<第1実施形態>
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の実施形態に係る車両の運転制御装置を、車両に搭載された運転制御システムに適用した場合を例にして説明する。本実施形態の運転制御装置の実施の形態は限定されず、車両コントローラと情報の授受が可能な携帯端末装置に適用することもできる。運転制御装置、運転制御システム及び携帯端末装置は、いずれも演算処理を実行する運転制御用のコンピュータである。
図1は、運転制御システム1000のブロック構成を示す図である。本実施形態の運転制御システム1000は、運転制御装置100と車両コントローラ200とを備える。本実施形態の運転制御装置100は通信装置111を有し、車両コントローラ200も図外の通信装置を有し、両装置は有線通信又は無線通信により互いに情報の授受を行う。
運転制御システム1000は、センサ1と、ナビゲーション装置2と、読み込み可能な記録媒体に記憶された地図情報3と、自車情報検出装置4と、環境認識装置5と、物体認識装置6と、運転制御装置100と、車両コントローラ200とを備える。各装置は、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続されている。
センサ1は、自車両の周囲(前方、側方、後方の全周囲)の障害物の存在を含む走行環境に関する情報を検知する。センサ1は、カメラを含む。本実施形態のカメラは、例えばCCD等の撮像素子を備えるカメラである。本実施形態のカメラは自車両に設置され、自車両の周囲を撮像し、自車両の周囲に存在する対象車両を含む画像データを取得する。カメラは、自車両周囲の環境情報を認識するための装置であり、イメージセンサのみならず、超音波カメラ、赤外線カメラなどを含む。センサ1は、測距センサを含む。測距センサは、自車両と対象物との相対距離および相対速度を演算する。測距センサにより検出された対象物の情報は、プロセッサ10に向けて出力される。測距センサとしては、レーザーレーダー、ミリ波レーダーなど(LRF等)、LiDAR(light detection and ranging)ユニット、超音波レーダーなどの出願時に知られた方式のものを用いることができる。センサ1は、一又は複数のカメラ、測距センサを採用することができる。本実施形態のセンサ1は、カメラの検知情報と測距センサの検知情報など複数の異なるセンサ情報を統合し、もしくは合成することにより補完し、自車両周囲の環境情報とするセンサフュージョン機能を備える。このセンサフュージョン機能は、環境認識装置5や物体認識装置6やその他のコントローラやロジックに組み込まれるようにしてもよい。
対象物は、車線境界線、センターライン、路面標識、中央分離帯、ガードレール、縁石、高速道路の側壁、道路標識、信号機、横断歩道、工事現場、事故現場、交通制限を含む。対象物は、自車両以外の自動車(他車両)、オートバイ、自転車、歩行者を含む。対象物は、障害物を含む。障害物は、自車両の走行に影響を与える対象物である。センサ1は、少なくとも障害物に関する情報を検知する。
ナビゲーション装置2は、地図情報3を参照し、自車情報検出装置4により検出された現在位置から目的地までの走行レーン/経路を算出する。走行レーンは自車両V1が走行する車線又は走行車線である。走行経路の情報は、走行レーン/走行車線の識別情報を含む。走行経路は、走行する道路、方向(上り/下り)、及び車線を識別する情報を含む。
地図情報3は、運転制御装置100、車載装置、又はサーバ装置に設けられた記録媒体に読み込み可能な状態で記憶される。地図情報3は、経路算出及び/又は運転制御に用いられる。地図情報3は、道路情報、施設情報、それらの属性情報を含む。道路情報及び道路の属性情報には、道路幅、曲率半径、路肩構造物、道路交通法規(制限速度、車線変更の可否)、道路の合流地点、分岐地点、車線数の増加・減少位置等の情報が含まれている。本実施形態の地図情報3は、いわゆる高精細地図情報である。高精細地図情報によれば、レーンごとの移動軌跡を把握できる。高精細地図情報は、各地図座標における二次元位置情報及び/又は三次元位置情報、各地図座標における道路・レーンの境界情報、道路属性情報、レーンの上り・下り情報、レーン識別情報、接続先レーン情報を含む。
自車情報検出装置4は、自車両の状態に関する検知情報を取得する。自車両の状態とは、自車両の現在位置、速度、加速度、姿勢、車両性能を含む。これらは、自車両の車両コントローラ200から取得してもよいし、自車両の各センサから取得してもよい。自車情報検出装置4は、自車両のGPS(Global Positioning System)ユニット、ジャイロセンサ、オドメトリから取得した情報に基づいて自車両の現在位置を取得する。自車情報検出装置4は、自車両の車速センサから自車両の速度・加速度を取得する。自車情報検出装置4は、自車両の慣性計測ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)から自車両の姿勢データを取得する。
環境認識装置5は、センサ1が取得した位置情報、自車両周囲の画像情報及び測距情報から得られた物体認識情報、及び地図情報に基づいて構築された環境に関する情報を認識する。環境認識装置5は、複数の情報を統合することにより、自車両の周囲の環境情報を生成する。物体認識装置6は、地図情報3を用いて、センサ1が取得した自車両周囲の画像情報及び測距情報を用いて、自車両周囲の物体の認識や動きを予測する。
車両コントローラ200は、電子コントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)などの車載コンピュータであり、車両の運転を律する駆動機構210を電子的に制御する。車両コントローラ200は、駆動機構に含まれる駆動装置、制動装置、および操舵装置を制御して、自車両を目標経路に従って走行させる。
駆動機構には、走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、動力伝達装置を制御する駆動装置、及び車輪を制動する制動装置などが含まれる。車両コントローラ200は、アクセル操作及びブレーキ操作による入力信号、車両コントローラ200又は運転制御装置100から取得した制御信号に基づいてこれら駆動機構の各制御信号を生成し、車両の加減速を含む運転制御を実行させる。駆動機構210に制御情報を送出することにより、車両の加減速を含む運転制御を自動的に行うことができる。
車両コントローラ200は、地図情報3が記憶するレーン情報、環境認識装置5が認識した情報、及び物体認識装置6で取得した情報の内の何れか一つ以上を用いて、自車両が走行経路(軌跡)に対して所定の横位置を維持しながら走行するように操舵装置の制御を行う。本明細書における走行経路は、自車両が走行する軌跡に対応する経路であり、道路、道路の上り/下り、道路の車線ごとに識別可能である。操舵装置は、ステアリングアクチュエータを備える。ステアリングアクチュエータは、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータ等を含む。操舵装置は、車両コントローラ200から取得した制御信号、又は運転者のステアリング操作により入力信号に基づいて車両の操舵制御を実行する。
