以下、本発明の慣性センサー、電子機器および移動体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る慣性センサーを示す平面図である。図2は、図1中のA-A線断面図である。図3は、図1の慣性センサーが有するセンサー素子を示す平面図である。図4は、図1の慣性センサーに印加する電圧を示す図である。図5は、図3中のB-B線断面図で、センサー素子の駆動振動モードを示す図である。図6は、センサー素子が有する可動検出電極を示す平面図である。図7は、図6に示す可動検出電極の断面図である。図8は、センサー素子の駆動振動モードを示す断面図である。図9は、従来構成を示すモデル図である。図10は、本実施形態を示すモデル図である。図11は、図1の慣性センサーの製造工程を示す図である。図12ないし図15は、それぞれ、図1の慣性センサーの製造方法を説明するための断面図である。図16ないし図18は、それぞれ、慣性センサーの別の製造方法を説明するための断面図である。
各図には、互いに直交する3つの軸としてX軸、Y軸およびZ軸が図示されている。また、X軸に沿う方向すなわちX軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に沿う方向を「Y軸方向」、Z軸に沿う方向を「Z軸方向」とも言う。また、各軸の矢印先端側を「プラス側」とも言い、反対側を「マイナス側」とも言う。また、Z軸方向プラス側を「上」とも言い、Z軸方向マイナス側を「下」とも言う。また、本願明細書において「直交」とは、90°で交わっている場合の他、90°から若干傾いた角度、例えば、90°±5°以内の範囲で交わっている場合も含むものである。
図1に示す慣性センサー1は、Y軸まわりの角速度ωyを検出することのできる角速度センサーである。慣性センサー1は、基板2と、蓋3と、センサー素子4と、を有する。
基板2は、上面に開放する凹部21を有する。凹部21は、センサー素子4と基板2との接触を防止するための逃げ部として機能する。また、基板2は、凹部21の底面から突出する複数のマウント221、222、224を有する。そして、これらマウント221、222、224の上面にセンサー素子4が接合されている。
また、凹部21の底面には固定検出電極71、72が配置されている。また、基板2は、上面に開放する溝を有し、この溝には配線73、74、75、76、77、78が配置されている。また、配線73、74、75、76、77、78の一端部は、それぞれ、蓋3の外側に露出し、外部装置との電気的な接続を行う電極パッドPとして機能する。
このような基板2としては、例えば、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンを含むガラス材料、具体的にはテンパックスガラス(登録商標)、パイレックスガラス(登録商標)のような硼珪酸ガラスで構成されたガラス基板を用いることができる。ただし、基板2の構成材料としては、特に限定されず、シリコン基板、セラミックス基板等を用いてもよい。
図2に示すように、蓋3は、下面に開放する凹部31を有する。蓋3は、凹部31内にセンサー素子4を収納するようにして、基板2の上面に接合されている。そして、蓋3および基板2によって、その内側に、センサー素子4を収納する収納空間Sが形成されている。収納空間Sは、減圧状態、特に真空状態であることが好ましい。これにより、粘性抵抗が減り、センサー素子4を効率的に振動させることができる。
このような蓋3としては、例えば、シリコン基板を用いることができる。ただし、蓋3としては、特に限定されず、例えば、ガラス基板やセラミックス基板を用いてもよい。また、基板2と蓋3との接合方法としては、特に限定されず、基板2や蓋3の材料によって適宜選択すればよいが、例えば、陽極接合、プラズマ照射によって活性化させた接合面同士を接合させる活性化接合、ガラスフリット等の接合部材による接合、基板2の上面および蓋3の下面に成膜した金属膜同士を接合する拡散接合等が挙げられる。本実施形態では、低融点ガラスであるガラスフリット39を介して基板2と蓋3とが接合されている。
センサー素子4は、収納空間Sに配置され、各マウント221、222、224の上面に接合されている。センサー素子4は、例えば、リン(P)、ボロン(B)、砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板を深溝エッチング技術であるボッシュ・プロセスによってパターニングすることで形成されている。
