JP7113039B2 - 銅合金板材およびその製造方法ならびに絞り加工品、電気・電子部品用部材、電磁波シールド材および放熱部品 - Google Patents

銅合金板材およびその製造方法ならびに絞り加工品、電気・電子部品用部材、電磁波シールド材および放熱部品 Download PDF

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Description

本発明は、銅合金板材およびその製造方法ならびに絞り加工品、電気・電子部品用部材、電磁波シールド材および放熱部品に関する。
銅合金板材、例えば、電気・電子部品用のコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ、ソケット、シールドケース、シールドキャン、液晶補強板、液晶のシャーシ、有機ELディスプレイの補強板や、自動車車載用のコネクタ、シールドケース、シールドキャンなどに使用される銅合金板材は、通常、打ち抜き、曲げ、絞り、張り出し等のプレス加工が施される。
従来の銅合金板材を用いた場合、本来は実現困難なはずの難加工形状を実現するには、機械的・電気的特性を犠牲にせざるをえなかった。ここでいう「難加工形状」とは、例えば、絞り加工品を製造する際に、コーナーやエッジ部の曲率半径が通常よりも小さいポンチ等の治具で加工した場合に成形される形状を意味する。このような難加工形状を有する絞り加工品を製造する場合、銅合金板材の本来の機械的・電気的特性が十分に生かされているとはいえない。また、銅合金板材の機械的・電気的特性を重視した場合には、目的とする難加工形状への加工は、断念するしかなく、電子機器の小型化に対する要求を満足することができない。これは、治具(ポンチ)の曲率半径をある程度大きくせざるをえない結果、電子部品を構成する絞り加工品の実装空間が自ずと大きくなってしまうことがひとつの原因である。さらには、絞り加工品の形状を最適化することにより、絞り加工性を重視した分だけ犠牲にした放熱性を向上させる余地はあるものの、その最適形状への絞り加工は現状困難であるという問題がある。
特に、近年の電気・電子部品や自動車車載用部品の高性能化に伴い、それらを構成する部品の一つであるプレス加工製品には、機械的・電気的特性や放熱性だけではなく、目的形状への変形を可能にするため、厳しい加工条件であっても優れた加工性を具備することが強く求められるようになってきた。しかしながら、特に目的とする難加工形状への加工の過程において、顧客が要求するレベルの絞り加工性が達成できていないのが現状である。
例えば、特許文献1には、NiとCoの1種又は2種を0.8~4.0mass%含み、Siを0.2~1.0mass%含み、NiとCoの1種又は2種とSiの質量比が3.0~7.0であり、残部がCu及び不可避不純物からなり、圧延平行方向の引張強さが570MPa以上、耐力が500MPa以上、伸びが5%以上、圧延直角方向の引張強さが550MPa以上、耐力が480MPa以上、伸びが5%以上であり、導電率が35%IACSを超え、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とし曲げ線を圧延垂直方向とした90度曲げを行ったときの曲げ加工限界幅が70mm以上、曲げ線を圧延垂直方向とした密着曲げを行ったときの曲げ加工限界幅が20mm以上、ランクフォード値が0.9以上であり、構造部材としての強度、特に変形及び落下衝撃性に耐える強度、複雑形状への加工に耐えうる曲げ、張出し及び絞りなどの成形加工性、及び半導体素子等からの熱に対する高放熱性を有する放熱部品用銅合金板が記載されている。
また、特許文献2には、0.5~3.0質量%のCo、0.1~2.0質量%のNi、0.1~1.5質量%のSiを含有し、質量割合で(Ni+Co)/Siが3~5であり、残部が銅および不可避的不純物からなり、圧延平行方向の0.2%耐力が630MPa以上、導電率が50%IACS以上、圧延平行断面における平均結晶粒径が10~20μmであり、表面における{200}結晶面からのX線回折積分強度I{200}と、{220}結晶面からのX線回折積分強度I{220}と、{311}結晶面からのX線回折積分強度I{311}とが、(I{220}+I{311})/I{200}≧5.0の関係を満たし、電子材料に用いて好適な0.2%耐力および導電率を有し、コネクタ形状等にプレス加工した際の寸法安定性を向上させることのできる電子材料用銅合金が記載されている。
さらに、特許文献3には、1.0~3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6~1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、表面の算術平均粗さRaが0.02~0.2μmで、表面粗さ平均線を基準とした時の各々の山部と谷部の値の絶対値についての標準偏差が0.1μm以下であり、合金組織中の結晶粒のアスペクト比(結晶粒の短径/結晶粒の長径)の平均値が0.4~0.6であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、GOSの全結晶粒における平均値が1.2~1.5°であり、結晶粒界の全粒界長さLに対する特殊粒界の全特殊粒界長さLσの比率(Lσ/L)が60~70%であり、ばね限界値が450~600N/mmであり、150℃で1000時間でのはんだ耐熱剥離性が良好で、耐疲労特性の変動が少なく、優れた深絞り加工性を有するCu-Ni-Si系銅合金(コルソン合金)板が記載されている。
上記特許文献1~3は、いずれもNiおよびCoの少なくとも1種と、Siとを含有した銅合金板材に関する発明であって、良好な絞り加工性を有することを記載しているものの、銅合金板材の製造方法を構成する工程のうち、特に仕上げ冷間圧延工程から調質焼鈍工程までの一連の工程において、絞り加工性を悪化させる結晶粒の生成を抑制するための制御を行なっていないため、特に深絞り試験を行なう際の加工条件が厳しい場合、特にコーナー部の曲率半径Rが小さい(例えば曲率半径Rが0.9mm以下)ポンチで絞り加工を施した場合には、満足レベルの絞り加工性が安定して得られないという問題がある。
