JP7364992B1 - フラッシュバット溶接レールの製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の一態様に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、前期フラッシュ工程と、パルス工程と、後期フラッシュ工程と、アプセット工程とを備え、パルス工程における周波数を1~10Hzとし、パルス工程における最大電流を2.33~6.98A/mm2とし、パルス工程における平均電流を0.70~4.65A/mm2とし、後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度を0.2~3.4mm/secとし、パルス工程において、積算電流の単位kA・sec/mm2での上限値を(8×周波数-480×C含有量+1400)/8600とし、パルス工程において、積算電流の単位kA・sec/mm2での下限値を(3.5×周波数-180×C含有量+55×Mn含有量+45×Cr含有量+300)/8600とする。

Description

本発明は、フラッシュバット溶接レールの製造方法に関する。
レールの中で最も損傷が起こりやすく、保守コストがかかる部分は、レールの継目部である。また継目部は、列車通過時に生じる騒音・振動の主要な発生源となる。一方、貨物鉄道では貨車の重積載化が進められている。そのため、上記問題点を有するレール継目を溶接によって連続化して、ロングレールを製造する技術が一般化している。
溶接方法は種々あるが、フラッシュバット(FB)溶接が主である。レール製造会社から出荷されたレールは、鉄道会社の溶接工場にて、据え置きタイプのFB溶接機(固定式FB溶接機)を用いて溶接され、これにより、例えば200m以上の長さのロングレールが製造される。このロングレールは敷設場所に運ばれ、可搬式のFB溶接機(モバイル式FB溶接機)を用いてさらに溶接され、これにより1000m以上のロングレールが製造される場合が多い。
図2A及び図2Bに示すように、レールのFB溶接方式には、主に予熱フラッシュ方式、及びパルスフラッシュ方式の2種類がある。
固定式FB溶接機は、変圧器容量が大きく、大電流を流すことが可能である。そのため、固定式FB溶接機を用いたFB溶接では、大電流を流す予熱工程を有する予熱フラッシュ方式が主に採用されている。予熱フラッシュ方式は前期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなる。
前期フラッシュ工程では、まず溶接母材となる2本のレールの端面を、電圧を印加させた状態で、隙間を設けて突き合せる。ここで「突き合せる」とは、二つのものを近づけて、ただし離隔させた状態で向かい合わせることを意味している。向かい合わせられた二つのものを接触させることを意味する「突き当てる」という用語と、「突き合わせる」という用語とは、区別される。次いで、レールの端面を近づけるようにレールを移動させる。通常、片側のレールを、もう片側のレールに向けて前進させる。これにより、2本のレールの端面において、局所的に短絡電流が流れる。
抵抗発熱により、レールの端面は急速に加熱され溶融に至る。突き合わせられたレールの間は、溶融金属で橋絡される。この橋絡部では、アークが発生する。これにより、溶融金属の一部が飛散するとともに、輻射熱で端面が加熱される。溶融金属の飛散は、フラッシュの発生と称される。前期フラッシュ工程では、これらの現象が連続的に繰り返される。そして、前期フラッシュ工程によって、レールの端面は平坦化される。前期フラッシュ工程は、予フラッシュ、又は平坦化フラッシュと称される場合もある。
溶融金属の飛散によりレールが消耗するので、前期フラッシュ工程、及び後述する後期フラッシュ工程では、レールを互いに近づける必要がある。このときのレールの相対移動速度をフラッシュ速度という。また、レールの相対移動量をフラッシュ長という。さらに、フラッシュ工程の期間に消耗したレールの長さをフラッシュ代という。通常、フラッシュ長とフラッシュ代とは実質的に同一の値となる。
予熱工程では、2つのレールの端面の全体を接触させ、2秒から5秒間程度通電した後に、レールの端面を1秒から2秒間程度引き離す。接触及び引き離しを2回から18回程度繰り返す。このとき、2つの端面の全体が接触するので、レールには大電流が流れる。これにより、後期フラッシュ工程の実施に先立って、レールの端面を予熱する。
後期フラッシュ工程では、前期フラッシュ工程と同様に、まず2本のレールの端面を、電圧を印加させた状態で、隙間を設けて対向させる。次いで、レールの端面を近づけるようにレールを移動させる。これにより2つの端面の間にフラッシュを生じさせる。後期フラッシュ工程の原理は、前期フラッシュ工程と同様である。しかし前期フラッシュ工程とは異なり、後期フラッシュ工程の開始の時点では、レールの端面は平坦化されており、且つ予熱されている。後期フラッシュ工程におけるフラッシュ速度、即ち後期フラッシュ速度は、一般的に、前期フラッシュ工程におけるフラッシュ速度、即ち前期フラッシュ速度より速くなる。また、後期フラッシュ工程におけるフラッシュ長は、前期フラッシュ工程におけるフラッシュ長より長い。
後期フラッシュ工程により、端面全体が溶融状態とされる。その後のアプセット工程で、レールの端面同士を突き当てて大圧下力を加える。大圧下力により、レールの端面が接合され、溶接レールが作製される。また、アプセット工程の際には、端面の溶融物及び酸化物が、溶接部から押し出されてバリとなる。バリは溶接完了後に除去されることが通常である。
モバイル式FB溶接機は、可搬性を重視した設計とされている。そのため、モバイル式FB溶接機は、固定式FBと比較して変圧器容量が小さく、通電可能な最大電流が小さい。そのため、モバイル式FB溶接機では、上述した予熱工程において十分な電流を流すことができない。そこで、モバイル式FB溶接機を用いたFB溶接では、パルスフラッシュ方式が主に採用されている。パルスフラッシュ方式は、予熱フラッシュ方式よりも最大電流が小さいことを特徴とする。
パルスフラッシュ方式のFB溶接は、前期フラッシュ工程、パルス工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなる。上述の予熱フラッシュ方式のFB溶接における予熱工程が、パルス工程と置き替えられたものが、パルスフラッシュ方式のFB溶接であると考えることができる。パルス工程では、1秒間に数回の割合(数Hz)でレールの前進と後退とを繰り返すものであり、レールの接触面積の増加に伴い、電流値を高めることができる溶接方法である。そのため、パルス工程は、レールの予熱方法の一種と言える。ただし、予熱フラッシュ方式における予熱工程と、パルスフラッシュ工程におけるパルス工程とは、保持時間の有無において相違する。
予熱工程では、一対のレールを強制的に接触させて短絡状態とし、ジュール発熱を生じさせ、これにより端面を加熱する。一対のレールの接触状態は、数秒から数十秒にわたって保持される。従って電流は、図2Aに示されるように、数秒から数十秒にわたってレールに印加される。予熱工程における電流波形は、ハット型波形と称される場合がある。また、一対のレールを接触させた状態で、電流を間欠的に通電することもある。
一方でパルス工程では、前進及び後退からなる数Hzのパルスをプラテン送りに重畳させながら、プラテンを移動させる。この際、一対のレールの接触状態は極めて短時間しか維持されない。パルス工程では、一対のレールが接触するとすぐに、レールを引き離すようにプラテンを制御する。ただし、一対のレールが圧着された結果、レールの引き離しが速やかに実施されず、外見的に一対のレールの接触状態が保たれることがある。一対のレールの前進及び後退の際にフラッシングが生じる。フラッシングによって、レールの端面が予熱される。パルス工程における電流波形は、図2Bに示されるようなピーク型波形となる。
なお、一般的なFB溶接では、2本のレールのうち一方を、他方に向けて前進及び後退させるが、2本のレールの両方を互いに接近及び離隔させてもよい。以下、レールの「前進」とは、2本のレールを互いに接近させることを含む概念であり、レールの「後退」とは、2本のレールを互いに離隔させることを含む概念である。
ただしパルス工程では、レール同士を最大限に前進させた場合でも、端面全体が接触しない場合がある。また、レール同士を離隔させようとしても、端面がくっつき、引き離されない場合がある。また、パルスフラッシュ方式のパルス工程における電流値は、前述の通り、予熱フラッシュ方式の予熱工程の電流値よりも小さい。そのため、パルス工程における積算電流値は、予熱フラッシュ方式の予熱工程における積算電流値と比較し小さい。なお、積算電流値とは、予熱工程又はパルス工程における平均電流値と総通電時間との積であり、予熱工程又はパルス工程における入熱量の指標である。パルス工程における総通電時間とは、パルス工程時間、即ちパルス工程の開始から終了までの時間である。パルス工程における平均電流値とは、パルス工程での電流値の時間積分値を総通電時間で割った値である。予熱工程における総通電時間とは、予熱工程における通電時間の合計値である。図2Aに示される予熱工程の電流波形図において、電流値が0とされている時間は、総通電時間に含まれない。予熱工程における平均電流値は、電流値の時間積分値を総通電時間で割った値である。
フラッシュバット溶接レールは、曲げ試験において規格で定められている基準を満足することが求められる。溶接規格として、例えばAREMA(アメリカ鉄道工学及び保線協会)規格がある。ここでは、破断時のたわみ量は0.75inch以上、破断時の底部応力は125000lbp/in以上と定められている。
パルスフラッシュ方式のFB溶接で溶接されたフラッシュバット溶接レールは、予熱フラッシュ方式のFB溶接と同様に、破断時のたわみ量及び底部応力について、規格を満足させる必要がある。
曲げ試験において溶接レールが破断する起点は、溶接方式に関わらず、溶接面の酸化物欠陥である場合が多い。大気溶接を行うフラッシュバット溶接において、アプセット工程前の後期フラッシュ工程で生成した酸化物が、アプセット工程で排出されずに溶接継ぎ手内に残る。この酸化物が、溶接レールにおいて酸化物欠陥となり、曲げ試験に関する規格を満足しない原因となる。
発明者らは、パルスフラッシュ方式のFB溶接によって得られた継手が曲げ試験の規格を満足しない比率は、予熱フラッシュ方式のFB溶接におけるそれと比較して、高いことを確認した。一般的に、溶接時の積算電流を高めることが、曲げ試験における破断時のたわみ量及び底部応力を高めるために有効であることが知られている。しかしながら、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって得られた継ぎ手には、予熱フラッシュ方式と比較して、積算電流を高めても、曲げ試験における破断時のたわみ量及び底部応力が規格を満足し難いという課題がある。
さらに、モバイル式FB溶接機を用いてパルスフラッシュ方式によるFB溶接を行う場合、パルス工程で積算電流を高めるほど、端面同士がくっついて離れなくなり、パルス制御を維持できなくなる課題がある。パルス工程において、端面がくっつく現象は、圧着と呼ばれる。
レールのフラッシュバット溶接は、主に予熱フラッシュ方式によって行われてきた。従って、予熱フラッシュ方式を用いた溶接方法に関する文献は多く発行されている。その一方で、パルスフラッシュ方式を用いた溶接方法について検討された事例は非常に少ない。
