以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号又は符号を付している。
以下、原料に無水塩化マグネシウムを用いて、反応室2内で気体状態の原料を水素プラズマ(具体的には、マイクロ波表面波水素プラズマ)で還元処理して水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物(以下、単に、水素化マグネシウムを含む生成物ともいう。)を得る場合を例にとって説明を行うこととする。
しかし、この反応は一般的な反応式からでは説明できないため、それが実現できる理由について簡単に説明しておく。
通常、無水塩化マグネシウムと水素との反応を式で書くと、以下の式1のように表される。
MgCl2 + H2 ⇔ MgH2 + Cl2・・・(1)
ここで、問題となるのは、反応中の環境(圧力・温度)をどのようにすれば、式1において右側が安定状態となり、右側への反応が進むかということになる。
そして、どちらが安定であるかは、Gibbsの自由エネルギーを考えることでわかるが、式1の場合、プラズマの反応を行うための反応室2内の圧力を高密度で電子温度が低いマイクロ波表面波水素プラズマを生成させるために10Paにしたとすると、右側に反応を進めるためには、反応室2内の温度を約1150℃以上とする必要がある。
このような高温状態では、水素化マグネシウム自体が気体の状態になるため、固体として析出させるためには、反応室2内の温度を下げる必要があるが、約1150℃よりも低い温度領域では式1の左側への反応が優勢となるため、固体として析出する物質は、無水塩化マグネシウムになってしまい、水素化マグネシウムが析出しないことになる。
このため、一般的な反応式(式1参照)からでは、無水塩化マグネシウムと水素を反応させて水素化マグネシウムを得ることは困難である結論に至る。
しかしながら、マイクロ波表面波水素プラズマ中には、励起原子・分子、ラジカル(化学的に活性な原子・分子)、電子、イオン(正及び負)及び中性の原子や分子が存在し、そのような状態を考慮した反応式を考えることで、無水塩化マグネシウムにマイクロ波表面波水素プラズマを照射することで水素化マグネシウムを生成可能であることの説明ができる。
例えば、一例として、以下の式2のように、水素原子が存在する反応式を仮定し、Gibbsの自由エネルギーに基づいて、右側に進む反応と左側に進む反応の境界を示したのが図1である。
MgCl2 + 2H +H2 ⇔ MgH2 + 2HCl・・・(2)
図1は、反応室2(図2参照)の圧力が10Paとし、横軸に水素原子の分圧(mPa)を取り、縦軸に温度(℃)を取って、水素原子の分圧(mPa)を変えた場合に右側に進む反応と左側に進む反応の境界が何度(℃)のところになるのかを示したグラフである。
図1を見るとわかるように、水素原子の分圧が同じ場合、温度を下げることでMgH2が生成されるようになり、同じ温度では、水素原子の分圧が大きくなるほどMgH2が生成されるようになっている。
ここで、注目すべきは、10PaでMgH2がMgとH2に分解し始める温度である100℃より低い温度域であってもMgH2を生成する解が存在し、良好にMgH2を固体として析出させることが可能であることである。
そこで、これから説明する第1実施形態のプラズマ装置1のように、実際に、水素原子等の存在が仮定できる高密度なマイクロ波表面波水素プラズマの存在する範囲内に、水素化マグネシウムを付着させる付着手段80(図2参照)を設け、水素化マグネシウムを付着させる実験を行い、付着手段80の表面81(図2参照)に付着したマグネシウム生成物が、水滴を垂らすだけで激しく発泡して水素を発生するほどに水素化マグネシウムを含有していることを確認しており、以下、具体的に、そのようなプラズマ装置1について説明する。
ただし、以下の実施形態のように付着手段80を設けた形態のプラズマ装置1以外であっても、原料貯蔵部51に貯蔵されていた粉状の原料が反応室2内に噴出する問題は、起こるものであり、本発明において、付着手段80が必須であるわけではない。
(第1実施形態)
図2は本発明に係る第1実施形態のプラズマ装置1を説明するための断面図である。
図2に示すように、プラズマ装置1は、気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)をプラズマで処理する反応室2を形成する筐体10を備えており、本実施形態では、中央に開口部11Aを有する仕切部11を筐体10内に設けることで反応室2が第1空間Fと第2空間Sを有するようになっているが、この仕切部11は省略してもよく、反応室2は1つの空間として形成されていてもよい。
そして、プラズマ装置1は、反応室2内にマイクロ波を入射させる部分に設けられた誘電体材料(例えば、石英やセラミックス等)の窓Wと、マイクロ波表面波プラズマを生成させるために窓Wを介して反応室2内の第1空間Fに供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段20(例えば、マグネトロン)と、マイクロ波発生手段20で発生させたマイクロ波を窓Wのところまで導波させる導波管21と、を備えている。
なお、マイクロ波が窓Wを通じて反応室2内に供給されると、窓Wの反応室2内に露出した表面に表面波が形成され、この表面波のカットオフ角周波数で決まる密度以上の高密度プラズマ(高密度なマイクロ波表面波プラズマ)が生成される。
そして、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)は、電子密度が高いので照射されたマイクロ波はマイクロ波表面波プラズマの表面で反射されて内部には入らないがマイクロ波表面波プラズマの表面に沿う形で伝搬される。
本実施形態では、発生するマイクロ波の周波数を2.45GHzとしているが、この周波数に限定される必要はなく、例えば、通信目的以外で使用できるISMバンドの5GHz、24.1GHz、915MHz、40.6MHz、27.1MHz及び13.56MHz等であってもよい。
