JP7178122B2 - 植物細胞の核内へのタンパク質導入法 - Google Patents

植物細胞の核内へのタンパク質導入法 Download PDF

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Description

本発明は、植物細胞の核内へのタンパク質導入方法、および該方法を用いたゲノム改変方法等に関する。
ゲノムDNAは生命の設計図とも呼ばれ、ゲノムDNA配列を改変することによって、様々な生物を育種する手法が知られている。古典的な手法として、ファージ由来のCreリコンビナーゼという組換え酵素を用いたゲノム改変方法が知られている。Creリコンビナーゼを一過的に発現させることにより、2つの異なるDNA配列上に位置するloxP配列を認識して、配列を組換えることが可能である。Cre/loxPシステムは、ハエ、マウス、ヒト細胞等の様々な生物種において利用されており、ゲノム配列上に挿入された遺伝子発現の調節等に利用されている。植物においても遺伝子発現解析の分野において利用されているが、植物においては遺伝子を一過的に発現させることが難しいため、Creの報告例は限定的であった(非特許文献1等)。また、近年報告されているゲノム編集酵素(ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9)においても、一過的な導入によるゲノム改変方法が報告されており(非特許文献2等)、植物の遺伝子解析や育種分野において、このような材料を導入する手法が重要であると考えられている。また、ゲノム編集技術においては、発現ベクターの導入により人工ヌクレアーゼを長期間発現させることによる副作用が問題視されており、一定期間後に人工ヌクレアーゼの発現を停止させることが望ましい。
植物における物質(特にタンパク質)の導入法としては、いくつかの手法が開発されている。1つ目は、生物学的な手法として、アグロバクテリウム(ライゾビウム属)を用いた導入法であり、最も広く活用されている。アグロバクテリウムが植物に感染し、アグロバクテリウム内に存在するTiプラスミドを植物ゲノムに組込むという性質を利用して、Tiプラスミドを遺伝子工学的に改変することによって、改変遺伝子を植物内に導入しようとするものである。特定のアグロバクテリウムと植物種の組み合わせによっては、効率よく導入できる。2つ目の手法としては、物理的な導入方法が挙げられ、遺伝子を付着させた微粒子を高速で打ち込むパーティクルボンバートメント法やガラス繊維を擦り付けることによって導入するウィスカー法が報告されている。3つ目の手法としては、セルラーゼやペクチナーゼ等の酵素を用いて植物細胞壁を除去したプロトプラストを作成し、PEGを用いて細胞膜融合を誘導するプロトプラスト-PEG法である。また、4つ目の手法として、導入するタンパク質にCPP等のタグをつけて植物個体へ導入した事例が報告されている(非特許文献3等)。
動物細胞においては、ゲノム改変技術の応用を見据えて、タンパク質酵素を一過的に導入する手法が開発されてきた。報告例としてはそれほど多くはないものの、Creタンパク質等のゲノム改変酵素、あるいはZFNタンパク質、TALENタンパク質、Cas9タンパク質等のゲノム編集酵素を核内に導入する手法が報告されている(非特許文献4等)。
Gilbertson L. Trends Biotechnol. 21, 550-555 (2003) Gaj T. et al., Trends Biotechnol. 31, 397-405 (2013) Chang M. et al., Plant Cell Physiol. 46(3), 482-488 (2005) Liu J. et al., Nat. Protoc. 10, 1842-1859 (2015)
しかしながら、植物細胞では細胞壁があるため、植物における物質導入法は、動物細胞における物質導入法と異なり、いくつかの手法に限られてきた。
上記の植物における物質導入法は、いずれにおいても欠点が存在する。例えば、アグロバクテリウムによる手法では、植物種によっては導入効率の高い菌株が存在しない。また、パーティクルボンバートメント法では、機器コスト及びランニングコストが高い。これら方法においては、目的とするタンパク質のみを植物に導入することは報告されていない。また、プロトプラスト-PEG法では、植物細胞壁を除去したことにより、植物体へ再生できる効率が極めて低い。さらに、CPP等のタグをつけて植物個体へ導入する方法では、CPPを蛍光蛋白質や薬剤耐性タンパク質などのマーカータンパク質との融合した場合、当該融合タンパク質の一部が細胞間隙等に移行することにより、植物細胞内(細胞質ゾル内および核内)に導入されていなくとも、当該マーカータンパク質の活性が検出されてしまうことがあるという欠点があった。
植物における物質導入において、約30年も昔の技術であるアグロバクテリウムを用いる手法が未だに広く用いられているのが現状である。このような状況下において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入できることを証明した事例はない。したがって、本発明が解決すべき課題は、細胞壁を有する植物細胞の核内に目的のタンパク質を効率よく導入でき、かつ、目的のタンパク質が導入された植物細胞が植物体に再生することが可能な手法を開発することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エレクトロポレーション(Electroporation)およびプロテイントランスダクション(Protein transduction)(直接導入)という2つのアプローチを用いることにより、細胞壁を有する植物細胞の核内に目的のタンパク質を効率よく導入でき、かつ、目的のタンパク質が導入された植物細胞が植物体に再生することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明は下記のものを提供する:
(1)エレクトロポレーションを用いることを特徴とする、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入する方法。
(2)下記の条件下:
ポアリング電圧が約120V/cm~約1200V/cm、
ポアリング時間が約1ms~約100ms、
バッファーの導電率が約0.1S/m~約4.0S/m、
バッファーの浸透圧が約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.1μM~約100μM
においてエレクトロポレーションが行われる、(1)記載の方法。
(3)ポアリング電圧が約300V/cm~約750V/cm、
ポアリング時間が約2ms~約75ms
である、(2)記載の方法。
(4)タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μMである、(2)または(3)記載の方法。
(5)バッファーとしてイーグル最小必須培地またはその改変培地を用いる、(2)~(4)のいずれか記載の方法。
(6)バッファーとしてOpti-MEM(登録商標)Iを用いる、(5)項記載の方法。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法。
(8)(1)~(6)のいずれかに記載の方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法。
(9)プロテイントランスダクションを用いることを特徴とする、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入する方法。
(10)下記の条件下:プロテイントランスダクションが、下記条件:
バッファーの浸透圧が約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.2μM~約200μM
においてプロテイントランスダクションが行われる、(9)記載の方法。
(11)タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μMである、(10)記載の方法。
