JP7458754B2 - キャスター - Google Patents
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図8において、全体を符号100で示す車いすは両側部に一対の駆動輪2を有している。駆動輪2の車軸は車いす100のフレームに対して回転自在であるが、駆動輪2の車軸は車いす100のフレーム本体に対して相対移動しない様に構成されている。
車いす100は、その前方に一対のキャスター10を備えており、キャスター10の回転軸11は水平方向に延在しているが、回転軸11は垂直軸(回動軸、シリンダー構造の場合は回動筒)12に対して360°回動可能であり、回動することにより車いす100の本体に対して回転軸11軸線が為す角度は変化する。換言すれば、垂直軸12が車いす100の本体に回転可能な状態で固定されているのに対して、キャスター10の回転軸11は前記本体に対して回動可能に軸支されている。
例えばエレベータに乗る際には車いす100を前進させ、エレベータから降りる際には後進させる場合が多い。車いす100で大型エレベータに単独で乗る場合は別にして、エレベータ内は狭く、内部で車いす100を180°旋回させるのは困難だからである。
ここでキャスター10の車輪の向きに注目すると、車いす100が前進してエレベータ内で静止する際に、左右2個のキャスター10の車輪は図9の前後方向(矢印F、矢印Rの方向)に平行になり、中心軸12に対して後方(矢印R方向)に位置した状態で静止する。その後、後進してエレベータから出る時には、図9の右側のキャスター10の車輪のように、垂直軸12を通り本体中心線C1と平行な直線(図示せず)よりも回転軸11(図9の右側のキャスター10の車輪の回転軸)が右側に位置した時には、キャスター10の車輪は垂直軸12を中心に左回りする(反時計方向に回動する)。一方、図9の左側のキャスターの車輪のように、垂直軸12を通り本体中心線C1と平行な直線(図示せず)よりも回転軸11(図9の左側のキャスター10の車輪の回転軸)が左側に位置した時には、キャスターの車輪は垂直軸12を中心に右回りする(時計方向に回動する)。そして、図9の左右のキャスター10の車輪は、各々の中心軸12に対して前方(矢印F方向)に位置した状態となる。ただし、垂直軸12を中心にして右回りするか左回りするかについては、キャスターの車輪が静止した時の僅かな右方向または左方向への振れや床面の摩擦・凹凸状況等が影響する。
係るスタンプ操作において自在キャスター10を非接地状態にした際に、車いす100は水平ではなく、キャスター10側を斜め上方向にむけた状態で後進する体勢になっているので、自在キャスター10の車輪は自重で回動をして、垂直軸12に対して矢印R側(図9:後進方向)に位置してしまう。自在キャスター10の車輪は回動中心である垂直軸12に対して偏心しているからである。そしてキャスター10には車輪を所望の向きに調整する機構はないので、垂直軸12に対して矢印R側(後進方向)に位置した状態で車輪は接地してしまう。車輪が垂直軸12に対して矢印R側に位置した状態で車いす100を後進させると、キャスター10の車輪は垂直軸12を中心に右回りまたは左回りして、垂直軸12に対して矢印F側(図9:前進側)の位置まで回動する。車輪が接地した際に垂直軸12を中心に右回りまたは左回りに回動する時、車いす100に不快な衝撃が伝わってしまう。また、車体が右または左に振れてしまうので、円滑な走行が阻害されるという問題が生じる。
同様な問題は、車いす100と類似した構造を持つ台車においても存在する。
車いすについても各種の従来技術が提案されており、例えば車いすのタイヤを簡単に覆うことが出来るカバーが提供されているが(特許文献2参照)、上述の不都合を解消するものではない。
回動軸(13)またはシリンダー(18)に車輪が取り付けられ、
第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合していない状態では回動可能であり、
第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合する際、車輪の向きを用途に適した連続または不連続の角度範囲に調整できることを特徴としている。
