以下に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置、モータ駆動装置及び空気調和機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電力変換装置100の構成例を示す図である。電力変換装置100は、整流回路3を用いて、交流電源1から供給される交流電力を直流電力に変換して負荷50に印加する交流直流変換機能を有する電源装置である。図1に示すように、電力変換装置100は、リアクタ2と、整流回路3と、平滑コンデンサ4と、電源電圧検出部5と、電源電流検出部6と、母線電圧検出部7と、制御部10とを備える。リアクタ2は、第1端部と第2端部とを備え、第1端部が交流電源1に接続される。
整流回路3は、ダイオードが並列接続されたスイッチング素子が2つ直列接続されたアームを2つ備え、2つのアームが並列接続された回路である。具体的には、整流回路3は、第1の回路である第1のアーム31と、第2の回路である第2のアーム32とを備える。第1のアーム31は、直列接続されたスイッチング素子311及びスイッチング素子312を備える。スイッチング素子311には寄生ダイオード311aが形成される。寄生ダイオード311aは、スイッチング素子311のドレインとソースとの間に並列接続される。スイッチング素子312には寄生ダイオード312aが形成される。寄生ダイオード312aは、スイッチング素子312のドレインとソースとの間に並列接続される。寄生ダイオード311a,312aのそれぞれは、還流ダイオードとして使用されるダイオードである。
第2のアーム32は、直列接続されたスイッチング素子321及びスイッチング素子322を備える。第2のアーム32は、第1のアーム31に並列接続される。スイッチング素子321には寄生ダイオード321aが形成される。寄生ダイオード321aは、スイッチング素子321のドレインとソースとの間に並列接続される。スイッチング素子322には寄生ダイオード322aが形成される。寄生ダイオード322aは、スイッチング素子322のドレインとソースとの間に並列接続される。寄生ダイオード321a,322aのそれぞれは、還流ダイオードとして使用されるダイオードである。
詳細には、電力変換装置100は、それぞれが交流電源1に接続される第1の配線501及び第2の配線502と、第1の配線501に配置されるリアクタ2とを備える。また、第1のアーム31は、第1のスイッチング素子であるスイッチング素子311と、第2のスイッチング素子であるスイッチング素子312と、第1の接続点506を有する第3の配線503とを備える。スイッチング素子311及びスイッチング素子312は、第3の配線503により直列に接続される。第1の接続点506には第1の配線501が接続される。第1の接続点506は、第1の配線501及びリアクタ2を介して、交流電源1に接続される。第1の接続点506は、リアクタ2の第2端部に接続される。
第2のアーム32は、第3のスイッチング素子であるスイッチング素子321と、第4のスイッチング素子であるスイッチング素子322と、第2の接続点508を備える第4の配線504とを備え、スイッチング素子321及びスイッチング素子322は、第4の配線504により直列に接続される。第2の接続点508には第2の配線502が接続される。第2の接続点508は、第2の配線502を介して交流電源1に接続される。なお、整流回路3は、少なくとも1つ以上のスイッチング素子を備え、交流電源1から出力される交流電圧を直流電圧に変換できればよい。
平滑コンデンサ4は、整流回路3、詳細には第2のアーム32に並列接続されるコンデンサである。整流回路3では、スイッチング素子311の一端が平滑コンデンサ4の正側に接続され、スイッチング素子311の他端とスイッチング素子312の一端とが接続され、スイッチング素子312の他端が平滑コンデンサ4の負側に接続されている。
スイッチング素子311,312,321,322は、MOSFETで構成される。スイッチング素子311,312,321,322には、窒化ガリウム(Gallium Nitride:GaN)、炭化珪素(Silicon Carbide:SiC)、ダイヤモンドまたは窒化アルミニウムといったワイドバンドギャップ(Wide Band Gap:WBG)半導体で構成されたMOSFETを用いることができる。スイッチング素子311,312,321,322にWBG半導体を用いることにより、耐電圧性が高く、許容電流密度も高くなるため、モジュールの小型化が可能となる。WBG半導体は、耐熱性も高いため、放熱部の放熱フィンの小型化も可能になる。
制御部10は、電源電圧検出部5、電源電流検出部6及び母線電圧検出部7からそれぞれ出力される信号に基づいて、整流回路3のスイッチング素子311,312,321,322を動作させる駆動信号を生成する。電源電圧検出部5は、交流電源1の出力電圧の電圧値である電源電圧Vsを検出し、検出結果を示す電気信号を制御部10へ出力する電圧検出部である。電源電流検出部6は、交流電源1から出力される電流の電流値である電源電流Isを検出し、検出結果を示す電気信号を制御部10へ出力する電流検出部である。電源電流Isは、交流電源1と整流回路3との間に流れる電流の電流値である。なお、電源電流検出部6は、整流回路3に流れる電流が検出できればよいので、設置位置は図1の例に限定されず、整流回路3と平滑コンデンサ4との間であってもよいし、平滑コンデンサ4と負荷50との間であってもよい。母線電圧検出部7は、母線電圧Vdcを検出し、検出結果を示す電気信号を制御部10へ出力する電圧検出部である。母線電圧Vdcは、整流回路3の出力電圧を平滑コンデンサ4で平滑した電圧である。以降の説明において、電源電圧検出部5、電源電流検出部6、及び母線電圧検出部7を単に検出部と称することがある。また、電源電圧検出部5で検出される電源電圧Vs、電源電流検出部6で検出される電源電流Is、及び母線電圧検出部7で検出される母線電圧Vdcを、整流回路3の動作状態を示す物理量と称することがある。制御部10は、電源電圧Vs、電源電流Is、及び母線電圧Vdcに応じてスイッチング素子311,312,321,322のオンオフを制御する。なお、制御部10は、電源電圧Vs、電源電流Is、及び母線電圧Vdcのうち、少なくとも1つを用いてスイッチング素子311,312,321,322のオンオフを制御してもよい。
次に、実施の形態1に係る電力変換装置100の基本的な動作を説明する。以下では、交流電源1の正側すなわち交流電源1の正極端子に接続されるスイッチング素子311,321を、上側スイッチング素子と称する場合がある。また、交流電源1の負側すなわち交流電源1の負極端子に接続されるスイッチング素子312,322を、下側スイッチング素子と称する場合がある。
第1のアーム31では、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子は相補的に動作する。すなわち、上側スイッチング素子及び下側スイッチング素子のうち、一方がオンの場合には他方はオフである。第1のアーム31を構成するスイッチング素子311,312は、後述するように、制御部10により生成される駆動信号であるPWM信号により駆動される。PWM信号に従ったスイッチング素子311,312のオンまたはオフの動作を、以下ではスイッチング動作とも呼ぶ。交流電源1及びリアクタ2を介した平滑コンデンサ4の短絡を防ぐため、交流電源1から出力される電源電流Isの絶対値が電流閾値以下の場合には、スイッチング素子311及びスイッチング素子312はともにオフとなる。以下では、平滑コンデンサ4の短絡をコンデンサ短絡と称する。コンデンサ短絡は、平滑コンデンサ4に蓄えられたエネルギーが放出され、交流電源1に電流が回生される状態である。
