以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
《実施形態1》
図1において、Rは建物内の例えば数人から数十人が机や椅子を並べて業務を行える程度の広い室であり、その天井部Cの床部F(共に図2に示す)からの高さは例えば2000mm~3000mm程度(図示例では2850mm)である。この室Rの天井部Cには、防災設備、換気設備又は空調設備として、予め複数の天井機器A,A,…が所定の間隔で設置されている。天井機器Aは、例えば法令上に基づいて必要数設置されるもので、例えば煙やガス等の感知器、スプリンクラー、換気装置等であり、図1ではスプリンクラーを例示している。
このように天井部Cに防災設備(換気設備又は空調設備であってもよい)としての天井機器A,A,…が設置されている室Rにおいて、その一部に例えば平面視で矩形状の6つの作業ブースB,B,…が区画されて設置されている。以下の説明では、6つの作業ブースB,B,…を第1~第6の作業ブースと番号付けし、図1において第1~第6の作業ブースB,B,…の番号を丸数字で示している。
6つの作業ブースB,B,…は、平面視が互いに同じ形状で床面積も互いに同じである。これらの作業ブースB,B,…は、例えば第1~第3の作業ブースB,B,…と、第4~第6の作業ブースB,B,…との3つずつに分けられ、3つずつの作業ブースB,B,…が直線に並んで互いに平行な2列となり、両列の作業ブースB,B,…間に間隔が空けられている。両列の列方向の一端(第1及び第4の作業ブースB,Bの側壁)は、室Rの一方側の壁部Wの一部で構成され、両列の列方向の他端(第3及び第6の作業ブースB,Bの側壁)は、室Rの他方側の壁部Wに間隔を空けて対向している。このことで、室Rの一部は、上記2列で6つの作業ブースB,B,…と、その作業ブースB,B,…以外のスペースである共用空間Sとに区画され、共用空間Sは、作業ブースB,B,…の両列間のスペースと、各列の列方向の他端に隣接するスペースとからなっており、その床部Fは通路として利用される。
そして、共用空間Sの天井部Cに、室Rの全体に既に設置されている上記天井機器A,A,…の一部が配置されている。天井機器A,A,…は、予め室Rの天井部Cに設置されているので、作業ブースB,B,…のレイアウトによっては、その作業ブースBの内部の天井部Cにも位置することも生じるが、作業ブースB,B,…外の共用空間Sには必ず天井機器A,A,…が配置されるように作業ブースB,B,…がレイアウトされる。
各作業ブースBは、その床部の一辺が600~2000mmの矩形状である。床部の一辺がこのような長さであると、作業ブースBは、その床部の面積(床面積)は小さく(0.36m2以上4m2以下)、少人数での打合せやテレワーク等の用途に好適となる。図示例では作業ブースBは、間口1655mm、奥行1700mm、高さ2260mmのものとしている。
各作業ブースBは、室Rの床部Fに固定されて起立する複数枚(本実施形態では、3枚又は4枚)の仕切壁材1,2が連結されることにより、平面視で矩形状に形成されている。各列の3つの作業ブースB,B,…において、隣接する作業ブースB,Bの隔壁となる仕切壁材には同じ仕切壁材2が共用されている。また、各列の列方向の一端側に位置する第1及び第4の作業ブースB,Bは、各作業ブースBを取り囲む4つの側壁のうちの1つが室Rの壁部Wの一部によって構成され、残り3つは仕切壁材1,2,2で構成されている。一方、第2,第3,第5及び第6の作業ブースB,B,…は、各作業ブースBを取り囲む4つの側壁の全てが仕切壁材1,2,2,2で構成されている。
各仕切壁材1,2は縦長の細長い板状のもので(図2参照)、例えば不燃材料であるスチールのパネル板材により形成されている。各仕切壁材1,2は下端部で室Rの床部Fに固定され(又は載置だけされていてもよい)、側端部は隣接する他の仕切壁材1,2の側端部に固定されている。室Rの壁部Wに隣接する各仕切壁材1,2(第1及び第4の作業ブースB,Bの各2枚の仕切壁材1,2)の側端部は、隣接する室Rの壁部Wに固定されている。
各作業ブースBを区画する複数枚の仕切壁材1,2のうちの1枚は、上端部に作業ブースB内外を連通する連通口4が設けられた連通用壁材1で構成され、該連通用壁材1以外の仕切壁材2は、室Rの床部Fから天井部Cに至る高さの天井高壁材2で構成されている。各仕切壁材1,2(連通用壁材1及び天井高壁材2)の上端部は、天井部Cに固定されている。
一般に、壁が天井部と床部とに強固に固定された構造は、間仕切り壁を有する構造物と見做されて、当該壁の表面等は不燃性が求められる。一方、室の床部のみや壁部のみに固定されたり、床部に載置されたりする壁は、一般に家具と見做され、その表面は不燃性ではなくて難燃性でもよく、地域によっては、不燃・難燃に対する配慮が不要な場合もある。
この実施形態では、仕切壁材1,2が室Rの天井部Cに固定されて構造物と見做されるので、仕切壁材1,2としては不燃材料であるスチールが用いられている。なお、仕切壁材1,2は天井部Cに対し転倒防止の措置に必要な最低限の止付けでよい。このことで、天井部Cや天井部C裏側の補強工事は不要となる。
こうして、各作業ブースBを区画する複数枚の仕切壁材1,2が室Rの天井部Cに固定されているので、室Rの内部に作業ブースB,B,…が安定して設置される。
本実施形態では、各列の3つの作業ブースB,B,…のうち、第1,第2,第4及び第5の4つの作業ブースB,B,…は、複数枚の仕切壁材1,2のうちの1枚の仕切壁材(連通用壁材)1だけが共用空間Sに面している。一方、各列の3つの作業ブースB,B,…のうち、列方向の端部に位置する第3及び第6の作業ブースB,Bは、複数枚の仕切壁材1,2のうちの2枚の仕切壁材1,2が共用空間Sに面している。各作業ブースBは、ほぼ同様に構成されており、出入り口の開閉方向のみが異なる。
図2は、第2、第3、第5及び第6の各作業ブースBを、4つの側壁(仕切壁材1,2)が展開された状態で示し、作業ブースB内から見たものである。なお、第1及び第4の作業ブースB,Bは、4つの側壁の1つが室Rの壁部Wの一部で構成される点が、4つの側壁全てが仕切壁材1,2で構成される第2、第3、第5及び第6の各作業ブースBと異なるだけであるため、以下では、図2に示す第2、第3、第5及び第6の各作業ブースBについてのみ説明する。
各作業ブースBでは、側壁を構成する仕切壁材1,2のうち、共用空間Sに面する仕切壁材1が、その上端部に、作業ブースBの内部空間を共用空間Sと連通する連通口4が設けられた連通用壁材1となるように構成されている。
連通用壁材1は、天井高壁材2と同様に、上端部で天井部Cに固定されているが、その上端部に、作業ブースBの内部空間を共用空間Sと連通する連通口4が設けられている。具体的には、連通用壁材1の上端部には、その一部として矩形の枠5a内に開口5bを有する開口欄間5が一体に設けられており、その開口欄間5の開口5bで上記連通口4が構成されている。一般に、欄間は、枠内に開口が形成され、その開口がアクリルやガラス等の仕切り板、ルーバー等で被覆されたものであるが、本発明では、仕切り板やルーバー等がなく、開口がそのまま開いているものが用いられる。開口欄間5の開口5b(連通口4)の高さhは500~700mmが望ましく、その左右幅は連通用壁材1の幅全体に近いことが望ましいが、後述する天井機器Aの作動により求められる防災、換気、空調等の観点での機能を果たせればよい。
このように、各作業ブースBは、側壁を構成する複数枚の仕切壁材1,2のうちの1枚が連通用壁材1で構成され、該連通用壁材1が作業ブースB,B,…の両列間のスペースの共用空間Sに面するように配置されている。このことで、各作業ブースBは、連通用壁材1の連通口4(開口欄間5の開口5b)が共用空間Sの天井部Cの天井機器A,A,…に臨んでいる構造とされ、該共用空間Sの天井機器A,A,…の動作が連通用壁材1の連通口4を通して各作業ブースB内に及ぶようになっている。すなわち、天井機器Aがスプリンクラーの場合、そのスプリンクラーからの水が連通口4を通して各作業ブースB内に放出され、天井機器Aが換気装置の場合には、各作業ブースB内の汚染空気が連通口4を通して換気装置に取り込まれ、天井機器Aが空調装置の場合には、空調装置から吹き出された調和空気が連通口4を通して各作業ブースB内に放出され、天井機器Aが感知器の場合には、各作業ブースB内の煙やガス等が連通口4を通して感知器に届くようになっている。
また、各作業ブースBでは、その作業ブースB内面(仕切壁材1,2の内面、又は仕切壁材1,2の内面及び壁部Wの内面)に吸音部10が設けられている。本実施形態1では、吸音部10は、連通用壁材1に対向する仕切壁材2からなる対向側壁3の内面と、連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の内面とに設けられている。
