以下、図面を用いて本発明の各実施例について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施例(実施例1)における列車制御システムの構成例を示す図である。列車は、停車場外の線路を運転させる目的で構成された車両と定義され、一般に、列車は複数の車両が連結されて構成されるが、図1では列車を構成する先頭の車両(先頭車両)の構成のみを示している。また、本例では、車両の速度を計測する速度計測装置1が先頭車両に搭載されている場合の例が示されるが、本発明に係る列車制御システムにおいて、速度計測装置1は他の車両に搭載されていてもよい。
図1に示したように、列車制御システム100は、鉄道車両の走行を制御するために、速度計測装置1、ATC(Automatic Train Control)装置2、ブレーキ制御装置3、受電器4、及び車上子5を主な構成として備えている。以下これらの構成についてより詳細に説明する。
速度計測装置1は、車両床下に設置され、電磁波をレール7(より広義には、レール7を含む軌道)に対して電磁波(照射波)を照射する送信機能と、レール7に当たってから返ってくる電磁波(反射波)を取得する受信機能とを有する。なお、送信機能及び受信機能は、それぞれ独立したアンテナによって実装されてもよいし、送受信機能を有する一個のアンテナによって実装されてもよい。
また、速度計測装置1は、上記の受信機能によって取得された反射波を演算部(不図示)に入力し、演算部が照射波の周波数及び反射波の周波数に基づいて、列車の速度信号を計算する速度算出機能を有する。詳しく説明すると、速度計測装置1の速度算出機能は、列車が走行している場合にレール7に照射された電磁波(照射波)とレール7で反射した電磁波(反射波)とではドップラ効果により周波数が異なることを利用して、この周波数の差に基づいて速度信号を算出する。なお、速度計測装置1によって得られる速度信号は、現在の列車速度を算出する際に使用される信号であり、ATC装置2に入力される。
本例では、速度計測装置1において送信機能または受信機能を実装するアンテナ(速度センサ)の具体例として、ミリ波の電磁波を用いるミリ波センサを採用する。このとき、速度計測装置1によって算出される速度信号は「ミリ波速度信号」とも呼ばれる。速度計測装置1については、後でさらに詳しく説明する。
車上子5は、地上子6から送信された位置信号を受信する装置であって、図示しないアンテナを有し、地上子6から受信した位置信号をATC装置2に出力する。この位置信号は、ATC装置2において速度信号に基づいて生成される列車の位置情報を補正する際に使用される。
地上子6は、列車の軌道沿線の地上側に設置された無線装置であって、内部に不揮発性のメモリとアンテナ(何れも不図示)を有する。地上子6は、列車が直上を通過する際に、自身が設置された位置を示す情報をメモリから読み出し、アンテナを介して信号(位置信号)を送信する。なお、位置信号の内容は、当該信号に基づいて列車の地点が特定できるものであればよく、特定の形式等に限定されるものではない。
また、本例の鉄道車両は、車上子5とは別に受電器4を有する。受電器4は、レール7に流れているATC信号を受信する装置である。ATC信号は、軌道回路毎に流されており、進入可能な軌道回路数等の停止位置に関する情報(コード)を示す信号である。ATC信号は、受電器4からATC装置2へ出力され、ATC装置2において列車の制限速度を決定する演算に使用される。なお、軌道回路によって制限速度等の情報を取得する方式に代えて、無線通信を利用したCBTC(Communication Based Train Control)等の方式を採用してもよい。
ATC装置2は、速度計測装置1、車上子5及び受電器4から信号が入力されるように構成された装置であって、故障検知回路を有するフェイルセーフな演算装置(不図示)を有する。またATC装置2は、種々の情報が格納された記憶装置を有し、入力される各信号と記憶装置に格納されたこれらの情報に基づいて、列車の制限速度を演算する等して列車の走行速度を制御する。
ATC装置2による演算結果は運転士に対して提示され、また、もし現状の速度が制限速度を超過していれば、ATC装置2からブレーキ制御装置3にブレーキ指令が出力される。ブレーキ制御装置3は、ATC装置2から出力されたブレーキ指令に基づいて、車輪8に対してブレーキ制御を行うことにより、列車を減速させる装置である。ブレーキ制御装置3は一般的な鉄道車両のブレーキ制御装置で実現可能なため、詳細な説明を省略する。なお、本実施例では受電器4からATC信号を受信する実施形態を説明するが、これに換えて無線アンテナから無線通信によりATC信号を受信するようにすることも可能である。
図2は、ATC装置の機能構成例を示すブロック図である。図2に示す通り、ATC装置2は、列車速度算出部21、ATC照査速度算出部22、照査部23、及び車上データベース24を備えて構成され、速度計測装置1から速度信号(ミリ波速度信号)を受信し、車上子5から位置信号を受信し、受電器4からATC信号を受信する。
列車速度算出部21は、速度計測装置1から取得した速度信号から列車速度を算出する。
ATC照査速度算出部22は、受電器4から取得した情報と、車上子5からの位置情報と、列車速度算出部21で算出した列車速度の積算距離などから現在位置を認識する。
なお、図1や図2に示したように、本実施例ではATC装置2を用いて説明するが、本発明の技術を適用可能な対象はATC装置に限らず、他の速度を使用する装置(具体的には例えば、ブレーキ制御装置やモニタ装置等)にも適用することができる。
次に、速度計測装置1の構成についてより詳細に説明する。
図3は、実施例1における速度計測装置の列車の進行方向における断面構成を示す図である。速度計測装置1は、金属から主に構成されて車両床下に設置される筐体11と、この筐体11の内部に収容された二基の送受信器12(個別には送受信器12a、12b)とを基本構成とする。なお、前述したように、送受信器12は速度センサであり、本例ではミリ波センサが採用される。この場合、ミリ波センサである送受信器12が格納される筐体11は、ミリ波センサ筐体とも呼ぶことができる。
筐体11は、送受信器12の送信方向に面した壁面が樹脂部材によって形成されている。したがって筐体11は、少なくとも一つの開口部を有する金属製の筐体基部13と、開口部を閉止するように設けられた樹脂から成る窓部14とから構成される。このような筐体11の構成は、送受信器12の放熱を筐体基部13によって促進し、かつ送受信器12を保護しつつ電磁波を利用する上で有用である。
図示は省略するが、送受信器12の内部構成としては例えば、電磁波を照射または受信するためのアンテナ回路と、当該アンテナ回路に対して駆動電流を供給する供給部と、駆動電流を制御するための制御回路とが挙げられる。制御回路は、例えばLSI(Large Scale Integration)やIC(Integrated Circuit)といった半導体回路や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のような制御論理を組み込んだ回路によって構成される。
