以下、実施形態によるサスペンション制御装置を、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
まず、図1ないし図9は本発明の第1の実施形態を示している。車体1は、車両のボディを構成する。車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられ、この車輪2はタイヤ3を含んで構成される。このとき、タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
サスペンション装置4は、車体1と車輪2との間に介装して設けられる。このサスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、ばね5という)と、ばね5と並列になって車体1と車輪2との間に設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、緩衝器6という)とにより構成される。なお、図1中では1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を例示している。しかし、サスペンション装置4は、例えば4輪の車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられるもので、このうちの1組のみを図1では模式的に図示している。
ここで、サスペンション装置4の緩衝器6は、力発生機構であり、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。そして、この緩衝器6には、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなるアクチュエータ7が付設される。なお、減衰力調整バルブは、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。また、緩衝器6は、圧力制御タイプでもよく、流量制御タイプでもよい。
ばね上加速度センサ8は、車体1に設けられる。ばね上加速度センサ8は、上下加速度を検出する上下加速度検出手段を構成している。具体的には、ばね上加速度センサ8は、例えば緩衝器6の近傍となる位置で車体1に取付けられる。ばね上加速度センサ8は、所謂ばね上側となる車体1側で上下方向の振動加速度である上下加速度を検出する。ばね上加速度センサ8は、ばね上側の上下加速度センサ値をコントローラ12に出力する。
ばね下加速度センサ9は、車両の車輪2側に設けられる。ばね下加速度センサ9は、所謂ばね下側となる車輪2側で上下方向の振動加速度である上下加速度を検出する。ばね下加速度センサ9は、ばね下側の上下加速度センサ値をコントローラ12に出力する。
このとき、ばね上加速度センサ8およびばね下加速度センサ9は、車両の上下方向の運動に関する状態を検出する上下運動検出手段を構成する。なお、上下運動検出手段は、緩衝器6の近傍に設けたばね上加速度センサ8およびばね下加速度センサ9に限らず、例えば、ばね上加速度センサ8のみでもよく、また、車高センサでもよく、さらには、車体にばね上加速度センサ8を1個設け、車輪速センサ等の他のセンサ情報で、各車輪毎の上下運動を推定することで検出するようにしてもよい。
横加速度センサ10および前後加速度センサ11は、いずれも車体1に設けられる。横加速度センサ10は、車体1側で左右方向の加速度である横加速度を検出する。横加速度センサ10は、横加速度検出値となる横加速度センサ値をコントローラ12に出力する。前後加速度センサ11は、車体1側で前後方向の加速度である前後加速度を検出する。前後加速度センサ11は、前後加速度検出値となる前後加速度センサ値をコントローラ12に出力する。
コントローラ12は、例えばマイクロコンピュータ等からなり、加速度センサ8~11等の検出結果に基づいて緩衝器6で発生する減衰力を制御する制御手段を構成している。コントローラ12の入力側は、加速度センサ8~11等に接続されている。コントローラ12の出力側は、緩衝器6のアクチュエータ7等に接続されている。また、コントローラ12は、ROM、RAM等からなる記憶部12Aを有している。
コントローラ12の記憶部12Aには、図5に示す相対速度V2に基づいて最大減衰係数Cmaxを出力する最大減衰係数マップ19と、図6に示す補正減衰係数Ca、相対速度V2と指令電流値Iとの関係を示す減衰係数マップ21とが格納されている。