吸音部10は、並べられて配置される複数枚の吸音パネル11,11,…からなる。図示しないが、各吸音パネル11は、表面に吸音材が貼り付けられた矩形パネル状のもので、裏面側に磁気が作用するマグネット(磁石)が設けられており、そのマグネットの磁気によってスチール製の仕切壁材2の内面に着脱可能に固定される。なお、マグネットに代えて面ファスナーを用いてもよく、同様にして吸音パネル11を仕切壁材2の内面に着脱可能に固定できる。また、長期に作業ブースBとして使用する目的であれば、着脱可能な吸音パネル11を用いるのではなく、吸音パネル11を両面テープや接着剤で接着施工してもよい。
各吸音パネル11には、例えば、300mm角、450mm角、600mm角の正方形の吸音パネルを用いることができる。図2では、対向側壁3の内面に450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…が横方向に3枚、高さ方向に4列に並べられて固定され、連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の各内面に、450mm角の6枚の吸音パネル11,11,…が横方向に2枚、高さ方向に3列に並べられて固定されている。この吸音パネル11の枚数や配置は、作業ブースBの内面のスペースや算定した上記必要面積に応じて変更すればよい。吸音パネル11としては、450mm角の場合、例えば大建工業株式会社製の商品名「オフトーンマグネットパネルN」を用いることが好適である。
連通用壁材1に対向する対向側壁3の内面と連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の内面とにおいて、吸音部10は、床部Fから700mm以上の高さに設けられている。また、連通用壁材1に対向する対向側壁3の内面と連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の内面とにおいて、吸音部10の少なくとも一部は、床部Fから900mm以上1500mm以下の高さに設けられている。
対向側壁3の内面において、吸音部10は、連通口4に対向するように、上端が、対向側壁3の上端(室Rの天井部C)から200mm下側の高さまでの範囲に位置するように設けられている。具体的には、本実施形態1では、対向側壁3の内面に設けられる吸音部10は、450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…により、1800mm×1350mmに形成され、上端が対向側壁3の作業ブースB内面の上端(室Rの天井部C)から10mm程度下側に位置し、左端及び右端が対向側壁3の作業ブースB内面の左右側端からそれぞれ75mm程度内側に位置するように設けられている。なお、吸音部10は、上端が室Rの天井部Cに位置するように設けられていてもよく、対向側壁3の作業ブース3内面の左右方向幅全体に亘る大きさに形成されていてもよい。
連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の各内面において、450mm角の6枚の吸音パネル11,11,…により、1350mm×900mmに形成され、下端が床部Fから800mm程度の高さに位置し、対向側壁3側の端が、作業ブースB内面の対向側壁3側の端からそれぞれ75mm程度内側に位置するように設けられている。
また、吸音部10は、作業ブースBの体積及び吸音部10の設置位置によって異なる予め算定された必要面積以上の総面積となるように、各作業ブース10の内面に設けられている。なお、上記必要面積は、作業ブースBの体積が大きくなる程、大きくなる。本実施形態では、吸音部10は、各作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大するのに必要な面積以上の総面積分だけ設けられている。なお、「平均吸音率」とは、周波数帯域毎に算出され、当該周波数帯域における等価吸音面積を総表面積で除して求めたものをいい、「各作業ブースBの平均吸音率」とは、各作業ブースBの500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値を指す。
具体的には、本実施形態1では、吸音部10設置前の各作業ブースBの平均吸音率は、0.145であり、各作業ブースBの内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けることにより、平均吸音率を0.118(0.1以上)増大させている。このような総面積の吸音部10を設けることにより、各作業ブースBの平均吸音率は、0.263(0.2以上0.3以下)まで向上している。
また、各作業ブースBでは、連通用壁材1に、その作業ブースB内を共用空間Sと接続する出入り口15が設けられており、利用者は、この出入り口15を通って、共用空間Sから作業ブースB内に入り又は作業ブースB内から共用空間Sに出るようになっている。この出入り口15は出入り扉16によって開閉される。
図1中、21は各作業ブースB内において出入り口15と反対側(作業ブースBの内奥側)に設置された机、22は椅子である。吸音部10の下端部は、机21よりも上側位置に位置していることが望ましいが、必須ではない。
-作用-
実施形態1では、建物内の室Rの一部が例えば2列に配置された6つの作業ブースB,B,…と、それ以外の共用空間Sとに区画され、共用空間Sの天井部Cに、既に室Rに設置されている天井機器A,A,…の一部が配置されている。6つの作業ブースB,B,…はいずれも、室Rの床部Fに起立する複数枚の仕切壁材1,2が連結されることにより床面積が0.36m2以上4m2以下となるように形成されている。各作業ブースBを形成する複数枚の仕切壁材1,2のうちの1枚は、上端部に、作業ブースB内の空間と共用空間Sとを連通する連通口4(開口欄間5の開口5b)が設けられた連通用壁材1で構成されている。そして、6つの作業ブースB,B,…はいずれも、連通口4が設けられた1枚の連通用壁材1が共用空間Sに面するように設置されている。このような構成により、各作業ブースB内は、連通用壁材1の連通口4を介して共用空間Sに連通し、共用空間Sの天井部Cに位置する上記天井機器A,A,…の作動時にその作動が連通口4を介して各作業ブースB内に作用する。例えば、天井機器Aがスプリンクラーであれば、スプリンクラーから噴射された水が連通口4を介して各作業ブースB内にも降り注ぎ、スプリンクラーの各作業ブースB内に対する作動が阻害されることはなく、その消火動作に伴う効果が作業ブースB内でも確保される。また、例えば、天井機器Aが既存の換気装置であれば、共用空間Sの汚染空気だけでなく、各作業ブースB内の汚染空気も連通口4を通じて換気装置により換気される。さらに、例えば、天井機器Aが既存の空調装置であれば、共用空間Sの空気だけでなく、各作業ブースB内の空気も連通口4を通じて空調装置により温度や湿度が調節される。
このように、作業ブースBの共用空間Sに面する仕切壁材1に開口欄間5の開口5bによる連通口4を形成するだけで、共用空間Sの天井部Cに位置する天井機器Aの作動を各作業ブースB内で利用することができるので、共用空間Sや各作業ブースBの天井部Cは、室Rに作業ブースB,B,…を区画して設置する前の元の室R内の天井部Cをそのままの状態に維持すればよく、天井部Cの構造を変更する大規模な工事は全く不要となる。特に、天井機器Aとして、高額な換気装置や防災設備(スプリンクラー、火災警報器)を別途増設することは不要となる。このことで、作業ブースB,B,…を低いコストで容易に設置することができ、その分、設置効率を上昇させることができる。
一方、上述のように共用空間Sに面する1枚の仕切壁材1が、連通口4を有する連通用壁材1で構成することで、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が連通口4を介して他の作業ブースB内に侵入する騒音問題が発生する。
しかし、作業ブースBにおいては、作業ブースB内面(本実施形態1では、仕切壁材1,2の内面、又は仕切壁材1,2の内面及び壁部Wの内面)に吸音部10が設けられている。そのため、一の作業ブースB内で発生した音は、該一の作業ブースBに設けられた吸音部10に吸収され、共用空間Sに漏れる音の音量が軽減する。また、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音は、連通口4を介して他の作業ブースB内に侵入した後、他の作業ブースB内面に設けられた吸音部10で吸収されてさらに小さくなる。
ところで、本願発明者等による鋭意研究の結果、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bのそれぞれにおいて吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判った。なお、「対向2室間の音圧レベル差」とは、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの一方に測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で音源室と受信室で音圧を測定して求めた各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値を指す。