特開2017-89003号公報 特開2018-62705号公報 国際公開第2012/160684号
本発明の目的は、従来の銅合金板材の基本特性(特に放熱性)を損なうことなく、厳しい絞り加工条件であったとしても、優れた絞り加工性を安定して得ることができる銅合金板材およびその製造方法ならびに絞り加工品、電気・電子部品用部材、電磁波シールド材および放熱部品を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%、ならびにSiを0.1~1.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が38%IACS以上であり、圧延平行方向、圧延方向に対し45°の方向、および圧延垂直方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類の試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線から求められる値と、電子後方散乱回折(EBSD)法によって得られたCube方位面積率の値を、下記(1)式に代入して、パラメータAx(x:0°、45°、90°)の各方向の値A0°、A45°およびA90°を求め、求めた前記各方向の値A0°、A45°およびA90°を、下記(2)式に代入して算出される算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲であることを特徴とする銅合金板材。
Figure 0007113039000001
但し、S:Cube方位面積率(%)、σは公称応力(GPa)、εは公称歪(%)、そして、ELは破断伸び(%)を表す。
Figure 0007113039000002
(2)前記算術平均値Aave.および前記パラメータAxの値を下記(3)式に代入して算出されるパラメータBx(x:0°、45°、90°)の前記各方向の値B0°、B45°およびB90°が、いずれも10%以下となる、上記(1)に記載の銅合金板材。
Figure 0007113039000003
(3)エリクセン試験におけるエリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)と、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)とは、下記(4)式の不等式の関係を満たす、上記(1)または(2)に記載の銅合金板材。
Figure 0007113039000004
(4)前記組成は、さらに、Sn、Mg、Mn、Cr、Zr、Ti、FeおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を、合計で0.2~1.2質量%以下含有する上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材を絞り加工して得られた絞り加工品。
(6)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材または上記(5)に記載の絞り加工品を用いて作製された電気・電子部品用部材。
(7)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材または上記(5)に記載の絞り加工品を用いて作製された電磁波シールド材。
(8)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材または請求項5に記載の絞り加工品を用いて作製された放熱部品。
(9)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材の製造方法であって、銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、面削[工程4]、冷間圧延[工程5]、溶体化熱処理[工程6]、中間熱処理[工程7]、仕上げ冷間圧延[工程8]、矯正[工程9]、および調質焼鈍[工程10]を順次施し、前記仕上げ冷間圧延[工程8]における圧延時の材料の最大温度Tを、75℃以上100℃以下に制御し、前記矯正[工程9]における材料の伸び率δを、0.1~1.0%とし、そして、前記調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)を、前記伸び率δとの関係で下記(5)式に示す不等式の関係を満たすように制御することを特徴とする銅合金板材の製造方法。
55×δ+450≧T≧55×δ+350 ・・・(5)
本発明の銅合金板材は、NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%、ならびにSiを0.1~1.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が38%IACS以上であり、圧延平行方向、圧延方向に対し45°の方向、および圧延垂直方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類の試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線から得られる値と、電子後方散乱回折(EBSD)法によって得られたCube方位面積率の値を、上記(1)式に代入して、パラメータAx(x:0°、45°、90°)の各方向の値A0°、A45°およびA90°を求め、求めた前記各方向の値A0°、A45°およびA90°を、上記(2)式に代入して算出される算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲であることによって、従来の銅合金板材の基本特性(特に放熱性)を損なうことなく、厳しい絞り加工条件であったとしても、優れた絞り加工性を安定して得ることができる。
