従来、蓄電デバイスに関する制御を実行する制御装置には、予め設定された制御パラメータが記憶されている。制御装置は、予め記憶されている制御パラメータを適宜読み出し、読み出した制御パラメータに基づく制御動作を行うことによって、蓄電デバイスの充放電状態、温度、設定環境における環境温度などの制御を実行する。
蓄電デバイスの初期状態に基づき設計された制御パラメータは、蓄電デバイスの劣化や設計時には予測できなかった特殊事情などによって、適切な値から乖離する可能性がある。適切な値から乖離した制御パラメータを使用して、制御装置が上記制御を実行した場合、蓄電デバイスは所要の性能を発揮できない可能性がある。
これに対し、蓄電デバイスの運用管理システムは、蓄電デバイスに関する制御を実行する制御装置と、前記制御装置と通信可能に接続される前記蓄電デバイスの運用管理装置とを備え、前記制御装置は、制御パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された制御パラメータに基づき前記制御を実行する制御部とを備え、前記運用管理装置は、前記蓄電デバイスの状態を検知する検知部と、前記検知部による検知結果に応じて、前記制御装置に設定させるべき制御パラメータを導出する導出部と、前記導出部が導出した制御パラメータを前記制御装置へ送信する送信部とを備え、前記制御装置は、前記運用管理装置から受信した制御パラメータに基づき、前記記憶部に記憶されている制御パラメータを更新する更新部を備える。
運用管理装置は、蓄電デバイスの現在の状態に基づき、制御装置に設定させるべき制御パラメータを自動的に導出し、制御装置へ送信する。制御装置は、運用管理装置から受信した制御パラメータに基づき、制御パラメータを更新する。よって、蓄電デバイスの状態が変化した場合であっても、変化後の状態に適合するような制御パラメータに随時更新できる。
前記導出部は、前記検知部による検知結果に基づき、前記蓄電デバイスの特性を表す数理モデルを同定し、同定した数理モデルに適合するように、前記制御装置に設定させるべき制御パラメータを導出してもよい。この構成によれば、運用管理装置は、蓄電デバイスの状態が変化した場合であっても、変化後の蓄電デバイスの特性を表す数理モデルに基づき、制御パラメータを導出できる。
前記導出部は、前記制御装置に設定させるべき制御パラメータを定期的に導出してもよい。この構成によれば、制御パラメータは定期的に更新される。
前記導出部は、前記検知部によって検知された状態の変化量を算出し、算出した変化量が閾値よりも大きい場合、前記制御装置に設定させるべき制御パラメータを導出してもよい。この構成によれば、制御パラメータは、蓄電デバイスの状態の変化が大きかった場合に更新される。
前記制御は、前記蓄電デバイスの充放電制御であってもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの充放電制御に関する制御パラメータを適宜更新できる。
前記制御は、前記蓄電デバイスの設置環境を空調する空気調和機の制御であってもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの設置環境における温度、風向、風量などを調整する空気調和機の制御パラメータを更新できる。
前記制御は、前記蓄電デバイスの温度制御であってもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの温度を制御する冷却装置の制御パラメータを更新できる。
蓄電デバイスの運用管理装置は、蓄電デバイスの状態を検知する検知部と、前記検知部による検知結果に応じて、前記蓄電デバイスに関する制御を実行する制御装置に設定させるべき制御パラメータを導出する導出部と、前記制御に用いられる制御パラメータを前記制御装置に更新させるべく、前記導出部にて導出した制御パラメータを前記制御装置へ送信する送信部とを備える。
よって、蓄電デバイスの状態が変化した場合であっても、変化後の状態に適合するような制御パラメータに随時更新できる。
蓄電デバイスの運用管理方法は、蓄電デバイスの状態を検知し、前記状態の検知結果に応じて、前記蓄電デバイスに関する制御を実行する制御装置に設定させるべき制御パラメータを導出し、前記制御に用いられる制御パラメータを前記制御装置に更新させるべく、導出した制御パラメータを前記制御装置へ送信する。
よって、蓄電デバイスの状態が変化した場合であっても、変化後の状態に適合するような制御パラメータに随時更新できる。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における運用管理システムの全体構成を説明する模式図である。実施の形態1における運用管理システムは、蓄電デバイス100と、蓄電デバイス100に関する制御を実行する制御装置210と、蓄電デバイス100の運用を管理する運用管理装置300とを備える。
蓄電デバイス100は、リチウムイオン電池、全固体電池、ポリマー電池、鉛蓄電池等の再充電可能な蓄電素子(セル)を含み、コンデンサなどの電子部品は除外される。換言すれば、蓄電デバイス100は、充放電時に動的変化や時系列変化を伴う二次電池を含み、電気二重層のみで瞬間的に充放電動作が完了するようなコンデンサなどの電子部品は除外される。蓄電デバイス100は、複数のセルを直列に接続したモジュール、複数のモジュールを直列に接続したバンク、複数のバンクを並列に接続したドメイン等を含んでもよい。