なお、上述の「共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,B」は、一の作業ブースBの連通口4から共用空間Sに漏れた音が反射することなく他の作業ブースBの連通口4から該他の作業ブースB内に侵入する可能性のある位置に配置された2つの作業ブースB,Bを言う。
また、さらなる研究の結果、共用空間Sに対峙して互いに隣接する2つの作業ブースB,Bのそれぞれにおいて吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判った。なお、「隣接2室間の音圧レベル差」とは、共用空間Sに対峙して互いに隣接する2つの作業ブースB,Bの一方に測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で音源室と受信室で音圧を測定して求めた各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値を指す。
そこで、本実施形態1では、全ての作業ブースB,B,…(実施形態1では、第1~第6の作業ブースB,B,…)の内面に、該作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大するのに必要な面積以上の総面積の吸音部10を設けることとしている。このような分量の吸音部10を設けることにより、全ての作業ブースBにおいて、作業ブースB内で発生した音は、適切な分量(総面積)の吸音部10により、十分に吸収されるため、各作業ブースBから連通口4を介して共用空間Sに漏れる音の音量が軽減する。また、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が、共用空間S内の壁に反射して又は反射することなく連通口4を介して隣接する又は共用空間Sを挟んで対峙する他の作業ブースB内に侵入したとしても、該他の作業ブースBに設けられた適切な分量(総面積)の吸音部10により、十分に吸収されることとなる。これにより、他の作業ブースB内において立位又は座位で作業する作業者に伝達される音声の明瞭度が下がり、音声自体は聞こえるものの、内容が聞き取り難くなることが期待される。このことによって、作業ブースBの内部が静かで作業に集中できる快適な音環境に保たれる。
-検証試験-
また、以下の2点の音環境の改善効果を検証すべく、図1,3,4に示す作業ブース設置構造を作製して試験1~6を行った。
(検証1)共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができるという音環境の改善効果
(検証2)隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の両方の内面に吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができるという音環境の改善効果
[試験用の作業ブース設置構造]
図3に示す作業ブース設置構造は、室Rの一部に、平面視で矩形状の4つの作業ブースB,B,…が区画されて設置されている。以下の説明では、4つの作業ブースB,B,…を第11~第14の作業ブースと番号付けし、図3において第11~第14の作業ブースB,B,…の番号を丸数字で示している。
図3に示すように、4つの作業ブースB,B,…は、第11及び第12の作業ブースB,Bと、第13及び第14の作業ブースB,Bとの2つずつに分けられ、2つずつの作業ブースB,Bが直線に並んで互いに平行な2列となり、両列の作業ブースB,B間に間隔が空けられている。両列の列方向の一端(第11及び第13の作業ブースB,Bの側壁)は、室Rの一方側の壁部Wの一部で構成されている。室Rの一部は、上記2列で4つの作業ブースB,B,…と、その作業ブースB,B,…以外のスペースである共用空間Sとに区画されている。図3では、各作業ブースBは、間口1400mm、奥行1750mm、高さ2430mmに構成されている。図3に示す作業ブース設置構造では、各作業ブースBにおいて、吸音部10は、対向側壁3には設けられず、連通用壁材1に隣接する2つの側壁(仕切壁材2又は室Rの壁部W)の内面に設けられている。各作業ブースBの内部の詳細な構成は、吸音部10の配置位置が異なるのみで、図1の作業ブース設置構造と概ね同様であるので説明を省略する。
図4に示す作業ブース設置構造は、室Rの一部に、4つの作業ブースB,B,…が区画されて設置されている。以下の説明では、4つの作業ブースB,B,…を第21~第24の作業ブースと番号付けし、図4において第21~第24の作業ブースB,B,…の番号を丸数字で示している。
図4に示すように、4つの第21~第24の作業ブースB,B,…は、直線に並んで1列となっている。第21及び第23の作業ブースB,Bは、平面視で矩形状に形成され、第22の作業ブースBは、平面視でL字形状に形成され、第24の作業ブースBは、平面視でT字形状に形成されている。第22及び第24の作業ブースB,Bの一端(図4の下端)は、室Rの一方側の外壁部Wの一部で構成され、窓が形成されている。図4では、各作業ブースBは、間口1250mm、奥行1700m、高さ2800mmで、床面積が0.36m2以上4m2以下となるように形成されている。図4に示す作業ブース設置構造では、各作業ブースBにおいて、吸音部10は、対向側壁3には設けられず、連通用壁材1に隣接する2つの側壁(仕切壁材2)の内面に設けられている。各作業ブースBの内部の詳細な構成は、吸音部10の配置位置が異なるのみで、図1の作業ブース設置構造と概ね同様であるので説明を省略する。
[試験1~6]
以下の試験1~6について説明する。なお、試験1~6を行う図1,3,4に示す床面積が0.36m2以上4m2以下の作業ブースBでは、平均吸音率が0.15未満であると、会話に支障が出やすい響きとなり、平均吸音率が0.15以上0.2未満であると、音は多少響くものの会話に支障が出にくい響きとなり、平均吸音率が0.2以上0.25未満であると、会話に理想的な響きとなり、平均吸音率が0.3を超えると、作業ブースB内で発した声が吸音され過ぎて話し難くなる(大きな声を出しているつもりでも声が聞こえ難くなる)ことが判っている。また、試験1,2を行う図1,3に示す床面積が0.36m2以上4m2以下の作業ブースBでは、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けない場合、各作業ブースBの平均吸音率は0.1以上0.2未満となり、対向2室間の遮音性能D等級はD-10又はD-15となることが判っている。さらに、試験3~6を行う図1,3,4に示す床面積が0.36m2以上4m2以下の作業ブースBでは、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けない場合、各作業ブースBの平均吸音率は0.1以上0.2未満となり、隣接2室間の遮音性能D等級はD-15又はD-20となることが判っている。
(試験1)
図1に示す作業ブース設置構造において、共用空間Sを挟んで対峙する第3及び第6の作業ブースB,Bの一方の第6の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第6の作業ブースB(音源室)と第3の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、対向2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースの容積及び総表面積から各作業ブースの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験1は、第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けない場合(試験1-1)、第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が1.2m2の吸音部10(450mm角の6枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験1-2)、第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10(450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験1-3)、第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が3.6m2の吸音部10(450mm角の18枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験1-4)、第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験1-5)、の5通りの場合について行った。なお、試験1-2、1-3では、吸音パネル11,11,…を、対向側壁3のみに設け、試験1-4、1-5では、対向側壁3の他、連通用壁材1に隣接する2つの仕切壁材2,2にも設けている。なお、試験1では、吸音部10を設ける場合、いずれの場合にも、吸音部10の少なくとも一部が、対向側壁3の上部(連通口4に対応する位置)に設けられるようにした。
