以下、図面を参照して本発明の実施の形態による水力機械のランナおよび水力機械について説明する。
(第1の実施の形態)
図1~図5を用いて、第1の実施の形態による水力機械のランナおよび水力機械について説明する。ここでは、まず、図1を用いて水力機械の一例であるフランシス水車について説明する。
図1に示すように、フランシス水車1は、水車運転時に上池から水圧鉄管(いずれも図示せず)を通って水が流入する渦巻き状のケーシング2と、複数のステーベーン3と、複数のガイドベーン4と、フランシス水車ランナ5(以下、単にランナ5と称する)と、を備えている。
ステーベーン3は、ケーシング2に流入した水をガイドベーン4およびランナ5に導くように構成されており、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ステーベーン3の間には、水が流れる流路が形成されている。
ガイドベーン4は、流入した水をランナ5に導くように構成されており、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ガイドベーン4の間には、水が流れる流路が形成されている。各ガイドベーン4は回動可能に構成されており、各ガイドベーン4が回動して開度を変えることにより、ランナ5に流入する水の流量が調整可能になっている。このようにして、後述する発電機7の発電量が調整可能になっている。
ランナ5は、ケーシング2に対して回転軸線Xを中心に回転可能に構成され、水車運転時にケーシング2から流入する水によって回転駆動される。すなわち、ランナ5は、ランナ5に流入する水の圧力エネルギーを回転エネルギーへと変換する。
ランナ5には、主軸6を介して発電機7が連結されている。発電機7は、水車運転時には、ランナ5の回転エネルギーが伝達されて発電を行うように構成されている。
ランナ5の水車運転時の下流側には、吸出し管8が設けられている。吸出し管8は、図示しない下池または放水路に連結されており、ランナ5を回転駆動させた水が、圧力を回復して、下池または放水路に放出されるようになっている。
なお、発電機7は、電動機としての機能をも有し、電力が供給されることによりランナ5を回転駆動するように構成されていてもよい。この場合、吸出し管8を介して下池の水を吸い上げて上池に放出させることができ、フランシス水車1を、ポンプ水車としてポンプ運転(揚水運転)することが可能になる。この際、ガイドベーン4の開度は、ポンプ揚程に応じて適切な揚水量になるように変えられる。
次に、本実施の形態によるランナ5について説明する。なお、以下では、水車運転時の水の流れに従って説明する。図2における太矢印は、水車運転時の設計点においてランナ5を流れる水の流れ方向(主流方向)を示している。
図2に示すように、ランナ5は、主軸6に連結されたクラウン9と、クラウン9の外周側に設けられたバンド10と、クラウン9とバンド10との間に設けられた複数のランナ羽根11と、を有している。ランナ羽根11は、周方向に所定の間隔をあけて配置されており、クラウン9とバンド10とにそれぞれ接合されている。ランナ羽根11の間には、水が流れる流路(翼間流路)が形成されている。
図2に示すように、ランナ羽根11は、水の入口側に配置された入口側端縁11Aと、水の出口側に配置された出口側端縁11Bと、を有している。また、図3に示すように、ランナ羽根11は、圧力面11P(第2面)と、圧力面11Pとは反対側に設けられた負圧面11N(第1面)と、を有している。圧力面11Pと負圧面11Nとによって、キャンバーラインCLが画定されている。ここで、キャンバーラインCLとは、圧力面11Pと負圧面11Nの両方に接する内接円の中心を結んでなる線を意味する。
本実施の形態においては、図3に示すように、ランナ羽根11は、圧力側面11PS(第2本体面)と、圧力側面11PSとは反対側に設けられた負圧側面11NS(第1本体面)と、を有する羽根本体11Sと、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13N(第1のコーティング層)と、を含んでいる。本実施の形態においては、圧力面11Pは、羽根本体11Sの圧力側面11PSによって構成されている。一方、負圧面11Nは、羽根本体11Sの負圧側面11NSのうちコーティング層13Nが設けられていない部分と、コーティング層13Nの表面13NSとによって構成されている。
また、ランナ羽根11は、負圧面11Nに設けられた後述する溝12N(第1の溝)を有している。本実施の形態においては、溝12Nは、コーティング層13Nに形成されている。以下、このことについて説明する。
上述したように、本実施の形態においては、ランナ羽根11は、羽根本体11Sの負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nを有している。コーティング層13Nは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bの近傍の領域に形成されている。より具体的には、コーティング層13Nは、ランナ羽根11のうちの下流側の領域に形成され、入口端13NAと出口端13NBとを有しており、圧力面11Pと負圧面11Nとの間の中間面ISに垂直な方向で(図3における上側から)見たときにコーティング層13Nの出口端13NBとランナ羽根11の出口側端縁11Bとが重なっている。ここで、中間面ISは、主流方向に沿ったランナ羽根11の断面であって、ランナ5の半径方向または回転軸線方向の任意の位置における断面のキャンバーラインCLを結んでなる面により構成される。
