以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るエンジンの触媒異常判定装置が適用されたエンジンシステム200を示す。エンジンシステム200は、ディーゼルエンジンとしてのエンジンEと、エンジンEに吸気を供給する吸気系INと、エンジンEに燃料を供給するための燃料供給系FSと、エンジンEの排気ガスを排出するEXと、エンジンシステム200に関する各種の状態を検出するセンサ100~119とを有する。また、エンジンシステム200には、該エンジンシステム200の制御を行うPCM(Power-train Control Module)60(図2参照)と、後述する尿素インジェクタ51の制御を行うDCU(Dosing Control Unit)70とが設けられている。このエンジンシステム200は車両に設けられるエンジンシステムであり、エンジンEは該車両の駆動源として用いられる。
吸気系INは、吸気が通過する吸気通路1を有する。この吸気通路1には、上流側から順に、エアクリーナ3と、第1ターボ過給機5のコンプレッサと、第2ターボ過給機6のコンプレッサと、インタークーラ8と、スロットルバルブ7と、サージタンク12とが設けられている。また、吸気通路1には、第2ターボ過給機6のコンプレッサをバイパスする吸気バイパス通路1aと、吸気バイパス通路1aを開閉する吸気バイパスバルブ6aとが設けられている。
吸気通路1におけるエアクリーナ3の直下流側の通路には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ101及び吸気温度を検出する第1吸気温度センサ102が設けられている。吸気通路1における第1ターボ過給機5と第2ターボ過給機6との間の通路には、吸気の圧力を検出する第1吸気圧センサ103が設けられている。吸気通路1におけるインタークーラ8の直下流側の通路には、インタークーラ8を通過した吸気の温度を検出する第2吸気温度センサ106が設けられている。スロットルバルブ7には、該スロットルバルブ7の開度を検出するポジションセンサ105が設けられている。サージタンク12には、吸気マニホールドにおける吸気の圧力を検出する第2吸気圧センサ108が設けられている。
エンジンEは、吸気通路1の吸気マニホールドから供給された吸気を燃焼室17内に導入するための吸気バルブ15と、燃焼室17に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁20と、通電により発熱する発熱部を燃焼室17内に備えたブロープラグ21と、燃焼室17内での混合気の燃焼により往復運動するピストン23と、燃焼室17内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路41に排出するための排気バルブ27とを有する。ピストン23は、コンロッド24を介してクランクシャフト25と連結されている。クランクシャフト25は、ピストン23の往復運動により回転される。
エンジンEには、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ100が設けられている。PCM60(図2参照)は、クランク角センサ100からの検出信号に基づいて、エンジン回転数を取得する。
燃料系FSは、燃料を貯蔵する燃料タンク30と、燃料タンク30から燃料噴射弁20に燃料を供給するための燃料供給通路38とを有する。燃料供給通路38には、上流側から順に、低圧燃料ポンプ31と、高圧燃料ポンプ33と、コモンレール35とが設けられている。
排気系EXは、排気ガスが通路する排気通路41を有する。排気ガス通路41には、上流側から順に、第2ターボ過給機6のタービンと、第1ターボ過給機5のタービンと、NOx触媒45(吸蔵還元型NOx触媒)と、DPF(Diesel paticulate Filter)46と、DPF46の下流側の排気通路41中に尿素を噴射する尿素インジェクタ51と、尿素インジェクタ51から噴射された尿素を用いてNOxを浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒47と、SCR触媒47から排出された未反応のアンモニアを酸化させて浄化するスリップ触媒48と、が設けられている。また、排気通路41には、第2ターボ過給機6のタービンをバイパスする排気バイパス通路41aと、この排気バイパス通路41aを開閉する排気バイパスバルブ6bとが設けられている。さらに、排気通路41には、第1ターボ過給機5のタービンをバイパスするウェイストゲート通路41bと、このウェイストゲート通路41bを開閉するウェイストゲートバルブ5aとが設けられている。
NOx触媒45は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きいリーンな状態(空気過剰率λがλ>1)において排気ガス中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において還元する、NOx吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)である。また、NOx触媒45は、NSCとしての機能だけでなく、排気ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させるディーゼル触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)としての機能も有するように構成されている。詳しくは、NOx触媒45は、DOCの触媒層の表面に、NSCの触媒材がコーティングされることで形成されている。
DPF46は、排気中の粒子状物質(PM:Paticulate Matter)を捕集するフィルタである。DPF46に捕集されたPMは、高温に晒されかつ酸素の供給を受けることで燃焼し、DPF46から除去されるようになっている。
SCR触媒47は、尿素インジェクタ51から噴射された尿素から生成されたアンモニアを吸着し、この吸着したアンモニアを排気ガス中のNOxと反応(還元)させて浄化する。このことから、SCR触媒47は、供給される還元剤によりNOxを還元する選択還
元型NOx触媒に相当し、尿素インジェクタ51は、還元剤としての、アンモニアの前駆体である尿素を供給可能な還元剤供給手段に相当する。SCR触媒47は、アンモニアによってNOxを還元する触媒金属を、アンモニアをトラップするゼオライトに担持させて構成されている。
NOx触媒45とSCR触媒47とは、いずれもNOxを浄化可能な触媒であるが、NOxの浄化率(NOx吸蔵率)が高くなる温度が互いに異なっている。詳しくは、NOx触媒45のNOx浄化率は、NOx触媒45の温度が比較的低温のときに高くなる一方、SCR触媒47のNOx浄化率は、SCR触媒47の温度(以下、SCR触媒温度という)が比較的高温のときに高くなる。本実施形態では、NOx触媒45及びSCR触媒47は共に、排気ガスから熱が供給されることで暖機される。
排気通路41における第2ターボ過給機6よりも上流側の通路には、排気ガスの圧力を検出する排気圧センサ109及び排気ガスの温度を検出する第1排気温度センサ110が設けられている。排気通路41における第1ターボ過給機5の直下流側の通路には、排気ガスの酸素濃度を検出するO2センサ111が設けられている。排気通路41におけるNOx触媒45の周辺には、NOx触媒45の直上流側の通路における排気ガスの温度を検出する第2排気温度センサ112と、NOx触媒45とDPF46との間の通路における排気ガスの温度を検出する第3排気温度センサ113と、DPF46の直上流側の通路とDPF46の直下流側の通路との圧力差を検出する差圧センサ114と、DPF46の直下流側の通路における排気ガスの温度を検出する第4排気温度センサ115と、DPF46の直下流側の通路でかつ尿素インジェクタ51よりも上流側の位置におけるNOxの濃度を検出する第1NOxセンサ116と、が設けられている。また、排気通路41におけるSCR触媒47の周辺には、SCR触媒47の状態を表すパラメータであるSCR触媒温度を検出する触媒温度センサ117と、SCR触媒47の直下流側の通路におけるNOxの濃度を検出する第2NOxセンサ118と、が設けられている。さらに、排気通路41には、スリップ触媒48の直上流側の通路における排気ガス中のPMを検出するPMセンサ119が設けられている。触媒温度センサ117は、SCR触媒47の状態を検知する手段の一例である。詳しくは後述するが、少なくとも第2NOxセンサ118は、排気ガス中のNOx量だけでなく、アンモニア量に応じても出力値が変化するNOxセンサである。
