JPH07243528A

JPH07243528A - 摺動部材の組合せ

Info

Publication number: JPH07243528A
Application number: JP5674694A
Authority: JP
Inventors: Nobuyuki Yamashita; 信行山下; Hiroto Fukutome; 弘人福留; Tooru Sakono; 徹硲野
Original assignee: Teikoku Piston Ring Co Ltd
Current assignee: Teikoku Piston Ring Co Ltd
Priority date: 1994-03-02
Filing date: 1994-03-02
Publication date: 1995-09-19

Abstract

(57)【要約】【目的】一方の摺動部材が鋼からなる溶射皮膜を摺動
面に有するものであって、優れた摺動特性を発揮する摺
動部材の組合せを提供する。【構成】シリンダライナ１は内周面に溶射皮膜６が形
成されており、溶射皮膜６は重量％でＣ０．２５〜２．
２％、Ｃｒ，Ｍｏ，Ｗ，Ｖの一種または二種以上を０．
６〜１３．０％含む鋼からなり、硬度がＨＶ３３０〜７
５０である。溶射皮膜６上にはさらに初期なじみ性等を
目的として短時間で摩耗する薄い軟質皮膜９を被覆して
もよい。ピストンリング５の外周面にはＰＶＤ法によっ
て窒化クロム皮膜または窒化チタン皮膜の硬質皮膜７を
被覆する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、摺動部材の組合せに関
し、例えば内燃機関のピストンリングとシリンダライナ
の組合せに適用して有効である。

【０００２】

【従来の技術】内燃機関用シリンダライナは一般的に鋳
鉄で作られている。最近、シリンダライナを鋳鉄製から
鋼製に変えることが検討されている。これはシリンダラ
イナ素材の製造工程を鋳造から塑性加工に変えること、
およびエンジンの軽量化、小型化、高性能化が可能とな
るからである。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】これらの試みは、以下
のように２種類に分けることができる。第１は、鋳鉄製
シリンダライナの表面処理として実績のある硬質Ｃｒめ
っき、溶射、あるいは窒化処理等を、鋼製シリンダライ
ナの内周面に施すものである。前記表面処理のうち、比
較的生産性の高いのは溶射である。シリンダライナ用の
溶射材料として従来知られているものはセラミックス、
モリブデン、高炭素フェロクロム、Ｎｉ基自溶性合金等
であるが、これらはいずれも高価である欠点を有してい
る。

【０００４】したがって、溶射材料は安価な鋼を使用
し、この鋼からなる溶射皮膜と摺動特性において相性の
よいピストンリング側の表面処理の組合せを発見できれ
ば、実用的ですぐれた摺動部材の組合せを実現できる。

【０００５】第２は、特定の組成を有する鋼を表面処理
しないでシリンダライナとし、このシリンダライナと、
特定の摺動面を有するピストンリングとを組み合わせる
ことにより、耐摩耗性、耐焼き付き性を得ようとするも
のである。この種の試みはこれまで極めて少なく、また
十分な成果を得ていないが、例として特開昭５８−２７
８６０号が挙げられる。

【０００６】しかしながら、特開昭５８−２７８６０号
のピストンリングとシリンダライナの組合せは、従来の
硬質Ｃｒめっきを行ったピストンリングと鋳鉄製のシリ
ンダライナとの組合せに比べると、耐焼き付き性、耐摩
耗性が劣る欠点がある。

【０００７】本発明の目的は、一方の摺動部材が安価な
鋼からなる溶射皮膜を摺動面に有するものであって、優
れた摺動特性を発揮する摺動部材の組合せを提供するこ
とである。

【０００８】

【課題を解決するための手段】本発明者は、第１部材に
施す皮膜としてＰＶＤ処理による窒化クロム皮膜、窒化
チタン皮膜を選び、種々の組成を有している鋼材を第２
部材として摩耗試験を行った。そして、炭化物生成元素
の含有量が少ない鋼種の中に優れた摺動特性を示すもの
を見出した。本発明者はこの知見を基に各種の鋼の溶射
材と、ＰＶＤ処理による窒化クロム皮膜、窒化チタン皮
膜との摩耗試験を行って、本発明を完成した。

