車両の制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための全体構成図である。
第1の実施形態に対応した調圧ユニットYKを説明するための概略図である。
第1の実施形態に対応した、コントローラECU、電気モータMT、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSの構成を説明するための概略図である。
調圧制御処理を説明するためのフロー図である。
車両の制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための概略図である。
第2の実施形態に対応した、コントローラECU、電気モータMR、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSの構成を説明するための概略図である。
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は、省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。
制動系統に係る記号の末尾に付された添字「x」、「y」は、2つの制動系統において、それが何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、2つの制動系統において、「x」は一方側系統、「y」は他方側系統を示す。例えば、2つのマスタシリンダ流体路において、一方側マスタシリンダ流体路HMx、及び、他方側マスタシリンダ流体路HMyと表記される。更に、記号末尾の添字「x」、「y」は省略され得る。添字「x」、「y」が省略された場合には、各記号は、その総称を表す。例えば、「HM」は、各系統のマスタシリンダ流体路を表す。
流体路において、リザーバRVに近く、ホイールシリンダCWから離れた側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近く、リザーバRVから離れた側が「下部」と称呼される。
<車両の制動制御装置の第1の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。この実施形態では、2系統の流体路のうちで、一方側系統(一方側マスタシリンダ室Rmxに係る系統)は、右前輪WHiのホイールシリンダCWi、及び、左後輪WHlのホイールシリンダCWlに接続され、他方側系統(他方側マスタシリンダ室Rmyに係る系統)は、左前輪WHjのホイールシリンダCWj、及び、右後輪WHkのホイールシリンダCWkに接続される。つまり、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されている。なお、2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものでもよい。この場合、一方側系統には前輪ホイールシリンダCWi、CWj(=CWf)が、他方側系統には後輪ホイールシリンダCWk、CWl(=CWr)が、夫々、接続される。制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、及び、マスタシリンダCMが備えられる。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(摩擦ブレーキ力)が発生される。そして、制動トルクよって、車輪WHに制動力が発生される。
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」であり、単に、「リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMは、制動操作部材BPに、ブレーキロッド等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMは、タンデム型であり、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGによって、その内部が、一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、Rmyに分けられている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、RmyとリザーバRVとは連通状態にある。
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内のプライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGが、前進方向Haに押され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyは、リザーバRVから遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGは、前進方向Haに移動され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyの体積は減少し、制動液BFは、マスタシリンダCMから、ホイールシリンダCWに向けて圧送される。結果、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが増加される。制動操作部材BPの操作が減少されると、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGは、後退方向Hbに移動され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyの体積は増加し、制動液BFは、ホイールシリンダCWからマスタシリンダCMに向けて戻される。結果、制動液圧Pwは減少される。
車両には、制動操作量センサBA、車輪速度センサVW、運転支援装置SJ、及び、制動制御装置SCが備えられる。
制動操作量センサBAによって、運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baが検出される。具体的には、制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(=Pmx、Pmy)を検出するマスタシリンダ液圧センサPM(=PMx、PMy)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAは、マスタシリンダ液圧センサPM、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPの総称であり、操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称である。ここで、「Pmx=Pmy」であるため、マスタシリンダ液圧センサPMx、PMyのうちの何れか1つは省略可能である。
