以下に、実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置、ワイヤ放電加工方法およびウエハの製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
マルチワイヤ放電加工装置は、例えば、半導体製造工程において、インゴットから複数の半導体ウエハを一括して切り出すスライス加工、すなわち複数の半導体ウエハの一括切断加工に用いられる。一括切断加工される薄板は、一括切断加工が進むにつれてインゴットから切断され、半導体ウエハとなる薄板部分が増大し、インゴットと一体化している部分が減少する。そして、一括切断加工が完了する直前では、隣接する薄板同士は、わずかな残加工部で繋がっている状態となる。
この状態の薄板は、インゴットとワイヤとの隙間である極間に供給される加工液流により揺さぶられ、あるいは、例えば、6インチ以上の直径を有する薄板では、薄板自体の重量の影響も重なり、薄板がたわむ状況が発生する。この結果、特に、板厚に対する直径が大きい薄板では、たわみによる応力が残加工部の近辺に集中し、残加工部を起点とする割れが発生しやすくなる。炭化シリコン(SiC)および窒化ガリウム(GaN)などの相対的に高い硬度を有する高硬度な素材であっても、半導体ウエハの厚さに対する口径が大きくなれば、半導体ウエハ自体の剛性低下によって、あるいは、加工液流から受ける力によって、半導体ウエハの揺れまたはたわみが発生する。
半導体ウエハの場合、半導体ウエハの一部にでも割れまたは欠けが発生すると、スライス加工された半導体ウエハの研磨工程または研磨工程以降の半導体製造プロセスで歩留まり低下といった支障をきたす。このため、半導体ウエハの割れまたは欠けは、半導体ウエハの商品価値が著しく損なわれる要因となっている。
すなわち、ワイヤ電極を用いて被加工物から複数の板状部材を一括して切断する放電加工において、放電により発生した加工屑の排出と放電エネルギーにより加熱されたワイヤの冷却とを向上するため、形成途中の薄板の間隙に供給される加工液流量が増大され、薄板部が受ける加工液流の圧力の増大によって、薄板は揺さぶられ、また、薄板の厚さに対する口径拡大による薄板自体の曲げ剛性の低下によって、形成途中の薄板は次第にたわみやすい状態となる。
そして、加工液流の圧力が薄板に作用し、形成された薄板部と被加工物の残加工部との境界、あるいは、薄板の切断が完了する近傍において、応力集中が発生することにより、薄板に割れまたは欠けが発生しやすくなる。被加工物が、例えば、SiCやGaNなどの結晶からなるインゴットでは、大口径化がすすみ、半導体ウエハの口径寸法が大きくなるほど、放電加工中の加工液流から薄板部が受ける液圧または剛性の低下の影響は顕著になる。
以下では、切断加工によって切り離された薄板をウエハと呼ぶだけでなく、加工溝が形成された状態の被加工物、すなわち、被加工物の一部であって切り離される前の薄板状の部分もウエハ、加工中のウエハなどと称する。
図1は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000の構成例を示す概念図である。図2は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える薄板加工安定部70と、薄板加工安定部70の周辺の機構と薄板加工安定部70との位置関係を示す斜視図である。図3は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える薄板加工安定部70の内部の構成を示す断面図である。図3では、加工液整流板71に設置された被加工物Wに対して、全加工距離の1/3程度の位置までワイヤ放電加工が進行した状態を示している。また、図3では、後述する加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間の位置における断面を示している。ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1を用いた放電加工を行う、マルチワイヤ放電加工装置である。図2および図3において、矢印81は、切断ワイヤ部1bの走行方向を示している。図3において、矢印82は、加工液の流れる方向を示している。
図1には、3軸直交座標系のx軸、y軸、z軸が示されている。y軸方向は、被加工物W上でのワイヤ電極1の走行方向、すなわちワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wに対するワイヤ電極1の走行方向に対応する。z軸方向は、ワイヤ放電加工装置1000の高さ方向に対応する。ワイヤ放電加工装置1000の高さ方向は、上下方向、すなわち鉛直方向に対応する。x軸方向は、被加工物W上でワイヤ電極1が並列される方向、すなわちワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wに対してワイヤ電極1が並列される方向に対応する。x軸方向は、ワイヤ放電加工装置1000に配置された被加工物Wの長手方向に平行な方向といえる。
ワイヤ放電加工装置1000は、ワイヤ電極1によって被加工物Wを放電切断加工する加工機構部100と、給電を実行する給電部200と、ワイヤ放電加工装置1000を制御する制御部300と、を備える。ワイヤ放電加工装置1000は、被加工物Wから一括して複数の板状部材を切り出す。被加工物Wの材料の例としては、タングステン、モリブデン、シリコンカーバイド、単結晶シリコン、単結晶シリコンカーバイド、ガリウムナイトライド、多結晶シリコン等の材料を挙げることができる。シリコンカーバイドは、炭化珪素とも呼ばれる。以下では、放電切断加工を単に切断加工と呼ぶ場合がある。
加工機構部100は、複数のガイドローラ2と、ボビン3と、制振ガイドローラ4a,4bと、ノズル7a,7bと、ボビン回転制御装置8a,8bと、トラバース制御装置9a,9bと、切断送りステージ10と、を備える。複数のガイドローラ2は、ガイドローラ2a、ガイドローラ2b、ガイドローラ2cおよびガイドローラ2dにより構成されている。ボビン3は、ボビン3aおよびボビン3bにより構成されている。
複数のガイドローラ2は、ワイヤ電極1の走行をガイドする。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々は、各々の回転軸のまわりに回転可能に設置されている。ガイドローラ2a,2b,2c,2dは、互いに離間して配置されており、互いの回転軸が平行となるように配置されている。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸が互いに平行であることにより、ワイヤ電極1を高精度に走行させることができる。ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸は、x軸に平行に配置されている。
1本のワイヤ電極1が、ガイドローラ2a,2b,2c,2dのまわりに、ガイドローラ2a,2b,2c,2dの各々の回転軸の方向に間隔をあけて複数回巻回されている。これらのワイヤ電極1をまとめて並列ワイヤ部1aと称する。また、並列ワイヤ部1aにおける被加工物Wに対向する部分を、切断ワイヤ部1bと称する。切断ワイヤ部1bは、並列される複数のワイヤ電極1で構成される。切断ワイヤ部1bは、互いに平行に設置されることが好ましい。
ガイドローラ2a,2b,2c,2dの表面には、複数の案内溝2eが等間隔に形成されている。複数の案内溝2eに沿ってワイヤ電極1がガイドローラ2a,2b,2c,2dの表面に巻き掛けられることによって、ガイドローラ2a,2b,2c,2dは、ワイヤ電極1の間隔、すなわち並列ワイヤ部1aのワイヤ電極1の間隔を一定に保持する。ワイヤ放電加工装置1000は、切断ワイヤ部1bが互いに平行かつ等間隔に配置されることにより、被加工物Wから切り出される複数の板状部材の板厚を等しくし、また複数の板状部材の断面を平行とすることができる。また、複数のガイドローラ2は、必ずしも4個である必要はなく、3個以下とされてもよく、5個以上とされてもよい。
ボビン3a,3bは、ワイヤ電極1の繰り出し動作と、ワイヤ電極1の巻き取り動作と、によってワイヤ電極1を走行させる。ボビン3aは、ワイヤ電極1の繰り出し動作を行う。ボビン3bは、ワイヤ電極1の巻き取り動作を行う。ボビン回転制御装置8aおよびトラバース制御装置9aは、ボビン3aを制御する。ボビン回転制御装置8bおよびトラバース制御装置9bは、ボビン3bを制御する。
ボビン回転制御装置8aは、ボビン3aの回転を制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。ボビン回転制御装置8aは、例えば、ワイヤ電極1の走行方向および走行速度を制御する。ボビン回転制御装置8bは、ボビン3bの回転を制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。ボビン回転制御装置8bは、例えば、ワイヤ電極1の走行方向および走行速度を制御する。
トラバース制御装置9aは、ワイヤ電極1の繰り出し位置に対応してボビン3aのx軸方向の位置を制御する。トラバース制御装置9bは、ワイヤ電極1の巻き取り位置に対応してボビン3bのx軸方向の位置を制御する。トラバース制御装置9a,9bによるボビン3a,3bの位置制御をトラバース制御と称する。トラバース制御によって、ボビン3a,3bは、安定的にかつ高精度にワイヤ電極1を走行させることができる。
ボビン3aから繰り出されたワイヤ電極1は、ガイドローラ2b、ガイドローラ2a、ガイドローラ2d、およびガイドローラ2cの順に巻き掛けられて、再びガイドローラ2bからの巻き掛けが継続される。このようにして、ワイヤ電極1は、ガイドローラ2a,2b,2c,2dの間において複数回周回してから、ボビン3bへ巻き取られる。
被加工物Wは、薄板加工安定部70の内部に固定される。薄板加工安定部70については、後で詳述する。被加工物Wが内部に固定された薄板加工安定部70は、制振ガイドローラ4aと制振ガイドローラ4bとの間に設置される。制振ガイドローラ4a,4bがワイヤ電極1のz軸方向の動きを制限することによって、切断ワイヤ部1bにおけるワイヤ電極1の振動が、抑制される。なお、並列ワイヤ部1aにおける被加工物Wに対向する部分に関しては、切断ワイヤ部1bと称すると前述したが、並列ワイヤ部1aにおける制振ガイドローラ4aと制振ガイドローラ4bとの間の部分も、切断ワイヤ部1bと称することにする。なお、ワイヤ放電加工装置1000においては、制振ガイドローラ4aおよび制振ガイドローラ4bを省くことも可能である。
