以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
[第一実施形態]
<エンジン装置1の概略構成について>
図1は、本実施形態におけるエンジン装置1の概略構成の一例を示す図である。図2は、エンジン装置1の構成の一部を示す斜視図である。図1および図2に示すように、エンジン装置1は、エンジン2と、第1MG(Motor Generator)61と、第2MG(Motor Generator)62と、第1インバータ71と、第2インバータ72と、バッテリ80と、負荷90とを含む。エンジン装置1はまた、第1レゾルバ101と、第2レゾルバ102と、制御装置200とを含む。
<エンジン2の構成について>
本実施形態において、エンジン2は、回転ピストン型の内燃機関である。エンジン2の燃料には、たとえば、水素、ガソリン、ガス(液化天然ガス、液化石油ガスなど)または軽油などが用いられる。エンジン2は、ハウジング4と、吸気管6と、排気管8と、燃料供給装置10と、スロットルバルブ12と、スロットルモータ14と、第1出力軸16と、第2出力軸18とを含む。
吸気管6の一方端は、ハウジング4の吸気ポート(図示せず)に接続される。吸気管6の他方端には、たとえば、エアクリーナ(図示せず)が接続される。エアクリーナは、エンジン2の外部から吸入される空気から異物を除去する。エンジン2の作動中において、吸気管6には、エアクリーナから吸入された空気が流通する。吸気管6を流通する空気は、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
スロットルバルブ12は、吸気管6に設けられ、吸気管6を流通する空気の流量を制限する。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、制御装置200からの制御信号THに応じて動作するスロットルモータ14によって調整される。
燃料供給装置10は、吸気管6のスロットルバルブ12よりも上流側に設けられる。燃料供給装置10は、制御装置200からの制御信号INJに応じて、燃料を吸気管6内に供給する。吸気管6内に供給された燃料は、吸気管6内で空気と混合されて、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
ハウジング4の外周部分は、円筒形状によって形成されており、その内周部分も円筒形状に形成されている。ハウジング4は、その内部に、第1出力軸16に接続される第1ピストン部材と、第2出力軸18に接続される第2ピストン部材とを収納する。
排気管8の一方端は、ハウジング4の排気ポート(図示せず)に接続される。排気管8の他方端には、たとえば、排気処理装置(図示せず)が接続される。エンジン2の作動中において、ハウジング4内での燃焼により生じた排気は、ハウジング4の排気ポートから排気管8に流通する。排気管8に流通する排気は、排気処理装置によって浄化されて、エンジン2の外部に排出される。
<エンジン2の内部構造について>
以下、エンジン2の内部構造の一例について図3を参照しつつ説明する。図3は、エンジン内部に設けられるピストン部材の構成の一例を示す図である。
図3に示すように、ハウジング4内には、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とが組み合わされて収納される。第1ピストン部材24は、第1回転体24aと、第1壁面部材24bとを含む。第2ピストン部材28は、第2回転体28aと、第2壁面部材28bとを含む。
第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とは、ハウジング4によって回転可能に支持されている。第1回転体24aと第2回転体28aとは、図3中に一点鎖線で図示される回転中心AXが一致している。第1回転体24aと第2回転体28aとは、回転中心AXを中心に回転可能である。第1回転体24aと第2回転体28aとは、第1回転体24aの一方の端面と第2回転体28aの一方の端面とが軸方向に対向するように設けられる。
第1回転体24aおよび第2回転体28aは、その回転中心を含む断面に斜面部分を有するように形成される。これにより、第1回転体24aと第2回転体28aとが組み合わされた状態において、第1回転体24aと第2回転体28aとの間には、V字形状の断面を有する凹部が周方向に形成される。
第1回転体24aには、回転中心からハウジング4の内周面に向けて延在するように設けられ、端部がハウジング4の内周面に当接する第1壁面部材24bが設けられる。第1壁面部材24bは、2つの三角形の板状部材によって構成される。第1壁面部材24bの2つの三角形の板状部材は、回転中心AXについて互いに対称となる位置関係になるように第1回転体24aに設けられる。
第2回転体28aには、回転中心からハウジング4の内周面に向けて延在するように設けられ、端部がハウジング4の内周面に当接する第2壁面部材28bが設けられる。第2壁面部材28bは、上述の第1壁面部材24bを構成する板状部材と同形状となる、2つの三角形の板状部材によって構成される。第2壁面部材28bの2つの三角形の板状部材は、回転中心AXについて互いに対称となる位置関係になるように第2回転体28aに設けられる。
第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材は、いずれも、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とがハウジング4に収納されている状態において第1回転体24aと第2回転体28aとの間の凹部とハウジング4の内周面とによって形成される三角形の断面形状に合致するように形成される。また、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材の外周部分は、ハウジング4の内周面と摺動可能に構成される。
各部材間の当接部分や摺動部分には、シール等が適宜設けられる。第1回転体24aには、回転中心AXが一致するように第1出力軸16が接続される。第2回転体28aには、回転中心AXが一致するように第2出力軸18が接続される。
さらに、第1回転体24aおよび第2回転体28aの各々とハウジング4との間には、たとえば、ワンウェイクラッチ22,26が設けられる。ワンウェイクラッチ22は、第1回転体24aのハウジング4内における予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。同様に、ワンウェイクラッチ26は、第2回転体28aのハウジング4内における予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
