JP7360244B2 - 炭素繊維の製造方法及び当該炭素繊維 - Google Patents
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Description
一般的に、炭素繊維は、前駆体繊維に耐炎化処理を施して耐炎化繊維を得、更にこの耐炎化繊維に炭素化処理を施して得られることは広く知られており、またこの方法は工業的にも実施されている。高強度の炭素繊維を製造するためには、特に破断の開始点となるような欠陥の生成を抑制する必要である。しかし、一般的に前駆体繊維を耐炎化して得られる炭素繊維では、耐炎化工程において繊維内部に構造ムラ(スキンコア)が生じることが知られている、内部欠陥として炭素繊維の強度向上を阻害する一因と言われてきた。
そのため、高強度の炭素繊維を得るために、耐炎化工程において繊維内部に生じるスキンコアを低減する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、前駆体繊維の耐炎化工程における繊維の昇温速度を小さくすることにより、単繊維の中心部と外周部との構造ムラの低減を図る技術が提案されている。しかし、昇温速度の低減は、焼成速度の低下あるいは装置の大型化、生産コストの上昇を意味し、強度向上にも限界があった。
本発明の一態様に係る炭素繊維の製造方法は、前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とを含む炭素繊維の製造方法において、前記耐炎化工程は、最高温度255[℃]以上の温度で、60[min]以下の時間で行われ、前記炭素化工程が、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で行われる。
本発明の一態様に係る炭素繊維は、前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とから製造される炭素繊維において、炭素繊維の音波伝導速度[km/s]をCVとし、炭素繊維の引張弾性率[GPa]をTMとすると、前記音波伝導速度CVと前記引張弾性率TMとの関係において、242>37.5×CV-TM>215 を満たす。
発明者らは、前駆体繊維から炭素繊維を製造する耐炎化工程と炭素化工程に着目して検討を重ね、あえてスキンコアのコア層の比率(以下、単に「コア率」という)の高い耐炎化繊維を用い、特定の炭素化条件で炭素化処理を行うことで、かえって高強度の炭素繊維が得られることが判明した。
ここでスキンコアについて図1を用いて説明する。
スキンコアは、耐炎化繊維の表面部であって耐炎化の進んだスキン層Aと、耐炎化繊維の中央部であってスキン層Aと比較して耐炎化の遅れたコア層Bとを有する2重構造をいう。
スキン層Aは、光学顕微鏡で観察される外周部の色味が濃い領域である。コア層Bとは、光学顕微鏡で観察される内周部の色味が薄い領域である。
コア率は、光学顕微鏡による耐炎化繊維の断面観察において、その断面における1つの繊維の全断面積に対するコア層面積の比率である。
1.耐炎化工程
(1)耐炎化工程は、前駆体繊維体に対して耐炎化して、コア率が5[%]以上、より好ましくは10[%]以上となる耐炎化繊維を得る工程である。なお、耐炎化することを耐炎化処理ともいう。
コア率が5[%]以上の耐炎化繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、最高温度255[℃]以上の耐炎化処理空間で60[min]以下の処理時間で耐炎化を行うことで得られ、より好ましくは、最高温度260[℃]以上の耐炎化処理空間で50[min]以下の処理時間で耐炎化を行うことで得られる。処理空間の温度が高いほど、処理時間が短いほど、コア率の大きな耐炎化繊維を得ることができる。
耐炎化処理空間の最低温度は、最高温度に応じて適宜調整すればよいが、220[℃]以上であることが好ましく、240[℃]以上であることがより好ましい。処理空間の温度勾配は、0.25[℃/min]以上であることが好ましく、0.3~3[℃/min]の範囲であることがより好ましい。ここでの温度勾配は、最低温度から最高温度に達するまでの時間である。
耐炎化処理は、耐炎化繊維の比重が1.32~1.4[g/cm3]の範囲となるように行うことが好ましく、1.35~1.37[g/cm3]の範囲となるように行うことがより好ましい。耐炎化繊維の比重がこの範囲となるように耐炎化処理を行うと、より強度の高い炭素繊維を得ることができる。耐炎化繊維の比重は、処理空間の温度を高く、または、処理時間を長くすれば、つまり、前駆体繊維に与えるエネルギ量を多くすることで、高くすることができる。
