この発明の第1の実施の形態による車両押上装置10について説明する。
図1は、この発明の第1の実施の形態による車両押上装置の平面図であり、図2は、図1の車両押上装置にて車両を押し上げた状態を示す側面図であり、図3は、図1の車両押上装置にて車両を押し上げた状態を示す正面図であり、図4は、車両を押し上げた状態を示す図1の袋体のA-A線矢視断面図である。
これらの図を参照して、車両押上装置10は、一対の袋体20、20R、エアコンプレッサ11、エアホース12等を備えるものである。
車両押上装置10による車両1の押上げ(ジャッキアップ)に際しては、地表(路面)Eに袋体20、20Rを敷設し、車両1の全四車輪のうち、左右一対の車輪(この実施の形態では前輪)3、3aを袋体20上に載置し、他の左右一対の車輪(この実施の形態では後輪)4、4aを袋体20R上に載置する。
尚、本願明細書で「車輪」とは、リムに外装されたタイヤも含めたものをいう。
この状態において、エアコンプレッサ11及びエアホース12を用いて袋体20、20Rに気体を封入し、袋体20、20Rを膨張させ、袋体20、20Rに載置した車両1の全車輪3、3a、4、4aを地表Eより上方に浮かせることにより、車体2を傾かせることなく車両1を上昇させる。これにより、地表E上の冠水面Lに対する車体2全体の相対高さを上げ、浸水被害を回避するものである。
一方、車両押上装置10の非使用時には、例えば、車両押上装置10の全パーツを一つのコンテナ(容器)に収納し、1セットのものにしておいて、車両1のトランク等に収納しておくことができる。
ここで、袋体20、20Rは、それぞれ、封入されていた気体を抜くことで、内腔の体積を0にして、2枚重ね布のような状態になるまでに萎ませることができる。従って、こうして萎ませた袋体20、20Rを折り畳む等してコンパクトな状態にして、前述の如く収納しておくことができるのである。
袋体20及び袋体20Rは同じ構造のものであり、この実施の形態では、便宜上、車輪3、3aの押上用のものを袋体20、車輪4、4aの押上用のものを袋体20Rとしている。以下、両袋体20、20Rを代表して、袋体20について説明する。
袋体20は、平面視略矩形に形成されており、車両1のジャッキアップに用いられる際には、その長辺方向(即ち長手方向)を車両1の左右方向に合わせ、その短辺方向(即ち短手方向)を車両1の前後方向に合わせた状態で、地表Eに敷設されるものとしている。
以下の袋体20の説明においては、これを地表Eに敷設した状態を想定して、平面視略矩形である袋体20の長辺方向(長手方向)を左右方向とし、短辺方向(短手方向)を前後方向とする。後述の他の実施の形態についても同様とする。
袋体20は、可撓性を有する布地からなり、この布地を、二つ折りにする等して、上下2枚重ねの状態にし、上述の平面視略矩形の四辺となる前後左右端を閉じたものとなっている。即ち、袋体20は、上側の布部と下側の布部との間に、外部より隔離された内腔23を有しており、この内腔23に、外部より注入した気体を封入することによって、膨張可能なものとなっている。
以下、袋体20における内腔23より上側の部分である布部を上布部とし、内腔23より下側の部分である布部を下布部とする。
袋体20の素材としての布地には、例えば、ゴム引布を使用する。ゴム引布は、織布の片面又は両面をゴムで被覆してなるものであり、ゴムによる可撓性を有しつつも、織布により、面方向の伸びを抑えたものとなっている。即ち、車両押上装置10として機能するのに適度な可撓性を有するものである。ゴム引布内の典型的な織布としては、ナイロン繊維織布が考えられる。
袋体20は、その左右各端から左右方向にある程度の長さを有する部分をそれぞれ車輪押上部21、21aとしており、左右の車輪押上部21、21aの間の部分を連結部22としている。
但し、この実施の形態における袋体20は、前述の如く平面視略矩形状のものであって、左右方向全域で前後幅も上下幅も略均一であり、各車輪押上部21、21aと連結部22との間の明確な境界はない構造となっている。
袋体20は、その前後中央にて、上布部と下布部とを接着して、左右方向に延びる仕切部20aを形成している。この仕切部20aにより、袋体20の内腔23が、前内腔部23fと後内腔部23rとに区分されている。袋体20のうち、前内腔部23fを内包する前半分を前袋部20fとし、後内腔部23rを内包する袋体20の後半部を後袋部20rとする。
気体の充填により、前内腔部23f及び後内腔部23rが膨張して、その上下幅が拡大する一方で、仕切部20a自体は膨張することはなく、その上下幅は変化しない。これにより、膨張した袋体20の前後中間部に、側面視V字谷形状の部分(以下、「V字谷部分」とする)が、袋体20の左右端間にて左右方向連続状に形成される。そして、左右の車輪押上部21、21aにおけるV字谷部分が、車両1の車輪3、3aを押し上げ、支持するように作用する。
ここで、図4を参照して、封入した気体の圧力により袋体20の両袋部20f、20rが膨張して車輪押上部21に載置した車輪3を押し上げる状態について説明する。
各袋部20f、20rは、それぞれの内腔部23f、23rに封入した気体の圧力により膨張して上下方向に変位し、即ち、上下幅が大きくなって、側面視でラグビーボール状となる。即ち、各袋部20f、20rの前後中心部が、膨張により上下幅が最も大きくなる部分であり、前端及び後端に向かうにつれ、上下幅が小さくなる。前袋部20fと後袋部20rとの間の仕切部20aは、膨張による上下幅の変化がない(上下方向に変位しない)部位、即ち、膨張が抑制される部位である。
こうして、両袋部20f、20rに気体を充填された袋体20の前後中間部に、膨張抑制部としての仕切部20aを最深底端とするV字谷部分が形成され、この部分にて、車輪3を押し上げ、支持している。
詳述すると、仕切部20aの直上に車輪3の最下端3bが配された状態で、膨張した前袋部20fの、後端(仕切部20a)から前後中間部の上端に向けて前上方に傾斜する面が、袋体20のV字谷部分のうちの前斜面20bとして、最下端3bより前方の車輪3の前下部3fに当接する。一方、膨張した後袋部20rの、前端(仕切部20a)から前後中間部の上端に向けて後上方に傾斜する面が、袋体20のV字谷部分のうちの後斜面20cとして、最下端3bより後方の車輪3の後下部3rに当接する。
こうして、袋体20に封入された気体の圧力により、膨張した状態の袋体20のV字谷部分の前斜面20bにて、車輪3の前下部3fに後上方向きの押上力Ffがかかり、且つ、後斜面20cにて、車輪3の後下部3rに前上方向きの押上力Frがかかることで、車輪3は、最下端3bが仕切部20aより浮き上がった状態となるまでに上昇する。