第2のアーム32を構成するスイッチング素子321,322は、制御部10により生成される駆動信号によりオンまたはオフとなる。スイッチング素子321,322は、基本的には、交流電源1から出力される電圧の極性である電源電圧極性に応じてオンまたはオフの状態となる。具体的には、電源電圧極性が正の場合、スイッチング素子322はオンであり、かつ、スイッチング素子321はオフであり、電源電圧極性が負の場合、スイッチング素子321はオンであり、かつ、スイッチング素子322はオフである。なお、図1では、制御部10から整流回路3へ向かう矢印でスイッチング素子321,322のオンオフを制御する駆動信号、及びスイッチング素子311,312のオンオフを制御する前述のPWM信号を示している。
図1に示す電力変換装置100では、スイッチング素子311,312,321,322に対して寄生ダイオード311a,312a,321a,322aのみが記載されているが、一例であり、スイッチング素子311,312,321,322に対して、整流ダイオード、ショットキーバリアダイオードなどのダイオードが別途並列に接続されていてもよい。また、図1に示す電力変換装置100では、整流回路3が4つのスイッチング素子311,312,321,322を備える構成としているが、一方のアームについては2つのスイッチング素子を削除し、2つのダイオードからなる構成にしてもよい。図2は、実施の形態1に係る電力変換装置100が備える整流回路3の他の例を示す図である。図2では、第2のアーム32を2つのダイオード321b,322bで構成している例を示している。このように、整流回路3は、スイッチング素子311,312、及びダイオード321b,322bを併用するような回路構成であってもよい。図2に示すような回路構成であっても、本実施の形態による効果を得ることができる。ただし、図2に示す整流回路3の構成の場合、電力変換装置100は、スイッチング素子311,312のオンオフを制御する。以降では、図1に示す電力変換装置100を例にして説明する。
次に、実施の形態1におけるスイッチング素子311,312,321,322の状態と実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路との関係を説明する。なお、本説明の前に、MOSFETの構造について、図3を参照して説明する。
図3は、実施の形態1に係るスイッチング素子311,312,321,322を構成するMOSFETの概略構造を示す模式的断面図である。図3には、n型MOSFETが例示される。n型MOSFETの場合、図3に示すように、p型の半導体基板600が用いられる。半導体基板600には、ソース電極S、ドレイン電極D及びゲート電極Gが形成される。ソース電極S及びドレイン電極Dと接する部位には、高濃度の不純物がイオン注入されてn型の領域601が形成される。また、半導体基板600において、n型の領域601が形成されない部位とゲート電極Gとの間には、酸化絶縁膜602が形成される。すなわち、ゲート電極Gと、半導体基板600におけるp型の領域603との間には、酸化絶縁膜602が介在している。
ゲート電極Gに正電圧が印加されると、半導体基板600におけるp型の領域603と酸化絶縁膜602との間の境界面に電子が引き寄せられ、当該境界面が負に帯電する。電子が集まった所は、電子の密度がホール密度よりも高くなりn型化する。このn型化した部分は電流の通り道となりチャネル604と呼ばれる。チャネル604は、図3の例では、n型チャネルである。MOSFETがオンに制御されることにより、通流する電流は、p型の領域603に形成される寄生ダイオードよりも、チャネル604に多く流れる。
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図4では、記載を簡潔にするため、スイッチング素子311,312,321,322のみ符号を付与している。また、図4では、同期整流制御のためにオンしているスイッチング素子を実線の丸印で示し、電源短絡のためにオンしているスイッチング素子を点線の丸印で示している。
図4(a)は、電源電流Isの絶対値が電流閾値よりも大きく、かつ、電源電圧極性が正のとき、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図4(a)では、電源電圧極性が正であり、スイッチング素子311及びスイッチング素子321がオンであり、スイッチング素子312及びスイッチング素子322がオフである。スイッチング素子311は同期整流制御のためにオンされ、スイッチング素子321は電源短絡のためにオンされる。図4(a)は、電源電圧極性が正のときの電源短絡モードの状態を示すものである。この状態では、交流電源1、リアクタ2、スイッチング素子311、スイッチング素子321、交流電源1の順序で電流が流れ、平滑コンデンサ4を経由しない電源短絡経路が形成される。このように、実施の形態1では、寄生ダイオード311a及び寄生ダイオード321aに電流が流れるのではなく、スイッチング素子311及びスイッチング素子321のそれぞれのチャネルに電流が流れることで、電源短絡経路が形成される。
図4(b)は、電源電流Isの絶対値が電流閾値よりも大きく、かつ、電源電圧極性が正のとき、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図4(b)では、電源電圧極性が正であり、スイッチング素子311及びスイッチング素子322がオンであり、スイッチング素子312及びスイッチング素子321がオフである。スイッチング素子311及びスイッチング素子322は同期整流制御のためにオンされる。図4(b)は、電源電圧極性が正のときの負荷電力供給モードの状態を示すものである。この状態では、交流電源1、リアクタ2、スイッチング素子311、平滑コンデンサ4、スイッチング素子322、交流電源1の順序で電流が流れる。このように、実施の形態1では、寄生ダイオード311a及び寄生ダイオード322aに電流が流れるのではなく、スイッチング素子311及びスイッチング素子322のそれぞれのチャネルに電流が流れることで、同期整流制御が行われる。
図4(c)は、電源電流Isの絶対値が電流閾値よりも大きく、かつ、電源電圧極性が負のとき、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図4(c)では、電源電圧極性が負であり、スイッチング素子312及びスイッチング素子322がオンであり、スイッチング素子311及びスイッチング素子321がオフである。スイッチング素子312は同期整流制御のためにオンされ、スイッチング素子322は電源短絡のためにオンされる。図4(c)は、電源電圧極性が負のときの電源短絡モードの状態を示すものである。この状態では、交流電源1、スイッチング素子322、スイッチング素子312、リアクタ2、交流電源1の順序で電流が流れ、平滑コンデンサ4を経由しない電源短絡経路が形成される。このように、実施の形態1では、寄生ダイオード322a及び寄生ダイオード312aに電流が流れるのではなく、スイッチング素子322及びスイッチング素子312のそれぞれのチャネルに電流が流れることで、電源短絡経路が形成される。