制御装置210は、蓄電デバイス100の状態を計測し、計測結果に基づき蓄電デバイス100に関する制御を実行する。制御装置210が計測する蓄電デバイス100の状態は、例えば蓄電デバイス100の端子電圧である。代替的に、蓄電デバイス100に流れる電流、蓄電デバイス100の温度、蓄電デバイス100が設置されている環境の環境温度などであってもよい。制御装置210が実行する制御は、例えば蓄電デバイス100の充放電制御である。代替的に、蓄電デバイス100の温度制御、空気調和機の制御などであってもよい。
以下の実施の形態1では、蓄電デバイス100に関する制御の1つとして、制御装置210による蓄電デバイス100の充放電制御について説明する。
制御装置210は、蓄電デバイス100の充放電制御を実行するために、予め設計された制御パラメータを有する。制御パラメータは、制御装置210の記憶部212(図2を参照)に記憶される。制御パラメータの一例は蓄電デバイス100における端子電圧の下限値(下限電圧)である。代替的に、端子電圧の上限値(上限電圧)、充電後の待機時間、放電電流の電流値などを含んでもよい。これらの制御パラメータは、蓄電デバイス100の製造時や導入時に設計され、蓄電デバイス100と共に導入される制御装置210の記憶部212に記憶される。
制御装置210は、蓄電デバイス100の充放電制御を実行する際に、記憶部212に記憶された制御パラメータを読み出し、読み出した制御パラメータに基づき、充放電制御を実行する。制御パラメータに基づく充放電制御として、制御装置210は、例えば、蓄電デバイス100の端子電圧が下限値を下回らないように、SOCの振れ幅を制限するような充放電制御を実行してもよい。ここで、SOCとはState Of Chargeの略称であり、満充電状態を100%、完全放電状態を0%として表す。振れ幅を制限するとは、例えば10%≦SOC≦85%の範囲でのみ電池を使用するような充放電制御を施すという意味である。
運用管理装置300は、通信ネットワークNを介して制御装置210と通信可能に接続され、遠隔地より蓄電デバイス100の運用を管理する。具体的には、運用管理装置300は、蓄電デバイス100の状態を遠隔より監視すると共に、蓄電デバイス100の状態に応じて、制御装置210による充放電制御において使用されるべき制御パラメータを新たに導出し、制御装置210の記憶部212に記憶されている制御パラメータを遠隔より更新させる。ここで、遠隔地とは、蓄電デバイス100及び制御装置210から離れた地点を表し、国外あるいは宇宙空間であってもよい。遠隔地は、必ずしも距離的に遠い地点である必要はなく、蓄電デバイス100及び制御装置210を直接的に操作することができない程度に離れている地点を含んでもよい。
運用管理装置300は、蓄電デバイス100の状態を遠隔より監視するために、制御装置210によって計測された計測値を、通信ネットワークNを介した通信により取得する。通信ネットワークNは、企業における社内イントラネットワーク、国内一般回線、国際回線であってもよいし、宇宙空間を含んでもよい。運用管理装置300は、計測値に基づいて検知した蓄電デバイス100の状態に応じて、充放電制御において使用されるべき制御パラメータを新たに導出する。運用管理装置300は、新たに導出した制御パラメータを通信ネットワークNを介して制御装置210へ送信する。
制御装置210は、運用管理装置300から受信した制御パラメータに基づき、記憶部212に記憶されている制御パラメータを更新する。制御装置210は、更新された制御パラメータを用いて充放電制御を実行する。このため、制御装置210は、蓄電デバイス100が劣化した状態であっても、劣化した状態に応じた制御パラメータを使用でき、より好ましい充放電制御を実現できる。
図1の例では、蓄電デバイス100と制御装置210とをそれぞれ独立した個別の装置として記載した。代替的に、制御装置210は、蓄電デバイス100に搭載され、蓄電デバイス100と一体化した装置であってもよい。また、制御装置210と運用管理装置300とが一体であってもよい。さらには蓄電デバイス100、制御装置210、及び運用管理装置300の3者が一体であってもよい。
図2は制御装置210の内部構成を説明するブロック図である。実施の形態1における制御装置210は、例えばBMU(Battery Management Unit)であり、制御部211、記憶部212、計測部213、出力部214、及び通信部215を備える。代替的に、制御装置210は、BMS(Battery Management System)や汎用のコンピュータなどであってもよい。
制御部211は、マイコンなどにより構成される。制御部211は、内蔵のメモリに記憶されている制御プログラムや記憶部212に格納されているデータに基づき、各種の演算やハードウェア各部の動作の制御を実行し、装置全体を制御装置210として機能させる。
記憶部212は、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read Only Memory)などのメモリを備える。記憶部212には、各種のデータやプログラムが記憶される。記憶部212に記憶されるデータは、蓄電デバイス100の製造時や導入時などにおいて設計される充放電制御に関する制御パラメータが含まれる。制御部211は、記憶部212に記憶されているデータやプログラムを適宜読み出し、必要に応じて書き換える。例えば、制御部211は、運用管理装置300において導出された制御パラメータを通信部215より受信した場合、記憶部212に記憶されている制御パラメータを、導出された制御パラメータに書き換えることによって、制御パラメータを更新する。
