JP7269620B2 - 多能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法 - Google Patents

多能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法 Download PDF

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Description

本発明は、多能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法に関する。本発明はまた、そのようにして製造された軟骨組織を含む医薬品に関する。
鼻、耳および関節は軟骨組織から形成されており、軟骨組織は、軟骨細胞と特定の細胞外マトリックス(II型、IX型、XI型コラーゲンおよびプロテオグリカンを含み、I型コラーゲンを含まない)とで形成されている。関節損傷などで失われた軟骨組織は自然治癒することはないため、移植等の修復治療を行わなければ悪化してしまう。しかし、損傷部位へ移植するためには、軟骨組織の入手が必要であり、患者自身の別の部位の軟骨を用いる場合では、結局軟骨組織の欠失部位を生じてしまうため、移植治療に適応する損傷の大きさには限度がある。このため、採取した軟骨細胞を拡大培養して、移植に用いるという方法が用いられているが、in vitroで培養を行うと軟骨細胞が線維化してしまい、治療効果が十分ではない(非特許文献1)。この他にも、間葉系幹細胞を投与する方法が提案されているが、間葉系幹細胞は多数の種類の細胞へと分化するため、所望の軟骨細胞のみならずI型コラーゲンを発現する線維組織やX型コラーゲンを発現する肥大化組織を移植することになってしまう(非特許文献2)。
近年、iPS細胞やES細胞といった多能性幹細胞から軟骨細胞へと誘導し、これを用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献3、4)しかし、多能性幹細胞を用いた場合、線維軟骨の形成やテラトーマの形成など問題が提起されている。従って、これら多能性幹細胞からin vivoで癌を形成せず、上質な軟骨組織を製造する方法が必要となる。
本発明者は、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)から良質な軟骨細胞へ簡素化された工程にて、安定的に分化誘導することが可能な方法を開発した(特許文献1、2、非特許文献5)。しかし、この方法は血清を含む培地を使用するので、この方法で製造された軟骨組織をヒトの再生医療に使用することは難しい。そこで、無血清培地を用いて、同等の軟骨細胞および軟骨組織を多能性幹細胞から分化誘導できる方法の開発が望まれていた。
国際公開WO2015/064754 国際公開WO2016/133208
Roberts, S., et al., Immunohistochemical study of collagen types I and II and procollagen IIA in human cartilage repair tissue following autologous chondrocyte implantation, Knee 16, 398-404 (2009). Mithoefer, K., et al., Clinical efficacy of the microfracture technique for articular cartilage repair in the knee: an evidence-based systematic analysis, Am. J. Sports Med. 37, 2053-2063 (2009). Oldershaw, R.A. et al., Directed differentiation of human embryonic stem cells toward chondrocytes, Nat. Biotechnol. 28, 1187-1194 (2010). Umeda, K. et al., Human chondrogenic paraxial mesoderm, directed specification and prospective isolation from pluripotent stem cells, Scientific Reports volume 2, Article number: 455 (2012). Yamashita, A. et al., Generation of Scaffoldless Hyaline Cartilaginous Tissue from Human iPSCs, Stem cell reports, 4 (2015) 404-418.