コーティング層13Nは、塗料により形成されている。コーティング層13Nは、負圧側面11NSに塗料が塗布されて硬化させることにより形成され得る。塗料として、例えばフッ素樹脂を含む塗料やシリコン樹脂を含む塗料等が用いられてもよい。また、塗料として、例えば加水分解型船底塗料が用いられてもよい。コーティング層13Nは、出口側端縁11Bに向かって厚くなるように形成されていてもよい。このようなコーティング層13Nは、例えば、既存のランナ羽根11の負圧面11Nの出口側端縁11Bの近傍の領域を切削加工等により薄くして、図3に示す負圧側面11NSのうちコーティング層13Nが設けられていない部分を形成し、当該部分に形成されてもよい。上述したように、このコーティング層13Nの表面13NSと負圧側面11NSのうちコーティング層13Nが設けられていない部分とによって、負圧面11Nが構成される。コーティング層13Nの表面13NSと負圧側面11NSのコーティング層13Nが設けられていない部分とは、滑らかに接続されている。
本実施の形態においては、図4および図5に示すように、このコーティング層13Nに、溝12Nが形成されている。溝12Nは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bまで延びている。溝12Nは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bにおいて下流側に開口している。図5に示す例においては、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nは、直線状に形成されており、コーティング層13Nの入口端13NAから出口端13NBまで延びるように形成されている。
図5に示すように、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14とは異なる方向に延びていてもよい。図示された例においては、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nは、設計点における主流方向14に対して反時計回りに角度θ1傾いた方向に延びている。これにより、溝12N内を流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Nを、中間面ISに垂直な方向で見たときに、設計点における主流方向14とは異なる方向に転向することができる。角度θ1は、例えば10度以上45度以下であってもよい。なお、溝12Nは、設計点における主流方向14に対して時計回りに傾いた方向に延びていてもよい。
また、図4に示すように、溝12Nは、出口側端縁11Bに向かって深くなっていてもよい。図示された例においては、溝12Nの深さは、コーティング層13Nの厚みと一致している。すなわち、溝12Nの底部では、負圧側面11NSが露出しており、溝12Nは、露出した負圧側面11NSを底面とし、露出したコーティング層13Nの壁面部分を側壁面としている。この場合、コーティング層13Nが、出口側端縁11Bに向かって厚くなるように形成されているため、溝12Nも、出口側端縁11Bに向かって深くなる。出口側端縁11Bにおける溝12Nの深さは、例えば0.5mm以上10mm以下であってもよい。なお、溝12Nの深さが、コーティング層13Nの厚みと一致していなくてもよく、例えばコーティング層13Nの厚みよりも小さくてもよい。この場合、溝12Nの底部では、負圧側面11NSは露出せず、溝12Nは、露出したコーティング層13Nの底面部分を底面とし、露出したコーティング層13Nの壁面部分を側壁面とする。
このような溝12Nが、負圧面11Nに、出口側端縁11Bに沿う方向に複数配列されていてもよい。図5に示すように、各溝12Nは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、互いに平行になるように、同じ方向に延びていてもよい。しかしながら、このことに限定されることはなく、各溝12Nは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、ランナ羽根11の出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14とは異なる方向に延びていれば、互いに異なる方向に延びていてもよい。
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によるフランシス水車1において水車運転を行う場合、図示しない上池から水圧鉄管、ケーシング2及びステーベーン3を介して水がガイドベーン4に流入し、ガイドベーン4からランナ5に水が流入する。このランナ5に流入した水によって、ランナ5が回転駆動される。回転駆動されるランナ5は、連結された主軸6を介して発電機7に回転エネルギーを伝達し、発電機7による発電が行われる。その後、水はランナ5から流入し、吸出し管8を通って、図示しない下池に放出される。