特許文献1では、入熱効果の大きいアークを得ることを目的に、大断面積高温材のパルスフラッシュ方式を用いた溶接において、前進、後退タイミングを電流値、電力値で定める溶接方法が開示されている。特許文献2では、生産能力を高めることを目的にレールのパルスフラッシュ方式を用いた溶接において、パルス工程全体の開始温度、終了時の溶損量を規定した溶接方法が開示されている。特許文献3には、高MnレールであるR260レールの組織制御を目的に、パルスフラッシュ方式を用いた溶接において、入熱量を規定した溶接方法が開示されている。非特許文献1では、周波数7~9Hzでのレールのパルスフラッシングに関する最適化された溶接条件が開示されている。
特開2002-205175号公報 特開昭57-50285号公報 中国特許出願公開第110616368号明細書
「ACCELERATING THE HEATING OF RAILS DURING FLASH WWELDING WITH PULSED FLASHING」S.I.KUCHUK-YATSENKOら、Paton溶接研究所、ウクライナ科学アカデミー、Avtom Svarka No.4 Page.45-47(1977)
しかしながら上記の先行技術文献には、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験において低たわみ量及び低底部応力での破断を防止する方法、及び、パルス工程における圧着を防止する方法に関する記載はない。
本発明の課題は、(1)パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験時の低たわみ量及び低底部応力での破断を抑制可能であり、且つ、(2)パルス工程中にレールの端面の圧着を防止可能であるフラッシュバット溶接レールの製造方法を提供することである。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、長手方向に沿って並べられた一対のレールの端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより前記端面を平坦化する前期フラッシュ工程と、一対の前記レールの前記端面の接触及び引き離しを繰り返し、これにより前記端面を予熱するパルス工程と、一対の前記レールの前記端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより前記端面を全体的に溶融させる後期フラッシュ工程と、一対の前記レールの前記端面を突き当てて加圧し、これにより前記レールを接合するアプセット工程と、を備え、前記パルス工程における周波数を1~10Hzとし、前記パルス工程における最大電流を2.33~6.98A/mmとし、前記パルス工程における平均電流を0.70~4.65A/mmとし、前記後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度を0.2~3.4mm/secとし、前記レールの化学成分が、単位質量%でC:0.60~1.20%、Mn:0.1~2.0%、Cr:0.01~2.00%、Si:0.10~2.00%、Al:0.001~0.500%、P:0.020%以下S:0.020%以下、N:0.003~0.020%、V:0~0.300%、Ti:0~0.0500%、Nb:0~0.050%Cu:0~1.000%、Ni:0~1.00%、Ca:0~0.0200%、REM:0~0.0500%、及びMo:0~0.500%を含有し、残部はFe及び不純物を含み、前記パルス工程において、前記平均電流と通電時間との積である積算電流の、単位kA・sec/mmでの上限値を(8×前記周波数-480×C含有量+1400)/8600とし、前記パルス工程において、前記積算電流の単位kA・sec/mmでの下限値を(3.5×前記周波数-180×C含有量+55×Mn含有量+45×Cr含有量+300)/8600とする。
(2)上記(1)に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、好ましくは、前記パルス工程における最小電流を0.12A/mm以上とする。
(3)上記(1)又は(2)に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、好ましくは、前記後期フラッシュ工程のフラッシュ長を5~50mmとする。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法では、好ましくは、前記レールの前記化学成分が、単位質量%でV:0.001~0.300%、Ti:0.0008~0.0500%、Nb:0.001~0.050%、Cu:0.005~1.000%、Ni:0.01~1.00%、Ca:0.0005~0.0200%、REM:0.0005~0.0500%、Al:0.001~0.500%、及びMo:0.002~0.500%からなる群から選択される一種以上を含有する。
本発明に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法によれば、(1)パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験時の低たわみ量及び低底部応力での破断を抑制可能であり、且つ、(2)パルス工程中にレールの端面の圧着を防止可能であるフラッシュバット溶接レールの製造方法を提供することができる。
前期フラッシュ工程の模式図である。 パルス工程の模式図である。 後期フラッシュ工程の模式図である。 アプセット工程の模式図である。 予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接における電流値変化の比較図である。 パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接における電流値変化の比較図である。 フラットスポット最大長さと曲げ破断時の底部応力との関係を示すグラフである。 端面の温度測定場所、及び低温部の評価単位を示す図である。 図4Aにおける破線で囲まれた矩形領域の拡大図である。 Cと、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度の温度差50℃以上の評価単位の個数の関係を示すグラフである。 Mnと、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度の温度差50℃以上の評価単位の個数の関係を示すグラフである。 Crと、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度の温度差50℃以上の評価単位の個数の関係を示すグラフである。 パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度の温度差50℃以上の評価単位の個数とフラットスポット最大長さの関係を示すグラフである。 周波数とフラットスポット最大長さの関係を示すグラフである。 最大電流とフラットスポット最大長さの関係を示すグラフである。 平均電流とフラットスポット最大長さの関係を示すグラフである。 最大パルス時間比率と後退できなくなる比率の関係を示すグラフである。 Cと最大パルス時間比率の関係を示すグラフである。 周波数と最大パルス時間比率の関係を示すグラフである。 最大電流と最大パルス時間比率の関係を示すグラフである。 平均電流と最大パルス時間比率の関係を示すグラフである。 曲げ試験方法を示す模式図である。
本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法では、レール1A、1Bの化学成分、パルス工程S2における周波数、最大電流、平均電流、及び積算電流、並びに後期フラッシュ工程S3における最終フラッシュ速度を最適範囲内とする。即ち、本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法は、図1A~図1Dに示されるように、
(S1)長手方向に沿って並べられた一対のレール1A、1Bの端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより端面を平坦化する前期フラッシュ工程と、
(S2)一対のレール1A、1Bの端面の接触及び引き離しを繰り返し、これにより端面を予熱するパルス工程と、
(S3)一対のレール1A、1Bの端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより端面を全体的に溶融させる後期フラッシュ工程と、
(S4)一対のレール1A、1Bの端面を突き当てて加圧し、これによりレールを接合するアプセット工程と、
を備える。さらに、本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法では、パルス工程における周波数を1~10Hzとし、パルス工程における最大電流を2.33~6.98A/mmとし、パルス工程における平均電流を0.70~4.65A/mmとし、後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度を0.2~3.4mm/secとし、レールの化学成分が、単位質量%でC:0.60~1.20%、Mn:0.1~2.0%、Cr:0.01~2.00%、Si:0.10~2.00%、P:0.020%以下S:0.020%以下、及びN:0.003~0.020%を含有し、残部はFe及び不純物を含み、パルス工程において、平均電流と通電時間との積である積算電流の、単位kA・sec/mmでの上限値を(8×周波数-480×C含有量+1400)/8600とし、パルス工程において、積算電流の単位kA・sec/mmでの下限値を(3.5×周波数-180×C含有量+55×Mn含有量+45×Cr含有量+300)/8600とする。
なお、溶接条件には、溶接開始前に予め定められた計画値と、溶接中に測定される実績値とがある。上述の溶接条件は、実績値に基づく。なお、上述の溶接条件には含まれないが、後述する「最大パルス時間比率」は、計画値と実績値との乖離を示す指標である。
また、図1A~図1Dには、レールの柱部に電極を押し付ける溶接方法を例示している。電極は、レールの柱部を両側から挟み込むように配置される。図1A~図1Dでは、柱部の手前側に配された電極のみ記載し、柱部奥側に配された電極については記載を省略している。しかしながら、電極を設置する箇所は特に限定されない。レールの頭表面、及び足裏面に電極を押し付けてフラッシュバット溶接を実施してもよい。
これにより、本実施形態に係る製造方法では、パルス工程中に端面の圧着が生じることなくフラッシュバット溶接を継続できる。さらに、本実施形態に係る製造方法によって得られた継ぎ手、即ちフラッシュバット溶接レールの曲げ試験において、低たわみ量、低底部応力で溶接部が破断することがない。従って、本実施形態に係る製造方法によって得られたフラッシュバット溶接レールの曲げ性能は、レールの溶接規格を満足することができる。
以下では、まず、上述した本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法の諸条件の検討過程について、図を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
<用語の定義>
本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法を説明するに先立ち、用語の定義を述べる。
レール:溶接母材となる、溶接前のレールを意味する。
フラッシュバット溶接レール(溶接レール/welded rail):フラッシュバット溶接によって製造された、2以上のレールを溶接して得られたレールを意味する。フラッシュバット溶接レールは、母材部と溶接部とを備え、母材部は、溶接前のレールと同じ化学成分及び組織を有する。
