「メタクリル系樹脂組成物」
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)とを含み、該ゴム状弾性体(B)は少なくとも1つの2層以上の多層構造重合体粒子(a)と少なくとも1つのブロック共重合体(b)とを含む。
多層構造重合体粒子(a)は、少なくとも1つのゴム成分層(aI)と少なくとも1つの硬質樹脂成分層(aII)を含む。
ブロック共重合体(b)は、ゴム成分に対応する少なくとも1つのアクリル系重合体ブロック(bI)と硬質樹脂成分に対応する少なくとも1つのメタクリル系重合体ブロック(bII)を含む。
本明細書において、(aI)と(bI)の合計量を「ゴム成分含有量」と記載することがあるが、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、(aI)と(bI)以外のゴム成分を含んでいてもよい。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、好ましくはメタクリル系樹脂(A)20~90質量%とゴム状弾性体(B)10~80質量%を含み、より好ましくはメタクリル系樹脂(A)30~85質量%とゴム状弾性体(B)15~70質量%を含む。
1つの好ましい実施形態において、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)20~90質量%、多層構造重合体粒子(a)5~40質量%、ブロック共重合体(b)5~40質量%を含む。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、多層構造重合粒子(a)のゴム成分層(aI)を好ましくは3~20質量%、より好ましくは3~18質量%、さらに好ましくは3.5~15質量%含む。
(メタクリル系樹脂(A))
本発明に用いるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が、80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。またメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位の割合が、20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
かかるメタクリル酸メチル以外の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル;アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-へキシル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン:などが挙げられる。
メタクリル系樹脂(A)の立体規則性は、特に制限されず、例えば、イソタクチック、ヘテロタクチック、シンジオタクチックなどの立体規則性を有するものを用いてもよい。
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(以下、Mw(A)と称する)は、好ましくは30,000以上1,000,000以下、より好ましくは40,000以上800,000以下、特に好ましくは50,000以上500,000以下である。Mw(A)が小さ過ぎると、得られるメタクリル系樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性や靭性が低下する傾向がある。Mw(A)が大き過ぎるとメタクリル系樹脂組成物の流動性が低下し成形加工性が低下する傾向がある。
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量Mw(A)と数平均分子量Mn(A)の比、Mw(A)/Mn(A)(以下、重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)を「分子量分布」と称することがある。)は、好ましくは1.03以上2.6以下、より好ましくは1.05以上2.3以下、特に好ましくは1.2以上2.0以下である。分子量分布が小さ過ぎるとメタクリル系樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向がある。分子量分布が大き過ぎるとメタクリル系樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下し、脆くなる傾向がある。
なお、Mw(A)およびMn(A)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
また、メタクリル系樹脂の分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体又は単量体混合物を重合することによって得られる。
本発明は、メタクリル系樹脂(A)として市販品を用いてもよい。かかる市販されているメタクリル系樹脂としては、例えば「パラペットH1000B」(MFR:22g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットGF」(MFR:15g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットEH」(MFR:1.3g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRL」(MFR:2.0g/10分(230℃、37.3N))および「パラペットG」(MFR:8.0g/10分(230℃、37.3N))[いずれも商品名、株式会社クラレ製]などが挙げられる。
(ゴム状弾性体(B))
本発明に用いるゴム状弾性体(B)は、2層以上の少なくとも1つの多層構造重合体粒子(a)と少なくとも1つのブロック共重合体(b)とを含む。
(多層構造重合体粒子(a))
多層構造重合体粒子(a)は、内部に少なくとも1つのゴム成分層(aI)(以下、単に「(aI)」と略記する場合がある。)を有し、かつ少なくとも1つの硬質樹脂成分層(aII)(以下、単に「(aII)」と略記する場合がある。)を有し、最外部が硬質樹脂成分層(aII)であるコア-シェル構造の粒子である。なお、多層構造重合体粒子(a)のコアは「層」とみなす。多層構造重合体粒子(a)の層数は2層以上であればよく、3層または4層あるいはそれ以上でもよい。層構造としては、中心から、(aI)-(aII)の2層構造;(aI)-(aI)-(aII)、(aI)-(aII)-(aII)、または(aII)-(aI)-(aII)の3層構造;(aI)-(aII)-(aI)-(aII)等の4層構造等が挙げられる。中でも、取扱い性の観点から、(aI)-(aII)の2層構造;(aI)-(aI)-(aII)または(aII)-(aI)-(aII)の3層構造が好ましく、(aII)-(aI)-(aII)の3層構造がより好ましい。
ゴム成分層(aI)の総量と硬質樹脂成分層(aII)の総量との質量比((aI)/(aII))は、30/70~90/10である。(aI)の割合が上記範囲未満では、本発明の樹脂組成物の成形品は衝撃強度が不充分となる恐れがある。(aI)の割合が上記範囲超では、粒子構造の形成が困難となり、また溶融流動性が低下して他の成分との混練および本発明の樹脂組成物の成形が困難となる恐れがある。質量比((aI)/(aII))は、好ましくは30/70~80/20、より好ましくは40/60~70/30である。本発明の樹脂組成物が2以上のゴム成分層(aI)を有する場合にはその合計量で質量比を計算し、本発明の樹脂組成物が2以上の硬質樹脂成分層(aII)を有する場合にはその合計量で質量比を計算する。
(aI)は、アクリル酸エステル単量体単位50~89.99質量%、他の単官能性単量体単位44.99~10質量%、および多官能性単量体単位0.01~10質量%を含む共重合体を含むことが好ましい。アクリル酸エステル単量体単位の含有量はより好ましくは55~89.9質量%、単官能性単量体単位の含有量はより好ましくは44.9~10質量%、多官能性単量体単位の含有量はより好ましくは0.1~5質量%である。
アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、50質量%未満では、多層構造重合体粒子(a)のゴム弾性が不充分となって本発明の樹脂組成物の成形品の衝撃強度が不充分となる恐れがあり、89.99質量%超では、粒子構造の形成が困難となる恐れがある。他の単官能性単量体単位の含有量は、10質量%未満では、多層構造重合体粒子の光学性能が不十分となる恐れがあり、44.99質量%超では、多層構造重合体粒子(a)の耐候性が不充分となる恐れがある。多官能性単量体単位の含有量は、10質量%超では、多層構造重合体粒子(a)のゴム弾性が不充分となって本発明のメタクリル系樹脂組成物の成形品の衝撃強度が不充分となる恐れがあり、0.01質量%未満では、粒子構造の形成が困難となる恐れがある。
以下、ゴム成分層(aI)の原料単量体について、説明する。
アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、およびオクタデシルアクリレート等のアクリル酸と飽和脂肪族アルコール(好ましくはC1~C18の飽和脂肪族アルコール)とのエステル;シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸とC5またはC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルアクリレート等のアクリル酸とフェノール類とのエステル;ベンジルアクリレート等のアクリル酸と芳香族アルコールとのエステル等が挙げられる。アクリル酸エステルは、1種または2種以上用いることができる。
他の単官能性単量体としては、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、およびベヘニルメタクリレート等のメタクリル酸と飽和脂肪族アルコール(好ましくはC1~C22の飽和脂肪族アルコール)とのエステル;シクロヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸とC5またはC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルメタクリレート等のメタクリル酸とフェノール類とのエステル、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸と芳香族アルコールとのエステル等のメタクリル酸エステル;スチレン(St)、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、およびハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。他の単官能性単量体は、1種または2種以上用いることができる。
多官能性単量体は、分子内に炭素-炭素二重結合を2個以上有する単量体である。多官能性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、および桂皮酸等の不飽和モノカルボン酸と、アリルアルコールおよびメタリルアルコール等の不飽和アルコールとのエステル;前記の不飽和モノカルボン酸と、エチレングリコール、ブタンジオール、およびヘキサンジオール等のグリコールとのジエステル;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、およびマレイン酸等のジカルボン酸と、前記の不飽和アルコールとのジエステル等が挙げられる。具体的には、アリルアクリレート、メタリルアクリレート、アリルメタクリレート(ARMA)、メタリルメタクリレート、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、およびヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、アリルメタクリレート(ALMA)が好ましい。多官能性単量体は、1種または2種以上用いることができる。
層(aII)は、メタクリル酸エステル単量体単位50~100質量%および他の単量体単位50~0質量%からなる共重合体を含むことが好ましい。メタクリル酸エステル単量体単位の含有量はより好ましくは60~99質量%、さらに好ましくは80~99質量%、他の単量体単位の含有量はより好ましくは40~1質量%、さらに好ましくは20~1質量%である。メタクリル酸エステル単量体単位の含有量が50質量%未満では、多層構造重合体粒子(a)の耐候性が不充分となる恐れがある。
以下、硬質樹脂成分層(aII)の原料単量体について、説明する。
メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、およびベンジルメタクリレート等が挙げられる。中でも、メチルメタクリレート(MMA)が好ましい。
他の単量体としては、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、およびオクタデシルアクリレート等のアクリル酸と飽和脂肪族アルコール(好ましくはC1~C18の飽和脂肪族アルコール)とのエステル;シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸とC5またはC6の脂環式アルコールとのエステル;スチレン(St)、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、およびハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(p-ブロモフェニル)マレイミド、およびN-(クロロフェニル)マレイミド等のマレイミド系単量体;層(aI)で例示した多官能性単量体等が挙げられる。中でも、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート、およびn-ブチルアクリレート(BA)等のアクリル酸アルキルエステルが好ましい。
多層構造重合体粒子(a)においては、最外部を構成する層(aII)の構成共重合体のGPC法で測定される重量平均分子量(Mw)が20,000~100,000の範囲であることが好ましく、30,000~90,000の範囲であることがより好ましく、40,000~80,000の範囲であることが特に好ましい。Mwが20,000未満では、多層構造重合体粒子(a)のゴム弾性が不充分となって本発明の樹脂組成物の成形品の成形が困難となる恐れがある。Mwが100,000超では、成形品の衝撃強度が低下する恐れがある。
最外部に最も近い多層構造重合体粒子(a)ゴム成分層の平均粒子径(de)は、0.19~0.3μmの範囲である。平均粒子径(de)が0.19μm未満では、多層構造重合体粒子(a)への応力集中が不充分となり、成形品の衝撃強度が低下する恐れがある。平均粒子径(de)が0.3μm超では、多層構造重合体粒子(a)内部においてボイドが発生し易くなる。また樹脂組成物中のゴム含量が一定の場合、粒子径がある程度以上に大きくなると粒子数が減少することから、粒子同士の表面間距離は大きくなる傾向があり、連続相内においてクラックが発生する確率が高くなり、成形品の衝撃強度が低下する恐れがある。ここでいうボイドとは粒子の内部のみで生じる破壊のことであって、エネルギーの吸収量は非常に小さいので、耐衝撃性の発現にはあまり寄与しない。
多層構造重合体粒子(a)に対する応力集中の観点から、平均粒子径(de)は好ましくは0.195~0.25μm、より好ましくは0.20~0.23μmである。
なお、多層構造重合体粒子(a)のゴム成分層(aI)の平均粒子径(de)は、樹脂組成物を電子顕微鏡により測定する方法、またはラテックスを光散乱法により測定する方法により求めることができる。電子顕微鏡による方法は、本発明の樹脂組成物を四酸化ルテニウムで電子染色したときに透過型電子顕微鏡にて観察される染色された多層構造重合体粒子(a)のゴム成分層(aII)中で、最外部を構成するものの長軸直径と短軸直径との平均値である。光散乱法による方法は、多層構造重合体粒子重合時、ゴム成分層まで重合したラテックスをサンプリングし、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2を用いて測定することができる。
