以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、本明細書において、「所定」とは、「予め定められた」という意味で使用されている。
図1は、一実施例による車両用駆動装置1の構成を示す概略図である。図1では、車両用駆動装置の一部の構成がスケルトン図で示されている。
車両用駆動装置1は、電気自動車用の駆動装置であり、モータ(回転電機の一例)10と、遊星歯車機構20と、係合装置30(クラッチの一例)と、第1ギア列41と、第2ギア列42とを備える。
モータ10は、車両駆動用の回転トルクを発生する。なお、モータ10のタイプや構造等は任意である。モータ10は、ジェネレータ(発電機)としても機能できるモータ・ジェネレータであってもよい。
遊星歯車機構20は、モータ10と出力軸60との間に設けられる。本実施例では、一例として、遊星歯車機構20は、シングルピニオンタイプである。遊星歯車機構20は、サンギア21と、リングギア22と、ピニオン23と、キャリア24とを含む。
係合装置30は、機械的な噛み合い状態と非噛み合い状態を選択的に形成可能なクラッチである。係合装置30は、ドッグクラッチ301、302を備える。ドッグクラッチ301、302は、それぞれ、軸方向に近接すると噛み合い状態となりかつ軸方向に離間すると非噛み合い状態となる2つの要素を備える。なお、近接とは、互いの一部が軸方向で重なる状態を含む概念である。
本実施例では、図1に示すように、係合装置30は、スリーブの形態の第1要素31と、クラッチリングの形態の第2要素32A、32B、クラッチハブ304とを含む。この場合、係合装置30は、第1要素31と第2要素32Aとが一のドッグクラッチ301を形成し、第1要素31と第2要素32Bとが別の一のドッグクラッチ302を形成する。なお、この場合、第1要素31は、2つのドッグクラッチ301、302を形成する共通の要素である。
第1要素31は、軸Isに関して実質的に回転対称な形態を有する。第1要素31は、内周側に周方向に沿って所定角度α1(図5参照)ごとに噛み合い用の歯状部311を有する。歯状部311は、例えば軸方向の端部(歯先)がチャンファの形態であってよい。各歯状部311は、径方向内側に突出する態様で軸Isに対する径方向に延在し、複数の歯状部311は、軸Isに沿った方向に視て放射状に延在する。
第1要素31は、外周面に径方向内側に凹む凹溝312を有する。凹溝312は、周方向で全周にわたり延在する。凹溝312は、後述するようにシフトフォーク70と協動する。
第1要素31は、クラッチハブ304に対して、軸Isに沿って並進可能であり、かつ、軸Isまわりに回転不能な態様で、設けられる。例えば、第1要素31は、クラッチハブ304とスプライン結合されてよい。クラッチハブ304は、サンギア21の軸Isと一体回転する。従って、第1要素31は、クラッチハブ304とともにサンギア21の軸Isと一体回転するが、サンギア21の軸Isに沿って並進可能である。
このようにして、第1要素31は、回転状態で又は非回転状態で、図1に示す中立位置と、第2要素32Aと噛み合う位置(図1の位置P100参照)と、第2要素32Bと噛み合う位置(図1の位置P200参照)との間で、軸Isに沿って並進可能である。
第2要素32Aは、軸Isに関して実質的に回転対称な形態を有する。第2要素32Aの外周面は、第1要素31の内周面よりも径が小さく、その径方向の差に応じた径方向の長さで第1要素31の歯状部311及び第2要素32Aの歯状部321A(後述)が形成される。第2要素32Aは、第1要素31の歯状部311と同様、周方向に沿って所定角度α1(図5参照)ごとに噛み合い用の歯状部321Aを有する。歯状部321Aは、第2要素32Aの外周面に周方向に沿って形成される。各歯状部321Aは、径方向外側に突出する態様で軸Isに対する径方向に延在し、複数の歯状部321Aは、軸Isに沿った方向に視て放射状に延在する。
第2要素32Aの歯状部321A及び第1要素31の歯状部311は、第2要素32Aと第1要素31とが軸方向に近接すると噛み合い状態を形成する。噛み合い状態が形成されると、第1要素31と第2要素32Aの間で軸Isまわりの回転トルクの伝達が可能となる。
第2要素32Aは、第2要素32Bとは異なり、固定要素であり、例えばモータハウジング(図示せず)に固定される。
第2要素32Bは、第2要素32Aと同様、軸Isに関して実質的に回転対称な形態を有し、周方向に沿って所定角度α1(図5参照)ごとに噛み合い用の歯状部321Bを有する。
第2要素32Bの歯状部321B及び第1要素31の歯状部311は、第2要素32Bと第1要素31とが軸方向に近接すると噛み合い状態を形成する。噛み合い状態が形成されると、第1要素31と第2要素32Bの間で軸Isまわりの回転トルクの伝達が可能となる。
第2要素32Bは、回転要素であり、後述のように、キャリア24の回転軸Icと一体回転する。
第1ギア列41は、径方向で噛み合うギアG1とギアG2とからなる。ギアG1は、回転軸Icに設けられ、回転軸Icと一体回転し、ギアG2は、カウンタ軸50に設けられ、カウンタ軸50と一体回転する。
第2ギア列42は、径方向で噛み合うギアG3とギアG4とからなる。ギアG3は、カウンタ軸50に設けられ、カウンタ軸50と一体回転する。ギアG4は、出力軸60に設けられ、出力軸60と一体回転する。
車両用駆動装置1は、更に、シフトフォーク70と、ボールねじ機構72と、アクチュエータ74とを含む。
シフトフォーク70は、第1要素31の凹溝312に摺動可能に嵌合する。すなわち、シフトフォーク70は、第1要素31の軸Isまわりの回転を可能とする一方、第1要素31の軸Isに沿った方向の移動を拘束する。
シフトフォーク70は、ボールねじ機構72のナット721に結合される。なお、ナット721は、シフトフォーク70と一体的に形成されてよい。
ボールねじ機構72は、ナット721と、ねじ軸722と、ボール(図示せず)等を含む。
アクチュエータ74は、例えば正逆回転可能な電気モータであり、ねじ軸722に連結される。アクチュエータ74は、ねじ軸722を正回転させると、ナット721及びそれに伴いシフトフォーク70が、ねじ軸722に沿って一方側に移動され、ねじ軸722を逆回転させると、ナット721及びそれに伴いシフトフォーク70が、ねじ軸722に沿って他方側に移動される。
このようにして、アクチュエータ74が駆動されると、シフトフォーク70及びそれに伴い第1要素31は、ボールねじ機構72を介して、軸Isに沿って並進駆動される。
また、車両用駆動装置1は、更に、シフトディテント機構90を備えてよい。
シフトディテント機構90は、シフトフォーク70の位置を規定することで、第1要素31の軸Isに沿った方向の位置を、複数の安定化位置で規定(安定化)する機能を有する。本実施例では、複数の安定化位置は、第1要素31と第2要素32Aとが噛み合う位置と、第1要素31と第2要素32Bとが噛み合う位置と、第1要素31が第2要素32A、32Bのいずれとも噛み合わない中立位置とに対応する。
シフトディテント機構90は、フォークシャフト92と、コイルばね94と、ロックボール96とを含む。
フォークシャフト92は、シフトフォーク70と一体の部材であり、例えば、図1に模式的に示すように、ナット721に結合される。フォークシャフト92は、上述した3つの安定化位置に対応して、3つの凹部(ディテント)920、921、922を有する。凹部920、921、922は、フォークシャフト92の移動方向に沿って並ぶ態様で設けられる。
コイルばね94は、ロックボール96をフォークシャフト92に向けて付勢する。コイルばね94は、一端が例えばモータハウジング(図示せず)に支持され、他端にロックボール96が設けられる。
ロックボール96は、コイルばね94によりフォークシャフト92に向けて付勢されることで、フォークシャフト92に設けられる凹部920、921、922のいずれかに嵌まることができる。ロックボール96が凹部920、921、922のいずれかに嵌まると、その位置からのフォークシャフト92の安易な移動が困難となり、その位置でフォークシャフト92を安定化させる機能を有する。なお、ロックボール96が凹部920、921、922のいずれかに嵌まるときのフォークシャフト92の位置は、上述した3つの安定化位置に対応する。具体的には、ロックボール96が凹部922に嵌まる状態は、第1要素31と第2要素32Bとが噛み合う状態(後述の第2噛み合い状態)に対応し、ロックボール96が凹部920に嵌まる状態は、第1要素31が第2要素32A、32Bのいずれとも噛み合わない状態(後述の非噛み合い状態)に対応し、ロックボール96が凹部921に嵌まる状態は、第1要素31と第2要素32Aとが噛み合う状態(後述の第1噛み合い状態)に対応する。
以下では、フォークシャフト92の位置情報とは、軸Is(X方向)に沿ったフォークシャフト92の位置であって、ロックボール96に対するフォークシャフト92の位置を表す情報であるものとする。なお、フォークシャフト92の位置情報は、アクチュエータ74の回転角を検出するアクチュエータ回転角センサ135(図3参照)からの情報に基づいて生成されてもよいし、ねじ軸722に対するナット721の位置等を検出する位置センサ等により生成されてもよい。
次に、図1を依然として参照しつつ、モータ10、遊星歯車機構20、係合装置30等の接続関係(車両駆動に関連した接続関係)について説明する。
モータ10には、遊星歯車機構20を介して出力軸(ディファレンシャル軸)60が接続される。具体的には、モータ10の出力軸は、遊星歯車機構20のリングギア22に連結され、リングギア22と一体回転する。遊星歯車機構20は、キャリア24が、出力軸60に接続される。すなわち、キャリア24の回転軸Icは、第1ギア列41を介してカウンタ軸50に接続され、カウンタ軸50が第2ギア列42を介して出力軸60に接続される。このようにして、モータ10は、遊星歯車機構20のリングギア22、キャリア24、第1ギア列41、及び第2ギア列42を介して、出力軸60に接続される。
また、モータ10には、遊星歯車機構20を介して係合装置30が接続される。具体的には、遊星歯車機構20のキャリア24の回転軸Icには、ドッグクラッチ302の第2要素32Bが連結される。第2要素32Bは、回転軸Icまわりに、回転軸Icと一体回転する。また、遊星歯車機構20のサンギア21の回転軸である軸Isには、ドッグクラッチ301、302を形成する第1要素31が連結される。第1要素31は、軸Isまわりに、軸Isと一体回転する。なお、第1要素31は、上述のように、軸Isに対して、軸方向に並進可能かつ軸まわりに回転不能に設けられる。すなわち、第1要素31は、サンギア21と一体回転するが、軸方向に移動可能である。
次に、図2を参照して、車両用駆動装置1の変速について概説する。図2は、車両用駆動装置1における遊星歯車機構20の速度線図である。