車輪速度センサVWによって、各車輪WHの回転速度である、車輪速度Vwが検出される。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向を抑制するアンチスキッド制御等に採用される。車輪速度センサVWによって検出された各車輪速度Vwは、コントローラECUに入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
運転支援装置SJによって、自車両が障害物に衝突しないよう、自動制動が実行される。運転支援装置SJは、距離センサOB、及び、運転支援コントローラECJにて構成される。距離センサOBによって、自車両が走行している先に存在する物体(他の車両、固定物、自転車、人、動物等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obが検出される。例えば、距離センサOBとして、カメラ、レーダ等が利用される。また、固定物が地図情報に記憶されている場合には、距離センサOBとして、ナビゲーションシステムが利用され得る。検出された相対距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、車両の要求減速度Gdが演算される。要求減速度Gd(自動制動制御の目標値)は、通信バスBSを介して、制動制御装置SCの制動コントローラECUに送信される。そして、制動制御装置SCによって、車体減速度Gxが、要求減速度Gdに一致するよう、制動液圧Pwが調整される。
マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとは、マスタシリンダ流体路HM、及び、ホイールシリンダ流体路HWによって接続されている。ここで、流体路は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの一方端部は、マスタシリンダCM(特に、一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、Rmy)に接続される。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの他方端部Bwx、Bwyは、ホイールシリンダ流体路HWに接続される。即ち、一方側マスタシリンダ流体路HMxは、部位Bwxにて、ホイールシリンダ流体路HWi、HWlに分岐される。他方側マスタシリンダ流体路HMyが、部位Bwyにて、ホイールシリンダ流体路HWj、HWkに分岐される。マスタシリンダCM、ホイールシリンダCW、及び、流体路HM、HWには、制動液BFが満たされている。
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、マスタシリンダ弁VM、調圧ユニットYK、ストロークシミュレータSS、シミュレータ弁VS、マスタシリンダ液圧センサPM、調整液圧センサPP、及び、コントローラECUにて構成される。
制動制御装置SCは、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間で、マスタシリンダ流体路HMに設けられる。一方側マスタシリンダ流体路HMxに係る構成と、他方側マスタシリンダ流体路HMyに係る構成は同じである。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの途中には、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyが設けられる。一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyは、開位置と閉位置とを有する、常開型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCの起動時に、マスタシリンダ弁VMは閉位置にされ、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとは遮断状態(非連通状態)にされる。
一方側調圧ユニットYKxが、一方側マスタシリンダ弁VMxの下部Bkx(即ち、マスタシリンダ弁VMとホイールシリンダCWとの間)にて、一方側マスタシリンダ流体路HMx(「一方側流体路」に相当)に接続される。また、他方側調圧ユニットYKyが、他方側マスタシリンダ弁VMyの下部Bkyにて、他方側マスタシリンダ流体路HMy(「他方側流体路」に相当)に接続される。一方側、他方側調圧ユニットYKx、YKyは、一方側、他方側電気モータMTx、MTyによって駆動され、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMの下部の液圧Ppx、Ppyを調節する。このとき、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyには通電が行われ、それらは閉位置(一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの非連通状態)にされている。結果、液圧Ppによって、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが制御される。液圧Ppは、「調整液圧」と称呼される。調圧ユニットYKの詳細については後述する。
ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが、制動操作部材BPに操作力Fpを発生させるために設けられる。換言すれば、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって形成される。シミュレータSSの内部には、ピストン及び弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSS内に移動されると、流入する制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPが操作される場合の操作力Fpが形成される。
シミュレータSSは、マスタシリンダ弁VMの上部にて、マスタシリンダCM(つまり、マスタシリンダ室Rm)に接続される。マスタシリンダ室RmとシミュレータSSとの間には、シミュレータ弁VSが設けられる。シミュレータ弁VSは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCが起動されると、シミュレータ弁VSが開位置にされ、マスタシリンダCMとシミュレータSSとは連通状態にされる。なお、マスタシリンダ室Rmの容量が十分に大きい場合には、シミュレータ弁VSは省略されてもよい。