(12)(9)~(11)のいずれかに記載の方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法。
(13)(9)または(11)のいずれかに記載の方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法。
本発明によれば、細胞壁を有する植物細胞の核内に、容易かつ安価にタンパク質を直接導入することができる。本発明によれば、Creタンパク質等のゲノム改変酵素をタンパク質として細胞壁を有する植物細胞の核内に導入することにより、ゲノム改変を行うことができる。このようなゲノム改変方法を用いて、Creタンパク質を植物細胞に導入することにより、loxP間に位置する人工ヌクレアーゼ及び/又は薬剤耐性遺伝子を除去することも可能である。さらに本発明によれば、ZFNタンパク質、TALENタンパク質、Cas9タンパク質等のゲノム編集酵素をタンパク質として細胞壁を有する植物細胞の核内に導入することにより、ゲノム編集を行うことができる。このようなタンパク質を細胞に導入するゲノム編集方法においては、遺伝子を細胞に導入するゲノム編集方法と異なり、人工ヌクレアーゼを長期間発現させることや、遺伝子のゲノムへの組み込みによる副作用の問題がない。
図1は、タンパク質の細胞核内への導入を確認するためのレポーター遺伝子の模式図である。 図2は、エレクトロポレーション法によるタンパク質の導入に及ぼすバッファーの影響(GUS染色)(図2a)およびバッファーによる細胞毒性の違い(図2b)を示す。 図3は、エレクトロポレーション法によるタンパク質の導入に及ぼすポアリング電圧(図3a)、ポアリング時間(図3b)、およびパルス回数(図3c)の影響を示す。パルス電圧は、間隔を4mmの電極に印加した電圧である。 図4は、タンパク質の濃度と導入効率の関係を、GUS染色(図4左側の上下図)およびGUS活性(図4右側の図)にて示す。 図5は、エレクトロポレーション法を用いた場合のCreリコンビナーゼの相同組換え効率を測定するためのレポーター遺伝子の模式図(図5a)および相同組換え産物の検出(図5b)を示す。白抜き三角形はCre導入前(組換え前)のバンドを示し、黒三角形はCre導入後(組換え後)のバンドを示す。 図6は、エレクトロポレーション法を用いた場合のゲノム編集を確認するためのスキーム(図6a)および欠失の確認(図6b)を示す。白抜き三角形はガイドRNAおよびCas9タンパク質の導入前(ゲノム編集)のバンドを示し、黒三角形はガイドRNAおよびCas9タンパク質の導入後(ゲノム編集)のバンドを示す。 図7は、直接導入(プロテイントランスダクション法)によるタンパク質の核内への導入に及ぼすタンパク質濃度およびタンパク質を作用させる時間の影響を調べた結果を示す。 図8は、本発明の方法と従来法によるタンパク質の核内導入を比較した結果を示す。図中、DIVEはプロテイントランスダクションを、Elec.はエレクトロポレーションを、Agrobacterium infectionはアグロバクテリウムによる感染(2日後および5日後)を示す。B1はOpti-MEM培地中で、B2はNT-1培地中でタンパク質の導入を行ったことを示す。GVはアグロバクテリウムGV3101株を、LBAはアグロバクテリウムLBA4404株を用いて感染させたことを示す。白抜き三角形はCre導入前(組換え前)のバンドを示し、黒三角形はCre導入後(組換え後)のバンドを示す。 エレクトロポレーション法により植物細胞に導入したZF-ND1およびZF-FokIのヌクレアーゼ活性をSSAレポーターアッセイにより検出した結果を示す。 プロテイントランスダクション法により植物細胞に導入したZF-ND1およびZF-FokIのヌクレアーゼ活性をSSAレポーターアッセイにより検出した結果を示す。 プロテイントランスダクション法により植物個体に導入したCreタンパク質のリコンビナーゼ活性をGUS染色により検出した結果を示す。
本発明は、1の態様において、エレクトロポレーションを用いることを特徴とする、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入する方法を提供する。
植物細胞の細胞壁は公知である。その主骨格はセルロース微線維である。本発明において、細胞壁を有する植物細胞は、その全体が細胞壁で覆われた植物細胞であり、細胞壁をその一部に有する植物細胞は除外される。本発明のこの態様において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質がエレクトロポレーション法によって導入される。
導入されるタンパク質はいずれのタンパク質であってもよい。タンパク質の種類やサイズ等に制限はない。
エレクトロポレーションは、電気パルスで細胞膜に孔をあけ物質を導入するという公知の手法である。今回、本発明者らによって、特定の定条件下でエレクトロポレーションを行うことにより、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入できることが初めて明らかにされた。
様々なエレクトロポレーション用の装置が知られ、市販されている。当業者は、これらの装置から適切なものを選択し、本発明に使用することができる。当業者は、エレクトロポレーション用の装置を自作することもできる。
本発明におけるエレクトロポレーションの条件について以下に説明する。ポアリング電圧が低いと穿孔が不十分となり、タンパク質の導入効率が低下する。ポアリング電圧が高いと細胞に対するダメージが大きくなる。本発明において、ポアリング電圧は、植物の種類やバッファーなどの条件にもよるが、通常は約120V/cm~約1200V/cm、好ましくは約300V/cm~約750V/cm、より好ましくは約400V/cm~約650V/cmである。
ポアリング時間が短いと穿孔が不十分となり、タンパク質の導入効率が低下する。ポアリング時間が長いと細胞に対するダメージが大きくなる。本発明において、ポアリング時間は、植物の種類やバッファーなどの条件にもよるが、通常は、約1ms~約100ms、好ましくは約2ms~約75ms、より好ましくは約10ms~約50msである。
一般に、ポアリング電圧が高い場合にはポアリング時間を短くし、ポアリング電圧が低い場合にはポアリング時間を長くすることで、タンパク質の導入効率を上げることができる。当業者は、簡単な試験により適切なポアリング電圧およびポアリング時間を決定することができる。
ポアリングパルスは1回であってもよく、複数回であってもよい。好ましくは、電気パスルを2~9回またはそれ以上かける。
所望により、上記ポアリングパルスを植物細胞に印加したのち、トランスファーパルスを印加してもよい。トランスファーパルスの電圧は、通常、約20V/cm~約100V/cm、好ましくは約30V/cm~約70V/cm程度である。トランスファーパルスのパルス幅は、通常約1ms~約100ms、好ましくは約20ms~約80msである。トランスファーパルスのパルス間隔は、通常約1ms~約100ms、好ましくは約20ms~約80msである。パルス回数は通常1~30回、好ましくは10~30回である。これらのトランスファーパルスの条件は、細胞の種類、バッファーの種類、エレクトロポレーション装置などの条件に応じて、当業者が適宜選択、変更することができる。
エレクトロポレーションのための電気パルスの形状は特に限定されないが、エクスポネンシャルパルスおよびスクエアパルスが例示される。ポアリング時間は、エクスポネンシャルパルスの場合は、電圧が設定電圧(初期電圧)の37%にまで減少するのに要する時間であり、スクエアパルスの場合は設定パルス長がポアリング時間である。
本発明のエレクトロポレーションに使用するバッファーについては特に制限はなく、様々な種類のバッファーを使用することができる。バッファーの例としては、塩類を含む水溶液、例えばPBS(phosphate buffered saline)など、糖類を含む水溶液、細胞培養用培地などが挙げられるが、これらに限定されない。市販のエレクトロポレーション用のバッファーを用いてもよい。本発明のバッファーとして、好ましくはPBS、より好ましくはイーグル最小必須培地またはその改変培地、さらに好ましくはOpti-MEM(登録商標)Iが挙げられるが、これらに限定されない。Opti-MEM(登録商標)I等の培地は、無機塩類だけでなく、アミノ酸やビタミンといった細胞内に存在する数多くの有機物を含有しており、これらの成分が細胞毒性の低減およびエレクトロポレーション効率の向上に寄与すると考えられる。
