JP7188659B1 - 鋼板、部材およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
(i)鋼板幅方向中央部および両端部(鋼板幅方向端から鋼板幅方向中央側に50mm位置)、幅方向1/4位置および3/4位置の計5箇所において、100mm角の試験片を3枚ずつ採取し、穴広げ試験を実施し、得られた各位置における3枚の平均値の最大値と最小値の差を、板幅方向における穴広げ率の最大値と最小値の差とする。
(ii)上記の穴広げ試験としては、試験片に対し、10mm径のパンチおよびクリアランス:12.5%となるダイスを用いて打ち抜き、バリ面を上面にして頂角60°の円錐ポンチを用いて移動速度10mm/minで実施して、以下の式に基づいて、穴広げ率(λ)を測定する。
穴広げ率λ(%)={(D-D0)/D0}×100
D:亀裂が板厚を貫通した時の穴径、D0:初期穴径(10mm)
[1]質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:0.01%以上3.0%以下、
Mn:1.0%以上3.5%以下、
P:0.002%以上0.100%以下、
S:0.0002%以上0.0200%以下、
sol.Al:0.20%以下(0%は含まない)、
N:0.010%以下、
Ti:0.008以上0.10%以下、
を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板組織が、面積率でフェライト:5%以上50%以下、マルテンサイトとベイナイトの合計:50%以上95%以下を有し、
前記フェライトのうち未再結晶フェライトが全組織に対する面積率で0%以上10%以下であり、
鋼板の板幅方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下である、鋼板。
[2]鋼板の長手方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下である、前記[1]に記載の鋼板。
[3]前記成分組成が、さらに質量%で、
Nb:0.2%以下、
B:0.0050%以下、
Cu:1%以下、
Ni:0.5%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:0.3%以下、
V:0.45%以下、
Zr:0.2%以下および
W:0.2%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、前記[1]または[2]に記載の鋼板。
[4]前記成分組成が、さらに質量%で、
Sb:0.1%以下、
Sn:0.1%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.01%以下および
REM:0.01%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の鋼板。
[5]鋼板表面にめっき層を有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の鋼板。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の鋼板に対して、成形加工および溶接の少なくとも一方を施してなる部材。
[7]前記[1]~[4]のいずれかに記載の鋼板を製造する鋼板の製造方法であって、
鋼スラブを1220℃以上で1.0時間以上加熱した後、熱間圧延し、巻取温度を650℃以下とし、かつ板幅方向の温度分布において前記巻取温度の差を50℃以下として巻き取り、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
該熱間圧延工程後、前記熱延鋼板を冷間圧延することで冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して、600℃から700℃の温度域で式(1)を満たし、かつ板幅方向の温度分布において温度の差を50℃以下とし、Ac1点超(Ac3点+50℃)以下の焼鈍温度まで加熱する焼鈍工程と、を含む、鋼板の製造方法。
式(1)において、
tは600℃から700℃までにかかる時間をn等分した時間(秒)であり(n:10以上の整数)、
Ti=(Si+1+Si)/2であり、i:n以下の自然数であり、S1=600℃であり、Sn+1=700℃であり、Siは600℃となった時刻からt×(i-1)秒後の時刻における温度(℃)である。
[8]前記熱間圧延工程で、
鋼スラブを1220℃以上で1.0時間以上加熱した後、熱間圧延し、巻取温度を650℃以下とし、板幅方向の温度分布において前記巻取温度の差を50℃以下とし、かつ鋼板の長手方向における温度分布において前記巻取温度の差を70℃以下として巻き取り、熱延鋼板を得る、前記[7]に記載の鋼板の製造方法。
[9]前記焼鈍工程後に、めっき処理を施すめっき工程を含む、前記[7]または[8]に記載の鋼板の製造方法。
[10]前記めっき工程で溶融亜鉛めっき処理を施す、前記[9]に記載の鋼板の製造方法。
[11]前記めっき工程で前記溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理を施す、前記[10]に記載の鋼板の製造方法。
[12]
前記めっき工程後、室温以上250℃以下の冷却停止温度まで冷却し、ついで、前記冷却停止温度以上440℃以下の温度域まで再加熱して20秒以上保持する再加熱工程を含む、前記[9]~[11]のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
[13]前記[7]~[12]のいずれかに記載の鋼板の製造方法によって製造された鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施す工程を有する部材の製造方法。