また、プラズマ装置1は、反応室2内の気体を排出し、反応室2内を減圧する減圧手段30を備えている。
具体的には、減圧手段30として、プラズマ装置1は、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第1排気バルブ31Aが設けられた第1排気管31を介して第1空間Fに接続された第1真空ポンプ32と、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第2排気バルブ33Aが設けられた第2排気管33を介して第2空間Sに接続された第2真空ポンプ34と、を備えている。
なお、高密度なマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)を安定して生成させるためには、反応室2内の圧力が低い方が有利であり、少なくとも反応室2内は10分の1気圧以下がよく、100分の1気圧以下がより好ましく、1000分の1気圧以下が更に好ましく、本実施形態では、10000分の1気圧程度である約10Paにしている。
そして、気体の吸引力の弱い真空ポンプの場合、反応室2内の真空度を高めるのに時間がかかるため、そのような段取り時間を省略するために、第1真空ポンプ32又は第2真空ポンプ34のうちの少なくとも一方を気体の吸引力が高いメカニカルブースターポンプにしておくことが好ましい。
なお、プラズマ装置1には、反応室2の第1空間F内の圧力を測定するための第1圧力計32Aと、反応室2の第2空間S内の圧力を測定するための第2圧力計34Aが設けられており、例えば、第1圧力計32Aが測定する圧力に基づいて、第1空間F内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第1真空ポンプ32及び第1排気バルブ31Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第1真空ポンプ32を動作(ON)させておいて、第1圧力計32Aが測定する圧力に基づいて、第1排気バルブ31Aの動作を制御(開閉制御)するようにしてもよく、逆に、第1排気バルブ31Aが開の状態となるように動作させておいて、第1真空ポンプ32の動作を制御(ON、OFF制御)するようにしてもよい。
同様に、例えば、第2圧力計34Aが測定する圧力に基づいて、第2空間S内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第2真空ポンプ34を動作(ON)させておいて、第2圧力計34Aが測定する圧力に基づいて、第2排気バルブ33Aの動作を制御(開閉制御)するようにしてもよく、逆に、第2排気バルブ33Aが開の状態となるように動作させておいて、第2真空ポンプ34の動作を制御(ON、OFF制御)するようにしてもよい。
ただし、第1空間F及び第2空間S内の圧力を所定の圧力にするために、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)の双方を動作させる必要はない。
例えば、前段取りとして、反応室2内の圧力を所定の圧力にするときだけ、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を動作させ、反応室2内の圧力が所定の圧力になったところで、第1排気バルブ31Aを閉にして第1真空ポンプ32の動作を停止し、その後は、第1圧力計32A又は第2圧力計34Aの測定する圧力に基づいて、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
なお、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するときに使用される反応室2内の圧力の測定値としては、第1圧力計32A及び第2圧力計34Aの測定した圧力を平均したものを使用するようにしてもよい。
また、プラズマ装置1は、還元雰囲気を形成する気体としての水素を反応室2内に供給するために、図示しない水素供給手段を備えている。
なお、本実施形態では、マイクロ波表面波プラズマ化する気体が水素であるため、水素供給手段と呼んでいるが、処理によっては、別の気体をマイクロ波表面波プラズマ化する場合もあるので、この水素供給手段は、マイクロ波表面波プラズマ化する気体の気体供給手段の具体的な一例にすぎない。
例えば、水素供給手段は、水素の供給源となる図示しない水素貯蔵部(水素ボンベ又は水素貯蔵タンク)と、水素貯蔵部から反応室2に水素を供給する水素供給配管(本例では、第1供給管41、及び、第2供給管42)と、水素供給配管上に設けられ、反応室2内に供給するマイクロ波表面波プラズマ化する水素(気体)の供給量を制御するマスフローメータ等の供給量制御手段(本例では、第1供給量制御手段MFC1及び第2供給量制御手段MFC2)と、を備えている。
なお、水素貯蔵部が水素ボンベである場合には、水素ボンベ中の水素の残量が減少したときに別の水素ボンベに取り換えることになるため、プラズマ装置1自身の備える水素供給手段が、反応室2側から水素貯蔵部に至るまでの間の水素貯蔵部に接続される、水素貯蔵部から反応室2に水素を供給する水素供給配管(本例では、第1供給管41、及び、第2供給管42)までの構成に留まり、水素貯蔵部を含まない場合がある。
つまり、上記説明において、水素貯蔵部を除く部分がプラズマ装置1の水素供給手段である場合がある。
また、マイクロ波表面波プラズマ化する気体が水素以外のものの場合には、当然、水素貯蔵部の部分がその別の気体を貯蔵した貯蔵部となるので、水素貯蔵部は、マイクロ波表面波プラズマ化する気体を貯蔵する気体貯蔵部の具体的な一例にすぎない。
さらに、マイクロ波表面波プラズマ化する気体が水素以外のものの場合には、水素供給配管は、マイクロ波表面波プラズマ化する気体を貯蔵する気体貯蔵部から反応室2に気体を供給する気体供給配管となるので、水素供給配管は、気体貯蔵部から反応室2に気体を供給する気体供給配管の具体的な一例にすぎない。