炭素繊維は過度な結晶サイズの増大によってその強度が低下することが知られているが、耐炎化繊維にコア率が5[%]以上のスキンコアが存在することで、炭素化工程中の過度な結晶成長が抑制されると考えられ、その結果、炭素繊維の強度が向上する。
コア率の算出方法は以下のとおりである。
耐炎化繊維の断面観察は、室温硬化型エポキシ樹脂に耐炎化繊維を包埋し、硬化後に研磨した断面に対して行なった。観察には反射顕微鏡を使用した。コア率は、耐炎化繊維の断面画像から明部分の断面積と明部分・暗部分を含む全断面積とを測定し、以下の式(1)に当てはめることで算出した。画像の閾値設定、2値化及び面積の測定は画像処理ソフトウェア(旭化成エンジニアリング社製。A像くん(登録商標))を用いて行った。
コア率[%]= 明部分の断面積/全断面積 × 100 ・・・ (1)
対象とする耐炎化繊維の配向度は74.0~77.0[°]の範囲内にあることが好ましく、75.0~75.5[°]の範囲内にあることがより好ましい。耐炎化繊維の配向は、プリカーサの製造工程及び耐炎化工程中の延伸倍率により調整できる。延伸倍率が高いほど配向は上がる。配向度は、回折角26[°]における結晶子サイズを回折パターンによりその半値幅により算出した。
なお、X線回折装置としてRIGAKU社製RINT2200を使用し、RIGAKU社製RINT2000シリーズ解析ソフトを使用してコンピュータにより算出している。
炭素化工程は、コア率が5[%]以上の耐炎化繊維に対して炭素化して炭素繊維を得る工程である。なお、炭素化することを炭素化処理ともいう。炭素化は、特定の温度域において比較的緩やかな温度勾配(昇温勾配)で加熱する。
具体的には、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で炭素化処理を行う。従来、かかる温度領域の炭素化条件は得られる炭素繊維の強度への影響が小さいと考えられており、700~1,000[℃]以外の他の温度域に比べて比較的急な温度勾配が設定されていた。しかし、本発明者らは、特定のコア率を有する耐炎化繊維を炭素化する場合には、かかる温度範囲での温度勾配を緩やかにすることで高いストランド引張強度を有する炭素繊維が得られることを見出した。なお、ストランド引張強度を単に「引張強度」又は「強度」ということもあり、ストランド引張弾性率を単に「引張弾性率」又は「弾性率」ということもある。
上記700~1,000[℃]の温度域において炭素化中の繊維の急激な重量減少が生じるが、重量減少速度が速すぎると繊維内部に欠陥を生じ、強度低下の要因となる。強度の低下を抑制するには、700~1,000[℃]の温度範囲での好ましい重量減少速度は5~13[重量%/min]、より好ましくは9~12[重量%/min]の範囲である。
また、炭素化工程全体の温度勾配は50~250[℃/min]の範囲であることが好ましく、100~200[℃/min]の範囲であることがより好ましい。
炭素化処理の炭素化時間は5[min]以上であることが好ましく、より好ましくは6[min]以上である。
炭素化工程が複数個の炭素処理炉を通過することで行われる場合、炭素化時間は各炭素処理炉を通過する合計の時間である。なお、炭素化工程が複数個の炭素処理炉を通過することで行われる場合、炭素化処理の最高温度はすべての炭素化処理炉における最高温度であり、最低温度はすべての炭素処理炉における最低温度である。
(1)繊維特性
このような耐炎化工程と炭素化工程を行う炭素繊維の製造方法によれば、ストランド引張強度TSに優れた炭素繊維を得ることができる。炭素繊維の引張強度TSは、5,000[MPa]以上であることが好ましい。引張強度TSの高い炭素繊維を用いると、物性に優れた複合材料を得ることができる。
炭素繊維の結晶サイズLcは、16.2[Å]以下であることが好ましく、16.0[Å]未満であることがより好ましい。炭素繊維の結晶サイズが低いと、圧縮特性、耐衝撃性に優れた複合材料を得ることができる。
本発明において炭素繊維は、炭素繊維の音波伝導速度CV[km/s]と引張弾性率TM[GPa]との関係において、
242>37.5×CV-TM>215
を満たす。
また、炭素繊維の弾性率TMが230~260[GPa]である場合、炭素繊維の音波伝導速度CVは、12.2[km/s]より大きく、13.0[km/s]未満が好ましい。
