JP7364137B1 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

所定の成分組成とし、鋼板の板厚1/4の深さ位置において、フェライト分率が5~95%、島状マルテンサイト分率が1~30%および残部がベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種であり、方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒について、円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度が200個/mm2以下であるミクロ組織とする。

Description

本発明は、鋼板およびその製造方法にする。本発明は、特に、高強度かつ低降伏比であり、低温靭性にも優れる、鋼板およびその製造方法に関する。本発明の鋼板は、低温環境下で使用される鋼構造物、例えば、船舶用の液化ガス貯蔵用タンクなどに好適に用いることができる。なお、船舶用の液化ガス貯蔵用タンクなどでは、溶接後の応力除去を、溶接後熱処理に替えて機械的に除去することも認められている。
船舶用の液化ガス貯蔵用タンクにおいて、独立型Type-Cタンクでかつ設計温度が-10℃より低い場合、鋼材の溶接後の応力除去が必要である。この応力除去は、通常、PWHT(Post Weld Heat Treatment;溶接後熱処理)により実施される。また、鋼材の降伏比(以下、YRともいう)が0.8以下の場合には、機械的に応力除去することも可能である。しかしながら、タンクが大型化すると、PWHTの施工が困難となる。そのため、このような大型のタンクでは、機械的に応力除去することが可能である低降伏比の鋼材を使用することが望まれる。例えば、液化COの大型貯蔵用タンクでは、-50℃~-70℃の極低温環境下において優れた靱性を有し、かつ、引張強さ(以下、TSともいう)が690MPa以上である、低降伏比の鋼材の使用が望まれる。
ここで、例えば、特許文献1には、
「高強度の鋼板であって、
重量%で、炭素(C):0.02~0.12%、マンガン(Mn):0.5~2.0%、シリコン(Si):0.05~0.5%、ニッケル(Ni):0.05~1.0%、チタン(Ti):0.005~0.1%、アルミニウム(Al):0.005~0.5%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.015%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は面積分率で70~90%の超細粒フェライト及び10~30%のMA(マルテンサイト/オーステナイト)組織を含み、降伏比(YS/TS)が0.8以下であることを特徴とする高強度鋼板。」
が開示されている。
特許文献2には、
「C:0.02~0.15%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、
Si:0.10~0.40%、
Mn:1.5~2.5%、
P :0.012%以下(0%を含まない)、
S :0.005%以下(0%を含まない)、
Ti:0.005~0.02%、
N :0.002~0.006%、および
Al:0.02~0.08%を満足する他、
Ni:2.5%以下(0%を含まない)、
Cr:2.0%以下(0%を含まない)、および
Mo:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなり、下記(1)式で規定される焼入れ性指数DIが8inch以上であると共に、下記(A)、(B)および(C)の要件を満足することを特徴とする引張強さ780MPa以上の低降伏比厚肉円形鋼管用鋼板。
DI(inch)={1.16×([C]/10)1/2}×(0.7×[Si]+1)×{5.1×([Mn]-1.2)+5}×(0.35×[Cu]+1)×(0.36×[Ni]+1)×(2.16×[Cr]+1)×(3×[Mo]+1)×(1.75×[V]+1)×(200×[B]+1) …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V]および[B]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,VおよびBの含有量(質量%)を示す。
(A)板厚1/4部位におけるミクロ組織において、ベイナイトが90面積%以上である、
(B)板厚1/4部位におけるミクロ組織において、方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた領域の平均円相当直径dが4μm以下である、
(C)板厚1/4部位におけるミクロ組織において、平均円相当直径が0.5~3μmで、ビッカース硬さHvが700以上の島状マルテンサイトを3~10面積%で含んでいる。」
が開示されている。
特許文献3には、
「質量%で、
C:0.03~0.20%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.5~3.0%、
P:0.015%以下、
S:0.0050%以下、
Al:0.005~0.1%、および
N:0.0015~0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、
セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、
ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が50.0%以上、95.0%未満であり、
島状マルテンサイトの面積分率が5~20%であり、
島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、
セメンタイトの面積分率が0%超、5%以下であり、かつ
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。」
が開示されている。
特表2016-507649号公報 特開2013-57105号公報 特開2019-119934号公報
しかしながら、特許文献1に記載の鋼板は、TSが最高でも620MPaである。すなわち、特許文献1は、TS:690MPa以上の鋼板を提供するには到っていない。特許文献2および3に記載の鋼板は、-50℃~-70℃といった極低温環境下での靱性(以下、単に低温靭性ともいう)に考慮が払われていない。また、いわゆるニッケル鋼、例えば、9%Ni鋼では、上記した所望とする特性を実現できる可能性があるものの、材料コストが高くなるという問題がある。
