JP7473765B2 - 非金属介在物の自動領域識別方法およびそれを組み込んだ介在物判別システム - Google Patents
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Description
極値統計評価に用いる試験片の作製にあたっては、評価対象の鋼材に対して、切断や切削が容易に行えるように必要に応じて適切な熱処理を実施した後、鋼材から所定の観察面積が得られるように試験片を切り出す。なお、後工程での仕上げ研磨の際に介在物の脱落が生じやすい場合や、研磨キズが残りやすい場合は、研磨条件を調整する以外に鋼材の硬さを上げることで改善する場合があるため、必要に応じて熱処理を行って硬さを調整してもよい。続いて、試験片のまま、あるいは必要に応じてそれらの試験片を樹脂に埋設したのち、試料の観察面に対して仕上げ研磨を施して光学顕微鏡観察用の試験片を作製する。このような試験片を複数個作製する。
実施例ではJISのSUJ2鋼を評価対象の鋼材として、φ65mmに熱間鍛伸されたSUJ2鋼製の丸棒の中周付近から、極値統計評価を行うための試験片形状、ここでは10mm×10mm×8mmのサイズの複数の試験片を採取した。このときの観察面の面積は100mm2である。なお、この実施例では介在物評価を鋼材の中周部付近から行うため、その箇所からの試験片の採取を行っているが、鋼材の表面付近や中心付近で介在物評価を行いたい場合にはその箇所から採取を行えばよい。なお、試験片は圧延方向と平行な面が試料の観察面となるように採取した。そして、採取した試験片を樹脂に埋設した後、自動の湿式研磨装置もしくは手動の湿式研磨機を使用して研磨したのち、最終的にダイヤモンド砥粒を使ったバフ研磨仕上げを行って鏡面状態に加工した。なお、バフ研磨に続いて、コロイダルシリカ溶液を用いた仕上げ研磨を行ってもよい。
工程Aにて得られた各試験片における評価対象の介在物について、介在物の大きさである√area(介在物の短径と長径の積の平方根)が最大の介在物を特定する。もし、最大の介在物が複合介在物(異なる化学組成の複数の介在物から構成される介在物)の場合は、後述の介在物の領域識別の結果として評価対象の介在物として最大の大きさとはならない場合もあり得ることから、その次点となる大きさの介在物や、必要に応じてさらにその次点となる大きさの介在物も評価対象として特定しておくとよい。続いて介在物(単一組成の介在物、複合介在物、さらに断続的に連続して島状に点在する形状のような一体的に取り扱うべき場合がある介在物が存在しうる)について、その精細な形状や色調の違いを認識可能な程度に光学顕微鏡の観察倍率を高倍率に設定したうえで、評価対象の介在物画像を撮影する。このとき、画像サイズおよびファイルの保存形式は解像度が十分に高いものを選択することが好ましい。
図2に光学顕微鏡で撮像した介在物画像を示す。画像は、グレースケールで、後工程Cにて教師データとするために観察倍率は400倍で統一し、画像の解像度が十分高くなるように、画像サイズを4080×3072ピクセルとし、ファイルの保存形式はBMP形式を選択した。撮影の倍率は、介在物の大きさに応じて全体が画像内に収まるように調整してもよい。また、撮影画像の画像サイズおよび保存形式は、機械学習の精度の低下を招かない範囲で、より低解像度のものが選択されてもよい。
学習モデルを作成するための教師データとして、工程Bにより得られる介在物画像(生データ)と、生データに対し介在物の化学組成分析結果に基づき画像編集ソフトを使用して介在物の種類ごとに介在物を塗り分けた着色画像(正解データ)と、を一対とするデータ対を複数対揃えたデータセット用の画像(学習データセット)を用意する。また、少ないデータセットで効率的に高精度な学習を行うためのデータ拡張を実施して教師データを得てもよい。
学習データセットにおける正解データとして用いる介在物の種類ごとに介在物を塗り分けた着色画像は、エネルギー分散型X線分光器(EDS)や、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)により得られた特性X線に基づく組成分析の結果から介在物種を判別し、市販されている一般的な画像編集ソフトを使用して、生データの撮影画像をベース画像にして介在物種別毎に色を塗り分けることにより作成した。図4に示すように、酸化物と硫化物、コンタミ等の介在物系が識別され、塗り分けられている。