本実施形態におけるエンジンシステム200は、排気ガスの一部を吸気に還流させるEGR装置43を更に有する。EGR装置43は、排気通路41における排気バイパス通路41aの上流端よりも上流側の通路と、吸気通路1におけるスロットルバルブ7とサージタンク12との間の通路とを接続するEGR通路43aと、EGR通路43aを通過する排気ガスを冷却するためのEGRクーラ43bと、EGR通路43aを開閉する第1EGRバルブ43cとを有する。また、EGR装置43は、EGRクーラ43bをバイパスするEGRクーラバイパス通路43dと、EGRクーラバイパス通路を開閉する第2EGRバルブ43eとを有する。
本実施形態のエンジンシステム200は、主として、車両に搭載されたPCM60によって制御される。PCM60は、CPU、ROM、RAM、I/Oバス等で構成されるマイクロプロセッサである。
PCM60には、各種センサ100~119の検出信号が入力される。また、PCM60には、上記車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ150、及び、上記車両の車速を検出する車速センサ151のそれぞれが出力した検出信号が入力される。PCM60は、入力された信号に基づいて、主に、スロットルバルブ7、燃料噴射弁20、グロープラグ21、第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eの作動を制御する。また、PCM60は、DCU70に出力信号を送ることで、DCU70を介して尿素インジェクタ51の作動を制御する。
尚、詳しくは後述するが、PCM60は、SCR触媒47の状態を表すパラメータであるSCR触媒47のアンモニア吸着量を推定するアンモニア吸着量推定部61と、排気通路41のSCR触媒47よりも下流側の通路における排気ガス中のアンモニア量を推定するスリップ量推定部62と、第2NOxセンサ118の出力値に基づく異常判定条件により、エンジンシステム200に異常があるか否かの異常判定をする異常判定部63と、該異常判定部63による異常判定を制限する異常判定制限部64とを備えている。アンモニア吸着量推定部61はSCR触媒47の状態を検知する手段の一例である。
〈通常の燃料噴射制御〉
PCM60は、後述するDeNOx制御を実施しない通常の燃料噴射制御では、燃焼室17内の混合気の空燃比が、理論空燃比よりもリーンな状態(λ>1)になるように、燃料噴射弁20を制御する。また、PCM60は、通常の燃料噴射制御では、DeNOx制御において実施されるポスト噴射は停止させてメイン噴射のみを実行させる。
PCM60は、通常の燃料噴射制御では、車両の運転状態に応じてメイン噴射における燃料の噴射量を設定する。具体的には、まず、PCM60は、各種センサ100~119,150,151からの入力信号を取得する。次に、PCM60は、取得された上記アクセルペダルの操作等を含む車両の運転状態に基づいて、目標加速度を設定する。次いで、PCM60は、決定された目標加速度を実現するためのエンジンEの目標トルクを決定する。そして、PCM60は、決定された目標トルクをエンジンEから出力させるべく、当該目標トルク及びエンジン回転数に基づいて、燃料噴射弁20から噴射させるべき噴射量を算出する。
また、PCM60は、通常の燃料噴射制御では、車両の運転状態に応じてメイン噴射の噴射タイミングを設定する。
その後、PCM60は、設定された噴射量及び噴射タイミングとなるように、燃料噴射弁20を制御する。
〈DeNOx制御〉
次に、NOx触媒45に吸蔵されたNOx(以下、吸蔵NOxということがある)をNOx触媒45から離脱させるDeNOx制御について説明する。
本実施形態では、PCM60は、NOx吸蔵量が第1所定吸蔵量以上であるときには(例えば、NOx吸蔵量が吸蔵限界付近にあるときには)、NOx触媒45に吸蔵されたNOxをほぼ0にまで低下させるために、DeNOx制御を実行する。また、本実施形態では、PCM60は、NOx吸蔵量が第1所定吸蔵量未満であっても、NOx吸蔵量が第1所定吸蔵量よりも少ない第2所定吸蔵量以上でありかつ車両の加速により排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するときには、DeNOx制御を実行することがある。以下の説明では、NOx吸蔵量が第1所定吸蔵量以上であるときに実行するDeNOx制御をアクティブDeNOx制御といい、NOx吸蔵量が第2所定吸蔵量以上でありかつ車両の加速により排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するときに実行するDeNOx制御をパッシブDeNOx制御という。これらを区別しないときには、単に、DeNOx制御という。
上述したように、NOx触媒45は、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において、吸蔵NOxが還元される。このため、DeNOx制御では、吸蔵NOxを還元するためには、排気ガ
スの空燃比を通常運転時よりも低下させる必要がある。そこで、本実施形態では、メイン噴射に加えてポスト噴射を実行することで、排気ガスの空燃比を低下させて吸蔵NOxを還元させる。尚、DeNOx制御時の空気過剰率λは、例えば、λ=0.94~1.06程度である。
ポスト噴射における燃料の噴射量(以下、単にポスト噴射量という)は、エンジンEの運転状態に基づいて設定される。具体的には、まず、PCM60は、少なくとも、エアフローセンサ101によって検出された吸入空気量、O2センサ111によって検出された排気ガスの酸素濃度、上記の燃料噴射制御において算出されたメイン噴射でお噴射量を取得する。さらに、PCM60は、所定のモデルなどにより求められた、EGR装置43によって吸気系INに還流される排気ガス量(EGR量)も取得する。
次に、PCM60は、取得された新気量及びEGRガス量に基づき、エンジンEに導入される空気量を算出する。そして、PCM60は、算出された空気量から、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を算出する。
次いで、PCM60は、排気ガスの空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比(以下、目標DeNOx空燃比という)にするのに必要なポスト噴射量を算出する。すなわち、PCM60は、排気ガスの空燃比を目標DeNOx空燃比にするためにメイン噴射の噴射量に加えてどれだけの量の燃料をポスト噴射で噴射すればよいかを決定する。このとき、PCM60は、O2センサ111によって検出された酸素濃度と、エンジンEに導入される空気の酸素濃度との差を考慮して、ポスト噴射量を算出する。
本実施形態では、パッシブDeNOx制御は、車両の加速により排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するときに実行されるため、排気ガスの空燃比を目標DeNOx空燃比にするために必要な燃料の噴射量は、パッシブDeNOx制御の方がアクティブDeNOx制御と比べて少なくなる。このため、パッシブDeNOx制御を出来る限り高頻度で行って、アクティブDeNOx制御の頻度を少なくすれば、DeNOx制御による燃費の悪化を抑制することができる。
ポスト噴射における燃料の噴射タイミングについては、本実施形態では、DeNOx制御の形態によって噴射タイミングが変更される。具体的には、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行するときには、ポスト噴射された燃料がエンジンEの燃焼室17内において燃焼されるタイミングに設定する。一方で、パッシブDeNOx制御を実行するときには、ポスト噴射された燃料がエンジンEの燃焼室17内において燃焼されずに未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングに設定する。
ここで、アクティブDeNOx制御及びパッシブDeNOx制御のそれぞれを実行する運転条件について図3を参照して説明する。図3は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸にエンジン負荷を示している。また、図3において、曲線L1は、エンジンEの最大トルク線を示している。
本実施形態では、PCM60は、エンジン負荷が第1所定負荷Lo1以上かつ第2所定負荷Lo2(>第1所定負荷Lo1)未満である中負荷域であるとともに、エンジン回転数が第1所定回転数N1以上かつ第2所定回転数N2(>第1所定回転数N1)未満である中回転域であるとき、すなわち、図3に示す第1運転領域R1において、アクティブDeNOx制御を実行する。これは、空気と燃料が適切に混合された状態で着火が生じるようにして、スモーク及びHCの発生を抑制するためである。このために、例えば、アクティブDeNOx制御時には適量のEGRガスを導入することで、ポスト噴射された燃料の着火を効果的に遅延させるようにしてもよい。