そのため、高価なニッケル鋼に替わる、高強度でかつ低降伏比であり、低温靭性にも優れる鋼板、特には、TS:690MPa以上、YR:0.8以下および-70℃におけるシャルピー吸収エネルギー(以下、vE-70℃ともいう):100J以上の鋼板の開発が望まれているのが現状である。
本発明は上記の現状に鑑み開発されたものであって、高強度でかつ低降伏比であり、低温靭性にも優れる鋼板を、その製造方法とともに提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行ったところ、以下の知見を得た。
すなわち、本発明者らは、鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の深さ位置(以下、鋼板の板厚1/4の深さ位置ともいう)におけるミクロ組織を以下のよう制御することが、所期した特性の向上に有効であることを新規に知見した。
(1)フェライト分率:5~95%、島状マルテンサイト分率:1~30%および残部:ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種とする。
(2)方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒について、円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度を200個/mm以下とする。
ここで、フェライトは、ベイナイトやマルテンサイトをAc1点以上の温度に熱処理しても逆変態せずに残存し、元のラス状組織を引き継いだBCC相ともいえる。この比較的軟質なフェライト相を5~95%とし、島状マルテンサイトを微細分散させることにより、低降伏比を達成できる。
また、特に、-50℃~-70℃の極低温環境下での靭性は、粗大な結晶粒、特には、方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒のうち、円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度に大きく影響を受ける。この点、上記(1)のように、フェライトおよび島状マルテンサイト以外の残部をベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種により構成し、さらに、上記(2)のように、鋼板の板厚1/4の深さ位置におけるミクロ組織を制御することにより、所望の低温靭性を達成できる。
加えて、上記のミクロ組織を得るためには、成分組成を適正に調製したうえで、製造条件を適切に制御する、特に、上記(2)のようにミクロ組織を制御するためには、
・第1加熱工程の熱処理炉での在炉時間、
・熱間圧延工程での最終圧延終了温度、
・焼入れ工程での所定温度域の平均冷却速度および冷却終了温度、ならびに
・冷却工程での所定温度域の平均冷却速度および冷却終了温度
を同時に適切な範囲に制御することが重要である。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.02%以上0.15%以下、
Si:0.01%以上0.50%以下、
Mn:0.05%以上2.50%以下、
Ni:0.50%以上5.00%未満、
P:0.03%以下、
S:0.0050%以下および
N:0.0010%以上0.0080%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成を有し、
鋼板の板厚1/4の深さ位置において、
フェライト分率が5~95%、
島状マルテンサイト分率が1~30%および
残部がベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種
であり、
方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒について、円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度が200個/mm以下である、ミクロ組織を有する、鋼板。
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:2.00%以下、
Mo:1.0%以下、
Al:0.100%以下、
Cu:2.0%以下、
Nb:0.1%以下、
V:0.05%以下、
Ti:0.03%以下および
B:0.0030%以下
から選択される1種以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
3.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.007%以下、
REM:0.010%以下および
Mg:0.007%以下
から選択される1種以上を含有する、前記1または2に記載の鋼板。
4.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:2.00%以下、
Mo:1.0%以下、
Al:0.100%以下、
Cu:2.0%以下、
Nb:0.1%以下、
V:0.05%以下、
B:0.0030%以下、
Ca:0.007%以下、
REM:0.010%以下および
Mg:0.007%以下
から選択される1種以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
5.前記1、2、3または4に記載の成分組成を有する鋼素材を、熱処理炉において加熱する、第1加熱工程と、
ついで、前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とする、熱間圧延工程と、
ついで、前記熱延鋼板に焼入れを行う、焼入れ工程と、
ついで、前記熱延鋼板を加熱する、第2加熱工程と、
ついで、前記熱延鋼板を冷却する、冷却工程と、をそなえ、
前記第1加熱工程では、
前記熱処理炉での均熱温度:900℃以上1250℃以下および
前記熱処理炉での在炉時間:600分以下
であり、
前記熱間圧延工程では、前記熱延鋼板の表面で、
仕上げ温度:1000℃以下700℃以上
であり、
前記焼入れ工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
600℃~300℃の温度域での平均冷却速度:3℃/s以上および