試験1-1の結果、第3の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.145となり、対向2室間の音圧レベル差は、6.2dBAであった。試験1-2の結果、第3の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.191となり、対向2室間の音圧レベル差は、12.4dBAであった。試験1-3の結果、第3の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.226となり、対向2室間の音圧レベル差は、12.8dBAであった。試験1-4の結果、第3の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.247となり、対向2室間の音圧レベル差は、14.5dBAであった。試験1-5の結果、第3の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.263となり、対向2室間の音圧レベル差は、16.5dBAであった。
図1に示す作業ブース設置構造では、共用空間Sを挟んで対峙する第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が1.2m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.046増大し、対向2室間の音圧レベル差が6.2dBA増大した。共用空間Sを挟んで対峙する第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.081増大し、対向2室間の音圧レベル差が6.6dBA増大した。共用空間Sを挟んで対峙する第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が3.6m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.102増大し、対向2室間の音圧レベル差が8.3dBA増大した。共用空間Sを挟んで対峙する第3及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.118増大し、対向2室間の音圧レベル差が10.3dBA増大した。
(試験2)
図3に示す作業ブース設置構造において、共用空間Sを挟んで対峙する第12及び第14の作業ブースB,Bの一方の第14の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第14の作業ブースB(音源室)と第12の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、対向2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースの容積及び総表面積から各作業ブースBの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験2は、第12及び第14の作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合(試験2-1)、第12及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10(450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験2-2)、第12の作業ブースB(受信室)のみの内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験2-3)、第12及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験2-4)の4通りの場合について行った。
試験2-1の結果、第12の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.18となり、対向2室間の音圧レベル差は、17.1dBAであった。試験2-2の結果、第12の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.23となり、対向2室間の音圧レベル差は、21dBAであった。試験2-3の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.3となり、対向2室間の音圧レベル差は、23.7dBAであった。試験2-4の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.3となり、対向2室間の音圧レベル差は、25.7dBAであった。
図3に示す作業ブース設置構造では、共用空間Sを挟んで対峙する第12及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.05増大し、対向2室間の音圧レベル差が3.9dBA増大した。一方、第12及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.12増大し、対向2室間の音圧レベル差が8.6dBA増大した。また、第12の作業ブースB(受信室)のみの内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けた場合、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.12増大し、対向2室間の音圧レベル差が6.6dBA増大した。
[試験1,2の結果に基づく検証1]
試験1,2の結果より、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に、平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設けると、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判る。
一方、試験2-2と試験2-3の結果より、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に十分でない分量(総面積2.4m2)の吸音部10を設けるよりも、受音側の作業ブースBのみの内面に十分な分量(総面積4.8m2)の吸音部10を設けた方が、対向2室間の音圧レベル差の改善量が大きいことが判る。つまり、複数の吸音パネル11,11,…を、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bに割り振る場合、発信側の作業ブースBと受音側の作業ブースBとに均等に割り振るよりも、受音側の作業ブースBに多く設けた方が対向2室間の音圧レベル差の改善量が大きくなることが判る。
つまり、試験1,2の結果に鑑みると、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設ければ、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判る。
また、試験1の結果に鑑みると、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に少なくとも一部が対向側壁3の上部に配置されるように吸音部10を設ける場合、各作業ブースBに設ける吸音部10の分量が、各作業ブースBの平均吸音率が0.05以上0.1未満増大する分量であっても、対向2室間の音圧レベル差を5dBA以上上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク以上上げることに相当)ができることが判る。つまり、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に少なくとも一部が対向側壁3の上部に配置されるように吸音部10を設けた上で、各作業ブースBに設ける吸音部10の分量を、各作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.05以上増大させる分量とすると、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判る。
また、試験1,2の結果より、対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げるためには、作業ブースB内に設置する吸音部10の分量(作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量)が十分であることが重要であるが、吸音部10を連通口4から侵入する音を吸収するのに効果的な位置(試験9では対向側壁3の上部)に設置することにより、対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げるために必要とされる吸音部10の分量を減らすことができることが判る。
