(本発明の圧電素子)
本発明の圧電素子は、交互に積層された圧電材料層と電極層とを有する圧電素子において、前記圧電材料層は複数の結晶粒と複数の空隙部を有している。その前記圧電材料層の少なくとも1層が、前記圧電材料層の積層方向の厚みをTP、前記結晶粒の平均円相当径をDG、前記電極層と接しない前記空隙部の積層方向の最大長さをLV、前記圧電材料層に接する電極層の平均厚さをTEとする。その際に、0.07TP≦DG≦0.33TP、TE≦LV≦0.3TP、かつ鉛の含有量が1000ppm未満であることを特徴とする。
図1(a)は、本発明の圧電素子の一実施形態を示した断面概略図である。本発明に係る圧電素子は、1層以上の圧電材料層2と1層以上の電極層(図1(a)の場合は1および3)を少なくとも有し、圧電材料層と電極層が交互に積層されている。
図1(b)は、1層以上の圧電材料層54と1層以上の電極層55が交互に積層され、その積層構造体を第一の金属電極51と第二の金属電極53で狭持した本発明の圧電素子の断面概略図である。本発明に係る圧電素子は、圧電材料層54と、電極層55を含む電極層とで構成されており、これらが交互に積層されている。電極層は、電極層55以外に第一の金属電極51や第二の金属電極53といった外部電極を含んでいても良い。
図1(c)のように圧電材料層と電極層の数を増やしてもよく、その層数に限定はないが、好ましい層数の範囲は圧電材料層として2層以上60層以下である。圧電材料層が2層以上であることで、1層の場合と比較して低い電圧で大きな圧電歪みと高い振動速度を得る効果を期待できる。他方、圧電材料層が60層以下であることで圧電素子の小型化と電極コストの低減という効果が期待できる。
図1(c)に示した圧電素子の場合は、9層の圧電材料層504と8層の電極層505(505aもしくは505b)が交互に積層されている。その積層構造体は第一の電極501と第二の電極503で圧電材料層504を挟持した構成であり、交互に形成された電極層505を短絡するための外部短絡電極506aおよび外部短絡電極506bを有する。電極層505を短絡するための電極の形状や配置は図1(c)の例に限定されない。電極層を短絡するための電極は、外部短絡電極を用いる他に積層構造体を貫通する孔部(スルーホール)に設けた短絡電極であっても良い。短絡電極ではなく、導電ワイヤ等の配線によって電極層505を短絡しても良い。
電極層55、505および外部短絡電極506a、506b、第一の金属電極51、501および第二の金属電極53、503の大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。
電極層55、505および外部短絡電極506a、506b、第一の金属電極51、501および第二の金属電極53、503の厚さは、5nm~10μm程度である。
電極層55、505および外部短絡電極506a、506b、第一の金属電極51、501および第二の金属電極53、503の材質は、導電性金属であれば特に限定されないが、例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属単体および合金、積層体が挙げられる。また、各電極が別の材質であっても良い。
電極層55、505の材質は、AgとPdを含み、これらが主成分であると、例えばAgとPdの合計で電極層の90重量%以上100重量%以下を占めると、製造時の加工性、電極層としての導電性、形状均一性、コストの面で好ましい。前記Agの含有重量M1と前記Pdの含有重量M2との重量比M1/M2が0.25≦M1/M2≦4.0であることが好ましい。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。前記重量比M1/M2が0.25未満であると電極層の焼結温度が高くなるので望ましくない。一方で、前記重量比M1/M2が4.0よりも大きくなると、電極層が島状になるために面内で不均一になるので望ましくない。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。
本発明の圧電素子に含まれる鉛成分は、1000ppm未満である。より好ましくは500ppm以下である。圧電素子に含まれる鉛成分を定量する方法は特に限定されないが、例えば、蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析、原子吸光分析などが挙げられる。この中で、微量の鉛成分の定量に適しているのはICP発光分光分析である。
圧電素子における鉛の含有量が1000ppm未満であれば、本発明の圧電素子を用いた製品が廃棄され、種々の過酷な環境にさらされたとしても、製品中の鉛が自然環境や生体に及ぼす影響が低減される。本発明の圧電素子を構成する部材の中でも、リサイクル時に特に鉛成分を分離しにくい圧電材料層に含まれる鉛成分が、1000ppm未満であると、なお好ましい。また、本発明の圧電素子を用いた積層圧電振動子、振動波モータ、光学機器、電子機器においても構成部材全体における鉛成分は、1000ppm未満であると、なお好ましい。積層圧電振動子、振動波モータ、光学機器、電子機器における鉛成分の定量方法については、圧電素子と同様である。
図2(a)は、本発明の圧電素子の圧電材料層と電極層の実施形態の一例を示す断面模式図である。図にあるように、圧電材料層504と505a、505bとは、交互に積層している。図2(a)は、図1(a)(b)(c)の圧電素子の一部を拡大した観察視野をイメージしたものであり、図の上下に続く圧電材料層504の表記や、図の左右に続く圧電材料層504、電極層505a、505bの表記を省略している。
圧電材料層504は、複数の結晶粒の集合体5041(図中の白塗り部、各結晶粒の粒界を省略している)と複数の空隙部5042の集合体よりなる。空隙部には、電極層505a、505bと接する空隙部(以下、電極隣接空隙部)と、電極層505a、505bと接しない空隙部(以下、電極独立空隙部)がある。いずれの空隙部も、圧電材料層が電極層と接する界面部を平坦化して、圧電素子の誘電正接を小さくする効果を生み出すが、電極隣接空隙部は圧電材料層と電極層の電気的接触を妨げるものであるため少ない方が好ましい。例えば、圧電素子の断面観察視野における電極隣接空隙部の個数NV1と電極独立空隙部の個数NV2の比は、NV2/NV1≧3の関係であることが好ましい。