本発明の銅合金板材の製造方法は、銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、面削[工程4]、冷間圧延[工程5]、溶体化熱処理[工程6]、中間熱処理[工程7]、仕上げ冷間圧延[工程8]、矯正[工程9]、および調質焼鈍[工程10]を順次施し、前記仕上げ冷間圧延[工程8]における圧延時の材料の最大温度Tを、75℃以上100℃以下に制御し、前記矯正[工程9]における材料の伸び率δを、0.1~1.0%とし、そして、前記調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)を、前記伸び率δとの関係で上記(5)式に示す不等式の関係を満たすように制御することによって、上述した銅合金板材を製造することができる。
図1は、本発明の一の実施形態に従う銅合金板材から、圧延平行方向に切り出した試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線を例として示した図である。 図2は、種々の銅合金板材について、エリクセン試験を行なうことによって得られたエリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)を、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)との関係でプロットしたときの図である。 図3は、深絞り試験機で絞り加工性を評価するため、試験板材Wの中央部を、先端部が円柱状でかつコーナー部の曲率半径Rが小さいパンチで押し込んだときの状態を概念的に示した図である。 図4は、エリクセン試験機でエリクセン値を求めるため、試験板材Wの中央部を、先端部が半球状のパンチで押し込んだときの状態を概念的に示した図である。
以下、本発明の銅合金板材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金板材は、NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%、ならびにSiを0.1~1.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が38%IACS以上であり、圧延平行方向、圧延方向に対し45°の方向、および圧延垂直方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類の試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線から得られる値と、電子後方散乱回折(EBSD)法によって得られたCube方位面積率の値を、下記(1)式に代入して、パラメータAx(x:0°、45°、90°)の各方向の値A0°、A45°およびA90°を求め、求めた前記各方向の値A0°、A45°およびA90°を、下記(2)式に代入して算出される算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲である。
Figure 0007113039000005
但し、S:Cube方位面積率(%)、σは公称応力(GPa)、εは公称歪(%)、そして、ELは破断伸び(%)を表す。
Figure 0007113039000006
(I)銅合金板材の組成
まず、本発明の銅合金板材の組成を限定した理由について説明する。
本発明の銅合金板材は、NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%、ならびにSiを0.1~1.5質量%含有させたものである。
<NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%>
Ni(ニッケル)およびCo(コバルト)は、銅合金板材の強度を高めるために必要な元素であり、NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%含有することが必要である。NiおよびCoの1種以上の合計含有量が1.0質量%未満だと、材料強度が低下し、絞り加工によって製造される絞り加工品であるシールドケース等の電子部品に必要な強度が得られない。また、NiおよびCoの1種以上の合計含有量が5.0質量%よりも多いと、後述する溶体化熱処理[工程6]において、NiやCoが固溶しきれずに第二相として金属組織(マトリックス)中に残存するようになり、その後に行なう、後述する中間熱処理[工程7]において、発現するはずの強度向上には寄与しないばかりか、地金コストの上昇を招くことになるからである。このため、NiおよびCoの1種以上の合計含有量は1.0~5.0質量%の範囲とする。
<Si:0.1~1.5質量%>
Si(ケイ素)は、NiやCoと化合物を形成し、銅合金板材の強度を高めるために必要な元素であり、Siを0.1~1.5質量%含有させることが必要である。Si含有量が0.1質量%未満だと、NiやCoとともに形成する化合物量が低下し、材料強度が低下するからである。また、Si含有量が1.5質量%よりも多いと、銅合金板材の熱伝導率が低下して放熱性が悪くなるからである。このため、Si含有量は0.1~1.5質量%の範囲とする。
本発明の銅合金板材は、NiおよびCoの1種以上の成分とSiを必須の基本含有成分とするが、さらに、任意の副添加成分として、さらに、Sn、Mg、Mn、Cr、Zr、Ti、FeおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を、合計で0.2~1.2質量%以下含有することができる。これらの成分はいずれも、材料強度を向上させる効果を有する成分であり、かかる効果を発揮するには、これらの成分の合計含有量を0.2質量%以上とすることが好ましい。また、これらの成分の合計含有量が1.2質量%を超えると、導電率が低下する傾向があることから、上記成分の合計含有量は0.2~1.2質量%の範囲とすることが好ましく、特に0.5質量%~1.0質量%がより好ましい。
<Sn:0.1~0.45質量%>
Sn(スズ)は、銅合金を固溶強化する効果が高い元素であり、0.1質量%以上添加することが好ましいが、0.45質量%よりも添加量が多くなると、導電率を低下させる傾向がある。このため、Si添加量は、0.1~0.45質量%の範囲とすることが好ましい。
<Mg:0.1~0.25質量%>
