以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明に係るエンジンの燃焼制御装置が、圧縮着火式エンジンに適用される例を挙げて説明する。当該圧縮着火式エンジンは、気筒内の燃料と空気の混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させた後に気筒内の残りの混合気を自着火によりCI燃焼させる、部分圧縮着火燃焼が実行可能なエンジンである。
[エンジンシステム]
先ず、前記圧縮着火式エンジンを備えたエンジンシステムについて説明する。図1は、本実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示す図である。エンジンシステムは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの4気筒ガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流させるEGR装置50とを備えている。
エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5を備える。シリンダブロック3は、一列に並ぶ4つの気筒2(複数の気筒/図2の#1~#4気筒2a~2d参照)を形成するシリンダライナを有する。なお、図1には、一つの気筒2だけを示されている。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6にはガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。供給された燃料と空気との混合気が燃焼室6で燃焼され、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適となるように、13以上30以下、好ましくは14以上18以下の高圧縮比に設定される。
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)及びクランク軸7の回転速度、つまりエンジン回転数を検出するために配置されている。水温センサSN2は、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度、すなわちエンジン水温を検出する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面は、燃焼室6の天井面となる。この燃焼室天井面には、吸気ポート9の下流端である吸気側開口と、排気ポート10の上流端である排気側開口とが形成されている。シリンダヘッド4には、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが組み付けられている。なお、図示は省いているが、エンジン本体1のバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、吸気ポート9及び排気ポート10は、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、吸気弁11及び排気弁12も2つずつ設けられている。
シリンダヘッド4には、カムシャフトを含む吸気側動弁機構13及び排気側動弁機構14が配設されている。吸気弁11及び排気弁12は、これら動弁機構13、14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。吸気側動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気側動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。これら吸気VVT13a及び排気VVT14aの制御により、吸気弁11と排気弁12とを共に排気上死点を跨いで開弁状態とするバルブオーバーラップを設定することが可能である(内部EGR機構)。このバルブオーバーラップの設定により、燃焼室6に高温の既燃ガスを残存させる内部EGRが実現される。また、バルブオーバーラップが為されている期間であるバルブオーバーラップ量の調整により、内部EGR量(既燃ガスの残存量)を調整することが可能である。
シリンダヘッド4には、さらにインジェクタ15及び点火プラグ16が、4つの気筒2の各々に対して配置されている。インジェクタ15は、気筒2内に燃料を噴射する。インジェクタ15としては、その先端部に複数の噴孔を有し、これらの噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能な多噴孔型のインジェクタを用いることができる。インジェクタ15は、その先端部が燃焼室6内に露出し、且つ、ピストン5の冠面の径方向中心部と対向するように配置されている。
点火プラグ16は、気筒2内で火花を発生する先端電極部を含む。点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置され、前記先端電極部が気筒2内に臨む位置に配置されている。点火プラグ16は、気筒2(燃焼室6)内に形成される燃料と空気との混合気に点火する強制点火源である。
シリンダヘッド4には、センシング要素として、各気筒2に対応して複数の筒内圧センサSN3が配設されている。筒内圧センサSN3は、各々の気筒2(燃焼室6)内の圧力(筒内圧)を検出する。この筒内圧センサSN3の検出値に基づいて、後述する実燃焼時期が把握される。
吸気通路30は、外気と吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30及び吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。吸気通路30には、その上流側から順に、エアクリーナ31、スロットル弁32、過給機33、電磁クラッチ34、インタークーラ35及びサージタンク36が配置されている。
エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去して吸気を清浄化する。スロットル弁32は、アクセル17の踏み込み動作と連動して吸気通路30を開閉し、吸気通路30における吸気の流量を調整する。過給機33は、吸気を圧縮しつつ吸気通路30の下流側へ当該吸気を送り出す。過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係されたスーパーチャージャであり、電磁クラッチ34によりエンジン本体1との締結及びその締結解除が切換えられる。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。インタークーラ35は、過給機33により圧縮された吸気を冷却する。サージタンク36は、4つの気筒2への吸気経路に配置され、当該4つの気筒2に吸気を均等に配分するための空間を提供するタンクである。
各気筒2に対応して設けられる2つの吸気ポート9の内の一方には、スワール弁18が配置されている。スワール弁18の開度を調整することで、燃焼室6の中心軸の回りを旋回するスワール流の強度を調整することができる。なお、本実施形態の吸気ポート9はタンブル流を形成可能なタンブルポートである。このため、スワール弁18の閉時に形成されるスワール流は、タンブル流とミックスされた斜めスワール流となる。
