JP7192818B2 - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents
高強度鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP7192818B2 JP7192818B2 JP2020046889A JP2020046889A JP7192818B2 JP 7192818 B2 JP7192818 B2 JP 7192818B2 JP 2020046889 A JP2020046889 A JP 2020046889A JP 2020046889 A JP2020046889 A JP 2020046889A JP 7192818 B2 JP7192818 B2 JP 7192818B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- less
- steel sheet
- mass
- strength
- trs
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Active
Links
Landscapes
- Heat Treatment Of Sheet Steel (AREA)
Description
C :0.10~0.20%、
Si:0.7~1.4%、
Mn:2.3~4.0%、
P :0.10%以下、
S :0.03%以下、
Al:0.001~2.0%、
N :0.01%以下、
O :0.01%以下、および
B :0.0005~0.010%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
下記(1)式で定義されるMSCが3.0~4.2質量%である成分組成を有し、
主相としての、面積分率で70%以上の上部ベイナイトと、
合計面積分率で7~30%のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトとを含み、かつ、
前記残留オーステナイトの面積分率が2%以上であるミクロ組織を有し、
一様伸びが6%以上、引張強度が1180MPa以上、かつプレスノッチシャルピー試験における-40℃での衝撃値が8J/cm2以上である機械的特性を有する、高強度鋼板。
MSC(質量%)=Mn+0.2×Si+1.7×Cr+2.5×Mo…(1)
ここで、上記(1)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
Cr:1.0%以下、および
Mo:1.0%以下、
の一方または両方を含有する、上記1に記載の高強度鋼板。
Cu:2.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Ti:0.3%以下、
Nb:0.3%以下、および
V :0.3%以下
からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、上記1または2に記載の高強度鋼板。
Sb:0.005~0.020%
を含有する、上記1~3のいずれか一項に記載の高強度鋼板。
Ca:0.01%以下、
Mg:0.01%以下、および
REM:0.01%以下
からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、上記1~4のいずれか一項に記載の高強度鋼板。
前記成分組成を有する鋼素材を1150℃以上の加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を、仕上圧延終了温度:IC以上、RC以下の条件で熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板を、前記熱間圧延終了から冷却開始までの時間:2.0s以内、平均冷却速度:5℃/s以上、冷却停止温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下の条件で冷却し、
前記冷却後の熱延鋼板を、巻取り温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下の条件で巻取り、
20℃/s以下の平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、
前記ICは下記(2)式で定義され、前記RCは下記(3)式で定義され、前記Trsは下記(4)式で定義される、高強度鋼板の製造方法。
IC(℃) = 1000 - 250×C - 80×Mn - 15×Cr …(2)
RC(℃) = 830 + 100×C + 100×N + 10×Mn + 700×Ti + 5000×B + 10×Cr + 50×Mo + 2000×Nb + 150×V …(3)
Trs(℃) = 500 - 450×C - 35×Mn - 15×Cr - 10×Ni - 20×Mo …(4)
ここで、上記(2)~(4)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
はじめに、本発明の高強度鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、本明細書において、含有量の単位としての「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
Cは、鋼の強度を向上させる作用を有する元素である。Cは、焼入れ性を向上させることによってベイナイトの生成を促進し、高強度化に寄与する。また、Cは、マルテンサイトの強度を高めることによっても高強度化に寄与する。1180MPa以上の引張強度を得るためには、C含有量を0.10%以上とする必要がある。そのため、C含有量は0.10%以上、好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.13%以上とする。一方、C含有量が0.20%を超えると、マルテンサイトの強度が過度に上昇し、主相としての上部ベイナイトとフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトとの強度差が大きくなり、その結果、一様伸びが低下する。そのため、C含有量は0.20%以下、好ましくは0.18%以下、より好ましくは0.17%以下とする。