Mg(マグネシウム)は、銅合金を固溶強化する効果が高い元素であり、0.1質量%以上添加することが好ましいが、0.25質量%よりも添加量が多くなると、導電率を低下させる傾向がある。このため、Mg添加量は、0.1~0.25質量%の範囲とすることが好ましい。
<Mn:0.1~0.2質量%>
Mn(マンガン)は、銅合金を固溶強化する効果と熱間加工性を向上させる効果を有する元素であり、0.1質量%以上添加することが好ましいが、0.2質量%よりも添加量が多くなると、導電率を低下させる傾向がある。このため、Mn添加量は、0.1~0.2質量%の範囲とすることが好ましい。
<Cr:0.1~0.25質量%>
Cr(クロム)は、クロムとシリコンを含有する第二相化合物を形成し、その化合物により溶体化熱処理工程における結晶粒径の粗大化を抑制することで、材料を強化する効果があり、0.1質量%以上の添加が望ましいが、0.25質量%よりも添加量が多いと、鋳造時に粗大な晶出物を形成してプレス加工時の破断の起点に成りやすい。このため、Cr添加量は、0.1~0.25質量%の範囲とすることが好ましい。
<Zr:0.05~ 0.15質量%>
Zr(ジルコニウム)は、材料中に固溶し、材料の再結晶温度を上昇させることで溶体化熱処理における再結晶粒の成長を抑制する効果を有する元素であり、0.05質量%以上の添加が望ましいが、0.15質量%よりも添加量が多いと、鋳造時に粗大な晶出物を生じてプレス加工時の破断の起点になりやすい。このため、Zr添加量は、0.05~0.15質量%の範囲とすることが好ましい。
<Ti:0.02~0.1質量%>
Ti(チタン)は、材料中に固溶し、材料の再結晶温度を上昇させることで溶体化熱処理における再結晶粒の成長を抑制する効果を有する元素であり、0.02質量%以上の添加が望ましいが、0.1質量%よりも添加量が多いと、導電率を低下させる傾向がある。このため、Ti添加量は、0.02~0.1質量%の範囲とすることが好ましい。
<Fe:0.05~0.1質量%>
Fe(鉄)は、銅合金を固溶強化する効果が高い元素であり、0.05質量%以上の添加が望ましいが、0.1質量%よりも添加量が多いと、導電率を低下させる傾向がある。このため、Fe添加量は、0.05~0.1質量%の範囲とすることが好ましい。
<Zn:0.2~0.6質量%>
Zn(亜鉛)は、、曲げ加工性を改善するとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する元素である。かかる作用を発揮させる場合には、Zn含有量を0.2質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Zn含有量が0.6質量%を超えると、導電性の低下により、十分な放熱性が得られなくおそれがある。このため、Zn添加量は、0.2~0.6質量%の範囲とすることが好ましい。
<残部:Cuおよび不可避不純物>
上述した成分以外の残部は、Cu(銅)および不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては導電率を低下させる要因にもなりうるため、導電率の低下を考慮して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、Bi、Se、As、Ag等が挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、上記成分毎に0.03質量%、上記成分の総量で0.10質量%とすればよい。
(II)導電率
本発明の銅合金板材は、導電率が38%IACS以上であることが必要である。熱伝導率は、ウィーデマン・フランツの法則(Wiedemann-Franz law)によって、導電率から算出することができ、温度が一定であれば、金属の種類に依らず、導電率と比例関係にあることが知られている。このため、本発明の銅合金板材は、導電率を38%IACS以上とすることによって、高い熱伝導率を有することができる結果、優れた熱伝導性を有することができる。導電率は、例えば端子間距離を100mmとし、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出することができる。
(III)算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲であること
本発明の銅合金板材は、算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲であることが必要である。算術平均値Aave.は、圧延平行方向、圧延方向に対し45°の方向(単に「45°方向」という場合がある。)、および圧延垂直方向(単に「90°方向」という場合がある。)の各方向にそれぞれ切り出した3種類の試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線から求められる値と、電子後方散乱回折(EBSD)法によって得られたCube方位面積率の値を、下記(1)式に代入して、パラメータAx(x:0°、45°、90°)の各方向の値A0°、A45°およびA90°を求め、求めた前記各方向の値A0°、A45°およびA90°を、下記(2)式に代入して算出される。
Figure 0007113039000007
但し、S:Cube方位面積率(%)、σは公称応力(GPa)、εは公称歪(%)、そして、ELは破断伸び(%)を表す。
Figure 0007113039000008
本発明者らは、パラメータAave.が、材料との絞り加工性によく相関するという知見を、本発明に至るまでの実験により得た。従来より、銅および銅合金における結晶方位の中で、特にCube方位が集積すると、材料の絞り加工性を低下させることは知られていた。しかしながら、Cube方位の集積度と絞り加工性の定量的な相関およびCube方位の集積度を用いた絞り加工性の定量的な評価は行われていない。そもそも、析出強化型銅合金、例えば本発明の成分系のようなCu-Ni-Si系およびCu-Co-Si系合金は、従来より絞り加工に用いられる銅および銅合金、例えば純銅や黄銅、洋白といった純金属や固溶強化型と比べて、材料成分以外に製造プロセス、例えば第二相化合物のサイズや存在密度、存在割合等の制御工程や圧延工程が材料の機械的特性に及ぼす影響は非常に大きいこと、さらには複数の材料特性が相互に影響し合うため、同時に変動する、例えば第二相化合物の存在割合と材料強度が同時に変動するなどにより、単一の材料特性の絞り加工性への影響を抽出できない点が析出強化型合金の絞り加工性を向上させることと絞り加工性の評価を難しくさせていた。