本発明は、多能性幹細胞から無血清培地を用いて軟骨組織を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]次の工程を含む多能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法:
(i)多能性幹細胞を未分化状態で培養できる培養液中で浮遊培養する工程、
(ii)前記工程(i)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で接着条件で培養する工程、および
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で浮遊条件で培養する工程。
[2]前記工程(ii)および(iii)で用いる培養液が、さらに血清アルブミン、脂肪酸およびPDGFを含む培養液である、前記[1]に記載の方法。
[3]前記工程(ii)および(iii)で用いる培養液が、さらにコレステロールを含む培養液である、前記[2]に記載の方法。
[4]前記工程(ii)および(iii)で用いる培養液が、BMP2、TGFβ、GDF5およびHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液である、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]前記HMG-CoA還元酵素阻害薬が、メバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチンおよびロバスタチンから成る群より選択される薬剤である、前記[1]から[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]前記HMG-CoA還元酵素阻害薬が、ロスバスタチンである、前記[5]に記載の方法。
[7]前記工程(iii)が、前記工程(ii)で得られた細胞を、分離溶液を用いずに浮遊培養を行う工程である、前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]前記工程(i)で得られた多能性幹細胞が、細胞塊の状態である、前記[1]から[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]前記軟骨組織が、軟骨細胞と細胞外マトリックスを含む塊である、前記[1]から[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]前記[1]から[9]のいずれか1つに記載の方法で製造された軟骨組織を含む医薬品。
[11]関節軟骨損傷治療用である、前記[10]に記載の医薬品。
本発明により、多能性幹細胞から良質な軟骨組織を、無血清培地を用いて製造する方法を提供することができる。本発明の方法で製造された軟骨組織は、軟骨の再生医療に好適に使用することができる。
ヒトiPS細胞塊を血清含有軟骨分化培地または無血清軟骨分化培地で分化誘導した後の組織塊をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色またはサフラニンO染色した結果を示す図である。 ヒトiPS細胞塊を血清含有軟骨分化培地または無血清軟骨分化培地で分化誘導した後の組織塊におけるII型コラーゲンおよびルブリシンを免疫染色した結果を示す図である。 ヒトiPS細胞塊を血清含有軟骨分化培地または無血清軟骨分化培地で分化誘導した後の組織塊におけるグリコサミノグリカンを定量した結果を示す図である。 ヒトiPS細胞塊を血清含有軟骨分化培地または無血清軟骨分化培地で分化誘導した後の組織塊におけるSOX9、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびアグリカンの発現をRT-PCRで測定した結果を示す図である。 雌性ヌードラット(4週齢)の両膝関節に各1つの骨軟骨欠損を形成し、無血清培地で分化誘導して得られたヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植して1か月後に回収した膝サンプルにサフラニンO染色、II型コラーゲン免疫染色、ルブリシン免疫染色、ヒトビメンチン免疫染色を行った結果を示す図である。 雌性ヌードラット(4週齢)の両膝関節に各1つの骨軟骨欠損を形成し、無血清培地で分化誘導して得られたヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植して6か月後に回収した膝サンプルにヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、サフラニンO染色、ヒトビメンチン免疫染色を行った結果を示す図である。 雌性ヌードラット(4週齢)の両膝関節に各1つの骨軟骨欠損を形成し、無血清培地で分化誘導して得られたヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植して6か月後に回収した膝サンプルにI型コラーゲン免疫染色、II型コラーゲン免疫染色、X型コラーゲン免疫染色、ルブリシン免疫染色を行った結果を示す図である。
本発明は、次の工程を含む多能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法を提供する。
(i)多能性幹細胞を未分化状態で培養できる培養液中で浮遊培養する工程、
(ii)前記工程(i)で得られた細胞ををBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で接着条件で培養する工程
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で浮遊条件で培養する工程
