上記従来の磁気センサMSにおいて、中点O11が、バイアス磁石BMの第1面(又は第2面)の中心点に対向していない場合(両者がずれている場合)には、GMR素子Ra~Rdの平面内において、GMR素子Ra,Rdに印加されるバイアス磁界の強度と、GMR素子Rb,Rcに印加されるバイアス磁界の強度が異なる。そのため、歯車が回転した際のブリッジ回路の出力信号の波形が正弦波状ではなく、少し歪んでしまう。歯車の回転の検出精度を高くするために、GMR素子Ra~Rdに対するバイアス磁石BMの配置精度を高く保つ必要があり、磁気センサMSの製造コストが高い。
また、一般に、GMR素子Ra~GMR素子Rdの電気抵抗値は、印加された磁界の強度が「0」であるとき最も大きい(図12参照)。そして、磁界の強度が大きくなるに従って徐々に電気抵抗値が減少する。同図に示すように、磁界の強度の所定の範囲において、電気抵抗値の変化率は略一定である。すなわち、磁界の強度の変化に対する電気抵抗値の変化が直線的(線形)である。磁界の強度が前記所定値を超えると、電気抵抗値の変化率が徐々に減少し、磁界強度を変化させても電気抵抗値がほとんど変化しなくなる(飽和する)。
上記のように、特許文献1の磁気センサMSにおいては、GMR素子Ra~Rdにバイアス磁界を印加している。すなわち、GMR素子Ra~Rdの電気抵抗値が、その変化範囲の中間値(最大値と最小値の間の値)に設定されている。そして、歯車の回転に伴い、バイアス磁界の強度が変化し、GMR素子Ra~Rdの電気抵抗値が略正弦波状に変化して、前記フルブリッジ回路から正弦波状の電気信号(電圧)が出力される。
ここで、GMR素子Ra~Rdに印加されるバイアス磁界の強度の変化を大きくすれば、出力信号の振幅が大きくなる。たとえば、GMR素子Ra~Rdと磁性体とのギャップを比較的小さく設定すると、出力信号の振幅が大きくなる。ただし、GMR素子Ra~Rdに印加されるバイアス磁界の強度が変化した際に、電気抵抗値があまり変化しない領域(飽和領域)では、出力信号が正弦波状ではなく、その波形が歪む。したがって、この場合には、歯車の回転検出精度が低下する。
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、その目的は、製造コストを低減するとともに、検出精度を良好にした磁気センサを提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
前述した目的を達成するため、本発明に係る磁気センサ(1、2)は、所定の第1方向に平行且つ当該第1方向に直交する第2方向に平行な平板状の一対の永久磁石であって、前記第1方向に垂直且つ前記第2方向に垂直な第3方向に離間していて、前記第2方向における一端部がN極に磁化され、前記第2方向における他端部がS極に磁化されている一対の永久磁石を含み、前記一端部又は前記他端部から離間していて前記第1方向へ延びる所定の空間の磁界強度が、その周囲の領域の磁界強度よりも小さくなるように、前記所定の空間に互いに反対方向へ向かう磁界を印加する磁界形成手段(13)と、少なくとも一対の巨大磁気抵抗効果素子(122a~122d、222a~222d)であって、印加された磁界の強度が増大するに従って、その電気抵抗値が減少する巨大磁気抵抗効果素子が、前記所定の空間内における前記第3方向に対して垂直な所定の平面内にて所定の第1方向へ所定の第1距離だけ隔てて配置されるとともにブリッジ接続された電気回路と、を備え、磁性体(G)との距離に応じた信号を出力する。
本発明の一態様において、 前記磁界形成手段は、前記第2方向に延びる、角筒状の永久磁石であって、その軸方向における一端面がN極に磁化され、他端面がS極に磁化されている永久磁石であり、前記電気回路が、前記筒状に形成された磁界形成手段の内側に収容されている。
本発明の一態様において、前記一対の巨大磁気抵抗効果素子は、前記第2方向に延びる線状部を有するグラニュラ薄膜から構成されている。
本発明の一態様において、前記第1方向に移動する少なくとも1つの凸部又は凹部を有する磁性体の動作の検出に適用される。
上記の本発明に係る磁気センサが磁性体の近傍に配置されていない状態において、巨大磁気抵抗効果素子に印加される磁界強度が比較的小さく、巨大磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が比較的大きい。そのため、磁気センサに磁性体が近づけられ、そのギャップ(距離)が比較的小さくなったとしても、巨大磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が飽和し難い。よって、本発明に係る磁気センサを用いた場合には、出力信号波形が歪み難く、磁性体を高精度に検出できる。