また、図3に示した送受信器12には、送受信器12の前面に半円状に張り出したレンズ部材15がアンテナ回路を覆うように取り付けられる。このレンズ部材15は、アンテナ回路から送信される電磁波を集束させるための部材であって、例えば特許文献(特開2017-015474号公報)に挙げられたもの(具体的には、当該特許文献に示された集束レンズ10)を採用することができる。その他、指向性を持たせる方法として、レンズ部材15とは別の手段を用いてもよく、例えばアンテナ回路をアレイ状アンテナとして構成するようにしてもよい。
送受信器12の取り付けにあたっては、台座部16が利用される。台座部16は筐体11の内壁に対して強固に固定された部材であって、送受信器12の放熱を促すために熱伝導性に優れた部材(具体的には例えば、アルミニウム等)で形成されることが望ましい。
台座部16は、図3に示されるように、Y方向(垂直上方向)に向かうにつれてX方向(車両進行方向)の幅が広くなる断面形状を有している。送受信器12は、このような形状を有する台座部16に固定されることで、照射波の照射軸が規定される。ここで言う照射軸とは、送受信器12が送信する照射波の主たる放射の方向を指し、構造的には、電磁波の集束位置およびアンテナ回路の送信面中心を通過する直線に相当する。具体的には図3の場合、送受信器12による照射波の照射軸は、Y方向に関して下方成分を有するように固定される。なお、送受信器12を台座部16に固定する方法としては、ボルトによる締結やその他の締結手法を採用することができる。
また、速度計測装置1の車高方向(Y方向)における取り付け位置は、被照射面のレール及び軌道が近接することによる干渉が発生しない高さに固定する。なお、内部に収容された送受信器12は稼動時に発熱するため、温度の上昇する機器箱内や近接する位置に配置せず、外気温や走行風によって自冷却できる位置に取り付けることが望ましい。
次に、二基の送受信器12a、12bの配置についてより詳細に説明する。
二基の送受信器12a、12bは、樹脂部材で形成された窓部14の中心に関して対称となる位置に固定される。さらに、二基の送受信器12a、12bは、窓部14が配置された空間において互いの照射軸が交差するように配置されることが望ましい。このとき、図3に示したように、送受信器12a、12bからは、車両の進行方向(X方向)について互いに異なる方向に電磁波が照射される。二基の送受信器12a、12bが上述したように配置されることで、速度計測装置1は、窓部14の面積を最小化することができる。窓部14の最小化は、樹脂板部に雪が付着して電磁波が減衰するような事態に備えて融雪ヒータを設けるような場合に、加熱領域を縮小する上で有用である。
また、それぞれの送受信器12a、12bは、X-Y平面において、X軸(水平軸)と照射軸とによってなされる角度(図3に示した入射角度θ)が20度以上40度以下となるように固定される。したがって台座部16のY方向における厚みは、当該角度が成立するように形成される。
ここで、送受信器12から軌道(レール7)に向けて照射される電磁波(ミリ波)の照射軸と被照射面(例えばレール7)との間の入射方向角度をθ、ドップラ効果による周波数f
d(ドップラ周波数)、光速をc、送受信器12から出力される信号の周波数をf
0(ミリ波送信周波数)とすると、計測速度vは、以下の式1の関係式で表される。
式1によると、右辺の分数項は定数と見做すことができ、例えば照射波のミリ波送信周波数f0を76.5GHz、入射方向角度θを45°とすると、右辺の定数はおよそ100Hz/(km/h)となる。すなわち、速度計測装置1では、列車(車両)の計測速度vが高速になると、ドップラ周波数fdも比例して高くなる。
次に、速度計測装置1の配置についてより詳細に説明する。速度計測装置1は、列車の車両床下に固定される機器であって、電源等を車両の配電系から取得するように構成される。なお本実施例では速度計測装置1の筐体11を概ね直方体の構造体として説明するが、外形はこれに限定されるものではない。
図3に示したように、速度計測装置1は、二基の送受信器12a、12bが、列車の走行方向(X軸)において前後方向に並ぶように車両床下に取り付けられる。したがって一方の送受信器12(例えば送受信器12a)から列車が進行する方向に向かって電磁波が照射され、他方の送受信器12(例えば送受信器12b)から列車が進行する方向と反対の方向に向かって電磁波が照射される。このような設置方法は、装置取り付け時に生じる列車の走行方向(X軸)のピッチング誤差を吸収するのに有効である。反射波の周波数と照射波の周波数との差から取得される速度信号は、それぞれの送受信器12a、12bが取得してATC装置2に送信される。そして、ATC装置2が、例えば両送受信器12から送信された速度信号の平均を演算して、列車の速度を取得することが可能となる。
また、速度計測装置1の車高方向(Y軸方向)における取り付け位置は、レール7や地表との干渉が起きない程度の高さに固定される。なお、速度計測装置1の内部に収容された送受信器12は稼働時に発熱するため、効果的な冷却を実施するにあたって、車両床下面に筐体11を直付けせず、所定の距離を置いて固定するものとして、走行風による冷却がなされるように取り付けてもよい。
また、速度計測装置1の車幅方向(Z軸方向)における固定位置は、図4に例示される。図4は、実施例1における速度計測装置とレールとの位置関係を説明する図である。図4に拡大図で示したように、以降の説明では、レール7の頭部の頭頂面をレール頭頂部7a、レール7の底部上面をレール底部7bと称する。さらに、レール頭頂部7aは、中央部分を示すレール頭頂中央部7cと、一対のレール間の軌道中心線側(内側)の端部を示すレール頭頂内端部7dと、レール頭頂内端部7dとは反対側となる施工基面側(外側)の端部を示すレール頭頂外端部7eとに分けることができる。
図4に示すように、速度計測装置1のZ軸方向の固定位置は、レール頭頂内端部7dに対して電磁波が照射されるような配置とし、X軸方向から見たときに車輪8と重なる位置とする。
より詳細には、本実施例における送受信器12の照射軸(図4の破線付き矢印で示した照射軸10に相当)は、X-Y成分を主とするものであって、Z成分は無視できる程度に小さいことが望ましく、したがって照射軸がY-Z平面において直線として表されるように、速度計測装置1が固定されることが望ましい。さらに、この照射軸をレール頭頂内端部7dに位置するものとするために、速度計測装置1は、送受信器12の照射軸がY-Z平面においてレール頭頂内端部7dに当たるように車両床下に固定される。この配置について換言すると、Y-Z平面において、レール頭頂内端部7dと速度計測装置1の窓部14の中心とが垂直線上に含まれるような配置関係となり、照射軸もこの垂直線上にあるものとなる。
また更に望ましくは、車両の走行方向から見て、速度計測装置1は、車輪8の踏面部とフランジ部分との境界部分に送受信器12が位置するように固定されることが望ましい。当該境界部分と重なるように送受信器12が配置されることによって、照射軸を容易にレール頭頂内端部7dに設定することができる。
そして、上述したように速度計測装置1が取り付けられた車両において、速度計測装置1による速度計測は次のように実施される。
まず、車両に電源が入れられると、速度計測装置1に対しても電源が供給され速度計測が開始される。速度計測装置1による速度計測は、照射波を照射軸に沿って照射し、反射してくる反射波を計測し、この照射波と反射波との周波数変化に基づいて算出される。なお速度計測装置1は、故障等が生じていないかを確認する自己診断機能を有し、起動時にこれを実行するように構成してもよい。
