JP7275465B2 - 焼結部材 - Google Patents
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Description
Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である。
鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記準備する工程における前記鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記原料粉末の全体を100質量%とするとき、前記原料粉末に占める前記Ni粉末の含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結する工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
本開示に係る焼結部材は、高硬度と高靭性とを兼ね備える。
本発明者は、更なる高硬度かつ高靭性な焼結部材の製造方法を鋭意検討した。その結果、以下の(a)及び(b)の両方を満たすことで、高硬度かつ高靭性な焼結部材が得られるとの知見を得た。
Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である。
Crの含有量が、2質量%以上4質量%以下であり、
Moの含有量が、0.2質量%以上0.9質量%以下であり、
Cの含有量が、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが挙げられる。
前記焼結部材の任意の断面における前記残留オーステナイト相の面積割合が5%以上であることが挙げられる。
回転曲げ疲労試験において107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が420MPa以上であることが挙げられる。
鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記準備する工程における前記鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記原料粉末の全体を100質量%とするとき、前記原料粉末に占める前記Ni粉末の含有量が2質量%超6質量%以下であり、
前記焼結する工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。
〔焼結部材〕
図1、図2、図3A、図3B、図4A、図4Bを参照して、実施形態に係る焼結部材1を説明する。焼結部材1は、Fe(鉄)を主成分とする。焼結部材1は、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、及びC(炭素)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。焼結部材1の特徴の一つは、以下の要件(a)から要件(c)の点にある。
(Ni)
Niは、焼結部材1の靭性を高める。Niは、焼結部材1の製造過程で焼入れ性を向上できるため、焼結部材1の硬度を高めることにも寄与する。以下、焼結部材1の製造過程を単に製造過程ということがある。Niの含有量は、2質量%超6質量%以下である。Niの含有量が2質量%超であることで、焼結部材1は靭性に優れる。その理由は、Niの含有量が多いからである。Niの含有量が多いことで、Niの一部はFeと合金化していて、Niの残部は合金化せず純Niとして存在する。この純Niとして存在する部分が靭性の向上に寄与する。Niの含有量が6質量%以下であることで、焼結部材1は硬度に優れる。その理由は、Niが過度に多すぎるため、硬度の低下を抑制できるからである。そのため、Niの含有量が上記範囲を満たすことで、焼結部材1は高硬度と高靭性とを兼ね備えることができる。Niの含有量は、更に2.5質量%以上5.5質量%以下が好ましく、特に3質量%以上5質量%以下が好ましい。Niの含有量とは、焼結部材1に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、焼結部材1に占めるNiの含有量を言う。この点は、後述するCr、Mo、Cでも同様である。
Crは、焼結部材1の硬度を高める。Crは、製造過程で焼入れ性を高められるからである。Crの含有量は、例えば、2質量%以上4質量%以下が好ましい。Crの含有量が2質量%以上であれば、焼結部材1は硬度に優れる。Crの含有量が4質量%以下であれば、焼結部材1の靭性の低下を抑制できる。Crの含有量は、更に2.2質量%以上3.8質量%以下が好ましく、特に2.5質量%以上3.5質量%以下が好ましい。
Moは、焼結部材1の硬度を高める。Moは、製造過程で焼入れ性を高められるからである。Moの含有量は、例えば、0.2質量%以上0.9質量%以下が好ましい。Moの含有量が0.2質量%以上であれば、焼結部材1は硬度に優れる。Moの含有量が0.9質量%以下であれば、焼結部材1の靭性の低下を抑制できる。Moの含有量は、更に0.3質量%以上0.8質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.7質量%以下が好ましい。
Cは、焼結部材1の硬度を向上させる。Cは、製造過程でFe-Cの液相を出現させ易い。このFe-Cの液相は、空孔の角を丸くし易い。そのため、焼結部材1は、硬度の低下の原因となる空孔の鋭角部が少ない。よって、焼結部材1の硬度が大きくなり易い。Cの含有量は、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下が好ましい。Cの含有量が0.2質量%以上であれば、焼結部材1は高硬度である。製造過程で、Fe-Cの液相が十分に出現して、空孔の角部を効果的に丸くし易いからである。Cの含有量が1.0質量%以下であれば、焼結部材1は寸法精度に優れる。製造過程で、Fe-Cの液相が過度に生成されることを抑制し易いからである。Cの含有量は、更に0.3質量%以上0.95質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.9質量%以下が好ましい。