冷却終了温度:300℃以下
であり、
前記第2加熱工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
加熱温度:AC1点以上AC3点未満
であり、
前記冷却工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
700℃~500℃の温度域での平均冷却速度:3℃/s以上および
冷却終了温度:500℃以下200℃以上
である、鋼板の製造方法。
本発明によれば、高価なニッケル鋼に替わる、高強度でかつ低降伏比であり、低温靭性にも優れる鋼板、具体的には、TS:690MPa以上、YR:0.8以下およびvE-70℃:100J以上の鋼板が得られる。また、本発明の鋼板は、低温環境下で使用される鋼構造物、例えば、船舶用をはじめとする液化COタンクやLPGタンクなどの大型の液化ガス貯蔵用タンクに使用することができ、ニッケル鋼を使用する場合と比べて、製造コストを大幅に削減できる。そのため、本発明は、産業上格段の効果をもたらす。
(1)鋼板
以下、本発明の一実施形態に従う鋼板について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
[成分組成]
本発明の一実施形態に従う鋼板の成分組成について、説明する。また、本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法で用いる鋼素材も、以下の成分組成を有することが好ましい。なお、特に断らない限り、本明細書において、各元素の含有量の単位としての「%」は「質量%」を意味する。
C:0.02%以上0.15%以下
Cは、鋼板の強度を向上させる効果を有する元素である。この効果を得るために、C含有量は0.02%以上とする。C含有量は、好ましくは0.03%以上である。一方、C含有量が0.15%を超えると、鋼板の島状マルテンサイト量が過剰となり、低温靭性が低下する。そのため、C含有量は0.15%以下とする。C含有量は、好ましくは0.12%以下である。
Si:0.01%以上0.50%以下
Siは、脱酸剤としての作用を有する元素である。この効果を発現させるために、Si含有量は0.01%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.03%以上である。一方、Si含有量が過剰になると、靭性が低下する。そのため、Si含有量は0.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.30%以下である。
Mn:0.05%以上2.50%以下
Mnは、鋼の焼き入れ性を高め、鋼板の高強度化に有効な元素である。この効果を得るため、Mn含有量は0.05%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上である。一方、Mn含有量が2.50%を超えると、靭性を劣化させる。そのため、Mn含有量は2.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは2.00%以下である。
Ni:0.50%以上5.00%未満
Niは、鋼板の低温靭性の向上に有効な元素である。そのため、Ni含有量は0.50%以上とする。一方で、Niは高価な元素である。そのため、Ni含有量が高くなるにつれて、鋼板コストが高騰する。したがって、Ni含有量は5.00%未満とする。Ni含有量は、好ましくは0.80%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは3.50%以下である。
P:0.03%以下
Pは、不可避的不純物であり、鋼板の低温靭性に悪影響を及ぼす有害な元素である。例えば、鋼板を溶接する際に健全な母材および溶接継手を得るためには、Pを可能な限り低減することが好ましい。そのため、P含有量は0.03%以下とする。また、低温靭性の向上の観点からは、P含有量は低ければ低いほどよい。そのため、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。ただし、Pが不可避不純物として含有することは許容される。また、Pの過度の低減は、コスト増の原因となる。そのため、コストの観点からは、P含有量は0.001%以上が好ましい。
S:0.0050%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、低温靭性を大きく劣化させる。そのため、S含有量は0.0050%を上限とし、Sを可能なかぎり低減することが望ましい。S含有量は、好ましくは0.0020%以下である。また、S含有量は低ければ低いほどよい。そのため、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。ただし、Sが不可避不純物として含有することは許容される。また、Sの過度の低減は、コスト増の原因となる。そのため、コストの観点からは、S含有量は0.0001%以上が好ましい。
N:0.0010%以上0.0080%以下
Nは、鋼中で析出物を形成する。特に、N含有量が0.0080%を超えると、母材の靭性低下の原因となる。ただし、Nは、AlNを形成することにより、母材の細粒化に寄与する元素でもある。このような効果は、N含有量を0.0010%以上とすることにより得られる。したがって、N含有量は0.0010%以上0.0080%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0020%以上である。N含有量は、好ましくは0.0060%以下である。
本本発明の一実施形態に従う鋼板の成分組成は、上記した所定量の元素に加え、残部がFe及び不可避不純物からなるものとすることができる。
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、
Cr、Mo、Al、Cu、Nb、V、TiおよびBから選択される1種以上、ならびに、
Ca、REMおよびMgから選択される1種以上
のうちの一方または両方を、好ましくは以下に記す量でさらに含有することができる。
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、
Cr、Mo、Al、Cu、Nb、V、B、Ca、REMおよびMgから選択される1種以上を、好ましくは以下に記す量でさらに含有することができる。
Cr:2.00%以下