ここで、図4のように速度計測装置1が取り付けられた場合、すなわち、レール頭頂内端部7dの直上に速度計測装置1(送受信器12)が取り付けられた場合、走行中の照射軸は、車両の機能によっては以下の2つの状態を取るものとなる。
まず、第一の状態として、図4に破線で示したように、照射波がレール頭頂内端部7dに対して照射される状態がある。このような照射軸とレール7との位置関係は、レール7(軌道)が直線的に配置されている場合に成立する。すなわち、図4には、照射軸の第一の状態が成立するときの速度計測装置1とレール7との位置関係が示されている。
第一の状態で照射された照射波の場合、レール頭頂内端部7dに当たって反射する成分と、レール底部7bに当たって反射する成分とを含む反射波が計測される。
ここで、レール頭頂部7aにおいて、レール頭頂中央部7cは、車輪8との摩擦によって鏡面化していることが多い。鏡面化の影響により、送受信器12から照射されてレール頭頂中央部7cに到達する照射波は、例えば照射軸が列車の前方に向かう場合、そのまま列車の前方に向かって反射する成分が大きくなりやすい。結果、反射波の強度を十分に得られず計測が不十分となる可能性がある。
しかし、本実施例では、速度計測装置1を図4のように設置することによって、照射波はレール頭頂内端部7dに照査する成分と、レール頭頂内端部7dの更にレール間側を通過する成分を有する。このレール間側を通過した照射波は、レール7の下方部を形成するレール底部7bに到達する。レール底部7bは、日本の普通のレールでは、レール頭頂部7aよりも幅が広い部分として形成され、すなわちZ方向における長さがレール頭頂部7aよりも長い部分として形成される。またレール底部7bは、レール頭頂部7aと異なり車輪8等との接触が無いため、その表面はレール頭頂部7a(例えばレール頭頂中央部7c)よりも粗く、いわゆる粗面としての特性がレール頭頂部7aよりも高い。
その結果、レール底部7bに到達した照射波は、レール頭頂部7a(レール頭頂中央部7c)に到達した照射波に比べて、送受信器12に向かって反射する成分が大きくなる。反射成分が大きくなることで、送受信器12では反射波の周波数計測を実施しやすくなり、レール頭頂部7a(レール頭頂中央部7c)から反射してきた成分が弱くなってしまった場合においても計測を継続することが可能となる。換言すると、図4のように速度計測装置1の照射軸を、鏡面となるレール頭頂部7aの中央(レール頭頂中央部7c)を避けてレール底部7bを含むような位置とすることで、計測速度の精度を維持することができる。
また例えば、一対のレール7についてカントを持たせた区間(以後、曲線区間と称する)を形成するような場合であって、車両床下がカント角と平行となるような車両、例えば車体傾斜の機能(車体傾斜機構)を持っていない車両がカントと平行になる速度で走行する場合や、車体傾斜機能を有して、車両床下とカントを平行にすることができる場合は、レール7上に照射軸が位置するため、レール7と速度計測装置1との相対位置はほぼ一定となり、速度計測装置1による速度計測を継続できる。すなわちカント角を有した一対のレール7と車両床下とが平行を維持可能であれば、第一の状態が成立し、速度計測装置1は速度信号を取得することが可能である。
一方、車体傾斜機構の有無に関わらず、カントを低速で走行した場合や、車体傾斜装置によってカント角以上に車体のロール角を発生させた場合など、レール7が曲線区間を形成する区間においてカント角とロール角の差が大きくなる場合には、走行中の照射軸について、第一の状態に代わって第二の状態が成立する。
図5は、実施例1において照射軸の第二の状態が成立するときの、速度計測装置とレールとの位置関係を説明する図である。
第二の状態は、図5に示されるように、レール7のカント角θ1に対して、車両床下が水平面に対してより大きな傾斜角度(ロール角θ2)を持つ場合に成立する。この場合、車両床下に取り付けられた速度計測装置1は、ロール角θ2に従って傾斜するため、照射軸10はレール頭頂内端部7dからレール頭頂中央部7cの近辺へ変位する。
しかしながら、送受信器12からは照射軸を中心として、円錐状に電磁波が放射されているため、照射軸中心がレール頭頂中央部7cの近辺へ変位しても円錐状に放射される電磁波はレール頭頂内端部7dおよびレール底部7bにも照射することができる。したがって第二の状態が成立する場合も、速度計測装置1は十分な強度の反射波を取得することができるため、速度信号の取得が継続できる。
なお、第二の状態の別態様として、カント角θ1とロール角θ2の差の大きさにより、一基の速度計測装置1の照射軸が、レール7から逸れてしまう可能性がある。図6は、実施例1における第二の状態の別態様を説明するための図である。図6の場合、車両床下の左側に設けられた一基の速度計測装置1aの照射軸10aは、直下のレール7から逸れていることがわかる。本実施例では、このような状況に対応する変形例として、列車の走行方向を正面とした際に、速度計測装置1を車両床下の左側と右側にそれぞれ設けることが有効である。具体的には図6の場合、車両床下の右側にも一基の速度計測装置1bを設ける。なお、このとき、何れの速度計測装置1a、1bも、レール間側(内側)に面したそれぞれのレール頭頂内端部7dに対して照射軸10a、10bが位置するように、車両床下に固定される。
図6に示した上記の変形例のように車両の進行方向に対して車体の左右両方に速度計測装置1a、1bを設ければ、第二の状態の別の態様となって一方の速度計測装置1aの照射波がレール7に当たらなくなった場合でも、他方の速度計測装置1bによって速度信号の計測が可能となる。
なお、上記の変形例のように車両の両側に速度計測装置1a、1bを設ける場合、図3に示したように一基の速度計測装置1が2つの送受信器12a、12bを備えることから、合計で少なくとも4つの送受信器12が速度信号を出力することになる。このとき、列車制御システム100(列車速度算出部21)は、例えばこれらの速度信号から取得される速度を平均化して列車の走行速度として認識することにより、それぞれの送受信器12の間に存在する取り付け公差やアンテナ特性に由来する信号の偏差を吸収することができる。
また、上記の変形例のように左右レール付近の両側に速度計測装置1a、1bを設けた場合、レール7が曲線を形成し、かつカント角θ1とロール角θ2の差が生じるような状況では、何れかの速度計測装置1は正しい計測ができない可能性がある。このような状況への対策として、事前の走行試験等に基づいて曲線区間において信頼性を有する速度信号の範囲を決定しておき、実際に速度計測装置1の各送受信器12で計測された速度信号のうち、信頼性を有する速度信号だけを列車速度の演算に利用するようにしてもよい。
一方、事前の走行試験等により、曲線区間において、照射軸の変位によって速度信号が大きく変動することが確認され、速度演算に利用することは不適当(信頼性を有さない)と判断される場合は、そのような区間では曲線区間において外側に配置される速度計測装置1の信号は演算に利用しないよう制御してもよい。具体的には例えば、車上データベース24に、左側及び右側の速度計測装置1の速度信号のうち、利用してよい区間の情報を登録しておき、走行距離に基づいて現在の走行区間を判断することにより、適宜利用する速度計測装置1を選択するように制御してもよい。