以下、本実施形態の運転制御装置100について説明する。運転制御装置100は、自車両の運転を制御することにより、自車両の走行を支援する制御を実行する。
図1に示すように、本実施形態の運転制御装置100は、プロセッサ10を備える。
プロセッサ10は、自車両の運転制御を実行させるプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、運転制御装置100として機能する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)13と、を備えるコンピュータである。本実施形態のプロセッサ10は、上記機能を実現するためのソフトウェアと、上述したハードウェアの協働により各機能を実行する。プロセッサ10は、通信装置111を備える出力装置110を備え、各種の出力又は入力の指令、情報の読み込み許可又は情報提供の指令を車両コントローラ200、各構成2-6へ送出する。プロセッサ10は、センサ1、上述した各構成2-6、及び車両コントローラ200と相互に情報の授受を行う。
プロセッサ10は、目的地設定機能120と、経路プランニング機能130と、運転計画機能140と、運転可能ゾーン算出機能150と、経路算出機能160と、運転行動制御機能170と備える。本実施形態のプロセッサ10は、上記各機能を実現する又は各処理を実行するためのソフトウェアと、上述したハードウェアとの協働により各機能を実行する。
プロセッサ10の各機能の実現による制御手順の内容を図2に基づいて説明する。
図2のステップ1において、プロセッサ10の目的地設定機能120は、自車情報検出装置4の検出結果に基づいて自車両の現在位置を取得する処理を実行させ、ステップS2において、自車両の目的地を設定する処理を実行させる。目的地はユーザが入力したものであってもよいし、予測されたものであってもよい。ステップ3において、経路プランニング機能は、地図情報3を含む各種検出情報を取得する。ステップS4において、経路プランニング機能130は、目的地設定機能120が設定した目的地に対する走行経路を設定する。経路プランニング機能130は地図情報3や自己位置情報に加え、環境認識装置5や物体認識装置6から得られた情報を用いて、走行経路を設定する。この経路プランニング機能130は走行する道路を設定するが、道路に限らず、道路内において自車両が走行する車線を設定する。ステップS5において、運転計画機能140は、経路上の各地点における自車両の運転行動を計画する処理を実行させる。運転計画は、各地点における進行(GO)、停止(No-GO)といった運転行動が規定される。例えば、交差点を右折する場合では、停止線の位置で停止するのか否かの判定や、対向車線の車両に対する進行判定を実行する。ステップ6において、ステップ5で計画した運転行動を実行するために、運転可能ゾーン算出機能150は、地図情報3や自己位置情報に加え、環境認識装置5や物体認識装置6から得られた情報を用いて、自車両の周囲で走行可能な領域を算出する処理を実行する。ステップ7において、運転行動制御機能170は、自車両が走行する走行軌跡を算出する処理を実行させる。それに加えて、運転行動制御機能170は、走行軌跡に沿って走行する時の目標速度/減速度、目標加減速度、それらのプロファイルを決定する。
なお、決定した目標速度/減速度、目標加減速度を、走行軌跡の算出処理にフィードバックして、車両の挙動及び車両の乗員が感じる動き(挙動)を抑制するように、走行軌跡を生成するようにしてもよい。決定した走行軌跡を目標速度/減速度、目標加減速度を算出する処理にフィードバックして、車両の挙動及び車両の乗員が感じる動き(挙動)を抑制するように、目標速度/減速度、目標加減速度を算出するようにしてもよい。ステップ8において、算出された走行軌跡を自車両に走行させる運転計画を立案する処理を実行させる。そして、ステップ9において、プロセッサ10の出力装置110は、通信装置111を介して運転計画に基づく制御命令、制御命令における指令値を車両コントローラ200に出力し、各種アクチュエータである駆動機構210を動作させる。
車両コントローラ200は、プロセッサ10からの指令値に基づいて、自車両V1の走行位置を制御する縦力及び横力を入力する。これらの入力に従い、自車両が目標とする走行経路に追従して自律的に走行するように、車体の挙動及び車輪の挙動が制御される。これらの制御に基づいて、車体の駆動機構210の駆動アクチュエータ、制動アクチュエータの少なくとも一方、必要に応じてステアリングアクチュエータが自律的に動作し、目的地に至る自律的な運転制御が実行される。もちろん、手動操作に基づく指令値に従い、駆動機構210を操作することもできる。
本実施形態の運転制御装置100は、自車両の前方に障害物が存在すると判定した場合に、障害物から自車両の方向に向かって第1距離の第1位置を設定し、自車両から障害物の方向に向かって第2距離の第2位置を車速に基づいて設定し、第2位置が第1位置よりも自車両側に存在するか又は障害物側に存在するかの判定結果に応じて、障害物の回避制御を開始する開始位置を設定する処理を行う。
プロセッサ10は、センサ1から自車両の前方に存在する障害物に関する検知情報を取得し、その障害物を回避させるための回避制御を自車両に実行させる。本実施形態における回避制御においては、自車両に回避軌跡を走行させることで、障害物との間に所定のマージンを保持した状態(接近を回避した状態)で障害物を追い越して前進する。回避軌跡は、運転制御における走行経路の一部を構成する。走行経路は、回避軌跡の前又は後に、これに連なる自車両を右左折させる転舵軌跡を含む経路であってもよいし、回避経路の後に、別の回避経路を含む経路であってもよい。なお、検知情報は、センサ1を介して取得した情報のみならず、通信装置111を介して取得した情報を含む。
プロセッサ10は、センサ1の検知情報に基づいて自車両V1が走行する車線において、自車両V1の前方に障害物VPが存在するか否かを判定し、自車両V1の前方に障害物VPが存在する場面において、つまり、回避すべき障害物VPが検出されたタイミングにおいて、本実施形態の回避制御の開始位置の設定処理を実行する。本実施形態では、前方の障害物VPを検出したタイミングに応じた開始位置を算出する。自車両V1が走行中に遭遇する環境によっては、障害物VPが早期に検出できる場合もあれば、遮蔽物により検出範囲が狭められる、又は天候などの環境によって検出環境が悪いなどの理由により、障害物VPの検出が遅れることもある。