図4(d)は、電源電流Isの絶対値が電流閾値よりも大きく、かつ、電源電圧極性が負のとき、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図4(d)では、電源電圧極性が負であり、スイッチング素子312及びスイッチング素子321がオンであり、スイッチング素子311及びスイッチング素子322がオフである。スイッチング素子312及びスイッチング素子321は同期整流制御のためにオンされる。図4(d)は、電源電圧極性が負のときの負荷電力供給モードの状態を示すものである。この状態では、交流電源1、スイッチング素子321、平滑コンデンサ4、スイッチング素子312、リアクタ2、交流電源1の順序で電流が流れる。このように、実施の形態1では、寄生ダイオード321a及び寄生ダイオード312aに電流が流れるのではなく、スイッチング素子321及びスイッチング素子312のそれぞれのチャネルに電流が流れることで、同期整流制御が行われる。
制御部10は、以上に述べた電流経路の切り替えを制御することで、電源電流Is及び母線電圧Vdcの値を制御できる。具体的には、制御部10は、リアクタ2を介して電源短絡する電流経路を生成するようにスイッチング素子311,312,321,322のオンオフを制御することによって、力率改善制御及び昇圧制御を行う。電力変換装置100は、電源電圧極性が正のときは図4(b)に示す負荷電力供給モードと図4(a)に示す電源短絡モードとを連続的に切り替え、電源電圧極性が負のときは図4(d)に示す負荷電力供給モードと図4(c)に示す電源短絡モードとを連続的に切り替えることで、母線電圧Vdcの上昇、電源電流Isの同期整流制御などの動作を実現する。具体的には、制御部10は、PWMによるスイッチング動作を行うスイッチング素子311,312のスイッチング周波数を、電源電圧Vsの極性に応じたスイッチング動作を行うスイッチング素子321,322のスイッチング周波数よりも高くして、スイッチング素子311,312,321,322のオンオフを制御する。以降の説明において、スイッチング素子311,312,321,322を区別しない場合は単にスイッチング素子と称することがある。同様に、寄生ダイオード311a,312a,321a,322aを区別しない場合は単に寄生ダイオードと称することがある。
なお、図4に示す各スイッチング素子のスイッチングパターンは一例であり、電力変換装置100は、図4に示す各スイッチング素子のスイッチングパターン以外の電流経路にすることも可能である。電力変換装置100は、何れのスイッチングパターンにおいても、本実施の形態の効果を得ることができる。
次に、制御部10が、スイッチング素子をオンオフするタイミングについて説明する。図5は、実施の形態1に係る電力変換装置100において制御部10がスイッチング素子をオンするタイミングを示す図である。図5において横軸は時間である。図5において、Vsは電源電圧検出部5で検出される電源電圧Vsであり、Isは電源電流検出部6で検出される電源電流Isである。図5では、スイッチング素子311,312が、電源電流Isの極性に応じてオンオフが制御される電流同期のスイッチング素子であることを示し、スイッチング素子321,322が、電源電圧Vsの極性に応じてオンオフが制御される電圧同期のスイッチング素子であることを示す。また、図5において、Ithは電流閾値を示す。なお、図5では交流電源1から出力される交流電力の1周期を示しているが、制御部10は、他の周期においても図5に示す制御と同様の制御を行うものとする。
制御部10は、電源電圧極性が正の場合、スイッチング素子322をオンし、スイッチング素子321をオフする。また、制御部10は、電源電圧極性が負の場合、スイッチング素子321をオンし、スイッチング素子322をオフする。なお、図5では、スイッチング素子322がオンからオフになるタイミングと、スイッチング素子321がオフからオンになるタイミングとが同じタイミングであるが、これに限定されない。制御部10は、スイッチング素子322がオンからオフになるタイミングと、スイッチング素子321がオフからオンになるタイミングとの間に、スイッチング素子321,322がともにオフになるデッドタイムを設けてもよい。同様に、制御部10は、スイッチング素子321がオンからオフになるタイミングと、スイッチング素子322がオフからオンになるタイミングとの間に、スイッチング素子321,322がともにオフになるデッドタイムを設けてもよい。
制御部10は、電源電圧極性が正の場合、電源電流Isの絶対値が電流閾値Ith以上になると、スイッチング素子311をオンする。その後、制御部10は、電源電流Isの絶対値が小さくなり、電源電流Isの絶対値が電流閾値Ithよりも小さくなると、スイッチング素子311をオフする。また、制御部10は、電源電圧極性が負の場合、電源電流Isの絶対値が電流閾値Ith以上になると、スイッチング素子312をオンする。その後、制御部10は、電源電流Isの絶対値が小さくなり、電源電流Isの絶対値が電流閾値Ithよりも小さくなると、スイッチング素子312をオフする。
制御部10は、電源電流Isの絶対値が電流閾値Ith以下の場合には、上側スイッチング素子のスイッチング素子311及びスイッチング素子321が同時にオンしないように制御し、また、下側スイッチング素子のスイッチング素子312及びスイッチング素子322が同時にオンしないように制御する。これにより、制御部10は、電力変換装置100においてコンデンサ短絡を防止できる。制御部10は、各スイッチング素子を図5に示すようにオンオフすることによって、電力変換装置100の高効率化を図ることができる。
図6は、実施の形態1に係る電力変換装置100の電源短絡モード及び負荷電力供給モードを用いた交流電流制御手法の例を示す図である。図6では、パッシブ制御と、簡易スイッチング制御と、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御を継続的に行うフルPAM制御と、の各交流電流制御手法について、電源電圧Vsの波形、電源電流Isの波形、スイッチング素子321に対するPWM信号、及び特徴を示している。
パッシブ制御は、前述の図5の例と同じ制御状態である。制御部10は、パッシブ制御では、各スイッチング素子に対してPWM信号でオンオフの制御はしない。パッシブ制御は、他の交流電流制御手法に対して、スイッチング素子のオンオフによる損失は少ないが、高調波の抑制能力が劣る特徴がある。
簡易スイッチング制御は、制御部10が電源短絡モードを電源半周期中に1回または数回実施する制御モードである。簡易スイッチング制御は、特徴として、スイッチング回数が少ないため、スイッチング損失が小さい点に利点がある。ただし、簡易スイッチング制御は、スイッチング回数が少ない分、交流電流波形を完全に正弦波状に制御することが困難のため、力率の改善率は小さい。
フルPAM制御は、制御部10が電源短絡モード及び負荷電力供給モードを連続的に切り替え、切り替え周波数を数kHz以上とする制御モードである。フルPAM制御は、特徴として、連続的に電源短絡モード及び負荷電力供給モードが切り替えられるため、力率の改善率が高い点に利点がある。ただし、フルPAM制御は、スイッチング回数が多いため、スイッチング損失が大きい。簡易スイッチング制御及びフルPAM制御の共通点としては、パッシブ制御に対して力率を改善可能な点である。