更に、このように上昇した状態で、車輪3は、袋体20の前斜面20bにて、そこから前方への移動を抑止され、且つ、袋体20の後斜面20cにて、そこから後方への移動を抑止され、安定した状態で、袋体20の車輪押上部21におけるV字谷部分にて保持されている。
又、袋体20のV字谷部分は、前述の如く、車輪押上部21aにも形成されているので、車輪押上部21a上の車輪3aも、車輪押上部21上の車輪3と同様の押上作用及び支持作用を受ける。これにより、図3に示すように、左右車輪3、3aが均等に上昇し、車体2が、左右に傾くことなく上昇する。
左右の車輪押上部21、21aのうち、一方の車輪押上部21には、前後一列に並ぶ前述の注入口24、25が設けられている。袋体20の左右方向(長手方向)の長さは、左右の車輪押上部21、21aに左右の車輪3、3aが載置された状態において、注入口24、25への気体(又は液体)の注入作業に支障のないように、注入口24、25を設けた部分を、車輪押上部21に載置した車輪3よりも左右方向外側に十分に延出させるのに適切な長さとなっている。
更に、袋体20の前後方向(短手方向)の幅は、車輪3の最下端3bを仕切部20a上に配した状態において、封入した気体の圧力により袋体20を膨張させて形成される上述のV字谷部分にて、車輪3、3aに十分な押上作用及び支持作用を及ぼすのに適切な幅となっている。
袋体20の左右方向(長手方向)における適宜位置(この実施の形態では袋体20の車輪押上部21、21a及び連結部22)にて、袋体20の前後方向の全外周沿いに、即ち、前袋部20f、仕切部20a、後袋部20rの全周表面を前後方向に横切るように、帯体26、26a、26bが巻装され、袋体20の表面に接着されている。帯体26、26a、26bは、例えば、袋体20の布地と同じ素材であるゴム引布よりなるものである。
帯体26、26a、26bを袋体20に巻装することは、袋体20の布地を厚くすることと同等に機能する。即ち、袋体20の、帯体26、26a、26aが巻装された部分は、肉厚部と同然の状態となっていて、その分、可撓性が低減した部分となっている。このような部分を、袋体20の左右方向の適宜位置に形成することで、袋体20の膨張が抑制され、袋体20が車体2の底部と接触する可能性を低減している。
ここで、特に、袋体20の左右中間部である連結部22が、車両1の左右中間における車体2の底部の下方に配置される部位である。連結部22における前袋部20f及び後袋部20rが膨張して上下幅が増すことで、前袋部20fの前後中間の上端部、及び、後袋部20rの前後中間の上端部が高くなって、車体2の底部と接触し、車体2の底部に配される部品等、或いは袋体20自体に、不具合を生じさせる可能性がある。そこで、帯体26、26a、26bの巻装により、袋体20の膨張度を低減し、このような袋体20と車体2の底部との接触の可能性の低減を図っているのである。
更に、袋体20の左端及び右端にも、帯体26、26a、26bと同様の膨張抑制機能を持つテープ27、27a、27b、27cが貼付、接着されている。
更に、連結部22の前後中央には、仕切部20aが形成されていて、これが両車輪押上部21、21aにまで及ぶよう左右方向に延びている。仕切部20aは前述の如く袋体20の膨張時には上下方向の伸長が抑止される膨張抑制部として機能し、仕切部20aを底端とするV字谷部分を形成するもととなる。前述の如く、各車輪押上部21、21aでは、このV字谷部分が、車輪3、3aの押上作用部となる。
一方、連結部22では、仕切部20aにより上下方向の変位量が抑制されることで、その上端の高さを低下し、車体2の底部との接触を回避できるように機能する。即ち、もし仕切部20aがないと、袋体20の膨張時における上下方向の変位量は、連結部22の前後中央部で最大となり、その変位量は非常に大きく、連結部22の上端は非常に高いものとなる。この前後中央部に、膨張抑制部としての仕切部20aを形成することで、この部位での上下方向の変位は抑制され、連結部22で上下方向の変位量が最大となるのは、各袋部20f、20rそれぞれの前後中間部となり、その変位量は、仕切部20aがない場合の連結部22の前後中央部の上下方向の変位量に比べれば小さなものとなっている。このことにより、上述の如く、膨張時の連結部22の上端高さを低下して車体2の底部との接触を回避するように機能するものである。
尚、図1から図3を参照して、袋体20Rは、前述の如く袋体20と同一の構造を有するものであって、袋体20の仕切部20a、前袋部20f、後袋部20r、左右の車輪押上部21、21a、連結部22、注入口24、25と同様の、仕切部20Ra、前袋部20Rf、後袋部20Rr、左右の車輪押上部21R、21Ra、連結部22R、注入口24R、25Rを有している。
次に、車両押上装置10を用いて車両1を押し上げる方法について説明する。
図5は、図1の車両押上装置を用いての車両押上の手順を示す図であって、(a)は袋体を地表に敷設した状態の図、(b)は袋体に車両の車輪を載置した状態の図、(c)は袋体の一部を膨張させた状態の図である。
尚、前述の図2は、図5(c)の後で、全袋体の膨張を完了した状態を示している。
図5(a)を参照して、車両1の停車中に、初期状態(気体未充填状態)の袋体20を、その長手方向を車両1の左右方向に合わせた状態で広げ、車両1の左右一対の車輪3、3aの直前又は直後にて地表に敷設する。袋体20Rも同様の状態にして、車両1の左右一対の車輪4、4aの直前又は直後にて地表に敷設する。
尚、図5の実施の形態では、車輪3、3aを車両1の前輪、車輪4、4aを車両1の後輪としており、後程で車両1を前進させることに対応して、袋体20を車輪3、3aの直前に、袋体20Rを車輪4、4aの直前に配置している。
この時、後程で、車輪3、3aを袋体20に載せれば自ずと車輪4、4aも袋体20Rに載るものとなるよう、車輪3、3aと地表に敷設した袋体20との間の前後方向の間隔を、車輪4、4aと袋体20Rとの間の前後方向の間隔と等しくすることが好ましい。
又、この時、後程での気体封入作業に便利なように、袋体20の注入口24、25と、袋体20Rの注入口24R、25Rとを、車両1の左右同一側に配することが好ましい。図1及び図2を参照して、この実施の形態では、袋体20の注入口24、25及び袋体20Rの注入口24R、25Rを全て、車内の運転席に座る者から見て、車両1の左側に配している。
こうして地表に初期状態の袋体20、20Rを敷設した後、車両1を移動(この実施の形態では前進)させて、左右の車輪3、3aを、袋体20の左右の車輪押上部21、21aに載置し、左右の車輪4、4aを、袋体20Rの車輪押上部21R、21Raに載置する。図5(b)を参照して、車輪3、3aの最下端3bが袋体20の仕切部20a上に配され、同時に、車輪4、4aの最下端4bが袋体20Rの仕切部20Ra上に配された時点で、車両1を停止する。