Siは、Fe系炭化物の形成を抑制する作用を有し、上部ベイナイト変態時のセメンタイトの析出を抑制する。これにより未変態オーステナイトにCが分配され、巻取後の冷却で、未変態オーステナイトがフレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトとなり、所望のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトを得ることができる。これらの効果を得るためには、Si含有量を0.7%以上とする必要がある。そのため、Si含有量を0.7%以上、好ましくは0.8%以上とする。一方、Siは、熱間圧延中に鋼板表面にサブスケールを形成する元素である。Si含有量が1.4%を超えるとサブスケールが厚くなり過ぎてしまい、デスケーリング後の鋼板表面の表面粗さが過大となり、熱延鋼板の塗装前処理性が悪化する。したがって、Si含有量は1.4%以下、好ましくは1.3%以下、より好ましくは1.2%以下とする。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、フレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトの生成に寄与する。このような効果を得るためには、Mn含有量を2.3%以上とする必要がある。そのため、Mn含有量を2.3%以上、好ましくは2.4%以上とする。一方、Mn含有量が4.0%を超えると、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが過剰に生成し、一様伸びが低下する。したがって、Mn含有量は4.0%以下。好ましくは3.6%以下、より好ましくは3.2%以下とする。
Pは、固溶して鋼の強度増加に寄与する元素である。しかし、Pは、熱間圧延時のオーステナイト粒界に偏析することで、熱間圧延時のスラブ割れを発生させる元素でもある。また、粒界に偏析して一様伸びを低下させる。このため、P含有量を極力低くすることが好ましいが、0.10%までのPの含有は許容できる。したがって、P含有量は0.10%以下とする。
Sは、TiやMnと結合して粗大な硫化物を形成し、これがボイドの発生を早めることで一様伸びが低下する。そのため、S含有量は極力低くすることが好ましいが、0.03%までのSの含有は許容できる。したがって、S含有量を0.03%以下とする。
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素である。Al含有量が0.001%未満ではその効果が十分ではないため、Al含有量は0.001%以上とする。また、Alは、Siと同様に、Fe系炭化物の形成を抑制する効果があり、上部ベイナイト変態時のセメンタイトの析出を抑制する。これにより、巻取り後の冷却でのフレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトの生成に寄与する。一方、Alの過剰な添加は、酸化物系介在物の増加を招き、一様伸びを低下させる。したがって、Al含有量は2.0%以下とする。
Nは、窒化物形成元素と結合することにより窒化物として析出し、一般に結晶粒微細化に寄与する。しかし、Nは高温でTiと結合して粗大な窒化物を形成するため、0.01%超の含有は一様伸び低下の原因になる。このため、N含有量を0.01%以下とする。
Bは、旧オーステナイト粒界に偏析し、フェライトの生成を抑制することで、上部ベイナイトの生成を促進し、鋼板の強度向上に寄与する元素である。これらの効果を発現させるためには、B含有量を0.0005%以上とする必要がある。そのため、B含有量を0.0005%以上とする。一方、B含有量が0.010%を超えると、上記した効果が飽和する。したがって、B含有量を0.010%以下とする。
Crは炭化物形成元素であり、熱延鋼板巻取り後の上部ベイナイト変態時に、上部ベイナイトと未変態オーステナイトとの間の界面に偏析してベイナイト変態の駆動力を低下させ、上部ベイナイト変態を停留させる効果を有する。上部ベイナイトへの変態が停留することで残存した未変態オーステナイトは、巻取り後の冷却によりフレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトとなる。したがって、Crを添加した場合、Crも所望の面積分率のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの形成に寄与する。しかし、Crは耐食性や塗装前処理性を悪化させる元素であるため、Crを添加する場合、Cr含有量を1.0%以下とする。
Moは、焼入れ性の向上を通じてベイナイトの形成を促進し、鋼板の強度向上に寄与する。また、Moは、Crと同様に、炭化物形成元素であり、熱延鋼板巻取り後の上部ベイナイト変態時に上部ベイナイトと未変態オーステナイトの界面に偏析することで、ベイナイトの変態駆動力を低下させ、巻取り冷却後のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの生成に寄与する。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが過度に生成して一様伸びを悪化させる。したがって、Moを添加する場合、Mo含有量を1.0%以下とする。
Cuは、固溶して鋼の強度増加に寄与する元素である。また、Cuは、焼入れ性の向上を通じてベイナイトの形成を促進し、強度向上に寄与する。しかし、Cu含有量が2.0%を超えると、熱延鋼板の表面性状の低下を招き、熱延鋼板の疲労特性を劣化させる。したがって、Cuを添加する場合、Cu含有量を2.0%以下とする。
Niは、固溶して鋼の強度増加に寄与する元素である。また、Niは、焼入れ性の向上を通じてベイナイトの形成を促進し、強度向上に寄与する。しかし、Ni含有量が2.0%を超えると、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが過度に増加して、熱延鋼板の延性を劣化させる。したがって、Niを添加する場合、Ni含有量を2.0%以下とする。