圧着:事前に定められた周波数のレール前進及び後退制御において、突き合せられた2本のレールの端面(溶接面)がくっつき離れなくなること、もしくは端面が離れにくくなり、レールが後退するのに要する時間が事前に定められた時間と比較して長くなることを意味する。
酸化物欠陥:大気溶接を行うフラッシュバット溶接において、後期フラッシュ工程で生成した酸化物がアプセット工程で排出されずに溶接継ぎ手内に残ったものを意味する。溶接継ぎ手の曲げ試験、及び疲労試験などにおいて、破断の起点となる場合が多い。
積算電流:パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接のパルス工程、又は予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接の予熱工程における、平均電流と総通電時間との積を意味する。積算電流は、パルス工程又は予熱工程における入熱量の指標となる。
1パルス:パルス工程における、1回のレールの前進及び後退を意味する。
計画パルス時間:溶接前に定められた、1回のパルスの実施に要する時間の計画値を意味する。
実績パルス時間:溶接の際の電流波形の実測値から測定される、1回のパルスの実施に要する時間の実績値を意味する。パルス工程においては、一対のレールが圧着されて、レールの引き離しが速やかに実施されない場合がある。従って、計画パルス時間と実績パルス時間とは必ずしも一致しない。
最大実績パルス時間:複数のパルスを有するパルス工程における、実績パルス時間の最大値である。
最大パルス時間比率:最大実績パルス時間を、計画パルス時間で割った値であり、計画値と実績値との乖離を示す指標である。最大パルス時間比率が100%の場合、所定の時間でレールが前進、後退したことを示す。
<溶接方法の説明>
本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法を検討する際には、パルスフラッシュ方式のモバイル式FB溶接機を用いて溶接を行った。溶接機はプラッサー社製のモバイル式FB溶接機を用いた。しかし、このことは本実施形態に係る製造方法を実施するための溶接機種を限定するものではない。
パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接は、前述の通り、前期フラッシュ工程S1、パルス工程S2、後期フラッシュ工程S3、及びアプセット工程S4を有する。
図1Aに示される前期フラッシュ工程S1では、長手方向に並べられた一対のレールの端面の間に隙間を設け、電圧を印加させた状態で2本のレールを互いに近づけるように移動させ、これにより端面の間にフラッシュを生じさせる。前期フラッシュ工程の開始の際には、端面は平坦ではないことが通常である。そのため前期フラッシュ工程では、端面の間に局所的に短絡電流が流れ、抵抗発熱により急速に加熱され溶融に至る。そして、端面の間は溶融金属で橋絡される。この橋絡部では、アークが発生する。アークは、溶融金属の一部を飛散させるとともに、輻射熱で端面を加熱する。前期フラッシュ工程では、これらの現象が連続的に繰り返される。これにより、レールの端面が平坦化される。
溶融金属の飛散により、レールが消耗するため、レールを近づけるように移動させる必要がある。このときのレールの前進速度をフラッシュ速度といい、移動させた量をフラッシュ長という。レールの一方のみを移動させた場合、この移動させたレールの移動量をフラッシュ長とみなす。また、両方のレールを互いに近づけるように移動させた場合、両方のレールの移動量の合計値をフラッシュ長とみなす。パルス工程S2、後期フラッシュ工程S3、及びアプセット工程S4においても、レールの移動量は上述の方法で特定される。以下、便宜上、レールの端面を互いに近づけることを「前進」と記載し、レールの端面を互いに遠ざけることを「後退」と記載する。
図1Bに示されるパルス工程S2では、レールの前進及び後退を、数Hzの周波数で繰り返し行う。これにより、一対のレールの端面の接触及び引き離しが、繰り返し実施される。これにより、端面は予熱される。レールを前進させたときに、端面の接触面積は最大となり、レールを後退させると、端面の接触面積は0またはこれに近い小さい値となる。端面の接触面積に比例して、電流は増大する。従って、パルス工程では、電流の増大及び減少が繰り返される。2つの端面が完全に引き離される場合は、電流はゼロとなる。
図1Cに示される後期フラッシュ工程S3では、一対のレールの端面の間にフラッシュを生じさせる。後期フラッシュ工程の原理は前期フラッシュ工程と同じである。ただし、後期フラッシュ工程においてレールを前進させる速度、即ち後期フラッシュ速度は、一般的に、前期フラッシュ工程におけるフラッシュ速度、即ち前期フラッシュ速度よりも速い。また、一般的に、後期sフラッシュ長は前期フラッシュ工程より長い。また、前期フラッシュ工程は、端面を平坦化させた段階で次のパルス工程に移行するが、後期フラッシュ工程は、端面を全体的に溶融させた段階で次のアプセット工程に移行する。
図1Dに示されるアプセット工程S4では、後期フラッシュ工程S3によってレールの端面全体を溶融状態にした後に、大荷重をレールに加える。これによりレールの端面が接合され、フラッシュバット溶接レールが作成される。また、アプセット工程S4では、端面の溶融金属が溶接部の外部に排出されてバリ3となる。バリ3を除去する工程を、本実施形態に係る製造方法がさらに備えてもよい。
<レール素材について>
レール素材は、AREMA Chapter 4 “Rail”、UIC860-Rに規定されているように、Cを0.60~0.86質量%含有する共析組成又は過共析組成のレール鋼が一般的である。また最近では、フラッシュバット溶接レールの耐摩耗性を一層向上させるために、さらにCを高めたレール鋼も普及しつつある。また、フラッシュバット溶接レールが用いられる路線における貨車重量に応じて、フラッシュバット溶接レールの断面サイズが選択される。すなわち重量の重い貨車が通る区間では、剛性が高く、断面サイズの大きいレールが採用される。
<曲げ試験における低たわみ量、低底部応力の原因と酸化物の生成機構について>
フラッシュバット溶接レールに曲げ試験を実施することにより形成される破面には、脆性破面とは明らかに異なる、表面に凹凸のない部位(”フラットスポット”という)が一つ又は複数個存在し、これを目視で確認することができる。フラットスポットを分析すると、これがMn、Crなどの酸化物の集合体を含んでいることがわかる。従って、このフラットスポットは酸化物欠陥の一種である。フラットスポットは、曲げ試験におけるたわみ量、及び底部応力を低下させる原因となることが知られている。
フラッシュバット溶接レールが低たわみ量、低底部応力で破断する場合、破断の起点は、溶接方式に関わらず溶接面の酸化物欠陥である場合が多い。大気溶接を行うフラッシュバット溶接において、アプセット工程前の後期フラッシュ工程で生成した酸化物が、アプセット工程で排出されずに溶接継ぎ手内に残った場合、この酸化物が酸化物欠陥となる。そして、酸化物欠陥が、曲げ試験においてたわみ量、底部応力が規格を満足しない原因となる。
<フラットスポット最大長さと、曲げ時の底部応力との関係:曲げ破断応力の低下の原因の説明>
フラットスポット最大長さと、曲げ時の底部応力との関係を図3に示す。底部応力は、一つ又は複数個あるフラットスポットの最大長さの影響を受ける。フラットスポットの最大長さの増加に伴い、フラッシュバット溶接レールの曲げ破断応力は低下する傾向を示す。フラットスポットの最大長さが12mmを超えると、曲げ時の底部破断応力は著しく低下し、溶接規格を満たさなくなることを本発明者らは明らかにした。そのため、フラッシュバット溶接レールの曲げ時の底部応力が規格を満足するには、最大フラットスポット長さを12mm以下にする必要があることを明らかにした。なお今回はフラットスポット最大長さと曲げ時の底部応力との関係を提示したが、フラットスポット最大長さとたわみ量との関係においても、同様な結果が得られた。
<曲げ性能改善対策の一般的な考え方と、この対策をパルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接へ適用した結果>
フラッシュバット溶接レールの曲げ試験において、破断時のたわみ量、及び底部応力を高めるためには、固定式FB溶接機を用いる場合には、溶接時の積算電流を高め、後期フラッシュ工程の開始前に端面全体の温度を高くすることが有効であることが知られている。これにより、後期フラッシュ工程で生成した酸下物をアプセット工程で排出させやすくすることができる。しかしながら、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接においては、積算電流を高めても、破断時のたわみ量、及び底部応力が規格を満足しない場合があった。
<パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接で、一般的な曲げ性能改善対策による効果が得られなかった想定理由>
そこで発明者らは検討を重ねた結果、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接において積算電流を高めても、低たわみ量、低底部応力での破断が生じる原因を調査した。具体的には、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接におけるフラットスポットの生成機構を調査した。その結果、下記の知見を得た。
パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接において積算電流を高めても、曲げ試験における破断時のたわみ量、及び底部応力が規格を満足しない場合がある理由は、パルス工程において端面に温度が十分に上がりにくい部位があるためである。より詳細に説明すると、レールの化学成分において酸化物が生成しやすい合金成分が多い場合、パルス工程で端面に酸化物が生成しやすい。当該酸化物が生成した部位では、電流が著しく流れにくく、温度が上昇しづらい。即ち、端面における酸化物が生成した部位は、パルス工程によっても十分に予熱することができない。そのために、パルス工程において酸化物が生成した部位の温度は、後期フラッシュ工程でも十分に上がらない。そして、後期フラッシュ工程で生成した酸化物が、アプセット工程で排出され難くなる。これにより、パルス工程において酸化物が生成した部位が酸化物欠陥(フラットスポット)となりやすい。その結果、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験において、低たわみ、低底部応力で破断が生じると本発明者らは考える。なお、パルス工程で生成した酸化物は、その後の後期フラッシュ工程においてその大半は溶鋼とともに飛散すると本発明者らは考える。従って、フラットスポットを形成する酸化物は、パルス工程で生成した酸化物ではなく、後期フラッシュ工程で生成した酸化物であると推定される。
<酸化物起因で生じる、曲げ試験における低たわみ量及び低底部応力での破断への対策の考え方>
パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって得られるフラッシュバット溶接レールの曲げ試験で、たわみ量、及び底部応力が規格を満足するためには、パルスフラッシュ方式特有の工程であるパルス工程の入熱影響因子と、フラットスポットとの関係を明らかにすることが有効であると本発明者らは考えた。入熱影響因子とは、積算電流、最大電流、平均電流、周波数などである。さらに、端面における酸化物が生成した部位の温度低下を防止するために、レール成分とフラットスポットとの関係を明らかにすることが有効であると発明者らは考えた。