焼結部材1の組織は、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織を有する(図3A、図3B、図4A、図4B)。図3A、図3B、図4A、図4Bは、詳しくは後述するように、焼結部材1の断面の顕微鏡写真である。各図の矢印の先の白色の部分が残留オーステナイト相であり、その残留オーステナイト相の周囲の部分がマルテンサイト相である。焼結部材1は、マルテンサイト相を有することで、高硬度である。焼結部材1は、残留オーステナイト相を有することで、高靭性である。
(硬度)
焼結部材1は、高硬度である。焼結部材1は、ビッカース硬さが大きく、ビッカース硬さの変動幅が小さいからである(図2のグラフに示す丸印)。図2のグラフの詳細は後述する。焼結部材1のビッカース硬さは、615HV以上である。焼結部材1のビッカース硬さの変動幅は、100HV以下である。そのため、焼結部材1は、表面から上記所定の深さまで高硬度であり均一的な硬度を有する。この焼結部材1は、ビッカース硬さの変動幅が小さいため、焼結過程の冷却過程で急冷するシンターハードニング処理されたものである。この焼結部材1は、シンターハードニング処理されているため焼結後の焼入れ焼戻しがされていない。シンターハードニング処理されず、焼結後に焼入れ焼戻しをした焼結部材1のビッカース硬さの変動幅は、例えば、100HV超である。
焼結部材1は、高靭性である。その理由は、詳しくは後述する小野式回転曲げ疲労試験において107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が大きく、曲げ疲労強度に優れるからである。107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅は、420MPa以上であることが好ましい。107回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅は、更に423MPa以上であることが好ましく、特に425MPa以上であることが好ましい。
実施形態に係る焼結部材1は、各種の一般構造用部品に好適に利用できる。一般構造用部品としては、例えば、機械部品などが挙げられる。機械部品としては、例えば、電磁カップリングのカム部品、プラネタリキャリア、スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどが挙げられる。
本形態に係る焼結部材1は、高硬度と高靭性とを兼ね備えることができる。焼結部材1は、Niの含有量が多いことで靭性に優れる上に、Niの含有量が過度に多すぎないことで硬度の低下を抑制できるからである。その上、焼結部材1は、高硬度なマルテンサイト相と高靭性な残留オーステナイト相との混相組織を有するからである。また、焼結部材1は、表面から所定の深さまで均一的な硬さを有する。焼結部材1は、上記ビッカース硬さの変動幅が小さいからである。
本形態に係る焼結部材の製造方法は、原料粉末を準備する工程と、圧粉成形体を作製する工程と、圧粉成形体を焼結する工程とを備える。焼結部材の製造方法における特徴の一つは、以下の要件(a)及び要件(b)の両方を満たすことをある。
この工程は、鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む原料粉末を準備する。
鉄基合金粉末は、Cr、及びMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。鉄基合金におけるCr及びMoの含有量は、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、鉄基合金におけるCr及びMoの含有量は、上述の焼結部材1に維持される。鉄基合金におけるCrの含有量は、上述のように、例えば、2質量%以上4質量%以下が好ましく、更に2.2質量%以上3.8質量%以下が好ましく、特に2.5質量%以上3.5質量%以下が好ましい。また、鉄基合金におけるMoの含有量は、上述のように、例えば、0.2質量%以上0.9質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上0.8質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.7質量%以下が好ましい。Cr及びMoの含有量を上記範囲とする理由は、上述の通りである。Cr及びMoの含有量は、鉄基合金に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、鉄基合金に占めるCr及びMoの含有量をいう。
Ni粉末は、純Ni粉末が挙げられる。Ni粉末の含有量は、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、Ni粉末の含有量は、上述の焼結部材1に維持される。Ni粉末の含有量は、上述のように、2質量%超6質量%以下が挙げられ、更に2.5質量%以上5.5質量%以下が好ましく、特に3質量%以上5質量%以下が好ましい。Ni粉末の含有量が多いことで、焼結する工程によってNiの一部をFeと合金化させ、Niの残部を合金化させず純Niとして存在させることができる。その上、マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織を形成させられる。そのため、靭性に優れる焼結部材1を製造し易い。また、Ni粉末の含有量が過度に多すぎないことで、硬度の低下を抑制し易い。よって、Ni粉末の含有量が上記範囲を満たすことで、高強度と高靭性とを兼ね備える焼結部材1を製造できる。Ni粉末の含有量は、原料粉末の全体を100質量%とするとき、原料粉末に占めるNi粉末の含有量をいう。
C粉末は、焼結する工程の昇温過程でFe-Cの液相となり、焼結部材1中の空孔の角を丸くして焼結部材1の硬度を向上させる。C粉末の含有量は、Ni粉末などと同様、後述する焼結する工程後も維持される。即ち、原料粉末におけるC粉末の含有量は、上述の焼結部材1に維持される。C粉末の含有量は、上述のように、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上0.95質量%以下が好ましく、特に0.4質量%以上0.9質量%以下が好ましい。