本実施例では、係合装置30は、第1要素31と第2要素32Aとが噛み合う状態(以下、「第1噛み合い状態」と称する)と、第1要素31と第2要素32Bとが噛み合う状態(以下、「第2噛み合い状態」と称する)と、第1要素31が第2要素32A、32Bのいずれとも噛み合わない状態(以下、「非噛み合い状態」と称する)との間で、遷移可能である。なお、第1噛み合い状態は、ドッグクラッチ301の係合状態に対応し、第2噛み合い状態は、ドッグクラッチ302の係合状態に対応し、非噛み合い状態は、ドッグクラッチ301、302の非係合状態に対応する。
係合装置30の第1噛み合い状態が実現されると、低速ギア段が実現される。具体的には、第1噛み合い状態では、第2要素32Aによってサンギア21が固定される。従って、モータ10の回転速度は、遊星歯車機構20で減速されて回転軸Icに出力され(図2の“Low”のライン参照)、回転軸Icの回転速度は、更に、第1ギア列41(ギアG1及びギアG2)及び第2ギア列42(ギアG3及びギアG4)により減速されて出力軸60に出力される。
係合装置30の第2噛み合い状態が実現されると、高速ギア段が実現される。具体的には、第2噛み合い状態では、第2要素32Bによってサンギア21とキャリア24の回転軸Icとが一体化される。従って、モータ10の回転速度は、遊星歯車機構20で減速されることなくそのまま回転軸Icに出力され(図2の“High”のライン参照)、回転軸Icの回転速度は、第1ギア列41(ギアG1及びギアG2)及び第2ギア列42(ギアG3及びギアG4)により減速されて出力軸60に出力される。
係合装置30の非噛み合い状態が実現されると、ニュートラルが実現される。具体的には、回転軸Icが出力軸60から反力を受けた状態で、サンギア21がフリーとなる。
次に、図3及び図4等を参照して、車両用駆動装置1の制御系について説明する。車両用駆動装置1の制御系は、車両用駆動装置1を制御するための制御装置100を含む。
図3は、制御装置100のハードウェア構成の一例を示す概略図である。図3には、制御装置100のハードウェア構成に関連付けて、他の車載電子機器130が模式的に図示されている。
他の車載電子機器130は、モータ10や、アクチュエータ74に加えて、シフトポジションセンサ131や、車輪速センサ132、油温センサ133、モータ回転数センサ134、アクチュエータ回転角センサ135等を含む。
シフトポジションセンサ131は、ユーザ(運転者)により操作されるシフトレバーの位置を検出し、シフトレバーの位置に応じた信号を生成する。車輪速センサ132は、車速に応じた信号を生成する。油温センサ133は、係合装置30に供給される油の温度に相関する温度に応じた信号を生成する。モータ回転数センサ134は、モータ10の回転数に応じた信号を生成する。なお、モータ回転数センサ134は、レゾルバであってよい。アクチュエータ回転角センサ135は、アクチュエータ74の回転角に応じた信号を生成する。アクチュエータ回転角センサ135は、例えばホールIC(Integrated Circuit)やレゾルバ等であってよい。
制御装置100は、バス119で接続されたCPU(Central Processing Unit)111、RAM(Random Access Memory)112、ROM(Read Only Memory)113、補助記憶装置114、ドライブ装置115、及び通信インターフェース117、並びに、通信インターフェース117に接続された有線送受信部125及び無線送受信部126を含む。
補助記憶装置114は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、SSD(Solid State Drive)などであり、アプリケーションソフトウェアなどに関連するデータを記憶する記憶装置である。
有線送受信部125は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などのプロトコルに基づく有線ネットワーク128を利用して通信可能な送受信部を含む。有線送受信部125には、他の車載電子機器130が接続される。ただし、他の車載電子機器130の一部又は全部は、バス119に接続されてもよいし、無線送受信部126に接続されてもよい。
無線送受信部126は、無線ネットワークを利用して通信可能な送受信部である。無線ネットワークは、携帯電話の無線通信網、インターネット、VPN(Virtual Private Network)、WAN(Wide Area Network)等を含んでよい。また、無線送受信部126は、近距離無線通信(NFC:Near Field Communication)部、ブルートゥース(Bluetooth、登録商標)通信部、Wi-Fi(Wireless-Fidelity)送受信部、赤外線送受信部などを含んでもよい。
なお、制御装置100は、記録媒体116と接続可能であってもよい。記録媒体116は、所定のプログラムを格納する。この記録媒体116に格納されたプログラムは、ドライブ装置115を介して制御装置100の補助記憶装置114等にインストールされる。インストールされた所定のプログラムは、制御装置100のCPU111により実行可能となる。例えば、記録媒体116は、CD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等であってよい。
図4は、制御装置100の機能構成の一例を示す概略図である。なお、図4に示す機能構成は、車両用駆動装置1のすべての機能を実現するためのすべての機能構成を必ずしも表すものでなく、特定の機能にのみ関連した構成を表す。
制御装置100は、図4に示すように、センサ情報取得部150と、要求ギア段検出部151と、モータ制御部152と、アクチュエータ制御部153と、アップロック回避制御部160と、マップデータ記憶部170とを含む。センサ情報取得部150、要求ギア段検出部151、モータ制御部152、アクチュエータ制御部153、及びアップロック回避制御部160は、CPU111が記憶装置(例えばROM113)内の1つ以上のプログラムを実行することで実現できる。マップデータ記憶部170は、例えばROM113又は補助記憶装置114により実現できる。
センサ情報取得部150は、シフトポジションセンサ131や、車輪速センサ132、油温センサ133等から各種センサ情報を取得する。
要求ギア段検出部151は、シフトポジションセンサ131からのセンサ情報に基づいて、変速段の変更要求(以下、「変速要求」とも称する)があるか否かを判定する。要求ギア段検出部151は、変速要求がある場合は、実現すべき変速段(以下、「要求ギア段」とも称する)を判定(検出)する。本実施例では、一例として、変速段は、「High」と「Low」の2段と、「ニュートラル」とを含む。マニュアルモードの場合は、要求ギア段検出部151は、シフトポジションセンサ131からのセンサ情報に基づいて、変速要求及び要求ギア段を検出できる。
また、要求ギア段検出部151は、例えばシフトポジションセンサ131が「D」レンジにあるときは、例えば車速とアクセル開度との関係に基づいて、要求ギア段を検出する。なお、変速要求及び要求ギア段は、外部(上位)のECU(Electronic Control Unit)から取得されてもよい。
モータ制御部152は、モータ10を制御する。モータ制御部152は、運転者からの要求トルク(例えばアクセル開度から導出)に基づいて、モータ10の出力トルクの目標値である目標トルクを決定し、当該目標トルクが実現されるようにモータ10を制御する。また、いわゆる自動運転モードがある車両においては、目標トルクは、周辺監視センサ(ミリ波レーダやLiDAR:Light Detection and Ranging、画像センサ等)からの周辺情報やインフラ情報等に基づいて決定されてもよい。
本実施例では、モータ制御部152は、後述のアクチュエータ制御部153による遷移処理の際に、アップロック回避制御部160と連携して、後述のアップロック回避制御におけるモータ制御(以下、「アップロック回避用のモータ制御」とも称する)を行う場合がある。アップロック回避用のモータ制御の詳細は、アップロック回避制御部160に関連して後述する。
アクチュエータ制御部153は、アクチュエータ74を制御する。アクチュエータ制御部153は、要求ギア段検出部151が変速要求を検出すると、当該変速要求に係る要求ギア段が実現されるように、アクチュエータ74を制御する。すなわち、アクチュエータ制御部153は、係合装置30の状態を、非噛み合い状態、第1噛み合い状態、及び第2噛み合い状態間で遷移させる遷移処理を行う。
アクチュエータ制御部153は、遷移処理(第1遷移処理の一例)が不成功に終わると(すなわち、後述のアップロックが生じた場合)、リトライとして、再度、遷移処理(第2遷移処理の一例)を実行してよい。
アップロック回避制御部160は、停車状態において、アクチュエータ制御部153による遷移処理の際に、アップロックを回避するためのアップロック回避制御を実行する。アップロックとは、係合装置30において第1要素31と第2要素32A、32Bとが噛み合わない事象(図5を参照して後述)をいう。ドッグクラッチ301におけるアップロックは、主に、第1要素31の歯状部311と第2要素32Aの歯状部321Aとの間の周方向の位相が同期していないことに起因して生じる。同様に、ドッグクラッチ302におけるアップロックは、主に、第1要素31の歯状部311と第2要素32Bの歯状部321Bとの間の周方向の位相が同期していないことに起因して生じる。
アップロック回避制御部160は、アップロック検出部162と、停車状態検出部164と、回避制御実行部166とを含む。
アップロック検出部162は、アップロックを検出する。アップロックは、アクチュエータ74による駆動(要求ギア段を実現するための駆動)にもかかわらず、要求ギア段が実現されない場合に検出されてよい。例えば、アップロック検出部162は、上述したフォークシャフト92の位置情報から導出される係合装置30の状態と要求ギア段との間の齟齬がある状況下で、アクチュエータ74を回転させる駆動電流が有意に大きい値(例えば最大値)であるにもかかわらずアクチュエータ74の回転数が“0”に低下した場合、アップロックを検出してよい。すなわち、アクチュエータ74が、負荷が高いほど大きい駆動電流が印加される態様で制御される仕様である場合、上記のような齟齬がある状況下での駆動電流の上昇に基づいて、アップロックが検出されてもよい。
停車状態検出部164は、停車状態を検出する。停車状態は、車速が略0である状態であり、駐車状態を含む概念である。例えば、停車状態検出部164は、車両を起動させるメインスイッチ(図示せず)のオフ状態に基づいて、駐車状態を検出する。なお、メインスイッチのオン/オフ状態は、モータ10への電源供給が可能とするスイッチのオン/オフ状態に対応してよい。また、停車状態検出部164は、メインスイッチがオン状態であるとき、車輪速センサ132からのセンサ情報に基づいて、停車状態を検出する。例えば、停車状態検出部164は、車輪速センサ132からのセンサ情報に基づいて、車速が略0である場合に、停車状態を検出する。あるいは、停車状態検出部164は、車速が略0であり、かつ、ブレーキセンサ(例えばマスタシリンダ圧やホイールシリンダ圧を検出するセンサ)に基づいて、ブレーキが作動中である場合に、停車状態を検出してもよい。また、同様に、停車状態検出部164は、ブレーキホールド状態(電動パーキングブレーキが作動した状態)に基づいて、停車状態を検出してもよい。