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、特に限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、***幹(GS)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され (M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSR(KnockOut Serum Replacement, Invitrogen)および4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3~4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
(B) ***幹細胞
***幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、***形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、***幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41~46頁,羊土社(東京、日本))。
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)またはマウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清多能性幹細胞維持培地(例えば、mTeSR(Stemcell Technology社)、Essential 8(Life Technologies)、StemFit AK03(AJINOMOTO))などの市販の培養液が例示される。
培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上に播きなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30~約45日またはそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25~約30日またはそれ以上後にES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外マトリックス(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103~約5×106細胞の範囲である。
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。ntES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
(F) Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
(i)多能性幹細胞を未分化状態で培養できる培養液中で浮遊培養する工程
本発明の軟骨組織の製造方法に用いる多能性幹細胞は、未分化状態を維持しながら3次元浮遊培養することにより得られた細胞である。好ましくは、3次元浮遊培養することにより細胞塊の状態になった細胞である。本発明において、3次元浮遊培養とは、細胞を非接着条件にて、培養液中で撹拌または振とうしながら培養する方法である。
細胞塊の直径が300μmを超えると、細胞が分泌するサイトカイン等の影響により分化誘導や細胞塊内部に壊死が起きるため、細胞塊の直径が300μm以内に調整することが必要である。細胞塊の直径を調整するために、細胞密度および撹拌速度を適宜調節することや、細胞塊をメッシュに通すなどして、大きさを調整することが例示される。ここで使用されるメッシュとしては、滅菌可能なものであれば特に限定されず、例えば、ナイロンメッシュやステンレス等の金属製メッシュなどが挙げられる。
多能性幹細胞の3次元浮遊培養で用いる培養液は、多能性幹細胞の未分化状態を維持できる培養液であれば特に限定されないが、このような培養液として、10~15%FBSを含有するDMEM/F12またはDMEM培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、またはマウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清多能性幹細胞維持培地(例えば、mTeSR(Stemcell Technology社)、Essential 8(Life Technologies)、StemFit AK03(AJINOMOTO))などの市販の培養液が例示される。
多能性幹細胞の3次元浮遊培養で用いる培養液には、細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を添加してもよい。ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y-27632(例、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、H-1152(例、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。好ましいROCK阻害剤としては、Y-27632が挙げられる。ROCK阻害剤の濃度は、使用するROCK阻害剤に応じて当業者により適宜選択可能であるが、例えば、ROCK阻害剤としてY-27632を用いる場合、0.1μMから100μM、好ましくは1μMから50μM、さらに好ましくは5μMから20μMである。
多能性幹細胞の3次元浮遊培養で用いる培養液には、細胞塊同志の接着を抑制する試薬または細胞塊の浮遊状態を保持するための試薬を添加してもよく、このような試薬として、水溶性高分子、より好ましくは、水溶性多糖類(例えば、メチルセルロース、ゲランガム)が例示される。
3次元浮遊培養に用いられる培養器は、非接着性の培養容器であれば特に制限はなく、例えば、バイオリアクター、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。これらの容器には、適宜、撹拌装置、給気システムを付属させてもよい。培養器にガス透過性の素材を利用することや撹拌装置の撹拌翼の大きさ、形状を調整することで、培養槽上面にて軸流を発生させることで、給気システムを省略することができる。本発明の3次元浮遊培養に用いられる好適な培養器は、マグネティックスターラーを設置した、エイブル社製のバイオリアクターが例示される。
