本実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
本実施形態では、鋼板を圧延する鉄鋼プラントを一例に挙げて説明するが、鉄鋼プラント以外の他のプラントにも適用可能である。例えば、連携して駆動される複数の電動機を備えるプラントであれば、本実施形態を適用可能である。
本実施形態では、後述するように、プラント電力制御システムの有する各電力変換器に対して、各々のトルク電流を予測し、電流容量の余力の大きい電力変換器から優先的に無効電力を供給させることにより、プラント電源全体の力率を改善する。
本実施形態に係るプラント電力制御システムは、電気エネルギーを受けて回転する電動機10A~10Cと、電動機10A~10Cと電力系統1との間に配置される電力変換器5A~5Cと、電力系統1に接続される無効電力負荷設備3と、複数の電力変換器5A~5Cから電力系統1に供給する無効電力指令または無効電流指令を生成する制御装置4と、電力変換器5A~5Cと制御装置4とをつなぐ通信ネットワーCN1と、電力系統1と無効電力負荷設備3とが接続される受電点RPの無効電力を計測もしくは推定する無効電力検出装置2と、を備える。
制御装置4は、無効電力検出装置2の検出した無効電力推定値から各電力変換器5A~5Cでの合計の無効電力出力目標値または無効電流出力目標値を算出する。そして、制御装置4は、無効電力出力目標値または前記無効電流出力目標値と、各電動機10A~10Cの配置情報と、各電力変換器5A~5Cの有効電力検出値、有効電流指令値、有効電流検出値、トルク指令値、トルク検出値のうちの少なくともいずれか一つと、各電動機10A~10Cの角速度の指令値または検出値と、各電力変換器5A~5Cの定格皮相電力とを用いることにより、各電力変換器5A~5Cに指令する無効電力指令または無効電流指令を決定する。
さらに、制御装置4は、各電動機10A~10Cの配置情報と、各電力変換器5A~5Cの有効電力検出値、有効電流指令値、有効電流検出、トルク指令値、トルク検出値のうち少なくともいずれか一つと、各電動機10A~10Cの角速度の指令値または検出値を用いて、プラントでの処理対象物である鋼板13が電動機10A~10Cに到達する到達時刻を予測する到達時刻予測部17を備えることができる。さらに、制御装置4は、定格皮相電力と、電力変換器5A~5Cの合計の無効電力出力目標値または無効電流出力目標値と、到達時刻予測部17が予測した鋼板13の到達時刻とを用いて、各電力変換器5A~5Cに指令する無効電力指令または無効電流指令を計算する無効電力指令決定部16と、を備えることができる。
制御装置4は、センサ21A~21Cの出力を受信する受信部20Cを備え、 到達時間予測部17は、電動機10A~10Cの配置情報と、各電力変換器5A~5Cの有効電力検出値、有効電流指令値、有効電流検出値、トルク指令値、トルク検出値のうち少なくともいずれか一つと、各電動機5A~5Cの角速度の指令値または検出値と、各センサ21A~21Cの出力を用いて、鋼板13の到達時刻を予測することもできる。
まず、第1実施例に係るプラント電力制御システムについて図1乃至図10を用いて説明する。
図1は、本実施例に係るプラント電力制御システムの全体構成を示す。プラント電力制御システムは、例えば、電源1と、複数の電力変換器5A~5Cと、制御装置4と、電源電圧検出器9と、電流検出器8と、無効電力検出装置2と、遅れ力率負荷設備用トランス7を介して接続される遅れ力率負荷設備3と、各電力変換器用トランス6A~6Cと、各電動機10A~10Cと、各圧延ローラ上部11A~11Cと、各圧延ローラ下部12A~12Cとを備えており、1つまたは複数の鋼板13が圧延ローラ11A~11Cと圧延ローラ12A~12Cとの間を通過する。
プラントの電源1は「電力系統」に該当する。遅れ力率負荷設備3は「無効電力負荷設備」に該当する。制御装置4は、各電力変換器5A~5Cを制御するコントローラ(CTL)であり、電力制御装置と呼ぶこともできる。鋼板13は、各電動機10A~10Cによる処理を受ける対象物である。
無効電力検出装置2は、電流検出器8の検出値と電源電圧検出器9の検出値とから、遅れ力率負荷設備3が系統から受電する無効電力(無効電力検出値QM)を検出または推定する。無効電力検出値QMは、有効電力、皮相電力、力率のうち少なくともいずれか2つから推定してもよい。無効電力検出値QMは、電源1の無効電力と電力変換器5A~5Cの無効電力との差から推定してもよい。制御装置4は、無効電力検出値QMと電力変換器5A~5Cとから得られた信号(速度情報、トルク情報、有効電力情報)に基づいて無効電力指令を演算し、算出された無効電力指令を各電力変換器5A~5Cに分配して所定タイミングで指令する。
電力変換器5A~5Cは、対応する電動機10A~10Cの回転数をそれぞれ制御する。すなわち、電力変換器5Aは電動機10Aを、電力変換器5Bは電動機10Bを、電力変換器5Cは電動機10Cを、それぞれ制御する。
電動機10A~10Cは、圧延ローラ上部11A~11Cおよび圧延ローラ下部12A~12Cに機械的に接続されている。圧延ローラ上部11A~11Cおよび圧延ローラ下部12A~12Cは、鋼板13を圧延する。
図2を用いて、制御装置4の詳細を説明する。図中では、例えば「受信部」を「受信」と示すように、「部」という言葉を略記する。
制御装置4は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、入出力インタフェース、通信インタフェース等のハードウェアと、オペレーティングシステムおよび所定のコンピュータプログラム等のソフトウェア(いずれも不図示)とを備える。制御装置4は、計算機として構成することもできるし、プログラマブルコントローラ、制御盤のように構成することもできる。演算装置であるプロセッサが所定のコンピュータプログラムをメモリへ読み込んで実行することにより、制御装置4としての機能が実現される。なお、コンピュータプログラムとして実現可能な機能を、ハードウェア回路として実装してもよい。
制御装置4は、無効電力指令決定部16と、到達時刻予測部17と、電動機配置記憶部18と、定格皮相電力記憶部19と、送信部15と、受信部20A,20Bとを備える。受信部20Aと受信部20Bとを特に区別しない場合、受信部20と呼ぶことがある。他の構成についても同様に、符号にアルファベットを添えた構成については、アルファベットを省略して説明する場合がある。
受信部20Aは、無効電力検出装置2が出力する無効電力検出値を受信する。受信部20Bは、各電力変換器5A,5B,5Cが対応する各電動機6A,6B,6Cに対して出力する、トルク情報(トルク指令またはトルクフィードバックまたは有効電流指令または有効電流検出値)と速度情報(速度指令または速度フィードバック)と有効電力情報(有効電力指令または有効電力検出値)とを受信する。トルク情報は、有効電力指令または有効電力検出値であってもよい。
到達時刻予測部17は、受信部20Bが受信したトルク情報および速度情報と、電動機配置記憶部18から読み出した電動機配置とに基づき、鋼板13が圧延ローラ上部11または圧延ローラ下部12に到達する到達時刻予測値を演算し、到達時刻予測値を無効電力指令決定部16へ出力する。