本実施形態のプロセッサ10は、障害物VPを基準とする第1位置を設定する。本実施形態の第1距離は、自車両V1の車速に基づいて設定される。第1距離は、自車両V1が障害物VPを回避するための最小距離として位置づけることができる。第1距離は、自車両V1の制動性能などに基づいて予め設定することもできる。第2距離は、自車両の現在位置を基準とする第2位置を設定される。第2距離は、自車両V1の車速に基づいて設定される。第2距離は、後に説明する、いわゆる前方注視距離点距離として位置づけることができる。
プロセッサ10は、第1位置に対する第2位置の位置関係を判定し、適切な開始位置を算出する。本実施形態によれば、障害物VPを早期に検出した場合、及び障害物VPの検出が遅れた場合の何れの場面においても、回避制御を開始するための適切な開始位置を算出し、回避制御を適切なタイミングで開始させることができる。つまり、本実施形態において算出される開始位置は、障害物の検出タイミングに応じて算出される回避制御を開始するタイミングを示す。算出された開始位置を含む運転制御命令は、車両コントローラ200に向けて出力される。
図3は、上記の回避制御の制御手順を示すフローチャートである。本制御手順は、図2のステップS6に続けて実行される、図2に示すプロセッサ10の制御手順である。図4は第2位置及び第2距離を説明するための図である。図5A及び図5Bは、本実施形態の制御手順を説明するための図である。
プロセッサ10は、自車両V1が走行する走行経路(以下、単に「走行経路」ともいう。)の進行方向の前方の検知情報をセンサ1から取得する(ステップS101)。
取得した検知情報に基づいて判断された状況の一例を、図5Aに示す。プロセッサ10は、センサ1の検知情報に基づいて自車両V1が走行する車線において、自車両V1の走行経路の進行方向の前方(図中X方向)に障害物VPが存在するか否かを判定する。プロセッサ10は、自車両V1の走行車線上の前方に存在し、回避対象となる障害物VPを特定する(ステップS102)。プロセッサ10は、特定された障害物VPに関する検知情報を取得する。
ステップS103において、プロセッサ10は、第1位置と第2位置を設定する。第1位置は障害物VPの検知位置を基準とする位置であり、第2位置は自車両V1の現在位置を基準とする位置である。また、必要に応じて、プロセッサ10は、第3位置を設定する。第3位置は自車両V1の操舵性能に関係し、自車両V1の現在位置や自車両V1が回避制御を開始する位置に関係する。
図5Bに示すように、プロセッサ10は、センサ1の検知情報に基づいて障害物VPから自車両V1が存在する方向に向かって、つまり、自車両V1の走行経路の進行方向の逆方向、図中-X方向に沿って第1距離Lth1の第1位置P1を設定する。第1位置P1は、図中X軸の値が共通する位置群である(X=P1)。第1距離Lth1は、自車両V1が障害物VPである他車両VPを回避する回避制御において、自車両V1が操舵を開始して他車両VPを回避することが可能な最小の距離(最小回避可能距離)である。
第1距離Lth1は、自車両V1の車速に応じて設定されてもよい。自車両V1の車速が相対的に高い場合には、第1距離Lth1は相対的に長い距離となる。自車両V1の車速が相対的に低い場合には、第1距離Lth1は相対的に短い距離となる。第1距離Lth1は、自車両V1が他車両VPを回避するために必要な距離である。第1距離Lth1は、自車両V1が他車両VPを回避するために操舵を開始すべき位置である。第1距離Lth1は、自車両V1の操舵性能、最小曲率半径、又は自車両V1に発生する横加速度の許容上限値に基づいて設定される。自車両V1の最小曲率半径は、ステアリングを一杯(最大)に切って旋回したときに、外輪の接地面の中心が描く半径であり、自車両V1の旋回能力(性能)に対応する。自車両V1のホイールベースの長さ、外側前輪の最大切れ角を用いて求めることができる。第1距離Lth1は、車両性能に応じて設定し、車両コントローラ200に記憶させることが好ましい。
第1距離Lth1は、走行路の環境を考慮して決定することができる。例えば、第1距離Lth1は、自車両V1の走行経路の道路の曲率半径に応じて決定してもよい。道路の曲率半径が小さいほど(カーブがきついほど)第1距離Lth1を長く設定する。第1距離Lth1は、自車両V1が走行するレーンLN01の路幅に応じて決定してもよい。走行するレーンLN01の路幅が小さいほど第1距離Lth1を長く設定する。第1距離Lth1は、障害物VPと路肩の距離に応じて決定してもよい。障害物VPと路肩の距離が大きいほど、つまり、障害物VPがレーン中央側に寄って停止しているほど、第1距離Lth1を長く設定してもよい。
また、第1距離Lth1は、センサ1によって検知された回避対象となる他車両VPの車幅、や車体の長さを考慮して決定してもよい。他車両VPの車幅や車長、同項路の路幅(回避する際に走行できるエリアのマージン)によって、これを回避するために必要となる第1距離Lth1は異なるからである。
プロセッサ10は、自車両V1の車速に基づいて第2位置P2を算出する。プロセッサ10は、自車情報検出装置4から自車両V1の車速を取得し、自車両V1の車速に基づいて第2距離Lth2を算出し、自車両V1から障害物VP側(走行経路の進行方向の下流側)に向かって、つまり、図中X方向に沿って第2距離Lth2の位置に第2位置P2を設定する。第2位置P2は、図中X軸の値が共通する位置群である(X=P2)。第2距離Lth2は、自車両V1の位置から自車両V1のドライバが前方において注視する位置(前方注視点)までの距離(いわゆる前方注視点距離)に対応する。
また、第2距離Lth2は、自車両V1が緩やかな移動軌跡で他車両VPを回避できる回避制御が実行されることが期待できる、自車両V1と他車両VPとの距離ともいえる。
一般に、車速が高いほど乗員は遠くを注視し、車速が低いほど乗員は近くを注視するという傾向がある。乗員の視点/注意力に応じて、回避制御が行われることが好ましいという観点から、プロセッサ10は、自車両V1の車速が高いほど、長い第2距離Lth2(前方注視点距離)を設定し、自車両V1の車速が低いほど、短い第2距離Lth2(前方注視点距離)を設定する。
第2距離Lth2は、自車両V1の乗員にとって前方の運転環境を認知しやすい領域である。特に限定されないが、第2距離Lth2は、自車両V1の車速(V[km/s])が高いほど高くなるように設定することができる。この関係は比例関係により定義されてもよいし、その他の増加関数により定義されてもよい。プロセッサ10のROM12は、車速Vと第2距離Lth2との関係を定義するマップを記憶する。プロセッサ10は、自車情報検出装置4から車速Vの情報を取得し、マップを参照して車速Vに応じた第2距離Lth2を算出する。
第2距離Lth2は、自車両V1の指令に対する応答必要時間を考慮して決定されることが好ましい。応答必要時間とは運転操作による指令の入力から動作までの時間である。例えば、反応必要時間は、操舵指令の入力から車両の横位置が変化するまでの時間である。反応必要時間は、駆動制御に要する時間、通信に要する時間、指令が実行されるまでの時間などを加算した時間である。これにより、車両性能を考慮した第2距離Lth2を設定することができる。