話をもとに戻すと、具体的には、水素貯蔵部は、第1供給管41を介して第1空間Fに水素が供給できるように接続されるとともに、第2供給管42を介して第2空間Sに水素が供給できるように接続されている。
そして、第1供給管41の水素貯蔵部側には、第1供給量制御手段MFC1が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第1供給バルブ41Aが設けられている。
同様に、第2供給管42の水素貯蔵部側には、第2供給量制御手段MFC2が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第2供給バルブ42Aが設けられている。
さらに、プラズマ装置1は、原料となる無水塩化マグネシウムを気化させてマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)中に供給する原料供給手段50を備えている。
具体的には、原料供給手段50は、原料となる粉体状の無水塩化マグネシウムを貯蔵する原料貯蔵部51と、原料となる無水塩化マグネシウムをマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)中に供給するために、原料貯蔵部51内の無水塩化マグネシウムを反応室2の第1空間F内に供給する直線状の原料供給管52と、第1電源53Aからの電力の供給により発熱し原料供給管52及び原料貯蔵部51を加熱する第1加熱部53と、第1加熱部53の温度を測定する第1温度計54と、を備えている。
そして、第1温度計54による温度の測定結果に基づいて、第1電源53Aから第1加熱部53に供給される電力の供給量が制御され、原料供給管52及び原料貯蔵部51の温度を制御することで、反応室2の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)を受け入れる受入口12から第1空間F内に供給される気体状態の原料の供給量が制御される。
例えば、無水塩化マグネシウムは約700℃程度の温度で気体状態となり、この温度より高くしていけば、気化する速度が速くなり、反応室2の第1空間F内に供給される気体状態の無水塩化マグネシウムの供給量を多くすることができる。
逆に、約700℃に近づけば、気化する速度が遅くなり、反応室2の第1空間F内に供給される気体状態の無水塩化マグネシウムの供給量を少なくすることができる。
また、プラズマ装置1は、反応室2内を加熱する加熱手段60として、反応室2の第1空間F内に設けられ、第2電源61Aからの電力の供給により発熱し反応室2の第1空間F内を加熱する第2加熱部61を備えている。
なお、プラズマ装置1は、反応室2の第1空間F内の温度を測定する第2温度計62を備えており、第2温度計62による温度の測定結果が、設定される所定の温度となるように、第2電源61Aから第2加熱部61に供給される電力の供給量が制御され、反応室2の第1空間F内の温度が所定の温度に保たれる。
具体的には、この第2加熱部61によって、第1空間F内の温度は気体として無水塩化マグネシウムが存在できる温度に保たれる。
一方、第2加熱部61の外側には、第2加熱部61からの輻射熱で筐体10が高温になるのを防止するために、輻射熱を反射するリフレクタ70が設けられるとともに、筐体10の外面上に水冷するための冷却管71が設けられている。
このように、プラズマ装置1が、第2加熱部61によって、余分な場所が加熱されないように熱伝導を防止するリフレクタ70のような断熱手段を備える場合、筐体10が高温にならないため、筐体10の各所に使用されているパッキン等の劣化を抑制できるだけでなく、保温効率が高くなるため、消費電力を低減することができる。
また、リフレクタ70には、上側の中央寄りの位置に、仕切部11の開口部11Aを通じて、第1空間Fから第2空間Sに挿入される挿入管72が設けられており、詳細については、後述するが、マイクロ波表面波水素プラズマ及びマグネシウムを含むガス等が挿入管72から第2空間Sに放出されるようになっている。
そして、図2に示すように、プラズマ装置1は、挿入管72に対向する位置に水素化マグネシウムを含む生成物を付着させる付着手段80を備えており、プラズマ装置1を停止させた後、付着手段80を取り出せるように、付着手段80は、筐体10に対して着脱可能に取り付けられている。
付着手段80は、温調媒体(本例では、100℃未満の温度に制御された水又は気体等)を供給する供給口IN(温調媒体供給口)と温調媒体を排出する排出口OUT(温調媒体排出口)が設けられ、その温調媒体が反応室2の第2空間Sにリークしないようにした温調媒体収容部を有する容器構造になっている。
なお、付着手段80は、挿入管72に対向する側の水素化マグネシウムを含む生成物を付着させる表面81が、挿入管72から放出される発光状態が目視で確認できる高密度のマイクロ波表面波プラズマ(マイクロ波表面波水素プラズマ)が直接接触する位置に配置されることで、少なくとも表面81を生成するマイクロ波表面波プラズマの存在する範囲内に配置したものになっている。
このため、表面81のところは、高密度なマイクロ波表面波水素プラズマ(例えば、水素イオンや水素原子等)の存在が仮定できる特殊な環境下にある。
そして、プラズマ装置1は、付着手段80の水素化マグネシウムを含む生成物を付着させる表面81の表面温度を、水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲内に保つ温度制御手段(図示せず)を備えている。
温度制御手段は、例えば、温調媒体(本例では、100℃未満の温度に制御された水又は気体等)を供給口INから付着手段80の温調媒体収容部内に供給し、排出口OUTから温調媒体を排出させるように温調媒体を循環させる循環装置(図示せず)と、排出口OUTから排出された温調媒体の温度を設定される温度に調節する温調装置(図示せず)と、を備えている。
具体的には、本実施形態では、循環装置(図示せず)はポンプ等であり、温調装置(図示せず)は熱交換機等である。
なお、温調媒体に外気をそのまま利用できる場合には、供給口INに外気を供給するためのポンプが接続され、排出口OUTが大気開放となるようにすればよく、この場合、温調装置は不要である。
そして、高密度なマイクロ波表面波水素プラズマ(例えば、水素イオンや水素原子等)の存在が仮定できる特殊な環境下であって、かつ、表面温度が水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲内に保たれた表面81のところでは、先に説明した式(2)において、右側に進む反応が促進されるとともに、水素化マグネシウムが分解せずに存在できる状況を生み出すことができる。
例えば、表面81の表面温度が200℃を超えると生成物中の水素化マグネシウムの割合が大幅に低下するため、水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲は200℃以下の範囲であることが好ましく、150℃以下の範囲であることがより好ましく、100℃以下の範囲であることが更に好ましい。
実験では、表面温度が200℃を超える状態で析出した水素化マグネシウムを含む生成物の場合、その水素化マグネシウムを含む生成物に水滴を垂らし、水素の分離に伴う発泡現象が非常に弱いことを確認している。
一方、表面温度が100℃以下の状態で析出した水素化マグネシウムを含む生成物の場合、水滴を垂らすと水素の分離に伴う激しい発泡現象が見られることを確認しており、発泡しているガスが水素であることについては、水素検知管で確認を行っている。
なお、表面温度が100℃を超える場合、水素化マグネシウムが水素と金属マグネシウムに分解する反応も起きるため、析出した水素化マグネシウムを含む生成物中の水素化マグネシウムの割合が減少することになることから、水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲は、水素化マグネシウムの分解反応を抑えるという観点で100℃以下の範囲であることが最も好ましい。
また、実験では、表面温度が約80℃のときよりも、約70℃の方が水素化マグネシウムを含む生成物の単位時間当たりの析出量が多く、約50℃の方が更に単位時間当たりの析出量が多くなる結果を得ているので、水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲は、単位時間当たりの析出量の観点からは、更に低い温度範囲とすることが好ましい。
つまり、水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲は、80℃以下の範囲が好ましく、更に、70℃以下の範囲であることが好ましく、50℃以下の範囲であることがより好ましい。
なお、生成物によっては、付着手段80を冷却するのではなく、保温することも考えられるため、この場合、温調装置はヒータ等となる。
例えば、金属マグネシウムが固体の状態となる温度が400℃以下の範囲であり、表面81の温度を250℃以上400℃以下にすると、水素化マグネシウムの含有量が大幅に減少する一方、金属マグネシウムの析出が可能であることから金属マグネシウムの割合が高い生成物が析出すると考えられ、このような場合には、ヒータ等で温調媒体の温度調節を行うことになると考えられる。
また、プラズマ装置1は、途中にリークバルブ91が設けられた大気開放管90を備えており、大気開放管90の図示しない一端はプラズマ装置1が設置される建屋の外で大気開放状態になっている。
この大気開放管90は、反応室2の圧力が異常な圧力になった場合に、緊急措置として反応室2を大気開放状態にするためのものであり、通常時には、リークバルブ91は閉の状態とされ、反応室2内に大気が混入することがないようになっている。
ところで、無水塩化マグネシウムを還元し、水素化マグネシウムを含む生成物を効率よく生成するためには、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の密度が高い方が好ましい。
そのための1つの方法は、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)を生成させるために、反応室2内に供給されるマイクロ波のマイクロ波電力(マイクロ波強度)を高くすることである。
しかしながら、この方法は、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段20に供給する電力量を増加させることを意味し、平均的に使用される電力量が大幅に増加することになる。
そこで、本実施形態では、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させるものとして、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高めつつ、平均的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)を下げるようにしている。
ただし、パルス的なマイクロ波とは、周期的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)の強弱を伴うものを意味し、必ずしも、周期的にマイクロ波電力(マイクロ波強度)がゼロになるものに限定されるものではない。
具体的には、マイクロ波発生手段20は、パルス的なマイクロ波のマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値が現れる周期が150マイクロ秒以下(望ましくは、100マイクロ秒以下、更に望ましくは50マイクロ秒以下)であるマイクロ波を発生させ、プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が大幅に減衰する前に、反応室2内にピーク値のマイクロ波電力を有するマイクロ波を供給することで、ほぼそのマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値に対応する密度のマイクロ波表面波プラズマを維持しつつ、マイクロ波発生手段20で使用される平均電力を抑制するようにしている。
このようにすれば、マイクロ波発生手段20が、マイクロ波電力(マイクロ波強度)をほぼ一定にしたパルス的なマイクロ波でないマイクロ波を発生させる場合に、プラズマ密度が1012/cm3以上1014/cm3以下であったとすれば、平均的なマイクロ波電力を同様にしても、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させる場合、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高くできるため、更に、高いプラズマ密度(例えば、1015/cm3以上の高いプラズマ密度)を得ることができ、平均的なマイクロ波電力を同様にしても一桁以上高いプラズマ密度を得ることができる。
したがって、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生するものとすることで、マイクロ波発生手段20で使用される電力量(平均電力)の上昇を抑制しつつ、高密度なマイクロ波表面波プラズマを生成できる。
また、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値が高くなると、マイクロ波表面波プラズマを点火させやすくなるという効果もある。
なお、マイクロ波表面波プラズマは、他のプラズマ(例えば、高周波プラズマや直流放電プラズマ等)と比較すれば、電子温度が低く(例えば、1eV程度)、他のプラズマのように、高い電子温度(例えば、10eV以上)とするためにエネルギーが消費されるプラズマと異なり、エネルギーロスが少ないという利点がある。
また、マイクロ波表面波プラズマは、プラズマ中のイオンや分子の温度が熱プラズマと呼ばれるものに比べ大幅に低い(ほぼ常温)という特徴もある。
さらに、マイクロ波表面波プラズマは、上記のような高密度なプラズマを均一に、例えば、0.5m2以上の大面積の範囲に生成することができる。
次に、反応室2内に気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)を供給し、プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)で還元する処理を行い、原料と異なる生成物(本例では、水素化マグネシウムを含む生成物)を得る処理(製造方法)について説明を行いながら、さらに、プラズマ装置1の説明を行う。
ただし、原料は無水ハロゲン化マグネシウムや金属マグネシウム等であってもよい。
まず、前段取りとして、減圧手段30(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を駆動させ、反応室2内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように減圧を行う手順を実施する。
そして、反応室2内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になったところで、マイクロ波発生手段20によるパルス的なマイクロ波の反応室2内への供給、及び、水素供給手段による水素の反応室2内への供給を行う手順を開始し、例えば、図示しないのぞき窓からマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の生成(発光)を確認する。
なお、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が生成しているかは、発光スペクトル強度を測定する測定器で確認するようにしてもよい。
このときには、反応室2内に供給するマイクロ波表面波プラズマ化する気体(本例では、水素)の供給量を制御する供給量制御手段(第1供給量制御手段MFC1及び第2供給量制御手段MFC2)によって、気体(本例では、水素)の供給量が制御された状態で反応室2内に気体(本例では、水素)が供給される。
そして、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の生成(発光)を確認したら、次に、反応室2内を加熱する加熱手段60を駆動させ、反応室2の第1空間F内の温度を所定の温度(例えば、約700℃)に上昇させる手順を実施する。
このようにマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が生成した後に、反応室2内を加熱する加熱手段60を駆動させるようにすると、仮に、反応室2の内壁面に以前の処理時に付着した金属マグネシウム等が存在したとしても、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の生成を阻害することがない。
具体的に説明すると、金属マグネシウムは、マイクロ波を反射するため、気化した金属マグネシウムが反応室2内に多く存在すると、窓Wから供給されるマイクロ波が金属マグネシウムで反射され、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の初めの点火(生成開始)を阻害する場合がある。
一方、初めの点火(生成開始)が阻害されず、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が生成した後であれば、反応室2の内壁面に付着していた金属マグネシウムが気化してもマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)に影響がでることがない。
したがって、上述のように、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の生成(発光)を確認してから加熱手段60を駆動させるのが好ましい。
ただし、反応室2内を約700℃に保っていれば、反応室2の内壁面の温度は、基本的には金属マグネシウムの気化温度以上に保たれるので、反応室2の内壁面に金属マグネシウムが析出することを抑制できる。
このため、処理の終了時に原料の無水塩化マグネシウムの供給を停止した後、反応室2内に金属マグネシウムが浮遊していない状態になってから加熱手段60の駆動を停止するように心がければ、反応室2の内壁面に金属マグネシウムが付着するのを防止できるので、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の生成前に加熱手段60を駆動させても問題はなく、マイクロ波表面波プラズマの生成後に加熱手段60を駆動させるのは、念のための措置である。
そして、加熱手段60による第1空間F内の加熱を開始するのに合わせて、図示しない温度制御手段によって付着手段80に設定された温度に調節された温調媒体の供給を開始させ、付着手段80の表面81の表面温度を水素化マグネシウムの析出する表面温度(本例では、100℃未満の温度範囲内の温度)に保つ手順を実施する。
その後、原料供給手段50によって、原料である無水塩化マグネシウムの供給を開始し、反応室2内で原料である無水塩化マグネシウムをマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)で処理する手順を開始するとともに、水素化マグネシウムを含む生成物を析出する表面温度(本例では、100℃未満の温度範囲内の温度)とした表面81をマイクロ波表面波プラズマが存在する範囲内に配置した付着手段80の表面81に水素化マグネシウムを含む生成物を付着させる手順を開始する。
つまり、付着手段80の表面81に向けて、マイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)とともにマグネシウムを含むガス(プラズマ中であるため、マグネシウム原子、塩化マグネシウム、水素化マグネシウム等の存在する複合ガス)が吹き付けられると、表面81付近では、急激に温度が低下し、図1に示したように、水素化マグネシウムの析出に有利な方向に反応が進み、水素化マグネシウムを含む生成物が付着手段80の表面81に付着(析出)する。
ただし、付着手段80の表面81に、必ずしも、水素化マグネシウムのみが析出するものではなく、当然に、水素化マグネシウムの割合が100%に近いことが好ましいものの、析出する物質の中には、原料である無水塩化マグネシウム等も含まれる場合がある。
このため、原料と異なる生成物とは、原料と異なる物質を含む生成物と解されるべきものである。
そして、所定の時間、プラズマ装置1を駆動させた後、プラズマ装置1の駆動を停止して、反応室2内の圧力を大気圧に戻すとともに、付着手段80が取り出せる温度(例えば、水素化マグネシウムが空気中の水分と激しく反応しない程度の温度)になった後、付着手段80を取り外して、付着手段80の表面81に付着している水素化マグネシウムを含む生成物を回収する手順を行う。
このプラズマ装置1の駆動を停止して付着手段80を取り外すまでの間は、反応室2内に、露点の低い気体(例えば、露点を低くした空気、窒素、及び、希ガス(ヘリウムやアルゴン等)といった気体)を供給してパージするようにしている。
なお、その表面81が高密度なマイクロ波表面波水素プラズマ(例えば、高密度な水素イオンや水素原子等)の存在が仮定できる特殊な環境下にあるため、付着手段80の表面81に無水塩化マグネシウムが析出した場合でも還元反応が進み、水素化マグネシウムに変化していくと推察される実験結果もある。
したがって、反応室2内に原料である無水塩化マグネシウムの供給を停止した後に、付着手段80の表面81を冷却し続けて、表面81に付着した水素化マグネシウムを含む生成物の温度が所定の温度以下(本例では、100℃未満の温度範囲内の温度)とした状態でマイクロ波表面波プラズマ(マイクロ波表面波水素プラズマ)の照射を持続させることで、生成物中の水素化マグネシウムの割合を高めるようにしてもよい。
そして、本実施形態のプラズマ装置1によれば、原料と異なる生成物(本例では水素化マグネシウムを含む生成物)を付着させる付着手段80が、表面81をマイクロ波表面波プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)の存在する範囲内に配置するように設けられ、その付着手段80の原料と異なる生成物を付着させる表面81の温度を、原料と異なる生成物の析出に適した所定の温度範囲内(本例では、100℃未満の温度範囲)に保つ温度制御手段で適切な温度にしているので、通常では得られない生成物(本例では、水素化マグネシウムを含む生成物)を得ることができる。
ところで、加熱手段60による第1空間F内の加熱を行わないで観察を行うと、受入口12の周辺に原料(本例では、無水塩化マグネシウム)が噴出しているのが散見されることがあり、原因を究明した結果、原料貯蔵部51内の粉体状の原料がプラズマ中の電子によってチャージされ、静電反発によって噴出していることが明らかとなった。
そこで、本実施形態では、図2に示すように、プラズマ装置1が、反応室2から原料貯蔵部51に侵入するプラズマ中の電子を抑制する電子侵入抑制手段13(図2の右側の拡大図参照)備えるようにしている。
具体的には、電子侵入抑制手段13は、反応室2の気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)を受け入れる受入口12から原料貯蔵部51に至るまでの間に電子をトラップする磁力線を形成する、S極とN極を対向させるように設けられた一対の磁石を備えている。
なお、本実施形態では、電子侵入抑制手段13が一対の永久磁石を備えるものとしており、永久磁石はキュリー点以上の温度になると磁力を失うため、原料を気体状態にするのに必要な温度以上のキュリー点を有する永久磁石を用いているが、このような心配がないように、一対の永久磁石を一対の電磁石に代えてもよい。
また、一対の永久磁石又は電磁石のうちの一方を複数の永久磁石又は電磁石を並べたものとし、一対の永久磁石又は電磁石のうちの他方を複数の永久磁石又は電磁石を並べたものとしてもよい。
さらに、電子侵入抑制手段13は、受入口12から原料貯蔵部51にプラズマ中の電子が侵入するのを防止できればよいため、反応室2の気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)を受け入れる受入口12上(反応室2の内側)に設けられていてもよい。
そして、上記のように、電子侵入抑制手段13を設け、磁力線によって電子がトラップされるため、電子の原料貯蔵部51内への侵入が抑制されるので、原料貯蔵部51内の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)がチャージされず、静電反発が起きない結果、原料貯蔵部51内の粉体状の原料が反応室2内に噴出することを抑制できる。
したがって、気体状態になった原料(本例では、無水塩化マグネシウム)だけが反応室2内に供給されることになり、原料の供給量の制御性を高めることが可能である。
(第2実施形態)
次に第2実施形態のプラズマ装置1について説明する。
第1実施形態では、電子侵入抑制手段13を一対の磁石MGで構成する場合について説明したが、ローレンツ力を利用する電子侵入抑制手段13Aであってもよく、以下、第2実施形態の電子侵入抑制手段13Aとしてローレンツ力を利用するものとして構成した場合について説明する。
なお、電子侵入抑制手段13A以外の点は、第2実施形態も第1実施形態と同様であるため、主に以下では、電子侵入抑制手段13Aについて説明を行い、第1実施形態と同様の点については説明を省略する場合がある。
図3はローレンツ力を発生させるための基礎的な内容を説明するための図であり、図4は第2実施形態の電子侵入抑制手段13Aを説明するための図であり、図3を参照してローレンツ力を発生させるための基礎的な内容を説明した後に、図4を参照して電子侵入抑制手段13についての説明を行う。
なお、図3では左側にローレンツ力を発生させるための構成の概略図を示し、右側にその構成で発生するローレンツ力の状態を示している。
図3に示すように、左右一対の磁石をS極とN極が向かい合うように配置する。
図3の配置の場合、左右一対の磁石間の向かい合う極を見ると、左側にS極が位置(左側に左側の磁石のS極が位置)し、右側にN極が位置(右側に右側の磁石のN極が位置)しているため、磁界の方向(磁束密度)は右から左に向かう方向となる。
一方、この磁界の方向(磁束密度)と直交する方向に一対の電極を配置し、電圧を印加することで、一方を陽極(+極)とし、他方を陰極(-極)とする。
図3では、手前側(下側)が陽極(+極)とされ、奥側(上側)が陰極(-極)とされており、プラズマ中(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ中)では電流Iが流れる状態にあるため、図3に示すように、手前側(下側)から奥側(上側)に向かって電流Iが流れることになる。
そして、上記の状態を図示すれば、図3の右側に示すようになり、図3の右側に示す磁界の向きに左手の人差し指を合わせ、電流Iの流れに左手の中指を合わせるようにすれば、左手の親指が上側を向き、フレミングの左手の法則から力(ローレンツ力)が上向きに発生する構成になっていることが理解できる。
ただし、フレミングの左手の法則は、電荷が正である場合に働く力(ローレンツ力)を示すものになっており、電荷が負である場合に働く力(ローレンツ力)は逆方向になる。
したがって、図3の構成の場合、正の電荷を有するもの(例えば、プラズマ中の水素イオンのような陽イオン)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
なお、図3の構成において、向かい合うS極とN極を逆転、つまり、左側にN極が位置し、右側にS極が位置するようにすれば、磁界の方向(磁束密度)が逆転することになるので、ローレンツ力の関係も逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
同様に、図3の構成において、一対の電極の配置を逆転、つまり、手前側(下側)を陰極(-極)とし、奥側(上側)を陽極(+極)とすれば、電流Iの向きが逆転するので、ローレンツ力の関係も逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
このような原理を利用して、電子侵入抑制手段13Aは実現され、以下、具体的に、図4を参照しながら電子侵入抑制手段13Aの構成について説明する。
図4の左側に示すように、電子侵入抑制手段13Aは、導電性の材料で形成された円筒部材CMと、導電性の材料で形成され、円筒部材CMの中央に配置される電極部としての棒状部材SMと、を備えている。
なお、電極部としての棒状部材SMは、円筒部材CMと短絡しないように、円筒部材CMの中央に円筒部材CMと離間して配置されている。
図2を参照して説明すると、一対の磁石MGが省略される代わりに、電子侵入抑制手段13Aの円筒部材CM(図2の右側の拡大図の点線枠参照)は、一対の磁石MGの間の位置に配置されており、気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)は、円筒部材CM内を通って反応室2内に供給されることになる。
本実施形態では、円筒部材CMはステンレス(SUS)で形成され、棒状部材SMはタングステン等の高温に耐えられるものを用いるようにしている。
ただし、棒状部材SMの断面積が大きく、あまり発熱しない場合には、円筒部材CMと同様にステンレス(SUS)等を用いるようにしてもよく、形状についても本実施形態では、棒状部材SMの断面形状が直径5mmから10mm程度の円形の円柱形状にしているが、棒状部材SMは断面形状が六角形等の多角形であってもよく、星型等であってもよい。
また、円筒部材CMの内径は、大きい方が、圧損がでないため、例えば、5.0cm以上であることが好ましい。
また、電子侵入抑制手段13Aは、図4に示すように、円筒部材CMに電流Iを流すための第1の電源と、円筒部材CMと棒状部材SMを一対の電極として機能させるための電圧を印加する第2の電源と、を備えている。
例えば、第1電源は、0.5Vから1.0V程度で円筒部材CMに30Aから300Aの電流Iが流れるようにしている。
また、第2の電源は、20Vから80V程度の電圧を印加するものとしている。
図4で示す構成では、第1の電源が、円筒部材CMの一方側(例えば、図4の上側)から他方側(例えば、図4の下側)に向けて電流Iを流すように設けられ、第2の電源が円筒部材CMを陰極(-極)とし、棒状部材SMを陽極(+極)とするように、円筒部材CMと棒状部材SMの間に電圧を印加するように設けられている。
図4の右側の図は、左側の図を上側から見た模式図になっており、上述のようにすると、まず、円筒部材CMの一方側(例えば、図4の上側)から他方側(例えば、図4の下側)に向けて流れる電流Iによって、図4の右側に点線で示すように、円筒部材CMの内部空間に反時計回りの磁界が形成される。
なお、物理のテキスト等においては、円筒部材CMの一方側から他方側に電流Iを流しても、円筒部材CMの内部空間には磁界が形成されないという説明になっているが、例えば、気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)の流れを阻害しない程度に内径の大きな円筒部材CM(例えば、内径が3.0cm以上)の場合、棒状部材SMが位置するような中心には磁界が形成されないものの、それ以外のところでは磁界が形成されていることをガウスメーターで確認している。
ただし、中心ほど磁界が弱くなる傾向はある。
また、プラズマ中(本例では、マイクロ波表面波プラズマ中)は電流Iが流れる状態にあるため、図4の右側の図に示すように、棒状部材SMから円筒部材CMに向かって放射状に電流Iが流れる状態となる。
例えば、本実施形態では、1.0A程度の電流Iが流れるようになっている。
そして、棒状部材SMから円筒部材CMに向かって放射状に流れる電流Iと反時計回りの磁界との接点においては、その接点で磁界に対して接線を引いて反時計回り方向に向きを取った磁界が発生していることになる。
このため、図4に示す構成の場合、正の電荷を有するもの(本例では、プラズマ中の水素イオンのような陽イオン)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
なお、円筒部材CM中を流れる電流Iの向きが逆になるように第1の電源を設ければ、時計回りの磁界が形成されるため、ローレンツ力の関係は逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
同様に、円筒部材CMを陽極(+極)とし、棒状部材SMを陰極(-極)とするように第2の電源を設ければ、棒状部材SMと円筒部材CMの間を流れる電流Iの向きが逆転するため、ローレンツ力の関係は逆転、つまり、正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)には下側に向かう力(ローレンツ力)が働き、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)には上側に向かう力(ローレンツ力)が働くことになる。
したがって、円筒部材CMに対してどちら側に正の電荷を有するもの(例えば、陽イオン)に働く力(ローレンツ力)を発生させ、負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)に働く力(ローレンツ力)を発生させるかは、第1の電源又は第2の電源の設け方によって選択される。
そして、図2に示す電子侵入抑制手段13Aは、反応室2側に向かって負の電荷を有するもの(例えば、陰イオンや電子)に働く力(ローレンツ力)を発生させるようにしている。
このように、本実施形態では、電子侵入抑制手段13Aが、反応室2の気体状態の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)を受け入れる受入口12に設けられた導電性の円筒部材CMと、円筒部材CMに一方側(一端側)から他方側(他端側)に向けて電流を流す第1の電源と、円筒部材CMの中央に円筒部材CMと離間して配置された導電性の電極部(図4の棒状部材SM)と、円筒部材CMと電極部の間に電圧を印加する第2の電源と、を備え、電子侵入抑制手段13Aが、プラズマ中の電子が受入口12から原料貯蔵部51に向かうのを抑制するローレンツ力を形成するようになっている。
したがって、第1実施形態と同様に、電子の原料貯蔵部51内への侵入が抑制されるので、原料貯蔵部51内の原料(本例では、無水塩化マグネシウム)がチャージされず、静電反発が起きない結果、原料貯蔵部51内の粉体状の原料が反応室2内に噴出することを抑制できる。
この結果、第1実施形態と同様に、気体状態になった原料(本例では、無水塩化マグネシウム)だけが反応室2内に供給されることになり、原料の供給量の制御性を高めることが可能である。
以上、具体的な実施形態に基づいて、本発明について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、第2実施形態において、図3を参照した構成をそのまま反応室2内の受入口12の近くに設けるようにした電子侵入抑制手段13Aとしてもよい。
このように、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。