3次元浮遊培養において、撹拌装置が付属された培養器を用いる場合、撹拌速度は、細胞の浮遊状態を維持できれば、特に限定されないが、例えば、30 rpmから80 rpm、好ましくは40 rpmから70 rpm、さらに好ましくは50 rpmから60 rpmが例示される。
3次元浮遊培養は、1.0 x 104個/mlから1.0 x 106個/ml、好ましくは、3.0 x 104個/mlから1.0 x 105個/mlの細胞密度であることが例示され、培養液の容量を適宜増減することで、所望の細胞数を調整することが可能である。
3次元浮遊培養において、培養温度は、特に限定されないが、約30℃~約40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2%~約5%、好ましくは約5%である。本工程の培養期間は、細胞塊の直径が300 μm以内に保つ期間であれば特に限定されないが、例えば、3日以上10日以内、好ましくは4日以上7日以内の培養期間が例示され、好ましくは5日である。
本発明において、軟骨細胞とは、コラーゲンなど軟骨を構成する細胞外マトリックスを産生する細胞、または、このような細胞となる前駆細胞を意味する。また、このような軟骨細胞は、軟骨細胞マーカーを発現する細胞であってもよく、軟骨細胞マーカーとしてII型コラーゲン(COL2A1)またはSOX9が例示される。本発明において、COL2A1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_001844またはNM_033150、マウスの場合、NM_001113515またはNM_031163に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。本発明において、SOX9には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_000346、マウスの場合、NM_011448に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。本発明において製造される軟骨細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団として製造されてもよく、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または98%以上の軟骨細胞が含まれる細胞集団である。
本発明の製造方法により得られる軟骨組織は、軟骨細胞と細胞外マトリックスを含む組織塊であり、軟骨パーティクルとも称される。軟骨組織は、外膜および外膜に抱合された内容物から構成されている。外膜は、COL1線維を含むが、COL2線維を含まず、外膜の厚さは10μm以上50μm以下である。内容物は、Col11線維、Col2線維、プロテオグリカンおよび軟骨細胞を含む。本発明において、COL1線維とは、COL1遺伝子によってコードされるタンパク質が3重らせん構造を形成している線維である。本発明において、COL2線維とは、COL2遺伝子によってコードされるタンパク質が3重らせん構造を形成している線維である。本発明において、COL11線維とは、COL11遺伝子によってコードされるタンパク質が3重らせん構造を形成している線維である。本発明において、プロテオグリカンとは、コアタンパク質のアミノ酸であるセリンと糖質(キシロース、ガラクトース、グルクロン酸)が結合し、コンドロイチン硫酸などの2糖単位で連続する多糖体が結合した化合物である。
(ii)前記工程(i)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で接着条件で培養する工程
工程(ii)において使用される培養液は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へBMP2(Bone Morphogenetic Protein-2:骨形成タンパク質-2)、TGFβ(Transforming Growth Factor-β:トランスフォーミング増殖因子β)およびGDF5(Growth Differentiation Factor-5)から成る群から選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を添加して調製することができる。工程(i)で用いる好ましい培養液は、BMP2、TGFβ、GDF5およびHMG-CoA還元酵素阻害薬が添加された基礎培地である。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地などが挙げられる。
工程(ii)で用いる培養液は、血清(例えば、FBS)を含有しないものであるが、基礎培地には、必要に応じて、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物、Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの物質を含有し得る。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、アスコルビン酸、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、抗生物質を含み、血清を含まないDMEMである。
工程(ii)で用いる好ましい培養液は、BMP2、TGFβ、GDF5、HMG-CoA還元酵素阻害薬、血清アルブミン、脂肪酸およびPDGF(Platelet-Derived Growth Factor:血小板由来成長因子)が添加された基礎培地である。工程(ii)で用いる好ましい培養液は、BMP2、TGFβ、GDF5、HMG-CoA還元酵素阻害薬、血清アルブミン、脂肪酸、コレステロールおよびPDGFが添加された基礎培地である。