また、圧電素子の断面観察視野における空隙部の占める面積SVが、圧電材料層の面積SPに占める割合PVは、3面積%以上10面積%以下であることが好ましい。前記PVが3面積%以上10面積%以下であることで、本発明の圧電素子の振動を妨げることなく、誘電正接を抑制することができる。前記PVが3面積%より小さいと、圧電材料層と電極層の界面平坦性が損なわれて、圧電素子の誘電正接が大きくなるおそれがある。他方、前記PVが10面積%より大きいと、空隙部が圧電材料層の変形を一部吸収してしまい、圧電素子や該圧電素子を用いた積層圧電振動子が所望の振動速度やトルクを発揮できなくなるおそれがある。
前記、NV1、NV2、SV、SP、PVの算出にあたり、実際には、圧電素子の全箇所を高倍率で一度に観測することが困難である。そこで、走査型電子顕微鏡(SEM)で圧電素子の断面を100~500倍程度の倍率で観察し、各圧電材料層について5箇所程度の代表的な観察像を得ることで前記パラメータの算出および大小関係の判断を行うことができる。
観察対象となる圧電材料層504の積層方向の厚みをTPとする。TPは、1つの圧電材料層504における平均厚さであり、圧電材料層ごとに異なる厚さであっても良い。任意の圧電材料層のTPは、SEMによる断面観察像を画像処理することで容易に算出できる。圧電素子において、同一の圧電材料層における厚みは箇所によって、殆ど変化しないのが一般的である。したがって代表的な1箇所のSEM像からTP値を求めても良いが、同一の圧電材料層について5箇所以上のSEM像を得て、平均的なTP値を用いることがより望ましい。
TPの大きさは特に限定されないが、圧電素子の設計および製造の観点において20μm以上70μm以下であることが好ましい。TPが20μm未満であると、圧電素子のアドミタンスを大きくするために、層数を多くする必要があり、その結果、電極層が増え、電極層のコストが増大するおそれがある。一方で、70μmより厚いと、圧電素子が大きな変位を得るために必要な電圧が大きくなり、その結果、電源のコストが増大するおそれがある。
空隙部5042のうち電極層と接しない、すなわち結晶粒に囲まれた部位に存在する空隙部(電極独立空隙部)の積層方向の最大長さをLVとする。図2(a)の場合、もっとも積層方向に長い空隙部は空隙部50421であるので、この空隙部50421の積層方向の長さをLVとする。一つの狭い観察視野だけで最大長さを判断するのは困難なので、同一の圧電材料層について電極層に挟まれ、平均厚さTPを決定するために観察した領域の全域を観察して最大長さLVを決定することが望ましい。空隙部の積層方向の長さは、SEMによる断面観察像を画像処理することで容易に算出できる。図2(b)は、空隙部50241の拡大図である。空隙部の断面外周に対して、電極層と垂直な方向に内接する線分の最大長さがLVである。
観察対象となる少なくとも一つの圧電材料層504に接する電極層の平均厚さをTEとする。具体的には、電極層505aの平均厚さをTE1、電極層505bの平均厚さをTE2とした時に、TE=(TE1+TE2)/2である。電極層の積層方向の長さは、SEMによる断面観察像を画像処理することで容易に算出できる。
TEの大きさは特に限定されないが、TEが3.5μm以上10μm以下であると好ましい。電極層のTEが3.5μm以上であることで、電極層の導電性が高まって圧電材料層54、504に所望の電圧を効率良く印加できるようになる。他方、電極層のTEが10μm以下であることで、圧電素子の振動性能を十分に維持しながら、圧電素子の小型化、低コスト化を達成できる。
図2(c)は、本発明の圧電素子の圧電材料層504と電極層505a,505bの実施形態の一例を示す断面模式図である。圧電材料層504を構成する結晶粒(図番無し、図中の白塗り部)の集合体と空隙部(図番無し、図中の黒塗り部)の集合体を模式的に表記している。
同一の圧電材料層に結晶粒がN個あった場合に、n番目の金属酸化物の円相当径をDGnとする。本発明における「円相当径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明において、この円相当径の測定方法は特に制限されないが、圧電素子の断面をSEMで撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。同一の圧電材料層におけるN個の結晶粒の円相当径の平均値を、平均円相当径DGとする。
一つの圧電材料層における全ての結晶粒の円相当径を算出するのは困難である。圧電材料層の内部において、図2(c)の上下方向に相当する積層方向での円相当径にはバラツキがあるが、左右方向に相当する層の面方向にはバラツキが少ない。よって、図2(c)のごとく、一つの圧電材料層504の積層方向の厚さTPが全て視野に収まるようなSEM像を取得して、視野内にある結晶粒の円相当径を平均すれば、十分信用に足るDGの値が得られる。例えば、100個以上、かつ、圧電材料層の積層方向を網羅した結晶粒の平均円相当径DGを算出すれば十分である。
平均円相当径DGの大きさは特に限定されないが、DGが5μm以上かつ15μm以下であると好ましい。圧電材料層を構成する結晶粒の平均円相当径DGをこの範囲にすることで、前記圧電材料層は、大きな圧電定数を有することになる。DGは5μm未満であると、DGが5μm以上かつ15μm以下であるであるときと比べて圧電定数が十分でなくなり、結果として圧電素子の振動速度が不足する場合がある。
圧電材料層の圧電定数d33は、例えば、圧電素子の全体のみかけの圧電定数d33
*sumを計測して、d33
*sumを圧電材料層の層数で割ることでd33を近似的に求めることができる。圧電素子の全体のみかけの圧電定数d33