本発明の鋼板は、質量%で、C:0.10%以上0.30%以下、Si:0.01%以上3.0%以下、Mn:1.0%以上3.5%以下、P:0.002%以上0.100%以下、S:0.0002%以上0.0200%以下、sol.Al:0.20%以下(0%は含まない)、N:0.010%以下、Ti:0.008以上0.10%以下、を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板組織が、面積率でフェライト:5%以上50%以下、マルテンサイトとベイナイトの合計:50%以上95%以下を有し、フェライトのうち未再結晶フェライトが全組織に対する面積率で0%以上10%以下であり、鋼板の板幅方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下である。
Cは、マルテンサイトもしくはベイナイトの強度を上昇させ、TS≧1180MPaを確保する観点から含有する。C含有量が0.10%未満では所定の強度を得ることができなくなる。そのため、C含有量は0.10%以上とする。C含有量は、0.11%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.30%を超えると強度が高くなり過ぎて穴広げ性の劣化を招く。また、炭化物の生成量が多くなるため、再結晶が生じにくくなり、材質均一性が劣化する。そのため、C含有量は0.30%以下とする。C含有量は、好ましくは0.28%以下であり、より好ましくは0.26%以下である。
Siは、固溶強化により、鋼を強化する元素である。この効果を得るために、Si含有量を0.01%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.03%以上である。一方、Si含有量が多くなりすぎると、熱延、冷延での圧延荷重の著しい増加を招く。Siはセメンタイトの生成を抑制する効果を持つため、Si含有量が多くなりすぎると、セメンタイトの生成が抑制され、析出しなかったCがNbやTiと炭化物を形成し粗大化し、材質均一性が劣化する。また、靭性の低下を招く。したがって、Si含有量は3.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは2.7%以下であり、より好ましくは2.4%以下である。
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させ、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を所定範囲にするために含有する。Mn含有量が1.0%未満であると、焼入れ性が不足し、パーライトが過剰に生成し、材質均一性が劣化する。また、鋼中のSをMnSとして固定し、熱間脆性を軽減するためにMnを含有する。よって、Mn含有量は1.0%以上とする。Mn含有量は、好ましくは1.3%以上であり、より好ましくは1.6%以上である。一方、Mnを過度に含有すると、鋳造偏析によりMnの濃化部と希薄部で熱延後のフェライト変態開始温度に差が生じる。その結果、熱間圧延した後の巻取温度で鋼板全域においてフェライトとパーライトから構成される組織とならず、一部にベイナイト組織が形成されるため、焼鈍後の組織の均一性が極端に悪化し、本発明で目標とする材質安定性が得られなくなる。したがって、Mn含有量は3.5%を上限とする。Mn含有量は、好ましくは3.3%以下であり、より好ましくは3.1%以下である。
Pは、鋼を強化する元素であるが、その含有量が多いとスポット溶接性が著しく劣化する。したがって、P含有量は0.100%以下とする。また、上記の観点からP含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.010%以下がより好ましい。一方、現在工業的に実施可能なP含有量の下限は0.002%である。よって、P含有量は0.002%以上とする。
Sは、鋼中で粗大な硫化物を形成し、これが熱間圧延時に伸展し楔状の介在物となることで、溶接性に悪影響をもたらす。そのため、Sも有害元素であるため極力低減することが好ましい。介在物群による弊害を軽減するために、S含有量は少なくとも0.0200%以下とする必要がある。より厳しい溶接条件下で使用する場合、S含有量は0.0100%以下とすることが好ましく、0.0010%以下がより好ましい。一方、現在工業的に実施可能なS含有量の下限は0.0002%である。よって、S含有量は0.0002%以上とする。
Alは十分な脱酸を行い、鋼中介在物を低減するために含有する。安定して脱酸を行うために、sol.Alは0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上とすることがより好ましい。一方、sol.Alが0.20%超となると、熱間圧延後の巻取り時に生成した炭化物が焼鈍工程で固溶しにくくなり、再結晶を抑制するため、材質均一性が劣化する。したがって、sol.Al含有量は0.20%以下とし、好ましくは0.15%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Nは鋼中でTiN、(Nb,Ti)(C,N)、AlN等の窒化物、炭窒化物系の介在物を形成する元素であり、N含有量が0.010%超であると、鋼板長手方向での析出物のばらつきを抑制できず、鋼板長手方向で未再結晶フェライトの面積率のばらつきが大きくなるため、材質均一性が劣化する。このような悪影響を小さくするため、N含有量は0.010%以下とする。好ましくは、N含有量は0.0055%以下である。一方、現在工業的に実施可能なN含有量の下限は0.0006%である。よって、N含有量は0.0006%以上とすることが好ましい。
Tiはマルテンサイトやベイナイトの内部構造の微細化を通じて高強度化に寄与する。また、TiNとしてNを固定することにより、鋳造性に悪影響を及ぼすAlNを低減することにより鋳造性を改善する。このような観点から、Ti含有量は0.008%以上とする。Ti含有量は、好ましくは0.009%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。一方、Ti含有量が過剰になるとTi系の介在物粒子群が多量に生成し、鋼板板幅方向での未再結晶フェライトの面積率のばらつきが大きくなるため、材質均一性を劣化させる。このような悪影響を軽減するために、Ti含有量は0.10%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは、0.06%以下である。