そこで本発明者らは、(2)式により、絞り加工性が析出強化型合金でよく評価できること、さらには(2)式と絞り加工性の相関があることを見出し、従来よりも絞り加工性が向上した析出強化型合金を発明するに至った。
(1)式では、絞り加工性に悪影響を及ぼすCube方位の集積度をパラメータAxに対して負の相関となるように表現し、公称応力-公称歪曲線の積分値は、大きいほど絞り加工性に良い影響を及ぼすため、正の相関となるように表現した。図1は、本発明の一の実施形態に従う銅合金板材から、圧延平行方向に切り出した試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線を例として示した図である。
さらに、(1)式から求めた3方向のパラメータA0°、A45°およびA90°を(2)式に代入して算出した算術平均値Aave.が、絞り加工性とよく相関するパラメータであることを見出した。この相関を得たことにより、絞り加工性を(2)式により評価することが可能になった。
ここで、算術平均値Aave.は、4.0GPa・%未満の場合では、特に厳しい深絞り加工条件だと、満足レベルの絞り加工性が得られず、また、13.0GPa・%より大きい場合では、材料の伸びが大きくなって、相反する特性である強度が十分に得られなくなる。このため、本発明では、算術平均値Aave.は4.0~13.0GPa・%の範囲とする。
パラメータAxを算出するために用いる公称応力-公称歪曲線から求めた積分値は、圧延平行方向、45°方向および90°方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類のJIS
Z2241の13B号の試験片を、JIS Z2241に準じて各9本(n=9)ずつ用意して測定し、最も破断伸びが大きかった場合を1番目とするとき、破断伸びが5番目に大きかった試験片を用いて測定されたときの公称応力-公称歪曲線を用いて求めることとし、式(1)に示される積分値は、前述で得られた公称応力-公称歪曲線のプロットから台形近似により得られる面積から算出することができる。なお、公称応力は、例えば、公称歪が0.001%以上0.300%以下毎に測定すればよい。
また、パラメータAxを算出するために用いるCube方位面積率(%)は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定された結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、商品名:OIM-Analysis)を用いて算出することができる。ここで、「EBSD」とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査型電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことであり、また、「OIM-Analysis」とは、EBSDにより測定されたデータの解析ソフトである。
よって、パラメータAxの各方向の値A0°、A45°およびA90°は、上述した方法によって算出した積分値とCube方位面積率(%)を上記(1)式に代入することによって、パラメータAxの各方向の値A0°、A45°およびA90°を算出することができ、算術平均値Aave.は、算出したA0°、A45°およびA90°を(2)式に代入することによって算出することができる。
絞り加工性は、深絞り試験機(例えばエリクセン社製薄板成形試験機)10により、図3に示すように、試験板材Wの縁部を、ダイ12としわ押さえ部材16の間で締め付けた後に、試験板材Wの中央部をパンチ14で押し込んでいき、円筒型カップを成形した。割れが生じることなく円筒型カップを成形できる最小のポンチコーナー半径Rとそのときに円筒型カップの縁のうねりの最大谷深さと最大山高さの差を考慮して評価した。また、張り出し試験(エリクセン試験)により貫通割れが発生するまでのパンチの移動距離(くぼみの深さ)の値、すなわち、エリクセン値Erを測定し、このエリクセン値Erの他、試験板材Wの厚さ(mm)、圧延方向に引っ張ったときの破断伸び(%)、結果を考慮して、総合的に評価した。
(IV)パラメータBx(x:0°、45°、90°)の各方向の値B0°、B45°およびB90が、いずれも10%以下となること
本発明の銅合金板材は、前記算術平均値Aave.および前記パラメータAxの値を下記(3)式に代入して算出されるパラメータBx(x:0°、45°、90°)の前記各方向の値が、いずれも10%以下となることが好ましい。
Figure 0007113039000009
上記(3)式で定義されるパラメータBxの各方向の値B0°、B45°およびB90°が、それぞれ10%以下と小さくなるように制御することで、絞り加工後の縁のうねりを安定して小さくすることができ、形状が均一になって、絞り加工性をより一層向上させることができる。パラメータBxのいずれかの方向の値B0°、B45°、B90°が10%より大きくなると、絞り加工品の製造における歩留まりが低下する傾向があることから、パラメータBxの各方向の値B0°、B45°およびB90°は、いずれも10%以下となることが好ましい。
パラメータBxは、上述のように、算出したパラメータAxと算術平均値Aave.を式(3)に代入することによって算出することができる。
(V)エリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)と、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)とは、下記(4)式の不等式の関係を満たすこと
本発明の銅合金板材は、エリクセン試験におけるエリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)と、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)とは、下記(4)式の不等式の関係を満たすことが好ましい。