回避制御実行部166は、停車状態におけるアクチュエータ制御部153による遷移処理の際に、アップロックを回避するためのアップロック回避制御を実行する。すなわち、回避制御実行部166は、停車状態におけるアクチュエータ制御部153による遷移処理の際に、モータ制御部152にアップロック回避用のモータ制御を実行させる。
このようにして、本実施例では、停車状態検出部164により検出された停車状態において、アクチュエータ制御部153によって係合装置30が非噛み合い状態から第1噛み合い状態又は第2噛み合い状態へと遷移される場合に、モータ制御部152がモータ10により第1要素31を回転させる。
なお、係合装置30を非噛み合い状態から第1噛み合い状態又は第2噛み合い状態へと遷移させる場合は、変速段が「ニュートラル」である状態で「Low」又は「High」への変更が要求された場合、及び、変速段が「High」又は「Low」である状態で「Low」又は「High」への変更が要求された場合に、生じる。変速段が「High」又は「Low」である状態で「Low」又は「High」への変更が要求された場合も、非噛み合い状態を経由するので、非噛み合い状態から第1噛み合い状態又は第2噛み合い状態への遷移が生じるためである。
なお、以下では(図13まで)、説明の複雑化を防止するため、特に言及しない限り、代表として、ドッグクラッチ301、302のそれぞれのアップロックのうちの、ドッグクラッチ301のアップロックを回避するためのアップロック回避制御、すなわち、第1要素31と第2要素32Aとが噛み合わないアップロックを回避するためのアップロック回避制御について説明する。しかしながら、第1要素31と第2要素32Bとが噛み合わないアップロックを回避するためのアップロック回避制御についても、基本的に同様である。
ここで、ドッグクラッチ301のアップロックは、上述のように、主に、第1要素31の歯状部311と第2要素32Aの歯状部321Aとの間の周方向の位相が同期していないことに起因して生じる。
従って、モータ10により第1要素31を回転させることで、ドッグクラッチ301のアップロックを回避できる可能性を高めることができる。具体的には、上述のように、非噛み合い状態において、モータ10が回転されると、サンギア21が空転することになる。すなわち、第1要素31がサンギア21とともに回転する。第1要素31が回転すると、第1要素31の歯状部311の周方向の位相が変化するので、第2要素32Aの歯状部321Aの周方向の位相に対する非同期が解消されうる。このようにして、本実施例では、モータ10を利用することで、ドッグクラッチ301のアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
マップデータ記憶部170は、アップロック回避制御に係る制御パラメータに関するマップデータが記憶される。制御パラメータは、後述するモータ10の出力トルク(モータトルク)に関する。本実施例では、一例として、制御パラメータは、第1要素31を回転させるために出力されるモータ10のトルク(以下、「アップロック回避制御用のモータトルク」とも称する)であるとする。アップロック回避制御用のモータトルクは、ドッグクラッチ301の非噛み合い状態から噛み合い状態への遷移しやすさや第1要素31の回転しやすさに関するパラメータ(以下、「環境パラメータ」とも称する)に対応付けられる。
環境パラメータは、車両用駆動装置1で用いられる油(例えば、遊星歯車機構20や係合装置30に供給される油)の粘性に関するパラメータであってよい。これは、車両用駆動装置1で用いられる油の粘性が高いほど、モータ10により第1要素31を回転させ難くなり、それゆえに、ドッグクラッチ301の非噛み合い状態から噛み合い状態への遷移し難くなる傾向がある。従って、この場合、車両用駆動装置1で用いられる油の粘性が高いほどアップロック回避制御用のモータトルクが大きくなる態様で、アップロック回避制御用のモータトルクに環境パラメータが対応付けられる。なお、油の粘性は、油の温度に相関するので、この場合の環境パラメータは、油温であってよい。
また、環境パラメータは、ドッグクラッチ301の摩耗度合いに関するパラメータであってよい。これは、ドッグクラッチ301の摩耗度合いが大きいほど、ドッグクラッチ301の非噛み合い状態から噛み合い状態への遷移し難くなる傾向がある。これは、ドッグクラッチ301の摩耗度合いが大きいほど、後述するアップロック領域SC1が拡大する傾向があるためである。従って、この場合、ドッグクラッチ301の摩耗度合いが大きいほどアップロック回避制御用のモータトルクが大きくなる態様(それに伴いモータ10の回転角度が大きくなる態様)で、アップロック回避制御用のモータトルクに環境パラメータが対応付けられる。なお、ドッグクラッチ301の摩耗度合いは、ドッグクラッチ301の経年劣化等に相関するので、この場合の環境パラメータは、走行距離や出荷からの経過時間等であってよい。
なお、変形例では、マップデータ記憶部170は省略されてもよい。マップデータ記憶部170が用いられる場合は、回避制御実行部166は、アップロック回避制御に先立って、環境パラメータを取得し、取得した環境パラメータに基づいて、アップロック回避制御用のモータトルクを決定する。
図5は、アップロック回避制御の説明図である。図5には、ドッグクラッチ301の第1要素31と第2要素32Aのそれぞれの一部が、周方向に展開した状態の断面視で概略的に示される。図5において、“軸方向”とは、軸Isに沿った方向に対応する。
図5は、第1要素31における周方向に沿って複数設けられる歯状部311のうちの、1つの歯状部311の動きの説明図であり、位置P2、P3にあるときの1つの歯状部311が実線で示され、位置P1にあるときの1つの歯状部311が破線で示され、位置P20、P30にあるときの1つの歯状部311が一点鎖線で示される。同様に、第2要素32Aにおける周方向に沿って複数設けられる歯状部321Aのうちの、3つの歯状部321Aが実線で示される。なお、図5では、位置P2、P3との間の差(周方向の角度)は、所定角度α1に対応している。
歯状部311が位置P1にあるとき、図5に示すように、歯状部321Aに対して周方向の位相が一致し(非同期となり)、アップロックが生じる。すなわち、矢印R0で示すように、第1要素31を軸方向に沿って第2要素32Aに向けて移動させると、歯状部311の歯先(軸方向の歯先、以下同様)と歯状部321Aの歯先とが当たり合い、第1噛み合い状態を実現できない。なお、図5には、図5に示す位置の歯状部321Aに対して、このようなアップロックが生じる角度範囲(軸Isまわりの回転方向の角度範囲)が、ハッチングされた領域SC1(以下、「アップロック領域SC1」と称する)で模式的に示される。なお、歯状部321Aは、周方向に沿って所定角度α1ごとに形成されるので、それに対応して、アップロック領域SC1は、周方向に沿って所定角度α1ごとに存在する(図6等参照)。
他方、歯状部311が位置P2又は位置P3にあるとき、図5に示すように、歯状部321Aに対して周方向の位相がずれ(同期し)、アップロックが生じない。
なお、歯状部311及び歯状部321Aは、図5に模式的に示すように、歯先がテーパー状に形成されているので、歯状部311が位置P2又は位置P3に完全に一致していない場合(例えば、位置P20、P30参照)でも、歯状部311がアップロック領域SC1外に位置すれば、第1噛み合い状態を実現できる。すなわち、歯状部311がアップロック領域SC1外に位置する場合は、第1要素31を軸方向に沿って第2要素32Aに向けて移動させると、歯状部311が歯状部321Aに当たっても、歯状部311と歯状部321Aの間に、第1要素31を回転させる周方向の力が発生するので、第1噛み合い状態が実現される。すなわち、歯状部311及び歯状部321A間で周方向の力に起因して第1要素31がわずかに回転して(矢印R1、R2参照)、非同期が解消して第1噛み合い状態が実現可能となる。
本実施例では、停車状態においてアップロック回避制御が実行されるので、モータ10の停止を伴う停車状態が形成された際に歯状部311がたまたま位置P1にある場合でも、モータ10により第1要素31が回転される。このため、本実施例では、停車状態において歯状部311がアップロック領域SC1内に位置する場合でも、モータ10を利用して歯状部311をアップロック領域SC1外へと至らせることで、ドッグクラッチ301のアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
次に、図6~図12を参照して、アップロック回避制御の詳細(アップロック回避制御を伴う遷移処理の詳細)について、いくつかの例を説明する。
図6は、アップロック回避制御の詳細の一例の説明図であり、上から順に、モータ10の出力トルク(以下、「モータトルク」と称する)の時系列と、第1要素31の歯状部311の位相(以下、「ドグ歯位相」と称する)の時系列と、軸Isに沿った第1要素31の移動量(以下、「ドグ歯ストローク」と称する)の時系列とが、示される。ドグ歯位相の時系列に関しては、縦軸が周方向の位相(軸Isまわりの位相)であり、アップロック領域SC1と、非アップロック領域SC2とが色分け(ハッチングの有無)で示される。また、ドグ歯ストロークに関しては、非噛み合い状態となる中立位置(図6では、「N」と表記)を基準とし、歯状部311の歯先と歯状部321Aの歯先とが当たる位置S10(以下、「ドグ歯先端接触位置S10」と称する)と、第1噛み合い状態が実現される位置(以下、「ストローク完了位置S20」と称する)とが示される。なお、非噛み合い状態とは、上述のように、ロックボール96が凹部920に嵌まる状態に対応する。
図6に示す例では、時点t0では、モータトルクは0であり、ドグ歯位相θは、θ=0である。ドグ歯位相θ=0は、アップロック領域SC1の中心位置(歯状部311の歯先と歯状部321Aの歯先とが当たる位置)に対応する。従って、この状態で、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させると、アップロックが生じることになる。
図6に示す例では、時点t1で、変速段の「ニュートラル」から「Low」への変更が要求されたものとする。なお、図6(後出の図7等も同様)では、図示は省略するが、図示の期間は、車両は停車状態であるものとする。この場合、時点t1からアップロック回避制御が開始される。なお、変形例では、時点t1よりもわずかに後からアップロック回避制御が開始されてもよい。また、時点t1で、変速段の「High」から「Low」への変更が要求された場合は、変速段が「High」から「ニュートラル」に切り替わった時点から、アップロック回避制御が開始されてよい。同様に、時点t1で、変速段の「Low」から「High」への変更が要求された場合は、変速段が「Low」から「ニュートラル」に切り替わった時点から、アップロック回避制御が開始されてよい。