ノズル7aは、制振ガイドローラ4aと薄板加工安定部70との間に配置されている。ノズル7bは、制振ガイドローラ4bと薄板加工安定部70との間に配置されている。ノズル7a,7bの内部には、加工液供給管74から供給される加工液が充填されている。ノズル7a,7bは、内部に充填された加工液を薄板加工安定部70内の被加工物Wに向けて噴出する複数の加工液噴出孔7cを有する。並列ワイヤ部1aは、ノズル7a,7bの複数の加工液噴出孔7cに挿通されて走行する。
切断送りステージ10は、被加工物Wと、切断ワイヤ部1bと、の間の相対位置を変化させる。具体的に、切断送りステージ10は、被加工物Wが設置固定された薄板加工安定部70と、切断ワイヤ部1bと、の間の相対位置を変化させる。実施の形態1では、切断ワイヤ部1bのz軸方向の位置が固定されており、切断送りステージ10がz軸方向に移動可能であるものとする。切断送りステージ10は、薄板加工安定部70の内側の構成要素を被加工物Wと共に上下方向に移動させる。ワイヤ放電加工装置1000は、切断送りステージ10の上下方向への移動によって、薄板加工安定部70に設置された被加工物Wを切断ワイヤ部1bに対して相対的に接近あるいは離反させて、被加工物Wを切断する。また、被加工物Wへの放電加工によって、被加工物Wには、切断ワイヤ部1bに沿った後述する加工溝Wgが形成される。なお、切断送りステージ10は、x軸方向、y軸方向およびz軸方向に移動可能とされてもよい。
加工機構部100は、ワイヤ電極1の振動を抑制するガイド用プーリ、ワイヤ電極1の張力を測定するロードセル、ワイヤ電極1の張力を制御するダンサローラ等の構成部を備えてもよい。加工機構部100は、ロードセルおよびダンサローラによって、ワイヤ電極1の張力をワイヤ電極1の走行に適した範囲に維持してもよい。例えば、ダンサローラは、ワイヤ電極1の繰り出し速度および巻き取り速度を変化させることによって、ワイヤ電極1の張力を制御してもよい。
給電部200は、加工用電源5と、給電子ユニット6a,6bとを備える。加工用電源5は、給電子ユニット6a,6bを介してワイヤ電極1に対して給電を行う。また、加工用電源5は、加工液整流板71aを介して被加工物Wに対して給電を行う。
薄板加工安定部70は、切断加工中の各薄板への給電不良を防止する機構部である。薄板加工安定部70は、制振ガイドローラ4aと制振ガイドローラ4bとの間、且つノズル7aとノズル7bとの間に配置されている。薄板加工安定部70は、一対の加工液整流板71である加工液整流板71aおよび加工液整流板71bと、被加工物押さえ部72と、被加工物給電補助部73と、薄板側面保持部75a,75bと、後述する被加工物押さえ部保持装置78と、を備える。
一対の加工液整流板71である加工液整流板71aおよび加工液整流板71bは、導電性を有し、切断ワイヤ部1bの走行方向と平行に配置され、加工液の流れを整流する。加工液整流板71aおよび加工液整流板71bは、ノズル7aとノズル7bとの間に配置されている。加工液整流板71aと加工液整流板71bとは、板状あるいは直方体形状を有し、互いに対向する面が平行とされて配置されている。すなわち、加工液整流板71aにおける加工液整流板71bと対向する面である対向面71asと、加工液整流板71bにおける加工液整流板71aと対向する面である対向面71bsとは、平行とされている。そして、加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとは、切断ワイヤ部1bの走行方向と平行とされている。対向面71asと対向面71bsとは、例えば鉛直面とされている。
加工液整流板71aは、一対の加工液整流板71のうち第1の加工液整流板であり、加工用電源5に接続されている。このため、被加工物Wと被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75a,75bとには、加工液整流板71aを介して加工用電源5から放電加工用電源が、給電される。これにより、被加工物Wへの放電加工用電源の給電は、被加工物Wの端面に接触する加工液整流板71aから被加工物Wへの給電以外に、加工液整流板71aに接触する、被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75a,75bとから被加工物Wへの給電によっても、行われる。
加工液整流板71bは、一対の加工液整流板71のうち第2の加工液整流板であり、加工液整流板71aに固定された被加工物Wと被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75a,75bとを、加工液整流板71aとの間に挟んだ状態で、加工液整流板71aと平行に配置される。すなわち、加工液整流板71aに固定された被加工物Wと被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75a,75bとは、平行に配置された加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとの間に挟まれている。
また、加工液整流板71bは、被加工物Wに密接し、ノズル7a,7bから供給される加工液を被加工物Wへ誘導する流路を、加工液整流板71aと共に形成する。ノズル7a,7bからは、加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間の間隙に、被加工物Wに向けて加工液が供給される。ノズル7a,7bの複数の加工液噴出孔7cから噴出された加工液は、加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとによって被加工物Wへ誘導される。すなわち、加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとは、加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間の間隙に供給された加工液の流れをx軸方向において規制して、加工液の流れを被加工物Wへ誘導する流路を形成する。
これにより、加工液が、形成途中の薄板の厚さ方向に、すなわちx軸方向に拡散することが抑制される。また、切断ワイヤ部1bは、ノズル7a,7bの複数の加工液噴出孔7cに挿通されて走行する。これにより、加工液が、切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間の間隙に入り込みやすくなる。
ワイヤ放電加工装置1000では、ノズル7a,7bから供給される加工液が上記のように整流されるため、加工液の拡散が抑制され、形成途中の薄板が加工液によって揺さぶられて割れる危険が低減される。
被加工物Wは、加工液整流板71aと加工液整流板71bとの間に挟まれた状態で、薄板加工安定部70の内部に固定されている。すなわち、被加工物Wは、加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとの間に挟まれた状態で、加工液整流板71aの対向面71asに固定されている。被加工物Wは、円柱形状の軸方向が加工液整流板71aの対向面71asおよび加工液整流板71bの対向面71bsに垂直とされた状態で、円柱形状における一方の端面が加工液整流板71aの対向面71asに固定されている。また、被加工物Wは、円柱形状における他方の端面が加工液整流板71bの対向面71bsに密着している。
被加工物Wが半導体ウエハ用素材である場合には、切断加工された薄板が円形の薄板となるように、被加工物Wの形状が、あらかじめ円柱形状に成形されていることが多い。ここでは、円柱形状の被加工物Wの曲面をなす円柱側面を、外周側面と記載する。また、被加工物Wは、外周側面が切断ワイヤ部1bに対向するように、薄板加工安定部70に配置される。被加工物Wが切断ワイヤ部1bによって輪切りされることによって、被加工物Wから薄板であるウエハが加工される。
被加工物Wが切断ワイヤ部1bによって輪切りされる放電切断工程において、被加工物Wにおける切断ワイヤ部1bによって切断加工が開始される部分を、切り始め部とする。また、被加工物Wが切断ワイヤ部1bによって輪切りされる放電切断工程において、被加工物Wにおける切断ワイヤ部1bによる切断加工が終了する部分を、加工終端部とする。
切断ワイヤ部1bは、加工液整流板71aに固定された被加工物Wを挟んで平行に対峙する加工液整流板71bと加工液整流板71aとの間を、予め決められた間隔で繰り返し巻き掛けられて通過する。
被加工物Wが固定された加工液整流板71aと加工液整流板71bとを、切断ワイヤ部1bに対し、相対的に回転させた状態、あるいは、相対的に傾斜させた状態に姿勢を変更して固定する不図示の姿勢変更機構に設置して加工することで、加工液整流板71aの対向面71asを基準面とした場合に基準面に対して特定の角度をなす切断面を有する、複数枚の薄板を被加工物Wから同時に切り出すことができる。なお、被加工物Wを回転、あるいは、傾斜させる機構として、回転ステージおよびゴニオステージを使用できる。
図3に示すように、被加工物Wの加工終端部には、被加工物Wの外周側面に接触した状態で、被加工物給電補助部73が加工液整流板71aに固定されている。また、被加工物Wの直径部分から切り始め部までの領域において、被加工物押さえ部72が被加工物Wの外周側面に接触した状態で加工液整流板71aに固定されている。図3では、切断された被加工物Wの外周側面に沿って、被加工物押さえ部72が設置されている。
直径部分とは、z軸方向における被加工物Wの切断位置に対応して切断加工長が変化する円柱形状を有する被加工物Wの、最大切断加工長となる部分である。切断加工長は、被加工物Wの切断加工において、水平方向、すなわちy軸方向における、切断加工中の切断ワイヤ部1bによる切断加工長さである。
被加工物給電補助部73は、被加工物Wの下方から被加工物Wの外周側面に接触して、被加工物Wを保持し、固定する。また、被加工物給電補助部73は、加工液整流板71aから被加工物Wへの給電経路を構成する。被加工物給電補助部73は、被加工物給電補助部73の外周側面が被加工物Wの最下部の外周側面に接触した状態で、加工液整流板71aに固定されている。すなわち、被加工物給電補助部73は、被加工物Wにおける切断ワイヤ部1bによる切断加工が終了する部分である加工終端部の外周側面に接触した状態で加工液整流板71aに固定されている。
被加工物給電補助部73の形状の一例は、円柱形状である。円柱形状を有する被加工物給電補助部73は、円柱形状の軸方向が加工液整流板71aの対向面71asに垂直とされた状態で、円柱形状における一方の端面が加工液整流板71aの対向面71asに固定されている。被加工物給電補助部73の、加工液整流板71aにおける設置面である対向面71asからの高さは、被加工物Wの厚さ以下に設定される。被加工物Wの厚さは、被加工物Wにおける、円柱形状の軸方向における長さである。なお、被加工物給電補助部73の形状は、円柱形状に限定されない。