無効電力指令決定部16は、到達時刻予測部17から読み出した到達時刻予測値と定格皮相電力記憶部19から読み出した定格皮相電力と受信部20Aが受信した無効電力検出値と受信部20Bが受信した各電力変換器の有効電力検出値とに基づき、無効電力指令を演算し、無効電力指令を送信部15へ出力する。
送信部15は、無効電力指令決定部16から読み出した電力変換器毎の無効電力指令を電力変換器5A,5B,5Cへ出力する。無効電力指令決定部16は、無効電力指令値に代えて、無効電流指令を決定してもよい。
図3を用いて、無効電力指令決定部16および到達時刻予測部17を説明する。図3は、電動機群10A~10Cと鋼板13の位置関係の変化を示す。図3中では、3組の圧延ローラが示されている。第1圧延ローラ11A,12Aは、最初に鋼板13と接触して圧延する。第2圧延ローラ11B,12Bは、第1圧延ローラ11A,12Aで圧延された鋼板13をさらに圧延する。第3圧延ローラ11C,12Cは、最後に鋼板13を圧延する。図中では、説明の便宜上、3組の圧延ローラを示すが、これに限らず、複数の圧延ローラの組が存在すればよい。
図3において、圧延ローラ11A,12Aは位置XAに配置され、圧延ローラ11B,12Bは位置XBに配置され、圧延ローラ11C,12Cは位置XCに配置されている。図3の左側を上流と、右側を下流とし、鋼板13は上流から下流へ向けて移動するものとする。
時刻t11は、圧延ローラ11A,12Aよりも上流側から鋼板13の圧延が開始された状態を示す。時刻t12は、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aにより圧延中である状態を示す。時刻t13は、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aでの圧延を完了し、圧延ローラ11A,12Aよりも下流側に位置した状態を示す。時刻t14は、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bにより圧延を開始された状態を示す。時刻t15は、鋼板13が圧延ローラ11C,12Cにより圧延を開始された状態を示す。図3では、鋼板13は、同時に複数の圧延ローラ11,12により圧延されないものとして説明している。また、以下では、圧延ローラをローラと略記する場合がある。
図4は、電動機10Aのトルクと電動機10Aの速度(角速度。以下同じ)との時間変化を示す。図4において、時刻t11では、鋼板13が電動機10Aに到達し、鋼板13の圧延のために生じるトルクにより電動機10Aの速度が低下する。電動機10Aを制御する電力変換器5Aの速度制御器(不図示)では、速度指令値に追従させるための加速トルクが生じる。時刻t12では、鋼板13を圧延中であるため、鋼板13の圧延のためにトルクが発生する。時刻t13では、圧延を終了するため、電動機10Aのトルクが小さくなる。
図5を用いて、到達時刻予測部17の処理を説明する。図5では、電力変換器5Bに対応するローラ11B,12Bに、鋼板13が到達する時刻tBを演算する例を説明する。以下では、鋼板13がローラ11,12へ到達することを、鋼板13が電力変換器5に到達する、と略記する場合がある。正確には、鋼板13が圧延ローラ11,12に接触すると、そのローラ11,12に接続された電動機10のトルクや速度が変化し、その電動機10を制御する電力変換器5の出力が変化する。
図5において、到達時刻tBとは、圧延ローラ11B,12Bに鋼板13が到達する時刻である。
制御装置4は、電力変換器5Aの電動機配置、トルクτA(t)、速度指令VA(t)、および電力変換器5Bの電動機配置XB、トルクτB(t)を読み込む(S101)。
制御装置4は、トルクτA(t)と所定の閾値TH1とを比較することにより、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aにより圧延中であるか判定する(S102)。制御装置4は、トルクτA(t)が閾値TH1よりも大きい場合(S102:Yes)、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aにより圧延中であると判定し、ステップS103へ進む。一方、制御装置4は、トルクτA(t)が閾値TH1よりも小さい場合(S102:No)、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aにより圧延中でないと判定し、ステップS107へ進む。
制御装置4は、ステップS103において、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aに到達したタイミングを検出する。制御装置4は、時刻tよりも当該フローチャート演算の1サイクル前の時刻t-tCALにおけるトルクτA(t-tCAL)が閾値TH1よりも大きい場合(S103:Yes)、時刻t-tCALにおいても鋼板13が圧延ローラ11A,12Aで圧延中であると判定し、ステップS105へ進む。
一方、制御装置4は、トルクτA(t-tCAL)が閾値TH1よりも小さい場合(S103:No)、時刻tにおいて鋼板13が圧延ローラ11A,12Aによる圧延を開始されたと判定し、ステップS104へ進む。
制御装置4は、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aによる圧延を開始されてから圧延ローラ11A,12Aを通過した鋼板13の距離LSTA_ESTを0にリセットする(S104)。
制御装置4は、圧延ローラ11A,12Aを通過した鋼板13の距離を更新する(S105)。圧延ローラ11A,12Aを通過した鋼板13の距離は、数1で計算できる。
ただし、V
A(t)は、ローラ11A,12Aにより圧延中の鋼板13の移動速度である。ローラ11A,12Aにより圧延中の鋼板13の移動速度V
A(t)は数2で計算できる。
ただし、r
Aは、ローラ11Aの半径(m)である。ω
A(t)は、ローラ11Aの角速度(rad/sec)である。
次に、制御装置4は、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bに到達する時刻を更新する(S106)。鋼板13が圧延ローラ11B,12Bに到達する時刻tBは、数3で計算できる。
制御装置4は、電力変換器5Bのトルクτ
B(t)と所定の閾値TH
1Bとを比較することにより、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bにより圧延中であるかを判定する(S107)。トルクτ
B(t)が閾値TH
1Bよりも大きい場合(S107:Yes)、制御装置4は、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bにより圧延中であると判定し、ステップS108へ進む。
一方、トルクτB(t)が閾値TH1Bよりも小さい場合(S107:No)、制御装置4は、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bにより圧延中ではないと判定し、ステップS109へ進む。
ステップS108において、制御装置4は、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bに到達する時刻を更新する。時刻tで鋼板13が到達中であるため、到達時刻予測値tB_ESTを数4で更新する。