また、磁気センサの近傍に磁性体が配置された場合には、磁気センサに対して印加される磁界であって磁性体の方向へ向かう磁界の強度がより大きくなる。その結果、磁気センサと磁性体との距離(ギャップ)が小さいほど、磁気センサの大きな出力が得られる。
また、磁界形成手段として永久磁石を用いた場合に、反対方向へ向かう磁界によって磁力が弱められた領域内では、位置に応じて磁界の向きが大きく異なるが、その強度が略同一になる傾向にある。したがって、印加された磁界の強度が増大するに従って、その電気抵抗値が減少するという特性を有する巨大磁気抵抗効果素子に対しては、磁界形成手段の配置精度が多少低くても、電気抵抗値の変動(ずれ)を抑制できるため、磁気センサによる磁性体の検出精度を高く保つことができる。よって、磁気センサの製造コストを低減できる。
本発明の一態様において、前記所定の平面内にそれぞれ配置された、2組の前記電気回路を備え、前記2組の電気回路が前記第1方向へ所定の第2距離だけずれるように配置されている。
これによれば、磁性体で構成された凹凸部を前記第1方向に平行な方向へ移動させた場合、位相のずれた2つ(2相)の出力信号波形が得られる。この2つの信号波形に基づく演算処理により、前記凹凸部の位置を高精度に検出可能である。
また、本発明の一態様において、前記電気回路の電気抵抗値が極大となるように、前記磁界形成手段に対して前記電気回路が配置されている。
前記電気回路を構成する巨大磁気抵抗効果素子に印加される磁力の強さに応じて、前記電気回路の電気抵抗値が変化する。そのため、磁界形成手段の近傍にて、前記電気回路を移動させると、前記電気回路の電気抵抗値が変化する。その電気抵抗値の変化に基づいて、磁界形成手段における磁力が弱められた領域を容易に検出できる。これによれば、磁界形成手段に対する前記電気回路の位置及び姿勢を容易に決定できる。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。本発明の第1実施形態に係る磁気センサ1は、図1乃至図3に示すように、チップパッケージ11、センサチップ12及びバイアス磁石13を備える。
チップパッケージ11は、エポキシ樹脂により、略長方形の板状に構成された樹脂封止部を含む。以下の説明において、チップパッケージ11の長辺の延設方向を前後方向と呼び、チップパッケージ11の短辺の延設方向を上下方向と呼ぶ。さらに、チップパッケージ11の板厚方向を左右方向と呼ぶ。
チップパッケージ11は、図3及び図4に示すように、アイランド部111、及びリードフレーム部112a~112dを含む。これらの部位は、左右方向に対して略垂直な薄板部である。これらの部位は、非磁性の導電体材料(例えば、銅板)で形成されている。
アイランド部111は、前後方向に延びる長方形を呈し、チップパッケージ11の下半部に配置されている。アイランド部111の長辺及び短辺は、チップパッケージ11の長辺及び短辺に対してそれぞれ平行である。
リードフレーム部112a~112dは、鉤型形状を呈し、それらの下縁部をアイランド部111の上縁部より少し上方に位置させ、それらの上端部をチップパッケージ11の上面から上方へ突出させている。なお、図1乃至図3において、リードフレーム部112a~112dの形状を簡略化している。
アイランド部111の表面(右面)に、センサチップ12が固定されている。センサチップ12は、シリコン、ガラス、セラミックなどの絶縁体材料で略長方形の板状に構成された絶縁基板121を備えている。絶縁基板121の短辺の長さL1が1.05mmに設定され、長辺の長さL2が1.8mmに設定されている(図5参照)。また、絶縁基板121の厚みが0.25mmに設定されている。この絶縁基板121は、その長辺及び短辺をチップパッケージ11の長辺及び短辺とそれぞれ平行にして、ダイボンド材によりアイランド部111の上面に固着されている。
絶縁基板121の表面には、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)122a~122d及び電極123a~123dが配置されている。GMR素子122a~122dは、Ag-FeCoからなる線状のグラニュラ薄膜で構成されており、絶縁基板121の表面にスパッタリング法を用いてグラニュラ薄膜を成膜することにより、絶縁基板121上に形成されている。GMR素子122a,122dは絶縁基板121の表面における後側部分に設けた長方形領域121aに成膜され、GMR素子122b,122cは絶縁基板121の表面における前側部分に設けた長方形領域121bに成膜されている。長方形領域121a,121bの形状及び大きさは同一であり、上下方向の長さが前後方向の長さよりも大きく設定されている。