実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本実施形態における「平均粒径」は、体積基準の粒度分布における、累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
また、本実施形態における「孔径」は、FIB-SEM測定と画像解析から得られた3Dモデルから、任意に選ばれる、それぞれ10個程度の連通孔(例えば、第1の連通孔110又は第2の連通孔210)について、最も狭い部分の直径の平均値として求めることができる。そして、本実施形態における「短径」及び「長径」は、特に断りがない場合は、FIB-SEM測定と画像解析から得られた3Dモデルから、任意に選ばれる、それぞれ10個程度の一次粒子(例えば、第2の粒子211)について、最も短い径の平均値を「短径」とし、最も長い径の平均値を「長径」として求めることができる。
なお、FIB-SEMとは、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)にて試料を加工し、当該試料の露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて観察することを意味する。試料を加工する方法としては、例えば、適当な樹脂で固めた試料を、所望の断面で切断し、その切断面を少しずつ削りながらSEM観察を行うとよい。
図1及び図2を参照して、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成の一例について説明する。図1は、実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池が含む正極活物質の断面を示す模式図である。図2は、実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池の正極合材層における導電助剤の分布を示す図である。なお、図1及び図2に示す正極活物質Mの断面は、正極に含まれる正極活物質Mのうちの1つの正極活物質粒子を模式的に示している。
まず、実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池について説明する。実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と負極とをセパレータSを介して備える電極体と、電解液と、を電池ケースに収容して構成される。リチウムイオン二次電池は、電気化学反応に際し、正極と負極との間で電荷担体であるリチウムイオンLが電解液中を伝導することで、充放電を行う電池である。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として用いられる。
セパレータSは、正極シート及び負極シートの間に電解液を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
電解液は、非水電解液であって、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。電解液として、これらを1乃至複数混合して用いることができる。電解液の組成はこれに限られるものではない。
電極体は、正極である正極シートと、負極である負極シートとが、複数のセパレータSを介して捲回された積層体である。正極シートは、長尺状に形成され、シート状の正極集電体と、正極集電体の片面又は両面に設けられた正極合材層10aとを備える。負極シートは、長尺状に形成され、シート状の負極集電体と、負極集電体の片面又は両面に設けられた負極合材層20と、を備える。実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池では、特に正極合材層10aの構成に特徴の1つを有するため、この正極合材層10aについて特に詳細に説明する。
(正極)
正極について説明する。まず、正極シートを構成する正極集電体は、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体の構成はこれに限られるものではない。
続いて、図1及び図2に示すように、正極合材層10aは、少なくとも、導電助剤11と、正極活物質Mと、を有する。正極合材層10aは、さらに、分散剤、及びバインダを含んでもよい。
導電助剤11は、正極合材層10a中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層10aに適量の導電助剤11を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。導電助剤11としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を用いることができる。導電助剤11の平均粒径は、例えば、0.1~0.15μmであることが好ましい。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
バインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
続いて、正極活物質Mについて詳述する。本実施形態において、正極活物質Mは、リチウム遷移金属酸化物を含む第1の粒子111が連なって略球殻状に形成される第1の殻部101と、リチウム遷移金属酸化物を含む第2の粒子211が連なって第1の殻部101を被覆する第2の殻部201と、を有する。また、第1の殻部101には、第1の殻部101の外部と第1の殻部101の内部に形成される中空部102とを連通する第1の連通孔110が設けられる。また、第2の殻部201には、第2の殻部201の外部と第2の殻部201の内部とを連通するとともに孔径が導電助剤11の平均粒径以下である第2の連通孔210が設けられる。
正極活物質Mの構成要素である第1の粒子111及び第2の粒子211は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li(リチウム)以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
第1の粒子111及び第2の粒子211は、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