このような被加工物給電補助部73は、被加工物Wに対して下方から接触して被加工物Wを保持して導電性を有する下方被加工物保持部と換言できる。
薄板側面保持部75a,75bは、被加工物Wの下方から被加工物Wの外周側面に接触して、被加工物Wを保持し、固定する。また、薄板側面保持部75a,75bは、加工液整流板71aから被加工物Wへの給電経路を構成する。薄板側面保持部75a,75bは、加工液整流板71aの対向面71asにおいて、円柱形状の被加工物Wの直径部分よりも下方の位置であり、被加工物給電補助部73に対して左右対称な位置であり、被加工物Wの切断が完了する位置よりも上方で被加工物Wの外周側面に接触する位置に、配置されている。
薄板側面保持部75a,75bの形状の一例は、円柱形状である。円柱形状を有する薄板側面保持部75a,75bは、各々の円柱形状の軸方向が加工液整流板71aの対向面71asに垂直とされた状態で、円柱形状における一方の端面が加工液整流板71aの対向面71asに固定されている。薄板側面保持部75a,75bの、加工液整流板71aにおける設置面である対向面71asからの高さは、被加工物Wの厚さ以下に設定される。被加工物Wの厚さは、被加工物Wにおける、円柱形状の軸方向における長さである。なお、薄板側面保持部75a,75bの形状は、円柱形状に限定されない。
このような薄板側面保持部75a,75bは、被加工物Wに対して下方から接触して被加工物Wを保持して導電性を有する下方被加工物保持部と換言できる。そして、薄板側面保持部75a,75bは、後述するように被加工物Wと共に切断加工され、当該薄板側面保持部75a,75bが切断加工されることによって形成された薄板側面保持部75a,75bの複数の薄板部が、当該薄板部と同時に被加工物Wから切断加工されることによって形成されて互いに分離された複数の薄板を支持して固定する。
被加工物押さえ部72は、形成途中の複数枚の薄板を、当該複数枚の薄板における切り始め部側の外周側面側から押さえて、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。被加工物押さえ部72は、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定することにより、複数の薄板の切断面が受ける加工液流の液圧によって発生する被加工物Wの振動による、複数の薄板の揺さぶりを抑制することができる。被加工物押さえ部72は、切り始め部側の被加工物Wの一部が収納される溝部72aが形成された直方体形状を有する。なお、被加工物押さえ部72の形状は、直方体形状に限定されない。
被加工物押さえ部72は、被加工物Wの放電切断加工が開始される時点では設置されていない。被加工物押さえ部72は、被加工物Wの放電切断加工の開始後に放電切断加工が進行し、切断ワイヤ部1bによる放電切断加工が被加工物Wの切断距離の1/6以上1/5以下程度の位置まで進んだ時点で、被加工物Wおよび加工途中の複数枚の薄板の上方から、被加工物押さえ部72の接触部が被加工物Wおよび各薄板の上部に押し当てられる。被加工物押さえ部72は、一対の加工液整流板71a,71bによって挟まれた空間に、被加工物Wおよび各薄板の上方から挿入される。被加工物押さえ部72は、被加工物押さえ部保持装置78により、形成途中の複数枚の薄板の上部に自動で配置される。
切断距離は、被加工物Wにおける切り始め部から加工終端部までの距離であり、被加工物Wの直径に対応する。
被加工物押さえ部保持装置78は、制御部300の制御に従って、予め決められたタイミングで被加工物押さえ部72を形成途中の複数枚の薄板の上部に自動で配置する。また、被加工物押さえ部保持装置78は、制御部300の制御に従って、被加工物Wの切断加工が終了したタイミングで被加工物押さえ部72を切断後の複数枚の薄板の上部から退避させる。被加工物押さえ部72は、被加工物押さえ部保持装置78によって高さ方向の位置が保持される。被加工物押さえ部72は、切断加工の開始時は、被加工物Wおよび切断ワイヤ部1bから上方に離間された切断初期位置に保持されている。切断加工の開始後に、被加工物押さえ部72は、被加工物Wから薄板状に加工されつつある薄板を固定する。なお、被加工物押さえ部72を薄板に押しつける力は、モータ、エアシリンダなどの駆動装置、あるいは、おもりを使用することにより得られる。
被加工物押さえ部72の接触部は、被加工物押さえ部72が被加工物Wの上部、すなわち複数枚の薄板の上部に接触する部分である。被加工物押さえ部72の接触部は、被加工物Wの外周側面に沿う形状に、すなわち複数枚の薄板の外周側面に沿う形状に、成形されている。すなわち、被加工物押さえ部72の接触部は、被加工物Wの形状が円柱形状である場合には、円柱形状の外周側面に沿う形状である円弧状に形成されている。
また、被加工物押さえ部72の接触部には、薄板部押さえ76が取り付けられている。薄板部押さえ76は、被加工物Wを上方から押さえて形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。すなわち、薄板部押さえ76は、形成途中の複数枚の薄板を、当該複数枚の薄板における切り始め部側の外周側面側から押さえて、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。薄板部押さえ76は、被加工物押さえ部72の接触部と被加工物Wとの接触面積、すなわち被加工物押さえ部72の接触部と複数枚の薄板の外周側面との接触面積を増大させて、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。薄板部押さえ76は、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定することにより、被加工物押さえ部72の接触部と複数枚の薄板の外周側面との接触面積を増大させて、複数の薄板の切断面が受ける加工液流の液圧によって発生する被加工物Wの振動による、複数の薄板の揺さぶりを抑制する。
薄板部押さえ76は、被加工物押さえ部72が被加工物Wの外周側面、すなわち、複数枚の薄板の外周側面に押し付けられると、被加工物押さえ部72の接触部と被加工物Wの外周側面との間で変形する。変形した薄板部押さえ76の一部は、複数枚の薄板の間に形成された複数の加工溝の内部に入り込む。これにより、ワイヤ放電加工装置1000では、変形した薄板部押さえ76によって、被加工物Wから切り出される途中の複数の薄板の間の間隔が保持され、形成途中の薄板が加工液によって揺さぶられて割れる危険が低減される。
また、変形した薄板部押さえ76の他の一部は、加工溝の内部に入り込まずに、被加工物押さえ部72の接触部の凹凸と、各薄板の外周側面の凹凸と、を埋めた状態で、被加工物押さえ部72の接触部と各薄板の外周側面との間に挟まれる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000では、薄板部押さえ76を介した被加工物押さえ部72の接触部と各薄板の外周側面との接触面積が拡大され、被加工物Wから切り出される形成途中の複数の薄板の外周側面を被加工物Wの上方から保持する力が増強される。
したがって、薄板部押さえ76は、被加工物押さえ部72が被加工物Wの外周側面、すなわち、複数枚の薄板の外周側面に押し付けられた際に変形して、形成途中の複数の薄板間を薄板の厚さ方向から保持し、また形成途中の複数の薄板の外周側面を被加工物Wの上方から保持することにより、形成途中の薄板が加工液によって揺さぶられて割れることを抑制する。
被加工物Wの加工液整流板71aへの固定には、導電性を有する、導電性接着剤、導電性シート、導電性粘着テープ、あるいは、低融点金属、導電性ワックスなどが使用される。被加工物Wの加工液整流板71aへの固定に導電性を有する材料が用いられることにより、被加工物Wと加工液整流板71aとの間が導通する。これにより、後述するように、加工液整流板71aを介した加工用電源5から被加工物Wへの放電加工用電源の給電が可能となる。
また、被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bの加工液整流板71aへの固定には、導電性を有する、導電性接着剤、導電性シート、導電性粘着テープ、低融点金属、導電性ワックスの他に、金属ねじを用いたねじ締結が使用される。被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bの加工液整流板71aへの固定に導電性を有する材料が用いられることにより、被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bと、加工液整流板71aとの間が導通する。これにより、後述するように、加工液整流板71aおよび被加工物給電補助部73を介した、加工用電源5から被加工物Wへの放電加工用電源の給電が、可能となる。また、加工液整流板71a、薄板側面保持部75a,75bを介した、加工用電源5から被加工物Wへの放電加工用電源の給電が、可能となる。
図4は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000における加工用電源5から被加工物Wへの放電加工用電源の給電経路を示す図である。ワイヤ放電加工装置1000においては、放電加工用電源は、加工用電源5から加工液整流板71aを介して被加工物Wに給電される。また、放電加工用電源は、加工用電源5から加工液整流板71aと被加工物給電補助部73とを介して被加工物Wに給電される。また、放電加工用電源は、加工用電源5から加工液整流板71aと薄板側面保持部75aとを介して被加工物Wに給電される。また、放電加工用電源は、加工用電源5から加工液整流板71aと薄板側面保持部75bとを介して被加工物Wに給電される。
制御部300は、ワイヤ放電加工装置1000の全体を制御する。図5は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える制御部300の構成例を示すブロック図である。制御部300は、加工制御装置31と、放電波形制御装置32と、加工状態取得部33と、切断ステージ駆動制御装置34と、ワイヤ走行制御装置35と、被加工物押さえ部保持制御装置36とを備える。制御部300は、ワイヤ放電加工装置1000を制御する。
加工状態取得部33は、被加工物Wのz軸方向の位置を含む各種の加工状態情報psを各種センサの出力から取得し、取得された加工状態情報psを加工制御装置31に出力する。加工制御装置31は、取得した加工状態情報psに基づいて、放電波形制御装置32、切断ステージ駆動制御装置34およびワイヤ走行制御装置35を制御する。放電波形制御装置32は、加工制御装置31から入力される放電波形指令wcに基づいて加工用電源5を制御し、極間に印加される電圧波形または極間に流れる電流波形を制御する。