用意したデータセットに対し、反転、切り抜き、拡大、回転といった幾何学的操作を行い、加えて明るさ、コントラスト、ノイズ付加といった色空間操作などをすることで、学習に供するデータ数を拡張することによって、少ないデータセットでも、より高精度な学習を行うことが可能である。そこで、作成したデータセットに基づいて、データ拡張を実施した。データ拡張には、オフライン拡張により決められた処理を事前に行う大規模なデータセットを用意してもよいが、電子計算機の記憶装置の使用量を削減するため、本発明においては、1つのミニバッチに対して、オンザフライ拡張(オンライン拡張)により、直前にランダムに選んだ幾何学的操作および色空間操作でデータ拡張を行い、逐次に以降に示した工程Dの機械学習を行うということを繰り返した。エポック(1つの訓練データの繰り返し学習の数)を複数にして学習をすれば、同じミニバッチからランダムに異なる画像が使用されるので、記憶容量を圧迫することなく実施できる。
電子計算機による機械学習のディープラーニングには、たとえば、U-Netの畳み込み層に対して、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を取り入れたImageNetのpre-trainedモデル(学習済みモデル)を転移学習に活用して非金属介在物のデータセットを学習させる。これらの学習の後、複数のモデルの妥当性を検証するために検証データで精度評価を行う。検証データでの精度評価を基に、最も優れたモデルを決定し、評価データを用いて最終評価を行う。
図3は、ディープラーニングに用いたニューラルネットワークモデルのU-Netの構造を示した図である。U-Netは、畳み込み時の情報を逆畳み込み時の画像に反映させることにより空間分解能を高めることを特徴としたニューラルネットワークモデルである。同モデルにおいて、畳み込み層(エンコーダ)では入力された画像を複数回にわたって畳み込みを行いながら、画像に含まれる特徴量を抽出していき、一方で逆畳み込み層(デコーダ)では、畳み込み時と逆の処理を行うことにより、入力画像と同サイズ(同解像度)の画像データを出力する。ここで、エンコーダでの特徴量抽出において、大規模教師ラベル付き画像データセットであるImageNetを用いたpre-trainedモデルを転移学習させて、そのまま活用することが可能となっているため、実施例では後述するモデルの精度評価指標において最も優れた結果が得られている19層の畳み込み層を持つ畳み込みニューラルネットワークVGG19を転移学習に活用した。
そこで、光学顕微鏡画像として多用されている1チャンネルのグレースケール画像の場合、一般的な前処理として1チャンネルのグレースケール画像を3チャンネル分重ね合わせた画像とすることで、3チャンネルのRGBカラー画像に変換する。
もっとも、変換された3チャンネル画像には本来のRGBのカラー情報は含まれていない。そのため、U-Netなどにおける入力層に近い畳み込み層では大部分のフィルターが重複してしまうことになり、3チャンネルの情報が生かせず効率的な学習ができない。
なお、擬似カラー変換の前処理をして学習モデルを作成する場合と同様に、未知の光学顕微鏡画像中の介在物種を判別する際にも、グレースケール画像を擬似カラー化させた後に特徴量を抽出させることで、照会画像の介在物種を学習済モデルを用いて電子計算機により判別させるようにすることができる。
なお、同じくセグメンテーションの精度評価指標として比較的多く利用されるPixel Accuracyを精度評価に用いる場合には、画像全体の画素数に対して、上述したように背景が大部分を占めることでclass imbalanceを伴う介在物の撮影画像の場合、少ないクラス(ここでは介在物を指す)における予測誤差の影響は多いクラス(ここでは背景を指す)に対して相対的に小さいものとなるので、結果としてPixel Accuracyが高い、すなわち推論の精度が高いとみなされやすくなり、モデルのチューニングによる精度の変化を把握することには不向きである。そこで、検証では主としてmIoUの指標に着目した。
工程Dにより得られる学習モデルに対して、光学顕微鏡で撮影した介在物領域が未識別(未知)の介在物画像(生データ)を入力し、各種介在物系毎に塗り分けがなされた着色画像を推論結果として出力する。なお、ここでいう塗り分けとは、電子計算機が判別・認識できるものであれば足りることから、異なる色とは必ずしも人の視覚的に色合いの差異が明確であることまでは要しない。