ここで、第1のカム(14)と第2のカム(15)とが嵌合する方向に付勢する弾性部材(16)を設けることも可能である。係る弾性部材(16)としては、機械式スプリングや流体スプリング(液体スプリングや気体スプリング)を用いることが可能である。
キャスター(10)を取り付けた物品の荷重(例えば車いす100の場合は、車いす100の利用者が乗っていない場合の荷重)が作用しない場合には伸長して、第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合する様に付勢し、
キャスター(10)を取り付けた物品の荷重が作用すると圧縮して第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合していない状態にせしめる弾性部材(16)を設けるのが好ましい。
ここで本発明のキャスター(10)は、後輪駆動式車いす(100)の前輪のみならず、前輪駆動式または全輪キャスター式等の車いすの前輪・後輪、ベビーカー、台車、配膳用フードワゴン、建築用足場等の偏心・無偏心のキャスターに適用可能である。
例えば、車いす(100)において、キャスター(10R、10L)の車輪が方向転換時等に外側に突出する(ハミ出す)ことを防止するためには、車輪の中心線(C2R、C2L)と車いす(100)本体の中心線(C1)とが為す傾斜角度(αR、αL)は、5°~180°、好ましくは45°~135°となるようにカム形状を加工するのが好適である。前記傾斜角度(αR、αL)が係る範囲にある時、キャスター(10)の車輪は左右ともに車体の内側の領域に位置しており、前進する場合においても後進する場合においても、図2の矢印INで示される軌跡を通って滑らかに方向転換することが出来るからである。その為には、図5(B)で示すようなカムを、位置P1-位置P2間の中心角が90°(車いす100本体の中心線C1と為す角度45°と135°の差分)となるように加工する。ここで、図5(B)におけるカム最上点Pxbから位置P1、更には、カム最上点Pxbから位置P2に至るカム端面は、摺動し易い勾配で滑らかに加工する必要がある。そして、車いす(100)本体にキャスター(10)を取り付ける際、カム嵌合時の傾斜角度(αR、αL)が45°~135°となる位置で固定すればよい。
係る条件(傾斜角度αR、αLの範囲が45°~135°)では、カム嵌合時、キャスター(10)は45°~135°の範囲で回動可能なので、下り坂を後進していて傾斜角度(αR、αL)が180°の場合にキャスターの車輪が宙に浮くと、カム嵌合の過程で車輪は傾斜角度が180°の位置から傾斜角度が135°の位置まで回動し、車輪の自重で垂直軸(12)を中心にさらに回動して、傾斜角度が45°の位置で静止する。傾斜角度が45°の状態で車輪が接地し、第1のカム(14)と第2のカム(15)の嵌合が解除され、車いすが後進すると、車輪は傾斜角度が45°の位置から傾斜角度が180°の位置まで比較的滑らかに回動する。
或いは、別の方法として図5(B)のようなカム形状を採用し、且つ、P1-P2間を滑らかな平面ではなく(図5(B)では明示されていないが)複数の小さな波で構成された正弦波状の端面とすることで、カム嵌合時にキャスターの車輪がP1-P2間の角度範囲で回動することを防止できる。
第1のカム(14)と第2のカム(15)の嵌合時、第2のカム(15)のカム曲線における窪んだ部分(凹部:谷)の頂点の位置がαR=-45°、αL=-45°になるように、キャスター(10)を台車に固定すればよい。その様に構成した場合に、車輪の向きは所謂「ハの字」形となり、前進はし易いが、後方、右方、左方の力が作用しても比較的動き難い状態を保つことができ、前方に障害物がある場合、キャスターが簡易ブレーキの役割を果たすからである。
ここで、「用途目的に適した連続または不連続の角度範囲に車輪の向きを調整」するために、上記「45°~135°」「αR=-45°、αL=-45°」等の角度或いは角度範囲は例示に過ぎない。当該角度或いは角度範囲は、物品の種類やその用途目的によって異なり、試行錯誤によっても改善され変化するからである。そして、カム形状を変えて対応することが出来るからである。
また、第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合した状態を解除する為には、キャスター(10)の前輪を接地して荷重を加え、回動軸(13)をシリンダー(18)内に押し込めばよい。