発明者らは検討の結果、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって得られたフラッシュバット溶接レールにおける、低たわみ量、及び低底部応力での破断への対策として、今回、下記の知見を得た。なお、下記の知見を得るための検討は、以下の条件で実施した。Cは0.9質量%、Mnは1.0質量%、Crは0.5質量%の化学成分であり、且つ1m当たりの重量67kgのレールを、溶接母材として用いた。レールの断面積は8600mmであった。積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30000A(3.49A/mm)、平均電流は18000A(2.09A/mm)、周波数は5Hzの基本条件で、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接を行った。
<パルス条件、及び成分条件による酸化物の抑制機構の説明>
(成分の個別の影響について)
発明者らは、フラッシュバット溶接レールの曲げ性能、及びフラットスポット最大長さに及ぼすレールの化学成分の影響を調査して、下記の知見を得た。化学成分の影響により、パルス工程において端面に酸化物が発生すると、酸化物が発生した部位の温度は低い。一方で、酸化物が生成していない部位の温度は高い。そのため、端面内で温度差が生じる。この温度差の影響が、後期フラッシュ工程、及びアプセット工程でも継続し、パルス工程の完了後に温度の低い部位では、後期フラッシュ工程で生成した酸化物がアプセット工程で排出され難くなる。これが、フラットスポット(酸化物欠陥)が生成する原因となる。そして、曲げ試験において、低底部応力で破断が生じる。そこで、化学成分が曲げ試験に及ぼす影響を評価するために、“パルス工程の終了後の端面における低温部の個数”を指標として用いた。なおパルス工程の終了後の端面における低温部の個数は、パルス工程の終了直後に端面を引き離して測定した。また、パルス工程時に端面に生成した酸化物は、後期フラッシュ工程の溶鋼の飛散とともに、外部に排出されると考える。
(端面の温度計測方法)
温度を測定するために用いる機器は、例えばサーモビュアー(物体表面の温度分布を非接触で測定する温度計)がある。サーモビュアーの必要な検出画素数は、横方向320画素以上、縦方向240画素以上とする。測定対象は、レールの高さ方向の中立線より下側の範囲とする。溶接レールの曲げ試験において、引張の応力が働くのは、中立線より下側であるため、当該範囲の温度を測定することによって、当該範囲に存在する酸化物を評価する必要があると考えられた。
ただし、端面の外周、及びその内側2mmは低温部の評価対象外とする。なぜなら、端面の外周、及びその内側2mmの範囲は、周囲の空気により冷却されるので、酸化物の生成の有無に関わらず、温度が低いからである。また、端面の外周及びその近傍における溶融金属は、アプセット工程で外部に排出されやすいので、仮に当該範囲に後期フラッシュ工程で酸化物が発生しても、アプセット工程にて排出され無害化されると考えられた。
温度計測は、パルス工程の終了直後に端面を引き離し、端面のうち、高さ方向の中立線より下側の範囲の温度を、サーモビュアーで計測することにより実施した。このとき、端面において1画素に対応する領域の長さが、横方向、縦方向ともに0.5mm以下になるように、サーモビュアーと端面との間の距離を調整した。具体的には、サーモビュアーの横方向の視野の幅と、レールの足部の幅とを合わせるように、距離を調整した。なお、レール底面と、サーモビュアーの画像の底辺とが平行であることが好ましい。
(低温部の評価方法)
図4A及び図4Bに示すように、サーモビュアーにより測定された温度データの評価においては、幅方向10mm×高さ方向2mmの範囲を、1つの評価単位とした。そして、この評価単位を複数の所定の位置に配置し、それぞれにおける温度データを用いて評価した。図4Aはレール端面の概略図であり、図4Bは、レール端面のうち、高さ方向の中立線より下側の範囲の概略図である。図4Aにおける破線で囲まれた矩形領域が、図4Bである。図4A及び図4Bにおいて、符号Aが付された一点鎖線はレール端面の幅方向中心であり、符号Bが付された実線はレール端面の下端、即ちレールの足裏面であり、符号Oが付された領域は測定除外領域である。図4Bにおいて、符号C1が付された×印は、1つめの評価単位の中心であり、符号E1が付された破線によって囲まれた、幅10mm及び高さ2mmの矩形領域は、1つめの評価単位である。符号E2及び符号C2は、2つめの評価単位、及びその中心である。
評価単位の形状は、上述の通り、レールの端面の幅方向に沿って10mm、及び高さ方向に沿って2mmの矩形形状とした。
評価単位の位置については、以下の通りとした。まず、1つめの評価単位E1の中心C1を、レールの端面の幅方向中心A上、且つレール足裏面Bから上方3mmの位置に配置した。次に、1つめの中心C1を基準として、幅方向に2mmピッチ、高さ方向に2mmピッチの各点を、2つめ以降の評価単位の中心の位置とした。図4Bに記載されている、C1以外の×印が、2つめ以降の評価単位の中心の位置である。参考のために、2つめの評価単位E2も図4Bに記載した。ただし、3つめ以降の評価単位は省略した。なお、各評価単位は、幅方向端部において互いに重なり合うことになる。また、図4Bには評価位置の中心の位置を9個だけ記載し、10個め以降の記載は省略した。
サーモビュアーによる温度測定結果を、各評価単位において切り出す。そして、各評価単位内の平均温度とその最低温度との温度差を求めた。ただし、評価単位の範囲内に、上記測定対象から除外する条件(レール外周部及びその内側2mm)を含む場合、その評価単位は評価対象から除外する。
このようにして各評価単位における平均温度と最低温度を計算し、これらの温度差が50℃を上回った評価単位を「パルス工程の終了後の端面における低温部」とみなし、その個数を数えた。高温の酸化物は、非伝導体に近い性質と推測され、電流が極めて流れにくい。そのために、酸化物が存在する領域は温度上昇し難いと考えられる。そのため各評価単位において平均温度と最低温度との差が50℃を超えた場合、酸化物欠陥が評価単位内に生じていると判断した。なお、データのばらつきを考慮して、同じ化学成分を有するレールで3回の溶接を行い、平均温度と最低温度との温度差が50℃を上回った評価単位の点数が最大となった時のデータを、以下に説明する種々の評価において採用した。
(レールのC量と、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度との温度差50℃以上の評価単位の個数との関係:b)
種々のC量を適用したレールを溶接し、前述の通り、パルス工程の完了直後に端面を引き離し、サーモビュアーを用いて端面の温度を計測し、各評価単位における平均温度と最低温度との温度差を求めた。この時のC量と、温度差が50℃以上となった評価単位の個数との関係を図5に示す。レールのC量が0.6質量%以上の範囲では、C量の低下に伴い、温度差が50℃以上となった評価単位の個数は増加するが、その増加の割合は小さい。このことより、レールのC量は0.6質量%以上とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくは、レールのC量は0.7質量%以上とする。
一方、レールのC量が0.6質量%を下回ると、温度差50℃以上の評価単位の個数は著しく増加することを本発明者らは明らかにした。レールのC量が0.6質量%を下回ると温度差50℃以上の評価単位の個数が増加する理由は、Cは還元性の高い元素であり、C量の減少に伴い酸化物が生成しやすくなり、酸化物の生成個数が増加するからであると推定される。さらに前述の通り、酸化物は著しく電流が流れにくいため、酸化物が生じない部位と酸化物が生じた部位との間には温度差が生じやすく、温度差の大きい評価単位の個数が増加したと考える。その傾向が、C量が0.6%未満の範囲で顕著になったと考える。
(レールのMn量と、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度との温度差50℃以上の評価単位の個数との関係:c)
種々のMn量を適用したレールを溶接し、前述の通り、パルス工程の完了直後に端面を引き離し、サーモビュアーを用いて端面の温度を計測し、各評価単位における平均温度と最低温度との温度差を求めた。この時のMn量と、温度差が50℃以上となった評価単位の個数との関係を図6に示す。レールのMn量が2.0質量%以下の範囲では、Mn量の増加に伴い、温度差が50℃以上となった評価単位の個数は増加するが、その増加の割合は小さい。一方、Mn量が2.0質量%を上回ると、温度差50℃以上の評価単位の個数は著しく増加することを本発明者らは明らかにした。このことより、レールのMn量は2.0質量%以下とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくはレールのMn量は1.5質量%以下とする。
レールのMn量が2.0質量%を上回ると温度差50℃以上の評価単位の個数が増加する理由は、Mnは酸化性の高い元素であり、Mn量の増加に伴い酸化物が生成しやすくなり、酸化物の生成個数が増加するからであると推定される。さらに前述の通り、酸化物は著しく電流が流れにくいため、酸化物が生じない部位と酸化物が生じた部位との間には温度差が生じやすく、温度差の大きい評価単位の個数が増加したと考える。その傾向が、Mn量が2.0%超の範囲で顕著になったと考える。
(レールのCr量と、パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度との温度差50℃以上の数との関係:d)
種々のCr量を適用したレールを溶接し、前述の通り、パルス工程の完了直後に端面を引き離し、サーモビュアーを用いて端面の温度を計測し、各評価単位における平均温度と最低温度との温度差を求めた。この時のCr量と、温度差が50℃以上となった評価単位の個数との関係を図7に示す。レールのCr量が2.0質量%以下の範囲では、Cr量の増加に伴い、温度差が50℃以上となった評価単位の個数は増加するが、その増加の割合は小さい。一方、Cr量が2.0質量%を上回ると、温度差50℃以上の評価単位の個数は著しく増加することを本発明者らは明らかにした。このことより、レールのCr量は2.0質量%以下とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくはレールのCr量は1.3質量%以下とする。
レールのCr量が2.0質量%を上回ると温度差50℃以上の評価単位の個数が増加する理由は、Crは酸化性の高い元素であり、Cr量の増加に伴い酸化物が生成しやすくなり、酸化物の生成個数が増加するからであると推定される。さらに前述の通り、酸化物は著しく電流が流れにくいため、酸化物が生じない部位と酸化物が生じた部位との間には温度差が生じやすく、温度差の大きい評価単位の個数が増加したと考える。その傾向が、Cr量が2.0%超の範囲で顕著になったと考える。
(パルス工程直後の端面の平均温度と最低温度との温度差50℃以上の評価単位数と、フラットスポット最大長さとの関係:o)