ランナ5に流入した水は、ランナ羽根11の圧力面11Pおよび負圧面11Nのそれぞれの側において入口側端縁11Aから出口側端縁11Bに向かって流れる。この間、水の流れによってランナ羽根11の圧力面11Pと負圧面11Nとの間に差圧が生じ、ランナ5を、回転軸線Xを中心に回転させる。
ここで、圧力面11Pを流れる水は、圧力側面11PSに沿って流れて、出口側端縁11Bを通過し、ランナ羽根11の下流側に流出する。設計点と同じ条件で水車運転を行った場合、圧力面11Pにおける出口側端縁11Bでの水の流れ方向15Pは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、設計点における主流方向14とほぼ一致する。
一方、負圧面11Nを流れる水の一部は、負圧側面11NSに沿って流れた後、出口側端縁11Bの近傍の領域に設けられた溝12Nに入り込み、溝12Nが延びる方向に沿って流れる。その後、水は、出口側端縁11Bを通過し、ランナ羽根11の下流側に流出する。ここで、上述したように、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nは、出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14とは異なる方向に延びている。このため、設計点と同じ条件で水車運転を行った場合でも、溝12N内を流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Nは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、設計点における主流方向14とは異なる方向になる。
一般に、水がランナ羽根11を通過する際、ランナ羽根11の下流側にカルマン渦が発生し得る。とりわけ、カルマン渦は、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとが対称になっている場合に、発生しやすい。
これに対して本実施の形態によれば、負圧面11Nに、ランナ羽根11の出口側端縁11Bまで延びる溝12Nが設けられている。このことにより、負圧面11Nを流れる水の一部は、溝12N内に入り込み、溝12N内を流れる。一方、圧力面11Pには溝が設けられていない。このため、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を抑制することができる。
とりわけ、本実施の形態によれば、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nが、ランナ羽根11の出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14とは異なる方向に延びている。このことにより、溝12N内を流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Nを、中間面ISに垂直な方向で見たときに、設計点における主流方向14とは異なる方向に転向することができる。一方、圧力面11Pには溝が設けられていないため、圧力面11Pにおける出口側端縁11Bでの水の流れ方向15Pは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、設計点における主流方向14とほぼ一致する。これにより、負圧面11Nを流れる水の流れ方向15Nと圧力面11Pを流れる水の流れ方向15Pとを異ならせることができる。このため、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を効果的に抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、溝12Nが、出口側端縁11Bに向かって深くなっている。このことにより、負圧面11Nを流れる水が、滑らかに溝12N内に誘導され、滑らかに溝12N内を流れることができる。このため、水の圧力エネルギーの損失を抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、負圧面11Nに、複数の溝12Nが設けられている。このことにより、出口側端縁11Bに沿って複数の溝12Nを配置することができ、設計点における主流方向14に直交する方向においてより広い領域で、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生を効果的に抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、溝12Nが、塗料により形成されたコーティング層13Nに形成されている、このことにより、負圧側面11NSに直接、溝12Nを形成することを不要にすることができ、溝12Nの形成を容易化することができる。このため、ランナ5の製造コストの増大を抑制することができる。