制御部10が、力率改善制御を行う場合において、簡易スイッチング制御またはフルPAM制御を切り替える動作について説明する。図7は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御部10における制御モードの切り替え動作を示す第1のフローチャートである。図7では一例として、制御部10は、交流電源1から電力変換装置100に入力される入力電力Pinに応じて制御モードを選択する。制御部10は、電源電圧検出部5で検出された電源電圧Vs及び電源電流検出部6で検出された電源電流Isを用いて、入力電力Pinを算出することができる。なお、制御部10は、入力電力Pinに替えて、入力電力Pinに相関性のあるパラメータ、例えば、電源電圧Vs、電源電流Is、母線電圧検出部7で検出された母線電圧Vdc、電力変換装置100の負荷50の動作条件などを用いて制御を行ってもよい。すなわち、制御部10は、物理量または物理量から得られる値に応じて制御を行ってもよい。ここで、物理量とは、例えば、交流電源1から電力変換装置100への入力電圧である電源電圧Vsまたは入力電流である電源電流Is、または、電力変換装置100からの出力電圧である母線電圧Vdcである。また、物理量から得られる値とは、例えば、交流電源1から電力変換装置100への入力電力Pinである。以降のフローチャートの説明においても同様とする。
制御部10は、入力電力Pinと予め規定された閾値Pin_th1とを比較する(ステップS1)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合(ステップS1:Yes)、入力電力Pinと予め規定された閾値Pin_th2とを比較する(ステップS2)。なお、閾値Pin_th1<閾値Pin_th2とする。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きい場合(ステップS2:Yes)、力率改善制御としてフルPAM制御を選択する(ステップS3)。例えば、電力変換装置100が空気調和機に搭載された場合を想定する。空気調和機は、ブレーカ制限を考慮したコンバータ動作が必要となる。空気調和機は、負荷が大きくなるに連れて交流電流に流れる電流も大きくなる。空気調和機は、力率が悪いと交流電流が大きくなるため、ブレーカが遮断してしまう可能性があり、大きな負荷条件で動作することが出来なくなる。そのため、電力変換装置100は、空気調和機に搭載される場合のように入力電力Pinがよりも大きくなる条件では、フルPAM制御を行う。
制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2以下の場合(ステップS2:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きく閾値Pin_th2以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択する(ステップS4)。このように、制御部10は、入力電力Pin、すなわち物理量または物理量から得られる値に応じて、力率改善制御の制御内容を決定する。
制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の場合(ステップS1:No)、力率改善制御を停止する(ステップS5)。前述の通り、制御部10は、簡易スイッチング制御及びフルPAM制御では整流回路3において電源短絡動作を行うため、スイッチング回数が増加し、スイッチング素子によるスイッチング損失が増加する。入力電力Pinが小さい条件では、ブレーカ容量などで力率改善制御が必要ではない。入力電力Pinが小さい領域で力率改善制御を行うことは、不必要な損失を発生させることとなる。そのため、制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の領域では、力率改善制御を行わない。閾値Pin_th1及び閾値Pin_th2については、電力変換装置100のユーザまたは生産者が、予め電力変換装置100に接続される負荷50の動作などを想定して事前に設定しておく。
なお、図7では、制御部10が、2つの閾値を用いて、力率改善制御として簡易スイッチング制御またはフルPAM制御を選択する場合について説明したが、一例であり、これに限定されない。制御部10は、1つの閾値を用いて、力率改善制御として、簡易スイッチング制御のみ、またはフルPAM制御のみを選択してもよい。以降のフローチャートの説明においても同様とする。
次に、電力変換装置100における、電源短絡モード及び負荷電力供給モードと、同期整流制御との関係性について説明する。図4で示した電源短絡モード及び負荷電力供給モードの例では、前述のように、点線の丸印で示したスイッチング素子は、電源短絡経路を生成するためにオンしているスイッチング素子であり、実線の丸印で示したスイッチング素子は、同期整流制御を行うためにオンしているスイッチング素子である。図4の例では、電力変換装置100において、電源短絡モードまたは負荷電力供給モードとともに、同期整流制御を同時に行うことを前提としている。しかしながら、電力変換装置100では、図8に示すように、ダイオード整流制御を併用して制御を行うことも可能である。
図8は、実施の形態1に係る電力変換装置100に流れる電流の経路の他の例を示す図である。図8では、図4で示した各スイッチング素子のうち、実線の丸印で示したスイッチング素子を全てオフ状態としている。これは、スイッチング素子がMOSFETである場合、MOSFETの寄生ダイオードを用いた通流経路が存在するためである。制御部10は、図8に示すように、電源短絡用スイッチングを行うスイッチング素子以外のスイッチング素子を全てオフ状態としても、電源短絡モード及び負荷電力供給モードを実現可能である。このように、制御部10は、図1に示すような回路構成において、必ずしも同期整流制御を行わなくても、電力変換装置100に所望の動作をさせることが可能である。なお、図8は同期整流制御を完全に停止した条件の各スイッチング素子のスイッチングパターンを示しているが、制御部10は、図4に示す同期整流制御及び図8に示すダイオード整流制御を併用して制御してもよい。
図6で示した通り、電力変換装置100では、力率改善制御を行うためには、少なくとも1回以上の電源短絡動作が必要となる。一般的に、半導体素子の損失は、導通損失及びスイッチング損失に切り分けられる。導通損失は、半導体素子に導通する電流の大きさに比例または電流の大きさの二乗に比例して増加する傾向である。スイッチング損失は、図9に示すスイッチング波形の模式図における重なり区間での電流及び電圧の積で決まる。図9は、実施の形態1に係る電力変換装置100などで使用される一般的なスイッチング素子で発生するスイッチング損失を説明するための図である。スイッチング素子にかかる電流iD及び電圧vDSは、理想的には垂直に立ち上がりまたは立ち下がるが、実際には図9に示すように、値が変わり切るまでに時間がかかり、この間でスイッチング損失が発生する。