計測部213は、蓄電デバイス100の端子電圧、蓄電デバイス100に流れる電流、蓄電デバイス100の温度、蓄電デバイス100の環境温度などを計測する。計測部213による計測対象は、制御装置210において実行される演算や制御に応じて適宜選択される。例えば、充放電制御において、端子電圧の下限値または上限値を制限する場合、蓄電デバイス100の端子電圧が計測される。計測部213は、上記の値を計測するために、蓄電デバイス100の端子電圧を計測する電圧センサ、蓄電デバイスに流れる電流を計測する電流センサ、蓄電デバイス100の温度を計測する温度センサ、環境温度を計測する温度センサ等を備えてもよい。代替的に、計測部213は、制御装置210の外部に設けられたセンサを用いて、上記の値を取得してもよい。
出力部214は、制御部211からの指示に基づき、例えば、電源(不図示)から蓄電デバイス100への充電経路を接続または遮断するスイッチ、蓄電デバイス100から負荷(不図示)への放電経路を接続または遮断するスイッチ等をオン又はオフする制御信号を出力する。このようなスイッチとして、例えばFET(Field Effect Transistor)などの半導体素子やリレーなどが用いられる。制御部211は、蓄電デバイス100の充放電経路に設けられたスイッチのオン/オフを制御することによって、蓄電デバイス100に対する充放電制御を行う。
通信部215は、通信ネットワークNを介して運用管理装置300と通信を行うための通信インタフェースを備える。通信部215は、通信ネットワークNを通じて運用管理装置300から受信したデータを制御部211へ出力し、運用管理装置300へ送信すべきデータが制御部211から入力された場合、入力されたデータを運用管理装置300へ送信する。
図3は運用管理装置300の内部構成を説明するブロック図である。運用管理装置300は、制御部301、記憶部302、通信部303、操作部304、及び表示部305を備える。
制御部301は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成されている。制御部301が備えるCPUは、ROM又は記憶部302に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を運用管理装置300として機能させる。
制御部301は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。また、制御部301は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
記憶部302は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部302には、制御部301によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部302に記憶されるコンピュータプログラムは、蓄電デバイス100の挙動をシミュレートするシミュレーションプログラムを含む。シミュレーションプログラムは、例えば実行バイナリである。シミュレーションプログラムの元となる理論式は、蓄電デバイス100の挙動を表す代数方程式又は微分方程式によって記述される。
また、記憶部302には、シミュレーションの結果として得られる数理モデルが記憶されてもよい。数理モデルは、例えば、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより実行される実行コードである。また、数理モデルは、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより参照される、定義情報若しくはライブラリファイルであってもよい。
記憶部302に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体により提供されてもよい。記録媒体は、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部301は、不図示の読取装置を用いて記録媒体からプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部302にインストールする。記憶部302に記憶されるプログラムは、通信部303を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部301は、通信部303を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部302にインストールする。
通信部303は、通信ネットワークNを介して制御装置210と通信を行うためのインタフェースを備える。通信部303は、通信ネットワークNを通じて制御装置210から受信したデータを制御部301へ出力し、制御装置210へ送信すべきデータが制御部301から入力された場合、入力されたデータを制御装置210へ送信する。
操作部304は、キーボード、マウスなどの入力インタフェースを備えており、管理者等による操作を受付ける。表示部305は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、管理者等に対して報知すべき情報を表示する。本実施の形態では、運用管理装置300が操作部304及び表示部305を備える構成としたが、操作部304及び表示部305は必須ではなく、運用管理装置300の外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