本発明の好ましい1つの実施形態において本発明に関わる多層構造重合体粒子(a)の製造方法は、上記のようなゴム成分層(I)/硬質樹脂成分層(II)を有する多層構造重合体粒子(a)を得ることができる方法であれば、特に制限されない。本発明に関わる3層構成(コア-中間層-最外層)の多層構造重合体粒子(a)の好ましい製造方法は、センターコアを構成する重合体を得るための単量体を乳化重合してシード粒子(i)を得、シード粒子(i)の存在下に中間層を構成する重合体を得るための単量体をシード乳化重合してシード粒子(ii)を得、シード粒子(ii)の存在下に最外層を構成する重合体を得るための単量体をシード乳化重合してシード粒子(iii)を得る工程を含むものである。2層構成あるいは4層もしくはそれ以上の層構成の多層構造重合体粒子(a)は、3層構成の多層構造重合体粒子(a)の上記の製造方法の記載を参照して当業者であれば容易に製造することができる。乳化重合法若しくはシード乳化重合法は、一般的な多層構造重合体粒子を得るための手法として当該技術分野においてよく知られた技術であるので詳しい説明は他の文献を参照することができる。上記の好ましい例示の場合、シード粒子(i)が硬質樹脂成分層(aII、コア)からなる単層構成の粒子であり、シード粒子(ii)が硬質樹脂成分層(aII、コア)+ゴム成分層(aI、中間層)の2層構成の粒子であり、シード粒子(iii)が硬質樹脂成分層(aII、コア)+ゴム成分層(aI、中間層)+硬質樹脂成分層(aII、最外層)の3層構成の粒子である。
重合反応工程においては、少なくとも最外部を構成する硬質樹脂成分層(aII)の構成共重合体のMwが20,000~100,000となるように、重合条件を調整する。重合条件の調整は、アルキルメルカプタン等の分子量調節剤の量で主に調整する。最終的に得られる多層構造重合体粒子(a)における最外部の硬質樹脂成分層(aII)までの平均粒子径が0.2~0.35μmの範囲となるように、全重合反応工程の重合条件を調整する。
なお、多層構造重合体粒子(a)における最外部の硬質樹脂成分層(aII)までの平均粒子径は、多層構造重合体粒子重合時、重合したラテックスをサンプリングし、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2を用いて光散乱法によって測定することができる。
(ブロック共重合体(b))
本発明に用いるブロック共重合体(b)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(bII)とアクリル酸エステル重合体ブロック(bI)とを有する。ブロック共重合体(b)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(bII)を1つのみ有していても、複数有していてもよい。また、ブロック共重合体(b)は、アクリル酸エステル重合体ブロック(bI)を1つのみ有していても、複数有していてもよい。かかるブロック共重合体(b)は、メタクリル系樹脂(A)および多層構造重合体粒子(a)との相溶性が良好である。
上記相溶性の観点から、ブロック共重合体(b)としては、メタクリル酸エステル単量体単位を有する重合体ブロック(bII)10~80質量%と、主としてアクリル酸エステル単量体単位を有する重合体ブロック(bI)90~20質量%とを含む(但し、重合体ブロック(bII)と重合体ブロック(bI)との合計量を100質量%とする。)ブロック共重合体が好ましい。ブロック共重合体(b)において、重合体ブロック(bII)の含有量はより好ましくは20~70質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%であり、重合体ブロック(bI)の含有量はより好ましくは80~30質量%であり、さらに好ましくは70~40質量%である。
一分子中の重合体ブロック(bII)の数は、単数でも複数でもよい。一分子中の重合体ブロック(bII)の数が複数であるとき、複数の重合体ブロック(bII)の構造単位の組成および分子量は同一でも非同一でもよい。同様に、一分子中の重合体ブロック(bI)の数は、単数でも複数でもよい。一分子中の重合体ブロック(bI)の数が複数であるとき、複数の重合体ブロック(bI)の構造単位の組成および分子量は同一でも非同一でもよい。
重合体ブロック(bII)は、主としてメタクリル酸エステル単量体単位を含む。重合体ブロック(bII)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上であり、メタクリル酸エステル単量体単位のみから構成されてもよい。
以下、メタクリル系重合体ブロック(bII)の原料単量体について、説明する。
メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、s-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ペンタデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、およびアリルメタクリレート(ALMA)等が挙げられる。中でも、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性および耐熱性の向上の観点から、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、およびイソボルニルメタクリレート等が好ましく、メチルメタクリレート(MMA)が特に好ましい。メタクリル酸エステルは、1種または2種以上用いることができる。
メタクリル系重合体ブロック(bII)の重量平均分子量(Mw(bII))は、下限が好ましくは5,000、より好ましくは8,000、さらに好ましくは12,000、特に好ましくは15,000、最も好ましくは20,000であり、上限が好ましくは150,000、より好ましくは120,000、特に好ましくは100,000である。ブロック共重合体(b)が複数の重合体ブロック(bII)を有する場合、重量平均分子量(Mw(bII))は、複数の重合体ブロック(bII)のMwの合計量である。
本発明の好ましい1つの実施形態において、ブロック共重合体(b)のメタクリル系重合体ブロック(bII)の重量平均分子量Mw(bII)とメタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量Mw(A)が、下記の式(Y)を満足する。
0.5≦Mw(A)/Mw(bII)≦2.5 (Y)
メタクリル樹脂(A)の重量平均分子量Mw(A)のMw(bII)に対する比、すなわちMw(A)/Mw(bII)は、0.5以上2.5以下、好ましくは0.6以上2.3以下、より好ましくは0.7以上2.2以下である。Mw(A)/Mw(bII)が小さすぎると、樹脂組成物から作製した成形品の衝撃強度が低下する傾向がある。一方、Mw(A)/Mw(bII)が大きすぎると、樹脂組成物から作製した板状成形品の表面平滑性および透明性が悪化する傾向がある。Mw(A)/Mw(bII)が上記範囲にある場合は、ブロック共重合体(b)のメタクリル樹脂(A)中での分散粒径が小さくなるので、透明性に優れる。
ブロック共重合体(b)中のメタクリル系重合体ブロック(bII)の含有量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品の透明性、柔軟性、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、成形性、および表面平滑性の観点から、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~70質量%である。ブロック共重合体(b)が複数の重合体ブロック(bII)を有する場合、重合体ブロック(bII)の含有量は、複数の重合体ブロック(bII)の合計含有量である。
本発明の1つの好ましい実施形態において、アクリル系重合体ブロック(bI)は、主としてアクリル酸エステル単量体単位を含む。アクリル系重合体ブロック(bI)中のアクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
以下、アクリル系重合体ブロック(bI)の原料単量体について、説明する。
アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、ドデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、およびアリルアクリレート等が挙げられる。アクリル酸エステルは、1種または2種以上用いることができる。
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、本発明の樹脂組成物の透明性の観点から、アクリル系重合体ブロック(bI)としては、アクリル酸アルキルエステル単量体単位と(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステル単量体単位とを含む重合体ブロック(bI-p)が好ましい。ここで、重合体ブロック(bI)中のアクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有量は好ましくは50~90質量%、より好ましくは60~80質量%であり、(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステル単量体単位の含有量は好ましくは50~10質量%、より好ましくは40~20質量%である。
本発明の好ましい1つの実施形態において、アクリル系重合体ブロック(bI)の重量平均分子量Mw(bI)が、下記の式(Z)、より好ましくは下記式(Z1)を満足する。
5,000≦Mw(bI)≦120,000 (Z)
40,000≦Mw(bI)≦120,000 (Z1)
アクリル系重合体ブロック(bI)の重量平均分子量Mw(bI)は、下限が好ましくは5,000、より好ましくは15,000、さらに好ましくは20,000、特に好ましくは30,000、最も好ましくは40,000であり、上限が好ましくは120,000、より好ましくは110,000、特に好ましくは100,000である。なお、Mw(bI)が過小では、本発明のメタクリル系樹脂組成物の成形品の耐衝撃性が低下する恐れがある。一方、Mw(bI)が過大では、本発明の樹脂組成物の成形品の表面平滑性が低下する恐れがある。ブロック共重合体(b)が複数の重合体ブロック(bI)を有する場合、重量平均分子量Mw(bI)は、複数の重合体ブロック(bI)のMwの合計量である。
ブロック共重合体(b)中のアクリル系重合体ブロック(bI)の含有量は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の成形品の透明性、柔軟性、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、成形性、および表面平滑性の観点から、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。ブロック共重合体(b)が複数の重合体ブロック(bI)を有する場合、重合体ブロック(bI)の含有量は、複数のアクリル系重合体ブロック(bI)の合計含有量である。
ブロック共重合体(b)におけるメタクリル系重合体ブロック(bII)とアクリル系重合体ブロック(bI)との結合形態は、特に限定されない。ブロック共重合体(b)としては、重合体ブロック(bII)の一末端に重合体ブロック(bI)の一末端が繋がった(bII)-(bI)構造のジブロック共重合体;重合体ブロック(bII)の両末端のそれぞれに重合体ブロック(bI)の一末端が繋がった(bI)-(bII)-(bI)構造のトリブロック共重合体;重合体ブロック(bI)の両末端のそれぞれに重合体ブロック(bII)の一末端が繋がった(bII)-(bI)-(bII)構造のトリブロック共重合体等の直鎖型ブロック共重合体が挙げられる。
中でも、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体が好ましく、(bII)-(bI)構造のジブロック共重合体、(bII)-(bI)-(bII)構造のトリブロック共重合体がより好ましい。
ブロック共重合体(b)は必要に応じて、分子鎖中および/または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、およびアミノ基等の官能基を有していてもよい。
ブロック共重合体(b)は、重量平均分子量(Mw(b))が32,000~300,000、好ましくは40,000~250,000、より好ましくは45,000~230,000、特に好ましくは50,000~200,000である。Mw(b)が上記範囲内にあることで、成形品中のブツの発生原因となる樹脂組成物製造における原料の溶融混練時の未溶融物の量を極めて少量とすることができる。
ブロック共重合体(b)は、重量平均分子量(Mw(b))と数平均分子量(Mn(b))との比(Mw(b)/Mn(b))が好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.0~1.6である。Mw(b)/Mn(b)が上記範囲内にあることで、成形品中のブツの発生原因となる樹脂組成物製造における原料の溶融混練時の未溶融物の量を極めて少量とすることができる。
ブロック共重合体(b)の製造方法は特に限定されず、各重合体ブロックをリビング重合する方法が一般的である。リビング重合法としては、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩等の鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用い重合する方法、およびα-ハロゲン化エステル化合物を重合開始剤として用い銅化合物の存在下ラジカル重合する方法が挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤または多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、重合する方法も挙げられる。中でも、ブロック共重合体(b)が高純度で得られ、各ブロックの組成および分子量の制御が容易であり、経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が特に好ましい。
ブロック共重合体(b)の屈折率は特に制限されず、好ましくは1.485~1.495、より好ましくは1.487~1.493である。屈折率が上記範囲内であると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性が高くなる。なお、本明細書で「屈折率」とは、波長587.6nm(D線)で測定した値を意味する。
本発明に関わる多層構造重合体粒子(a)をメタクリル系樹脂(A)かつブロック共重合体(b)との混合工程に添加し混練することにより、透明性、衝撃強度に優れた樹脂組成物を得ることができる。メタクリル系樹脂(A)と多層構造重合体粒子(a)とブロック共重合体(b)の混合は、以下の4通りの方法があり、いずれを選択してもよい。
(i) メタクリル系樹脂(A)と多層構造重合体粒子(a)を先ず混合し、(A)+(a)の混合物にブロック共重合体(b)を混合する2段階混合方法;
(ii) メタクリル系樹脂(A)とブロック共重合体(b)を先ず混合し、(A)+(b)の混合物に多層構造重合体粒子(a)を混合する2段階混合方法;
(iii) 多層構造重合体粒子(a)とブロック共重合体(b)を先ず混合し、(a)+(b)の混合物にメタクリル系樹脂(A)を混合する2段階混合方法;
(iv) メタクリル系樹脂(A)と多層構造重合体粒子(a)とブロック共重合体(b)を1段階で混合する方法。
混練方法としては、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、プラベンダープラストグラフ等のバッチ式混練機、単軸、二軸、多軸スクリュー押出機等の連続式混練機を用いて混練するなど公知の方法によって行うことができる。また、一旦前記方法で高濃度のマスターペレットを作製後、希釈したものを溶融混練する方法でもよい。生産性の観点から、単軸スクリュー方式または二軸スクリュー方式であることが好ましい。特に、単軸スクリュー式押出機は、樹脂組成物に与えるせん断エネルギーが小さいため好ましい。
(ゴム含有量)