以上、実施例1に係る列車制御システム100について、特に、速度計測装置1の構成や取り付け方法、及び列車制御システム100を実装した鉄道車両に関する速度計測について説明した。
このような実施例1に係る列車制御システム100において、速度計測装置1は、1つの筐体11のなかに二基の送受信器12(12a、12b)を有する。このような構成とすることで、受信用のセンサと送信用のセンサを1つの筐体11に収めることができるため、速度計測装置1の全体コストを抑制する効果に期待できる。また、筐体11には、送受信器12の送受信面に面した側壁が樹脂で構成された窓部14が設けられている。このような構成は、送受信器12の放熱性能の向上と、送受信器12の送受信機能の両立を図ることに有用である。
また、本実施例では、それぞれの送受信器12a、12bを、照射軸が窓部14において交差するように固定することで、窓部14の面積の増大を抑制している。窓部14は樹脂によって構成され、ここに雪等が付着すると送受信機能の感度低下が生じる恐れがあるが、窓部14を小型化することによって、窓部14に雪等が付着する面積を縮小するとともに、窓部14を囲むように設けた融雪ヒータによる加熱が迅速に実行され、雪等の付着による感度低下を効率的に抑制することができる。
また、本実施例では、速度計測装置1を、車両の進行方向から見て車輪8と重なるように配置する、より詳細には車輪8の踏面とフランジ部との境界に重なるように送受信器12を配置することによって、照射軸をレール頭頂部7aのレール頭頂内端部7dに設定することが可能となる。本実施例に係る列車制御システム100では、このように照射軸が設定されることによって、列車が直線区間を走行している際は、速度計測装置1からレール底部7bまたは地面に電磁波を照射することができ(第一の状態)、また、列車が曲線区間を走行している際でも、レール7の内側端部から側面やレール底部7bに電磁波を照射することができる(第二の状態)ため、何れの場合も十分な強度の反射波を得ることができる。すなわち、本実施例に係る列車制御システム100では、レール頭頂中央部7cの鏡面化による反射波の強度低下の影響を抑制しながら速度計測装置1を運用することができ、十分な測定性能を確保しながら連続的に列車速度を計測することを可能とする。
また、本実施例では、車体傾斜機構を搭載した列車、例えば高速鉄道向けの車両においては、列車の進行方向に対して左右両側に速度計測装置1(1a、1b)を設けるようにしてもよい。このような配置を採用することによって、車体のロール角が大きく一方の速度計測装置1aの照射軸がレール7から外れてしまうような場合でも、他方の速度計測装置1bの照射軸がレール7上にあるため、速度信号を継続して取得することができる。
またこのように複数の速度計測装置1a、1bを設けた鉄道車両において、列車制御システム100は、それぞれの速度計測装置1a、1bから送信される速度信号を平均化して列車速度を演算することで、速度計測装置1の取り付けに関する公差に由来する誤差の影響を抑制し、精度のよい速度計測を実行することができる。
また、実施例1に係る列車制御システム100では、速度計測装置1の送受信器12から、レール7だけでなくレール7が敷設された地上に対しても電磁波を照射し得ることから、その反射波の成分を分析することによって、線路環境を推定する用途や、位置を測定する用途にも適用することができる。具体的には例えば、線路環境の推定において、ある走行区間における地上からの反射波の成分が他の走行区間と比べ変化が大きい場合には、橋梁等の存在を推定することができる。
本発明の第2の実施例(実施例2)について説明する。実施例2に係る列車制御システムは、主に速度計測装置1(後述する図7の速度計測装置1c、1d)の配置について実施例1と異なっており、以下ではこの相違点を中心に説明し、実施例1と共通する部分については説明を省略する。
図7は、実施例2における速度計測装置の配置例を説明する図である。図7に示したように、実施例2に係る列車制御システムでは、車両床下の列車の進行方向からみて左右レール付近の何れか片側に、少なくとも二基の速度計測装置1(個別には速度計測装置1c、1d)が設けられる。二基の速度計測装置1c、1dのそれぞれの構造は実施例1の速度計測装置1と同様である。
図7には、実施例2における速度計測装置1c、1dの、直線区間でのレール7との位置関係が示されている。すなわち、図7に示したように、一方の速度計測装置1cは、レール頭頂部7aのうち、レール間に面した側(内側)の端部(すなわち、レール頭頂内端部7d)に照射軸10cが位置するように車両床下に固定され、他方の速度計測装置1dは、レール頭頂部7aのうち、レール間に面していない側(外側)の端部(すなわち、レール頭頂外端部7e)に照射軸10dが位置するように車両床下に固定される。また、各速度計測装置1c、1d(送受信器12)は、レール頭頂部7aの端部(レール頭頂内端部7d、レール頭頂外端部7e)の直上に配置される。
実施例2では、図7のように速度計測装置1(1c、1d)が配置されることで、レール7が直線区間を形成する場合は、実施例1に係る列車制御システム100と同様に、レール頭頂部7aの鏡面化による反射波の強度低下の影響を抑制しながら速度計測装置1を運用することができ、十分な測定性能を確保しながら連続的に列車速度を計測することを可能とする。
さらに実施例2に係る列車制御システムでは、図7のように速度計測装置1(1c、1d)が配置されることで、レール7が曲線区間を形成し、かつ車体傾斜機構によって車体がカント角以上のロール角を持つようになった場合でも(図8のカント角θ1、ロール角θ2を参照)、何れか一方の速度計測装置1による照射軸中心がレール7に向かって照射され、照射軸中心から円錐状に放射される電磁波は、レール頭頂端部7dまたは7eおよびレール底部7bにも照射することができるため、計測精度を維持することが可能となる。
ここで、図8は、実施例2における速度計測装置の曲線区間における状態を説明するための図である。図8(A)は、レール間の外側に向けてカントが設けられた曲線区間における状態例であり、図8(B)は、レール間の内側に向けてカントが設けられた曲線区間における状態例である。
例えば図8(A)の場合、直線区間(図7参照)においてレール頭頂内端部7dを向いていた内側の速度計測装置1cからの電磁波の照射先(照射軸10c)は、車体の傾きであるロール角θ2により、鏡面化したレール頭頂中央部7c近辺に移っている。しかしながら、送受信器12からは照射軸を中心として、円錐状に電磁波が放射されているため、照射軸中心がレール頭頂中央部7cの近辺へ変位しても円錐状に放射される電磁波はレール頭頂内端部7dおよびレール底部7bにも照射することができる。そのため、速度計測装置1cは、図8(A)の照射軸10cに沿って照射した電磁波から十分な強度の反射波を確保することができ、速度信号を取得することができる。
また、図8(A)の場合、直線区間でレール頭頂外端側7eを向いていた外側の速度計測装置1dからの電磁波の照射先(照射軸10d)は、ロール角θ2により、レール頭頂外端部7eから逸れるが、その照射波は、外側のレール底部7bに到達する。また、照射軸中心はレール頭頂外端部7eから外れるものの、円錐状に放射された電磁波はレール頭頂外端部7eおよびレール底部7bにも照射することができる。このため、速度計測装置1dにおいても、鏡面化したレール頭頂中央部7cの領域を避けた照射波の送信が実行されることにより、図8(A)の照射軸10dに沿って照射した電磁波から十分な強度の反射波を確保することができ、速度信号を取得することができる。
