以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る粒子線治療装置は、ガントリを連続回転させながらスキャニング照射する。この照射方法は、連続回転照射と呼ぶことができる。
従来技術では、ビームを照射する対象スポットを二次元座標値として定義するだけであり、ビームの入射角度および入射角度の許容範囲についての考察は存在しない。したがって、ガントリを連続回転させながら照射装置からビームを照射させる場合、ビームを所定の位置へ照射できないことも考えられる。
そこで、本実施形態では、ガントリを連続回転させながら照射装置からビームを照射できるようにすると共に、各スポットに対して許容される角度範囲を設定し、この許容される角度範囲にガントリの角度が入ったときに、照射装置からビームを照射させる。すなわち、本実施形態では、対象スポットの位置に応じてガントリの回転を制御するのではなく、ガントリを連続回転させながら、ガントリが対象スポットについての所定の角度範囲に達した瞬間にビームを照射する。
本実施形態では、図7で後述するように、スポット管理情報T1により、各スポットへのビーム照射を管理する。スポット管理情報T1は、スポットの位置およびビームの情報(以下、位置情報等とも呼ぶ)と、ビームの照射角度に関する所定の角度範囲とをスポットごとに対応付けて記憶している。
スポットの位置およびビームの情報は、例えば、座標(x, y)[mm]と、ビームエネルギE[MeV/n]または飛程Range[mm]と、照射量Q[MU])とを含む。所定の角度範囲は、例えば、照射角度θと、許容される角度範囲dθとを含む。
ガントリは照射装置を患者の周囲で回転させるものであり、ガントリの角度により照射装置の角度も定まる。そこで、本実施形態では、照射装置の角度をガントリの角度として表現する場合がある。
本実施形態の制御装置は、ガントリの角度をリアルタイムで取得し、例えば、加速器の状態を示す情報と治療台の状態を示す情報とガントリの角度とに基づいて、連続回転照射を制御する。
本実施形態によれば、ガントリが連続回転しながら照射装置からビームが照射されるため、従来の”Step and Shoot”方式に比べて、治療時間を短縮することができる。本実施形態の粒子線治療装置の治療時間は、(ビームを照射する方向の数)×(回転中のためにビームを照射できない時間)の分だけ短くできる。本実施形態の粒子線治療装置は、1スポットごとの角度条件に対応してビームを照射する制御システムであるため、ビームの照射方向を数十個ないし数百個に増やすことができ、線量集中性を向上させることができる。
図1は、本実施形態に係る粒子線治療装置1の全体概要を示す説明図である。図1(1)に示すように、本実施形態では、ガントリ13(図2参照)を移動経路TRに沿って連続的に移動させる。本実施形態では、円状または略円状の軌跡に沿って移動することを、連続回転と呼ぶことがある。
ガントリ13の内部には、治療台15が多関節ロボットアーム152(いずれも図3参照)により支持されている。患者4は、治療台15の天板151(図3参照)に載せされて固定される。
ガントリ13が軌跡TRに沿って連続回転すると、この回転に伴って照射装置14の位置および姿勢も連続的に変化する。ガントリの角度(照射装置の照射角度)が予め設定された所定の角度範囲に入ると、粒子ビームが患者4の患部41へ向けて照射される。
照射角度(ガントリ角度)が所定の角度範囲から外れたり、所定のエネルギを持つビームを生産できなかったりすると、ビームのスキャニング照射は停止される。ビームの照射中および照射停止中も、ガントリ13は停止することなく回転し続けている。そして、ガントリの角度が、次の照射候補であるスポットについての所定の角度範囲に入ると、照射装置14からビームが照射される。このように、本実施形態では、ガントリ13を連続回転させながら、照射装置の角度が各スポットに設定された所定の角度範囲に入るたびに、そのスポットへ向けてビームを照射する。
図1(2)は、粒子線治療装置1の全体制御を司るメインコントローラ21(図2参照)の機能構成である。メインコントローラ21の動作の詳細は、図6等で後述する。メインコントローラ21は、例えば、治療計画取得部F11、患者状態取得部F12、スポット情報生成部F13、照射制御部F14、加速器状態取得部F15、ガントリ角度取得部F16、治療台状態取得部F17、照射状態取得部F18を備える。