第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合していない状態(嵌合が解除された状態)にすればキャスター(10)は回動自在となり、キャスター(10)を取り付けた物品(例えば車いす100)の移動は従来のキャスターと同様に行うことが出来る。
一方、第1のカム(14)と第2のカム(15)が嵌合した状態が解除されると、傾斜角度が意図する角度範囲内に収まる様に位置した車輪は、第1のカム(14)と第2のカム(15)の嵌合状態が解除された直後から円滑に回動し、キャスター(10)を取り付けた物品(例えば車いす100)の外側に突出しない(ハミ出さない)ように反時計方向或いは時計方向へ(キャスター10が取り付けられた物品)本体内側を回動する。そしてキャスター(10)が取り付けられた物品は、前後方向に円滑に進行し左右方向へ急旋回してしまうことはない。
その結果、キャスター(10)を取り付けた物品(例えば車いす100)は、他の部材(例えば、他の車いす或いはその他の物品、エレベータの内壁面)との衝突を回避することが出来る。
それに対して本発明のキャスターでは、スタンプ操作を行って前輪キャスターに負荷が作用しない状態では、前記傾斜角度(αR、αL)が意図する角度範囲内(例えば45°~135°)に収まるように車輪が位置するので、前輪は接地すると前後方向には円滑に進行し、左右方向へ急旋回してしまうことはない。
ここで、傾斜角度(αR、αL)が例えば45°または135°となるようにカムが設定されていた場合、カム形状(カム曲線)は図5(A)で示すようになる。後進時、スタンプ操作直前ではキャスター(10R、10L)の車輪は傾斜角度(αR、αL)180°の位置にある。
図5(A)で示すカム曲線は、傾斜角度が-90°(270°の場合と技術的な意味は同等)の位置(図5(A)における最上点Pxa)から、傾斜角度が180°の位置を経由して、傾斜角度が135°の位置(上方に凹んだ位置:谷)まで、滑らかな勾配を有している。そのため、スタンプ操作が始まると、車輪は傾斜角度が180°の位置から傾斜角度が135°の位置に向かい、車いす(100)本体の内側の領域を経由して回動し、第1のカムと第2のカムとが嵌合すると静止する。
車輪が接地してスタンプ操作が終了するまでの間に、車いす(100)の後進に合わせて、車輪は傾斜角度が135°の位置から傾斜角度が180°の位置まで回動し、車いす(100)が後進するのに妥当な位置となる。係る回動(135°から180°までの回動)は滑らかであり、大きな不快感はない。
しかし、車輪の間隔が広い方(「ハ」の字の下側)においては、舵角制限ストッパにより、キャスター(10)の車輪は、傾斜角度が-45°の位置から傾斜角度が-180°の位置まで回動できないので、台車は進行することができない。そのため、壁間際まで前進して舵角制限付き台車を停車した場合、キャスター(10)の平面形状が「ハの字」となっていれば、簡易なブレーキ装置を設けたのと同様な効果がある。
すなわち、図9で示す様に、キャスター(10R、10L)はキャスターが取り付けられた物品(例えば車いす100)の側方に突出してしまう(はみ出してしまう)ことはない。
しかし、車いす(100)がこのように移動する際にキャスター(10)が車いす(100)の外側を経由して回動する事態を忌避するのであれば、第1のカムと第2のカムとが嵌合した際の傾斜角度が5°~175°となる位置にキャスターの車輪を位置させることが好適である。
発明者による研究の結果として、特に傾斜角度(αR、αL)が45°~135°の範囲内であれば、接地後、前後進の際に、キャスター(10R、10L)は円滑に回動して、車いす本体(100)の内側(中心軸C1側)を回動して、迅速に中心軸(C1)と平行になって回転することが判明した。
最初に図1及び図2を参照して、図示の実施形態における原理を説明する。
図1、図2で示す様に、例えば車いす100の前方を持ち上げた状態(キャスター10が「浮いた」状態:駆動輪2のみを接地させている状態)の様にキャスター10に負荷が作用していない場合には、車いす100の中心軸C1或いは車いす100の進行方向(矢印F方向)に対して、キャスター10R、10Lは傾斜している。図1、図2において、右側のキャスターがキャスター10Rであり、その中心軸を符号C2Rで示されている。一方、図1、図2における左側のキャスターはキャスター10Lであり、その中心軸を符号C2Lで示されている。図1、図2において、車いす100の後進方向(後方:図1、図2で下側)は矢印Rで示されている。