図5に光学顕微鏡で撮像した画像と塗り分けされた推論後の着色画像の拡大図をそれぞれ示す。ここでは、光学顕微鏡で撮影したディープラーニングには用いていない介在物領域が未識別(未知)の1チャンネルのグレースケール画像を、学習モデルを作成する場合と同様に、3チャンネルのRGBカラー画像に変換する疑似カラー変換を前処理に用いた上で今回発明のモデルに入力することで、画像に含まれる酸化物、硫化物、コンタミをそれぞれ識別し、自動的に塗り分けすることが可能になる。
実施例では一例として、酸化物を赤色、硫化物を青色、コンタミを緑色にそれぞれ塗り分けた。なお、画像サイズは4080×3072ピクセル、ファイルの保存形式はBMP形式としたが、画像サイズやファイルの保存形式は、状況に応じて変更してもよい。
図4の教師データ作成の手順のように、これまで機器を組み合わせて手作業での判別を経て色分け画像を作成していたものが、本発明で生成された学習済みモデルを用いると、自動的に介在物種を識別して対象の画像領域を適切に塗り分けた画像データを取得することができ、図4(c)のような着色画像が自動的に得られることとなる。
まず、あらかじめ介在物種が判明している介在物を含む光学顕微鏡で撮像された70枚の画像を用意し、本発明の学習済みモデルを用いて判別させた。
対象となった70枚の画像の異物の内訳は、最大面積の異物(介在物)が酸化物:33枚、硫化物:19枚、介在物以外の異物:18枚である。
結果:本発明の学習済みモデルを用いてこれらの画像を判別させると、介在物の領域中における介在物種についてはいずれも適切に識別できており、最大面積の介在物種について、酸化物:33枚、硫化物:19枚、介在物以外の異物:18枚と判定し正答した。すなわち、学習済みモデルを用いると、最大介在物の領域の介在物種について適切に識別できた。
このように本発明の深層学習による機械学習モデルを用いることで、熟練者による作業を要さずとも、光学顕微鏡画像内の介在物中における介在物種を適切に識別できることが確認された。
評価鋼材から採取された複数の試験片について、上記の工程を経て得られる介在物の塗り分け画像(介在物種別毎の領域を識別した着色画像)を元に、各試験片における介在物の最大大きさとして√area(介在物の短径と長径の積の平方根)を算出する。
なお、以下の実施例では、介在物の大きさを算出するに際して、√areaを用いた例で説明している。もっとも、介在物の大きさは、√areaに代えて、介在物の長径(最大長)のみを用いて介在物の大きさを評価するといった介在物系を判別評価することであってもよい。
工程Eにて介在物系毎に塗り分けされた着色画像をもとに、√areaの測定を行い、極値統計法を実施した。
プロットの仕方としては、観察視野における最大介在物の大きさ√areaの小さいものから順に、横軸の値を√areaとして、縦軸の値をj番目に対応する基準化変数yjとして順次プロットを行うものとする。
次に、任意面積中に存在しうる最大介在物径(√areamax)を予測するために、予測を行いたい面積における累積分布関数Fと基準化変数yを再帰期間Tから求める。このときTは予測面積Sと個々の試験片の観察面積S0を用いてT=(S+S0)/S0の式で求められ、このTを用いて累積分布関数FをF=(T-1)/T×100の式から求めることができる。また、基準化変数yとしてy=-ln[-ln{(T-1)/T}]の式から求めたyの値を使って縦軸を表しても良い。また、S≫S0の場合には、y=lnT、T=S/S0が成り立ち、計算を容易化することができる。
Claims (10)
- 判別対象の非金属介在物を含む鋼材の光学顕微鏡画像データと、当該光学顕微鏡画像データに対応する判別対象の非金属介在物の画像領域を介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データと、からなるデータ対を複数対備えた一群の学習データセットに基づいて得られた教師データを用いて、電子計算機に機械学習させることで学習済みモデルを生成し、
入力され、照会された鋼材の光学顕微鏡画像に関する特徴量を当該学習済みモデルに基づいて電子計算機によって抽出する工程と、
当該学習済みモデルに基づいて介在物の種類を判別する工程と、
判別結果に基づいて介在物系毎に塗り分けた着色済画像データを取得する工程と、