図4は、自車両V1の前端から前方の距離Xに応じて設定される第2位置P2の一例を示す。図4に示す第2位置P2までの距離は距離Lth2である。本例では、距離Lth2を前方注視点距離に対応させ、第2位置P2を前方注視点に対応させてもよい。
以下、「開始位置」に関する別の態様を説明する。
上述したように、障害物VPを回避するための横位置制御を開始する開始位置は、位置座標値によって定義される絶対位置として定義されてもよいが、自車両V1を基準として設定された制御位置、例えば、自車両V1から所定距離だけ離隔した位置などの自車両V1の位置を基準として設定された相対的な位置として定義してもよい。
本実施形態では、障害物VPの回避制御を開始する開始位置は、回避制御における指令値が設定される制御目標位置とすることができる。制御目標位置は、走行する自車両V1の制御上の時空間座標に基づいて設定できる。回避制御においては、自車両V1の走行位置を現在位置から実行される制御命令によって追跡することができる。つまり、ある制御目標位置における自車両V1の存在/通過タイミング及び存在位置が特定され、その制御目標位置において新たな制御命令が実行される。
上述した図4において、第2位置P2を説明した。この第2位置P2は、車両制御の制御遅れや制御応答性を考慮して、自車両V1が将来のタイミングにおいて存在する位置(前進走行中又は自車両V1の前方の位置)における制御量を設定するための制御目標位置(の一つ)である。自車両V1の位置に対する制御目標位置は、指令値を出力して実際に制御が実行され始める(制御が働き始める)までの時間に自車両V1が進む距離に依存するため、自車両V1の車速が高いほど、自車両V1に対する相対位置(相対距離)が大きくなり、自車両V1から離隔させた位置に設定される。例えば、予め決定された設定位置(絶対位置/座標定義位置)から制御を働かせるとした場合には、自車両V1の車速が高いほど、その決められた設定位置から手前に離隔した位置から指令値を出力する必要があり、また車速が低いほど、決められた設定位置に近い位置で指令値を出力することができる。指令の伝達及び実行には時間を要するからである。一般的に、この第2位置P2は、車速により変化する前方注視点を用いるが、本実施形態に関する第2位置P2は必ずしも前方注視点に限らない。
図4に示す例において、自車両V1の位置を基準として、制御位置としての制御目標位置CT0~CT6(n)を設定することができる。各制御目標位置CTnには、回避制御における指令値が対応づけて設定される。回避制御を一つの制御群とすれば、制御目標位置CTnのうち、横位置の制御が開始される制御目標位置CT0が開始位置Stpである。早期に障害物VPが検出できれば、開始位置Stpとしての制御目標位置CT0を、第2位置P2に設定できる。
本実施形態のように、開始位置Stpを、自車両V1の位置の変化に応じて相対的に決定される制御目標位置CTnとして設定することにより、運転制御命令の出力、受信、又は実行の遅れを抑制することができ、運転制御命令の連続性を担保することができる。これにより、実行される回避制御を適時に開始し、滑らかな(適切に連続した)運転動作を実行することができる。
また、本実施形態の運転制御方法において、プロセッサ10は、第2位置P2が第1位置P1よりも自車両V1側に存在する場合は、第2位置P2に開始位置を設定することにより、開始位置としての制御目標位置を基準に制御を実行することができる。開始位置としての制御目標位置がいわゆる前方注視点位置であれば、滑らかな回避制御を実行することができる。
さらに、本実施形態の運転制御方法において、プロセッサ10は、第2位置P2に開始位置Stpを設定している場合であって、第2位置P2に開始位置Stpを設定している状況における第2位置P2が第1位置P1よりも障害物VP側に存在すると判定された場合には、第2位置P2を自車両V1側に変更する。再び図4を用いて説明すると、第2位置P2に開始位置Stpを設定している場合であって、第2位置P2に開始位置Stpを設定している状況における第2位置P2が第1位置P1´よりも障害物VP側に存在すると判定された場合には、第2位置P2を自車両V1側に変更する。つまり、第2位置P2に設定された開始位置Stpが自車両V1側にシフトする。
このように、回避制御を開始する開始位置Stpとしての制御目標位置が自車両V1側(手前)にシフトされると、変更前の制御目標位置である第2位置P2に(開始位置Stp)おける指令値が離散的(不連続的)に変化する(操舵量の指令値が大きくなる)が、変更前よりも手前の位置(第2位置P2よりも自車両V1に近い位置)、つまり障害物VPから離隔した位置で横位置の変更を開始するように回避制御を実行するため、障害物VPを確実に回避することができる。
プロセッサ10は、必要に応じて、図5Bに示すように第3位置P3を設定する。本実施形態のプロセッサ10は、自車両V1の操舵性能に基づいて、自車両V1から障害物VPが存在する方向に向かって自車両V1から第3距離Lth3の第3位置P3を設定する。第3位置P3は、図中X軸の値が共通する位置群である(X=P3)。第3距離Lth3は、操舵運転が開始されるまでの最小の距離である(最小の回避開始距離)。第3距離Lth3は、操舵機構(操舵装置)の応答性、舵角リミット、車両において許容されるヨー特性に基づいて決定する。第3距離Lth3は、転舵操作に対するリミッタであり、最大舵角の転舵に達するまでの時間に応じた距離である。第3距離Lth3は、予め設定された、自車両V1の操舵機構の舵角リミットに基づいて決定される。自車両V1の操舵性能に応じた第3距離Lth3を用いて回避制御の開始位置を設定するので、操舵性能に応じた回避制御を実行できる。第3距離Lth3は、予め設定された、自車両V1の横加速度リミットに基づいて決定される自車両V1の横加速度の許容度に応じた第3距離Lth3を用いて回避制御の開始位置を設定するので、操舵性能に応じた回避制御を実行できる。
プロセッサ10は、障害物VPを回避するための回避経路を算出し、回避制御を立案する(ステップS104)。
まず、第1地点P1と第2地点P2との位置関係に基づく回避制御を、図5Aを用いて説明する。プロセッサ10は、例えば前方注視点としての第2位置P2が、最小回避可能距離としての第1位置P1に対して、自車両V1側(自車両の走行経路に沿って上流側)の上流部分URに属するか、又は自車両V1が存在する側(図中X方向)とは反対側の方向である障害物VP側(自車両V1の走行経路に沿って下流側)の下流部分DRに属するかを判定する(ステップS105)。プロセッサ10は、判定の結果に基づいて、障害物VPを回避する回避制御を開始する開始位置StPを設定する。障害物VPの存在が検出されたときにおける、自車両V1の走行経路の進行方向(図中X方向)を基準として、上流部分URは、相対的に自車両V1が存在する側の位置(走行経路の進行方向の上流側)であり、下流部分DRは相対的に障害物VPが存在する側の位置(走行経路の進行方向の下流側)である。