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN5,SN7と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN6,SN8とが設けられている。エアフローセンサSN4及び第1吸気温センサSN5は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に配置され、当該部分を通過する吸気の流量、温度を各々検出する。第1吸気圧センサSN6は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間(後述するEGR通路51の接続口よりも下流側)の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN7は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN8は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
吸気通路30には、過給機33をバイパスして吸気を燃焼室6に送るためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51の下流端付近とを互いに接続している。バイパス通路38には、当該バイパス通路38を開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。排気通路40には触媒コンバータ41が配置されている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
排気通路40における触媒コンバータ41よりも上流側の部位には、排気ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するリニアO2センサSN10が配置されている。リニアO2センサSN10は、酸素濃度の濃淡に応じて出力値がリニアに変化するタイプのセンサである。リニアO2センサSN10の出力値に基づいて、混合気の空燃比を推定することが可能である。
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52及びEGR弁53とを備える。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGR)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。なお、EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN9が設けられている。
アクセル17には、そのアクセル開度を検出するアクセルセンサSN11が付設されている。アクセルセンサSN11は、アクセル17のペダル踏み込み具合を検出するセンサであり、ドライバーの加減速意図を検出するセンサでもある。
[排気通路の構造的特徴]
次に、上述の排気通路40の構造的な特徴を説明する。図2は、エンジン本体1と排気通路40の一部とを示す平面図である。エンジン本体1には、4つの気筒2(#1気筒2a、#2気筒2b、#3気筒2c及び#4気筒2d)が一列に配列されている。排気通路40は、エンジン本体1の排気ポート10に接続される排気マニホールド42を備えている。排気マニホールド42は、シリンダヘッド4の側面に取り付けられ、#1~#4気筒2の各排気ポート10から各々排出される排気ガスを案内(集合)する。排気マニホールド42にて集合された排気ガスは、触媒コンバータ41に連なる排気管によって下流に導かれる。
排気マニホールド42は、#1~#4気筒2a~2dの各々に対応した第1~第4独立排気管43a~43dと、これら独立排気管43a~43dから排出される排気ガスを合流させる集合部44とを備える。第1独立排気管43aは#1気筒2aの排気ポート10に、第2独立排気管43bは#2気筒2bの排気ポート10に、第3独立排気管43cは#3気筒2cの排気ポート10に、第4独立排気管43dは#4気筒2dの排気ポート10に、各々連通している。集合部44は、これら第1~第4独立排気管43a~43dの下流側の端部を集合する部分である。この集合部44の下流側に、触媒コンバータ41が配置されている。各気筒2a~2dの燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気マニホールド42の各独立排気管43a~43dを通して集合部44に集められ、当該集合部44を通して触媒コンバータ41に導入される。
集合部44は、#1番~#4気筒2a~2dの並び方向において、図2の最も右端側に位置する#1気筒2a(一の気筒)に最も近い位置に設けられている。このため、各々の排気ポート10から集合部44までの各独立排気管43a~43bの長さは均等長ではなく、偏りが生じている。具体的には、右端側の#1気筒2aに対応する第1独立排気管43aの長さが最も短く、他の#2~#4気筒2b~2dの第2~第4独立排気管43b~43dの長さは、#2、#3、#4と左側に向かうほど長くなっている。このような独立排気管43a~43bの長さの相違は、内部EGR率に影響を与え得る。
[制御系統]
図3は、前記エンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。本実施形態のエンジンシステムは、ECU60(エンジンの燃焼制御装置)によって統括的に制御される。ECU60は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
ECU60には各種センサからの検出信号が入力される。ECU60は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、第1・第2吸気温センサSN5,SN7、第1・第2吸気圧センサSN6,SN8、差圧センサSN9、リニアO2センサSN10及びアクセルセンサSN11と電気的に接続されている。これらのセンサSN1~SN11によって検出された情報、すなわち、クランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気ガスの酸素濃度、EGR弁53の前後差圧、アクセル開度等の情報がECU60に逐次入力される。
ECU60は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁18、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39及びEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