Crは、低温靭性を大きく損なうことなく、鋼板の強度を向上させる元素である。上記の効果を得るには、Cr含有量は0.01%以上が好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.30%以上である。しかし、Cr含有量が2.00%を超えると、鋼板の低温靭性が低下するおそれがある。そのため、Crを含有させる場合、その含有量は2.00%以下が好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.80%以下である。
Mo:1.0%以下
Moは、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望の強度に応じて任意に含有させることができる。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると、靭性が劣化するおそれがある。そのため、Moを含有させる場合、その含有量は1.0%以下が好ましい。なお、Moによる強度向上効果を得るという観点からは、Mo含有量は0.01%以上が好ましい。
Al:0.100%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいて汎用的に使用される。上記の効果を得るには、Al含有量は0.001%以上が好ましい。Al含有量は、0.010%以上がより好ましい。一方、Al含有量が0.100%を超えると、母材の靭性が低下するおそれがある。そのため、Alを含有させる場合、その含有量は0.100%以下が好ましい。Al含有量は、0.070%以下がより好ましい。
Cu:2.0%以下
Cuは、高靭性を保ちつつ、強度を増加させることが可能な元素であり、所望の強度に応じて任意に含有させることができる。しかし、Cu含有量が2.0%を超えると、熱間脆性を生じて鋼板の表面性状が劣化するおそれがある。そのため、Cuを含有させる場合、その含有量は2.0%以下が好ましい。Cu含有量は1.0%以下がより好ましい。なお、上記の効果を得るために、Cu含有量は0.01%以上が好ましい。Cu含有量は、0.10%以上がより好ましく、0.20%以上がさらに好ましい。
Nb:0.1%以下
Nbは、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望の強度に応じて任意に含有させることができる。しかし、Nb含有量が0.1%を超えると、母材靭性が劣化するおそれがある。そのため、Nbを含有させる場合、その含有量は0.1%以下が好ましい。なお、Nbによる強度向上効果を得るという観点からは、Nb含有量は0.005%以上が好ましい。
V:0.05%以下
Vは、析出強化により鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。しかし、V含有量が過剰になると、鋼板の低温靭性が低下するおそれがある。そのため、Vを含有させる場合、その含有量は0.05%以下が好ましい。V含有量は、より好ましくは0.04%以下である。V含有量の下限は、特に限定されない。また、上記の効果を得るには、V含有量は0.010%以上が好ましい。
Ti:0.03%以下
Tiは、鋼板を溶接する際、母材の機械的特性を低下させることなく溶接部の靭性を高める効果を有する元素である。そのためには、Ti含有量は0.003%以上が好ましい。一方、Ti含有量が0.03%を超えると、かえって靭性を低下させるおそれがある。そのため、Tiを含有させる場合、その含有量は0.03%以下が好ましい。
B:0.0030%以下
Bは、微量添加で焼入れ性を高める元素である。この効果を有効に発現させるためには、B含有量は0.0003%以上が好ましい。一方、B含有量が0.0030%を超えると、靭性が劣化するおそれがある。そのため、Bを含有させる場合、その含有量は0.0030%以下が好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0025%未満である。
Ca:0.007%以下
Caは、鋼中の介在物の形態を制御することにより、鋼板の低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Caが過剰になると、鋼の清浄性を損なって、低温靭性、特に低温でのシャルピー吸収エネルギーを低下させるおそれがある。そのため、Caを含有させる場合、その含有量は0.007%以下が好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.004%以下である。一方、Ca含有量の下限は特に限定されない。上記の効果を得るには、Ca含有量は0.001%以上が好ましい。
REM:0.010%以下
REM(希土類金属)は、Ca同様、鋼中の介在物の形態を制御することにより、鋼板の低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、REMが過剰になると、鋼の清浄性を損ない、低温靭性、特に低温でのシャルピー吸収エネルギーが低下するおそれがある。そのため、REMを含有させる場合、その含有量は0.010%以下が好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.008%以下である。一方、REM含有量の下限は特に限定されない。上記の効果を得るには、REM含有量は0.001%以上が好ましい。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。また、これらの17元素を、単独でまたは組み合わせて含有させることができる。なお、REM含有量は、これらの17元素の合計含有量を意味する。
Mg:0.007%以下
Mgは、CaやREM同様、鋼中の介在物の形態を制御することにより、鋼板の低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Mgが過剰になると、鋼の清浄性を損ない、低温靭性、特に低温でのシャルピー吸収エネルギーが低下するおそれがある。そのため、Mgを含有させる場合、その含有量は0.007%以下が好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.004%以下である。一方、Mg含有量の下限は特に限定されない。上記の効果を得るには、Mg含有量は0.001%以上が好ましい。
[ミクロ組織]
次に、本発明の一実施形態に従う鋼板のミクロ組織について、説明する。なお、ミクロ組織は、後述するように、鋼板の板厚1/4の深さ位置で測定する。