図1、図2において、キャスター10R、10Lは、回転軸11R、11Lを中心に回転すると共に、回動軸CR、CLを中心に回動自在となっている。そして、キャスター10R、10Lの最外縁が回動する軌跡は符号OCR、OCLで示されており、円形である。
図2において、傾斜角度は、右キャスター10Rの傾斜角度αRの場合、車輪最外縁の回動軌跡OCRの下死点(回動軌跡OCRの図2の最下方位置:時計の6時の位置)を起点0°とし、時計方向(右回り)で回動軌跡OCRの上死点(回動軌跡OCRの図2の最上方位置:時計の12時の位置)に至るまでが0°~180°とする。そして、そのまま右回りで起点に戻ると360°に到達し、起点より反時計方向(左回り)で回動軌跡OCRの上死点に至るまでが0°~-180°とする。左キャスター10Lの傾斜角度αLの場合、図2における回動軌跡OCLの下死点を起点0°とし、反時計方向(左回り)で上死点に至るまでを0°~180°とし、そのまま左回りで起点に戻ると360°、起点より時計方向(右回り)で上死点に至るまでを0°~-180°としている。
なお、傾斜角度αR、αLの範囲として、特に45°~135°の範囲内であれば、接地後、前後進の際に、キャスター10R、10Lは円滑に回動し、車いす本体100の内側(中心軸C1側)を回動するので、迅速に中心軸C1と平行になって回転する。
しかし、図示はされていないが、傾斜角度αR、αLが異なっていても良い。換言すれば、上述した角度の範囲内(5°~180°)にあれば、傾斜角度αR、αLが等しくなくても良い。
以下、図3~図7を参照して、負荷が作用しているキャスターを回動自在にして、無負荷状態のキャスターを図1、図2で示す状態に位置せしめる(回帰する)機構について説明する。
例えば車いす100の前方が持ち上げられて、キャスター10R、10Lに車いす100の荷重が作用しない状態(無負荷状態:キャスターが「浮いた」状態)になった場合に、キャスター10R、10Lを図1、図2の状態に保持する構造が、図3、図4で示されている。
回帰機構17は、下端にキャスター10を取り付けたキャスター側ロッド13、上端近傍を車いす100側に固定される車体側シリンダー18、スプリング16(弾性部材)、キャスター側ロッド13に固定される第1のカム14、車体側シリンダー18に固定される第2のカム15を有している。ここで、キャスター側ロッド13の中心軸は、キャスター10の回動軸を構成する。
回帰機構17は右側のキャスター10R及び左側のキャスター10Lについて設けられ、左右のキャスター10R、10Lにおける回帰機構17は、相互に左右対称であり構造は同一である。そのため、図3、図4では、キャスター10の回帰機構17として、左右のキャスター10における回帰機構17を包括して説明する。
図3~図7において、カムとシリンダーの間、及び、カムとロッドの間には大きな隙間が設けられているように描かれているが、これは、説明のため便宜的に強調しているだけであり、本発明のキャスターを製造する際には、自動車用エンジンのピストンとシリンダー間と同様に、カムとシリンダーの間、及び、カムとロッドの間は油膜程度の間隙となる場合が多い。
キャスター10は回転軸11により回転自在(図3の矢印R1)であり、キャスター10はロッド13と一体に、回動軸CDに対して回動自在(図3の矢印R2)である。
図3、図4において、キャスター側ロッド13における上方部分外周面には、第1のカム14が、相手側カム(第2のカム15)との嵌合側を下方にして固定されている。キャスター側ロッド13の下端にはストッパ部13Aが設けられており、負荷が作用した場合にはストッパ部13Aには車体側シリンダー18の下端が当接する。このストッパ13A部分にダブルナット等を組み込み車輪の向きを微調整できるようにしておくと便利であることを補足する。
また、キャスター側ロッド13の上方にはスプリング16が配置されている。スプリング16の上端は車体側シリンダー18の上面部18A(蓋部)の内面に当接し、スプリング16の下端はキャスター側ロッド13の上端を押圧する。