<エンジン2以外の構成について>
図1および図2に戻って、以下にエンジン装置1のエンジン2以外の構成について説明する。
第1回転体24aおよび第2回転体28aは、いずれもハウジング4内での燃料の燃焼によって回転する。第1回転体24aは、第1出力軸16を介して、第1MG61の回転軸に接続されている。第2回転体28aは、第2出力軸18を介して、第2MG62の回転軸に接続されている。
第1MG61および第2MG62は、たとえば、いずれも三相交流回転電機である。第1インバータ71および第2インバータ72は、いずれも直流電力と交流電力との間で電力変換が可能に構成される電力変換装置である。
第1MG61は、第1インバータ71と電気的に接続されている。第1インバータ71は、制御装置200からの制御信号INV1によって制御される。すなわち、第1MG61と第1インバータ71との間で授受される電力は、制御装置200からの制御信号INV1によって制御される。
制御装置200は、たとえば、第1MG61において回生トルクが発生するように第1インバータ71を制御する。このとき、第1MG61において発生する回生電力は、第1インバータ71において交流電力から直流電力に変換され、バッテリ80に供給される。バッテリ80は、第1インバータ71から供給される直流電力によって充電される。第1MG61は第1出力軸16を介して第1ピストン部材24に接続されており、第1MG61は第1ピストン部材24の回転により回生発電可能に構成されている。
または、制御装置200は、第1MG61において駆動トルクが発生するように第1インバータ71を制御する。このとき、バッテリ80の電力は、第1インバータ71において直流電力から交流電力に変換され第1MG61に供給される。第1MG61は第1出力軸16を介して第1ピストン部材24に接続されており、第1MG61は第1ピストン部材24を回転駆動可能に構成されている。
制御装置200は、第1インバータ71に制御信号INV1を送信することにより、第1ピストン部材24の回転動作を制御する。
第1レゾルバ101は、第1MG61の回転軸(第1出力軸16)の回転角度(以下、回転角度CA1と記載する)を検出する。第1レゾルバ101は、検出した回転角度CA1を示す信号を制御装置200に送信する。
第2MG62は、第2インバータ72と電気的に接続されている。第2インバータ72は、制御装置200からの制御信号INV2によって制御される。すなわち、第2MG62と第2インバータ72との間で授受される電力は、制御装置200からの制御信号INV2によって制御される。
制御装置200は、たとえば、第2MG62において回生トルクが発生するように第2インバータ72を制御する。このとき、第2MG62において発生する回生電力は、第2インバータ72において交流電力から直流電力に変換され、バッテリ80に供給される。バッテリ80は、第2インバータ72から供給される直流電力によって充電される。第2MG62は第2出力軸18を介して第2ピストン部材28に接続されており、第2MG62は第2ピストン部材28の回転により回生発電可能に構成されている。
または、制御装置200は、第2MG62において駆動トルクが発生するように第2インバータ72を制御する。このとき、バッテリ80の電力は、第2インバータ72において直流電力から交流電力に変換され第2MG62に供給される。第2MG62は第2出力軸18を介して第2ピストン部材28に接続されており、第2MG62は第2ピストン部材28を回転駆動可能に構成されている。
制御装置200は、第2インバータ72に制御信号INV2を送信することにより、第2ピストン部材28の回転動作を制御する。
第2レゾルバ102は、第2MG62の回転軸(第2出力軸18)の回転角度(以下、回転角度CA2と記載する)を検出する。第2レゾルバ102は、検出した回転角度CA2を示す信号を制御装置200に送信する。
バッテリ80は、たとえば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池によって構成される直流電源である。なお、バッテリ80は、第1インバータ71あるいは第2インバータ72から供給される直流電力の貯蔵が可能な蓄電装置であればよく、たとえば、バッテリ80に代えて、キャパシタ等が用いられてもよい。
エンジン装置1の動作は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入・出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。入力ポートには、上述したセンサ類(たとえば、第1レゾルバ101および第2レゾルバ102)が接続される。出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、エンジン2、第1インバータ71、第2インバータ72等)が接続される。
制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン装置1が所望の作動状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
<燃焼室A~D、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の動作>
以上のような構成を有するエンジン装置1において、ハウジング4内に形成される燃焼室、およびピストン部材の動作について、以下に説明する。図4は、燃焼室Aで燃料が燃焼する場合における各構成部材の動作の一例を説明するための図である。
図4には、ハウジング4の中央部分(たとえば、第1回転体24aと第2回転体28aとの当接部分)における、回転中心AXに直交する断面が示される。図4に示すように、ハウジング4内には、ハウジング4の内周面4mと、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とによって、燃料を燃焼させるための4つの燃焼室A~Dが形成される。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、燃焼室A~Dの周方向の壁面を構成している。周方向に隣り合う2つの燃焼室は、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bによって仕切られている。
燃焼室Aおよび燃焼室Cは、ハウジング4の内周面4m、第1ピストン部材24の回転方向の前方面24m、および第2ピストン部材28の回転方向の後方面28nによって、規定されている。燃焼室Bおよび燃焼室Dは、ハウジング4の内周面4m、第1ピストン部材24の回転方向の後方面24n、および第2ピストン部材28の回転方向の前方面28mによって、規定されている。