なお、上述した実施の形態において、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nが、出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14とは異なる方向に延びている例を示した。しかしながら、このことに限定されることはなく、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nが、出口側端縁11Bでの設計点における主流方向14と同じ方向に延びていてもよい。このような場合であっても、負圧面11Nを流れる水の一部は、溝12N内に入り込み、溝12N内を流れる。一方、圧力面11Pには溝が設けられていない。このため、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を抑制することができる。
また、上述した実施の形態において、負圧側面11NSにコーティング層13Nが設けられ、コーティング層13Nに溝12Nが形成されている例を示した。しかしながら、このことに限定されることはなく、負圧側面11NSにコーティング層13Nが設けられず、負圧側面11NSに直接、溝12Nが形成されていてもよい。例えば、既存のランナ羽根11の負圧面11Nに対して切削加工を行うことにより、溝12Nを形成してもよい。この場合、既存のランナ羽根11の負圧面11Nの出口側端縁11Bの近傍の領域を切削加工等により薄くしなくてもよい。このような場合であっても、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生を抑制することができる。
また、上述した実施の形態において、ランナ羽根11の第1面が負圧面11Nにより構成され、負圧面11Nに溝12Nが形成されている例を示した。しかしながら、このことに限定されることはなく、ランナ羽根11の第1面が圧力面11Pにより構成され、圧力面11Pに溝が形成されていてもよい。この場合、ランナ羽根11の第2面が負圧面11Nにより構成され、負圧面11Nには溝12Nが形成されていなくてもよい。このような場合であっても、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生を抑制することができる。
また、上述した実施の形態において、負圧面11Nに溝12Nが形成されているが、圧力面11Pには溝が形成されていない例を示した。しかしながら、このことに限定されることはなく、圧力面11Pおよび負圧面11Nの両方に溝が形成されていてもよい。この場合、圧力面11Pおよび負圧面11Nのそれぞれの側において、水の一部が、溝内に入り込み、溝内を流れる。これにより、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れが、それぞれの溝によって複雑化される。このため、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を抑制することができる。
また、この場合において、中間面ISに垂直な方向で見たときに、圧力面11Pに設けられた溝と負圧面11Nに設けられた溝とが、同じ方向に延びていてもよい。更に、この場合において、中間面ISに垂直な方向で見たときに、圧力面11Pに設けられた溝と負圧面11Nに設けられた溝とが、互いに異なる位置に配置されていてもよい。すなわち、中間面ISに垂直な方向で見たときに、圧力面11Pに設けられた溝と負圧面11Nに設けられた溝とが、重ならないように、または、部分的にのみ重なるように配置されていてもよい。この場合、キャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとをより一層非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を効果的に抑制することができる。
(第2の実施の形態)
次に、図6~図8を用いて、第2の実施の形態による水力機械のランナおよび水力機械について説明する。
図6~図8に示す第2の実施の形態においては、ランナ羽根が、第2面に設けられた、出口側端縁まで延びる第2の溝を有し、中間面に垂直な方向で見たときに、第1の溝と第2の溝とが、互いに異なる方向に延びている点が主に異なり、他の構成は、図1~図5に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、図6~図8において、図1~図5に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施の形態においては、ランナ羽根11は、圧力面11P(第2面)に設けられた溝12P(第2の溝)を有している。溝12Pは、後述するコーティング層13P(第2のコーティング層)に形成されている。