ECU60は、所定のプログラムが実行されることによって、燃焼制御部61及び記憶部68を機能的に具備するように動作する。燃焼制御部61は、#1~#4気筒2a~2dの各インジェクタ15及び点火プラグ16の動作を制御することで、各気筒2a~2dにおける燃焼状態を制御する。記憶部68は、各種のデータや設定値、演算式等を記憶する。本実施形態では、後述する目標燃焼期間を求めるための多項式燃焼モデル等が記憶部68に格納される。
燃焼制御部61は、所定のプログラムが実行されることで、運転状態判定部62、点火制御部63、噴射制御部64、EGR制御部65、燃焼変動判定部66及び補正部67(第1補正部、第2補正部)を機能的に具備するように動作する。
運転状態判定部62は、クランク角センサSN1の検出値に基づくエンジン回転数、及びアクセルセンサSN11が検出するアクセル開度情報に基づくエンジン負荷などから、エンジン本体1の運転状態を判定する。この判定結果は、現状の運転領域が、予め定められた運転マップのどの領域であるかの判定に用いられる。
点火制御部63は、点火プラグ16の点火時期を制御する。前記点火時期は、予め定められた特定の燃焼時期が所定の時期に表れるように制御される。本実施形態では、例えば、SI燃焼からCI燃焼へ切り替わる時期(図5の変曲点X)が目標とするクランク角(θci)となるように、前記点火時期が制御される。
噴射制御部64は、インジェクタ15から噴射させる燃料の噴射量及び噴射パターンを、各種の条件に応じて制御する。噴射制御部64は、アクセルセンサSN11が検出するアクセル踏み込み量(エンジンの運転状態)に応じて、各気筒2の目標燃料噴射量及び噴射パターンを設定する。さらに、噴射制御部64は、設定した目標燃料噴射量及び噴射パターンにて、インジェクタ15に燃料噴射動作を実行させる。なお、前記目標燃料噴射量が後述の補正部67によって補正された場合、噴射制御部64は、補正後の燃料噴射量にてインジェクタ15に燃料噴射を実行させる。
EGR制御部65は、EGR装置50のEGR弁53の開度を制御することにより、外部EGRを実行させる。また、EGR制御部65は、吸気弁11及び排気弁12のバルブオーバーラップ期間を適宜設定することにより、内部EGRを実行させる。
燃焼変動判定部66は、筒内圧センサSN3の検出値を参照して、各気筒2における燃焼変動をモニターする。筒内圧センサSN3は、気筒2の筒内圧を検出する。従って、この筒内圧をモニターすることで、各燃焼サイクルにおける最大圧力や燃焼期間等を把握することができ、さらには、これらのサイクル毎の変動、すなわち燃焼変動も把握することができる。また、燃焼変動判定部66は、前記燃焼変動が予め定められた閾値より大きいか否かを判定する。この判定結果は、補正部67に与えられる。なお、前記閾値は、記憶部68に予め格納される。
補正部67は、点火プラグ16による混合気への点火時期から、所定の質量割合の燃料が燃焼する所定質量燃焼時期までの期間が#1~#4気筒2a~2dで揃うように、各々のインジェクタ15による各気筒2a~2dへの燃料噴射量を一次補正する。前記所定質量燃焼時期は、各種の燃焼時期に設定することが可能であるが、本実施形態では、1燃焼サイクル中に各気筒2a~2dに供給された燃料のうち、質量割合50%の燃料が燃焼する燃焼重心時期とする。補正部67は、前記燃焼重心時期を予測により求めた目標燃焼時期と、前記燃焼重心時期を実際の燃焼状態に基づいて求めた実燃焼時期との偏差に基づき、燃料噴射量を一次補正する。具体的には一次補正は、前記偏差が可及的に解消されるように、各気筒2a~2dに対して噴射制御部64が設定した目標燃料噴射量を増量又は減量するフィードバック補正である。
補正部67は、さらに、特定の気筒2において燃焼変動が所定の閾値よりも大きくなったとき、燃料噴射量を二次補正する。上記の一次補正にて各気筒2a~2dの燃焼重心時期を揃えるようにしても、何らかの要因で看過できない燃焼変動が生じる場合がある。この場合、補正部67は、燃焼変動が大きい前記特定の気筒について前記一次補正により設定された燃料噴射量を、さらに増量側に二次補正する。ここでの二次補正は、例えば一次補正後のA/F=30であったとすると、A/F=29となるように燃料噴射量を増量させる如き補正である。補正部67が実行する前記一次補正及び二次補正については、後記でさらに詳述する。
[運転マップ]
図4は、エンジン(エンジン本体1)の温間時に使用される運転マップであり、エンジンの運転領域を燃焼形態の制御の相違により区分けした図である。以下の説明において、エンジンの負荷が高い(低い)とは、エンジンの要求トルクが高い(低い)ことと等価である。エンジンが温間状態にあるとき、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって3つの運転領域A1、A2、A3に大別される。これら運転領域A1~A3を、それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3と呼ぶ。
第3運転領域A3は、エンジンの回転速度が高い高速領域である。第1運転領域A1は、第3運転領域A3よりも低速側の領域から高負荷側の一部を除いた低・中速/低負荷の領域である。第2運転領域A2は、第1、第3運転領域A1,A3以外の残余の領域、つまり低・中速/高負荷の領域である。以下、各運転領域で選択される燃焼形態等について順に説明する。
<第1、第2運転領域>
低・中速/低負荷の第1運転領域A1および低・中速/高負荷の第2運転領域A2では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により十分に高温・高圧化された環境下で、混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、このSI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる燃焼形態である。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
図5は、上記のようなSPCCI燃焼が行われた場合の燃焼波形、つまりクランク角に対する熱発生率(J/deg)の変化を示したグラフである。同図に示すように、SPCCI燃焼では、SI燃焼による熱発生とCI燃焼による熱発生とがこの順に連続して発生する。このとき、CI燃焼の燃焼速度の方が速いという性質上、SI燃焼時よりもCI燃焼時の方が熱発生の立ち上がりが急峻になる。このため、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、SI燃焼からCI燃焼に切り替わるタイミング(後述するθci)で現れる変曲点Xを有している。
ここで、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼では、SI燃焼とCI燃焼との比率が運転条件に応じてコントロールされる。コントロールの例としては、SPCCI燃焼による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率が適正な値になるように、エンジンの各部を制御する例を挙げることができる。