ここでいう「音波伝導速度」は音波の振動が繊維束長手方向に伝わる速さをいう。音波伝導速度CVは、繊維中の緻密性や結晶性の増大に伴い増加する傾向にある。これは、緻密性の向上により音波伝導パスが形成されるためであると考えられる。音波伝導速度CVがこの範囲にあると、繊維の緻密性と結晶成長のバランスが取れるため、引張強度TSの高い炭素繊維となる。音波伝導速度CVが低すぎる場合、繊維中の緻密性が低いため、一方、音波伝導速度CVが高すぎる場合は、過度な結晶成長によって引張強度TSが低下する傾向がある。音波伝導速度CVがこの範囲にあることで、5,000[MPa]以上の引張強度TSを有する炭素繊維を得やすくなる。
炭素繊維の引張強度TS及び引張弾性率TMは、JIS R-7608に準じてエポキシ含浸ストランドの引張強度及び引張弾性率を測定した。
結晶サイズLcの測定は、例えば株式会社リガク製X線回折装置RINT2000を用い、繊維をセットした試料台を取り付けて透過法にて実施できる。
X線には、加速電圧40[kV]、電流30[mA]で発生させたCuKα線を使用できる。試料の向きは、結晶サイズLcの測定の際には繊維束の繊維軸方向を赤道面に対して垂直な状態とする。また、それぞれ回折角2θが10[°]から60[°]の範囲の回折パターンをとり、回折パターンの10[°]、20[°]、35[°]、60[°]付近を通る曲線をベースラインとして行う。
結晶サイズLcは、上記の方法により得られた面指数(002)の回折ピークの半値幅β002から、下式(2)を用いて算出することができる。
結晶サイズLc[nm]=0.9λ/(β002cosθ002) ・・・ (2)
〔式中、λ:X線の波長、β002:面指数(002)の回折ピークの半値幅、θ002:面指数(002)の回折角を示す。〕
炭素繊維の音波伝導速度CVの測定は、市販の粘弾性測定装置、例えば、オリエンテック社製粘弾性測定装置レオバイブロンDDV-5-Bなどを用いることで実施できる。
上記「1.耐炎化工程」で説明したコア率5[%]以上の耐炎化繊維の製造方法及び上記「2.炭素化工程」を含んだ炭素繊維の製造方法について説明する。
ここでは、前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維である場合を例にとって説明する。
図2は、炭素繊維の製造工程を示す概略図である。
炭素繊維は、前駆体繊維であるプリカーサを用いて製造される。1本のプリカーサは、複数本、例えば、24,000本のフィラメントが束になったものが用いられる。
プリカーサ1aは、アクリロニトリルを90[質量%]以上、好ましくは95[質量%]以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる。なお、共重合する単量体としては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸、アクリルアミド、イタコン酸、マレイン酸等が利用される。
通常、プリカーサ1aを製造する速さと、プリカーサ1aを耐炎化及び炭素化して炭素繊維を製造する速さが異なる。このため、製造されたプリカーサ1aは、一旦、カートンに収容されたり、ボビンに巻き取られたりする。
前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1,000本以上が好ましく、12,000本以上がより好ましく、24,000本以上が特に好ましい。
炭素繊維は、図2に示すように、プリカーサ1aを耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化された繊維(以下、「耐炎化繊維」という。)1bを延伸させながら炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維(以下、「炭素化後繊維」ともいう。)1dの表面を改善する表面処理工程と、表面が改善された繊維1eにサイジング剤を付着させるサイジング工程と、サイジング剤が付着した繊維1fを乾燥させる乾燥工程とを経て製造される。
乾燥された繊維1gは、炭素繊維1gとしてボビン39に巻き取られる。なお、各工程を終えた繊維を、例えば耐炎化繊維1bのように、区別しているが、単に「繊維」として説明する際の符号は、「1」を用いる。
ここで、プリカーサ1aを耐炎化する処理を耐炎化処理、耐炎化繊維1bを炭素化する処理を炭素化処理、炭素化後繊維1dの表面を改善する処理を表面処理、表面が改善された繊維1eにサイジング剤を付着させる処理をサイジング処理、サイジング剤が付着した繊維1fを乾燥させる処理を乾燥処理とそれぞれいう。以下、各工程及び各処理について説明する。