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、多層構造重合体粒子(a)のゴム成分層(aI)とブロック共重合体(b)のアクリル系重合体ブロック(bI)との合計量は5~45質量%であり、好ましくは6~40質量%であり、より好ましくは7~30質量%である。ゴム成分層(aI)とアクリル系重合体ブロック(bI)との合計量が1質量%未満では衝撃強度が悪化し、45質量%超では剛性が悪化する。
(bIゴム比率)
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、(aI)と(bI)の合計のゴム含有量に対するアクリル系重合体ブロック(bI)含有量比率が5~90質量%の範囲であり、10~85質量%の範囲であることが好ましく、15~80質量%の範囲であることがより好ましい。該ゴム含有量に対するアクリル系重合体ブロック(bI)含有量比率が5~90質量%の範囲にあることで、多層構造重合体粒子とブロック共重合体との相乗効果が働き、衝撃強度が優れる。
(任意成分)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂(A)、ゴム弾性体(B)以外に、必要に応じて他の重合体を含有していてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、およびポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、およびMBS樹脂等のスチレン系樹脂;メタクリル酸メチル-スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、およびポリアミドエラストマー等のアミド系樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、およびフェノキシ系樹脂等の他の熱可塑性樹脂;フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、およびエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル;シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、およびSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、およびEPDM等のオレフィン系ゴム等が挙げられる。他の重合体は、1種または2種以上用いることができる。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、膠着防止剤、耐衝撃性改質剤、および蛍光体等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定でき、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部、膠着防止剤は0.001~1質量部とすることが好ましい。他の添加剤も0.01~3質量部の範囲で添加することができる。
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、およびアミン系酸化防止剤等が挙げられる。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤の単独使用またはリン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤/フェノール系酸化防止剤を質量比で0.2/1~2/1で使用するのが好ましく、0.5/1~1/1で使用するのがより好ましい。
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(株式会社ADEKA製「アデカスタブHP-10」)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(BASFジャパン株式会社製「IRGAFOS168」)、および3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(株式会社ADEKA社製「アデカスタブPEP-36」)等が好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン株式会社製「IRGANOX1010」)、およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX1076」)等が好ましい。
イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等が好ましい。
アミン系酸化防止剤としては、オクチル化ジフェニルアミン等が好ましい。
熱劣化防止剤としては、実質上無酸素の条件下で高温にさらされたときに生じるポリマーラジカルを補足することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。熱劣化防止剤としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学株式会社製「スミライザーGM」)、および2,4-ジ-t-アミル-6-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学株式会社製「スミライザーGS」)等が好ましい。
紫外線吸収剤は、紫外線吸収能力を有し、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、およびホルムアミジン類等が挙げられる。中でも、ベンゾトリアゾール類およびトリアジン類が好ましい。紫外線吸収剤は、1種または2種以上用いることができる。
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色等の光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明の熱可塑性樹脂組成物を光学用途に適用する場合に好適である。ベンゾトリアゾール類としては、4-メチル-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール(城北化学工業株式会社製「商品名JF-77」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASFジャパン株式会社製「商品名TINUVIN329」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASFジャパン株式会社製「商品名TINUVIN234」)、および2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール](株式会社ADEKA製「アデカスタブLA-31」)等が好ましい。
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(株式会社ADEKA社製「アデカスタブLA-F70」)、およびその類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン株式会社製「TINUVIN477」および「TINUVIN460」)等が挙げられる。
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6一テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物等のヒンダードアミン類が挙げられる。例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(株式会社ADEKA社製「アデカスタブLA-77Y」)等が挙げられる。
滑剤は、樹脂と金属表面との滑りを調整し、凝着または粘着を防ぐことで離型性および加工性等を改善する効果があると言われる化合物である。例えば、高級アルコール、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アミド、および脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、本発明の熱可塑性樹脂組成物との融和性の観点から、炭素原子数12~18の脂肪族1価アルコールおよび脂肪族アミドが好ましく、脂肪族アミドがより好ましい。脂肪族アミドは飽和脂肪族アミドと不飽和脂肪族アミドとに分類され、粘着防止によるスリップ効果が期待されるため不飽和脂肪族アミドがより好ましい。不飽和脂肪族アミドとしては、N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド(日本化成株式会社製「スリパックスO」)、およびN,N’-ジオレイルアジピン酸アミド(日本化成株式会社製「スリパックスZOA」)等が挙げられる。
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1~3.5:1が好ましく、2.8:1~3.2:1がより好ましい。
高分子加工助剤は、メタクリル樹脂組成物を成形する際、厚さ精度および薄膜化に効果
を発揮する化合物である。高分子加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造することができる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。
帯電防止剤としては、ヘプチルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ノニルスルホン酸ナトリウム、デシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、セチルスルホン酸ナトリウム、オクタデシルスルホン酸ナトリウム、ジヘプチルスルホン酸ナトリウム、ヘプチルスルホン酸カリウム、オクチルスルホン酸カリウム、ノニルスルホン酸カリウム、デシルスルホン酸カリウム、ドデシルスルホン酸カリウム、セチルスルホン酸カリウム、オクタデシルスルホン酸カリウム、ジヘプチルスルホン酸カリウム、ヘプチルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ノニルスルホン酸リチウム、デシルスルホン酸リチウム、ドデシルスルホン酸リチウム、セチルスルホン酸リチウム、オクタデシルスルホン酸リチウム、ジヘプチルスルホン酸リチウム等のアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。
難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基または結晶水を有する金属水和物、ポリリン酸アミン、リン酸エステル等のリン酸化合物、シリコン化合物等が挙げられ、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤が好ましい。
染料・顔料としては、パラレッド、ファイヤーレッド、ピラゾロンレッド、チオインジコレッド、ペリレンレッドなどの赤色有機顔料、としてシアニンブルー、インダンスレンブルーなどの青色有機顔料、シアニングリーン、ナフトールグリーンなどの緑色有機顔料が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。本発明の共重合体は、酸発生剤を含まないことが好ましい。
膠着防止剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸金属塩;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸系ワックス等のワックス類;低分子量ポリエチレンや低分子量ポリプロピレン等の低分子量ポリオレフィン;アクリル系樹脂粉末;ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン;オクタデシルアミン、リン酸アルキル、脂肪酸エステル、エチレンビスステアリルアミド等のアミド系樹脂粉末、四フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末、シリコーン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、シリカ等が挙げられる。
耐衝撃性改質剤としては、ジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
本発明のメタクリル系樹脂組成物に他の重合体および/または添加剤を含有させる場合、メタクリル系樹脂(A)および/またはゴム状弾性体(B)(多層構造重合体粒子(a)および/またはブロック共重合体(b))の重合時に添加してもよいし、メタクリル系樹脂(A)および/またはゴム状弾性体(B)(多層構造重合体粒子(a)および/またはブロック共重合体(b))との混合時に添加してもよいし、メタクリル系樹脂(A)および/またはゴム状弾性体(B)(多層構造重合体粒子(a)および/またはブロック共重合体(b))を混合した後に添加してもよい。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、熱可塑性重合体に対して一般に用いられている成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工することができる。例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの加熱溶融を経る成形加工法、溶液流延方法などにより成形品が製造できる。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、フィルムとしても有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶液流延法等により良好に加工される。また、必要に応じて、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特に、ガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
本発明メタクリル系樹脂組成物より得られたフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。積層の方法としては、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストル-ジョンラミネート、ホットメルトラミネートなどが挙げられる。
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するフィルムインサート成形、ラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するフィルムインモールド成形などが挙げられる。
本発明のメタクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれを含む成形品は、各種用途の部材にすることができる。具体的な用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品やマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、サンルーフ、グレージング、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓等の機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板等の光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁等の交通関係部品;その他、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスク、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート;パソコン、携帯電話、家具、自動販売機、浴室部材などに用いる表面材料等が挙げられる。
他方、本発明のメタクリル系樹脂組成物から得られるフィルムのラミネート積層品としては、自動車内外装材、日用雑貨品、壁紙、塗装代替用途、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリなどのOA機器のハウジング、床材、電気または電子装置の部品、浴室設備などに使用することができる。
以上説明したように、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)とを含む。ゴム状弾性体(B)は多層構造重合体粒子(a)とブロック共重合体(b)を含み、最外部に最も近いゴム成分層の平均粒子径が0.19~0.3μmの範囲であることで、少ないゴム含有量で効果的にメタクリル系樹脂の衝撃強度を高めることができることから、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、衝撃強度と光学性能および機械的性能の優れた成形品およびフィルムを提供することができる。
以下、本発明に係る製造例と実施例、および比較例について、説明する。
[評価項目および評価方法]
製造例、実施例および比較例における評価項目および評価方法は、以下の通りである。
(重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn))
樹脂の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、GPC法(ガスクロマトグラフィ法)により求めた。溶離液としてテトラヒドロフランを用いた。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM-Mの2本とSuperHZ4000とを直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調整した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて測定対象樹脂のMw,Mw/Mnを決定した。
なお、多層構造重合体粒子(a)の測定に関しては、多層構造重合体粒子乾燥品をアセトン中に24時間浸漬後、そのアセトン溶液を遠心分離することでアセトン不溶分とアセトン可溶分とに分離し、固化させたアセトン可溶分(最外層の硬質樹脂成分層(aII))についてMwの測定を行った。
また、ブロック共重合体(b)のアクリル系重合体ブロック(ゴム成分、bI)とメタクリル系重合体ブロック(硬質樹脂成分、bII)の各ブロックの重量平均分子量Mw(bI)とMw(bII)は、以下のように測定した。
メタクリル系重合体ブロック(硬質樹脂成分、bII)を重合した反応液に含まれる重合体をサンプリングしMwを測定することで、Mw(bII)を決定した。次いで、アクリル系重合体ブロック(ゴム成分、bI)を重合した反応液に含まれる重合体をサンプリングしMwを測定し、Mw(bII)分を差し引くことで、Mw(bI)を決定した。さらなるメタクリル系重合体またはアクリル系重合体ブロックを重合した場合についても同様の方法でMwを測定し、各重合体ブロックの合計MwをそれぞれMw(bI)、Mw(bII)とした。
(体積平均粒子径)
多層構造重合体粒子を含有するラテックスについて、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2を用いて光散乱法によって、体積平均粒子径を決定した。ゴム成分層(aI)までの体積平均粒子径(de)は、ゴム成分層重合後のラテックスをサンプリングし体積平均粒子径を測定した。最外層までの平均粒子径は、最外層重合後のラテックスをサンプリングし体積平均粒子径を測定した。
(共重合組成)
核磁気共鳴スペクトル(1H-NMRスペクトル)を用いて、以下の条件で解析を行った。
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM-LA400」
重溶媒:重水素化クロロホルム
(全光線透過率、ヘイズ)
射出成形またはプレス成形サンプルについて、分光色差計(日本電色工業(株)製「SE5000」)を使用し、JIS-K7361に準拠して全光線透過率およびヘイズを測定した。
(曲げ弾性率)
射出成形またはプレス成形サンプルについて、JIS-K7171に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における3点曲げを実施し、曲げ弾性率(MPa)を測定した。
(シャルピー衝撃値)
射出成形またはプレス
成形サンプルについて、温度23℃、相対湿度50%の条件において、衝撃値(ノッチ無し)をJIS-K7111に準拠した方法で測定した。10回の測定を行い、その平均値をシャルピー衝撃値として採用した。
(各層あるいはブロックの質量)
多層構造重合体粒子(a)のゴム成分層(aI)と硬質樹脂成分層(aII)の質量は、使用した単量体がほぼ全て反応しているので、単量体又は単量体混合物の質量に基づき計算した。ブロック共重合体のアクリル系重合体ブロック(bI)、メタクリル系重合体ブロック(bII)の質量は、各重合体ブロックを重合時の反応液をサンプリングし、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMRスペクトル)を用いて測定した。
[原料]
実施例および比較例で用いた原料は、以下の通りである。
(メタクリル系樹脂(A))
メタクリル系樹脂(A-1):メチルメタクリレート(MMA)単位(含有量99.3質量%)およびメチルアクリレート(MA)単位(含有量0.7質量%)からなり、Mw=84,000、Mw/Mn=2.1であるメタクリル系共重合体。
メタクリル系樹脂(A-2):メチルメタクリレート(MMA)単位(含有量93.6質量%)およびメチルアクリレート(MA)単位(6.4質量%)からなり、Mw=120,000、Mw/Mn=2.1であるメタクリル系共重合体。
メタクリル系樹脂(A-3):メチルメタクリレート(MMA)単位(含有量93.6質量%)およびメチルアクリレート(MA)単位(6.4質量%)からなり、Mw=200,000、Mw/Mn=2.4であるメタクリル系共重合体。
なお、以下において、「部」は「質量部」を意味する。
(ゴム状弾性体(B))
(多層構造重合体粒子(a));
製造例1;多層構造重合体粒子(Ba-1):
コンデンサ、温度計および撹拌機を有し且つグラスライニングが施された反応容器にイオン交換水100部を入れ、次いで界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム(NIKKOL-ECT-3NEX))0.019部および炭酸ナトリウム0.10部を添加して溶解させた。反応容器内を窒素ガスで置換して実質的に酸素がない状態にした。その後、反応容器内を加熱して水溶液を80℃にした。
前記水溶液に、過硫酸カリウム0.04部を加え、さらにメタクリル酸メチル32.6部、アクリル酸メチル2.1部およびメタクリル酸アリル0.07部からなる混合物cを50分間かけて間断なく添加した。混合物cの添加終了後40分間保持し、乳化重合を行ってラテックスcを得た。
次いで、ラテックスcに、過硫酸カリウム0.05部を添加し、さらにアクリル酸ブチル36.6部、スチレン7.9部およびメタクリル酸アリル0.89部からなる混合物iを60分間かけて間断なく添加した。混合物iの添加終了後90分間保持し、シード乳化重合を行ってラテックスiを得た。
次いで、このラテックスiに、過硫酸カリウム0.02部を添加し、さらにメタクリル酸メチル18.6部、アクリル酸メチル1.2部およびn-オクチルメルカプタン0.04部からなる混合物oを30分間かけて間断なく添加した。混合物oの添加終了後60分間保持し、シード乳化重合を行ってラテックスI-1を得た。撹拌機を備えた容器に、ラテックスI-1を入れ混合した後、硫酸マグネシウム水溶液を添加して、塩析凝固させた。凝固物を水洗し、脱水し、乾燥させて、多層構造重合体粒子(a-1)を得た。多層構造重合体粒子(a-1)の物性を表1に示す。
製造例2;多層構造重合体粒子(Ba-2):
コンデンサ、温度計および撹拌機を有し且つグラスライニングが施された反応容器にイオン交換水100部を入れ、次いで界面活性剤(花王株式会社製「ペレックスSS-H」)0.019部および炭酸ナトリウム0.5部を添加して溶解させた。反応容器内を窒素ガスで置換して実質的に酸素がない状態にした。その後、反応容器内を加熱して水溶液を80℃にした。