*sumについては、例えば、市販のd33メーターを用いて計測可能である。なお、d33メーターを用いると圧電素子の誘電正接も同時に計測できる。圧電素子の誘電正接と圧電材料層の誘電正接は同値とみなして構わない。通常、室温、例えば25℃、で圧電定数d33
*sumや誘電正接を計測し、圧電材料層のd33や誘電正接を算出すると良い。
一方で、DGが15μmを超えると、DGが5μm以上15μm以下であるであるときと比べて厚さTP、例えば20~70μm程度の圧電材料層を結晶粒が稠密に埋めることが困難となることがある。そして、空隙部の割合が、例えば断面像の圧電材料層の領域に対して20面積%以上と大きくなる場合がある。その結果、圧電材料層の機械的強度や誘電正接が損なわれる場合がある。いずれにせよ、本発明の圧電素子の利用者は用途に応じて任意に平均円相当径DGの大きさを決めてよい。
また、各結晶粒の円相当径DGnは、DGn≦20μmであると好ましい。円相当径DGnが20μmを超える結晶粒が存在すると、圧電材料層の機械的強度や誘電正接が損なわれる場合がある。
本発明の圧電素子は、0.07TP≦DG≦0.33TP、かつ、TE≦LV≦0.3TPとなる圧電材料層を少なくとも1層以上有する。より好ましくは、圧電素子の圧電振動に寄与する全ての圧電材料層において、0.07TP≦DG≦0.33TP、かつ、TE≦LV≦0.3TPの関係を満たす。
本発明の圧電素子においては、結晶粒の平均円相当径DGが、圧電材料層の積層方向厚みTPの0.07倍以上であることで、圧電材料層の圧電定数は大きくなる。例えば、圧電材料層にチタン酸バリウム系を用いた場合には、圧電定数d33≧160pm/Vと大きくなる。他方、DGが0.07TPより小さいと圧電材料層の圧電定数は、小さくなり、十分な振動速度が得られなくなる。例えば、圧電材料層にチタン酸バリウム系を用いた場合には、圧電定数d33≦100pm/Vと小さくなる。
また、DGが、TPの0.33倍以下であることで、圧電材料層の積層方向に3つ以上の結晶粒が積み重なることが期待でき、圧電材料層の機械的強度や十分に得られ、圧電材料層の誘電正接が十分小さくなる。他方、DGが0.33TPより大きいと、結晶粒界、すなわち空隙部の割合が増えて、その結果、圧電材料層の機械的強度や誘電正接が損なわれる。
空隙部の積層方向の最大長さLVが、該圧電材料層に接する電極層の平均厚さTEより大きい事で、圧電材料層部における結晶粒の充填性の不完全な箇所を、複数の空隙部が緩衝する。その結果として電極層と圧電材料層の界面の平坦性が向上する。そのため、金属電極から圧電材料への電界印加が均一となり、圧電素子としての誘電正接が小さくなる。
結晶粒の成長や移動によって結晶粒が電極層を押して、電極層が層厚以上に変形してしまうと電極層が断裂するおそれがある。LVがTEより大きいと言う事は、電極層の層厚に相当する変形を空隙部が緩衝できると言う事である。LVは空隙部の積層方向の最大長さであるので、圧電材料層の内部には、より小さな空隙部が多数ある。これらの小さな空隙部は、電極層の変形を抑制するために大きな空隙部が結晶粒の成長や移動を受け入れた痕跡である。
しかしながら、空隙部は圧電効果による素子の振動に貢献しない部分であるので、大きさには上限がある。本発明においてLVの上限は圧電材料層の積層方向厚みTPの0.3倍、すなわちLV≦0.3TPである。LVが0.3TPより大きいと、圧電素子に電界を印加した際の圧電効果による素子の振動を空隙部が阻害してしまう。
前記の0.07TP≦DG≦0.33TP、かつ、TE≦LV≦0.3TPとなる圧電材料層において、該圧電材料層と隣接する電極層の界面を断面方向から観察した時の線平均粗さRaは1μm以下であることが好ましい。本明細における線平均粗さRaとは、JIS B 0601に記載の輪郭曲線の算術平均粗さRaに相当する。例えば、SEMによる断面観察像を画像処理して、図2(a)のように電極層と圧電材料層の界面部の輪郭線を明らかにし、その積層方向(図面縦方向)の変動値を線分方向に積分し線分長さで平均することで算出することができる。当該部のRaが1μm以下であると、圧電材料層を挟む2つの電極層の平行性が高くなり、圧電材料層に対して垂直に電界を印加できるようになるため、圧電素子の振動効率が高まり、消費電力が低減する。Raが0.6μm以下であると、圧電素子の消費電力は、より一層低減する。理想的なRaは0(ゼロ)であるが、実際に製造可能なRaの最小値は0.05μm程度である。
前記圧電材料層を構成する金属酸化物は、チタン酸バリウム系の金属酸化物であることが好ましい。チタン酸バリウム系材料は、鉛成分を使用せずに高い圧電定数を示し、かつ微量の添加物によって誘電正接を小さくできるという利点がある。
ここでチタン酸バリウム系材料とは、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムカルシウム((Ba、Ca)TiO3)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Ti、Zr)O3)、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム((Ba、Ca)(Ti、Zr)O3)、ニオブ酸ナトリウム-チタン酸バリウム(NaNbO3-BaTiO3)、チタン酸ビスマスナトリウム-チタン酸バリウム((Bi、Na)TiO3-BaTiO3)、チタン酸ビスマスカリウム-チタン酸バリウム((Bi、K)TiO3-BaTiO3)、チタン酸バリウム-鉄酸ビスマス(BaTiO3-BiFeO3)などの組成や、これらの組成を主成分とした材料のことを指す。
これら例示材料の中でも、圧電材料層の圧電定数と温度安定性を両立できるという観点において、前記チタン酸バリウム系材料が、Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物であることが好ましい。圧電材料層の圧電定数が大きくなると、圧電素子のアドミタンスが大きくなり、大きな変位を得ることができる。また、圧電材料層の圧電定数の温度安定性が高いと、使用温度による圧電素子の振動速度や消費電力が安定する。