以上のことから、図8(A)の場合、少なくとも何れか一方の速度計測装置1による照射がレール7に向かって照射され、十分な強度の反射波成分を受信することができるため、実施例2に係る列車制御システム(例えば列車速度算出部21)による列車速度の算出において計測精度を維持することが可能となる。
また、図8(B)の場合は、速度計測装置1c、1dによる照射先が図8(A)とは逆方向に移動することになるが、図8(A)と同様に、少なくとも何れか一方の速度計測装置1によってレール7に対して鏡面化されたレール頭頂中央部7cの領域を避けて照射することが可能である。したがって、十分な強度の反射波成分を受信することができ、実施例2に係る列車制御システム(例えば列車速度算出部21)による列車速度の算出において計測精度を維持することが可能となる。
なお、車両の片側に複数の速度計測装置1(1c、1d)を集約して設置する実施例2の配置に関して、速度計測装置1c、1dの車両の走行方向における設置位置は、同じであってもよいし、異なるものであってもよい。すなわち、実施例2に係る列車制御システムでは、少なくとも列車の走行方向において左右いずれかの車両床下に複数の速度計測装置1(1c、1d)が設けられていればよく、具体的には例えば、車両の進行方向において、例えば車両床下の中央側に位置する速度計測装置1(図7の場合、速度計測装置1c)を車両の前方に設置し、車両床下の外縁側に位置する速度計測装置1(図7の場合、速度計測装置1d)を車両の後方に設置する等としてよい。
そしてこのように実施例2に係る列車制御システムにおいて複数の速度計測装置1(1c、1d)を車両の走行方向について前後にずらして配置する場合には、列車速度の計測精度を維持しながら、速度計測装置1の設置自由度を向上させることができる。
また、実施例2に係る列車制御システムの派生例として、二基の速度計測装置1c、1dに代えて、二対四基の送受信器12を有する速度計測装置を採用するようにしてもよい。このような構成とする場合、設置が必要な速度計測装置の個数が一基になることから、速度計測装置の取付け工数を半減することができる。
本発明の第3の実施例(実施例3)について説明する。実施例3に係る列車制御システムは、主に速度計測装置1(後述する図9の速度計測装置1e、1f)の配置について実施例1、2と異なっており、以下ではこの相違点を中心に説明し、実施例1または実施例2と共通する部分については説明を省略する。
図9は、実施例3における速度計測装置の配置例を説明する図である。図9に示したように、実施例3に係る列車制御システムでは、図7に示した実施例2の速度計測装置1(1c、1d)と同様に、車両床下の列車の進行方向からみて左右レール付近の何れか片側に、少なくとも二基の速度計測装置1(個別には速度計測装置1e、1f)が設けられる。但し、実施例3に係る列車制御システムでは、少なくとも二基の速度計測装置1(1e、1f)の照射軸10(個別には照射軸10e、10f)の態様が実施例2とは異なっている。
具体的には、図9に示したように、車両床下の中央側に配置された速度計測装置1eは、照射軸10eがレール頭頂部7aのうちレール間に面していない側(外側)の端部、すなわちレール頭頂外端部7eに位置するように構成される。一方、車両床下の外縁側に配置された速度計測装置1fは、照射軸10fがレール頭頂部7aのうちレール間に面している側(内側)の端部、すなわちレール頭頂内端部7dに位置するように構成される。換言すると、実施例3では、列車の進行方向から見た場合に、二基の速度計測装置1e、1fのそれぞれの照射軸10e、10fが交差するように、速度計測装置1e、1fが取り付けられる。また、各速度計測装置1e、1f(送受信器12)は、レール頭頂部7aの端部(レール頭頂内端部7d、レール頭頂外端部7e)の直上に配置される。
実施例3に係る列車制御システムは、図9のように速度計測装置1(1e、1f)が配置されることで、レール7が直線区間を形成する場合は、実施例1、2に係る列車制御システム100と同様に、レール頭頂中央部7cの鏡面化による反射波の強度低下の影響を抑制しながら速度計測装置1を運用することができ、十分な測定性能を確保しながら連続的に列車速度を計測することを可能とする。
さらに実施例3に係る列車制御システムでは、図9のように速度計測装置1(1e、1f)が配置されることで、レール7が曲線区間を形成する際に、実施例2と比較して、照射波をレール底部7bに到達させることは難しくなるものの、車体のロール角(図10のロール角θ3を参照)が実施例2の想定よりも更に大きくなった場合でも、少なくとも何れか一方の速度計測装置1(1e、1f)がレール頭頂部7aに到達するため、円錐状に放射される照射波はレール頭頂内端部7dまたはレール頭頂外端部7eに照射しやすく、計測精度を維持しながら列車速度を計測可能な範囲を拡大することができる。
ここで、図10は、実施例3における速度計測装置の曲線区間における状態を説明するための図である。図10(A)は、図面の左側に向けてカントが設けられた曲線区間における状態例であり、図10(B)は、図面の右側に向けてカントが設けられた曲線区間における状態例である。なお、図10(A)、(B)において、軌道(レール7)のカント角は図8(A)、(B)と同じθ1とし、車体のロール角は図8(A)、(B)のθ2よりも大きなθ3としている。
図10(A)、(B)を参照しながら、実施例3における電磁波の照射軸とその反射波について確認する。
まず図10(A)の場合、直線区間(図9参照)においてレール頭頂外端側7eを向いていた内側の速度計測装置1eからの電磁波の照射先(照射軸10e)は、車体の傾きであるロール角θ3により、レール底部7bを超えてレール7の外側に逸れている。このとき、速度計測装置1eは、照射軸10eに沿って照射した電磁波から十分な強度の反射波を得ることは難しい。しかしその一方で、外側の速度計測装置1fからの電磁波の照射先(照射軸10f)は、ロール角θ2による影響を受けても、レール頭頂部7aに留まっている。他の実施例で前述したように、レール頭頂部7aのうち、レール頭頂中央部7cは鏡面化されているため、照射軸中心の反射波成分における電磁波の強度は低下するが、円錐状に放射される照射波はレール頭頂内端部7dまたはレール頭頂外端部7eに照射しやすいため、速度計測装置1fは、照射軸10fに沿って照射した電磁波から十分な強度の反射波を得ることができる。したがって、図10(A)の場合、実施例3に係る列車制御システムでは、速度計測装置1fが取得した速度信号を用いることにより、十分な計測精度を維持しながら列車速度を計測することができる。
また、図10(B)の場合は、図10(A)とは逆に、外側の速度計測装置1fからの電磁波の照射先(照射軸10f)が、レール底部7bを超えてレール7の外側に逸れるものの、内側の速度計測装置1eからの電磁波の照射先(照射軸10e)が、レール頭頂部7aに留まっている。他の実施例で前述したように、レール頭頂部7aのうち、レール頭頂中央部7cは鏡面化されているため、照射軸中心の反射波成分における電磁波の強度は低下するが、円錐状に放射される照射波はレール頭頂内端部7dまたはレール頭頂外端部7eに照射しやすいため、図10(B)の場合、実施例3に係る列車制御システムでは、速度計測装置1eが取得した速度信号を用いることにより、十分な計測精度を維持しながら列車速度を計測することができる。