耐炎化工程は、所定の温度の酸化性雰囲気に設定された耐炎化炉3を利用して行う。具体的には、耐炎化は、空気雰囲気中であって温度勾配のある耐炎化炉3内をプリカーサ1aが通過することで行われる。なお、酸化性雰囲気は、酸素、二酸化窒素等を含んでいてもよい。
耐炎化工程では、上流側から下流側に移るにしたがって、炉内の温度が高くなっている。これは、プリカーサ1aの切断を誘発させずに効率よく耐炎化を行うためである。
耐炎化工程での最高温度は255[℃]以上である。温度勾配は、0.25[℃/min]以上であることが好ましく、3[℃/min]以下であることが好ましく、0.3~0.5[℃/min]であることがより好ましい。耐炎化工程での加熱時間は60[min]以下である。
耐炎化工程中のプリカーサ1aは、製造する炭素繊維に合わせて所定の張力で延伸される。耐炎化工程での延伸倍率は、-10~10[%]の範囲内であることが好ましく、-5~0[%]の範囲内であることがより好ましい。プリカーサ1aの延伸は複数のローラにより行われる。例えば、延伸は、耐炎化炉3の入口のローラ5,7や出口のローラ9,11,13により行われる。
炭素化工程は、耐炎化繊維1bを加熱することで熱分解反応を生じさせて炭素化を行う工程である。炭素化は、耐炎化繊維1bが第1炭素化炉15を通過し、さらに、第1炭素化炉15を通過した繊維1cが第2炭素化炉17を通過することで行われる。
同様に、第2炭素化炉17で行われる炭素化を「第2炭素化」とし、第2炭素化炉17で行われる処理や工程を「第2炭素化処理」や「第2炭素化工程」とし、第2炭素化処理や第2炭素化工程を終えた(第2炭素化炉17を出た)繊維1dを「第2炭素化繊維」又は「炭素繊維」とする。
第1炭素化及び第2炭素化は、例えば、電気ヒータ等を利用して加熱できる。
第2炭素化炉17の内部の温度は、第1炭素化炉15の内部の温度よりも高く、第2炭素化炉17の内部での最高の温度が炭素処理工程における最高温度となる。
なお、第1炭素化炉15及び第2炭素化炉17の内部の温度は、耐炎化繊維1bや第1炭素化繊維1cの走行方向の下流側に向かうにしたがって温度が高くなっており、第2炭素化炉17の下流側で最高温度となる。
第2炭素化工程では、第2炭素化炉の最高温度は目的とする炭素繊維1[g]のストランド弾性率TMに応じて適宜調整すればよく、1,200~2,000[℃]の間であることが好ましい。第2炭素化時間は2.5[min]以上であることが好ましく、3[min]以上であることがより好ましい。第1炭素化工程と第2炭素化工程を併せた合計の炭素化時間は5[min]以上であり、5~60[min]であることがより好ましく、6~20[min]であることがさらに好ましい。
また、炭素化工程全体の温度勾配は50~250[℃/min]の範囲であることが好ましく、100~200[℃/min]の範囲であることがより好ましい。
また、700[℃]未満の温度範囲においては、150[℃/min]以下の温度勾配で炭素化処理を行うことが好ましく、より好ましくは、10~150[℃/min]の範囲の温度勾配で、さらに好ましくは20~120[℃/min]の範囲の温度勾配で炭素化処理を行う。
さらに、1,000[℃]を超える温度範囲においては、200[℃/min]以下の温度勾配で炭素化処理を行うことが好ましく、より好ましくは、10~150[℃/min]の範囲の温度勾配で、さらに好ましくは20~120[℃/min]の範囲の温度勾配で炭素化処理を行う。第2炭素化工程全体の温度勾配は50~300[℃/min]の範囲であることが好ましく、100~250[℃/min]の範囲であることがより好ましい。
表面処理工程は、第2炭素化繊維1dが表面処理装置25内を通過することで行われる。表面処理装置25の外であって出口側にはローラ26が設けられている。なお、表面処理することで、炭素繊維1gを利用して複合材料とした場合、炭素繊維1gとマトリックス樹脂との親和性や接着性が向上する。
表面処理は、一般に第2炭素化繊維1dの表面を酸化することにより行われる。表面処理として、例えば、液相中又は気相中の処理がある。
液相中での処理は、酸化剤に第2炭素化繊維1dを浸漬することによる化学酸化や、第2炭素化繊維1dが浸漬する電解液中で通電することによる陽極電解酸化等が工業的に用いられる。気相中での処理は、第2炭素化繊維1dを酸化性気体の中を通過させたり、放電等によって発生した活性種を吹き付けたりすることにより行なうことができる。
サイジング工程は、表面処理された繊維1eがサイジング剤溶液29内を通過することで行われる。サイジング剤溶液29は、サイジング剤浴27に貯留されている。なお、サイジング工程により、表面処理された繊維1eの収束性が高まる。