前記水溶液に、過硫酸カリウム0.02部を加え、さらにメタクリル酸メチル9.4部、アクリル酸メチル0.6部およびメタクリル酸アリル0.02部からなる混合物cを20分間かけて間断なく添加した。混合物cの添加終了後30分間保持し、乳化重合を行ってラテックスcを得た。
次いで、ラテックスcに、過硫酸カリウム0.07部を添加し、さらにアクリル酸ブチル41.1部、スチレン8.9部およびメタクリル酸アリル2.0部からなる混合物iを80分間かけて間断なく添加した。混合物iの添加終了後60分間保持し、シード乳化重合を行ってラテックスiを得た。
次いで、このラテックスiに、さらにメタクリル酸メチル37.6部、アクリル酸メチル2.4部およびn-オクチルメルカプタン0.12部からなる混合物oを60分間かけて間断なく添加した。混合物oの添加終了後60分間保持し、シード乳化重合を行ってラテックスI-2を得た。撹拌機を備えた容器に、ラテックスI-2を入れ混合した後、硫酸マグネシウム水溶液を添加して、塩析凝固させた。凝固物を水洗し、脱水し、乾燥させて、多層構造重合体粒子(Ba-2)を得た。多層構造重合体粒子(Ba-2)の物性を表1に示す。
製造例3;多層構造重合体粒子(Ba-3):
窒素雰囲気下、攪拌翼、冷却管、および滴下ロートを装着した重合器に、蒸留水150質量部、乳化剤(花王社製「ネオペレックスG-15」)1.3質量部、および分散剤(花王社製「ポイズ520」)1.0質量部を入れ、80℃に加熱して均一に溶解させた。次いで、同温度にて、ペルオキソ二硫酸カリウム0.05質量部を加えた後、アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート(BA)41.25質量部、他の単官能性単量体としてのスチレン(St)8.75質量部、多官能性単量体としてのアリルメタクリレート(ALMA)0.3質量部、および界面活性剤(ADEKA社製「アデカコールCS-141E」)0.25質量部からなる混合物を滴下ロートより60分かけて滴下し、1層目を形成した(層(Ia))。滴下終了後、80℃でさらに1時間反応を続け、ガスクロマトグラフィで各単量体が99%以上消費されたことを確認した。
次いで、得られた共重合体ラテックスにペルオキシ二硫酸カリウム0.02質量部を加えた後、アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート(BA)15.81質量部、他の単官能性単量体としてのスチレン(St)3.19質量部、他の単官能性単量体としてのメチルメタクリレート(MMA)1.0質量部、多官能性単量体としてのアリルメタクリレート(ALMA)0.16質量部、および界面活性剤(「アデカコールCS-141E」)0.1質量部からなる混合物を滴下ロートより40分かけて滴下し、2層目を形成した(層(Ib))。滴下終了後、80℃でさらに1時間反応を続け、ガスクロマトグラフィで各単量体が99%以上消費されたことを確認した。
次いで、得られた共重合体ラテックスにペルオキソ二硫酸カリウム0.03質量部を加えた後、メタクリル酸エステル単量体としてのメチルメタクリレート(MMA)28.5質量部、他の単量体としてのメチルアクリレート(MA)1.5質量部、n-オクチルメルカプタン0.3質量部、および界面活性剤(「アデカコールCS-141E」)0.15質量部からなる混合物を滴下ロートより40分かけて滴下し、3層目を形成した(層(II))。滴下終了後、80℃でさらに1時間反応を続け、ガスクロマトグラフィで各単量体が99.9%以上消費されたことを確認して重合を終了した。
得られたラテックスを撹拌機を備えた容器に入れ混合した後、硫酸マグネシウム水溶液を添加して、塩析凝固させた。凝固物を水洗し、脱水し、乾燥させて、多層構造重合体粒子(a-3)を得た。多層構造重合体粒子(a-3)の物性を表1に示す。
(ブロック共重合体(b)) ;
ブロック共重合体(Bb-1):[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(bII)]-[n-ブチルアクリレート(BA)/アクリル酸ベンジル(BzA)共重合体ブロック(bI)]からなり、重量平均分子量(Mw)が90,000であり、重合体ブロックの質量比(bII):(bI)が50:50、各単量体の質量比(MMA:BA:BzA)=(50:36:14)、Mw(b1)=45,000、Mw(b2)=45,000であるジブロック共重合体。
ブロック共重合体(Bb-2):[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(bII)]-[n-ブチルアクリレート(BA))共重合体ブロック(bI)]からなり、重量平均分子量(Mw)が120,000であり、重合体ブロックの質量比(bII):(bI)が50:50、各単量体の質量比(MMA:BA)=(50:50)、Mw(b1)=60,000、Mw(b2)=60,000であるジブロック共重合体。
ブロック共重合体(Bb-3):[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(bII)]-[n-ブチルアクリレート(BA)重合体ブロック(bI)]-[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(bII)]からなり、重量平均分子量(Mw)が67,000万であり、重合体ブロックの質量比(bII):(bI):(bII)が17.0:50.0:33.0、各単量体の質量比(MMA:BA)=(50:50)、Mw(b1)=33,500、Mw(b2)=33,500であるトリブロック共重合体。
[実施例1]
メタクリル系樹脂(A-1)78.9質量部、多層構造重合体粒子(Ba-1)8.1質量部、およびブロック共重合体(Bb-1)13.0質量部を40mmφの単軸押出機にてシリンダ温度230~250℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂組成物を押出して、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物(R1)を得、80℃で24時間乾燥させた。
シリンダ温度250℃、金型温度50℃に設定した射出成形機(名機製作所製M-100C)を用いて、メタクリル系樹脂組成物(R1)を充填速度50mm/sでJIS試験片金型に射出し、10mm×80mm×4mmおよび50mm×50mm×3mmの成形品を得た。物性評価結果を表2に示す。
[実施例2~9]
表2に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にして、メタクリル系熱可塑性樹脂組成物(R2)~(R9)を得た。各実施例においては、実施例1と同様にして、得られた樹脂組成物を用いて成形品を得た。各実施例における物性評価結果を表2に示す。
[比較例1~7]
表2に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物(R10)~(R16)を得た。各比較例においては、実施例1と同様にして、得られた樹脂組成物を用いて成形品を得た。各比較例における物性評価結果を表2に示す。
[考察]
特定のメタクリル系樹脂(A)、特定の多層構造重合体粒子(Ba1)および、特定のブロック共重合体(Bb-1)又は(Bb-2)とを含む本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いた実施例1~9で得られた成形品は、光学性能、機械的性能を保持したまま、衝撃強度が良好であった。
これに対して、メタクリル系樹脂(A)単独、またはメタクリル系樹脂(A)とブロック共重合体(Bb-2)とから成り、多層構造重合体粒子(a)を含まないメタクリル系樹脂組成物を用いた比較例1~2で得られた成形品は、同程度のゴム含有量の実施例と比較し衝撃強度が不良であった。
全体のゴム含有量に対して多層構造重合体粒子(a)およびブロック共重合体(b)の一方のゴム含有量が他方のゴム含有量に対し極端に多いまたは少ないメタクリル系樹脂組成物を用いた比較例3~5で得られた成形品は、同程度のゴム含有量の実施例と比較し衝撃強度が不良であった。
体積平均粒子径が小さい多層構造重合体粒子(Ba-2)、(Ba-3)を含有するメタクリル系樹脂組成物を用いた比較例6~7で得られた成形品は、実施例と比較し衝撃強度が不良であった。