バッファーの導電率および浸透圧は、エレクトロポレーションによる細胞への物質導入効率に影響する。本発明のエレクトロポレーションにおいて、バッファーの導電率は、細胞の種類やバッファーの組成などの条件にもよるが、通常は、約0.1S/m~約4.0S/m、好ましくは約0.3S/m~約3.0S/m、より好ましくは約0.6S/m~約2.0S/mである。また本発明において、バッファーの浸透圧は、細胞の種類やバッファーの組成などの条件にもよるが、通常は、約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、好ましくは約100mOsm/kg~約500mOsm/kg、より好ましくは約250mOsm/kg~約350mOsm/kgである。バッファーの導電率は、バッファー中の電解質の濃度を変化させることによって調節することができる。例えば、必要に応じて細胞培養用培地を希釈または濃縮することによって、バッファーの導電率を調節することができる。バッファーの浸透圧は、バッファー中の塩類や糖類の濃度を変化させることによって調節することができる。これらの手法は公知である。
バッファー中の細胞に導入されるタンパク質の濃度は、通常は、約0.01μM~約100μM、好ましくは約0.1μM~約100μM、より好ましくは約0.5μM~約100μMである。タンパク質の濃度は100μM以上であってもよい。タンパク質の濃度が高いほど、核内に導入されるタンパク質は増加するが、タンパク質の種類や溶解度、タンパク溶液の粘性などを考慮する必要がある。当業者は、使用するタンパク質、植物細胞、バッファー等に応じて適切なタンパク質濃度を選択することができる。
したがって、本発明の上記態様の1つの具体例において、
ポアリング電圧が約120V/cm~約1200V/cm、
ポアリング時間が約1ms~約100ms、
バッファーの導電率が約0.1S/m~約4.0S/m、
バッファーの浸透圧が約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.1μM~約100μM
においてエレクトロポレーションが行われる。かかる条件下において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を効率良く導入することができる。
本発明の上記態様の好ましい具体例において、下記の条件下:
ポアリング電圧が約300V/cm~約750V/cm、
ポアリング時間が約2ms~約75ms、
バッファーの導電率が約0.3S/m~約3.0S/m、
バッファーの浸透圧が約100mOsm/kg~約500mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μM
においてエレクトロポレーションが行われる。
エレクトロポレーションによる細胞への物質導入効率において、ポアリング電圧とポアリング時間は相関があり、両者の積は、約2500ms・V~約25000ms・Vであることが好ましい。
本発明の上記態様の特に好ましい具体例において、下記の条件下:
ポアリング電圧とポアリング時間の積が約2500ms・V~約25000ms・V、
バッファーの導電率が約0.6S/m~約2.0S/m、
バッファーの浸透圧が約250mOsm/kg~約350mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約1μM~約100μM
においてエレクトロポレーションが行われる。
かかる条件下において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質をさらに効率良く導入することができる。
本発明のエレクトロポレーションを用いる上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変用酵素を導入してもよい。したがって、本発明のさらなる態様において、上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法が提供される。例えば、上記方法を用いて、Creタンパク質等のゲノム改変酵素をタンパク質として細胞壁を有する植物細胞の核内に導入することにより、ゲノム改変を行うことができる。このようなゲノム改変方法を用いて、Creタンパク質を植物細胞に導入することにより、loxP間に位置する部位を除去してもよい。
本発明のエレクトロポレーションを用いる上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集用酵素を導入してもよい。したがって、本発明のさらなる態様において、上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法が提供される。ゲノム編集は、部位特異的なヌクレアーゼを利用して、所望の標的遺伝子を改変する技術である。ゲノム編集用酵素(ヌクレアーゼ)としては、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9などが多く使用されている。本発明によれば、ゲノム編集用酵素をタンパク質として植物細胞の核内に導入できるので、人工ヌクレアーゼを長期間発現させることによる副作用の問題がない。
本発明は、もう1つの態様において、プロテイントランスダクションを用いることを特徴とする、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入する方法を提供する。
プロテイントランスダクションは、特殊な装置や試薬を用いることなく、自発的にタンパク質が細胞内に取り込まれる現象を利用したものである。プロテイントランスダクションは、哺乳動物細胞ではいくつかの報告例が存在する。今回、本発明者らによって、特定の定条件下でプロテイントランスダクションを行うことにより、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を導入できることが初めて明らかにされた。
本発明において、プロテイントランスダクションによる細胞壁を有する植物細胞核内へのタンパク質の導入は、細胞を含むバッファーに導入すべきタンパク質を添加してから一定時間後に、細胞を取り出して培養することにより行うことができる。例えば、植物細胞の培養物に一定濃度のタンパク質を添加し、一定時間静置後に細胞を洗浄し、再び培養することにより、タンパク質の導入を行うことができる。
本発明のこの態様の方法により導入されるタンパク質はいずれのタンパク質であってもよい。タンパク質の種類やサイズ等に制限はない。
本発明におけるプロテイントランスダクションの条件について以下に説明する。プロテイントランスダクションに使用するバッファーについては特に制限はなく、様々な種類のバッファーを使用することができる。バッファーの例としては、塩類を含む水溶液、例えばPBS(phosphate buffered saline)など、糖類を含む水溶液、細胞培養用培地などが挙げられるが、これらに限定されない。
バッファーの浸透圧はプロテイントランスダクションによる細胞への物質導入効率に影響する。本発明のプロテイントランスダクションにおいて、バッファーの浸透圧は、細胞の種類やバッファーの組成などの条件にもよるが通常は、約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、好ましくは約100mOsm/kg~約600mOsm/kg、より好ましくは約150mOsm/kg~約400mOsm/kgである。バッファーの導電率は、バッファー中の電解質の濃度を変化させることによって調節することができる。例えば、必要に応じて細胞培養用培地を希釈または濃縮することによって、バッファーの導電率を調節することができる。バッファーの浸透圧は、バッファー中の塩類や糖類の濃度を変化させることによって調節することができる。これらの手法は公知である。