以下、センサー素子4の構成を図3に基づいて説明する。なお、以下では、Z軸方向からの平面視で、センサー素子4の中心Oと交わり、Y軸方向に延びる直線を「仮想直線α」とも言う。
図3に示すように、センサー素子4の形状は、仮想直線αに対して対称である。このようなセンサー素子4は、仮想直線αの両側に配置された2つの駆動部41A、41Bを有する。駆動部41Aは、櫛歯状の可動駆動電極411Aと、櫛歯状をなし可動駆動電極411Aと噛み合って配置された固定駆動電極412Aと、を有する。同様に、駆動部41Bは、櫛歯状の可動駆動電極411Bと、櫛歯状をなし可動駆動電極411Bと噛み合って配置された固定駆動電極412Bと、を有する。
また、固定駆動電極412A、412Bは、それぞれ、マウント221の上面に接合され、基板2に固定されている。また、固定駆動電極412A、412Bは、それぞれ、配線74と電気的に接続されている。
また、センサー素子4は、駆動部41Aの周囲に配置された4つの固定部42Aと、駆動部41Bの周囲に配置された4つの固定部42Bと、を有する。そして、各固定部42A、42Bは、マウント222の上面に接合され、基板2に固定されている。また、センサー素子4は、各固定部42Aと可動駆動電極411Aとを連結する4つの駆動ばね43Aと、各固定部42Bと可動駆動電極411Bとを連結する4つの駆動ばね43Bと、を有する。
また、センサー素子4は、駆動部41Aと仮想直線αとの間に位置する検出部44Aと、駆動部41Bと仮想直線αとの間に位置する検出部44Bと、を有する。検出部44Aは、検出可動体である板状の可動検出電極441Aで構成されている。同様に、検出部44Bは、板状の可動検出可動体である可動検出電極441Bで構成されている。また、凹部21の底面には、可動検出電極441Aと対向し、配線75と電気的に接続された固定検出電極71と、可動検出電極441Bと対向し、配線76と電気的に接続された固定検出電極72と、が配置されている。そして、慣性センサー1の駆動時には、可動検出電極441Aと固定検出電極71との間に静電容量Caが形成され、可動検出電極441Bと固定検出電極72との間に静電容量Cbが形成される。
また、センサー素子4は、その中央部であって検出部44A、44Bの間に位置するフレーム48を有する。フレーム48は、「H」形状をなし、Y軸方向プラス側に位置する欠損部481と、Y軸方向マイナス側に位置する欠損部482と、を有する。そして、欠損部481の内外に亘ってY軸方向に伸びる固定部451が配置されており、欠損部482の内外に亘ってY軸方向に伸びる固定部452が配置されている。固定部451、452は、それぞれ、配線73と電気的に接続されている。
また、センサー素子4は、可動検出電極441Aと固定部42A、451、452とを連結する4つの検出ばね46Aと、可動検出電極441Bと固定部42B、451、452とを連結する4つの検出ばね46Bと、を有する。また、センサー素子4は、可動駆動電極411Aと可動検出電極441Aとの間に位置し、これらを接続する梁47Aと、可動駆動電極411Bと可動検出電極441Bとの間に位置し、これらを接続する梁47Bと、を有する。なお、以下では、可動駆動電極411A、可動検出電極441Aおよび梁47Aの集合体を「可動体4A」とも言い、可動駆動電極411B、可動検出電極441Bおよび梁47Bの集合体を「可動体4B」とも言う。
また、センサー素子4は、固定部451とフレーム48との間に位置し、これらを接続するフレームばね488と、固定部452とフレーム48との間に位置し、これらを接続するフレームばね489と、を有する。
また、センサー素子4は、フレーム48と可動検出電極441Aとを接続する接続ばね40Aと、フレーム48と可動検出電極441Bとを接続する接続ばね40Bと、を有する。接続ばね40Aは、検出ばね46Aと共に可動検出電極441Aを支持し、接続ばね40Bは、検出ばね46Bと共に可動検出電極441Bを支持している。検出ばね46A、46Bに加えて接続ばね40A、40Bを配置することにより、可動検出電極441A、441Bをより安定した姿勢で支持することができ、可動検出電極441A、441Bの不要振動を低減することができる。
例えば、配線73を介して図4に示す電圧V1を可動体4A、4Bに印加し、配線74を介して図4に示す電圧V2を固定駆動電極412A、412Bに印加すると、これらの間に作用する静電引力によって、可動体4Aと可動体4BとがX軸方向に接近・離間を繰り返すようにして逆相で振動する。なお、以下では、この振動モードを「駆動振動モード」とも言う。そして、可動体4Aと可動体4Bとが駆動振動モードで振動している状態で、センサー素子4に角速度ωyが加わると、コリオリの力により、可動検出電極441A、441BがZ軸方向に逆相で振動し、この振動に伴って、静電容量Ca、Cbがそれぞれ変化する。なお、以下では、この振動モードを「検出振動モード」とも言う。そのため、静電容量Ca、Cbの変化に基づいて、角速度ωyを求めることができる。
