JP7184204B2 - 抵抗スポット溶接方法及び溶接継手の製造方法 - Google Patents
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Description
遅れ破壊とは、金属に加わる応力が降伏強度以下の状態であるにも関わらず、溶接等の加工完了から一定の時間が経過した後に、金属が突然破断してしまう現象である。
そして、本発明者らは、抵抗スポット溶接において、ナゲットが形成された鋼板に対して所定の条件下で音波を照射すれば、優れた耐遅れ破壊特性を発揮する溶接継手を簡便に得られることを見出した。
1.二枚以上重ね合わせた鋼板を一対の溶接電極で挟持し、前記鋼板を加圧しながら通電し、前記鋼板相互の重ね合わせ面にナゲットを形成して、前記鋼板同士を接合する、抵抗スポット溶接方法において、
前記接合後に、前記鋼板の表面での音圧レベルが30dB以上を満たすように、10Hz以上100000Hz以下の周波数を有する音波を、前記ナゲットに直接的又は間接的に照射することを特徴とする、抵抗スポット溶接方法。
そして、本明細書において、「周波数」及び「音圧レベル」は、例えば、後述する方法に従って測定することができる。
前記接合後に、前記鋼板の表面での音圧レベルが30dB以上を満たすように、10Hz以上100000Hz以下の周波数を有する音波を、前記ナゲットに直接的又は間接的に照射することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
本発明の抵抗スポット溶接方法では、二枚以上重ね合わせた、例えば鋼板1,2を、一対の溶接電極4,5で挟持し、加圧しながら通電し、鋼板相互の重ね合わせ面(重ね合わせ部)12,22側にナゲット3を形成し、鋼板同士を接合した後に、ナゲット3に(例えば、ナゲット相当表面13,23のうちの少なくとも一方に対して)、所定の周波数及び所定の音圧レベルで音波を照射する。
そして、本発明の抵抗スポット溶接方法に従えば、主にナゲットに集積する水素を効率的に鋼板外部へと逃がすことにより、熱処理による組織変化に起因する材質の変化を伴わずに、スポット溶接部の遅れ破壊の問題を良好にかつ簡便に回避することができる。
すなわち、接合にあたり形成されたナゲットに対して所定の条件で音波を当てることにより、ナゲットを含む鋼板部分が強制加振される。この強制加振による曲げ変形に起因して、ナゲットを含む鋼板部分の格子間隔が板厚方向に拡張(引張)・収縮(圧縮)を繰り返す。格子間を膨張させる鋼中水素は、よりポテンシャルエネルギーの低い引張側への拡散が誘起されるため、この格子間隔の拡張・収縮に伴って水素の拡散が促進され、鋼板内部と表面とを結ぶ水素の拡散パスが強制的に引き起こされる。拡散パスが意図的に形成された水素は、鋼板の表面近傍における格子間隔が拡張したタイミングで、表面を通って更にエネルギー的に有利な鋼板外部へと逃げていく。このように、接合後の鋼板に対して所定の条件で照射した音波が、鋼中、特に引張残留応力部であるナゲットに集積する水素を十分にかつ効率よく低減させるので、溶接継手の遅れ破壊を良好かつ簡便に抑制できるものと推察される。
本発明の抵抗スポット溶接方法では、鋼板の接合後にナゲットから水素を効率的に逃がすことができる。したがって、まず、複数の鋼板同士を接合するまでの工程については特に制限されず、一般的な抵抗スポット溶接の条件に従えばよい。一般的な抵抗スポット溶接の通電条件として、例えば、電流は1kA~15kA、通電時間は100ms~2000ms、加圧力は0.5kN~10kNの範囲とすることができる。
本発明の抵抗スポット溶接方法で用いる鋼板は、特に制限されないが、高強度鋼板であることが好ましい。具体的には、接合する鋼板のうち少なくとも一枚の引張強さが780MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、1300MPa以上であることが更に好ましい。また、接合する鋼板のいずれもが上記引張強さを有することが一層好ましい。接合する鋼板の引張強さが780MPa未満である場合、抵抗スポット溶接によってナゲットに生じる引張残留応力の程度が小さいので、もともと、得られる溶接継手に遅れ破壊が生じ難い。一方、接合する鋼板が上記のとおり高強度であるほど、抵抗スポット溶接によってナゲットに水素が発生又は侵入し易く、溶接継手に遅れ破壊が生じ易いため、音波を照射することによる溶接継手の耐遅れ破壊特性の改善効果が高まる。なお、鋼板の引張強度は特に限定されないが、3000MPa以下とすることができる。