本発明のプロテイントランスダクションにおいて、タンパク質の濃度は、通常、約0.1μM~約500μM、好ましくは約0.2μM~約200μM、より好ましくは約0.5μM~約100μMである。タンパク質の濃度が高いほど、核内に導入されるタンパク質は増加するが、タンパク質の種類や溶解度、タンパク質を溶解したバッファーの浸透圧や粘性などを考慮する必要がある。当業者は、使用するタンパク質、植物細胞、バッファー等に応じて適切なタンパク質濃度を選択することができる。
したがって、本発明の上記態様の1つの具体例において、下記の条件下:
バッファーの浸透圧が約50mOsm/kg~約1000mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.2μM~約200μM
においてプロテイントランスダクションが行われる。かかる条件下において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を効率良く導入することができる。
本発明の上記態様の好ましい具体例において、下記の条件下:
バッファーの浸透圧が約100mOsm/kg~約600mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.2μM~約200μM
においてプロテイントランスダクションが行われる。
本発明の上記態様の特に好ましい具体例において、下記の条件下:
バッファーの浸透圧が約150mOsm/kg~約400mOsm/kg、および
タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μM
においてプロテイントランスダクションが行われる。
かかる条件下において、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質をさらに効率良く導入することができる。
本発明のプロテイントランスダクションを用いる上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変用酵素を導入してもよい。したがって、本発明のさらなる態様において、上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法が提供される。例えば、上記方法を用いて、Creタンパク質等のゲノム改変酵素をタンパク質として細胞壁を有する植物細胞の核内に導入することにより、ゲノム改変を行うことができる。このようなゲノム改変方法を用いて、Creタンパク質を植物細胞に導入することにより、loxP間に位置する部位を除去してもよい。
本発明のプロテイントランスダクションを用いる上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集用酵素を導入してもよい。したがって、本発明のさらなる態様において、上記方法を用いて、細胞壁を有する植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法が提供される。ゲノム編集は、部位特異的なヌクレアーゼを利用して、所望の標的遺伝子を改変する技術である。ゲノム編集用酵素(ヌクレアーゼ)としては、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9などが多く使用されている。本発明によれば、ゲノム編集用酵素をタンパク質として直接植物細胞の核内に導入できるので、人工ヌクレアーゼを長期間発現させることによる副作用の問題がない。
本発明における細胞壁を有する植物細胞の核内へのタンパク質導入を調べるために、本発明者らは、酵素活性を有するタンパク質を植物細胞に導入し、核内でのみ発揮する酵素活性を観測する手法を開発した。具体的には、酵素タンパク質としてCreリコンビナーゼを選択し、核内でのみ発揮する酵素活性としてDNA組換え反応を利用することとした。植物の核ゲノムDNA中にloxP配列を2ヶ所挿入し、Creリコンビナーゼによって組換え反応が生じると、レポーター遺伝子が発現する植物細胞株を樹立した。この細胞株を用いて、タンパク質を種々の方法で導入した場合に、レポーター遺伝子の発現量により、その導入効率を検証した。上記手法ではCreリコンビナーゼを用いて検証したが、このタンパク質に限定するものではなく、例えばゲノム編集酵素などを用いてもよい。
核内へのタンパク質導入を証明する手法としては、(1)蛍光ラベルしたタンパク質を植物細胞に何らかの手法で導入し、その蛍光を顕微鏡等で観測する手法、および(2)酵素活性を有するタンパク質を植物細胞に何らかの手法で導入し、その酵素活性を直接観測する手法も考えられる。しかし、いずれも不十分と考えられる。上記(1)の手法が不十分である理由は、(i)植物細胞内には葉緑体などのオルガネラや蛍光性の生体分子が存在しているため、バックグラウンドの蛍光と区別することが困難であるため、および(ii)植物細胞内にはプロテアーゼが存在することから、目的タンパク質と蛍光ラベルとが切り離された結果、蛍光シグナルが必ずしも目的タンパク質の局在を示しているわけではないためである。上記(2)の手法が不十分である理由は、植物細胞には種々のオルガネラ、細胞膜もしくは細胞の間隙が存在するので、導入された酵素タンパク質がこうした核内以外の場所でも酵素反応を発揮する場合、核内での導入を立証できないためである。本発明者らが開発した上記手法には、手法(1)、(2)にあるような欠点がない。
したがって、本発明は、さらなる態様において、核ゲノムDNA中に、外部から導入されたタンパク質と特異的に反応する部位を有する植物細胞株を用いて、該タンパク質の核内への導入を調べる方法を提供する。上記特異的反応が生じた場合に特定のタンパク質が発現し、該発現を外部から検出できるような機構を核ゲノムDNA中に設けておいてもよい。上記方法において、外部から導入されるタンパク質の例として、Creリコンビナーゼなどのゲノム改変酵素、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9などのゲノム編集酵素などが挙げられるが、これらに限定されない。外部から導入されるタンパク質は融合タンパク質であってもよく、例えばCreリコンビナーゼなどのゲノム改変酵素と別のタンパク質との融合タンパク質、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9などのゲノム編集酵素と別のタンパク質との融合タンパク質などであってもよい。
上記態様の1具体例として、Creリコンビナーゼと被験タンパク質との融合タンパク質を上記植物細胞株に導入し、レポーター遺伝子の発現を調べることを特徴とする、細胞壁を有する植物細胞の核内への被験タンパク質の導入を調べる方法がある。
また、上記方法に使用する植物細胞株も本発明により提供される。その1具体例として、核ゲノムDNA中にloxP配列が挿入されており、Creリコンビナーゼによって核内で組換え反応が生じた場合にレポーター遺伝子が発現する、細胞壁を有する植物細胞株がある。
本明細書中の用語は、特に断らない限り、生化学、生物学、植物学等の分野において通常に理解されている意味に解される。以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
[実施例1]
A.実験方法および材料
(1)Creタンパク質の調製