また、前記Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物において、BaおよびCaの和に対するCaのモル比であるxの値は、0.02≦x≦0.30であることが好ましい。
より好ましくは0.10≦x≦0.20である。
xが0.10以上であることで、チタン酸バリウム系材料の正方晶構造と菱面体晶構造の相転移温度を低温にシフトするので、圧電素子の実用温度範囲、例えば0℃~50℃における振動速度および消費電力が特に安定する。他方、xが0.20以下であることで、圧電材料層の圧電定数を特に高く保つことができ、圧電素子に求められる振動速度およびトルクを得ることができる。
また、前記Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物において、TiおよびZrの和に対するZrのモル比であるyの値は、0.01≦y≦0.09であることが好ましい。
より好ましくは0.02≦y≦0.07である。
yが0.02以上であることで、圧電材料層の圧電定数が特に高くなり、圧電素子に求められる振動速度およびトルクを得ることができる。他方、yが0.07以下であることで、圧電材料層のキュリー温度を100℃以上に特に保つことができる。
また前記圧電材料層は、前記Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物とともに、Mn成分を含有しており、Mnの含有量は、前記Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物100重量部に対して金属換算で0.02重量部以上0.40重量部以下であることが好ましい。
より好ましくは、0.04重量部以上0.40重量部以下であり、さらに好ましくはMnの含有量の範囲は、0.08重量部以上0.30重量部以下である。
「金属換算」でのMnの含有量は、蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより前記圧電材料を測定した際の各金属の含有量から、金属酸化物を構成する元素を酸化物換算することによって得られる。その総重量を100としたときに、その総重量とMn金属の重量との比で表される。酸化物換算する際には、あらかじめX線回折実験などを通じて結晶構造を特定し(例えばペロブスカイト型構造)、特定された結晶構造および金属の含有量の分析結果に基づいて酸素数を算出する。ペロブスカイト型構造酸化物の場合は一般に組成式ABO3と表現されるが、チャージバランス等の観点から、算出した酸素数に数%のずれがあってもかまわない。
前記Ba、Ca、Ti、Zrを含む酸化物が前記範囲のMnを含有すると、本発明の圧電素子の電気絶縁性が向上し、誘電正接が小さくなる。その結果として圧電素子の消費電力が小さくなるため前記範囲のMn含有量が好ましい。Mnの含有量が0.04重量部未満であると、Mnを含有しない酸化物と比べて誘電正接の改善効果を見込めない場合がある。一方、Mnの含有量が0.40重量部より大きくなると、Mnを含有しない酸化物と比べて圧電定数が低下する場合がある。本願発明の利用者は用途に応じて所望の含有量を採用することができる。
本発明の圧電素子を構成する圧電材料層の室温の圧電定数d33は、d33≧160pm/Vであると、圧電素子を振動子や振動波モータに応用した際に十分な振動速度、トルクを得られる。
本発明の圧電素子および該圧電素子を構成する圧電材料層の室温での誘電正接が、100~1000Hzの範囲で0.8%以下であると、圧電素子の消費電力への悪影響が無視できるレベルとなる。
(圧電素子の製造方法)
本発明にかかる圧電素子の製造方法は特に限定されないが、以下に圧電材料層を構成する金属酸化物にチタン酸バリウム系材料を用いた場合の製造方法を例示する。
まず、粉末状のチタン酸バリウム系材料に溶媒を加えてスラリーを得る。
粉末状のチタン酸バリウム系材料には、後の焼成工程時における積層素子の反りやクラックの発生を防止するために、予めBa、Ca、TiおよびZr成分を含む酸化物を800℃から1100℃程度の温度で仮焼した、いわゆる仮焼粉を用いることが好ましい。前記酸化物にMn酸化物を加えて仮焼して仮焼粉を得ても良い。仮焼粉に含まれるBa、Ca、Ti、ZrおよびMn成分の混合比は、目的とする金属酸化物と同様にする。
この仮焼粉に対し、焼成後の空隙部の形成を目的として、助剤を添加する。助剤が粒子状のSiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3を含むと、焼成時の粒成長に伴う収縮の開始温度が低下して、圧電材料層の内部に空隙部が生成するので、好ましい。粒子状のSiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3の好ましい平均粒子径は、0.5μm以上2.0μm以下である。
また、圧電材料層の内部の空隙部の生成を促進するために、助剤に中空粒子を含有させても良い。粒子の素材としては、焼成後の圧電特性に影響しない素材が好ましく、例えばSiO2や有機高分子ポリマーを使用できる。
仮焼粉に対する助剤の添加割合は、0.05重量部以上1.0重量部以下が好ましい。助剤の添加割合を前記範囲にすることで、圧電素子の振動速度を損ねることなく、圧電材料層の内部に空隙部を形成することができる。
粉末状のチタン酸バリウム系材料に加える溶媒としては、例えば、トルエン、エタノール、または、トルエンとエタノールの混合溶媒、酢酸n-ブチル、水を用いることができる。溶媒の量は、例えば、金属化合物粉体の1.0~2.0倍の重量とする。前記金属化合物粉体に溶媒を加えボールミルで24時間混合した後に、バインダーと可塑剤を加える。バインダーは例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂などを用いることができる。バインダーにPVBを用いる場合、溶媒とPVBの重量比を、例えば、88:12となるようにPVBを秤量する。可塑剤としては例えば、ジオクチルセバケート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートを用いることができる。可塑剤にジブチルフタレートを用いる場合、バインダーと等重量のジブチルフタレートを加える。
