てオキシダントの損失率は低下される。本発明のカロ酸塩/ケトンによる脱リグ
ニン化に及ぼすpHの影響を調べた。未処理パルプのカッパー価は27.0であっ
た。ケトンとしてアセトンを用いると、pH8.0で7.2のカッパー価(脱リグ
ニン化73%)が得られた。pHを約7.0まで下げると、カッパー価4.3(脱
リグニン化84%)のパルプが得られた。重炭酸ナトリウムがその系をpH7に緩
衝、維持するのに理想的であることが見いだされたが、炭酸ナトリウム、水酸化
ナトリウム又は酢酸ナトリウムも使用することができた。対照的に、そしてこの
処理に係わる化学についての本発明者の理解と一致するものであるが、pHがDM
Dによる脱リグニン化で果たす役割は極く小さい(表1の記載事項4及び5に注
目されたい)。
本発明の方法は、pHに敏感ではあるが、温度に対しては特に敏感であるとは思
われない。クラフトパルプ(カッパー価27.0;粘度27.7cp)のカロ酸塩
/アセトンによる脱リグニン化で10℃、25℃及び50℃の反応温度について
調べた。全ての場合に、反応は30分後に完了し、アルカリ抽出後に同等のカッ
パー価とパルプ粘度をもたらした。
過酸化物系化学薬品に基づくほとんどの脱リグニン化法は遷移金属に敏感であ
る。従って、カッパー価27.0、粘度27.7cpの軟材クラフトパルプを酸に
より洗浄し、その遷移金属を未洗浄パルプの場合と共に分析した(表3)。
これらのパルプをカロ酸塩(パルプに対して活性酸素0.94%)とアセトン
で処理したとき、アルカリ抽出後のそれらのカッパー価は同一(11.1)であ
り、またそれらの粘度はほとんど同一(未洗浄パルプで25.0cp、酸洗浄パル
プで25.4cp)であった。遷移金属の分析を行わなかった他の軟材クラフトパ
ルプでも同様の結果が得られた。驚くべきことに、クラフトパルプに通常見いだ
される濃度の遷移金属は、カロ酸塩又はカロ酸塩/ケトンによる脱リグニン化に
対して、影響があるにしても、その影響は小さいようである。しかし、このこと
はDMDによる脱リグニン化では当て嵌まらないようである。即ち、酸素−脱リ
グニン化軟材クラフトパルプ(カッパー価21.4;粘度26.9)の未洗浄試
料及び酸洗浄試料をDMD(活性酸素0.47%)と反応させたとき、カッパー
価と粘度はそれぞれ酸洗浄試料で5.5及び17.1cpであり、未洗浄試料で7
.3及び20.8cpであった。このことが示す最も可能性のあることは、未洗浄
試科中の遷移金属はDMDの酸素とアセトンへの分解を触媒し、酸化力の減損を
もたらすと言うことである。
カロ酸塩を仕込むことの脱リグニン化に対するアセトン有りとアセトン無しで
の影響を図1のプロットで示す。アセトン無しの場合、脱リグニン化はカロ酸塩
の完全消費を保証するためにコンシステンシー12%(プラスチックバッグ中で
手動混合)及び40℃で2時間で行われた。0.94%の活性酸素の仕込みでカ
ッパー価15.8(脱リグニン化41%)のパルプが生成した。カロ酸の仕込み
量を2倍にすると、カッパー価の更なる落ち込みは3単位に過ぎなかった(脱リ
グニン化53%)。本発明に従ってアセトンを加えると(コンシステンシー2.
67%、温度25℃において活性O2:0.94%)、パルプのカッパー価は1
1.1(脱リグニン化59%)となり、一方アセトンの存在下では1.88%の
活性O2は4.3のカッパー価(脱リグニン化84%)をもたらした。従って、
40%を越える脱リグニン化にはカロ酸塩/アセトンが有効であったが、これに
対してカロ酸塩単独は効果がなかった。
ケトンの性質を変えることの影響も調べた。1974年に、モントゴメリー(
Montogomery)〔J.Am.Chem.Soc.、96、7820−7821(1974)
〕がカロ酸塩によるケトン類の酸化でのジオキシラン類の現場生成について初め
て報告した。その報文で著者は、アセトン、ジ−2−ピリジルケトン、1−(4
―オキソシクロヘキシル)トリメチルアンモニウム硝酸塩、N,N−ジメチル―
4−オキソピペリジニウム硝酸塩及びシクロヘキサノンが塩化物イオンと、アニ
オン系染料であるポーラー・ブルーの酸化反応の有効な触媒であることを報告し
た。アセトンに比較して他のケトンは、しかし、それらが酸化反応を触媒する以
上にカロ酸塩の分解反応を触媒した(表4)。従って、それら他のケトンがアセ
トン(カロ酸塩と共に)と同程度に脱リグニン化するとは考えられない;しかし
、それらは酸化反応を触媒するに際してより効果的であるので、それらにはケト
ンの仕込み量がより少なくてよいと言う潜在的な利点がある(表4)。
カロ酸塩―ケトンによる脱リグニン化におけるケトン類の代表的例の試験結果
を表5に示す。その方法は初期カッパー価27.0及び粘度27.7cpの軟材ク
ラフトパルプに対して活性O2・1.88%、pH7.0〜9.0、コンシステン
シー2.67%において25℃で2時間行われた。
ケトンを仕込む立場からは、シクロヘキサノンが最も期待できそうである。コ
ンシステンシー2.67%においてパルプに対する仕込み量2.50%がアセト
ンの最低有効濃度より10倍低い0.007Mと言う水性相濃度に相当する。し
かし、カッパー価を下げることにはアセトンとMEKがシクロヘキサノンより有
効であった。ジ−2−ピリジルケトンとN,N−ジメチル-4−オキソピリジニ