図5~図7に示される、化学成分と温度差50℃以上の評価単位の個数との関係の評価においては、パルス工程の完了後に温度測定を行ったので、後期フラッシュ工程及びアプセット工程は実施されなかった。本発明者らは、温度差50℃以上の評価単位の個数がフラッシュバット溶接レールに及ぼす影響を確認するために、上述の評価における溶接条件を用いながら、種々のレールに対して後期フラッシュ工程、及びアプセット工程を行い、種々のフラッシュバット溶接レールを製造した。溶接後に、加速冷却及び再加熱などの熱処理は行われなかった。そして、種々の継手におけるフラットスポット最大長さを測定し、これにより、温度差50℃以上の評価単位の個数と、フラットスポット最大長さとの関係を評価した。評価結果を図8に示す。平均温度と最低温度の温度差50℃以上となる評価単位数が10個未満の場合、フラットスポット最大長さは3mm程度の小さい値となった。一方、温度差50℃以上となる評価単位数が10個以上である場合、急激にフラットスポット最大長さは大きくなった。また平均温度と最低温度の温度差50℃以上となる評価単位数が40個を超えると、最大フラットスポット長さは21mm程度で飽和する傾向を示した。
図8より、フラットスポット最大長さが12mmとなるのは、平均温度と最低温度の温度差50℃以上となる評価単位の数が20個の場合であると推定された。そのため、曲げ試験時の規格を満足するには図5~図7で示したように、平均温度と最低温度の温度差50℃以上となる評価単位の個数が20個以下になるように、レールのC、Mn、Crの含有量を選択する必要がある。具体的には、C量の範囲は0.6質量%以上とし、Mn、Cr量の範囲は2.0質量%以下とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくはC量の範囲は0.7質量%以上であり、Mn量は1.5質量%以下であり、Cr量は1.3質量%以下とする。
(パルス工程の周波数とフラットスポット最大長さの関係:e)
パルス工程における周波数が大きすぎると、1パルス(1回のレールの前進、後退)当たりの通電時間が短くなる。そのため、1パルス当たりの温度上昇量が小さくなり、端面の温度が低くなる。そして、後期フラッシュ工程でも温度が十分に高くならず、後期フラッシュ工程で生成した酸化物がアプセット工程で排出され難くなり、酸化物欠陥(フラットスポット)が形成されやすくなる。そのため、パルス工程における周波数が大きすぎると、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験において、低たわみ、低底部応力での破断が生じると考える。
周波数とフラットスポット最大長さの関係を図9に示す。周波数の増加に伴い、フラットスポット最大長さは増加する傾向を示した。フラットスポット最大長さが12mmとなるのは周波数が10Hzであることがわかった。そのため周波数の範囲は10Hz以下とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくは周波数の範囲は8Hz以下、7Hz以下、又は6Hz以下とする。なおこのときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30000A(3.49A/mm)、平均電流は18000A(2.09A/mm)、C量は0.9質量%、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%である。
(パルス工程の積算電流及び周波数、並びにレールの化学成分と、フラットスポットとの関係:f)
フラットスポット最大長さは、C量、Mn量、Cr量の相互の影響を強く受けることがこれまでの検討によりわかった。また周波数の影響を強く受けることを把握した。さらに、発明者らの調査によると、C量、Mn量、Cr量、周波数に応じて積算電流を制御することで、フラットスポット長さが変化することを明らかにし、これらを関数として、フラットスポット最大長さが12mm以下となる範囲を積算電流の式(2)で求めた。
積算電流下限=3.5×周波数-180×C%+55×Mn%+45×Cr%+300・・式(2)
なお、式(2)においてC%、Mn%、及びCr%は、それぞれ単位質量%でのレールのC量、Mn量、及びCr量である。式(2)においてC量は0.6質量%以上、Mn量は2.0質量%以下、Cr量は2.0%質量以下、周波数は1Hz以上の範囲である。
(パルス工程の最大電流とフラットスポット最大長さとの関係:g)
パルス工程の最大電流と、フラットスポット最大長さとの関係を図10に示す。最大電流の低下に伴い、フラットスポット最大長さは増加する傾向を示した。フラットスポット最大長さが12mmとなるのは、最大電流が2.33A/mmであることがわかった。そのためパルス工程の最大電流は2.33A/mm以上とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくは、パルス工程の最大電流は2.91A/mm以上とする。
最大電流低下に伴いフラットスポット最大長さが大きくなる理由は、前述の通り、パルス工程での積算電流が少ないため、後期フラッシュ工程で端面の温度が十分に高くならず、後期フラッシュ工程で生成した酸化物が、アプセット工程で排出され難かったためと考える。なおこのときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、平均電流は18,000A(2.09A/mm)、C量は0.9質量%、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%である。
(パルス工程の平均電流と、フラットスポット最大長さとの関係:h)
パルス工程の平均電流と、フラットスポット最大長さとの関係を図11に示す。平均電流の低下に伴い、フラットスポット最大長さは増加する傾向を示した。フラットスポット最大長さが12mmとなるのは平均電流が6,000A(0.70A/mm)であることがわかった。そのためパルス工程の平均電流の範囲は0.70A/mm以上とする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくは、パルス工程の平均電流の範囲は1.74A/mm以上とする。
パルス工程の平均電流低下に伴いフラットスポット最大長さが大きくなる理由は、前述の通り、パルス工程での積算電流が少ないため、後期フラッシュ工程で端面の温度が十分に高くならず、後期フラッシュ工程で生成した酸化物がアプセット工程で排出され難かったためと考える。なお、このときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30000A(3.49A/mm)、Cは0.9質量%、Mnは1.0質量%、Crは0.5質量%である。
<パルス工程における圧着の発生機構について>
事前に定められた周波数で行われるレールの前進及び後退の制御において、突き合せられた2本のレールの端面(溶接面)がくっつき離れなくなること、もしくは端面が離れにくくなり後退するのに要する時間が事前に定められた時間と比較して長くなることを、圧着と呼ぶ。一般的に、端面への積算電流が過剰に多く、これにより端面の温度が著しく高くなる場合に、圧着が生じやすくなる。
固定式FB溶接機を用いて行われる予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接の場合、予熱工程における積算電流を多くしても、予熱工程で圧着は生じなかった。固定式FB溶接機による予熱工程では、面全体を接触させて大電流を流す。そのため、端面間の凹凸は押しつぶされて平坦になるか、もしくは小さい。その結果、端面全体が概略均等に加熱され、部分的な過加熱は生じず、従って圧着が生じなかったと考える。端面全体が概略均等に加熱される当該現象は、積算電流の大小に関わらず、同様に生じると考える。
発明者らは、パルス工程における圧着の発生について、下記の知見を得た。
・パルス工程において、積算電流(最大電流、平均電流)が大きい場合に、端面への入熱量が大きくなる。端面の温度が高くなった結果、圧着が生じやすい。
・パルス工程において周波数が小さいと、1回の前進時における高温となる時間が長くなり、端面の温度上昇量が大きくなった結果、圧着が生じやすい。
・予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接の予熱工程とは異なり、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接のパルス工程では、レールの前進及び後退を繰り返すなかで、最大限レールが前進した場合でも端面すべてが接触するわけではなく、部分的な接触にとどまる。このことが、圧着の生成に大きく影響を及ぼす。とくに、端面内に部分的に電気抵抗の高い部位が存在すると、当該部におけるジュール発熱が高くなり、当該部及びその周辺部の温度が高くなる。その結果、圧着が生じやすい。
具体的には、パルス工程における端面は、パルス工程以前の溶融金属の飛散の影響を受けており、完全に平坦ではなく、無数の凹凸がある。レールの前進に伴い、先ず凸部が接触し、ジュール発熱により加熱され高温になる。そのため、端面の温度は不均一であり、端面のうち部分的に溶融する領域がある。レールの後退時において、当該溶融部は、温度低下に伴い凝固する。凝固する直前に、合金元素が固相から液相に排出され、合金元素の濃化域が生じることが知られている。例えば、Cは平衡分配係数が0.2と小さい。パルス工程中に、端面のうち部分的に液相になった部位が凝固して固相となる際に、固相から液相にCが吐き出され、Cの濃化が生じる。0.9%Cのレールの場合、端面の一部においてCが約4.5質量%程度まで濃化し、黒鉛として析出すると想定される。
黒鉛の高温時、例えば1200℃における電気抵抗率は8.4μΩ・m程度であることが知られている(東洋炭素(株)西本ら”直接通電による黒鉛材料の高温抵抗率変化率測定装置”、2015)。一方、レール鋼の高温時、例えば1200℃における電気抵抗率は2.1μΩ・m程度である。これは、黒鉛の電気抵抗率の1/4程度であることを発明者らは見出した。このように、高温時の黒鉛の電気抵抗は、レール鋼の電気抵抗と比較し極めて大きい。そのため、黒鉛部におけるジュール発熱量はレール鋼と比較し大きく、黒鉛部及びその近傍の温度が高くなった結果、圧着が生じやすいと考える。
なお、固定式FB溶接機を用いる予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接の予熱工程でも、端面が溶融することで合金元素が端面に排出され、電気抵抗が高くなる場合がある。しかしながら、予熱フラッシュ方式の場合、端面全体が接触し、溶融する。そのため、凝固時の合金元素の排出により、端面全体で濃化が生じる。さらに、次の予熱のためにレールが前進し、端面が接触した際に、溶鋼の飛散と同時に当該濃化部も外部に排出される。そのため、予熱フラッシュ方式のフラッシュバット溶接では濃化の影響は小さいと推定される。そのため、予熱フラッシュ方式の予熱工程では、パルスフラッシュ方式のパルス工程と比較し圧着が生じにくいと発明者らは考えた。
<パルス工程における圧着対策の考え方>
レールの前進及び後退制御における力(油圧)が固定式FB溶接機と比較して小さい、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接において、パルス工程における圧着防止のためには、パルスフラッシュ方式固有の対策が必要と本発明者らは考えた。具体的には、圧着対策として、端面の温度過上昇を防止するために、パルス工程の入熱影響因子(最大電流、平均電流、積算電流、周波数など)と圧着の関係を明らかにすること、さらに電気抵抗の高い部位における温度過上昇を防止するために、レール成分の化学成分と圧着の関係を明らかにすることが有効であると発明者らは考えた。
<パルス条件、及び成分条件による圧着抑制機構の説明>