以上のように、実施例3に係る列車制御システムでは、二基の速度計測装置1e、1fの照射軸10e、10fが交差するように取り付けられることにより、実施例2よりも大きなロール角においても、計測精度を維持しながら列車速度を計測可能な範囲を拡大することができる。また、振り子台車等の車体傾斜機構を搭載していない車両においても、実施例3の速度計測装置1(1e、1f)を設置することによって、レール頭頂部7aの側端部(レール頭頂内端部7dやレール頭頂外端部7e)に対する照射を確保することができるため、設置面積が限られた場合であっても十分な計測精度を維持しながら列車速度を計測することができる。
本発明の第4の実施例(実施例4)について説明する。実施例4では、速度計測装置1の構造や配置等について詳細に説明する。但し、上述した実施例1~実施例3の何れかと共通する部分については説明を省略することがある。
図11、図12は、実施例4におけるミリ波センサ筐体の設置パターンを説明するための図(その1、その2)である。
図11は、送受信器12からの電磁波を、レール7ではなく、レール7に並行して1対2本のレール内外軌に設置されて車両の脱線を防止する脱線防止装置44に対して照射する例を示している。また、図12は、送受信器12からの電磁波を、レール7ではなく、レール7に並行して1対2本のレール内外軌に設置されて車両が脱線した場合に、軌道から逸脱することを防止する逸脱防止装置45に対して照射する例を示している。図11や図12に示した場合のように、1対2本のレール内外軌に設置されて車両の脱線を防止する脱線防止装置44又は逸脱防止装置45の端部に対して、送受信器12から電磁波が照射されるように、樹脂製窓部14a及び送受信器12の枕木方向(Z方向)の中心が、列車の高さ方向(Y方向)に一直線上で配置される方法でもよい。脱線防止装置44や逸脱防止装置45は、レール7と車輪8の接触がないため摩耗による鏡面化が発生せず、レール7に対して概ね並行に設置されることから、安定的に大きな反射成分を得ることができ、送受信器12では反射波の周波数計測を実施しやすくなる。
本発明の第5の実施例(実施例5)について説明する。実施例5では、速度計測装置1の構造や配置等について詳細に説明する。但し、上述した実施例1~実施例4の何れかと共通する部分については説明を省略することがある。
図13~図16は、実施例5における送受信器及びミリ波センサ筐体の配置例を説明するための図(その1~その4)である。
まず、筐体11は、図13(A)に示したように、車両の少なくとも一部の底床を塞いで設けられる床下フサギ板31と締結して固定する方法や、図13(B)に示したように、車両床構体に取り付けた吊枠32と締結して固定する方法で艤装することができる。しかし、筐体11を列車の進行方向(X方向)に対して水平に固定することは、艤装上困難である。
しかし、筐体11が列車の進行方向(X方向)に対して水平ではない場合、図14に示すような筐体取付角度γ(単に、取付角度γとも称する)が発生し、送受信器12から照射する電磁波の入射方向角度θに筐体取付角度γが加わる。つまり、上述した式1において入射方向角度θを一定の角度として規定しているにも関わらず、筐体取付角度γの変化分だけ、1次反射波(ミリ波センサとレール軌道面のX1、X2で照射・反射する電磁波)と2次反射波の双方で電磁波の照射及び反射角度が常に異なる状態となるため、走行条件や2次反射角度の影響によらず、常に一定の計測速度誤差を生じることになる。
そこで、2つの送受信器12a、12bは、列車の走行方向(X方向)に前後で並ぶように車両床下に取り付け、樹脂部材で形成された窓部14(樹脂製窓部14a)の中心に対して対称となる位置に固定する。
これにより、筐体11に取付角度γが生じた場合、それぞれの送受信器12a、12bが取得した速度は、互いに入射方向角度θに取付角度γを加えた結果となるが、筐体内で固定されたそれぞれの送受信器12a、12bは、筐体11の取付角度γを符号を反転して有することとなる。つまり、最終的なATC装置2での速度演算において、1つの筐体内に収納した2つの送受信器12a、12bは、筐体11の取付角度γに対する計測速度誤差を相殺することができる。なお、本実施例では速度計測装置1とATC装置2を接続し、ATC装置2で列車速度を演算する方法を説明するが、ATC装置2に限らず列車速度を使用する装置または、列車速度を一括で管理し、列車速度を使用する装置へ送信する速度計測装置1と列車速度を使用する機器を中継する機器でもよい。また、それぞれの送受信器12a、12bが取得した速度に対する演算は、最終的な1つの列車速度を算出する方法であればよい。
速度計測装置1は、実環境においてレール及び軌道面に照射した電磁波がレール及び軌道面に反射する場合、図15のように電磁波の一部は散乱して車両の床面のY1、Y2に到達する。ここで、散乱した電磁波が到達した車両床面が車両機器、または車両床構体である場合、電磁波が到達する車両床面の車両機器や車両床構体等が図15に示すように列車の進行方向(X方向)と枕木方向(Z方向)に対して水平ではない場合、散乱した電磁波は、車両機器または床構体下面の形状に応じて或る角度を有した反射波となる。その後に反射波は、図15に示すZ1、Z2へ或る角度を有して入射し、その反射波(2次反射)は車両床下のY1、Y2及びレールと軌道面のX1、X2を介して送受信器により取得する。なお、図16に示すように、車両床下(床構体)への反射波が先の構造体に入射しない角度である場合は、車両床下への反射波のみをレール7と軌道面のX1、X2を介して送受信器により取得することとなる。したがって、特許文献3に記載される通り、照射する電磁波の入射方向角度θを規定しても、散乱した一部の電磁波の入射方向角度θが、反射する車両床面の傾きに起因して式1の入射方向角度θが変化することにより、計測速度に速度計測装置1の設置方法に起因した誤差を生じることとなる。
この課題は、図15に示すように規定する入射方向角度θを小さくすることで、式1の定数の変化率を小さくし、入射角度θの変化に対する計測速度誤差を抑制することができる。速度計測装置1の計測速度誤差は、列車制御の安全性に関わるATC装置2で使用するため、使用する列車の最高速度に対して1km/h以内(例えば、列車の最高速度が300km/hである場合、1km/hまでの計測速度誤差であると、計測速度誤差の割合は0.3%以内)とする必要がある。図15に示すように2次反射角度をσとするとき、2次反射を含む計測速度vは、以下の式2の関係式で表される。
上記の式2によれば、例えば散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2が、列車の進行方向(X方向)に対して水平な状態から、0.2°の2次反射角度σを有する場合、列車の最高速度が300km/hであれば、入射方向角度θは40°に設定する必要がある。したがって、入射方向角度θが45°の場合では、2次反射角度の許容値が0.2°以下となり、図13に示すように、車体艤装の観点から平滑な構造体を設置する場合でも、2次反射角度σを0°とすることは困難であるため、入射方向角度θを小さくする必要がある。具体的には、入射方向角度θを、20°≦θ≦40°とすることで、2次反射角度σの変化を防止する平滑な構造体を、一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に設置する場合でも、車体艤装に起因して発生する2次反射角度σの許容範囲を確保できる。なお、本実施例では、列車の進行方向(X方向)に対する影響を記載したが、列車の進行方向(X方向)のみに限られるものではない。