好ましい一態様において、第1の粒子111及び第2の粒子211は、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO2…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
第1の殻部101は、第1の粒子111が連なって略球殻状に形成されたものである。略球殻状に形成される第1の殻部101の内部には、中空部102が形成される。第1の殻部101の厚み方向において、第1の粒子111は単層であってもよく、多層であってもよい。ここで、第1の粒子111は、一次粒子であって、外見上の幾何学的形態から判断して単位粒子(ultimateparticle)と考えられる粒子を指す。ここに開示される正極活物質Mにおいて、第1の粒子111は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。正極活物質Mの形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
第1の粒子111は、その長径L1が、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。長径L1が小さすぎると、電池の容量維持性が低下傾向となることがあり得る。そのような観点から、長径L1は0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.4μm以上であることがさらに好ましい。なお、長径L1は、第1の殻部101の表面をSEM観察して取得される画像において、概ね最も長い長径L1を有する第1の粒子111を選択し、当該選択された第1の粒子111において最も長い径を長径L1とするとよい。
一方、長径L1が大きすぎると、結晶の表面から内部(L1の中央部)までの距離(リチウムイオンLの拡散距離)が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなり、電池の出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が低くなりがちである。そのような観点から、長径L1は0.8μm以下であることが好ましい。好ましい一態様では、第1の粒子111の長径L1は0.2μm以上0.8μm以下である。
第1の殻部101の平均粒径は、例えば、およそ2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。第1の殻部101の平均粒径が小さすぎると、中空部102の容積も小さくなるため、中空部102に蓄えられる電解液の量も少なくなる。また、生産性の観点からは、第1の殻部101の平均粒径は25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。好ましい一態様では、第1の殻部101の平均粒径は、3μm以上10μm以下である。
第1の殻部101の厚さは、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下である。第1の殻部101の厚さが小さいほど、充電時には第1の殻部101の内部(厚さの中央部)からもリチウムイオンLが放出されやすく、リチウムイオン二次電池の放電時にはリチウムイオンLが第1の殻部101の内部まで吸収されやすくなる。
第1の殻部101の厚さの下限値は、0.1μm以上であることが好ましい。第1の殻部101の厚さを0.1μm以上とすることにより、電池の製造時又は使用時に加わり得る応力や、充放電に伴う正極活物質Mの膨張収縮等に対して、高い耐久性を保持することができる。内部抵抗低減効果と耐久性とを両立させる観点からは、第1の殻部101の厚さはおよそ0.1μm以上2.2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることが特に好ましい。
さらに、第1の殻部101には、第1の殻部101の外部と当該中空部102とを連通させる第1の連通孔110が設けられる。第1の連通孔110は、第1の殻部101に貫通形成され、第1の殻部101の内外を連通させるものである。第1の連通孔110は、中空部102と第1の殻部101の外部とで電解液を行き来させる。第1の連通孔110は、第1の殻部101を構成する複数の第1の粒子111間に設けられた隙間によって構成される。第1の連通孔110は、1つの第1の殻部101に対して少なくとも1個が設けられる。
第1の殻部101に第1の連通孔110が設けられることで、外部の電解液が第1の連通孔110を介して中空部102に流入しやすくなるとともに、中空部102内の電解液が第1の連通孔110を介して外部に流出しやすくなる。その結果、中空部102内の電解液が適当に入れ替わる。
第1の連通孔110の孔径は、0.2μm以上0.5μm以下であることが好ましい。なお、孔径が0.5μm以上の細孔は、正極活物質M間の隙間の大きさに相当するため、第1の連通孔110とみなさない。第1の連通孔110の孔径が、0.2μm以上であると、電解液の流通路として第1の連通孔110をより有効に機能させ得る。
一方、第1の連通孔110の孔径が0.5μmよりも大きいと、第1の殻部101の全体に対する空孔率が大きくなるため、第1の殻部101、さらには正極活物質Mの強度が低下する可能性がある。また、第1の連通孔110の孔径が必要以上に大きいと、第1の粒子111間の距離が増大するため、正極活物質Mと電解液とが形成する界面の抵抗が増加する。この界面抵抗が高いと、リチウムイオン二次電池の使用時におけるエネルギー損失が大きくなるため、高速な充放電が困難になる。
第1の連通孔110の数量は、第1の殻部101の1つ当たりの平均として、およそ1~10個程度(例えば1~5個)であることが好ましい。第1の連通孔110の平均数量が多すぎると、中空形状を維持しにくくなることがある。また、第1の連通孔110の平均数量が多いほど電解液が行き来しやすくなるが、当該平均数量を多くすると単位体積あたりの正極活物質量が少なくなるため、エネルギー密度が低下する。このため、第1の連通孔110の数量は、必要最小限とすることが好ましい。
第2の殻部201は、第2の粒子211が連なって第1の殻部101を外側から被覆している、第2の殻部201は、第1の殻部101と焼結され、第1の殻部101の表面積のうち75%以上を被覆している。すなわち、第1の殻部101の全表面積に対する第2の殻部201により被覆された面積の割合である被覆率が、75%以上である。当該被覆率は、例えば、SEM観察にて取得される画像を用いた画像解析法、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を使用する元素分析法等を用いて測定することができる。