治療計画取得部F11は、医師の作成した治療計画を取得する機能である。患者状態取得部F12は、例えば、CT(Computed Tomography)装置等により計測された患部41の状態等を取得する機能である。スポット情報生成部F13は、治療計画と患部の状態とに基づいて、少なくとも一つのスポット(通常は複数のスポット)を設定し、各スポットの情報を生成する機能である。生成されたスポットの位置情報等と所定の角度範囲とは、スポット管理情報T1(図7参照)に記憶される。
照射制御部F14は、照射装置14によるビーム照射を制御する機能である。照射制御部F14は、加速器状態取得部F15とガントリ角度取得部F16と治療台状態取得部F17とからそれぞれ取得する情報と、照射状態取得部F18で取得した照射結果とに基づいて、ビームの照射および停止を制御する。
加速器状態取得部F15は、加速器12から所定のエネルギを持つビームを取り出すことができるかを示す情報を取得する機能である。ガントリ角度取得部F16は、ガントリ13の角度を取得する機能である。ガントリ13の角度は、図示せぬ回転角センサにより検出できる。ガントリ13が一定速度で移動する場合、経過時間に基づいて角度を算出することもできる。
治療台状態取得部F17は、治療台15の状態を取得する機能である。治療台15の状態とは、例えば、治療台15の位置および姿勢である。照射状態取得部F18は、患部41へ照射された線量を監視する機能である。患部41に対する予定の線量が実現されると、照射制御部F14は、ビーム照射を停止させる。
図1(3)は、ガントリ13の移動(連続回転)と照射装置によるビーム照射の状態との関係を示すグラフである。図1(3)の上側は、ガントリ13の速度変化を示す。図1(3)の下側は、ビーム照射のオンオフ状態を示す。
ガントリ13が初期位置(速度=0)から移動を開始し、時刻t1から時刻t4まで一定速度で連続回転するものとする。第1スポットに対するビーム照射期間ARC1は、時刻t1から時刻t2までである。すなわち、時刻t1から時刻t2までの間、ガントリの角度は、第1スポットの所定の角度範囲に入っている。第1ビーム照射期間ARC1では、時々刻々と角度の変わる照射装置14から複数のビームが患部41へ向けてスキャニング照射される。
時刻t2を過ぎると、ガントリ13の角度は第1スポットの所定の角度範囲から外れるため、ビーム照射は停止される。ガントリ13はそのまま回転を続け、時刻t3で第2スポットについての所定の角度範囲に入る。時刻t3から時刻t4までは、第2スポットへビームを照射する第2ビーム照射期間ARC2である。第2ビーム照射期間ARC2においても、時々刻々と角度の変わる照射装置14から複数のビームが患部41へ向けてスキャニング照射される。
このように構成される本実施形態によれば、ガントリ13を連続回転させながら、照射装置14から患部41へ向けてビームをスキャニング照射させることができる。本実施形態によれば、ガントリ13の角度がいずれかのスポットの所定の角度範囲に入る場合に、所定の角度範囲に入ったスポットに向けて照射装置14からビームを照射させる。これにより、本実施形態に係る粒子線治療装置1によれば、従来方式よりも多くビームを患部41へ照射することができ、治療の効率を高めることができ、患者の生活の質を向上させることができる。
図2~図11を用いて第1実施例を説明する。図2は、粒子線治療装置1の全体構成を示す。粒子線治療装置1は、例えば、イオン源および入射装置11と、粒子線加速器12と、回転可能なガントリ13と、照射装置14と、治療台15と、制御システム20とを含んで構成される。
イオン源で生成された荷電粒子は、入射装置により粒子線加速器12に導かれる。図2では、前段加速器とシンクロトロンとを用いたシステムを示しているが、サイクロトロンやシンクロサイクロトロンを用いてもよいし、または、超電導電磁石を使用する粒子線加速器であってもよい。
加速器12内で加速された荷電粒子ビーム3は、ビーム輸送系とガントリ13とを解して、治療室へ輸送される。荷電粒子ビーム3は、ガントリ13に支持された照射装置14から、治療台15上の患者4へ向けて照射される。荷電粒子ビームを粒子ビームまたはビームと略記する場合がある。また、ビームの登場回数は多いため、符号「3」を省略する場合がある。
粒子線治療装置1を制御する制御システム20の構成例を説明する。制御システム20は、例えば、メインコントローラ21と、治療計画装置22と、補助イメージング機器制御装置23と、記憶装置24とを含む。詳細な構成例については、図5で後述する。
図3は、照射装置14の構成とビーム照射の様子とを示す。
患部41の或るスポット42へビーム3を照射するために、図3に示す照射装置14が使用される。ビーム3のエネルギは、照射対象のスポット42(ターゲット)へ届くように選択される。レンジシフタ146を用いることにより、ビームエネルギをスポット42の深さに合わせて調節してもよい。