一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyの上部には、一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、Rmyの液圧(マスタシリンダ液圧)Pmx、Pmyを検出するよう、一方側、他方側マスタシリンダ液圧センサPMx、PMyが設けられる。マスタシリンダ液圧センサPMは操作量センサBAに相当し、マスタシリンダ液圧Pmは操作量Baに相当する。一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyの下部には、一方側、他方側調整液圧Ppx、Ppyを検出するよう、一方側、他方側調整液圧センサPPx、PPyが設けられる。検出されたマスタシリンダ液圧Pm、及び、調整液圧Ppは、制動コントローラECUに入力される。なお、「Pmx=Pmy」であるため、一方側、他方側マスタシリンダ液圧センサPMx、PMyのうちの何れか一方は省略可能である。
制動コントローラ(「制動用電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRが実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUによって、各種信号(Ba等)に基づいて、電気モータMT、及び、オン・オフ電磁弁VM、VSが制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電磁弁VM、VSを制御するための電磁弁駆動信号Vm、Vsが演算される。同様に、電気モータMTを制御するためのモータ駆動信号Mtが演算される。そして、これらの駆動信号Vm、Vs、Mtに基づいて、電磁弁VM、VS、及び、電気モータMTが駆動される。
制動コントローラECUは、車載通信バスBSを介して、運転支援コントローラECJ等の他システムのコントローラ(電子制御ユニット)とネットワーク接続されている。例えば、運転支援コントローラECJから、通信バスBSを介して、自動制動制御を実行するよう、要求減速度Gdが、制動コントローラECUに送信される。各コントローラ(ECU等)には、車載の発電機AL、及び、蓄電池BTから電力が供給される。
<調圧ユニットYK>
図2の概略図を参照して、第1の実施形態に対応した調圧ユニットYK(=YKx、YKy)の詳細について説明する。一方側調圧ユニットYKxと他方側調圧ユニットYKyとは同じ構成を有する。調圧ユニットYKは、電気モータMT、減速機GS、回転・直動変換機構(ねじ部材)NJ、調圧ピストンPK、調圧シリンダCK、及び、戻しばねSKにて構成される。調圧ユニットYKは、マスタシリンダ弁VMとホイールシリンダCWとの間(マスタシリンダ弁VMの下部Bk)で一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMy(一方側、他方側流体路)に接続される。
電気モータMT(=MTx、MTy)は、調圧ユニットYK(=YKx、YKy)の駆動源である。電気モータMTの回転動力よって、マスタシリンダ弁VMの下部の液圧(調整液圧)Pp(=Ppx、Ppy)が調節される。電気モータMTは、コントローラECUによって駆動される。
減速機GSは、小径歯車SG、及び、大径歯車DGにて構成される。減速機GSによって、電気モータMTの回転動力が減速されて、ねじ部材NJに伝達される。具体的には、小径歯車SGが、電気モータMTの出力軸Jmに固定される。大径歯車DGが、小径歯車SGとかみ合わされ、大径歯車DGの回転軸がねじ部材NJのボルト部材BTの回転軸と一致するように、大径歯車DGとボルト部材BTとが固定される。即ち、減速機GSにおいて、電気モータMTからの回転動力が小径歯車SGに入力され、それが減速されて大径歯車DGからねじ部材NJに出力される。
ねじ部材NJは、ボルト部材BT、及び、ナット部材NTで構成される。ねじ部材NJにて、減速機GSの回転動力が、調圧ピストンPKの直線動力に変換される。具体的には、ボルト部材BTが大径歯車DGと同軸に固定されており、ボルト部材BTの回転によって、それと螺合するナット部材NTが移動される。ナット部材NTによって調圧ピストンPKが押されることによって、調圧ピストンPKの直線動力に変換される。ここで、ナット部材NTの回転運動は、キー部材KYによって拘束されるため、ナット部材NTは大径歯車DGの回転軸Jk(調圧シリンダCKの中心軸線)の方向に移動される。そして、ナット部材NTによって、調圧ピストンPKが押圧される。ねじ部材NJとして、台形ねじ等の「滑りねじ」が採用される。また、ねじ部材NJとして、ボールねじ等の「転がりねじ」が採用され得る。
調圧ピストンPKは、調圧シリンダCKの内孔に挿入され、ピストン/シリンダの組み合わせが形成されている。具体的には、調圧ピストンPKの外周部には、シールSLが設けられ、調圧シリンダCKの内周部(内壁)との間でシールが行われる。「調圧シリンダCKの内周面、底面」、及び、「調圧ピストンPKの端面」によって液圧室Rk(「調圧室」という)が区画される。調圧室Rkは、調圧流体路HKを介して、マスタシリンダ流体路HMに接続される。調圧ピストンPKが中心軸Jkの方向に移動されることによって、調圧室Rkの体積が変化する。このとき、マスタシリンダ弁VMが閉位置とされているため、制動液BFは、マスタシリンダCMの方向には移動されず、ホイールシリンダCWに対して移動される。
電気モータMTが正転方向に回転駆動されると、調圧室Rkの体積が減少するように調圧ピストンPKが、前進方向Hcに移動され、制動液BFが調圧シリンダCKからホイールシリンダCWへ移動される。これによって、制動液圧Pwが増加し、車輪WHの制動トルクが増加される。一方、電気モータMTが逆転方向に回転駆動されると、調圧室Rkの体積が増加するように調圧ピストンPKが、後退方向Hdに移動され、制動液BFがホイールシリンダCWから調圧シリンダCKに戻される。これによって、制動液圧Pwが減少し、車輪WHの制動トルクが減少する。換言すれば、調整液圧Ppが調整される場合には、マスタシリンダ弁VMは閉位置にされている。
調圧ユニットYKには、戻しばね(弾性体)SKが設けられる。戻しばねSKによって、電気モータMTへの通電が停止された場合に、調圧ピストンPKが初期位置に戻される。初期位置は、制動液圧の「0(ゼロ)」に対応し、調圧ピストンPKがストッパ部に当接する位置である。
<第1の実施形態でのコントローラECU等の構成>
図3の概略図を参照して、第1の実施形態に対応した、コントローラECU、電気モータMT、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy、及び、シミュレータ弁VSの構成について説明する。
制動コントローラECUには、電力源BT(蓄電池)、AL(発電機)から、電力が供給される。制動コントローラECUによって、「一方側、他方側電気モータMTx、MTy」、「一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy」、及び、シミュレータ弁VSが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、第1、第2駆動回路DR1、DR2を含んで構成される。マイクロプロセッサMPには、後述する、電気モータMT(=MTx、MTy)、マスタシリンダ弁VM(=VMx、VMy)、及び、シミュレータ弁VSを制御するためのアルゴリズムがプログラムされている。
制動制御装置SCの信頼度を向上するよう、マイクロプロセッサMPは冗長化されている。加えて、一方側、他方側電気モータMTx、MTy、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy、及び、シミュレータ弁VSを駆動する電気回路が、第1、第2駆動回路DR1、DR2として冗長化されている。更に、電気モータMT、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSを小型化するために、第1、第2駆動回路DR1、DR2には昇圧回路SH(DC/DCコンバータ)が含まれている。昇圧回路SHによって、電気モータMT、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSの駆動電圧が、電源BT等の電圧(電源電圧)よりも高くされる。また、昇圧回路SHによって、電気モータMTのみの駆動電圧が増加され、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSの駆動電圧は電源電圧のままとされてもよい。更に、第1、第2駆動回路DR1、DR2の昇圧回路SHは省略されてもよい(即ち、コントローラECUには、昇圧回路SHが含まれない)。
図3(a)で示すように、コントローラECUの電力源は、第1、第2蓄電池BT1、BT2、及び、第1、第2発電機AL1、AL2で構成される。つまり、電力源BT、ALは、二重化されている。第1電力源BT1、AL1によって、第1駆動回路DR1に電力が供給される。また、第2電力源BT2、AL2によって、第2駆動回路DR2に電力が供給される。なお、第1蓄電池BT1は第1発電機AL1によって、第2蓄電池BT2は第2発電機AL2によって、夫々充電される。また、マイクロプロセッサMPも、第1、第2蓄電池BT1、BT2等から電力供給を受ける。
図3(b)で示すように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略され得る。この場合には、2つの蓄電池BT1、BT2は、1つの発電機ALによって充電される。また、図3(c)で示すように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略されるとともに、第1、第2蓄電池BT1、BT2のうちの1つが省略されてもよい。この場合、1つの蓄電池BTは、1つの発電機ALによって充電され、第1、第2駆動回路DR1、DR2は、この蓄電池BTによって電力供給される。
第1、第2駆動回路DR1、DR2には、一方側、他方側電気モータMTx、MTyを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によって3相ブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mtに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTの出力が制御される。
駆動回路DR1、DR2には、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy(=VM)を駆動するよう、マスタシリンダ弁用の駆動回路が含まれる。マスタシリンダ弁駆動信号Vmに基づいて、マスタシリンダ弁VMの励磁状態(通電状態)が制御され、マスタシリンダ弁VMが駆動される。また、駆動回路DR1、DR2には、シミュレータ弁VSを駆動するよう、シミュレータ弁用の駆動回路が含まれる。シミュレータ弁駆動信号Vsに基づいて、シミュレータ弁VSの励磁状態(通電状態)が制御され、シミュレータ弁VSが駆動される。
一方側系統の電気モータMTxは、2つの巻線組T1x、T2xを含んで構成される。一方側第1モータ巻線組(「一方側第1モータコイル」ともいう)T1xは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、一方側第2モータ巻線組(「一方側第2モータコイル」ともいう)T2xは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、一方側電気モータMTxは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。一方側電気モータMTxでは冗長(二重系)の構成が採用されるため、「一方側第1モータコイルT1x、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「一方側第2モータコイルT2x、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、一方側電気モータMTxは作動が可能である。
同様に、他方側系統の電気モータMTyは、2つの巻線組T1y、T2yを含んで構成される。他方側第1モータ巻線組(「他方側第1モータコイル」ともいう)T1yは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、他方側第2モータ巻線組(「他方側第2モータコイル」ともいう)T2yは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、他方側電気モータMTyは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。他方側電気モータMTyでは冗長(二重系)の構成が採用されるため、「他方側第1モータコイルT1y、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「他方側第2モータコイルT2y、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、他方側電気モータMTyは作動が可能である。
例えば、電気モータMTx、MTyとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMTには、モータのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。第1モータコイルT1(=T1x、T1y)、及び、第2モータコイルT2(=T2x、T2y)には、3相(U相、V相、W相)のコイル組(巻線組)が、夫々、形成される。回転角(実際値)Kaに基づいて、2つの3相モータコイルT1、T2の通電方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMTが回転駆動される。なお、冗長性を確保するため、回転角センサKAx、KAyにも、2組の検出部が採用され得る。
実際の回転角Kaは、公知の方法(例えば、120度通電を行い誘起電圧のゼロクロスを検出する方法、中性点電位を利用する方法、dq回転座標モデルの推定誘起電圧を利用する方法、αβ固定座標モデルに対して拡張カルマンフィルタを適用する方法、状態オブザーバを利用した方法)によって推定可能である。従って、回転角Kaが推定演算される場合には、回転角センサKAは省略される。
一方側系統のマスタシリンダ弁VMxは、2つの巻線M1x、M2xを含んで構成される。一方側第1マスタシリンダ弁巻線(「一方側第1マスタシリンダ弁コイル」ともいう)M1xは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、一方側第2マスタシリンダ弁巻線(「一方側第2マスタシリンダ弁コイル」ともいう)M2xは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、マスタシリンダ弁VMxは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。一方側マスタシリンダ弁VMxでは、冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1マスタシリンダ弁コイルM1x、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2マスタシリンダ弁コイルM2x、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、一方側マスタシリンダ弁VMxは作動が可能である。
同様に、他方側系統のマスタシリンダ弁VMyは、2つの巻線M1y、M2yを含んで構成される。他方側第1マスタシリンダ弁巻線(「他方側第1マスタシリンダ弁コイル」ともいう)M1yは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、他方側第2マスタシリンダ弁巻線(「他方側第2マスタシリンダ弁コイル」ともいう)M2yは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、マスタシリンダ弁VMyは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。他方側マスタシリンダ弁VMyでは、冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1マスタシリンダ弁コイルM1y、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2マスタシリンダ弁コイルM2y、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、他方側マスタシリンダ弁VMyは作動が可能である。
シミュレータ弁VSは、2つの巻線S1、S2を含んで構成される。第1シミュレータ弁巻線(「第1シミュレータ弁コイル」ともいう)S1は、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、第2シミュレータ弁巻線(「第2シミュレータ弁コイル」ともいう)S2は、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、シミュレータ弁VSは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。シミュレータ弁VSでは、冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1シミュレータ弁コイルS1、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2シミュレータ弁コイルS2、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、シミュレータ弁VSは作動が可能である。なお、マスタシリンダCMの容量(体積)が十分に大であり、シミュレータ弁VSが省略される場合には、シミュレータ弁VSに係る部材は省略される。
マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSは、オン・オフ弁である。このため、第1駆動回路DR1の電磁弁VM、VSに係る部材(=DR1、M1x、M1y、S1)と、第2駆動回路DR2の電磁弁VM、VSに係る部材(=DR2、M2x、M2y、S2)とは同じものである。従って、マスタシリンダ弁VMは、第1、第2駆動回路DR1、DR2の何れによっても通電可能であり、開位置から閉位置に変更され得る。また、シミュレータ弁VSは、第1、第2駆動回路DR1、DR2の何れによっても通電可能であり、閉位置から開位置に変更され得る。
第1駆動回路DR1の電気モータMTに係る部材(=DR1、T1x、T1y)と、第2駆動回路DR2の電気モータMTに係る部材(=DR2、T2x、T2y)とは、同一のものが採用される。即ち、第1駆動回路DR1の電気モータMTに係る部材(単に、「第1部材」ともいう)、及び、第2駆動回路DR2の電気モータMTに係る部材(単に、「第2部材」ともいう)では、最大出力が同じである。例えば、電気モータMTに要求される出力(要求出力)が相対的に小さい場合には、第1部材、及び、第2部材のうちの一方が駆動され、第1部材、及び、第2部材の他方は駆動されない。そして、電気モータMTに要求される出力が相対的に大きい場合には、第1部材、及び、第2部材の両方が駆動される。つまり、急制動時等に要求される制動制御装置SCの最大要求出力に比べ、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2の最大出力は小さく設定され得る。このため、電気モータMT等が、完全に冗長化されても、装置SCの大型化が回避され得る。
最大出力において、第1駆動回路DR1の電気モータMTに係る部材(=DR1、T1x、T1y)と、第2駆動回路DR2の電気モータMTに係る部材(=DR2、T2x、T2y)とで、異なるものが採用され得る。第1部材、及び、第2部材のうちで、最大出力が大きい側が「メイン部材」と称呼され、小さい側が「サブ部材」と称呼される。例えば、第1部材がメイン部材とされ、第2部材がサブ部材とされる。つまり、第1駆動回路DR1の電気モータMTに係る部材の最大出力が、第2駆動回路DR2の電気モータMTに係る部材の最大出力よりも大きく設定される。この場合、急制動時ではない通常制動時には、要求出力が小さいため、第1部材(メイン部材)のみによって、制動液圧Pwの調整が行われる。そして、急制動時等で、要求出力が大きい場合には、第1部材(メイン部材)に加え、第2部材(サブ部材)も駆動される。なお、最大出力が小さい第2駆動回路DR2では、昇圧回路SHが省略されてもよい。上記同様に、制動制御装置SCが完全に冗長化されても、装置は小型化され得る。
<調圧制御の処理>
図4のフロー図を参照して、調圧制御の処理について説明する。「調圧制御」は、液圧Pp(=Pw)を調節するための、電気モータMT、マスタシリンダ弁VM、及び、シミュレータ弁VSの駆動制御である。該制御のアルゴリズムは、コントローラECU内のマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
ステップS110にて、制動制御装置SCの初期化が行われる。ステップS110では、制動制御装置SCの各構成要素の初期診断が実行される。ステップS120にて、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって、シミュレータ弁VS、及び、マスタシリンダ弁VMx、VMyへの通電が行われる。これにより、常閉型シミュレータ弁VSが閉位置から開位置に駆動され、常開型マスタシリンダ弁VMが開位置から閉位置に駆動される。結果、シミュレータSSとマスタシリンダ室Rmとが連通状態にされるとともに、マスタシリンダ室RmとホイールシリンダCWとが非連通状態にされる。
ステップS130にて、各種の信号が読み込まれる。具体的には、操作量Ba(=Pm、Sp、Fp)、調整液圧Pp、回転角Ka、車輪速度Vw、及び、要求減速度Gdが読み込まれる。各信号(Pp等)は、制動制御装置SCに備えられたセンサ(PP等)によって検出される。また、信号(Gd等)は、通信バスBSを介して、他のコントローラ(ECJ等)から受信される。
ステップS140にて、操作量Baに基づいて、目標減速度Gtが演算される。目標減速度Gtは、車両減速度Gxの目標値である。目標減速度Gtは、演算マップZgtに従って、操作量Baが「0」から所定値boの範囲では、「0」に決定され、操作量Baが所定値bo以上では、操作量Baが増加するに伴い、「0」から単調増加するよう演算される。また、ステップS140では、自動制動制御の要求減速度Gdに基づいて、要求減速度Gdが目標減速度Gtとして決定される(即ち、「Gt=Gd」)。例えば、操作量Baに応じた目標減速度Gt[Ba]と、要求減速度Gdとが比較され、それらのうちで大きい方が、最終的な目標減速度Gtとして決定される(即ち、「Gt=MAX(Gt[Ba],Gd)」)。
ステップS150にて、目標減速度Gtに基づいて、目標液圧Ptが演算される。目標液圧Ptは、調整液圧Ppの目標値である。調整液圧Pp(制動液圧Pw)と車両減速度(実際値)Gxとは一対一に対応するため、目標減速度Gtが所定の関係に基づいて、目標液圧Ptに変換される。
ステップS160にて、目標液圧Pt、及び、調整液圧(検出値)Ppに基づいて、一方側、他方側電気モータMTx、MTyが駆動される。目標液圧Pt、及び、調整液圧Ppに基づいて、電気モータMTの液圧フィードバック制御(「液圧サーボ制御」ともいう)が実行される。このフィードバック制御では、電気モータMTへの通電量が制御変数とされて、第1、第2駆動回路DR1、DR2によって、一方側電気モータMTx(一方側第1、第2モータコイルT1x、T2x)、及び、他方側電気モータMTy(他方側第1、第2モータコイルT1y、T2y)への通電量(例えば、供給電流)が制御(調節)される。つまり、液圧における目標値Ptと実際値Ppとの偏差hP(=Pt-Pp)に基づいて、偏差hP(液圧偏差)が「0」となるよう(即ち、実際値Ppが目標値Ptに近づくよう)、電気モータMTx、MTyへの通電量が調整される。
<車両の制動制御装置の第2の実施形態>
図5の概略図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、2つの電気モータMTx、MTyによって、各マスタシリンダ流体路HMx、HMyの液圧Ppx、Ppyが制御された。従って、調圧ユニットYKx、YKyには、シングル型の調圧シリンダCKが採用されていた。第2の実施形態では、1つの電気モータMRによって、各マスタシリンダ流体路HMx、HMyの液圧Ppx、Ppyが制御される。このため、調圧シリンダCNには、タンデム型のものが採用される。なお、図5では、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが例示されている。しかし、2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものでもよい。以下、第1の実施形態の調圧ユニットYKx、YKyに対する相違点を中心に説明する。
上述した様に、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を表す。添字「i」~「l」は、省略される。省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を示す。2つの制動系統に係る記号の末尾に付された添字「x」、「y」は、「x」が一方側系統、「y」が他方側系統を示す。添字「x」、「y」は省略される。省略された場合には、各記号は、その総称を表す。また、流体路において、リザーバRVに近い側が「上部」、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と、夫々、称呼される。
<調圧ユニットYN>
第2の実施形態に対応した調圧ユニットYNについて説明する。調圧ユニットYNは、電気モータMR、減速機GS、回転・直動変換機構(ねじ部材)NJ、調圧ピストンPN、調圧シリンダCN、及び、戻しばねSNにて構成される。調圧ユニットYNは、マスタシリンダ弁VMとホイールシリンダCWとの間(マスタシリンダ弁VMの下部Bk)で一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMy(一方側、他方側流体路)に接続される。
電気モータMRは、調圧ユニットYNの駆動源である。電気モータMRの回転動力よって、マスタシリンダ弁VMの下部の液圧(調整液圧)Pp(=Ppx、Ppy)が調節される。電気モータMRは、コントローラECUによって駆動される。
減速機GSは、小径歯車SG、及び、大径歯車DGにて構成される。減速機GSによって、電気モータMTの回転動力が減速されて、ねじ部材NJに伝達される。ねじ部材NJは、ボルト部材BT、及び、ナット部材NTで構成される。ねじ部材NJにて、減速機GSの回転動力が、2つの調圧ピストンPNの直線動力に変換される。
2つの調圧ピストンPNは、調圧シリンダCNの内孔に挿入され、ピストン/シリンダの組み合わせが形成される。即ち、調圧シリンダCNはタンデム型であり、その内部には、2つの液圧室Rnx、Rnyが形成される。一方側、他方側調圧室Rnx、Rnyは、一方側、他方側調圧流体路HNx、HNyを介して、一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyに接続される。ここで、一方側、他方側調圧流体路HNx、HNyと、一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyとの接続部Bkx、Bkyは、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyの下部(ホイールシリンダCWの側)である。
電気モータMRが駆動される場合(即ち、調整液圧Ppが調整される場合)、一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyに設けられた一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMyが閉位置とされている。このため、電気モータMRが正転駆動され、一方側、他方側調圧室Rnx、Rnyの体積が減少されることによって、一方側、他方側調整液圧Ppx、Ppy(=Pw)が増加される。また、電気モータMRが逆転駆動され、一方側、他方側調圧室Rnx、Rnyの体積が増加されることによって、一方側、他方側調整液圧Ppx、Ppy(=Pw)が減少される。
調圧ユニットYNには、2つの戻しばね(弾性体)SNが設けられる。戻しばねSNによって、電気モータMRへの通電が停止された場合に、調圧ピストンPNが初期位置に戻される。初期位置は、制動液圧の「0(ゼロ)」に対応し、調圧ピストンPNがストッパ部に当接する位置である。
<第2の実施形態でのコントローラECU等の構成>
図6の概略図を参照して、第2の実施形態に対応した、コントローラECU、電気モータMR、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy、及び、シミュレータ弁VSの構成について説明する。基本的には、第1の実施形態と同じであるため、簡単に説明する。
制動コントローラECUには、電力源BT(蓄電池)、AL(発電機)から、電力が供給される。制動コントローラECUによって、「電気モータMR」、「一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy」、及び、シミュレータ弁VSが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、第1、第2駆動回路DR1、DR2を含んで構成される。
加えて、図6(a)のように、コントローラECUの電力源である蓄電池BT1、BT2、及び、夫々の蓄電池BT1、BT2を充電する発電機AL1、AL2が冗長化(二重化)されている。第1、第2蓄電池BT1、BT2によって、第1、第2駆動回路DR1、DR2の夫々に電力が供給される。また、図6(b)のように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略され、2つの蓄電池BT1、BT2が、1つの発電機ALによって充電されてもよい。更に、図6(c)のように、1つの発電機ALによって充電される、1つの蓄電池BTによって、第1、第2駆動回路DR1、DR2に電力が供給されてもよい。2つの蓄電池BTが設けられる場合には、蓄電池BT1、BT2からマイクロプロセッサMPに電力が供給される。
制動制御装置SCの信頼度を向上するよう、マイクロプロセッサMPは冗長化されている。加えて、電気モータMR、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy、及び、シミュレータ弁VSを駆動する電気回路が、第1、第2駆動回路DR1、DR2として冗長化される。更に、小型化のために、第1、第2駆動回路DR1、DR2には昇圧回路SH(DC/DCコンバータ)が設けられる。昇圧回路SHによって、電気モータMR等の駆動電圧が、電源電圧よりも高くされる。昇圧回路SHでは、電気モータMRのみ昇圧され、電磁弁VM、VSの駆動電圧は電力源の電圧(電源電圧)のままでもよい。
第1、第2駆動回路DR1、DR2には、電気モータMRを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によって3相ブリッジ回路が形成される。そして、モータ駆動信号Mrに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMRの出力が制御される。駆動回路DR1、DR2には、一方側、他方側マスタシリンダ弁VMx、VMy(=VM)を駆動するよう、マスタシリンダ弁用の駆動回路が設けられる。マスタシリンダ弁VMは、その駆動信号Vmによって制御される。駆動回路DR1、DR2には、シミュレータ弁VSを駆動するよう、その駆動回路が設けられる。シミュレータ弁VSは、その駆動信号Vsによって制御される。
電気モータMRは、2つの巻線組R1、R2を含んで構成される。第1モータ巻線組(「第1モータコイル」ともいう)R1は、第1駆動回路DR1によって通電される。また、第2モータ巻線組(「第2モータコイル」ともいう)R2は、第2駆動回路DR2によって通電される。電気モータMRは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。電気モータMRでは二重系の構成が採用されるため、「第1モータコイルR1、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2モータコイルR2、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、電気モータMRは作動が可能である。