ところで、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bでは、一の作業ブースBの連通口4から共用空間Sに漏れた音が反射する(減衰する)ことなく共用空間Sを挟んで対峙する他の作業ブースBの連通口4から当該他の作業ブースB内に侵入する虞がある。そのため、各作業ブースBにおいて、該作業ブースBの内面の、共用空間Sを挟んで対峙する作業ブースBの連通口4から共用空間Sに漏れて反射する(減衰する)ことなく連通口4から侵入した音が反射する(減衰する)ことなく入射する対向領域(共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bの連通口4が左右にずれることなく対峙している場合、対向側壁3の上部は対向領域に含まれる)に吸音部10の少なくとも一部を設けると、共用空間Sで減衰することなく連通口4から侵入した大きな音は、対向領域にある吸音部10で吸収されて小さくなり、それ以後は他の作業ブース内に伝わるのが抑制される。つまり、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bでは、吸音部10の少なくとも一部を、共用空間Sで減衰することなく各作業ブースB内に侵入した騒音を減じる(吸収する)のに適した位置に設けることにより、吸音部10の分量が少なくとも効果的に連通口4を通じて侵入した騒音(共用空間Sから侵入する音声)を吸収することができるため、対向2室間の遮音性能D等級を1ランク以上上げることができたものと考えられる。
(試験3)
図1に示す作業ブース設置構造において、隣接する第5及び第6の作業ブースB,Bの一方の第6の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第6の作業ブースB(音源室)と第5の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、隣接2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースBの容積及び総表面積から各作業ブースの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験3は、第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けない場合(試験3-1)、第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10(450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験3-2)、第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験3-3)の3通りの場合について行った。
試験3-1の結果、第5の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.15となり、隣接2室間の音圧レベル差は、13dBAであった。試験3-2の結果、第5の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.23となり、隣接2室間の音圧レベル差は、17dBAであった。試験3-3の結果、第5の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.26となり、隣接2室間の音圧レベル差は、20dBAであった。
図1に示す作業ブース設置構造では、隣接する第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.08増大し、隣接2室間の音圧レベル差が3dBA増大した。また、隣接する第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.11増大し、隣接2室間の音圧レベル差が7dBA増大した。
(試験4)
図3に示す作業ブース設置構造において、隣接する第13及び第14の作業ブースB,Bの一方の第14の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第14の作業ブースB(音源室)と第13の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、隣接2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースBの容積及び総表面積から各作業ブースBの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験4は、第13及び第14の作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合(試験4-1)、第13及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10(450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験4-2)、第13の作業ブースB(受信室)のみの内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験4-3)、第5及び第6の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10(450mm角の24枚の吸音パネル11,11,…)を設けた場合(試験4-4)の4通りの場合について行った。
試験4-1の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.16となり、隣接2室間の音圧レベル差は、16dBAであった。試験4-2の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.25となり、隣接2室間の音圧レベル差は、19dBAであった。試験4-3の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.28となり、隣接2室間の音圧レベル差は、20dBAであった。試験4-4の結果、第13の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.28となり、隣接2室間の音圧レベル差は、23dBAであった。
図3に示す作業ブース設置構造では、隣接する第13及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が2.4m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.09増大し、隣接2室間の音圧レベル差が3dBA増大した。一方、第13及び第14の作業ブースB,Bの両方の内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.12増大し、隣接2室間の音圧レベル差が7dBA増大した。また、第13の作業ブースB(受信室)のみの内面に総面積が4.8m2の吸音部10を設けた場合、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.12増大し、隣接2室間の音圧レベル差が4dBA増大した。
(試験5)
図4に示す作業ブース設置構造において、隣接する第21及び第22の作業ブースB,Bの一方の第21の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第21の作業ブースB(音源室)と第22の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、隣接2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースBの容積及び総表面積から各作業ブースBの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験5は、第21及び第22の作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合(試験5-1)、第21及び第22の作業ブースB,Bの両方の内面の上部(床部Fからの高さが1800mm以上の範囲)に片側0.6m2で総面積が1.2m2の吸音部10を設けた場合(試験5-2)、第21及び第22の作業ブースB,Bの両方の内面の机上下部(床部Fからの高さが720mm以上1800mm以下の範囲)に片側0.75m2で総面積が1.5m2の吸音部10を設けた場合(試験5-3)、第21及び第22の作業ブースB,Bの両方の内面の天井部Cから机21上面までの間に、片側1.35m2で総面積が2.7m2の吸音部10を設けた場合(試験5-4)の4通りの場合について行った。