長方形領域121a,121bの上下方向の位置は同一である。すなわち長方形領域121a,121bの下辺から絶縁基板121及びチップパッケージ11の下辺までの距離は同一であり、長方形領域121a,121bは絶縁基板121の前後方向における中心を通り上下方向に延びる中心線CL1に関して前後対称位置に配置されている。これらの長方形領域121a,121bの長辺の長さL3が0.48mmに設定され、短辺の長さL4が0.3mmに設定されている。また、長方形領域121a及び長方形領域121bの対向する長辺の距離L5は、0.92mmに設定されている。そして、長方形領域121aの中心と長方形領域121bの中心との間の距離L6は、1.25mmである。
GMR素子122a,122dは、長方形領域121a上に、形成されている。GMR素子122a,122dは全体として上下方向に延びる長方形を呈する。GMR素子122a,122dは、それぞれ複数の折り返し部がある線状に形成されている。より具体的には、GMR素子122a,122dは、長方形領域121aにて、上下方向に一直線状に一定長さ(長さL3よりも若干短い長さ)延び、その上端又は下端から前方へ折り返すように湾曲し、再び上下方向に直線状に前記一定長さだけ延びるように構成された部位が連続するように構成されている。
また、GMR素子122a,122dは、隣り合う線状部分の前後方向の間隔を大きくした部分と、隣り合う線状部分の前後方向の間隔を小さくした部分とを有する。そして、GMR素子122aにおける隣り合う線状部分の前後方向の間隔を大きくした部分に、GMR素子122dにおける隣り合う線状部分の前後方向の間隔を小さくした部分を侵入させるとともに、GMR素子122dにおける隣り合う線状部分の前後方向の間隔を大きくした部分に、GMR素子122aにおける隣り合う線状部分の前後方向の間隔を小さくした部分を侵入させている。なお、これらのGMR素子122a,122dの折り返し回数は、例えば、GMR素子122a,122dの上下方向に延設された直線部分の本数が17本となるように設定されている。
GMR素子122b,122cは、長方形領域121b上にて、GMR素子122a,122dと同様に構成されている。そして、GMR素子122bは、前記中心線CL1を対称軸として、GMR素子122aと前後対称になるように配置されている。また、GMR素子122cは、前記中心線CL1を対称軸として、GMR素子122dと前後対称になるように配置されている。
電極123a~123dは、薄板状に非磁性の導電体材料(例えば、アルミニウム)で、絶縁基板121上に正方形状にパターン形成されている。電極123aはGMR素子122b,122cの上方に位置し、電極123bはGMR素子122a,122dの上方に位置する。電極123a,123bは、前記中心線CL1に関して前後対称に配置されている。電極123cはGMR素子122b,122cの後方であって前記中心線CL1とGMR素子122b,122cの間に位置し、電極123dはGMR素子122a,122dの前方であって前記中心線CL1とGMR素子122a,122dの間に位置する。電極123c,123dは、前記中心線CL1に関して前後対称に配置されている。
また、図5に示すように、絶縁基板121上には、GMR素子122a~122dと電極123a~123dとをそれぞれ電気接続するための配線パターン124が形成されている。この配線パターン124も、薄板状の非磁性の導電体材料(例えば、アルミニウム)で構成されている。GMR素子122aの一端は配線パターン124により電極123aに電気接続され、GMR素子122aの他端は配線パターン124により電極123cに接続されている。GMR素子122bの一端は配線パターン124により電極123bに電気接続され、GMR素子122bの他端は配線パターン124により電極123cに接続されている。これにより、GMR素子122a,122bはハーフブリッジ接続されている(図6参照)。また、GMR素子122cの一端は配線パターン124により電極123aに電気接続され、GMR素子122cの他端は配線パターン124により電極123dに接続されている。GMR素子122dの一端は配線パターン124により電極123bに電気接続され、GMR素子122dの他端は配線パターン124により電極123dに接続されている。これにより、GMR素子122c,122dもハーフブリッジ接続されている。