最大パルス時間比率と、パルス工程において前進した後に後退できなくなる比率との関係を図12に示す。最大パルス時間とは、上述されたように、実績パルス時間の最大値である最大実績パルス時間を、溶接前に定められたパルス時間の計画値である計画パルス時間で割った値である。最大パルス時間は、計画値と実績値との乖離を示す指標である。
最大パルス時間比率が300%を超えると、後退できなくなる比率が著しく増加する。そのため、最大パルス時間比率は300%以下とする必要がある。パルス条件、成分条件を最適化することにより、最大パルス時間比率の範囲を300%以下にすることが、圧着抑制には重要である。
(レールのC量と、最大パルス時間比率との関係:j)
レールのC量と、パルス工程における最大パルス時間比率との関係を図13に示す。C量の増加に伴い、最大パルス時間比率は増加する傾向を示す。最大パルス時間比率が300%となるのは、C量が1.2質量%の時である。そのためC量は1.2質量%以下とする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくはC量の範囲は1.1質量%以下とする。
C量が高い場合に最大パルス時間比率が大きくなる理由は、下記と考えた。前述の通り、レールの前進時に、端面が部分的に高温になり溶融する場合がある。レールの後退に伴い、端面の温度が低下し、溶融部が凝固する。この凝固する直前に、固相から液相にCが排出され、Cの濃化域が部分的に発生し、Cが黒鉛として析出する。黒鉛の電気抵抗は、前述の通りレール鋼材に対して高い。そのため黒鉛の析出部、即ち黒鉛部におけるジュール発熱量は、その周囲と比較し大きい。黒鉛部及びその近傍が高温となるため、端面がくっつきやすくなると発明者らは考える。また、C量の増加に伴い、Cが濃化し黒鉛が生じる範囲が広くなる。そのため、C量の増加に伴い、最大パルス時間比率が増加したと発明者らは考えた。なお、このときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30000A(3.49A/mm)、平均電流は18000A(2.09A/mm)、周波数は5Hz、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%である。
(パルス工程における周波数と、最大パルス時間比率との関係:k)
パルス工程における周波数と、最大パルス時間比率との関係を図14に示す。周波数の低下に伴い、最大パルス時間比率は増加する傾向を示し、最大パルス時間比率が300%となるのは、周波数が1Hzのときであることがわかった。そのため周波数の範囲は1Hz以上とする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは周波数の範囲は3Hz以上とする。
周波数の低下に伴い最大パルス時間比率が増加する理由は、前述の通り、周波数が小さいと1パルスの前進及び後退の合計時間が長く、端面への入熱量が大きくなり、端面の温度が高くなった結果、端面がくっつきやすくなったためと考える。なお、このときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30,000A(3.49A/mm)、平均電流は18,000A(2.09A/mm)、C量は0.9質量%、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%である。
(パルス工程における積算電流、及び周波数、並びにレールの化学成分と、圧着との関係:l)
圧着の発生は、C量、及び周波数の影響を強く受けることがこれまでの検討によりわかった。さらに、発明者らの調査によると、C量、周波数に応じて積算電流を制御することで、圧着の発生に強く影響を及ぼすことを明らかにした。そして、これらを関数として、圧着の生じない積算電流(単位:kA・sec/mm)の範囲を式(3)で求めた
積算電流上限=(8×周波数-480×C質量%+1400)/8600・・式(3)
なお、式(3)においてC量は1.2質量%以下、周波数は1Hz以上の範囲である
(パルス工程における最大電流と、最大パルス時間比率との関係:m)
パルス工程における最大電流と、最大パルス時間比率の関係を図15に示す。最大電流の増加に伴い、最大パルス時間比率は増加する傾向を示し、最大パルス時間比率が300%となるのは、最大電流が6.98A/mmのときであることがわかった。そのため最大電流の範囲は6.98A/mm以下とする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは最大電流の範囲は5.23A/mm以下とする。なお、このときのレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、平均電流は18,000A(2.09A/mm)、C量は0.9質量%、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%、周波数は5Hzである。最大電流の増大に伴い最大パルス時間が増加する理由は、前述の通り、最大電流が大きいと端面への入熱量が大きくなり、端面の温度が高くなった結果、端面がくっつきやすくなったためと考える。
(パルス工程における平均電流と、最大パルス時間比率との関係:n)
パルス工程における平均電流と、最大パルス時間比率との関係を図16に示す。平均電流の増加に伴い、最大パルス時間比率は増加する傾向を示し、最大パルス時間比率が300%となるのは、平均電流が4.65A/mmのときであることがわかった。そのため平均電流の範囲は4.65A/mm以下とする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは平均電流の範囲は3.26A/mm以下とする。
なお、このときレールの断面積は8600mmであり、積算電流は500kA・sec(0.06kA・sec/mm)、最大電流は30,000A(3.49A/mm)、C量は0.9質量%、Mn量は1.0質量%、Cr量は0.5質量%、周波数は5Hzである。平均電流増に伴い最大パルス時間が増加する理由は、前述の通り、平均電流が大きいと端面への入熱量が大きくなり、端面の温度が高くなった結果、端面がくっつきやすくなったためと考える。
以上の検討過程を経て完成した、本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法の諸条件について、以下に改めて説明する。また、本実施形態に係る製造方法のさらに好ましい態様についても以下に説明する。
<パルス工程における周波数(f):1~10Hz>
上述の項目kに記載の圧着防止の観点より、パルス工程における周波数の下限値は1Hzとする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは周波数の範囲は2Hz以上、3Hz以上、又は4Hz以上とする。また、上述の項目eに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、パルス工程における周波数の上限値は10Hzとする。酸化物を一層抑制する観点から、パルス工程における周波数の上限値を9Hz以下、8Hz以下、又は6Hz以下とすることが好ましい。周波数の最も好ましい範囲は3Hz以上、6Hz以下である。
<パルス工程における最大電流:2.33~6.98A/mm
上述の項目gに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、パルス工程における最大電流の下限値は2.33A/mmとする。さらに曲げ性能を高めるためには、好ましくは、パルス工程の最大電流は2.50A/mm以上、は2.91A/mm以上、または3.20A/mmとする。また、上述の項目mに記載の圧着防止の観点より、パルス工程における最大電流の上限値は6.98A/mmとする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは最大電流の範囲は6.00A/mm以下、5.23A/mm以下、又は4.80A/mm以下とする。パルス工程における最大電流の最も好ましい範囲は2.91A/mm以上、5.23A/mm以下である。
<パルス工程における平均電流:0.70~4.65A/mm
上述の項目hに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、パルス工程における平均電流の下限値は0.70A/mmとする。好ましくは、パルス工程の平均電流の範囲は1.00A/mm以上、1.74A/mm以上、又は2.00A/mm以上とする。また、上述の項目nに記載の圧着防止の観点より、パルス工程における平均電流の上限値は4.65A/mmとする。さらに圧着の発生を抑制するには、好ましくは平均電流の範囲は4.00A/mm以下、3.26A/mm以下、または2.80A/mm以下とする。パルス工程における平均電流の最も好ましい範囲は1.74A/mm以上、3.26A/mm以下である。
<後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度:0.2~3.4mm/sec>
後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度とは、後期フラッシュ工程の最後の5秒間におけるフラッシュ速度の平均値を意味する。即ち、後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度とは、後期フラッシュ工程の最後の5秒間におけるレールの移動量を、5秒で割った値である。ただし、後期フラッシュ工程の時間が5秒未満である場合は、後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度とは、後期フラッシュ工程の開始から終了までのフラッシュ速度の平均値、即ち後期フラッシュ工程におけるレールの移動量である後期フラッシュ長を、後期フラッシュ工程の時間で割った値を意味する。
後期フラッシュ工程におけるフラッシュ速度、即ち後期フラッシュ速度が速いほど、電流が高くなり、アプセット工程直前の端面の温度が高くなる。その結果、後期フラッシュ工程で生成した酸化物を、アプセット工程で溶接部の外部に排出させやすくなる。しかし、後期フラッシュ速度をアプセット工程直前のみにおいて高めたとしても、端面の温度を高くする効果は限定的である。そのため、後期フラッシュ工程では、最終フラッシュ速度の下限値を0.2mm/secとする。最終フラッシュ速度は、好ましくは0.5mm/sec以上、0.8mm/sec以上、又は1.0mm/secとする。
一方、後期フラッシュにおけるフラッシュ速度が速すぎると、端面間が接触してフラッシュが消失する異常現象(フラッシュ工程の圧着)が生じる。そのため、最終フラッシュ速度の上限値は3.4mm/secとする。最終フラッシュ速度は、好ましくは3.0mm/sec以下、2.5mm/sec以下、又は2.0mm/sec以下である。最終フラッシュ速度の最も好ましい範囲は、0.6mm/sec以上、2.8mm/sec以下である。
<C:0.60~1.20質量%>
上述の項目b及び項目oに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、C量の下限値は0.60質量%とする。C量は好ましくは0.65質量%以上、0.70質量%以上、又は0.80質量%以上である。一方、上述の項目jに記載の圧着防止の観点より、C量の上限値は1.20質量%とする。C量は好ましくは1.10質量%以下、1.00質量%以下、又は0.90質量%以下である。C量の最も好ましい範囲は0.70質量%以上、1.10質量%以下である。
<Mn:0.10~2.00質量%>