また、本発明の鋼板は、以下の任意元素を含有してもよい。以下の任意元素を好適な下限値未満で含む場合、任意元素を不可避的不純物として含むものとすることができる。
Nb、B、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Zr、Wは、結晶粒微細化による高強度化および鋼の焼入れ性の観点で、これらの1種または2種以上を含有させることができる。一方で、Nb、B、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Zr、Wを過度に含有させると、介在物生成により焼入性が高くなり過ぎ、所望の鋼組織が得られなくなることで材質安定性を悪化させる要因となる。そのため、Nb、B、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Zr、Wを含有する場合は、それぞれの含有量について、Nb:0.2%以下、B:0.0050%以下、Cu:1%以下、Ni:0.5%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.3%以下、V:0.45%以下、Zr:0.2%以下およびW:0.2%以下とする。上記上限量以下であれば本発明の効果を得られるので、これらの元素の含有量の下限はそれぞれ特に限定されない。
上記伸びフランジ性の改善の効果をより有効に得る観点からは、それぞれの含有量について、Nb:0.001%以上、B:0.0003%以上、Cu:0.001%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.001%以上、Mo:0.01%以上、V:0.001%以上、Zr:0.001%以上、W:0.005%以上とすることが好ましい。
Bは、0.0045%以下であることがより好ましく、0.0040%以下であることがさらに好ましい。
Cuは、0.05%以上であることがより好ましく、0.1%以上であることがさらに好ましい。Cuは、0.6%以下であることがより好ましく、0.4%以下であることがさらに好ましい。
Niは、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。
Crは、0.005%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。Crは、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。
Moは、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。
Vは、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。
Zrは、0.002%以上であることがより好ましく、0.004%以上であることがさらに好ましい。Zrは、0.1%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。
Wは、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。
Sb、Sn、Ca、Mg、REMは、強度調整や、介在物制御等に使用される元素であり、これらの元素の1種または2種以上を上記上限量以下で含有しても本発明の効果は損なわれない。そのため、Sb、Sn、Ca、Mg、REMを含有する場合は、それぞれの含有量について、Sb:0.1%以下、Sn:0.1%以下、Ca:0.0050%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下とする。上記上限量以下であれば本発明の効果を得られるので、これらの元素の含有量の下限はそれぞれ特に限定されない。
上記の強度調整や、介在物制御等の効果をより有効に得る観点からは、それぞれの含有量について、Sb:0.001%以上、Sn:0.001%以上、Ca:0.0002%以上、Mg:0.0002%以上、REM:0.0002%以上とすることが好ましい。
Snは、0.002%以上であることがより好ましく、0.005%以上であることがさらに好ましい。Snは、0.05%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましい。
Caは、0.0005%以上であることがより好ましく、0.0010%以上であることがさらに好ましい。Caは、0.0040%以下であることがより好ましく、0.0030%以下であることがさらに好ましい。
Mgは、0.0003%以上であることがより好ましく、0.0004%以上であることがさらに好ましい。Mgは、0.005%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
REMは、0.005%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
フェライトは軟質であるため、50%を超えると所望の引張強度が得られない。そこで、フェライトの面積率は50%以下とする。フェライトの面積率は、好ましくは45%以下であり、より好ましくは40%以下である。一方、フェライトが5%を下回るとCまたはMnの分配が十分に行われず、鋼板の板幅方向における所望の組織の均一性が確保できなくなる。したがって、フェライトの面積率は5%以上であり、好ましくは7%以上であり、より好ましくは9%以上である。