原料粉末は、潤滑剤を含有していてもよい。潤滑剤は、原料粉末の成形時の潤滑性が高められ、成形性を向上させる。潤滑剤の種類は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。これらの潤滑剤としては、公知のものが利用できる。潤滑剤の存在形態は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤には、これらの少なくとも1種を単独で又は組み合わせて用いることができる。原料粉末における潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられ、更に0.3質量%以上1.5質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.0質量%以下が挙げられる。
この工程は、原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する。作製する圧粉成形体の形状は、適宜選択でき、例えば柱状や筒状などが挙げられる。圧粉成形体の作製には、例えば、一軸加圧が可能な金型が利用できる。一軸加圧とは、柱状や筒状の軸方向に沿ってプレス成形することをいう。
この工程は、圧粉成形体を焼結する。圧粉成形体の焼結により、原料粉末の粒子同士が結合された焼結部材1が得られる。圧粉成形体の焼結には、連続焼結炉が利用できる。連続焼結炉は、焼結炉と、焼結炉の下流に連続する急冷室とを有する。
焼結部材の製造方法は、その他、仕上げ加工を行う工程を備えることができる。
この工程は、焼結部材1の寸法を設計寸法に合わせる。仕上げ加工としては、例えば、サイジングや焼結部材1の表面への研磨加工などが挙げられる。特に、研磨加工は、焼結部材1の表面粗さを小さくし易い。
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、上述した各種の一般構造用部品の製造に好適に利用できる。
本形態の焼結部材の製造方法は、高硬度と高靭性とを兼ね備える焼結部材1を製造できる。焼結部材の製造方法は、準備する工程でNi粉末の含有量の多い原料粉末を準備し、焼結する工程の冷却過程で急冷する。そのため、焼結部材の製造方法は、合金化しておらず靭性に優れる純Niを存在させられる。その上、焼結部材の製造方法は、高硬度なマルテンサイト相と高靭性な残留オーステナイト相との混相組織を形成できる。焼結部材の製造方法は、準備する工程でNi粉末の含有量が過度に多すぎない原料粉末を準備し、焼結する工程の冷却過程で急冷する。そのため、焼結部材の製造方法は、高靭性な残留オーステナイト相の過度な形成を抑制できる。また、この焼結部材の製造方法は、表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅が小さい焼結部材1を製造できる。
この試験例では、焼結部材の硬度と靭性とを評価した。
試料No.1、試料No.2の焼結部材は、上述の焼結部材の製造方法と同様にして、原料粉末を準備する工程と、圧粉成形体を作製する工程と、圧粉成形体を焼結する工程とを経て作製した。
原料粉末として、鉄基合金粉末とNi粉末とC粉末とを含む混合粉末を準備した。
原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製した。成形圧力は、700MPaとした。
圧粉成形体を焼結して焼結部材を作製した。圧粉成形体を焼結には、焼結炉と、焼結炉の下流に連続する急冷室とを有する連続焼結炉を用いた。焼結条件としては、焼結温度を1300℃とし、焼結時間を15分とした。
焼結する工程の冷却過程では、焼結部材を急冷するシンターハードニング処理を行った。具体的には、雰囲気温度が冷却開始時から300℃まで、冷却速度が3℃/secとなるようにした。この冷却は、冷却ガスとして窒素ガスを焼結部材に吹き付けることで行った。
試料No.101、試料No.102の焼結部材は、準備した原料粉末に占めるNi粉末の含有量とC粉末の含有量とが異なる点を除き、試料No.1の焼結部材と同様にして作製した。具体的には、試料No.101では、原料粉末に占めるNi粉末の含有量を1質量%とし、原料粉末に占めるC粉末の含有量を0.7質量%とした。試料No.102では、原料粉末に占めるNi粉末の含有量を2質量%とし、原料粉末に占めるC粉末の含有量を0.7質量%とした。
試料No.110の焼結部材は、以下の(a)から(e)の点を除き、試料No.2と同様にして作製した。
各試料の焼結部材における見掛け密度(g/cm 3 )をアルキメデス法で測定した。見掛け密度は、「(焼結部材の乾燥重量)/{(焼結部材の乾燥重量)-(焼結部材の油浸材の水中重量)}×水の密度」によって求めた。焼結部材の油浸材の水中重量は、油中に浸漬して含油させた焼結部材を水中に浸漬させた部材の重量である。N数は3個とした。3つの焼結部材の測定結果の平均を各試料の焼結部材における見掛け密度とした。その結果を表1に示す。
焼結部材の硬度の評価は、焼結部材のビッカース硬さと、焼結部材の表面から所定の深さまでにおけるビッカース硬さの変動幅とを求めることで行った。
焼結部材の靭性の評価は、小野式回転曲げ疲労試験によって応力振幅を測定することで行った。
試料No.1、試料No.2、試料No.101、試料No.102の焼結部材の断面を観察した。
Claims (2)
- Feを主成分とする焼結部材であって、
Ni、Cr、Mo、及びCを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、
マルテンサイト相と残留オーステナイト相との混相組織とを備え、
前記焼結部材に含まれる元素の合計含有量を100質量%とするとき、前記焼結部材に占めるNiの含有量が2質量%超6質量%以下であり、Crの含有量が2質量%以上4質量%以下であり、Moの含有量が0.2質量%以上0.9質量%以下であり、Cの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、
前記焼結部材の任意の断面における前記残留オーステナイト相の面積割合が5%以上50%以下であり、
回転曲げ疲労試験において10 7 回繰り返し曲げ試験に耐える応力振幅が420MPa以上であり、
前記焼結部材の表面から5.0mmまでにおけるビッカース硬さの変動幅が100HV以下である、
焼結部材。 - 前記焼結部材の表面から5.0mmまでにおけるビッカース硬さの平均値が615HV以上である、請求項1に記載の焼結部材。
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