電極123a~123dは、導電線(例えば、金線)からなるワイヤ113a~113dを介して、リードフレーム部112a~112dにそれぞれ電気的に接続されている(図4参照)。リードフレーム部112aは、外部に設けた電気回路装置の電力供給端子に接続されている。リードフレーム部112bは前記電気回路装置の接地端子に接続されている(図6参照)。これにより、リードフレーム部112aとリードフレーム部112bとの間に一定電圧Vが印加される。リードフレーム部112cは、前記電気回路装置に、GMR素子122aとGMR素子122bとの接続点の電圧Vo1を出力する。リードフレーム部112dは、前記電気回路装置に、GMR素子122cとGMR素子122dとの接続点の電圧Vo2を出力する。このように、GMR素子122a~122dはフルブリッジ回路を構成している。また、前記電気回路装置は差動増幅器125を備えており、差動増幅器125は電圧,Vo1,Vo2の差分電圧を出力信号として出力する。
バイアス磁石13は、ネオジウムと鉄を主原料としたネオジウム磁石である。バイアス磁石13は、上下方向に延びる筒状を呈する(図1参照)。すなわち、バイアス磁石13は、上下方向に貫通する貫通孔TH13を有する。バイアス磁石13の平面視において、バイアス磁石13は前後方向に延びる略長方形を呈する(図7参照)。同図において、バイアス磁石13の外形の長辺の長さL7及び短辺の長さL8がそれぞれ7.5mm及び2.7mmに設定されている。また、貫通孔TH13の長辺の長さL9及び貫通孔TH13の短辺の長さL10は、それぞれ6.0mm及び1.5mmに設定されている。
また、バイアス磁石13の高さL11(図1参照)が3.0mmに設定されている。また、バイアス磁石13は、その高さ方向を2等分する面を境界として分極され、その境界面に対して垂直方向に2極に着磁されており、下側がN極に磁化されるとともに、上側がS極に磁化されている。
上記のように構成されたバイアス磁石13のN極からS極へ向かう磁力線のうちの一部が、貫通孔TH13内を通る。それらの磁力線のうち、互いに反対方向へ向かう磁力線同士が互いに打ち消し合う。これにより、バイアス磁石13の貫通孔TH13の少し下方に、その周囲に比べて磁力が弱められた領域Zが形成されている(図8参照)。領域Zは、貫通孔TH13の少し下方にて前後方向に延びている。領域Zの中心軸は、貫通孔TH13の幅方向(左右方向)における中央部(又はその少し下方)に位置している。なお、領域Zの中心軸からの距離が同一である2点であって、領域Zの中心軸まわりに少し離間した2点の磁気ベクトルの大きさは同等であるが、磁気ベクトルの向きが大きく異なる。
なお、図8は、バイアス磁石13の周囲に磁性体が存在しない場合の磁界(磁気ベクトル)を示している。バイアス磁石13の周囲に磁性体が存在する場合には、磁界は、図8とは異なる状態になる。例えば、図9に示すシミュレーション結果のように、領域Zの下方にて歯車が回転した場合に、領域Zの磁界が周期的に変化する。なお、このシミュレーションにおいて、磁性体としてのS45C鋼材インボリュート歯車をバイアス磁石の下方にて回転させた状態を想定している。この場合の歯車の歯のピッチは、2.5mmに設定されている。また、バイアス磁石として、筒状の磁石ではなく、簡易的に、2枚の角板状の磁石を対面配置した状態を想定している。この2枚の各板状の磁石の構成は同一としている。両磁石の板厚方向が左右方向に一致している。両磁石の隙間が1.5mmに設定されている。両磁石の辺のうち、上下方向に延びる辺の長さが5.0mmに設定され、前後方向に延びる辺の長さが6.0mmに設定されている。また、両磁石の厚さが0.6mmに設定されている。そして、両磁石の下方にて、歯車の回転軸が左右方向に一致するように配置されている状態を想定している。このような条件下にて、歯車を回転させた際、両磁石の下面間の中央位置における磁気ベクトルの上下方向の成分が主に変化する。図9は、その成分の強度(磁界強度)の変化を示している。同図において、歯車の歯の天面と両永久磁石の下面との距離(ギャップ)を0.5mm~1.5mmの範囲内におけるいずれかの値に設定した際の磁界強度の変化をそれぞれ示している。なお、同図において、ギャップを0.5mmに設定した際の磁界強度を基準とし、他のギャップにおける磁界強度は、上記の基準に対する相対値である。
同図に示すように、歯の移動(歯車の回転)に伴う磁界強度の変化は略正弦波状を呈する。また、歯と磁石のギャップが小さくなるに従って、磁界強度が全体的に大きくなるとともに、その振幅が大きくなる。なお、バイアス磁石13を用いた場合も、図9と同様の特性を示す。