図2に示すように、コントローラ12は、積分器13,14、減算器15、目標減衰力演算器16、減衰力制限器17、減衰係数演算器18、最大減衰係数マップ19、最小値選択器20、減衰係数マップ21を備えている。
これに加え、コントローラ12は、横加速度分補正上下加速度算出部22(以下、横G補正部22という)、前後加速度分補正上下加速度算出部23(以下、前後G補正部23という)、上下加速度補正部24を備えている(図2、図3参照)。
コントローラ12の積分器13には、ばね上加速度センサ8からの検出結果(上下加速度センサ値)が横G補正部22、前後G補正部23等によって補正された補正上下加速度が入力される。コントローラ12の積分器13は、補正上下加速度を積分することによって、車体1の上下方向に対する速度となるばね上速度V1を演算する。このため、ばね上加速度センサ8と積分器13によって車体側上下速度検出手段が構成されると共に、積分器13は、車体側上下速度となるばね上速度V1を出力する。
一方、減算器15は、ばね上の補正上下加速度からばね下加速度センサ9によるばね下の上下加速度を減算し、ばね上加速度とばね下加速度との差分を演算する。このとき、この差分値は、車体1と車輪2との間の相対加速度に対応する。そして、積分器14は、減算器15から出力された相対加速度を積分し、緩衝器6のばね上とばね下との間の相対速度として、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度V2を演算する。このため、ばね上加速度センサ8、ばね下加速度センサ9、減算器15および積分器14によって相対速度検出手段が構成されると共に、積分器14は、相対速度V2を出力する。
目標減衰力演算器16は、ばね上速度V1に基づいて緩衝器6に発生させる目標減衰力DFを出力する。この目標減衰力DFは、例えばスカイフック制御理論より求められる。具体的には、以下の数1の式に示すように、目標減衰力演算器16は、スカイフック制御理論より求めたスカイフック減衰係数Cskyとばね上速度V1とを乗算して目標減衰力DFを算出する。なお、目標減衰力演算器16は、スカイフック制御理論に限らず、例えば双線形最適制御(BLQ制御)に基づいて、目標減衰力を算出してもよい。
減衰力制限器17は、目標減衰力DFの最大値を正の値と負の値でそれぞれ独立に制限する。図4に示すように、ばね上速度V1が正側の場合、目標減衰力DFが予め決められた正側のしきい値DFtよりも小さい(DF<DFt)ときには、減衰力制限器17は、目標減衰力DFと同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力し、目標減衰力DFがしきい値DFtよりも大きい(DF≧DFt)ときには、減衰力制限器17は、しきい値DFtと同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力する。
同様に、ばね上速度V1が負側の場合、目標減衰力DFが予め決められた負側のしきい値(-DFt)よりも大きい(DF>-DFt)ときには、減衰力制限器17は、目標減衰力DFと同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力し、目標減衰力DFがしきい値(-DFt)よりも小さい(DF≦-DFt)ときには、減衰力制限器17は、しきい値(-DFt)と同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力する。
即ち、目標減衰力DFの絶対値がしきい値DFtの絶対値よりも小さい(|DF|<|DFt|)ときには、減衰力制限器17は、目標減衰力DFと同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力し、目標減衰力DFの絶対値がしきい値DFtを超えた(|DF|≧|DFt|)ときには、減衰力制限器17は、しきい値(±DFt)と同じ値の制限目標減衰力DFlimを出力する。このとき、しきい値DFtは、緩衝器6で発生可能な減衰力よりも小さい値に設定されている。このため、減衰力制限器17は、緩衝器6で発生可能な減衰力よりも制限目標減衰力DFlimを小さく設定する。
なお、しきい値DFtは、相対速度V2の正側と負側で同じ値に設定してもよく、緩衝器6の減衰力特性等を考慮して相対速度V2の正側と負側で互いに異なる値に設定してもよい。
減衰係数演算器18は、制限目標減衰力DFlimと相対速度V2に基づいて目標減衰係数Cを算出する。具体的には、以下の数2の式に示すように、減衰係数演算器18は、制限目標減衰力DFlimから相対速度V2を除算して目標減衰係数Cを算出する。