このあと、袋体20、20Rの注入口24、25、24R、25Rのうちの一つに、エアホース12を介してエアコンプレッサ11の気体吐出口を接続し、エアコンプレッサ11の電気コード11aを車両1の車内の電源ソケット(図示せず)に接続して、エアコンプレッサ11を駆動する。こうして、該当の注入口を有する袋部の内腔に、エアコンプレッサ11の気体吐出口より吐出される気体を充填することで、当該袋部を膨張させる。これにより、当該袋部における左右の車輪押上部に該当する部分が同時に膨張することとなる。
例えば、図5(c)を参照して、まず、注入口24にエアコンプレッサ11の気体吐出口を接続した場合、エアコンプレッサ11より吐出される気体が袋体20の前袋部20fに内包される前内腔部23fに充填され、前袋部20fが膨張する。
前内腔部23fは、前袋部20fの左右一側端から左右他側端まで一繋がりとなっているので、注入口24より前袋部20fに注入された気体は、注入口24付近の車輪押上部21に該当する部分のみならず、連結部22に該当する部分を介して、車輪押上部21とは左右反対側の車輪押上部21aに該当する部分にも充填される。
こうして、前袋部20fの左右一側に設けられた注入口24より前内腔部23fに注入された気体は、前内腔部23fに全域に拡張し、その圧力は前袋部20fの全部分に均等にかかるので、左右の車輪押上部21、21aが均等に膨張することとなる(図3を参照)。
以後、エアホース12を付け替えて、注入口24、25、24R、25Rを順次、エアコンプレッサ11の気体吐出口に接続して、袋体20、20Rの全ての袋部20f、20r、20Rf、20Rrの内腔に気体を封入する。
図2を参照して、全袋部20f、20r、20Rf、20Rrの気体封入が完了すると、両袋体20、20Rに前述の如きV字谷部分が形成され、全ての車輪3、3a、4、4aが地表より略均等の高さに押し上げられており、車体2が傾くことなく、即ち、車体2の全部分が均等の高さで上昇した状態となっている。
次に、袋体20を応用してのいくつかの実施の形態について説明する。
図6は、脚材を取り付けた状態の図1の袋体のA-A線矢視断面図である。
図を参照して、袋体20の前袋部20f及び後袋部20rの下布部に脚材28、28aを取り付けることが好ましい。これにより、前袋部20f及び後袋部20rが膨張した状態においても、地表Eに敷設した袋体20が安定し、袋体20にて押し上げた車両1が安定すると考えられる。
脚材28、28aの構成及び袋体20への取付態様としては、例えば、ゴム材よりなる脚材28、28aを、ゴム引布よりなる袋体20の下布部の表面に加硫接着することが考えられる。
又、これら脚材28、28aは、水又は海水より比重の大きな材料より構成されており、地表Eに敷設した袋体20が、水又は海水より比重の小さな気体の圧力で膨張した状態となっても、水上(冠水面L)に浮かないようにする重量材として機能する。
図7は、別の構造の帯体を備える袋体を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB-B線矢視断面図である。
図を参照して、袋体20Xの仕切部20Xaは、袋体20の仕切部20aと同様に、袋体20Xの上布部と下布部とを直接当接して接着することで構成されているが、仕切部20aと異なる点として、袋体20Xの左右方向の適宜位置にて、鳩目孔状の貫通孔29、29a、29bが形成されている。
袋体20Xに巻装される帯体26、26a、26bは、袋体20Xに接着されておらず、それぞれ、8の字に捩じって貫通孔29、29a、29bに挿通し、前袋部20fに巻き付け、且つ後袋部20rに巻き付けている。
このように、膨張抑制用の外装部材としての帯体26、26a、26bを袋体20Xには接着しないので、これらの巻装の工程を簡素化することができる。又、膨張度の調整のため、適宜、帯体26、26a、26bのうちのいずれかを取り外すことも可能である。
このように帯体26、26a、26bが接着されていない袋体20Xにおいては、前後袋部20f、20r間に介在する帯体26、26a、26bの捩じり交差部が膨張抑制部として機能するので、図4に示すような、左右の車輪を安定して押し上げることのできる形状のV字谷部分を形成することができる。
図8は、別の構造の仕切部を有する袋体を示す図であって、(a)は側面断面図、(b)は斜視断面図である。
図を参照して、袋体20Yは、袋体20の仕切部20aとは異なる構造の仕切部20Yaを有している。即ち、仕切部20aは、袋体20の上布部と下布部とを直接当接し、接着したものであるのに対し、仕切部20Yaは、内腔23を前内腔部23fと後内腔部23rとに仕切る仕切壁20wを有し、この仕切壁20wを介して袋体20Yの上布部と下布部とを接続している。
仕切壁20wは可撓性を有する布状体等で構成される。両内腔部23f、23rに気体を充填していない初期状態において、仕切壁20wは横たわった状態となっており、仕切部20Yaは、仕切壁20wによる上下幅を殆ど有していない。両内腔部23f、23rへの気体充填により前袋部20f及び後袋部20rが膨張すると、仕切壁20wの上下端が上下に引っ張られ、これにより仕切壁20wが鉛直壁状に張った状態となる。この時に、仕切部20Yaは、鉛直壁状の仕切壁20wの上下幅を有することとなる。
即ち、袋体20Yの仕切部20Yaは、全く膨張しない(上下方向に変位しない)部位ではなく、膨張はする(上下方向に変位する)ものの、仕切壁20wの上下幅分までに膨張が抑制された部位となっている。これにより、袋体20Yaに形成されるV字谷部分の斜面を緩くし、仕切部20Yaで構成されるV字谷部分の最深底端を浅いものとする作用が考えられる。設計上、このような浅めのV字谷部分の形成が望ましいのであれば、袋体20Yを採用することが好ましい。
又、図8(b)を参照して、仕切壁20wは、通気口20vとしての切欠等を有するものとしてもよい。通気口20vを介して前内腔部23fと後内腔部23rとの間で気体を連通可能な構造とすることで、注入口24、25のうちの一つのみへの気体注入により、両内腔部23f、23rに気体が充填される構造とすることが可能である。
これにより、注入口24、25の間でエアホース12の付け替え作業をする必要がなくなるという作業容易化の効果に加え、前袋部20f及び後袋部20rが、順次に膨張するのではなく、同時に膨張するので、V字谷部分が、膨張の当初からV字谷の形状で形成され、安定した状態で車輪3、3aを押し上げることができるという効果も得ることができる。