試験5-1の結果、第22の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.13となり、隣接2室間の音圧レベル差は、15dBAであった。試験5-2の結果、第22の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.16となり、隣接2室間の音圧レベル差は、17dBAであった。試験5-3の結果、第22の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.18となり、隣接2室間の音圧レベル差は、19dBAであった。試験5-4の結果、第22の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.20となり、隣接2室間の音圧レベル差は、20dBAであった。
図4に示す作業ブース設置構造では、第22の作業ブースB(受信室)の内面の上部に総面積が1.2m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.03増大し、隣接2室間の音圧レベル差が2dBA増大した。また、第22の作業ブースB(受信室)の内面の机上下部に総面積が1.5m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.05増大し、隣接2室間の音圧レベル差が4dBA増大した。さらに、第22の作業ブースB(受信室)の内面の天井部Cから机21上面までの間に総面積が2.7m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.07増大し、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA増大した。このような結果より、第22の作業ブースB(受信室)の内面に、平均吸音率が0.1以上増大させるのに必要な総面積の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA以上増大することが予測される。
(試験6)
図4に示す作業ブース設置構造において、隣接する第23及び第24の作業ブースB,Bの一方の第23の作業ブースBに測定用音源を設置して音源室とする一方、他方を受信室とし、測定用音源から中心周波数125,250,500,1000,2000,4000Hzの試験音(90dBA程度)を発生させ、騒音計で第23の作業ブースB(音源室)と第24の作業ブースB(受信室)で音圧を測定し、隣接2室間の音圧レベル差(各帯域における音源室と受信室との音圧レベル差の算術平均値)を求めた。また、残響時間(音が停止してから音圧が60dB減衰するまでの時間)と各作業ブースの容積及び総表面積から各作業ブースBの平均吸音率(500Hz帯域及び1000Hz帯域それぞれの帯域における平均吸音率の算術平均値)を求めた。
なお、試験6は、第23及び第24の作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合(試験6-1)、第23及び第24の作業ブースB,Bの両方の内面の上部(床部Fからの高さが1800mm以上の範囲)に片側0.6m2で総面積が1.2m2の吸音部10を設けた場合(試験6-2)、第23及び第24の作業ブースB,Bの両方の内面の机上下部(床部Fからの高さが720mm以上1800mm以下の範囲)に片側0.75m2で総面積が1.5m2の吸音部10を設けた場合(試験6-3)、第23及び第24の作業ブースB,Bの両方の内面の天井部Cから机21上面までの間に、片側1.35m2で総面積が2.7m2の吸音部10を設けた場合(試験6-4)の4通りの場合について行った。
試験6-1の結果、第24の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.12となり、隣接2室間の音圧レベル差は、15dBAであった。試験6-2の結果、第24の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.14となり、隣接2室間の音圧レベル差は、17dBAであった。試験6-3の結果、第24の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.16となり、隣接2室間の音圧レベル差は、19dBAであった。試験6-4の結果、第24の作業ブースB(受信室)の平均吸音率は、0.19となり、隣接2室間の音圧レベル差は、20dBAであった。
図4に示す作業ブース設置構造では、第24の作業ブースB(受信室)の内面の上部に総面積が1.2m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.02増大し、隣接2室間の音圧レベル差が2dBA増大した。また、第24の作業ブースB(受信室)の内面の机上下部に総面積が1.5m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.04増大し、隣接2室間の音圧レベル差が4dBA増大した。さらに、第24の作業ブースB(受信室)の内面の天井部Cから机21上面までの間に総面積が2.7m2の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、平均吸音率が0.07増大し、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA増大した。このような結果より、第24の作業ブースB(受信室)の内面に、平均吸音率が0.1以上増大させるのに必要な総面積の吸音部10を設けると、両作業ブースB,Bの内面に吸音部10を設けない場合に比べて、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA以上増大することが予測される。
[試験3~6の結果に基づく検証2]
試験3,4の結果より、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に吸音部10を設けても、吸音部10が平均吸音率を0.1未満しか上げられない分量では、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA未満しか増大しないが、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に、平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設けると、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判る。
また、試験5,6の結果より、隣接する2つの作業ブースB,Bの受音側の作業ブースBのみの内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設けても、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA以上上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク以上上げることに相当)ができる場合があることが判る。
一方、試験4-3と試験4-4の結果より、隣接する2つの作業ブースB,Bの受音側の作業ブースBのみの内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設けても、隣接2室間の音圧レベル差が5dBA未満しか増大せず、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設けなければ、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができない場合があることが判る。
つまり、試験3~6の結果に鑑みると、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量の吸音部10を設ければ、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判る。よって、図1,3,4に示す作業ブース設置構造において、隣接する2つの作業ブースB,Bの両方の内面に上記分量の吸音部10を設けることにより、隣接する2つの作業ブースB,Bの平均吸音率を0.2以上0.3以下とすることができ、また、隣接2室間の遮音性能D等級をD-15又はD-20からD-20又はD-25まで上げることができる。
また、試験5,6の結果より、隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク以上上げるためには、吸音部10の設置位置よりも、作業ブースB内に設置される吸音部10の分量(作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大する分量)が重要であることが判る。
-実施形態1の効果-