工程(ii)において使用されるBMP2には、ヒトおよび他の動物由来のBMP2、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販のBMP2を好適に使用することができる。好ましくはヒトのBMP2である。BMP2は天然型であってもよく、組換え体であってもよい。BMP2の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは10 ng/mlである。本発明において、BMP2はBMP4に置き換えてもよい。
工程(ii)において使用されるTGFβには、ヒトおよび他の動物由来のTGFβ、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販のTGFβを好適に使用することができる。TGFβは天然型であってもよく、組換え体であってもよい。好ましくはヒトのTGFβである。TGFβの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは10 ng/mlである。
工程(ii)において使用されるGDF5には、ヒトおよび他の動物由来のGDF5、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販のGDF5を好適に使用することができる。GDF5は天然型であってもよく、組換え体であってもよい。好ましくはヒトのGDF5である。GDF5の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは10 ng/mlである。
HMG-CoA還元酵素阻害薬は、HMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、コレステロールの合成を抑制する薬物である。工程(ii)において使用されるHMG-CoA還元酵素阻害薬は、例えば、メバスタチン(コンパクチン)(USP3983140参照)、プラバスタチン(特開昭57-2240号公報(USP4346227)参照)、ロバスタチン(特開昭57-163374号公報(USP4231938)参照)、シンバスタチン(特開昭56-122375号公報(USP4444784)参照)、フルバスタチン(特表昭60-500015号公報(USP4739073)参照)、アトルバスタチン(特開平3-58967号公報(USP5273995)参照)、ロスバスタチン(特開平5-178841号公報(USP5260440)参照)、ピタバスタチン(特開平1-279866号公報(USP5854259およびUSP5856336)参照)を含むが、これらに限定されない。本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害薬は、好ましくは、メバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチンおよびロバスタチンから成る群より選択される薬剤である。より好ましくはロスバスタチンである。HMG-CoA還元酵素阻害薬としてロスバスタチンを用いる場合、その濃度は、0.01μMから100μM、好ましくは0.1μMから10μM、より好ましくは0.5μMから5μM、さらに好ましくは約1μMである。
工程(ii)において使用される血清アルブミンは、ヒトおよび他の動物由来の血清アルブミン、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販の血清アルブミンを好適に使用することができる。血清アルブミンは天然型であってもよく、組換え体であってもよい。好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。血清アルブミンの濃度は、0.01 mg/mlから10 mg/ml、好ましくは0.05 mg/mlから5 mg/ml、より好ましくは0.1 mg/mlから3 mg/ml、さらに好ましくは約1 mg/mlである。
工程(ii)において使用される脂肪酸は、例えば、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、ステアリン等が挙げられる。これらの脂肪酸は、単独で含有しても組み合わせて含有してもよい。例えば、市販の脂質濃縮物(商品名:Chemically defined lipid concentrate、gibco #11905-031)を好適に使用することができる。「Chemically defined lipid concentrate」を用いる場合、体積比で培養液の1/1000量以上1/10量以下の原液を添加することが好ましく、約1/100量の原液を添加することがより好ましい。「Chemically defined lipid concentrate」には、脂肪酸以外に、コレステロールおよびトコフェロール酢酸エステルが含まれている。「Chemically defined lipid concentrate」の組成を以下の表に示す。
Figure 0007269620000001
工程(ii)において使用されるPDGFには、ヒトおよび他の動物由来のPDGF、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販のPDGFを好適に使用することができる。好ましくはヒトのPDGFである。PDGFは天然型であってもよく、組換え体であってもよい。PDGFは、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BBのいずれであってもよいが、好ましくはPDGF-BBである。PDGFの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは約10 ng/mlである。
工程(ii)で用いる培養液は、さらに、bFGF(Basic fibroblast growth factor:塩基性線維芽細胞増殖因子)が添加されていてもよい。bFGFには、ヒトおよび他の動物由来のbFGF、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、市販のbFGFを好適に使用することができる。bFGFの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは約10 ng/mlである。