を順に含む、非金属介在物を含む画像に対して電子計算機が介在物系毎の画像領域を機械学習により自動で分割識別する介在物系の判別方法であって
該学習済みモデルの生成に用いる光学顕微鏡画像データは、グレースケール画像であって、
当該光学顕微鏡画像を3チャンネルのRGBカラー画像に変換した疑似カラー変換画像とした後、データ対の着色画像データとともに機械学習に供することで学習済みモデルを生成したものであることを特徴とする、非金属介在物を含む画像に対して電子計算機が介在物系毎の画像領域を機械学習により自動で分割識別する介在物系の判別方法。 - 判別対象の非金属介在物を含む鋼材の光学顕微鏡画像データと、当該光学顕微鏡画像データに対応する判別対象の非金属介在物の画像領域を介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データと、からなるデータ対を複数対備えた一群の学習データセットに基づいて得られた教師データを用いて、電子計算機に機械学習させることで学習済みモデルを生成し、
入力され、照会された鋼材の光学顕微鏡画像に関する特徴量を当該学習済みモデルに基づいて電子計算機によって抽出する工程と、
当該学習済みモデルに基づいて介在物の種類を判別する工程と、
判別結果に基づいて介在物系毎に塗り分けた着色済画像データを取得する工程と、
を順に含む、非金属介在物を含む画像に対して電子計算機が介在物系毎の画像領域を機械学習により自動で分割識別する介在物系の判別方法であって
該学習済みモデルの生成に用いる教師データのデータ対に用いる介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データは、色反転処理された画像に基づいて介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データであることを特徴とする、非金属介在物を含む画像に対して電子計算機が介在物系毎の画像領域を機械学習により自動で分割識別する介在物系の判別方法。 - 教師データには、学習データセットのデータ対を元にしてデータ拡張により生成されたデータ対を含むこと、を特徴とする請求項1又は2に記載の介在物系の判別方法。
- 教師データのデータ対に用いる介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データは、色反転処理された画像に基づいて介在物種別毎に異なる色で塗り分けた着色画像データであることを特徴とする、請求項1に記載の介在物系の判別方法。
- 学習済みモデルは、全層畳み込みニューラルネットワークのU-Netを用いて機械学習させることで生成されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の介在物系の判別方法。
- 学習済みモデルは、損失関数に重み付き交差エントロピー誤差を使用して判別対象とする種類の介在物の重みが大きくなるように調整して機械学習させることで生成されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の介在物系の判別方法。
- 判別結果に基づいて介在物系毎に塗り分けた着色済画像に基づき、評価対象とする介在物系の長径と短径を計測して介在物の大きさを算出する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の介在物系の判別方法。
- 判別結果に基づいて介在物系毎に塗り分けた着色済画像に基づき、評価対象とする介在物系の長径と短径を計測して介在物の大きさを算出し、観察面積の鋼材中の最大介在物を選別して最大介在物の大きさ√areaを出力する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の介在物系の判別方法。
- 所定の観察面積を有する複数の試験片の各々に対して最大介在物の大きさ√areaの算出を行い、得られた複数の最大介在物の大きさデータに基づいて極値統計法を利用して評価鋼材の所定の予測面積における介在物予測径(√areamax)を算出する工程を含むこと、を特徴とする請求項8に記載の介在物系の判別方法。
- 請求項1、2、4のいずれか1項に記載の介在物系の判別方法を備えた介在物判別システム。
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