ステップS109において、制御装置4は、圧延ローラ11B,12Bによる鋼板13の圧延が終了したタイミングを検出する。制御装置4は、時刻tより1サイクル前の時刻t-t
CALにおけるトルクτ
B(t-t
CAL)が閾値TH
1Bよりも大きい場合(S109:Yes)、時刻t-t
CALにおいて圧延ローラ11B,12Bによる鋼板13の圧延が完了したと判定し、ステップS110へ進む。
一方、制御装置4は、トルクτB(t-tCAL)が閾値TH1Bよりも小さい場合(S109:No)、時刻tにおいて鋼板13が圧延ローラ11A,12Aによる圧延中であると判定し、本処理を終了する。
制御装置4は、ステップS110において、鋼板13が圧延ローラ11B,12Bに到達する時刻を更新する。時刻tで鋼板13が到達を完了したため、数5により到達時刻予測値を大きな値にリセットする。
例えば、時刻t
SETBは、操業時の鋼板13がローラ12Aからローラ12Bへ到達するのにかかる時間の最大値と比べて十分大きな値とする。
上述した図5の処理は、圧延ローラ11B,12Bの到達時刻を予測する例を示しているが、圧延ローラ11C,12Cの到達時刻も図5と同様の処理から算出することができる。したがって、鋼板13がローラ11C,12Cへ到達する時刻の予測方法の説明は省略する。
図6を用いて、無効電力指令決定部16の処理の一例を説明する。制御装置4は、無効電力検出値QMと、到達時刻予測部17で計算した各変換器5A~5Cへの鋼板13の到達時刻予測値tB,tCおよび定格皮相電力SA,SB,SCおよび有効電力PA、PB、PCとを読み込み、ステップS202へ進む。
制御装置4は、ステップS202において、電力変換器5A~5Cがプラント内の電力系統1へ配分する無効電力QREFA,QREFB,QREFCを計算するための、内部演算で用いる無効電力要求量QTMPを計算し、ステップS203へ進む。
プラントが系統1から受電する力率を「1」にするためには、無効電力検出値を打ち消すように無効電力要求量を計算する必要がある。そこで、制御装置4は、無効電力要求量QTMPを数6から計算する。
ステップS203では、制御装置4は、電力変換器5Bと電力変換器5Cへの負荷(鋼板13)の到達時刻予測値t
B,t
Cを比較する。制御装置4は、t
B>t
Cが成立する場合(S203:Yes)、ステップS204へ進む。一方、制御装置4は、t
B>t
Cが成立しない場合(S203:No)、ステップS210へ進む。
ステップS204では、制御装置4は、電力変換器5Bの無効電力指令QREFBを演算する。無効電力指令は数7で計算できる。
ただし、SIGNは、括弧内の入力が正のときは1を、0の時は0を、負のときは-1を出力する関数である。MINは、括弧内の入力のうち最も小さい値を出力する関数である。ABSは、括弧内の入力の絶対値を出力する関数である。
鋼板到達時刻予測値tBと現在の時刻tとが異なる場合(ローラ11B,12Bが圧延中でない場合)、ローラ11B,12Bにおける有効電力は十分に小さいと仮定できる。したがって、数7において有効電力PBを0に固定し、PBの検出値を用いなくてもよい。
無効電力指令の代わりに無効電流指令を与える場合は、数7において定格皮相電力の代わりに定格皮相電流を、有効電力の代わりに有効電流を用いて、無効電流出力指令を算出すればよい。
ステップS205では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPを更新する。制御装置4は、数7で計算された無効電力指令分だけ無効電力要求量を変更するように、無効電力要求量QTMPを数8により更新する。
ステップS206では、無効電力要求量Q
TMPが0になったかを判定する。無効電力要求量Q
TMP=0が成立する場合(S206:Yes)、制御装置4は、電力変換器5Bにより必要な無効電力を供給できたと判断し、ステップS209へ進む。
一方、無効電力要求量QTMP=0が成立しない場合(S206:No)、制御装置4は、電力変換器5Bにより必要な無効電力を供給できていないと判断し、ステップS207へ進む。
ステップS207では、制御装置4は、電力変換器5Cの無効電力指令QREFCを演算する。無効電力指令は数9で計算できる。
鋼板到達時刻予測値t
Cと現在時刻tとが異なる場合(ローラ11Cが圧延中でない場合)、ローラ11Cにおける有効電力は十分に小さいと仮定できるため、数9において有効電力P
Cを0に固定し、P
Cの検出値を用いなくてもよい。
ステップS208では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPを更新する。制御装置4は、数9で計算された無効電力指令分だけ無効電力要求量を変更するように、無効電力要求量QTMPを数10により更新する。
ステップS209では、制御装置4は、電力変換器5Cの無効電力指令Q
REFCをゼロにする。
ステップS210では、制御装置4は、電力変換器5Cの無効電力指令QREFCを演算する。無効電力指令は数9で計算できる。
ステップS211では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPを更新する。制御装置4は、数9で計算された無効電力指令分だけ無効電力要求量を変更するように、無効電力要求量QTMPを数10により更新する。
ステップS212では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPが0になったかを判定する。制御装置4は、無効電力要求量QTMP=0が成立する場合(S212:Yes)、電力変換器5Cにより必要な無効電力を供給できたと判断し、ステップS215へ進む。一方、制御装置4は、無効電力要求量QTMP=0が成立しない場合(S212:No)、電力変換器5Cにより必要な無効電力を供給できていないと判断し、ステップS213へ進む。
ステップS213では、制御装置4は、電力変換器5Bの無効電力指令QREFBを演算する。無効電力指令は数7で計算できる。
ステップS214では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPを更新する。制御装置4は、ステップS213において数7から計算された無効電力指令分だけ無効電力要求量を変更するように、無効電力要求量QTMPを数8により更新する。
ステップS215では、制御装置4は、電力変換器5Bの無効電力指令QREFBをゼロにする。
ステップS216では、制御装置4は、無効電力要求量QTMPが0になったかを判定する。制御装置4は、無効電力要求量QTMP=0が成立する場合(S216:Yes)、電力変換器5Bと電力変換器5Cとにより必要な無効電力を供給できたと判断し、ステップS218へ進む。
一方、制御装置4は、無効電力要求量QTMP=0が成立しない場合(S216:No)、電力変換器5Bと電力変換器5Cとにより必要な無効電力を供給できていないと判断し、ステップS217へ進む。
ステップS217では、制御装置4は、電力変換器5Aの無効電力指令QREFAを演算する。無効電力指令は数11で計算できる。
ステップS218では、制御装置4は、電力変換器5Aの無効電力指令Q