Figure 0007113039000010
本発明者らは、さらにエリクセン試験によって得られたエリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)と、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)が、絞り加工性に及ぼす影響について検討を行なった。図2は、エリクセン値(Er)の板厚(t)に対する比(Er/t比)を縦軸にとり、圧延平行方向に引っ張ったときの破断伸びEL(%)を横軸にとり、表1に示す実施例と比較例についてプロットしたものである。図2に示す結果から、一次関数:Er/t=1.5ELを境にして、全ての実施例が上側領域にあるとともに、全ての比較例は下側領域にあることがわかる。このため、本発明では、上記(4)式を満たすことによって、優れた絞り加工性を有する銅合金板材であるかを判別することができる。
エリクセン値(Er値)は、エリクセン試験機により、図4に示すように、試験板材Wの縁部を、ダイ12としわ押さえ部材16の間で締め付けた後に、試験板材Wの中央部を、先端が半球状のパンチ14Aで押し込んでいき、貫通割れが発生するまでのパンチの移動距離(くぼみの深さ)の値を測定し、その測定した値とした。
(VI)本発明の一実施例による銅合金板材の製造方法
上述した銅合金板材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することにより、実現できる。以下、本発明の銅合金板材の好適な製造方法について説明する。
このような本発明の一実施例による銅合金板材は、上述した銅合金板材の組成と同様の組成を有する銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、面削[工程4]、冷間圧延[工程5]、溶体化熱処理[工程6]、中間熱処理[工程7]、仕上げ冷間圧延[工程8]、矯正[工程9]、および調質焼鈍[工程10]を順次施すことによって製造されるが、特に仕上げ冷間圧延工程から調質焼鈍工程までの一連の工程の適正化を図ることによって、より具体的には、仕上げ冷間圧延[工程8]における圧延時の材料の最大温度Tを、75℃以上100℃以下に制御し、矯正[工程9]における材料の伸び率δを、0.1~1.0%とし、そして、調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)を、前記伸び率δとの関係で下記(5)式に示す不等式の関係を満たすように制御することによって、特に放熱性を損なうことなく、厳しい絞り加工条件であったとしても、優れた絞り加工性を有する銅合金板材を製造することができる。
55×δ+450≧T≧55×δ+350 ・・・(5)
(i)鋳造工程[工程1]
鋳造工程は、大気下で高周波溶解炉により表1に示す合金成分を溶解し、これを鋳造することによって所定形状(例えば厚さ30mm、幅100mm、長さ150mm)の鋳塊を製造する。
(ii)均質化処理工程[工程2]
均質化処理工程は、不活性ガス雰囲気中で所定温度(例えば1000℃)に1時間加熱し均質化熱処理[工程2]を施した。
(iii)熱間圧延工程[工程3]
熱間圧延工程は、均質化熱処理の直後に施し、所定の板厚(例えば10mm)とした直後に冷却した。
(iv)面削工程[工程4]
面削工程は、熱延板の表面から所定の厚さ(例えば1mmから2mm程度)の面削を行い、酸化層を除去した。
(v)冷間圧延工程[工程5]
冷間圧延工程で1~0.25mmまで冷間圧延を施した。
(vi)溶体化熱処理工程[工程6]
溶体化熱処理工程は、所定の昇温速度(例えば、5秒から10秒かけて900℃から990℃)で昇温し、1秒から1時間保持後、250℃/sから500℃/sの速度で冷却した。
(vii)中間熱処理工程[工程7]
中間熱処理工程は、所定の温度(例えば300℃から600℃)で10秒から10時間熱処理を行った。
(viii)仕上げ冷間圧延工程[工程8]
仕上げ冷間圧延工程は、目的の板厚への加工、材料強度の向上、結晶方位の制御を主な目的に行う工程であって、圧延時の材料の最大温度Tを75℃以上100℃以下に制御することが必要である。圧延時の材料の最大温度Tが75℃以上にすることによって、圧延による結晶回転が促進され、絞り加工性に悪影響を及ぼすCube方位粒の面積率が減少しやすくなる。しかし、圧延時の材料の最大温度Tが100℃よりも温度が高くなると、圧延加工に用いる潤滑油の粘性が低下することで、焼き付きなどの圧延不良により板材の表面粗さが局所的に高くなることで破断の起点となるなど、絞り加工性の劣化を起こす可能性が高くなる。このため、圧延時の材料の最大温度Tは、75℃以上100℃以下とする。
(ix)矯正工程[工程9]
矯正工程は、材料の残留応力を除去・均一化することを目的として行なう工程であって、テンションレベラーによる矯正の際の材料の伸び率δを0.1~1.0%の範囲とすることが必要である。前記伸び率δが0.1%未満だと、残留応力の除去・均一化効果が小さく、絞り加工後の形状均一性が低下する。また、前記伸び率δが1.0%より大きいと、テンションレベラーの繰り返し曲げによる加工歪が大きくなって、絞り加工時に割れの生じないパンチ先端のコーナー半径を小さくすることができず、厳しい絞り加工条件での絞り加工性が低下する。このため、矯正工程における材料の伸び率δは、0.1~1.0%の範囲とする。
(x)調質焼鈍工程[工程10]
調質焼鈍工程は、材料の伸びを回復させること、さらに伸びを含めて機械的特性の異方性を低減するための工程であって、調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)を、矯正工程における材料の伸び率δ(%)との関係で、(5)式に示す不等式の関係を満たすように制御することが必要である。
55×δ+450≧T≧55×δ+350 ・・・(5)