マルテンサイトおよびベイナイトはフェライトと比較して硬質であり、鋼板の高強度化に必要である。そのため、合計面積率が50%を下回ると所望の引張強度が得られない。そのため、マルテンサイトとベイナイトの面積率の合計は50%以上とし、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60%以上である。一方、合計面積率が95%を超える場合、強度が過剰となる。また、フェライトへの析出物生成量が多くなるため、再結晶が抑制され、鋼板幅方向での未再結晶フェライトの面積率のばらつきが大きくなり、材質均一性が劣化する。マルテンサイトとベイナイトの面積率の合計は、好ましくは93%以下であり、より好ましくは、91%以下である。
本発明において、フェライトとは比較的高温でのオーステナイトからの変態により生成し、BCC格子の結晶粒からなる組織である。マルテンサイトとは低温(マルテンサイト変態点以下)でオーステナイトから生成した硬質な組織を指す。ベイナイトとは比較的低温(マルテンサイト変態点以上)でオーステナイトから生成し、針状又は板状のフェライト中に微細な炭化物が分散した硬質な組織を指す。パーライトとは比較的高温でオーステナイトから生成し、層状のフェライトとセメンタイトからなる組織を指す。残留オーステナイトは、オーステナイト中にC等の元素が濃化することでマルテンサイト変態点が室温以下となることで生成する。
本発明でいう未再結晶フェライトとは、結晶粒内に亜粒界を有しているフェライト粒のことをいう。未再結晶フェライトは焼鈍時に再結晶することでフェライトとなるが、未再結晶フェライトが全組織に対する面積率で10%超となると鋼板の幅方向および長手方向で再結晶率にばらつきが生じ、材質均一性が劣化する。未再結晶フェライトを全組織に対する面積率で10%以下にすることで、再結晶のばらつきを抑制できる。したがって、フェライトの面積率のうち未再結晶フェライトは全組織に対する面積率で10%以下として、好ましくは8%以下である。未再結晶フェライト量は低減するほど好ましく、0%であっても構わない。
未再結晶フェライトの面積率は穴広げ率に直接寄与するため、板幅方向の未再結晶フェライトの面積率のばらつきを抑制することで、優れた材質均一性を得ることができる。本発明では、鋼板幅方向(圧延方向と垂直)における中央部、両端部および幅方向に1/4位置、3/4位置のそれぞれで測定した未再結晶フェライトの面積率のうちの最大値と最小値の差を、「鋼板の板幅方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差」とする。
優れた材質均一性を得るために、未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差は5%以下とする。当該差は、好ましくは4%以下であり、より好ましくは3%以下である。当該差の下限は特に限定されず、0%であってもよい。当該差は、以下に記載の方法で測定できる。
前述した通り、未再結晶フェライトの面積率は穴広げ率に直接寄与するため、鋼板長手方向の未再結晶フェライトの面積率のばらつきを抑制することで、優れた材質均一性を得ることができる。本発明では、鋼板長手方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。鋼板の長手方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差の下限は特に限定されず、0%であってもよい。
本発明でいう「鋼板長手方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下」であるとは、鋼板長手方向(圧延方向)の全長にわたって、鋼板(コイル)単位での未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下であることを意味する。
これら計5箇所の鋼板長手方向の採取位置は、鋼板長手方向中央部とする。
また、鋼板長手方向(圧延方向)の先端部(先端から長手方向中央側に1m位置)、中央部、後端部(後端から長手方向中央側に1m位置)のそれぞれにおいて同様に圧延方向に平行で、鋼板表面に対し垂直な断面を観察面とするように試験片を採取し、鏡面研磨する。
鋼板の鋼板長手方向(圧延方向)の先端部、中央部、及び後端部は、それぞれ幅方向中央部で試験片を採取する。
板厚断面をナイタール液で組織現出した後、走査電子顕微鏡を用いて観察する。倍率1500倍のSEM像上の、実長さ82μm×57μmの領域上に4.8μm間隔の16×15の格子をおき、各相上にある点数を数えるポイントカウンティング法により、フェライト、マルテンサイト、ベイナイトおよび未再結晶フェライトの面積率を調査する。
面積率は、倍率1500倍の別々のSEM像から求めた3つの面積率の平均値とする。本発明のフェライト、マルテンサイト、ベイナイトの面積率は鋼板幅方向中央部の長手方向中央部で求めた値である。
また、未再結晶フェライトの面積率は上記幅方向中央部と両端部、幅方向1/4位置および3/4位置のそれぞれで求め、計5箇所での測定値のうちの最大値と最小値の差を算出する。同様に鋼板長手方向における先端部、中央部、後端部のそれぞれで求め、3箇所での測定値のうちの最大値と最小値の差を算出する。フェライトおよび未再結晶フェライトは黒色、マルテンサイトは白色の組織を呈している。未再結晶フェライトは結晶粒内に亜粒界を有しており、亜粒界は白色を呈している。ベイナイトは、比較的低温(マルテンサイト変態点以上)でオーステナイトから生成し、針状又は板状のフェライト中に微細な炭化物が分散した硬質な組織である。
本発明の鋼板の強度は、実施例に記載の方法で測定した引張強度(TS)が1180MPa以上である。
本発明の鋼板は材質均一性に優れる。具体的には、実施例に記載の方法で実施した鋼板の板幅方向における、穴広げ率の最大値と最小値の差が10%以下である。穴広げ率の最大値と最小値の差は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
また、穴広げ率は、特に限定されないが、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。