車体側シリンダー18における下端近傍の内周面には第2のカム15が配置されており、第2のカム15は相手側カム(第1のカム14)との嵌合側を上方にして固定されている(図3、図4)。
図3、図4で示す回帰機構17を組み付ける際に、キャスター側ロッド13は車体側シリンダー18の中空部内に配置され、キャスター側ロッド13の上端はスプリング16により下方に付勢される。キャスター側ロッド13は、車体側シリンダー18内を軸方向に摺動可能であり(図3の矢印B)、且つ、中心軸CD(回動軸)に対して回動可能である(図3の矢印R2)。
スプリング16は、車いす100の利用者が乗っていない場合の荷重(キャスター10を取り付けた物品の荷重)が作用しない場合には伸長して、キャスター側ロッド13を図3、図4の下方に付勢し、第1のカム14と第2のカム15を嵌合せしめる(図4の状態)。
一方、車いす100のキャスター10を接地させた場合(荷重が作用した場合)、スプリング16は圧縮され、第1のカム14と第2のカム15が嵌合していない状態となる(図3の状態)。
負荷が掛かってスプリング16が圧縮された状態では、第1のカム14の嵌合部(例えば凸部)と第2のカム15の嵌合部(例えば凹部)は軸方向に離隔しており、第1のカム14と第2のカム15は嵌合していない。そのため、キャスター側ロッド13と車体側シリンダー18は相対的に周方向に回動自在であり、キャスター10(10R、10L)も回動自在である。
スプリング16が伸長してキャスター側ロッド13を下方に付勢すると第1のカム14の嵌合部(例えば凸部)と第2のカム15の嵌合部(例えば凹部)は嵌合する。第1のカム14と第2のカム15が嵌合すると、キャスター側ロッド13と車体側シリンダー18は相対的に周方向に回動することが出来なくなり(固定され)、キャスター10(10R、10L)は回動しない状態(回動不能な状態:固定された状態)となる。
第1及び第2のカム14、15が嵌合する際は、第1のカム14の嵌合部(例えば凸部)が第2のカム15のカム曲線に沿って摺動し、第2のカム15の嵌合部(例えば凹部)に嵌合する。
そのため、キャスター10R、10Lの接地後、直ちに前後進しても、キャスター10R、10Lの最外縁は車いす本体100の内側(中心軸C1側)を回動し(図1、図2の矢印IN)、キャスター10R、10Lは中心軸C1と平行になるので、車いす100は円滑に移動することが出来る。換言すれば、キャスター10R、10Lの最外縁の回動軌跡は、円形の回動軌跡OCR、OCLにおける車いす100の内側の領域のみであり、キャスター10R、10Lの最外縁が車いす100の側方に突出してしまう(はみ出してしまう:図9の状態となる)ことが防止される。
しかし、弾性部材であるスプリング16を設ける場合、キャスター(10)を取り付ける物品が車いすであり、傾斜角度が45°である場合を例に取ると、以下の2つのモデル「イ」、「ロ」が存在する。
モデル「イ」は、「キャスター10に車いす100の分散荷重(利用者が乗っていない状態の荷重)が作用するとスプリング16が圧縮されるモデル」と言い換えることが出来る。
モデル「イ」においては、車いす100に利用者が乗っていない状態でもキャスター10が接地して車いす100の重量が負荷されると弾性部材は圧縮し、第1のカム14と第2のカム15は嵌合していない状態となる。この状態においては、介助者は車いすを従来通り移動させることができる。車いすに利用者が乗っても同様に、介助者は車いすを従来通り移動させることができる。
介助者が、車いすの前部を持ち上げ、キャスター10を宙に浮かせると、スプリング16は伸長し、第1のカム14と第2のカム15は嵌合して、キャスター10の車輪が傾斜角度45°となる位置まで回動する。その後、介助者がキャスター10を接地させると、車いす100の分散荷重によりスプリング16は圧縮し、第1のカム14と第2のカム15は嵌合が解除された状態になり、車いす100が前後何れの方向に移動しても、2個のキャスター10の車輪は傾斜角度45°の位置から車いす100の車体の投影領域内(内側)を無理なく回動して、車いす100が円滑に進行する位置になる。
モデル「ロ」は「キャスター10に対して車いすの分散荷重と利用者の体重の合成荷重が作用するとスプリング16が圧縮されるモデル」と換言できる。