つづいて、散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に設置する平滑な構造体について説明する。図17は、列車を組成している一車両の側面図である。また、図18は、実施例5において地点Y1、Y2に設置する平滑な構造体を説明するための図であり、図19は、曲線走行時における車両の状態を説明するための図である。
図17に例示したように、列車を組成している車両40の床下には、様々な機器(台車41a、41b、機器箱42、配管43等)が搭載されており、機器箱の形状が均一ではないことや、床下フサギ板を配置していない、または床下フサギ板を配置しても、床下フサギ板が平滑構造ではない車両が多く存在する。そのため、図18に示すように散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に対してのみ平滑板33を配置して2次反射角度の影響を防止し、それ以外の車両床下には艤装上の制約を課さない構造でよい。具体的には、散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2へ列車の進行方向(X方向)と枕木方向(Z方向)に対して水平な平滑板33を配置し、平滑板33で反射した後の反射波は、送受信器12a、12bから被照射面のレール及び軌道面に向けて照射される電磁波と近似する角度でZ1、Z2に到達するため、上述した式2における2次反射角度σの変化は車体艤装に起因した2次反射角度の変化σのみとなり、式1と式2との差異を最小限に低減することから、計測誤差を抑制することができるものである。なお、平滑板33は、例えば板状の部材であるが、平滑な構造体であればその材質や大きさ等を限定されるものではない。但し、平滑板33は、車両床下に設置された際に、少なくともレール7側(すなわち、照射波および反射波が当たる側)において平面形状を形成する構造体であることを条件とする。
送受信器12(12a、12b)は、アンテナの外に配置される集束レンズがあり、照射波は或る角度を有した列車の進行方向(X方向)に長い楕円の円錐状になる。また、送受信器12のアンテナから照射する電磁波の電波強度は、照射波の照射軸が最大であり、照射軸から離れた位置ほど電波強度が小さくなる。したがって、照射軸から離れた電波強度が最も小さい最外周へ近づくにつれて、電磁波の照射面積に対する電波強度の比率が非常に小さく、2次反射角度σの変化に対して計測速度に与える影響は僅かであると言えるため、計測速度に影響を与える2次反射角度防止の平滑板33は、照射軸中心近辺の電波強度が大きい領域のみを対象とすれば良いと言える。
但し、図19のように列車内の車両40は、曲線を走行時に走行速度や、意図的に車体のロール角度を変化させて制御する車体傾斜装置(不図示)により、カント角度δ1と車体のロール角度δ2とが異なるため、被照射面のレール7と軌道面を含むX1、X2は、カント角度δ1と車体のロール角度δ2とが同一である場合と比較して、床下フサギ板に反射する電磁波の位置は変化する。つまり、カント角度δ1と車体ロール角度δ2との間に角度差δ3が生じても、電波強度の大きい領域が平滑板33に反射すればよく、実際の計測結果によれば、カント角度δ1と車体ロール角度δ2との角度差δ3は、「-2°≦δ3≦2°」の範囲を対象とすればよい。ここで、例えばカント角度δ1と車体ロール角度δ2との角度差が2°である場合、電波強度50%の大きい領域は、枕木方向(Z方向)に対して31mm変位するため、平滑板33の大きさは、カント角度δ1と車体ロール角度δ2とが同一である場合の電磁波照射位置よりも枕木方向(Z方向)に対して31mm広げた面積を確保すればよく、筐体11を挟んで、列車の進行方向(X方向)に左右1カ所ずつの平滑板33を配置することで、曲線通過時においても2次反射角度の影響を防止できる。
なお、平滑板33は、筐体11を挟んで、2つのミリ波センサ(送受信器12a、12b)の2次反射角度変化を防止するよう、列車の進行方向(X方向)に左右1カ所ずつ配置すれば良く、車両に搭載されている台車41aと台車41b(図17参照)との間へ、列車を組成している車両40を跨いで一方の車両40へ筐体11を配置し、筐体11を挟んで、列車の進行方向(X方向)にそれぞれの車両40へ平滑板33を配置する方法でも良い。これにより、筐体11と平滑板33の設置に対する艤装上の制約を最小限に抑え、さまざまな車両床下形状の車両40へ対応が可能となる。
本発明の第6の実施例(実施例6)について説明する。実施例6では、速度計測装置1の配置場所に関して実施例5と相違する。なお、上述した他の実施例と共通する部分については説明を省略する。
図20~図22は、実施例6における速度計測装置の配置を説明するための図である。図20に示したように、実施例6では、速度計測装置1が機器箱42内に収納される。図20では、速度計測装置1(2つのミリ波センサ)から照射されて散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2を、速度計測装置1が搭載される機器箱42の底部とする。
なお、本実施例で速度計測装置1を収納する機器箱42は、ATC装置や主回路装置やブレーキ装置等のように速度計測装置の列車速度を制御するために使用する機器以外に、速度計測装置1の列車速度を、制御に使用する機器へ伝送する車両情報制御装置や配電盤などが搭載されていればよい。これにより、速度計測装置1は、使用または伝送する機器と同一の機器箱に収容されることとなるため、ノイズの影響を受けにくく、伝送距離も短くなることから、伝送不良に起因した計測速度の途絶が防止できる。
また、本実施例によれば、カント角度δ1と車体ロール角度δ2が発生し、電磁波が到達する地点Y1、Y2が枕木方向(Z方向)に変位した場合でも、比較的大きい機器箱底部の平滑面によって、散乱した一部の電磁波が到達するY1、Y2の面を網羅的にカバーできるため、2次反射角度σの変化を最小限に抑制できる。また、底部の平滑な機器箱42を活用することで、2次反射角度σにおける平滑板33(実施例5参照)の設置を不要とすることができるため、艤装の制約を最小限とすること以外に速度計測装置1の取付け及び平滑板33の取付けに対するコストを最小に抑えることもできる。
なお、図20では1つの速度計測装置1を1つの機器箱42へ搭載する方法を記載したが、本実施例において速度計測装置1の配置に機器箱42を活用する方法はこれに限定されるものではない。以下に変形例を説明する。
図21は、実施例6における速度計測装置の配置の第1の変形例を説明する図である。図21には、第1の変形例で配置された速度計測装置1(1a、1b)とレール7との関係が示されており、図21(A)は列車の進行方向から見たイメージ、図21(B)はレール7の上方から見たイメージとなっている。