Tiは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。Tiは、オーステナイトの高温域で窒化物を形成する。これにより、BNの析出が抑制され、Bが固溶状態になる。したがって、Tiを添加した場合、Tiも上部ベイナイトの生成に必要な焼入れ性の確保に寄与し、強度が向上する。しかし、Ti含有量が0.3%を超えると、Ti窒化物が多量に生成し、一様伸びを低下させる。したがって、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.3%以下とする。
Nbは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。また、Nbは、Tiと同様に、熱間圧延時のオーステナイトの再結晶温度を上昇させることで、オーステナイト未再結晶域での圧延を可能とし、上部ベイナイトの粒径微細化とフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率の増加に寄与する。また、Nbは、Crと同様に、炭化物形成元素であり、熱延鋼板巻取り後の上部ベイナイト変態時に上部ベイナイトと未変態オーステナイトの界面に偏析することで、ベイナイトの変態駆動力を低下させ、未変態オーステナイトを残したまま上部ベイナイト変態を停止させる効果を有する元素である。未変態オーステナイトは、その後冷却されることでフレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトとなる。したがって、Nbを添加した場合、Nbも所望の面積分率のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの形成に寄与する。しかし、Nb含有量が0.3%を超えるとフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが過度に増加し、一様伸びが低下する。したがって、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.3%以下とする。
Vは、析出強化および固溶強化により鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。また、Vは、Tiと同様に、熱間圧延時のオーステナイトの再結晶温度を上昇させることで、オーステナイト未再結晶域での圧延を可能とし、上部ベイナイトの粒径微細化に寄与する。また、Vは、Crと同様に、炭化物形成元素であり、熱延鋼板巻取り後の上部ベイナイト変態時に上部ベイナイトと未変態オーステナイトの界面に偏析することで、ベイナイトの変態駆動力を低下させ、未変態オーステナイトを残したまま上部ベイナイト変態を停止させる効果を有する元素である。未変態オーステナイトは、その後冷却されることでフレッシュマルテンサイトおよび/または残留オーステナイトとなる。したがって、Vを添加した場合、Vも所望の面積分率のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの形成に寄与する。しかし、V含有量が0.3%を超えるとフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが過度に増加し、一様伸びが低下する。したがって、Vを添加する場合、V含有量を0.3%以下とする。
Sbは、鋼素材(スラブ)を加熱する際に前記鋼素材表面の窒化を抑制する効果を有する元素である。Sbを添加することにより、鋼素材の表層部におけるBNの析出を抑制することができる。その結果残存する固溶Bはベイナイトの生成に必要な焼入れ性の確保と、それによる鋼板の強度向上に寄与する。Sbを添加する場合、前記効果を得るためにSb含有量を0.005%以上とする。一方、Sb含有量が0.020%を超えると、鋼の靭性が低下し、スラブ割れおよび熱間圧延割れを引き起こす場合がある。したがって、Sbを添加する場合、Sb含有量を0.020%以下とする。
Caは、酸化物や硫化物系の介在物の形状を制御し、鋼板のせん断端面の割れ抑制および曲げ加工性のさらなる向上に寄与する。しかし、Ca含有量が0.01%を超えると、Ca系介在物が増加して鋼の清浄度が悪化し、かえってせん断端面割れや曲げ加工割れの原因となる場合がある。したがって、Caを添加する場合、Ca含有量を0.01%以下とする。
Mgは、Caと同様に、酸化物や硫化物系の介在物の形状を制御し、鋼板のせん断端面の割れ抑制および曲げ加工性のさらなる向上に寄与する。しかし、Mg含有量が0.01%を超えると、鋼の清浄度が悪化し、かえってせん断端面割れや曲げ加工割れの原因となる場合がある。したがって、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.01%以下とする。
REM(希土類金属)は、Caと同様に、酸化物や硫化物系の介在物の形状を制御し、鋼板のせん断端面の割れ抑制および曲げ加工性のさらなる向上に寄与する。しかし、REM含有量が0.01%を超えると、鋼の清浄度が悪化し、かえってせん断端面割れや曲げ加工割れの原因となる場合がある。したがって、REMを添加する場合、REM含有量を0.01%以下とする。
1180MPa以上の高強度を維持しつつ、高い一様伸びを得るためには、後述するように、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率を適正範囲内に制御する必要がある。フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率の制御には、Mn、Si、Cr(添加する場合)、およびMo(添加する場合)の添加バランスが重要であり、具体的には、下記(1)式で定義されるMSC値を3.0~4.2質量%とする必要がある。1180MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板において、MSC値が前記範囲から外れると、6%以上の一様伸びを得ることができない。MSCは、3.1質量%以上とすることが好ましい。また、MSCは3.7質量%以下とすることが好ましく、3.5質量%以下とすることがより好ましい。