SI率は、次の通り定義することができる。図5において、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わる変曲点X(特定の燃焼時期)に対応するクランク角θci(所定の時期)を、CI燃焼の開始時期とする。この場合、SI燃焼による熱発生量は、当該θciよりも進角側の熱発生率の波形の面積R1に相当し、CI燃焼による熱発生量は、当該θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積R2に相当するとみなすことができる。そして、上記SI率は、これら各面積R1,R2を用いて、R1/(R1+R2)と定義することができる。
SPCCI燃焼が行われる第1、第2運転領域A1、A2では、上述したSI率及びθciが予め定められた目標値(クランク角)に一致するように、エンジンの各部が制御される。すなわち、第1、第2運転領域A1、A2では、エンジン負荷・回転数が異なる種々の条件ごとに、SI率の目標値である目標SI率とθciの目標値である目標θciとがそれぞれ定められる。そして、各種の制御項目が、上記目標SI率および目標θciを実現可能な組合せとなるように制御される。前記制御項目は、点火制御部63(図3)が制御する点火プラグ16の点火時期、噴射制御部64が制御するインジェクタ15からの燃料の噴射量/噴射時期、EGR制御部65が制御する外部EGR率及び内部EGR率などである。なお、外部EGR率とは、燃焼室6内の全ガスのうち外部EGRガス(EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス)が占める重量割合である。内部EGR率とは、燃焼室6内の全ガスのうち内部EGRガス(内部EGRにより燃焼室6に残留する既燃ガス)が占める重量割合のことである。
例えば、点火時期および燃料の噴射量/噴射時期は、上記目標SI率および目標θciを考慮して予め定められたマップにより決定される。すなわち、マップには、エンジン負荷・回転数の条件ごとに、上記目標SI率および目標θciを実現するのに適した点火時期及び燃料の噴射量/噴射時期がそれぞれ記述されている。当該マップは、記憶部68に格納されている。点火制御部63及び噴射制御部64は、前記マップに記憶された点火時期及び燃料の噴射量/噴射時期に従って、点火プラグ16及びインジェクタ15を制御する。
一方、外部EGR率および内部EGR率は、所定のモデル式を用いた演算により決定される。すなわち、EGR制御部65は、燃焼サイクルごとに、上記目標SI率および目標θciを実現するために火花点火の時点で必要とされる筒内温度(目標筒内温度)を所定のモデル式を用いて算出する。そしてEGR制御部65は、算出した目標筒内温度に基づいて、EGR弁53の開度と、吸気弁11及び排気弁のバルブタイミングとを決定する。
なお、第1、第2運転領域A1、A2では、上記のような点火時期および噴射量/噴射時期の制御と併せて、スロットル弁32が次のように制御される。すなわち、第1運転領域A1では、基本的に、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通して燃焼室6に導入されるように、つまり、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が、理論空燃比(14.7)よりも大きくなるように(空気過剰率λ>1となる)、スロットル弁32の開度が設定される。一方、第2運転領域A2では、理論空燃比相当の空気量が燃焼室6に導入されるような開度、つまり、空燃比が理論空燃比に略一致するように(λ≒1となる)、スロットル弁32の開度が設定される。
<第3運転領域>
第1、第2運転領域A1、A2よりも回転数が高い第3運転領域A3では、通常のSI燃焼が実行される。例えば、少なくとも吸気行程の一部と重複する所定期間にわたりインジェクタ15から燃料が噴射されるとともに、圧縮行程後期に点火プラグ16による火花点火が実行される。そして、この火花点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
第3運転領域A3では、スロットル弁32は、理論空燃比相当の空気量又はこれよりも少ない空気量が燃焼室6に導入されるような開度、つまり燃焼室6内の空燃比が、理論空燃比若しくはこれよりもややリッチな値(λ≦1)となるような開度に設定される。
なお、第1~第3の運転領域A1~A3では、図4に示される過給ラインTの内側領域で過給機33がOFF状態とされ、過給ラインTの外側領域で過給機33がON状態とされる。過給ラインTの内側領域、つまり第1運転領域A1の低速側では、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。一方、過給ラインTの外側領域、つまり第1運転領域A1の高速側では、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。このとき、第2吸気圧センサSN8により検出されるサージタンク36内の圧力(過給圧)が、エンジンの運転条件(回転速度や負荷等の条件)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。
[気筒間のトルクばらつきを抑制する一次補正]
続いて、補正部67(第1補正部)が実行する燃料噴射量の一次補正について詳述する。エンジン本体1においては、気筒2a~2dが各々発生するトルクのばらつきを抑制することが、安定した走行性能の確保のために肝要となる。このため、エンジンの運転状態(回転速度/負荷)に応じて、各気筒2a~2dの燃焼制御を行う必要がある。この場合、各気筒2a~2dの燃焼の条件が同じであれば、エンジンの各気筒2a~2dの空燃比(A/F)が揃うように燃料の噴射量/噴射時期等を制御すれば良い。
しかし、実際には各気筒2a~2dの燃焼条件は必ずしも同一ではなく、A/Fを揃える制御では、エンジンの運転状態によっては、燃費性の悪化やNOxの増加を招くおそれがある。特に、SPCCI燃焼において空燃比が理論空燃比よりも大きくなる第1運転領域A1(SPCCI_λ>1)において、その傾向が認められる。その要因の一つとして内部EGR率(内部EGRの量)のばらつき等の影響を挙げることができる。各気筒2a~2dの内部EGR率は、上記の通り所定のモデル式を用いた演算により一律に決定される。そして、決定された内部EGR率を実現するように、各気筒2a~2dにおける吸気弁11及び排気弁12のバルブオーバーラップ期間が制御される。
ところが、モデル式に基づく内部EGR率と実際の内部EGR率とにはずれがあり、そのずれの程度は気筒2a~2d間でもばらつきがある。本実施形態では、#1気筒2aのEGR率が、他の各気筒2b~2dのEGR率に比べて多くなる傾向が出る。これは、図2に示したように、本実施形態の排気マニホールド42は、#1気筒2aが#2~#4気筒2b~2dに対して集合部44に偏在的に近いという構造的な特徴を有する。かかる構造的特徴は、エンジンシステムのコンパクト化等に貢献し得る。しかし、この排気マニホールド42の構造的な特徴のため、#2~#4気筒2b~2d(他の気筒)に比べて、内部EGRが実行される際に既燃ガスが#1気筒2a(一の気筒)に引き戻され易くなる。このような既燃ガスの戻り量のばらつきが、気筒2a~2d間の内部EGR率の相違となって表出し、ひいては内部EGRを実行させる際における気筒2a~2d間の発生トルクのばらつきを招来する。
そこで、本願発明者らは、空気及び既燃ガスを含むガスの質量と燃料の質量との割合であるガス空燃比(G/F)に着目した。すなわち、A/Fではなく、各気筒2a~2dのG/Fが揃うように燃料噴射量を制御することに着目した。そして、第1運転領域A1においては、G/Fを揃える制御を行うことにより、燃費性の悪化やNOxの増加を抑制しながら、気筒2a~2d間のトルクのばらつきを抑制し得ることを試験的に確認した。
但し、エアフローセンサSN4等のセンサ出力により比較的正確に推定できるA/Fとは違い、各気筒2a~2dのG/Fをセンサ出力により正確に把握することは困難である。この点に鑑み、本願発明者らは、各気筒2a~2dの燃焼重心時期を揃えれば、G/Fも揃うことを知見した。図5には、燃焼重心時期(θmfb50;所定質量燃焼時期)が示されている。燃焼重心時期は、1燃焼サイクル中に気筒に供給された燃料のうち、質量割合50%の燃料が燃焼する時期である。点火プラグ16による点火開始時期(点火時期θig)から燃焼重心時期(θmfb50)までの期間θt(以下、50%燃焼期間θtと称す)と、G/Fとの間には相関関係があることが判明した。具体的には、各気筒2a~2dにおける、50%燃焼期間θtを揃えれば、各気筒のG/Fを実質的に揃えることができることが判明した。図5には、SI燃焼からCI燃焼に切り替わる変曲点Xに対応するθci(CI燃焼の開始時期)と、燃焼重心時期θmfb50とが異なる時期(クランク角)に示されている。図5では、図示の便宜上、θciとθmfb50とを離間させているが、両時期はほぼ同じ時期である。
上記の知見に鑑み、補正部67は、点火時期θigから燃焼重心時期θmfb50までの50%燃焼期間θtが各気筒2a~2dで揃うように、噴射制御部64が現状の運転状態に応じて設定した、各インジェクタ15による燃料噴射量を一次補正する。この一次補正では、50%燃焼期間θtを予測により求めた目標燃焼時期と、50%燃焼期間θtを実際の燃料状態に基づき求めた実燃焼時期との偏差が解消されるように、前記燃料噴射量をフィードバック補正する。
この一次補正を行う第1補正部としての補正部67は、具体的には、目標燃焼期間と実燃焼期間との偏差に基づき、各気筒2a~2dの燃料噴射量を補正する。目標燃焼期間は、点火時期θigから前記目標燃焼時期までの期間であって、予め設定された燃焼モデルによって求められる期間である。ここでの燃焼モデルは、所定条件下での運転状態毎の理想的な燃焼形態を予め定めたモデルである。実燃焼期間は、点火時期θigから前記実燃焼時期までの期間であって、筒内圧センサSN3が検出する筒内圧力に基づき求められる期間である。
[燃焼変動を抑制する二次補正]
第2補正部としての補正部67は、燃焼変動が所定の閾値よりも大きい特定気筒2が発生した場合、その特定気筒2の燃料噴射量を増量するように二次補正する。燃焼変動が生じると、その特定気筒2が1サイクル当たりに発生するトルクが経時的に変動することとなり、走行性能に影響を及ぼし得る。このような燃焼変動は、当該燃焼変動が生じている気筒への燃料噴射量を増量させることで抑制することができる。すなわち、SPCCIのリーン燃焼が行われており、筒内圧が安定しない燃焼変動が生じている状況において、燃料噴射量を増量することは、燃焼を安定化させるのに効果的だからである。
図6を参照してさらに詳述する。図6は、気筒毎の燃焼変動の例を示すグラフである。ここでは、#1~#4気筒2a~2dのサイクル毎の燃焼変動の一例を示している。縦軸の燃焼変動は、筒内圧センサSN3が検出する筒内圧に基づく図示平均有効圧力(IMEP)と、その標準偏差との割合によって示される指標である。上記の一次補正にて、50%燃焼期間θtが各気筒2a~2dで揃うように制御しても、何らかの要因で燃焼変動が生じる場合がある。図6では、#4気筒2dにおいて、予め定められた所定の閾値Thを超過する大きな燃焼変動が生じている例を示している。他の#1~#3気筒2a~2cについては、閾値Th以下の燃焼変動に収まっている。
このような燃焼変動が特定の気筒2dで発生する原因として、筒内圧センサSN3が検出する筒内圧の検出値の誤差を挙げることができる。既述の通り、前記第1補正においては、筒内圧センサSN3によって逐次検出される各気筒2a~2dの筒内圧に基づき、前記実燃焼時期が把握される。しかし、筒内圧センサSN3の検出結果に基づく前記実燃焼時期の特定には誤差が介入し得る。例えば、燃焼圧(筒内圧)の立ち上がりが小さくなる低回転低負荷の運転領域では、筒内圧変化特性に依拠して燃焼重心時期θmfb50を特定することが難しくなるゆえ、誤差が発生し易い。とりわけ、本実施形態では、低負荷低回転の第1運転領域A1(一部の運転領域)にはSPCCIのリーン燃焼が適用され、燃料噴射量が本来的に少なく、筒内圧変化の立ち上がりが小さいことも、誤差を誘発し易いと言える。
このため、前記一次補正にて気筒間でG/Fを揃えるように燃料噴射量を補正したつもりが、前記実燃焼時期の特定が正確でないために的確な一次補正が完遂されないことが生じ得る。図6の例では、#4気筒2dについて前記一次補正が的確ではなかった結果、サイクル毎の燃焼環境が安定せず、燃焼変動が閾値Thを超過したと推測し得る。
この場合、補正部67は、燃焼変動が大きい#4気筒2dについて、前記一次補正により設定された燃料噴射量を、さらに増量側に二次補正する。一般に、燃焼変動が生じている気筒に対して燃料噴射量を増量させると、燃焼が安定化する方向に導くことができる。なお補正部67は、前記二次補正を行う際、エンジン全体としての発生トルクが過剰とならないよう、全気筒2a~2dの総燃料噴射量が変動しないように調整する。具体的には補正部67は、#4気筒2dの燃料噴射量を増量した分だけ、他の#1~#3気筒2a~2cの燃料噴射量を按分して減量する。
[燃焼制御の基本実施形態とそのバリエーション]
続いて、本発明に係る燃焼制御における燃料噴射量の補正の基本動作を、図7に示すフローチャートに基づいて説明する。補正部67は、アクセルセンサSN11が検知したアクセル17の踏み込み量に応じて、噴射制御部64が設定した目標燃料噴射量を取得する。そして、補正部67は、各気筒2a~2dのG/Fを揃えることを企図して、実際の燃焼における50%燃焼期間θt(実燃焼時期)が揃うように、各気筒2a~2dについて設定された目標燃料噴射量を一次補正する(ステップS01)。
図8は、燃料噴射量の一次補正の態様を説明するためのグラフである。図8に実線にて示す熱発生率波形Hは、先に図5に示したSPCCI燃焼における熱発生率波形と同等の波形である。この熱発生率波形Hの、点火時期θigから燃焼重心時期θmfb50までの50%燃焼期間θtが、上述の燃焼モデルによって求められる目標燃焼期間であるとする。補正部67は、この50%燃焼期間θtと、各気筒2a~2dにおける実燃焼期間との偏差を求め、当該偏差が解消されるように燃料噴射量をフィードバック補正する。
図6において点線で示す熱発生率波形H1は、点火時期θigから燃焼重心時期までの実燃焼期間が、目標となる50%燃焼期間θtよりも長い燃焼状態を示している。すなわち、熱発生率波形H1では、実際の燃焼状態に基づいて求められた50%燃焼時期θdelが、燃焼重心時期θmfb50よりも遅角側に現れている。このような齟齬が生じている場合、50%燃焼時期θdelが、目標とする燃焼重心時期θmfb50に接近するように燃料噴射量が補正される。具体的には補正部67は、熱発生率波形H1の如き燃焼が生じている気筒2に対して、燃料噴射量を増量させるように前記一次補正を行う。つまり、燃料噴射量の増量によって燃焼の進行が促進され、50%燃焼時期θdelが現状より進角側に現れるようになる。
一方、図6において一点鎖線にて示す熱発生率波形H2は、点火時期θigから燃焼重心時期までの実燃焼期間が、目標となる50%燃焼期間θtよりも短い燃焼状態を示している。熱発生率波形H2では、実際の燃焼状態に基づいて求められた50%燃焼時期θadvが、燃焼重心時期θmfb50よりも進角側に現れている。この場合には補正部67は、熱発生率波形H2の如き燃焼が生じている気筒2に対して、燃料噴射量を減量させるように前記一次補正を行う。つまり、燃料噴射量の減量によって燃焼の進行が緩慢化され、50%燃焼時期θadvが現状より遅角側に現れ、50%燃焼期間θtに接近するようになる。
上記の実施形態は、#1~#4気筒2a~2dの実燃焼期間を、目標燃焼期間となる50%燃焼時期θtに合わせ込む結果として、気筒2a~2d間の実燃焼期間を揃える態様である。これに代えて、他の実施形態では、気筒2a~2d毎に目標燃焼期間と実燃焼期間との偏差である個別差を求め、これら個別差の平均値を補正目標値として設定しても良い。そして、当該補正目標値と前記個別差との偏差がゼロに向かうように、各気筒2a~2dの燃料噴射量を一次補正する。つまり、予測された50%燃焼時期θtに各気筒2a~2d間の実燃焼期間を強引に合わせ込むのではなく、前記個別差の平均値である補正目標値に各気筒2a~2dの前記個別差を合わせ込むことで実燃焼期間を揃える態様である。この態様については、後記(図11)に例示する。
次に、燃焼変動判定部66が、筒内圧センサSN3の検出値を参照して、#1~#4気筒2a~2dにおける燃焼変動を確認する(ステップS02)。これは、図6に例示したような、気筒2a~2d毎の燃焼変動特性を把握する処理となる。続いて燃焼変動判定部66は、所定の閾値Thを超過する燃焼変動が生じている特定気筒が、#1~#4気筒2a~2dの中に存在するか否かを判定する(ステップS03)。前記特定気筒が存在しない場合(ステップS03でNO)、ステップS01に戻って処理が繰り返される。
これに対し、前記特定気筒が存在する場合(ステップS03でYES)、補正部67は、閾値Thを超過する燃焼変動が生じている特定気筒について、燃料噴射量を予め定めた分量だけ増量させる二次補正を実行する(ステップS04)。その後、ステップS01に戻って処理が繰り返される。次回の処理において、前記燃料噴射量の増量によって、前記特定気筒の燃焼変動が所定の閾値Th内に収まれば、ステップS03においてNO判定が下され、それ以上の燃料噴射量の増量は為されない。一方、前記燃料噴射量の増量によっても、なお特定気筒の燃焼変動が所定の閾値Thを超過している場合は、さらに燃料噴射量が段階的に増量される。
図7のフローでは、一次補正と二次補正とが併用される例を示している。これに代えて、前記特定気筒が生じた場合(ステップS03でYES)には、その燃焼変動を安定化させることを優先して、図7において点線で示すように、ステップS02に戻って処理を繰り返すようにしても良い。すなわち、ステップS01の一次補正を一時的に中止するようにしても良い。
なお、気筒間でトルクを揃えるために、燃焼変動を他の要素に対して優先的にモニターし、燃焼変動を安定化させる制御を行うことも考えられる。しかし、燃焼変動の評価には相応の時間を要する。すなわち、筒内圧センサSN3の検出値を相当数取得し、統計処理を行わないと、燃焼変動を的確に評価することができない。これに対し、燃焼重心時期は即時に求めることができる。従って、図7に示すように、一次補正を基盤として気筒間のトルクを揃える制御を行い、燃焼変動が許容範囲を超えた場合に二次補正でこれを補う方式とすることが望ましい。
また、一次補正と二次補正とを、独立した制御系で達成しても良い。すなわち、前記二次補正を、前記一次補正とは切り離して、燃料噴射量を単純に段階的に増量させる処理としても良い。しかし、前記二次補正による燃料噴射量の増量処理が実質的に前記一次補正のルーチンに組み込まれるようにし、制御系を簡素化することが望ましい。この点を図9に基づいて説明する。図9は、燃料噴射量の二次補正の望ましい態様を説明するためのグラフである。
補正部67は、図8に示した通り、目標燃焼時期(燃焼重心時期θmfb50)に実燃焼時期(θdel又はθadv)が接近するように前記一次補正を行うものであって、前記実燃焼時期が前記目標燃焼時期よりも遅角している場合(熱発生率波形H1)には、燃料噴射量を増量させるように前記一次補正を行う。このような一次補正の補正態様を利用して、前記二次補正を実行させることができる。具体的には、補正部67は、前記二次補正として、燃焼変動が閾値Thを超過している特定気筒2の前記実燃焼時期を遅角させるオフセット値を設定する。これにより、以後に実行される前記一次補正において、前記特定気筒に対する燃料噴射量を増量させることが可能となる。
図9を参照して、大きな燃焼変動の生じている特定気筒2において、図中で実線にて示す熱発生率波形H0が観測されているものとする。熱発生率波形H0は、図5において説明したように、点火時期θigから燃焼重心時期θmfb50までの50%燃焼期間θt(実燃焼時期)を有している。この場合、補正部67は、燃焼重心時期θmfb50にオフセット値αを遅角側に加算して、仮想的な熱発生率波形Hαを創り出す。仮想熱発生率波形Hαは、実際の熱発生率波形H0の燃焼重心時期θmfb50からオフセット値αだけ遅角したクランク角に燃焼重心時期θmfb50+αを有する波形となる。
特定気筒2について、上記のような仮想熱発生率波形Hαが創出された場合、以後に実行される前記一次補正において補正部67は、仮想的に遅角された燃焼重心時期θmfb50+αを前記実燃焼時期と扱い、実際の燃焼重心時期θmfb50を前記目標燃焼時期と扱うようになる。従って、補正部67は、仮想の燃焼重心時期θmfb50+αを実際の燃焼重心時期θmfb50に近づけるべく、特定気筒2の燃料噴射量を増量する一次補正を行うようになる。つまり、オフセット値αの分だけ燃焼重心時期を進角させるように、特定気筒2の燃料噴射量が増量されるので、二次補正が実質的に実行されたに等しい結果を得ることができる。この実施形態によれば、実質的に前記二次補正のための制御系を別途準備することなく、前記一次補正のための制御系を利用して前記二次補正が行われるので、制御系を簡素化することができる。
[具体的な燃焼制御フロー]
続いて、本発明に係る燃焼制御のより具体的なフローを説明する。図10は、SPCCI燃焼による運転時、すなわち図4の運転マップにおける第1、第2の運転領域A1、A2におけるECU60による制御を示すフローチャートである。図11は、図10のフローチャートのステップS9の処理(サブルーチン)を示すフローチャートである。