本実施形態の運転制御方法においては、障害物VPの位置に基づいて設定された第1位置P1と、自車両V1の現在位置と車速に基づいて設定された第2位置P2との位置関係に基づいて、障害物VPに関する状況を判断し、状況に応じた回避制御の開始位置を設定する。第1位置P1よりも自車両V1が存在する側(走行経路の進行方向の上流部分)であり、第2位置P2よりも障害物VP側(障害物VPに近い領域)で回避制御を開始する、つまり、その第2位置P2よりも自車両V1から遠く、第1位置P1よりも手前の位置において横位置の変更を開始することができれば、自車両V1は滑らかな回避軌跡によって障害物VPを回避することができる。他方、第1位置P1よりも障害物VP側(下流側)で回避制御を開始する、つまり横位置の変更を開始する場合には、自車両V1は上述の場面に比べて滑らかな回避軌跡によって障害物VPを回避することはできない。
回避制御の開始位置が第1位置P1よりも障害物VP側(走行経路の進行方向の下流側)であり、第1位置P1から開始位置が離隔するほど、開始位置は障害物VPに接近することになる。障害物VPに接近してから回避制御を開始すると、その回避制御における操舵量、操舵量の変化量は大きくなり、回避軌跡の滑らかさは失われる。回避制御における操舵量、操舵量の変化量がさらに大きくなると回避軌跡は不連続なものとなることもある。回避軌跡上の各地点に対応づけられた運転制御命令も不連続となることがある。このような変化量の大きい又は不連続な回避軌跡を移動させると、自車両V1の車両挙動は安定した状態を保つことができない。
他方、自車両V1の車両挙動の安定性の優先度を高くし、回避軌跡の滑らかさに高い目標値を設定すると(操舵量/操舵変化量に低い上限制限値を設定すると)、回避制御を実行できる場面が限定され、障害物VPの回避の機会を失うことになり、自車両V1は余儀なく停止させられることがある。
滑らかな回避軌跡で回避を行う観点から、第1位置P1と第2位置P2との間で回避制御を開始することが優先されることは望ましいが、滑らかな回避軌跡を回避制御の必須の条件とすると、障害物VPの回避の機会を失う可能性が高くなる。障害物VPの回避ができないということは、自車両V1が障害物VPの存在するレーンに移動(車線変更)することができず、そのレーンからの右左折の機会を失う可能性に繋がり、ひいては自車両V1が停止せざるを得ない場合もある。
常に、前方の障害物VPを、早期に検出できれば、理想的な開始位置から回避制御を開始することができる。
しかしながら、自車両V1の前方の視界が常に開けている(前方の検出環境が良好である)とは限らず、常にセンサ1の性能が発揮できるとも限らない。また、自車両V1と障害物VPの位置関係は刻々に変化し、障害物VPの挙動も予測に従うものではない。また、交通状況、道路状況、他の障害物VPとの位置関係により、障害物VPの検知が遅れることもある。そのような場合は、理想的な開始位置で回避制御を開始することができない場合もある。現実の状況においては、障害物VPの回避を断念しても滑らかな回避軌跡を移動するか、操舵量又はその変化が多少大きく、車両挙動の安定性が損なわれても障害物VPの回避を優先するかを判断する必要がある。
本実施形態の運転制御方法は、以下の処理により、実際の交通において検出されたリアルタイムの状況を判定し、その判定結果に応じて最適な回避制御の開始位置を設定する。検知環境によってセンサ1による障害物VPの検知状況は異なり、同じセンサ1であっても常に同じ離隔距離で障害物VPを検出できるとは限らない。本実施形態では、このような検知状況の差を考慮して、障害物VPを検知した時点における状況に適した回避制御を検討する手法を提案する。
図3のステップS105において、プロセッサ10は、第2位置P2が下流部分DRに属するか否かを判断する。プロセッサ10は、第2位置P2が下流部分DRに属さない場合には、ステップS106に進む。ステップS106において、図5Aに示すように、第2位置P2が上流部分URに属する場合には、プロセッサ10は、第1位置P1と第2位置P2の間に回避制御の開始位置StPを設定する。
第2位置P2が上流部分URに属する場合においては、早期に回避制御が開始され、操舵変化量が所定量以下の回避軌跡を算出することができ、滑らかな横位置変更制御(車線変更制御)が行われる。本実施形態によれば、第1位置P1と第2位置P2との位置関係に応じて、回避制御の開始位置StPを第1位置P1と第2位置P2との間に設定し、滑らかな横位置変化で回避制御を実行できる。
一方、ステップS105において、第2位置P2が下流部分DRに属すると判断された場合には、ステップS107に進む。プロセッサ10は、図5Bに示すように、第2位置P2が第1位置P1の下流部分DRに属する場合は、第2位置P2よりも自車両V1側の位置(図中-X方向)に開始位置StP1,StP2を設定する。第2位置P2が第1位置P1の下流部分DRに属する場合とは、自車両V1が障害物VPである他車両VPを回避する回避制御において、自車両V1が操舵を開始して他車両VPを回避することが可能な最小の(回避に必要な)第1距離Lth1(最小回避可能距離)と他車両VPとの間に、第2地点P2が属している状態である。第2地点P2は自車両V1の速度が考慮され、自車両V1の乗員にとって運転環境を認知しやすいと考えられる、自車両V1から第2距離Lth2の位置に存在する地点である。つまり、乗員が運転環境を認知しやすいと考えられる位置(前方注視点)が、自車両V1が他車両VPを回避するために必要な最小の第1距離Lth1までの範囲(最小回避可能距離の範囲)と重複している状態である。乗員が運転環境を認知しやすいと考えられる位置(前方注視点)は、障害物VPに接近しすぎていると評価することもできる。このような場合においては、第2位置P2の上流側(自車両V1側)であっても、開始位置StP1,StP2を設定する。
好ましくは、プロセッサ10は、図5Bに示すように、第2位置P2が下流部分DRに属する場合は、第1位置P1に開始位置StP1を設定する(ステップS108)。図5Bの状況においては、第1位置P1は第2位置P2よりも自車両V1側(走行経路の上流側)に位置する。このような場合には、自車両V1が操舵を開始して他車両VPを回避することが可能な最小の第1距離Lth1(最小回避可能距離)に存在する第1位置P1において回避制御を開始することが好ましい。
ステップS107又はS108において算出された開始位置StP1、StP1は、ステップS106において算出された開始位置StPに比べて、障害物VPに近い位置となる。開始位置StP1、StP1を始点とし、障害物VPの側方に横位置を移動して、障害物VPを追い越して、再度横位置を移動して障害物VPの前方に移動するという第2回避軌跡は、ステップS106において算出された開始位置StPを始点として算出された第1回避軌跡よりも横位置の変化量、操舵量の変化量は大きい。また、第1回避軌跡は相対的に滑らかな軌跡であるが、第2回避軌跡は横位置の変化量が大きく連続的な軌跡とならない可能性がある。第2回避軌跡は、横位置の変化量は所定値未満であることが好ましい。