バインダーと可塑剤を加えた後は、再度、ボールミルでの混合を一晩行う。スラリーの目標粘度は300~500mPa・sであり、粘度の調整のために溶媒やバインダーの量を増減させても良い。
次に前記スラリーを基材上に設置し、圧電材料層の前駆体であるグリーンシートを得る。
グリーンシートは例えば、ドクターブレードを用いて前記スラリーを前記基材上に塗布し、乾燥させることで得られる。基材としては例えば、フッ素コートPETフィルムを用いることができる。前記グリーンシートの厚みは特に制限されることはなく、目的とする圧電材料層の厚さに合わせて調整することができる。グリーンシートの厚みは例えばスラリーの粘度を高くすると厚くすることができる。
次に前記グリーンシートに電極層を形成する。
グリーンシートに、必要に応じてスルーホールとなる小さな孔を形成する。更に、グリーンシートに形成した孔の中に、短絡電極となる導電粉末材料からなるペーストをスクリーン印刷法で充填する。更に、グリーンシートの表面に、電極層を形成する導電粉末材料からなるペーストをスクリーン印刷法で印刷する。
複数枚のグリーンシートを図1のごとく下から順に重ねて、加熱・加圧装置により加熱しながら加圧し、積層化し、焼成前の積層体を形成する。
そして、積層体を1150℃~1350℃の大気雰囲気下で焼成を行う。次に、焼成を行った後の焼成体に対して、分極処理を行う。分極処理の条件は、圧電材料層の組成や構造によって変えるが、例えば、60~150℃に加熱して、1kV/mm~2kV/mm程度の電界を、10~60分間程度印加すると良い。
(本発明の振動子)
本発明の振動子は、圧電素子と、前記圧電素子を挟持する第一の弾性体と第二の弾性体と、前記圧電素子と前記第一の弾性体と前記第二の弾性体を貫通するシャフトと、前記シャフトに設けられたナットとを有する振動子である。
図3は、本発明の振動子の一実施形態を示した概略構造の断面図である。
図3に示すように、圧電素子10は、圧電素子10の積層方向に第一の弾性体21と第二の弾性体22によって挟持されている。更に圧電素子10は、シャフト24と第一のナット25を有する。
第一の弾性体21と第二の弾性体22は、シャフト24を通すための孔部を有する。
シャフト24は圧電素子10、第一の弾性体21および第2の弾性体22を貫通する。
さらに、第一のナット25が前記シャフト24に取り付けられている。第一の弾性体21、第二の弾性体22、シャフト24および第一のナット25の素材は限定されないが、弾性率の観点から金属製であることが好ましく、例えばSUS材や真鍮が例示される。
圧電素子10は、第一の電極および第二の電極の箇所において接着剤等を用いて第一の弾性体21と第二の弾性体22とに接合されている。接合に際しては1MPaから10MPa程度の圧力を加圧しながら行うことが好ましい。また、圧電素子10はシャフト24及び第一のナット25によって締め付けられて、所定の圧縮力が付与されている。圧電素子10に圧縮力が付与されていることで、積層圧電振動子が大きな変位で振動した際の圧電素子10の破壊を防止できる。
(本発明の振動波モータ)
本発明の振動波モータは、前記振動子と、該振動子の第一の弾性体21に接する移動体とを有することを特徴とする。
図4は本発明の振動波モータの一実施形態を示した概略構造の断面図である。
本発明の振動波モータ40は、振動子20を構成する、圧電素子10、第一の弾性体21、第二の弾性体22、シャフト24、第一のナット25に加えて、移動体30を有する。更に振動波モータ40は必要に応じて、振動波モータ40を機器に取り付けるためのフランジ35、移動体30を振動子20に押し付けるための第二のナット36を有していても良い。フランジ35は、振動波モータ40が搭載される機器のフレーム等の不図示の外部部材に振動波モータ40を取り付けるための部材であり、第二のナット36により所定位置に固定されている。
移動体30の構成は制限されないが、図4に示した一般的な構成では、主材として圧電素子の振動を回転運動に変換するためのローター31を有する。更に必要に応じて、移動体30は、振動時の異音を抑制するための摺動部材32、第一の弾性体21と移動体30の接触面に摩擦力を付与するための加圧バネ33、動力伝達のためのギア34を図のごとく有していても良い。
摺動部材32の素材は、天然ゴムや合成ゴム等の樹脂が好ましい。ローター31、加圧バネ33、ギア34、フランジ35、第二のナット36の素材は金属製が好ましく、例えばSUS材や真鍮などが用いられる。
振動波モータ40において、構成部材である振動子20の第一の弾性体21は、移動体27(図においては摺動部材32)と接している。第一の弾性体21と移動体27が接していると、振動子20に電圧を印加して発生する振動を移動体27に効率的に伝えることができる。
摺動部材32の下端は、第一の弾性体21の上面に接触している。ローター31は、摺動部材32に固定されている。ギア34はローター31の上側に配置されており、ローター31の上側に設けられた凹部とギア34の下側に設けられた凸部とが係合している。加圧バネ33は、ローター31とギア34との間に配置されている。加圧バネ33のバネ力によって、ギア34は位置が定まると共に、ローター31を下側へ加圧する。これにより、ローター31に固定された摺動部材32の下側端面が、第一の弾性体21の上側表面に押し付けられて加圧接触するので、その接触面に所定の摩擦力が生じる。
圧電素子10に電圧を印加すると、振動子20に曲げ振動が発生し、移動体30を構成する、摺動部材32、ローター31、ギア34及び加圧バネ33が一体となってシャフト24の軸回りに回転する。回転出力は、摺動部材32、ローター31及びギア34のいずれかから取り出すことができる。
(本発明の光学機器)
本発明の光学機器は、前記振動波モータ40と、該振動波モータ40と力学的に接続された光学部材を有することを特徴とする。