工程(ii)で用いる培養液は、さらに、プテロシン誘導体が添加されていてもよい。プテロシン誘導体は、例えば、US 2015/0051293 A1に記載のプテロシン誘導体が例示され、より好ましくは、プテロシンBである。プテロシンBの濃度は、10μMから1000μM、好ましくは100μMから1000μMである。
本発明において、接着条件で培養するとは、細胞を培養皿へ接着可能な状態で培養することであり、細胞接着に適した表面加工をした培養容器を用いて培養することによって行ってもよい。このような表面加工をした培養容器は、市販のものを用いることができ、例えば、IWAKIの組織培養用ディッシュが例示される。他の態様として、細胞外マトリックスをコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行ってもよい。コーティング処理は、細胞外マトリックスを含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。
本発明において、細胞外マトリックスとは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然物であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、ポリリジン、ポリオルニチン、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質およびこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外マトリックスは、適宜組み合わせて用いられてもよい。
工程(ii)において、培養温度は、特に限定されないが、約30℃~約40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2%~約5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば、7日以上28日以下、10日以上25日以下、10日以上20日以下、より好ましくは14日である。
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で浮遊条件で培養する工程
工程(iii)は、前記工程(ii)で得られた細胞(細胞塊)を培養容器より剥離させ、浮遊培養することで行い得る。工程(ii)で得られた細胞(細胞塊)を培養容器より剥離させる方法は、力学的分離方法(例えば、ピペッティング、スクレーパーを用いる方法等)により行うことが好ましく、プロテアーゼ活性および/またはコラゲナーゼ活性を有する分離溶液を用いない方法が好ましい。
本発明において、浮遊条件で培養するとは、細胞(細胞塊)を培養皿へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器(例えば、ペトリディッシュ)、または、人工的に細胞接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)した培養容器を使用して行ってもよい。
工程(iii)において使用される培養液は、上記工程(ii)と同一の培養液を用いることができる。
工程(iii)において、培養温度は、特に限定されないが、約30℃~約40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2%~約5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば、2週以上、好ましくは6週以上、より好ましくは10週以上20週以下である。培養期間は、所望の軟骨組織(組織塊)が得られるまで培養することが望ましく、適宜軟骨組織の製造を確認しながら培養期間を調整することができる。本発明において軟骨組織を確認する方法として、例えば、得られた軟骨組織の一部を採取し、サフラニンOにて染色されることを確認する方法が挙げられる。また、例えば、軟骨組織の外膜がルブリシン(Lubricin)陽性であることを確認する方法が挙げられる。
本発明は、上記本発明の方法により製造された軟骨組織を含む医薬品を提供する。患者への医薬品の投与方法としては、例えば、上述の方法により得られた軟骨組織をフィブリン糊で固めて、投与部位に適した大きさの軟骨組織として、患者の軟骨欠損部位に投与する方法がある。この他にも、軟骨組織をゼラチンゲルおよび/またはコラーゲンゲルおよび/またはヒアルロン酸ゲル等と混合し患部へ投与する方法、軟骨組織を患部に投与し骨膜等で固定する方法などが例示される。
本発明において、本医薬品に含まれる軟骨組織の数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1:無血清培地を用いたiPS細胞から軟骨細胞への分化誘導〕
1-1 材料および方法
ヒトiPS細胞
Nakagawa M, et al, Sci Rep. 4:3594 (2014) に記載の方法で樹立されたFf-I01株を京都大学iPS細胞研究所より受領し、ヒトiPS細胞として用いた。
工程(i)
ヒトiPS細胞は、0.5X TrypLE Selectを添加し、インキュベーションの後、セルスクレーパーを用いて細胞を剥離させた。細胞を計数し、0.5~1.0×107個を 100 mLバイオリアクター(BWV-S10A、エイブル)へ移し、10 nM Y-27632(Wako)を添加したStemFit AK03(Ajinomoto)を100 mLを加えて、6cm magnetic stirrer(BWS-S03NOS-6、エイブル)により60 rpmで回転させ、37 ℃、CO2 5%の条件下で、5日間培養した。その結果、直径50μmから300μmのiPS細胞塊が得られた。
培地
以下に示した組成の無血清培地を使用した。
Figure 0007269620000002
対照として以下に示した血清含有培地を使用した。
Figure 0007269620000003
軟骨細胞への分化誘導
工程(ii)