図3に示されるワンウェイクラッチ22,26は、図4においては、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28の反時計回りの回転を抑制し、時計回りの回転を許容する。図4中の時計回り方向は、実施形態における一方向に相当する。燃焼室A、燃焼室B、燃焼室Cおよび燃焼室Dは、この一方向においてこの順に並んでいる。
図4に示される燃焼室Aでは、圧縮された空気と燃料との混合気が自着火によって着火する。燃焼室Aで燃料が燃焼すると、第1ピストン部材24の反時計回りの移動がワンウェイクラッチ22によって抑制されるため、第1ピストン部材24の回転位置が維持されつつ、第2ピストン部材28のみが破線矢印の方向に図中の時計回り方向に回転する。燃焼室Aでは、燃焼室A内の気体が膨張するともに燃焼室Aの容積が増加する、膨張行程となる。
燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に図中の時計回り方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Bの容積が減少する。このとき、燃焼室Bは、排気管8と連通している。そのため、燃焼室B内の排気は、燃焼室Bの容積の減少とともに、排気管8に排出されていく。燃焼室Bでは、膨張した排気が排気管8から排出される排気行程となる。
一方、図4に示される燃焼室Dは、吸気管6と連通している。そのため、吸気管6から空気と燃料との混合気が燃焼室D内に吸入される。燃焼室Dでは、吸気管6から混合気が吸入される吸気行程となる。
燃焼室Aでの燃料の燃焼によって第2ピストン部材28が破線矢印の方向に図中の時計回り方向に回転する途中で、燃焼室Dは吸気管6と非連通になる。第2ピストン部材28がさらに回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Dの容積が減少する。このとき燃焼室Dは、吸気管6および排気管8のいずれにも連通していないため、燃焼室Dの容積の減少によって燃焼室D内の混合気が圧縮される。燃焼室Dでは、吸気管6から吸入された混合気が圧縮される圧縮行程となる。
図4に示される燃焼室Cでは、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に図中の時計回り方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、容積が増加する。燃焼室Cは、第2ピストン部材28が回転する途中で、吸気管6と連通する。そのため、燃焼室Cの容積の増加とともに、吸気管6から混合気が燃焼室C内に吸入される。燃焼室Cでは、吸気管6から混合気が吸入される吸気行程となる。
燃焼室D内の圧力が上昇することによって第1ピストン部材24に時計回りの力が作用すると、第1ピストン部材24が回転し、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係が図5に示す位置関係となる。
図5は、燃焼室Dで燃料が燃焼する場合における各構成部材の動作の一例を説明するための図である。図5には、図4と同様に、ハウジング4の中央部分における回転中心AXに直交する断面が示される。図5に示されるエンジン2の構成は、図4に示されるエンジン2の構成と比較して、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係ならびに燃焼室A~Dの位置および容積が異なる点以外は同様である。
図5に示される燃焼室Dでは、圧縮行程の後の膨張行程となる。すなわち、燃焼室Dでは、圧縮された空気と燃料との混合気が自着火によって着火する。燃焼室Dで燃料が燃焼すると、第2ピストン部材28の反時計回りの移動がワンウェイクラッチ26によって抑制されるため、第2ピストン部材28の回転位置が維持されつつ、第1ピストン部材24のみが時計回りに回転し、燃焼室D内の気体の膨張とともに燃焼室Dの容積が増加する。
図5に示される燃焼室Aでは、膨張行程の後の排気行程となる。すなわち、燃焼室Dでの燃料の燃焼によって、第1ピストン部材24が時計回りに回転すると、第2ピストン部材28の回転位置が維持されるため、燃焼室Aの容積が減少する。このとき、燃焼室Aは、排気管8と連通している。そのため、燃焼室A内の排気は、燃焼室Aの容積の減少とともに、排気管8に排出されていく。
図5に示される燃焼室Bでは、排気行程の後の吸気行程となる。すなわち、燃焼室Dでの燃料の燃焼によって、第1ピストン部材24が時計回りに回転すると、第2ピストン部材28の回転位置が維持されるため、燃焼室Bの容積が増加する。このとき、燃焼室Bは、第1ピストン部材24が回転する途中で、吸気管6と連通する。そのため、燃焼室Bの容積の増加とともに、吸気管6から混合気が燃焼室B内に吸入される。
図5に示される燃焼室Cでは、吸気行程の後の圧縮行程となる。すなわち、燃焼室Dでの燃料の燃焼によって、第1ピストン部材24が時計回りに回転すると、第2ピストン部材28の回転位置が維持されるため、燃焼室Cの容積が減少する。このとき、燃焼室Cは、吸気管6および排気管8のいずれにも連通していないため、燃焼室Cの容積の減少によって燃焼室C内の混合気が圧縮される。
そして、燃焼室C内の圧力が上昇することによって第2ピストン部材28に時計回りの力が作用すると、第2ピストン部材28が回転し、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係が図4に示す位置関係となる。
このようにして、燃焼室A~Dのうちのいずれかで燃焼する毎に、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、エンジン2が動作する。燃焼室A、燃焼室B、燃焼室Cおよび燃焼室D内において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなるサイクルが繰り返される。
この場合において、図4に示すように、燃焼室Aまたは燃焼室Cにおいて燃料が燃焼する場合には、第2ピストン部材28が所定の回転位置まで回転する間に、第2ピストン部材28の回転を制動する回生トルクを第2MG62において発生させることによって発電する。同様に、図5に示すように、燃焼室Bまたは燃焼室Dにおいて燃料が燃焼する場合には、第1ピストン部材24が所定の回転位置まで回転する間に、第1ピストン部材24の回転を制動する回生トルクを第1MG61において発生させることによって発電する。