尚、アクティブDeNOx制御時にHCの発生を抑制する理由は、上記のようにEGRガスを導入する場合に、HCもEGRガスとして吸気系INに還流されて、このHCがバインダとなって煤と結合してEGRガスの通路が閉塞してしまうのを防止するためである。加えて、NOx触媒45の温度が低く、HCの浄化性能が確保されないような領域においてアクティブDeNOx制御を実行したときに、HCが浄化されずに排出されてしまうのを防止するためである。
一方で、本実施形態では、エンジン負荷が第1運転領域R1よりもかなり高い領域、すなわち、図3に示す第2運転領域R2にあるときに、パッシブDeNOx制御を実行する。これは、エンジン負荷が第2運転領域R2にあるときには、通常、NOx触媒45の温度が、該NOx触媒45を構成するDOCによるHCの浄化性能が発揮される程度の温度になっているため、パッシブDeNOx制御により排気通路41に排出された未燃燃料(HC)が、NOx触媒45によって十分に浄化されるためである。
第1及び第2運転領域R1,R2以外の運転領域について説明すると、エンジン負荷が第1運転領域R1よりも高いが第2運転領域R2よりも低い領域では、エンジンEの筒内温度が高くなって、空気と燃料が適切に混合されていない状態で燃焼が生じ、スモークやHCが発生しやすい。また、エンジン負荷は第1運転領域R1と同じであるがエンジン回転数が第1運転領域R1よりも高い領域では、エンジンEの1ストロークにかかる時間が短いために、空気と燃料が適切に混合されていない状態で燃焼が生じ、スモークやHCが発生しやすい。さらに、エンジン負荷が第1運転領域R1よりも低い領域、あるいは、エンジン負荷は第1運転領域R1と同じであるがエンジン回転数が第1運転領域R1よりも低い領域では、NOx触媒45の温度が吸蔵NOxを還元できる温度よりも低くなりやすい。これらのことから、本実施形態では、エンジンEの運転領域が、第1及び第2運転領域R1,R2以外の運転領域にあるときには、DeNOx制御を実行しないようにしている。
エンジンEの運転領域が、第1及び第2運転領域R1,R2以外の運転領域にあるときにおいて、NOx吸蔵量が上記第1所定吸蔵量以上のときには、NOxはNOx触媒45ではほとんど浄化されない。しかしながら、本実施形態では、NOx触媒45よりも下流側にSCR触媒47が設けられているため、NOx触媒45で浄化されなかった分のNOxについてはSCR触媒47により浄化することができる。
本実施形態では、上述したようなDeNOx制御を実行するか否かは、上述したエンジンEの運転領域に加えて、SCR触媒47によるNOxの浄化が可能であるか否かに応じて判断される。これは、排気ガス中のNOxをSCR触媒47によって適切に浄化させることができるのであれば、NOx触媒45によるNOxの浄化性能を確保すべくDeNOx制御を敢えて行う必要がないからである。上述したように、NOx触媒45のNOx浄化率は排気ガスの温度が比較的低温のときに高くなる一方、SCR触媒47のNOx浄化率は排気ガスの温度が比較的高温のときに高くなる。そこで、本実施形態では、図4のフローチャートに示すように、PCM60は、SCR触媒温度に応じて、DeNOx制御を実行してNOx触媒45でNOxを浄化するか、又は、SCR触媒47によりNOxを浄化するかを選択するようにしている。
図4のフローチャートを参照して、排気ガスを浄化する触媒を選択する際のPCM60の処理について説明する。PCM60は、エンジンEが作動している間は、常に又は所定期間毎に、このフローチャートに基づく処理を実行する。
まず、ステップS101において、PCM60は、各種センサ100~119,150
,151からの情報を読み込み、次のステップS102で、SCR触媒温度が第1所定温度未満であるか否かを判定する。上記ステップS102の判定がYESであるときには、ステップS103に進む一方、上記ステップS102の判定がNOであるときには、ステップS104に進む。尚、上記第1所定温度は、SCR触媒47によるNOxの浄化が可能であるがNOxの浄化率が所定浄化率未満となる温度であり、例えば、160℃である。
上記ステップS103では、PCM60は、SCR触媒47ではNOxを浄化させずに、DeNOx制御を実行してNOx触媒45のみによりNOxを浄化させる。このステップS103では、PCM60は、尿素インジェクタ51による尿素の供給を制限させることで、SCR触媒47ではNOxを浄化させないようにする。つまり、ここでいう、「SCR触媒47ではNOxを浄化させない」とは、「尿素インジェクタ51による尿素の供給を制限させる」ことを意味する。上記ステップS103の後はリターンする。
上記ステップS104では、SCR触媒温度が第2所定温度(>第1所定温度)未満であるか否かを判定する。上記ステップS104の判定がYESであるときには、ステップS105に進む一方、上記ステップS104の判定がNOであるときには、ステップS106に進む。尚、上記第2所定温度は、SCR触媒47のNOxの浄化率が上記所定浄化率以上となり得る温度範囲の下限付近の温度であり、例えば、250℃である。
上記ステップS105では、PCM60は、DeNOx制御を実行してNOx触媒45によりNOxを浄化させるとともに、SCR触媒47でもNOxを浄化させる。つまり、このステップS105では、PCM60は、尿素インジェクタ51から尿素を供給させる。上記ステップS105の後はリターンする。
上記ステップS106では、排気ガスの流量が所定流量未満であるか否かを判定する。上記ステップS106の判定がYESであるときには、ステップS107に進む一方、上記ステップS106の判定がNOであるときには、ステップS105に進む。このステップS106において、排気ガスの流量について判定を行うのは、SCR触媒温度が上記第2所定温度以上であったとしても、例えば、エンジンEの運転状態が高回転高負荷の運転領域にあって、排気ガスの流量が多い場合には、SCR触媒47のみではNOxを浄化しきれないことがあるためである。つまり、排気ガスの流量が所定流量以上であるNOのときには、NOx触媒45とSCR触媒47との両方でNOxを浄化させる方が好ましく、ステップS105に進むようにしている。
上記ステップS107では、NOx触媒45ではNOxを浄化させずに、SCR触媒47のみによりNOxを浄化させる。このステップS107でも、PCM60は、尿素インジェクタ51からSCR触媒47へ尿素を供給させる。このステップS107では、DeNOx制御の実行を禁止して、NOx触媒45のNOx吸蔵量を吸蔵限界にすることで、NOx触媒45でNOxを浄化させないようにする。上記ステップS107の後はリターンする。尚、NOx触媒45のNOx吸蔵量が吸蔵限界に到達していなければ、NOx触媒45でNOxを吸蔵することが可能であるため、このステップS107においても、NOx触媒45でNOxが浄化される(吸蔵される)ことがある。つまり、ここでいう、「NOx触媒45ではNOxを浄化させない」とは、「DeNOx制御の実行を禁止する」ことを意味する。
次に、DeNOx制御を実行する際のPCM60の処理動作について、図5及び図6を参照して説明する。PCM60は、図4に示すフローチャートに従ってDeNOx制御を実行することになった場合には、図5及び図6に示すフローチャートに基づく処理動作を実行する。
まず、ステップS201において、PCM60は、各種センサ100~119,150,151からの情報を読み込み、次のステップS202で、NOx触媒45におけるNOx吸蔵量が第1所定吸蔵量以上であるか否かを判定する。上記ステップS202の判定がYESであるときには、ステップS203に進む一方、上記ステップS202の判定がNOであるときには、ステップS211に進む。尚、NOx吸蔵量は、例えば、エンジンEの運転状態、排気ガスの流量、排気ガスの温度等に基づいて、排気ガス中のNOx量を推定し、この推定したNOx量を積算することによって求められる。
上記ステップS203では、PCM60は、エンジンEの運転領域が第1運転領域R1に属するか否かを判定する。上記ステップS203の判定がYESであるときには、アクティブDeNOx制御を実行すべく、ステップS205に進む一方、上記ステップS203の判定がNOであるときには、ステップS212に進む。
上記ステップS204では、PCM60は、ポスト噴射量を設定する。上述したように、ポスト噴射量は、エンジンEに導入される空気の酸素濃度やメイン噴射での燃料の噴射量等に基づいて、排気ガスの空燃比が目標DeNOx空燃比になるのに必要な噴射量に設定される。
次のステップS205では、PCM60は、ポスト噴射のタイミングを設定する。上述したように、アクティブDeNOx制御では、ポスト噴射のタイミングは、ポスト噴射された燃料がエンジンEの燃焼室17内において燃焼されるタイミングに設定される。