この場合、目標減衰力演算器16、減衰力制限器17および減衰係数演算器18は、加速度センサ8,9の検出結果に基づき目標減衰係数Cを算出する目標減衰係数算出手段を構成している。
最大減衰係数マップ19は、相対速度V2と最大減衰係数Cmaxとの関係を示した特性線19Aを備え、相対速度V2に基づいて最大減衰係数Cmaxを出力する。このとき、最大減衰係数Cmaxは、緩衝器6で発生可能な減衰係数の最大値を超えない範囲の値に設定されている。図5に示すように、最大減衰係数Cmaxは、相対速度V2が所定のしきい値Vtよりも低速なときには小さい値に設定され、相対速度V2がしきい値Vtよりも高速なときには大きい値に設定される。
具体的には、相対速度V2がしきい値Vtよりも低速なとき(-Vt<V2<Vt)には、最大減衰係数Cmaxは、小さい値の低速設定値C1に設定される。一方、伸び側(正側)の相対速度V2がしきい値Vtよりも高速なとき(V2>Vt)には、最大減衰係数Cmaxは、低速設定値C1よりも大きい値の高速設定値C2に設定される。同様に、縮み側(負側)の相対速度V2がしきい値Vtよりも高速なとき(V2<-Vt)には、最大減衰係数Cmaxは、低速設定値C1よりも大きい値の高速設定値C3に設定される。
相対速度V2がしきい値Vtに近い値となるときには、最大減衰係数Cmaxは、低速設定値C1と高速設定値C2との間の値に設定してもよい。同様に、相対速度V2がしきい値(-Vt)に近い値となるときには、最大減衰係数Cmaxは、低速設定値C1と高速設定値C3との間の値に設定してもよい。
高速設定値C2,C3は、緩衝器6の構造、仕様、減衰力特性等を考慮して適宜設定される。また、低速設定値C1および高速設定値C2,C3は、いずれも一定値である場合を例示したが、相対速度V2に応じて変化する構成としてもよい。
なお、しきい値Vtは、例えばジャークの発生状況を考慮して実験的に得られるものであり、緩衝器6の構造、減衰力特性等に応じて適宜設定される。また、しきい値Vtは、相対速度V2の正側と負側で同じ値に設定してもよく、相対速度V2の正側と負側で互いに異なる値に設定してもよい。
最小値選択器20は、減衰係数演算器18から出力される目標減衰係数Cと最大減衰係数マップ19から出力される最大減衰係数Cmaxとを比較し、これらの係数C,Cmaxのうちで小さい方の値を選択し、補正減衰係数Caとして出力する。このため、最小値選択器20および最大減衰係数マップ19は、相対速度V2が低速なときに目標減衰係数Cの上限を低下させた補正減衰係数Caを算出する補正手段を構成している。
減衰係数マップ21は、制御信号出力手段を構成し、補正減衰係数Caに対応した制御信号としての指令電流値Iを出力する。図6に示すように、減衰係数マップ21は、補正減衰係数Caと指令電流値Iとの関係を相対速度V2に従って可変に設定するもので、発明者等による試験データに基づいて作成されたものである。そして、減衰係数マップ21は、最小値選択器20からの補正減衰係数Caと積分器14からの相対速度V2とに基づいて、緩衝器6の減衰力特性を調整するための指令電流値Iを特定し、この指令電流値Iを緩衝器6のアクチュエータ7に出力する。
また、減衰係数マップ21は、減衰力調整式緩衝器をスカイフック理論に適合させるように緩衝器6を制御するための制御信号(指令電流値I)を出力する。この減衰係数マップ21は、図6中に実線で示されるハード側の特性線21Aと、図6中に破線で示されるソフト側の特性線21Bとを有する。このとき、ハード側の特性線21Aは、ソフト側の特性線21Bよりも補正減衰係数Caが大きい範囲に配置されている。
そして、相対速度V2と補正減衰係数Caが入力されると、減衰係数マップ21中で補正減衰係数Caと相対速度V2との交点を求める。この交点がハード側の特性線21Aよりも補正減衰係数Caが大きい範囲に配置されるときには、指令電流値Iを大きくして減衰力特性をハードな特性に設定する。一方、交点がソフト側の特性線21Bよりも補正減衰係数Caが小さい範囲に配置されるときには、指令電流値Iを小さくして減衰力特性をソフトな特性に設定する。さらに、交点がハード側の特性線21Aとソフト側の特性線21Bの間の範囲に配置されるときには、指令電流値Iを補正減衰係数Caに応じて調整し、減衰力特性をハードとソフトの中間の特性に設定する。
以上により、緩衝器6の発生減衰力は、アクチュエータ7に供給された指令電流値Iに従ってハードとソフトとの間で連続的、または複数段で可変に調整される。