実験に使用した試薬は特に記載のない限り、富士フィルム和光純薬(日本、大阪)から購入した。エレクトロポレーションに用いるCreタンパク質は、6アミノ酸長のヒスチジンタグ及びシミアンウイルス40由来の核局在化シグナルをN末端に付加したCre遺伝子をコードするプラスミドpET-HNCreを大腸菌BL21(DE3)株に形質転換し、発現させることで作製した。以下に大腸菌を用いた発現、及びタンパク質精製の詳細な手順を示す。形質転換した大腸菌を37℃で3時間振盪培養した後、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mMになるように添加し、タンパク質の発現を誘導した。さらに2.5時間振盪培養した後、大腸菌を溶解緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、10mM イミダゾール、1mM フッ化ベンジルスルホニル、1mM ジチオスレイトール、pH8.0)を用いて溶解した。続いてニッケルNTAカラムにCreタンパク質を吸着させ、洗浄緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、20mM イミダゾール、pH8.0)を用いて夾雑物を除いた。Creタンパク質の溶出は溶出緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、500mM イミダゾール、pH8.0)を用いて行った。溶出したCreタンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーHiPrep 16/60 Sephacryl S-200 HR(GE healthcare、アメリカ合衆国、イリノイ)及び緩衝液A(20mM HEPES、150mM NaCl、10% グリセロール、1mM ジチオスレイトール、pH7.4)を用いて精製し、液体窒素を用いて瞬時に凍結した後、-80℃で保存した。エレクトロポレーションに使用する際にはHBS(20mM HEPES、150mM NaCl、5mM KCl、25mM グルコース)を用いて透析した。
(2)プラスミドの作製
pRI201(タカラバイオ、日本、滋賀)からプライマー(ACGGCCAGTGCCAAGCTTGATCATGAGCGGAGAATTAAG(配列番号:1)及びTCTGCGAAAGCTCGACCTAGGAAACGATCCAGATCCGGTGCA(配列番号:2))、ならびにPCR法を用いてNOSプロモーターを増幅し、生成されたDNA断片を、HindIII及びXhoIで部分的に切断処理したpCambia-1305.2(Marker Gene Technologies、アメリカ、オレゴン)にInFusion(タカラバイオ)を用いてクローニングし、pCambiaN-GUSとした。さらにpcDNAFRTxE2CxmEmをテンプレートとし、プライマー(GGACTCTTGACCATGTAATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATGTTAACTACATCACAATCACACAAAAC(配列番号:3)及びTTAGTAGTAGCCATGGTCTAGATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATGGGCCCCTTATCTTTAATCATATTCCA(配列番号:4))を用いてPCR法で2つのloxP配列に挟まれたGFP断片を増幅し、NcoIで切断処理をしたpCambiaN-GUSにInFusion(タカラバイオ)を用いてクローニングし、pCambiaN-xGxGUSとした。
(3)細胞培養
理研バイオリソースセンター(日本、茨城)より譲渡されたArabidopsis thaliana T87細胞株をNT1培地(30g/L sucrose、0.1mM KHPO、1x Murashige Skoog Salt Mixture and Vitamins、2μM 2,4-dichlorophenoxyacetic acid、KOHを用いてpH5.8に調整済)を用いて22℃及び光照射下で振盪培養した。細胞を維持するために、1週間に1度15倍希釈で継代を行った。Agrobacterium tumefaciens(Rhizobium radiobacter)GV3101株は50μg/mL リファンピシン及び30μg/mL ゲンタマイシンを添加したLB培地(Merck、ドイツ、ダルムシュタット)を用いて28℃で振盪培養した。形質転換は50μg/mL リファンピシン、30μg/mL ゲンタマイシン及び50μg/mL カナマイシンを含むLB培地(Merck)中でT-DNAをエレクトロポレーションすることで作製した。T87細胞に対する感染実験には、形質転換したGV3101細胞を50μg/mL リファンピシン、30μg/mL ゲンタマイシン及び50μg/mL カナマイシンを含むLB培地(Merck)中で一晩振盪培養し、B5培地(30g/L スクロース、0.5g/L MES、1x Gamborg’s B5 Salt Mixture and Vitamins、1μM 1-ナフタレン酢酸)で3回洗浄し、OD600値が0.6になるようにB5培地で懸濁したものを用いた。
(4)Agrobacteriumを用いたT87細胞の形質転換
形質転換を行う2日前からT87細胞をB5培地で振盪培養した。充填細胞容積30μLのT87細胞に対して、OD600値0.6のGV3101形質転換体の懸濁液を終濃度200μMのアセトシリンゴンとともに感染させた。2日間振盪培養した後、GV3101を除去するためにT87細胞を200μg/mL セフォタキシムを含むB5培地で3回洗浄し、同培地中で3日間振盪培養を続けた。
(5)T87レポーター細胞の構築
上述の方法で形質転換を行った後、T87細胞を終濃度200μg/mLのセフォタキシム及び20μg/mLのハイグロマイシンを含むCIM寒天培地(0.6% 寒天、30g/L スクロース、0.5g/L MES、1x Gamborg’s B5 Salt Mixture and Vitamins、1μM 1-ナフタレン酢酸、KOHを用いてpHを5.7に調整済)に播種し、2週間培養した。強い緑色蛍光を示す単一コロニーを選択し、終濃度10μg/mLのハイグロマイシンを含むNT1培地に移し、T87細胞と同様の条件で振盪培養した。本細胞株をT87-xGxGUS細胞と呼ぶこととした。
(6)エレクトロポレーション
1-5日前にNT1培地に継代したT87-xGxGUS細胞をエッペンチューブに回収し、エレクトロポレーション用のバッファー(Opti-MEM I(Thermo Fisher Scientific、アメリカ合衆国、マサチューセッツ)、PBS(phosphate buffered saline、Thermo Fisher Scientific)、NT1培地、またはB5培地)を用いて1回洗浄した。氷上にて充填細胞容積20μL分のT87-xGxGUS細胞を200μLの各図に示した濃度のCreタンパク質を含むエレクトロポレーション用バッファーで懸濁し、電極間隔が4mmのキュベット電極(ネッパジーン、日本、千葉)に入れた。特に記載のない限り、電圧150V(375V/cm)、パルス幅10ms、パルス間隔50msのポアーリングパルスを5回、電圧20V(50V/cm)、パルス幅50ms、パルス間隔50msのトランスファーパルスを20回の条件でエレクトロポレーションを行った。またエレクトロポレーションの装置にはNEPA21 Type II(ネッパジーン)を使用した。エレクトロポレーション後すぐに2mLのNT1培地で細胞を回収・洗浄し、再度NT1培地で懸濁して振盪培養に供した。
(7)プロトプラストの作製
T87-xGxGUS細胞を400mM マンニトールで洗浄し、プロトプラスト化酵素溶液(20mM MES、400mM マンニトール、20mM KCl、10mM CaCl、1.5%(w/v)Onozuka RS(Serva Electrophoresis、ドイツ、ハイデルベルク)、0.25%(w/v)マセロザイム R-10(ヤクルト薬品工業)NaOHを用いてpHを5.7に調整済)で懸濁した。本細胞懸濁液22℃、暗所で4時間振盪培養した後、半容量の200mM CaClを添加することで酵素反応を停止させ、プロトプラストを回収した。
(8)エバンスブルー染色
生細胞の細胞膜は透過せず、死細胞の膜のみを透過する性質を持つエバンスブルーを用いて、エレクトロポレーション1時間後に細胞毒性を評価した。細胞を水で1回洗浄した後、0.05%(w/v)のエバンスブルー染色液を用いて室温で15分間染色した。染色後水で1回以上洗浄し、50%(v/v)メタノール、1%(w/v)SDSを用いてエバンスブルーを抽出した。本抽出液の595nmにおける吸光度をNanoDrop ONE(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定することで、細胞毒性を定量した。
(9)GUS染色
GUSタンパク質の発現を可視化するために、細胞を0.5mg/mLのX-グルクロニド(X-Gluc、Carbosynth、イギリス、バークシャー)を含む染色用緩衝液(20%(w/v)メタノール、50mM NaHPO、pH 7.0)に浸漬し、37℃で30分間染色した。染色後、上清を70%(w/v)エタノールに置換することで反応を停止させ、位相差顕微鏡(Nikon、日本、東京)を用いて染色画像を取得した。