続く、ステップS206では、PCM60は、上記ステップS204で算出したポスト噴射量が第1所定噴射量未満であるか否かを判定する。上記ステップS206の判定がYESであるときには、ステップS207に進む一方、上記ステップS206の判定がNOであるときには、ステップS208に進む。この第1所定噴射量を設定することにより、DeNOxを実行することによる燃費の悪化を抑制するようにしている。
上記ステップS207では、PCM60は、上記ステップS205で設定したポスト噴射量でポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。上記ステップS207の次はステップS210に進む。
一方で、上記ステップS208では、スロットルバルブ7を閉じ側に制御し、次のステップS209では、第1所定噴射量でポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。このステップS208及びステップS209では、第1所定噴射量を超えないポスト噴射量(実際には第1所定噴射量の値そのもの)によって排気ガスの空燃比を目標DeNOx空燃比にすべく、スロットルバルブ7を絞って、エンジンEに導入する空気の酸素濃度を低下させている。上記ステップS209の次はステップS210に進む。
上記ステップS210では、PCM60は、NOx吸蔵量が略0になったか否かを判定する。上記ステップS210の判定がYESであるときには、アクティブDeNOx制御を終了してリターンする一方、上記ステップS210の判定がNOであるときには、ステップS203に戻る。上記ステップS210において、NOx吸蔵量が略0になったか否かは、ポスト噴射量を積算して、該積算値が第1所定吸蔵量以上の吸蔵NOxを略0にするだけの値になったか否かに基づいて判定する。尚、NOx吸蔵量が略0になるとは、NOx吸蔵量が0なることも含む。
一方で、ステップS202の判定がNOであるときに進む上記ステップS211では、PCM60は、NOx触媒45におけるNOx吸蔵量が第2所定吸蔵量以上であるか否かを判定する。上記ステップS211の判定がYESであるときには、ステップS212に進む一方、上記ステップS211の判定がNOであるときには、アクティブDeNOx制御及びパッシブDeNOx制御を実行する必要がないためリターンする。
上記ステップS212では、PCM60は、ポスト噴射量を設定する。ポスト噴射量は、上記ステップS204と同様に、エンジンEに導入される空気の酸素濃度やメイン噴射での燃料の噴射量等に基づいて、排気ガスの空燃比が目標DeNOx空燃比になるのに必要な噴射量に設定される。
上記ステップS213では、PCM60は、ポスト噴射のタイミングを設定する。上述したように、パッシブDeNOx制御では、ポスト噴射のタイミングは、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されずに未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングに設定される。
次のステップS214では、PCM60は、上記ステップS212で算出したポスト噴射量が第2所定噴射量未満であるか否かを判定する。上記ステップS206の判定がYESであるときには、ステップS207に進む一方、上記ステップS206の判定がNOであるときには、ステップS208に進む。上記第2所定噴射量は、車両の運転領域が上記第2運転領域にあるときにのみ設定されるような値に設定されており、上記第1所定噴射量よりも小さい値である。つまり、ポスト噴射量が上記第2所定噴射量未満であるときには、車両の運転領域は、パッシブDeNOx制御が実行可能な上記第2運転領域R2にあることになる。
続く、上記ステップS215では、PCM60は、上記ステップS215で設定したポスト噴射量でポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。上記ステップS216の後は、パッシブDeNOx制御を終了してリターンする。
上記ステップS216では、PCM60は、パッシブDeNOx制御を実行せずに、通常の燃料噴射制御を実行する。すなわち、ポスト噴射をせずにメイン噴射のみを行うように燃料噴射弁20を制御する。上記ステップS216の後は、ステップS203に戻る。
以上のように、DeNOx制御を実行することで、本実施形態では、DeNOx制御による燃費の悪化を抑制しつつ、排気ガス中のNOxを適切に浄化できるようにしている。
〈SCR触媒の異常判定〉
次に、SCR触媒47の異常判定について説明する。
SCR触媒47では、SCR触媒47に吸着したアンモニアと、排気ガス中のNOxとを反応(還元)させることによって、NOxを浄化する。SCR触媒47に吸着するアンモニアは、基本的には、尿素インジェクタ51から噴射される尿素((NH2)2CO)が、排気通路41内で熱分解反応又は加水分解反応することによって生成される。
尿素インジェクタ51からの尿素の噴射量(以下、単に尿素噴射量という)は、DCU70によって制御される。具体的には、DCU70は、SCR触媒47のアンモニア吸着量が、予め設定された目標吸着量になるように尿素噴射量を設定する。より詳しくは、DCU70は、モデルによりSCR触媒47の現在のアンモニア吸着量を推定し、上記目標吸着量と該推定値との差に基づいて尿素噴射量を設定する。
SCR触媒47の現在のアンモニア吸着量は、詳しくは後述するが、尿素噴射量と、DeNOx制御によって生じるアンモニア量と、NOx流入量と、SCR触媒47の浄化効率とからモデルにより推定する。また、上記目標吸着量は、SCR触媒温度が高い方が、SCR触媒温度が低いときと比較して、小さくなるように設定される。さらに、上記目標吸着量は、SCR触媒47におけるアンモニアの吸着限界よりも小さい値に設定されている。
SCR触媒47の異常判定は、PCM60の異常判定部63により、SCR触媒47でのNOxの実際の浄化率に基づいて行われる。具体的には、まず、異常判定部63は、SCR触媒47よりも上流側の通路におけるNOx量(以下、上流側NOx量という)を第1NOxセンサ116の検出結果に基づいて算出し、SCR触媒47よりも下流側の通路におけるNOx量(以下、下流側NOx量という)を第2NOxセンサ118の検出結果に基づいて算出して、以下の式1に基づいてSCR触媒47の実際の浄化率を算出する。
浄化率=1-(下流側NOx量/上流側NOx量)・・・(式1)
次に、異常判定部63は、式1で算出される浄化率が所定浄化率以下であるときには、SCR触媒47に異常が発生している可能性ありとして、故障カウントを1つ加算する。そして、異常判定部63は、故障カウントのカウント数が所定値以上になったときに、SCR触媒47に異常があると判定する。つまり、浄化率が所定浄化率以下であること及び故障カウントのカウント数が所定値以上になることが、異常判定部63の異常判定条件に相当する。
また、異常判定部63は、SCR触媒47に異常があると判定したときには、車両の乗員にSCR触媒47に異常がある旨の警告を行う。この警告は、例えば、車両の乗員が視認可能な位置に設けられたランプを点灯させる等により行われる。
上記の異常判定を正確に行うには、特に、第2NOxセンサ118の検出結果に基づく下流側NOx量の算出を正確に行う必要がある。しかしながら、一般に、NOxセンサは、排気ガス中のNOxだけでなく、排気ガス中のアンモニアでも出力値(検出値)が変化してしまうため、下流側NOx量を正確に算出できずに、異常判定部63が誤判定してしまうことがある。以下、NOxセンサによるNOxの検出原理について図7を参照しながら説明する。
図7には、NOxの検出原理を模式的に示す。この図7では、第2NOxセンサ118を例示しているが、第1NOxセンサ116も同様の構成である。図7に示すように、第2NOxセンサ118は、排気通路41に接続された第1キャビティ118aと、該第1キャビティ118aに接続された第2キャビティ118bとを有している。第2NOxセンサ118に流入した排気ガスは、まず、第1キャビティ118aで、排気ガス中のHCやCOが酸化されて、NOx以外の気体が取り除かれる。次に、第1キャビティ118bを通過したNOxは、次の第2キャビティ118bで窒素に還元される。このとき、第2キャビティ118b内では、NOxに由来する酸素が発生する。第2NOxセンサ118では、第2キャビティ118bで発生する、NOxに由来の酸素の濃度を検出することで、NOxの濃度を検出する。
ここで、第2NOxセンサ118に流入した排気ガス中に、アンモニアが混入していた場合には、該排気ガス中のアンモニアは、図7に示すように、第1キャビティ118a内で酸化されて、NOxとH2Oとに分解される。このアンモニア由来のNOxは、図7に示すように、第2キャビティ118bで還元されて、窒素と酸素とに分解される。このため、第2NOxセンサ118は、アンモニア由来のNOxも排気ガス中のNOxとして検出してしまう。このことから、第2NOxセンサ118は、排気ガス中のNOx及びアンモニアに応じて出力値が変化してしまう。