図5で示した動作波形から、パッシブ制御における同期整流制御を行う場合、制御部10は、電源1周期中にスイッチング素子の1素子あたり2回のスイッチング、すなわちターンオンを1回、ターンオフを1回行う。この場合、共に導通電流が小さい区間でのスイッチングのため、スイッチング損失が非常に小さく、導通損失が支配的といえる。一方、図6に示す簡易スイッチング制御及びフルPAM制御を行う場合、制御部10は、電源電流Is及び電源電圧Vsが高い領域でスイッチングを行うため、スイッチング損失が大きく、スイッチング素子の特性次第ではスイッチング損失が支配的となる。特に、フルPAM制御の場合は、スイッチング回数が多いため顕著といえる。従って、仮に、導通電流、すなわち電源電流Isを同一条件とした場合、スイッチング素子の損失は「パッシブ制御<簡易スイッチング制御<フルPAM制御」となり、スイッチング素子の発熱は増加することとなる。
前述のように、一般的に、ダイオード及びMOSFETは、温度によって電圧降下が変化する温度特性を持っている。これは、整流回路3が備える、寄生ダイオード311a,312a,321a,322a、及びMOSFETであるスイッチング素子311,312,321,322にも当てはまる。図10は、実施の形態1に係る電力変換装置100の整流回路3で使用されるスイッチング素子であるMOSFETの温度特性を示す図である。図10において、横軸は電流を示し、縦軸はオン抵抗を示している。図10は、温度によるMOSFETのオン抵抗の違いを示しており、温度が高いほどオン抵抗が大きくなる、すなわちドレイン-ソース間電圧が大きくなることを示している。図11は、実施の形態1に係る電力変換装置100の整流回路3で使用される寄生ダイオードなどの一般的なダイオードの温度特性を示す図である。図11において、横軸は順方向電圧を示し、縦軸は電流を示している。図11は、温度によるダイオードの順方向電圧降下の違いを示しており、温度が高いほど順方向電圧降下が小さくなることを示している。
図10及び図11に示す内容から、電力変換装置100は、半導体デバイスの温度が高くなる条件、例えば、スイッチング素子の損失が大きくなる力率改善制御を行う場合においては、ダイオード整流制御を選択する方が高効率に運転することが可能である。すなわち、電力変換装置100の制御部10は、力率改善制御を行う場合、図8に示すようなスイッチングを行う。これにより、電力変換装置100は、高効率かつ高信頼性で運転できる効果が得られる。
一方で、制御部10は、力率改善制御を行わない場合、図4に示す同期整流制御を選択する。これは、整流回路3において、ダイオードよりMOSFETを導通させた方が、損失が小さいためである。また、同期整流制御は、電源短絡動作を行わないことからスイッチング損失が発生しないため、電源短絡動作を行う力率改善制御と比較して、損失を小さくすることができる。
図12は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御部10における制御モードの切り替え動作を示す第2のフローチャートである。図12に示すフローチャートは、図7に示すフローチャートに対して、ダイオード整流制御及び同期整流制御の選択を追記したものである。
制御部10は、入力電力Pinと閾値Pin_th1とを比較する(ステップS11)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合(ステップS11:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th2とを比較する(ステップS12)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きい場合(ステップS12:Yes)、力率改善制御としてフルPAM制御を選択するとともに、ダイオード整流制御を選択する(ステップS13)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2以下の場合(ステップS12:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きく閾値Pin_th2以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、ダイオード整流制御を選択する(ステップS14)。このように、制御部10は、力率改善制御を行う場合、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合、ダイオード整流制御を選択する。
制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の場合(ステップS11:No)、力率改善制御を停止するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS15)。これは、前述の通り、力率改善制御を停止している場合はスイッチング損失が非常に小さいため、力率改善制御中と比較して、半導体素子の温度上昇は小さくなるからである。電力変換装置100は、力率改善制御を停止し、MOSFETを導通させる同期整流制御の方が高効率に運転可能である。
このように、制御部10は、力率改善制御を行う場合、入力電力Pin、すなわち物理量または物理量から得られる値に応じて、整流回路3において、交流電源1からの電流をダイオードに通流させるかスイッチング素子に通流させるかを切り替える。本実施の形態において、具体的には、制御部10は、入力電力Pin、すなわち物理量または物理量から得られる値に応じて、整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間のうち1つ以上の区間でダイオードに通流させる。
整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間とは、例えば、図4に示す電力変換装置100に流れる電流の経路において、図4(b)の場合のスイッチング素子311とスイッチング素子311の寄生ダイオード311aとを含む区間、及び図4(b)の場合のスイッチング素子322とスイッチング素子322の寄生ダイオード322aを含む区間である。同様に、整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間とは、例えば、図4に示す電力変換装置100に流れる電流の経路において、図4(d)の場合のスイッチング素子321とスイッチング素子321の寄生ダイオード321aとを含む区間、及び図4(d)の場合のスイッチング素子312とスイッチング素子312の寄生ダイオード312aを含む区間である。
つづいて、電力変換装置100が備える制御部10のハードウェア構成について説明する。図13は、実施の形態1に係る電力変換装置100が備える制御部10を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御部10は、プロセッサ201及びメモリ202により実現される。
プロセッサ201は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ202は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置100において、制御部10は、整流回路3を構成するダイオード及びMOSFETの温度特性を考慮して、力率改善制御を行う場合はダイオード整流制御を選択し、力率改善制御を行わない場合は同期整流制御を選択することとした。これにより、制御部10は、専用の温度センサなどを追加する必要がないことから装置の大型化を抑制し、更に熱暴走の発生を抑制しつつ、簡易な制御で高効率な運転を実現できる、という効果を奏する。
実施の形態2.