本実施の形態においては、図6に示すように、ランナ羽根11は、圧力側面11PS(第2本体面)に設けられたコーティング層13Pを有している。コーティング層13Pは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bの近傍の領域に形成されている。より具体的には、コーティング層13Pは、ランナ羽根11の下流側の領域に形成され、入口端13PAと出口端13PBとを有しており、中間面ISに垂直な方向で見たときにコーティング層13Pの出口端13PBとランナ羽根11の出口側端縁11Bとが重なっている。コーティング層13Pは、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nと対応する位置に設けられていてもよい。すなわち、コーティング層13Pは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nと重なる位置に設けられていてもよい。しかしながら、このことに限定されることはなく、コーティング層13Pは、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nと部分的に重なっていなくてもよい。例えば、コーティング層13Pの入口端13PAが、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nの入口端13NAよりも上流側または下流側に位置していてもよい。
コーティング層13Pは、塗料により形成されている。コーティング層13Pは、圧力側面11PSに塗料が塗布されて硬化させることにより形成され得る。塗料としては、負圧側面11NSに設けられたコーティング層13Nと同じ材料が用いられてもよい。コーティング層13Pは、出口側端縁11Bに向かって厚くなるように形成されていてもよい。このようなコーティング層13Pは、例えば、既存のランナ羽根11の圧力面11Pの出口側端縁11Bの近傍の領域を切削加工等により薄くして、図6に示す圧力側面11PSのうちコーティング層13Pが設けられていない部分を形成し、当該部分に形成されてもよい。このコーティング層13Pの表面13PSと圧力側面11PSのうちコーティング層13Pが設けられていない部分とによって、圧力面11Pが構成される。コーティング層13Pの表面13PSと圧力側面11PSのコーティング層13Pが設けられていない部分とは、滑らかに接続されている。
本実施の形態においては、図7および図8に示すように、このコーティング層13Pに、溝12Pが形成されている。溝12Pは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bまで延びている。溝12Pは、ランナ羽根11の出口側端縁11Bにおいて下流側に開口している。図8に示す例においては、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Pは、直線状に形成されており、コーティング層13Pの入口端13PAから出口端13PBまで延びるように形成されている。
図8に示すように、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nに設けられた溝12Nと圧力面11Pに設けられた溝12Pとが、互いに異なる方向に延びていてもよい。図示された例においては、中間面ISに垂直な方向で見たときに、圧力面11Pに設けられた溝12Pは、負圧面11Nに設けられた溝12Nが延びる方向とは反対側に、すなわち設計点における主流方向14に対して時計回りに、角度θ2傾いた方向に延びている。これにより、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nに設けられた溝12Nを流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Nと、圧力面11Pに設けられた溝12Pを流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Pとを異ならせることができる。角度θ2は、例えば10度以上45度以下であってもよく、角度θ1と等しくてもよい。なお、負圧面11Nに設けられた溝12Nが、設計点における主流方向14に対して時計回りに傾いた方向に延びている場合、圧力面11Pに設けられた溝12Pは、設計点における主流方向14に対して反時計回りに傾いていてもよい。
また、溝12Pは、溝12Nと同様に、出口側端縁11Bに向かって深くなっていてもよい。同様に、溝12Pの深さは、コーティング層13Pの厚みと一致していてもよい。この場合、コーティング層13Pが、出口側端縁11Bに向かって厚くなるように形成されているため、溝12Pも、出口側端縁11Bに向かって深くなる。出口側端縁11Bにおける溝12Pの深さは、溝12Nの深さと同程度であってもよい。なお、溝12Pの深さが、コーティング層13Pの厚みと一致していなくてもよく、例えばコーティング層13Pの厚みよりも小さくてもよい。
このような溝12Pが、圧力面11Pに、出口側端縁11Bに沿う方向に複数配列されていてもよい。図8に示すように、各溝12Pは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、互いに平行になるように、同じ方向に延びていてもよい。しかしながら、このことに限定されることはなく、各溝12Pは、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nに設けられた溝12Nが延びる方向とは異なる方向に延びていれば、互いに異なる方向に延びていてもよい。
圧力面11Pを流れる水の一部は、圧力側面11PSに沿って流れた後、出口側端縁11Bの近傍の領域に設けられた溝12Pに入り込み、溝12Pが延びる方向に沿って流れる。その後、水は、出口側端縁11Bを通過し、溝12Pが延びる方向に沿ってランナ羽根11の下流側に流出する。