【０００９】本発明は、互いに摺動する第１部材と第２
部材からなる摺動部材の組合せであって、前記第１部材
が窒化クロム皮膜または窒化チタン皮膜を摺動面に有
し、前記第２部材が溶射皮膜を摺動面に有し、前記溶射
皮膜が重量％でＣ０．２５〜２．２％、Ｃｒ，Ｍｏ，
Ｗ，Ｖの一種または二種以上を０．６〜１３．０％含む
鋼からなり、硬度がＨＶ（ビッカース硬さ）３３０〜７
５０であることを特徴とする。

【００１０】溶射皮膜の厚さは５０〜３００μｍの範囲
でよい。なお、より好ましい範囲は５０〜１５０μｍで
ある。また、溶射皮膜は１μｍ以上のポアの面積率が１
〜１２％の範囲が好ましい。なお、より好ましい範囲は
１〜５μｍのポアの面積率が３〜９％の範囲である。こ
れは、ポアが潤滑油溜まりとなって摩耗を低減するから
である。

【００１１】上記第２部材の溶射皮膜上に、さらに、初
期なじみ性等を目的として短時間で摩耗する軟質皮膜を
被覆してもよい。軟質皮膜としてはリン酸塩皮膜、ある
いは固体潤滑材を含有する耐熱性樹脂皮膜等が使用され
る。軟質皮膜の厚さは０．５〜５．０μｍの範囲でよ
い。なお、より好ましい範囲は０．５〜３．０μｍであ
る。

【００１２】窒化クロム皮膜の厚さは１０〜７０μｍ、
窒化チタン皮膜の厚さは２〜２０μｍの範囲でよい。な
お、より好ましい範囲は、窒化クロム皮膜の厚さは２０
μｍ以上、５０μｍ以下、窒化チタン皮膜の厚さは２〜
７μｍである。

【００１３】また、窒化クロム皮膜の硬度はＨＶ１６０
０〜２２００、窒化チタン皮膜の硬度はＨＶ１８００〜
３０００の範囲がよい。なお、より好ましい範囲は、窒
化クロム皮膜の硬度はＨＶ１８００〜２２００、窒化チ
タン皮膜の硬度はＨＶ１８００〜２４００である。

【００１４】第２部材の母材は炭素鋼またはアルミニウ
ム合金等が用いられる。

【００１５】

【作用】第２部材の溶射皮膜の炭化物生成元素（Ｃｒ，
Ｍｏ，Ｗ，Ｖ）の含有量は、０．６％以上が耐摩耗性の
点で好ましく、１３．０％以下が耐焼き付き性の点で好
ましい。なお、より好ましい範囲は０．９％以上、８．
０％以下である。

【００１６】第２部材の溶射皮膜のＣ含有量は、０．２
５％以上が耐摩耗性の点で好ましく、２．２％以下が皮
膜靱性の点で好ましい。なお、より好ましい範囲は０．
３％以上、１．１％以下である。

【００１７】第２部材の溶射皮膜の硬度は、ＨＶ３３０
以上が耐摩耗性および耐焼き付き性の点で好ましく、Ｈ
Ｖ７５０以下が皮膜靱性の点で好ましい。なお、より好
ましい範囲はＨＶ４００以上、ＨＶ６００以下である。

【００１８】溶射皮膜に含まれているポアや酸化物が摩
耗を減らす作用を果たしている。

【００１９】

【実施例】以下、本発明の効果を確認した往復動摩耗試
験について説明する。表１と表２は第２部材の溶射材料
（鋼）の組成を示し、表３は溶射条件を示し、表４と表
５は第２部材の熱処理条件と表面硬度を示し、表６は第
１部材の表面処理の条件を示す。

【００２０】

【００２１】注：比較例１は鋳鉄であり、他の成分はＰ０．２％、Ｓ
０．０３％、Ｃｕ０．４％である。

【００２２】（ＨＶＯＦ溶射）：ＨｉｇｈＶｅｌｏｃｉｔｙＯｘｙ−ＦｕｅｌＳ
ｐｒａｙｉｎｇ

【００２３】

【００２４】注：比較例１の硬度の単位はＨＲＢ（ロックウェル硬
さ）である。

【００２５】注：ＰＶＤ法による窒化クロム皮膜と窒化チタン皮膜の
下地として、予め試験片が窒化処理されて、窒化層（表
面の硬くて脆い層は研磨除去される。）が形成される。