アップロック回避制御が開始されると、モータ制御部152は、アップロック回避用のモータ制御を行う。モータ10に矩形波状にモータトルク(アップロック回避制御用のモータトルク)を発生させる。すなわち、アップロック回避制御用のモータトルクは、パルス状の波形で周期的に発生する。この場合、ドグ歯位相の時系列に示すように、ドグ歯位相は、周期的に増減する。この場合、図5に示した状態では、歯状部311は、位置P1を中心として位置P2側と位置P3側の間で往復動する態様となる。
アップロック回避制御用のモータトルクの大きさ(又は振幅)は、好ましくは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外(すなわち非アップロック領域SC2内)まで変化するように決定される。なお、図6の場合、ドグ歯位相は、片側で所定角度α1未満の変化量で変化するが、片側で所定角度α1を超えて変化してもよい。すなわち、ドグ歯位相は、一歯分以上の位相を超えて変化してもよい。
具体的には、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさは、好ましくは、ドグ歯位相が所定角度α1の1/4以上変化するように、より好ましくは、ドグ歯位相が所定角度α1の1/2以上変化するように、更に好ましくは所定角度α1以上変化するように、決定される。ドグ歯位相が所定角度α1の1/4以上変化する場合は、ドグ歯位相がアップロック領域SC1内の一方側(回転方向とは逆側)の境界に位置する場合でも、ドグ歯位相をアップロック領域SC1外まで至らせる可能性が高くなり、ドグ歯位相が所定角度α1の1/2以上変化する場合、ドグ歯位相が非アップロック領域SC2内の中心位置(周方向の中心位置)を通過できる可能性が高くなるためである。また、ドグ歯位相が所定角度α1以上変化する場合、ドグ歯位相が非アップロック領域SC2内の中心位置を通過できるためである。
また、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外まで、より確実に変化するように、上述したように環境パラメータに応じて変化されてもよい。
アップロック回避制御が開始されると、アクチュエータ制御部153は、時点t2からアクチュエータ74の駆動を開始することで遷移処理を開始し、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させ始める(近接させ始める)。そして、アクチュエータ制御部153は、時点t4で、第1要素31が第2要素32Aに噛み合うと(すなわち、ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達すると)、アクチュエータ74の駆動を停止し、第1要素31の軸方向の移動を停止させる(遷移処理を終了させる)。なお、ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達する時点t4は、上述したフォークシャフト92の位置情報(アクチュエータ回転角センサ135からのセンサ情報から導出可能なフォークシャフト92の位置情報)に基づいて検出されてもよい。
ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達すると(すなわちアップロックが生じることなく第1噛み合い状態が実現されると)、時点t5で、モータ制御部152は、モータ10の駆動を停止する。
図6に示す例によれば、変速段を「ニュートラル」から「Low」へと変更させる場合(すなわち、ドッグクラッチ301を非噛み合い状態から第1噛み合い状態へ遷移させる場合)に、モータ10により第1要素31を回転させるので、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに近接させる際に生じうるアップロックを回避できる可能性が高くなる。
特に、図6に示す例によれば、モータ10により第1要素31を回転させながら、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させるので、アップロックの可能性を大幅に低減できる。例えば、仮にドグ歯ストロークがドグ歯先端接触位置S10に至った時点t3で、ドグ歯位相がアップロック領域SC1内に位置したとしても、慣性により周方向のズレが生じることも期待でき、かかるズレによってアップロックを回避できる可能性が高くなる。
なお、図6に示す例では、アップロック回避制御用のモータトルクは、一定周期で変動しているが、一のアップロック回避制御中に周期が可変されてもよい。また、アップロック回避制御用のモータトルクの変動周期は、共振等に起因したノイズが生じないように適合されてもよい。また、アップロック回避制御用のモータトルクは、一定の振幅であるが、一のアップロック回避制御中に振幅が可変されてもよい。
また、図6に示す例では、アップロック回避制御用のモータトルクは、矩形波状であるが、他の形状であってよく、例えば三角波状や正弦波状等であってもよい。
また、図6に示す例では、ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達する時点t4以降も、時点t5までアップロック回避制御用のモータトルクが発生されているが、これに限られない。例えば、ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達する時点t4を、上述したフォークシャフト92の位置情報に基づいて検出可能な場合は、時点t4でモータ10を停止させてもよい。あるいは、時点t3と時点t4の間で、モータ10を停止させてもよい。
図7は、アップロック回避制御の詳細の他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図7に示す例は、図6に示した例に対して、アップロック回避用のモータ制御において、アップロック回避制御用のモータトルクが略一定であり、周期的に有意に変動しない点が異なる。
図7に示す例の場合も、図6に示した例と同様、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさ(又は振幅)は、好ましくは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外(すなわち非アップロック領域SC2内)の位相θ1まで変化するように決定される。この場合、図6に示した例と同様、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外まで、より確実に変化するように、上述したように環境パラメータに応じて変化されてもよい。位相θ1は、所定角度α1未満であるが、好ましくは、所定角度α1の1/4以上であり、より好ましくは、所定角度α1の1/2以上である。所定角度α1の1/4以上であれば、ドグ歯位相がアップロック領域SC1内の一方側(回転方向とは逆側)の境界に位置する場合でも、ドグ歯位相をアップロック領域SC1外まで至らせる可能性が高くなり、所定角度α1の1/2以上であれば、ドグ歯位相が非アップロック領域SC2内の中心位置(周方向の中心位置)を通過できる可能性が高くなるためである。
図7に示す例は、図6に示した例とは異なり、ドグ歯位相は、非アップロック領域SC2内の位相θ1まで増加してから位相θ1を維持する。なお、図7に示す例では、時点t3で、ドグ歯ストロークがドグ歯先端接触位置S10を超えるので、アップロック回避制御用のモータトルクが時点t5まで出力されているにもかかわらず、ドグ歯位相は位相θ1に留まる。
図7に示す例の場合も、図6に示した例と同様、アップロック回避制御が開始されると、アクチュエータ制御部153は、時点t2からアクチュエータ74の駆動を開始し、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させ始める。そして、アクチュエータ制御部153は、時点t4で、第1要素31が第2要素32Aに噛み合うと、アクチュエータ74の駆動を停止し、第1要素31の軸方向の移動を停止させる。そして、アップロックが生じることなく第1噛み合い状態が実現されると、時点t5で、モータ制御部152は、モータ10の駆動を停止する。
図7に示す例によっても、図6に示した例と同様の効果が得られる。特に図7に示す例によっても、図6に示した例と同様、モータ10により第1要素31を回転させながら、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させるので、アップロックの可能性を大幅に低減できる。
図8は、アップロック回避制御の詳細の更なる他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図8に示す例は、図6に示した例に対して、アップロック回避用のモータ制御において、アップロック回避制御用のモータトルクが略一定であり、周期的に有意に変動しない点が異なる。
図8に示す例の場合も、図6に示した例と同様、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさ(又は振幅)は、好ましくは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外(すなわち非アップロック領域SC2内)の位相θ2まで変化するように決定される。この場合、図6に示した例と同様、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさは、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外まで、より確実に変化するように、上述したように環境パラメータに応じて変化されてもよい。図8に示す例は、図7に示した例とは異なり、位相θ2は、所定角度α1より大きい。このように、第1要素31は、一歯分以上の位相を超えて回転されてもよい。この場合、ドグ歯位相は、回転前の位相の如何にかかわらず、非アップロック領域SC2内の中心位置(周方向の中心位置)を通過できる。
図8に示す例によっても、図6に示した例と同様の効果が得られる。特に図8に示す例によっても、図6に示した例と同様、モータ10により第1要素31を回転させながら、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させるので、アップロックの可能性を大幅に低減できる。
図9は、アップロック回避制御の詳細の更なる他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図9に示す例は、図6に示した例に対して、アップロック回避制御用のモータトルクがフィードバック制御される点が異なる。