上記のように構成されたチップパッケージ11及びセンサチップ12からなる本体部M1が、バイアス磁石13の貫通孔TH13内に収容されている(図1参照)。GMR素子122a,122dの中心とGMR素子122b,122cの中心とを通る中心線CL2(図5参照)と領域Zの中心軸とが同軸配置されている(図7及び図10参照)。なお、実際には、バイアス磁石13の周囲に磁性体が存在しない状態にて、本体部M1が移動され、各GMR素子122a~122dが接続されて構成された電気回路の電気抵抗値が最大になるように、バイアス磁石13に対する本体部M1の位置及び姿勢が調整される。そして、中心線CL2と中心線CL1との交点O1(すなわちGMR素子122a,122dとGMR素子122b,122cの中心間の中央位置)が、貫通孔TH13の前後方向における中央位置の下方に位置している。なお、図7及び図10において、チップパッケージCPの樹脂封止部を省略している。
つぎに、磁気センサ1を用いて、磁性体である歯車Gの回転を検出した例(実測値)について説明する。まず、歯車Gの構成について説明する。歯車Gは、円形の外周面上にそれぞれ同じ形状及び大きさの方形状の凸部(歯)G1と凹部G2を交互に配置させている。歯車Gの凸部G1の間隔(ピッチ)が、長さL6の2倍に一致している。歯車Gは磁性体材料で構成されていれば、種々の磁性体材料で種々の形状に構成され得る。また、歯車Gの形状に関しても、凸部G1及び凹部G2を有していれば、種々の形状に構成され得る。本実施形態の歯車Gは、S45C鋼材インボリュート形状歯車である。なお、各種実験で用いられる本発明に関する歯車Gも、背景技術の項で説明した従来の歯車Gも、S45C鋼材インボリュート形状歯車である。
磁気センサ1は、図示しない固定部品を用いて歯車Gの近傍に固定される。本体部M1の下端面が歯車Gの凸部G1の天面に平行に対向し、かつ本体部M1(センサチップ12)の前後方向が歯車Gの回転方向(凸部G1の移動方向)に一致するように、磁気センサ1及び歯車Gが配置される(図10及び図11参照)。そして、チップパッケージ11の下端から前記一つの凸部G1の天面までの距離(ギャップ)は、例えば、0.1mm~1.0mmの範囲内のいずれかの値に設定される。
歯車Gに対して磁気センサ1を上記のように配置した状態で、歯車Gを回転させると、GMR素子122a,122dの素子面に対して平行(上下方向)に通過する磁界と、GMR素子122b,122cの素子面に対して平行(上下方向)に通過する磁界の磁界強度は、180°の位相差をもってそれぞれほぼ正弦波状に変化する。
具体的には、GMR素子122a,122dの素子面に対して平行(下方)に通過する磁界強度Hadは、GMR素子122a,122dが隣り合う2つの凸部G1の中間位置にあるとき第1強度である。このとき、GMR素子122b,122cは、1つの凸部G1に対向している。そして、GMR素子122b,122cの素子面に対して平行(下方)に通過する磁界強度Hbcが、第1強度より大きな第2強度になっている。
歯車Gの回転に従って、磁界強度Hadは、前記第1強度から徐々に大きくなるとともに、磁界強度Hbcが前記第2強度から徐々に小さくなる。GMR素子122a,122dが1つの凸部G1に対向した状態では、磁界強度Hadが前記第2強度になる。このとき、GMR素子122b,122cは、隣り合う2つの凸部G1の中間位置にあり、磁界強度Hbcが前記第1強度になっている。
歯車Gがさらに回転すると、磁界強度Hadが前記第2強度から徐々に小さくなるとともに、磁界強度Hbcが前記第1強度から徐々に大きくなる。GMR素子122a,122dが隣り合う2つの凸部G1の中間位置にある状態になると、磁界強度Hadは、前記第1強度に戻る。このとき、GMR素子122b,122cが一つの凸部G1に対向しており、磁界強度Hbcが前記第2強度に戻る。なお、磁界強度Had,Hbcの変化は、略正弦波状を呈する。
ここで、GMR素子122a~122dに印加された磁界強度の変化に対し、GMR素子122a~122dの電気抵抗値は、図12に示すように変化する。したがって、上記のような磁界強度Had,Hbcの変化により、GMR素子122a~122dの電気抵抗値はほぼ正弦波状に変化する。そして、GMR素子122b,122cの電気抵抗値の変化の位相が、GMR素子122a,122dの電気抵抗値変化に対して、180°(歯車Gの凸部G1の1/2ピッチ)だけ異なっている。
GMR素子122a~122dがフルブリッジ接続され手形成されたフルブリッジ回路の電圧Vo1,Vo2の差分電圧が、出力信号として、差動増幅器125から出力される。すなわち、比較的大きな振幅値を有する歯車Gの回転検出信号を得ることができる(図13参照)。