【００２６】図２に往復動摩擦試験機の概略を示す。図
２において、１０は板状の試験片で、試験台１１上に載
置固定され、試験片１０の上面にピン状の試験片１２の
先端が油圧ユニット１３によって押接される。この状態
で、試験台１１がクランク機構１４により水平面内を往
復動されることにより摩耗試験が行われる。１５は油圧
荷重の表示計、１６は摩擦力を検出するロードセル、１
７は検出した摩擦力を記録する記録計である。

【００２７】本試験では、第１部材としてのピン状試験
片１２は、材質がマルテンサイト系ステンレス鋼（ＳＵ
Ｓ４２０Ｊ２）で、先端がＲ１８ｍｍの球状に加工され
ており、表６に示す条件で各種の表面処理を施し、仕上
加工を行った。第２部材としての板状試験片１０は、材
質が炭素鋼（Ｓ４５Ｃ）で、寸法が１７×１４×７０
（ｍｍ）であり、片方の表面（摺動面）に表１および表
２に示す種々の組成の鋼材料を表３に示す溶射条件で溶
射した。溶射後、表４および表５に示す条件で熱処理を
施して硬度の調整を行った。最後に摺動面の仕上加工を
行った。

【００２８】試験条件は表７に示す。

【００２９】

【００３０】以上の条件で往復動摩耗試験を行った後、
両試験片１０，１２の摩耗量を計測して、表８、表９、
表１０および表１１に示す結果を得た。

【００３１】

【００３２】

【００３３】注：比較例１の硬度の単位はＨＲＢ（ロックウェル硬
さ）である。

【００３４】注：比較例１の硬度の単位はＨＲＢ（ロックウェル硬
さ）である。

【００３５】本試験の結果は以下のように要約される。

【００３６】１．本発明の実施例は、比較例１（第１部
材の表面処理：硬質Ｃｒめっき、第２部材の溶射皮膜材
料：鋳鉄）に比べて、優れた耐摩耗性を有している。

【００３７】２．本発明の実施例の中では、炭化物形成
元素を多く含有している方が自身の耐摩耗性がよい。

【００３８】３．比較例６および７（第１部材の表面処
理：窒化クロム皮膜、窒化チタン皮膜、第２部材の溶射
皮膜材料：Ｃｒを多量に含んでいる鋼）は、本発明の実
施例に比べて耐焼き付き性が悪い。

【００３９】４．比較例１０，１１，１２および１３
（第１部材の表面処理：硬質Ｃｒめっき、第２部材の溶
射皮膜材料：本発明の範囲内）は、硬質Ｃｒめっきの摩
耗量が増加しあるいは焼き付きが生じる。

【００４０】５．比較例２および３（第１部材の表面処
理：窒化クロム皮膜、窒化チタン皮膜、第２部材の溶射
皮膜材料：Ｃ量が本発明の範囲外）は、本発明の実施例
に比べると、第２部材の摩耗量が多い。

【００４１】６．比較例４および５（第１部材の表面処
理：窒化クロム皮膜、窒化チタン皮膜、第２部材の溶射
皮膜材料：炭化物生成元素の量が本発明の範囲外）は、
本発明の実施例に比べると、第２部材の摩耗量が多い。

【００４２】７．第２部材の表面硬度が低硬度では第２
部材の摩耗量が増加する（実施例３と比較例９参照）。

【００４３】図１は本発明をピストンリングとシリンダ
ライナに適用した例を示す。図１（ａ）において、シリ
ンダライナ１がシリンダブロック２のボアに挿入固定さ
れ、シリンダライナ１にピストン３が挿入されている。
ピストン３に形成されているピストンリング溝４にはピ
ストンリング５が装着されており、シリンダライナ１の
内周面にピストンリング５の外周面が接触している。ピ
ストンリング５の材質は鋼、鋳鉄、チタン、あるいはチ
タン合金等で、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼が
使用される。

【００４４】シリンダライナ１は母材が炭素鋼やアルミ
ニウム合金等で、例えば炭素鋼からなり、内周面には例
えば上記摩耗試験で示した実施例１〜１４のいずれかに
記載の鋼からなる溶射皮膜６が形成されている。溶射皮
膜６に含まれているポアや酸化物が摩耗を減らす作用を
果たすため、溶射皮膜６の材料と同じ成分組成の鋼材料
を使用してシリンダライナを一体形成した場合に比較し
て、耐摩耗性がよい。したがって、シリンダライナ１の
母材を炭素鋼とすれば、加工が容易でかつ安価に製造で
き、高強度で薄肉、軽量、小型の摺動特性に優れたシリ
ンダライナを提供できる。また、シリンダライナ１の母
材をアルミニウム合金とすれば、高強度、軽量で摺動特
性に優れたシリンダライナを提供できる。