上述の項目c及び項目oに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、Mn量の上限値は2.00質量%とする。Mn量は好ましくは1.80質量%以下、1.50質量%以下、又は1.20質量%以下である。一方、Mnは焼き入れ性向上による硬度増の効果を発揮する元素である。Mn量が不足すると、この効果が得られない。そのため、Mn量の下限値は0.10質量%とする。Mn量は好ましくは0.20質量%以上、0.50質量%以上、又は0.80質量%以上である。Mn量の最も好ましい範囲は0.20質量%以上、1.80質量%以下である。
<Cr:0.01~2.00質量%>
上述の項目d及び項目oに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、Cr量の上限値は2.00質量%とする。Cr量は好ましくは1.80質量%以下、1.50質量%以下、又は1.20質量%以下である。一方、Cr量が少なすぎる場合、フラッシュバット溶接レールの硬度が得られない。そのため、Cr量の下限値は0.01質量%とする。Cr量は好ましくは0.20質量%以上、0.50質量%以上、又は0.80質量%以上である。Cr量の最も好ましい範囲は0.20質量%以上、1.30質量%以下である。
<パルス工程において、積算電流の上限が、単位kA・sec/mmで、(8×周波数-480×C質量%+1400)/8600>
上述の項目lに記載の圧着防止の観点より、積算電流の上限値を、パルス工程における周波数、及びレールのC量の関数として規定した。
<パルス工程において、積算電流の下限が、単位kA・sec/mmで、(3.5×周波数-180×C%+55×Mn%+45×Cr%+300)/8600>
上述の項目fに記載の酸化物欠陥抑制の観点より、積算電流の下限値を、パルス工程における周波数、並びにレールのC量、Mn量、及びCr量の関数として規定した。
<好ましくは、パルス工程における最小電流が0.12A/mm以上>
パルス工程において、レールを後退させて、2つの端面を完全に引き離した場合、電流値は0A/mmとなる。従って、パルス工程における電流の最小値は0Aである。しかしながら、レールが完全に引き離される前にレールの後退を中止し、これを前進させた場合、電流値が0A/mmまで低下しないことがある。
本実施形態に係る製造方法では、端面同士がくっついて離れなくなる現象、即ち圧着は避けられなければならない。この場合、圧着された端面を切断し、フラッシュバット溶接を最初からやり直さなければならなくなるからである。一方、パルス工程において1パルスごとに端面を完全に引き離す必要はない。むしろ、パルス工程中において、レール後退時に突き合せたレール間が完全に離れなければ、端面に酸化物が生じにくいと考えられる。また、上述した条件が満たされる限り、レール後退時に突き合せたレール間が完全に離れなくとも、最大パルス時間比率の増大や端面の圧着は生じない。
端面が完全に離れると、電流はゼロになる。そのため、端面間が完全に離れないための指標として、最小電流を0.12A/mmとしてもよい。このようにすることにより、端面の酸化物が生じ難く、曲げ性能の一層の改善が見込まれる。パルス工程における最小電流の、さらに好ましい範囲は、0.1812A/mm以上、0.23A/mm以上、又は0.25A/mm以上である。
<好ましくは、後期フラッシュ工程のフラッシュ長が、5~50mm>
後期フラッシュ工程のフラッシュ長、即ち後期フラッシュ長とは、後期フラッシュ工程の開始から終了までのレールの移動量である。前述の通り、後期フラッシュ工程における後期フラッシュ速度には最適な範囲がある。しかしながら、後期フラッシュ長を長くすることにより、溶接時間(フラッシュ長/フラッシュ速度)が長くなり、端面の温度がいっそう高くなり、生成した酸化物をアプセット工程で外部に排出する効果が一層高められる。そのため、後期フラッシュ長の下限値は5mmとすることが好ましい。後期フラッシュ長を6mm以上、8mm以上、又は10mm以上とすることがさらに好ましい。
一方、現地で溶接するモバイルFB溶接機を用いた溶接において、後期フラッシュ長(レール消耗量)を短くすることで、長手方向に生じる隙間を埋めるためにレールを引っ張る作業、又は別のレールを準備する作業などが不要となる。そのため、後期フラッシュ長の抑制は、レールの施工作業性の向上につながる。そのため、後期フラッシュ長の上限値は50mmとすることが好ましい。後期フラッシュ長を45mm以下、40mm以下、又は30mm以下とすることがさらに好ましい。後期フラッシュ長の一層好ましい範囲は、10mm以上、40mm以下である。
<Si:0.10~2.00質量%>
Siは、パーライト組織中のフェライト相を固溶強化して、母材の高強度化に寄与する元素である。この効果を得るために、レールにはSiが0.10%以上2.00%以下含有される。Si量は好ましくは1.80質量%以下、1.50質量%以下、又は1.20質量%以下である。Si量が0.10%未満ではその効果が得られず、2.00%超では材料が脆化しやすくなる。Si量は好ましくは0.20質量%以上、0.50質量%以上、又は0.80質量%以上である。Si量の一層好ましい範囲は0.20%以上1.50%以下である
<Al:0.001~0.500質量%>
Alは、レールに脱酸元素として含まれる。また、Alはパーライト組織の硬さの差を低減し、レール柱部の疲労強度を向上させる元素である。そのため、Alは0.001%以上である。Al量は好ましくは0.100質量%以上、0.120質量%以上、又は0.150質量%以上である。一方、粗大な酸化物や粗大なマルテンサイトの生成を抑制し、疲労強度を一層向上させる観点から、Alは0.500%以下とする。Al量は好ましくは0.450質量%以下、0.400質量%以下、又は0.300質量%以下である。一層好ましい範囲は、Alは0.005%以上0.100%以下である。
<P:0.020質量%以下>
<S:0.020質量%以下>
<N:0.003~0.020質量%>
P及びSは鋼中の不純物である。P及びSが多いと、鋼の靭性が低下し、フラッシュバット溶接レールの疲労強度が低下する。そのため、溶接レールの疲労強度を高めるため、Pは0.020%以下、Sは0.020%以下とする。Pの好ましい範囲は0.010%以上、0.018%以下、Sの好ましい範囲は0.008%以上、0.018%以下である。なお、P量及びS量の下限は特に限定されず、0%でもよい。一方、精錬コストの改善のために、P量及びS量それぞれを0.001質量%以上、0.001質量%以上、又は0.010質量%以上としてもよい。
Nは、パーライト組織の硬さを均一化し、レール柱部の疲労強度を向上させる元素である。そのため、必要に応じ、Nはレールに0.003%以上0.020%以下含有させてもよい。N量が0.020%超では粗大な窒化物が生成し、疲労強度が低下する場合がある。そのため、N量の好ましい範囲は0.008%以上0.018%以下である。
<好ましくは、V:0.001~0.300質量%>
<好ましくは、Ti:0.0008~0.0500質量%>
<好ましくは、Nb:0.001~0.050質量%>
V、Ti、及びNbは、溶接母材として用いられるレールにおいて必須ではない。そのため、V量、Ti量、及びNb量は0%であってもよい。一方、V、Ti、及びNbは析出強化により鋼の硬度を高め、フラッシュバット溶接レールの疲労強度を向上させる元素である。そのため、必要に応じ、Vは0.001%以上0.300%以下、Tiは、0.0008%以上0.0500%以下、Nbは0.001%以上0.050%以下を、レールに含有させてもよい。Vは0.001%未満、Tiは、0.0008%未満、Nbは0.001%未満では硬度を高め、疲労強度を向上させる効果が得られない。また、粗大な窒化物の生成を抑制し、フラッシュバット溶接レールの疲労強度を一層高める観点から、Vは0.300%以下、Tiは0.0500%以下、Nbは0.050%以下とすることが好ましい。一層好ましい範囲は、Vは0.005%以上0.200%以下、Tiは0.0030%以上0.0400%以下、Nbは0.003%以上0.030%以下である。
<Cu:好ましくは、0.005~1.000質量%>
<Ni:好ましくは、0.01~1.00質量%>
Cu、及びNiは、本実施形態に係る製造方法のレールにおいて必須ではない。そのため、Cu量、及びNi量は0%であってもよい。一方、Cu、及びNiは固溶強化により鋼の硬度を高め、フラッシュバット溶接レールの疲労強度を向上させる元素である。そのため、必要に応じ、Cuは0.005%以上1.000%以下、Niは0.01%以上1.00%以下をレールに含有させてもよい。Cuは0.005%未満、Niは0.01%未満では硬度を高め、疲労強度を向上させる効果が得られない。また、過剰な固溶強化による脆化を抑制し、レール鋼の延性を一層高める観点から、Cuは1.000%以下、Niは1.00%以下とすることが好ましい。一層好ましい範囲は、Cuは0.010%以上0.600%以下、Niは0.02%以上0.60%以下である。
<好ましくは、Ca:0.0005~0.0200質量%>
<好ましくは、REM:0.0005~0.0500質量%>
Ca、及びREMは、本実施形態に係る製造方法のレールにおいて必須ではない。そのため、Ca量、及びREM量は0%であってもよい。一方、Caは、Sとの結合力が強く、硫化物を形成する。この硫化物がMnSを微細に分散させることで、レールの疲労強度を一層向上させる。REMは、酸化物やMnSの生成核として作用する。これらがMnSを微細に分散させることで、レールの疲労強度を一層向上させる。そのため、必要に応じ、Caは0.0005%以上0.0200%以下、REMは、0.0005%以上0.0500以下をレールに含有させてもよい。Caは0.0005%未満、REMは、0.0005%未満では疲労強度を向上させる効果が得られない。また、粗大な酸化物及び粗大な酸硫化物の生成を抑制し、疲労強度を一層向上させる観点から、Caは0.0200%以下、REMは0.0500%以下とすることが好ましい。一層好ましい範囲は、Caは0.0008%以上0.0180%以下、REMは0.0010%以上0.0450%以下である。なお、REMとはCe、La、Pr又はNd等の希土類元素である。上記のREM含有量の上下限値は、これらの全REM元素の含有量の総和を限定するものである。
<好ましくは、Mo:0.002~0.500質量%>
Moは、本実施形態に係る製造方法のレールにおいて必須ではない。そのため、Mo量は0%であってもよい。一方、Moは、パーライト組織のラメラ間隔(フェライト相とセメンタイト相の間隔)を微細化することにより、鋼を高硬度化し、フラッシュバット溶接レールの疲労強度を向上させる元素である。そのため、必要に応じ、Moは0.002%以上0.500%以下含有させてもよい。Moが0.002%未満である場合、硬度を高め、疲労強度を向上させる効果が得られない。一方、粗大な酸化物や粗大なマルテンサイトの生成を抑制し、疲労強度を一層向上させる観点から、Moは0.500%以下とすることが好ましい。一層好ましい範囲は、Moは0.010%以上0.300%以下である。
なお、レールの化学成分の残部は、鉄、不純物を含む。また、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験結果、及び溶接作業性に悪影響を及ぼし得るC、Mn、及びCrが上述の範囲内とされている限り、上に例示された以外の合金元素を、レールが含有してもよい。また、溶接される2本のレールの化学成分が若干相違することも許容される。この場合、2本のレールの化学成分の平均値が、上述の条件を満たしていればよい。