ここで、ビームは、小さい深さ領域で多くのエネルギを失う、すなわち細いブラッグピークを有する。一様な線量分布を形成するように、ブラッグピークの拡大が必要な場合がある。そのために、リッジフィルタ145が使用される。
ビームの進行方向に垂直する面に、スポット42の座標(x,y)が定義される。この二次元座標値に対応する電流が2つの走査電磁石141,142へ供給されることにより、ビームがスポット42へ届くように曲げられる。ビームの照射量と位置とは、線量モニタ143と位置モニタ144とにより測定される。治療計画で決定された所定線量のビームが正しい位置へ照射された後、次のスポットの照射へ移行する。
図4は、治療計画装置22の構成例を示す。治療計画装置22は、例えば、マイクロプロセッサ(図中、CPU:Central Processing Unit)221、メモリ222、記憶装置223、通信インターフェース装置224、ユーザインターフェース装置225を有するコンピュータシステムとして構成される。
記憶装置223は、例えば、フラッシュメモリデバイス、ハードディスクドライブなどから構成されており、オペレーティングシステム2231と治療計画プログラム2232といったコンピュータプログラムを記憶している。これらのコンピュータプログラム2231,2232以外に、ドライバソフトウェアなどのソフトウェア(不図示)も記憶装置223に格納されている。
マイクロプロセッサ221が、記憶装置223に格納された治療計画プログラム2232をメモリ222に読み出して実行することにより、治療計画装置22としての機能が実現される。
通信インターフェース装置224は、メインコントローラ21と通信するための装置である。ユーザインターフェース装置225は、治療計画装置22を使用するユーザ(医師)との間で情報を交換する装置である。ユーザインターフェース装置225は、情報出力装置と情報入力装置とを含む。情報出力装置としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、音声合成装置等がある。情報入力装置としては、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル音声認識装置等がある。例えば、治療計画の計算結果と、プログラム2232への操作とはディスプレイに表示される。
治療計画プログラム2232は、患者4と患部41とに対して、最適のスポット管理情報T1を計算する。治療計画プログラム2232は、オペレーションシステム2231上で動作し、必要なメモリ222とマイクロプロセッサ221とにアクセスできる。治療計画プログラム2232は、患者情報を入力したり計算結果を保存したりするために、ユーザインターフェース装置225を用いて記憶装置223にアクセスすることもできる。
治療計画を作成するワークフローは、図6で後述する。ここで、治療計画ソフトウェア2232の概要を先に説明すると、医師は、治療計画ソフトウェア2232を用いることにより、患部41へ照射するビームの角度を幾つか決定する。治療計画プログラム2232は、医師により決定された各照射角度に基づいて、ビームを照射する各スポットの情報を最適化するように作成する。
図5に、制御システム20の全体構成を示す。本実施例では、メインコントローラ21は、照射制御の中心的役割を担う。メインコントローラ21は、例えば、治療計画装置22、補助イメージング機器制御装置23、記憶装置24、加速系制御装置25、ガントリ制御装置26、照射制御装置27、治療台制御装置28と接続されている。
補助イメージング機器制御装置23は、例えば、CT装置等である。補助イメージング機器制御装置23は、動く患部41を追跡する装置として構成されてもよい。例えば、補助イメージング機器制御装置23は、患部41の近傍に埋め込まれた金マーカの動きをX線透視装置で追跡することができる。
記憶装置24は、粒子線治療の履歴データ(進捗状況を示すデータ)等を保存するための装置である。
加速系制御装置25は、加速器12とビーム輸送系とを制御する。加速系制御装置25は、加速器12を制御する加速器制御装置251と、ビーム輸送系を制御する輸送系制御装置252とを、それぞれ制御する。