ウム硝酸塩は有効ではなかった。
初期の脱リグニン化実験はパルプに対して乾燥重量で75〜100%のケトン
を用いて行われた。コンシステンシー2.67%では、アセトン又はメチルエチ
ルケトン(MEK)の仕込み量はパルプに対して最低量の15%まで下げること
ができた。クアンタム・マーク(Quantum Mark)IV反応器中でパルプのコンシ
ス
テンシーを13.9%まで上げることによって、アセトンの仕込み量を更にパル
プに対して3%まで下げることができたが、一方MEKはパルプに対して4%ま
で下げることができた(図2)。コンシステンシー2.67%において対パルプ
仕込み量15%が、コンシステンシー13.9%でのアセトン仕込み量3%で得
られる0.083Mと言う濃度とほぼ同等である0.071Mと言う水性相のア
セトン濃度に相当する。コンシステンシー25%では、0.083Mの水性相濃
度を与えるのに、パルプに対して1.44%のアセトンしか必要にならないだろ
う。パルプに対するアセトン又はMEKの3〜4%と言う仕込み量は、脱リグニ
ン化法に対して従来述べられた最低ケトン量より68倍低い。
パルプをカロ酸塩処理に先立ってカッパー価18.8まで酸素により脱リグニ
ン化したとき(pH7.0〜7.5、コンシステンシー2.67%、25℃で2時
間、活性O2・0.94%)、アセトンの添加(パルプに対して15%)でカッ
パー価が9.1から5.3まで下がった(表6)。このパルプはClO2で容易
に漂白され、それでも受けた強さの損失は最少限に過ぎなかった。カッパー価が
低く、粘度が高いこのカロ酸塩/アセトン処理パルプはオゾン及び過酸化水素に
よる最終漂白には理想的であると思われ、従って塩素含有化合物は全て排除され
るだろう。
当業者であれば、また、例証された木材クラフトパルプに加えて他の公知のリ
グノセルロース材料、好ましくはチップのような細かくされた形態のもの、又は
そのようなリグノセルロース材料から製造されたパルプに対しても、本発明の方
法を適用して同様の結果を得ることができることは認められるだろう。
好ましいリグノセルロース材料種は木質の材料、特に軟材及び硬材を含めて諸
木材であるが、パルプの製造や製紙に一般に用いられるその他のリグノセルロー
ス材料種も用いることができる。これらの非木質材料種の例は草、穀草の藁、竹
、穀類の茎、サトウキビのバガス、ケナフ、アサ、ジュート、サイザルアサ、ハ
ネガヤ、アシの茎等のような材料である。
以上、本発明を、特に、その好ましい態様を参照して示し、説明したが、当業
者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない範囲で、態様と細部に他の変更を
加え得るだろうことは理解されるであろう。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1995年1月23日
【補正内容】
7.前記木材パルプのカッパー価を10以上低下させ、同時に前記パルプの粘
度を5cp未満低下させることを更に特徴とする、請求の範囲第1項に記載の方法
。
8.前記木材パルプを前記モノ過硫酸及び前記ケトンに水中コンシステンシー
約1〜約35%において暴露することを更に特徴とする、請求の範囲第2項に記
載の方法。
9.前記モノ過硫酸が前記パルプの乾燥重量基準で0.1〜2.0%の活性酸
素を供給する、請求の範囲第1項に記載の方法。
10.次の
(a)水;
(b)1リットルにつき約0.05〜約0.3モルの式
(式中、R1及びR2は独立にアルキル及びアリールより成る群から選択されるか
、又はR1とR2とが一緒になって炭素環を形成している。)
を有するケトン;
(c)1リットルにつき約0.0008〜約0.50モルのモノ過硫酸;及び
(d)得られる組成物のpHをpH約6〜約9.5に保つのに十分な緩衝剤
を組み合わせで含んで成る、クラフトパルプの脱リグニン化用混合物。
11.前記ケトンをアセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンより成
る群から選択する、請求の範囲第10項に記載の混合物。
12.前記緩衝剤が重炭酸ナトリウムである、請求の範囲第10項に記載の混合
物。
13.請求の範囲第1項に記載の方法に従って脱リグニン化されたパルプ。
14.請求の範囲第5項に記載の方法に従って脱リグニン化されたパルプ。
15.パルプ内部でジオキシランを生成させることができる反応体を含んでいる
化学パルプにして、該反応体の1つは該化学パルプの乾燥重量に対して1〜4%
で存在しているケトンである前記化学パルプ。
16.前記反応体がアセトンとモノ過硫酸塩を含み、前記ジオキシランがジメチ
ルジオキシランである、請求の範囲第15項に記載の化学パルプ。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(72)発明者 フランシス,レイモンド,シー.
アメリカ合衆国13214 ニューヨーク州デ
ウィット,クレイグ サークル 106
(72)発明者 ニコルソン,ダニエル,ジェイ.
アメリカ合衆国13210 ニューヨーク州サ
イラキューズ,メリィランド アベニュー
860
(72)発明者 トロウトン,ニコラス エイ.
ベルギー国ビー ― 1020 ブリュッセ
ル,ブールバード エミール ボックスタ
エル 67