すなわち、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、第1MG61および第2MG62において発電され、発電された交流電力が第1インバータ71および第2インバータ72において直流電力に変換され、バッテリ80に供給される。
図6は、各燃焼室における行程の変化の一例を説明するための図である。図6に示すように、たとえば、行程(1)では、燃焼室Aが膨張行程となり、燃焼室Bが排気行程となり、燃焼室Cが吸気行程となり、燃焼室Dが圧縮行程となる。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係は、図4に示す位置関係となる。そのため、行程(1)においては、燃焼室Aでの燃焼により第2ピストン部材28が回転し、第2MG62において回生トルクが発生させられる。
行程(2)では、燃焼室Aが排気行程となり、燃焼室Bが吸気行程となり、燃焼室Cが圧縮行程となり、燃焼室Dが膨張行程となる。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係は、図5に示す位置関係となる。そのため、行程(2)においては、燃焼室Dでの燃焼により第1ピストン部材24が回転し、第1MG61において回生トルクが発生させられる。
行程(3)では、燃焼室Aが吸気行程となり、燃焼室Bが圧縮行程となり、燃焼室Cが膨張行程となり、燃焼室Dが排気行程となる。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係は、図4に示す位置関係となる。そのため、行程(3)においては、燃焼室Cでの燃焼により第2ピストン部材28が回転し、第2MG62において回生トルクが発生させられる。
行程(4)では、燃焼室Aが圧縮行程となり、燃焼室Bが膨張行程となり、燃焼室Cが排気行程となり、燃焼室Dが吸気行程となる。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係は、図5に示す位置関係となる。そのため、行程(4)においては、燃焼室Bでの燃焼により第1ピストン部材24が回転し、第1MG61において回生トルクが発生させられる。
以降、エンジン2の動作が継続する限り、行程(1)~行程(4)の動作が繰り返し行なわれることになる。
<エンジン装置1の制御について>
このような構成を有するエンジン装置1において、エンジン2の動作を適切に継続するために(すなわち、行程(1)~(4)において、膨張行程、排気行程、吸気行程および圧縮行程を適切に行なうために)、ハウジング4内を回転摺動する第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の回転制御を精度高く行なうことが求められる。
上述の構成を備えているエンジン2においては、第1ピストン部材24に、第1出力軸16を介して第1MG61が接続されている。第2ピストン部材28に、第2出力軸18を介して第2MG62が接続されている。制御装置200は、第1MG61および第2MG62を制御する。
そこで、本実施形態においては、制御装置200は、エンジン2の作動中に、第1MG61の制御量を調整することにより第1ピストン部材24の回転に対する負荷を増減し、第2MG62の制御量を調整することにより第2ピストン部材28の回転に対する負荷を増減する制御を実行する。制御装置200は、第1MG61において発生する回生トルクの増減によって第1ピストン部材24の回転制御を実行し、第2MG62において発生する回生トルクの増減によって第2ピストン部材28の回転制御を実行する。
本実施形態においては、第1MG61は、第1ピストン部材24の回転により回生発電可能、かつ第1ピストン部材24を回転駆動可能に、構成されている。制御装置200は、第1ピストン部材24に対する第1MG61の制動力を調整し、第1MG61による第1ピストン部材24の回転速度の低下量または増加量を調整する。制御装置200は、第1ピストン部材24に対する第1MG61の駆動力を調整し、第1MG61による第1ピストン部材24の回転速度の増加量を調整する。
第2MG62は、第2ピストン部材28の回転により回生発電可能、かつ第2ピストン部材28を回転駆動可能に、構成されている。制御装置200は、第2ピストン部材28に対する第2MG62の制動力を調整し、第2MG62による第2ピストン部材28の回転速度の低下量または増加量を調整する。制御装置200は、第2ピストン部材28に対する第2MG62の駆動力を調整し、第2MG62による第2ピストン部材28の回転速度の増加量を調整する。
より具体的には、制御装置200は、燃焼室A~D内で燃料が燃焼することによって第1ピストン部材24および第2ピストン部材28が回転する場合において、第1ピストン部材24の回転に関する制御量が目標値を上回るとき、第1MG61において発生する回生トルクを増大させて、第1ピストン部材24の回転に対する負荷を増大する。第1ピストン部材24の回転に関する制御量が目標値を下回るとき、第1MG61において発生する回生トルクを減少させて、第1ピストン部材24の回転に対する負荷を減少する。回生トルクをゼロまで減少させても第1ピストン部材24の回転に関する制御量が目標値を下回るとき、第1MG61に駆動トルクを発生させて、第1MG61によって第1ピストン部材24を回転駆動させる。
また制御装置200は、燃焼室A~D内で燃料が燃焼することによって第1ピストン部材24および第2ピストン部材28が回転する場合において、第2ピストン部材28の回転に関する制御量が目標値を上回るとき、第2MG62において発生する回生トルクを増大させて、第2ピストン部材28の回転に対する負荷を増大する。第2ピストン部材28の回転に関する制御量が目標値を下回るとき、第2MG62において発生する回生トルクを減少させて、第2ピストン部材28の回転に対する負荷を減少する。回生トルクをゼロまで減少させても第2ピストン部材28の回転に関する制御量が目標値を下回るとき、第2MG62に駆動トルクを発生させて、第2MG62によって第2ピストン部材28を回転駆動させる。
実施形態のエンジン2においては、複数のピストン部材、すなわち第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが、独立して回転可能である。エンジン2の運転を安定して継続するために、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突を回避することが望まれる。以下、本実施形態における制御装置200で実行される、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突を回避するための制御処理の詳細について説明する。