調質焼鈍工程における材料温度Tを(5)式に従って制御することにより、絞り加工性が向上する。調質焼鈍工程により、矯正工程までの一連の工程で導入された転位を回復させることで、材料のパラメータである算術平均値Aave.と、エリクセン値Erとが大きくなる。調質焼鈍工程における材料温度Tが、(5)式での下限値を下回ると、圧延による転位の回復(すなわち加工歪の除去)が十分ではなくなる。また、調質焼鈍工程における材料温度Tが、(5)式での上限値を上回ると、NiもしくはCoとSiの化合物の析出量が増加し、これに伴って、材料強度が低下する。このため、調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)は、矯正工程における材料の伸び率δ(%)との関係で、(5)式に示す不等式の関係を満たすようにする。
(VII)銅合金板材の用途
本発明の銅合金材は、特に絞り加工を施して絞り加工品を作製するのに用いるのに好適であり、例えば、電気・電子部品用部材、電磁波シールド材および放熱部品に用いることができる。例えば、電気・電子部品用のコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ、ソケット、シールドケース、シールドキャン、液晶補強板、液晶のシャーシ、有機ELディスプレイの補強板や、自動車車載用のコネクタ、シールドケース、シールドキャンなどを作製することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1~15および比較例1~11)
大気下で高周波溶解炉により、表1に示す組成を有する銅合金素材を溶解し、これを鋳造して厚さ30mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。次に、不活性ガス雰囲気中にて1000℃で1時間加熱・保持する均質化熱処理を施した直後に、熱間圧延を施して、板厚10mmの熱延板とした直後に冷却した。次いで、面削、冷間圧延を順次施し、板厚を0.25~1.0mmとした。その後、800~990℃で溶体化熱処理を1分間施した直後に冷却し、300℃~600℃で1時間の中間熱処理、。次いで、表3に示す材料の最大温度Tで仕上げ冷間圧延を0.1%から60%施した後、表3に示す伸び率δで矯正し、その後、表3に示す材料温度Tで調質焼鈍を施し、板厚が0.25~0.3mmの銅合金板材を得た。なお、比較例11については、仕上げ冷間圧延時の材料の最大温度Tが高かったため、焼き付きにより板材表面の不良が生じたため、種々のパラメータの算出ができず、性能評価もできなかった。
[各種測定および評価方法]
上記実施例および比較例に係る銅合金板材を用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記の通りである。
[1]銅合金板材の組成の測定方法
合金組成は、蛍光X線分析により測定した。
[2]導電率の測定方法
導電率は、例えば端子間距離を100mmとし、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により比抵抗を計測することによって算出した。
[3](1)式中の積分値の算出方法
(1)式中の積分値は、圧延平行方向、45°方向および90°方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類のJIS Z2241の13B号の試験片を、JIS Z2241に準じて各9本(n=9)ずつ用意して測定し、最も破断伸びが大きかった場合を1番目とするとき、破断伸びが5番目に大きかった試験片を用いて測定されたときの公称応力-公称歪曲線を用いて求めることとし、式(1)に示される積分値は、前述で得られた公称応力-公称歪曲線のプロットから台形近似により得られる面積から算出した。なお、公称応力は、公称歪が0.01%ごとに測定した。
[4]Cube方位面積率の算出方法
Cube方位面積率は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定された結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、商品名:OIM-Analysis)を用いて算出した。
[5]パラメータBxの算出方法
パラメータBxは、上記[3]で算出した積分値と、上記[4]で算出したCube方位面積率を式(1)に代入することによって求められるパラメータAxの各方向の値A0°、A45°およびA90°と、これらの値A0°、A45°およびA90°を(2)式に代入して求められる算術平均値Aave.とを、式(3)に代入することによって算出することができる。
[6]エリクセン値Erの測定方法
エリクセン値Erは、エリクセン試験機により、図4に示すように、試験板材Wの縁部を、ダイ12としわ押さえ部材16の間で締め付けた後に、試験板材Wの中央部をパンチ14Aで押し込んでいき、、貫通割れが発生するまでのパンチの移動距離(くぼみの深さ)の値を測定し、その測定した値とした。
[7]放熱性の評価
放熱性は、上記[2]で測定した導電率によって評価した。放熱性の評価基準を以下に示す。なお、本実施例では、下記に示す放熱性の評価基準における、「1」および「2」を合格レベルにあるとした。表2に、放熱性の評価結果を示す。
<放熱性の評価基準>
1(優):導電率が50%IACS以上の場合
2(良):導電率が30%IACS以上50%IACS未満の場合
3(不可):導電率が30%IACS未満である場合
[8]絞り加工性の評価
絞り加工性は、深絞り試験機(例えばエリクセン社製薄板成形試験機)10により、図3に示すように、試験板材Wの縁部を、ダイ12としわ押さえ部材16の間で締め付けた後に、試験板材Wの中央部を、先端部が円柱状でかつコーナー部の曲率半径Rが小さいパンチ14で押し込んでいき、円筒型カップを成形し、割れの生じないパンチの先端のコーナー部の曲率半径Rの最小値と、成形後のカップ縁のうねりの最大山高さと最大谷深さの差の最大値から総合的に評価した。絞り加工性の評価基準を以下に示す。表2に、絞り加工性の評価結果を示す。なお、上記試験は、パンチとダイのクリアランスは2.3mmとし、試験板材Wの表面に塗布される潤滑油としては、R-303Pを用い、パンチ直径のブランク直径に対する比(パンチ直径/ブランク直径)は0.64の試験条件で行なった。