また、本発明の抵抗スポット溶接方法は、音波の照射を非接触で行い、鋼板の表面状態に影響されない溶接方法であるため、鋼板に所望の特性を付与する目的で、めっき等の任意の表面処理を施すことができる。
次に、本発明の抵抗スポット溶接方法では、上述した鋼板同士の接合後に、ナゲットに直接的又は間接的に(例えば、ナゲット相当表面の少なくとも一方に)、音波を意図的に照射する。ここで、音波を照射するに際しては、10Hz以上100000Hz以下の周波数を有する音波を、鋼板の表面での音圧レベルが30dB以上を満たすようにすることが肝要である。周波数及び音圧レベルを上記のとおり制御することにより、ナゲットから水素を効率的に逃がし、熱処理による組織変化に起因する材質の変化を伴わずに、水素脆化による溶接継手の遅れ破壊を良好かつ簡便に低減させることができる。
なお、本発明における音波の照射は、鋼板に非接触で行われる。
周波数が10Hz以上100000Hz以下の音波を照射することは、本発明において重要な構成条件である。周波数が10Hz未満の音波を照射しても、照射された音波が鋼板に付与すべき振動が鋼板自体の剛性に妨げられ、鋼板外への水素の拡散が促進されず、ナゲット中の水素量が十分に減少しない。照射する音波の周波数は100Hz以上であることが好ましく、500Hz以上であることがより好ましく、3000Hz以上であることが更に好ましい。照射する音波の周波数が高いほど鋼板に与える曲げ変形が大きいため、鋼中の水素の拡散パスをより良好に形成して、水素脆性に起因した遅れ破壊をより抑制できる。加えて、周波数が高いほど音波の指向性が高まるため、音波を照射する位置をより制御し易い。
一方、周波数が100kHzを超えると、発生させた音波が鋼板表面に到達するまでの空気中での減衰が著しく、鋼板、特にはナゲットに十分に振動が照射されず、効率的に鋼中水素量を減少できない。したがって、照射する音波の周波数は100kHz以下である必要があり、80kHz以下であることが好ましく、50kHz以下であることがより好ましい。
音圧レベルが30dB以上の音波を照射することも、本発明において重要な構成条件である。音圧レベルが30dBに満たない音波を照射しても、照射された音波が鋼板に付与すべき振動が鋼板自体の剛性に妨げられ、鋼板外への水素の拡散が促進されず、ナゲット中の水素量が十分に減少しない。照射する音波の音圧レベルは60dB以上が好ましく、70dB以上がより好ましい。照射する音波の音圧レベルが高いほど、鋼板をより振動させて、鋼中、特にはナゲット中から残存水素をより放出することにより遅れ破壊をより抑制できる。
一方、一般的に入手可能な音波照射装置の性能上、照射する音波の音圧レベルは、通常、140dB以下である。
ナゲット相当表面に音波を照射する時間が短いと、鋼板を振動させたとしても、ナゲット中に残存する水素を鋼板外へと脱離させるのに十分でなく、鋼中水素量を良好に低減できないことがある。したがって、音波を照射する時間は1秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがより好ましく、10秒以上であることが更に好ましい。
一方、ナゲット相当表面に音波を3600秒以上照射することは生産性を低下させる。したがって、音波を照射する時間は3600秒未満が好ましく、1800秒以下がより好ましく、1500秒以下が更に好ましい。
溶接電極を用いた抵抗スポット溶接に起因した遅れ破壊は、通電開始時を0秒として、180分~720分の間に生じる場合がある。このような遅れ破壊が生じる前に音波を照射し、鋼板の引張応力部であるナゲットへの水素集積を抑制、解消することが好ましい。この観点から、ナゲット相当表面への音波の照射は、鋼板への通電開始から360分以内に行うことが好ましく、180分未満に行うことがより好ましく、60分以内に行うことが更に好ましい。遅れ破壊が生じるリスクを少しでも回避する観点からは、通電開始から音波を照射開始するまでの時間は短いほど有利である。したがって、通電開始から音波を照射開始するまでの時間の下限は特に制限されないが、通電自体に要する時間を考慮すると、上記時間の下限は通常10秒である。
そして、本発明に従って抵抗スポット溶接を行った後のナゲット内では、残存水素量が、質量分率で0.5ppm以下であることが好ましく、0.3ppm以下であることがより好ましく、もちろん、0ppmとしてもよい。ナゲット中に残存する水素は溶接継手における水素脆化の原因となるため、残存水素量は少ないほど好ましい。一般に、高強度鋼板に対する抵抗スポット溶接であるほど遅れ破壊が生じやすいところ、本願では所定条件で音波を照射するので、高強度鋼板の場合であっても良好に残存水素量を低減させることができる。