以下、蓄電デバイス100としてリチウムイオン電池を例にとり、蓄電デバイス100(リチウムイオン電池)において起こる状態変化の一例について説明する。
図4は端子電圧と放電容量との関係を示すグラフである。図4に示すグラフの縦軸はリチウムイオン電池の端子電圧(V)を示し、横軸は放電容量(Ah)を示している。図4に示す端子電圧と放電容量との関係は実測によって得られる。
図4に実線として示すグラフは、初期製造状態におけるリチウムイオン電池の放電特性を表している。リチウムイオン電池の端子電圧は、放電に伴って、満充電の状態から徐々に低下し、放電末期に急激に低下する。充放電制御の制御パラメータとして端子電圧に対する下限値(下限電圧)が設定されている場合、制御装置210は、端子電圧が下限値に達すると放電を停止させるので、リチウムイオン電池の端子電圧は図4に示す下限電圧VL0まで低下する。
リチウムイオン電池は、充放電の繰り返しによって劣化する。図4に破線として示すグラフは、劣化した状態におけるリチウムイオン電池の放電特性を表している。リチウムイオン電池の端子電圧は、劣化した場合であっても、初期製造状態のリチウムイオン電池と同様に、放電に伴って、満充電の状態から徐々に低下し、放電末時において急激に低下する。劣化した状態のリチウムイオン電池の端子電圧は、より少ない放電容量にて下限電圧VL0に達する。
放電容量が低下する原因は、セパレータにおけるリチウムイオン拡散性が低下することが考えられる。この場合、イオン導体のオーム損失増大によって電池の内部抵抗が増大するとともに、正極の多孔体電極内でリチウムイオン濃度のバラツキが顕著になる。
図5は電池内部におけるリチウムイオンの濃度分布を示すグラフである。図5のグラフはリチウムイオン電池の放電末期における負極から正極までのリチウムイオン濃度の変化を表している。図5に示すグラフの縦軸はリチウムイオン濃度のシミュレーション値(mol/L)を示し、横軸は負極集電箔からの距離(μm)を示している。xn,min は負極集電箔と負極との界面の位置(すなわちX軸上の原点)、xn,max は負極とセパレータとの界面の位置(負極集電箔からセパレータまでの距離)、xp,min はセパレータと正極との界面の位置(負極集電箔から正極までの距離)、xp,max は正極と正極集電箔との界面の位置(負極集電箔から正極集電箔までの距離)を表す。
図5に実線として示すグラフは、初期製造状態のリチウムイオン電池におけるリチウムイオン濃度の変化を表している。初期製造状態では、負極側のリチウムイオン濃度がやや高く、正極側のリチウムイオン濃度がやや低いが、全体的には略一定となる。すなわち、正極内部では均一な反応が生じていることを示している。これは好ましいリチウムイオン濃度の分布である。
図5に破線として示すグラフは、劣化した状態のリチウムイオン電池におけるリチウムイオン濃度の変化を表している。劣化した状態では、負極集電箔から正極にかけてリチウムイオン電池が徐々に減少し、正極内部では更に急な傾きを持ってリチウムイオン濃度が減少する。
多孔体電極の厚み方向においてリチウムイオン濃度のバラツキが大きい場合(すなわち反応分布のバラツキが大きい場合)、活粒子に吸蔵・離脱される活物質の量のバラツキも大きくなる。換言すれば、多孔体電極中に、大量の活物質が出入りする部分と、少量の活物質が出入りする部分とが同時に存在することになる。
そこで、運用管理装置300は、充放電曲線に適合するようなリチウムイオンの拡散係数をシミュレーションの試行によって見出す。運用管理装置300は、リチウムイオン電池内部の現象を数式等により表現した数理モデルを用いてシミュレーションを実行する。
運用管理装置300では、数理モデルの一例としていわゆるNewmanモデルを用いる。Newmanモデルは、電解質や多孔電極におけるイオン泳動とイオン拡散とを解くためのNernst-Planck式を含む。Nernst-Planck式は、次式により表される。
ここで、σl は液相伝導率(S/m)、φl は液相電位(V)、Rは気体定数(J/(K・mol))、Tは温度(K)、Fはファラデー定数(C/mol)、fは活量係数、cl はリチウムイオン濃度(mol/m3 )、t+ はカチオン輸率、itot は反応電流密度(A/m3 )である。Dl は電解液中のリチウムイオンの拡散係数(m2 /s)である。
運用管理装置300は、劣化後のリチウムイオンの拡散係数をα×Dl (αは0<α<1を満たす実数)とし、αの値を0.05,0.10,…,0.95などのように順次変更して、上記のNewmanモデルに基づきシミュレーションを複数回実行する。運用管理装置300は、シミュレーションの結果、最も計測データに近い値を劣化後のリチウムイオンの拡散係数として採用する。
次いで、運用管理装置300は、端子電圧に対する下限値(下限電圧)を変更しながらシミュレーションを実行し、正極内部における放電末期のリチウムイオン濃度の分布が改善される条件を見出す。
下限電圧の上げ幅ΔVL は、ΔVL =VL1 -VL0 と表される。ここで、VL0 は変更前の下限電圧であり、VL1 は変更後の下限電圧である。変更後の下限電圧VL1 は、制御装置210に設定させるべき制御パラメータの1つとして運用管理装置300が導出する値である。