次に、横G補正部22、前後G補正部23等によってばね上加速度センサ8の検出結果(上下加速度センサ値)を補正する補正処理部分の構成について、図3を参照して説明する。
横G補正部22は、ロール角算出部を有している。ここで、横加速度上下成分は、以下の数3の式により求めることができる。
ロール角が十分に小さい値である場合には、正弦関数の近似式(sin(φ)≒φ)が成り立つ。このため、sin(|ロール角[rad]|)≒|ロール角[rad]|とする。これにより、横加速度上下成分は、以下の数4の式で表すことができる。
そこで、横G補正部22は、数4の式に基づいて横加速度上下成分を演算する。このとき、横G補正部22は、二乗演算器22A、変換係数乗算器22B、重力加速度除算器22Cを備えている。二乗演算器22Aは、横加速度の二乗を演算する。変換係数乗算器22Bは、二乗演算器22Aからの出力値(横加速度の二乗値)に対して、係数KAy2Rollを乗算する。このとき、係数KAy2Rollは、横加速度ロール角変換係数に(π/180)を乗算した値になっている。重力加速度除算器22Cは、変換係数乗算器22Bからの出力値に対して、(-1)を乗算すると共に、重力加速度gを除算する。ロール角算出部は、横加速度と係数KAy2Rollを乗算し、重力加速度gを除算する部分によって構成されている。
前後G補正部23は、ピッチ角算出部を有している。ここで、前後加速度上下成分は、以下の数5の式により求めることができる。
ピッチ角が十分に小さい値である場合には、正弦関数の近似式(sin(θ)≒θ)が成り立つ。このため、sin(|ピッチ角[rad]|)≒|ピッチ角[rad]|とする。これにより、前後加速度上下成分は、以下の数6の式で表すことができる。
そこで、前後G補正部23は、数6の式に基づいて横加速度上下成分を演算する。このとき、前後G補正部23は、二乗演算器23A、変換係数乗算器23B、重力加速度除算器23Cを備えている。二乗演算器23Aは、前後加速度の二乗を演算する。変換係数乗算器23Bは、二乗演算器23Aからの出力値(前後加速度の二乗値)に対して、係数KAx2Pitchを乗算する。このとき、係数KAx2Pitchは、前後加速度ピッチ角変換係数に(π/180)を乗算した値になっている。重力加速度除算器23Cは、変換係数乗算器23Bからの出力値に対して、(-1)を乗算すると共に、重力加速度gを除算する。ピッチ角算出部は、横加速度と係数KAx2Pitchを乗算し、重力加速度gを除算する部分によって構成されている。
上下加速度補正部24は、ばね上加速度センサ8による上下加速度検出値(上下加速度センサ値)と、横G補正部22で求めたロール角と、前後G補正部23で求めたピッチ角と、を用いて上下加速度検出値を補正する。上下加速度補正部24は、加算器24Aと減算器24Bとを備えている。なお、上下加速度補正部24は、加算器24Aの加算機能と減算器24Bの減算機能とを両方備えた単一の演算器によって構成されていてもよい。
加算器24Aは、横加速度上下成分と前後加速度上下成分を加算する。減算器24Bは、ばね上加速度センサ8が検出した上下加速度から横加速度上下成分と前後加速度上下成分との加算値を減算する。これにより、減算器24Bは、ばね上加速度センサ8が検出した上下加速度を横加速度および前後加速度に応じて補正した補正上下加速度を出力する。
第1の実施形態による車両用サスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ12を用いて緩衝器6の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
コントローラ12には、車両の走行時にばね上加速度センサ8からばね上(車体1)側の上下方向の振動加速度の検出結果(上下加速度センサ値)が入力されると共に、ばね下加速度センサ9からばね下(車輪2)側の上下方向の振動加速度の検出結果(上下加速度センサ値)が入力される。
このとき、コントローラ12は、得られた情報から乗り心地制御処理を行い、目標減衰係数Cと相対速度V2を算出する。コントローラ12の最大減衰係数マップ19は、相対速度V2に対応した最大減衰係数Cmaxを出力する。コントローラ12の最小値選択器20は、目標減衰係数Cと最大減衰係数Cmaxのうち小さい値を選択し、補正減衰係数Caとして出力する。減衰係数マップ21は、補正減衰係数Caと相対速度V2とに応じた指令電流値Iを算出する。指令電流値Iは、緩衝器6のアクチュエータ7に入力され、アクチュエータ7の駆動が制御される。これにより、緩衝器6の減衰力特性は、ハードな特性(硬特性)とソフトな特性(軟特性)との間で可変となって連続的に制御される。