本実施形態1の作業ブース設置構造では、建物内の室Rの一部に、床面積が0.36m2以上4m2以下の2つの作業ブースB,B(第1及び第4作業ブースB,B、第2及び第5作業ブースB,B、又は第3及び第6作業ブースB,B)が、共用空間Sを挟んで対峙するように設置されている。各作業ブースBは、複数枚の仕切壁材1,2,…又は該複数枚の仕切壁材1,2,…と室Rの壁部Wとによって周囲が取り囲まれることにより室Rの一部に区画形成されている。各作業ブースBを形成する複数枚の仕切壁材1,2,…のうちの1枚は、上端部又は上側に作業ブースB内外を連通する連通口4が設けられる連通用壁材1であり、連通用壁材1以外は室Rの床部Fから天井部Cに至る高さの天井高壁材2である。そして、作業ブースBは、連通口4が設けられた1枚の連通用壁材1が共用空間Sに面するように設置されている。そのため、作業ブースB内は、連通用壁材1の連通口4を介して共用空間Sに連通し、作業ブースB内及び共用空間Sの一方(実施形態1では共用空間S)に設けられた既存の天井機器Aの作動時にその動作が連通口4を通して他方(実施形態1では作業ブースB内)にも及ぶようになる。また、既存の天井機器Aが一の作業ブースB内にのみ設けられている場合にも、一の作業ブースB内に設けられた天井機器Aの動作が共用空間Sを介して他の作業ブースB内にも及ぶようになる。例えば天井機器Aが共用空間Sに設けられた既存のスプリンクラーであれば、スプリンクラーから噴射された水が連通口を介して各作業ブースB内に降り注ぎ、スプリンクラーの各作業ブースB内に対する作動が阻害されることはなくなる。また、例えば天井機器Aが一の作業ブースB内に設けられた既存の換気装置であれば、一の作業ブース内の汚染空気だけでなく、共用空間S及び他の作業ブースB内の汚染空気も連通口を通じて換気装置により換気される。さらに、例えば天井機器Aが一の作業ブースB内に設けられた既存の空調装置であれば、一の作業ブースB内の空気だけでなく、共用空間S及び他の作業ブースB内の空気も連通口を通じて空調装置により温度や湿度が調節される。
また、連通用壁材1は共用空間Sに面しているので、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が連通用壁材1の連通口4を介して他の作業ブースB内に侵入する騒音問題が発生する。共用空間Sに対峙する各作業ブースBには、共用空間Sに対峙する他の作業ブースBの連通口4から共用空間Sに漏れた音が共用空間Sの壁に反射して又は反射することなく連通口4から侵入する可能性があるが、特に、共用空間Sに対峙する他の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が共用空間Sの壁に反射する(減衰する)ことなく連通口4から他の作業ブースB内に侵入する場合が問題となる。
しかし、本実施形態1の作業ブース設置構造では、全ての作業ブースB,B,…の内面に吸音部10を設けることとしている。そのため、各作業ブースB内で発生した音は、該作業ブースBに設けられた吸音部10に吸収され、共用空間Sに漏れる音の音量が軽減する。また、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が、共用空間S内の壁に反射して又は反射することなく連通口4を介して隣接する又は共用空間Sを挟んで対峙する他の作業ブースB内に侵入したとしても、該他の作業ブースBに設けられた吸音部10に吸収されてさらに小さくなる。
ところで、本願発明者等による鋭意研究の結果、共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,Bのそれぞれにおいて吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、対向2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(対向2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることが判った。
また、さらなる鋭意研究の結果、共用空間Sに対峙して互いに隣接する2つの作業ブースB,Bのそれぞれにおいて吸音部10を設けることにより、平均吸音率を、0.3を超えない範囲で0.1以上増大させると、隣接2室間の音圧レベル差を5dBA程度上げること(隣接2室間の遮音性能D等級を1ランク上げることに相当)ができることも判った。
そこで、本実施形態1の作業ブース設置構造では、共用空間Sに対峙する全ての作業ブースBの内面に、該作業ブースBの平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大するのに必要な面積以上の総面積の吸音部10を設けることとしている。このような分量の吸音部10を設けることにより、各作業ブースBの平均吸音率が0.2以上0.3以下となり、各作業ブースBと隣接する作業ブースBとの間(隣接2室間)及び各作業ブースBと共用空間Sを挟んで対峙する作業ブースBとの間(対向2室間)の遮音性能D等級を1ランク上げることができる。そして、全ての作業ブースB,B,…において、作業ブースB内で発生した音は、適切な分量(総面積)の吸音部10により、十分に吸収されるため、各作業ブースBから連通口4を介して共用空間Sに漏れる音の音量が軽減する。また、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が、共用空間S内の壁に反射して又は反射することなく連通口4を介して隣接する又は共用空間Sを挟んで対峙する他の作業ブースB内に侵入したとしても、該他の作業ブースBに設けられた適切な分量(総面積)の吸音部10により、十分に吸収されることとなる。これにより、他の作業ブースB内において立位又は座位で作業する作業者に伝達される音声の明瞭度が下がり、音声自体は聞こえるものの、内容が聞き取り難くなることが期待される。よって、共用空間Sに連通する連通口4があっても、作業ブースBの内部を静かで作業に集中できる快適な音環境に保つことができる。
さらに、各作業ブースBの1枚の連通用壁材1に連通口4を形成して各作業ブースBの内面に吸音部10を設けるだけで、上記のような音環境を形成することができるため、共用空間Sや作業ブースBの天井部Cは、作業ブースBを設置する前の元の室Rの天井部Cをそのままの状態に維持すればよく、消火設備や換気設備を考慮した天井部Cの構造を変更する複雑な設計や大掛かりな大規模工事は全く不要となる。このことで、作業ブースBを低いコストで容易に設置することができ、その分、設置効率が上昇する。
また、本実施形態1の作業ブース設置構造では、吸音部10が、700mm以上の高さに設けられている。通常、机の上面の高さは700mm程度の高さにあり、立位又は座位で作業する作業者の耳は、700mm以上の高さにあると想定される。そのため、吸音部10を700mm以上の高さに設けることにより、作業者の耳の高さ付近の音を効率よく吸収することができる。よって、作業ブースBの内部に侵入した音声の明瞭度を下げる(音声の内容を聞き取り難くする)ことができ、これにより、作業ブースB内をより快適な音環境に保つことができる。
また、本実施形態1の作業ブース設置構造では、吸音部10の少なくとも一部が、900mm以上1500mm以下の高さに設けられている。座位で作業する作業者の耳は、900mm以上1500mm以下の高さにあると想定される。そのため、吸音部10の少なくとも一部を900mm以上1500mm以下の高さに設けることにより、座位で作業する作業者の耳の高さ付近の音を効率よく吸収することができる。よって、作業ブースBの内部に侵入した音声の明瞭度を下げる(音声の内容を聞き取り難くする)ことができ、これにより、作業ブースB内をより快適な音環境に保つことができる。
また、実施形態1の作業ブース設置構造では、吸音部10が着脱可能な複数枚の吸音パネル11,11,…で構成されているので、その吸音パネル11,11,…の数や位置を変更することで、吸音部10の位置や面積等を容易に調整することができる。
また、実施形態1の作業ブース設置構造では、連通用壁材1の上端部に、枠5a内に開口5bを有する開口欄間5を設けることとしている。このような構成により、連通用壁材1の高さを天井高の他の仕切壁材2に合わせることができ、仕切壁材1,2の高さの揃った作業ブースBが得られる。
また、実施形態1の作業ブース設置構造では、各作業ブースBを形成する複数枚の仕切壁材1,2のうち、少なくとも天井高壁材2は、室Rの天井部Cに固定されているので、室R内に作業ブースBを安定して設置することができる。
《実施形態2》
図5は本発明の実施形態2を示す。なお、以下では、図1,2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。実施形態2は、実施形態1の作業ブース設置構造において、各作業ブースBに設けられる吸音部10の一部を、天井部Cから吊り下げられた吸音パネル17で構成したものである。吸音パネル17は、連通口4に対応する高さに配置されるように吊り下げられている。
実施形態2によれば、各作業ブースBにおいて、天井部Cから吊り下げられた吸音パネル17により、吸音部10の少なくとも一部が作業ブースB内の上部に設けられるため、共用空間Sから連通口4を介して作業ブースB内に侵入した音を、侵入直後に吸音部10に吸収させることができる。よって、共用空間Sから連通口4を介して作業ブースB内に侵入した音を効率よく吸音部10に吸収させることができる。
《実施形態3》