【００４５】ピストンリング５の外周面には、例えば上
記摩耗試験で示した窒化クロム皮膜あるいは窒化チタン
皮膜の硬質皮膜７がＰＶＤ法によって被覆されている。
なお、硬質皮膜７の下地として、ピストンリング５には
予め窒化処理が施されて窒化層８（表面の硬くて脆い層
は研磨除去される。）が形成されている。

【００４６】図１（ｂ）は図１（ａ）のものとは、シリ
ンダライナ１の内周面の溶射皮膜６上に初期なじみ性等
を目的として短時間で摩耗する薄い軟質皮膜９（膜厚：
０．５〜５．０μｍ）がさらに被覆されている点で相違
し、他の構成は同一である。

【００４７】軟質皮膜９を形成する表面処理としては、
リン酸塩処理や、グラファイト、ＭｏＳ₂、四ふっ化エ
チレン等の固体潤滑材を含有したポリイミド樹脂等の耐
熱性樹脂被覆等が使用される。

【００４８】なお、溶射皮膜はＨＶＯＦ溶射によって形
成するに限らず、プラズマ溶射やアーク溶射等によって
形成してもよい。

【００４９】なお、本発明は摺動部材の組合せとしてピ
ストンリングとシリンダライナの組合せに限ることはな
く、互いに摺動する他の摺動部材の組合せに適用するこ
とができることはいうまでもない。

【００５０】

【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、優
れた摺動特性を発揮する摺動部材の組合せを提供でき
る。

【００５１】そして、本発明をピストンリングとシリン
ダライナとに適用すれば、シリンダライナを安価で、し
かも高強度で薄肉、軽量、小型化することが可能にな
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明をピストンリングとシリンダライナに適
用した例を示し、（ａ）、（ｂ）ともエンジンのピスト
ン部分の一部分を示す縦断面図である。

【図２】往復動摩擦試験機の概略を示す図である。

【符号の説明】

１シリンダライナ２シリンダブロック３ピストン４ピストンリング溝５ピストンリング６溶射皮膜７硬質皮膜８窒化層９軟質皮膜１０、１２試験片１１試験台１３油圧ユニット１４クランク機構１５油圧荷重表示計１６ロードセル１７記録計

Claims

【特許請求の範囲】

【請求項１】互いに摺動する第１部材と第２部材から
なる摺動部材の組合せであって、前記第１部材が窒化クロム皮膜または窒化チタン皮膜を
摺動面に有し、前記第２部材が溶射皮膜を摺動面に有し、前記溶射皮膜
が重量％でＣ０．２５〜２．２％、Ｃｒ，Ｍｏ，Ｗ，Ｖ
の一種または二種以上を０．６〜１３．０％含む鋼から
なり、硬度がＨＶ３３０〜７５０であることを特徴とす
る摺動部材の組合せ。
【請求項２】前記溶射皮膜は厚さが５０〜３００μｍ
であり、１μｍ以上のポアの面積率が１〜１２％である
ことを特徴とする請求項１記載の摺動部材の組合せ。
【請求項３】前記第２部材の溶射皮膜上に、さらに、
軟質皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項１ま
たは２記載の摺動部材の組合せ。
【請求項４】前記軟質皮膜がリン酸塩皮膜、あるいは
固体潤滑材を含有する樹脂皮膜であることを特徴とする
請求項３記載の摺動部材の組合せ。
【請求項５】前記軟質皮膜の厚さが０．５〜５．０μ
ｍであることを特徴とする請求項３または４記載の摺動
部材の組合せ。
【請求項６】前記窒化クロム皮膜の厚さが１０〜７０
μｍ、硬度がＨＶ１６００〜２２００であることを特徴
とする請求項１〜５のいずれかに記載の摺動部材の組合
せ。
【請求項７】前記窒化チタン皮膜の厚さが２〜２０μ
ｍ、硬度がＨＶ１８００〜３０００であることを特徴と
する請求項１〜５のいずれかに記載の摺動部材の組合
せ。
【請求項８】前記第１部材がピストンリングであり、
第２部材がシリンダライナであることを特徴とする請求
項１〜７のいずれかに記載の摺動部材の組合せ。
【請求項９】前記シリンダライナの母材が炭素鋼また
はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項８記
載の摺動部材の組合せ。