図7は、第2ピストン部材の位置を調整する処理を示すフローチャートである。以下、第1ピストン部材24および第1MG61を制御対象とする処理を例として説明するが、第2ピストン部材28および第2MG62においても、第1ピストン部材24および第1MG61と同様の処理が行なわれることは勿論である。制御装置200は、第1ピストン部材24および第1MG61を制御対象とする処理と、第2ピストン部材28および第2MG62を制御対象とする処理とを交互に実行することによって、エンジン2を継続的に動作させる。
図7に示されるように、まずステップS1において、相手側の異常を確認する。図7に示される例においては、第1ピストン部材24および第1MG61が処理対象であるため、相手側とは、第2ピストン部材28および第2MG62をいう。制御装置200は、第2ピストン部材28および/または第2MG62に異常が発生しているか否かを確認する。次にステップS2において、ステップS1における相手側の異常の確認の結果、異常が発生しているか否かの判断が行なわれる。異常の有無の判定の詳細については後述する。
ステップS2の判断において、相手側に異常が発生していないと判断された場合(ステップS2においてNO)、ステップS3に進み、目標の位相曲線を確認する。
図8は、ピストン部材の回転に関する制御量の目標値の一例を示すグラフである。図8に示されるグラフの横軸は、ピストン部材の回転の周期を示す。横軸の1目盛りが1周期を示す。横軸の座標がゼロの値をとる時刻は、燃焼室A~Dのいずれか1つの燃焼室における混合気の着火の瞬間を示す。横軸の座標が0.5ずつ増加する毎に、着火が行なわれる。すなわち、横軸の座標が0.5の値をとる時刻に次回の着火が行なわれ、横軸の座標が1.0の値をとる時刻にさらにその次の着火が行なわれる。
図8に示されるグラフの縦軸は、ピストン部材の回転の角度、すなわち位相を示す。本実施形態のエンジン2は第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との2つのピストン部材を有しているので、1周期におけるピストン部材の回転角度は180°である。図8には、膨張行程となる燃焼室と排気行程となる燃焼室とを仕切るピストン部材の回転動作が示されている。縦軸の座標がゼロの値をとる位置は、膨張行程となる燃焼室の回転方向の中心を示す。そのため、燃焼室における着火の瞬間、すなわち横軸の座標がゼロであるときに、縦軸に示す角度は正の値をとっている。
図8には、時間とピストン部材の位相との関係を示す理想的な制御マップ(目標ライン)が図示されている。図8に示されるように、ピストン部材の理想的な回転動作は、概略以下の通りである。燃焼室での燃料の燃焼によってピストン部材が回転することにより、0~0.5周期の間に位相が時間に対してほぼ線形に増加し、ピストン部材は180°近くまで回転する。その後ピストン部材は、ワンウェイクラッチの作用によって回転位置が維持される。1周期近くなると、もう一つのピストン部材の回転によって圧力が作用することにより、ピストン部材が回転し、このときピストン部材の位相は時間に対して緩やかに増加する。
制御装置200は、図8に示される理想的な回転動作を目標値として、第1ピストン部材24を制御する。
図9は、各回転電機への要求トルクの一例を示すグラフである。図9に示す2つのグラフの横軸は、図8に示されるグラフと同じく、ピストン部材の回転の周期を示す。上側のグラフの縦軸は、第1MG61への要求トルクを示す。下側のグラフの縦軸は、第2MG62への要求トルクを示す。縦軸のプラス方向は、駆動トルクを示し、縦軸のマイナス方向は、回生トルクを示す。
図8を併せて参照して、第1ピストン部材24は、0~0.5周期の間に位相が増加して、位相0°付近から180°付近まで移動する。膨張行程において第1ピストン部材24に燃焼ガスの圧力が作用することにより、第1ピストン部材24が回転する。この第1ピストン部材24の回転時に、回転する第1ピストン部材24に接続されている第1MG61において回生トルクが発生させられる。
図4,5を参照して説明した通り、エンジン2は、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、動作する。第1ピストン部材24が回転しており、したがって第1MG61において回生トルクが発生させられているとき、第2ピストン部材28は停止しており、したがって第2MG62への要求トルクはほぼゼロである。
第1ピストン部材24の停止とほぼ同時に、第2ピストン部材28が回転を開始する。第2ピストン部材28は、0.5~1周期の間に位相が増加して、位相0°から180°付近まで移動する。この第2ピストン部材28の回転時に、回転する第2ピストン部材28に接続されている第2MG62において回生トルクが発生させられる。第2ピストン部材28が回転しており、したがって第2MG62において回生トルクが発生させられているとき、第1ピストン部材24は停止しており、したがって第1MG61への要求トルクはほぼゼロである。
図7に戻って、次にステップS4において、トルク制御を実施する。制御装置200は、回転角度CA1により検出される第1ピストン部材24の実際の位相が、図8に示される回転の周期に対する位相の目標値と等しいか否かを判断する。制御装置200は、エンジン2の作動中において、第1ピストン部材24の位相をフィードバック制御して、第1ピストン部材24の位相を目標値に近づけるように調整する。
第1ピストン部材24の実際の位相が目標値よりも大きい場合、制御装置200は、第1MG61において発生する回生トルクを増加させる。これにより、第1ピストン部材24の回転に対する負荷が増大し、第1ピストン部材24の回転が抑制され、第1ピストン部材24の位相が理想の位置に近づく。
第1ピストン部材24の実際の位相が目標値よりも小さい場合、制御装置200は、第1MG61において発生する回生トルクを減少させる。これにより、第1ピストン部材24の回転に対する負荷が減少し、第1ピストン部材24の回転が促進され、第1ピストン部材24の位相が理想の位置に近づく。
第1ピストン部材24の実際の位相が目標値よりも小さく、かつ第1MG61の回生トルクがゼロに設定されている場合、第1MG61を発電機でなく電動機として使用する。第1MG61によって駆動トルクを発生して第1ピストン部材24を回転駆動させることにより、第1ピストン部材24の位相を理想の位置に近づける処理が行なわれる。
次にステップS5において、第1ピストン部材24の要求トルクの瞬時出力値の確認が行なわれる。