上記工程(i)で得られたiPS細胞塊を回収し、軟骨分化培地を5 mLを入れた10cm suspension culture dish(sumitomo)へiPS細胞塊を播種した。播種後、37℃、CO2 5%条件下で培養した。1~3日後に、新しい軟骨分化培地へ交換し、以後、2~5日の間隔で培地交換を行い、2~3週間培養を継続した。iPS細胞塊は次第にdishへ接着して結節(nodule)が形成された。
工程(iii)
上記工程(ii)で得られた結節をセルスクレーパーで剥がし、6cm suspension culture dish(sumitomo)へ移し、37℃、CO2 5%条件下で培養した。1~5日後に、新しい軟骨分化培地へ交換した。以後、2~7日ごとに培地交換を行った。なお、培地交換時に、dishに貼付いた結節があればセルスクレーパーで剥がして浮遊させた。
組織学的分析
バイオリアクターでの培養を開始してから84日目(血清含有培地の場合)または104日目(無血清培地の場合)に得られた組織塊を組織学的分析に供した。組織塊を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンブロックに包埋した。Semi-serial 切片を用意し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色およびサフラニンO染色(サフラニンO・ファーストグリーン・鉄ヘマトキシリン染色)を行った。また、抗体を用いて免疫染色を行った。一次抗体の検出はCSA II Biotin-free Tyamide Signal Amplification System Kit (Agilent Technologies, CA, USA)を用いて行い、DABで発色させた。
グリコサミノグリカンの定量
バイオリアクターでの培養を開始してから13~14週目(血清含有培地の場合)または104日目(無血清培地の場合)に得られた組織塊をグリコサミノグリカンの定量に供した。グリコサミノグリカンは、軟骨組織に存在する主要な細胞外マトリックスの1つである。サンプルを乾燥し、質量を測定した後、Multi Beads Shocker (Yasui Kikai)で粉砕した。粉砕したサンプルのグリコサミノグリカン量を、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit (Biocolor)を用いて測定した。グリコサミノグリカン量を乾燥重量で除した。
軟骨特異的遺伝子の発現解析
バイオリアクターでの培養を開始してから13~14週目(血清含有培地の場合)または104日目(無血清培地の場合)に得られた組織塊を軟骨特異的遺伝子の発現解析に供した。RT-PCRを実施するためのRNAを、各組織塊からRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて製造業者のプロトコールに従って回収した。得られたトータルRNAをReverTra Ace(TOYOBO)を用いてcDNAへ変換した。リアルタイムPCRは、KAPA SYBR FAST qPCR kit Master Mix ABI prism(KAPA BIOSYSTEMS)を用いてStep One system(ABI)にて行われた。PCRに用いたプライマーを以下に示す。
SOX9 F AGACCTTTGGGCTGCCTTAT(配列番号:1)
SOX9 R TAGCCTCCCTCACTCCAAGA(配列番号:2)
COL1A1 F GTCGAGGGCCAAGACGAAG(配列番号:3)
COL1A1 R CAGATCACGTCATCGCACAAC(配列番号:4)
COL2A1 F TTTCCCAGGTCAAGATGGTC(配列番号:5)
COL2A1 R CTTCAGCACCTGTCTCACCA(配列番号:6)
AGGRECAN F TGAGGAGGGCTGGAACAAGTACC(配列番号:7)
AGGRECAN R GGAGGTGGTAATTGCAGGGAACA(配列番号:8)
1-2 結果
組織学的分析
血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地を用いて、それぞれ得られた組織塊をHE染色およびサフラニンO染色した結果を図1に示した。血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地で誘導した塊はともに、サフラニンOで赤く染色される細胞外マトリックス中に細胞が散在する構造をとり、軟骨様の組織像を呈した。
血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地を用いて、それぞれ得られた組織塊におけるII型コラーゲンおよびPRG4を免疫染色した結果を図2に示した。図1と図2は同じサンプルのSemi-serial 切片を染色したものである。血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地で誘導した塊はともに、その細胞外マトリックスはII型コラーゲンを含んでおり、軟骨であることを示唆した。また、ルブリシン(PRG4とも称される)の発現も認められ、軟骨の性質を持つと考えた。
グリコサミノグリカンの定量
血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地を用いて、それぞれ得られた組織塊におけるグリコサミノグリカンを定量した結果を図3に示した。血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地で誘導した塊はともに、グリコサミノグリカンの含有量が100 mg/gを超えており、軟骨に似た組成を持っていた。
軟骨特異的遺伝子の発現解析
血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地を用いて、それぞれ得られた組織塊におけるSOX9、I型コラーゲン(COL1A1)、II型コラーゲン(COL2A1)およびアグリカン(ACAN)の発現をRT-PCRで測定した結果を図4に示した。血清含有軟骨分化培地および無血清軟骨分化培地で誘導した塊は、iPS細胞に比べてCOL2A1遺伝子、ACAN遺伝子の発現が著しく上昇しており、軟骨に分化したものであることが示唆された。無血清軟骨分化培地で誘導した塊におけるCOL2A1遺伝子の発現は、血清含有軟骨分化培地に比べて低く、軟骨への分化の程度が未熟である可能性が示唆された。