(10)蛍光基質を用いたGUS活性測定
エレクトロポレーション後2日間振盪培養した細胞をKOHでpH7.0に調整したNT1培地で1回洗浄した。充填細胞容積5μL分の細胞を終濃度10μMの6-クロロ-4-メチルウンベリフェリルβ-D-クルクロニド(CMUG、Glycosynth、イギリス、チェシャ―)を含む100μLのNT1培地(pH7.0)に懸濁し、96-well black plate(Thermo Fisher Scientific)に移した。蛍光強度は355nmの光で励起した際の460nmの蛍光をWallac 1420 ARVOsx(PerkinElmer、アメリカ合衆国、マサチューセッツ)を用いて測定した。さらにGUS活性を標準化するためにエレクトロポレーションに用いた細胞と同量の細胞におけるクロロフィル量の定量を実施した。クロロフィルは充填細胞容積5μL分の細胞を50μLのN、N-ジメチルホルムアミドに4℃及び暗条件で6時間浸漬することにより抽出した。本抽出液の646nm及び664nmにおける吸光度をNanoDrop ONE(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定し、先行研究(Porra, R. J. et al., Biochim. Biophys. Acta-Bioenerg. 975, 384-394 (1989))と同様の手法でクロロフィル量を算出した。さらに1分間当たりの蛍光強度の増加量をクロロフィルa及びbの重量(μg)で割ることで、標準GUS活性を算出した。
(11)ゲノミックPCR
エレクトロポレーション後2日間振盪培養した細胞をゲノムDNA抽出液(250mM NaOH、0.1% Tween20)に浸漬し、98℃で10分間処理することでゲノムDNAを抽出した。さらに本溶液に半量の1M Tris-HCl(pH6.5)を添加し、遠心後上清を採取し、これをゲノムDNA溶液とした。本DNAをテンプレートとし、レポーターカセットを標的とするプライマー(TCCTTCGCAAGACCCTTCCTC(配列番号:5)及びGGATGGCAAGAGCCAAATGCTTAG(配列番号:6))及びMightyAmp DNA Polymerase Ver.3(Takara Bio)を用いてPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動した。さらにゲルをGelGreen(Biotium、アメリカ合衆国、カリフォルニア)で染色した後、ChemiDoc XRS+ system(Bio-Rad、アメリカ合衆国、カリフォルニア)を用いて撮影した。Creタンパク質による相同組換え効率は下記の計算式を用いて算出した。
相同組換え効率(%)=100×(a/(a+b))
a、bはそれぞれ、相同組換えされたDNA増幅産物のバンド強度及び相同組換えされていないDNA増幅産物のバンド強度を表す。
(12)統計解析
全ての測定値は標準誤差付きの平均値を示す。
B.結果
(1)T87レポーター細胞の作製
Creリコンビナーゼが細胞内に導入されたかどうかを検証するために、レポーター細胞、T87-xGxGUS細胞を樹立した。本細胞を作製するためにプロモーター、loxP配列、GFP遺伝子、転写終結シグナル、loxP配列、GUS遺伝子を順番にコードするpCambiaN-xGxGUSを形質転換したAgrobacteriumを作製し、T87細胞に感染させることで上述のレポーターカセットをゲノムDNAに組み込んだ。Creリコンビナーゼが本細胞株の核内に導入され、2箇所のloxP配列間で相同組換えが起こると、発現するタンパク質がGFPからGUSに切り替わる(図1)。GUSの発現は青色の染色試薬であるX-Glucや蛍光基質であるCMUGを用いて容易に可視化・検出することが可能であるため、GUSタンパク質の検出によりCreリコンビナーゼの核内への導入及び相同組換え活性を評価することができる。
(2)エレクトロポレーション法を用いたT87細胞に対するCreリコンビナーゼの導入
樹立したT87-xGxGUS細胞を用いて、細胞壁を有する状態のT87細胞に対してエレクトロポレーション法によるCreリコンビナーゼの導入を試みた。エレクトロポレーションにはネッパジーン社より販売されているNEPA21 Type IIを使用した。PBSやNT1培地、B5培地やOpti-MEMIなど様々なバッファーを用いてエレクトロポレーションを行い、1時間後に細胞毒性の評価を、2日後にGUS活性の評価を行った。その結果、図2に示すように、NT1培地ないしB5培地を用いてエレクトロポレーションした場合には、ほとんどの細胞においてGUSの発現が観察されてなかった。PBSを用いてエレクトロポレーションした場合にはNT1培地やB5培地を用いた場合と比較して多くの細胞がGUSを発現していたが、非常に高い細胞毒性が観察された。一方で驚くべきことに、Opti-MEMIを用いてエレクトロポレーションした場合、細胞毒性がほとんど観察されないにも関わらず、非常に多くの細胞がGUSを発現していた。本実験から、Opti-MEMIを用いてエレクトロポレーションを行うことで、細胞壁を有するT87細胞に対するCreリコンビナーゼの導入が達成された。Opti-MEM Iは無機塩だけでなく、アミノ酸やビタミンといった細胞内に存在する数多くの有機物を含有しており、これらの成分が細胞毒性の低減及びエレクトロポレーション効率の向上に寄与していると考えられる。
なお、各培地の導電率(S/m)及び浸透圧(mOsm/kg)は、以下の通りである。
[導電率(S/m)]
Opti-MEM I:1.11
PBS:1.18
NT1:0.54
B5:0.34
[浸透圧(mOsm/kg)]
Opti-MEM I:285
PBS:281
NT1:203
B5:168
(3)ポアリングパルスの各条件がエレクトロポレーション効率に与える影響
エレクトロポレーションによる外来物質の導入効率は、ポアリングパルスの電気的条件に大きく依存することが知られている。そこでNEPA21 TypeIIを用いて、ポアリングパルスの各条件(電圧、パルス幅、パルス数)を変化させたときのエレクトロポレーション効率を評価した。なお、本実験における電圧の100Vは250V/cmに相当し、150Vは375V/cmに相当し、200Vは500V/cmに相当し、250Vは625V/cmに相当する。本実験ではCMUGを用いてGUS活性を評価することで、間接的にエレクトロポレーション効率を評価した。その結果、ポアリングパルスの電圧増加依存的に、GUS活性が増大する様子が観察された(図3a)。またパルス幅についても同様に、パルス幅の増加依存的にGUS活性が増大した(図3b)。一方でパルス数を変化させた場合には、パルス数依存的なGUS活性の変化はほとんど観察されなかった(図3c)。これらの実験結果から、細胞壁を有する植物細胞に対してタンパク質をエレクトロポレーションする場合、ポアリングパルスの電圧及びパルス幅が重要であり、電圧ないしパルス幅、もしくはその両方を増加させることでより多くのタンパク質を導入可能であることが明らかとなった。
(4)タンパク質濃度がエレクトロポレーション効率に与える影響
DNAやRNA、タンパク質のような外来性の生体材料を細胞内に導入する場合、これらの材料の濃度が非常に重要である。そこで植物細胞に対するタンパク質のエレクトロポレーション系においても、タンパク質の濃度がエレクトロポレーション効率に与える影響を評価した。Creリコンビナーゼの濃度を0.01μMから5μMまで変化させてエレクトロポレーションを行い、2日後にGUSを発現する細胞の割合を評価したところ、図4に示すようにCreリコンビナーゼの濃度依存的にGUS発現細胞が増加する様子が観察された。また蛍光測定を用いてGUS活性を評価したところ、GUS染色の結果と同様に、Creリコンビナーゼの濃度依存的にGUS活性が増大する様子が観察された(図4)。また、Creリコンビナーゼ濃度を0.2μMから0.5μMに増やした際に、顕著にGUS発現が増大した(図4)。これらの実験結果から、タンパク質の濃度は植物細胞に対するタンパク質のエレクトロポレーション系においても非常に重要な要素であり、効率的にタンパク質を導入するためにはタンパク質濃度を0.5μM以上にする必要があることが明らかとなった。また、HNCreでは核局在シグナルがCreタンパク質に融合されているが、核局在シグナルの無いHCreにおいても同様の条件下においてタンパク質が導入されていることを見出した(図4下)。したがって本手法は、植物細胞の核内にタンパク質を導入する手法として有効であることが明らかとなった。