また、本発明の鋼板は、板幅方向で長さが600mm以上であることが好ましく、700mm以上であることがより好ましい。また、本発明の鋼板は、板幅方向で長さが1600mm以下であることが好ましく、1400mm以下であることがより好ましい。
また、本発明の鋼板は、長手方向(圧延方向)で長さが100m以上であることが好ましく、500m以上であることがより好ましい。また、本発明の鋼板は、長手方向(圧延方向)で長さが3000m以下であることが好ましく、2000m以下であることがより好ましい。
本発明の鋼板の製造方法は、鋼スラブを1220℃以上で1.0時間以上加熱した後、熱間圧延し、巻取温度を650℃以下とし、かつ板幅方向の温度分布において巻取温度の差を50℃以下として巻き取り、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
該熱間圧延工程後、前記熱延鋼板を冷間圧延することで冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
冷延鋼板に対して、600℃から700℃の温度域で式(1)を満たし、かつ板幅方向の温度分布において温度の差を50℃以下とし、Ac1点超(Ac3点+50℃)以下の焼鈍温度まで加熱する焼鈍工程と、を含む。
式(1)において、
tは600℃から700℃までにかかる時間をn等分した時間(秒)であり(n:10以上の整数)、Ti=(Si+1+Si)/2であり、i:n以下の自然数であり、S1=600℃であり、Sn+1=700℃であり、Siは600℃となった時刻からt×(i-1)秒後の時刻における温度(℃)である。
鋼スラブを熱間圧延する方法としては、スラブを加熱後圧延する方法、連続鋳造後のスラブを加熱することなく直接圧延する方法、連続鋳造後のスラブに短時間加熱処理を施して圧延する方法などが挙げられる。本発明の製造方法においては、スラブ加熱温度を1220℃以上とすることが重要である。スラブ加熱温度が1220℃よりも低い場合は、鋳造時に生成したTi系の析出物が十分に固溶せず、析出物量が多くなるため、材質均一性が劣化する。スラブ加熱温度の上限は特に限定されないが、1400℃以下とすることが好ましい。
熱間圧延では、常法通り、スラブ加熱時の平均加熱速度は5~15℃/minとすればよい。
スラブ加熱時間が1.0時間未満であると、十分にTi系析出物を固溶しきれないため、析出物量が多くなり、材質均一性が劣化する。そのため、1220℃以上のスラブ加熱温度でのスラブ加熱時間は1.0時間以上とする。スラブ加熱時間の上限は特に限定しないが、3.0時間以下とすることが好ましい。
巻取温度が650℃超では、巻取時に生成するTi系析出物の析出量が多くなるため、鋼板の板幅での未再結晶フェライトの面積率のばらつきを抑制できず、材質均一性が劣化する。したがって、巻取温度は650℃以下であり、好ましくは640℃以下である。鋼板表面に生成した1次、2次スケールを除去するためにデスケーリングは適宜行ってよい。熱延コイルを冷間圧延する前に十分酸洗してスケールの残存を軽減するのがよい。また、冷間圧延荷重低減の観点から必要に応じて熱延鋼板に焼鈍を施してもよい。一方、巻取温度が400℃未満になると、鋼板の形状不良が発生したり、鋼板が過度に硬質化して冷間圧延時の破断を引き起こしたりする可能性がある。したがって、巻取温度は、好ましくは400℃以上であり、より好ましくは420℃以上である。
巻取時の鋼板幅方向中央部と両端部(鋼板幅方向端から鋼板幅方向中央側に50mm位置)との温度差(巻取温度の差)は、Ti系析出物の析出量を調整することにより、上記の未再結晶フェライトの面積率を制御するための重要な製造条件である。この巻取温度の差は、小さいほど好ましい。板幅方向の温度分布において巻取温度の差が50℃を超えると、巻取温度が高いところと低いところでTi系析出物の析出量および析出物径の差が顕著になる。その結果、再結晶の抑制効果について、板幅方向におけるばらつきが大きくなり、焼鈍後の未再結晶フェライトの面積率の差が小さい高強度鋼板は得られない。したがって、板幅方向の温度分布において巻取温度の差は50℃以下とし、好ましくは40℃以下とし、より好ましくは30℃以下とする。
ここで、板幅方向の温度分布は、放射温度計で測定し、面的に観測できるサーモビュアーを用いて確認することができる。「巻取温度の差」とは、上記温度分布における最大値と最小値の差である。
また、板幅方向の温度分布の調整は、例えば、エッジヒーターなどを用いて鋼板幅方向端部近傍を加熱したり、エッジマスキングにより冷却量を調整したりする方法を採用すればよい。加熱方法は特に限定されるものではなく、直火加熱や誘導加熱などで行うことができる。なお、上記差の下限は特に限定されないが、5℃未満とするには巻取直前にエッジヒーターを増設するなどの多額の設備投資が必要になるため、好ましくは5℃以上とする。
鋼板の長手方向の中央部では、巻取温度が最も高くなりやすく、かつ巻取後の冷却速度が最も遅くなりやすい。一方、鋼板の長手方向における先端部と後端部では、巻取温度が最も低くなりやすく、かつ巻取後の冷却速度が最も速くなりやすい。
そのため、鋼板の長手方向における中央部では、微細析出物が最も少なくなりやすく、未再結晶フェライトは最も少なくなりやすい。一方、鋼板の長手方向における先端部および後端部では微細析出物が最も多くなりやすく、未再結晶フェライトは最も多くなりやすい。
したがって、本発明における巻取時の鋼板の長手方向(圧延方向)の先端部(先端から長手方向中央側に1m位置)、中央部、後端部(後端から長手方向中央側に1m位置)の温度差(巻取温度差)は、Ti系析出物の析出量を制御することにより、上記の未再結晶フェライトの面積率を制御するために小さいほど好ましい。
鋼板の長手方向の温度分布において、巻取温度の差が70℃を超えると、巻取温度が高いところと低いところでTi系析出物の析出量および析出物径の差が顕著になる。その結果、再結晶の抑制効果について、長手方向におけるばらつきが大きくなり、焼鈍後の未再結晶フェライトの面積率の差が小さい高強度鋼板は得られない。したがって、鋼板の長手方向の温度分布において、巻取温度の差は70℃以下とすることが好ましく、50℃以下とすることがより好ましく、40℃以下とすることがさらに好ましい。