〔実施例2:ヌードラットへのヒトiPS細胞由来軟骨組織の移植〕
2-1 材料および方法
ヌードラットの関節軟骨欠損部位への移植
雌性ヌードラット(F344/NJc1-rnu rnu/rnu、CLEA Japan、Inc.)を使用した。4週齢のヌードラットの両膝関節の皮膚および関節包を開いた。大腿骨溝に直径1 mm、深さ0.5 mmの穴を開けることにより、各膝に1つの骨軟骨欠損を形成した。本発明の製造方法により、無血清培地を用いて製造したヒトiPS細胞由来軟骨組織(1個)をトリミングして欠損部位に移植した。使用した軟骨組織はバイオリアクターでの培養を開始してから105日に得られたものである。移植後関節包および皮膚を閉じ、1か月後および6か月後にラットを安楽死させ、膝サンプルを回収した。
組織学的分析
膝サンプルを4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンブロックに包埋した。Semi-serial 切片を用意し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)またはサフラニンO染色(サフラニンO・ファーストグリーン・鉄ヘマトキシリン染色)を行った。
免疫組織化学的分析
パラフィン包埋切片を脱パラフィンし、1 mMのEDTA緩衝液(pH8.0)中で80 ℃で15分間インキュベートして抗原を賦活化した。その後、切片を10 mg/mlヒアルロニダーゼで室温にて40分間処理した。緩衝液中の3%過酸化水素溶液および無血清タンパク質でペルオキシダーゼおよびタンパク質をブロッキングした後、切片を一次抗体とともに4 ℃で一晩インキュベートした。
使用した一次抗体は、マウス抗COL2抗体(Thermo Scientific, 1:1000)、ヤギ抗COL1抗体(Southern Biotech, 1:1500)、マウス抗COL10抗体(Invitrogen, 1:1000)、マウス抗LUBRICIN抗体(抗PRG4抗体)(Millipore, 1:500)およびウサギ抗ヒトビメンチン抗体(Abcam, 1:200)である。一次抗体は、CSA IIビオチンフリーTyamideシグナル増幅システムキット(Agilent Technologies、CA、USA)および色素原としてDABを用いて検出した。免疫蛍光染色には、Alexa Fluor 488 または 546(Life Technologies, 1:1000)にコンジュゲートした二次抗体を用いた。DAPIを含むFluoroshield Mounting Medium(Abcam)を使用した。TRAP染色キット(コスモバイオ)を用いてTRAP染色を行った。分析には、BZ-X analyzer(KEYENCE)またはImageJ ver1.51を使用した。
2-2 結果
移植後1か月
移植後1か月目に回収した膝サンプルの組織学的分析結果を図5に示した。ヒトビメンチン陽性のヒト由来移植軟骨が欠損部位を充填していることが示された。移植組織はラット関節軟骨と比較してサフラニンO染色性は少し低いが、II型コラーゲンは同程度に発現していた。移植組織の表層はルブリシンを発現していた。
移植後6か月
移植後1か月目に回収した膝サンプルの組織学的分析結果を図6および7に示した。ヒトビメンチン陽性のヒト由来移植軟骨が欠損部位を充填していることが示された。移植組織はラット関節軟骨と比較して、サフラニンO染色性は同程度以上、II型コラーゲン発現は同程度であり、I型コラーゲン発現は同程度に低く、軟骨の形質を有していた。また、移植組織の表層はルブリシンを発現し、深層はX型コラーゲンを発現しており、関節軟骨の構造を獲得していた。

Claims (7)

  1. 能性幹細胞から軟骨組織を製造する方法であって、
    (i)多能性幹細胞を未分化状態で培養できる培養液中で浮遊培養する工程、
    (ii)前記工程(i)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で接着条件で培養する工程、および
    (iii)前記工程(ii)で得られた細胞をBMP2、TGFβおよびGDF5から成る群より選択される1以上の物質ならびにHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液中で浮遊条件で培養する工程
    を含み、
    前記工程(ii)および(iii)で用いる培養液が、さらに血清アルブミン、脂肪酸、PDGFおよびコレステロールを含む培養液である、方法
  2. 前記工程(ii)および(iii)で用いる培養液が、BMP2、TGFβ、GDF5およびHMG-CoA還元酵素阻害薬を含み、血清を含まない培養液である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記HMG-CoA還元酵素阻害薬が、メバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチンおよびロバスタチンから成る群より選択される薬剤である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記HMG-CoA還元酵素阻害薬が、ロスバスタチンである、請求項に記載の方法。
  5. 前記工程(iii)が、前記工程(ii)で得られた細胞を、分離溶液を用いずに浮遊培養を行う工程である、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記工程(i)で得られた細胞が、細胞塊の状態である、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記軟骨組織が、軟骨細胞と細胞外マトリックスを含む組織塊である、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
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