ステップS107又はS108において開始位置StPが決定されたら、ステップS109に進む。
ステップS109において、プロセッサ10は開始位置StPから回避制御を開始して障害物VPを回避できるか回避軌跡を算出できるか否かを判断する。プロセッサ10は、開始位置StPから横位置の変更を開始して、予め設定されている最小曲率半径(最小回転半径)、自車両V1に発生する許容横加速度の上限値に基づいて自車両V1が障害物VPの横を通過して、障害物VPの前方に移動する回避軌跡が算出できるかどうかを判断する。回避軌跡は、自車両V1が走行中のレーンLN01の開始位置StPから、隣接するレーンLN02へ車線変更し、障害物VPの側方を通過する。この段階で、障害物VPの回避制御が完了したと判断してもよい。具体的には、自車両V1の後端(図中X値)が、他車両VPの後端(図中X値)を自車両V1の進行方向(図中X方向)に超えたときに、自車両V1が障害物VPを回避したと判断してもよい。自車両V1の目的地に至る経路がレーンLN01から左折する経路である場合には、自車両V1が再度レーンLN02に車線変更して障害物VPの前方に位置するまでの移動を回避制御としてもよい。
ステップS109において、回避軌跡が算出できない場合には、ステップS113に進み、減速運転を実行する。自車両V1が減速運転をすることにより、第1位置P1、第2位置P2、及び第3位置P3の位置を変化させることができる。速度によっての操舵上限値などが変化するからである。第1位置P1と第2位置P2の位置関係、第1乃至第3位置(P1,P2,P3)の位置関係が変化すると、障害物VPに関する状況についての判定結果が変化する可能性がある。自車両V1の減速後には、再度ステップS105以降の処理を実行し、新たな第1位置P1及び第2位置P2、又は第1乃至第3位置(P1-P3)の位置に基づいて回避制御の実行を試みる。再度、ステップS109において回避不可能と判断された場合には、ステップS114に進み、回避制御の実行は不可能であると判断する。ステップS115において、プロセッサは、回避制御の実行が不可能であることを車両コントローラ200に送出し、更に乗員への情報提示装置にその旨を出力する。
続くステップS110において、プロセッサ10は、自車両V1の駆動性能や制動性能を参照し、自車両V1が回避軌跡に従い移動可能であることを確認する。プロセッサ10は、自車両V1の舵角リミット、横加速度リミットを超えることなく、また、別の障害物VPに妨害されることなく、自車両V1が回避軌跡を目標速度、目標姿勢で移動できるかどうかをシミュレートする。回避可能であると判断された場合には、ステップS111に進む。ステップS111において、プロセッサ10は、開始位置StP1を含む回避軌跡を算出し、車両コントローラ200へ送出する。車両コントローラ200は、図2のステップS8以降の処理を実行する。
車両コントローラ200は、図2のステップS8以降の処理を実行する。第1位置P1上の開始位置StP1で回避制御を開始することにより、最も長い第1距離Lth1を維持して回避制御を開始できる。
上述した本実施形態の運転制御方法によれば、車両挙動の安定性の維持と障害物VPの回避制御の遂行とのバランスが考慮された回避制御を実行することができる。第2位置P2又はそれよりも障害物VP側(走行経路の下流側)で回避制御を開始させて、自車両V1を滑らかな回避軌跡に従って移動させることを優先しつつ、第2位置P2又はそれよりも障害物VP側(走行経路の下流側)で回避制御を開始できないときには、開始位置の設定方針を変更し、車両挙動の安定性よりも障害物VPを回避することを優先する制御を実行する。
第2位置P2よりも障害物VP側(走行経路の下流側)で回避制御を開始して滑らかな回避軌跡を自車両V1に走行させる回避制御と、障害物VPを回避することを優先する回避制御とを切り替えて車線変更することができるので、自車両V1のセンサ1の認識状況や、障害物VPの走行状況に適した回避制御を実行することができる。
本実施形態では、第1位置P1と第2位置P2との位置関係の判定結果に基づいて、適切なタイミングで障害物VPの回避制御を開始する開始位置StPを設定することにより、障害物VPを回避する機会が失われることを抑制しつつ、回避制御の開始位置StPを適切に設定できる。
ここで回避制御の開始位置StPは、障害物VPの側方を通過するための操舵制御において、障害物VPより走行経路の上流側(図中-X側)において自車両V1の横位置の変化(操舵量)が所定値以上となる最初の地点とすることができる。本例において、障害物VPの追い越しは、レーンLN01からレーンLN02への車線変更を伴うので、追い越し時の横位置変更制御の開始位置StPは、障害物VPが存在するレーンLN01からその隣接レーンLN02への車線変更の開始位置として定義してもよい。本実施形態の運転制御方法によれば、実際の交通において検出されたリアルタイムの状況に応じて最適な回避制御の開始位置を設定することができる。
以下、図3のステップS112、S113に基づいて、第3位置P3を考慮した回避制御の開始位置の設定手法を説明する。
ステップS105において、第2位置P2が第1位置P1の下流部分DRに属する場合である場合にはステップS112に進み、第3位置P3の位置について検討する。プロセッサ10は、ステップS112において、第3位置P3が第1位置P1の上流部分URに属するか否かを判断する。
図5Bに示すように、第3位置P3が第1位置P1の上流部分URに属する場合には、ステップS108に進み、第1位置P1に開始位置StP1を設定する。第2位置P2が第1距離Lth1の範囲に属していても、操舵運転が開始されるまでの最小の距離である第3距離Lth3(最小の回避開始距離)が第1距離Lth1の範囲に属していない場合には、滑らかではない回避軌跡を受け入れて、回避制御の実行の遂行を優先する。これにより、状況に対応しつつ、可能な範囲で回避制御の実行を図ることができる。
他方、ステップS112において、第3位置P3が第1位置P1の上流部分URに属さない場合、つまり、図5Cに示すように、第3位置P3が第1位置P1の下流部分DRに属する場合には、ステップS113に進む。ステップS113において、プロセッサ10は、自車両V1を減速させる制御命令を車両コントローラ200へ出力する。第2位置P2が第1距離Lth1の範囲に属し、かつ操舵運転が開始されるまでの最小の距離である第3距離Lth3(最小の回避開始距離)が第1距離Lth1の範囲に属している場合には、無理な回避制御を実行せずに、自車両V1を減速させる。上述したとおり、自車両V1の減速により第1~第3位置の位置関係を変化させ、再度、ステップS105以降の処理を実行し、ステップS114において回避制御の可否を再判断する。回避制御が不可能であると判断された場合には、障害物VPを回避する回避制御の実行を断念する。状況に応じて自車両V1は停止させる。一時的ではあるが、自車両V1は、障害物VPを回避することに失敗したことになる。これにより、状況に対応しつつ、回避制御の実行の可否を見極めて、可能な範囲で回避制御の実行を図ることができる。