通気口20vを有する仕切壁20wは、布状体に限らず、どのような構成のものでもよい。例えば、仕切壁20wを、ナイロンコード等のような線状体とし、複数の線状体を、所定の間隔で、袋体20Xの上布部と下布部との間に介装し、線状体同士の間隔を通気口20vとすることが考えられる。
又、仕切壁20wを可撓性のない硬質の部材により構成し、袋体20Yの初期状態でも膨張状態でも変わらない一定の上下幅を有する(即ち、上下方向に変位しない)ものとすることも考えられる。
次に、この発明の第2の実施の形態による車両押上装置10Aについて説明する。
図9は、この発明の第2の実施の形態による車両押上装置の平面図であり、図10は、図9の車両押上装置にて車両を押し上げた状態を示す側面図であり、図11は、図9の車両押上装置にて車両を押し上げた状態を示す正面図であり、図12は、車両を押し上げた状態を示す図9の袋体のC-C線矢視断面図であり、図13は、図9の袋体のD-D線矢視断面図である。
これらの図を参照して、車両押上装置10Aは、袋体20、20Rに置き換えて、袋体30、30Rを備えていること以外、図1等に示す車両押上装置10と同じである。
袋体20及び袋体20Rと同様に、袋体30、30Rは互いに同じ構造のものであり、この実施の形態で、車輪3、3aの押上用のものを袋体30、車輪4、4aの押上用のものを袋体30Rとしている。以下、両袋体30、30Rを代表して、袋体30について説明する。
袋体30は、左右の車輪押上部31、31a、及び、左右の車輪押上部31、31aの間に配される連結部32を有する。
この実施の形態による袋体30も、ゴム引布等よりなる布地を上下2枚重ね状にし、端部を閉じた状態にして構成され、外部より隔離された内腔33を内包するものとなっている。袋体30は、前述の仕切部20aに相当する部分を有しないので、内腔33は、前後に分断されることなく、袋体30全体(一方の車輪押上部31から連結部32を介して他方の車輪押上部31aまで)で一つのものとなっている。
このため、袋体30は、内腔33に気体を注入するための注入口34を一つだけ備えており、この注入口34を、袋体30の左端又は右端付近に設けている。この実施の形態では、左右一側の車輪押上部31に注入口34を設けている。
注入口34より内腔33に気体を注入すると、気体は内腔33全域に拡散し、その圧力が袋体30の全部分に均等にかかり、袋体30を膨張させるものである。
このように、袋体30は一つの注入口34から注入した気体の圧力で全体が膨張するので、途中でエアホース12の付け替えをする必要がなく、気体封入作業の負担を軽減する。
又、車輪押上部31、31aの左右外端部には、膨張度を低減するためのテープ36、36aが貼付、接着されている。
袋体30の車輪押上部31の中央部には、平面視円形の貫通孔35が設けられている。貫通孔35を囲む袋体30の周縁部30aは、袋体20の仕切部20aのように、袋体30の上下の布部同士を接着して構成されている。即ち、貫通孔35が鳩目孔状となっており、円形の周縁部30aは鳩目のような構造であって、袋体30の膨張時にも上下方向の伸長が抑制される膨張抑制部として機能する。
袋体30は、内腔33に充填された気体の圧力により、車輪押上部31における周縁部30a以外の部分が膨張して上下幅が増す(上下方向に変位する)一方で、周縁部30aでは膨張せず、上下幅は変化しない(上下方向に変位しない)。従って、車輪押上部31において、周縁部30aの周りに、周縁部30aを底端とする漏斗状の凹部30bが形成される。
袋体30の車輪押上部31aの中央部にも、貫通孔35及び周縁部30aと同様の貫通孔35a及び周縁部30cが形成されている。内腔33への気体充填中は、周縁部30cで袋体30の膨張が抑止されることにより、車輪押上部31aにおいて、周縁部30cの周りに、周縁部30cを底端とする漏斗状の凹部30dが形成される。
又、車輪押上部31、31aは、左右方向の外側端から内側端にかけて、平面視台形状に窄まっている。車輪押上部31、31aの内側端間に形成されている連結部32の前後幅は、両車輪押上部31、31aの内側端の前後幅と等しく、従って、車輪3、3aを載置するための主要部となる車輪押上部31、31aの中心部の前後幅よりも短くなっている。これにより、内腔33全体の容積を小さくし、気体充填にかかる時間の短縮を図っている。
しかし、各車輪押上部31、31aでは、貫通孔35、35aの口径を確保するため、ある程度の前後幅が必要であり、その分、平面視台形状の各車輪押上部31、31aの窄まり角度が制限される。この結果、袋体30の左右中間部にて筒状に形成される連結部32も、ある程度の前後幅を有しており、その分、袋体30の膨張時における連結部32の前後中間部の上下幅はかなり大きなものとなり、その上端の位置はかなり高くなる。従って、袋体20の連結部22と同様に、車体2の底部との接触の可能性を考慮する必要がある。
そこで、筒体30の布地と同じ素材であるゴム引布等からなる筒体37が、連結部32の全外周面に巻装、接着されている。筒体37を巻装された連結部32は、袋体30の車輪押上部31、31aよりも肉厚となって、可撓性が低くなり、膨張度が小さくなる。これにより、車体2の底部と袋体30との接触の可能性を低減している。
更に、筒体37の左右各端部は、各車輪押上部31、31aと連結部32との間の境界部分に配置されるところ、筒体37の左右端部にそれぞれ、帯体38、38aを巻装、接着している。これにより、袋体30における各車輪押上部31、31aと連結部32との間の境界部分の可撓性を更に低くし、連結部32全体の膨張度を更に小さくしている。
図9を参照して、袋体30Rは前述の如く袋体30と同一の構造を有するものであり、袋体30の車輪押上部31、31a、連結部32、注入口34、貫通孔35、35a、周縁部30a、30cと同様の、車輪押上部31R、31Ra、連結部32R、注入口34R、貫通孔35R、35Ra、周縁部30Ra、30Rcを有している。
袋体30、30Rを備えた車両押上装置10Aによる車両1の押上方法は、図1から図5を参照しての袋体20、20Rを備えた車両押上装置10による車両1の押上方法と大凡同じである。
異なる点としては、地表Eに敷設される初期状態(気体未充填状態)の袋体30の車輪押上部31、31aに車輪3、3aを載置する際に、各貫通孔35、35a内に各車輪3、3aの最下端3bを配するものである。同様に、車輪4、4aの最下端4bを袋体30Rの一対の貫通孔35R、35Ra内にそれぞれ配する。