冷間圧延で、圧下率(累積圧下率(冷間圧延率))を20%以上とすれば、その後の連続焼鈍における再結晶挙動、集合組織配向を安定化させることができる。20%に満たない場合、焼鈍時のオーステナイト粒が一部粗大となり、強度が低下する恐れがある。よって、冷間圧延の圧下率は20%以上とすることが好ましい。
圧下率の上限は設けないが、冷間圧延負荷の都合上、95%以下であることが好ましい。
本発明の焼鈍工程では、冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に対して、600℃から700℃の温度域で式(1)を満たし、かつ板幅方向の温度分布において温度の差を50℃以下とし、Ac1点超(Ac3点+50℃)以下の焼鈍温度で加熱する。
式(1)において、
tは600℃から700℃までにかかる時間をn等分した時間(秒)であり(n:10以上の整数)、Ti=(Si+1+Si)/2であり、i:n以下の自然数であり、S1=600℃であり、Sn+1=700℃であり、Siは、i番目の温度(℃)であって、600℃となった時刻からt×(i-1)秒後の時刻における温度(℃)である。
具体的に、Siは600℃から700℃に向けてi番目の温度(℃)である。すなわち、S1~Sn+1については、S1を開始温度:600℃とし、到達温度Sn+1:700℃に向けて時間tの増加に伴い、S2、S3、S4・・・の順に温度が特定される。
上記式(1)の右辺を設定するために、昇温過程および均熱過程における炉内の温度計の指標を用いる。加えてライン速度を加味して実際にさらされている熱履歴から逆算することで、鋼板の熱履歴を把握することができる。その温度と時間との関係から上記式(1)の右辺は設定できる。
再結晶は600℃から700℃の温度域で促進され、この温度域における滞留時間を長くすることが再結晶を促進させるためには必要である。滞留時間を長くすることで、再結晶を促進させることに加え、板全幅における温度均一性を確保し、組織の均一性を向上させる。この滞留時間が短くなると再結晶が十分に進行せず、未再結晶フェライト量が増加し、鋼板板幅および長手方向の再結晶率にばらつきが生じ、材質均一性が劣化する。また、一方で、なるべく早く700℃近くまで加熱することも必要となる。これらの技術思想に基づいて、600℃から700℃の温度域で上記式(1)を満たすようにし、下記式(1A)を満たすことが好ましく、下記(1B)を満たすことがより好ましい。
tは600℃から700℃までにかかる時間をn等分した時間(秒)であり(n:10以上の整数)、Ti=(Si+1+Si)/2であり、i:n以下の自然数であり、S1=600℃であり、Sn+1=700℃であり、Siは、i番目の温度(℃)であって、600℃となった時刻からt×(i-1)秒後の時刻における温度(℃)である。
加熱時の幅方向中央部と端部(鋼板幅方向端から鋼板幅方向中央側に50mm位置)、1/4位置、3/4位置における温度差は、再結晶の促進効果により、焼鈍後の上記未再結晶フェライトの面積率の差を5%以下に制御するために重要である。そのため、上記温度差は小さいほど好ましい。温度差が50℃を超えると再結晶率の差が顕著となり、焼鈍後の未再結晶フェライトの面積率の差が5%を超えるため、本発明が目的とする焼鈍後の未再結晶フェライトの面積率の差が小さい高強度鋼板は得られない。したがって、上記温度の差は50℃以下とする。また、上記温度の差は、好ましくは30℃以下とし、より好ましくは20℃以下とする。
ここで、板幅方向の温度分布は、放射温度計で確認することができる。また、板幅方向の温度分布の調整は、例えば、エッジヒーターなどを用いて鋼板幅方向端部近傍を加熱したり、エッジマスキングにより冷却量を調整したりする方法を採用すればよい。加熱方法は特に限定されるものではなく、直火加熱や誘導加熱などで行うことができる。なお、板幅方向の温度分布における温度の差は小さい方が好ましいが、得られる効果のみならず調整の容易性を考慮すると、温度差は、2℃以上であることが好ましい。
焼鈍温度をAc1点超(Ac3点+50℃)以下にすることで、適切にフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの面積率を制御することができる。Ac1点以下では焼鈍時のオーステナイト量が不足し、強度が得られない。一方、(Ac3点+50℃)以上では逆変態したオーステナイトの粒径の粗大化が顕著となり、フェライトおよび/またはベイナイトおよびマルテンサイトの粒径の粗大化が顕著となり、引張強度が確保できない。また、所望のフェライト量を確保できない。保持時間は特に限定されないが、10秒以上であることが好ましい。また、保持時間は900秒以下であることが好ましい。
Ac3(℃)=910-203×[C]1/2-15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]-(30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]-700×[P]-400×[sol.Al]-120×[As]-400×[Ti])
また、合金化処理を施す場合、保持温度が450℃未満では十分に合金化が進まずめっき密着性や耐食性が劣化する。また、保持温度が600℃を超えると合金化が過度に進行してプレス時にパウダリングなどの問題が発生する。このため保持温度は450~600℃とするのが好ましい。
なお、鋼板表面に電気亜鉛めっきを施す場合は、電気亜鉛めっき処理の処理条件は特に限定されず、常法に従えばよい。
めっき工程後の冷却条件は特に限定されず、常法に従えばよい。冷却方法としては、例えば、ガスジェット冷却、ミスト冷却、ロール冷却、水冷および空冷などを適用することができる。表面酸化防止の観点から室温以上250℃以下まで冷却する。
室温は、特に限定されず、10~30℃としてよい。
平均冷却速度は、1℃/秒以上50℃/秒以下とすることが好適である。