具体的には、アップロック回避制御が開始されると、モータ制御部152は、アップロック回避用のモータ制御を行う。具体的には、モータ制御部152は、ドグ歯位相がアップロック領域SC1外(すなわち非アップロック領域SC2内)の目標値θtargetに至るように、アップロック回避制御用のモータトルクを発生させる。この場合、ドグ歯位相は、モータ回転数センサ134からのセンサ情報に基づいて算出されてもよい。すなわち、上述のように、第1要素31は、サンギア21の軸Isと一体回転するので、ドグ歯位相は、モータ10の回転角度に応じて決まる。また、第2要素32Aは、固定要素であるので、第1要素31と第2要素32Aとの間の相対的な位相関係は、モータ10の回転角度に応じて一意に定まる。モータ制御部152は、時点t55で、ドグ歯位相が目標値θtargetに収束すると、アップロック回避制御用のモータトルクの発生を停止(すなわちモータ10を停止)する。
この場合も、図6に示した例と同様、アップロック回避制御が開始されると、アクチュエータ制御部153は、時点t2からアクチュエータ74の駆動を開始し、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させ始める。そして、アクチュエータ制御部153は、時点t4で、第1要素31が第2要素32Aに噛み合うと、アクチュエータ74の駆動を停止する。
図9に示す例では、時点t2は、ドグ歯位相が目標値θtargetに収束する時点t55よりも前であり、時点t55は、ドグ歯ストロークがドグ歯先端接触位置S10に至る時点t3よりも前である。アクチュエータ制御部153は、このような時系列関係を実現するように、ドグ歯位相の変化態様に応じて、ドグ歯ストロークの変化態様を制御してもよい。この場合、ドグ歯位相が目標値θtargetに収束する時点t55よりも後に、ドグ歯ストロークがドグ歯先端接触位置S10に至るので、アップロックの可能性を大幅に低減できる。また、時点t55よりも前にアクチュエータ74の駆動(遷移処理)を開始するので、時点t55より後からアクチュエータ74の駆動を開始する場合に比べて、ドグ歯ストロークがストローク完了位置S20に達する時点t4を早めることができる(すなわち変速要求が発生してから変速が完了するまでの時間を短縮できる)。ただし、変形例では、時点t55より後からアクチュエータ74の駆動を開始してもよい。
図9に示す例によっても、図6に示した例と同様の効果が得られる。特に図9に示す例によっても、図6に示した例と同様、モータ10により第1要素31を回転させながら、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させるので、アップロックの可能性を大幅に低減できる。また、図9に示す例によれば、ドグ歯位相がフィードバック制御されるので、より確実にアップロックの可能性を低減できる。
以上の図6~図9に示したアップロック回避制御の詳細は、モータ10により第1要素31を回転させながら、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させて第1噛み合い状態を実現するが、図10~図12を参照して次に説明するように、これに限られない。
図10は、アップロック回避制御の詳細の更なる他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図10に示す例は、図7に示した例に対して、アクチュエータ74の駆動の開始タイミングが異なる。
具体的には、図10に示す例では、図7に示した例とは異なり、モータ10により第1要素31を回転させてから、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させる点が異なる。すなわち、図7に示した例では、ドグ歯位相が位相θ1に至るようにモータ10により第1要素31を回転させながら、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させるのに対して、図10に示す例では、モータ10により第1要素31を回転させてドグ歯位相を位相θ1に至らせてから(すなわち、ドグ歯位相が位相θ1に至った時点t30又は時点t30を過ぎてから)、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させる。なお、位相θ1は、上述のとおりであってよいが、図10に示す例における好ましい範囲は後述する。
図10に示す例によっても、変速段を「ニュートラル」から「Low」へと変更させる場合(すなわち、ドッグクラッチ301を非噛み合い状態から第1噛み合い状態へ遷移させる場合)に、モータ10により第1要素31を回転させるので、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに近接させる際に生じうるアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
図11は、アップロック回避制御の詳細の更なる他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図11に示す例は、図8に示した例に対して、アクチュエータ74の駆動の開始タイミングが異なる。
具体的には、図11に示す例では、図8に示した例とは異なり、モータ10により第1要素31を回転させてから、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させる点が異なる。すなわち、図8に示した例では、ドグ歯位相が位相θ2に至るようにモータ10により第1要素31を回転させながら、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させるのに対して、図10に示す例では、モータ10により第1要素31を回転させてドグ歯位相を位相θ2に至らせてから(すなわち、ドグ歯位相が位相θ2に至った時点t30又は時点t30を過ぎてから)、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させる。なお、位相θ2は、上述のとおりであってよいが、図11に示す例における好ましい範囲は後述する。
図11に示す例によっても、変速段を「ニュートラル」から「Low」へと変更させる場合に、モータ10により第1要素31を回転させるので、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに近接させる際に生じうるアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
図12は、アップロック回避制御の詳細の更なる他の一例の説明図であり、図6の場合と同様、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、表記等については、図6で説明したとおりである。
図12に示す例は、図9に示した例に対して、アクチュエータ74の駆動の開始タイミングが異なる。
具体的には、図12に示す例では、図9に示した例とは異なり、モータ10により第1要素31を回転させてから、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させる点が異なる。すなわち、図9に示した例では、ドグ歯位相が目標値θtargetに至るようにモータ10のフィードバック制御により第1要素31を回転させながら、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させるのに対して、図12に示す例では、モータ10のフィードバック制御により第1要素31を回転させてドグ歯位相を目標値θtargetに至らせてから(すなわち、ドグ歯位相が目標値θtargetに至った時点t55又は時点t55を過ぎてから)、第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させる。なお、目標値θtargetは、上述のとおりであってよいが、図12に示す例における好ましい範囲は後述する。
図12に示す例によっても、変速段を「ニュートラル」から「Low」へと変更させる場合に、モータ10により第1要素31を回転させるので、中立位置から第1要素31を第2要素32Aに近接させる際に生じうるアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
ところで、図10~図12に示すアップロック回避制御は、図6~図9に示したアップロック回避制御とは異なり、第1要素31をモータ10により回転させるものの、第1要素31の回転が停止してから、第1要素31を第2要素32Aに向けて移動させる。
このような相違を考慮して、図10~図12に示すアップロック回避制御と、図6~図9に示したアップロック回避制御とを、適切に使い分けることも可能である。
具体的には、図6~図9に示したアップロック回避制御は、初回の遷移処理において実行されるのが好適であるのに対して、図10~図12に示すアップロック回避制御は、リトライ時の遷移処理に適用されるのが好適である。
図6~図9に示したアップロック回避制御は、上述のように、モータ10により第1要素31を回転させながら、第1要素31を第2要素32Aに近接させるので、遷移処理の開始時のドグ歯位相がどのような領域(アップロック領域SC1や非アップロック領域SC2)にある場合でも、アップロック回避制御が有効に機能する可能性が高いためである。
他方、図10~図12に示すアップロック回避制御は、上述のように、モータ10により第1要素31を回転させた後に、第1要素31を第2要素32Aに近接させるので、遷移処理の開始時のドグ歯位相によっては、モータ10により第1要素31を回転させた後のドグ歯位相がアップロック領域SC1内にある場合がありえ、この場合、アップロックが生じて当該遷移処理が不成功に終わるためである。
ここで、ある一の遷移処理でアップロックが生じた場合、当該一の遷移処理の実行時点でのドグ歯位相は、アップロック領域SC1内にある可能性が高い。従って、次の遷移処理(すなわちリトライの遷移処理)では、ドグ歯位相がアップロック領域SC1内にあることを前提として実行できる。
この点、図10~図12に示すアップロック回避制御によれば、位相θ1、位相θ2、及び目標値θtargetを適切に設定することが容易であり、この場合、リトライの遷移処理においてアップロックの可能性を大幅に低減できる。
具体的には、位相θ1、位相θ2、及び目標値θtargetは、好ましくは、リトライ時の遷移処理の開始時のドグ歯位相がアップロック領域SC1内にあると想定して、リトライ時の遷移処理によってドグ歯位相が非アップロック領域SC2内の中心位置(周方向の中心位置)に至るように設定される。例えば、位相θ1=α1/2、位相θ2=k×α1/2(ただし、kは、3以上の奇数)、目標値θtarget=j×α1/2(ただし、jは、1以上の奇数)である。この場合、リトライの遷移処理においてアップロックの可能性を大幅に低減できる。ただし、位相θ1、位相θ2、及び目標値θtargetは、上記の値を中心として±α1/4程度の範囲内で設定されてもよい。