実施の形態1において、電力変換装置100は、力率改善制御中はダイオード整流制御とし、同期整流制御を行わないスイッチングパターンで制御を行っていた。実施の形態2では、他のスイッチングパターンの例について説明する。
図14は、実施の形態2に係る電力変換装置100に流れる電流の経路を示す図である。図14は、制御部10が、スイッチング素子311,312では同期整流制御を行い、スイッチング素子321,322では同期整流制御を行わないスイッチングパターンである。図14に示す制御部10の動作は、電源短絡を行うためのスイッチングを行うスイッチング素子321,322では同期整流制御を行わず、電源短絡のためのスイッチングを行わないスイッチング素子311,312では同期整流制御を行う動作である。電源短絡を行うためのスイッチングを行うスイッチング素子321,322は、前述の通り、力率改善制御中のスイッチング損失が大きいため、発熱が大きい。一方で、電源短絡を行うためのスイッチングを行わないスイッチング素子311,312は、前述の同期整流制御の説明から、スイッチング損失は非常に小さいため、発熱は小さい。図14は、発熱が大きいスイッチング素子321,322はダイオード整流制御とし、比較的発熱が小さいスイッチング素子311,312は同期整流制御とするスイッチングパターンを示すものである。以降の説明では、制御部10による図14に示すような各スイッチング素子に対するスイッチングパターンの制御を、部分同期整流制御とする。
図15は、実施の形態2に係る電力変換装置100の制御部10における制御モードの切り替え動作を示す第1のフローチャートである。図15に示すフローチャートは、図7に示すフローチャートに対して、部分同期整流制御及び同期整流制御の選択を追記したものである。
制御部10は、入力電力Pinと閾値Pin_th1とを比較する(ステップS21)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合(ステップS21:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th2とを比較する(ステップS22)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きい場合(ステップS22:Yes)、力率改善制御としてフルPAM制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS23)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2以下の場合(ステップS22:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きく閾値Pin_th2以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS24)。このように、制御部10は、力率改善制御を行う場合、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合、部分同期整流制御を選択する。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の場合(ステップS21:No)、力率改善制御を停止するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS25)。
なお、制御部10は、同期整流制御の選択についての新たな閾値Pin_th3を追加してもよい。図16は、実施の形態2に係る電力変換装置100の制御部10における制御モードの切り替え動作を示す第2のフローチャートである。図16に示すフローチャートは、制御部10が、入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きい場合は部分同期整流制御を選択し、入力電力Pinが閾値Pin_th3以下の場合は同期整流制御を選択することを示している。閾値Pin_th3については、電力変換装置100のユーザまたは生産者が、予め図10及び図11に示す温度特性などを用いて事前に設定しておく。
制御部10は、入力電力Pinと閾値Pin_th1とを比較する(ステップS31)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合(ステップS31:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th3とを比較する(ステップS32)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きい場合(ステップS32:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th2とを比較する(ステップS33)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きい場合(ステップS33:Yes)、力率改善制御としてフルPAM制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS34)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2以下の場合(ステップS33:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きく閾値Pin_th2以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS35)。このように、制御部10は、力率改善制御を行う場合、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きい場合、部分同期整流制御を選択する。
制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th3以下の場合(ステップS32:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きく閾値Pin_th3以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS36)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の場合(ステップS31:No)、力率改善制御を停止するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS37)。
図17は、実施の形態2に係る電力変換装置100の整流回路3で使用されるスイッチング素子であるMOSFET、及びダイオードの損失を模式的に表す図である。図17では、常温のときの損失と高温のときの損失の違いを示している。常温は、一般的に25℃とし、高温は25℃よりも高い温度である。MOSFETのドレイン-ソース間電圧はオン抵抗と表現され、損失は導通電流の2乗に比例する特性である。一方で、ダイオードの順方向電圧降下は電流が流れ始めるとほぼ一定であり、損失は導通電流に比例する特性となる。ここで、MOSFET及びダイオードの各損失は、導通電流に対してクロスポイントを持つ。図17の例では、常温のときのクロスポイントの電流をI3とし、高温時のクロスポイントの電流をI2としている。図17において、電流I3及び電流I2の大小関係は、図10及び図11示す温度特性に関係してI3>I2である。従って、電力変換装置100は、高温のとき電流I2以上ではダイオードに電流を流した方が、高効率で運転可能である。そのため、電力変換装置100では、図16に示すフローチャートの動作を行う場合、図17における電流I2相当の入力電力である閾値Pin_th3を予め設定しておく。