ここで、GMR素子122a~122dの長手方向を磁界の印加方向とする場合と、GMR素子122a~122dの短手方向を磁界の印加方向とする場合とについて説明しておく。図12の実線は、GMR素子の長手方向を磁界の印加方向としたときにおける、印加磁界強度に対するGMR素子の電気抵抗値の変化特性を示す。図12の破線は、GMR素子の短手方向を磁界の印加方向としたときにおける、印加磁界強度に対するGMR素子の電気抵抗値の変化特性を示す。すなわち、磁界感度異方性に関しては、前記長手方向を磁界の印加方向とする場合の方が、前記短手方向を磁界の印加方向とする場合よりも、磁界強度が「0」である状態からのGMR素子の電気抵抗値の変化が直線的且つ大きくなり、歪みが少なく且つ大きな出力電圧が得られる。したがって、上記実施形態のように、GMR素子122a~122dの長手方向を磁界の印加方向とすることが、GMR素子122a~122dの短手方向を磁界の印加方向とすることよりも好ましい。すなわち、上記実施形態のように、GMR素子122a~122dの長手方向が歯車Gの径方向(歯たけ方向)に対して平行になるように、磁気センサ1を歯車Gに対して配置することが好ましい。その結果、図13に示すように、上記実施形態の歯車Gの回転検出においては、振幅の大きくかつ高精度な正弦波状の出力電圧を得ることができる。
また、ここで、特許文献1の磁気センサMSにおいて、バイアス磁石BMを、素子短手方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図25に示す。また、磁気センサMSにおいて、バイアス磁石BMを、素子長手方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図26に示す。また、本実施形態の磁気センサ1において、本体部M1に対し、バイアス磁石13を左右方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図14に示す。さらに、磁気センサ1において、本体部M1に対し、バイアス磁石13を前後方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図15に示す。
図25及び図26に示したように、磁気センサMSにおいて、GMR素子Ra~Rdに対するバイアス磁石BMの位置が少しずれると、出力電圧のオフセットが大きく変化する。よって、磁気センサMSによる歯車Gの回転検出精度を高く保つためには、バイアス磁石BMの配置精度を高く保つ必要がある。これに対し、図14及び図15に示したように、磁気センサ1において、GMR素子122a~122dに対するバイアス磁石13の位置が多少ずれても、出力電圧のオフセットはそれほど変化しない。よって、バイアス磁石13の配置精度が多少低くても、磁気センサ1による歯車Gの回転検出精度を高く保つことができる。
また、ここで、特許文献1の磁気センサMSを用いて歯車Gの回転を検出した例を図27に示す。同図に示すように、この場合には、ギャップを小さくすると(例えば、0.1mmであるとき)、出力信号波形が歪む。この要因は、磁気センサMSにおいては、磁気センサMSが歯車G(磁性体)の近傍に配置されていない状態において、GMR素子Ra~Rdに印加されるバイアス磁石BMの磁界強度が比較的大きい状態にあるためである。すなわち、歯車Gの近傍に磁気センサMSが配置され、そのギャップが小さい場合には、GMR素子Ra~Rdに印加される磁界強度が大きく、その変化に対して電気抵抗値が直線的に変化しない(感度が低下する)ためである。
これに対し、本実施形態では、磁気センサ1が歯車G(磁性体)の近傍に配置されていない状態において、GMR素子122a~122dに印加されるバイアス磁石13の磁界強度が比較的小さい状態(略「0」)にある。よって、歯車Gの近傍に磁気センサ1が配置され、そのギャップが小さい場合であっても、GMR素子122a~122dに印加される磁界強度の変化に対して電気抵抗値が直線的に変化する(電気抵抗値が飽和し難い)。よって、本実施形態に係る磁気センサ1を用いた場合には、図13において実線で示したように、同ギャップ(0.1mm)においても、出力信号波形は歪むことなく、正弦波状を呈する。
このように、磁気センサ1によれば、歯車Gの回転を精度良く検出できる。さらに、本体部M1に対するバイアス磁石13の配置精度が多少低くても、歯車Gの回転の検出精度が低下し難い。よって、磁気センサ1の製造コストを削減できる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について図面を用いて説明する。本発明の第2実施形態に係る磁気センサ2の構成は、第1実施形態と略同一である。磁気センサ2の外観は、磁気センサ1と同一である(図1参照)。ただし、センサチップ12に代えて、センサチップ22が用いられる(図16参照)。
チップパッケージ11の構成は、第1実施形態と同一である。第2実施形態においても、チップパッケージ11の長辺の延設方向を前後方向と呼び、チップパッケージ11の短辺の延設方向を上下方向と呼ぶ。さらに、チップパッケージ11の板厚方向を左右方向と呼ぶ。