モデル「ロ」において、車いす100に利用者が乗っていない状態ではスプリング16は伸長しており、第1のカム14と第2のカム15は嵌合しており、キャスター16の車輪は、傾斜角度が45°になる様に位置している。(スプリングの弾性によっては、スプリングはある程度伸長し、カムは半嵌合状態である場合がある。)
モデル「ロ」において車いす100に利用者が乗っていない状態では、車いす100の駆動輪(後輪)は前後方向に回転しやすく、車いす100の右前輪は前方右45°またはその逆方向に回転しやすく、左前輪は前方左45°またはその逆方向に回転しやすい状態である。そのため、車いす100は何れの方向にも動き難く、簡易ブレーキがかかった状態となっている。この状態では介助者が車いす100を移動することが困難なので、車いす100を移動する際には、前輪を宙に浮かせて車いす100を移動しなければならない。但し、車いす100の車体重量が大きい(重い)場合には、前輪を宙に浮かせて車いす100を移動することは困難なので、後述するピン21の様なストッパを設けて、第1のカム14と第2のカム15とが嵌合されていない状態(非嵌合状態)を保つ必要がある。
介助者が車いすの前部を持ち上げて、キャスター10を宙に浮かせると、モデル「イ」と同様にスプリング16は伸長し、第1のカム14と第2のカム15は嵌合し、キャスター10の車輪は傾斜角度が45°となる位置まで回動する。その状態で介助者がキャスター10を接地させると、スプリング16が圧縮して、第1のカム14と第2のカム15との嵌合が解除された状態となり、車いす100を前後何れの方向に移動しても、2個のキャスター10の車輪は傾斜角度45°の位置から、内側を無理なく回動して、車いす100が円滑に進行する位置に回動する。
後述する様にスプリング16を省略する場合には、モデル「イ」では車いす100の自重が作用した場合に、モデル「ロ」では車いす100及び利用者の合計荷重が作用した場合に、第1のカム14と第2のカム15が嵌合するように、カム曲線及び摺動面を滑らかに加工する必要がある。
図示の実施形態では、第1のカム14及び第2のカム15は、図3、図4に示す様な正弦曲線状であるが、カム曲線は正弦曲線に限定されない。例えば、正弦曲線よりも鋭いが、凸部が滑らに摺動可能なカム曲線に形成することが可能である。第1のカム14及び第2のカム15のカム曲線は、キャスター10R、10Lに荷重が負荷せず、スプリングが伸長した際に、第1のカムの凸部が第2のカムの凹部に確実に嵌合することが出来る構造であれば、特に限定条件は無い。また、カム曲線の傾斜度、凹部の数やその間隔にもよるが、第1のカム14と第2のカム15を入れ替えることができる場合も多く、更にカム曲線は、複数回折曲した線(所謂「ギザギザ」線)にすることが可能であり、或いは、曲線と複数回折曲した線(ギザギザ線)の組合せであってもよく、特に限定条件はない。
図5(A)の変形例では、第1のカム14-1には、第2のカム15-1の方向(図5(A)では下側)に突出する凸部14-1Aが形成され、凸部14-1Aは先端が鋭角を形成し、凸部14-1Aの根本(図5(A)では上側)から先端(図5(A)では下側)にかけて滑らかに形成されている。
第2のカム15-1には2つの凹部15-1A、15-1Bが形成され、2つの凹部15-1A、15-1Bの何れか一方が第1のカム14-1の凸部14-1Aと選択的に嵌合する。第2のカム15-1の凹部15-1A、15-1Bも底部から先端にかけて滑らかに形成されている。
キャスター10に荷重が作用しない場合に、図3、図4で説明したのと同様な態様により、第1のカム14―1の凸部14-1Aは、第2のカム15-1の2つの凹部15-1A、15-1Bの何れか一方と嵌合する。上述の様に凸部14-1A、凹部15-1A及び15-1Bはそれぞれ滑らかに形成されているので、相互に案内されて嵌合する。
例えば、第1のカム14―1の凸部14-1Aが、キャスター10Rにおいては第2のカム15-1の凹部15-1Aと嵌合し、キャスター10Lにおいては凹部15-1Bと嵌合した場合、図2におけるキャスター10の中心軸C2R、C2Lと車いす100の中心軸C1とのなす角度αR、αLが15°となる様に調整され、第1のカム14―1の凸部14-1Aが、キャスター10Rにおいては第2のカム15-1の凹部15-1B、キャスター10Lにおいては凹部15-1Aと嵌合した場合、図2における角度αR、αLが60°となる様に、キャスター10は予め調整されている。