図5は本発明の光学機器の一例であるデジタルカメラ(撮像装置)200の概略構造を示す斜視図である。
デジタルカメラ200の前面には、レンズ鏡筒202が取り付けられており、レンズ鏡筒202の内部には、レンズと、手ぶれ補正光学系203が配置されている。
デジタルカメラ200の本体側には撮像素子208が配置されており、撮像素子208に、レンズ鏡筒202を通過した光が光学像として結像する。撮像素子208は、CMOSセンサ或いはCCDセンサ等の光電変換デバイスであり、光学像をアナログ電気信号に変換する。撮像素子208から出力されるアナログ電気信号は、不図示のA/D変換器によってデジタル信号に変換された後、不図示の画像処理回路による所定の画像処理を経て、画像データ(映像データ)として不図示の半導体メモリ等の記憶媒体に記憶される。
レンズ鏡筒202には、光軸方向に移動可能な不図示のレンズ群が配置されている。振動波モータ100は、不図示のギア列等を介してレンズ鏡筒等の光学部材に力学的に接続され、レンズ鏡筒202に配置されたレンズ群を駆動する。振動波モータ100はデジタルカメラ200において、ズームレンズの駆動、フォーカスレンズの駆動等に用いることができる。
ここで本発明の光学機器として、デジタルカメラについて説明した。それ以外にも一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ、カメラ付き携帯情報端末等、カメラの種類を問わず、駆動部に振動波モータを有する光学機器に本発明を適用することができる。
(本発明の電子機器)
本発明の電子機器は、電子部品と前記圧電素子10を駆動源として備えることを特徴とする。
図6は本発明の電子機器の一実施形態を示した概略図である。
本発明の積層圧電振動子は、液体吐出ヘッド、振動装置、圧電集音装置、圧電発音装置、圧電アクチュエータ、圧電センサ、圧電トランス、強誘電メモリ、発電装置等の電子機器に用いることができる。
本発明の電子機器は、図6に示すように、本発明の積層圧電振動子を備えており、前記積層圧電振動子への電圧印加手段および電力取出手段の少なくとも一方を有している。「電力取出」とは、電気エネルギーを採取する行為、および、電気信号を受信する行為のいずれであっても良い。電圧印加手段により発生する振動子振動を電子機器がその機能のために利用する。あるいは、外部作用によって振動した積層振動子に発生した電力を電力取り出し手段で検知して電子機器がその機能のために利用する。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
まず、圧電材料層の出発原料となる粉末状のチタン酸バリウム系材料を準備した。
具体的には、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)および四酸化三マンガン(Mn3O4)を、BaおよびCaの和に対するBaのモル比であるxの値が0.13に、TiおよびZrの和に対するZrのモル比であるyの値が0.03に、Mnの含有量がBa、Ca、TiおよびZrを含む酸化物100重量部に対して金属換算で0.30重量部となるように秤量して混合した。この混合粉を900℃で4時間仮焼し、チタン酸バリウム系材料よりなる仮焼粉を得た。
この仮焼粉100重量部に対し、0.1重量部の助剤を添加した。助剤には平均粒子径が1.0μmの粒子状であるSiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3の混合物を用いた。助剤に含まれるSiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3の重量比は、無水物として5対2対2対1とした。
次に、溶媒である水に対し、助剤混合済みの仮焼粉と、仮焼粉100重量部に対して3重量部のバインダ(PVB)を加えて混合し、スラリーを得た。
得られたスラリーを用いて、ドクターブレード法により60μm厚のグリーンシートを得た。
上記グリーンシートに内部金属電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Ag60%-Pd40%合金(Ag/Pd=1.50)ペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを36枚積層して、その積層体を最高温度1250℃で5時間保持するように焼成を実施して焼結体を得た。
このようにして得られた焼結体の圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価した。その結果、(Ba0.87Ca0.13)(Ti0.97Zr0.03)O3の化学式で表わすことができる酸化物を主成分としており、前記主成分100重量部に対してMnが0.30重量部含有されていることが分かった。Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の圧電材料としての組成が一致していた。
前記焼結体の積層方向の厚さは、2.0mmであった。
前記焼結体を外径6mmの円柱状に削り出し、円形面の中心部に内径2mmの貫通孔を切削プロセスによって形成した。この円柱状素子の外側面に内部電極層を交互に短絡させる一対の金属電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタ法により形成し、図1(c)のような圧電素子を作製した。次に積層焼結体に分極処理を施して、本発明の圧電素子を得た。具体的には、試料をホットプレート上で135℃に加熱し、第一の電極と第二の電極間に14kV/cmの電界を30分間印加し、電界を印加したままで室温まで冷却した。
圧電素子に含まれる鉛成分をICP発光分光分析により評価したところ、圧電素子に対して約2ppmの鉛成分が含まれていることが分かった。圧電材料層部分に含まれる鉛成分も約2ppmであった。
圧電素子の側断面を25倍の顕微鏡で観察したところ、36層の圧電材料層と35層の電極層とが交互に積層されていた。圧電材料層の層厚TPは、いずれの圧電材料層においても55μmであった。電極層の層厚TEは、いずれの電極層においても6μmであった。