このフローチャートに示す制御がスタートすると、ECU60は、図3に示す各センサSN1~SN11や他のセンサから各種信号を読み込み、エンジン本体1の運転状態に関する情報や燃焼条件に影響を与える環境情報を取得する(ステップS1)。続いて燃焼制御部61が、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセルセンサSN11の検出値(アクセル開度)やエアフローセンサSN4の検出値(吸気流量)等から特定されるエンジン負荷とに基づいて、変曲点X(特定の燃焼時期)に対応するクランク角θci(図5)の目標値である目標θciを決定する(ステップS2)。そして、この目標θciを実現するのに適した目標点火時期及び目標燃料噴射量/目標噴射時期を、点火制御部63及び噴射制御部64がそれぞれ決定する(ステップS3)。目標θciの決定、及び、目標燃料噴射量/目標噴射時期、目標点火時期の決定は、予め定められたマップ等に基づき行われる。
次に、運転状態判定部62は、エンジン回転速度とエンジン負荷とに基づき、現状の現運転ポイントが第1運転領域A1にあるか、すなわち、空燃比が理論空燃比よりも大きいリーン(λ>1)な状態でSPCCI燃焼が実行される運転領域にあるか否かを判定する(ステップS4)。SPCCI_λ>1燃焼が実行されている場合(ステップS4でYES)、第1補正部として機能する補正部67は、予め記憶部68に記憶されているSPCCI_λ>1用の第1燃料補正データに基づいて、ステップS3で決定した目標燃料噴射量を補正する(ステップS5)。
SPCCI_λ>1用の第1燃料補正データは、所定のモデル式に基づいて求められる各気筒2a~2dの内部EGR率、実際の内部EGR率とのずれの傾向、及び気筒間の実際の内部EGR率のばらつきの傾向に基づき、当該ずれやばらつきが是正されるように燃料補正量を定めたデータである。具体的には、モデル式に基づく内部EGR率(理論値)と燃料補正量との関係が定められている。なお、この第1燃料補正データは、上記の第1運転領域A1用のデータの他、第2運転領域A2用のデータ、SPCCI_λ=1用のデータが設定されている。後述するステップS11では、SPCCI_λ=1用の第1燃料補正データに基づき各々目標燃料噴射量が補正される。
図12(a)~(d)は、SPCCI_λ>1の運転領域における#1~#4気筒2a~2dの第1燃料補正データの一例を示すグラフである。このグラフに示す目標燃料噴射量の補正量は、本実施形態において採用されている排気マニホールド42の特徴的構造(図2)によって定まる固有の補正量である。図12の(a)は#1気筒2a、(b)は#2気筒2b、(c)は#3気筒2c、(d)は#4気筒2dの第1燃料補正データを各々示している。記憶部68は、これらのグラフに相当する補正量のテーブルデータを記憶している。
集合部44に最も近い#1気筒2aについては、排気ポート10からの既燃ガスの再吸入量が比較的多くなる。一方、#2~#4気筒2b~2dについては、既燃ガスの再吸入量が比較的少なくなる。この場合、目標燃料噴射量通りに#1~#4気筒2a~2dに燃料噴射を実行させると、#1気筒2aでは空気を含むガス量が過剰となってG/Fがリーンに、逆に#2~#4気筒2b~2dではガス量が不足となってG/Fがリッチとなり、G/Fにバラツキが生じる。このバラツキを是正するには、#1気筒2aについてはG/Fがリッチ側に、#2~#4気筒2b~2dについてはG/Fがリーン側に向かうように、目標燃料噴射量を補正すれば良い。
具体的には、図12(a)に示すように、#1気筒2については、目標燃料噴射量を増量する補正量(+)が設定されている。これにより、既燃ガスの再吸入量が過剰でG/Fがリーン側に変動する#1気筒2を、目標とするG/Fに近づけることができる。また、目標燃料噴射量の増量度合いは、内部EGR率が多くなるほど大きくなるように設定されている。これは、内部EGR量が多くなるほど排気通路40から戻る既燃ガスの量が多くなり、気筒2a~2d間のG/Fのバラツキが大きくなる傾向に対応するためである。これに対し、図12(b)、(c)、(d)に示すように、#2、#3、#4気筒2b~2dについては、目標燃料噴射量を減量する補正量(-)が設定され、その減量度合いは内部EGR率が多くなるほど大きくなるように設定されている。このような補正を行うことで、既燃ガスの戻りが不足でG/Fがリッチとなる#2、#3、#4気筒2b~2dを、目標とするG/Fに近づけることができる。
具体的に、ステップS5において補正部67は、記憶部68に格納されている多項式モデルを適用して各気筒2a~2dの内部EGR率の暫定値を算出する。前記多項式モデルは、バルブオーバーラップ量、排気弁12の閉弁時期、吸排気差圧、エンジン回転数を要素とする多項式モデルである。続いて補正部67は、算出された内部EGR率の暫定値に、排気ガス温度で定まる係数及び大気圧で定まる係数を乗算して、内部EGR率の予測値を算出する。そして補正部67は、得られた内部EGR率と第1燃料補正データ(図12)とに基づき各気筒2a~2dの燃料補正量を決定し、当該燃料補正量に基づき各気筒2a~2dの目標燃料噴射量を補正する。
次いで、補正部67は、ステップS5における補正後の目標燃料噴射量を、さらに前回の燃焼サイクルで求められたフィードバック補正量に基づき補正する(ステップS6)。これにより、最終的な目標燃料噴射量が決定する。
最終的な目標燃料噴射量を決定すると、補正部67は、当該目標燃料噴射量と現在の運転状態(回転速度/負荷)に基づき、上述の燃焼モデルを用いて燃焼重心時期θmfb50(目標燃焼時期)を特定する。さらに補正部67は、当該燃焼モデルにおける点火時期θigから特定された燃焼重心時期θmfb50までの期間である予測50%燃焼期間θt0(目標燃焼期間)を、気筒2a~2d毎に演算する(ステップS7)。
次いで、噴射制御部64が、ステップS6にて決定された最終的な目標燃料噴射量の燃料を、ステップS3で決定された目標噴射時期にインジェクタ15により噴射させる。また、点火制御部63が、ステップS3で決定された点火時期に点火プラグ16に点火動作を行わせる(ステップS8)。これにより、SPCCI_λ>1燃焼が実行される。
その後、補正部67は、気筒2a~2d間の50%燃焼期間θtを揃える、すなわち、気筒2a~2d間の発生トルクのばらつきを無くすためのフィードバック補正量を演算する(ステップS9)。このフィードバック補正量の演算処理のサブルーチンを、図11に示すフローチャートに基づいて説明する。
サブルーチンがスタートすると、補正部67は、ステップS8で実際に行われたSPCCI燃焼における燃焼重心時期θmfb50(実燃焼時期)を求める。さらに補正部67は、点火時期θigから求められた燃焼重心時期θmfb50までの期間である実50%燃焼期間θt1(実燃焼期間)を、演算によって求める(ステップS21)。具体的には補正部67は、SPCCI燃焼の期間内に筒内圧センサSN3により検出された筒内圧力の波形に基づき、燃焼に伴う熱発生量をクランク角毎に算出するとともに、クランク角毎の熱発生量データに基づいて、燃料の50%質量分が燃焼した燃焼重心時期θmfb50を演算する。そして、ステップS3で決定した点火時期θigからこの燃焼重心時期θmfb50までの期間を求めることで、実50%燃焼期間θt1が導出される。
次いで、補正部67は、図10のステップS7で求めた予測50%燃焼期間θt0と、先のステップS21で算出した実50%燃焼期間θt1との偏差である個別差Δθを、気筒2a~2d毎に演算する(ステップS22)。さらに、補正部67は、各気筒2a~2dの個別差Δθの平均値を求め、この平均値を補正目標値θtvとして設定する(ステップS23)。
その後、補正部67は、補正目標値θtvと各気筒2a~2dの個別差Δθとの偏差を各々演算する(ステップS24)。基本的には燃料噴射量の補正は、補正目標値θtvと個別差Δθとの偏差がゼロに向かうように一次補正が為される。続いて補正部67は、前記偏差の演算結果と、予め定められている第2燃料補正データとに基づき、目標燃料噴射量に対する個別差Δθの反映度合を決定する(ステップS25)。反映度合とは、目標燃料噴射量の補正の要否及び補正する場合にはどの程度補正するのかを示すパラメータであり、補正係数などは反映度合の一例である。
図13は、上記第2燃料補正データの一例を示している。第2燃料補正データは、目標値θtvと個別差Δθとの偏差(ステップS24での算出値)と前記反映度合との関係を定めたものである。当実施形態では、概略的には、目標値θtvと個別差Δθとの偏差が相対的に大きくなるほど、反映度合が相対的に大きくなるように上記関係が設定されている。但し、目標値θtvと個別差Δθとの偏差が特定の値を超えると、反映度合は一定値(最大値)に維持される。
気筒2a~2d毎の前記反映度合が決定すると、補正部67は、この反映度合に基づき、気筒2a~2d毎の目標燃料噴射量に対する具体的な燃料補正量(フィードバック補正量)を演算する(ステップS26)。このフィードバック補正量は、例えば予め定められているモデル式に、ステップS25で求めた前記反映度合を示す数値を代入することにより算出される。
その後、第2補正のための処理に移行する。燃焼変動判定部66が、各気筒2a~2dにおける燃焼変動をモニター結果に基づき、予め定められた閾値Th(図6)より大きい燃焼変動が発生している特定気筒2が存在するか否かを判定する(ステップS27)。特定気筒2が存在しない場合(ステップS27でNO)は、サブルーチンの処理を終える。
これに対し、特定気筒2が存在する場合(ステップS27でYES)、第2補正部として機能する補正部67が、当該特定気筒2についての実50%燃焼期間θt1を遅角させるオフセット値を設定する。すなわち、ステップS21で求められた燃焼重心時期θmfb50に、先に図7に基づき説明したオフセット値αを加算する処理が実行される(ステップS28)。以降は、その特定気筒2の実50%燃焼期間θt1の演算には、オフセット値αが加算される。既述の通り、この処理によって、特定気筒2の燃料噴射量が実質的に増量側へ二次補正されることとなる。なお、オフセット値αの設定によって次回以降のルーチンにおいて特定気筒2の燃焼変動が閾値Thを下回るようになっても、オフセット値αの加算は維持される。オフセット値αの加算を外すと、再び特定気筒2の燃焼変動が悪化する可能性が高いからである。但し、一旦SPCCI_λ>1燃焼の運転領域から外れたならば、オフセット値αの加算をリセットするようにしても良い。
図11のサブルーチンが終了すると、補正部67は、ステップS26で算出したフィードバック補正量を、記憶部68へ更新的に記憶させる(ステップS10)。もちろん、ステップS28において特定気筒2にオフセット値αが設定された場合には、当該オフセット値αも記憶させる。その後、処理はステップS1にリターンする。
一方、図10のフローチャートのステップS4において、現状の運転ポイントが第1運転領域A1でないと判定された場合(ステップS4でNO)、すなわち、運転状態判定部62が第2運転領域A2であると判定した場合には、補正部67は、処理をステップS11に移行する。ステップS11において補正部67は、記憶部68に予め記憶されているSPCCI_λ=1用の第1燃料補正データに基づいて、ステップS3で決定した目標燃料噴射量を補正する。
なお、SPCCI_λ=1用の第1燃料補正データも、SPCCI_λ>1用の第1燃料補正データと同様に、モデル式に基づく内部EGR率(理論値)と燃焼補正量との関係が定められたものである。このSPCCI_λ=1用の第1燃料補正データは、専ら、モデル式に基づく各気筒2a~2dの内部EGR率と実際の内部EGR率とのずれを是正し得るように、内部EGR率と燃焼補正量との関係が定められている。
次いで、噴射制御部64が、ステップS11で決定した最終的な目標燃料噴射量の燃料を、ステップS3で決定された目標噴射時期にインジェクタ15により噴射させる。また、点火制御部63が、ステップS3で決定された点火時期にて点火プラグ16に点火動作を行わせる(ステップS12)。これにより、SPCCI_λ=1燃焼が実行される。その後、ECU60は、処理をステップS1にリターンする。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係るエンジンの燃焼制御装置によれば、補正部67によって実行される、各気筒2a~2dの実50%燃焼期間θt1を揃える燃料噴射量の一次補正により、各気筒2a~2dのG/Fを実質的に揃えることが可能となる。これにより、燃費性の悪化やNOxの増加を抑制しつつ、気筒2a~2d間のトルクのばらつきを抑制することができる。一方、各気筒2a~2dのG/Fを揃える制御を行っても、何らかの要因で、特定の気筒において所定の閾値Thを越える燃焼変動が生じてしまうことがある。この場合には補正部67が、大きな燃焼変動が生じている特定の気筒への燃料噴射量を増量させる二次補正を行い、前記燃焼変動を抑制する。従って、燃焼安定性を確保することができる。
また、補正部67は、前記二次補正として、実50%燃焼期間θt1を遅角させるオフセット値αを設定することで、以後に実行される前記一次補正において前記特定の気筒に対する燃料噴射量を増量させる。つまり、オフセット値αの設定によって、実50%燃焼期間θt1が仮想的に遅角した状態を創出することができる。これにより、以後に実行される前記一次補正のルーチンにおいて、仮想的に遅角された実50%燃焼期間θt1を目標燃焼時期に近づけるべく燃料噴射量が増量されるので、結果的に二次補正が実行されることとなる。従って、実質的に前記二次補正のための制御系を別途準備することなく、前記一次補正のための制御系を利用して前記二次補正が行われるので、制御系を簡素化することができる。
さらに、図11に示した実施形態では、個別差Δθの平均値が目標値θtvとして設定され、この目標値θtvと各気筒2a~2dの個別差Δθとの偏差に基づいてフィードバック補正量が決定される。すなわち、各気筒2a~2dの個別差Δθが目標値θtvに近づくようにフィードバック補正量が求められるので、燃焼モデルに基づく予測50%燃焼期間θt1に拘束されることなく、各気筒2a~2dの50%燃焼期間θtを揃えることができる。