一方、負圧面11Nを流れる水の一部は、負圧側面11NSに沿って流れた後、出口側端縁11Bの近傍の領域に設けられた溝12Nに入り込み、溝12Nが延びる方向に沿って流れる。その後、水は、出口側端縁11Bを通過し、溝12Nが延びる方向に沿ってランナ羽根11の下流側に流出する。
ここで、上述したように、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nに設けられた溝12Nと圧力面11Pに設けられた溝12Pとが、互いに異なる方向に延びている。このため、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nに設けられた溝12Nを流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Nと、圧力面11Pに設けられた溝12Pを流れた水が出口側端縁11Bを通過するときの水の流れ方向15Pとは、異なる方向になる。
このように本実施の形態によれば、圧力面11Pに、ランナ羽根11の出口側端縁11Bまで延びる溝12Pが設けられ、中間面ISに垂直な方向で見たときに、溝12Nと溝12Pとが、互いに異なる方向に延びている。このことにより、中間面ISに垂直な方向で見たときに、負圧面11Nを流れる水の流れ方向15Nと圧力面11Pを流れる水の流れ方向15Pとを異ならせることができる。このため、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。この結果、カルマン渦の発生を効果的に抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、溝12Pが、出口側端縁11Bに向かって深くなっている。このことにより、圧力面11Pを流れる水が、滑らかに溝12P内に誘導され、滑らかに溝12P内を流れることができる。このため、水の圧力エネルギーの損失を抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、圧力面11Pに、複数の溝12Pが設けられている。このことにより、出口側端縁11Bに沿って複数の溝12Pを配置することができ、設計点における主流方向14に直交する方向においてより広い領域で、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生をより一層効果的に抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、溝12Pが、塗料により形成されたコーティング層13Pに形成されている、このことにより、圧力側面11PSに直接、溝12Pを形成することを不要にすることができ、溝12Pの形成を容易化することができる。このため、ランナ5の製造コストの増大を抑制することができる。
なお、上述した実施の形態において、圧力側面11PSにコーティング層13Pが設けられ、コーティング層13Pに溝12Pが形成されている例を示した。しかしながら、このことに限定されることがなく、圧力側面11PSにコーティング層13Pが設けられず、圧力側面11PSに直接、溝12Pが形成されていてもよい。例えば、既存のランナ羽根11の圧力面11Pに対して切削加工を行うことにより、溝12Pを形成してもよい。この場合、既存のランナ羽根11の圧力面11Pの出口側端縁11Bの近傍の領域を切削加工等により薄くしなくてもよい。このような場合であっても、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生を抑制することができる。
また、上述した実施の形態において、圧力側面11PSおよび負圧側面11NSの両方の面にコーティング層13Pが設けられている例を示した。しかしながら、このことに限定されることはなく、負圧側面11NSおよび圧力側面11PSの一方の面にコーティング層が設けられ、他方の面にコーティング層が設けられていなくてもよい。すなわち、例えば、負圧側面11NSにコーティング層13Nが設けられ、コーティング層13Nに溝12Nが形成されているが、圧力側面11PSにはコーティング層13Pが設けられず、圧力側面11PSに直接、溝12Pが形成されていてもよい。あるいは、圧力側面11PSにコーティング層13Pが設けられ、コーティング層13Pに溝12Pが形成されているが、負圧側面11NSにはコーティング層13Nが設けられず、負圧側面11NSに直接、溝12Nが形成されていてもよい。このような場合であっても、ランナ羽根11のキャンバーラインCLを基準として、圧力面11Pの側の水の流れと負圧面11Nの側の水の流れとを非対称にすることができる。このため、カルマン渦の発生を抑制することができる。
以上述べた実施の形態によれば、カルマン渦の発生を抑制することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
なお、上述した各実施の形態では、水力機械の一例としてフランシス水車を例にとって説明したが、このことに限られることはなく、フランシス水車以外の水力機械にも、本発明を適用することができる。また、ポンプ運転を行わない反動水車にも当然に適用することができる。