エアホース12を介して、袋体30の注入口34に、エアコンプレッサ11より吐出される気体を注入すると、袋体30が膨張し、これにつれ、車輪押上部31の周縁部30a周りに、漏斗状の凹部30bが形成される。この凹部30bの斜面の、周縁部30aの前側及び後側の部分にて、車輪3の前下部3f及び後下部3rを押し上げ、車輪3の最下端3bを貫通孔35より上方に浮かせる。同様に、車輪3aも、車輪押上部31aの周縁部30c周りに形成される漏斗状の凹部30dの斜面にて押し上げられる。
更に、袋体30Rも、その注入口34Rを介して気体を注入することで膨張し、貫通孔35R、35Raを囲む各周縁30Ra、30Rcの周りに漏斗状の凹部が形成され、その斜面にて車輪4、4aを押し上げるものである。
次に、この発明の第3の実施の形態による車両押上装置10Bについて説明する。
図14は、この発明の第3の実施の形態による車両押上装置の平面図であり、図15は、図14の車両押上装置にて車両を押し上げた状態を示す正面図である。
尚、この実施の形態による車両押上装置10Bの袋体で車両を押し上げた状態の側面図、及びその状態での袋体の断面図は、車両押上装置10に関する図2及び図4と同様のものになるので、ここでは省略する。
これらの図を参照して、車両押上装置10Bは、袋体20、20Rに置き換えて、袋体40、40Rを備えていること以外、図1等に示す車両押上装置10と同じである。
袋体20及び袋体20Rと同様に、袋体40、40Rは互いに同じ構造のものであり、この実施の形態で、車輪3、3aの押上用のものを袋体40、車輪4、4aの押上用のものを袋体40Rとしている。以下、両袋体40、40Rを代表して、袋体40について説明する。
袋体40は、袋体20と同様に、ゴム引布等の布地よりなるものであり、左右の車輪押上部41、41aを有し、車輪押上部41、41a間の左右中間部を連結部42としている。
袋体40の前後中心には、前述の仕切部20aと同様に、袋体40の上布部と下布部とを接着してなる仕切部40aが、袋体40の左右端間にて左右方向に延びるように形成されている。この仕切部40aを境界として、袋体40が前袋部40fと後袋部40rとに区画されており、袋体40全体の内腔43が、前袋部40fの内包する前内腔部43fと後袋部40rの内包する後内腔部43rとに区分されている。
従って、袋体40も、前後各袋部40f、40rの内腔部43f、43rへの気体充填により、袋体20と同様に、仕切部40aを底端とするV字谷部分が形成され、このV字谷部分が、車輪押上部41、41aに載置される車輪3、3aに押上作用及び支持作用を及ぼすように構成されている。
前袋部40f及び後袋部40rの左右一側端付近にはそれぞれ注入口44、45が、前後一列状に設けられている。注入口44より注入された気体は前袋部40fの前内腔部43f全体に充填され、前袋部40fにおける車輪押上部41、41a及び連結部42に該当する部分全てを同時に均等に膨張する。同様に、注入口45より後内腔部43rに気体を注入すると、後袋部40r全体が膨張する。
尚、前袋部40fの前端及び左右端、並びに、後袋部40rの後端及び左右端には、袋体40の膨張を抑制する手段として、テープ46等、袋体40と同じ素材よりなるテープを貼付し接着している。
又、テープ46等と同様の目的で、仕切部40aを挟んで前袋部40fの後部から後袋部40rの前部にかけての、袋体40を膨張するとV字谷部分となる部分に、袋体40の左右方向における適宜箇所にて、テープ47等、袋体40と同じ素材よりなるテープを貼付し接着している。
袋体30と同様に、袋体40の連結部42は、左右両側の車輪押上部41、41aよりも前後幅の短いものとなっている。即ち、各車輪押上部41、41aの左右途中部から左右内側端までの部分が平面視台形状に窄まり、両車輪押上部41、41aの左右内側端間に形成される連結部42を前後幅の短いものとしている。更に、袋体40の前後中間に仕切部40aが形成されているので、連結部42における前袋部40f及び後袋部40rそれぞれの前後幅は、非常に短いものとなっている。
ここで、袋体30と比較すると、袋体30の場合、封入した気体又は液体の圧力で内腔33が拡大して膨張した状態で、連結部32において、当該膨張により上下幅が最も大きくなるのは、連結部32全体の前後中心部であり、その上端位置はかなり高くなる。これに対し、袋体40の連結部42の場合、連結部42全体の前後中心部は仕切部40aとなっているので、この部位は膨張しない。
連結部42において膨張時に上下幅が最も大きくなる部位は、前袋部40f及び後袋部40rそれぞれの前後中心部であるが、前述のように前袋部40f、後袋部40rそれぞれの前後幅が非常に小さいので、これらの前後中心部の膨張による上下幅の増大幅も小さく抑えられ、袋体30の連結部32全体の前後中心部の膨張による上下幅に比べれば格段に小さいものとなっている。
従って、袋体40の膨張時における連結部42の上端(即ち、前後の袋部40f、40rそれぞれの前後中心部の上端)は非常に低い位置にあり、この部位が車体2の底部と接触する可能性を低減する効果の大きいものとなっている。
又、連結部42における前袋部40f及び後袋部40rそれぞれの前後幅を非常に短くしている分、前袋部40fの前内腔部43f及び後袋部40rの後内腔部43rそれぞれの全体の容積は、かなり小さなものとなっている。従って、途中で注入口44、45の一方に接続していたエアホース12を他方に付け替える手間を必要としつつも、袋体40全体の空気充填にかける時間を低減できる。
この時間短縮効果は、同じく二つの吸気口24、25を用いての袋体20の二つの容積の大きな内腔部23f、23rへの気体充填作業と比べて、更には、一つの吸気口34を用いるものではあってもなお全体の容積がかなり大きい袋体30の内腔33への気体充填作業に比べて、顕著なものとなっている。
更に、袋体40の膨張に要する時間の短縮効果と同等の効果が、袋体40と同じ構造の袋体40Rの膨張作業においても得られる。従って、両袋体40、40Rの膨張を完了するのに要する時間は、両袋体20、20Rについての当該時間、及び、両袋体30、30Rについての当該時間に比べて、非常に短くなり、その時間短縮効果がより一層顕著に現れる。
尚、図14、図15において、袋体40Rは、仕切部40Ra、前袋部40Rf、後袋部40Rr、注入口44R、45Rを備えており、それぞれ、袋体40の仕切部40a、前袋部40f、後袋部40r、注入口44、45に相当するものである。
次に、この発明の第4の実施の形態による車両押上装置10Cについて説明する。
図16は、この発明の第4の実施の形態による車両押上装置の平面図である。
図を参照して、車両押上装置10Cは、袋体40、40R、及び、袋体40と袋体40Rとの間に介装される連結筒51を組み合わせてなる、一体の袋体50を備えている点を除いて、図14等に示す車両押上装置10Bと同じである。