ガントリ制御装置26は、ガントリ13を制御する。照射制御装置27は、照射装置14を制御する。照射制御装置27は、走査磁石制御装置271と、線量モニタ制御装置272と、位置モニタ制御装置273と、リッジフィルタ制御装置274と、レンジシフタ制御装置275とを、それぞれ制御する。走査磁石制御装置271は、走査電磁石141,142を制御する。線量モニタ制御装置272は、線量モニタ143を制御する。位置モニタ制御装置273は、位置モニタ144を制御する。リッジフィルタ制御装置274は、リッジフィルタ145を制御する。レンジシフタ制御装置275は、レンジシフタ146を制御する。
治療台制御装置28は、治療台15の位置および姿勢等を制御する。
制御システム20のメインコントローラ21は、治療計画装置22から治療計画を読み込み、その治療計画に基づいて各サブシステムの制御装置23,25,26,27,28へ指示することにより、加速器12、ビーム輸送系、ガントリ13、照射装置14、治療台15等を制御する。
メインコントローラ21は、患部41へのビーム照射の進捗状況を記憶装置24に保存することができる。治療の再開時に、メインコントローラ21は、記憶装置24から前回の治療時の進捗状況を読み出して利用することができる。
図6は、治療計画作成処理のフローチャートである。治療計画装置22は、照射対象の患者4のCT画像を読み込み(S11)、医師からの指示(処方)をユーザインターフェース装置225を介して受け取る(S12)。医師の処方には、例えば、どの患部にどれだけの線量のビームを照射するか、ビームから保護すべき重要臓器はどれかといった情報が含まれる。
治療計画装置22は、ビームの照射対象である各スポットと、各スポットへのビーム照射方向を設定する(S13)。治療計画装置22は、各スポットへの照射線量を最適化する(S14)。治療計画装置22は、各スポットについての照射角度と照射線量とが決定された後、患者体内の線量分布を計算する(S15)。
治療計画装置22は、治療計画の作成結果をユーザインターフェース装置225を通じて表示し(S16)、作成された治療計画を記憶装置24へ保存させる(S17)。さらに、治療計画装置22は、他のサブシステムの制御装置23,25,26,27,28に対して、それらが必要とする情報を送信する。
図7は、スポット管理情報T1の構成例を示す。スポット管理情報T1は、治療計画装置22により、スポットごとに生成される情報である。スポット管理情報T1は、スポットの位置およびビームの情報(C11~C13)と、所定の角度範囲(C14,C15)とを含む。
座標情報C11は、スポット位置をビームの入射する平面上の二次元座標(x,y)として特定する。ビーム情報C12は、スポットの位置(深度)に対応するビームエネルギまたは飛程を示す。線量/粒子数/ビーム電流情報C13は、ビームの照射量を示す。照射角度情報C14は、スポットへ照射されるビームの角度の基準値(θ)を示す。許容角度範囲情報C15は、ビームの照射角度の許容範囲を示す。ビームは、許容範囲内の角度でスポットへ照射される。許容範囲から外れるとビーム照射は停止される。
許容角度は、基準角度(θ)に対してプラスdθからマイナスdθの範囲として設定することができる。照射装置14の進行方向前側と後側とで許容角度の値を変えることもできる。
図8は、本実施例による連続回転照射の様子を示す。連続回転照射を実現する粒子線治療装置1の制御方法は、図9で後述する。
照射装置14は、図8中の左側から右側に向けて移動するものとする。治療計画において腫瘍等の患部41には、複数のスポット42が設定されている。照射装置14の角度(ガントリ13の回転角度)が各スポット42の角度範囲(θ,dθ)に入ると、当該スポットへビームが照射される。
図9は、粒子線照射処理の全体を示すフローチャートである。最初に、メインコントローラ21は、治療計画装置22から治療計画を読み込む(S21)。前回の治療の続きを再開する場合、メインコントローラ21は、記憶装置24から前回の進捗状況を読み出す(S21)。
ガントリ13が安定に回転し始めると、メインコントローラ21は、ガントリ制御装置26からガントリ13の角度を示す情報(例えばθg1, θg2, θg3,・・・)を受信する(S22)。ここでは、ガントリ制御装置26は、ガントリ13の角度を数値情報としてメインコントローラ21へ送信する。角度の数値をそのまま送信する方式を、本明細書では”Data type”と呼ぶ。図12(1)に、”Data type”の例を示す。上述の通り、ガントリ13は照射装置14を支持して移動させるものであるため、ガントリ13の角度は照射装置14の角度を示すことになる。
メインコントローラ21は、角度(例えばθg1)と他のサブシステムの25,27,28からの情報とを受信し(S22)、それら受信した情報に基づいて、ビームを照射中であるか判定する(S23)。