第2の殻部201の厚み方向において、第2の粒子211は単層であってもよく、多層であってもよい。ここで、第2の粒子211は、一次粒子であって、外見上の幾何学的形態から判断して単位粒子(ultimateparticle)と考えられる粒子を指す。ここに開示される正極活物質Mにおいて、第2の粒子211は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。第2の粒子211は、第1の粒子111と同一の組成であってもよく、第1の粒子111と異なる組成であってもよい。
第2の粒子211は、短径L2の平均が0.1μm以上0.2μm以下であり、長径L3の平均が第1の連通孔110の孔径の0.8倍以上、より好ましくは1倍以上であることが好ましい。第2の粒子211の長径L3の平均が小さすぎると、正極活物質Mの製造時に、第2の粒子211が第1の殻部101に設けられる第1の連通孔110に進入、又は第1の連通孔110を通過して中空部102に流入する可能性がある。
一方、第2の粒子211が縦長の形状である場合、第2の粒子211は、第2の殻部201の厚み方向が短径L2となるように配置されるが、第2の粒子211の短径L2の平均が大きすぎると、結晶の表面から内部(厚みの中央部)までの距離(リチウムイオンLの拡散距離)が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなり、電池の出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が低くなりがちである。また、第2の粒子211の短径L2が大きすぎると、第2の殻部201を所望の厚さに形成することが困難になる。
なお、長径L3の平均が第1の連通孔110の孔径の0.8倍以上であれば、第2の粒子211は、縦長でなく、球形でもよい。
第2の殻部201の厚さは、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。第1の殻部101の厚さと同様に、第2の殻部201の厚さが小さいほど、充電時には第2の殻部201の内部(厚さの中央部)からもリチウムイオンLが放出されやすく、リチウムイオン二次電池の放電時にはリチウムイオンLが第2の殻部201の内部まで吸収されやすくなる。一方、第2の殻部201の厚さが大きいほど、第2の殻部201の外部から第1の殻部101を介して中空部102に至る経路の距離(リチウムイオンLの拡散距離)が長くなるため、イオン拡散が遅くなって電池の内部抵抗が増加することにより、電池の出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が低くなりがちである。
また、第2の殻部201の厚さを0.1μm以上とすることにより、電池の製造時又は使用時に加わり得る応力や、充放電に伴う正極活物質Mの膨張収縮等に対して、高い耐久性を保持することができる。したがって、第2の殻部201は、耐久性を保持しつつ、正極活物質Mにおけるイオン拡散を阻害しないように、第1の殻部101の厚み以下であることがより好ましい。
さらに、第2の殻部201には、第2の殻部201の外部と第2の殻部201の内部とを連通させる第2の連通孔210が設けられる。第2の連通孔210は、第2の殻部201に貫通形成され、第2の殻部201の内外を連通させるものである。第2の連通孔210は、第2の殻部201の外部と第2の殻部201の内部とで電解液を行き来させる。第2の連通孔210は、第2の殻部201を構成する複数の第2の粒子211間に設けられた隙間によって構成される。第2の連通孔210は、1つの第2の殻部201に対して少なくとも1個が設けられる。
第2の連通孔210の孔径は、導電助剤11の平均粒径以下であることが好ましい。第2の連通孔210の孔径が、導電助剤11の平均粒径以上であると、正極合材層10a中において、導電助剤11が第2の連通孔210を通過した後、第1の連通孔110を通過して中空部102に流入する可能性がある。導電助剤11が中空部102に流入すると、正極活物質Mの外部における導電助剤11の量が相対的に減少する。この場合、正極活物質M間や正極活物質Mと正極集電体との間において導電助剤11が導電パスを十分に形成することができず、正極合材層10a中の導電性が低下するとともに、電池の内部抵抗が増加する。
これに対し、本実施形態では、第2の連通孔210の孔径が導電助剤11の平均粒径以下である。このため、図2に示すように、正極合材層10a中における導電助剤11は、第2の連通孔210を通過することができず、導電助剤11が正極活物質Mの外部から中空部102に流入することが抑制される。これにより、正極活物質Mの外部における導電助剤11量が減少することなく維持され、正極合材層10a中に十分な導電パスを形成することができる。したがって、正極合材層10a中における導電性を良好にすることができるとともに、電池の内部抵抗を低減することができる。
なお、第2の連通孔210の数量や孔径の下限値は、第1の殻部101に対する第2の殻部201の被覆率が75%以上であることと、導電助剤11の粒径と、正極活物質Mの外部と中空部102との電解液の流出入を妨げないことと、を考慮して、適宜設計されるものである。この被覆率が75%以上であると、導電助剤11の平均粒径以下の孔径を有する第2の連通孔210を形成することができる。被覆率が75%より低いと、第2の殻部201において適切な孔径を有する第2の連通孔210を形成することができず、導電助剤11が中空部102に流入することを抑制する効果が得られない。また、第2の連通孔210の数量が少なすぎる場合や孔径が必要以上に小さすぎる場合は、正極活物質Mの外部と中空部102との電解液の流出入を妨げる虞がある。この場合、中空部102に面する第1の粒子111を充放電に活用することができない。
上記の構成を有する正極活物質Mは、全体として内部に中空部102を有する中空構造の粒子形態を呈している。また、正極活物質Mは、概ね球形状、又はやや歪んだ球形状等を有する。正極活物質Mは、一次粒子としての第1の粒子111及び第2の粒子211が集まった二次粒子を構成する。中空部102は、隣接する正極活物質Mとの間に存在する隙間より大きい空間である。