アイランド部111の表面(左面)に、センサチップ22が固定されている。センサチップ22は、第1実施形態の絶縁基板121と同様の絶縁基板221を備えている。絶縁基板221の表面(右面)には、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)222a~222d及び電極223a~223dが配置されている。
GMR素子222a~222dは、絶縁基板221の上縁部に沿って前後方向に等間隔に配置されている。前後方向に隣り合う2つのGMR素子の中央部同士の間隔は、歯車Gの歯のピッチの1/4(=0.625mm)である。GMR素子222a~222dの構成は、GMR素子122a~122dの構成と略同一である。上記のように、GMR素子122a~122dは、隣り合う線状部分の前後方向の間隔を大きくした部分と、隣り合う線状部分の前後方向の間隔を小さくした部分とを有する。これに対し、GMR素子222a~222dにおいては、隣り合う線状部分の前後方向の間隔は一定である。
電極223a~223dの構成も、電極123a~123dの構成と同一である。さらに、第1実施形態と同様に、GMR素子222a~222dと電極223a~223dとが配線パターン224により、それぞれ電気的に接続されている。これにより、GMR素子222a,222cがハーフブリッジ接続され、GMR素子222b,222dがハーフブリッジ接続されている(図17参照)。
電極223a~223dは、導電線(例えば、金線)からなるワイヤ113a~113dを介して、リードフレーム部112a~112dにそれぞれ電気的に接続されている。リードフレーム部112aは、外部に設けた電気回路装置の電力供給端子に接続されている。リードフレーム部112cは前記電気回路装置の接地端子に接続されている。これにより、リードフレーム部112aとリードフレーム部112cとの間に一定電圧Vが印加される。リードフレーム部112bは、GMR素子222aとGMR素子222cとの接続点の電圧VoAを前記電気回路装置に出力する。リードフレーム部112dは、GMR素子222bとGMR素子222dとの接続点の電圧VoBを前記電気回路装置にそれぞれ出力する。
上記のように構成されたチップパッケージ11及びセンサチップ22からなる本体部M2が、第1実施形態と同様に、バイアス磁石13の貫通孔TH13内に収容されている。その下方にて歯車Gが回転される(図18参照)。本実施形態では、GMR素子222aとGMR素子222cとの前後方向の間隔が歯車Gの凸部G1のピッチの1/2に設定されている。したがって、歯車Gが回転すると、第1実施形態と同様に、電圧VoAが正弦波状に変化する。一方、GMR素子222bとGMR素子222dとの前後方向の間隔も歯車Gの凸部G1のピッチの1/2に設定されている。したがって、歯車Gが回転すると、第1実施形態と同様に、電圧VoBが正弦波状に変化する。ただし、本実施形態では、GMR素子222aとGMR素子222bとの前後方向の間隔が、歯車Gの凸部G1のピッチの1/4に設定され、GMR素子222cとGMR素子222dとの前後方向の間隔が、歯車Gの凸部G1のピッチの1/4に設定されている。したがって、電圧VoAと電圧VoAの波形の位相差は90°である(図19参照)。
これによれば、第1実施形態と同様に、歯車Gの回転を精度良く検出できる。さらに、歯車Gの回転を表す、高精度な正弦波状の出力信号A(電圧VoA)及び余弦波状の出力B(電圧VoB)を得ることができ、出力信号A,Bを用いた逆正接(アークタンジェント)演算により、歯車Gの回転角度を簡単に計算することができる。
なお、特許文献1には、2組のセンサチップSCA,SCBを備えた磁気センサMSが記載されている(図28参照)。この例において、2組のセンサチップSCA,SCBが、歯車Gの回転方向及び歯車Gの歯幅方向にずれて配置されている。この場合、センサチップSCA,SCBのGMR素子Ra,Rdにそれぞれ印加されるバイアス磁界の強度が、センサチップSCA,SCBのGMR素子Rb,Rcにそれぞれ印加されるバイアス磁界の強度と略同一であり、且つそれらの方向が略反対になるように、バイアス磁石BMが配置される。このように構成された磁気センサMSによっても、センサチップSCA,SCBから、90°だけ位相のずれた正弦波状の出力信号が得られ、これらの出力信号を用いて、歯車Gの回転角度を計算できる。