検出振動モードでは、静電容量Caが大きくなると静電容量Cbが小さくなり、反対に、静電容量Caが小さくなると静電容量Cbが大きくなる。そのため、配線75から得られる検出信号すなわち静電容量Caの大きさに応じた信号と、配線76から得られる検出信号すなわち静電容量Cbの大きさに応じた信号とを差動演算すなわち減算処理:Ca-Cbすることにより、ノイズをキャンセルすることができ、より精度よく角速度ωyを検出することができる。
なお、駆動振動モードを励振することができれば、電圧V1、V2としては、特に限定されない。また、本実施形態の慣性センサー1では、静電引力によって駆動振動モードを励振させる静電駆動方式となっているが、駆動振動モードを励振させる方式は、特に限定されず、例えば、圧電駆動方式、磁場のローレンツ力を利用した電磁駆動方式等を適用することもできる。
また、センサー素子4は、駆動振動モードでの可動体4A、4Bの振動状態を検出するためのモニター部49A、49Bを有する。モニター部49Aは、可動検出電極441Aに配置された櫛歯状の可動モニター電極491Aと、櫛歯状をなし可動モニター電極491Aと噛み合って配置された固定モニター電極492A、493Aと、を有する。同様に、モニター部49Bは、可動検出電極441Bに配置された櫛歯状の可動モニター電極491Bと、櫛歯状をなし可動モニター電極491Bと噛み合って配置された固定モニター電極492B、493Bと、を有する。また、固定モニター電極492A、493A、492B、493Bは、それぞれ、凹部21の外側まで引き出されて基板2の上面に接合され、基板2に固定されている。
固定モニター電極492A、492Bは、配線77と電気的に接続され、固定モニター電極493A、493Bは、配線78と電気的に接続されている。そして、慣性センサー1の駆動時には、可動モニター電極491Aと固定モニター電極492Aとの間および可動モニター電極491Bと固定モニター電極492Bとの間に静電容量Ccが形成され、可動モニター電極491Aと固定モニター電極493Aとの間および可動モニター電極491Bと固定モニター電極493Bとの間に静電容量Cdが形成される。駆動振動モードにおいて可動体4A、4BがX軸方向に振動すると、それに伴って静電容量Cc、Cdがそれぞれ変化する。そのため、静電容量Cc、Cdの変化に基づいて検出信号が出力され、出力された検出信号に基づいて可動体4A、4Bの振動状態を検出することができる。
なお、モニター部49A、49Bからの出力によって検出された可動体4A、4Bの振動状態は、固定駆動電極412A、412Bに電圧V2を印加する駆動回路にフィードバックされる。前記駆動回路は、可動体4A、4Bの振幅が目標値となるように、電圧V2の周波数、振幅、Duty比等を変更する。これにより、可動体4A、4Bを目標の振動状態で振動させることができ、角速度ωyの検出精度が向上する。
以上、センサー素子4について説明した。前述したように、センサー素子4は、シリコン基板をボッシュ・プロセスによって加工することにより形成することができる。しかしながら、ボッシュ・プロセスを用いた場合、例えば、チャンバー内の位置やマスク形状等によっては垂直方向に対して傾斜した斜め方向に貫通孔が掘られてしまう。貫通孔が傾斜すると、各部の断面形状が矩形から崩れ、本実施形態では、図5に示すように、各検出ばね46A、46Bが平行四辺形となっている。なお、矩形からの崩れ方は、さまざまであるが、本実施形態では、その一例として平行四辺形となっている例を代表に説明している。
各検出ばね46A、46Bの断面形状が矩形から崩れると、図5中の矢印で示すように、駆動振動モードにおいて、可動体4A、4BがX軸方向のみならず、Z軸方向にも振動してしまう。すなわち、Z軸方向のクアドラチャ(不要振動)が発生する。そのため、可動体4A、4Bは、X軸およびZ軸に対して傾斜した斜め方向に振動する。そのため、可動体4A、4Bが自然状態Q0から実線の矢印で示す方向に振動する第1状態Q1と、自然状態Q0から鎖線の矢印で示す方向に振動する第2状態Q2と、が交互に繰り返される。なお、以下では、この斜め方向への振動を単に「斜め振動」とも言う。
このような斜め振動が生じると、駆動振動モードにおいて静電容量Ca、Cbが変化し、これに伴ってノイズ信号であるクアドラチャ信号が出力される。そのため、検出信号にクアドラチャ信号が混入し、角速度ωyの検出精度が低下する。そこで、本実施形態では、上述したクアドラチャに起因したクアドラチャ信号を低減すべく、検出部44A、44Bの構成を工夫している。
以下、検出部44A、44Bの構成について具体的に説明するが、検出部44A、44Bは、互いに同様の構成であるため、以下では、検出部44Aについて代表して説明し、検出部44Bについては、その説明を省略する。図6に示すように、Z軸方向からの平面視で、検出部44Aを構成する可動検出電極441Aは、四辺がX軸およびY軸に沿った矩形をなしている。特に、本実施形態では、可動検出電極441Aは、Y軸方向を長軸とし、X軸方向を短軸とする略長方形となっている。
図6に示すように、可動検出電極441AをX軸方向に二等分する線を中心線βxとしたとき、可動検出電極441Aの重心Gは、中心線βxからX軸に沿う方向、図示の構成では、X軸方向のマイナス側にずれている。また、可動検出電極441AをY軸方向に二等分する線を中心線βyとしたとき、可動検出電極441Aの重心Gは、中心線βyと重なっている。つまり、重心Gは、Z軸方向から見たときの可動検出電極441Aの幾何中心OaとX軸方向に並んで位置している。ただし、これに限定されず、例えば、重心Gは、幾何中心OaからX軸方向にずれていると共に、Y軸方向にずれていてもよい。なお、可動検出電極441Aが略矩形以外の楕円形、多角形その他不定形である場合、中心線βxは、可動検出電極441AのZ軸方向からの平面視において、可動検出電極441Aの面積を2等分する線としてもよい。
また、図7に示すように、重心Gと中心線βxとの離間距離Dは、可動検出電極441AのX軸方向への振幅Wよりも小さい。つまり、D<Wである。このように、重心Gを中心線βxからX軸方向にずらし、かつ、D<Wとすることにより、クアドラチャを抑制でき、クアドラチャ信号を低減することができる。以下、その理由について説明する。なお、D<Wの範囲内でも、例えば、0.2≦D/W≦0.8であることが好ましく、0.3≦D/W≦0.7であることがより好ましく、0.4≦D/W≦0.6であることがさらに好ましい。これにより、より効果的にクアドラチャ信号を低減することができる。
まず、駆動振動モードについてより詳細に説明する。図8に示すように、可動検出電極441Aは、駆動振動モードで駆動する際、矢印R1、R2で示すY軸まわりの回転モーメントを生じ、同図に示す回転成分を持って振動する。上述したように、重心Gを中心線βxからずらし、D<Wとすることにより、重心Gが中心線βxと一致する従来構成と比べ、第1状態Q1ではX軸に対する可動検出電極441Aの傾きθ1が大きくなり、第2状態Q2ではX軸に対する可動検出電極441Aの傾きθ2が小さくなる。
そのため、従来構成と比べて、第1状態Q1では可動検出電極441Aと固定検出電極71との間の平均離間距離D1が減少し、第2状態Q2では可動検出電極441Aと固定検出電極71との間の平均離間距離D2が増大する。したがって、従来構成と比べて、第1状態Q1での静電容量Caと第2状態Q2での静電容量Caとの差が小さくなる。つまり、従来構成と比べて、駆動振動モードでの静電容量Caの変化量が小さくなり、その結果、クアドラチャ信号が低減される。
次に、本実施形態の構成とすることにより、何故、従来構成と比べて平均離間距離D1が減少し平均離間距離D2が増大するのかを1つのモデルを挙げて説明する。まず、図9に従来構成のモデルを示す。このモデルでは、固定部42A、451(452)と可動検出電極441Aとの離間距離が共にL0、可動検出電極441Aの質量がm、クアドラチャによって可動検出電極441AをZ軸方向に動かす力がF0である。このようなモデルでは、自然状態Q0での可動検出電極441AのX軸方向のマイナス側の端441A’に加わる回転モーメントをP’としたとき、P’=m・L0・F0で表され、可動検出電極441AのX軸方向のプラス側の端441A”に加わる回転モーメントをP”としたとき、P”=m・L0・F0で表される。従来構成では、重心Gが中心線βxと一致しているため、P’=P”である。
次に、図10に本実施形態のモデルを示す。このモデルでは、X軸方向のマイナス側に位置する固定部451、452と可動検出電極441Aとの離間距離がL1、X軸方向のプラス側に位置する固定部42Aと可動検出電極441Aとの離間距離がL2、可動検出電極441Aの質量がm、クアドラチャによって可動検出電極441AをZ軸方向に動かす力がF0である。なお、重心Gが中心線βxからX軸方向のマイナス側にずれているため、L1<L0<L2の関係となっている。
このモデルでは、第1状態Q1での可動検出電極441AのX軸方向のマイナス側の端441A’に加わる回転モーメントをP1’としたとき、P1’=m・L1・F0で表され、可動検出電極441AのX軸方向のプラス側の端441A”に加わる回転モーメントをP1”としたとき、P1”=m・L0・F0で表される。そして、L1<L0<L2であるから、P1’<P’、P1”>P”の関係となる。したがって、図8に示したように、第1状態Q1での可動検出電極441AのX軸に対する傾きθ1は、従来構成の傾きθよりも大きくなる。つまり、θ1>θである。これにより、従来構成に対して平均離間距離D1が減少する。
反対に、第2状態Q2での可動検出電極441AのX軸方向のマイナス側の端441A’に加わる回転モーメントをP2’としたとき、P2’=-m・L1・F0で表され、可動検出電極441AのX軸方向のプラス側の端441A”に加わる回転モーメントをP2”としたとき、P2”=-m・L2・F0で表される。L1<L0<L2であるから、P2’>P’、P2”<P”の関係となる。したがって、図8に示したように、第2状態Q2での可動検出電極441AのX軸に対する傾きθ2は、従来技術の傾きθよりも小さくなる。つまり、θ2<θである。これにより、従来構成に対して平均離間距離D2が増大する。
以上より、本実施形態の構成とすることにより、従来構成と比べて平均離間距離D1が減少し平均離間距離D2が増大することが分かる。
なお、本実施形態では、図8に示すように、Z軸方向からの平面視で、可動検出電極441Aの中心線βxに対して重心G側であるX軸方向のマイナス側の領域を第1領域M1とし、重心Gとは反対側であるX軸方向のプラス側の領域を第2領域M2としたとき、第1領域M1のZ軸に沿う方向の平均厚さt1が第2領域M2のZ軸に沿う方向の平均厚さt2よりも厚い。つまり、t1>t2である。これにより、より確実に、重心Gを中心線βxからずらすことができる。
特に、可動検出電極441Aの下面442Aは、少なくとも1つの段差を有する段差面で構成されている。本実施形態では、下面442Aは、1つの段差443Aと、段差443Aの下端と接続された第1面444Aと、段差443Aの上端と接続された第2面445Aと、を有する段差面で構成されている。このように、下面442Aを段差面で構成することにより、簡単な構成でt1>t2とすることができる。ただし、下面442Aを構成する段差面としては、特に限定されず、例えば、2つ以上の段差を有していてもよい。
以上、慣性センサー1の構成について説明した。次に、慣性センサー1の製造方法について説明する。慣性センサー1の製造方法は、図11に示すように、基板2を準備する基板準備工程と、センサー素子4の母材となるシリコン基板40に段差面を形成する段差面形成工程と、基板2にシリコン基板40を接合する接合工程と、シリコン基板40をボッシュ・プロセスでパターニングしてセンサー素子4を形成するセンサー素子形成工程と、蓋3を基板2に接合する蓋接合工程と、を有する。
[基板準備工程]
まず、基板2の母材となるガラス基板を用意する。次に、ガラス基板に凹部21、マウント221、222、224および溝を形成して基板2を得る。凹部21、マウント221、222、224および溝は、例えば、ウェットエッチングにより形成することができる。次に、基板2に、固定検出電極71、72および配線73、74、75、76、77、78を形成する。
[段差面形成工程]
図12に示すように、センサー素子4の母材となるシリコン基板40を用意し、シリコン基板40の下面に可動検出電極441A、441Bの下面442A、442Bを構成する段差面を形成する。段差面は、例えば、ドライエッチング、ウェットエッチングの各種エッチングにより形成することができる。
[接合工程]
図13に示すように、シリコン基板40を基板2の上面に接合する。次に、必要に応じてCMP(化学機械研磨)を用いてシリコン基板40を薄肉化する。
[センサー素子形成工程]
次に、図14に示すように、シリコン基板40をボッシュ・プロセスでパターニングし、センサー素子4を得る。
[蓋接合工程]
次に、図15に示すように、蓋3を用意し、ガラスフリット39を介して基板2の上面に接合する。これにより、慣性センサー1が得られる。