第1の実施形態では、目標減衰力DFと相対速度V2に基づいて目標減衰係数Cを算出すると共に、この目標減衰係数Cを相対速度V2に応じて補正し、補正減衰係数Caを算出する。補正減衰係数Caは、相対速度V2が低速な領域において、目標減衰係数Cの上限を低下させる。この補正減衰係数Caに対応して指令電流値Iを算出する。
これにより、相対速度V2に基づく補正を行わずに目標減衰力DFに基づいて緩衝器6を制御する場合に比べて、第1の実施形態では、指令電流値Iの立上りが滑らかになる。従って、減衰力の急変を抑制することができるから、ジャークを低減することができる。
ところで、旋回時や加減速時にはロール、ピッチによりばね上加速度センサ8の検出軸が傾く。この検出軸の傾きによって、横加速度や前後加速度を上下方向の加速度成分として検出してしまい、制振性能が劣化することがある。
例えば、図7に示すように、車両の旋回時には、旋回に応じた横加速度が車体1に作用する。この横加速度に応じて、車体1のロール角が変化する。このため、上下加速度センサ(ばね上加速度センサ8)のセンサ値は、ロール角に応じて横加速度成分が重畳されてしまい、上下加速度に誤差が生じる(図9参照)。同様に、車両の加減速時には、加速や減速に応じた前後加速度が車体1に作用する(図8参照)。このため、この前後加速度に応じて、車体1のピッチ角が変化し、上下加速度に誤差が生じる。
これに対し、第1の実施形態によるサスペンション制御装置は、横加速度がロール角に比例することと、前後加速度がピッチ角に比例することを利用して、横加速度と前後加速度からこれらの上下加速度成分として検出される誤差分を演算する。第1の実施形態によるサスペンション制御装置は、この誤差分を上下加速度センサ(ばね上加速度センサ8)のセンサ値から除去した補正上下加速度を算出する(図9参照)。これにより、第1の実施形態では、旋回時や加減速時のばね上速度V1および相対速度V2の推定精度を向上させることができる。この結果、第1の実施形態では、旋回時や加減速時においても、正しい上下挙動を検出することができるから、制振性能を改善することができる。
かくして、第1の実施形態によるサスペンション制御装置は、横加速度を検出する横加速度センサ10による横加速度検出値を用いてロール角を求める横G補正部22(ロール角算出部)と、前後加速度を検出する前後加速度センサ11による前後加速度検出値を用いてピッチ角を求める前後G補正部23(ピッチ角算出部)と、を有している。このため、第1の実施形態では、旋回時や加減速時においても、横加速度や前後加速度の影響を抑制して、正しい上下挙動を検出することができる。この結果、正しい上下挙動に基づいてサスペンション装置4を制御することができ、制振性能を改善することができる。
第1の実施形態によるサスペンション制御装置は、車体1に取り付けられ、上下加速度を検出するばね上加速度センサ8(上下加速度検出手段)による上下加速度検出値と、ロール角と、ピッチ角と、を用いて上下加速度検出値を補正する上下加速度補正部24を有している。このため、第1の実施形態では、横加速度や前後加速度によって上下加速度検出値に誤差が生じるときでも、このような誤差を上下加速度補正部24によって低減することができるから、正しい上下挙動を検出することができる。
次に、図10ないし図16は本発明の第2の実施形態を示し、第2の実施形態の特徴は、ロール角、ピッチ角を推定し、これらの値と横加速度、前後加速度を用いて補正上下加速度を算出することにある。なお、第2の実施形態では第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図10に示すように、第2の実施形態によるコントローラ31には、4輪の車高センサ32FL,32FR,32RL,32RRが接続されている。車高センサ32FLは、左前輪の車高を出力する。車高センサ32FRは、右前輪の車高を出力する。車高センサ32RLは、左後輪の車高を出力する。車高センサ32RRは、右後輪の車高を出力する。
コントローラ31は、例えばマイクロコンピュータ等からなり、加速度センサ8~11、車高センサ32FL,32FR,32RL,32RR等の検出結果に基づいて緩衝器6で発生する減衰力を制御する制御手段を構成している。コントローラ31は、ROM、RAM等からなる記憶部31Aを有している。