次にステップS6において、異常の有無の判定が行なわれる。制御装置200は、第1MG61への負荷を認識し、異常判定を行なう。制御装置200は、たとえば、第1MG61に要求される、第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクに基づき、第1ピストン部材24の回転の異常を検出する。より具体的には、制御装置200は、第1ピストン部材24の駆動トルクに閾値を設定し、要求される駆動トルクが閾値を超えていると、第1ピストン部材24がハウジング4内で固着するなどの、第1ピストン部材24の回転の異常が発生していると判定する。制御装置200は、その駆動トルクを発生させるための電流または電圧の値に基づいて、第1ピストン部材24の回転の異常を判定してもよい。
制御装置200は、第1MG61に異常が発生していることを判断してもよい。たとえば、制御装置200から第1インバータ71に対して制御信号INV1を送信しているにも関わらず、第1MG61の動作状態を検出するセンサの検出結果、たとえば第1レゾルバ101で検出した回転角度CA1によると、第1MG61が制御信号INV1に対応した動作をしていないと判断された場合に、第1MG61に異常が発生していると判定してもよい。また、第1MG61の動作状態を検出するべきセンサから、検出信号の出力がなければ、断線などにより第1MG61への電力遮断が発生している可能性があり、この場合も第1MG61に異常が発生していると判定する。
図10は、異常発生時の回転電機の位相変化の一例を示すグラフである。図10に示されるグラフの横軸、縦軸は、図8に示されるグラフと同様に、それぞれ、ピストン部材の回転の周期、ピストン部材の位相を示す。
図10に示されるように、第1ピストン部材24が回転し、第1ピストン部材24の位相が0°付近から増加する。時刻Aに到達した時点以降、第1ピストン部材24の位相が変化せずほぼ一定である。図8に示されるグラフを、図10においては破線で示す。時刻Aを起点として、第1ピストン部材24の位相の目標値と実際の位相との差が次第に大きくなっている。時刻A以降、時間が経過しても第1ピストン部材24は回転していない。この場合、制御装置200は、時刻Aにおいて、第1ピストン部材24に固着などの異常が発生したと判定する。
上述した駆動トルクに基づく例に替えて、制御装置200は、図10に破線で示される第1ピストン部材24の位相の目標値と、図10に実線で示される第1ピストン部材24の実際の位相との差に基づいて、第1ピストン部材24の回転の異常を検出してもよい。制御装置200は、位相の目標値と実際の位相との差に閾値を設定し、位相の差が閾値を超えていると、第1ピストン部材24の回転の異常が発生していると判定してもよい。
図7に戻って、次にステップS7において、ステップS6における異常有無判定の結果、第1ピストン部材24および/または第1MG61に異常が発生しているか否かの判断が行なわれる。異常が発生していないと判断されると(ステップS7においてNO)、ステップS3~S6までの処理が繰り返され、ステップS7の判断が再度行なわれる。
ステップS7の判断において異常が発生していると判断されると(ステップS7においてYES)、ステップS11に進み、相手側に異常信号を送付する。制御装置200は、相手側、すなわち第2ピストン部材28および第2MG62を制御対象とする制御フローに、異常信号を送付し、第1ピストン部材24および/または第1MG61に異常が発生しているという情報を与える。
続いてステップS12において、トルクの付与を停止する。制御装置200は、第1MG61で発生する回生トルクおよび駆動トルクをゼロにし、第1ピストン部材24の駆動をやめ、第1ピストン部材24の回転を停止させる。これにより、ステップS13において、エンジン2が停止する。
第2ピストン部材28および第2MG62を制御対象とする制御フローにおいて、上述したステップS6,S7と同様の処理を第2ピストン部材28および第2MG62について実行した結果、第2ピストン部材28および/または第2MG62に異常が発生していると判断された場合に、ステップS11と同様に、異常信号を送付する。図7に示されるステップS1における相手側の異常の確認においては、制御装置200は、第2ピストン部材28および第2MG62を制御対象とする制御フローから異常信号が送付されているか否かの確認を行なう。
ステップS2の判断において、相手側に異常が発生していると判断された場合、すなわち、第2ピストン部材28および第2MG62を制御対象とする制御フローから異常信号が送付されている場合(ステップS2においてYES)、ステップS21に進み、ロータ停止制御が開始される。制御装置200は、ロータ、すなわち第1ピストン部材24を停止させるための制御を、以下の通り実行する。
具体的には、ステップS22において、最大回生制御が実行される。この最大回生制御においては、第1ピストン部材24に接続されている第1MG61において発生する回生トルクを増大する。典型的には、第1MG61において発生する回生トルクを最大にする。これにより、第1ピストン部材24の回転に対する負荷を増大する。
図11は、第1ピストン部材24の回転の異常発生時における各回転電機への要求トルクの一例を示すグラフである。図11に示す2つのグラフは、図9と同様に、ピストン部材の回転の周期に対する、第1MG61および第2MG62への要求トルクを示す。
図11には、第1ピストン部材24の回転の異常または第1MG61の異常が検出された場合の第2MG62において発生する回生トルクの特性が示されており、図7に示されるステップS22の処理とは、異常を発生する側と回生トルクを増大する側とが入れ替わっていることになる。しかしながら、第2ピストン部材28の回転の異常または第2MG62の異常が検出された場合の第1MG61において発生する回生トルクの特性は、図11に従って以下に説明する、第2MG62において発生する回生トルクの特性と同じであるので、図11および他の図面を適宜参照して、ステップS22の説明を続ける。
第1ピストン部材24の回転異常が発生する時刻Aまでは、図9と同様に第1MG61において回生トルクが発生している。時刻Aで第1ピストン部材24の回転異常が発生すると、第1ピストン部材24の回転を促進するために第1MG61の回生トルクが急速に減少する。回生トルクをゼロまで減少させた後、さらに第1MG61は、第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクを発生する。この駆動トルクの発生にも関わらず、第1ピストン部材24の位相は変化しないままであるため、第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクが急速に増大する。