尚、第1NOxセンサ116も排気ガス中のアンモニアに応じて出力値が変化する。詳しくは後述するが、アンモニアはDeNOx制御によっても生じるため、第1NOxセンサ116もアンモニアをNOxとして検出することがある。しかし、DeNOx制御によって生じるアンモニアの量を推定して、該推定値と第1NOxセンサ116の検出結果とに基づいて上流側NOx量を算出することで、上流側NOx量については精度良く算出することができる。
基本的には、DCU70により、目標吸着量を適切な値に設定することで、排気通路41におけるSCR触媒47よりも下流側の通路へのアンモニアの排出量(以下、アンモニアのスリップ量という)をある程度抑えることができる。しかしながら、SCR触媒47内では、アンモニアの吸着反応と脱離反応とが常に発生しており、脱離反応が支配的になるような状況では、アンモニアがSCR触媒47よりも下流側の通路へ排出されてしまう(アンモニアのスリップが発生してしまう)。このため、第2NOxセンサ118の検出結果から下流側NOx量を正確に算出できなくなることがある。
そこで、本実施形態では、アンモニアのスリップ量を推定して、この推定スリップ量に基づいて、異常判定部63による異常判定を制限するようにしている。以下、アンモニアのスリップ量の推定方法について詳細に説明する。
SCR触媒47内でのアンモニアの吸着反応と脱離反応に基づくアンモニアのスリップ量は、主に、SCR触媒47内でのアンモニアの吸着反応速度と脱離反応速度とのバランスによって決まる。このため、本実施形態では、スリップ量推定部62は、上記吸着反応速度及び上記脱離反応速度に基づいてアンモニアのスリップ量を推定する。上記吸着反応速度及び上記脱離反応速度は、以下の式2及び式3で示される。
吸着反応速度
=Aa×(1-θ)×exp(-Ea/RT)×C1×C2・・・(式2)
脱離反応速度=Ad×exp(-Ed/RT)×吸着量・・・(式3)
式2において、Aaは吸着反応の頻度係数、θはSCR触媒47のアンモニアの被覆率、Eaは吸着反応に必要な活性化エネルギー、Rは気体常数、TはSCR触媒温度、C1は排気ガス中のアンモニア濃度に基づく補正係数、C2は排気ガス中の酸素濃度に基づく補正係数である。活性化エネルギーEaは、実験やシミュレーションにより求められる定数である。被覆率θはSCR触媒47の現在のアンモニア吸着量を当該SCR触媒47におけるアンモニアの吸着限界で割った値であり、0以上1以下の値を取り得る変数である。一方で、式3において、Adは脱離反応の頻度係数、Edは脱離反応に必要な活性化エネルギー、Rは気体常数、TはSCR触媒温度である。活性化エネルギーEdは、実験やシミュレーションにより求められる定数である。吸着量は、SCR触媒47のアンモニア吸着量である。
補正係数C1は、最終的なアンモニアのスリップ量には影響するものの、SCR触媒47のアンモニアの被覆率、すなわち、SCR触媒47のアンモニア吸着量ほど、吸着反応速度に影響を与えない。したがって、吸着反応速度及び脱離反応速度は、主に、SCR触媒47のアンモニア吸着量とSCR触媒温度とに依存する。
よって、吸着反応速度と脱離反応速度とに基づいてアンモニアのスリップ量を推定するには、SCR触媒47の状態、特に、SCR触媒47のアンモニア吸着量とSCR触媒温度とを考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、アンモニア吸着量推定部61によりSCR触媒47のアンモニア吸着量を推定し、触媒温度センサ117によりSCR触媒温度を検出し、アンモニア吸着量推定部61で推定された推定アンモニア吸着量と触媒温度センサ117により検出されたSCR触媒温度とに基づいて、吸着反応速度推定部65及び脱離反応速度推定部66により、吸着反応速度及び脱離反応速度をそれぞれ推定する。そして、吸着反応速度推定部65により推定された推定吸着反応速度と脱離反応速度推定部66により推定された推定脱離反応速度とに基づいて、スリップ量推定部62により排気通路41のSCR触媒47よりも下流側の通路へのアンモニアの排出量である、アンモニアのスリップ量を推定するようにしている。
ここで、図8に示すように、実際に選択還元型NOx触媒にアンモニアが流入した場合には、その一部がSCT触媒47の排気上流側の部分(以下、上流側部分という)に吸着され、残部が選択還元型NOx触媒の排気下流側の部分(以下、下流側部分という)に流入する。また、下流側部分には、上流側部分から脱離したアンモニアも流入する。つまり、アンモニアの上記残部の量と上流側部分から脱離したアンモニアの量との合計値が、上流側部分から下流側部分へのアンモニアのスリップ量(以下、内部スリップ量という)になる。そして、下流側部分へスリップしたアンモニアのうち下流側部分に吸着できなかった分のアンモニアの量と、下流側部分から脱離したアンモニアの量との合計値が、実際のSCR触媒47からのアンモニアのスリップ量になる。このため、アンモニアのスリップ量の推定精度を向上させるには、アンモニアの内部スリップ量を推定して、該推定内部スリップ量に基づいて、SCR触媒47外へのアンモニアのスリップ量を推定することが好ましい。
そこで、本実施形態では、まず、SCR触媒47を排気ガスの流れ方向に並ぶように仮想的に分割して、n個(nは2以上の整数)の仮想領域Sを設定する。具体的には、図9に示すように、排気ガスの流れ方向に対して等間隔に並列するように、n個の短冊状の仮想領域Sを設定する。次に、スリップ量推定部62は、n個の仮想領域Sを排気上流側から順に1番~n番として、n個の仮想領域のうちi番目(iは1からn-1までの整数)の仮想領域Siから、(i+1)番目の仮想領域Si+1へのアンモニアの内部スリップ量を推定する。
スリップ量推定部62は、i番目の仮想領域Siにおける内部スリップ量を推定するときには、1つ上流側の仮想領域Si-1からの内部スリップ量を考慮する。すなわち、スリップ量推定部62は、1つ上流側の仮想領域Si-1からの内部スリップ量に、i番目の仮想領域Siから脱離したアンモニア量を加え、さらにi番目の仮想領域Siに吸着したアンモニア量を差し引いた値を、i番目の仮想領域Siにおける内部スリップ量として推定する。
スリップ量推定部62は、上記内部スリップ量の推定を、最も排気上流側に位置する1番目の仮想領域S1から順に、n-1番目の仮想領域Sn-1からn番目の仮想領域Snへのアンモニアの内部スリップ量を推定するまで繰り返す。その後、該n番目の仮想領域Snから排気通路41へのアンモニアのスリップ量を推定する。そして、スリップ量推定部62は、当該n番目の仮想領域Snから排気通路41へのアンモニアのスリップ量を、SCR触媒47のアンモニアのスリップ量として推定する。
これにより、実際のSCR触媒47内での吸着反応及び脱離反応が反映されるため、アンモニアのスリップ量の推定精度をより向上させることができる。尚、仮想領域Sの数(nの数)は、多いほど推定精度が高くなる。しかし、あまり多いとスリップ量推定部62への負荷が多くなるため、仮想領域Sの数は10~15個程度にすることが好ましい。
ここで、実際のSCR触媒47内では、SCR触媒47のアンモニア吸着量が0付近であるか又は吸着限界付近であるような場合を除いて、アンモニア吸着量は均一な分布にはなっていない。つまり、アンモニア吸着量は仮想領域S毎に異なり、それに伴って、吸着反応速度及び脱離反応速度も仮想領域S毎に異なる。このため、SCR触媒47内でのアンモニアの内部スリップ量を正確に推定するには、各仮想領域Sにおけるアンモニア吸着量をそれぞれ推定し、仮想領域S毎の推定アンモニア吸着量に基づいて、各仮想領域Sにおける吸着反応速度及び脱離反応速度をそれぞれ推定することが好ましい。
そこで、本実施形態では、アンモニア吸着量推定部61は、n個の仮想領域S毎にアンモニア吸着量を推定する。吸着反応速度推定部65は、n個の仮想領域S毎の推定アンモニア吸着量に基づいて、n個の仮想領域S毎に吸着反応速度を推定し、脱離反応速度推定部66は、n個の仮想領域S毎の推定アンモニア吸着量に基づいて、n個の仮想領域S毎に脱離反応速度を推定する。そして、スリップ量推定部62は、各仮想領域Sにおける推定吸着反応速度及び推定脱離反応速度に基づいて、i番目の仮想領域Siから(i+1)番目の仮想領域Si+1へのアンモニアのスリップ量をそれぞれ推定する。