図5Cに示すように、第3位置P3が第1位置P1の下流部分DRに属する場合には、回避制御が不可能であることを出力する。回避制御の中止命令を車両コントローラ200に出力してもよいし、乗員又はオペレータに回避制御が中止されることを報知してもよいし、減速運転についての原因として回避制御の中止を乗員又はオペレータに報知してもよい。図5Cに示す状況において、回避制御の実行可否を判断する場合には、自車両V1と障害物VPとの距離は接近している。このような場面での車両の挙動は急な変化を伴う可能性が高い。自車両V1が回避制御を実行できない、つまり自律的な運転によって障害物VPを回避できないことを事前に乗員又はオペレータに知らせることにより、乗員に不安を与えないようにできる。
<第2実施形態>
本実施形態は、障害物VP以外の障害物Obの存在について考慮して実行するという処理を行うという点を特徴とする。他の回避制御においては第1実施形態と共通するため、第1実施形態において説明した明細書の記載および図面の記載を、第2実施形態において援用する。
本実施形態において、自車両V1の走行に影響を与える他の障害物Obが検知された場合には、プロセッサ10は、開始位置StPAをそれよりも自車両V1側(走行経路の上流側)の開始位置StPBにシフトさせて設定する。プロセッサ10は、自車両V1の予測移動位置と他の障害物Obの予測移動位置とを比較して、他の障害物Obが自車両V1の走行に影響を与えるか否かを判断する。
図6に他の障害物Obが自車両V1の走行に影響を与える場面の一例を示す。図6に示すように、回避軌跡RTの近傍に障害物Obが存在する場合には、自車両V1が回避軌跡RTを移動することができない場合がある。例えば、図6に示す障害物Obが減速する又は相対的な速度が遅い場合には、自車両V1が回避軌跡RTを移動することができない場合がある。
障害物VPを回避する回避軌跡を走行する自車両V1の走行に影響を与える他の障害物Obが検知された場合には、速やかに回避制御における横位置の変更(車線変更)の処理を開始する。好ましくは、プロセッサ10は、開始位置StPBを第2位置P2に設定する。自車両V1が障害物VPに接近する間に、他の障害物Obによって横位置の変更(車線変更)ができなくなるようになることを回避することができる。車線変更できないまま自車両V1が障害物VPの後方に停止するようになることを回避することができる。
また、プロセッサ10は、自車両V1と障害物VPとの距離が長いほど大きなシフト量で、開始位置StPを自車両V1に接近させた位置にシフトさせる。これにより、自車両V1と障害物VPから離隔しているほど、障害物VPから遠い位置で横位置の変更(車線変更)を開始する。これにより、障害物VPを回避する回避軌跡RTが滑らかになるように(横位置の変化量が所定値未満となるように)することができる。
<第3実施形態>
本実施形態は、障害物VPを回避する回避軌跡の算出手法に特徴がある。他の回避制御においては第1、第2実施形態と共通するため、第1、第2実施形態において説明した明細書の記載および図面の記載を、第3実施形態において援用する。
プロセッサ10は、自車両V1の走行に影響を与える他の障害物VPが検知された場合には、図7に示すように、障害物VPを回避する回避制御を終了する終了位置Edを障害物VPの側方(図中Y方向)に設定し、開始位置StPから終了位置Edに至る回避経路RTの曲率半径が所定値以上となる(カーブが所定以上の緩やかさを有する)が位置に、開始位置StPを設定する。駐車車両などの障害物VPの側方に車線変更の終了点を設定し、そこから経路の曲率半径が所定値以上となる(カーブが所定以上の緩やかさを有する)自車両V1の現在位置の横位置に至る回避軌跡を算出し、その地点の位置を開始位置StPの位置とする。自車両V1が障害物VPを回避する際に、まず、障害物VPの側方に終了位置Edを設定し、そこから延びる軌跡の曲率半径が所定値以上となる(カーブが所定以上の緩やかさを有する)回避軌跡であって、回避制御の開始時における自車両V1の現在位置と予測される位置を開始位置StPとして設定し、開始位置StPから終了位置Edに至る回避軌跡を算出する。
これにより、自車両V1の車両姿勢が所定の範囲であり、乗員の乗り心地を悪化させない車線変更を含む回避制御を実行できる。回避対象である障害物VPの側方を終了位置とするので、自車両V1が障害物VPを回避する回避軌跡を走行するように、つまり障害物VPを避けることを目的として自車両V1が移動するので、乗員は自車両V1の行動原因を理解するので、自車両V1の運転に対して乗員に安心を与えることができる。
本発明の実施形態の運転制御装置100は、以上のように構成され動作するので、以下の効果を奏する。
[1]本実施形態の運転制御方法は、本発明は、自車両V1の前方に障害物VPが存在すると判定した場合に、検知された障害物VPから自車両V1が存在する方向に向かって第1距離の第1位置を設定し、自車両V1から障害物VPの方向に向かって第2距離の第2位置を車速に基づいて設定し、第2位置が第1位置に対して自車両V1側に存在するのか又は障害物VP側に存在するかの判定結果に基づいて障害物VPの回避制御を開始する開始位置を設定する。
第1位置P1に対する第2位置P2との位置関係に基づいて、障害物VPに対する自車両V1の状況を判断し、状況に応じた回避制御の開始位置StPを設定するので、状況に応じて車両挙動の安定性と障害物VPの回避制御の遂行とのバランスが考慮された回避制御を実行することができる。
本実施形態の運転制御方法によれば、障害物VPを早いタイミングで検出できた場合、及び障害物VPの検出タイミングが遅れた場合のいずれにおいても、車両挙動の安定性と障害物VPの回避制御の遂行とのバランスが考慮された回避制御の開始位置StPを設定することができる。このため、障害物VPを回避する機会が失われることを抑制することができ、自車両V1の運転行動において自車両V1に余計な停止をさせることを抑制できる。また、状況に応じて車両挙動の安定性と障害物VPの回避制御の遂行とのバランスが考慮された回避制御を実行することができる。
[2]本実施形態の運転制御方法において、開始位置は、回避制御における指令値が設定される制御目標位置とすることができる。障害物VPを回避するための横位置制御を開始する開始位置は、位置座標値によって定義される絶対位置として定義されてもよいが、本実施形態の制御目標位置のように自車両V1を基準として設定された制御位置、例えば、自車両V1から所定距離だけ離隔した位置などの自車両V1の位置を基準として設定された相対的な位置でもよい。
開始位置を、自車両V1の位置の変化に応じて相対的に決定される制御目標位置として設定することにより、運転制御命令の出力、受信、又は実行の遅れを抑制することができ、運転制御命令の連続性を担保することができる。これにより、実行される回避制御を適時に開始し、滑らかな(適切に連続した)運転動作を実行することができる。