なお、変形例では、図10~図12に示すアップロック回避制御は、初回の遷移処理において実行されてもよいし、逆に、図6~図9に示したアップロック回避制御は、リトライ時の遷移処理において実行されてもよい。
次に、図13以降を参照して、アップロック回避制御に関連した制御装置100の動作例について説明する。以降の処理フロー図(フローチャート)においては、各ステップの入力と出力の関係を損なわない限り、各ステップの処理順序を入れ替えてもよい。
図13は、アップロック回避制御に関連して制御装置100により実行される処理の一例を示す概略フローチャートである。図13に示す処理ルーチンは、所定周期ごとに実行されてよい。
ステップS1300では、制御装置100は、車載電子機器130から各種センサ情報や、変速情報、アクチュエータ74の駆動電流の大きさを表す駆動電流情報等を取得する。変速情報は、例えば車載電子機器130に含まれるECUで生成される要求ギア段を表す情報であってよい。なお、駆動電流情報は、アクチュエータ74の駆動中(遷移処理中)においてのみ取得されてもよい。
ステップS1301では、制御装置100は、非噛合状態遷移中フラグF0が“0”であるか否かを判定する。非噛合状態遷移中フラグF0は、変速段が「Low」から「High」又は「High」から「Low」に変更される際に、係合装置30の状態が第1又は第2噛み合い状態から非噛み合い状態へ遷移中であるときに、“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。非噛合状態遷移中フラグF0の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS1302に進み、それ以外の場合は、ステップS1310に進む。
ステップS1302では、制御装置100は、アップロック回避制御中フラグF1が“0”であるか否かを判定する。アップロック回避制御中フラグF1は、アップロック回避制御を伴う遷移処理が実行されている状態では“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。アップロック回避制御中フラグF1の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS1304に進み、それ以外の場合は、ステップS1314に進む。
ステップS1304では、制御装置100は、通常変速中フラグF2が“0”であるか否かを判定する。通常変速中フラグF2は、非停車状態における変速中(アップロック回避制御を伴わない遷移処理の実行状態)では“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。通常変速中フラグF2の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS1306に進み、それ以外の場合は、ステップS1324に進む。
ステップS1306では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(シフトポジションセンサ131からのセンサ情報)や変速情報に基づいて、変速要求があるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS1308に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する。
ステップS1308では、制御装置100は、変速要求が「ニュートラル」から「High」又は「ニュートラル」から「Low」であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS1310に進み、それ以外の場合(すなわち変速要求が「Low」から「High」又は「High」から「Low」である場合)は、ステップS1318に進む。
ステップS1310では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(車輪速センサ132からのセンサ情報)に基づいて、停車状態であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS1312に進み、それ以外の場合は、ステップS1322に進む。
ステップS1312では、制御装置100は、アップロック回避制御中フラグF1を“1”にセットする。
ステップS1314では、制御装置100は、アップロック回避制御を伴う遷移処理ルーチンに移行する。具体的には、制御装置100は、「ニュートラル」から「Low」又は「High」への変更に係る遷移処理(すなわち非噛み合い状態から第1又は第2噛み合い状態への遷移のための遷移処理)であって、アップロック回避制御を伴う遷移処理ルーチンに移行する。このアップロック回避制御を伴う遷移処理ルーチンの一例については、図14を参照して後述する。
ステップS1318では、制御装置100は、非噛合状態遷移中フラグF0を“1”にセットする。
ステップS1320では、制御装置100は、「Low」から「High」又は「High」から「Low」に係る変速要求に応じた遷移処理を開始する。例えば、「Low」から「High」の場合は、第2噛み合い状態から第1噛み合い状態への遷移処理を開始する。
ステップS1322では、制御装置100は、通常変速中フラグF2を“1”にセットする。
ステップS1324では、制御装置100は、アップロック回避制御を伴わない遷移処理を実行する。アップロック回避制御を伴わない遷移処理の詳細は、省略するが、アップロック回避制御を伴わない遷移処理は、アップロック回避制御を伴う遷移処理に対して、アップロック回避用のモータ制御が実行されない点が異なる。なお、アップロック回避制御を伴わない遷移処理が不成功に終わった場合(アップロックが生じた場合)、再度、アップロック回避制御を伴わない遷移処理が実行されてよい。非停車状態では、停車状態とは異なり、非噛み合い状態において軸Is(及びそれに伴い第1要素31)が回転しており、アップロックが連続して生じる可能性が低いためである。
ステップS1326では、制御装置100は、アップロック回避制御を伴わない遷移処理が完了したか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS1328に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する。
ステップS1328では、制御装置100は、通常変速中フラグF2を“0”にリセットする。
ステップS1330では、制御装置100は、ステップS1320で開始した遷移処理(第1噛み合い状態から第2噛み合い状態への遷移処理、又は、第2噛み合い状態から第1噛み合い状態への遷移処理)を実行(継続)する。
ステップS1332では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(アクチュエータ回転角センサ135からのセンサ情報から導出可能なフォークシャフト92の位置情報)に基づいて、係合装置30の状態が非噛み合い状態へ遷移したか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS1334に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する。
ステップS1334では、制御装置100は、非噛合状態遷移中フラグF0を“0”にリセットする。
図14は、図13のステップS1314のアップロック回避制御を伴う遷移処理ルーチンの一例を示す概略フローチャートである。なお、本遷移処理ルーチンが終了すると、図13の処理ルーチンの今回周期の処理は終了する。
ステップS13140では、制御装置100は、リトライ準備中フラグF5が“0”であるか否かを判定する。リトライ準備中フラグF5は、遷移処理のリトライのために係合装置30の状態を非噛み合い状態へと戻している状態で、“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。リトライ準備中フラグF5の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS13142に進み、それ以外の場合は、ステップS13160に進む。
ステップS13142では、制御装置100は、モータトルク算出済フラグF4が“0”であるか否かを判定する。モータトルク算出済フラグF4は、アップロック回避制御用のモータトルクが算出された状態で、“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。モータトルク算出済フラグF4の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS13144に進み、それ以外の場合は、ステップS13150に進む。
ステップS13144では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(油温センサ133からのセンサ情報)に基づいて、アップロック回避制御用のモータトルクを算出する。具体的には、制御装置100は、マップデータ記憶部170を参照して、環境パラメータである油温に応じた、アップロック回避制御用のモータトルクの大きさ(又は振幅)を算出する。
ステップS13146では、制御装置100は、モータトルク算出済フラグF4を“1”にセットする。
ステップS13148では、制御装置100は、ステップS13144で算出したアップロック回避制御用のモータトルクに基づいて、当該モータトルクが発生するようにモータ10を制御して、第1要素31を回転させる。すなわち、制御装置100は、ステップS13144で算出したアップロック回避制御用のモータトルクに基づいて、アップロック回避用のモータ制御を開始する。例えば、図6に示した例では、制御装置100は、矩形波状でモータトルクを発生させ始める。
ステップS13150では、制御装置100は、アップロック回避用のモータ制御を実行(継続)する。
ステップS13152では、制御装置100は、係合装置30の非噛み合い状態から第1噛み合い状態又は第2噛み合い状態への遷移処理ルーチン(以下、「噛み合い状態への遷移処理ルーチン」とも称する)に移行する。例えば、今回の変速要求が「High」から「Low」である場合は、制御装置100は、非噛み合い状態から第1噛み合い状態への遷移処理を行うべく、噛み合い状態への遷移処理ルーチンに移行する。ステップS13152の噛み合い状態への遷移処理ルーチンの一例は、図15を参照して後述する。