連結筒51は、袋体40、40Rと同じく可撓性を有する素材よりなる、開口状の前後端を有する筒体である。前側の袋体40の後袋部40rの後端には開口部を設けており、この開口部に連結筒51の前端を接続している。一方、後側の袋体40Rの前袋部40Rfの前端に開口部を設けており、この開口部に連結筒51の後端を接続している。
こうして構成した袋体50においては、袋体40の後袋部40rの内腔部、連結筒51の内腔部、及び袋体40Rの前袋部40Rfの内腔部が連通して、一体の内腔部52を形成しており、袋体40の後袋部40rの注入口45、又は袋体40Rの前袋部40Rfの注入口44Rのいずれか一方のみにエアコンプレッサ11からの気体を注入することで、気体が内腔部52全体に充填され、袋体40の後袋部40rも袋体40Rの前袋部40Rfも同時に膨張させることができる。
又、袋体40、40R及び連結筒51を含む袋体50を一体のものとして取り扱うことができるので、車両押上装置10Bのように別々の袋体40、40Rを備えているものに比べ、袋体50の敷設作業及び撤収作業等が容易なものとなる。
尚、連結筒51については、図9等に示す袋体30の連結部32に外装した筒体37や帯体38、38aのような、膨張を抑制する部材を外装することが好ましい。
又、図16に示す態様では、袋体40の連結部42と袋体40Rの連結部42Rとの間に連結筒51を介装しているが、これに限るものではなく、例えば、袋体40の車輪押上部41と袋体40Rの車輪押上部40Rとを連結筒51で接続してもよい。
更に、車輪押上装置10Cにおいて、連結筒51を介して接続する前後の袋体については、袋体40、40Rに限らず、図1等に示す袋体20、20R、或いは、図9等に示す袋体30、30Rとしてもよい。
特に、袋体30、30R同士を連結筒51で接続する構成とすれば、両袋体30、30R全体の内腔への気体充填を、袋体30の注入口34又は袋体30Rの注入口のうちいずれか一つだけを用いて行うことができる。
図17は、この発明の第5の実施の形態による車両押上装置に用いられる袋体構造体を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)におけるG-G線矢視断面図である。
図を参照して、この実施の形態の車両押上装置10Dは、車両の左右の車輪を押し上げる袋体として、袋体60を用いる。
袋体60は、基本的に、図7に示す袋体20Xと同一構造であるので、以下では袋体20Xとの相違点を中心に説明する。
袋体60は、袋体20Xから帯体26、26a、26b挿通用の貫通孔29、29a、29bを有する仕切部20Xaを取り除いたものである。即ち、袋体60は、平行状に並べた二つの筒形袋体61、62同士を、8の字に捩じった帯体26、26a、26bにて結束してなる構造体である。筒形袋体61が筒形袋体62の前方に配置されるとの前提で、筒形袋体61の内部は前内腔部23fであり、筒形袋体62の内部は後内腔部23rである。袋体20Xと同様に、膨張抑制部としての帯体26、26a、26bは筒形袋体61、62に接着されておらず、帯体26、26a、26bを外せば、袋体60は別々の筒形袋体61、62に分離される。
尚、可能である限り、以上に説明したいくつかの実施の形態のうちのいずれか一つの形態を他の形態に適用してもよい。
例えば、図6に示す脚材28、28aの取付態様は、車両押上装置10Aの袋体30、30Rや車両押上装置10Bの袋体40、40Rにも適用できる。
尚、図6の実施の形態に関しては、袋体を安定した状態で膨張させることができ、且つ、洪水にあっても膨張した袋体が浮き上がらないようにする重量材としての機能を有するものであればよく、図示の如き脚材28、28aの態様に限るものではない。
又、図8の如き仕切壁20wを有する仕切部20Yaの構成については、車両押上装置10Bにおける袋体40、40Rにも適用することができる。この場合において、仕切壁が通気口を有するものとすることで、袋部40f、40rに対し順次気体を注入するのではなく、注入口44、45のうちいずれか一方のみを用いて注入した気体の圧力で前後両内腔部43f、43rを同時に拡大して、前後の袋部40f、40rを同時に膨張させることができる。
尚、各車両押上装置10、10A、10B、10C、10Dにおいて、エアコンプレッサ11で圧縮した外気を袋体に注入するものとしている。しかし、袋体に封入されるものは、その圧力により袋体を膨張させるよう機能するものであればよく、例えば、気体ではなく、液体でもよい。袋体に液体を注入する手段としては、液体ポンプが考えられる。又、気体を用いるものとしても、外気ではなく、排気ガスを利用することも考えられる。この場合、エアホース12を介して、車両1の排気口(図示せず)を袋体の注入口に接続することが考えられる。
以上の如き車両押上装置10、10A、10B、10C、10Dを代表して、車両押上装置10は、封入した気体又は液体の圧力により膨張可能な可撓性を有する袋体20を備え、袋体20は、車両1の車輪3の下に設置されるための車輪押上部21を有しており、車輪押上部21は、車両1の車輪3の下に設置された状態で、袋体20に封入された気体又は液体の圧力で膨張することにより、車輪3を押し上げるよう構成されている。このように構成することで、車輪3の下に設置される車輪押上部21が膨張して車輪3を押し上げるものであるところ、当初は接地状態である車輪3を上昇させるものなので、従来の車両押上装置(エアジャッキ)のように、当初からある程度の地上高を有する車体底部そのものを押し上げる場合に比べると、車輪押上部21に求められる膨張量は小さくて済む。これにより、袋体20への気体又は液体の封入量を少なくし、車両1の押上に要する時間を短縮できる。又、気体又は液体の未封入時の袋体20の内腔23の容積を殆ど0の状態にすることができ、袋体20をシートのようにして折り畳んだ状態にすることができるので、未使用時に車両1に収納しておくのにも便利である。
車輪押上部21、21a、41、41aを代表しての車輪押上部21(車輪押上部31、31aを代表しての車輪押上部31)は、圧力による膨張が抑制される膨張抑制部である仕切部20a(周縁部30a、又は、捩じり交差部を有する帯体26、26a、26b)を備えている。車輪押上部21における膨張抑制部の近傍部分は、圧力により、斜面20b、20cを形成するように膨張し、斜面20b、20cを車輪3に当接した状態で、車輪3を押し上げるものである。このように構成することで、車輪押上部21の膨張により膨張抑制部の近傍部分に形成される斜面20b、20cにかかる袋体20に封入された気体又は液体の圧力が、斜面20b、20cに当接する車輪3に押上力Ff、Frとして付加され、車輪3を押し上げる。更に、このような斜面20b、20cを、膨張抑制部(仕切部20a)を挟んで前後両側に形成することで、前後両側の斜面20b、20cにかかる気体又は液体の圧力が、車輪3に対し二点(前下部3f、後下部3r)からの押上力Ff、Frとして付加されるものとなる。これにより、袋体20に封入した気体又は液体の圧力作用で車輪3を安定した状態で確実に押し上げることができる。