好ましい一態様に係る正極活物質Mは、第1の殻部101及び第2の殻部201がそれぞれの全体に亘って、第1の粒子111又は第2の粒子211が実質的に単層で連なった形態に構成されている。すなわち、第1の殻部101及び第2の殻部201からなる正極活物質Mは、2層構造を有する。第1の殻部101及び第2の殻部201の厚さが小さいほど、第1の連通孔110と第2の連通孔210とを合わせた距離であって、正極活物質Mの外部から中空部102に至るまでの経路の距離(リチウムイオンLの拡散距離)が短くなるため、イオン拡散が速くなって電池の内部抵抗が低減する。これにより、電池の出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が向上する。
一方、正極活物質Mが3層以上の多層構造である場合、第1の粒子111又は第2の粒子211の積層数は、それぞれがおよそ5個以下(例えば2~5個)であることが好ましく、およそ3個以下(例えば2~3個)であることがより好ましい。
なお、図1に示す正極活物質Mは、その構成の一例を示すものであり、各殻部101、201の層数、中空部102の形状、各殻部101、201の厚みと中空部102の幅との比率、各連通孔110、210の数や大きさ等は、図1に示す正極活物質Mに限定されるものではない。
また、第1の殻部101及び第2の殻部201は、各連通孔110、210以外の部分では、電解液を通過させない程度に、第1の粒子111同士又は第2の粒子211同士が緻密に焼結している。この構造の正極活物質Mによると、正極活物質Mの外部と中空部102との間で電解液が流通し得る箇所が、各連通孔110、210のある箇所に制限される。正極活物質Mの粒子は、形状維持性が高い(例えば、平均硬度が高いこと、圧縮強度が高いこと等に反映されて崩れにくい)ものとなり得るので、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。
また、中空部102には電解液が蓄えられるため、正極合材層10aにおいて電解液が不足するような液枯れも生じにくくなる。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンLの移動により充放電を行うため、中空部102と正極活物質Mの外部との間で電解液を行き来しやすくすることで、中空部102に面する第1の粒子111がより活発に充放電に活用され得る。
また、リチウムイオン二次電池の内部抵抗は、活物質と電解液との界面の電荷移動抵抗、正極活物質M内のリチウムイオンLの拡散移動抵抗、電解液の溶液抵抗等の複数の抵抗成分から構成される。中空構造の正極活物質Mの場合、各連通孔110、210の数量、孔径、正極活物質Mの外部から中空部102に至る距離等も、リチウムイオンLの拡散に影響を与えるため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗に寄与すると考えられる。
なお、正極は、正極活物質Mとして、上述した中空構造の正極活物質Mのほかに、例えば中実構造の正極活物質等の他の正極活物質を含んでもよい。但し、他の正極活物質の割合は、正極合材層10aが含有する正極活物質の全粒子のうち50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることが望ましい。
(負極)
次に、負極について説明する。負極シートを構成する負極集電体としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。そのような導電性部材としては、例えば銅又は銅を主成分とする合金を用いることができる。負極合材層20には、電荷担体となるリチウムイオンLを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれる。
負極活物質の組成や形状に特に制限はない。負極活物質としては、例えば炭素材料が挙げられる。このような炭素材料の代表例としては、グラファイトカーボン(黒鉛)、アモルファスカーボン等が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。その他、負極活物質として、チタン酸リチウム等の酸化物、ケイ素材料、スズ材料等の単体、合金、化合物、上記材料を併用した複合材料を用いることも可能である。リチウムイオン二次電池には、これらのような負極活物質の1種又は2種以上を使用することができる。
(リチウムイオン二次電池用正極の製造方法)
次に、図3を参照して、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法について説明する。図3は、実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を示すフローチャートである。図3に示すように、実施の形態1にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、以下のステップS1~S4の工程を有する。
ステップS1では、リチウム遷移金属酸化物を含む第1の粒子111が連なって略球殻状に形成される第1の殻部101を形成する。ステップS2では、リチウム遷移金属酸化物を含む第2の粒子211を形成する。ステップS3では、第1の殻部101と第2の粒子211とを混合した混合物を焼成して第1の殻部101を第2の粒子211が連なった第2の殻部201により被覆した正極活物質Mを形成する。ステップS4では、正極活物質Mと導電助剤11とを少なくとも含む正極合材層10aを正極集電体上に形成する。
上記の各工程について、さらに詳述する。まず、ステップS1において、第1の殻部101を形成する方法は、例えば、原料水酸化物生成工程と、第1の混合工程と、第1の焼成工程とを含む。
原料水酸化物生成工程は、遷移金属化合物の水溶液にアンモニウムイオン(NH4
+)を供給して、遷移金属水酸化物の粒子を水溶液から析出させる工程である。ここで、水溶液は、リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも1種を含む。
原料水酸化物生成工程は、水溶液から遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、核生成段階よりも水溶液のpHを減少させた状態で遷移金属水酸化物の粒子を成長させる粒子成長段階とを含むことが好ましい。粒子成長段階では、pH及びアンモニウムイオン濃度を変更することにより、遷移金属水酸化物の析出速度を調整することで、第1の殻部101の構造を変化させることができる。反応液中のアンモニウムイオン濃度を低くし、析出速度を高めると、第1の連通孔110を有する中空構造の第1の殻部101を生成しやすくなる。また、粒子成長時間を調整することによっても、粒子空孔率等を調整することができる。