ついで、上記冷却停止温度以上440℃以下の温度域まで再加熱することにより、最終組織のマルテンサイト中のフレッシュマルテンサイトの面積率を低減でき、より均一な組織が得られる。鋼板温度がマルテンサイト変態点を下回ると、未変態オーステナイトはマルテンサイトに変態し、高温で変態したマルテンサイトは冷却中に焼戻しが進行することにより、最終組織はフレッシュマルテンサイトと焼戻しマルテンサイトが混在する。再加熱することにより、フレッシュマルテンサイトは焼戻され焼戻しマルテンサイトとなり、最終組織のマルテンサイトは焼戻しマルテンサイトとなり、組織の均一性が向上する。組織の均一性の向上に伴って、材質の均一性も向上する。一方、再加熱温度が440℃を超える場合、亜鉛めっき等のめっきが一部溶解し、ロールに付着してしまい、均一に亜鉛めっきがなされた溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板が得られない。また、過度に焼戻しが進行することによって所望の引張強度(TS)が得られない恐れがある。また、再加熱時間が20秒未満の場合、十分な焼戻しの効果が得られない。
よって、めっき工程後に再加熱を行う場合、室温以上から250℃以下の冷却停止温度まで冷却し、ついで、冷却停止温度以上440℃以下の温度域まで再加熱して20秒以上保持する。
本発明を、実施例を参照しながら具体的に説明する。ただし、発明の範囲は実施例に限定されない。
表1に示す成分組成を有する鋼を溶製し、スラブに鋳造して、室温まで冷却した後、表2の条件でスラブ加熱を行い、仕上圧延温度900℃、仕上板厚3.2mmの条件で熱間圧延を施し、巻き取った。製造した熱延鋼板を酸洗後、冷間圧延により、仕上板厚1.4mmの冷延鋼板とし、表2に示す条件の焼鈍を施し、鋼板(高強度鋼板)を製造した。
焼鈍温度での保持時間は100秒とした。
なお、表2では、めっき工程の種類についても、「GI」および「GA」と表示している。表2中、GI鋼板の場合に合金化処理行わないため合金化温度を-と示す。
冷延鋼板の場合めっき種類に-と示す。亜鉛めっき浴温は、GIおよびGAいずれを製造する場合も、470℃とした。
また、亜鉛めっき付着量は、GIを製造する場合は、片面あたり45~72g/m2とし、GAを製造する場合は、片面あたり45g/m2とした。
なお、最終的に得られた溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の組成は、GIでは、Fe:0.1~1.0質量%、Al:0.2~0.33質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であった。また、GAでは、Fe:8.0~12.0質量%、Al:0.1~0.23質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であった。また、亜鉛めっき層はいずれも、下地鋼板の両面に形成した。
これら計5箇所の鋼板長手方向の採取位置は、鋼板長手方向中央部とした。
また、鋼板長手方向(圧延方向)の先端部(先端から長手方向中央側に1m位置)、中央部、後端部(後端から長手方向中央側に1m位置)のそれぞれにおいて同様に圧延方向に平行で、鋼板表面に対し垂直な断面を観察面とするように試験片を採取し、鏡面研磨した。
鋼板の鋼板長手方向(圧延方向)の先端部、中央部、及び後端部は、それぞれ幅方向中央部で試験片を採取した。
板厚断面をナイタール液で組織現出した後、走査電子顕微鏡を用いて観察した。倍率1500倍のSEM像上の、実長さ82μm×57μmの領域上に4.8μm間隔の16×15の格子をおき、各相上にある点数を数えるポイントカウンティング法により、フェライト、マルテンサイト、ベイナイトおよび未再結晶フェライトの面積率を調査した。面積率は、倍率1500倍の別々のSEM像から求めた3つの面積率の平均値とした。本発明のフェライト、マルテンサイト、ベイナイトの面積率は鋼板幅方向中央部の長手方向中央部で求めた値である。また、未再結晶フェライトの面積率は上記幅方向中央部と両端部、幅方向1/4位置および3/4位置のそれぞれで求め、計5箇所での測定値のうちの最大値と最小値の差を算出した。同様に鋼板長手方向における先端部、中央部、後端部のそれぞれで求め、3箇所での測定値のうちの最大値と最小値の差を算出した。上記の観察される金属組織のうち、フェライトは比較的高温でオーステナイトからの変態により生成し、bcc格子の結晶粒からなる組織である。フェライトおよび未再結晶フェライトは黒色、マルテンサイトは白色の組織を呈している。未再結晶フェライトは結晶粒内に亜粒界を有しており、亜粒界は白色を呈している。また、ベイナイトは比較的低温(マルテンサイト変態点以上)でオーステナイトから生成し、針状または板状のフェライト中に球状の炭化物が分散した組織である。
D:亀裂が板厚を貫通した時の穴径、D0:初期穴径(10mm)
成分組成、熱間圧延条件、焼鈍条件が適正化された鋼では、1180MPa以上のTSが得られている。また、未再結晶フェライトの面積率が10%以下であり、さらに幅方向の未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下に抑えられている。鋼板の材質安定性については、幅方向の穴広げ率の最大値と最小値の差が10%以下に抑えられており、優れた材質安定性が得られている。本発明の鋼板は1180MPa以上の引張強さと、鋼板幅方向における穴広げ率の最大値と最小値の差が10%以下であることの双方を具備する。比較例の鋼板は、それらの条件のうち少なくともいずれか一つを満足していない。
実施例1の表3のNo.1(本発明例)の鋼板(亜鉛めっき鋼板)をプレス成形して、本発明例の部材を製造した。さらに、実施例1の表3のNo.1(本発明例)の鋼板(亜鉛めっき鋼板)と、実施例1の表3のNo.2(本発明例)の鋼板(亜鉛めっき鋼板)とをスポット溶接により接合して本発明例の部材を製造した。これら本発明の鋼板(亜鉛めっき鋼板)は、材質均一性に優れると共に、高強度を有しており、実施例1の表3のNo.1(本発明例)の鋼板の成形加工により製造した部材、および実施例1の表3のNo.1(本発明例)の鋼板と、実施例1の表3のNo.2(本発明例)の鋼板とをスポット溶接して製造した部材のすべてにおいて、自動車用骨格部品等に好適に用いることができることを確認できた。