MSC(質量%)=Mn+0.2×Si+1.7×Cr+2.5×Mo…(1)
ここで、上記(1)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
次に、本発明の高強度鋼板のミクロ組織の限定理由について説明する。
本発明の高強度鋼板のミクロ組織は、上部ベイナイトを主相として含む。上部ベイナイトの面積分率が70%未満であると、1180MPa以上の引張強度と6%以上の一様伸びを実現することができない。そのため、上部ベイナイトの面積分率を70%以上、好ましくは80%以上とする。
本発明の高強度鋼板のミクロ組織は、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトを含む。フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率が7%未満であると、1180MPa以上の引張強度と6%以上の一様伸びを実現することができない。そのため、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率を7%以上とする。一方、前記合計面積分率が30%を超えると、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトと主相との界面で生成するボイドの合体成長が促進され、一様伸びが低下する。そのため、前記合計面積分率は30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは16%以下とする。
フレッシュマルテンサイトは、加工硬化を促進して塑性不安定(plastic instability)の開始を遅らせることにより一様伸びを向上させる効果を有している。しかし、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板において6%以上の一様伸びを得るには、フレッシュマルテンサイトのみでは不十分であり、残留オーステナイトを2%以上含有させることが必要となる。そのため、残留オーステナイトの面積分率を2%以上とする。
一様伸び:6%以上
引張強度:1180MPa以上
上述したように、本発明の高強度鋼板は、1180MPa以上の引張強度と6%以上の一様伸びを兼ね備えている。そのため、本発明の高強度鋼板は、引張強度が高いにもかかわらず、プレス成形性に優れており、ネッキングや割れ等の成形不良を生じることなくプレス成形することができる。
さらに、本発明の高強度鋼板は、プレスノッチシャルピー試験における-40℃での衝撃値が8J/cm2以上である。そのため、本発明の高強度鋼板は、優れた衝撃破壊抵抗を有し、自動車部品などの素材として極めて好適に用いることができる。
次に、本発明の一実施形態における高強度鋼板の製造方法について説明する。なお、以下の説明における温度は、とくに断らない限り、対象物(鋼素材または鋼板)の表面温度を表すものとする。
(1)加熱
(2)熱間圧延
(3)冷却(第1の冷却)
(4)巻取り
(5)冷却(第2の冷却)
上記鋼素材としては、上述した成分組成を有するものであれば任意のものを用いることができる。最終的に得られる厚鋼板の成分組成は、使用した鋼素材の成分組成と同じである。前記鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
加熱温度:1150℃以上
まず、前記鋼素材を、1150℃以上の加熱温度に加熱する。通常、鋼素材中では、Tiなどの炭窒化物形成元素のほとんどが、粗大な炭窒化物として存在している。この粗大で不均一な析出物の存在は、一般的にトラック用、乗用車用部品向けの高強度鋼板に求められる諸特性(例えば、耐せん断端面割れ性、曲げ加工性、バーリング加工性など)の悪化を招く。そのため、熱間圧延に先だって鋼素材を加熱し、粗大な析出物を固溶する必要がある。具体的には、粗大な析出物を十分に固溶させるためには、鋼素材の加熱温度を1150℃以上とする必要がある。一方、鋼素材の加熱温度が高くなりすぎるとスラブ疵の発生やスケールオフによる歩留まり低下を招く。そのため、歩留まりの向上という観点からは、鋼素材の加熱温度を1350℃以下とすることが好ましい。鋼素材の加熱温度は、より好ましくは1180℃以上1300℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以上1280℃以下である。
次いで、加熱された前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とする。前記熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延とからなるものであってよい。粗圧延を行う場合、その条件は特に限定されない。また、粗圧延後、表面スケールを除去するために、仕上げ圧延に先立って高圧水デスケーリングを行うことが好ましい。なお、仕上圧延においてスタンド間でデスケーリングを行ってもよい。
前記熱間圧延は、仕上圧延終了温度:IC以上、RC以下の条件で実施する。仕上圧延終了温度がIC未満であると、フェライト+オーステナイトの二相域圧延となり、圧延荷重が安定せず、製造安定性が悪化する。そのため、仕上圧延終了温度はIC以上とする。一方、仕上圧延終了温度がRCより高いと、プレスノッチシャルピー試験の衝撃値が8J/cm2未満となる。そのため、仕上圧延終了温度はRC以下、好ましくは(RC-30℃)、よりこのましくは(RC-50℃)とする。
IC(℃) = 1000 - 250×C - 80×Mn - 15×Cr …(2)
また、RCは成分組成から推定されるオーステナイト再結晶下限温度であり、下記(3)式で定義される。
RC(℃) = 830 + 100×C + 100×N + 10×Mn + 700×Ti + 5000×B + 10×Cr + 50×Mo + 2000×Nb + 150×V …(3)