(5)ゲノミックPCRを用いた相同組換え効率の評価
図5に示すように、レポーターカセット中の2箇所のloxP配列を含む領域をPCRで増幅することで、Creリコンビナーゼの相同組換え効率を算出した。その結果、エレクトロポレーション法を用いて5μMのCreリコンビナーゼを導入することで、全レポーターカセットのうち79.4%で相同組換えが起こっていることが明らかとなった。本実験結果から、少なくとも79.4%の細胞にCreリコンビナーゼが導入されており、本法は細胞壁を有する植物細胞に対してタンパク質を導入する上で非常に効率的な手法であることが示された。
(6)ゲノム編集の検証
さらに、Cas9タンパク質が核内に送達され、ゲノム編集できるかどうかを検証した。シロイヌナズナ内在性のADH1遺伝子に対して、2種類のガイドRNAとCas9タンパク質を混合した後、上記と同様にエレクトロポレーションした。2種類のガイドRNA及びCas9タンパク質が同時にゲノムDNAを切断すると、194bpの欠失が生じる。エレクトロポレーション後のゲノムDNAを回収して、PCRを行なったところ、期待通りの欠失が生じていることが確認された(図6)。
[実施例2]
上記の実施例では、エレクトロポレーションにより、細胞膜や細胞壁に物理的な細孔をあけることによって導入を試みた。本実施例では、特殊な装置や試薬を用いることなく、タンパク質をプロテイントランスダクションにより核内に直接導入した実験について述べる。
タンパク質を直接導入するため、細胞を含む培養培地(Opti-MEM(登録商標)I)にタンパク質を特定の濃度(0.1~10μM)で添加し、一定時間静置後に細胞を洗浄し、再び培養を開始した(2日間)。結果を図7に示す。タンパク質濃度が0.2μM以上において特に顕著なタンパク質導入が認められた。タンパク質を作用させる時間は、5分以上あれば良く、2時間程度でも問題なかった。これは、植物の核内にタンパク質を直接導入した、世界初の例である。
[実施例3]
本発明の方法(エレクトロポレーション、プロテイントランスダクション)および従来の方法(アグロバクテリウムによる感染)を比較した。エレクトロポレーションは実施例1に記載の方法に準じて行った。プロテイントランスダクションは実施例2に記載の方法に準じて行った。アグロバクテリウムによる感染は常法により行った。
結果を図8に示す。本発明の方法(エレクトロポレーション(図中、Elec.と表示)、プロテイントランスダクション(図中、DIVEと表示))では組換え後の産物が多かったが、従来の方法(アグロバクテリウムによる感染(図中、Agrobacterium infectionと表示))では組換え後の産物が少なく、陰性対照(NC)と殆ど同じレベルであった。これらの結果から、本発明の方法は、短時間で植物細胞の核内にタンパク質を効率良く導入できることがわかった。
[実施例4]
(1)ZF-ND1およびZF-FokIの発現ベクターの構築
N末端にHisタグを含むpET-MCSプラスミドのXhoIサイトおよびSalIサイトを切断し、ZF-ND1断片を挿入した。ZF-ND1断片には、各局在シグナルNLS、Zinc-Finger(以下ZFと省略)、およびヌクレアーゼドメインND1を含む。ZFとしては、2種類の配列を認識するドメインを用いた。一つはZFA36であり、12塩基対のDNA配列GAAGCTGGTを認識する。もう一つはZFL1であり、12塩基対のDNA配列CAAGGAGACを認識する。したがって、ZF(ZFA36A)-ND1、およびZF(ZFL1)-ND1を発現するプラスミドとして、pET-ZF(ZFA36A)ND1、およびpET-ZF(ZFL1)ND1をそれぞれ作成した。
上記プラスミドを基として、制限酵素FokIのヌクレアーゼドメイン(以下FokIと省略)をND1の代わりに挿入したプラスミドである、pET-ZF(ZFA36A)-FokIおよびpET-ZF(ZFL1)-FokIをそれぞれ作成した。ZF(ZFA36A)-ND1、ZF(ZFL1)-ND1、ZF(ZFA36A)-FokI、およびZF(ZFL1)-FokIのアミノ酸配列を配列番号7~10に示す。
(2)大腸菌におけるZF-ND1タンパク質の発現および精製
ZF-ND1またはZF-FokIを発現するpETプラスミド、並びにpRARE2(ストラタジーン社)を大腸菌株BL21(DE3)へ形質転換し、カナマイシンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地にて培養した。形質転換した大腸菌を37℃でOD(600nmにおける吸光度)が0.6になるまで培養した後、18℃にて1時間培養した。イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mMになるように添加し、タンパク質の発現を誘導した。さらに18℃にて17時間振盪培養した後、大腸菌を溶解緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、10mM イミダゾール、1mM フッ化ベンジルスルホニル、1mM ジチオスレイトール、pH8.0)を用いて溶解した。続いてニッケルNTAカラムにタンパク質を吸着させ、洗浄緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、20mM イミダゾール、pH8.0)を用いて夾雑物を除いた。タンパク質の溶出は溶出緩衝液(20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、500mM イミダゾール、pH8.0)を用いて行った。溶出したタンパク質の一部は、タンパク質収量の解析のために、SDSサンプルバッファーに溶解させた。溶出したタンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーHiPrep 16/60 Sephacryl S-200 HR(GE healthcare、アメリカ合衆国、イリノイ)及び緩衝液A(20mM HEPES、150mM NaCl、10% グリセロール、pH7.4)を用いて精製し、液体窒素を用いて瞬時に凍結した後、-80℃で保存した。タンパク質収量の解析のため、イミダゾール溶出したタンパク質画分および、最終精製されたタンパク質をSDSサンプルバッファーに溶解させてSDS-PAGEにより電気泳動を行なった。電気泳動の際には、既知濃度のBSAタンパク質を別レーンに泳動し、PAGE後のゲルをクマシー染色して目的のタンパク質分子量のバンドをChemiDoc XRS+により定量化し、タンパク質の分子量からタンパク質の収量を解析した。
[実施例5]
(1)レポーター細胞の構築
ZF-ND1またはZF-FokIの活性を評価するため、DNA切断後のSSA(single-strand annealing: 一本鎖アニーリング)が誘導された場合に、完全長2.1kbのGUS(β-glucuronidase: グルクロニダーゼ)遺伝子が発現するレポーター細胞を構築した。具体的には、GUS遺伝子の上流から1.8kb、ZFA36の認識配列(GAAGCTGGT)、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbをpCAMBIA1305.2(Marker Gene社)へ導入した。上記GUS遺伝子の上流から1.8kb、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbは、500bpを共通配列(オーバーラップ領域)として有する。このベクターをアグロバクテリウムを介して、シロイヌナズナT87培養細胞株(理化学研究所)へ形質転換し、樹立した細胞株をT87-GUUS(ZFA36)とした。GUSの発現は青色の染色試薬であるX-Glucを用いて容易に可視化・検出することが可能であるため、GUSタンパク質の検出によりZF-ND1またはZF-FokIの核内への導入及びSSA誘導活性を評価することができる。