ワイヤ走行制御装置35は、加工制御装置31から入力されるワイヤ電極走行指令rcに基づいてボビン回転制御装置8a,8bを駆動制御し、ワイヤ電極1の走行を制御する。また、ワイヤ走行制御装置35は、加工制御装置31から入力されるワイヤ電極走行指令rcに基づいてトラバース制御装置9a,9bを駆動制御し、トラバース制御を制御する。
切断ステージ駆動制御装置34は、加工制御装置31から入力されるステージ指令scに基づいて切断送りステージ10を駆動し、被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの間の相対位置を制御する。また、切断ステージ駆動制御装置34は、被加工物押さえ部保持装置78と接続されている被加工物押さえ部保持制御装置36に対してもステージ指令scを送る。
被加工物押さえ部保持制御装置36は、切断ステージ駆動制御装置34からのステージ指令scに基づき、切断送りステージ10のz軸方向の座標値を監視し、切断送りステージ10が予め設定された第1の位置に到達すると同時に、押さえ保持制御指令qcによって被加工物押さえ部保持装置78を駆動制御し、形成途中の複数枚の薄板の上部への被加工物押さえ部72の配置を制御する。また、被加工物押さえ部保持制御装置36は、切断ステージ駆動制御装置34からのステージ指令scに基づき、切断送りステージ10のz軸方向の座標値を監視し、切断送りステージ10が予め設定された第2の位置に到達すると同時に、押さえ保持制御指令qcによって被加工物押さえ部保持装置78を駆動制御し、被加工物押さえ部72を切断後の複数枚の薄板の上部から退避させる制御を行う。
図6は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000の切断加工時の動作を示すフローチャートである。図7は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える薄板加工安定部70における薄板の切断加工時の状態を示す第1の斜視図である。図8は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000が備える薄板加工安定部70における薄板の切断加工時の状態を示す第2の斜視図である。
図7では、切り始め部側の被加工物Wの外周側面から、すなわち高さ方向において被加工物Wの上側の外周側面から1/6程度の位置まで被加工物Wが切断加工されている状態を示している。図8では、図7に示す状態から切断加工がさらに進行し、切り始め部側の被加工物Wの外周側面、すなわち、複数枚の薄板の上側の外周側面に対して被加工物押さえ部72が接触し、被加工物押さえ部72によって形成途中の複数の薄板が保持されている状態を示している。また、図8では、切断ワイヤ部1bがz軸方向において下方向に被加工物Wの中心軸Cを超え、被加工物Wの外周側面に接触して固定された薄板側面保持部75a,75bも切断ワイヤ部1bによって被加工物Wと同時に切断加工されている状態を示している。また、図7では、理解の容易のために、いくつかの部品を透過して見た状態を示している。以下、ワイヤ放電加工装置1000の切断加工時の動作を説明する。なお、以下の動作は、制御部300の制御によって行われる。
切断加工の開始時、薄板加工安定部70に被加工物Wが設置固定されている。切断加工の開始時点では、被加工物Wは、切断ワイヤ部1bから離間しており、切断ワイヤ部1bの直下に位置している。また、切断加工の開始時点では、被加工物押さえ部72は、設置されていない。この状態で、切断ワイヤ部1bが、走行を開始する。切断ワイヤ部1bは、ノズル7a,7bの複数の加工液噴出孔7cを通って、加工液整流板71aと加工液整流板71bとに挟まれた被加工物Wの直上を通過して走行する。
また、放電加工用電源が、加工用電源5から加工液整流板71aを介して被加工物Wに給電される。また、放電加工用電源が、加工液整流板71aから、被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75aと薄板側面保持部75bとの各々を介して、加工用電源5から被加工物Wに給電される。また、放電加工用電源が、給電子ユニット6a,6bを介して、加工用電源5から切断ワイヤ部1bに供給される。また、加工液が、ノズル7a,7bから、加工液整流板71aと加工液整流板71bの間の間隙に、供給される。
切断加工が開始されると、制御部300は、切断送りステージ10を上昇させて、被加工物Wと、切断ワイヤ部1bと、の間の相対位置を変化させる。具体的に、制御部300は、切断送りステージ10を上昇させることにより、被加工物Wが設置固定された薄板加工安定部70を上方向に移動させる。これにより、薄板加工安定部70に設置された被加工物Wが、切断ワイヤ部1bに対して相対的に接近して接触し、切断ワイヤ部1bにより切断される。
また、切断加工が開始されると、ステップS110において、加工液整流工程が行われる。加工液整流工程では、ノズル7a,7bから薄板加工安定部70に供給された加工液は、整流されて被加工物Wに衝突する。ノズル7a,7bから薄板加工安定部70に供給された加工液は、薄板加工安定部70の内部では、加工液整流板71aと加工液整流板71bとによってx軸方向の流れが制限されて被加工物Wに衝突する。すなわち、加工液整流板71aの対向面71asと加工液整流板71bの対向面71bsとは、加工液整流板71aと加工液整流板71bの間の間隙に供給された加工液の流れを被加工物Wの中心軸方向であるx軸方向において規制して、加工液の流れを被加工物Wへ誘導する流路を形成する。
したがって、加工液整流工程は、一対の加工液整流板71に挟まれた空間に向けてノズル7a,7bから加工液を噴出して、一対の加工液整流板71の互いの対向面71as,71bsによって加工液の流れを被加工物Wへ誘導して、複数の切断ワイヤ部1bと被加工物Wとの間の間隙に加工液を供給する工程といえる。
上記のように制御部300によってワイヤ放電加工装置1000の各部が制御されることにより、被加工物Wの放電切断加工が進められる。なお、ステップS110の加工液整流工程は、切断加工が開始されてから切断加工が終了するまで、継続して行われる。
その後、ステップS120において、ウエハ押さえ工程が行われる。ウエハ押さえ工程では、放電切断加工が進行し、切断ワイヤ部1bによる放電切断加工が被加工物Wの切断距離の1/6以上1/5以下程度の位置まで進んだ時点で、被加工物Wおよび加工途中の複数枚の薄板の上方から、被加工物押さえ部72の接触部が被加工物Wおよび各薄板の上部に押し当てられる。
これにより、被加工物押さえ部72の接触部に取り付けられている薄板部押さえ76が、被加工物Wを上方から押さえて形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。すなわち、薄板部押さえ76が、形成途中の複数枚の薄板を、当該複数枚の薄板における切り始め部側の外周側面側から押さえて、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定する。薄板部押さえ76は、形成途中の複数枚の薄板を一括して固定することにより、複数の薄板の切断面が受ける加工液流の液圧によって発生する被加工物Wの振動による、複数の薄板の揺さぶりを抑制する。
そして、上記のように形成途中の複数枚の薄板が被加工物押さえ部72によって一括して固定された状態で、被加工物Wの放電切断加工が進められる。ここで、被加工物Wから加工された複数枚の薄板は、複数の薄板の外周側面に接触する薄板側面保持部75a,75bによって保持されているので、成形途中の加工溝Wgに向けてノズル7a,7bから供給される加工液による圧力によって、揺さぶられたり、たわんだりすることがなく、隣接する薄板との間のx軸方向における間隙の変化が抑制される。この結果、隣接する薄板間に形成された加工溝Wgの内部への加工液の供給状態が変動することがなく、放電切断加工により発生した加工屑は被加工物Wと切断ワイヤ部1bとの隙間である極間から安定して排出され、切断ワイヤ部1bは安定して冷却される。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、被加工物Wのワイヤ放電切断加工を安定して継続することが可能となる。
したがって、ウエハ押さえ工程は、切断加工中に分断される被加工物Wを被加工物Wおよび複数の切断ワイヤ部1bの上方から保持する工程といえる。
その後、ステップS130において、ウエハ支持工程が行われる。さらに放電切断加工が進行して、z軸方向において切断ワイヤ部1bが薄板側面保持部75a,75bに掛かると、図8に示すように、薄板側面保持部75a,75bが、被加工物Wと同時に切断ワイヤ部1bにより上側から放電切断加工される。
ウエハ支持工程では、被加工物Wの切断加工中にわたって、被加工物Wの切断加工方向において被加工物Wにおける切断加工が終了する部分である加工終端部の上下の領域にわたって設けられて一対の加工液整流板71のうちの一方である加工液整流板71aの対向面71asに固定された導電性を有する下方被加工物保持部である被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bが被加工物Wに対して下方から接触して被加工物Wを保持する。また、この状態で、被加工物Wの切断加工の開始時から被加工物Wの切断加工の終了までにわたって、下方被加工物保持部である被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bを介して加工液整流板71aから被加工物Wに給電が行われる。
放電切断加工が進行して、z軸方向において切断ワイヤ部1bが薄板側面保持部75a,75bに掛かると、図8に示すように、薄板側面保持部75a,75bが、被加工物Wと同時に切断ワイヤ部1bにより上側から放電切断加工される。この状態においても、被加工物Wの切断加工の終了までにわたって、下方被加工物保持部である被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bを介して加工液整流板71aから被加工物Wに給電が行われる。
なお、薄板側面保持部75a,75bは、各々の最下部が被加工物Wの最下部より下側に位置するように設置されている。このため、被加工物Wの加工途中で薄板側面保持部75a,75bが切断されて複数枚の薄板に分離してしまうことに起因して、被加工物Wから加工される複数枚の薄板に対する薄板側面保持部75a,75bの保持力が失われることはない。すなわち、被加工物Wに対する放電切断加工が完了した時点では、薄板側面保持部75a,75bには、被加工物Wから形成される薄板と同等の幅を有し且つ被加工物Wから形成される薄板と同数の複数の薄板部75cが形成される。