メインコントローラ21は、ビーム照射中ではないと判定すると(S23:NO)、治療計画とスポット管理情報T1とを参照することにより、照射対象となるスポット候補を決定する(S24)。メインコントローラ21は、決定されたスポット候補の深さに対応するビームを加速系制御装置25に準備させる(S25)。メインコントローラ21は、例えば、加速系制御装置25に対してビームエネルギの切り替えを指示する。あるいは、メインコントローラ21は、照射制御装置27に対してレンジシフタ146の調整を指示する。メインコントローラ21は、加速系制御装置25および照射制御装置27の両方へ指示してもよい。
メインコントローラ21は、各サブシステムの制御装置25~28からの情報に基づいて、照射を開始するか判断する(S26)。照射開始を判定するステップS26の詳細は、図10で後述する。
メインコントローラ21は、ビーム照射の開始を決定すると(S26:YES)、照射制御装置27に対して照射開始を指示する(S27)。照射制御装置27は、メインコントローラ21から照射開始信号を受信すると、照射装置14から対象スポットに向けてビームを照射させる。メインコントローラ21は、照射を開始できない場合(S26:NO)、ステップS22へ戻る。
メインコントローラ21は、ビーム照射の履歴を進捗状況として記憶装置24へ保存させる(S30)。
一方、メインコントローラ21は、ステップS23において、ビーム照射中ではないと判定すると(S23:YES)、各制御装置25~28の情報に基づいて、現在実行中のビーム照射を中止すべきか判断する(S28)。照射中止を判断するステップS28の詳細は、図11~図13で後述する。
メインコントローラ21は、ビーム照射を中止すべきと判定すると(S28:YES)、照射制御装置27に中止を指示する(S29)。照射制御装置27は、メインコントローラ21から中止信号を受信すると、照射装置14によるビーム照射を中止させる。そして、メインコントローラ21は、ビーム照射の履歴を進捗状況として記憶装置24へ保存させる(S30)。メインコントローラ21は、照射を中止しない場合(S28:NO)、ステップS22へ戻る。
図10は、図9中のステップS26で述べた照射開始の判定処理を示すフローチャートである。以下、座標(x1,y1)に位置する対象スポット(Spot1)に対して、エネルギE1を持つビームを所定の角度範囲(θ1,dθ1)から照射させる場合を例に挙げて説明する。
上述の通り、メインコントローラ21は、各制御装置25~28から情報を取得し(S41)、治療計画およびスポット管理情報T1に基づいて照射対象のスポット候補(以下、対象スポットとも呼ぶ)を決定する(S42)。そして、メインコントローラ21は、対象スポット(Spot1)に設定されたエネルギ(E1)を持つビームの準備を加速系制御装置25へ指示する(S43)。
例えば、ガントリ角度θg1が所定の角度範囲(θ1-dθ1,θ1+dθ1)に入っており(S44:YES AND S45:YES)、かつ対象スポット(Spot1)へ照射すべきビームエネルギをエネルギE1まで加速できている場合(S46:YES)、照射条件が満たされる。そこで、メインコントローラ21は、Spot1(x1,y1,E1,Q1,θ1,dθ1)にビームを照射しても良いと判断し、照射開始を照射制御装置27に指示する(S47)。
詳しくは、メインコントローラ21は、ガントリ角度が所定の角度範囲に到達するまで(θ1-dθ1≦θg1)、ステップS41へ戻って待機する(S44:NO)。そして、メインコントローラ21は、ガントリ角度が所定の角度範囲から外れると(θg1≦θ1+dθ1)、ビーム照射を停止させる(S56)。
照射制御装置27は、メインコントローラ21から照射開始信号を受信すると(S48)、走査電磁石141,142へ対象スポットの二次元座標値(x1,y1)に対応する電流または電圧を供給して駆動する(S49)。さらに、照射制御装置27は、加速系制御装置25に対してエネルギE1を持つビームの出力を指示する(S50)。照射制御装置27から加速系制御装置25へ図示せぬ通信線を介して直接指示してもよいし、メインコントローラ21を介して指示してもよい。
照射制御装置27は、線量モニタ143および位置モニタ144からの信号を監視し(S51,S53)、停止条件が成立すると、加速系制御装置25に対してビーム出力の停止を指示する(S52,S54)。
すなわち、ビームの照射位置がずれた場合(S51:YES)、または、対象スポットへ照射された線量Q1が所定の線量Qtに達した場合(S53:YES)のいずれかの場合になると、加速器12からのビーム出力が停止される(S52,S54)。照射制御装置27は、対象スポットに対するビーム照射が終了した旨と照射された線量とをメインコントローラ21に報告する(S55)。