REFAをゼロにする。
図7のフローチャートを用いて、変換器5が4個以上ある場合の無効電力指令決定部16の処理を説明する。
制御装置4は、無効電力検出値QMと、到達時刻予測部17で計算した各電力変換器5A,5B,・・・,5N(Nは変換器の数。以下同じ)への鋼板13の到達時刻予測値tB,tC,・・・、tNと、定格皮相電力SA,SB,SC,・・・,SNおよび有効電力PA,PB,PC,・・・,PNとを読み込み(S301)、その後にステップS302へ進む。
制御装置4は、無効電力要求量QTMPを計算し(S302)、ステップS303へ進む。力率を「1」にするためには、無効電力検出値を打ち消すように無効電力要求量を計算する必要があるため、制御装置4は、無効電力要求量を数12で計算できる。
ステップS303では、制御装置4は、初期値を設定する。初期値として、K=1、N=変換器数を設定する。
ステップS304では、制御装置4は、各変換器5B~5Nへの負荷の到達時刻予測値を比較し、K番目に到達時刻予測値が遅い電力変換器5Kの無効電力指令QREFKを演算する。鋼板13が最初に接触する電力変換器5Aでの鋼板13の到達時刻は推定できないため、K番目に到達時刻予測値が遅い電力変換器5Kの導出においては、電力変換器5Aを含めない。変換器無効電力指令は数13で計算できる。
ステップS305では、制御装置4は、無効電力要求量Q
TMPを更新する。制御装置4は、数13で計算された無効電力指令分だけ無効電力要求量を変更するように、数14で計算する。
ステップS306では、制御装置4は、無効電力要求量Q
TMPが0になったかを判定する。制御装置4は、無効電力要求量Q
TMP=0が成立する場合(S306:Yes)、K番目に到達時刻予測値が遅い変換器により必要な無効電力を供給できたと判断し、本処理を終了する。
一方、制御装置4は、無効電力要求量QTMP=0が成立しない場合(S306:No)、K番目に到達時刻予測値が遅い変換器により必要な無効電力を供給できていないと判断し、ステップS307へ進む。
ステップS307では、制御装置4は、KとN-1とを比較する。制御装置4は、K<N-1が成立する場合(S307:Yes)、ステップS308へ進む。これに対し、制御装置4は、K<N-1が成立しない場合(S307:No)、ステップS309へ進む。
ステップS308では、制御装置4は、Kの値を1つインクリメントさせて更新し、ステップS304へ進む。制御装置4は、KをK+1に更新することで、K+1番目に到達時刻予測値が遅い変換器をステップS304で指定できる。
ステップS309では、制御装置4は、電力変換器5Aの無効電力指令QREFAを演算し、本処理を終了する。電力変換器5Aの無効電力指令QREFAは、数11で計算できる。
図8は、本実施例と比較するために用意された関連技術における、無効電力補償の時間変化の模式図である。図9は、本実施例による無効電力補償の時間変化の模式図である。なお、実際の有効電力と無効電力と皮相電力との関係はベクトル和で表されるが、図示が困難であるため、図8と図9では模式的に1次元で表している。図8における時間tdは、電力変換器5に無効電力指令を与えてから、その電力変換器5が無効電力を供給できるまでの応答時間である。図8および図9の横軸は時間軸であり、縦軸は電力を示す。
図8では、時刻t11,t14,t15において、電力変換器5A,5B,5Cに鋼板13が到達して負荷が急増した際に、電力変換器5A~5Cでは有効電力と無効電力指令との合計が、定格皮相電力(以下、定格電力とも呼ぶ)を上回る。
ここで、一般に電力変換器5には、機器保護のために定格電力を上回らないように電流指令を抑制する機能(リミッタ)を備える。したがって、負荷が急増すると、リミッタが作動することにより、電力変換器5は無効電力指令で指示された通りの無効電力を供給することができなくなる。
さらに、電力変換器5が指示されてから所望の無効電力を供給できるまでには、応答時間tdを要する。このため、図8に示すように、応答時間td分だけ無効電力指令通りの無効電力を供給できない時間帯が生じる。
図9に示す本実施例では、鋼板13の到達時刻予測値が遅い変換器に優先的に無効電力指令を与える。したがって、負荷が急増した場合においても、電力変換器5は、無効電力指令で指示された通りの無効電力を供給できる。
例えば、時刻t11と時刻t14との間では、鋼板13の到達時刻予測値がtB_EST<tC_ESTの関係を満たすため、電力変換器5Bよりも電力変換器5Cの方に優先的に無効電力指令が配分される。
鋼板13が電動機10Bに対応するローラ11B,12B間を通過完了する時刻と鋼板13が次のローラ11C,12Cへ到達する時刻t15との間では、鋼板13の到達時刻予測値がtB_EST>tC_ESTの関係を満たす。したがって、制御装置4は、電力変換器5Cよりも電力変換器5Bの方へ優先的に無効電力指令を配分する。
このように構成される本実施例によれば、電流容量の余力の大きい電力変換器5から優先的に無効電力を供給させることにより、負荷増大の原因となる鋼板13の到達時刻が早い電動機への無効電力配分を小さくできる。したがって、本実施例によれば、必要な無効電力量を電力変換器5から効率的かつ安定的に供給させることができ、プラント電力系統1の力率を改善することができる。
本実施例では、電力変換器5の出力状態に基づいて、鋼板13がローラ11,12へ到着したことを推定し、無効電力の出力を割り当てるため、鋼板13の存在を検出するためのセンサが不要である。したがって、比較的低コストかつ簡単にプラントの電力制御システムを改善することができる。ただし、本実施例では、一番最初に鋼板13に接触するローラ11,12に対応する電力変換器5Aには、無効電力の出力を大きく割り当てることはできない。鋼板13がローラ11,12に接触する時刻が不明だからである。鋼板13の到着をより正確に検出する構成は、後述する。
なお、これまでの説明においては、鋼板1枚の長さが任意の複数の圧延ローラ間との距離よりも短いものと仮定したが、図10に示すように、鋼板の1枚の長さが任意の複数の圧延ローラ間との距離よりも長い場合においても、図2、図5、図7と同様の原理により、電力変換器5から適切なタイミングで無効電力を出力させることができ、プラント全体の力率を改善できる。
図11~図16を用いて第2実施例を説明する。本実施例を含む以下の各実施例は、第1実施例の変形例に相当するため、第1実施例との相違を中心に述べる。本実施例のプラント電力制御システムでは、鋼板13を検出するセンサ21A~21Cを利用する。
図11は、本実施例に係るプラント電力制御システムの構成図である。図11に示す全体構成は、図1で述べた第1実施例の全体構成と比べて、センサ21A,21B,21Cが追加されている点で異なる。特に区別しない場合、センサ21と呼ぶことがある。
センサ21は、少なくとも鋼板13の存在を検出できればよい。センサ21は、例えば、鋼板検出器と呼ぶこともできる。本実施例のセンサ21は、鋼板13の厚み寸法を検出するセンサとして構成されている。各センサ21は、対応するローラ11,12の上流側に位置して、上部ローラ11の近傍に配置されている。すなわち、第1センサ21Aはローラ11Aの上流側近傍に、第2センサ21Bはローラ11Bの上流側近傍に、第3センサ21Cはローラ11Cの上流側近傍に、それぞれ設けられている。そして、各センサ21の検出した信号は、通信ネットワークCN2を介して制御装置4へ入力される。