ここで、図28の磁気センサMSにおいて、バイアス磁石BMを、その長手方向にずらした際のセンサチップSCA,SCBのそれぞれの出力電圧のオフセットの変化を図29に示す。また、磁気センサMSにおいて、バイアス磁石BMを、その短手方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図30に示す。また、本発明の第2実施形態の磁気センサ2において、本体部MBに対し、バイアス磁石13を左右方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図20に示す。さらに、磁気センサ1において、本体部MBに対し、バイアス磁石13を前後方向にずらした際の出力電圧のオフセットの変化を図21に示す。
図29及び図30に示したように、磁気センサMSにおいて、両センサチップSCA,SCBのGMR素子Ra~Rdに対するバイアス磁石BMの位置がずれると、センサチップSCA,SCBの出力電圧が大きく変化する。しかも、センサチップSCA,SCBの出力電圧の変化の態様(方向)が反対である。よって、バイアス磁石BMの配置精度を高く保つことが困難である。これに対し、図20及び図21に示したように、磁気センサ2において、GMR素子222a~222dに対するバイアス磁石13の位置が多少ずれても、出力電圧はそれほど変化しない。よって、バイアス磁石13の配置精度が多少低くても、磁気センサ2による歯車Gの回転検出精度を高く保つことができる。したがって、磁気センサ2の製造コストを低減できる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、図22に示すように、2つの本体部M1を向かい合わせるとともに、歯車Gの凸部G1のピッチの1/4に相当する距離だけ前後方向にずらして配置し、これらの一組の本体部M1,M1をバイアス磁石13の貫通孔TH13に収容してもよい。これによっても、第2実施形態と略同一の効果が得られる。
また、上記実施形態では、筒状の磁石をバイアス磁石13として採用しているが、これに代えて、図23に示すように、2枚の平板状の永久磁石13A,13Aからなるバイアス磁石を採用しても良い。
上記実施形態においては、各種長さ及び距離L1~L11を所定の値に設定したが、この値は適宜変更され得る。また、上記実施形態においては、バイアス磁石13の下側(歯車Gに対面する側)をN極にして反対側をS極に磁化したが、このN極とS極を逆にしてもよい。また、上記実施形態では、アイランド部111を、リードフレーム部112a~112dと同様な非磁性の導電板で構成した。しかし、アイランド部は導電性を必要としないので、非磁性体であれば、導電性を有さない材料の薄板を用いてもよい。
また、上記第1実施形態においては、4個のGMR素子122a~122dでフルブリッジ回路を構成し、フルブリッジ回路から正弦波状の出力信号を得て、歯車Gの回転を検出するようにした。しかし、出力振幅値は小さくなるが、2個のGMR素子122a,122b(又はGMR素子122c,122d)でハーフブリッジ回路を構成し、ハーフブリッジ回路から正弦波状の出力信号を得て、歯車Gの回転を検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、面内感磁素子である磁界強度検知型のGMR素子として、グラニュラ薄膜を用いたGMR素子を用いた。しかし、これに代えて、面内感磁素子である磁界強度検知型のGMR素子として、人工格子型のGMR素子を用いることができる。この人工格子型のGMR素子は、例えば、日本応用磁気学会誌Vol.15,No51991,P813~821の「人工格子の磁気抵抗効果」と題する論文に記載されている数オングストロームから数十オングストロームの厚さの磁性層と非磁性層とを交互に積層させた積層体、いわゆる人工格子膜((Fe/Cr)n,(パーマロイ/Cu/Co/Cu)n,(Co/Cu)nなど)で構成される。
また、上記実施形態では、GMR素子として、グラニュラ薄膜を折り返しながら直線状に延設させたGMR素子122a~122d、又はGMR素子222a~222dを用いた。しかし、これらのGMR素子122a~122d、又はGMR素子222a~222dに代えて、渦巻き状のGMR素子を用いてもよい。これらの渦巻き状のGMR素子とは、絶縁基板上に、外側から内側に渦巻き状に線状のグラニュラ薄膜(又は人工格子膜)を延設させ、内側端から外側に渦巻き状に線状のグラニュラ薄膜(又は人工格子膜)を延設させたものである。
また、上記実施形態では、磁気センサ1及び磁気センサ2を磁性体からなる歯車Gの回転を検出する検出装置に適用した。しかし、上述した磁気センサ1は、歯車Gでなくても、また、円盤状部材の外周面に一つ以上の凹部を有する円盤状部材の回転検出にも適用され得る。さらには、回転体でなくても、磁性体からなり凸部(歯)又は凹部を有していて直線的に移動する移動体の検出にも、上述した磁気センサ1及び磁気センサ2は適用され得る。この場合も、移動体の凹凸部に対向させて上述した磁気センサ1及び磁気センサ2を配置すればよい。