ステップS13153では、制御装置100は、リトライ準備中フラグF5が“1”であるか否かを判定する。なお、図15を参照して後述するように、リトライ準備中フラグF5は、ステップS13152の遷移処理が不成功に終わった場合(すなわちアップロックが検出された場合)に、“1”にセットされる。判定結果が“YES”の場合、ステップS13154に進み、それ以外の場合は、ステップS13157に進む。
ステップS13154では、制御装置100は、モータ10を停止させてアップロック回避用のモータ制御を終了する。
ステップS13156では、制御装置100は、モータトルク算出済フラグF4を“0”にリセットする。
ステップS13157では、制御装置100は、アップロック回避制御中フラグF1が“0”であるか否かを判定する。なお、図15を参照して後述するように、アップロック回避制御中フラグF1は、ステップS13152の遷移処理が完了した場合(アップロックが生じることなく第1又は第2噛み合い状態への遷移が完了した場合)に、“0”にリセットされる。判定結果が“YES”の場合、ステップS13158に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する。
ステップS13158では、制御装置100は、モータ10を停止させてアップロック回避用のモータ制御を終了する。
ステップS13159では、制御装置100は、モータトルク算出済フラグF4を“0”にリセットする。
ステップS13160では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(アクチュエータ回転角センサ135からのセンサ情報から導出可能なフォークシャフト92の位置情報)に基づいて、係合装置30の状態が非噛み合い状態へ遷移したか否か(すなわち第1要素31が中立位置まで戻ったか否か)を判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS13162に進み、それ以外の場合は、ステップS13168に進む。
ステップS13162では、制御装置100は、リトライ時の遷移処理のためのアップロック回避制御用のモータトルクを算出する。例えば、制御装置100は、直前の遷移処理におけるアップロック回避制御用のモータトルクよりも大きくなる態様で、リトライ時の遷移処理におけるアップロック回避制御用のモータトルクを算出する。なお、リトライ時の遷移処理におけるアップロック回避制御用のモータトルクを変更しない仕様であってもよく、かかる仕様では、ステップS13162は省略されてよい。
ステップS13164では、制御装置100は、ステップS13162で算出したアップロック回避制御用のモータトルクに基づいて、当該モータトルクが発生するようにモータ10を制御して、第1要素31を回転させる。すなわち、制御装置100は、ステップS13162で算出したアップロック回避制御用のモータトルクに基づいて、アップロック回避用のモータ制御を開始する。
ステップS13166では、制御装置100は、リトライ準備中フラグF5を“0”にリセットし、かつ、モータトルク算出済フラグF4を“1”にセットする。
ステップS13168では、制御装置100は、ステップS13152の遷移処理で開始したリトライ準備処理を実行(継続)する。リトライ準備処理は、後述するように、リトライ準備として係合装置30の状態を非噛み合い状態へと戻す処理である。
図15は、図14のステップS13152の噛み合い状態への遷移処理ルーチンの一例を示す概略フローチャートである。なお、本遷移処理ルーチンが終了すると、図14のステップS13153に進む。
ステップS150では、制御装置100は、ドグ歯ストローク中フラグF6が“0”であるか否かを判定する。ドグ歯ストローク中フラグF6は、アクチュエータ74により第1要素31が第2要素32A又は第2要素32Bに向けて移動されている状態で、“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。ドグ歯ストローク中フラグF6の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。判定結果が“YES”の場合、ステップS152に進み、それ以外の場合は、ステップS158に進む。
ステップS152では、制御装置100は、遷移処理の開始条件が満たされたか否かを判定する。
遷移処理の開始条件は、例えば図6~図9に示した例では、時点t2で満たされる。この場合、例えば、遷移処理の開始条件は、モータ10が安定した回転状態に至った場合に満たされてよく、例えば、アップロック回避用のモータ制御が開始されてから所定時間が経過して場合に満たされてよい。あるいは、遷移処理の開始条件は、モータ回転数センサ134からのセンサ情報に基づいて、モータ10の回転角度が所定角度以上変化した場合に満たされてもよい。あるいは、遷移処理の開始条件は、アップロック回避用のモータ制御が開始されると直ぐに満たされてもよい。
遷移処理の開始条件は、例えば図10及び図11に示した例では、時点t30で満たされる。この場合、例えば、遷移処理の開始条件は、アップロック回避用のモータ制御が終了すると直ぐに満たされてもよい。あるいは、遷移処理の開始条件は、アップロック回避用のモータ制御が終了してから、所定の僅かな時間が経過した場合に満たされてもよい。同様に、遷移処理の開始条件は、例えば図12に示した例では、時点t55で満たされる。この場合、例えば、遷移処理の開始条件は、アップロック回避用のモータ制御が終了すると直ぐに満たされてもよい。あるいは、遷移処理の開始条件は、ドグ歯位相が目標値θtargetに収束する直前に満たされてもよいし、ドグ歯位相が目標値θtargetに収束してから、所定の僅かな時間が経過した場合に満たされてもよい。
ステップS152において、判定結果が“YES”の場合、ステップS154に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する。
ステップS154では、制御装置100は、遷移処理を開始する。すなわち、制御装置100は、アクチュエータ74により第1要素31を中立位置から第2要素32A又は第2要素32Bに向けて移動させ始める。例えば、今回の変速要求が「High」から「Low」である場合は、制御装置100は、アクチュエータ74により第1要素31を中立位置から第2要素32Aに向けて移動させ始める。
ステップS156では、制御装置100は、ドグ歯ストローク中フラグF6を“1”にセットする。
ステップS158では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(アクチュエータ回転角センサ135からのセンサ情報)と駆動電流情報に基づいて、アップロックが発生したか否かを判定する。アップロックの判定方法は、上述したとおりであってよい。判定結果が“YES”の場合、ステップS160に進み、それ以外の場合は、ステップS164に進む。
ステップS160では、制御装置100は、リトライ準備中フラグF5を“1”にセットし、ドグ歯ストローク中フラグF6を“0”にリセットする。
ステップS162では、制御装置100は、リトライ準備として係合装置30の状態を非噛み合い状態へと戻す処理(リトライ準備処理)を開始する。具体的には、制御装置100は、実行中の遷移処理を終了(中断)し、アクチュエータ74を駆動して第1要素31を中立位置へと移動させ始める。
ステップS164では、制御装置100は、ステップS1300で得たセンサ情報(アクチュエータ回転角センサ135からのセンサ情報から導出可能なフォークシャフト92の位置情報)に基づいて、係合装置30の状態が第1又は第2噛み合い状態へ遷移したか否か(すなわち、アップロックが生じることなく遷移処理が完了したか否か)を判定する。例えば、今回の変速要求が「High」から「Low」である場合は、制御装置100は、係合装置30の状態が第1噛み合い状態へ遷移したか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS166に進み、それ以外の場合は、ステップS168に進む。
ステップS166では、制御装置100は、遷移処理を終了する(すなわちアクチュエータ74の駆動を停止する)。
ステップS167では、制御装置100は、アップロック回避制御中フラグF1及びドグ歯ストローク中フラグF6を“0”にリセットする。
ステップS168では、制御装置100は、ステップS154で開始した遷移処理を実行(継続)する。
図13~図15に示す処理によれば、停車状態において係合装置30を非噛み合い状態から第1又は第2噛み合い状態へと遷移させる場合に、アップロック回避制御が実行されるので、アップロックの可能性を効果的に低減できる。
図13~図15に示す処理では、アップロック回避制御が実行されたにもかかわらず、アップロックが生じた場合(図15のステップS158で判定結果が“YES”の場合)、リトライの遷移処理が実行される。そして、リトライの遷移処理においても、アップロック回避制御が実行されるので、アップロックの可能性を低減できる。
なお、図13~図15に示す処理では、初回の遷移処理とリトライ時の遷移処理との間で、アップロック回避制御用のモータトルクが変更されるものの、同様の態様のアップロック回避制御が実行されるが、これに限られない。例えば、初回の遷移処理では、図6~図9に示したアップロック回避制御が実行され、リトライ時の遷移処理では、図10~図12に示したアップロック回避制御が実行されてもよい。
図16は、図13のステップS1314のアップロック回避制御を伴う遷移処理ルーチンの他の一例を示す概略フローチャートである。図17は、図16に示す処理の説明図であり、上から順に、モータトルクの時系列と、ドグ歯位相の時系列と、ドグ歯ストロークの時系列とが、示される。なお、図17において、表記等については、図6で説明したとおりである。
図16に示す概略フローチャートは、図14に示した概略フローチャートに対して、ステップS180~ステップS194が追加された点が異なる。以下、異なる点を主に説明する。
ステップS180では、制御装置100は、今回の変速要求に対してリトライであるか否か(すなわち少なくとも1回アップロックが生じたか否か)を判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS13140に進み、それ以外の場合(すなわち初回の遷移処理である場合)は、ステップS182に進む。
ステップS182では、制御装置100は、ドグ歯ストローク中フラグF6が“0”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS184に進み、それ以外の場合は、ステップS13152に進む。
ステップS184では、制御装置100は、初回の遷移処理を開始する。すなわち、制御装置100は、アクチュエータ74により第1要素31を中立位置から第2要素32A又は第2要素32Bに向けて移動させ始める。