図6は本発明の実施形態3を示す。なお、以下では、図1,2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。実施形態3は、実施形態1の作業ブース設置構造において、連通用壁材1の上端部に位置する開口欄間5をなくしたものである。
この実施形態では、連通用壁材1の上端部に開口欄間5は設けられておらず、連通用壁材1は、上端の高さ位置が天井高さよりも500~700mm程度低いいわゆるローパーティションで構成されている。このことで連通用壁材1の上端と室Rの天井部Cとの間に空間(間隔)が形成され、この空間により連通用壁材1の上側に高さh(500~700mm)の連通口4が構成されている。その他の構成は実施形態1と同じである。
以上により、実施形態3においても実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。また、実施形態3では、連通用壁材1を、天井高壁材2よりも低いローパーティションにするだけで、作業ブースB用の連通口4を形成することができ、その連通口4の形成が容易になる。
《実施形態4》
図7は本発明の実施形態4を示す。なお、以下では、図1,2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。実施形態4は、実施形態1の作業ブース設置構造において、室R内に、2列に並ぶ複数(図7では6つ)の作業ブースB,B,…と、両列間のスペース(共用空間Sの一部であり、以降、「エリア内共用空間」と言う)とを一纏まりとして、その周囲を仕切壁材2,6で取り囲んで室Rの他の部分(共用エリアX0)から隔離された作業エリアX1,X2を区画形成するものである。なお、共用エリアX0には、例えば数人から数十人が作業を行えるように複数のテーブルセットやソファー等が配置されている。つまり、実施形態4では、室Rは、個人で集中して作業するための作業ブースB,B,…が集まる作業エリアX1,X2と、それ以外の数人から数十人が作業を行える共用エリアX0とに区画されている。
また、各作業エリアX1,X2は、エリア内共用空間の両端に仕切壁材6を設けることにより、室R内において共用エリアX0から隔離された閉空間となっている。仕切壁材6は、仕切壁材2と同様に室Rの床部Fから天井部Cに至る高さの天井高壁材で構成されている。なお、仕切壁材6は、遮音機能を有することが好ましい。図7に示すように、仕切壁材6には、出入り口が形成され、扉が設けられている。その他の構成は実施形態1と同じである。
以上により、実施形態4においても実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。また、実施形態4では、室R内において作業エリアX1,X2を共用エリアX0から隔離されるように区画することにより、連通口4を介して各作業ブースB内に侵入する音が、該作業ブースBが設けられた各作業エリアX1,X2内の騒音だけになるので、各作業ブースB内に侵入する騒音を最小限にすることができる。具体的には、各作業ブースBの連通口4は、エリア内共用空間に向かって開口しているので、各作業ブースB内には、エリア内共用空間で発生した騒音、他の作業ブースBで発生し、該作業ブースB内の吸音部10で吸音されて小さくなって連通口4を介してエリア内共用空間に漏れ出した騒音のみが侵入し、作業エリアX1,X2の外部(共用エリアX0及び他の作業エリアX2,X1)で発生した騒音は侵入しないので、各作業ブースB内に侵入する騒音を最小限にすることができる。
なお、エリア内共用空間を共用エリアX0から仕切る仕切壁材6は、騒音の侵入を抑制する観点からは連通口4を設けないことが好ましいが、天井機器Aを共有する必要に応じて連通口4を設けることも可能である。
また、作業エリアX1,X2内の構成は、本実施形態のものに限られない。作業エリアX1,X2内は、エリア内共用空間と連通口4がエリア内共用空間に開口するように配置された複数の作業ブースB,B,…とが配置され、各作業ブースBとエリア内共用空間とで天井機器Aを共用する構成であればいかなる構成であってもよい。さらに、室R内において区画される作業エリアX1,X2の個数は実施形態4の2つに限られず、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
なお、この実施形態4においても、実施形態3と同様に、連通用壁材1の上端部に位置する開口欄間5をなくしてもよい。
《実施形態5》
図8は本発明の実施形態5を示す。なお、以下では、図1,2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。実施形態5の作業ブース設置構造は、実施形態1の作業ブース設置構造を変更したものである。
具体的には、実施形態5の作業ブース設置構造では、第1~第6の作業ブースB,B,…は、共用空間Sを挟んで対峙する作業ブースB,Bと連通口4が互いに対向しないように左右にずれた位置に設けられている。
また、図8に示すように、実施形態5の作業ブース設置構造では、第1~第6の作業ブースB,B,…の連通用壁材1,1に共用空間Sを挟んで対向する共用対向壁に吸音部20が設けられている。なお、図8では、第1~第3の作業ブースB,B,Bの共用対向壁は、第4~第6の作業ブースB,B,Bの連通用壁材1,1,1であり、第4~第6の作業ブースB,B,Bの共用対向壁は、第1~第3の作業ブースB,B,Bの連通用壁材1,1,1である。吸音部20は、各作業ブースBの連通口4に対向する位置に設けられている。吸音部20は、吸音部10と同様に、複数の吸音パネル11によって構成されている。なお、吸音部20は、仕切壁材1に一体的に埋め込まれた吸音体で構成してもよい。
以上のように、実施形態5の作業ブース設置構造では、各作業ブースB,Bの内面だけでなく、各作業ブースBの連通用壁材1,1に共用空間Sを挟んで対向する共用対向壁の各連通口4に対向する位置にも吸音部20を設けることとしている。このような構成により、各作業ブースBの連通口4から共用空間Sに漏れた音は、共用対向壁の連通口4に対向する位置に設けられた吸音部20に吸収されることとなる。これにより、一の作業ブースBから共用空間Sに漏れた音が、他の作業ブースBに侵入するのを抑制することができる。よって、作業ブースBの内部をより静かで作業に集中できる快適な音環境に保つことができる。
《その他の実施形態》
本発明は上記各実施形態に限定されず、種々の変形の実施形態を包含している。例えば、上記実施形態では、仕切壁材1,2をスチール等の不燃材料で構成しているが、仕切壁材1,2を天井部Cに固定しない構造の場合には、仕切壁材1,2は家具と見做されるので、不燃材料以外の材料で構成することができる。
また、上記各実施形態では、共用空間Sの天井部Cに設けられた既存の天井機器Aを、共用空間Sと作業ブースB内とで共用できる(共用空間Sの天井機器Aの動作が連通口4を通して作業ブースB内に及ぶ)ように作業ブースBを配置する例について説明したが、本発明に係る作業ブース設置構造はこれに限られない。逆に、各作業ブースB内の天井部Cに設けられた既存の天井機器Aを、共用空間Sと作業ブースB内とで共用できる(各作業ブースB内の天井機器Aの動作が連通口4を通して共用空間Sに及ぶ)ように作業ブースBを配置することとしてもよい。
また、上記各実施形態では、吸音部10,12を仕切壁材1,2に対し吸着により着脱される複数の吸音パネル11,11,…で構成しているが、仕切壁材1,2に一体的に埋め込まれた吸音体で構成してもよい。
また、上記各実施形態では、吸音部10を対向側壁3の内面と連通用壁材1に隣接する仕切壁材2,2の内面に設けていたが、吸音部10は、作業ブースBの内面であればどこに設けられていてもよく、出入り口15に設けられた扉16に設けられていてもよい。その場合、吸音パネル11を扉16の内面に設けることとしてもよく、扉16の内面側に吸音体を一体的に埋め込むこととしてもよい。
また、上記各実施形態では、対向側壁3が仕切壁材(天井高壁材)2で構成されていたが、対向側壁3は、室Rの壁部Wの一部で構成されていてもよい。連通用壁材1に対向する側壁が室Rの壁部Wの一部で構成されている場合、室Rの壁部Wの一部が対向側壁3となり、室Rの壁部Wの一部の作業ブースB内面の少なくとも上部に吸音部10を設ければよい。
さらに、各作業ブースB内、例えば机21下側の仕切壁材に、該作業ブースB内に対し暗騒音やマスキング音を出す音響装置を設置することもでき、その場合、作業ブースB内の音環境がさらに好適になる。また、上記各実施形態では、各作業ブースBの内面に平均吸音率が0.3を超えない範囲で0.1以上増大するのに必要な面積以上の総面積の吸音部10を設けることで、隣接する2つの作業ブースB,B間の遮音性能D等級及び共用空間Sを挟んで対峙する2つの作業ブースB,B間の遮音性能D等級を1ランク以上上げている。そのため、比較的低音量の暗騒音やマスキング音を発生させるだけで、連通口4を介して作業ブースB内に侵入した騒音を聞こえ難くすることができる。よって、発生させる暗騒音やマスキング音の音量が大きくなりすぎて騒音となるようなことがない。
また、室Rの一部に設置される作業ブースBは、その設置数やレイアウトを変更してもよく、室Rの一部が作業ブースBとそれ以外の共用空間Sとに分けられるように設置すればよい。