コントローラ31は、第1の実施形態によるコントローラ12と同様に構成されている。このため、コントローラ31は、積分器13,14、減算器15、目標減衰力演算器16、減衰力制限器17、減衰係数演算器18、最大減衰係数マップ19、最小値選択器20、減衰係数マップ21を備えている。
これに加え、コントローラ31は、横加速度分補正上下加速度算出部33(以下、横G補正部33という)、前後加速度分補正上下加速度算出部39(以下、前後G補正部39という)、上下加速度補正部24を備えている(図11参照)。上下加速度補正部24は、ばね上加速度センサ8による上下加速度検出値(上下加速度センサ値)と、横G補正部33のロール角算出部34で求めたロール角と、前後G補正部39のピッチ角算出部40で求めたピッチ角と、を用いて上下加速度検出値を補正する。具体的には、上下加速度補正部24は、ばね上加速度センサ8が検出した上下加速度から横加速度上下成分と前後加速度上下成分との加算値を減算する。これにより、上下加速度補正部24は、ばね上加速度センサ8が検出した上下加速度を横加速度および前後加速度に応じて補正した補正上下加速度を出力する。
横G補正部33は、数3の式に基づいて、横加速度上下成分を算出する。図11に示すように、横G補正部33は、ロール角算出部34、絶対値演算部35、sin演算部36、乗算器37、符号反転演算部38を備えている。ロール角算出部34は、4輪の車高、横加速度、前後加速度に基づいて車体1のロール角を算出する。絶対値演算部35は、ロール角の絶対値を算出する。sin演算部36は、ロール角の絶対値に対するsin関数の値を求める。乗算器37は、sin演算部36から出力された値と横加速度センサ値とを乗算する。符号反転演算部38は、乗算器37から出力された値の符号を反転させる。
図12に示すように、ロール角算出部34は、サスペンション装置4の変位に基づくロール角と、タイヤ3の変位に基づくロール角とを加算する加算器34Aを備えている。ロール角算出部34は、これら2つの変位に基づくロール角を加算して、合計のロール角を求める。
前後G補正部39は、数5の式に基づいて、前後加速度上下成分を算出する。図11に示すように、前後G補正部39は、ピッチ角算出部40、絶対値演算部41、sin演算部42、乗算器43、符号反転演算部44を備えている。ピッチ角算出部40は、4輪の車高、横加速度、前後加速度に基づいて車体1のピッチ角を算出する。絶対値演算部41は、ピッチ角の絶対値を算出する。sin演算部42は、ピッチ角の絶対値に対するsin関数の値を求める。乗算器43は、sin演算部42から出力された値と前後加速度センサ値とを乗算する。符号反転演算部44は、乗算器43から出力された値の符号を反転させる。
図13に示すように、ピッチ角算出部40は、サスペンション装置4の変位に基づくピッチ角と、タイヤ3の変位に基づくピッチ角とを加算する加算器40Aを備えている。ピッチ角算出部40は、これら2つの変位に基づくピッチ角を加算して、合計のピッチ角を求める。
サス変位分ロール・ピッチ角算出部45には、4輪の車高センサ32FL,32FR,32RL,32RRが接続されている。サス変位分ロール・ピッチ角算出部45には、4輪の車高(FL車高、FR車高、RL車高、RR車高)が入力される。図14に示すように、サス変位分ロール・ピッチ角算出部45は、サス変位分ロール角算出部46とサス変位分ピッチ角算出部47とを有している。サス変位分ロール角算出部46は、サスペンション装置4の変位に基づくロール角を算出する。サス変位分ピッチ角算出部47は、サスペンション装置4の変位に基づくピッチ角を算出する。
サス変位分ロール角算出部46は、減算器46A,46B、加算器46C、平均値算出部46D、トレッド除算部46Eを備えている。減算器46Aは、左前輪の車高(FL車高)から右前輪の車高(FR車高)を減算し、前輪側における左右の車高差を求める。減算器46Bは、左後輪の車高(RL車高)から右後輪の車高(RR車高)を減算し、後輪側における左右の車高差を求める。加算器46Cは、前輪側の左右車高差と後輪側の左右車高差を加算する。平均値算出部46Dは、加算器46Cから出力された左右車高差を半分の値にし、前輪側の左右車高差と後輪側の左右車高差との平均値を求める。即ち、平均値算出部46Dは、車体1における左右の車高差を求める。トレッド除算部46Eは、平均値算出部46Dから出力された車体1の左右車高差を、左側の車輪と右側の車輪の間隔であるトレッドWtrdで除算する。これにより、サス変位分ロール角算出部46は、4つのサスペンション装置4の変位に基づくロール角を近似的に求める。