ステップS186では、制御装置100は、初回フラグF7及びドグ歯ストローク中フラグF6を“1”にセットする。初回フラグF7は、リトライではない初回の遷移処理が実行されている状態で“1”となり、それ以外の状態では“0”となる。初回フラグF7の初期値(車両起動時の値)は、“0”である。
ステップS188では、制御装置100は、初回フラグF7が“0”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS13154に進み、それ以外の場合は、ステップS190に進む。
ステップS190では、制御装置100は、初回フラグF7を“0”にリセットする。
ステップS192では、制御装置100は、初回フラグF7が“0”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS13158に進み、それ以外の場合は、ステップS194に進む。
ステップS194では、制御装置100は、初回フラグF7を“0”にリセットする。
図16に示す例によれば、図14に示した例と異なり、停車状態においても初回の遷移処理では、アップロック回避制御が実行されず、リトライ時の遷移処理においてのみ、アップロック回避制御が実行される。このような場合でも、リトライ時の遷移処理において、アップロック回避制御が実行されるので、アップロックの可能性を低減できる。
例えば、図17に示す例では、時点t40から初回の遷移処理が実行されるが、ドグ歯ストロークがドグ歯先端接触位置S10から更に移動できず、アップロックが発生している。このため、時点t41からリトライ準備処理が開始され、時点t42でリトライ準備処理が完了する。そして、その後の時点t43で、アップロック回避制御が開始される。具体的には、時点t43から時点t44までの期間、モータトルクが出力され、それに伴いドグ歯位相が変化する。図17に示す例では、ドグ歯位相は、時点t44で非アップロック領域SC2内に至っている。そして、時点t44以後の時点t45でアクチュエータ74の駆動が開始され、時点t46でリトライ時の遷移処理が完了する(すなわちアップロックが生じることなく遷移処理が完了する)。
なお、図16に示す例が用いられる場合、図15において、ステップS168では、制御装置100は、ステップS154又はステップS184で開始した遷移処理を実行(継続)することになる。
なお、上述したように、図10~図12に示したアップロック回避制御は、リトライ時の遷移処理に好適である。従って、図16に示す例は、図10~図12に示したアップロック回避制御と好適に組み合わせることができる。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、上述した実施例では、上述のようにアップロックの可能性が効果的に低減されるので、係合装置30にシンクロメッシュ機構が設けられていないが、シンクロメッシュ機構が設けられてもよい。
また、上述した実施例では、ドッグクラッチ301、302のそれぞれに対して、アップロック回避制御が実行されるが、ドッグクラッチ301、302のいずれか一方に対してのみ、プロック回避制御が実行されてもよい。
また、ドッグクラッチ301、302のそれぞれに対して、同様の態様のアップロック回避制御が実行されるが、異なる態様のアップロック回避制御が実行されてもよい。例えば、ドッグクラッチ301に対しては、図12に示したフィードバック制御を伴うアップロック回避制御が実行され、ドッグクラッチ302に対しては、図6に示したアップロック回避制御が実行されてもよい。
また、上述した実施例は、図1に示す特定の車両用駆動装置1への適用例が説明されているが、ドッグクラッチが設けられ、かつ、ドッグクラッチを形成する2つの要素のうちの少なくともいずれか一方がモータにより回転可能な構成であれば、変速段数や各種の接続態様等がどのような車両用駆動装置に対しても適用可能である。従って、適用可能な駆動装置は、電気自動車用に限られず、ハイブリッド車用であってよい。例えば、上述した実施例では、スリーブの形態の第1要素31をモータ10が回転させることでアップロック回避制御が実現されるが、第2要素32A、32Bに相当する要素をモータにより回転させることでアップロック回避制御が実現されるような構成も可能である。一例として、モータ10に代えてエンジンがリングギア22に連結され、第2要素32Aがモータに連結されるような構成を含む車両用駆動装置に適用されてもよい。
<付記>
以上の実施例に関し、更に以下を開示する。なお、以下で記載する効果のうちの、一の形態に対する追加的な各形態に係る効果は、当該追加的な各形態に起因した付加的な効果である。
(1)一の形態は、軸(Is)まわりに噛み合い用の歯状部(311、321A、321B)をそれぞれ有する第1要素(31)及び第2要素(32A、32B)を備え、前記第1要素と前記第2要素の間での軸方向の相対移動によって噛み合い状態と非噛み合い状態との間で遷移可能であり、前記噛み合い状態において前記第1要素と前記第2要素の間で軸まわりの回転トルクの伝達が可能なクラッチ(30)と、
軸まわりの前記第1要素の回転を可能とする車両駆動用の回転電機(10)と、
停車状態において前記クラッチを前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態へと遷移させる場合に、前記回転電機により前記第1要素を回転させる制御装置(100)とを含む、車両用駆動装置(1)である。
本形態によれば、停車状態において前記クラッチを非噛み合い状態から噛み合い状態へと遷移させる場合に、回転電機により第1要素を回転させることで、停車状態におけるアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(2)また、本形態においては、好ましくは、前記制御装置は、停車状態において前記クラッチを前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態へと遷移させる場合に、前記第1要素を回転させながら、前記第1要素と前記第2要素を軸方向に近接させる。
この場合、第1要素が回転されながら第2要素に軸方向に近接されるので、アップロックを回避できる可能性を更に高めることができる。
(3)また、本形態においては、好ましくは、前記第1要素を回転させることは、前記第1要素の回転方向を変化させながら回転させることを含む。
この場合、第1要素を一定の回転方向に比較的大きく回転させることなく、停車状態におけるアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(4)また、本形態においては、好ましくは、前記第1要素及び前記第2要素は、軸まわりに所定角度(α1)ごとに前記歯状部を有し、
前記第1要素の回転方向を変化させることは、前記第1要素がアップロック領域以上の角度回転するごとに実行される。
この場合、第1要素を回転させている間、アップロックを回避できる非アップロック領域内に第1要素の噛み合い用の歯状部の位相が位置できる可能性が高くなる。
(5)また、本形態においては、好ましくは、前記制御装置は、停車状態において前記クラッチを前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態へと遷移させる場合に、前記第1要素を回転させてから、前記第1要素と前記第2要素を軸方向に近接させる。
この場合、第1要素を回転させることで、アップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(6)また、本形態においては、好ましくは、前記第1要素は、軸まわりに所定角度(α1)ごとに噛み合い用の歯状部(311)を有し、
前記第1要素を回転させることは、前記第1要素をアップロック領域以上の角度回転させることを含む。
この場合、第1要素を回転させることで、アップロックを回避できる非アップロック領域内に第1要素の噛み合い用の歯状部の位相を至らせることが可能となりえ、アップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(7)また、本形態においては、好ましくは、前記第1要素を回転させることは、前記第1要素が前記アップロック領域以上の目標角度だけ回転するようにフィードバック制御することを含む。
この場合、アップロックを回避できる非アップロック領域内に第1要素の噛み合い用の歯状部の位相が至るような適切な目標角度を設定することで、アップロックを回避できる可能性を更に高めることができる。
(8)また、本形態においては、好ましくは、前記制御装置は、停車状態において前記クラッチを前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態へと遷移させる場合に、前記クラッチの前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態への遷移しやすさ、及び、前記第1要素の回転しやすさ、のうちの少なくともいずれか一方に関するパラメータに基づいて、前記第1要素を回転させるための前記回転電機の出力トルクを変化させる。
この場合、上記のようなパラメータに基づいて回転電機の出力トルクを変化させて、アップロックを回避できる可能性を更に高めることができる。
(9)また、本形態においては、好ましくは、前記パラメータは、前記回転電機に供給される油の粘性、及び、前記クラッチの摩耗度合い、のうちの少なくともいずれか一方に関する。
この場合、油の粘性やクラッチの摩耗度合いに応じて回転電機の出力トルクを変化させて、アップロックを回避できる可能性を更に高めることができる。
(10)また、本形態においては、好ましくは、前記第2要素は、一の前記第1要素に対して2つ設けられる。
この場合、いずれの第2要素との噛み合い状態への遷移においても、アップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(11)また、本形態においては、好ましくは、前記制御装置は、停車状態において前記クラッチを前記非噛み合い状態から前記噛み合い状態へと遷移させる場合に、前記クラッチを前記噛み合い状態へと遷移させるための第1遷移処理を実行し、前記第1遷移処理が不成功となると、前記クラッチを前記噛み合い状態へと遷移させるための第2遷移処理を実行し、
前記第1要素を回転させることは、前記第1遷移処理及び前記第2遷移処理のいずれにおいても、又は、前記第1遷移処理及び前記第2遷移処理のうちの前記第2遷移処理においてのみ、実行される。
この場合、リトライの可能性を低減でき、又は、リトライ時のアップロックを回避できる可能性を高めることができる。
(12)本形態においては、好ましくは、前記回転電機の出力トルクは、前記クラッチの前記噛み合い状態において車輪に伝達される。
この場合、いわゆるギア駐車のための変速に対して、アップロックを回避できる可能性を高めることができるとともに、ニュートラルを跨ぐ変速又はニュートラルからの変速に対して、アップロックを回避できる可能性を高めることができる。