第1MG61の駆動トルクには、閾値が設定されている。時刻Bにおいて、第1MG61の駆動トルクの値が閾値にまで増大する。制御装置200は、第1MG61の駆動トルクが閾値に達したことによって、第1ピストン部材24の回転に異常が発生していると判断する。つまり、ステップS5の瞬時出力確認の処理が時刻Bにおいて実行された場合、駆動トルクの値は閾値に到達していることになり、この場合、制御装置200は、ステップS6の異常有無判定の処理において異常が発生していると判定する。制御装置200は、第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクに基づき、第1ピストン部材24の回転の異常を検出する。
第1ピストン部材24の回転の異常を検出した制御装置200は、ステップS12の処理について説明した通り、第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクの付与を停止する。図11に示されるように、時刻B以降は、第1MG61への要求トルクはゼロになっている。第1MG61は、第1ピストン部材24が回転していないので回生発電はを行なっておらず、駆動トルクの発生がなくなることで、時刻B以降は、回生トルクおよび駆動トルクのいずれも発生しなくなっている。
第1ピストン部材24の回転の異常が検出された時刻Bよりも後の時刻に、自着火などにより第2ピストン部材28が回転を開始した場合、第2MG62は、第2ピストン部材28の回転に対する負荷となる回生トルクを発生させる。図11の下側のグラフに示されるように、第2MG62において発生する回生トルクを、ゼロから増大させる。典型的には、このとき第2MG62は、第2MG62において発生し得る最大の回生トルクを発生させる。
回転異常を発生している第1ピストン部材24は、図10に示されるように、回転を停止している。このとき、第2MG62において発生する回生トルクを増大させることにより、第2ピストン部材28に制動力が作用し、第2ピストン部材28の回転に対する負荷が増大していることで、第2ピストン部材28の回転が抑制されている。第2MG62が発生し得る最大の回生トルクを発生させることで、第2ピストン部材28に強制ブレーキをかけ、回転する第2ピストン部材28を最短で停止させることが可能になる。停止している第1ピストン部材24への第2ピストン部材28の接近を抑制できるので、第1ピストン部材24への第2ピストン部材28の衝突を回避することができる。したがって、エンジン2の運転を安定して継続することができる。
図7に戻って、次にステップS23において、第1ピストン部材24の瞬時角速度を確認する。第1ピストン部材24に接続されている第1MG61の回生トルクを増大させた状態で、制御装置200は、第1レゾルバ101で検出される回転角度CA1に基づいて、第1ピストン部材24の瞬時角速度を算出する。
続いてステップS24において、第1ピストン部材の回転が発生しているか否かの判断が行なわれる。ステップS23で算出された瞬時角速度がゼロであれば、第1ピストン部材24は回転していないと判断される。ステップS23で算出された瞬時角速度がゼロよりも大きければ、第1ピストン部材24は回転していると判断される。第1ピストン部材24が回転していると判断された場合(ステップS24においてYES)、ステップS22に戻り、ステップS22の回生トルクを増大する処理と、ステップS23の瞬時角速度を確認する処理とが繰り返される。
ステップS24の判断において第1ピストン部材24が回転していないと判断された場合(ステップS24においてNO)、ステップS25に進み、所定時間が経過したか否かの判断が行なわれる。この判断は、第1ピストン部材24に回転駆動力が発生しない状態になってから回生トルクの作用による制動力を解除するようにして、回転異常を発生している可能性のある第2ピストン部材28への第1ピストン部材24の衝突を確実に回避できるように、行なわれる。この所定時間としては、たとえば、第1ピストン部材24が回転中心AXまわりに360°一回転するために必要な時間が、設定されてもよい。
ステップS25において所定時間が未だ経過していないと判断されれば(ステップS25においてNO)、ステップS23に戻り、ステップS23の瞬時角速度を確認する処理と、ステップS24の第1ピストン部材24が回転しているか否かの判断とが繰り返される。したがって、ステップS24において第1ピストン部材24が回転していないと一旦判断されても、所定時間が経過する前の再度の判断において第1ピストン部材24が回転していると判断された場合には、ステップS22の回生トルクを増大する処理に戻ることになる。これにより、第1ピストン部材24の第2ピストン部材28への衝突を確実に回避することができる。
ステップS25において所定時間が経過したと判断された場合(ステップS25においてYES)、すなわち、第1ピストン部材24が停止した状態が所定時間継続したと判断された場合、ステップS26に進み、最大回生制御を解除する。制御装置200は、第1MG61の回生トルクをゼロにする。図11に示されるように、時刻Cにおいて回生トルクがゼロに減少している。これにより、相手側に異常が発生していると判断された場合の対応が終了する。そして、ステップS27において、エンジン2が停止する。
上記の説明では、ステップS21でロータ停止制御が開始されると、次にステップS22で最大回生制御が実行される例について説明した。この例に変えて、ロータ停止制御が開始された後、対象のピストン部材の回転が検出されたときに最大回生制御を開始して直ちに回転を止めるようにし、もしピストン部材の回転がなければ回生トルクをゼロに保ったまま所定時間経過を待つような制御としてもよい。
以上説明したように、本実施形態のエンジン装置1では、図7に示されるように、制御装置200は、第1ピストン部材24の回転の異常または第1MG61の異常が検出された場合、第2MG62において発生する回生トルクを増大することにより、第2ピストン部材28の回転に対する負荷を増大する。第1ピストン部材24または第1MG61の異常発生時に、異常が発生していない相手側の第2ピストン部材28を停止させる制御を実行することで、第1ピストン部材24がハウジング4内で固着する異常が発生していたとしても、第1ピストン部材24への第2ピストン部材28の衝突を回避することができる。したがって、エンジン2の運転を安定して継続することができる。
図7に示されるように、第1ピストン部材24の回転の異常または第1MG61の異常が検出された場合、制御装置200は、第1ピストン部材24を駆動させるための駆動トルクの付与を停止する。第1MG61に過大な負荷がかかると第1MG61の発熱量が大きくなることがあるが、このように駆動トルクの付与を停止して第1MG61の負荷を低減することで、発熱過多となる事態を防止することができる。