アンモニア吸着量推定部61は、尿素インジェクタ51による尿素噴射量と、DeNOx制御によって生じるアンモニア量と、各仮想領域SへのNOx流入量と、各仮想領域の浄化効率とに基づいて、各仮想領域Sのアンモニア吸着量を推定する。具体的には、アンモニア吸着量推定部61は、まず、尿素噴射量及びDeNOx制御によって生じるアンモニア量に基づいて、1番目の仮想領域S1に流入したアンモニア量を算出する。DeNOx制御によって生じるアンモニアは、NOx触媒45の吸蔵NOxを還元したときに、NOx触媒45から排気ガス中に排出されるアンモニアであって、NOx触媒45の吸蔵NOxとポスト噴射によって供給されるHCとの反応によって生じる。このため、DeNOx制御によって生じるアンモニアは、NOx触媒45のNOx吸蔵量とポスト噴射量とから推定することができる。
次に、アンモニア吸着量推定部61は、1番目の仮想領域S1に流入したアンモニアのうち、当該1番目の仮想領域S1に吸着したアンモニアの量を推定する。ここでは、アンモニア吸着量推定部61は、SCR触媒47全体のアンモニアの吸着限界量を領域数nで割った数が、各仮想領域Sの吸着限界であるとして、1番目の仮想領域S1に吸着したアンモニアの量を推定する。つまり、1番目の仮想領域S1に流入したアンモニア量が、当該1番目の仮想領域S1の吸着限界よりも多いときには、当該1番目の仮想領域S1には、吸着限界までアンモニアが吸着し、残りは下流側の仮想領域Sに吸着したと推定する一方、1番目の仮想領域S1に流入したアンモニア量が、当該1番目の仮想領域S1の吸着限界よりも少ないときには、当該1番目の仮想領域S1には、流入したアンモニアの全てが吸着したと推定する。
2番目の仮想領域S2以降の仮想領域Sについても同様にして、仮想領域Sに吸着したアンモニア量を推定する。2番目の仮想領域S2以降の仮想領域Sへ流入するアンモニア量は、自身よりも上流側の仮想領域S(例えば、3番目の仮想領域S3なら、1番目及び2番目の仮想領域S1,S2)に吸着したアンモニア量を差し引いて算出する。
次に、アンモニア吸着量推定部61は、各仮想領域SへのNOx流入量と各仮想領域Sの浄化効率とに基づいて、各仮想領域Sで消費されたアンモニア量を算出する。1番目の仮想領域S1へのNOx流入量は、第1NOxセンサ116の検出結果とDeNOx制御によって生じるアンモニアの推定値とに基づいて算出する。2番目の仮想領域S2以降の仮想領域へのNOx流入量は、1番目の仮想領域S1へのNOx流入量から、自身よりも上流側の仮想領域Sで還元された分のNOx量を差し引いて算出する。SCR触媒47の浄化効率は、SCR触媒温度や排気ガスの流量等に基づいて予め算出された理論値を、PCM60に格納されたマップを読み込むことで求める。
そして、アンモニア吸着量推定部61は、各仮想領域Sに吸着したアンモニア量の積算値とSCR触媒47から消費されたアンモニア量の積算値との差から、各仮想領域Sの現在のアンモニア吸着量を推定する。尚、DeNOx制御が実行されていないときには、アンモニア吸着量推定部61は、1番目の仮想領域S1に流入するアンモニア量を算出する際に、DeNOx制御によって生じるアンモニア量を考慮しない。
また、本実施形態では、脱離反応速度推定部65は、SCR触媒温度の変化量に対する推定脱離反応速度の変化率が、SCR触媒温度の変化量に対する推定吸着反応速度の変化率よりも大きくなるように、各仮想領域Sの脱離反応速度を推定する。特に、SCR触媒47を利用可能な温度範囲において、脱離反応速度推定部65は、SCR触媒温度の増加量に対する推定脱離反応速度の変化率が、SCR触媒温度の増加量に対する推定吸着反応速度の変化率よりも大きくなるように、各仮想領域Sの脱離反応速度を推定する。すなわち、SCR触媒47へのアンモニアの吸着反応は、該SCR触媒47の酸点にアンモニアが吸着するだけの反応である一方、SCR触媒47からのアンモニアの脱離反応は、吸着したアンモニアを該SCR触媒47の酸点から切り離す反応である。このため、脱離反応の活性化エネルギーEdは、吸着反応の活性化エネルギーEaと比べてかなり大きい。つまり、吸着反応速度はSCR触媒温度に影響されにくい一方で、脱離反応速度はSCR触媒温度に影響されやすい。よって、上記のように構成することにより、脱離反応の活性化エネルギーEdと、吸着反応の活性化エネルギーEaとの大きさの違いが反映され、脱離反応速度及び吸着反応速度の推定精度が向上する。この結果、アンモニアのスリップ量の推定精度をより一層向上させることができる。
尚、実際のSCR触媒47では、SCR触媒温度も分布を有していることがある。本実施形態のSCR触媒47のように、排気ガスによって暖機されるものでは、SCR触媒47の上流側部分には、高温の排気ガスが接触する一方で、SCR触媒47の下流側部分は、上記上流側部分に熱が吸収された後の排気ガスが接触する。このため、n個の仮想領域Sを設定した場合には、基本的には、1番目の仮想領域S1が最も温度が高く、排気下流側に向かうほど温度が低くなって、n番目の仮想領域Snが最も温度が低くなるような分布になる。そこで、触媒温度センサ117で検出されたSCR触媒温度に基づいて、1番目の仮想領域S1からn番目の仮想領域Snに向かうにつれて温度が低下するような温度分布を仮定して、該温度分布に基づいて、n個の仮想領域S毎のSCR触媒温度を推定するようにしてもよい。そして、アンモニア吸着量推定部61、吸着反応速度推定部65及び脱離反応速度推定部66は、n個の仮想領域S毎に推定されたSCR触媒温度に基づいて、各仮想領域Sにおける、アンモニア吸着量、吸着反応速度及び脱離反応速度をそれぞれ推定するようにしてもよい。これにより、SCR触媒47のアンモニアのスリップ量の推定精度をさらに向上させることができる。
ここで、SCR触媒47の吸着反応速度は、SCR触媒47のアンモニア吸着量及びSCR触媒温度以外にも、僅かながら影響を受ける。例えば、上記式2に記載の補正係数C1,C2のように、吸着反応速度は、排気ガス中のアンモニア濃度や酸素濃度の影響を受ける。本実施形態では、このような吸着反応速度に影響を与える因子を考慮するために、スリップ量推定部62は、吸着反応速度及び脱離反応速度に基づいて推定された仮のスリップ量(内部スリップ量を含む)に対して、複数の補正係数C1’~C5’を乗じて、最終的なスリップ量(内部スリップ量を含む)とするようにしている。
本実施形態では、吸着反応速度に影響する因子として、排気ガス中のアンモニア濃度、排気ガス中の酸素濃度、排気ガスの流量、SCR触媒47の酸点の数及びSCR触媒47のHC被毒量を考慮するようにしている。以下、これらが吸着反応速度に与える影響について詳細に説明する。
排気ガス中のアンモニア濃度は、式2における補正係数C1に影響を与える。詳しくは、アンモニア濃度が高いほど吸着反応が進み易くなる。このため、基本的には、排気ガス中のアンモニア濃度が高いほど補正係数C1が大きくなり、吸着反応速度が大きくなって、スリップ量が少なくなる。そこで、本実施形態では、エンジンシステム200が取り得る最大のアンモニア濃度と0との中間のアンモニア濃度における補正係数C1’を1として、アンモニア濃度が上記中間のアンモニア濃度よりも高いときには、補正係数C1’を1よりも小さくする一方、アンモニア濃度が上記中間のアンモニア濃度よりも低いときには、補正係数を1よりも小さくする。
1番目の仮想領域S1に流入する排気ガス中のアンモニア濃度については、排気ガスの流量と、尿素インジェクタ51による尿素噴射量と、DeNOx制御によって生じるアンモニア量とから推定する。2番目の仮想領域S2以降の仮想領域Sに流入する排気ガス中のアンモニア濃度は、排気ガスの流量と1つ前の仮想領域Sの内部スリップ量とから推定する。
排気ガス中の酸素濃度は、式2における補正係数C2に影響を与える。詳しくは、酸素濃度が高いときには吸着反応が進み易くなる。つまり、排気ガス中の酸素濃度が高いほど補正係数C2が大きくなり、吸着反応速度が大きくなって、スリップ量が小さくなる。そこで、本実施形態では、大気中の酸素濃度(約23重量%)のときの補正係数C2’を1として、排気ガス中の酸素濃度が小さくなるにつれて補正係数C2’が1よりも大きくなるようにする。尚、排気ガス中の酸素濃度は、例えば、O2センサ111の検出結果を用いることができる。また、排気ガスの酸素濃度に基づく補正係数C2’は、仮想領域S毎に変化させず、全仮想領域Sで同じ値としている。
排気ガスの流量は、式2における頻度係数Aaに影響を与える。詳しくは、排気ガスの流量が多いと、排気ガスの流速が早くなって、SCR触媒47を構成するゼオライトとの接触頻度が減少するため、頻度係数Aaが小さくなる。このため、排気ガスの流量が高いほど頻度係数Aaが小さくなり、吸着反応速度が小さくなって、スリップ量が多くなる。そこで、本実施形態では、エンジンシステム200が取り得る最大の流量(例えば、高負荷高回転時の排気ガスの流量)と0との中間の流量における補正係数C3’を1として、排気ガスの流量が上記中間の流量よりも高いときには、補正係数C3’を1よりも小さくする一方、排気ガスの流量が上記中間の流量よりも低いときには、補正係数C3’を1よりも小さくする。尚、排気ガスの流量に基づく補正係数C3’は、仮想領域S毎に変化させず、全仮想領域Sで同じ値としている。