ここで、上記(2)、(3)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
冷却開始時間:仕上圧延終了後2.0s以内
次いで、前記熱延鋼板を冷却する(第1の冷却)。その際、前記熱間圧延終了から前記冷却開始までの時間(冷却開始時間)を2.0s以内とする。冷却開始時間が2.0sを超えると、オーステナイト粒の粒成長が生じ、1180MPa以上の引張強度を確保できない。前記冷却開始時間は、1.5s以内とすることが好ましい。
前記冷却における平均冷却速度が、5℃/s未満であると、上部ベイナイト変態の前にフェライト変態が起こり、所望の面積分率の上部ベイナイトが得られない。したがって、平均冷却速度を5℃/s以上、好ましくは20℃/s以上、より好ましくは50℃/s以上とする。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度が大きくなりすぎると、冷却停止温度の管理が困難となる。そのため、平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。なお、前記平均冷却速度は、鋼板の表面における平均冷却速度をもとに規定される。
冷却停止温度がTrs未満であると、ミクロ組織が焼戻しマルテンサイトまたは下部ベイナイトとなる。焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトは、いずれも高強度の組織であるが、一様伸びが著しく低い。そのため、冷却停止温度はTrs以上とする。一方、冷却停止温度が(Trs+250℃)より高いと、フェライトが生成するため、1180MPaの引張強度が得られない。そのため冷却停止温度は(Trs+250℃)以下とする。
Trs(℃) = 500 - 450×C - 35×Mn - 15×Cr - 10×Ni - 20×Mo …(4)
ここで、上記(4)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
巻取り温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下
次いで、前記冷却後の熱延鋼板を、巻取り温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下の条件で巻取る。巻取り温度がTrs未満であると、巻取り後にマルテンサイト変態または下部ベイナイト変態が進行し、所望のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトが得られない。そのため、巻取り温度はTrs以上とする。一方、巻取り温度が(Trs+250℃)より高いと、フェライトが生成するため、1180MPaの引張強度が得られない。そのため巻取り温度は(Trs+250℃)以下とする。
平均冷却速度:20℃/s以下
前記巻取り後、さらに20℃/s以下の平均冷却速度で100℃以下まで冷却する(第2の冷却)。前記平均冷却速度は、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの生成に影響を及ぼす。前記平均冷却速度が20℃/sを超えると、未変態オーステナイトがほとんどマルテンサイト変態し、所望の残留オーステナイトが得られず、一様伸びが低下する。そのため、前記平均冷却速度を20℃/s以下、好ましくは2℃/s以下、より好ましくは0.02℃/s以下とする。一方、上記平均冷却速度の下限は特に限定されないが、0.0001℃/s以上が好ましい。
得られた高強度鋼板から、圧延方向に平行な板厚断面が観察面となるよう、ミクロ組織観察用試験片を採取した。得られた試験片の表面を研磨し、さらに腐食液(3質量%ナイタール溶液)を用いて表面を腐食させることによりミクロ組織を現出させた。
得られた高強度鋼板から、引張方向が圧延方向と直角方向になるようにJIS5号試験片(標線間距離(gage length、GL):50mm)を採取した。前記試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏強度(降伏点、YP)、引張強度(TS)、全伸び(El)、一様伸び(u-El)を求めた。前記引張試験は、各高強度鋼板につき2回行い、得られた測定値の平均をその高強度鋼板の機械特性として表3に示した。本発明においては、TSが1180MPa以上の場合、高強度と評価し、一様伸び6%以上をプレス成形性が良好と評価した。
得られた高強度鋼板から、試験片長手方向が圧延方向と直角方向になるように、シャルピー試験片を採取し、プレス加工により角度45℃、深さ2mm、底部(先端)曲率半径:0.025mmのVノッチを形成した。前記試験片の寸法は、幅:55mm、高さ:10mmとし、厚さは高強度鋼板の厚さのままとした。前記Vノッチは、試験片の幅方向中央に形成した。
Claims (6)
- 質量%で、
C :0.10~0.20%、
Si:0.7~1.4%、
Mn:2.3~4.0%、
P :0.10%以下、
S :0.03%以下、
Al:0.001~2.0%、
N :0.01%以下、
O :0.01%以下、および
B :0.0005~0.010%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
下記(1)式で定義されるMSCが3.0~4.2質量%である成分組成を有し、
主相としての、面積分率で70%以上の上部ベイナイトと、
合計面積分率で7~30%のフレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトとを含み、かつ、
前記残留オーステナイトの面積分率が2%以上であるミクロ組織を有し、
一様伸びが6%以上、引張強度が1180MPa以上、かつプレスノッチシャルピー試験における-40℃での衝撃値が8J/cm2以上である機械的特性を有する、高強度鋼板。
MSC(質量%)=Mn+0.2×Si+1.7×Cr+2.5×Mo…(1)
ここで、上記(1)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:1.0%以下、および