サス変位分ピッチ角算出部47は、減算器47A,47B、加算器47C、平均値算出部47D、ホイールベース除算部47Eを備えている。減算器47Aは、左前輪の車高(FL車高)から左後輪の車高(RL車高)を減算し、左側における前後の車高差を求める。減算器47Bは、右前輪の車高(FR車高)から右後輪の車高(RR車高)を減算し、右側における前後の車高差を求める。加算器47Cは、左側の前後車高差と右側の前後車高差を加算する。平均値算出部47Dは、加算器47Cから出力された前後車高差を半分の値にし、左側の前後車高差と右側の前後車高差との平均値を求める。即ち、平均値算出部47Dは、車体1における前後の車高差を求める。ホイールベース除算部47Eは、平均値算出部47Dから出力された車体1の前後車高差を、前側の車輪2と後側の車輪2の間隔であるホイールベースLwbsで除算する。これにより、サス変位分ロール角算出部46は、4つのサスペンション装置4の変位に基づくピッチ角を近似的に求める。
タイヤ変位分ロール・ピッチ角算出部48には、横加速度センサ10と前後加速度センサ11が接続されている。タイヤ変位分ロール・ピッチ角算出部48には、横加速度センサ値と前後加速度センサ値が入力される。図15に示すように、タイヤ変位分ロール・ピッチ角算出部48は、荷重移動量算出部49、タイヤ変位算出部50、タイヤ変位分ロール角算出部51、タイヤ変位分ピッチ角算出部52を有している。
荷重移動量算出部49は、横加速度と前後加速度に基づいて車両に作用する荷重の移動量を算出する。このとき、荷重移動量算出部49は、車両の4輪それぞれに作用する荷重を求める。タイヤ変位算出部50は、4輪のタイヤ3にそれぞれ生じる変位量を算出する。これにより、タイヤ変位算出部50は、左前輪タイヤ変位(FLタイヤ変位)、右前輪タイヤ変位(FRタイヤ変位)、左後輪タイヤ変位(RLタイヤ変位)、右後輪タイヤ変位(RRタイヤ変位)を出力する。
タイヤ変位分ロール角算出部51は、4輪のタイヤ変位に基づくロール角を算出する。タイヤ変位分ピッチ角算出部52は、4輪のタイヤ変位に基づくピッチ角を算出する。
図16に示すように、タイヤ変位分ロール角算出部51は、減算器51A,51B、加算器51C、平均値算出部51D、トレッド除算部51Eを備えている。減算器51Aは、左前輪タイヤ変位(FLタイヤ変位)から右前輪タイヤ変位(FRタイヤ変位)を減算し、前輪側における左右の車高差を求める。減算器51Bは、左後輪タイヤ変位(RLタイヤ変位)から右後輪タイヤ変位(RRタイヤ変位)を減算し、後輪側における左右の車高差を求める。加算器51Cは、前輪側の左右車高差と後輪側の左右車高差を加算する。平均値算出部51Dは、加算器51Cから出力された左右車高差を半分の値にし、前輪側の左右車高差と後輪側の左右車高差との平均値を求める。即ち、平均値算出部51Dは、車体1における左右の車高差を求める。トレッド除算部51Eは、平均値算出部51Dから出力された車体1の左右車高差を、左側の車輪と右側の車輪の間隔であるトレッドWtrdで除算する。これにより、タイヤ変位分ロール角算出部51は、4輪のタイヤ変位に基づくロール角を近似的に求める。
タイヤ変位分ピッチ角算出部52は、減算器52A,52B、加算器52C、平均値算出部52D、ホイールベース除算部52Eを備えている。減算器52Aは、左前輪タイヤ変位(FLタイヤ変位)から左後輪タイヤ変位(RLタイヤ変位)を減算し、左側における前後の車高差を求める。減算器52Bは、右前輪タイヤ変位(FRタイヤ変位)から右後輪タイヤ変位(RRタイヤ変位)を減算し、右側における前後の車高差を求める。加算器52Cは、左側の前後車高差と右側の前後車高差を加算する。平均値算出部52Dは、加算器52Cから出力された前後車高差を半分の値にし、左側の車高差と右側の前後車高差との平均値を求める。即ち、平均値算出部52Dは、車体1における前後の車高差を求める。ホイールベース除算部52Eは、平均値算出部52Dから出力された車体1の前後車高差を、前側の車輪2と後側の車輪2の間隔であるホイールベースLwbsで除算する。これにより、タイヤ変位分ピッチ角算出部52は、4輪のタイヤ変位に基づくピッチ角を近似的に求める。
かくして、このように構成される第2の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第2の実施形態では、横加速度、前後加速度に加えて4輪の車高に基づいて、ロール角、ピッチ角を求める。このため、ロール角、ピッチ角の推定精度を高めることができ、正しい上下挙動を検出することができる。