SCR触媒47の酸点の数は、式2における被覆率θに影響を与える。詳しくは、酸点の数が減少すると、SCR触媒47におけるアンモニアの吸着限界(各仮想領域Sにおけるアンモニアの吸着限界)が減少するため、被覆率θが大きくなりやすい。このため、SCR触媒47の酸点の数が少なくなるほど被覆率θが大きくなり、吸着反応速度が小さくなる。SCR触媒47の酸点の数が減少すれば、SCR触媒47のアンモニア吸着量も減少して、脱離反応速度は小さくなることがある。しかし、SCR触媒47に流入した排気ガス中のアンモニアはSCR触媒47に吸着しにくくなるため、結果としてスリップ量は多くなる。SCR触媒47の酸点の数は、SCR触媒47を構成するゼオライトの特性により予め決まっているが、SCR触媒47に熱的な負荷がかかると減少することが一般に知られている。そこで、本実施形態では、SCR触媒47の酸点の数が最大のとき、すなわち、SCR触媒47が新品の状態のときの補正係数C4’を1として、SCR触媒47にかかった熱負荷が大きくなるにつれて補正係数C4’が1よりも大きくなるようにする。SCR触媒47にかかった熱負荷は、SCR触媒47に加えられた熱エネルギーの積算値により推定される。この熱エネルギーは、SCR触媒温度と該SCR触媒温度が維持された時間との積で代用することが可能である。尚、SCR触媒47の酸点の数に基づく補正係数C4は、仮想領域S毎に変化させず、全仮想領域Sで同じ値としている。
SCR触媒47のHC被毒量は、式2における被覆率θに影響を与える。HC被毒とは、アンモニアが吸着すべきSCR触媒47の酸点にHCが吸着してしまうことである。つまり、HCの被毒量が大きくなると、SCR触媒47におけるアンモニアの吸着限界(各仮想領域Sにおけるアンモニアの吸着限界)が減少するため、被覆率θが大きくなりやすい。このため、SCR触媒47のHC被毒量が大きくなるほど被覆率θが大きくなり、吸着反応速度が小さくなって、スリップ量が多くなる。HC量が多いときには吸着反応が進みにくくなる。これは、HCがSCR触媒47の酸点に吸着してしまい(つまり、HCによる被毒が起こってしまい)アンモニアが吸着できる酸点の数が減少してしまうためである。つまり、排気ガス中のHC量が多いほど、吸着反応速度が小さくなって、スリップ量が多くなる。そこで、本実施形態では、SCR触媒47のHC被毒量が0のときの補正係数C5’を1として、SCR触媒47のHC被毒量が多くなるにつれて補正係数C5’が1よりも大きくなるようにする。
SCR触媒47のHC被毒量については仮想領域S毎に異なる。各仮想領域SにおけるHC被毒量は、エンジンEの回転数と負荷とに基づいて推定された、SCR触媒47に流入するHC量と実験等により設定したHCの吸着モデルとにより推定する。
本実施形態では、PCM60には、各補正係数C1’~C5’を設定するためのマップが補正係数C1’~C5’毎に格納されている。PCM60は、検出又は推定したパラメータ(排気ガス中のアンモニア濃度など)を上記マップに当てはめて、仮想領域S毎に各補正係数C1’~C5’を設定する。これらの補正係数C1’~C5’はスリップ量推定部62が設定してもよいし、PCM60が補正係数C1’~C5’を設定するための別のプロセッサを備えていてもよい。
次に、SCR触媒47からのアンモニアのスリップ量を推定する際のPCM60の処理動作を、図10を参照しながら説明する。尚、各仮想領域Sのアンモニア吸着量は、アンモニア吸着量推定部61により推定され、各仮想領域Sのアンモニアの内部スリップ量及び最終的なSCR触媒47からのアンモニアのスリップ量は、スリップ量推定部62により推定され、各仮想領域Sの吸着反応速度は、吸着反応速度推定部65により推定され、各仮想領域Sの脱離反応速度は、脱離反応速度推定部66により推定される。
まず、ステップS301において、PCM60は、各種センサ100~119,150,151からの情報を読み込む。このステップS301では、特に、触媒温度センサ117によりSCR触媒温度を検出する。
次のステップS302では、PCM60は、DeNOx制御中であるか否かを判定する。このステップS302の判定がYESであるときには、ステップS303に進む一方で、このステップS302の判定がNOであるときには、ステップS304に進む。
次のステップS303では、PCM60は、DeNOx制御により発生するアンモニア量を推定する。
次のステップS304では、SCR触媒47を排気ガスの流れ方向に対して、n個の仮想領域Sに仮想的に分割する。
続く、ステップS305では、PCM60は、i番目の仮想領域Si(最初は1番目の仮想領域S1)のアンモニア吸着量を推定する。
次いで、ステップS306では、PCM60は、i番目の仮想領域Si(最初は1番目の仮想領域S1)における吸着反応速度及び脱離反応速度を推定する。
次に、ステップS307では、PCM60は、i番目の仮想領域Si(最初は1番目の仮想領域S1)における各補正係数C1’~C5’をそれぞれ設定する。
次いで、ステップS308では、PCM60は、上記ステップS306で推定した推定吸着反応速度と推定脱離反応速度とに基づいて推定された、i番目の仮想領域Si(最初は1番目の仮想領域S1)からi+1番目の仮想領域Si+1へのアンモニアの内部スリップ量に対して、各補正係数C1’~C5’を乗じて、最終的な内部スリップ量を推定する。
続く、ステップS309では、iがn-1であるか、すなわち、n-1番目の仮想領域Sn-1からn番目の仮想領域Snへのアンモニアの内部スリップ量が推定されたか否かを判定する。このステップS309の判定がYESであるときには、ステップS311に進む一方、上記ステップS309の判定がNOであるときには、ステップS310に進む。
上記ステップS310では、iに1を加算して、上記ステップS305に戻る。これにより、1番目の仮想領域S1から順に、n-1番目の仮想領域Sn-1からn番目の仮想領域Snへの内部スリップ量が算出されるまで、内部スリップ量の推定が繰り返される。
一方で、上記ステップS311では、n番目の仮想領域Snのアンモニア吸着量を推定し、次のステップS312において、n番目の仮想領域Snの吸着反応速度及び脱離反応速度を推定する。
次いで、ステップS313では、PCM60は、n番目の仮想領域Snにおける各補正係数C1’~C5’をそれぞれ設定する。
そして、ステップS314において、n番目の仮想領域Snから排気通路41へのアンモニアのスリップ量を推定する。このステップS313で排気通路41に排出されたアンモニア量が、SCR触媒47のアンモニアのスリップ量に相当する。上記ステップS314の後はリターンする。
以上のようにしてスリップ量推定部62で、アンモニアのスリップ量を推定することで、アンモニアの吸着反応速度と脱離反応速度とに影響するパラメータが考慮されるため、SCR触媒47からのアンモニアのスリップ量の推定精度を向上させることができる。
スリップ量推定部62で推定された、アンモニアの推定スリップ量は、PCM60の異常判定制限部64に入力される。異常判定制限部64は、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量以上、詳しくは、異常判定部63が誤判定をしてしまう程度に第2NOxセンサ118によるNOxの濃度の検出に影響するような量以上であるときには、異常判定部63によるSCR触媒47の異常判定を制限する。具体的には、異常判定制限部64は、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量であるときには、異常判定部63が上記式1で算出した浄化率が所定浄化率以下であったとしても、異常判定を中止して、異常判定部63に故障カウントをさせないようにする。これにより、異常判定部63は、SCR触媒47をスリップしたアンモニアによって、SCR触媒47の浄化率が所定浄化率以下であると判定されたとしても、SCR触媒47の故障とは判定しないようにすることができる。これにより、異常判定部63は、下流側NOx量を正確に算出できる状況でSCR触媒47の故障を判定できるようになるため、異常判定部63の誤判定を抑制することができる。
次に、SCR触媒47の異常判定を実行する際のPCM60の処理動作について、図11を参照して説明する。以下に説明する処理動作では、SCR触媒47の異常判定に関する制御はPCM60の異常判定部63により実行され、該異常判定の制限に関する制御においては、異常判定制限部64により実行されている。このフローチャートに基づく異常判定は、SCR触媒47が使用可能な間(SCR触媒温度が第1所定温度以上である間)は所定時間毎に実行される。