正極でのリチウムイオン濃度のバラツキは、以下の数2によって評価される。
ここで、xp,min は負極集電箔から正極までの距離を表し、xp,max は負極集電箔から正極集電箔までの距離を表す。xp,min 及びxp,maxは、長さ(μm)の次元を有する。
ここで、cLi+ は正極でのリチウムイオンの濃度を表し、cLi+ バーは正極でのリチウムイオンの平均濃度を表す。正極でのリチウムイオンの平均濃度cLi+ バーは、以下の数3によって表される。
Wは、正極内でのリチウムイオンの濃度が均一である場合にゼロとなり、不均一である程、大きな値となる。
以上の式から、ΔVL を小さくしながら、Wを小さくすると、望ましい制御が得られることが分かる。そこで、運用管理装置300は、適当な重みp,q(p,qは正の実数)を用いて、p×(ΔVL )2 +q×Wを最小にするようなΔVL を見出すことによって、制御装置210に対する制御パラメータを導出すればよい。
上記の例では、放電末期のリチウムイオンの拡散係数に着目して制御パラメータを導出する構成とした。代替的に、運用管理装置300は、充電末期のリチウムイオンの拡散係数に着目して制御パラメータを導出してもよい。
図6は制御パラメータ更新後の端子電圧と放電容量との関係を示すグラフである。図6に示すグラフの縦軸はリチウムイオン電池の端子電圧(V)を示し、横軸は放電容量(Ah)を示している。図6に示す端子電圧と放電容量との関係は実測によって得られる。また、図6には、初期状態及び劣化した状態における端子電圧と放電電圧との関係が参考として示されている。
図6のグラフは、下限電圧(制御パラメータ)を上昇させることによって、放電容量の低下を抑え、初期状態に近い充放電制御が行えることを示している。
図7は制御パラメータ更新後の電池内部におけるリチウムイオンの濃度分布を示すグラフである。図7のグラフはリチウムイオン電池の放電末期における負極から正極までのリチウムイオン濃度の変化を表している。図7に示すグラフの縦軸はリチウムイオン濃度のシミュレーション値(mol/L)を示し、横軸は負極集電箔からの距離(μm)を示している。また、図7には、初期状態及び劣化した状態におけるリチウムイオン濃度の分布が参考として示されている。
図7のグラフは、下限電圧(制御パラメータ)を上昇させることによって、正極内部におけるリチウムイオン濃度のバラツキを抑え、初期状態に近い充放電制御が行えることを示している。
図8は運用管理装置300が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。運用管理装置300の制御部301は、定期的なタイミング又は管理者等から指示されるタイミングにて、以下の処理を実行する。制御部301は、蓄電デバイス100に関する計測値を取得する(ステップS101)。蓄電デバイス100に関する計測値の一例は、蓄電デバイス100の端子電圧である。制御部301は、電圧センサ等を用いて直接的に蓄電デバイス100の端子電圧を計測してもよく、制御装置210によって計測された計測値を通信によって取得してもよい。
次いで、制御部301は、制御パラメータを更新するか否かを判断する(ステップS102)。制御部301は、例えば、定期的なタイミング、予め定められたタイミング、管理者等から指示されたタイミング等において、制御パラメータを更新すると判断してもよい。代替的に、制御部301は、ステップS101にて取得した計測値から推定される蓄電デバイス100の状態に基づいて、制御パラメータを更新するか否かを判断してもよい。蓄電デバイス100がリチウムイオン電池である場合、制御部301は、状態量としてリチウムイオンの拡散係数を推定する。制御部301は、推定した蓄電デバイスの状態を数値化して記憶部302に記憶させる処理を行い、以前の推定量との差分をとることによって状態の変化量を算出し、算出した変化量が閾値よりも大きい場合、制御パラメータを更新すると判断できる。
制御パラメータを更新しないと判断した場合(S102:NO)、制御部301は、本フローチャートによる処理を終了する。
制御パラメータを更新すると判断した場合(S102:YES)、制御部301は、蓄電デバイス100の特性を表す数理モデルを同定する(ステップS103)。リチウムイオン電池を例にとれば、制御部301は、上述したNewmanモデルを同定すればよい。
次いで、制御部301は、同定した数理モデルに適合するように、制御装置210に設定させるべき制御パラメータを導出する(ステップS104)。上述したリチウムイオン電池を例にとれば、制御部301は、端子電圧に対する下限値(下限電圧)を導出すればよい。代替的に、制御部301は、端子電圧に対する上限値(上限電圧)、充電後の休止時間、蓄電デバイス100に流れる電流を制御する制御パラメータを導出してもよい。制御部301は、SOCや電池温度などによって更新すべき制御パラメータを任意に設定してもよい。このとき、制御部301は、蓄電デバイス100及びその周辺部材への影響を考慮して、事前に設定された範囲内で制御パラメータを導出してもよい。
次いで、制御部301は、導出した制御パラメータを通信部303より制御装置210へ送信する(ステップS105)。このとき、制御部301は、制御パラメータと共に、制御パラメータの更新指示を制御装置210に与えてもよい。