実施例1の表3のNo.10(本発明例)の鋼板をプレス成形して、本発明例の部材を製造した。さらに、実施例1の表3のNo.10(本発明例)の鋼板と、実施例1の表3のNo.19(本発明例)の鋼板とをスポット溶接により接合して本発明例の部材を製造した。これら本発明の鋼板(亜鉛めっき鋼板)は、材質均一性に優れると共に、高強度を有しており、実施例1の表3のNo.10(本発明例)の鋼板の成形加工により製造した部材、および実施例1の表3のNo.10(本発明例)の鋼板と、実施例1の表3のNo.19(本発明例)の鋼板とをスポット溶接して製造した部材のすべてにおいて、自動車用骨格部品等に好適に用いることができることを確認できた。
Claims (13)
- 質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:0.01%以上3.0%以下、
Mn:1.0%以上3.5%以下、
P:0.002%以上0.100%以下、
S:0.0002%以上0.0200%以下、
sol.Al:0.20%以下(0%は含まない)、
N:0.010%以下、
Ti:0.008以上0.10%以下、
を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板組織が、面積率でフェライト:5%以上50%以下、マルテンサイトとベイナイトの合計:50%以上95%以下を有し、
前記フェライトのうち未再結晶フェライトが全組織に対する面積率で0%以上10%以下であり、
鋼板の板幅方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下である、鋼板。 - 鋼板の長手方向における未再結晶フェライトの面積率の最大値と最小値の差が5%以下である、請求項1に記載の鋼板。
- 前記成分組成が、さらに質量%で、
Nb:0.2%以下、
B:0.0050%以下、
Cu:1%以下、
Ni:0.5%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:0.3%以下、
V:0.45%以下、
Zr:0.2%以下および
W:0.2%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼板。 - 前記成分組成が、さらに質量%で、
Sb:0.1%以下、
Sn:0.1%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.01%以下および
REM:0.01%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の鋼板。 - 鋼板表面にめっき層を有する、請求項1~4のいずれかに記載の鋼板。
- 請求項1~5のいずれかに記載の鋼板に対して、成形加工および溶接の少なくとも一方を施してなる部材。
- 請求項1~4のいずれかに記載の鋼板を製造する鋼板の製造方法であって、
鋼スラブを1220℃以上で1.0時間以上加熱した後、熱間圧延し、巻取温度を650℃以下とし、かつ板幅方向の温度分布において前記巻取温度の差を50℃以下として巻き取り、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
該熱間圧延工程後、前記熱延鋼板を冷間圧延することで冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して、600℃から700℃の温度域で式(1)を満たし、かつ板幅方向の温度分布において温度の差を50℃以下とし、Ac1点超(Ac3点+50℃)以下の焼鈍温度まで加熱する焼鈍工程と、を含む、鋼板の製造方法。
式(1)において、
tは600℃から700℃までにかかる時間をn等分した時間(秒)であり(n:10以上の整数)、Ti=(Si+1+Si)/2であり、i:n以下の自然数であり、S1=600℃であり、Sn+1=700℃であり、Siは600℃となった時刻からt×(i-1)秒後の時刻における温度(℃)である。 - 前記熱間圧延工程で、
鋼スラブを1220℃以上で1.0時間以上加熱した後、熱間圧延し、巻取温度を650℃以下とし、板幅方向の温度分布において前記巻取温度の差を50℃以下とし、かつ鋼板の長手方向における温度分布において前記巻取温度の差を70℃以下として巻き取り、熱延鋼板を得る、請求項7に記載の鋼板の製造方法。 - 前記焼鈍工程後に、めっき処理を施すめっき工程を含む、請求項7または8に記載の鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程で溶融亜鉛めっき処理を施す、請求項9に記載の鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程で前記溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理を施す、請求項10に記載の鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程後、室温以上250℃以下の冷却停止温度まで冷却し、ついで、前記冷却停止温度以上440℃以下の温度域まで再加熱して20秒以上保持する再加熱工程を含む、請求項9~11のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
- 請求項7~12のいずれかに記載の鋼板の製造方法によって製造された鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施す工程を有する部材の製造方法。
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