Mo:1.0%以下、
の一方または両方を含有する、請求項1に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:2.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Ti:0.3%以下、
Nb:0.3%以下、および
V :0.3%以下
からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、請求項1または2に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Sb:0.005~0.020%
を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.01%以下、
Mg:0.01%以下、および
REM:0.01%以下
からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の高強度鋼板。 - 請求項1~5のいずれか一項に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を有する鋼素材を1150℃以上の加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を、仕上圧延終了温度:IC以上、RC以下の条件で熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板を、前記熱間圧延終了から冷却開始までの時間:2.0s以内、平均冷却速度:5℃/s以上、冷却停止温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下の条件で冷却し、
前記冷却後の熱延鋼板を、巻取り温度:Trs以上、(Trs+250℃)以下の条件で巻取り、
3℃/s以上、20℃/s以下の平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、
前記ICは下記(2)式で定義され、前記RCは下記(3)式で定義され、前記Trsは下記(4)式で定義される、高強度鋼板の製造方法。
IC(℃) = 1000 - 250×C - 80×Mn - 15×Cr …(2)
RC(℃) = 830 + 100×C + 100×N + 10×Mn + 700×Ti + 5000×B + 10×Cr + 50×Mo + 2000×Nb + 150×V …(3)
Trs(℃) = 500 - 450×C - 35×Mn - 15×Cr - 10×Ni - 20×Mo …(4)
ここで、上記(2)~(4)式における各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されていない元素の場合は0とする。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2020046889A JP7192818B2 (ja) | 2020-03-17 | 2020-03-17 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2020046889A JP7192818B2 (ja) | 2020-03-17 | 2020-03-17 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2021147645A JP2021147645A (ja) | 2021-09-27 |
JP7192818B2 true JP7192818B2 (ja) | 2022-12-20 |
Family
ID=77848208
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2020046889A Active JP7192818B2 (ja) | 2020-03-17 | 2020-03-17 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP7192818B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021187321A1 (ja) * | 2020-03-17 | 2021-09-23 | Jfeスチール株式会社 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Citations (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2013072101A (ja) | 2011-09-27 | 2013-04-22 | Jfe Steel Corp | 高強度鋼板およびその製造方法 |
JP2018003062A (ja) | 2016-06-29 | 2018-01-11 | Jfeスチール株式会社 | 高強度高加工性熱延鋼板およびその製造方法 |
WO2018150955A1 (ja) | 2017-02-17 | 2018-08-23 | Jfeスチール株式会社 | 高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
WO2020026593A1 (ja) | 2018-07-31 | 2020-02-06 | Jfeスチール株式会社 | 高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
JP6973694B1 (ja) | 2020-03-17 | 2021-12-01 | Jfeスチール株式会社 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
-
2020
- 2020-03-17 JP JP2020046889A patent/JP7192818B2/ja active Active