図9は制御装置210が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。制御装置210の制御部211は、運用管理装置300から送信される制御パラメータを通信部215にて受信したか否かを判断する(ステップS121)。制御パラメータを受信していない場合(S121:NO)、制御部211は、ステップS123以降の処理を実行する。
制御パラメータを受信したと判断した場合(S121:YES)、制御部211は、制御パラメータを更新する(ステップS122)。このとき、制御部211は、記憶部212に記憶されている制御パラメータを、新たに受信した制御パラメータによって書き換える処理を実行する。
次いで、制御部211は、蓄電デバイス100に関する制御を実行するか否かを判断する(ステップS123)。すなわち、制御部211は、蓄電デバイス100の充放電制御を実行するか否かを判断すればよい。蓄電デバイス100に関する制御を実行しないと判断した場合(S123:NO)、制御部211は、本フローチャートによる処理を終了する。
蓄電デバイス100に関する制御を実行すると判断した場合(S123:YES)、制御部211は、記憶部212に記憶されている制御パラメータに基づき、蓄電デバイス100に関する制御を実行する(ステップS124)。制御パラメータが更新されている場合、制御部211は、更新後の制御パラメータに基づき、蓄電デバイス100に関する制御を実行できる。リチウムイオン電池を例にとれば、制御部211は、SOCの振れ幅を小さくするような電流制御が可能であり、反応ムラが大きくなり、活性化過電圧が大きくなることに伴う容量バランスずれを抑制できる。
実施の形態1では、蓄電デバイス100の一例として、リチウムイオン電池について説明した。代替的に、蓄電デバイス100は、全固体電池、ポリマー電池、硫酸鉛蓄電池などであってもよい。
実施の形態1では、リチウムイオン電池の特性を表す数理モデルの一例として、Newmanモデルについて説明した。代替的には、NTGKモデルに代表されるような開回路電位及び内部抵抗を温度及び充電状態(SOC)の関数として表した多項式モデルを用いてもよく、等価回路モデルを使用してもよい。また、数理モデルは空間的に2次元、3次元であってもよい。
(実施の形態2)
実施の形態2では、蓄電デバイス100が設置されている設置環境の空調を制御する運用管理システムについて説明する。
図10は実施の形態2における運用管理システムの全体構成を説明する模式図である。実施の形態2における運用管理システムは、蓄電デバイス100と、蓄電デバイス100が設置されている設置環境の空調を制御する制御装置220と、蓄電デバイス100の運用を管理する運用管理装置300とを備える。
実施の形態2における制御装置220は、冷房機能、暖房機能、除湿機能、送風機能などを有する空気調和機22に搭載され、空気調和機22の動作を制御することによって、蓄電デバイス100が設置されている設置環境の空調を制御する。
以下では、蓄電デバイス100に関する制御の1つとして、空気調和機22を用いて蓄電デバイス100の周囲を冷却する制御(すなわち、蓄電デバイス100の環境温度を下げる制御)について説明する。
制御装置220は、蓄電デバイス100の環境温度を制御するために、予め設計された制御パラメータを有する。制御パラメータは、冷房温度、風量、風向などである。これらの制御パラメータは、蓄電デバイス100の製造時や導入時に設計される。制御パラメータは、例えば、蓄電デバイス100における発熱量を推定するシミュレーションの結果に基づき、各セルの温度が規定値内となるように設計される。設計された制御パラメータは、制御装置220の記憶部222(図11を参照)に記憶される。
制御装置220は、記憶部222に記憶された制御パラメータを読み出し、読み出した制御パラメータに基づいて空気調和機22の動作を制御することによって、環境温度を制御する。蓄電デバイス100を構成する各セルの温度は、空気調和機22を用いた環境温度の制御によって、規定値内の温度に制御される。
図11は制御装置220の内部構成を説明するブロック図である。実施の形態2における制御装置220は、制御部221、記憶部222、計測部223、出力部224、及び通信部225を備える。制御部221、記憶部222、計測部223、及び通信部225の構成は、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
出力部224は、制御部221からの指示によって、空気調和機22に搭載される熱交換器、ファン、水平ルーバ、垂直ルーバなどの動作を制御する制御信号を出力する。熱交換器は、温度の高い物体から低い物体へ熱を移動させるための機器であり、室外機との間で熱を移動させることによって、冷却した空気又は加熱した空気を作り出す。ファンは、熱交換器によって冷却又は加熱された空気を装置外部へ吹き出す。水平ルーバ及び垂直ルーバは、空気の吹き出し方向をそれぞれ水平方向及び垂直方向に沿って調整する。制御部221は、空気調和機22に搭載される熱交換器、ファン、水平ルーバ、垂直ルーバなどの動作を制御することによって、冷房機能、暖房機能、送風機能等を実現し、蓄電デバイス100の環境温度を制御する。
蓄電デバイス100の導入直後には、制御装置220は、蓄電デバイス100の製造時や導入時に設計された制御パラメータを用いて、空気調和機22の動作を制御し、蓄電デバイス100の環境温度を制御する。しかしながら、蓄電デバイス100を構成するセルの一部が劣化し、内部抵抗が大きくなると、発熱量が大きくなり、初期に設計した制御パラメータを用いて環境温度を制御したとしても、冷却が不十分となる可能性がある。電池内部の内部抵抗は温度の影響を強く受けるので、温度によって蓄電デバイス100の端子間電圧は大きく変化する。更に、蓄電デバイス100は高温において劣化しやすいことが知られている。