音波の照射には、一般的な、音波を発生して対象物に照射する装置(音波照射装置)を用いることができる。音波照射装置としては、例えば、音波発信器、音波発信器に振動板等が備わったスピーカーなどが挙げられる。
また、一表面上にナゲット相当表面が複数存在する場合、そのうちの一つのナゲット相当表面のみに対して音波を照射してもよいし、任意の複数のナゲット相当表面に対して音波を照射してもよいし、全てのナゲット相当表面に対して音波を照射してもよいし、鋼板の一表面全体に亘って音波を照射してもよい。特にナゲット中に水素が残存し易いことを考慮すれば、一表面上にナゲット相当表面が複数存在する場合、複数のナゲット相当表面に音波を照射することが好ましく、全てのナゲット相当表面に音波を照射することがより好ましい。
また、上記所定の周波数による耐遅れ破壊特性への効果を高める観点からは、鋼板の表面と音波照射装置との最短直線距離を15m以内とすることが好ましく、5m以内とすることがより好ましい。
更には、鋼板と接触することなく音波を照射するといった簡便な手法を採用している本発明は、例えば、多数の細かな溶接施工を要する自動車製造における抵抗スポット溶接に、とりわけ有利に用いることができる。
なお、引張強さは、各鋼板から、圧延方向に対して垂直方向に沿ってJIS5号引張試験片を作製し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を実施して求めた引張強さである。
下電極4及び上電極5としては、いずれも先端の直径(先端径)が6mm、曲率半径が40mmである、クロム銅製のDR形電極を用いた。また、接合時の加圧力は、下電極4と上電極5とをサーボモータで駆動することによって制御し、通電の際には周波数50Hzの単相交流を供給した。
11 表面
12 鋼板相互の重ね合わせ面
13 ナゲット相当表面
2 鋼板(上鋼板)
21 表面
22 鋼板相互の重ね合わせ面
23 ナゲット相当表面
3 ナゲット
4 溶接電極(下電極)
5 溶接電極(上電極)
6 抵抗スポット溶接点
7 音波照射装置
Claims (10)
- 二枚以上重ね合わせた鋼板を一対の溶接電極で挟持し、前記鋼板を加圧しながら通電し、前記鋼板相互の重ね合わせ面にナゲットを形成して、前記鋼板同士を接合する、抵抗スポット溶接方法において、
前記接合後に、前記鋼板の表面での音圧レベルが30dB以上を満たすように、10Hz以上100000Hz以下の周波数を有する音波を、前記ナゲットに直接的又は間接的に照射して前記ナゲット中の水素量を低減することを特徴とする、抵抗スポット溶接方法。 - 前記音波を照射する時間が1秒以上であることを特徴とする、請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
- 前記鋼板のうち少なくとも一枚の引張強さが780MPa以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接方法。
- 前記鋼板のうち少なくとも一枚が、前記表面及び前記重ね合わせ面の少なくとも一方にめっき被膜を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
- 前記めっき被膜が溶融亜鉛めっき被膜又は合金化溶融亜鉛めっき被膜であることを特徴とする、請求項4に記載の抵抗スポット溶接方法。
- 二枚以上重ね合わせた鋼板を一対の溶接電極で挟持し、前記鋼板を加圧しながら通電し、前記鋼板相互の重ね合わせ面にナゲットを形成し、前記鋼板同士を接合した溶接継手を得る、溶接継手の製造方法において、
前記接合後に、前記鋼板の表面での音圧レベルが30dB以上を満たすように、10Hz以上100000Hz以下の周波数を有する音波を、前記ナゲットに直接的又は間接的に照射して前記ナゲット中の水素量を低減することを特徴とする、溶接継手の製造方法。 - 前記音波を照射する時間が1秒以上であることを特徴とする、請求項6に記載の溶接継手の製造方法。
- 前記鋼板のうち少なくとも一枚の引張強さが780MPa以上であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の溶接継手の製造方法。
- 前記鋼板のうち少なくとも一枚が、前記表面及び前記重ね合わせ面の少なくとも一方にめっき被膜を有することを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
- 前記めっき被膜が溶融亜鉛めっき被膜又は合金化溶融亜鉛めっき被膜であることを特徴とする、請求項9に記載の溶接継手の製造方法。
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