フェライト分率:5~95%
本発明の一実施形態に従う鋼板は、フェライト分率が5~95%、島状マルテンサイト分率が1~30%、残部がベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトの1種または2種である相構成を有する。ここで、フェライト分率が5%未満の場合、所望とする降伏比が得られない。一方、フェライト分率が95%超の場合、島状マルテンサイトなど硬質相の分率が低くなり、やはり所望とする降伏比が得られない。そのため、フェライト分率は、5~95%とする。フェライト分率は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。また、フェライト分率は、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下である。
島状マルテンサイト分率:1~30%
また、島状マルテンサイト分率が1%未満の場合、所望とする降伏比が得られない。一方、島状マルテンサイト分率が30%超の場合、低温靭性が低下する。そのため、島状マルテンサイト分率は、1~30%とする。島状マルテンサイト分率は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上である。また、島状マルテンサイト分率は、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下である。
残部:ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトの1種または2種
フェライトおよび島状マルテンサイト以外の残部が、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種でない場合、例えば、焼入れままのマルテンサイト(以下、単に、マルテンサイトともいう)の場合、所望の低温靭性が得られない。そのため、フェライトおよび島状マルテンサイト以外の残部は、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種とする。
なお、各相の分率は、後述する実施例に記載する要領により、測定することができる。ここでいう各相の分率とは、組織全体に対して各相が占める面積割合(面積率)である。
円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度:200個/mm以下
上述したように、-50℃~-70℃の極低温環境下での靭性は、粗大な結晶粒、特には、円相当径で30μm超の結晶粒(以下、粗大結晶粒ともいう)の数に大きく影響を受ける。特に、粗大結晶粒の数を低減することにより、低温靭性が大幅に向上する。そのため、粗大結晶粒の個数密度は200個/mm以下とする。これにより、所望の低温靭性を実現することが可能となる。粗大結晶粒の個数密度は、好ましくは150個/mm以下である。粗大結晶粒の個数密度の下限は特に限定されるものではなく、0個/mmであってもよい。ただし、工業的に実施する観点からは、粗大結晶粒の個数密度は10個/mm以上が好ましい。また、ここでいう結晶粒は、方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒である(方位差15度以上の大角粒界に囲まれる各領域を、各結晶粒とする。)。また、粗大結晶粒の個数密度は、後述する実施例に記載する要領により、測定することができる。
なお、粗大結晶粒の個数密度は、結晶粒の平均粒径と必ずしも相関するものではない。すなわち、粗大結晶粒は、鋼板の結晶粒が均一に粗大化して生じるというよりも、熱処理の過程で結晶粒が局所的に粗大化し、それが最終製品の鋼板の組織に残存するというものである。そのため、たとえ結晶粒の平均粒径が5μm以下であっても、粗大結晶粒が局所的に存在してその個数密度が200個/mm超となる場合がある。そして、この場合には、極低温環境下、例えば、-70℃での優れた靭性は得られない。なお、粗大結晶粒の数を低減するには、上記のように成分組成を適正に調製したうえで、製造条件、特に、
・第1加熱工程の熱処理炉での在炉時間、
・熱間圧延工程での最終圧延終了温度、
・焼入れ工程での所定温度域の平均冷却速度および冷却終了温度、ならびに
・冷却工程での所定温度域の平均冷却速度および冷却終了温度
を同時に適切に制御することが極めて重要である。
また、本発明の一実施形態に従う鋼板の板厚は、特に限定されない。例えば、鋼板の板厚は、6mm以上50mm以下が好ましい。
[機械的特性]
(引張強さ)
鋼板の引張強さは、例えば、690MPa以上が好ましい。なぜなら、タンクに適用する際の板厚を薄くできるからである。鋼板の引張強さは、より好ましくは720MPa以上である。引張強さの上限については、特に限定する必要はない。鋼板の引張強さは、例えば、1000MPa以下が好ましい。
なお、引張強さは、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
(降伏比)
鋼板の降伏比は、例えば、0.80以下が好ましい。なぜなら、溶接後熱処理に代えて、機械的な応力除去が可能になるからである。
なお、降伏比は、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
(低温靱性)
鋼板の低温靭性について、vE-70℃が100J以上であることが好ましい。vE-70℃は、より好ましくは150J以上である。
なお、vE-70℃は、フルサイズシャルピー衝撃試験、例えば、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
(2)鋼板の製造方法
次に、本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法について具体的に説明する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、温度は、鋼板または鋼素材の板厚中央の温度を指すものとする。板厚中央および板厚1/4の深さ位置の温度は、例えば、放射温度計で測定した鋼板の表面温度から、伝熱計算により求めることができる。
すなわち、以下の工程を順次行うことにより、本発明の鋼板を好適に製造することができる。
(1)第1加熱工程
(2)熱間圧延工程
(3)焼入れ(加速冷却)工程
(4)第2加熱工程
(5)冷却工程
(1)第1加熱工程
まず、上述した成分組成を有する鋼素材を、準備する。なお、鋼素材の準備方法は、特に限定されないが、例えば、上述した成分組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造することにより準備できる。この溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊-分解圧延法により行うこともできる。鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
ついで、準備した鋼素材を、以下の条件で、熱処理炉において加熱する。
[加熱炉での均熱温度:900℃以上1250℃以下]
加熱炉での均熱時間(以下、均熱時間ともいう)は、900℃以上1250℃以下とする。ここで、均熱時間が900℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、後工程の熱間圧延工程において圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となるおそれがある。そのため、均熱温度は900℃以上とする。均熱温度は、好ましくは950℃以上である。一方、均熱温度が1250℃より高いと、鋼の酸化が顕著となり、酸化により生じた酸化膜を除去することによるロスが増大する。その結果、歩留まりが低下するおそれがある。そのため、均熱温度は1250℃以下とする。均熱温度は、好ましくは1200℃以下である。
ここで、均熱温度とは、加熱炉での鋼素材全体の(目標)到達温度であり、加熱炉の設定温度ということもできる。
[加熱炉での在炉時間:600分以下]
加熱炉での在炉時間(以下、在炉時間ともいう)は、600分以下とする。在炉時間が600分を超えると、局所的な粗大結晶粒の発生、ひいては最終製品での粗大結晶粒の残存を招く。その結果、所望の粗大結晶粒の個数密度を実現することができなくなる。そのため、在炉時間は600分以下とする。在炉時間は、好ましくは580分以下、より好ましくは560分以下である。在炉時間の下限は、特に限定されない。在炉時間は、例えば、加熱炉の操業負荷の観点から、60分以上が好ましい。
ここで、在炉時間とは、熱間圧延のための(熱間圧延の前工程の)加熱を行う熱処理炉に、鋼素材を搬送してから搬出されるまでの時間である。なお、熱処理炉には、一般的な熱処理炉を用いることができる。
なお、均熱時間は、特に限定されない。均熱時間は、例えば、鋼素材の変形抵抗を低減して圧延性を高める観点から、10~200分が好適である。ここで、均熱時間とは、均熱温度±30℃の範囲に鋼素材全体の温度が保持されている時間である。
また、上記の鋼素材の加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよいし、または、得られた鋼素材を冷却することなく直接、行ってもよい。
(2)熱間圧延工程
ついで、鋼素材を、以下の条件で、熱間圧延して熱延鋼板とする。
[仕上げ温度(最終圧延終了温度):1000℃以下700℃以上]
熱間圧延の仕上げ温度が700℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高くなり、圧延機への負荷が増大する。その結果、熱間圧延を行うことが困難となる。一方、仕上げ温度が1000℃を超えると、微細な組織が得られず、粗大結晶粒が残存し、低温靭性が低下する。そのため、仕上げ温度は1000℃以下700℃以上とする。仕上げ温度は、好ましくは980℃以下、より好ましくは960℃以下である。ここで、仕上げ温度は、熱延鋼板の表面での温度である。
なお、熱延鋼板の最終板厚は特に限定されない。熱延鋼板の最終板厚は、例えば、上述したように、6mm以上50mm以下が好ましい。
(3)焼入れ(加速冷却)工程
ついで、熱延鋼板に焼入れ(加速冷却)を施す。この際、600℃~300℃の温度域での平均冷却速度(以下、焼入れ速度ともいう)を3℃/s以上とし、冷却終了温度を300℃以下とすることが肝要である。
[焼入れ速度:3℃/s以上]
焼入れ速度が3℃/s未満であると、所望の変態組織が得難く、十分な強度を得ることが困難となる。そのため、焼入れ速度を3℃/s以上とする。焼入れ速度は、好ましくは4℃/s以上、より好ましくは5℃/s以上である。一方、焼入れ速度の上限は特に限定されない。ただし、焼入れ速度が200℃/sよりも高いと、鋼板内の各位置における温度制御が困難となる。これにより、鋼板の板幅方向および圧延方向に材質のばらつきが出やすくなる。その結果、引張特性および靭性などの材料特性にばらつきが生じやすくなる。そのため、焼入れ速度は200℃/s以下が好ましい。なお、ここでいう温度および焼入れ速度はそれぞれ、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置での温度および当該位置での温度変化から算出される速度である。
[冷却終了温度:300℃以下]
また、焼入れ工程において、冷却停止温度が300℃よりも高いと、所望の変態組織が得られなくなる。従って、冷却停止温度は300℃以下とする。このような条件で加速冷却をすることにより、熱延鋼板が良好に焼入れされる。また、冷却停止温度の下限については特に限定されない。例えば、冷却停止温度は0℃以上が好ましい。ここでいう温度は、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置での温度である。
なお、焼入れ工程における冷却処理は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、空冷および水冷の一方または両方を用いることができる。水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
(4)第2加熱工程
ついで、熱延鋼板を、以下の条件で加熱する。
[加熱温度:AC1点以上AC3点未満]
第2加熱工程の加熱温度は、AC1点以上AC3点未満とする。換言すれば、第2加熱工程では、2相域温度への加熱を行う。加熱温度がAC1点未満では、十分量の島状マルテンサイトが得られず、所望の低降伏比を達成できない。一方、加熱温度がAC3点以上では、フェライト分率が5%未満で焼き戻しマルテンサイト分率が90%超となり、やはり所望の低降伏比を達成できない。なお、ここでいう温度は、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置での温度である。
ここで、第2加熱工程での加熱には、加熱温度を上記の範囲に制御できる方法であれば、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、熱処理炉による加熱(以下、炉加熱ともいう)が挙げられる。炉加熱に使用する熱処理炉は、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
上記の加熱温度に到達した後は、2相域温度であるAC1点以上AC3点未満の温度域において任意の時間、例えば、10~120分保持した後、冷却を開始してもよい。
なお、AC1点は、次の(1)式により求めることができる。
C1点(℃)=750.8-26.6×C+17.6×Si-11.6×Mn-22.9×Cu-23×Ni+24.1×Cr+22.5×Mo-39.7×V-5.7×Ti+232.4×Nb-169.4×Al ・・・(1)
また、AC3点は、次の(2)式により求めることができる。
C3点(℃)=937.2-436.5×C+56×Si-19.7×Mn-16.3×Cu-26.6×Ni-4.9×Cr+38.1×Mo+124.8×V+136.3×Ti-19.1×Nb+198.4×Al+3315×B ・・・(2)
上掲(1)式および(2)式における元素記号は、鋼板の成分組成の各元素の含有量(質量%)である。なお、当該元素が含まれない場合には、当該元素の含有量は「0」として計算する。
(5)冷却工程
ついで、熱延鋼板を、以下の条件で冷却する。
[700℃~500℃の温度域での平均冷却速度:3℃/s以上]
700℃~500℃の温度域での平均冷却速度(以下、単に平均冷却速度ともいう)が3℃/s未満では、所望の変態組織を得られず、強度および低温靭性が低下するおそれがある。そのため、平均冷却速度は3℃/s以上とする。平均冷却速度は、好ましくは4℃/s以上、より好ましくは5℃/s以上である。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されない。例えば、平均冷却速度は200℃/s以下が好ましい。なお、ここでいう温度および平均冷却速度はそれぞれ、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置での温度および当該位置での温度変化から算出される速度である。
[冷却終了温度:500℃以下200℃以上]
冷却終了温度が500℃超になると、当該冷却工程終了後の室温までの冷却、例えば、空冷による冷却時(以下、単に空冷時ともいう)に、島状マルテンサイトが分解し、所望の低降伏比が得られない。一方、冷却終了温度が200℃未満では、空冷時に所望の焼き戻し効果が得られず、靭性が劣化する。そのため、冷却終了温度は、500℃以下200℃以上とする。なお、ここでいう温度は、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置の温度である。
(6)室温までの冷却(自己焼戻し)
上記の冷却工程の後、熱延鋼板を室温まで冷却する。冷却方法は特に限定されず、例えば、空冷により行えばよい。これにより、自己焼戻しが生じ、靭性が一層向上する。なお、空冷による冷却速度は、例えば、板厚:6~50mm程度の熱延鋼板の場合、通常、1℃/s以下となる。なお、ここでいう冷却速度は、熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置の温度変化から算出される速度である。
上記した以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
以下に述べる手順で鋼板を製造し、その特性を評価した。
まず、表1に示す成分組成(残部がFeおよび不可避的不純物)を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋼素材としての鋼スラブ(厚さ:200mm)を製造した。また、上掲(1)式および(2)式によって求めたAC1点(℃)およびAC3点(℃)を表1に併記する。
Figure 0007364137000001
次に、表2に示した条件に従って、(1)第1加熱工程、(2)熱間圧延工程、(3)焼入れ(加速冷却)工程、(4)第2加熱工程および(5)冷却工程を行い、各板厚(最終板厚)を有する鋼板(熱延鋼板)を得た。なお、(5)冷却工程終了後、いずれも熱延鋼板を空冷により室温まで冷却した。また、明記していない条件については、一般記載部および常法に従うものとした。表2のNo.10では、(2)熱間圧延工程後、放冷により室温まで冷却した。
Figure 0007364137000002
かくして得られた各鋼板について、以下の要領で、ミクロ組織、引張強さ(TS)、降伏比(YR)および-70℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-70℃)を測定した。測定結果を表3に示す。
[ミクロ組織]
各鋼板から、鋼板の板厚1/4の深さ位置が観察位置となるように、ミクロ組織観察用の試験片を採取した。この試験片を、圧延方向と垂直な断面が観察面となるように、樹脂に埋め込んだ。ついで、試験片の観察面について、鏡面研磨し、ついで、ナイタール腐食を実施した。ついで、試験片の観察面を、倍率:5000倍の走査型電子顕微鏡で観察し、ミクロ組織の画像を撮影した。得られた画像を解析して、各相の分率を算出した。各相の同定は、以下のようにして行った。
・焼戻しマルテンサイト:セメンタイトを含む母相
・島状マルテンサイト:セメンタイトを含まない、円相当径1μm以下の硬質相
・焼入れままマルテンサイト:セメンタイトを含まない、円相当径1μm超の硬質相
・ベイナイト:組織内に島状マルテンサイトが生成している母相
・フェライト:上記以外の母相
なお、島状マルテンサイトには、残留オーステナイトが含まれ得る。上記の各相の内部には、析出物が含まれ得る。各相の分率は、これらを含めて算出するものとする。
また、上記の試験片を用いて、電子線後方散乱回折測定(以下、EBSD測定ともいう)により組織解析を行った。EBSD測定では、ステップサイズを0.1μm、測定領域をトータルで1mm×1mmとした。そして、得られた結晶方位データから方位差15度以上の大角粒界を結晶粒界として、各結晶粒を画定した。そして、各結晶粒の面積から各結晶粒の円相当径(直径)を算出した。ついで、円相当径が30μm超の結晶粒の個数をカウントし、その個数を測定領域のトータルの面積で除することにより、粗大結晶粒の個数密度を求めた。
[引張強さ]
[降伏比]
各鋼板の板厚1/4の深さ位置から、圧延方向と垂直にJIS4号引張試験片を採取した。この引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を実施し、鋼板の引張強さ(TS)および降伏強度(YS)を測定した。また、次式により、降伏比(YR)を算出した。測定結果を表3に示す。
YR=YS/TS
そして、TS:690MPa以上であれば、合格とした。また、YR:0.80以下であれば、合格とした。
[低温靭性]
各鋼板の板厚1/4の深さ位置から、圧延方向と平行にJIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取した。このVノッチ試験片を用い、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、-70℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-70℃)を求めた。シャルピー吸収エネルギーは、鋼板の低温靭性の指標となるものである。シャルピー衝撃試験は、各鋼板において3本の試験片を採取して測定を行った。個々の測定値と平均値を表3に示す。このフルサイズのシャルピー衝撃試験において、全ての試験片のvE-70℃が100J以上であれば、低温靭性に優れるものと評価し、合格とした。
Figure 0007364137000003
表3に示したように、発明例ではいずれも、高強度でかつ低降伏比であり、低温靭性にも優れる鋼板、具体的には、TS:690MPa以上、YR:0.80以下およびvE-70℃:100J以上の鋼板が得られた。
一方、比較例では、TS、YRおよびvE-70℃のうちの少なくとも1つが、十分ではなかった。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.02%以上0.15%以下、
    Si:0.01%以上0.50%以下、
    Mn:0.05%以上2.50%以下、
    Ni:0.50%以上5.00%未満、
    P:0.03%以下、
    S:0.0050%以下および
    N:0.0010%以上0.0080%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成を有し、
    鋼板の板厚1/4の深さ位置において、
    フェライト分率が5~95%、
    島状マルテンサイト分率が1~30%および
    残部がベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのうちの1種または2種
    であり、
    方位差15度以上の大角粒界により画定される結晶粒について、円相当径で30μm超の結晶粒の個数密度が200個/mm以下である、ミクロ組織を有する、鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cr:2.00%以下、
    Mo:1.0%以下、
    Al:0.100%以下、
    Cu:2.0%以下、
    Nb:0.1%以下、
    V:0.05%以下、
    Ti:0.03%以下および
    B:0.0030%以下
    から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  3. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Ca:0.007%以下、
    REM:0.010%以下および
    Mg:0.007%以下
    から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  4. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Ca:0.007%以下、
    REM:0.010%以下および
    Mg:0.007%以下
    から選択される1種以上を含有する、請求項2に記載の鋼板。
  5. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cr:2.00%以下、
    Mo:1.0%以下、
    Al:0.100%以下、
    Cu:2.0%以下、
    Nb:0.1%以下、
    V:0.05%以下、
    B:0.0030%以下、
    Ca:0.007%以下、
    REM:0.010%以下および
    Mg:0.007%以下
    から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  6. 請求項1、2、3、4または5に記載の鋼板を製造する方法であって、
    請求項1、2、3、4または5に記載の成分組成を有する鋼素材を、熱処理炉において加熱する、第1加熱工程と、
    ついで、前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とする、熱間圧延工程と、
    ついで、前記熱延鋼板に焼入れを行う、焼入れ工程と、
    ついで、前記熱延鋼板を加熱する、第2加熱工程と、
    ついで、前記熱延鋼板を冷却する、冷却工程と、をそなえ、
    前記第1加熱工程では、
    前記熱処理炉での均熱温度:900℃以上1250℃以下および
    前記熱処理炉での在炉時間:600分以下
    であり、
    前記熱間圧延工程では、前記熱延鋼板の表面で、
    仕上げ温度:1000℃以下700℃以上
    であり、
    前記焼入れ工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
    600℃~300℃の温度域での平均冷却速度:3℃/s以上および
    冷却終了温度:300℃以下
    であり、
    前記第2加熱工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
    加熱温度:AC1点以上AC3点未満
    であり、
    前記冷却工程では、前記熱延鋼板の板厚1/4の深さ位置で、
    700℃~500℃の温度域での平均冷却速度:3℃/s以上および
    冷却終了温度:500℃以下200℃以上
    である、鋼板の製造方法。
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