Patent Citations (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2013072101A (ja) | 2011-09-27 | 2013-04-22 | Jfe Steel Corp | 高強度鋼板およびその製造方法 |
JP2018003062A (ja) | 2016-06-29 | 2018-01-11 | Jfeスチール株式会社 | 高強度高加工性熱延鋼板およびその製造方法 |
WO2018150955A1 (ja) | 2017-02-17 | 2018-08-23 | Jfeスチール株式会社 | 高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
WO2020026593A1 (ja) | 2018-07-31 | 2020-02-06 | Jfeスチール株式会社 | 高強度熱延鋼板およびその製造方法 |
JP6973694B1 (ja) | 2020-03-17 | 2021-12-01 | Jfeスチール株式会社 | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2021147645A (ja) | 2021-09-27 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
RU2527571C1 (ru) | Высокопрочный холоднокатаный стальной лист с превосходным сопротивлением усталости и способ его изготовления | |
JP5029749B2 (ja) | 曲げ加工性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 | |
KR101744429B1 (ko) | 열연 강판 및 그 제조 방법 | |
JP4692015B2 (ja) | 伸びフランジ性と疲労特性に優れた高延性熱延鋼板およびその製造方法 | |
EP3516085B1 (en) | A method of producing a hot-rolled high-strength steel with excellent stretch-flange formability and edge fatigue performance | |
JP6628682B2 (ja) | 加工性に優れた高強度ステンレス鋼板およびその製造方法 | |
JP6973694B1 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP5126844B2 (ja) | 熱間プレス用鋼板およびその製造方法ならびに熱間プレス鋼板部材の製造方法 | |
JP6201571B2 (ja) | 穴拡げ性と伸びと溶接特性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法 | |
KR20190028488A (ko) | 고강도 강판 및 그 제조 방법 | |
KR20210105419A (ko) | 고강도 용융 아연 도금 강판 및 그의 제조 방법 | |
JP2013216945A (ja) | 鋼板および衝撃吸収部材 | |
JP2003253385A (ja) | 高速変形特性および曲げ特性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP2010126808A (ja) | 冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP4901346B2 (ja) | 伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板 | |
JP7192818B2 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP7192819B2 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP4867338B2 (ja) | 超高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP2011038121A (ja) | 高張力冷延鋼板およびその製造方法 | |
JP5499956B2 (ja) | 熱延鋼板およびその製造方法 | |
JP7168137B1 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP7168136B1 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP2007224408A (ja) | 歪時効硬化特性に優れた熱延鋼板およびその製造方法 | |
JP2021509147A (ja) | 超高強度熱延鋼板、鋼管、部材、及びその製造方法 | |
JP7392904B1 (ja) | 高強度鋼板およびその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20211019 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20220913 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20220920 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20221017 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20221108 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20221121 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 7192818 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |