以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[第1の実施の形態]
{1.2台のレーダ装置の位置関係}
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置100の構成を示す機能ブロック図である。レーダ装置100は、ドップラ送信信号PVS1を送信波PVW1として出力し、送信波PVW1が物標で反射した反射波を含む受信波RWを受信する。ドップラ送信信号PVS1は、送信信号TS1に仮想的なドップラシフト周波数を付加した信号である。レーダ装置100は、受信波RWに含まれる反射波を用いて物標を検出する。
図2は、図1に示すレーダ装置100と他のレーダ装置200との位置関係の一例を示す図である。図2を参照して、レーダ装置100は、車両1Aに搭載される。レーダ装置100は、車両1Aの前端面に設置され、送信波PVW1を車両1Aの前方に照射する。送信波PVW1が車両2Aで反射した反射波RFLは、レーダ装置100の受信アンテナ13により受信された場合、受信アンテナ13により反射信号RFSに変換される。レーダ装置100は、反射信号RFSを用いて車両2Aを検出する。
以下の説明において、車両1Aの「前方」とは、車両1Aの直進進行方向であって、運転席からステアリングに向かう方向である。車両1Aの「後方」とは、車両1Aの直進進行方向であって、ステアリングから運転席に向かう方向である。車両1Aの「左方」とは、車両1Aの直進進行方向及び鉛直方向に垂直な方向であって、車両1Aの前方を基準として左方向である。車両1Aの「右方」とは、車両1Aの直進進行方向及び鉛直方向に垂直な方向であって、車両1Aの前方を基準として右方向である。車両2Aの方向は、車両1Aと同様に定義される。
車両1Aは、片側1車線の対面通行式の道路を走行している。車両2Aは、車両1Aが走行する車線と別の車線において、車両1Aと反対方向に走行している。車両2Aは、レーダ装置200を搭載する。車両2Aが、本実施の形態における物標である。
レーダ装置200は、レーダ装置100と同じ構成を有し、車両2Aの前端面に設置される。レーダ装置200は、ドップラ送信信号PVS2を生成し、その生成したドップラ送信信号PVS2を送信波PVW2として出力する。送信波PVW2は、車両2Aの前方に照射される。送信波PVW2の中心周波数は、送信波PVW1の中心周波数と同じである。また、送信波PVW2は、レーダ装置100の受信アンテナ13により受信された場合、受信アンテナ13により干渉信号ISに変換される。
以下、レーダ装置200に関して、レーダ装置100と同じ内容の説明を省略する。
{2.FCM方式を用いた物標検出の概略}
レーダ装置100は、FCM(Fast Chirp Modulation)方式で物標を検出する。FCM方式は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式で必要なアップピークとダウンピークのペアリング処理が不要であることから、誤ペアリングによる物標の誤認識という問題が発生しない。従って、FCM方式は、FMCW方式に比べてより正確な物標検出が期待される。
ここで、FCM方式のレーダ装置における、距離と相対速度の算出方法について簡単に説明する。レーダ装置は、のこぎり波状のチャープ信号を生成し、その生成したチャープ信号をFMCW方式と比べて短い周期で送信する。レーダ装置は、受信波を受信し、送信信号とこの受信波から得られる受信信号とをミキシングすることによりビート信号を生成する。レーダ装置は、その生成したビート信号に対して2次元FFT(Fast Fourier Transform)を施す。レーダ装置は、2次元FFTにより得られた2次元パワースペクトルに現れたピークに基づいて、レーダ装置から物標までの距離と、レーダ装置から見た物標の相対速度を取得する。
物標までの距離の取得についてさらに説明する。レーダ装置から物標までの距離が長くなるほど、送信信号に対する受信信号の時間遅延が大きくなるため、ビート信号の周波数は、物標までの距離に比例する。そのため、ビート信号に対して1回目のFFTを施すことにより、物標までの距離に対応する周波数の位置にピークが出現する。1回目のFFTは、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、レンジビンという場合がある)ごとに受信レベルや位相情報を抽出するため、正確には物標までの距離に対応する周波数のレンジビンにピークが出現する。つまり、1回目のFFTにおいてピーク周波数を検出することで物標までの距離を求めることができる。
相対速度の算出について説明する。レーダ装置は、ビート信号に含まれるドップラシフト周波数を検出することにより、相対速度を取得する。物標の相対速度が0km/hである場合、受信信号は、ドップラシフト周波数を含まない。この場合、ビート信号の位相は全て同じになる。一方、物標の相対速度が0km/hでない場合、受信信号は、相対速度に応じたドップラシフト周波数を含む。この場合、ビート信号は、ドップラシフト周波数に応じた位相情報を有する。従って、1回目のFFTにより得られたビート信号のパワースペクトルを時系列に並べて2回目のFFTを行うことにより、ドップラシフト周波数に応じた位置にピークが出現する。2回目のFFTは、速度分解能に応じた所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、速度ビンという場合がある)ごとに位相情報を抽出するため、ドップラシフト周波数に対応する速度ビンの位置にピークが出現する。このように、2回目のFFTで得られるピークの周波数に基づいて、相対速度を求めることができる。
{3.レーダ装置100の構成}
図1を参照して、レーダ装置100は、送信部11と、送信アンテナ12と、複数の受信アンテナ13と、複数の受信部14と、信号処理部15と、干渉波検出部16と、物標データ生成部17と、メモリ18とを備える。本実施の形態では、レーダ装置100は、4つの受信アンテナ13と4つの受信部14とを備えている。受信アンテナ13と受信部14とは1対1で対応する。
送信部11は、仮想的なドップラシフト周波数が付加されたドップラ送信信号PVS1を生成し、その生成したドップラ送信信号PVS1を送信アンテナ12に供給する。送信アンテナ12は、送信部11から受けたドップラ送信信号PVS1を送信波PVW1として送信する。従って、送信波PVW1は、仮想的なドップラシフト周波数を含む。
図3は、図1に示す送信部11の構成を示す機能ブロック図である。図3を参照して、送信部11は、送信制御部111と、信号生成部112と、位相変化部113とを備える。図3において、小括弧で括られている符号は、レーダ装置200が備える送信部21の構成要素を示す。
送信制御部111は、送信波PVW1の送信期間及び中心周波数を決定する。また、送信制御部111は、図1に示すパターンテーブル31に記録されている複数の位相加算パターンの中から、位相変化部113が使用する位相加算パターンを決定する。
信号生成部112は、送信制御部111により決定された送信期間において、送信信号TS1を生成する。送信信号TS1は、複数のチャープ信号を含む。送信信号TS1の周期は、例えば、数十μsecである。信号生成部112は、スイープ信号生成部115と、発振器116とを備える。
スイープ信号生成部115は、波形がのこぎり状である電圧信号をスイープ信号として生成する。スイープ信号において、電圧は、基準電圧から時間の経過とともに一定の割合で増加し、送信信号TS1の周期に相当する時間を経過した時点で基準電圧まで急降下する変化を繰り返す。スイープ信号の周期は、送信信号TS1の周期と同じである。
発振器116は、送信制御部111が決定した中心周波数を有する連続波を生成する。発振器116は、スイープ信号生成部115により生成されたスイープ信号を用いて、生成した連続波を周波数変調する。これにより、送信信号TS1が生成される。発振器116は、生成した送信信号TS1を位相変化部113に出力する。
位相変化部113は、発振器116から送信信号TS1を受け、その受けた送信信号TS1に周期的な位相変化を与える。これにより、仮想的なドップラシフト周波数が送信信号TS1に付加される。つまり、位相変化部113は、送信信号TS1から、仮想的なドップラ周波数を含むドップラ送信信号PVS1が生成する。具体的には、位相変化部113は、送信信号TS1に含まれる連続するK個のチャープ信号の各々の位相を、送信制御部111により決定された位相加算パターンに基づいて変化させる。Kは、3以上の自然数である。つまり、ドップラ送信信号PVS1の位相は、K個のチャープ信号ごとに周期的に変化する。位相変化部113は、生成したドップラ送信信号PVS1を、送信アンテナ12及び後述するミキサ141に出力する。
なお、レーダ装置200が備える送信部21は、送信制御部211と、信号生成部212と、位相変化部213とを備える。信号生成部212は、スイープ信号生成部215と、発振器216とを備える。位相変化部213は、信号生成部212により生成された送信信号TS2に、仮想的なドップラシフト周波数を付加することにより、ドップラ送信信号PVS2を生成する。位相変化部213は、その生成したドップラ送信信号PVS2をレーダ装置200の送信アンテナ(図示省略)に供給する。レーダ装置200の送信アンテナは、位相変化部213から受けたドップラ送信信号PVS2を、送信波PVW2として送信する。従って、送信波PVW2は、仮想的なドップラシフト周波数を含む。
送信部21の構成は、位相変化部213が使用する位相加算パターンが、位相変化部113が使用する位相加算パターンと異なる点を除き、送信部11の構成と同じである。そのため、送信部21の構成の詳細な説明を省略する。
複数の受信アンテナ13の各々は、受信波RWを受信し、その受信した受信波RWを受信信号RSに変換する。受信波RWは、反射波RFLと送信波PVW2とを含む。
複数の受信部14の各々は、対応する受信アンテナ13から受信信号RSを取得する。受信部14により取得された受信信号RSは、図示しないローノイズアンプで増幅される。複数の受信部14の各々は、ミキサ141と、A/D変換器142とを備える。
ミキサ141は、増幅された受信信号RSを、位相変化部113から受けたドップラ送信信号PVS1とミキシングすることにより、ビート信号BSを生成する。すなわち、ミキサ141は、受信アンテナ13により取得された受信信号RSに、位相変化部113が送信信号TS1に与えた周期的な位相変化と逆の位相変化を与える逆位相変化部として動作する。ビート信号BSは、受信信号RSの周波数とドップラ送信信号PVS1の周波数との差であるビート周波数を有する。ミキサ141は、生成したビート信号BSをA/D変換器142に出力する。A/D変換器142は、ミキサ141から受けたビート信号BSを離散化し、その離散化されたビート信号BSを信号処理部15に出力する。
信号処理部15は、複数の受信部14の各々から、離散化されたビート信号BSを取得し、その取得したビート信号BSを処理する。信号処理部15は、フーリエ変換部151を含む。
フーリエ変換部151は、複数の受信部14の各々から取得したビート信号BSに対して2次元FFTを施すことにより、2次元パワースペクトル33を生成する。フーリエ変換部151は、生成した2次元パワースペクトル33を干渉波検出部16及び物標データ生成部17に出力する。
干渉波検出部16は、信号処理部15から2次元パワースペクトル33を受け、その受けた2次元パワースペクトル33に含まれるピークの中から、少なくとも2つの干渉波ピークを検出する。具体的には、干渉波検出部16は、2次元パワースペクトル33に含まれる少なくとも2つのピークが所定の位置関係を満たすか否かを判断する。所定の位置関係とは、少なくとも2つのピークが速度ビンの方向に並び、かつ、これら少なくとも2つのピークの間隔が、送信波PVW2に含まれる第1の仮想的なドップラシフト周波数と、第2の仮想的なドップラシフト周波数との差に相当することである。干渉波検出部16は、2次元パワースペクトルが所定の位置関係を満たす少なくとも2つのピークを含む場合、これら少なくとも2つのピークを干渉波ピークとして検出する。干渉波検出部16は、物標ピークを記録したピークデータ34を物標データ生成部17に出力する。
干渉波ピークが検出された場合、干渉波検出部16は、検出フラグ35をセットすることにより、干渉波ピークが検出されたことを送信制御部111に通知する。干渉波ピークが検出されなかった場合、干渉波検出部16は、検出フラグ35をクリアして、干渉波ピークが検出されなかったことを送信制御部111に通知する。ここで、検出フラグ35のセットは、検出フラグ35の値を1に変更することである。検出フラグ35のクリアは、検出フラグ25の値を0に変更することである。
物標データ生成部17は、信号処理部15から2次元パワースペクトル33を受け、干渉波検出部16からピークデータ34を受ける。物標データ生成部17は、ピークデータ34を参照して、2次元パワースペクトル33に含まれる物標ピークを特定する。物標データ生成部17は、特定した物標ピークに基づいて、レーダ装置100から物標までの距離と、レーダ装置100を基準とした物標の相対速度とを求める。物標データ生成部17は、求めた距離及び相対速度を含む物標データを、車両制御ECU(Electronic Control Unit)50に出力する。
車両制御ECU50は、物標データ生成部17から受けた物標データを、例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)に利用する。
メモリ18は、不揮発性の記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリである。メモリ18は、パターンテーブル31を記憶する。パターンテーブル31は、複数の位相加算パターンを記録する。複数の位相加算パターンのいずれか1つが、送信信号TS1の位相を変化させる際に使用される。パターンテーブル31の詳細については後述する。
{4.レーダ装置100の動作}
{4.1.送信波PVW1の送信}
図4は、レーダ装置100により実行される送信波PVW1の送信処理のフローチャートである。
送信制御部111は、送信期間と、中心周波数と、位相加算パターンとを決定する(ステップS11)。具体的には、送信制御部111は、送信波PVW1の初期設定(図示省略)をメモリ18から読み出し、その読み出した初期設定に基づいて、送信期間と、中心周波数とを決定する。また、送信制御部111は、パターンテーブル31に記録された複数の位相加算パターンの中から、位相変化部113が用いる位相加算パターンをランダムに選択する。送信制御部111は、決定した送信期間をスイープ信号生成部115に通知し、決定した中心周波数を発振器116に通知する。また、送信制御部111は、選択した位相加算パターンを位相変化部113に通知する。
スイープ信号生成部115は、送信制御部111から通知された送信期間において、スイープ信号を生成する(ステップS12)。スイープ信号の周期は、予めスイープ信号生成部115に設定されている。スイープ信号生成部115は、生成したスイープ信号を発振器116に出力する。
発振器116は、送信制御部111から通知された中心周波数を有する連続波を生成する。発振器116は、スイープ信号生成部115から受けたスイープ信号を用いて、生成した連続波を周波数変調することにより、送信信号TS1を生成する(ステップS13)。発振器116は、生成した送信信号TS1を位相変化部113に出力する。
位相変化部113は、送信制御部111から通知された位相加算パターンを用いて、発振器116から受けた送信信号TS1の位相を変化させることにより、ドップラ送信信号PVS1を生成する(ステップS14)。ステップS14の詳細については、後述する。
位相変化部113は、生成したドップラ送信信号PVS1を送信アンテナ12に供給する。送信アンテナ12は、位相変化部113から受けたドップラ送信信号PVS1を、送信波PVW1として空間に出力する。
{4.2.送信信号TS1の位相変化(ステップS14)の詳細}
図5は、レーダ装置100のメモリ18に記録されるパターンテーブル31の一例を示す図である。
図5を参照して、パターンテーブル31は、複数の位相加算パターンを記録している。位相加算パターンの各々は、連続する4個のチャープ信号の各々の位相に加算すべき4個の位相加算量を記録している。具体的には、位相加算パターン1において、1~4周期目の位相加算量は、315°、45°、18.43°、及び225°である。位相加算パターン2において、1~4周期目の位相加算量は、341.57°、315°、45°、及び135°である。位相加算パターン3において、1~4周期目の位相加算量は、18.43°、135°、135°、及び135°である。
図6は、位相変化部113が位相加算パターン1を用いた場合における送信信号TS1の位相の変化を示す図である。図6を参照して、送信信号TS1は、チャープ信号C1~Cnを含む。nは、K+1以上の自然数である。送信期間は、時刻T1から時刻T2までの期間、すなわちチャープ信号C1~Cnを送信する期間である。
位相加算パターン1を用いて送信信号TS1の位相を変化させる場合、位相変化部113は、1周期目のチャープ信号C1の位相に315°を加算する。続いて、位相変化部113は、2周期目のチャープ信号C2の位相に45°を加算し、3周期目のチャープ信号C3の位相に18.43°を加算し、4周期目のチャープ信号C4の位相に225°を加算する。位相変化部113は、送信信号TS1に含まれる5周期目のチャープ信号C5の位相に、位相加算パターン1の1周期目の位相加算量である315°を加算する。
このように、位相変化部113は、位相加算パターン1に記録された1~4周期目の位相を、送信信号TS1に含まれる5周期目以降のチャープ信号の位相に加算する処理を繰り返す。この結果、送信信号TS1の位相が4個のチャープ信号ごとに周期的に変化するドップラ送信信号PVS1が生成される。
{4.3.位相加算パターンの生成方法}
以下、パターンテーブル31に記録されている位相加算パターンの生成方法を説明する。図7は、図5に示す位相加算パターン1~3の生成に用いられる基本パターンを示す図である。
送信信号TS1に含まれるチャープ信号の位相を4周期ごとに変化させる場合(K=4である場合)、位相加算パターンは、図7に示す4個の基本パターンを組み合わせることにより生成される。第1~第4基本パターンの各々において、1~4周期目のチャープ信号に加算される位相加算量が、一定の割合で増加する。
第1基本パターンにおいて、位相の変化量が0°に設定されるため、位相加算量が、1周期ごとに0°増加する。この結果、第1基本パターンにおける1~4周期目の各々の位相加算量は、全て0°である。
第2基本パターンにおいて、位相の変化量が、90°に設定されるため、位相加算量は、1周期ごとに90°増加する。この結果、第2基本パターンにおける1~4周期目の各々の位相加算量は、0°、90°、180°、270°である。第2基本パターンを用いてチャープ信号の位相を変化させた場合、M周期目のチャープ信号と、M+1周期目のチャープ信号との位相差は、90°である。Mは、2以上K-1以下の自然数である。
第3基本パターンにおいて、位相の変化量が、180°に設定されるため、位相加算量は、1周期ごとに180°増加する。この結果、第3基本パターンにおける1~4周期目の各々の位相加算量は、0°、180°、360°、540(180)°である。第3基本パターンを用いてチャープ信号の位相を変化させた場合、M周期目のチャープ信号と、M+1周期目のチャープ信号との位相差は、180°である。
第4基本パターンにおいて、位相の変化量が、270°に設定されるため、位相加算量は、1周期ごとに270°増加する。この結果、第4基本パターンにおける1~4周期目の各々の位相加算量は、0°、270°、540(180)°、810(90)°である。第4基本パターンを用いてチャープ信号の位相を変化させた場合、M周期目のチャープ信号と、M+1周期目のチャープ信号との位相差は、270°である。
第1~第4基本パターンの少なくとも1つに対して、後述する変更を加えた上で、第1~第4基本パターンを複素平面上で合成する。この結果生成された合成位相が、位相加算パターンとして用いられる。
図8は、図7に示す基本パターンの合成を示す図である。図8を参照して、ベクトルB1~B4は、第1~第4基本パターンにそれぞれ対応する。ベクトルB1~B4の振幅を、1に正規化している。第1~第4基本パターンの位相は、1周期目において全て0°であるため、合成ベクトルの位相は0°であり、合成ベクトルの振幅は4である、従って、図7に示す第1~第4基本パターンにおける1周期目の合成位相は、0°である。
続いて、図7に示す第1~第4基本パターンの2周期目を合成した場合、図8に示すように、ベクトルB1、B3が打ち消し合い、ベクトルB2、B4が打ち消し合う。この結果、合成ベクトルは零ベクトルとなる。従って、図7に示す第1~第4基本パターンの2周期目における合成位相は存在しない。
図7に示す第1~第4基本パターンの3周期目を合成した場合、ベクトルB1、B2が打ち消し合い、ベクトルB3、B4が打ち消し合う。図7に示す第1~第4基本パターンの4周期目を合成した場合、ベクトルB1、B3が打ち消し合い、ベクトルB2、B4が互いに打ち消し合う。2周期目と同様に、3、4周期目の合成ベクトルは零ベクトルとなる。従って、図7に示す第1~第4基本パターンの2周期目、3周期目における合成位相は存在しない。
図7に示す第1~第4基本パターンを合成した場合、2~4周期目において、合成位相を取得することができない。従って、図7に示す合成位相は、位相加算パターンとして用いられない。
図9は、図5に示す位相加算パターン1の生成に用いられる基本パターンを示す図である。位相加算パターン1は、図7に示す第2基本パターンの位相加算量を1周期後ろにずらし、図7に示す第4基本パターンの位相加算量を2周期後ろにずらすことによって生成される。具体的には、図7に示す第2基本パターンにおいて、1~4周期目における位相加算量は、270°、0°、90°、180°である。図7に示す第4基本パターンにおいて、1~4周期目における位相加算量は、540(180)°、810(90)°、0°、270°である。
図10は、図9に示す第1~第4基本パターンの合成を示す図である。図9に示す第1~第4基本パターンの1周期目を合成した場合、ベクトルB3、B4が打ち消し合い、ベクトルB1、B2が合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1、B2の位相が0°、270°であるため、合成ベクトルGの位相は315°である。合成ベクトルGの振幅は1.41である。
図9に示す第1~第4基本パターンの2周期目を合成した場合、ベクトルB2、B3が、図10に示すように打ち消し合い、ベクトルB1、B4が合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1、B4の位相が0°、810°(90)°であるため、合成ベクトルGの位相は、45°である。合成ベクトルGの振幅は、1.41である。
図9に示す第1~第4基本パターンの3周期目を合成した場合、ベクトルB1~B4は、図10に示すように、打ち消し合うことなく、合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1~B4の位相は、0°、90°、360(0)°、0°であるため、合成ベクトルGの位相は、18.43°である。合成ベクトルGの振幅は、3.16である。
図9に示す第1~第4基本パターンの4周期目を合成した場合、ベクトルB1、B3は、図10に示すように打ち消し合い、ベクトルB2、B4が合成ベクトルGを生成する。ベクトルB2、B4の位相は、180°、270°であるため、合成ベクトルGの位相は、225°である。合成ベクトルGの振幅は、1.41である。
このように、図9に示す第1~第4基本パターンの合成により得られた合成位相が、図5に示す位相加算パターン1として用いられる。
図5に示す位相加算パターン2は、図7に示す第2基本パターンを1周期後ろにずらした上で、第1~第4基本パターンを合成することにより生成される。つまり、第1~第4基本パターンの少なくとも1つをずらした上で、第1~第4基本パターンを合成することにより、位相加算パターンを生成することができる。
図5に示す位相加算パターン3は、図7に示す第1基本パターンの各周期に90°を加算した上で、第1~第4基本パターンを合成することにより生成される。図11は、位相加算パターン3の生成に用いられる基本パターンを示す図である。図11を参照して、第1基本パターンは、各周期において90°であり、図7に示す第1基本パターンの位相に90°が加算されていることが分かる。第2~第4基本パターンは、図7に示す第2~第4基本パターンと同じである。
図12は、図11に示す基本パターンの合成を示す図である。図11に示す第1~第4基本パターンの1周期目を合成した場合、ベクトルB1~B4は、打ち消し合うことなく、合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1~B4の位相が、90°、0°、0°、0°、であるため、合成ベクトルGの位相は、18.43°である。合成ベクトルGの振幅は、3.16である。
図11に示す第1~第4基本パターンの2周期目を合成した場合、ベクトルB2、B4は、図12に示すように打ち消し合い、ベクトルB1、B3が、合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1、B3の位相が、90°、180°であるため、合成ベクトルGの位相は、135°である。合成ベクトルGの振幅は、1.41である。
図11に示す第1~第4基本パターンの3周期目を合成した場合、ベクトルB3、B4は、図12に示すように互いに打ち消し合い、ベクトルB1、B2が、合成ベクトルGを生成する。ベクトルB2、B4の位相が、180°、90°であるため、合成ベクトルGの位相は、135°である。合成ベクトルGの振幅は、1.41である。
図11に示す第1~第4基本パターンの4周期目を合成した場合、ベクトルB2、B4は、図12に示すように互いに打ち消し合い、ベクトルB1、B3が、合成ベクトルGを生成する。ベクトルB1、B3の位相が、90°、180°であるため、合成ベクトルGの位相は、135°である。合成ベクトルGの振幅は、1.41である。
このように、第1~第4基本パターンの少なくとも1つに所定の角度を加算した上で、第1~第4基本パターンを合成することにより、位相加算パターンを生成することができる。加算される角度は、90°以外の角度でもよく、特に限定されない。加算される角度は、各周期で同じであればよい。また、第1~第4基本パターンの少なくとも1つの周期をずらした上で、角度を加算してもよい。あるいは、所定の角度を加算する方法と、基本パターンの周期をずらす方法とを組み合わせて、位相加算パターンを生成してもよい。
{4.4.位相変化の効果}
位相変化部113は、位相加算パターンを用いて送信信号TS1の位相を変化させる(図4に示すステップS14)。これにより、位相変化部113は、仮想的なドップラシフト周波数を送信信号TS1に付加することができる。
図7を参照して、第1基本パターンに基づいて、送信信号TS1の位相を変化させた場合を想定する。第1基本パターンにおいて、M周期目のチャープ信号とM+1周期目のチャープ信号との位相差が0°である。従って、第1基本パターンに基づく送信信号TS1の位相変化は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が0°変化するドップラシフト周波数を送信信号TS1に付加することを意味する。
同様に、第2基本パターンに基づく送信信号TS1の位相変化は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が90°変化するドップラシフト周波数を送信信号TS1に付加することを意味する。第3基本パターンに基づくチャープ信号の位相変化は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が180°変化するドップラシフト周波数を送信信号TS1に付加することを意味する。第4基本パターンに基づくチャープ信号の位相変化は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が270°変化するドップラシフト周波数を送信信号TS1に付加することを意味する。
位相変化部113は、第1~第4基本パターンを合成した位相加算パターン1を用いて、送信信号TS1の位相を周期的に変化させる。この結果、レーダ装置100は、4つの仮想的なドップラシフト周波数を含むドップラ送信信号PVS1を生成することができる。なお、位相加算パターン2、3に基づいて生成されたドップラ送信信号PVS1は、位相加算パターン1に基づいて生成されたドップラ送信信号PVS1が有するドップラシフト周波数と同じドップラシフト周波数を有する。位相加算パターン1~3は、図7に示す第1~第4基本パターンに基づいて生成されているためである。
レーダ装置200において、位相変化部213は、位相加算パターン2を用いて送信信号TS2の位相を周期的に変化させる。この結果、ドップラ送信信号PVS2と送信波PVW2とは、4つ仮想的なドップラシフト周波数を含む。詳細については後述するが、レーダ装置100は、レーダ装置200からの送信波PVW2を受信した場合、送信波PVW2に含まれる4つの仮想的なドップラシフト周波数に対応するピークを、干渉波ピークとして検出する。
なお、本実施の形態では、位相変化部113が送信信号TS1に含まれるチャープ信号の位相を4周期ごとに変化させる例を説明したが、これに限られない。位相変化部113は、送信信号TS1の位相をK個のチャープ信号ごとに変化させてもよい。Kは、2以上の自然数である。この場合、第1~第K基本パターンが位相加算パターンの生成に用いられる。第1~第K基本パターンにおける位相の変化量は、1周期分の位相(360°)をKで除した基本変化量の倍数である。変化量の最小値は、0°であり、変化量の最大値は、基本変化量×(K-1)°である。第2~第K基本パターンのうち少なくとも1つをずらすか、あるいは、所定の角度を第2~第K基本パターンのうち少なくとも1つに加算した上で合成した位相が、位相加算パターンとして用いられる。これにより、レーダ装置100は、K個の仮想的なドップラシフト周波数を含む送信波PVW1を送信することができる。
{4.5.受信波RWの受信処理}
図13は、レーダ装置100により実行される受信波RWの受信処理のフローチャートである。レーダ装置100は、図13を示す受信処理を実行することにより、受信波RWから物標である車両2Aを検出する。
以下、レーダ装置100の位相変化部113が、図5に示す位相加算パターン1を用いてドップラ送信信号PVS1を生成し、他のレーダ装置200の位相変化部213が、図5に示す位相加算パターン2を用いてドップラ送信信号PVS2を生成した場合を例にして、受信波RWの受信処理を説明する。
受信アンテナ13は、受信波RWを受信し、その受信した受信波RWを受信信号RSに変換する。受信アンテナ13は、受信信号RSを受信部14に出力する。受信部14において、ミキサ141は、受信信号RSを受信アンテナ13から受け、ドップラ送信信号PVS1を送信部11から受ける。ミキサ141は、受信信号RSをドップラ送信信号PVS1とミキシングすることにより、ビート信号BSを生成する。
ビート信号BSは、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数を含まず、干渉信号IS(他のレーダ装置200からの送信波PVW2)に由来する仮想的なドップラシフト周波数を含む。
受信信号RSが反射信号RFSのみを含むと仮定した場合、ビート信号BSは、反射信号RFSとドップラ送信信号PVS1との差分信号である。反射信号RFSは、ドップラ送信信号PVS1が有する仮想的なドップラシフト周波数に加えて、物標(車両2A)の相対速度に相当する真のドップラシフト周波数を含む。ビート信号BSの位相は、ドップラ送信信号PVS1と反射信号RFSとの位相差である。反射信号RFSとドップラ送信信号PVS1とは同じ位相変化を有するため、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングにより、ドップラ送信信号PVS1に含まれる仮想的なドップラシフト周波数と相殺される。この結果、ビート信号BSは、仮想的なドップラシフト周波数を含まず、真のドップラシフト周波数を含む。
受信信号RSが干渉信号ISのみを含むと仮定した場合、ビート信号BSは、干渉信号ISとドップラ送信信号PVS1との差分信号である。干渉信号ISは、ドップラ送信信号PVS2が有する仮想的なドップラシフト周波数と、物標(車両2A)の相対速度に相当する真のドップラシフト周波数とを含む。ビート信号BSの位相は、干渉信号ISとドップラ送信信号PVS1との位相差である。位相加算パターン1により生成されたドップラ送信信号PVS1は、位相加算パターン2により生成されたドップラ送信信号PVS2(干渉信号IS)と異なる位相変化を有するため、干渉信号ISに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングにより、ドップラ送信信号PVS1に含まれる仮想的なドップラシフト周波数と相殺されない。この結果、ビート信号BSは、真のドップラシフト周波数と、位相加算パターン2に基づく仮想的なドップラシフト周波数とを含む。
実際には、受信信号RSが、反射信号RFSと干渉信号ISとを含むため、ビート信号BSは、車両2Aの相対速度に基づく真のドップラシフト周波数と、位相加算パターン2に基づく仮想的なドップラシフト周波数とを含む。つまり、ミキサ141は、ドップラ送信信号PVS1と受信信号RSとをミキシングすることにより、送信信号TS1に与えられた周期的な位相変化と逆の位相変化を受信信号RSに与える逆位相変化部として機能する。この結果、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は打ち消される。レーダ装置100は、ミキサ141とは別に逆位相変化部としてとして動作する機能部を備えなくてもよく、レーダ装置100の構成を簡略化することができる。反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数を打ち消す
ミキサ141により生成されたビート信号BSは、A/D変換器142により離散化される。A/D変換器142は、離散化されたビート信号BSをフーリエ変換部151に出力する。
フーリエ変換部151は、A/D変換器142から離散化されたビート信号BSを受け、その受けたビート信号BSに対して2次元FFTを実行する(ステップS21)。フーリエ変換部151は、2次元FFTにより得られた2次元パワースペクトル33を干渉波検出部16に出力する。
干渉波検出部16は、フーリエ変換部151から2次元パワースペクトル33を受け、その受けた2次元パワースペクトル33から、所定の閾値よりも大きいパワーを有するピークを抽出する(ステップS22)。ピークの抽出方法は、特に限定されない。
干渉波検出部16は、ステップS22で抽出されたピークの中から、干渉波ピークを検出する(ステップS23)。干渉波検出部16は、干渉波ピーク以外のピークを、物標を示す物標ピークとして特定し、各物標ピークのレンジビン及び速度ビンを記録したピークデータ34を物標データ生成部17に出力する。ステップS23の詳細については、後述する。
物標データ生成部17は、ピークデータ34を干渉波検出部16から受け、その受けたピークデータ34に記録された各物標ピークのレンジビン及び速度ビンに基づいて、レーダ装置100から物標までの距離と、レーダ装置100から見た物標の相対速度を決定する(ステップS24)。物標データ生成部17は、反射波RFLの到来方向を、物標の方位として推定する(ステップS25)。到来方向を推定する方法は、特に限定されず、例えば、ESPRIT、MUSIC、及びPRISM等を用いることができる。
物標データ生成部17は、ステップS24で得られた距離及び相対速度と、ステップS25で得られた物標の方位とに基づいて、各物標の位置と、距離と、相対速度とを記録した物標データを生成する(ステップS26)。
物標データ生成部17は、物標データを1つ以上のクラスタにクラスタリングする(ステップS27)。具体的には、一の物標データに記録された一の物標の位置から、他の物標データに記録された他の物標の位置までの距離が所定の距離よりも短い場合、物標データ生成部17は、これらの物標データを数珠つなぎにつなぐことによりクラスタを生成する。ステップS27以降の処理では、1つのクラスタが1つの物標に対応する。このため、物標データがクラスタごとに生成される。
物標データ生成部17は、新たに検出された物標(クラスタ)を、過去に検出された物標と対応付ける追跡処理を実行する(ステップS28)。追跡処理の方法は特に限定されない。物標データ生成部17は、新たに検出された物標を、3種類の物標に分類する(ステップS29)。3種類の物標は、具体的には、静止物標、レーダ装置100が搭載された自車両1Aの前方に移動する移動物標、及び自車両1の後方に移動する移動物標である。物標データ生成部17は、新たに検出された物標の分類を物標データに記録する。
物標データ生成部17は、不要物に対応する物標データを除去する(ステップS30)。例えば、不要物は、自車両1Aの車高よりも高い位置に存在する静止物標である。物標データ生成部17は、ステップS30において除去されなかった物標データのパラメータに基づいて、同一の物体に関する物標データであると推測できる複数の物標データを1つの物標データにグループ化する(ステップS31)。
送信制御部111は、干渉波検出部16による干渉波ピークの検出結果に基づいて、干渉抑制処理を実行する(ステップS32)。干渉波ピークが検出された場合、送信制御部111は、送信波PVW1の中心周波数を変更するか否かを判断する。送信制御部111は、中心周波数の変更を決定した場合、所定の規則に従って中心周波数を変更する。ステップS32の詳細は後述する。
物標データ生成部17は、ステップS31により得られた物標データを車両制御ECU50に出力する。また、ステップS31により得られた物標データは、メモリ18に記憶される。物標データ生成部17は、図13に示す処理を新たに実行する場合、メモリ18に記憶された物標データを、過去に検出された物標データとして使用する。
{4.6.干渉波ピークの検出(ステップS23)}
(干渉波ピーク検出の概略)
図14は、1回目のFFTにより得られたパワースペクトル32の一例を示す図である。図14に示すパワースペクトル32において、1回目のFFTにより得られる各ビート信号のパワースペクトルが、レンジビン方向及びパワー方向に直交する方向に配列されている。つまり、図14において、送信信号TS1に含まれるチャープ信号の数と同じ数のパワースペクトルが、レンジビン方向及びパワー方向に直交する方向に配列されている。パワースペクトル32は、2つのピークP10、P20を含む。ピークP10は、物標ビークであり、送信波PVW1が車両2Aで反射した反射波RFLに対応する。ピークP20は、干渉波ピークであり、車両2Aに搭載された他のレーダ装置200からの送信波PVW2に対応する。
干渉波検出部16は、ピークP20を干渉波ピークとして検出することができない。1回目のFFTでは、送信波PVW2に付加された仮想的な4つのドップラシフト周波数が分離されていないためである。
図15は、2回目のFFTにより得られる2次元パワースペクトル33を示す図である。図15を参照して、2次元パワースペクトル33は、ピークP11と、ピークP21~P24とを含む。ピークP11は、図14に示すピークP10から抽出された、車両2Aを示す物標ピークである。ピークP21~P24は、図14に示すピークP20から分離された干渉波ピークである。ピークP21~P24は、送信波PVW2に含まれる仮想的な4つのドップラシフト周波数に対応するため、レンジビンfbにおいて速度ビン方向に一列に並んでいる。干渉波検出部16は、2次元パワースペクトル33において、速度軸方向に一列に並び、送信波PVW2に含まれる仮想的なドップラシフト周波数に対応するピークを干渉波ピークとして検出する。
(干渉波検出部16の動作)
図16は、図13に示す干渉波ピーク検出(ステップS23)のフローチャートである。図16を参照して、干渉波検出部16は、ステップ23で抽出されたピークのうち、物標ピーク又は干渉波ピークに分類されてないピークを1つ選択し(ステップS231)、選択したピークのレンジビンを特定する(ステップS232)。
干渉波検出部16は、特定したレンジビンにおいて、速度ビン方向に並ぶ複数のピークが存在するか否かを判断する(ステップS233)。レーダ装置100が他のレーダ装置200から送信波PVW2を受信した場合、送信波PVW2に含まれる4つの仮想的なドップラシフト周波数に対応する干渉波ピークが速度ビン方向に一列に並ぶためである。
複数のピークが存在しない場合(ステップS233においてNo)、干渉波検出部16は、選択したピークが物標ピークであると判断し(ステップS238)、ステップS237に進む。一方、複数のピークが存在する場合(ステップS233においてYes)、干渉波検出部16は、複数のピークの間隔が、レーダ装置200からの送信波PVW2に含まれる4つの仮想的なドップラシフト周波数の差に対応するか否かを判断する(ステップS234)。つまり、干渉波検出部16は、複数のピークの間隔が干渉信号ISに含まれる位相変化から導かれる複数の仮想的なドップラ周波数の差に対応するか否かを判断する。干渉信号ISに含まれる位相変化は、他のレーダ装置200の位相変化部213が送信信号TS2に与えた位相変化のことである。レーダ装置100、200は、図5に示すパターンテーブル31を保持しているため、干渉波検出部16は、位相変化部213が与える位相変化から導かれる仮想的なドップラシフト周波数を特定することができる。
複数のピークの間隔が4つの仮想的なドップラシフト周波数の差に対応しない場合(ステップS234においてNo)、干渉波検出部16は、複数のピークが物標ピークであると判断する(ステップS238)。一方、複数のピークの間隔が4つの仮想的なドップラシフト周波数の差に対応する場合(ステップS234においてYes)、干渉波検出部16は、複数のピークを干渉波ピークの候補に決定し、複数のピークの全てのパワーが所定範囲内にあるか否かを判断する(ステップS235)。ステップS234の詳細については後述する。
全てのパワーが所定範囲内にある場合(ステップS235においてYes)、干渉波検出部16は、複数のピークが干渉波ピークであると判断する(ステップS236)。一方、全てのパワーが所定範囲内にない場合(ステップS235においてNo)、干渉波検出部16は、複数のピークが物標ピークであると判断する(ステップS238)。ステップS235の詳細については後述する。
干渉波検出部16は、2次元パワースペクトル33に現れた全てのピークを物標ピーク又は干渉波ピークに分類した場合(ステップS237においてYes)、図16に示す処理を終了する。干渉波検出部16は、未分類のピークがある場合(ステップS237においてNo)、ステップS241に戻る。
(ピーク間隔の判断(ステップSS234))
図15に示すピークP21~P24を例として、ステップS234について詳しく説明する。
ピークP21~P24は、レンジビンfbにおいて、速度ビン方向に一例に並んでいる(ステップS233においてYes)。このため、ピークP21~P24の間隔が仮想的なドップラシフト周波数の差に対応するか否かが判断される(ステップS234)。
上述のように、ビート信号BSは、干渉信号IS(他のレーダ装置200からの送信波PVW2)に由来する4つの仮想的なドップラシフト周波数を含む。従って、2次元パワースペクトル33は、送信波PVW2に含まれる4つの仮想的なドップラシフト周波数に対応する4つのピークを有すると考えられる。また、これら4つのピークは、一のレンジビンにおいて速度方向に一列に並ぶと考えられる。以上のことから、ピークP21~P24の速度ビン方向における間隔が、送信波PVW2に含まれる4つのドップラシフト周波数の差に対応する場合、干渉波検出部16は、ピークP21~P24が干渉波ピークであると判断する。
具体的には、他のレーダ装置200において、送信信号TS2の位相変化がK個のチャープ信号ごとに行われ、送信信号TS2のチャープ数がnである場合を想定する。Kは、2以上の自然数であり、nは、K+1以上の自然数である。2次元パワースペクトル33において速度ビン方向に並ぶ2つのピークの間隔が、(1/K)×nの倍数に対応する場合、これら2つのピークは、干渉波ピークであると判断される。送信信号TS2に付加されるドップラシフト周波数は、送信信号TS2のチャープ数であるnと、送信信号TS2におけるチャープ信号の位相変化を示すKとに基づいて決定される。従って、2つのピークが干渉波ピークである場合、これら2つのピークの速度ビン方向の間隔は、各ピークに対応するドップラシフト周波数の差に相当する。
上記の考えに基づいて、干渉波検出部16は、ピークP21~P24が干渉波ピークであるか否かを判断する。具体的には、干渉波検出部16は、ピークP21~P24において、2つのピークを選択する。干渉波検出部16は、選択した2つのピークの速度ビン方向の間隔が、(1/K)×nの倍数に対応する場合、選択した2つのピークが干渉波ピークであると判断する。例えば、ピークP21、P22が選択された場合、ピークP21とピークP22との間隔は、(1/K)×nに対応する。ピークP21、P23が選択された場合、ピークP21とピークP23との間隔は、(1/K)×nの2倍に対応する。ピークP21、P24が選択された場合、ピークP21とピークP24との間隔は、(1/K)×nの3倍に対応する。従って、干渉波検出部16は、ピークP21~P24が干渉波ピークの候補であると判断する(ステップS234においてYes)。
なお、レーダ装置100から見た車両2Aの相対速度が0km/hでない場合、相対速度に基づく真のドップラ成分の位相が、送信波PVW2に含まれる4つの仮想的なドップラ成分の位相に加算される。真のドップラ成分の位相が加わったとしても、4つの仮想的なドップラシフト周波数の間隔は一定である。従って、干渉波検出部16は、相対速度に基づく真のドップラ成分の影響を受けることなく、ピークP21~P24を、送信波PVW2に由来する干渉波ピークの候補として検出することができる。
なお、図15を参照して、ピークP21~P24は、レンジビンfbに位置するが、レンジビンfbは、レーダ装置100から車両2Aまでの距離を示さない。レンジビンfbは、レーダ装置100による送信波PVW1の送信タイミングと、他のレーダ装置200による送信波PVW2の送信タイミングとのずれによって決まり、送信波PVW2の送信タイミングは、送信波PVW1の送信タイミングと無関係に決まるためである。
このように、他のレーダ装置200が、2つ以上の仮想的なドップラシフト周波数を付加された送信波PVW2を送信することにより、レーダ装置100は、送信波PVW2に由来するピークを干渉波ピークの候補として検出することができる。同様に、他のレーダ装置200は、レーダ装置100により送信される送信波PVW1に由来するピークを干渉波ピークとして検出することができる。これにより、レーダ装置100、200は、受信信号に含まれる反射信号と干渉信号とを区別することが可能となる。
なお、レーダ装置200からの送信波PVW2が仮想的なドップラシフト周波数を含まない場合であっても、レーダ装置100は、送信波PVW2に由来するピークを干渉波ピークとして検出することができる。この場合、ミキサ141が、受信信号RSをドップラ送信信号PVS1とミキシングすることにより、位相変化部113が送信信号TS1に与えた周期的な位相変化が、干渉信号ISに付加される。位相変化部113が位相加算パターン1(図5参照)を用いた場合、ビート信号BSは、真のドップラシフト周波数と、位相加算パターン1に基づく仮想的なドップラシフト周波数を含む。この結果、2次元パワースペクトル33が速度軸方向に並び、位相加算パターン1から導かれる仮想的なドップラシフト周波数の差に対応する少なくとも2つのピークを含むか否かを判断することにより、干渉波ピークを検出することができる。
(ピークのばらつきの判断)
図15に示すピークP21~P24を例として、ピークのパワーが所定範囲内であるか否かの判断(ステップS235)について詳しく説明する。
干渉波検出部16は、干渉波ピークの候補と判断されたピークP21~P24におけるパワーの最小値及び最大値を特定する。干渉波検出部16は、特定した最小値と特定した最大値との差分絶対値を算出し、算出した差分絶対値が予め設定された閾値以下であるか否かを判断する。算出した差分絶対値が閾値以下である場合、ピークP21~P24の全てのパワーが所定範囲内であると判断する(ステップS235においてYes)。
図17は、図15に示す2次元パワースペクトル33における、速度ビン方向のパワースペクトルの一例である。具体的には、図17に示すパワースペクトルは、図15に示す2次元パワースペクトル33を、レンジビンfbの位置で、レンジビン方向に垂直な平面により切断した切断面の一部に相当する。図17を参照して、ピークP21~P24のパワーは、約-13dBであり、ほぼ同じ値を有する。つまり、ピークP21~P24におけるパワーの最小値と最大値との差分絶対値が所定の閾値(例えば、5dB)以下であるため、干渉波検出部16は、ピークP21~P24のパワーが所定範囲内であると判断する(ステップS235においてYes)。この結果、ピークP21~P24が、干渉波ピークであると特定される(ステップS236)。
ピークP21~P24が干渉波ピークである場合、ピークP21~P24のパワーが図17に示すようにほぼ一定にならないことがある。例えば、図9に示す位相加算パターン3において、振幅は、1周期目において3.16であり、2~4周期目において1.41である。他のレーダ装置200において、位相変化部213が、位相加算パターン3に基づいてチャープ信号の位相のみを変化させた場合、上記の振幅に応じたパワー差がピーク21~P24において現れる。この場合、ステップS235において用いられる閾値は、位相加算パターンの各周期における振幅に基づいて設定される。
他のレーダ装置200において、位相変化部213は、送信信号TS2の位相を変化させる際に、送信信号TS2に含まれるチャープ信号の振幅を調整することにより、2次元パワースペクトル33におけるピークP21~P24のパワーを揃えることができる。図11を参照して、位相変化部213が位相加算パターン3を使用する場合、位相変化部213は、送信信号TS2における1周期目のチャープ信号の振幅を1/3.16倍に調整し、2~4周期目のチャープ信号の振幅を1/1.41倍に調整すればよい。
以上説明したように、ピークP21~P24が干渉波ピークである場合、ピークP21~P24のパワーは、位相加算パターンに依存する。従って、2次元パワースペクトルに現れる干渉波ピークのパワーは、一定の範囲内にばらつくと想定される。干渉波検出部16は、この考えに基づいて、干渉波ピークの候補におけるパワーのばらつきが小さい場合、これら複数のピークを干渉波ピークに決定する。これにより、干渉波検出部16は、干渉波ピークを検出する精度を向上させることができる。
なお、干渉波検出部16は、ステップS245の実行時に、差分絶対値に代えて、ピークP21~P24のパワーの分散又は標準偏差を用いてもよい。つまり、ステップS245において、パワーが所定の範囲内であるか否かを判断できれば、その方法は特に限定されない。
(物標ピークの検出)
図15に示す2次元パワースペクトル33に含まれるピークP11を物標ピークとして特定する際の干渉波検出部16の動作を説明する。干渉波検出部16は、ピークP11を選択し(ステップS231)、ピークP11のレンジビンfaを特定する(ステップS232)。ピークP11以外のピークが、レンジビンfaに存在しないため(ステップS233においてNo)、干渉波検出部16は、ピークP11が物標ピークであると判断する(ステップS237)。
ピークP11は、仮想的なドップラシフト周波数が打ち消された反射信号RFSに由来する。従って、ピークP11のレンジビンfaにおいて、仮想的なドップラシフト周波数に基づくピークは、速度ビン方向に現れない。レンジビンfaにおいて、仮想的なドップラシフト周波数の差に対応する2つのピークが検出されないため、ピークP11は、物標ピークであると判断される。
なお、反射信号RFSは、レーダ装置100と車両2Aとの相対速度に基づく真のドップラシフト周波数を含む。従って、ピークP11の速度ビンは、レーダ装置100と車両2Aとの相対速度に基づくドップラシフト周波数に相当する。
{4.7.干渉抑制処理(ステップS32)}
送信波PVW1の周波数帯域が、送信波PVW2の周波数帯域と重複する場合、レーダ装置100、200の各々は、干渉波ピークを検出する。この場合、レーダ装置100,200が干渉抑制処理(図13のステップS32)を実行することにより、送信波PVW1、PVW2のいずれか一方の中心周波数が変更される。これにより、送信波PVW1と送信波PVW2とが互いに干渉することを抑制することができる。
図18は、図13に示す干渉抑制処理(ステップS32)のフローチャートである。以下、図18を参照しながら、送信制御部111により実行される干渉抑制処理(ステップS32)を説明する。
送信制御部111は、検出フラグ35に基づいて、干渉波ピークが検出されたか否かを判断する(ステップS321)。検出フラグ35がクリアされている場合、干渉波ピークが検出されていない(ステップS321においてNo)。この場合、送信制御部111は、送信波PVW1がレーダ装置100以外の他のレーダ装置からの送信波と干渉していないと判断する。送信制御部111は、送信波PVW1の中心周波数を変更することなく、図18に示す処理を終了する。
一方、検出フラグ35がセットされている場合、干渉波ピークが検出されている(ステップS321においてYes)。この場合、送信制御部111は、他のレーダ装置からの送信波を干渉波として受信していると判断し、ステップS322~S325を実行する。
以下、レーダ装置200からの送信波PVW2が干渉波である場合を例にして、ステップSS322~S325を説明する。送信制御部111は、干渉波と位相加算パターンとの相関係数を算出する(ステップS322)。相関係数は、位相変化部113が使用している位相加算パターンだけでなく、パターンテーブル31に記録されているすべての位相加算パターンに関して算出される。
具体的には、送信制御部111は、干渉波ピークとして検出されたピークP21~P24のレンジビンfbに基づいて、1回目のFFTにより得られたパワースペクトル32におけるピークP20を取得する。送信制御部111は、ピークP20を構成する各チャープ信号の位相と、パターンテーブル31に記録されている位相加算パターンとの相関係数を算出する。相関係数は、式(1)に基づいて算出される。
式(1)において、ρは、相関係数である。Xは、位相加算パターンにおける加算位相であり、Yは、ピークP20を構成するチャープ信号の位相である。σXYは、加算位相とチャープ信号の位相との共分散である。σXは、加算位相の標準偏差であり、σYは、チャープ信号の位相の標準偏差である。
送信制御部111は、ステップS322で算出した相関係数の最大値に対応する位相加算パターンを特定する(ステップS323)。送信制御部111は、干渉波の送信元(レーダ装置200)がステップS323で特定された位相加算パターンを使用していると判断する。
送信制御部111は、レーダ装置100で使用されている位相加算パターンの番号を、ステップS333で特定された位相加算パターンの番号と比較する。送信制御部111は、その比較結果に基づいて、中心周波数を変更するか否かを判断する(ステップS324)。例えば、自装置で用いられている位相加算パターンの番号が、ステップS323で特定された位相加算パターンの番号よりも小さい場合、送信制御部111は、中心周波数の変更を決定する。他のレーダ装置200の送信制御部211は、送信制御部111と同じ基準で中心周波数の変更を決定する。レーダ装置100が位相加算パターン1を使用し、レーダ装置200が位相加算パターン2を使用している場合、送信制御部111は、レーダ装置100が使用している位相加算パターンの番号が、レーダ装置200が使用している位相加算パターンの番号よりも小さいと判断する。
この場合、送信制御部111は、送信波PVW1の中心周波数を変更することを決定し(ステップS324においてYes)、送信波PVW1の中心周波数を新たに決定する(ステップS325)。例えば、送信制御部111は、予め設定されている複数の中心周波数の中から、新たな中心周波数をランダムで選択する。なお、現在使用中の中心周波数は、選択対象から除かれる。この場合、他のレーダ装置200が使用されている位相加算パターンの番号が、レーダ装置100で使用されている位相加算パターンの番号以上であるため、送信制御部211は、中心周波数を維持することを決定する。
一方、レーダ装置100で使用されている位相加算パターンの番号が、ステップS333で特定された他のレーダ装置200で使用中の位相加算パターンの番号以上である場合、送信制御部111は、中心周波数を維持することを決定する(ステップS334においてNo)。この場合、送信波PVW2の送信元である他のレーダ装置200が、中心周波数を変更する。
このように、干渉波ピークが検出された場合、レーダ装置100、200のいずれか一方が、送信波の中心周波数を変更する。この結果、レーダ装置100が、レーダ装置200から送信される送信波PVW2を干渉波として受信することを抑制できるため、物標の検出精度を向上することができる。
なお、図18に示す例では、レーダ装置100、200が送信波の中心周波数を変更する例を説明したが、これに限られない。レーダ装置100、200は、送信波の送信期間をずらしてもよい。例えば、レーダ装置100、200は、送信波を出力してから次の送信波を出力するまでの間隔をランダムに変更すればよい。この場合であっても、レーダ装置100は、送信波PVW2を干渉波として受信することがないため、物標の検出精度をさらに向上させることが可能となる。
[第2の実施の形態]
図19は、本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置100Aの構成を示す機能ブロック図である。図19を参照して、レーダ装置100Aは、送信部11に代えて送信部11Aを備え、受信部14に代えて受信部14Aを備える。レーダ装置100Aは、図1に示すレーダ装置100が用いる方法と異なる方法で、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数を相殺する。
送信部11Aは、位相変化部113に代えて、位相変化部113Aを備える。また、送信部11Aは、分岐部114をさらに備える。分岐部114は、発振器116の出力端子(図示省略)と接続される。位相変化部113Aは、送信アンテナ12と分岐部114との間に配置される。
発振器116は、生成した送信信号TS1を、分岐部114に出力する。分岐部114は、発振器116から受けた送信信号TS1を、位相変化部113A及びミキサ141に出力する。位相変化部113Aは、発振器116から受けた送信信号TS1の位相を変化させることにより、ドップラ送信信号PVS1を生成する。位相変化部113Aは、生成したドップラ送信信号PVS1を送信アンテナ12に出力する。位相変化部113Aの動作は、図3に示す位相変化部113の動作と同じであるため、その説明を省略する。
図20は、図19に示す受信部14Aの構成を示す機能ブロック図である。図20を参照して、受信部14Aは、ミキサ141と、A/D変換器142と、逆位相変化部143とを含む。
ミキサ141は、送信信号TS1と受信信号RSとをミキシングしてビート信号BSAを生成する。ビート信号BSAは、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数と、干渉信号ISに由来する仮想的なドップラシフト周波数とを含む。
反射信号RFSは、位相変化部113Aが送信信号TS1に付加した仮想的なドップラシフト周波数を含む。干渉信号ISは、レーダ装置200が送信信号TS2に付加した仮想的なドップラシフト周波数を含む。一方、送信信号TS1は、仮想的なドップラシフト周波数を含まない。従って、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数と、干渉信号ISに由来する仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングの際に打ち消されることなく、ビート信号BSAに残存する。
逆位相変化部143は、位相変化部113Aが送信信号TS1に与えた位相変化と逆の位相変化を、ミキサ141から受けたビート信号BSAに与える。例えば、位相変化部113Aが、図5に示す位相加算パターン1を用いて送信信号TS1の位相を変化させた場合を想定する。この場合、逆位相変化部143は、1周期目のビート信号BSAの位相を315°戻し、2周期目のビート信号BSAの位相を45°戻し、3周期目のビート信号BSAの位相を18.43°戻し、4周期目のビート信号BSAの位相を225°戻す。
この結果、ビート信号BSAに含まれる仮想的なドップラシフト周波数のうち、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数が打ち消される。反射信号RFSは、位相変化部113Aが送信信号TS1に与えた位相変化と同じ位相変化を有するためである。一方、干渉信号ISに由来するドップラシフト周波数は、逆位相変化部143により打ち消されない。干渉信号ISは、位相変化部113Aが送信信号PVS1に与えた位相変化とは別の位相変化を有するためである。
逆位相変化部143は、逆の位相変化を与えたビート信号BSAを、位相調整ビート信号BSRとしてA/D変換器142に出力する。A/D変換器142は、逆位相変化部143から受けた位相調整ビート信号BSRを離散化して、フーリエ変換部151に出力する。
再び、図19を参照して、フーリエ変換部151は、位相調整ビート信号BSRを受信部14Aから受ける。フーリエ変換部151は、その受けた位相調整ビート信号BSRに対して2次元FFTを行って、2次元パワースペクトル33を生成する。
この結果、レーダ装置100Aは、第1の実施の形態に係るレーダ装置100と同様に、レーダ装置200からの送信波PVW2に起因する干渉波ピークを検出することができる。また、位相変化部113を、信号生成部112とミキサ141との間に配置することができない場合においても、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数を打ち消すことができる。従って、レーダ装置100Aは、設計の自由度を向上することができる。
なお、レーダ装置100Aは、複数の送信アンテナ12を備える場合、複数の送信アンテナ12に対応する複数の位相変化部113Aを備えてもよい。この場合、位相変化部113Aは、送信アンテナ12と1対1に対応して設けられる。位相加算パターンは、複数の位相変化部113Aの各々に対して個別に設定される。逆位相変化部143は、複数の位相変化部113Aに設定された複数の位相加算パターンによる位相変化と逆の位相変化を、ビート信号BSAに施せばよい。
[第3の実施の形態]
図21は、本発明の第3の実施の形態に係るレーダ装置が備える信号処理部15Bの構成を示す機能ブロック図である。図21を参照して、本実施の形態に係るレーダ装置は、下記の点を除き、図19に示すレーダ装置100Aと同じ構成である。本実施の形態に係るレーダ装置において、受信部14Aは、逆位相変化部143を備えない。このため、A/D変換器142は、ビート信号BSAを離散化する。また、本実施の形態に係るレーダ装置は、信号処理部15に代えて、図21に示す信号処理部15Bを備える。
信号処理部15Bは、離散化されたビート信号BSAを受信部14Aから受け、2次元パワースペクトル33を生成する。信号処理部15Bは、第1フーリエ変換部151Bと、逆位相変化部152Bと、第2フーリエ変換部153Bとを含む。
第1フーリエ変換部151Bは、受信部14Aから受けたビート信号BSAに対して、物標の距離を求めるための1回目のFFTを実行して、ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報を取得する。ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報は、パワースペクトルであり、複素数で表現される。
逆位相変化部152Bは、1回目のFFT結果(ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報)に対して、位相変化部113Aが送信信号TS1に与えた位相変化と逆の位相変化を与える。例えば、位相変化部113Aが図5に示す位相加算パターン1を使用した場合、逆位相変化部152Bは、1周期目のビート信号BSに対応するスペクトル情報に対して、-225°の位相変化を与える。逆位相変化部152Bは、2、3、及び4周期目のビート信号BSに対応するスペクトル情報に対して、-45°、-18.43°、及び-225°の位相変化を与える。逆位相変化部152Bは、逆の位相変化が与えられた1回目のFFT結果を第2フーリエ変換部153Bに出力する。
第2フーリエ変換部153Bは、逆の位相変化が与えられた1回目のFFT結果に対して2回目のFFTを行うことにより、2次元パワースペクトル33を生成する。
信号処理部15Bを用いた場合であっても、図15に示す2次元パワースペクトル33を取得することができる。本実施の形態に係るレーダ装置は、第1の実施の形態に係るレーダ装置100と同様に、レーダ装置200からの送信波PVW2に起因する干渉波ピークを検出することができる。また、位相変化部113を、信号生成部112とミキサ141との間に配置することができない場合においても、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数を打ち消すことができる。従って、本実施の形態に係るレーダ装置は、設計の自由度を向上することができる。
つまり、本発明に係るレーダ装置は、相対速度を求めるためのFFTを開始する前に、受信信号、ビート信号、ビート信号のパワースペクトルのいずれかに対して、送信信号TS1に与えた位相変化と逆の位相変化を与えればよい。これにより、干渉波検出部16は、送信波PVW2に基づく干渉波ピークを検出することができる。相対速度を求めるためのFFTを開始する前の受信信号には、受信信号RSと、ビート信号BS、BSAと、1回目のFFTにより得られたビート信号に対応するスペクトル情報が含まれる。
{変形例}
上記実施の形態では、送信信号に含まれるチャープ信号の位相を周期的に変化させるFCM方式のレーダ装置を説明した。しかし、OFDM方式のレーダ装置において、送信信号の位相を周期的に変化させてもよい。
つまり、レーダ装置100において、位相変化部は、信号生成部112により生成された送信信号TS1に周期的な位相変化を与えて、ドップラ送信信号を生成し、生成したドップラ送信信号を送信アンテナに供給する。信号処理部は、受信アンテナにより取得された受信信号を処理してパワースペクトルを取得する。パワースペクトルは、2次元でなくてもよい。干渉波検出部は、信号処理部により取得されたパワースペクトルが所定の位置関係を満たす少なくとも2つピークを含むか否かを判断する。パワースペクトルがこれら少なくとも2つのピークを含む場合、これら少なくとも2つのピークを干渉波ピークとして検出する。レーダ装置100が、このような位相変化部及び干渉波検出部を備えていれば、送信波の送信方式は特に限定されない。
これにより、レーダ装置100から送信される送信波の周波数帯域が、他のレーダ装置200から送信される送信波の周波数帯域と重複する場合であっても、レーダ装置100は、レーダ装置100から送信される送信波が物標で反射した反射波を、干渉波(別のレーダ装置200から送信される送信波)と区別することができる。
上記実施の形態では、所定の位置関係が、複数のピークが速度ビン方向に一列に並び、かつ、これら複数のピークの間隔が位相変化部113、213により与えられた位相変化から導かれる複数の周波数の差に対応することである例を説明したが、これに限られない。図15に示す2次元パワースペクトル33において、干渉波ピークであるピークP21~P24は、速度ビン方向に一列に並ぶとともに、その間隔が一定である。この考えに基づいて、所定の位置関係が、複数のピークが速度ビン方向に一列に並び、かつ、これら福栖のピークの間隔が一定であることであってもよい。つまり、干渉波検出部16は、パワースペクトルが所定の位置関係を満たす少なくとも2つのピークを含むか否かを判断すればよい。これにより、レーダ装置100は、受信波に含まれる反射波と干渉波とを区別することができる。
上記実施の形態において、レーダ装置が干渉抑制処理(図13に示すステップS32)を実行する例を説明した。しかし、レーダ装置は、干渉抑制処理を実行しなくてもよい。この場合、レーダ装置間の干渉を防ぐために、送信波の周波数帯域をレーダ装置ごとに設定しなくてもよい。送信波の周波数帯域を広げることができるため、レーダ装置の距離分解能を向上させることができる。
上記実施の形態において、干渉波検出部16が、干渉波ピークの候補を特定した後に、干渉波ピークの候補におけるパワーのばらつきが所定範囲内であるか否かを判定する例(図16に示すステップS235)を説明したが、これに限られない。干渉波検出部16は、ステップS245を実行しなくてもよい。つまり、干渉波検出部16は、ステップS244において、周期性を有する複数のピークが存在すると判断した場合、これら複数のピークを干渉波ピークとして決定してもよい。
上記実施の形態において、レーダ装置が車両の前端面に設置される例を説明したが、これに限られない。車両は、上記実施の形態に係る複数のレーダ装置を搭載してもよい。この場合であっても、1台の車両に搭載された複数のレーダ装置において、隣り合う2台のレーダ装置の一方は、他方からの送信波に由来する干渉波ピークを検出できる。
上記実施の形態において、フーリエ変換部が、1回目のFFTにおいて、レーダ装置から物標までの距離を求め、2回目のFFTにおいて、レーダ装置と物標との相対速度を求める例を説明したが、これに限られない。フーリエ変換部は、1回目のFFTにおいて、レーダ装置と物標との相対速度を求め、2回目のFFTにおいて、レーダ装置から物標までの距離を求めてもよい。この場合、1回目のFFTにより得られるパワースペクトルから、干渉波ピークを検出することができる。
また、上記実施の形態において、送信アンテナ12及び受信アンテナ13以外のレーダ装置の各機能ブロックは、LSIなどの半導体装置により個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全部を含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
また、送信アンテナ12及び受信アンテナ13以外のレーダ装置の各機能ブロックにより実行される処理の一部または全部は、プログラムにより実現されるものであってもよい。そして、上記各実施の形態の各機能ブロックの処理の一部または全部は、コンピュータにおいて、中央演算装置(CPU)により行われる。また、それぞれの処理を行うためのプログラムは、ハードディスク、ROMなどの記憶装置に格納されており、ROMにおいて、あるいはRAMに読み出されて実行される。
また、上記実施の形態の各処理をハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア(OS(オペレーティングシステム)、ミドルウェア、あるいは、所定のライブラリとともに実現される場合を含む。)により実現してもよい。さらに、ソフトウェアおよびハードウェアの混在処理により実現しても良い。
例えば、上記実施の形態(変形例を含む)の各機能ブロックを、ソフトウェアにより実現する場合、図22に示したハードウェア構成(例えば、CPU、ROM、RAM、入力部、出力部等をバスBusにより接続したハードウェア構成)を用いて、各機能部をソフトウェア処理により実現するようにしてもよい。
また、上記実施の形態における処理方法の実行順序は、必ずしも、上記実施の形態の記載に制限されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、実行順序を入れ替えてもよい。
前述した方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム及びそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の範囲に含まれる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO、DVD、DVD-ROM、DVD-RAM、大容量DVD、次世代DVD、半導体メモリを挙げることができる。
上記コンピュータプログラムは、上記記録媒体に記録されたものに限られず、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送されるものであってもよい。
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。