サイジング工程において、表面処理された繊維1eは、サイジング剤浴27の内部やサイジング剤浴27の周辺に配された複数のローラ31,33等により走行方向を変更しながらサイジング剤溶液29内を通過する。サイジング剤溶液29は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を溶媒に溶解させた液や、溶媒に分散させたエマルション液が利用される。
乾燥工程は、サイジング剤が付着した繊維1fが乾燥炉35内を通過することで行われる。なお、乾燥した繊維1gは、乾燥炉35の外であって下流側のローラ37を介してボビン39に巻き取られる(巻取工程である。)。
<炭素繊維の樹脂含浸ストランド強度TS、弾性率TM>
JIS R 7608(ISO 10618)に規定された方法により測定した。
<結晶サイズLc>
炭素繊維の結晶サイズLcは、X線回折装置:リガク社製RINT2000を使用し、透過法により面指数(002)の回折ピークの半値幅βから、下式(4)
結晶子サイズLc[nm] = 0.9λ/βcosθ ・・・ (4)
λ:X線の波長、β:半値幅、θ:回折角
を用いて算出した。
<音波伝導速度CV>
炭素繊維の音波伝導速度CVは、オリエンテック社製粘弾性測定装置レオバイブロンDDV-5-Bを用いて測定した。具体的には、長さ50[cm]にカットした炭素繊維束を粘弾性測定装置にセットし、可変振動モードで測定した。粘弾性測定装置のTRANSMITTER ATTをレベル5に設定し、振動が伝わる時間[秒:s]と繊維長さ(50[cm])より、音波伝導速度CV[km/s]を算出した。
前駆体繊維であるポリアクリロニトリル繊維(単繊維繊度0.8[dtex]、フィラメント数24,000本)を、表1に記載の温度条件および延伸倍率で、表1記載の比重になるまで耐炎化処理を行った。次いで窒素ガス雰囲気下、表1に記載の条件で第1炭素化処理及び第2炭素化処理を行った。これを硫酸アンモニウム水液中で30[C/g]の電気量で電解酸化により表面処理した後、エポキシ系樹脂にてサイジング処理を施した。この炭素繊維の物性を表1に示した。
また、実施例1-4及び比較例1-4については炭素繊維の音波伝導速度CVを測定した。音波伝導速度CV、炭素繊維の物性及び式(3)の「37.5×CV-TM」の算出結果を表2に示した。
一方、耐炎化時間が83[min]と実施例に比べ長くし、耐炎化繊維のコア率を実施例と比べ小さくした比較例1、2では、炭素化条件が実施例1と同じであったにもかかわらず、得られた炭素繊維のストランド引張強度TSは5,000[MPa]に満たない低いものであった。
比較例1と同じ耐炎化条件で、さらに、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]を超える温度勾配で炭素化した比較例3でも、得られた炭素繊維のストランド引張強度TSは、5,000[MPa]に満たない低いものであった。
上述のように、コア率の高い(例えば5[%]以上である)耐炎化繊維に対して、短時間の従来の炭素化を行うと、引張強度TSが低下する傾向がある。このため、従来から、高い引張強度TSを得るために耐炎化工程の温度を下げて長時間加熱することでコア率の低い耐炎化繊維を製造している。
しかしながら、コア率の高い(例えば5[%]以上である)耐炎化繊維に対して、長時間の炭素化を行うと、高い引張強度TSが得られることが判明した。
一方、コア率の高い耐炎化繊維は耐炎化処理の温度を高くして耐炎化時間を短くすることで得られる。
したがって、本発明に係る炭素化を行う場合、耐炎化温度を高くして耐炎化処理時間を短縮した耐炎化工程を採用することができる。特に、炭素繊維の製造において、耐炎化工程の全工程に対する比率が高く、耐炎化工程の時間短縮は炭素繊維の生産コスト削減に大きく貢献する。
また、実施例1-4及び比較例1-4では、弾性率TMが239~244[GPa]の範囲であったが、この範囲でない他の弾性率TMの炭素繊維も考慮すると、下式(3)を満たす。これにより、炭素繊維の各引張弾性率TMにおいて高強度な炭素繊維が得られる。
242>37.5×CV-TM>215 ・・・ (3)
以上、実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態に限られない。例えば、以下で説明する変形例と実施形態の何れかを適宜組み合わせてもよいし、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