図21に示したように、第1の変形例では、2つの速度計測装置1a、1b(筐体11a、11bと読み替えてもよい)を、それぞれ別の機器箱42a、42bに収納する。このように配置した場合、艤装に制約が厳しい車両床下であっても、機器箱42a、42bに分散して搭載することで、直線及び曲線走行にも対応した速度計測が可能となる。
図22は、実施例6における速度計測装置の配置の第2の変形例を説明する図である。図22には、第2の変形例で配置された速度計測装置1(1c)とレール7との関係が示されており、図22(A)は列車の進行方向から見たイメージ、図22(B)はレール7の上方から見たイメージとなっている。なお、図22に示した速度計測装置1cは、筐体11のなかに、送受信器12a、12bが2組搭載されている点で、これまでの速度計測装置1cの構成と相違する。
図22に示したように、第2の変形例では、機器箱42cが枕木方向(Z方向)にレールを跨ぎ、枕木方向(Z方向)に送受信器12a、12bを2組並べた筐体11が機器箱42cに収納できる場合の収納例である。このように配置した場合、1つの筐体11によって直線及び曲線走行にも対応した速度計測を行うことが可能となる。
なお、本実施例では他にも例えば、平滑板33の代わりに機器箱42底部を活用する等としてもよい。
本発明の第7の実施例(実施例7)について説明する。実施例7では、速度計測装置1から散乱した少なくとも一部の電磁波を吸収する電波吸収材34が配置される点で上述した実施例と相違する。なお、他の実施例と共通する部分については説明を省略する。
図23は、実施例7における速度計測装置の周辺配置を説明するための図である。図23に示したように、実施例7では、速度計測装置1(2つのミリ波センサ)から照射されて散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に、電波吸収材34が配置される。このように配置された電波吸収材34は、反射波がその後に到達するZ1、Z2への照射を防止する。
ミリ波センサから照射された電磁波による2次反射波の影響は、一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2で2次反射角度σが変化することから生じるため、本実施例のように変化する2次反射角度σそのものを除去する役割を有した電波吸収材34を配置することで、送受信器12a、12bは、送受信器12a、12bから被照射面のレール及び軌道面に向けて照射された反射波のみを取得し、計測速度の精度を向上することができる。なお、電波吸収材34は、一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に配置できれば、車両40に設置されている床下フサギ板31や機器箱42の底部または側面に取り付ける方法でもよく、取付ける母材の形状は問わない。また、電波吸収材34は、照射軸中心付近の電力50%領域に対して網羅すればよいが、曲線のカント角度δ1と車体ロール角度δ2との角度差δ3に対する電波強度の大きい変位量は網羅する配置とすることが好ましい。
本発明の第8の実施例(実施例8)について説明する。実施例8では、速度計測装置1から散乱した一部の電磁波を透過する電波透過材35が配置される点で上述した実施例と相違する。なお、他の実施例と共通する部分については説明を省略する。
図24は、実施例8における速度計測装置の周辺配置を説明するための図である。図24に示したように、実施例8では、速度計測装置1(2つのミリ波センサ)から照射されて散乱した一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に、電波透過材35が配置される。このように配置された電波透過材35は、実施例7の電波吸収材34と同様に反射波がその後に到達するZ1、Z2への照射を防止する。
ミリ波センサから照射された電磁波による2次反射波の影響は、一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2で2次反射角度σが変化することから生じるため、本実施例のように変化する2次反射角度σそのものを除去する役割を有した電波透過材35を配置することで、送受信器12a、12bは、送受信器12a、12bから被照射面のレール及び軌道面に向けて照射される電磁波のみを取得し、計測速度の精度を向上することができる。但し、電波透過材35を通過した電磁波が車体床下で乱反射し、再度電波透過材35を通過した電磁波を送受信器12、12bが取得しないように、電波透過材35は電磁波を減衰できる材料に限定される。
ここで、電波透過材35による電磁波の減衰について説明する。最初に電波透過材35に照射する電磁波をE1とし、電波透過材35を1回透過した後の電磁波をE2とする。さらに、電磁波E1が電波透過材35を透過した後に反射波が再び電波透過材35を通過した後の電磁波をE3とする。このとき、電磁波E3、E2と電波の透過率ηとの関係は、以下の式3、式4で表される。
上記の式3、式4によれば、電波透過材35が有する透過率の2乗だけ、透過する電磁波は減衰することになる。つまり、再透過後の電磁波E3が、照射軸から外れた電力100%に相当するまで低減する材料の選定を行えばよいと言える。
なお、電波透過材35は、一部の電磁波が到達する地点Y1、Y2に配置できれば、車両40に設置されている床下フサギ板31や機器箱42の底部または側面に取り付ける方法でもよい。さらに言えば、電波透過材35は、乱反射による再透過後の電磁波E3の影響を防止するため、一定の減衰が必要となることから、比較的小さい2次反射波が発生する。したがって、取付ける母材の形状は列車の進行方向(X方向)と枕木方向(Z方向)に対して、水平であることが望ましい。また、電波透過材35は、照射軸中心付近の電波強度の大きい領域に対して網羅すればよいが、曲線のカント角度δ1と車体ロール角度δ2との角度差δ3に対する電波強度の大きい領域の変位量は網羅する配置とすることが好ましい。
以上、本発明について複数の実施例を挙げて具体的に詳細な説明を行った。しかし、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で自由に変更することができる。またそれぞれの実施例は互いに独立して実施してもよいし、それぞれを一つの列車に併用することも可能である。また速度計測装置1が利用する電磁波は、いわゆるミリ波を採用した例を挙げたが、これに限られず他の周波数帯域を利用してもよい。
また、上述した各実施例で用いた速度計測装置1と合わせて、速度発電機やパルスジェネレータを利用した速度計測機構を利用することも可能である。例えば速度発電機やパルスジェネレータの出力をATC装置2に入力して制限速度等の演算を実行し、速度計測装置1によって取得される速度信号をATC装置2とは別に設けられた車上モニタリング装置等に入力して速度発電機やパルスジェネレータの故障検知に利用する等してもよい。
また、上述した各実施例においては、電磁波の照射先としてレール頭頂内端部7dやレール底部7bを選択したが、場合によっては、鏡面化していないレールのその他の部分や、レール脇の地面に向かって照射するように構成してもよい。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に置くことができる。
また、図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。