第1の混合工程では、原料水酸化物生成工程で生成した遷移金属水酸化物粒子を反応液から分離し、洗浄、濾過、乾燥させる。このようにして得られた遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して第1の殻部形成用混合物を調製する。当該遷移金属水酸化物とリチウム化合物とは、所定の割合でできるだけ均一に混合すると良い。第1の混合工程では、典型的には、目的物である第1の殻部101の組成に対応する量比で、リチウム化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合する。
第1の焼成工程は、第1の殻部形成用混合物を焼成して第1の殻部101を得る工程である。第1の焼成工程は、例えば酸化性雰囲気中(例えば大気雰囲気中)で行われる。焼成温度は、例えば700℃以上1100℃以下である。また、第1の焼成工程は、異なる温度範囲で焼成する複数の工程を含んでいてもよい。焼成後には、必要に応じて、焼成物を解砕したものを分級して平均粒径を調整することが好ましい。
この工程では、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子であって第1の粒子111の焼結反応を進行させる。これにより、第1の粒子111同士が焼結されて連なった略球殻状の第1の殻部101が形成されるとともに、第1の殻部101の内部には中空部102が形成される。さらに、焼結時に結晶が成長する際、第1の殻部101の一部には、第1の殻部101の外部と中空部102とを連通する第1の連通孔110が形成される。
ステップS2では、ステップS1で形成された第1の殻部101を粉砕することにより、所望の短径L2及び長径L3を有する第2の粒子211を形成する。第1の殻部101の粉砕に際しては、粉砕機を用いる。粉砕機としては、例えばビーズミル、ジェットミル等の乾式粉砕を行う粉砕機を用いることができる。また、本実施形態において、所望の第2の粒子211の短径L2の平均は、0.1μm以上0.2μm以下であり、長径L3の平均は第1の連通孔110の孔径の0.8~1倍以上である。必要に応じて、粉砕物を分級して粒度を調整することが好ましい。
ステップS3において、第1の殻部101を第2の殻部201で被覆する方法は、第2の混合工程と、第2の焼成工程と、を含む。第2の混合工程は、第1の殻部101と、ステップS2で形成された第2の粒子211と、を混合し、正極活物質形成用混合物を調製する工程である。第1の殻部101と第2の粒子211とは、所定の割合でできるだけ均一に混合するとよい。この混合には、例えばプラネタリミキサー等の乾式混合を行う混合機を用いることができる。
第1の殻部101と第2の粒子211とを混合する所定の割合は、第1の殻部101に対する第2の粒子211の仕込み量として、第1の殻部101の表面積の値と所望の第2の殻部201の厚さの値とを乗算して求められる体積の範囲内であることが好ましい。本実施形態において、所望の第2の殻部201の厚さは、0.1μm以上1.0μm以下である。つまり、第1の殻部101に対する第2の粒子211の仕込み量は、下記の式(2)により算出できる。
第1の殻部101の表面積(μm2)×0.1~1.0(μm)…(2)
第1の殻部101に対して第2の粒子211を上記の割合で混合することにより、第1の殻部101の表面に適切な被覆率及び厚さを有する第2の殻部201を形成することができる。
第2の焼成工程は、正極活物質形成用混合物を焼成して、正極活物質Mを得る工程である。第2の焼成工程は、例えば酸化性雰囲気中(例えば大気雰囲気中)で行われる。焼成温度は、例えば500℃以上1000℃以下である。必要に応じて、焼成後に焼成物を解砕したものを分級して粒度を調整することが好ましい。焼成温度が低すぎると、材料の分解及び溶融が不十分となる虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、Coが還元する、Liが蒸散する等の原因で、Coが2価となる欠陥が生じるおそれがある。
この工程では、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子であって第2の粒子211同士、又は第1の殻部101と第2の粒子211とのそれぞれの焼結反応を進行させる。これにより、第2の粒子211同士が焼結されて連なった第2の殻部201が形成される。また、第2の殻部201は、第1の殻部101の表面の一部と焼結され、第1の殻部101を外側から被覆する。また、第2の殻部201の一部には、第2の殻部201の外部と第2の殻部201の内部とを連通するとともに、孔径が導電助剤11の平均粒径以下である第2の連通孔210が形成される。
ステップS4では、正極活物質Mと導電助剤11とを含む正極合材層10aを正極集電体上に形成することにより正極シートを作製する。ステップS4における正極の作製方法は特に限定されないが、例えば以下の方法によって作製することができる。
まず、ステップS3で形成された正極活物質Mと、導電助剤11と、バインダ等と、を適当な溶媒(水系溶媒、非水系溶媒又はこれらの混合溶媒)で混合してペースト状又はスラリー状の正極合材層形成用組成物を調製する。その後、正極合材層形成用組成物を正極集電体の表面に塗付し、乾燥することにより溶媒を揮発させる。乾燥したものを必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、正極集電体上に、正極合材層10aを形成することができる。
正極集電体上への正極合材層10aの単位面積当たりの塗布量は、特に限定されるものではないが、十分な導電パスを確保する観点から、正極集電体の片面当たり3mg/cm2以上が好ましく、5mg/cm2以上がより好ましく、特に6mg/cm2以上であるとよい。なお、塗布量は、正極合材層形成用組成物の固形分換算の塗付量である。
また、正極集電体の片面当たりの塗布量は、45mg/cm2以下が好ましく、28mg/cm2以下がより好ましく、特に15mg/cm2以下が好ましい。正極合材層10aの密度も、特に限定されないが、1.0g/cm3以上3.8g/cm3以下であることが好ましく、1.5g/cm3以上3.0g/cm3以下がより好ましく、特に1.8g/cm3以上2.4g/cm3以下とすることが好ましい。