電気モータMRとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMRには、モータのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。第1モータコイルR1、及び、第2モータコイルR2には、3相(U相、V相、W相)の巻線組が、夫々、形成される。回転角(実際値)Kaに基づいて、2つの3相モータコイルR1、R2の通電方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMRが回転駆動される。回転角センサKAも、二重化される。回転角Kaが推定して演算される場合には、回転角センサKAは省略されてもよい。
第1の実施形態と同様に、一方側マスタシリンダ弁VMxには、一方側第1、第2マスタシリンダ弁コイルM1x、M2xが設けられる、一方側第1マスタシリンダ弁コイルM1xは、第1駆動回路DR1によって通電される。一方側第2マスタシリンダ弁コイルM2xは、第2駆動回路DR2によって通電される。従って、一方側マスタシリンダ弁VMxは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。
また、他方側マスタシリンダ弁VMyには、他方側第1、第2マスタシリンダ弁コイルM1y、M2yが設けられる、他方側第1マスタシリンダ弁コイルM1yは、第1駆動回路DR1によって通電される。他方側第2マスタシリンダ弁コイルM2yは、第2駆動回路DR2によって通電される。従って、他方側マスタシリンダ弁VMyは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。
シミュレータ弁VSには、第1、第2シミュレータ弁コイルS1、S2が設けられる。第1シミュレータ弁コイルS1は、第1駆動回路DR1によって通電される。第2シミュレータ弁コイルS2は、第2駆動回路DR2によって通電される。従って、シミュレータ弁VSは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。なお、シミュレータ弁VSは省略可能であり、この場合にはシミュレータ弁VSに係る部材は存在しない。
電磁弁VM、VSは、オン・オフ弁であるため、第1駆動回路DR1の電磁弁VM、VSに係る部材(=DR1、M1x、M1y、S1)と、第2駆動回路DR2の電磁弁VM、VSに係る部材(=DR2、M2x、M2y、S2)とは同じものである。従って、マスタシリンダ弁VMは、第1、第2駆動回路DR1、DR2の何れかでの通電によって、開位置から閉位置に変更される。また、シミュレータ弁VSは、第1、第2駆動回路DR1、DR2の何れかでの通電によって、閉位置から開位置に変更される。
第1の実施形態と同様に、第1駆動回路DR1の電気モータMRに係る部材(=DR1、R1)と、第2駆動回路DR2の電気モータMRに係る部材(=DR2、R2)とは、同一のものが採用される。即ち、第1駆動回路DR1の電気モータMRに係る部材(第1部材)、及び、第2駆動回路DR2の電気モータMRに係る部材(第2部材)では、最大出力が同じである。電気モータMRに要求される出力(要求出力)が相対的に小さい場合には、第1部材、及び、第2部材のうちの一方が駆動され、第1部材、及び、第2部材の他方は駆動されない。そして、電気モータMRに要求される出力が相対的に大きい場合には、第1部材、及び、第2部材の両方が駆動される。制動制御装置全体での最大要求出力に比較して、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2の最大出力は小さくされ得る。このため、電気モータMR等が、完全に冗長化されても、装置SCの大型化が回避され得る。
最大出力において、第1駆動回路DR1の電気モータMRに係る部材(=DR1、R1)と、第2駆動回路DR2の電気モータMRに係る部材(=DR2、R2)とで、異なるものが採用され得る。第1駆動回路DR1の電気モータMRに係る部材の最大出力が、第2駆動回路DR2の電気モータMRに係る部材の最大出力よりも大きく設定される。この場合、通常制動時には、要求出力が小さいため、第1部材(メイン部材)のみによって、制動液圧Pwの調整が行われる。そして、要求出力が大きい場合には、第1部材(メイン部材)のみならず、第2部材(サブ部材)も駆動される。なお、最大出力が小さい第2駆動回路DR2では、昇圧回路SHが省略されてもよい。更に、第1、第2駆動回路DR1、DR2の昇圧回路SHは省略され、コントローラECUには、昇圧回路SHが含まれなくてもよい。上記同様、制動制御装置SCが完全に冗長化された上で、装置の小型・軽量化は確保され得る。
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様、制動制御装置SCが冗長化された上で、制動制御装置SCの小型・軽量化が達成されるという効果を奏する。
上記実施形態では、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を備えた車両(ハイブリット車を含む)に適用されることを想定している。従って、バッテリィBTは、オルタネータALにて充電される。本発明に係る制動制御装置SCは、電気自動車にも適用可能である。該車両に適用される場合には、オルタネータALは省略される。
上記実施形態では、調圧ユニットYK、YNの駆動源として、ブラシレスモータが例示された。ブラシレスモータに代えて、電気モータMT、MRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用され得る。この場合、ブリッジ回路として、4つのスイッチング素子(パワートランジスタ)にて形成されるHブリッジ回路が用いられる。ブラシレスモータの場合と同様に、電気モータMT、MRは、第1、第2モータコイルT1、T2、R1、R2を有し、これらは、第1、第2駆動回路DR1、DR2によって駆動(通電)される。電気モータMT、MRには、回転角Kaを検出するよう、二重系の回転角センサKAが設けられる。なお、回転角Kaが推定可能である場合には、回転角センサKAは不要である。
上記実施形態では、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用された。2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用され得る。この場合、一方側系統には前輪ホイールシリンダCWi、CWjが、他方側系統には後輪ホイールシリンダCWk、CWlが、夫々、接続される。