「2.製造方法」の項目では、フィラメント数が24,000本の炭素繊維の製造方法について説明したが、フィラメント数が3,000本、6,000本、12,000本等の他の本数の前駆体繊維の炭素化及び炭素繊維の製造方法にも適用できる。
「3.製造方法」の項目では、炭素化工程を含んだ炭素繊維の製造方法について説明したが、例えば、表面処理工程前に、さらに黒鉛化処理を行ってもよい。
2.炭素化炉
実施形態では、炭素化炉は第1炭素化炉と第2炭素化炉の2個の炭素化炉を備えていたが、1個の炭素化炉であってもよいし、3個以上の炭素化炉であってもよい。この場合においても、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で行われればよい。
1a プリカーサ
1b 耐炎化繊維
1c 第1炭素化繊維
15 第1炭素化炉
17 第2炭素化炉
Claims (7)
- 前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とを含む炭素繊維の製造方法において、
前記炭素繊維は、引張強度が5,000[MPa]以上であり、
前記耐炎化繊維は、コア率が5[%]以上であって、220[℃]以上の最低温度から255[℃]以上の最高温度まで、0.25[℃/min]以上の温度勾配で処理された耐炎化繊維であり、
前記炭素化工程が、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で行われる
炭素繊維の製造方法。 - 前記前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維であり、前記耐炎化繊維が、比重1.33~1.4[g/cm3]の耐炎化繊維である
請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。 - 前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とを含む炭素繊維の製造方法において、
前記炭素繊維は、引張強度が5,000[MPa]以上であり、
前記前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維であり、
前記耐炎化繊維は、コア率が5[%]以上であって比重1.35~1.37[g/cm3]の耐炎化繊維であり、
前記炭素化工程が、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で行われる
炭素繊維の製造方法。 - 前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とを含む炭素繊維の製造方法において、
前記炭素繊維は、引張強度が5,000[MPa]以上であり、
前記前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維であり、
前記耐炎化工程は、最高温度255[℃]以上の温度で、60[min]以下の時間で行われ、
前記耐炎化繊維は、比重1.35~1.37[g/cm3]の耐炎化繊維であり、
前記炭素化工程が、700~1,000[℃]の温度範囲において450[℃/min]以下の温度勾配で行われる
炭素繊維の製造方法。 - 前駆体繊維を耐炎化し耐炎化繊維を得る耐炎化工程と、耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程とを含む炭素繊維の製造方法において、
前記炭素繊維は、引張強度が5,000[MPa]以上であり、
前記耐炎化工程は、最高温度255[℃]以上の温度で、60[min]以下の時間で行われ、
前記炭素化工程が、700~1,000[℃]の温度範囲において100~450[℃/min]の温度勾配で行われる
炭素繊維の製造方法。 - 前記前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維であり、前記耐炎化繊維が、比重1.33~1.4[g/cm3]の耐炎化繊維である
請求項5に記載の炭素繊維の製造方法。 - 炭素繊維の音波伝導速度[km/s]をCVとし、炭素繊維の引張弾性率[GPa]をTMとすると、前記音波伝導速度CVと前記引張弾性率TMとの関係において、
242>37.5×CV-TM>215
を満たす
炭素繊維。
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JP2018031275 | 2018-02-23 | ||
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