次に、図4を参照して、実施例1~2、参考例、比較例1~5について説明する。なお、実施例は本発明を限定するものではない。図4は、実施例1~2、参考例、及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質の断面を示す模式図である。図4に示す各正極活物質M1~M8の断面は、それぞれの正極に含まれる各正極活物質M1~M8に対応する1つの正極活物質粒子を模式的に示している。
実施例1~2、参考例、比較例1~5のリチウムイオン二次電池は、以下の方法により作製した。まず、後述する8種類の正極活物質M1~M8のそれぞれと、平均粒径0.15μmの導電助剤11としてのアセチレンブラックと、バインダとしてのPVdFと、を有機溶媒中で混合して、ペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。この時、材料の混合比は、正極活物質M1~M8をそれぞれ90質量%とし、導電助剤11を7質量%、バインダ3質量%の質量比で混合した。
得られた正極合材層形成用組成物を、正極集電体であるアルミニウム箔の両面に、片面当たりの厚みが20μm、塗布量が6.8mg/cm2となるように塗布し、乾燥後、プレスすることにより8種類の正極シートを作製した。
また、負極活物質としての非晶質炭素でコートされた粒子状の天然黒鉛と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、所定の質量比にてイオン交換水中で混合して、ペースト状の負極活物質層形成用組成物を調製した。得られた負極活物質層形成用組成物を、負極集電体である銅箔の両面に塗布し、乾燥後、プレスすることにより負極シートを作製した。
さらに、作製した正極シートと負極シートと2枚のセパレータSとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。これを、注液口を有する電池ケースに収容した。続いて、電池ケースの注液口から非水電解液を注入し、当該注液口を気密に封止した。以上のようにして、8種類の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例1)
図3に示したフローにしたがって、実施例1のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M1を作製した。正極活物質M1は、内部に中空部102を有する第1の殻部101と、第2の殻部201と、により構成される粒子である。正極活物質M1において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。また、第2の殻部201を構成する第2の粒子211(一次粒子)の短径L2の平均は0.2μmで、長径L3の平均が0.3μmである。また、第2の連通孔210の孔径は0.1μmである。
(実施例2)
図3に示したフローにしたがって、実施例2のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M2を作製した。正極活物質M2は、内部に中空部102を有する第1の殻部101と、第2の殻部201と、により構成される粒子である。正極活物質M2において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。また、第2の殻部201を構成する第2の粒子211(一次粒子)は球形で、短径L2及び長径L3がそれぞれ0.5μm、第2の連通孔210の孔径は0.15μmである。
(参考例)
参考例のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M3は、第2の殻部201を有していない。正極活物質M3は、内部に中空部102を有する第1の殻部101のみで構成される粒子である。正極活物質M3において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。第1の殻部101は、各実施例と同様の構成である。正極活物質M3は、図3に示すフローのうち、ステップS1を用いることにより作製可能である。
(比較例1)
比較例1のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M4は、第1の殻部101を被覆するリチウム遷移金属酸化物の一次粒子として、短径及び長径がそれぞれ0.05μmの一次粒子211aを使用したこと以外は、各実施例と同様にして作製した。正極活物質M4は、内部に中空部102を有する第1の殻部101と、第2の粒子211より短径及び長径が小さい(短径は0.1μmより小さく、長径は第1の連通孔110の孔径の0.8倍より小さい)一次粒子211aと、が焼結された粒子である。
また、正極活物質M4において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。第1の殻部101は、各実施例と同様の構成である。したがって、一次粒子211aは、第1の連通孔110の孔径よりも小径である。このため、一次粒子211aは、第1の連通孔110に進入した状態、又は一次粒子211aが第1の連通孔110を通過して中空部102に入り込んだ状態である。
(比較例2)
比較例2のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M5は、第1の殻部101を被覆するリチウム遷移金属酸化物の一次粒子として、短径及び長径がそれぞれ1.5μmの一次粒子211bを使用したこと以外は、各実施例と同様にして作製した。正極活物質M5は、内部に中空部102を有する第1の殻部101の表面に、第2の粒子211より少なくとも短径が大きい(0.2μmより大きい)一次粒子211bが焼結された外殻部201bにより第1の殻部101を被覆した粒子である。
また、正極活物質M5において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。第1の殻部101は、各実施例と同様の構成である。また、複数の一次粒子211b間に設けられた隙間により構成される連通孔210bの孔径は0.5μmである。当該連通孔210bは、実施例1、2における第2の連通孔210に対応する細孔である。
(比較例3)