(2)エレクトロポレーション法による導入
実施例4において作成したタンパク質をエレクトロポレーション法により導入した。樹立したT87-GUUS(ZFA36)細胞を用いて、細胞壁を有する状態のT87細胞に対して、エレクトロポレーション法により、最終濃度0.1-2μMのZF-ND1およびZF-FokIの導入を試みた。エレクトロポレーションにはネッパジーン社より販売されているNEPA21 Type IIを使用し、実施例1.A.(6)の条件で実施した。Opti-MEMIバッファーを用いてエレクトロポレーションを行い、2日後にGUS活性の評価を行った。その結果、図9に示すように、Opti-MEMIを用いてエレクトロポレーションした場合、非常に多くの細胞がGUSを発現していた。
(3)プロテイントランスダクション法による導入
実施例4で作成したタンパク質を用いて、プロテイントランスダクション法による導入を試みた。すなわち細胞壁を有するT87-GUUS(ZFA36)を含む培養培地(Opti-MEM(登録商標)I)に対して、最終濃度0.1-2μMのZF(ZFA36A)-ND1タンパク質もしくはZF(ZFA36A)-FokIタンパク質を添加した後、1時間後に培養培地で洗浄し、3日間の培養を行なった。タンパク質を添加時には、プロテアーゼ処理等の生化学的な処理や、エレクトロポレーション等の物理化学的な処理は、まったく行っていない。したがって、タンパク質の自発的な取り込みを期待したものである。その結果、図10に示すように、エレクトロポレーション法と比較して少ない割合ではあるが、プロテイントランスダクション法によりZF(ZFA36A)-ND1タンパク質およびZF(ZFA36A)-FokIタンパク質が取り込まれて、ゲノム編集可能であることが明らかとなった。プロテイントランスダクション法を用いた場合、ZF(ZFA36A)-ND1の活性はZF(ZFA36A)-FokIを比較して、同等もしくはそれ以上の活性であった。
[実施例6]
(1)レポーター植物個体の構築
野生型のシロイヌナズナを開花状態まで栽培し、pCambiaN-xGxGUSを保持するAgrobacterium GV3101株の培養液を用いて、フローラルディップ法により形質転換を行った。形質転換された植物体は、ハイグロマイシンを含む培地において栽培し、GFPの緑色蛍光を示す個体を選抜した。この植物個体をAt-xGxGUSと名付けた。
(2)プロテイントランスダクション法によるCreタンパク質の導入
プロテイントランスダクションは実施例2に記載の方法に準じて行った。シロイヌナズナAt-xGxGUS株の種子をMSアガロース培地(1x MS salts, 1x MSビタミン, 1% スクロース, 0.5% agar)上にて発芽させ1週間後、一部の個体に対して2μMのCreタンパク質溶液を1時間浸漬させた後、2日間培養を行い、GUS染色を行った(実験a)。さらに一部の植物については根部分を切り出して根片とし、2μMのCreタンパク質溶液を1時間浸漬させた後、CIM培地にてカルス誘導を行った(実験b)。1週間後、SIM培地上にてシュート(茎とその上部組織)を誘導した。さらに2週間後、シュート片をRIM培地に移植して根を誘導した。一部の植物組織に対しては、この時点でGUS染色を行った(実験b)。残りの植物組織に対しては、開花および結種まで栽培し、種子を取得した。この種子をB5アガロース培地上にて発芽させ1週間後、GUS染色を行った(実験c)。
(3)結果
結果を図11に示す。
実験a:植物個体に対してCreタンパク質の溶液を浸漬させたところ、植物組織の一部がGUS染色されていることが確認され、Creタンパク質が核内に導入できていることが明らかとなった。
実験b:根片に対してCreタンパク質の溶液を浸漬させ、根片をカルス化した後に植物体へと再生させた際、再生個体における葉組織においてGUS染色されていることが確認された。したがって、Creタンパク質は、再生可能な細胞の核内に導入できていることが明らかとなった。
実験c:根片に対してCreタンパク質の溶液を浸漬させ、根片をカルス化した後に植物体へと再生させ、さらに種子が得られた個体において、GUS染色されていることが確認された。したがって、Creタンパク質は、植物個体として再生可能な細胞の核内に導入できていることが明らかとなった。
本発明によれば、細胞壁を有する植物細胞の核内にタンパク質を直接導入することができる。したがって、植物の育種、品種改良、ならびに植物の遺伝学の研究等において本発明を利用することができる。
配列番号:1は、NOSプロモーター増幅用のプライマーの塩基配列である。
配列番号:2は、NOSプロモーター増幅用のプライマーの塩基配列である。
配列番号:3は、GFP断片増幅用のプライマーの塩基配列である。
配列番号:4は、GFP断片増幅用のプライマーの塩基配列である。
配列番号:5は、ゲノムDNA増幅産物を得るためのプライマーの塩基配列である。
配列番号:6は、ゲノムDNA増幅産物を得るためのプライマーの塩基配列である。
配列番号:7は、ZF(ZFA36A)-ND1のアミノ酸配列である。
配列番号:8は、ZF(ZFL1)-ND1のアミノ酸配列である。
配列番号:9は、ZF(ZFA36A)-FokIのアミノ酸配列である。
配列番号:10は、ZF(ZFL1)-FokIのアミノ酸配列である。

Claims (10)

  1. プロテイントランスダクションを用いることを特徴とする、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にタンパク質(但し、細胞膜透過性ペプチドとの融合タンパク質を除く)を導入する方法であって、
    下記の条件下:
    バッファーの浸透圧が約150~約400mOsm/kg、および
    タンパク質の濃度が約0.2μM~約200μM
    においてプロテイントランスダクションが行われる方法
  2. タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μMである、請求項記載の方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法を用いて、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法。
  4. 請求項1または2に記載の方法を用いて、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法。
  5. エレクトロポレーションを用いることを特徴とする、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にタンパク質を導入する方法であって、
    下記の条件下:
    ポアリング電圧が約400V/cm~約650V/cm、
    ポアリング時間が約10ms~約50ms、
    ボアリングパルスの回数が2回以上、
    バッファーが無機塩、アミノ酸、ビタミンを含む、
    バッファーの導電率が約0.6S/m~約2.0S/m、および
    バッファーの浸透圧が約250mOsm/kg~約350mOsm/kg
    においてエレクトロポレーションが行われる方法
  6. タンパク質の濃度が約0.5μM~約100μMである、請求項に記載の方法。
  7. バッファーとしてイーグル最小必須培地またはその改変培地を用いる、請求項5または6に記載の方法。
  8. バッファーとしてOpti-MEM(登録商標)Iを用いる、請求項7に記載の方法。
  9. 請求項のいずれか1項記載の方法を用いて、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にゲノム編集酵素を導入することを特徴とする、ゲノム編集方法。
  10. 請求項のいずれか1項記載の方法を用いて、全体が細胞壁で覆われた植物細胞の核内にゲノム改変酵素を導入することを特徴とする、ゲノム改変方法。
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