(a)パンチの先端のコーナー部の曲率半径Rの最小値の評価基準
◎(優):曲率半径Rの最小値が0.5mm以下の場合
○(良):曲率半径Rの最小値が0.5mm超え1.0mm未満の場合
×(不可):曲率半径Rの最小値が1.0mm以上の場合
(b)カップ縁のうねりの最大山高さと最大谷深さの差の最大値の評価基準
◎(優):前記差の最大値が0.5mm以下の場合
○(良):前記差の最大値が0.5mm超え1.0mm未満の場合
×(不可):前記差の最大値が1.0mm以上の場合
<絞り加工性の評価>
1(優):前記(a)および(b)の評価のいずれもが「◎」である場合
2(良):前記(a)および(b)の評価のいずれもが「○」以上である場合
3(不可):前記(a)および(b)の評価の少なくとも一方が「×」である場合
Figure 0007113039000011
Figure 0007113039000012
Figure 0007113039000013
Figure 0007113039000014
表1~4の結果から、実施例1~15の銅合金板材はいずれも、合金組成が本発明の適正範囲内であり、導電率が38%IACS以上であり、算術平均値Aave.が4.0~13.0GPa・%の範囲であるため、放熱性および絞り加工性のいずれもが合格レベル以上であることが分かる。特に、実施例3、6、8、12は、合金組成および製造条件が適切であったため、導電率が特に優れている。実施例1、7、12は、鋳造から調質焼鈍までの条件が適切であり、パラメータAとBが良い値を示したことから、割れの生じないパンチ先端のコーナー部の曲率半径の最小値と、カップ縁のうねりの山谷間の差の最大値がいずれも小さくなったため、絞り加工性が特に優れていた。
一方、比較例1,2、4、5、8、はいずれも、Ni+Co量あるいはSiが少なかったため、算術平均値Aave.が本発明の適正範囲外となったため、絞り加工性が劣っていた。比較例6はテンションレベラーでの矯正が行われず伸び率は0%であったために異方性が高いため、Bxが規定外となった。比較例8、10は仕上げ冷間圧延での圧延温度が低くCube方位が多く残留したために算術平均値Aave.が規定外となった。比較例5は、パラメータB90°が規定外となり、絞り加工後の最大高低差が大きくなった。比較例3、7、9はいずれも、成分含有量が本発明の適正範囲よりも多いため、特に導電率が低くなった。特に、比較例7は、矯正での伸びが規定値より大きく、エリクセン値/板厚の値が規定外ともなったため、絞り加工性も劣っていた。比較例11は仕上げ圧延時の材料温度が高くなり、材料と圧延ロールの焼き付きが生じ、材料表面に大きな凹凸などの欠陥が生じたため、特性評価は行わなかったが、絞り加工性は著しく低下するのは明らかであった。
10 エリクセン試験機
12 ダイ
14、14A パンチ(ポンチ)
16 しわ押さえ部材
W 試験板材
R パンチのコーナー部の曲率半径

Claims (7)

  1. NiおよびCoの1種以上を合計で1.0~5.0質量%、ならびにSiを0.1~1.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、
    導電率が38%IACS以上であり、
    圧延平行方向、圧延方向に対し45°の方向、および圧延垂直方向の各方向にそれぞれ切り出した3種類の試験片について、引張試験を行なうことによって得られた公称応力-公称歪曲線から求められる値と、電子後方散乱回折(EBSD)法によって得られたCube方位面積率の値を、下記(1)式に代入して、パラメータAx(x:0°、45°、90°)の各方向の値A0°、A45°およびA90°を求め、求めた前記各方向の値A0°、A45°およびA90°を、下記(2)式に代入して算出される算術平均値Aave.が、4.0~13.0GPa・%の範囲であり、かつ、前記算術平均値Aave.および前記パラメータAxの値を下記(3)式に代入して算出されるパラメータBx(x:0°、45°、90°)の前記各方向の値B 0° 、B 45° およびB 90° が、いずれも10%以下となることを特徴とする銅合金板材。
    Figure 0007113039000015

    但し、S:Cube方位面積率(%)、σは公称応力(GPa)、εは公称歪(%)、そして、ELは破断伸び(%)を表す。
    Figure 0007113039000016
    Figure 0007113039000017
  2. 前記組成は、さらに、Sn、Mg、Mn、Cr、Zr、Ti、FeおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を、合計で0.2~1.2質量%以下含有する請求項1記載の銅合金板材。
  3. 請求項1または2に記載の銅合金板材を絞り加工して得られた絞り加工品。
  4. 請求項1または2に記載の銅合金板材または請求項に記載の絞り加工品を用いて作製された電気・電子部品用部材。
  5. 請求項1または2に記載の銅合金板材または請求項に記載の絞り加工品を用いて作製された電磁波シールド材。
  6. 請求項1または2に記載の銅合金板材または請求項に記載の絞り加工品を用いて作製された放熱部品。
  7. 請求項1または2に記載の銅合金板材の製造方法であって、
    銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、面削[工程4]、冷間圧延[工程5]、溶体化熱処理[工程6]、中間熱処理[工程7]、仕上げ冷間圧延[工程8]、矯正[工程9]、および調質焼鈍[工程10]を順次施し、
    前記仕上げ冷間圧延[工程8]における圧延時の材料の最大温度Tを、75℃以上100℃以下に制御し、
    前記矯正[工程9]における材料の伸び率δを、0.1~1.0%とし、そして、
    前記調質焼鈍[工程10]の材料温度T(℃)を、前記伸び率δとの関係で下記(5)式に示す不等式の関係を満たすように制御することを特徴とする銅合金板材の製造方法。
    55×δ+450≧T≧55×δ+350 ・・・(5)
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