更に走査型電子顕微鏡を用いて、圧電素子の側断面を400倍の高倍率で観察した。図7に実施例1の圧電素子の側断面の反射電子像を示す。図7において、輝度の高い白色部分は電極層であり、複数の電極層に挟まれた輝度の低い着色部が圧電材料層である。圧電材料層の内部にある黒色部は空隙部であり、中間色の箇所は結晶粒の集合体である。金属酸化物は粒ごとに反射電子の輝度が異なっている。図の下部の黒色の帯部は、スケールバーを示すための人為的な着色部であり、圧電素子の構造とは関係が無い。
図7に見られる3層の圧電材料層は、いずれも複数の結晶粒と、複数の空隙部の集合体で形成されていた。
ここで、図7の下から2番目の圧電材料層に着目する。該圧電材料層について、観察箇所を変えた同倍率の反射電子像を5つ取得して、これらの観察像から圧電材料層の積層方向の平均厚みTPと該圧電材料層に接する電極層の平均厚さTEを算出したところ、TPは55μmであり、TEは6.0μmであった。次に、該圧電材料層について同じ観察像から、結晶粒の平均円相当径DGを算出したところ、TPの0.07倍より大きく0.33倍より小さな8.5μmであった。
更に、該圧電材料層の断面全域を観察して、電極層と接せずに結晶粒に囲まれた部位に存在する空隙部の積層方向の最大長さLVを求めたところ、LVは、TEより大きくTPの0.3倍より小さい10μmであった。
同じ観察像から、着目する圧電材料層と隣接する電極層との界面の線平均粗さRaを算出したところ、2つの界面の平均値としてRaは0.42μmであった。
同じ観察像から空隙部の合計断面積が圧電材料層の断面積に占める割合PVは、6.2面積%であった。
本実施例で得た圧電素子の全体のみかけの圧電定数d33
*sumをd33メーターで室温測定して、測定値d33
*sumを層数である36で割ったところ、圧電定数d33は200pm/Vであった。同時に、d33メーターで得られた誘電正接は160Hzにおいて0.5%であった。
続いて、得られた圧電素子を用いて積層圧電振動子を作製した。
まず、圧電素子をプライマー処理して、SUS製の第一の弾性体に加圧接着した。続いて、前記圧電素子の第一の弾性体が接着していない面に対し、フレキシブルプリント基板からなる電気配線をSUS製の第二の弾性体によって挟み込んだ。最後に、SUS製のシャフトを圧電素子、第一の弾性体および第二の弾性体に貫通させた後に、SUS製の第一のナットで加圧締込を行い、本発明の積層圧電振動子を得た。
(実施例2から7)
原料の混合比、グリーンシートの厚さ、導電ペーストのAg/Pd比、積層体の焼成最高温度を変化させた他は、実施例1と同様にして本発明の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、いずれの圧電素子においても、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子および圧電材料層に含まれる鉛成分は、いずれの圧電素子も10ppm未満であった。圧電素子の製造条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、3~10面積%の範囲内であった。
次に、実施例1と同様にして、実施例2から7の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
(実施例8)
仮焼粉に対する助剤として、SiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3の混合物に加えて、仮焼粉100重量部に対して固形分で0.1重量部の中空シリカ微粒子をIPA分散液の形態で添加した他は、実施例1と同様にして本発明の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子および圧電材料層に含まれる鉛成分は、約3ppmであった。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、9.0面積%であった。
次に、実施例1と同様にして、実施例8の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
(比較例1)
導電ペーストのAg/Pd比を6:4から4:6に変更し、積層体の焼成最高温度を1250℃から1400℃に変更した他は、実施例1と同様にして比較用の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子の製造条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。その結果、TPは55μm、DGは20.1μm、LVは19.0μm、TEは6.0μmであった。すなわち、DGはTPの0.36倍であり、LVはTEより大きくTPの0.35倍であった。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、13.7面積%であった。
次に、実施例1と同様にして、比較例1の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
(比較例2)
グリーンシートの厚さ、導電ペーストのAg/Pd比、積層体の焼成最高温度を変化させ、助剤の添加量を仮焼粉100重量部に対して1.0重量部の助剤となるように増量した他は、実施例1と同様にして比較用の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子の製造条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。その結果、TPは30μm、DGは12.3μm、LVは10μm、TEは6μmであった。すなわち、DGはTPの0.40倍であり、LVはTEより大きくTPの0.33倍であった。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、10.4面積%であった。