レールの化学成分の不純物とは、例えば鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る製造方法によって得られるフラッシュバット溶接レールに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
<その他の条件>
本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法において、上述した条件が満たされる限り、種々の溶接条件を採用することができる。例えば前期フラッシュ工程においては、パルス工程に供しうる程度にレールの端面を平坦化可能な通常の条件を、適宜採用することができる。アプセット工程においても、正常な溶接部を形成可能な通常の条件を、適宜採用することができる。例えば、アプセット工程における加圧力は特に限定されないが、酸化物の排出能力を一層向上させる観点から、55MPa以上、58MPa以上、又は60MPa以上とすることが好ましい。また、設備能力を考慮すると、アプセット工程における加圧力を120MPa以下、100MPa以下、又は82MPa以下とすることが好ましい。パルス工程、及び後期フラッシュ工程においても、上述されなかった溶接条件については、通常の条件を適宜採用することができる。フラッシュバット溶接レールの製造方法が、バリを除去する工程、溶接部に後熱処理をする工程などの追加工程を備えてもよい。
<曲げ試験要領>
曲げ試験は、米国鉄道工学及び保線協会(American Railway Engineering and Maintenance-of-Way Association)の規格:AREMA-sec.2.3.3.6に準拠して行う。すなわち、図17に示すように、溶接部を中心として支点間1200mmで溶接レールを支える。そして、溶接レール上方から、溶接部を中心として間隔300mmで、溶接レールに荷重を加える。溶接レールが破断するまで、荷重を増大させる。そして、破断時の溶接レールのたわみ量、及び破断時の荷重に基づき、破断時の溶接レール底部の長手方向応力(底部応力)を測定する。破断時のたわみ量は0.75inch以上、底部応力は125kbp/inch以上が合格である。本実施形態に係る製造方法によって得られるフラッシュバット溶接レールは、溶接部においてフラットスポットの形成が極めて効果的に抑制されているので、上述の合否基準を満たすことができる。
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
表1A、表1B、表2A、及び表2Bに記載の化学成分を有する種々のレール2本に、パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接をした。フラッシュバット溶接条件は、表3A、表3B、表4A、及び表4Bに記載の条件とした。レールの断面積は8600mmであった。
なお、表2A及び表2Bにおいて、記号「-」は、当該記号が付された元素が意図的にレールに添加されていないことを示す。表3A及び3Bに記載の「最大電流」は、パルス工程においてレールに通電された電流値の最大値である。「断面積あたり最大電流」は、「最大電流」をレールの断面積である8600mmで割った値である。同様に、表3A及び3Bに記載の「平均電流」は、パルス工程においてレールに通電された電流値の平均値である。「断面積あたり平均電流」は、「平均電流」をレールの断面積である8600mmで割った値である。表4A及び4Bに記載の「パルス工程の最小電流値」は、パルス工程においてレールに通電された電流値の最小値である。「パルス工程の断面積当たり最小電流値」は、「パルス工程の最小電流値」をレールの断面積である8600mmで割った値である。
表3A及び表3Bに記載の積算電流上限、及び積算電流下限は、以下の数式によって算出された値である。
積算電流上限:8×周波数-480×C質量%+1400
積算電流下限:3.5×周波数-180×C質量%+55×Mn質量%+45×Cr質量%+300
ここで、周波数とは、パルス工程における周波数であり、C質量%、Mn質量%及びCr質量%とは、単位質量%での、レールの化学成分におけるC、Mn、及びCr含有量である。積算電流、及びその上下限値に関しては、断面積を考慮した値の記載を省略した。
これにより得られた種々のフラッシュバット溶接レールにおいて、上述の手段により、最大パルス時間比率及びフラットスポット最大長さを測定した。測定結果を表4A及び表4Bに記載する。なお、評価基準は以下の通りとした。
(最大パルス時間比率)
120%以下:A
120%超300%以下:B
300%超:X
最大パルス時間比率がA又はBとなった例は、溶接中の端面の圧着が抑制された例と判断した。
(フラットスポット最大長さ)
5mm以下:A
5mm超8mm以下:B
8mm超12mm以下:C
12mm超:X
なお、フラットスポットの評価において、長さが1.0mm未満のフラットスポットは評価対象とはしなかった。フラットスポット最大長さがA、B、又はCとなった例は、フラッシュバット溶接レールが曲げ試験の規格を満たす例と判断した。
Figure 0007364992000001
Figure 0007364992000002
Figure 0007364992000003
Figure 0007364992000004
Figure 0007364992000005
Figure 0007364992000006
Figure 0007364992000007
Figure 0007364992000008
例9は、パルス工程の周波数が過剰であった。これにより、例9では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例12は、パルス工程の周波数が不足した。これにより、例12では、最大パルス時間比率が過剰となった。
例13は、パルス工程の最大電流が過剰であった。これにより、例13では、最大パルス時間比率が過剰となった。
例16は、パルス工程の最大電流が不足した。これにより、例16では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例17は、パルス工程の平均電流が過剰であった。これにより、例17では、最大パルス時間比率が過剰となった。
例20は、パルス工程の平均電流が不足した。これにより、例20では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例21、例25、例29、例33、例37、例41、例45、例49、及び例53は、パルス工程の積算電流が過剰であった。これらの例では、最大パルス時間比率が過剰となった。
例24、例28、例32、例36、例40、例44、例48、例52、及び例56は、パルス工程の積算電流が不足した。これらの例では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例59は、後期フラッシュ工程の最終フラッシュ速度が不足した。これにより、例59では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例64は、C量が過剰であった。これにより、例64では、最大パルス時間比率が過剰となった。
例67は、C量が不足した。これにより、例67では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例68は、Mn量が過剰であった。これにより、例68では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
例71は、Cr量が過剰であった。これにより、例71では、フラットスポット最大長さが過剰となった。
一方、本実施形態に係るフラッシュバット溶接レールの製造方法の条件をすべて満たす例では、最大パルス時間比率及びフラットスポット最大長さのいずれも抑制されていた。即ち、これらの例は(1)パルスフラッシュ方式のフラッシュバット溶接によって、フラッシュバット溶接レールの曲げ試験時の低たわみ量及び低底部応力での破断を抑制可能であり、且つ、(2)パルス工程中にレールの端面の圧着を防止可能であるフラッシュバット溶接レールの製造方法であった。
1A、1B レール
2 電極
3 バリ

Claims (4)

  1. 長手方向に沿って並べられた一対のレールの端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより前記端面を平坦化する前期フラッシュ工程と、
    一対の前記レールの前記端面の接触及び引き離しを繰り返し、これにより前記端面を予熱するパルス工程と、
    一対の前記レールの前記端面の間にフラッシュを生じさせて、これにより前記端面を全体的に溶融させる後期フラッシュ工程と、
    一対の前記レールの前記端面を突き当てて加圧し、これにより前記レールを接合するアプセット工程と、
    を備え、
    前記パルス工程における周波数を1~10Hzとし、
    前記パルス工程における最大電流を2.33~6.98A/mmとし、
    前記パルス工程における平均電流を0.70~4.65A/mmとし、
    前記後期フラッシュ工程における最終フラッシュ速度を0.2~3.4mm/secとし、
    前記レールの化学成分が、単位質量%で
    C:0.60~1.20%、
    Mn:0.1~2.0%、
    Cr:0.01~2.00%、
    Si:0.10~2.00%、
    Al:0.001~0.500%、
    P:0.020%以下
    S:0.020%以下、
    N:0.003~0.020%、
    V:0~0.300%、
    Ti:0~0.0500%、
    Nb:0~0.050%
    Cu:0~1.000%、
    Ni:0~1.00%、
    Ca:0~0.0200%、
    REM:0~0.0500%、及び
    Mo:0~0.500%
    を含有し、残部はFe及び不純物を含み、
    前記パルス工程において、前記平均電流と通電時間との積である積算電流の、単位kA・sec/mmでの上限値を(8×前記周波数-480×C含有量+1400)/8600とし、
    前記パルス工程において、前記積算電流の単位kA・sec/mmでの下限値を(3.5×前記周波数-180×C含有量+55×Mn含有量+45×Cr含有量+300)/8600とする
    フラッシュバット溶接レールの製造方法。
  2. 前記パルス工程における最小電流を0.12A/mm以上とすることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
  3. 前記後期フラッシュ工程のフラッシュ長を5~50mmとすることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
  4. 前記レールの前記化学成分が、単位質量%で
    V:0.001~0.300%、
    Ti:0.0008~0.0500%、
    Nb:0.001~0.050%、
    Cu:0.005~1.000%、
    Ni:0.01~1.00%、
    Ca:0.0005~0.0200%、
    REM:0.0005~0.0500%、
    Al:0.001~0.500%、及び
    Mo:0.002~0.500%
    からなる群から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフラッシュバット溶接レールの製造方法。
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