ただし、第1のカム14―1の凸部14-1Aが、キャスター10Rにおいて第2のカム15-1の凹部15-1A(キャスター10Lにおいては凹部15-1B)と嵌合した場合と、第1のカム14―1の凸部14-1Aが、キャスター10Rにおいて第2のカム15-1の凹部15-1B(キャスター10Lにおいては凹部15-1A)と嵌合した場合のそれぞれにおいて、左右のキャスター10R、10Lで傾斜角度αR、αLが異なる角度となる様に調整することも可能である。
第2のカム15-2には、第1のカム14-2の凸部14-2Aと嵌合する凹部15-2Aが形成されており、凹部15-2Aも底部から先端にかけて滑らかに形成される。ただし、第2のカム15-2の凹部15-2Aは、図5(B)の左右方向における幅Wの寸法が(図3、図4、図5(A)で示す凹部の幅に比較して)大きく構成されている。キャスター10に荷重が作用せず、第1のカム14-2と第2のカム15-2が嵌合した際に、第1のカム14-2の凸部14-2Aは第2のカム15-2の凹部15-2Aにおける位置P1~P2間の範囲に位置する。
例えば、第2のカム15-2の凹部15-2Aにおける位置P1(キャスター10Rの場合:キャスター10Lであれば位置P2)に第1のカム14―2の凸部14-2Aが位置している場合、図2における傾斜角度αR、αLが15°となり、位置P2(キャスター10Rの場合:キャスター10Lであれば位置P1)に凸部14-2Aが位置している場合には傾斜角度αR、αLが60°となる様に、キャスター10は予め調整されている。
図5(B)で示す変形例によれば、第1及び第2のカム14-2、15-2が嵌合する際の傾斜角度αR、αLを所定の範囲内の角度にして、幅を持たせることが出来る。
図6は、キャスター側ロッド13の外周面に設けられた第1のカム14と、車体側シリンダー18の内面に設けられた第2のカム15が嵌合していない状態を示している。図6において、上述したロック機構は、貫通孔18Bと、溝13Bと、ピン21を備えている。
車体側シリンダー18における第1のカム14と第2のカム15の軸方向中間近傍の位置に貫通孔18Bが形成されている。そして、キャスター側ロッド13において、貫通孔18Bに対応する位置には、キャスター側ロッド13の全周に亘って溝13Bが形成されている。車体側シリンダー18の貫通孔18Bからピン21が挿通可能であり、ピン21はキャスター側ロッド13の溝13Bに嵌合可能に構成されている。
ピン21を溝13Bに嵌合すれば、キャスター側ロッド13は車体側シリンダー18に対して回動するのみで摺動せず、第1のカム14と第2のカム15が嵌合することを防止出来る。すなわち、ロック機構により第1のカム14と第2のカム15が嵌合することを防止出来る。
ロック機構により第1のカム14と第2のカム15が嵌合しない状態を解除する(ロックを解除する)ためには、ピン21を溝13Bから抜き取れば良い。
また、溝13Bはカム上に形成することも可能であり、この場合、貫通孔18Bは溝13Bに対応した位置に形成する。
図7(A)は、車いすの荷重(利用者が乗っていない状態の荷重:分散荷重)が負荷され、第1のカム14と第2のカム15の嵌合が解除された状態を示しており、図7(A)の変形例において、ベアリング22はキャスター側ロッド13のストッパ部13Aと、車体側シリンダー18の下端部との間の位置に介装されている。ベアリング22は、車いす利用者の体重が負荷されても円滑に回動するタイプ(例えば、スラストニードルベアリング)であれば、自在に選択することが出来る。
図7(A)では明示されていないが、キャスター10に車いすの荷重が負荷されず、スプリング16(図3、図4参照)が伸長して第1のカム14と第2のカム15が嵌合した際には、車体側シリンダー18の下端部はベアリング22から離隔する。付言すると、ストッパ部13Aがベアリング22から離隔するように介装してもよい。
図7(B)において、キャスター側ロッド13のキャスターから離隔した側(図7(B)では上側)の端部に、ベアリング22-1が配置されている。図7(B)における符号13Cは、キャスター側ロッド13のベアリング設置部を示している。ここで、図7(B)の変形例において、空間Dにスプリング16が配置されており、スプリング16はベアリング設置部13Cを包囲する様に配置されている。但し、図示の煩雑さを回避するため、図7(B)ではスプリング16の図示を省略している。