ここで、制御部10は、図16に示すフローチャートでは、入力電力Pinが閾値Pin_th3以上の場合、部分同期整流制御を選択している。これは、前述の通り、電源短絡を行うためのスイッチングを行うスイッチング素子321,322は、スイッチング回数が多いため、電源短絡のためのスイッチングを行わないスイッチング素子311,312と比較して損失が大きく、損失に合わせて温度上昇も高くなるからである。この状態を模式的に表したものが図18である。図18は、実施の形態2に係る電力変換装置100の整流回路3で使用される各スイッチング素子及び寄生ダイオードの損失を模式的に表す図である。図18において、MOSFETであるスイッチング素子311,312,321,322の損失、及び寄生ダイオード311a,312a,321a,322aの損失の各クロスポイントを比較する。図18に示すように、スイッチング素子321,322の損失及び寄生ダイオード321a,322aの損失のクロスポイントである電流I22xに対して、スイッチング素子311,312の損失及び寄生ダイオード311a,312aの損失のクロスポイントである電流I21xは大きくなる。これは、前述の通り、スイッチング損失に伴う発熱が、スイッチング素子311,312に対してスイッチング素子321,322の方が大きくなるためである。すなわち、ダイオード整流制御を行うかまたは同期整流制御を行うかは、電源短絡を行うためのスイッチングを行うか否かで最適点が変わってくる。従って、電力変換装置100は、図14に示すような部分同期整流制御を行うことで、より高度な高効率運転を実現することが可能となる。
制御部10は、図16に示すフローチャートの動作では、同期整流制御と部分同期整流制御との選択に限定して閾値Pin_th3を追加設定したが、ダイオード整流制御も含めて選択することも可能である。図19は、実施の形態2に係る電力変換装置100の制御部10における制御モードの切り替え動作を示す第3のフローチャートである。図19に示すフローチャートは、制御部10が、入力電力Pinが閾値Pin_th4よりも大きい場合はダイオード整流制御を選択することを示している。閾値Pin_th4については、電力変換装置100のユーザまたは生産者が、予め図10及び図11に示す温度特性などを用いて、図18における電流I21xに相当する入力電力を閾値Pin_th4として事前に設定しておく。
制御部10は、入力電力Pinと閾値Pin_th1とを比較する(ステップS41)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きい場合(ステップS41:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th3とを比較する(ステップS42)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きい場合(ステップS42:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th2とを比較する(ステップS43)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きい場合(ステップS43:Yes)、入力電力Pinと閾値Pin_th4とを比較する(ステップS44)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th4よりも大きい場合(ステップS44:Yes)、力率改善制御としてフルPAM制御を選択するとともに、ダイオード整流制御を選択する(ステップS45)。
制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th4以下の場合(ステップS44:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th2よりも大きく閾値Pin_th4以下の場合、力率改善制御としてフルPAM制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS46)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th2以下の場合(ステップS43:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th3よりも大きく閾値Pin_th2以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、部分同期整流制御を選択する(ステップS47)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th3以下の場合(ステップS42:No)、すなわち入力電力Pinが閾値Pin_th1よりも大きく閾値Pin_th3以下の場合、力率改善制御として簡易スイッチング制御を選択するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS48)。制御部10は、入力電力Pinが閾値Pin_th1以下の場合(ステップS41:No)、力率改善制御を停止するとともに、同期整流制御を選択する(ステップS49)。
なお、図15、図16、及び図19に示すフローチャートは一例であり、力率改善制御、同期整流制御、部分同期整流制御、及びダイオード整流制御の組み合わせについては、電力変換装置100のユーザまたは生産者が、自由に設定することは可能である。
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置100において、制御部10は、力率改善制御を行う場合、整流回路3を構成するダイオード及びMOSFETの個々の温度特性を考慮して、ダイオードに通流させるか、MOSFETであるスイッチング素子に通流させるかを決定することとした。具体的には、制御部10は、入力電力Pin、すなわち物理量または物理量から得られる値と閾値とを比較した結果に基づいて、整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間のうちダイオードに通流させる区間を決定する。また、制御部10は、入力電力Pin、すなわち物理量または物理量から得られる値と閾値とを比較した結果に基づいて、整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間では、ダイオードに通流させる。これにより、制御部10は、実施の形態1と比較してさらに高効率な運転を実現できる、という効果を奏する。
実施の形態3.
実施の形態3では、電力変換装置100におけるスイッチング素子の配置位置を考慮した制御部10の制御について説明する。
前述のように、電力変換装置100は、家庭用の空気調和機に搭載される。一般的に、空気調和機は、発熱部品を放熱するためのヒートシンクを備える。空気調和機では、材料費、加工費、設置制約などが考慮され、1つのヒートシンクで発熱部品である複数の半導体素子を冷却する構造を採用することが多い。従って、半導体素子から発生する損失の熱移動の経路として、空気中に放熱する経路以外にも、ヒートシンクを介したスイッチング素子間での経路も考えられる。
図20は、実施の形態3に係る電力変換装置100が空気調和機に搭載された場合のスイッチング素子の放熱の例を示す図である。図20では、1つのヒートシンク701に4つのスイッチング素子311,312,321,322が取り付けられている例を示している。前述のように、電源短絡を行うためのスイッチングを行うスイッチング素子321,322はスイッチング損失が大きい。そのため、電源短絡を行うためのスイッチングを行わないスイッチング素子311,312は、自己損失の他、スイッチング素子321,322の熱量によって温度が上昇しやすい。
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置100において、制御部10は、図20に示すように各スイッチング素子が共通のヒートシンク701に設置される場合、力率改善制御の条件において、全てのスイッチング素子をダイオード整流制御とする。すなわち、制御部10は、スイッチング素子が共通のヒートシンク701に設置されている場合、整流回路3においてダイオードまたはスイッチング素子のいずれかに交流電源1からの電流を通流させることが可能な区間ではダイオードに通流させる。これにより、制御部10は、電力変換装置100の運転において信頼性を確保することが可能となる。
実施の形態4.