なお、前記各実施形態では、コントローラ12,31は、相対速度V2が低速なときに目標減衰係数Cの上限を低下させた補正減衰係数Caを算出し、補正減衰係数Caに対応した指令電流値Iを緩衝器6に出力する構成とした。本発明はこれに限らず、ロール振動が所定のレベルを超えたときには、目標減衰係数の補正量を小さくしてもよい。
前記各実施形態では、コントローラ12,31は、補正減衰係数Caに対応した指令電流値Iを緩衝器6に出力する構成とした。本発明はこれに限らず、コントローラは、相対速度が低速なときに目標減衰力を低下させた補正減衰力を算出し、この補正減衰力に対応した制御信号を緩衝器に出力してもよい。コントローラは、目標減衰係数や目標減衰力を補正せず、目標減衰係数や目標減衰力に対応した制御信号を緩衝器に出力してもよい。
前記各実施形態では、横加速度検出手段は横加速度を検出する横加速度センサ10によって構成し、前後加速度検出手段は前後加速度を検出する前後加速度センサ11によって構成するものとした。本発明はこれに限らず、例えば操舵角と車速から横加速度を推定する場合には、横加速度検出手段は操舵角センサおよび車速センサ(車輪速センサ)を含む構成としてもよい。ヨーレイトと車速から横加速度を推定する場合には、横加速度検出手段はヨーレイトセンサおよび車速センサを含む構成としてもよい。
車速を微分して前後加速度を推定する場合には、前後加速度検出手段は車速センサを含む構成としてもよい。ブレーキ液圧やパワートレインの発生トルクや推定値を用いて前後加速度を算出する場合には、前後加速度検出手段は、液圧センサ等を含む構成としてもよい。
ここで、横加速度センサ値や前後加速度センサ値には旋回影響以外の上下運動に起因した加速度成分が重畳している。そこで、低周波では、横加速度センサや前後加速度センサによって検出したセンサ値を用いる。一方、高周波の横加速度は、操舵角と車速から推定した横加速度、またはヨーレイトと車速から推定した横加速度を用いる。さらに、高周波の前後加速度は、ブレーキ液圧やパワートレインの発生トルクや推定値を用いて算出した推定値を用いる。これにより、加速度が正しく算出できるようになるため、本発明によって上下加速度を補正したときの補正の精度を向上することができる。また、ロール角、ピッチ角は、ジャイロ等の測定値を用いてもよい。
前記各実施形態では、スカイフック理論に基づいてサスペンション装置4の緩衝器6を制御するコントローラ12,31に適用した場合を例に挙げて説明したが、ロールフィードバック制御、ピッチフィードバック制御、双線形最適制御、H∞制御等を行うコントローラに適用する構成としてもよい。
前記各実施形態では、力発生機構がセミアクティブダンパからなる緩衝器6である場合を例に説明した。本発明はこれに限らず、力発生機構はアクティブダンパ(電気アクチュエータ、油圧アクチュエータのいずれか)でもよい。前記各実施形態では、車体1側と車輪2側との間で調整可能な力を発生する力発生機構を、減衰力調整式の油圧緩衝器6により構成する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、例えば力発生機構を液圧緩衝器の他に、エアサスペンション、スタビライザ(キネサス)、電磁サスペンション等により構成してもよい。
前記各実施形態では、4輪自動車に用いる車両挙動装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば2輪、3輪自動車、または作業車両、運搬車両であるトラック、バス等にも適用できる。
前記各実施形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
以上説明した実施形態に基づくサスペンション制御装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、車両の車体と車輪との間に介在されるアクチュエータを制御するサスペンション制御装置であって、横加速度を検出する横加速度検出手段による横加速度検出値を用いてロール角を求めるロール角算出部と、前後加速度を検出する前後加速度検出手段による前後加速度検出値を用いてピッチ角を求めるピッチ角算出部と、を有している。
第2の態様としては、第1の態様において、前記車体に取り付けられ、上下加速度を検出する上下加速度検出手段による上下加速度検出値と、前記ロール角と、前記ピッチ角とを用いて、前記上下加速度検出値を補正する上下加速度補正部を有している。