比較例3のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M6は、第2の殻部201を有していない。また、正極活物質M6には、正極活物質M6の外部と中空部102とを連通する第1の連通孔110が設けられていない。正極活物質M6は、第1の粒子111が隙間なく連なって球殻状に形成される殻部101cを有する。殻部101cの内部には、中空部102が形成される。正極活物質M6において、殻部101cの厚さは1.0μm、殻部101c(二次粒子)の平均粒径は5.0μmである。
(比較例4)
比較例4のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M7は、図3に示すフローのステップS3において、第1の殻部101に対する第2の粒子211の仕込み量を増量したこと以外は、各実施例と同様にして作製した。正極活物質M7の作製に際して、第2の粒子211の仕込み量は、「第1の殻部101の表面積(μm2)×1.0(μm)」により与えられる体積を超える量を用いる。正極活物質M7は、内部に中空部102を有する第1の殻部101の表面に焼結された第2の粒子211からなる外殻部201dにより、第1の殻部101を被覆した粒子である。当該外殻部201dは、第2の粒子211同士が焼結されて1.0μmを超える厚さを有する。
また、当該外殻部201dにおいて、複数の第2の粒子211間に設けられた隙間により構成される連通孔210dの孔径は0.1μmである。当該連通孔210dは、実施例1、2における第2の連通孔210に対応する細孔である。そして、正極活物質M7において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。第1の殻部101は、各実施例と同様の構成である。
(比較例5)
比較例5のリチウムイオン二次電池が含む正極活物質M8は、図3に示すフローのステップS3において、第1の殻部101に対する第2の粒子211の仕込み量を減量したこと以外は、各実施例と同様にして作製した。正極活物質M8の作製に際して、第2の粒子211の仕込み量は、「第1の殻部101の表面積(μm2)×0.1(μm)」により与えられる体積未満の量を用いる。
正極活物質M8は、内部に中空部102を有する第1の殻部101の表面に焼結された第2の粒子211からなる外殻部201eにより第1の殻部101を部分的に被覆した粒子である。実質的には、第1の殻部101の表面に第2の粒子211が点在している。第1の殻部101の全表面積に対する当該外殻部201eにより被覆された面積の割合である被覆率は75%未満である。また、当該外殻部201eにおいて、複数の第2の粒子211間に設けられた隙間により構成される連通孔210eは、導電助剤11の平均粒径を超過する孔径を有する。
そして、正極活物質M8において、第1の殻部101の厚さは1.0μm、第1の殻部101(二次粒子)の平均粒径は5.0μm、第1の連通孔110の孔径は0.3μmである。第1の殻部101は、各実施例と同様の構成である。
(評価)
作製した実施例1~2、参考例、及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池について、3.71Vの電圧に充電した。その後、電流密度4.5mA/cm2で0.1秒間又は0.5秒間の放電を行い、それぞれの放電時間経過後における電圧降下量を測定した。その結果を図5及び図6に示す。
図5は、図4に示す正極活物質を含むリチウムイオン二次電池が0.1分間で放電された場合の電圧降下を示すグラフである。図6は、図4に示す正極活物質を含むリチウムイオン二次電池が0.5分間で放電された場合の電圧降下を示すグラフである。図5及び図6の各グラフ中において、実施例1、2、及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池の電圧降下量は、参考例のリチウムイオン二次電池の電圧降下量を基準(100%)としたときの相対値として示している。
図5及び図6のグラフの結果から明らかなように、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成を有する実施例1、2は、参考例と比較して、電圧降下量が4~10%程度小さくなることが認められた。実施例1、2は、参考例と比較して、正極活物質M1、M2が第2の殻部201を有することにより、正極活物質M1、M2の中空部102に導電助剤11が流入することを抑制する。そのため、実施例1、2では、リチウムイオン二次電池の使用時に、正極活物質M1、M2の外部における導電助剤11量が減少することなく維持され、混合された導電助剤11の全量を用いて正極合材層10a中に十分な導電パスを形成することができる。
したがって、実施例1、2のリチウムイオン二次電池によれば、正極合材層10a中における導電性を良好にすることができるとともに、好適な電池の内部抵抗の低減効果が得られる。すなわち、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。
一方、比較例1~5は、参考例と比較して、いずれも電圧降下量が大きい傾向が認められた。比較例1~5では、以下の理由により、参考例と比較して電池の内部抵抗が増加するため、電圧降下量が大きくなると考えられる。
比較例1のリチウムイオン二次電池では、正極活物質M4において、一次粒子211aにより第1の連通孔110が塞がれている場合には、正極活物質M4の外部と中空部102との間で電解液が流通し得る箇所が無いため、正極活物質M4の中空部102を有効に活用できない。そのため、比較例1では、正極活物質M4の中空構造による電解液との反応面積の向上効果が低い。一方、正極活物質M4は第2の連通孔210を備えていないために、導電助剤11が第1の連通孔110から中空部102に流入する場合には、正極合材層中における導電パスの形成が不十分になる。
比較例2のリチウムイオン二次電池では、正極活物質M5は、連通孔210bの孔径が導電助剤11の平均粒径より大きいため、導電助剤11が連通孔210b及び第1の連通孔110を通過して中空部102に流入する。また、正極活物質M5において、第1の殻部101を被覆する一次粒子211bの短径が大きすぎる。これに起因して、外殻部201bの厚みも増大している。よって、比較例2では、正極合材層中における導電パスの形成が不十分になるとともに、正極活物質M5におけるイオン拡散が遅くなる。