車輪押上部21の膨張抑制部である仕切部20a、又、車輪押上部31の膨張抑制部である周縁部30aは、袋体20、30における内腔23、33より上側の部分と下側の部分とを接続して構成される。このように構成することで、車輪押上部21(31)を含む袋体20(30)の膨張とは、その内腔23(33)の拡大を意味するところ、内腔23(33)より上側の部分と下側の部分とを接続した部位については、気体又は液体の圧力による内腔の拡大が抑制されることとなり、従って、この部位が膨張抑制部として機能するものである。このような袋体20(30)の上側の部分と下側の部分との接続は、例えば、これらの部分を直接当接して接着することでもよく、簡単に膨張抑制部を構成でき、低コスト化を図ることができる。
車輪押上部21、21a、41、41aを代表しての車輪押上部21の膨張抑制部は、内腔23を二つの内腔部23f、23rに区分する仕切部20aで構成される。このように構成することで、車輪押上部21は、仕切部20aでは膨張が抑制される一方で、仕切部20aを挟む両側部分である前袋部20f及び後袋部20rが膨張して、仕切部20aを底端とする谷形状部分を形成する。車輪押上部21は、この谷形状部分の斜面20b、20cを車輪3に当接して、車輪3を押し上げるものである。このように、仕切部20aという簡単な構造を設けるだけで、封入した気体又は液体の圧力による袋体20の車輪押上部21の膨張作用が、車輪3を安定した状態で確実に押し上げることのできる谷形状部分を形成するように働くこととなるので、低コスト化を図ることができる。
車輪押上部31、31aを代表しての車輪押上部31の膨張抑制部は、袋体30を上下に貫通する貫通孔35の周縁部30aで構成される。このように構成することで、車輪押上部31は、周縁部30aでは膨張が抑制される一方で、周縁部30aの周辺部分が膨張して、周縁部30aを底端とする漏斗状の凹部30bを形成する。この凹部30bの斜面(そのうち、周縁部30aの前側の部分及び後側の部分)を車輪3に当接して、車輪3を押し上げるものである。このように、貫通孔35及びその周縁部30aという簡単な構造を設けるだけで、封入した気体又は液体の圧力による袋体30の車輪押上部31の膨張作用が、車輪3を安定した状態で確実に押し上げることのできる漏斗状の凹部を形成するように働くこととなるので、低コスト化を図ることができる。
袋体20、30、40を代表しての袋体20は、車輪押上部21、21aを一対有しており、それぞれ、車両1の左右一対の車輪3、3aの各々の下に設置するものとしている。このように構成することで、袋体20に封入した気体又は液体の圧力で、一対の車輪押上部21、21aがともに膨張し、車両1の左右一対の車輪3、3aを押し上げ、車体2を左右に傾けることなく車両1を上昇させることができる。従って、地表の冠水時において、車体2の左右いずれかの部分が上昇されずに浸水被害を受けてしまうという事態の解消を図ることができる。
袋体20、30、40を代表しての袋体20は、一対の車輪押上部21、21aの間に、一対の車輪押上部21、21a同士を連結する連結部22を有する。このように構成することで、袋体20の中で、連結部22が、左右一対の車輪3、3aの間の車体2底部下方に配置されることとなり、車両1の有する車幅に対応して、一対の車輪押上部21、21aを左右一対の車輪3、3aそれぞれの下に設置することを可能としている。即ち、一つの袋体20で、左右一対の車輪3、3aを押し上げることが可能となり、袋体20の敷設作業の軽減化、及び、袋体20への気体又は液体の注入作業の容易化を図ることができる。
袋体20、30、40を代表しての袋体20における一対の車輪押上部21、21aは、連結部22を介して、袋体20に封入された気体又は液体を相互に流通可能に接続されている。このように構成することで、袋体20におけるいずれか一箇所より注入された気体又は液体の圧力が、略同時且つ略均等に両方の車輪押上部21、21aに付加され、一対の車輪押上部21、21aの各々に配置された左右一対の車輪3、3aを略同時且つ略均等に押し上げることができるので、袋体20を膨張させるための気体又は液体の注入作業を容易にするとともにそれに要する時間を短縮できる。
袋体30、40を代表しての袋体30の一対の車輪押上部31、31aのうちの一方から他方へと連結部32の延びる方向を、袋体30の長手方向とし、袋体30の短手方向において、連結部32の幅を一対の車輪押上部31、31aの幅よりも小さくしている。このように構成することで、袋体30の内腔33は、各車輪押上部31、31aにおいては、袋体20に封入した気体又は液体の圧力による膨張で車輪3、3aを押し上げるだけの充分な容積を有していることが必要であるものの、袋体30の短手方向における連結部32の幅を小さくすることで、袋体30全体の内腔33の容積は低減されるので、袋体30を膨張させるための気体又は液体の注入に要する時間を短縮できる。
連結部22、32、42を代表しての連結部22は、袋体20の膨張による上下方向の伸長が抑制される膨張抑制部を備えている。このように構成することで、膨張により上下方向に伸長する連結部22の上端の地上高が車両1の車体2底部の地上高より低くなるようにして、連結部22と、その上方の車両1の車体2底部とが接触するという事態を回避することができる。これにより、これらの接触により生じる可能性のある車体2底部に装着されている部品や袋体20そのものの不具合を回避することができる。
袋体30の連結部32の膨張抑制部は、袋体30の可撓性を低減する部材である筒体37及び帯体38、38aを連結部32に外装して構成される。このように構成することで、外装される部材について、形状、素材、厚さ、大きさ、外装位置等を調整又は選択することで、連結部の上下方向の伸長量を所望の量に低減することができる。例えば、袋体30と同じ素材からなる筒状、帯状、又はテープ状等の部材を連結部に外装することで、その部分が、袋体30を肉厚にしたのと同様の状態となり、可撓性が低減され、袋体30の膨張による上下方向の伸長量を小さくし、これにより、連結部30と車体2底部との接触を回避できる。