メインコントローラ21は、照射制御装置27から報告を受けると、対象スポットへの照射終了を確認し(S56)、進捗状況を記憶装置24へ保存させる(S57)。そして、メインコントローラ21は、次の照射対象のスポット候補が存在するか判定し(S58)、次の照射対象のスポット候補が有ると判定すると(S58:YES)、ステップS42に戻る。次の照射対象のスポット候補が存在しない場合(S58:NO)、メインコントローラ21は、照射の進捗状況を記憶装置24へ保存させる(S59)。
図11は、ビーム照射を終了または中止させる処理のフローチャートである。メインコントローラ21は、各サブシステムの制御装置25~28から情報を受信することにより、所定の中止条件が成立したか監視する(S62,S64,S66)。
メインコントローラ21は、例えば、対象スポットへの照射量が達成された場合(S62:YES)、ビーム照射を正常終了させる(S63)。メインコントローラ21は、ガントリ角度が対象スポットの所定の角度範囲から外れた場合(S64:YES)、ビーム照射を中止させる(S65)。メインコントローラ21は、加速器12から所定のエネルギを持つビームを取り出すことができない場合も(S66:YES)、ビーム照射を中止させる(S67)。
メインコントローラ21は、ビーム照射の終了または中止を決定すると、中止信号を照射制御装置27へ送信する(S68)。そして、メインコントローラ21は、次の照射対象のスポット候補を決定したり(S69)、進捗状況を記憶装置24へ保存させたりする(S70)。
例えば、粒子線加速器12としてシンクロトロンを使用する場合、蓄積電荷が無くなったり、ガントリ角度が許容範囲を超過したりすると、メインコントローラ21は、ビーム照射の中止を決定する。いずれの場合も、メインコントローラ21は、直ちに照射制御装置27に対して中止信号を送信する。
加速器12からビームを出射させることができないことにより照射を中止した場合、メインコントローラ21は、加速系制御装置25に対して、電荷を補充する制御の実行を要求する。ガントリ角度が所定の角度範囲を超過した場合および正常終了の場合、メインコントローラ21は、照射の進捗状況を記憶装置24へ保存させると共に、次の照射対象のスポット候補を選択する。
ここで、ステップS62とステップS64とは、ステップS66の前に実行されるのが好ましい。その理由は、過剰なビーム照射を抑制するためである。中止条件の判断S62,S64,S66を並列に実行するのではなく、順番に沿って実行することにより、制御の正確性を担保することができる。
照射の進捗状況を記憶装置24に保存させる場合は、各スポットへ照射した線量を記録する。スポットに代えて、例えば、ビームの照射方向、層(Layer,同じエネルギのビームが照射するスポットからなる層をさす)の概念で進捗状況を保存してもよい。進捗状況の保存形式は問わない。
理想的には、ガントリ13が0度から360度まで一回転する間に、全スポットへの照射が終了する。しかし、図10で述べたように、所定の処方線量の投与が終了する前に、照射を中止せざるを得ない場合も考えられる(S62,S64,S66)。その場合、メインコントローラ21は、照射の再開が可能になると、前回の治療時に保存された進捗状況を記憶装置24から読み込み、治療を続行することができる。
中断された治療を再開する場合、ガントリ13を前回の回転方向とは反対の方向へ回転させることが考えられる、この場合、ガントリ13の角度が所定の角度範囲に入ったかを判断するために使用する設定値((θ-dθ-),(θ+dθ+)など)の符号を逆にする必要がある。ただし、(-dθ-)と(+dθ)とが同値の場合を除く。次のスポット候補を選択するときも、回転方向を考慮する。
このように構成される本実施例によれば、ガントリ13を連続回転させながら、照射装置14から患部41へ向けてビームをスキャニング照射させることができる。これにより、本実施例によれば、ビームを患部41へ効率的に照射することができ、治療の効率を高め、患者の生活の質を向上させることができる。
図12を用いて実施例2を説明する。本実施例を含む以下の各実施例は、実施例1の変形例に該当するため、実施例1との相違を中心に述べる。
本実施例のガントリ制御装置26は、ガントリ13の角度情報をメインコントローラ21へ送信する代わりに、ガントリ13が一定の角度に達するたびに電気的信号を1パルスだけメインコントローラ21へ送る。
図12(2)に示すように、ガントリ13が一定速度で回転する場合、電気的パルスはクロック信号の様に送られるため、この方式を”Clock type”と呼ぶ。データを送信する角度間隔が小さい場合、実施例1で述べた図12(1)に示す”Data type”に比べて、送受信を高速に行うことができるというメリットがある。
図12を用いて実施例3を説明する。本実施例のガントリ制御装置26は、各スポットにおける所定の角度範囲の情報(θとdθ)を予め読み込み、照射しても良い角度範囲をガントリ13が通過する期間中にゲート信号を発信する。
図12(3)に示すように、このゲート信号は、ガントリ13が所定の角度範囲の始点である角度(θ-dθ)に到達すると立ち上がり、ガントリ13が所定の角度範囲の終点である角度(θ+dθ)に到達すると立ち下がる長いデジタルパルスとして形成される。この方式を”Gate type”と呼ぶ。
“Gate type”では、ガントリ制御装置26がビームを照射可能かどうかを判断するため、メインコントローラ21を経由せずに、ガントリ制御装置26から加速系制御装置25および照射制御装置27へゲート信号を送信可能である。
さらに、“Gate type”は、コンピュータに代えて、ロジック回路により実現することができる。例えば、連続ビームを生成するサイクロトロン型加速器12に対し、ゲート信号をビーム出射信号として用いることにより、加速器系の制御に直接使用することもできる。
さらに、補助イメージング機器制御装置23も、照射の合図としてゲート信号を出力してもよい。この場合、補助イメージング機器制御装置23のゲート信号とガントリ制御装置26のゲート信号とをロジック回路へ入力し、両信号のAND(Coincidence)を取ることによって、ビームを照射させる信号(ビームオン信号)を生成することができる。このように、本実施例では、”Gate Type”信号を使用し、ロジック回路を活用することによって、制御の速度を向上することができる。
なお、図12(1)に示す“Clock type”と図12(3)に示す”Gate type”制御との正確性を担保するために、制御速度を考慮した上で”Data type”と組み合わせることも考えられる。すなわち、ガントリ角度を数値情報として取得することと、ガントリ13が所定の角度範囲に入ったことを示すゲート信号とを併用することにより、照射制御の精度を高めることもできる。
実施例4を説明する。実施例3で述べたように、すべての制御がメインコントローラ21を経由する必要はない。サブシステムの制御装置23~28間で信号を直接やり取りしてもよい。
ガントリ13は、ビーム照射中も連続回転するため、制御システムの処理速度は速いほど望ましい。そのため、ガントリ制御装置26と照射制御装置27および加速系制御装置25との間の直接通信が可能な制御システムが考えられる。
例えば、ガントリ制御装置26のクロック信号またはゲート信号を、ロジック回路で処理することにより、ビーム取り出し信号またはビームオンオフ信号を生成し、生成した信号を加速系制御装置25または照射制御装置27へ与えることが考えられる。
さらに例えば、ビームのオンオフ制御を素早く行うために、照射制御装置27と加速系制御装置25との間の直接通信が可能な制御システムであってもよい。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、照射制御を高速に実行することができる。
図13,図14を用いて実施例5を説明する。実施例5では、中止条件ごとに並列に照射中止を判断する。すなわち、本実施例では、図13の中心判断処理と図14の中止判断処理とをそれぞれ並列に実行し、いずれかの処理で中止が決定されると、ビーム照射を中止する。
図13は、ガントリ13の角度が所定の角度範囲から逸脱した場合に、ビームを照射を中止させる処理を示す。
メインコントローラ21は、ガントリ角度と加速器12の情報とを取得し(S81)、ガントリ13の角度が対象スポットの所定の角度範囲から外れているか判定する(S82)。メインコントローラ21は、ガントリ13の角度が所定の角度範囲から外れていると判定すると(S82:YES)、ビーム照射の中止を決定し(S83)、それまでの進捗状況を記憶装置24へ保存させる(S84)。ステップS82でNOと判定された場合、ステップS81へ戻る。
図14は、加速器12から所定エネルギのビームを取り出すことができない場合に、ビーム照射を中止させる処理を示す。
メインコントローラ21は、ガントリ13の角度と加速器12の情報とを取得し(S91)、ビーム出射が不可能であるか判断する(S92)。加速器12からビームを取り出せない場合(S92:YES)、メインコントローラ21は、ビーム照射の中止を判断し(S93)、それまでの進捗状況を記憶装置24へ保存させる(S94)。