比較例3のリチウムイオン二次電池は、正極活物質M6の外部と中空部102との間で電解液が流通し得る箇所が無い。そのため、正極活物質M6の中空部102を有効に活用できず、中空構造による電解液との反応面積の向上効果が低い。
比較例4のリチウムイオン二次電池では、正極活物質M7の外殻部201dに設けられた連通孔210dにより、導電助剤11の中空部102への流入が抑制される。しかし、外殻部201dの厚さが大きすぎるため、正極活物質M7におけるイオン拡散が遅くなる。
比較例5のリチウムイオン二次電池は、正極活物質M8の第1の殻部101に対して第2の粒子211による被覆率が小さいために、導電助剤11の平均粒径以下の孔径を有する第2の連通孔210を形成することが困難である。よって、比較例5では、導電助剤11が中空部102へ流入することを抑制する効果が得られない。
ここで、参考例のリチウムイオン二次電池を例に、中空構造の正極活物質M3を用いた正極におけるリチウムイオンLの分布について説明する。図7は、中空構造の正極活物質を含むリチウムイオン二次電池の電極体の一部の断面を示す図である。図7に示す電極体1は、セパレータSを介して正極合材層10bと負極合材層20とが配置されている。この正極合材層10bには、中空構造の正極活物質M3、M6が含まれている。
図8は、図7に示すリチウムイオン二次電池の放電時における正極合材層の状態を示す図である。図8は、30Cの電流レートにより3分間の放電を行った場合の正極合材層10b中のリチウムイオンLの濃度分布を示している。
図8において、破線で囲われた領域内にある正極活物質M3、M6の2つの粒子のうち、一方が正極活物質M6であり、他方が正極活物質M3である。放電時における正極活物質M6は、第1の連通孔110が設けられておらず、正極活物質M6の外部の電解液が中空部102に流入することができないため、中空部102にリチウムイオンLが存在しない。したがって、中空部102に面する第1の粒子111を反応に利用することが困難である。
他方、放電時における正極活物質M3は、電解液が流通するために十分に大きな孔径を有する第1の連通孔110が設けられているため、電解液は第1の連通孔110を介して中空部102に流出入可能である。これにより、中空部102に面する第1の粒子111と電解液との固液界面を反応面として有効に活用することができる。
しかしながら、このように第1の連通孔110のみが設けられた中空構造の正極活物質M3では、電解液の流れに伴って、中空部102に導電助剤11が流入する場合がある。ここで、図9は、図7に示すリチウムイオン二次電池の正極合材層における導電助剤11の分布を示す図である。図9に示すように、正極活物質M3の第1の連通孔110は導電助剤11の平均粒径よりも大きい孔径を有するため、導電助剤11が第1の連通孔110を通過して正極活物質M3の中空部102に流入する場合がある。導電助剤11が中空部102に流入すると、正極活物質M3の外部における導電助剤11の量が相対的に減少する。
この場合は、正極活物質M3、M6間や正極活物質M3、M6と正極集電体との間において導電助剤11が導電パスを十分に形成することができず、正極合材層10b中の導電性が低下する。その結果、放電後の電圧降下量が大きくなってしまう。したがって、良好な電池の充放電効率及び出力特性が得られないという問題がある。
この問題に対しては、正極合材層10b中の導電助剤11を増量することが考えられるが、この場合は、電極中の電解液量が相対的に低下するため、電池の出力特性の低下を招くという問題がある。
これらに対し、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池は、それぞれリチウム遷移金属酸化物を含む第1の殻部101と第2の殻部201とを有し、内部に中空部102を有する中空構造の正極活物質Mと、導電助剤11と、を含んでいる。第1の殻部101には、正極活物質Mの外部と中空部102との電解液の円滑な流出入を可能とする孔径を有する第1の連通孔110が設けられる。また、第1の殻部101の外表面を被覆する第2の殻部201には、導電助剤11の平均粒径以下の孔径を有する第2の連通孔210が設けられる。
このような構成によれば、中空構造を有する正極活物質Mの外部と中空部102とで電解液が流出入するため、正極活物質Mと電解液との反応面積が向上する。また、リチウムイオン二次電池の使用時において、導電助剤11が正極活物質Mの中空部102へ流入することを抑制できる。そのため、導電性の向上に寄与する導電助剤11量が確保され、正極合材層10a中の導電性が向上する。
さらに、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池では、正極活物質Mに第2の殻部201が設けられることによって、正極活物質Mにおけるイオン拡散を阻害しないように、第2の殻部201の厚さが調整される。また、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池では、正極活物質Mの第2の殻部201を構成する第2の粒子211の短径L2及び長径L3は、第1の連通孔110に進入しない程度であって、正極活物質Mにおけるイオン拡散を阻害しないように調整される。
このような構成によれば、正極活物質Mの中空構造を有効に活用できるとともに、正極活物質Mにおけるイオン拡散が円滑に行われる。そのため、リチウムイオン二次電池の反応効率の低下と内部抵抗の増加とを抑制することができる。
さらに、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池では、正極活物質Mを構成する第2の殻部201は、第1の殻部101の表面積のうち75%以上を被覆するように構成される。このような構成によれば、第2の殻部201に適切な孔径を有する第2の連通孔210を設けることができるため、導電助剤11が中空部102に流入することを抑制できる。そのため、導電性の向上に寄与する導電助剤11量が確保され、正極合材層10a中の導電性が向上する。
以上説明したように、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池によれば、電池の充放電効率及び電池の出力特性を向上することができる。また、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法によれば、上記の効果を奏するリチウムイオン二次電池の正極を製造することができる。