図11に示されるように、制御装置200は、第1MG61に要求される第1ピストン部材24を回転駆動させるための駆動トルクに基づいて、第1ピストン部材24の回転の異常を検出してもよい。第1MG61への負荷を認識して異常判定を行なうことで、異常発生時に第1MG61の負荷を確実に低減して第1MG61の発熱量増大を抑制することができる。
図10に示されるように、制御装置200は、第1ピストン部材24の位相の目標値と実際の位相との差に基づいて、第1ピストン部材24の回転の異常を検出してもよい。第1ピストン部材24が動いていないことを認識して異常判定を行なうことで、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突を確実に回避することができる。
図7に示されるように、制御装置200は、第2ピストン部材28が停止するまで、第2MG62において発生する回生トルクを増大させたまま保つ。第2ピストン部材28の回転に対する負荷を増大させたまま保つことにより、第2ピストン部材28を確実に停止させることができ、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突を確実に回避することができる。
図7,11に示されるように、制御装置200は、第2ピストン部材28が停止すると、第2MG62への要求トルクをゼロにして、第2ピストン部材28の回転に対する負荷をゼロにする。これにより、第2MG62への負荷を小さくすることができる。
[第二実施形態]
図12は、第二実施形態における、第2ピストン部材28の位置を調整する処理を示すフローチャートである。第一実施形態と同様、以下、第1ピストン部材24および第1MG61を制御対象とする処理を例として説明するが、第2ピストン部材28および第2MG62においても、第1ピストン部材24および第1MG61と同様の処理が行なわれることは勿論である。
図12に示されるように、まずステップS101において、目標の位相曲線を確認する。次にステップS102において、トルク制御を実施する。これらのステップS101,S102における処理は、第一実施形態で説明したステップS3,S4における処理と同じであるので、説明を省略する。
次にステップS103において、第1ピストン部材24の位相を確認する。制御装置200は、第1レゾルバ101を用いて、第1MG61の回転位置を示す回転角度CA1を取得する。制御装置200は、回転角度CA1により、第1ピストン部材24の瞬時の位相を確認する。制御装置200は、第2レゾルバ102を用いて、第2MG62の回転位置を示す回転角度CA2を取得する。制御装置200は、回転角度CA2により、第2ピストン部材28の瞬時の位相を確認する。
次にステップS104において、相手側ロータへの異常接近があるか否かを判断する。制御装置200は、ステップS103で確認した第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の位相から、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位相差を算出する。制御装置200は、算出した位相差に基づいて、第1ピストン部材24が、相手側ロータ、すなわち第2ピストン部材28に異常に接近していないかを判断する。異常接近が発生しているか否かを判断するための位相差の閾値は、予め設定されている。制御装置200は、この閾値と算出された位相差とを比較して、異常接近があるか否かを判断する。
上記の位相差の閾値は、第1ピストン部材24の位相に対応して変動するものであってもよい。図4に示されるように、燃焼室A内で燃料が燃焼する直前には混合気を圧縮するために燃焼室Aの容積は減少しており、したがって、通常の動作として、第2ピストン部材28に第1ピストン部材24が接近して位相差が小さくなることが起こり得る。他方、図5に示されるように、燃焼室Aが膨張・排気行程にあるときには、第2ピストン部材28から第1ピストン部材24が離れており位相差は比較的大きいのが通常の動作である。したがって、燃焼室A内で燃料が燃焼する直前においては位相差の閾値を比較的小さくし、燃焼室Aが膨張・排気行程にあるときには位相差の閾値を比較的大きくするように、閾値を変動させてもよい。
相手側ロータへの異常接近がないと判断された場合(ステップS104においてNO)、制御フローはそのままリターンされ、ステップS101の目標の位相曲線を確認する処理に戻る。
相手側ロータへの異常接近があると判断された場合(ステップS104においてYES)、ステップS105に進み、ロータ停止制御が行なわれる。具体的には、第1ピストン部材24を停止させるために、第1ピストン部材24の回生トルクを増大して、第1ピストン部材24の回転に対する負荷を増大する制御が実行される。以下のステップS106~S111における処理は、第一実施形態で説明したステップS22~S27における処理と同じであるので、説明を省略する。
このように、第二実施形態におけるエンジン装置1では、図12に示されるように、制御装置200は、第2ピストン部材28への第1ピストン部材24の異常接近が検出された場合、第1MG61において発生する回生トルクを増大する。ピストン部材の異常接近が発生したときに第1ピストン部材24を停止させる制御を実行することで、第2ピストン部材28への第1ピストン部材24の衝突を回避することができる。したがって、エンジン2の運転を安定して継続することができる。
これまでの実施形態においては、第1MG61において発生する回生トルクを増大することにより第1ピストン部材24の回転に対する負荷を増大し、第2MG62において発生する回生トルクを増大することにより第2ピストン部材28の回転に対する負荷を増大する例について説明した。第1ピストン部材24の回転に対する負荷の増大は、第1MG61の回生トルクを増大させる代わりに、第1ピストン部材24にブレーキをかけることにより、実現されてもよい。
また、実施形態においては、第1ピストン部材24に第1MG61が接続され、第2ピストン部材28に第2MG62が接続される例について説明した。複数のピストン部材がそれぞれ別の回転電機に接続される構成に替えて、エンジン装置1が複数のピストン部材のいずれか1つに選択的に接続される1つの回転電機を備える構成としてもよい。たとえば、クラッチを使用することにより、回転電機と第1ピストン部材24とが接続されるときと、回転電機と第2ピストン部材28とが接続されるときとを切り換える構成としてもよい。
以上のように実施形態について説明を行なったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。