そこで、運用管理装置300は、劣化したセルの発熱量(または抵抗)を、シミュレーションの試行によって見出す。運用管理装置300は、例えば、電池内部の熱現象を以下の数4のように表現した数理モデルを用いて、各セルにおける発熱量を推定する。
ここで、ρ、Cp は、蓄電デバイス100の密度(kg/m3 )、比熱(J/kg/K)を表す。代替的に、各セル毎に、密度及び比熱の値を設定してもよい。Tは蓄電デバイス100の温度(K)、tは時間(s)を表す。k,R,Iは、それぞれ蓄電デバイス100の熱コンダクタンス(W/k)、抵抗(Ω)、電流(A)である。発熱量は、右辺第2項のRI2 により得られる。
運用管理装置300は、発熱量のシミュレーション結果を参照し、特定のセルにおける発熱量が大きいか否かを判断する。運用管理装置300は、シミュレーションによって推定した発熱量と予め設定した閾値とを比較することによって、発熱量が大きいか否かを判断する。運用管理装置300は、特定のセルにおける発熱量が大きいと判断した場合、推定した発熱量を用いて、蓄電デバイス100を適切に冷却する際の冷房温度、風量(風速)、風向を決定する熱流体シミュレーションを実行する。このシミュレーションは、総当たり的なものであってもよく、応答局面法のような最適化手法を用いてもよい。運用管理装置300は、例えば、最適化に用いる重み関数として、次の数5を用いてもよい。
代替的に、運用管理装置300は、定期的なタイミング、管理者等から指示されるタイミングにて、上記シミュレーションを実行してもよい。
ここで、pおよびqは任意に定める正の実数である。
運用管理装置300は、熱流体シミュレーションにより新たに決定した冷房温度、風量(風速)、風向を、制御装置220に設定すべき制御パラメータとして、制御装置220へ送信する。なお、寒冷地や宇宙空間において暖房を行うこともあるが、制御パラメータの設定手法は冷房の場合と同様である。
制御装置220は、記憶部222に記憶されている制御パラメータを、運用管理装置300から新たに受信した制御パラメータに書き換える処理を実行することによって、制御パラメータを更新する。制御装置220の制御部221は、更新後の制御パラメータを記憶部222から読み出し、空気調和機22の動作を制御することによって、環境温度を制御する。
以上のように、実施の形態2における運用管理システムは、蓄電デバイス100における特定のセルが劣化して発熱量が大きくなった場合であっても、空気調和機22を用いて環境温度を適切に制御する設定を自律的に見出すので、蓄電デバイス100の温度上昇を抑制できる。
(実施の形態3)
実施の形態3では、蓄電デバイス100の温度を制御する運用管理システムについて説明する。
図12は実施の形態3における運用管理システムの全体構成を説明する模式図である。実施の形態3における運用管理システムは、蓄電デバイス100と、蓄電デバイス100の温度を制御する制御装置230と、蓄電デバイス100の運用を管理する運用管理装置300とを備える。
実施の形態3における制御装置230は、蓄電デバイス100を冷却する冷却装置23に搭載され、冷却装置23の動作を制御することによって、蓄電デバイス100の温度を制御する。冷却装置23は、例えば水冷式(液冷式)の冷却装置である。代替的に、空冷式の冷却装置であってもよい。
以下では、蓄電デバイス100に関する制御の1つとして、水冷式の冷却装置23を用いて蓄電デバイス100を冷却する制御について説明する。
制御装置230は、蓄電デバイス100の温度を制御するために、予め設計された制御パラメータを有する。制御パラメータは、例えば、制御装置230が冷却装置23の水冷流量をPID制御する際の比例制御定数、積分制御定数、及び微分制御定数である。これらの制御パラメータは、蓄電デバイス100の製造時や導入時に設計され、制御装置230の記憶部232(図13を参照)に記憶される。
制御装置230は、記憶部232に記憶された制御パラメータを読み出し、読み出した制御パラメータに基づき、水冷流量をPID制御する。制御装置230は、このようなPID制御によって、蓄電デバイス100の温度を規定値内に制御する。
実施の形態3では、冷却装置23のPID制御について説明する。代替的に、比例制御定数のみを用いたP制御であってもよく、オン/オフ制御を含むその他のフィードバック制御であってもよい。
図13は制御装置230の内部構成を説明するブロック図である。実施の形態3における制御装置230は、制御部231、記憶部232、計測部233、出力部234、及び通信部235を備える。制御部231、記憶部232、計測部233、及び通信部235の構成は、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
出力部234は、制御部231からの指示によって、冷却装置23の動作を制御する制御信号を出力する。冷却装置23は、冷却水を作り出すラジエータ、冷却水を貯めるリザーバタンク、冷却水を装置外部へ送り出すポンプ、送り出す冷却水の流量を調整する調整バルブ等を備える。制御部231は、冷却装置23の動作を制御し、例えば冷却装置23から送り出す冷却水の流量を調整することによって、蓄電デバイス100の温度を制御する。