次に、実施例1と同様にして、比較例2の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
(比較例3)
グリーンシートの厚さ、導電ペーストのAg/Pd比、積層体の焼成最高温度を変化させた他は、実施例1と同様にして比較用の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子の製造条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。その結果、TPは45μm、DGは1.9μm、LVは1.2μm、TEは6.0μmであった。すなわち、DGはTPの0.04倍であり、LVはTEより小さかった。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、2.8面積%であった。
次に、実施例1と同様にして、比較例3の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
(比較例4)
導電ペーストのAg/Pd比、積層体の焼成最高温度を変化させ、助剤の成分比をSiO2、B2O3、Al2O3、Na2CO3の重量比で7対3対0対0とした他は、実施例1と同様にして比較用の圧電素子を得た。
圧電材料部分の組成をICP発光分光分析により評価したところ、Ba、Ca、Ti、Zr、Mnの各成分は、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。圧電素子の製造条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、圧電素子のTP、TE、DG、LV、Ra、d33、誘電正接を計測、測定した。その結果、TPは55μm、DGは10.0μm、LVは0.8μm、TEは6.0μmであった。すなわち、DGはTPの0.18倍であり、LVはTEより小さかった。各パラメータの計測結果を表2に示す。実施例1と同様にして求めたPVは、1.1面積%であった。
次に、実施例1と同様にして、比較例4の圧電素子を用いた積層圧電振動子を作製した。
図8に、実施例1~8の圧電素子および比較例1~4の圧電素子のTPとDG及びTPとLVの値の関係を示す。◆印は実施例、○印は比較例の値をプロットしたものである。図8(a)の横軸はTP、縦軸はDGを表しており、実線は0.07TP≦DG≦0.33TPの範囲、点線は5μm≦DG≦15μmの範囲を補助的に示すものである。
他方、図8(b)の横軸はTP、縦軸はLVを表しており、実線はLV≦0.3TPの範囲を補助的に示すものである。
(振動子発生変位量)
実施例1~8および比較例1~4の積層圧電振動子に、3kV/mmの直流電界を印加して、レーザ変位計により歪み率を計測した。ここでの歪み率とは、計測した歪み量を積層部の厚さで割った値に100をかけたパーセンテージである。
実施例1~8の振動子歪み率は、いずれも0.10%以上0.15%以下の範囲にあったのに対し、比較例1、2、4の振動子歪み率は0.08%程度と小さかった。特に比較例3の振動子歪み率は、0.04%程度と小さかった。
(振動波モータの作製)
実施例1~8および比較例1~4の積層圧電振動子に、ゴム製の摺動部材、SUS製のローター、SUS製の加圧バネ、SUS製のギアよりなる移動体と、SUS製のフランジ、SUS製の第二のナットを取り付けて、図4に示す構造の振動波モータを作製した。
作製した振動波モータに、15Vrmsの交番電圧を印加して、振動波モータを回転駆動させた。印加電圧の周波数を共振周波数に近づけて、回転速度が700rpmに達した振動波モータについて、モータ部分の消費電力を電力計で測定した。測定結果を表3に示す。
表3に示すように、実施例の振動波モータの700rpm時のモータの消費電力は、いずれも1.7W以下であったのに対し、比較例1、2、4の同条件の消費電力は2.3W以上となった。また、比較例3の振動波モータは、電圧印加時の最高回転速度が700rpmに達しなかった。
図8(a)からわかるように、平均円相当径DGは、圧電材料層の積層方向の厚みTPに対して、適切な範囲に収まることで優れた効能を発揮する。加えて図8(b)からわかるように、空隙部の積層方向の最大長さをLVは、同じくTPに対して、適切な範囲に収まることで優れた効能を発揮する。表2に記載の各実施例、各比較例によると上記の条件を満たす実施例は圧電定数d33の値が170pC/N以上と、比較例とくらべて10%以上も高い良好な値を示した。また表3からわかるように各実施例の消費電力は1.7W以下と比較例とくらべて20%以上も低い良好な値を示した。
(圧電材料層の層数)
実施例1~8の圧電素子、積層圧電振動子および振動波モータにおける圧電材料層の層数は36層であるが、2層から60層の範囲で層数を変化させても、同様に作製することができた。特に層数が25層以上55層以下の振動波モータは、表3に近いモータの消費電力で700rpmの駆動が可能であった。
(光学機器)
実施例1~8および比較例1、2、4の振動波モータと光学部材であるレンズ鏡筒とを力学的に接続し、図5のような光学機器を作製した。いずれの光学機器も交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作を確認できたが、実施例の光学機器のフォーカス動作は比較例の光学機器のフォーカス動作に比べて、消費電力が20%以上小さかった。
(電子機器)
実施例1~8の圧電素子を用いて、図9に示される液体吐出ヘッドを作製した。図9に示す液体吐出ヘッドは、実施例の圧電素子101(電極1011、積層部1012、電極1013よりなる)を有する。さらに吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。液室内には液状のインクを貯留し得る。
液体吐出ヘッドに電気信号を入力すると、信号パターンに追随したインクの吐出が確認された。この液体吐出ヘッドをインクジェット式プリンタに組込み、記録紙へのインク吐出を確認した。