図12は、制御装置4Bの構成を示す。図12に示す構成は、図2で述べた第1実施例の構成と比べて、センサ21からの信号を受信する受信部20Cが追加された点で異なる。
本実施例の制御装置4Bでは、各ローラ11,12の上流側近傍に配置されたセンサ21の信号を利用することができるため、鋼板13が最初の圧延ローラ11A,12Aへ接近していることを検出できる。さらに、鋼板13が次の圧延ローラ11B,11C,・・・,11Nおよび圧延ローラ12B,12C,・・・,12Nへ到達する時刻の予測精度を向上できる。
図13および図14を用いて、到達時刻予測部17の処理を説明する。図13のフローチャートは、電力変換器5Aに対する処理を示す。図14のフローチャートは、電力変換器5Bに対する処理フローを示す。
図15は、図13および図14を説明するための、鋼板13とローラ11,12、およびセンサ21の位置関係の例を示す。
図15では、圧延ローラ11A,12Aは位置XAに、圧延ローラ11B,12Bは位置XBに、圧延ローラ11C,12Cは位置XCに、配置されたものとする。センサ21Aは位置XASに、センサ21Bは位置XBSに、センサ21Cは位置XCSに、配置されたものとする。図15の左側が上流、右側が下流である。鋼板13は上流から下流へ移動するものと仮定する。
時刻t31は、鋼板13がセンサ21Aに到達した状態を示す。時刻t32は、圧延ローラ11A,12Aによる鋼板13の圧延が開始された状態を示す。時刻t33は、鋼板13に対する圧延ローラ11A,12Aによる圧延が完了し、圧延ローラ11A,12Aよりも下流側に位置した状態を示す。時刻t34は、鋼板13がセンサ21Bに到達した状態を示す。時刻t35は、圧延ローラ11B,12Bによる鋼板13の圧延が開始された状態を示す。
図13に戻る。図13において、制御装置4Bは、時刻tにおける電力変換器5Aの電動機配置XA、トルクτA(t)、速度指令VA(t)、およびセンサ21Aの検出値DSTA(t)を読み込む(S401)。
制御装置4Bは、トルクτA(t)と閾値TH1Aとを比較する(S402)。トルクτA(t)が所定の閾値TH1Aよりも大きい場合(S402:Yes)、制御装置4Bは、鋼板13が圧延中であると判定し、ステップS403へ進む。一方、制御装置4Bは、トルクτA(t)が閾値TH1Aよりも大きくないと判定すると(S402:No)、ステップS404へ進む。
ステップS403において、制御装置4Bは、鋼板13の到達時刻予測値を更新する。時刻tにおいて、鋼板13が圧延ローラ11A,12Aに到達中であるため、制御装置4Bは、鋼板13の到達時刻予測値tA_EST(t)を下記の数15により更新する。
ステップS404では、制御装置4Bは、センサ21の検出値DSTA(t)と閾値TH2Aとを比較する。DSTA>TH2Aが成立する場合(S404:Yes)、センサ21が時刻tで鋼板13の存在を認識していることを意味するため、ステップS405へ進む。一方、DSTA>TH2Aが成立しない場合(S404:No)、時刻tでセンサ21Aが鋼板13の存在を認識していないことを意味するため、本処理を終了する。
ステップS405において、制御装置4Bは、時刻(t-tCAL)におけるセンサの検出値DSTA(t-tCAL)と、所定の閾値TH2Aとを比較する。DSTA(t-tCAL)>TH2Aが成立する場合(S405:Yes)、制御装置4Bは本処理を終了する。一方、制御装置4Bは、DSTA(t-tCAL)>TH2Aが成立しない場合(S405:No)、時刻tで鋼板13がセンサ21Bに到達したと判定し、ステップS406へ進む。
ステップS406では、制御装置4Bは、圧延ローラ11A,12Aに鋼板13が到達する時刻を下記数16により更新する。
ただし、t
SETASは、センサ21Aが鋼板13の認識を開始してから圧延ローラ11A,12Aに鋼板13が到達するまでの時間である。時刻t
SETASは、センサ21Aと圧延ローラ11A,12Aとの距離(X
A-X
AS)と、圧延ローラ11A,12Aの速度V
A(t)とを用いて、下記数17により推定できる。
なお、t
SETASは、あらかじめ定めた値にしてもよい。
図14において、制御装置4Bは、電力変換器5Aの電動機配置、トルクτA(t)、速度指令VA(t)、およびセンサ21Bの検出値DSTB(t)、および電力変換器5Bの電動機配置XB、トルクτB(t)を読み込む(S501)。
ステップS502~S506は、図6におけるステップS202~S206と同様であるため、説明を省略する。
ステップS507では、制御装置4Bは、時刻(t-tCAL)におけるトルクτA(t-tCAL)と閾値TH1Aとを比較する。制御装置4Bは、τA(t-tCAL)>TH1Aが成立する場合(S507:Yes)、時刻tにおいてローラ11A,12Aによる圧延が完了したと判断して、ステップS508へ進む。一方、制御装置4Bは、τA(t-tCAL)>TH1Aが成立しない場合(S507:No)、ステップS509へ進む。
ステップS508では、制御装置4Bは、ローラ11A,12Aによる鋼板13の圧延が完了した時刻tENDAおよび電動機速度VA(tENDA)を保存する。そしてステップS509へ進む。
ステップS509では、制御装置4Bは、センサ21の検出値DSTB(t)と所定の閾値TH2Bとを比較する。DSTB>TH2Bが成立する場合(S509:Yes)、センサ21Bが時刻tで鋼板13の存在を認識していることを意味するため、ステップS510へ進む。一方、DSTB>TH2Bが成立しない場合(S509:No)、時刻tでセンサ21Bが鋼板13の存在を認識していないことを意味するため、ステップS512へ進む。
ステップS510では、制御装置4Bは、時刻(t-tCAL)でのセンサ21Bの検出値DSTB(t-tCAL)と、所定の閾値TH2Bを比較する。DSTB(t-tCAL)>TH2Bが成立する場合(S510:Yes)、制御装置4Bは、ステップS512へ進む。一方、DSTB(t-tCAL)>TH2Bが成立しない場合(S510:No)、制御装置4Bは、時刻tで鋼板13がセンサ21Bに到達したと判定し、ステップS511へ進む。
ステップS511では、制御装置4Bは、圧延ローラ11B,12Bに鋼板13が到達する時刻を下記数18から算出して更新する。
ただし、t
SETBSは、センサ21Bが鋼板を認識開始してから圧延ローラ11B,12Bに鋼板13が到達するまでの時間である。時間t
SETBSは、センサ21Bと圧延ローラ11B,12Bとの距離(X
B-X
BS)と、圧延ローラ11A,12Aによる圧延終了時の速度V
A(t
ENDA)を用いて、数19により推定できる。
なお、t
SETBSは、あらかじめ定めた値にしてもよい。
ステップS512~S515は、図6におけるステップS207~S210と同様であるため、説明を省略する。
図14は、圧延ローラ11B,12Bの到達時刻予測値tBを予測する例を示しているが、圧延ローラ11C,12Cに関する到達時刻予測部17も図14と同様のフローチャートに従った演算を行うことにより実現できる。