しかしながら、薄板側面保持部75a,75bに形成される当該複数の薄板部75cは、被加工物Wから分離されない。したがって、被加工物Wから複数枚の薄板の放電切断加工が完了した状態において、薄板側面保持部75a,75bに形成された各薄板部75cと被加工物押さえ部72とによって、被加工物Wから加工された複数の薄板の保持状態が継続される。
図9は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000の切断加工時の被加工物Wの切断位置と切断加工長との関係を説明する図である。図9の左図は、加工液整流板71aの対向面71asの面内方向における、被加工物Wと、被加工物給電補助部73と、薄板側面保持部75a,75bと、の位置関係の例を示している。図9の右図は、図9の左図における被加工物Wの切断加工位置に対する切断加工長を示している。図9の右図における実線は、ワイヤ放電加工装置1000による被加工物Wの切断加工における切断加工長を示している。図9の右図における破線は、ワイヤ放電加工装置1000の構成において薄板側面保持部75a,75bが設置されない場合の被加工物Wの切断加工における切断加工長を示している。図9の右図における一点鎖線は、ワイヤ放電加工装置1000により薄板側面保持部75a,75bのみを切断加工した場合の切断加工長を示している。
円柱形状を有する被加工物Wのワイヤ放電加工装置1000による切断加工においては、切断加工中の高さ方向における切断位置に対応して、すなわち切断加工中のz軸方向における切断位置に対応して、切断加工長が変動する。
図9の右図における実線で示すように、被加工物Wの加工開始位置PSである被加工物Wの最上端部から被加工物Wの加工終了位置PEである被加工物Wの最下端部へ向けて切断加工が進行する際に、被加工物Wの加工区分においては、高さ方向における被加工物Wの切断位置に対応して切断加工長は変動し、被加工物Wの直径部分位置PDにおいて切断加工長が最大となる。切断加工がさらに継続され、高さ方向において切断ワイヤ部1bが被加工物Wの直径部分位置PDを通過した後は、切断加工の進行とともに切断加工長は減少していく。
さらに切断加工が進行し、加工位置PHにおいて、z軸方向において切断ワイヤ部1bが薄板側面保持部75a,75bに掛かると、薄板側面保持部75a,75bが、被加工物Wと同時に切断ワイヤ部1bにより上側から切断加工される。この時点から、切断加工長は、被加工物Wの切断加工長と、薄板側面保持部75a,75bの切断加工長との合計の切断加工長となり、切断加工の進行とともに一時的に増加した後に、減少していく。すなわち、ワイヤ放電加工装置1000では、薄板側面保持部75a,75bが被加工物Wと共に切断加工されることにより、加工終端部の近辺での切断加工長の急激な減少が緩和されている。
図9の右図における破線で示すように、ワイヤ放電加工装置1000の構成において薄板側面保持部75a,75bが配置されない場合には、切断加工長は、加工位置PHを過ぎると切断位置の変化に対して減少し、加工終端部の近辺で急激に減少する。切断加工長の急激な減少は、ワイヤ放電加工状態が急変する原因の一つとなる。ワイヤ放電加工状態が急変する場合には、ワイヤ断線の危険度が、増大する。また、ワイヤ放電加工状態が急変すると、切断加工長の変化に対して適切な薄板の加工条件が選択されない場合には、加工された薄板の切断面の面内での板厚にばらつきが発生し、薄板の品質に悪影響が出る。
一方、ワイヤ放電加工装置1000では、複数の薄板の保持のために配置された薄板側面保持部75a,75bが被加工物Wと共に切断加工されることにより、加工終端部の近辺での切断加工長の急激な減少が緩和され、前述の放電加工状態の急変による薄板の切断加工品質への悪影響の発生を抑制できる。また、ワイヤ放電加工装置1000では、薄板側面保持部75a,75bが設けられていることにより、ノズル7a,7bから供給される加工液流が薄板に直撃する状況が緩和されるため、加工液流による薄板の揺さぶりが抑制され、薄板の加工終端部で発生しやすい、薄板の割れまたは薄板の欠けの発生が防止される。
つぎに、被加工物Wに対する薄板側面保持部75a,75bの配置位置と、薄板側面保持部75a,75bの大きさと、について説明する。薄板側面保持部75a,75bは、被加工物Wの外周側面に薄板側面保持部75a,75bの外周側面が接触する状態で、加工液整流板71aに固定される。また、被加工物Wの外周側面に対する薄板側面保持部75a,75bの外周側面の接触位置は、高さ方向において、すなわち、被加工物Wの切断加工方向において、被加工物Wの切断加工方向の未切断長さが被加工物Wの全体の切断長さの1/2以下となる区間であり、且つ、被加工物給電補助部73の外周側面が被加工物Wの外周側面に接触する位置より上方の位置となる区間、すなわち、被加工物Wの切断加工が完了する位置よりも上方の位置となる区間に位置する。
切断加工方向の未切断長さは、下方向、すなわちz軸下方向である切断加工方向において被加工物Wが未だ切断されていない領域の長さである。被加工物Wの全体の切断長さは、円柱形状を有する被加工物Wの直径の長さである。
また、薄板側面保持部75a,75bの幅は、薄板側面保持部75a,75bの外周側面が被加工物Wの外周側面に接触した状態で、加工液整流板71a,71bから、はみ出さない長さとされる。薄板側面保持部75a,75bの幅は、y軸方向における薄板側面保持部75a,75bの最大の長さ、すなわち被加工物Wに対する切断ワイヤ部1bの走行方向における薄板側面保持部75a,75bの最大の長さである。また、被加工物Wが完全に切断され、切断ワイヤ部1bが被加工物Wを通過した状態で、薄板側面保持部75a,75bには未加工部が存在する。
上述したように、薄板側面保持部75a,75bは、被加工物Wへの給電機能を実現するために導電性素材によって構成される。一方、導電性素材であっても、例えば、被加工物Wの素材との間で、電気抵抗値または熱伝導率などの物性値に著しい違いがある場合には、アーク放電発生のしやすさの違いによる加工速度の違い、またはワイヤ電極1の消耗特性の違いによるワイヤ電極1の損傷度の違いなどの、放電加工特性の違いが発生する。この結果、被加工物Wと薄板側面保持部75a,75bとが同時に切断加工される領域において、前述の放電加工特性の違いが切断加工に及ぼす影響が顕著となり、放電加工が不安定になることが想定される。
このため、薄板側面保持部75a,75bの素材は、放電加工特性が被加工物Wと同じとなる、被加工物Wと同じ導電性素材であることが好ましい。例えば、SiCからなる被加工物Wを切断加工する場合には、SiC粉末の焼結体を加工して作製された薄板側面保持部75a,75bを用いることができる。
円柱形状の被加工物Wに対する切断加工が、被加工物Wの加工終端部の近辺に達し、被加工物Wから複数枚の薄板が切断分離される状態が間近になると、ノズル7a,7bから供給される加工液の流量が、切断ワイヤ部1bのワイヤ電極1が断線しない程度の流量に調整される。これにより、形成途中の複数の薄板を揺さぶる外力、すなわち複数の薄板の切断面が受ける加工液流の液圧が低減される。この状態で、切断ワイヤ部1bが、切断加工を継続しながら被加工物Wを通過し、被加工物給電補助部73に達し、被加工物Wと類似の素材で作られた被加工物給電補助部73を切断加工し始める。その後、切断加工方向への切断ワイヤ部1bの進行具合に基づいて、薄板の切断が完全に完了したことを制御部300が判断すると、切断加工が停止される。
被加工物Wが複数枚の薄板に分離される際に、被加工物Wからの薄板の分離状況によっては、加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電経路が絶たれる可能性がある。被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bは、切断加工が開始されてから切断加工が完了するまで、被加工物Wおよび形成途中の複数の薄板への放電加工用電源の給電経路を構成する。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、被加工物Wのワイヤ切断加工を安定して継続することが可能となる。
また、切断加工の完了直前で切断ワイヤ部1bへの放電加工用電源の給電経路が遮断されると、切断加工が中断され、未だ切断加工が行われていない残加工部分によって分離されない薄板、または残加工部との境界で割れる薄板が発生する。また、切断加工方向での放電加工間隙である極間では、切断ワイヤ部1bの先端よりわずかに加工が先行する。このため、薄板は、切断ワイヤ部1bが被加工物Wを完全に通過する前に、切断され、分離される。この結果、分離した薄板の加工終端部には、未加工部分が微小な取り残し突起となって残り、薄板の切断加工品質と歩留まりを低下させる。
一方、被加工物給電補助部73は、被加工物Wの最下端部に接触する位置に、被加工物Wに接触した状態で固定されることにより、分離される直前の複数枚の薄板を揺さぶる外力に対し、被加工物押さえ部72および薄板側面保持部75a,75bとともに複数の薄板を保持し、薄板の割れ、欠けの発生を防止することができる。
また、被加工物給電補助部73および薄板側面保持部75a,75bは、切断加工が開始されてから切断加工が完了するまで、被加工物Wおよび形成途中の複数の薄板への放電加工用電源の給電経路を構成する。これにより、ワイヤ放電加工装置1000は、被加工物Wのワイヤ切断加工を安定して継続することが可能となる。このため、ワイヤ放電加工装置1000では、被加工物Wからの薄板の分離状況によって加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電経路が遮断されることがなく、加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電経路の遮断に起因して切断ワイヤ部1bが被加工物Wを完全に通過しなかったことによる取り残し突起の発生を防止できる。
上述したように、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000によれば、走行する複数の切断ワイヤ部と被加工物との間に放電を発生させて該放電によるエネルギーにより被加工物を放電加工し、被加工物から複数のウエハを同時に切断するワイヤ放電加工装置であって、互いに並列に離間して被加工物に対向する複数の切断ワイヤ部を有するワイヤ電極と、複数の切断ワイヤ部と被加工物との間に放電を発生させる給電部と、電源に接続され、被加工物を挟むように被加工物の両側に接触して設けられて導電性を有する一対の加工液整流板と、複数の切断ワイヤ部が挿通され、一対の加工液整流板に挟まれた空間に向けて加工液を噴出して複数の切断ワイヤ部と被加工物との間の間隙に加工液を供給する複数の加工液噴出孔を有する一対のノズルと、一対の加工液整流板を複数の切断ワイヤ部に対し上下に相対移動させる切断送りステージと、切断加工中に分断される被加工物を被加工物および複数の切断ワイヤ部の上方から保持する被加工物押さえ部と、被加工物に対して下方から接触して被加工物を保持して導電性を有する下方被加工物保持部と、を備えるワイヤ放電加工装置が、実現されている。