[3]本実施形態の運転制御方法において、プロセッサ10は、第2位置P2が第1位置P1よりも自車両V1側に存在する場合は、第2位置P2に開始位置を設定することにより、開始位置としての制御目標位置を基準に制御指令を実行することができる。開始位置としての制御目標位置がいわゆる前方注視点位置であれば、滑らかな回避制御を実行することができる。
[4]本実施形態の運転制御方法において、プロセッサ10は、第2位置P2に開始位置を設定している場合であって、第2位置P2に開始位置を設定している状況における第2位置P2が第1位置P1よりも障害物VP側に存在すると判定された場合には、第2位置P2を自車両V1側に変更する。
回避制御を開始する開始位置としての制御目標位置が自車両V1側(手前)にシフトされるため、変更前の制御目標位置である第2位置P2における当初の指令値が離散的(不連続的)に大きくなるが、第2位置P2より手前の位置で横位置の変更を開始するように回避制御を実行するため、障害物VPを確実に回避することができる。
[5]本実施形態の運転制御方法においては、第2位置P2が下流部分URに属する場合は、第2位置P2よりも自車両V1側(走行経路の上流側)の位置に開始位置StPを設定する。
第1位置P1と第2位置P2との位置関係の判定結果に基づいて、適切なタイミングで障害物VPの回避制御を開始する開始位置StPを設定することにより、障害物VPを回避する機会が失われることを抑制しつつ、回避制御の開始位置StPを適切に設定できる。
[6]本実施形態の運転制御方法においては、第2位置P2が下流部分DRに属する場合は、第1位置P1に開始位置StPを設定する。自車両V1が操舵を開始して他車両VPを回避することが可能な最小の第1距離Lth1(最小回避可能距離)に存在する第1位置P1において回避制御を開始する。障害物VPから第1位置P1までの第1距離Lth1を最も長く設定できる。
[7]本実施形態の運転制御方法においては、自車両V1の操舵性能に基づいて、自車両V1から障害物VPの方向に向かって自車両V1から第3距離Lth3の第3位置P3を設定し、第2位置P2が下流部分DRに属し、第3位置P3が第1位置P1の上流部分URに属する場合には、第1位置P1に開始位置StP1を設定する。
第2位置P2が第1距離Lth1の範囲に属していても、操舵運転が開始されるまでの最小の距離である第3距離Lth3(最小の回避開始距離)が第1距離Lth1の範囲に属していない場合には、滑らかではない回避軌跡を受け入れて、回避制御の実行の遂行を優先する。これにより、状況に応じつつ、可能な範囲で回避制御の実行を図ることができる。
[8]本実施形態の運転制御方法においては、第3位置P3が下流部分DRに属する場合には、自車両V1を減速させる運転計画を立案する。第2位置P2が第1距離Lth1の範囲に属し、かつ操舵運転が開始されるまでの最小の距離である第3距離Lth3(最小の回避開始距離)が第1距離Lth1の範囲に属している場合には、無理な回避制御を実行せずに、減速することにより状況を変化させる。自車両V1の減速制御によって、第1位置P1及び第2位置P2、又は第1乃至第3位置(P1-P3)を変化させることができる。各位置の変化によって、その相互の位置関係も変化する可能性がある。変化後の位置関係によって、回避制御が実行できる環境となることもある。これにより、状況に対応しつつ、回避制御の実行の可否を見極めて、可能な範囲で回避制御の実行を図ることができる。
[9]本実施形態の運転制御方法においては、第3位置P3が第1位置P1の下流部分DRに属する場合には、回避制御が不可能であることを出力する。回避制御の中止命令を車両コントローラ200に出力してもよいし、乗員又はオペレータに回避制御が中止されることを報知する。回避制御の実行可否を判断する場合には、自車両V1と障害物VPとの距離は接近している。このような場面での車両の挙動は急な変化を伴う可能性が高い。自車両V1が回避制御を実行できない、つまり自律的な運転によって障害物VPを回避できないことを事前に乗員又はオペレータに知らせることにより、乗員に不安を与えないようにできる。
[10]本実施形態の運転制御方法において、第3距離Lth3は、予め設定された、自車両V1の操舵機構の舵角リミットに基づいて決定される。自車両V1の操舵性能に応じた第3距離Lth3を用いて回避制御の開始位置StPを設定するので、操舵性能に応じた回避制御を実行できる。
[11]本実施形態の運転制御方法において、第3距離Lth3は、予め設定された、自車両V1の横加速度リミットに基づいて決定される自車両V1の横加速度の許容度に応じた第3距離Lth3を用いて回避制御の開始位置StPを設定するので、操舵性能に応じた回避制御を実行できる。
[12]本実施形態の運転制御方法において、第2位置P2が上流部分URに属する場合には、第1位置P1と第2位置P2との間に開始位置StPを設定する。余裕のある場合に、滑らかな横位置変化で回避制御を実行できる。
[13]本実施形態の運転制御方法において、自車両V1の走行に影響を与える他の障害物VPが検知された場合には、開始位置StPを自車両V1側(走行経路の上流側)の位置にシフトさせて設定する。自車両V1が障害物VPに接近する間に、他の障害物Obによって横位置の変更(車線変更)ができなくなるようになることを回避することができる。車線変更できないまま障害物VPの後方に停止するようになることを回避することができる。
[14]本実施形態の運転制御方法では、自車両V1と障害物VPとの距離が長いほど大きなシフト量で、開始位置StPを自車両V1に接近させた位置にシフトさせる。これにより、自車両V1と障害物VPから離隔しているほど、障害物VPから遠い位置で横位置の変更(車線変更)を開始する。これにより、障害物VPを回避する回避軌跡RTが滑らかになるように(横位置の変化量が所定値未満となるように)することができる。
[15]本実施形態の運転制御方法では、障害物VPを回避する回避制御を終了する終了位置Edを障害物VPの側方に設定し、開始位置StPから終了位置Edに至る回避経路の曲率半径が所定値以上となる(カーブが所定値以上の緩やかさを有する)軌跡が描ける位置に、開始位置を設定する。これにより、自車両V1の車両姿勢が所定の範囲であり、乗員の乗り心地を悪化させない車線変更を含む回避制御を実行できる。回避対象である障害物VPの側方を終了位置とするので、自車両V1が障害物VPを回避する回避軌道を走行するように、つまり障害物VPを避けることを目的として自車両V1が移動するので、乗員は自車両V1の行動原因を理解するので、自車両V1の運転に対して乗員に安心を与えることができる。
[16]本実施形態の運転制御方法においては、自車両V1の指令に対する応答必要時間に基づいて第2距離Lth2を決定する。車両性能を考慮した第2距離Lth2を設定することができる。
[17]本実施形態の運転制御方法において、運転制御装置100は、上記運転制御方法と同様の作用を奏し、同様の効果を奏する。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。