メインコントローラ21は、加速系制御装置25に対して、ビームを生成するように指示することもできる。なお、ステップS92でNOと判定された場合、ステップS91へ戻る。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、第1実施例に比べてより早くビーム照射を中止することができるため、過剰なビーム照射を抑制することができる(図13の場合)。
実施例6を説明する。本実施例の粒子線治療装置1は、本実施例に特徴的な連続回転照射法だけでなく、従来の照射法(例えばIntensity Modulated Particle Therapy)も実行可能である。ここでは、本実施例による連続照射方式をARCモードと呼び、従来方式をIMPTモードと呼ぶ。
患者のケースによって、ARCモードとIMPTモードとを切り替えることができれば、より適切な治療を行うことができる。本実施例の粒子線治療装置1は、図15(1)に示すような画面を医師に提供する。この画面は、IMPTモードとARCモードのいずれかを選択するよう医師に提示する。
図15(2)に示すように、ARCモードが選択されると、医師は、連続回転照射の区間をガントリ13の角度で指定する。あるいは、図15(3)に示すように、連続しない複数の期間で連続回転照射を実施するように指定することもできる。この場合、連続回転照射を実施する期間と、次に連続回転照射を実施する期間との間に、ビーム照射を行わない期間が設けられる。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例によれば、IMPT法とARC法とを組み合わせることができるため、患者のケースに応じて適切なビーム照射を行うことができる。さらに、本実施例によれば、ガントリ13が一回転する間に、連続回転照射期間を複数設定することができるため、患部41以外の重要な臓器にビームが照射される可能性をさらに低減することができ、安全性と使い勝手を向上させることができる。
実施例7を説明する。本実施例では、ビーム照射が行われない期間中に、加速器12にビームを生成して準備させる。
治療計画装置22により最適化される照射計画では、ビームの照射される角度は連続で一様に分布するとは限らない。患部41の形状やその周辺に位置する他の組織の密度および重要臓器の位置等により、照射しない期間または対象スポットの少ない角度範囲が存在しうる。
その場合、或るスポットの照射が終了した後、次の対象スポットへの照射位置にガントリ13が到着しない隙間時間が生じる。メインコントローラ21は、隙間時間の長さを概算し、隙間時間が所定値以上の長さである場合に、シンクロトロン加速器のような不連続ビームを出射する粒子線加速器12に対して、蓄積電荷を補充するよう指示する。この指示は、メインコントローラ21から加速系制御装置25を通じて行われる。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例によれば、ビーム照射の行われない隙間時間を利用して加速器12に電荷を蓄積させることができるため、ビームが取り出せないことによる照射中止の可能性を低減することができ、治療時間を短縮することができる。
実施例8を説明する。実施例1等では、各スポットにビームを照射可能な角度範囲をあらかじめ設定し、ガントリ13の角度に応じてビーム照射を制御する。ガントリ13が一定速度で回転する場合、角度に代えて時間を用いることができる。ここで、ガントリ13の角度をθ、回転時間をt、単位時間に回転する角度(角速度)をωとすると、θ=ω×tが成り立つ。この式から、角速度が定数である場合、tとθは同じ情報を持つことが分かる。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、回転開始のタイミングと角度(角速度)とがわかれば、メインコントローラ21は通信せずに、内部クロックだけでガントリ角度を計算することができる。このため、制御システム20の動作をさらに高速化することができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。上述の実施形態において、添付図面に図示した構成例に限定されない。本発明の目的を達成する範囲内で、実施形態の構成や処理方法は適宜変更することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれる。さらに特許請求の範囲に記載された構成は、特許請求の範囲で明示している組合せ以外にも組み合わせることができる。