車いすの分散荷重が負荷された場合、図7(B)に示す様に、ベアリング設置部13Cと車体側シリンダー18の上面部18A(蓋部)の内面(図7(B)では下面)は、ベアリング22-1を介して相対的に回動する。上述の様に車体側シリンダー18は車いす100側に固定されている。ベアリング22-1としては、例えば、シングルボールベアリング、テーパーローラーベアリング等を選択できる。ベアリング22-1は、蓋部18A内面側に設置することも可能である。
図7(B)では明示されていないが、キャスター10に車いす100の荷重が負荷されず、第1のカム14と第2のカム15が嵌合した際には、車体側シリンダー18の上面部18Aの内面はベアリング22-1から離隔する。
そのため、キャスター10を取り付ける際に第1のカム14と第2のカム15が嵌合した場合におけるキャスター10が回動する範囲を微調整すれば、キャスター10R、10Lが接地した直後も円滑に回転するので車いす100は前後方向へ円滑に進行する。そして、車いす100が急旋回してしまうことが防止され、他の車いす或いはその他の物品やエレベータの内壁面に衝突してしまうことを防止出来る。また、傾斜角度αL、αRが適切な角度範囲内に位置する様にカムを構成すればキャスター10が進行方向と真逆を向くという不都合な事態も防止できる。
一方、車いす100の前方を持ち上げてキャスター10に車いす100の荷重が作用しなければ、スプリング16は伸長して、第1のカム14と第2のカム15が嵌合して、キャスター10の回動が制限される。
スプリングを省略した場合には、車いす100の分散荷重が作用しない状態では、第1のカム14が自重で降下して第2のカム15と嵌合する。一方、車いす100の分散荷重が作用すると第1のカム14と第2のカム15は離隔して、嵌合していない状態になり、回動自在となる。他の作用効果はスプリングを具備している場合と同様である。
例えば、図示の実施形態ではキャスターが車いすの前輪に用いられている場合のみが図示されているが、本発明のキャスターは車いすの前輪のみならず、各種車いすの前輪後輪、ベビーカー、台車、配膳用フードワゴン、その他に広く適用可能である。
11・・・キャスターの車輪の回転軸
13・・・ロッド(回動軸または固定軸)
13A・・・回動軸ストッパ
13B・・・溝
13C・・・ベアリング設置部分
14・・・第1のカム
14A・・・カムの接触子相当部分
15・・・第2のカム
15A、15B・・・カムの窪んだ部分(谷)
16・・・スプリング(弾性部材)
18・・・シリンダー(回動筒または軸支筒)
18A・・・シリンダー蓋部
18B・・・貫通孔
19・・・支持部材(フォーク)
21・・・ストッパ(ロックピン)
22・・・ベアリング
100・・・車いす
B・・・摺動して移動する方向
CD・・・回動軸中心線
C1・・・車いすの中心軸(中心線)
C2R、C2L・・・キャスターの中心軸(中心線)
αR、αL・・・傾斜角度(キャスターの中心軸と車いすの中心軸の傾斜角度)
D・・・スプリング組み込みスペース
IN・・・回動軌跡のうち車体内側部分
OUT・・・回動軌跡のうち車体外側部分
OCR、OCL・・・キャスターの車輪最外縁の回動軌跡
OSR、OSL・・・回動軸と回転軸のオフセット距離
P・・・カムの最も窪んだ部分の側縁
Px・・・カムの最上点
R2・・・回動軸の回転方向
W・・・カムの最も窪んだ部分の幅
Claims (1)
- 車いすのキャスターにおいて、
軸に形成または固定された第1のカムと、前記軸が挿通するシリンダーに形成または固定された第2のカムを有し、
軸に車輪が取り付けられ、
第1のカムと第2のカムの形状は、第1のカムと第2のカムが嵌合していない状態では相互に回動可能であり、車輪と床面が接触する部分が車いすの本体側面よりも車いす本体の中心軸側の領域と車いす本体の本体側面よりも車いす本体の中心軸から離隔した領域とを移動可能に構成され、第1のカムと第2のカムが嵌合した場合に、車輪と床面が接触する部分が、車いすの本体側面よりも車いす本体の中心軸側の領域に位置する様に設定され、車輪の中心線と車いす本体の中心線とが為す傾斜角度は5°~180°の範囲内であることを特徴とするキャスター。
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