上述したように、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000においては、切断加工により被加工物Wから切断加工されている分離途中の複数枚の薄板を、被加工物給電補助部73と薄板側面保持部75a,75bと被加工物押さえ部72とによって被加工物Wの外周面側から保持する構造とされている。これにより、ワイヤ放電加工装置1000では、ノズル7a,7bから供給される加工液流による薄板の揺れを抑制または防止することができ、切断加工が完了する直前に薄板の加工終端部で発生しやすい、薄板の割れ、薄板の欠け、および、加工終了時の被加工物Wの加工終端部の取り残しに起因した薄板の加工終端部の取り残し突起の発生を防止することができる。
また、ワイヤ放電加工装置1000では、上記の構造を有することにより、切断加工の終了の間近において、加工液流の薄板への衝突による薄板への外力を軽減するために加工液の流量を大幅に抑制する必要がなく、極間からの加工屑の排出および極間の近辺における切断ワイヤ部1bの冷却状態が悪化することがない。これにより、ワイヤ放電加工装置1000では、加工屑排出不良または切断ワイヤ部1bの冷却不足に起因した加工速度の低下を防ぎ、また加工液の流量の大幅な抑制によるワイヤ放電加工状態の急変に起因したワイヤ電極1の危険を防止することができる。
したがって、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000によれば、薄板を切断する際の薄板の損傷を防止することが可能である、という効果を奏する。
実施の形態2.
図10は、実施の形態2にかかるワイヤ放電加工装置1000aが備える被加工物給電補助部73の構成例を示す模式図である。図10では、ワイヤ放電加工装置1000aにおける被加工物Wに対する薄板の切断加工において、切断ワイヤ部1bが被加工物Wを通過して被加工物Wからの薄板の切断加工が完了し、被加工物Wが複数枚の薄板に分離されている状態を示している。また、図10では、被加工物Wと被加工物給電補助部73との間に導電性接続部77が設けられている。
実施の形態2にかかるワイヤ放電加工装置1000aは、薄板加工安定部70の代わりに、薄板加工安定部70aを備える点が、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000と異なる。薄板加工安定部70aは、導電性接続部77を備える点が、実施の形態1にかかる薄板加工安定部70と異なる。実施の形態2にかかるワイヤ放電加工装置1000aのその他の構成は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000と同様であり、重複する説明は省略する。
図10に示す状態では、薄板側面保持部75a,75bにも切断ワイヤ部1bによる複数本の加工溝75gが形成されている。ただし、薄板側面保持部75a,75bは、複数枚の薄板に分離されていない。また、被加工物Wから加工された複数の薄板は、薄板側面保持部75a,75bに形成された薄板部75cの外周側面と、被加工物押さえ部72とによって保持されている。図10においては、被加工物押さえ部72の図示を省略している。
図10に示すように、ワイヤ放電加工装置1000aにおいては、被加工物Wと被加工物給電補助部73との間には、導電性接続部77が介在している。被加工物Wを切断完了した後も切断加工が継続されることにより、導電性接続部77は、被加工物Wを通過した切断ワイヤ部1bにより切断加工されて、加工溝77gが形成されている。切断ワイヤ部1bによる複数枚の薄板の同時切断加工は、切断ワイヤ部1bを構成する全てのワイヤ電極1による加工溝77gが導電性接続部77に形成された時点で薄板切断完了と制御部300で判断され、加工が終了する。
被加工物WがSiCにより構成され、導電性接続部77が多孔質金属により構成される場合には、極間に発生する放電パルスまたは短絡パルスの発生状況、極間に発生する放電パルスの発振周波数または加工速度が、SiCと多孔質金属とでは明らかに異なる。このため、薄板の切断完了の判断は、例えば切断加工の状態が急変する放電パルス発生状況を検知することにより可能である。
導電性接続部77は、柔軟性を有し、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間に挟まれて配置され、被加工物給電補助部73と被加工物Wとを電気的に接続する。導電性接続部77は、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の間隙を埋めることにより、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面との接触面積を増大させて、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の導電性を向上させる。
導電性接続部77には、柔軟性があり変形しやすい特性を有する、低融点金属または多孔質金属などの導電性材料が用いられる。導電性接続部77が有する変形しやすい特性により、被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面との2つの外周側面に押し付けられた導電性接続部77は、変形する。そして、変形した導電性接続部77によって、被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面との間の間隙が埋められる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000aでは、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面との接触面積を増大させることができる。そして、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面との接触面積が増大することにより、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の導電性が向上する。
導電性接続部77として使用されるものとしては、ヤング率が80Gpa以下であり、比抵抗値が10Ωcm以下程度である導電性素材からなり、加圧されることによって被加工物Wと被加工物給電補助部73との間の微小間隙を埋めることができる程度に変形できるものであればよい。微小間隙の寸法の一例は、100μm以上、300μm以下程度である。一例として、ニッケルあるいはコバルトなどの金属が網目状に成形された多孔質シートは、多孔質部分が有する柔軟性により、曲げによる変形または圧縮方向への変形が可能である。
また、銀あるいはカーボンといった導電性を有する物質の粉末を含有して形成されたゴムあるいはシリコンゴムであって比抵抗値が10Ωcm以下であるものは、同様に、曲げによる変形または圧縮方向への変形が可能である。
また、アルミニウム箔あるいは銅箔といった導電性を有する金属箔を成型した粘着テープは、当該粘着テープ自体では十分な変形量は得にくい。しかしながら、アルミニウム箔あるいは銅箔を複数枚重ねて、例えば、1mm程度の厚さまで積層させた積層体とすることにより、当該積層体を導電性接続部77として使用することができる。
また、カーボン粉末が練り込まれた導電性ワックスも、導電性接続部77として使用することができる。カーボン粉末が練り込まれた導電性ワックスは、成形性が良いため、被加工物Wと被加工物給電補助部73との接触面に介在させて擦り合わせることにより、被加工物Wと被加工物給電補助部73との間の微小間隙を埋めることができる。当該導電性ワックスは、40℃以上60℃以下程度の温度で溶融する。このため、当該導電性ワックスは、溶融した状態で被加工物Wと被加工物給電補助部73との間の微小間隙に流し込んで使用されてもよい。
被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面とは、完全に接触していることが好ましい。しかしながら、現実的には、被加工物Wの外周側面に対して被加工物給電補助部73の外周側面を完全に接触させた状態で、被加工物Wと被加工物給電補助部73とを加工液整流板71に設置することは困難である。すなわち、被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面とが完全に接触するには、被加工物Wと被加工物給電補助部73との互いに接触する外周側面の平行度が完全に一致し、被加工物Wと被加工物給電補助部73との接触面で被加工物Wと被加工物給電補助部73とが密着した状態で、被加工物Wと被加工物給電補助部73とが、加工液整流板71aに設置される必要がある。
ここで、被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面とが完全に接触するとは、被加工物Wの外周側面と被加工物給電補助部73の外周側面との接触面が、y軸方向において、すなわち被加工物Wの軸方向において途切れることなく連続して接触することである。
図11は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000における薄板の切断加工完了直前の状態の一例を示す概念図である。図12は、図11における特定領域Aを拡大して示す拡大図である。図11では、薄板の切断加工完了直前における、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとが接触する位置における断面の模式図を示している。被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとが接触する位置における断面は、被加工物Wの中心軸Cを通るxz平面における断面である。図11における矢印83は、加工液整流板71aからの放電加工用電源の給電経路を示している。