まず、ステップS401において、PCM60は、各種センサ100~119,150,151からの情報を読み込み、次のステップS402で、SCR触媒47のNOxの浄化率を算出する。
次のステップS403では、PCM60は、上記ステップS402で算出したSCR触媒47のNOxの浄化率が所定浄化率未満であるか否かを判定する。このステップS403の判定がYESであるときには、ステップS404に進む一方で、このステップS403の判定がNOであるときには、SCR触媒47は正常であると判定してリターンする。
上記ステップS404では、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量未満であるか否かを判定する。上記ステップS404の判定がYESであるときには、ステップS405に進む一方、上記ステップS404の判定がNOであるときには、ステップS409に進む。尚、このアンモニアの推定スリップ量は、図9に示すフローチャートに基づいて推定される。
上記ステップS405では、PCM60は、故障カウントを1つ加算し、次のステップS406において、PCM60は、故障カウントのカウント数が所定値以上になったか否かを判定する。上記ステップS406の判定がYESであるときには、ステップS407に進む一方、上記ステップS406の判定がNOであるときには、未だ判定期にあるとしてリターンする。
上記ステップS407では、SCR触媒47に異常があると判定して、次のステップS408において、車両の乗員に警告する。ステップS408の後はリターンする。
一方で、上記ステップS404の判定がNOであるときに進むステップS409では、PCM60は異常判定を中止し、その後リターンする。
PCM60による異常判定を実行する際の各パラメータ(推定スリップ量等)の変化を、図12のタイムチャートにより説明する。図12において、アンモニア吸着量は、PCM60のアンモニア吸着量推定部61で推定される値であり、アンモニアのスリップ量は、PCM60のスリップ量推定部62で推定される値である。ここでは、アンモニアの吸着量は、SCR触媒47全体のアンモニア吸着量であり、各仮想領域Sにおけるアンモニア吸着量の積分値に想到する。アンモニアのスリップ量は、n番目の仮想領域Snから排気通路41へのアンモニアのスリップ量に相当する。また、図12において、NOxセンサの出力値は、破線が第1NOxセンサ116の出力値であり、実線が第2NOxセンサ118の出力値である。
まず、初期状態では、PCM60は通常の燃料噴射制御を実行しており、SCR触媒47は未活性状態であるとする。この初期状態から、DeNOx制御を実行したとすると、該DeNOx制御に伴いアンモニアが発生するため、SCR触媒47のアンモニア吸着量が多くなる。その後、SCR触媒温度が第1所定温度未満、すなわち、SCR触媒47によるNOxの浄化が行われない状態で、DeNOx制御が実行されると、SCR触媒47からはアンモニアが消費されずに、SCR触媒47のアンモニア吸着量が増加する。
SCR触媒温度が第1所定温度以上になると、SCR触媒47によりNOxの浄化が開始されるため、SCR触媒47のアンモニア吸着量が減少し始める。これと同時に、SCR触媒47の異常診断が開始される。また、NOxがNOx触媒45よりも下流側に流れるため、第1NOxセンサ116の出力値が上昇する。
SCR触媒47の温度が高くなると、アンモニアのスリップが発生する。これにより、第2NOxセンサ118の出力値が上昇する。そして、アンモニアのスリップが所定スリップ量以上になったときには、PCM60は、SCR触媒47の異常判定を中止する。これにより、図12に示すように、第2NOxセンサ118の出力値が第1NOxセンサ116の出力値を超えるような状態で上記異常判定が実行されるのを防止することができる。尚、PCM60は、アンモニアのスリップが所定スリップ量未満になったときには、SCR触媒47の異常判定を再開する。
また、図12に示すように、PCM60は、アンモニアのスリップが発生したときには、アンモニアのスリップがない場合よりも、アンモニアの吸着量を少なく推定する。アンモニアのスリップが発生しているときには、SCR触媒47からのアンモニアの脱離反応が支配的であるから、アンモニアのスリップがない場合よりもSCR触媒47のアンモニア吸着量が少ないとみなせるためである。これにより、SCR触媒47のアンモニア吸着量の推定精度が向上され、延いては、アンモニアのスリップ量の推定精度が向上される。
したがって、本実施形態では、SCR触媒47におけるアンモニアの吸着反応速度と脱離反応速度とを考慮して、SCR触媒47のアンモニアのスリップ量を推定するため、SCR触媒47からのアンモニアのスリップ量の推定精度を向上させることができる。
ここに開示された技術は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上述の実施形態では、仮想領域S毎に、アンモニア吸着量、吸着反応速度及び脱離反応速度を推定するようにしていたが、これに限らず、全仮想領域Sで、アンモニア吸着量、吸着反応速度及び脱離反応速度のそれぞれが同じ値であると推定してもよい。この場合、アンモニア吸着量推定部61は、SCR触媒47全体のアンモニア吸着量を推定して、吸着反応速度推定部65及び脱離反応速度推定部66は、該全体の推定アンモニア吸着量に基づいて吸着反応速度及び脱離反応速度を推定する。そして、スリップ量推定部62は、各仮想領域Sの吸着反応速度及び脱離反応速度が、それぞれ、上記全体の推定アンモニア吸着量に基づいて推定された吸着反応速度及び脱離反応速度であるとして、各仮想領域Sにおける内部スリップ量を推定する。
また、上述の実施形態では、SCR触媒47の状態を表すパラメータとして、SCR触媒47の推定アンモニア吸着量とSCR触媒温度とを採用して、これらのパラメータに基づいて、吸着反応速度及び脱離反応速度を推定するようにしていたが、これに限らず、エンジン回転数とエンジン負荷とからSCR触媒47の状態を検知するようにしてもよい。この場合、例えば、エンジン回転数とエンジン負荷とに対応したマップであって、SCR触媒47におけるアンモニアのスリップのし易さを示すアンモニアスリップ特性値を求めるためのマップを予めPCM60に格納しておく。そして、エンジン回転数の検出値と、エンジン負荷の検出値と、上記マップとから運転状態に対応したアンモニアスリップ特性値を算出し、このアンモニアスリップ特性値に基づいて、吸着反応速度と脱離反応速度とを推定する。
さらに、上述の実施形態では、SCR触媒47を排気ガスの流れ方向に対して仮想的に分割して内部スリップ量を推定するようにしていたが、これに限らず、SCR触媒47の吸着反応速度及び脱離反応速度に基づいて、SCR触媒47のアンモニアのスリップ量を推定するのであれば、上記のように、SCR触媒47を仮想的に分割したモデルを設定しなくてもよい。
また、上述の実施形態では、推定吸着反応速度及び推定脱離反応速度に基づいて推定された仮のスリップ量に対して、補正係数C1’~C5’を乗じて、最終的なスリップ量としていたが、これに限らず、補正係数C1’~C5’以外の補正係数を更に考慮してもよいし、補正係数C1’~C5’の中の一部(アンモニアの濃度に基づく補正係数C1’等)のみを考慮するようにしてもよい。
さらに、上述の実施形態では、尿素インジェクタ51によりアンモニアの前駆体である尿素を供給するようにしていたが、アンモニアを直接供給するような構成にしてもよい。
また、上記実施形態では、SCR触媒47からのアンモニアのスリップ量の推定を、SCR触媒47の異常判定に利用する場合について説明したが、例えば、尿素インジェクタ51による尿素噴射量の算出やスリップ触媒48の浄化率の判定などに利用してもよい。つまり、SCR触媒47からのアンモニアのスリップ量の推定は、SCR触媒47の異常判定以外のものにも利用可能である。
さらに、上述の実施形態では、PCM60の異常判定において、SCR触媒47の浄化率が所定浄化率未満であるか否かの判定(ステップS403)をした後、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量未満であるか否かの判定(ステップS404)をしていたが、これに限らず、SCR触媒47の浄化率の算出及び該浄化率に基づく判定の前に、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量未満であるか否かの判定をしてもよい。この場合、PCM60の処理動作は、アンモニアの推定スリップ量が所定スリップ量以上であるときには、SCR触媒47の浄化率の算出や該浄化率に基づく判定もせずに、そのままリターンするような処理動作になる。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。