連結部22、42を代表しての連結部22の膨張抑制部は、袋体20における内腔23より上側の部分と下側の部分とを接続して内腔23を二つの内腔部23f、23rに区分する仕切部20aである。このように構成することで、元来は、連結部22の中で、膨張により上下方向に最も大きく変位する(最も高くなる)部位は、袋体20の短手方向中心に位置する部分であるところ、例えば、連結部22におけるこの部分に仕切部20aを形成することで、逆に、当該部分の上下方向の変位量が最小となる。一方、このように仕切部20aを形成した場合に、袋体20の中で、膨張による上下方向の変位量が最大となるのは、各内腔部23f、23rを内包する各部分20f、20rにおける短手方向中心部分であるが、その最大変位量は、仕切部20aを設けない場合の連結部22の短手方向中心部分のものに比して小さくなる。特に、車両押上装置10Bの袋体40では、連結部42の仕切部40aの構造と、袋体40の短手(前後)方向において連結部42の幅を一対の車輪押上部41、41aの幅よりも小さくした構造とを組み合わせており、これにより、各袋部40f、40rの最大伸長量はより一層小さなものとなる。これにより、車体2底部と連結部40との接触はより一層確実に回避され、且つ、袋体40の膨張時における連結部42の両内腔43f、43rを合わせての容積も小さくなり、袋体40の膨張のための気体又は液体の注入に要する時間を短縮できる。
連結部20、40を代表しての連結部20の仕切部20aは、一対の車輪押上部21、21aに及ぶよう延びている。このように構成することで、各車輪押上部21、21aが膨張抑制部としての仕切部20aを備えることとなり、各車輪押上部21、21aは、仕切部20aで膨張が抑制される一方で、仕切部20aを挟む両側部分20f、20rが膨張して、仕切部20aを底端とする谷形状部分を形成する。この谷形状部分の斜面20b、20cを車輪3、3aに当接することにより、車輪3、3aを押し上げることができる。このように、連結部22にて形成される仕切部20aを両車輪押上部21、21aまで延ばすだけの簡単な構造で、両車輪押上部21、21aに、袋体20の膨張作用で各車輪3、3aを確実に安定した状態で押し上げる構造を構成でき、コスト低下を図ることができる。
袋体20Yの仕切部20Yaは、二つの内腔部23f、23r同士にて気体又は液体を流通可能とする開口部である通気口20vを有している。このように構成することで、元来、袋体20Yに封入した気体又は液体の圧力で、二つの内腔部23f、23rを両方とも拡大して袋体20Yを膨張させるには、各内腔部23f、23rを内包する各部分20f、20rそれぞれに注入口24、25を設けて、両注入口24、25に気体又は液体を順次注入する必要があるところ、開口部である通気口20vを介して両内腔部23f、23r間で気体又は液体が流通可能なので、一方の注入口24(又は注入口25)より注入した気体又は液体を両内腔部23f、23rに導入することかでき、両内腔部23f、23rのそれぞれを内包する袋体20の各部分20f、20rを同時に膨張させることができる。このことにより、袋体20Yの膨張のための気体又は液体の注入作業の容易化且つ時間短縮を図ることができる。
車両押上装置10Cにおいて、袋体50は、四つの車輪押上部41、41a、41R、41Raを有しており、その各々は、四輪車両1の各車輪3、3a、4、4aの下に設置されるものであり、袋体50に封入された気体又は液体の圧力により、四つの車輪押上部41、41a、41R、41Raが均等に膨張することで、四輪車両1の全車輪3、3a、4、4aを押し上げるよう構成されている。このように構成することで、一つの袋体50を膨張させることで、車両1の車体2を、傾きなく、その全体にわたって上昇させることができる。このため、地表の冠水状態において車体2の全部分を浸水被害から保護することが可能であり、これを一つの袋体50の膨張にて実現するので、袋体50の敷設作業を容易且つ短時間の作業とすることができる。
袋体20、30、40を代表しての袋体20に、水又は海水より比重の大きい重量材である脚材28、28aを設けてもよい。例えば淡水又は海水により地表が冠水している状況において、水又は海水より比重の小さい気体(空気等)を充填して袋体20を膨張させた場合にも、袋体20を冠水面Lに浮かせることなく地表Eに敷設した状態を保持することができる。このため、敷設した袋体20の安定性を高めることができる。
車両押上装置10、10A、10B、10Cを代表しての車両押上装置10を用いての車両押上方法は、袋体20を敷設する工程と、車両1を移動して車両1の左右一対の車輪3、3aを袋体20に載置する工程と、袋体20に気体又は液体を封入し、封入した気体又は液体の圧力にて袋体20を膨張させ、左右一対の車輪3、3aを押し上げる工程とよりなる。このような方法により、左右一対の車輪3、3aを押し上げるので、車両1の車体2の左右両部を上昇させることができる。又、車輪3、3aを載置した状態での袋体20が膨張して車輪3、3aを押し上げるものであるところ、当初は接地状態である車輪3、3aを上昇させるものなので、当初からある程度の地上高を有する車体2底部そのものを押し上げる場合に求められる膨張量に比べると、袋体20に求められる膨張量は小さくて済む。従って、短時間で効率よく車体2底部の左右両部をともに浸水被害より免れる状態にすることができる。
車両押上装置10、10A、10Bを代表しての車両押上装置10において、袋体20、20Rは一対であり、そのうちの一方の袋体20に、四輪車両1における左右一対の前輪3、3aを載置し、他方の袋体20Rに、四輪車両1における左右一対の後輪4、4aを載置する。このような方法により、袋体20、20Rを一対とすることで、四輪車両1の全車輪3、3a、4、4aを両袋体20、20Rの膨張で上昇させることができ、四輪車両1の車体2全体を傾きなく上昇させることができる。従って、短時間で効率よく車体2底部の全体を浸水被害より免れる状態にすることができる。又、個々の袋体20、20R自体は簡単な構成となり、コスト低下を図ることができる。
車両押上装置10Cを用いての車体押上方法では、左右一対の車輪3、3aを袋体50に載置すると同時に、車両1の他の左右一対の車輪4、4aを袋体50に載置する。
このような方法により、車両1が四輪車両である場合にも、その全車輪3、3a、4、4aを、一つの袋体50の膨張で上昇させることができ、車両1の車体2全体を傾きなく上昇させることができる。このように、敷設すべき、且つ、封入した気体又は液体の圧力で膨張させるべき袋体50が一つなので、短時間で効率よく車体2の全体を浸水被害より免れる状態にすることができる。