被加工物Wの外周側面Wsおよび被加工物給電補助部73の外周側面73sが、高精度に研磨加工されて平坦化されていても、変形しない剛体同士の外周側面を突き合わせる構造では、突き合わせ部である接触部には、微視的には微小間隙が生じていることが想定される。このため、変形しない剛体同士を互いの外周側面の全域で接触させることは困難と考えられる。微小間隙の寸法の一例は、10μm以上50μm以下程度である。また、被加工物Wおよび被加工物給電補助部73が設置固定される加工液整流板71aの設置面である対向面71asに対する被加工物Wおよび被加工物給電補助部73の真直度の精度により、使用するワイヤ電極1の線径よりも大きい100μm以上300μm以下程度の微小間隙が生じることもある。
被加工物給電補助部73は、一部でも被加工物Wに接触していれば、加工用電源5から給電された放電加工用電源を被加工物Wに通電することができる。しかしながら、被加工物Wから形成される複数枚の薄板の切断加工が完了する直前で、被加工物Wから分離された薄板部に対して、加工液整流板71aおよび被加工物給電補助部73を介した加工用電源5からの放電加工用電源の給電経路が遮断される状況が想定される。
このように放電加工用電源の給電経路が遮断される状況が想定される場合の例は、被加工物Wから形成される複数枚の薄板の切断加工が完了する直前で、切断ワイヤ部1bのうち一部のワイヤ電極1による加工がわずかに先行した場合、または被加工物Wにおける未だ切断加工が行われていない残加工部分が微小となったことに起因して残加工部分の機械強度が低下して形成途中の薄板に割れが生じた場合である。
図11および図12に示す状態では、被加工物Wから形成される複数枚の薄板の切断加工が完了する直前で、切断ワイヤ部1bのうち一部のワイヤ電極1による加工がわずかに先行し、加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電経路が遮断されている。一方、被加工物給電補助部73の外周側面73sと被加工物Wの外周側面Wsとは、一部で接触しているため、被加工物給電補助部73を介した加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電は、継続して行われている。
複数枚の薄板の切断完了直前で放電加工用電源の給電経路が遮断されると、放電加工が中断され、残加工部分により分離されない薄板、または残加工部との境界で割れる薄板が発生する。また、加工方向での放電加工間隙である極間では、切断ワイヤ部1bの先端よりわずかに加工が先行する。このため、薄板は、切断ワイヤ部1bが被加工物Wを完全に通過する前に、切断され、分離される。この結果、分離した薄板の加工終端部には、未加工部分が微小な取り残し突起となって残り、薄板の切断加工品質と歩留まりを低下させる。
図13は、実施の形態2にかかるワイヤ放電加工装置1000aにおける薄板の切断加工完了直前の状態の一例を示す概念図である。図14は、図13における特定領域Bを拡大して示す拡大図である。図13では、薄板の切断加工完了直前における、被加工物Wの外周側面Wsおよび被加工物給電補助部73の外周側面73sと、導電性接続部77とが接触する位置における断面の模式図を示している。被加工物Wの外周側面Wsおよび被加工物給電補助部73の外周側面73sと、導電性接続部77とが接触する位置における断面は、被加工物Wの中心軸Cを通るxz平面における断面である。図13における矢印83は、加工液整流板71aからの放電加工用電源の給電経路を示している。
図13では、被加工物Wと被加工物給電補助部73との間に設けられた導電性接続部77が、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの間で挟まれ、被加工物給電補助部73と共に被加工物Wの外周側面Wsに押し付けられている。
導電性接続部77は、被加工物Wの外周側面Wsに押し付けられることにより変形し、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面の間の間隙を埋める。これにより、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面との接触面積が、拡大される。これにより、ワイヤ放電加工装置1000aでは、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとを完全に接触させることができ、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の導電性が向上する。
図13および図14に示す状態では、被加工物給電補助部73の外周側面73sと被加工物Wの外周側面Wsとは、導電性接続部77を介して電気的に接続されているため、被加工物Wから形成される複数枚の薄板の切断加工が完了した後においても、被加工物給電補助部73および導電性接続部77を介した加工液整流板71aから被加工物Wへの放電加工用電源の給電が、継続して行われている。
上述したように、導電性接続部77には、柔軟性があり変形しやすい特性を有する、低融点金属または多孔質金属などの材料を使用するとよい。導電性接続部77の変形しやすい特性により、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの2つの外周側面に押し付けられた導電性接続部77は、変形する。そして、変形した導電性接続部77によって、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの間の間隙が埋められ、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面との接触面積が、拡大される。
被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの互いの接触部分が平行でない場合でも、導電性接続部77は、変形することで被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面の間の間隙においてなじみ、当該間隙が塞がれる。また、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの互いの接触部分に微小な凹凸があっても、変形した導電性接続部77が、微細な凹凸に起因した被加工物給電補助部73と被加工物Wとの対向する互いの外周側面の間の間隙においてなじみ、当該間隙が塞がれる。
これにより、ワイヤ放電加工装置1000aでは、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとを完全に接触させることができ、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の導電性が向上する。そして、被加工物給電補助部73および導電性接続部77は、切断加工が開始されてから切断加工が完了するまで、加工液整流板71aから被加工物Wおよび形成途中の複数の薄板への放電加工用電源の給電経路を構成することができる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000aは、被加工物Wのワイヤ切断加工を安定して継続することが可能となる。
そして、上記の構成を有するワイヤ放電加工装置1000aでは、切断ワイヤ部1bにより複数個所で行われる切断加工において、切断ワイヤ部1bにおける一部のワイヤ電極1により、被加工物Wが切断ワイヤ部1bにおける他のワイヤ電極1よりわずかに速く切断された場合でも、被加工物Wおよび形成途中の複数の薄板への放電加工用電源の供給経路が加工液整流板71aからのみである場合に発生していた、加工用電源5からの形成途中の複数の薄板への給電経路の分断の発生を防止することができる。
したがって、ワイヤ放電加工装置1000aでは、切断ワイヤ部1bを構成するワイヤ電極1は、途中で切断加工が中断することなく、切断加工を継続しながら被加工物Wを完全に通過して、導電性接続部77に到達する。この結果、ワイヤ放電加工装置1000aで切断加工された複数の薄板は、加工終端部において、切断加工の中断による残加工部である取り残し突起が発生せず、切断加工品質と歩留まりとが向上する。
実施の形態1において説明したように、被加工物Wと被加工物給電補助部73との加工液整流板71aへの固定には、導電性ワックスを用いることができる。被加工物Wと被加工物給電補助部73との加工液整流板71aへの固定に導電性ワックスを用いる場合、被加工物Wを加工液整流板71aに固定する導電性ワックスの融点は、被加工物給電補助部73を加工液整流板71aに固定する導電性ワックスの融点よりも高いことが好ましい。例えば、融点が60℃程度の導電性ワックスを使用して加工液整流板71aに被加工物Wを固定した後、被加工物給電補助部73の外周面を被加工物Wの外周面に接触させた状態で、融点が40℃程度の導電性ワックスを使用して被加工物給電補助部73を加工液整流板71aに固定する。上記の条件の導電性ワックスを用いる場合には、先に被加工物Wを加工液整流板71aに固定した後に、被加工物給電補助部73の外周側面73sを被加工物Wの外周側面Wsに対して確実に接触させながら、被加工物給電補助部73を加工液整流板71aに固定することができる。
なお、導電性接続部77は、被加工物Wの外周側面Wsと薄板側面保持部75a,75bの外周側面との間において使用されてもよい。
また、ワイヤ放電加工装置1000aでは、導電性接続部77による被加工物給電補助部73と被加工物Wとの接触面積の増大と、被加工物給電補助部73による被加工物Wの保持力増大と、加工量、すなわち切断加工長が急減する加工終端部の近辺における加工液の流量抑制とによって、加工終端部の近辺において薄板を損傷させることなく薄板を放電切断加工することが可能となる。これにより、ワイヤ放電加工装置1000aでは、薄板側面保持部75a,75bを省略することもできる。
上述したように、実施の形態2にかかるワイヤ放電加工装置1000aは、上述した実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000と同様の効果を有する。
また、ワイヤ放電加工装置1000aは、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの間に導電性接続部77を備える。これにより、ワイヤ放電加工装置1000aでは、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとの接触面積を増大させて、被加工物Wの外周側面Wsと被加工物給電補助部73の外周側面73sとを完全に接触させることができ、被加工物給電補助部73と被加工物Wとの間の導電性を向上させることができる。このため、ワイヤ放電加工装置1000aでは、被加工物Wからの複数枚の薄板の切断完了直前における放電加工用電源の給電経路の遮断に起因した微小な取り残し突起の発生を防止して、薄板の切断加工品質と歩留まりとを向上させることができる。
実施の形態3.