蓄電デバイス100の導入直後には、制御装置230は、蓄電デバイス100の製造時や導入時に設計された制御パラメータを用いて、冷却装置23の動作を制御し、蓄電デバイス100の温度を制御する。しかしながら、蓄電デバイス100を構成するセルの一部が劣化し、内部抵抗が大きくなると、発熱量が大きくなり、初期に設計した制御パラメータを用いて冷却装置23の動作を制御したとしても、冷却が不十分となる可能性がある。電池内部の内部抵抗は温度の影響を強く受けるので、温度によって蓄電デバイス100の端子間電圧は大きく変化する。更に、蓄電デバイス100は高温において劣化しやすいことが知られている。
そこで、運用管理装置300は、蓄電デバイス100の温度をシミュレーションの試行によって見出す。運用管理装置300は、例えば、電池内部の熱現象を以下の数6のように表した数理モデルを用いて、蓄電デバイス100における発熱量を推定する。
ここで、ρ、Cp は、蓄電デバイス100の密度(kg/m3 )、比熱(J/kg/K)を表す。Tは温度(K)、tは時間(s)、hは外気への熱伝達係数(W/(m3 K))、Sは蓄電デバイス100の外表面積(m2 )、Qはジュール熱などの自己発熱量(W)、qは冷却水の流量(m3 /s)、Aは定数(J/m3 )である。
運用管理装置300は、数6に基づく発熱量のシミュレーション結果を参照し、冷却装置23から送り出す冷却水の流量に関してPID制御を実行する。PID制御は、以下の数7によって定式化される。
ここで、Kp は比例制御定数、Ki は積分制御定数、Kd は微分制御定数、Ts は目標温度(K)である。Kp ,Ki ,Kd の取り方によって、制御の安定性や即応性が定まる。
数6によって表される数理モデルのパラメータは、製造時の蓄電デバイス100の設計によって定まる。一方、数7によって表されるPID制御に関するパラメータは、製造時の制御設計によって定まる。これらのパラメータは、蓄電デバイス100の製造時や導入時に制御装置230の記憶部232に書き込まれ、初期状態における制御パラメータとして使用される。
しかしながら、蓄電デバイス100の経年劣化などにより、数理モデルにおけるパラメータが変化すると、当初は最適であったPID制御に関するパラメータは必ずしも最適な値でなくなる。
そこで、実施の形態3における運用管理装置300は、劣化後の蓄電デバイス100の特性を表す数理モデルを同定し、同定した数理モデルを用いて、PID制御に関するパラメータを再設計する。
図14は蓄電デバイス100の温度変化を示すグラフである。図14に示すグラフの縦軸は蓄電デバイス100の温度(K)を示し、横軸は充電開始からの経過時間(s)を示している。
図14に実線として示すグラフは、初期製造状態における蓄電デバイス100の温度の時間依存性を示している。図14の例は、蓄電デバイス100の温度は時間の経過と共に上昇し、最高温度に達した後、最高温度よりも低い温度にて落ち着いたことを示している。
蓄電デバイス100は、充放電の繰り返し等によって劣化する。図14に破線として示すグラフは、蓄電デバイス100の温度の時間依存性を示している。図14の例は、蓄電デバイス100の温度は時間の経過と共に上昇し、初期製造状態の最高温度よりも更に高い温度にまで到達したことを示している。
運用管理装置300は、破線によって示される劣化後の蓄電デバイス100の特性(この例では熱現象)を数理モデルを用いて同定する。運用管理装置300は、数6におけるパラメータ(ρCp V,hS,A)を総当たり的に変更して逆解析を行うことによって、数理モデルを同定してもよい。代替的に、運用管理装置300は、最適化ソフトを用いて数6におけるパラメータを求め、数理モデルを同定してもよい。
運用管理装置300は、同定した数理モデルを参照し、数7に示されるPID制御に関する制御パラメータ(Kp ,Ki ,Kd )を導出する。運用管理装置300は、PID制御の最適化手法として、例えばジーグラ・ニコルスの限界感度法を用いてもよい。代替的に、運用管理装置300は、リカッチ方程式に基づく最適化手法を用いてもよい。更に、運用管理装置300は、Maple(登録商標)、ANSYS Twin Builder(登録商標)、ANSYS Simplorer(登録商標)、MATLAB Simulink(登録商標)といった市販の解析ソフトにおける最適化機能を利用してもよい。運用管理装置300は、制御パラメータの同定に用いるシミュレーションモデルとして、3次元有限要素法モデル、1次元シミュレーションモデル、3次元有限要素法モデルを縮退させたモデルを用いてもよい。
運用管理装置300は、新たに導出した制御パラメータ(Kp ,Ki ,Kd )を、制御装置220に設定すべき制御パラメータとして、制御装置220へ送信する。
制御装置220は、記憶部222に記憶されている制御パラメータを、運用管理装置300から新たに受信した制御パラメータに書き換える処理を実行することによって、制御パラメータを更新する。制御装置220の制御部221は、更新後の制御パラメータを記憶部222から読み出し、冷却装置23の動作を制御することによって、蓄電デバイス100の温度を制御する。
以上のように、実施の形態3における運用管理システムは、蓄電デバイス100が劣化して発熱量が大きくなった場合であっても、冷却装置23を用いて蓄電デバイス100の温度を適切に制御できるので、蓄電デバイス100の温度上昇を抑制できる。
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。