図16を用いて、無効電力指令決定部16の処理を説明する。ステップS601~S603は、図7で述べたステップS301~S303と同様であるため、説明を省略する。
ステップS604では、制御装置4Bは、各変換器5への負荷の到達時刻予測値を比較し、K番目に到達時刻予測値が遅い電力変換器5Kの無効電力指令QREFKを演算する。無効電力指令は数13で計算できる。
ステップS605~S606は、図7で述べたステップS305~S306と同様であるため、説明を省略する。
ステップS606では、制御装置4Bは、無効電力要求量QTMPが0になったかを判定する。無効電力要求量QTMP=0が成立する場合(S606:Yes)、制御装置4Bは、K番目に到達時刻予測値が遅い変換器5Kにより、必要な無効電力を供給できたと判断し、本処理を終了する。
一方、無効電力要求量QTMP=0が成立しない場合(S606:No)、制御装置4Bは、K番目に到達時刻予測値が遅い変換器5Kにより、必要な無効電力を供給できていないと判断し、ステップS607へ進む。
ステップS607では、制御装置4Bは、「K」と「N」を比較する。K<Nが成立する場合(S607:Yes)、ステップS608へ進む。K<Nが成立しない場合(S607:No)、本処理を終了する。
なお、センサ21は、鋼板の厚みを検出する検出器である必要は必ずしもなく、少なくとも鋼板の有無を検出できればよい。鋼板の有無を「1(鋼板あり)」または「0(鋼板なし)」で検出する場合、閾値TH2A、TH2B,・・・,TH2Nは、0より大きい値であって、かつ1より小さい値に設定すればよい。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、鋼板13を検出するセンサ21の信号を利用することができるため、第1実施例よりも正確に電力変換器5の状態の変化を予測することができ、効率的に無効電力の出力を適切なタイミングで配分することができる。
図17~図19を用いて第3実施例を説明する。図17は、本実施例に係るプラント電力制御システムの制御装置4Cを示す。図17に示す構成は、図12で述べた第2実施例の構成と比べて、鋼板速度推定部23が追加された点で異なる。以下、鋼板速度推定部23を速度推定部23と略記する場合がある。
鋼板速度推定部23は、鋼板13の移動する速度の実際の値(実績値)と予測値(推定値)との差異を低減するために設けられた機能である。鋼板13とローラ11,12との間には、スリップなどが生じるため、鋼板13の速度の実績値と推定値とは異なる場合があるためである。速度推定部23は、電力変換器5からの角速度情報とセンサ21からの信号とに基づいて、速度の推定値を算出する。
図18は、速度推定部23の構成を示す。速度推定部23は、例えば、センサ検出値記憶装置29と、実速度演算部24と、速度補正係数学習部25と、速度補正係数記憶部26と、鋼板速度推定値計算部27と、速度情報記憶装置30と、トルク情報記憶装置31とを備える。上記構成の名称は、図18では適宜省略されている。
センサ検出値記憶装置29は、センサの21検出値を記憶し、実速度演算部24へ出力する。速度情報記憶装置30は、速度情報を記憶し、速度補正係数学習部25へ出力する。トルク情報記憶装置31は、トルク情報を記憶し、速度補正係数学習部25へ出力する。速度補正係数記憶部26は、速度補正係数学習部25から入力された速度補正係数を記憶し、応答速度推定部へ出力する。
実速度演算部24の処理を説明する。一方、ローラ11Aとローラ11Bの間における実際の鋼板速度は、センサ21Bを検出開始した時刻t34とローラ11Bによる鋼板の圧延を開始した時刻t35とを用いて、数20に基づき演算する。
速度補正係数演算部25の処理を説明する。補正前の鋼板速度の推定値V
EST_AB0は、前述の図15のt=t
33(図14のフローチャートのt=t
ENDA)におけるローラ11Aの速度とみなし、数21により演算できる。
鋼板速度の推定値と実際の鋼板速度の比率を補正係数αとすると、補正係数αは数22で表される。
例えば、トルク情報記憶装置31に記憶されているトルク情報と、速度情報記憶装置31に記憶されている速度情報との各々に応じて、補正係数αを学習させる。この場合、補正係数αは、トルクと速度との2次元のテーブルで与えられる。
なお、補正係数αの学習に用いる情報は、トルクと速度に限定する必要はなく、例えばトルク、速度、鋼板の厚さ、鋼板の温度、鋼板の成分比率などのうち少なくともいずれか1つを外部から取得し、これらのうち少なくともいずれか1つに対して補正係数αを学習させても良い。
例えば、補正係数αをトルク、速度、鋼板の厚さにより学習させる場合、図18の速度補正係数学習部25に鋼板13の厚さを入力できるように構成を追加し、補正係数αは3次元テーブルとすればよい。
鋼板速度推定値計算部27の処理を説明する。補正係数αを用いると、補正後の鋼板速度の推定値は数23で演算できる。
図19を用いて、数20から数23による速度指令補正の一例を説明する。t
34とt
35の間における鋼板の平均速度V
ACT_ABを実際の鋼板速度とみなし、ローラ11Aの速度から求めた補正前の鋼板速度V
EST_AB0との比率を補正することで、実際の鋼板速度を推定できる。
このように構成される本実施例も第2実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、鋼板13の実際の移動速度と推定速度との差異を補正できるため、第2実施例よりも正確に電力変換器5の状態の変化を予測することができ、適切なタイミングで各電力変換器5から無効電力を出力させることができる。
図20を用いて、第4実施例を説明する。図20は、本実施例のプラント電力制御システムに使用される制御装置4Dの構成を示す。本実施例に係る制御装置4Dと図17で述べた制御装置4Cとの違いは、図20では記憶データ変更部32と、記憶データ変更部32のデータを外部から変更するための外部インタフェース33Aとが追加されている点である。なお、図20では、電動機配置記憶部18を「M」と、定格皮相電力記憶部19を「S」と略記している。
記憶データ変更部32は、電動機配置記憶部18に記憶されている電動機配置と、定格皮相電力記憶部19に記憶されている定格皮相電力と、鋼板速度推定部32に記憶されている速度指令値、トルク指令値、圧延時刻、速度補正係数からなる記憶データとを、それぞれ変更する機能を有する。
このように構成される本実施例も第3実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、各電力変換器5から出力させる無効電力の値およびタイミングを算出するための基礎となるパラメータの全部または一部を、システム管理者等のユーザが修正することができる。したがって、本実施例によれば、例えば、プラントの設備更新などにより、電動機10の配置が変更された場合、ユーザは、記憶データ変更部32により、電動機配置および定格皮相電力の情報を変更することができる。これにより、プラントの設備更新後においても、無効電力指令決定部16により、必要な無効電力を補償できる。
図21~図24を用いて第5実施例を説明する。図21は、本実施例に係るプラント電力制御システムの全体構成図である。本実施例と第1実施例との違いは、本実施例では変圧器34および力率調整装置35が追加されている点である。
力率調整装置35は、変圧器34を介してプラント電源1に接続されている。また力率調整装置35は、通信経路CN3を介して制御装置4Eと接続されている。
図22は、力率調整装置35の構成図である。力率調整装置35は、例えば、複数のコンデンサ37A,37B,37Cと、各コンデンサ37A,37B,37Cに直列に接続されたスイッチ36A,36B,36Cを備える。力率調整装置35は、スイッチ36A,36B,36Cをオンオフさせることにより、コンデンサ37A,37B,37Cを系統に接続したり切り離したりすることができる。力率調整装置35の構成は図22に示す例に限らない。例えば、力率調整装置として、無効電力補償装置(Static Var Compensator)等を用いてもよい。
図23は、本実施例に係る制御装置4Eの構成を示す。本実施例の制御装置4Eと第1実施例で述べた制御装置4との違いは、本実施例の制御装置4Eでは、力率調整装置35から無効電力供給計画を受信する受信部20Dと、無効電力の配分を演算する機能38とが追加されている点である。
制御装置4Eは、力率調整装置35により実施される無効電力供給計画を受信部20Dを介して力率調整装置35から受信する。そして、制御装置4Eは、必要な無効電力量を、力率調整装置35と各電力変換器5とに配分する。
無効電力配分演算部38は、受信部20Aで受信した無効電力検出装置2の無効電力検出値と、受信部20Dで受信した力率調整装置35の無効電力供給計画との差を求めることにより、制御装置4Eの無効電力指令決定部16が補償すべき無効電力を演算する。
図24は、力率調整装置35と電力変換器群とを組み合わせて無効電力を補償する場合の例を示す。図24の上段には、無効電力検出装置2により検出された無効電力の時間変化が示されている。図24の中段には、力率調整装置35が無効電力を補償する様子が示されている。図24の下段には、各電力変換器5から無効電力の出力状態が示されている。
図24に示されるように、力率調整装置35は、コンデンサ37のオンオフにより無効電力を制御するため、力率調整装置35のコンデンサ37のみでは無効電力を完全に補償することはできない。
そこで、本実施例では、力率調整装置35による無効電力の補償と各電力変換器5による力率補償機能とを結合させることにより、プラント電力制御システム全体の力率を補償する。さらに、本実施例では、電力変換器5の力率補償機能を用いるため、力率調整装置35で必要とするコンデンサ容量を少なくすることができ、力率調整装置35のコストを削減できる。
図25~図27を用いて第6実施例を説明する。図25は、本実施例に係るプラント電力制御システムの全体構成図である。図25に示す本実施例の構成と図21で述べた第5実施例の構成との違いは、本実施例では、制御装置4Fから力率調整装置35へ向けて信号が流れる点である。
図26は、本実施例に係る制御装置4Fの構成を示す。図26に示す制御装置4Fと図2で述べた制御装置4との違いは、本実施例の制御装置4Fには送信部15Aが含まれている点である。
図27を用いて、本実施例の制御装4Fの有する無効電力指令決定部16の処理を説明する。
ステップS701~S706は、図16で述べたステップS601~S606と同様であるため、説明を省略する。
ステップS707では、制御装置4Fは、「K」と「N」を比較する。K<Nが成立する場合(S707:Yes)、制御装置4Fは、K+1番目に到達時刻予測値が遅い変換器5が存在すると判断し、ステップS708へ進む。
一方、K<Nが成立しない場合(S707:No)、K+1番目に到達時刻予測値が遅い変換器が存在しないため、制御装置4Fは、力率調整装置35による無効電力補償が必要であると判断し、ステップS709へ進む。
ステップS708では、制御装置4Fは、Kの値を更新して、ステップS704へ戻る。変数Kの値を一つ増加させることにより、K+1番目に到達時刻予測値が遅い変換器をステップS704で指定できる。
ステップS709では、制御装置4Fは、力率調整装置35に対して無効電力出力指令QTMAPREFを送信する。
このように構成される本実施例も第5実施例と同様の作用効果を奏する。本実施例では、電力変換器5だけでは無効電力を補償できない場合に、力率調整装置35と協働して無効電力を補償する。これにより、プラント全体の力率を改善できる。
図28,図29を用いて第7実施例を説明する。図28は、本実施例に係るプラント電力制御システムが備える制御装置4Gの構成図である。本実施例に係る制御装置4Gは、アラーム表示部39を有する点で、図2で述べた第1実施例の制御装置4と異なる。アラーム表示部39は、無効電力指令決定部16に接続されており、無効電力指令決定部16からの指示に応じて警告を出力する。
図29のフローチャートは、制御装置4Gが備える無効電力指令決定部16の処理を示す。ステップS801~S808は、図27で述べたステップS701~S708と同様であるため、説明を省略する。
ステップS809では、制御装置4Gは、アラーム表示部39に所定の警告を表示させる。所定の警告としては、例えば「N台の変換器では、無効電力要求通りに補償することはできません」のようなメッセージをディスプレイに表示させる。ディスプレイへ表示に代えて、あるいはディスプレイ表示と共に音声で警告してもよい。なお、所定の警告は、文字情報である必要はなく、例えば表示灯を点灯させることによりユーザの注意を喚起してもよい。
所定の警告には、プラント電力制御システムからの提案を含んでもよい。その提案には、短期的な提案と、長期的な提案との少なくともいずれかが含まれる。短期的な提案とは、無効電力を補償するために比較的早期に実施可能な内容である。短期的な提案には、例えば、力率調整装置35の無効電力供給計画の修正がある。すなわち、制御装置4Gは、オンオフさせるコンデンサ37の数またはコンデンサ37をオンオフさせるタイミングの少なくともいずれか一つを変更させることにより、無効電力を補償することができるか計算し、補償できると判定した場合は、力率調整装置35の無効電力供給計画の修正をユーザへ提案する。長期的な提案とは、短期的な提案よりも長い時間をかけて実施される提案である。長期的な提案には、例えば、電力変換器5の交換または追加、力率調整装置35の交換または追加といった、プラントの電力設備に関する更新の提案が含まれる。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、無効電力の補償ができない場合に警告を出力するため、ユーザは、その警告を確認して対策することができ、ユーザの使い勝手が向上する。
図30,図31を用いて第8実施例を説明する。図30は、本実施例に係るプラント電力制御システムが備える制御装置4Hの構成図である。本実施例の制御装置4Hは、無効電力比較部40と、ログデータ記憶部41と、ログデータ記憶部41のデータを外部へ入出力するための外部インタフェース33Bとが追加されている点で、第1実施例の制御装置4と異なる。
無効電力比較部40は、無効電力検出装置2で検出された無効電力を受信部20Aを介して受け取ると共に、各電力変換器5から出力される無効電力の情報を受信部20Bを介して受け取る。無効電力比較部40は、受信部20Aから受信した無効電力と受信部20Bから受信した無効電力とを比較し、無効電力を補償できないと判定された場合に所定のログデータをログデータ記憶部41へ保存させる。
図31のフローチャートを用いて、制御装置4Hの備える無効電力比較部40の処理を説明する。
制御装置4Hは、受信部20Aから無効電力検出値QMを読み込み、受信部20Bから無効電力QA,QB,QC,・・・,QNを読み込む(S901)。
制御装置4Hは、総無効電力要求量QREF0を計算する(S902)。総無効電力要求量QREF0は、下記数24で計算できる。
制御装置4Hは、無効電力Q
A,Q
B,Q
C,・・・,Q
Nの和Q
TOTALを計算する(S903)。Q
TOTALは、下記数25で表される。前記同様に、Q
NのNは電力変換器の数である。
制御装置4は、Q
TOTALとQ
REF0とを比較する(S904)。Q
TOTAL<Q
REF0が成立する場合(S904:Yes)、制御装置4Hは、ステップS905へ進む。一方、Q
TOTAL<Q
REF0が成立しない場合(S904:No)、制御装置4Hは、本処理を終了する。
制御装置4Hは、ログデータ記憶部41に所定のログデータを保存させる(S905)。所定のログデータとは、例えば、受信部20Aが受信した無効電力検出値と、受信部20Bが受信した各電力変換器5の有効電力、無効電力、トルク、速度のうちの少なくともいずれか一つと、ログデータ保存時のタイムスタンプである。これに代えて、複数時点の任意のデータをログデータ記憶部41に保存してもよい。
ユーザは、外部インタフェース33Bを介して、ログデータ記憶部41に記憶されたログデータを取り出して、利用することができる。それらのログデータは、例えば閾値の変更等による無効電力配分手法の改善、将来の設備更新時における電力変換器5の定格皮相容量の決定等に役立てることが可能である。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、無効電力を補償できない場合に所定のログデータを保存するため、ユーザは、ログデータを原因解析または将来の設備更新等に役立てることができ、ユーザの使い勝手が向上する。
図32~図35を用いて第9実施例を説明する。図32は、本実施例に係るプラント電力制御システムの備える制御装置4Jの構成図である。本実施例の制御装置4Jは、有効電力予測部42と、無効電力不足量予測部43と、受信部20Eと、送信部15Aとが追加されており、さらに、送信部15Aには力率調整装置35が接続されており、さらに、受信部20Eには無効電力予測値44が接続されている点で、第1実施例の制御装置4と異なる。
図33は、有効電力予測部42の構成図である。図34は、鋼板13とローラ11,12とセンサ21の位置関係の例を示す。
図34において、圧延ローラ11A,12Aは、位置XAに、圧延ローラ11B,12Bは位置XBに、圧延ローラ11C,12Cは位置XCに、それぞれ配置されたものとする。センサ21Aは位置XASに、センサ21Bは位置XBSに、センサ21Cは位置XCSに、それぞれ配置されたものとする。図34の左側を上流、右側を下流とし、鋼板13は上流から下流へ移動するものとして説明する。
時刻t41は、圧延ローラ11A,12Aによる鋼板13の圧延が開始された状態を示す。時刻t42は、圧延ローラ11A,12Aによる鋼板13の圧延が完了し、圧延ローラ11A,12Aよりも下流側に鋼板13が位置した状態を示す。時刻t43は、圧延ローラ11B,12Bによる鋼板13の圧延が開始された状態を示す。時刻t44は、圧延ローラ11B,12Bによる鋼板13の圧延が完了し、圧延ローラ11B,12Bよりも下流側に鋼板13が位置した状態を示す。
図33に戻る。有効電力予測部42は、例えば、到達時刻記憶装置44と、有効電力記憶装置45と、速度情報記憶装置30と、トルク情報記憶装置31と、有効電力学習部46と、有効電力予測値計算部47とを備える。図中では、各構成の名称を適宜略記している。
有効電力学習部46は、各電力変換器5の将来の時点における有効電力を学習する機能である。例えば、図34において、或る鋼板13が電力変換器5Aを通過した際(時刻t41から時刻t42まで)の電力変換器5Aの有効電力をPA_DBとし、同じ鋼板13が電力変換器5Bを通過した際(時刻t43から時刻t44まで)の電力変換器5Bの有効電力をPB_DBとする。電力変換器5Aの有効電力PA_DBと電力変換器5Bの有効電力PB_DBとの比率を補正係数βとすると、補正係数βは、下記数26で表される。
数26に示す補正係数βを、速度情報やトルク情報などと関連付けて学習させることにより、鋼板13が電力変換器5Aを圧延中の有効電力情報P
Aと速度情報とトルク情報と補正係数βとに基づいて、同じ鋼板13が電力変換器5Bを圧延した際の有効電力P
B_PREDを数27から予測することができる。
有効電力予測値計算部47は、将来の任意の時点における有効電力を予測する機能である。将来の任意の時点t+t
ARBにおける有効電力の予測値P
PREDは、下記数28で計算できる。ただし、t
ARBは任意の時間である。
数28におけるP
i_PRED(t+t
ARB)は、次のように決定される。すなわち、任意の時刻t+t
ARBと到達時刻記憶装置44に記憶された到達時刻予測値(t
A_EST、t
B_EST,・・・,t
N_EST)とを比較し、任意の時刻t+t
ARBにおいて鋼板13が到達したと予測される場合は、有効電力学習部46で学習した有効電力予測値をP
i_PRED(t+t
ARB)とする。鋼板13が到達していないと予測される場合は、無負荷時の有効電力を有効電力予測値P
i_PRED(t+t
ARB)とする。
図35のフローチャートを用いて、無効電力不足量予測部43の実施する処理を説明する。
制御装置4Jは、有効電力予測部42から有効電力の予測値PA(t+tARB),PB(t+tARB),・・・,PN(t+tARB)を読み込み、受信部20Dから総無効電力要求量の予測値QREF0(t+tARB)を読み込み、定格皮相電力記憶部19から定格皮相電力SA、SB,・・・,SNを読み込む(S1001)。
制御装置4Jは、将来の任意の時点において供給可能な無効電力の予測値を計算する(S1002)。将来の任意の時点t+tARBにおいて供給可能な無効電力の予測値QPRED(t+tARB)は、下記数29で計算できる。
制御装置4Jは、将来の任意の時点において供給可能な無効電力の予測値Q
PRED(t+t
ARB)と総無効電力要求量の予測値Q
REF0(t+t
ARB)とを比較する(S1003)。Q
PRED(t+t
ARB)>Q
REF0(t+t
ARB)が成立する場合(S1003:Yes)、制御装置4Jは、ステップS1004へ進む。一方、制御装置4Jは、Q
PRED(t+t
ARB)>Q
REF0(t+t
ARB)が成立しないと判定すると(S1003:No)、本処理を終了する。
ステップS1004では、制御装置4Jは、力率調整装置35に対して無効電力出力指令QTMAPREFを送信する。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、総無効電力要求量に対して、各電力変換器5の無効電力の余力が不足する前に、力率調整装置35へ指令を与えることができる。これにより、本実施例では、力率調整装置35を速やかに動作させて、力率調整装置35の応答遅れ時間による力率の低下を抑制することができる。