実施の形態4では、実施の形態1から実施の形態3で説明した電力変換装置100を備えるモータ駆動装置について説明する。
図21は、実施の形態4に係るモータ駆動装置101の構成例を示す図である。モータ駆動装置101は、負荷であるモータ42を駆動する。モータ駆動装置101は、実施の形態1から実施の形態3の電力変換装置100と、インバータ41と、モータ電流検出部44と、インバータ制御部43とを備える。インバータ41は、電力変換装置100から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ42へ出力することにより、モータ42を駆動する。なお、モータ駆動装置101の負荷がモータ42である場合の例を説明しているが、一例であり、インバータ41に接続される機器は、交流電力が入力される機器であればよく、モータ42以外の機器でもよい。
インバータ41は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)をはじめとするスイッチング素子を、3相ブリッジ構成または2相ブリッジ構成とした回路である。インバータ41に用いられるスイッチング素子は、IGBTに限定されず、WBG半導体で構成されたスイッチング素子、IGCT(Integrated Gate Commutated Thyristor)、FET(Field Effect Transistor)またはMOSFETでもよい。
モータ電流検出部44は、インバータ41とモータ42との間に流れる電流を検出する。インバータ制御部43は、モータ電流検出部44で検出された電流を用いて、モータ42が所望の回転数にて回転するように、インバータ41内のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号を生成してインバータ41へ印加する。インバータ制御部43は、制御部10と同様に、プロセッサ及びメモリにより実現される。なおモータ駆動装置101のインバータ制御部43と、電力変換装置100の制御部10は、1つの回路で実現してもよい。
電力変換装置100がモータ駆動装置101に用いられる場合、整流回路3の制御に必要な母線電圧Vdcが、モータ42の運転状態に応じて変化する。一般に、モータ42の回転数が高回転になる程、インバータ41の出力電圧を高くする必要がある。このインバータ41の出力電圧の上限は、インバータ41への入力電圧、すなわち電力変換装置100の出力である母線電圧Vdcにより制限される。インバータ41からの出力電圧が、母線電圧Vdcにより制限される上限を超えて飽和する領域を過変調領域と呼ぶ。
このようなモータ駆動装置101において、モータ42が低回転の範囲、すなわち過変調領域に到達しない範囲では、母線電圧Vdcを昇圧させる必要はない。一方、モータ42が高回転となった場合には、母線電圧Vdcを昇圧させることで、過変調領域をより高回転側にすることができる。これにより、モータ42の運転範囲を高回転側に拡大できる。
また、モータ42の運転範囲を拡大する必要がなければ、その分、モータ42が備える固定子への巻線の巻数を増やすことができる。巻線の巻数を増やすことにより、低回転の領域では、巻線の両端に発生するモータ電圧が高くなり、その分、巻線に流れる電流が低下するため、インバータ41内のスイッチング素子のスイッチング動作で生じる損失を低減できる。モータ42の運転範囲の拡大と、低回転の領域の損失改善との双方の効果を得る場合には、モータ42の巻線の巻数は適切な値に設定される。
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置100を用いることによりアーム間の発熱の偏りが低減され、信頼性が高く高出力のモータ駆動装置101を実現できる。
実施の形態5.
実施の形態5では、実施の形態4で説明したモータ駆動装置101を備える空気調和機について説明する。
図22は、実施の形態5に係る空気調和機700の構成例を示す図である。空気調和機700は、冷凍サイクル装置の一例であり、実施の形態4のモータ駆動装置101及びモータ42を備える。空気調和機700は、圧縮機構87及びモータ42を内蔵した圧縮機81と、四方弁82と、室外熱交換器83と、膨張弁84と、室内熱交換器85と、冷媒配管86とを備える。空気調和機700は、室外機が室内機から分離されたセパレート型空気調和機に限定されず、圧縮機81、室内熱交換器85及び室外熱交換器83が1つの筐体内に設けられた一体型空気調和機でもよい。モータ42は、モータ駆動装置101により駆動される。
圧縮機81の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構87と、圧縮機構87を動作させるモータ42とが設けられる。圧縮機81、四方弁82、室外熱交換器83、膨張弁84、室内熱交換器85及び冷媒配管86に冷媒が循環することにより、冷凍サイクルが構成される。なお、空気調和機700が備える構成要素は、冷凍サイクルを備える冷蔵庫または冷凍庫といった機器にも適用可能である。
また、本実施の形態では、圧縮機81の駆動源にモータ42が利用され、モータ駆動装置101によりモータ42を駆動する構成例を説明した。しかしながら、空気調和機700が備える不図示の室内機送風機及び室外機送風機を駆動する駆動源にモータ42を適用し、当該モータ42をモータ駆動装置101で駆動してもよい。また、室内機送風機、室外機送風機及び圧縮機81の駆動源にモータ42を適用し、当該モータ42をモータ駆動装置101で駆動してもよい。
また、空気調和機700では、出力が定格出力の半分以下である中間条件、すなわち低出力条件での運転が年間を通じて支配的であるため、中間条件での年間の消費電力への寄与度が高くなる。また、空気調和機700では、モータ42の回転数が低く、モータ42の駆動に必要な母線電圧Vdcは低い傾向にある。このため、空気調和機700に用いられるスイッチング素子は、パッシブな状態で動作させることがシステム効率の面から有効である。従って、パッシブな状態から高周波スイッチング状態までの幅広い運転モードで損失の低減が可能な電力変換装置100は、空気調和機700にとって有用である。上述した通り、インタリーブ方式ではリアクタ2を小型化できるが、空気調和機700では、中間条件での運転が多いため、リアクタ2を小型化する必要がなく、電力変換装置100の構成及び動作の方が、高調波の抑制、電源力率の面で有効である。
また、電力変換装置100は、スイッチング損失を抑制できるため、電力変換装置100の温度上昇が抑制され、不図示の室外機送風機のサイズを小型化しても、電力変換装置100に搭載される基板の冷却能力を確保できる。従って、電力変換装置100は、高効率であると共に4.0kW以上の高出力の空気調和機700に好適である。
また、本実施の形態によれば、電力変換装置100を用いることによりアーム間の発熱の偏りが低減されるため、スイッチング素子の高周波駆動によるリアクタ2の小型化を実現でき、空気調和機700の重量の増加を抑制できる。また、本実施の形態によれば、スイッチング素子の高周波駆動により、スイッチング損失が低減され、エネルギー消費率が低く、高効率の空気調和機700を実現できる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。