図15は、実施の形態3にかかるワイヤ放電加工装置1000bが備える薄板加工安定部70bの薄板側面保持部75a,75bの構成例を示す模式図である。図15では、ワイヤ放電加工装置1000bが備える薄板加工安定部70bにおける、加工液整流板71aと、被加工物押さえ部72と、被加工物給電補助部73と、薄板側面保持部75a,75bと、薄板部押さえ76と、を示している。図16は、図15における特定領域Dを拡大して示す拡大図である。図17は、図15における特定領域Dを拡大して示す他の拡大図である。図16では、薄板加工安定部70bが備える薄板側面保持部75a,75bの第1の形状例を示している。図17では、薄板加工安定部70bが備える薄板側面保持部75a,75bの第2の形状例を示している。
実施の形態3にかかるワイヤ放電加工装置1000bは、薄板加工安定部70の代わりに、薄板加工安定部70bを備える点が、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000と異なる。薄板加工安定部70bは、薄板側面保持部75a,75bの形状が、実施の形態1にかかる薄板側面保持部75a,75bと異なる。実施の形態3にかかるワイヤ放電加工装置1000bのその他の構成は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置1000と同様であり、重複する説明は省略する。
被加工物Wの加工経路中に設置された薄板側面保持部75a,75bは、被加工物Wから形成される複数枚の薄板の加工液流から受ける力による揺れの防止と、各薄板への放電加工用電源の給電機能も兼ねている。したがって、被加工物Wと薄板側面保持部75a,75bとの接触状態は、線接触よりも面接触のほうが、薄板の保持力強化と薄板への安定給電の観点から有利である。すなわち、被加工物Wと薄板側面保持部75a,75bとの接触状態を面接触とすることで、被加工物Wと薄板側面保持部75a,75bとの接触面積が拡大され、薄板側面保持部75a,75bによる切断加工中の薄板の保持状態がさらに安定する。薄板側面保持部75a,75bによる切断加工中の薄板の保持状態がさらに安定することで、放電加工速度を早めて切断加工することが可能となり、また、切断加工品質が向上する。
このため、薄板側面保持部75a,75bの外周側面75dにおける被加工物Wの外周側面Wsとの接触面75eは、被加工物Wの外周側面Wsの形状に沿った形状とすることが好ましい。被加工物Wの外周側面Wsの周方向において、薄板側面保持部75a,75bの外周側面75dが被加工物Wの外周側面Wsと接触する接触面75eの長さは、3mm程度あれば、薄板の保持力と各薄板への安定給電との信頼性が向上する。
図16に示す第1の形状例の薄板側面保持部75bは、x軸方向に垂直な面方向の形状が円形状とされた円柱形状を有し、被加工物Wの外周側面Wsと接触する接触面75eのx軸方向に垂直な面方向の形状が、被加工物Wの外周側面Wsの形状に沿う形状である円弧状に形成されている。このように構成された第1の形状例の薄板側面保持部75bは、被加工物Wとの接触状態が、接触面75eにおける面接触とされている。したがって、第1の形状例の薄板側面保持部75bは、被加工物Wとの接触状態が線接触とされている薄板側面保持部75bと比べて、薄板の保持力と薄板への安定給電との観点で優れている。なお、ここでは、薄板側面保持部75bについて説明しているが、薄板側面保持部75aおよび被加工物給電補助部73についても同様である。
図17に示す第2の形状例の薄板側面保持部75bは、x軸方向に垂直な面方向の形状が正方形状とされた角柱形状を有し、被加工物Wの外周側面Wsと接触する接触面75eのx軸方向に垂直な面方向の形状が、被加工物Wの外周側面Wsの形状に沿う形状である円弧状に形成されている。このように構成された第2の形状例の薄板側面保持部75bは、被加工物Wとの接触状態が、接触面75eにおける面接触とされている。したがって、第2の形状例の薄板側面保持部75bは、被加工物Wとの接触状態が線接触とされている薄板側面保持部75bと比べて、薄板の保持力と薄板への安定給電との観点で優れている。なお、ここでは、薄板側面保持部75bについて説明しているが、薄板側面保持部75aについても同様である。
薄板側面保持部75a,75bに使用される素材は、被加工物Wと放電加工特性が類似しているものが好ましい。例えば、SiCからなる被加工物Wを切断加工する場合には、薄板側面保持部75a,75bは、炭化シリコンあるいは炭化シリコン粉末の焼結部材によって構成されることが好ましい。SiC粉末を焼結成形したバルクを加工して薄板側面保持部75a,75bを製作することで、薄板側面保持部75a,75bの素材コストを低減できる。
炭化シリコンあるいは窒化ガリウムなどの素材からなる被加工物Wから薄板を切断加工する場合に、薄板側面保持部75a,75bに、銅、黄銅、鉄、アルミニウムなどの標準的な金属を使用した場合と、薄板側面保持部75a,75bに焼結成形された炭化シリコンを使用した場合について、検討した。この結果、薄板側面保持部75a,75bに焼結成形された炭化シリコンを使用した場合は、ワイヤ電極1の放電加工による消耗量と、放電加工によって発生した加工屑がワイヤ電極1の表面へ再付着することによる放電加工特性の変化とから、ワイヤ電極1への放電加工のダメージが極めて少ないことが、本発明者らの加工実験において確認されている。
ただし、炭化シリコンおよび窒化ガリウムは、材料の中でも相対的に高い硬度を有し、衝撃により欠けやすく、切削加工においては加工が難しい難加工材である。このため、炭化シリコンからなる薄板側面保持部75a,75bは、NCプログラムによる加工軌跡に基づいて容易に高精度な形状加工が可能であり、非接触な熱加工であり、且つ材料の硬度または脆性に影響されない加工方法である、ワイヤ放電加工を使用して、バルク部材から切り出すことで形成される。また、炭化シリコンあるいは窒化ガリウムからなる薄板側面保持部75a,75bは、炭化シリコン、窒化ガリウム、Si(シリコン)、あるいは、酸化ガリウム(Ga2О3)などの半導体素材からなる被加工物Wに対する、切断ワイヤ部1bの放電加工による複数枚の薄板の切断加工に用いられる。
上述したように、実施の形態3にかかるワイヤ放電加工装置1000bでは、薄板側面保持部75a,75bの外周側面75dにおける被加工物Wの外周側面Wsとの接触面75eが、被加工物Wの外周側面Wsの形状に沿った形状とされている。すなわち、接触面75eが、被加工物Wの外周側面Wsの凸形状に対して凹形状となる、被加工物Wの外周側面Wsの形状に沿った形状とされている。これにより、ワイヤ放電加工装置1000bでは、被加工物Wと薄板側面保持部75a,75bとの接触面積が拡大され、薄板側面保持部75a,75bによる切断加工中の薄板の保持状態がさらに安定し、放電加工速度と切断加工品質が向上する。
続いて、実施の形態1から実施の形態3にかかる制御部300のハードウェア構成について説明する。ワイヤ放電加工装置1000,1000a,1000bが有する制御部300の機能は、処理回路により実現される。処理回路は、ワイヤ放電加工装置1000,1000a,1000bの制御部300に搭載される専用のハードウェアである。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
図18は、ワイヤ放電加工装置1000,1000a,1000bが有する制御部300の機能が専用のハードウェアによって実現される場合のハードウェア構成を示す図である。専用のハードウェアである処理回路51は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらの組み合わせである。
図19は、図18に示すワイヤ放電加工装置1000,1000a,1000bが有する制御部300の機能が、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサによって実現される場合のハードウェア構成を示す図である。プロセッサ53およびメモリ54は、相互に通信可能に接続されている。プロセッサ53は、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital Signal Processor)である。制御部300の機能は、プロセッサ53と、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ54に格納される。メモリ54は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリ等の内蔵メモリである。
制御部300の機能の一部が専用のハードウェアにより実現され、制御部300の機能のその他の部分がソフトウェアあるいはファームウェアにより実現されても良い。このように、制御部300の機能は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって実現することができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。