以上、慣性センサー1の製造方法について説明した。また、センサー素子4の別の製造方法として、例えば、図16に示すように、基板2に上面が段差面で構成された犠牲層Kを製膜し、次に、図17に示すように、犠牲層K上にポリシリコンを成膜してセンサー素子4を形成し、次に、図18に示すように、犠牲層Kを除去して基板2からセンサー素子4をリリースする。このような製造方法によっても、センサー素子4を形成することができる。
以上、慣性センサー1について説明した。このような慣性センサー1は、前述したように、互いに直交する3軸をX軸、Y軸およびZ軸としたとき、基板2と、基板2とZ軸に沿う方向に重なり、基板2と対向している検出可動体としての可動検出電極441Aと、基板2に配置され、可動検出電極441Aと対向している固定検出電極71と、可動検出電極441Aを振動させる駆動部41Aと、を有する。また、可動検出電極441Aの振動は、X軸に沿う方向の振動とZ軸に沿う方向の振動とが合成された駆動振動モードを有する。また、Z軸方向からの平面視で、可動検出電極441AをX軸に沿う方向に二等分する線を中心線βxとしたとき、可動検出電極441Aの重心Gは、中心線βxからX軸に沿う方向にずれており、重心Gと中心線βxとの離間距離Dは、可動検出電極441AのX軸に沿う方向への振幅Wよりも小さい。このような構成とすることにより、クアドラチャを低減することができ、それに伴って、クアドラチャ信号を低減することができる。
また、前述したように、Z軸方向からの平面視で、可動検出電極441Aの中心線βxに対して重心G側の領域を第1領域M1とし、重心Gとは反対側の領域を第2領域M2としたとき、第1領域M1のZ軸に沿う方向の平均厚さt1は、第2領域M2のZ軸に沿う方向の平均厚さt2よりも厚い。つまり、t1>t2である。これにより、より確実に、重心Gを中心線βxからずらすことができる。
また、前述したように、可動検出電極441Aの下面442Aすなわち固定検出電極71と対向する面は、段差を有する。これより、簡単な構成で、t1>t2とすることができる。
<第2実施形態>
図19は、第2実施形態に係る慣性センサーを示す断面図である。
本実施形態は、可動検出電極441A、441Bの構成、具体的には、中心線βxから重心Gをずらす方法が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図19において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。また、可動検出電極441A、441Bの構成は、同様のため、以下では、可動検出電極441Aについて代表して説明し、可動検出電極441Bについては、その説明を省略する。
図19に示すように、可動検出電極441Aの下面442Aは、静止状態においてX軸に対して傾斜している傾斜面で構成されている。このような構成によっても、簡単な構成で、t1>t2とすることができ、中心線βxから重心GをX軸方向にずらすことができる。なお、本実施形態では、下面442AのX軸に対する傾斜角がX軸方向の全域で等しいが、これに限定されず、傾斜角の異なる部分を有していてもよい。また、本実施形態では、下面442Aの全域が傾斜面で構成されているが、これに限定されず、例えば、下面442Aの一部が傾斜面で構成され、残りがX軸と平行な面で構成されていてもよい。
このように、本実施形態では、可動検出電極441Aの下面442Aすなわち固定検出電極71と対向する面は、X軸に対して傾斜している。これより、簡単な構成で、t1>t2とすることができる。
以上のような第2実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
<第3実施形態>
図20は、第3実施形態に係る慣性センサーを示す断面図である。
本実施形態は、可動検出電極441A、441Bの構成、具体的には、中心線βxから重心Gをずらす方法が異なること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図20において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。また、可動検出電極441A、441Bの構成は、同様のため、以下では、可動検出電極441Aについて代表して説明し、可動検出電極441Bについては、その説明を省略する。
図20に示すように、可動検出電極441Aの第2領域M2は、可動検出電極441Aの下面442Aに開放する凹部446Aを有する。このような構成によっても、簡単な構成で、t1>t2とすることができ、中心線βxから重心Gをずらすことができる。なお、本実施形態では、第2領域M2に1つの凹部446Aが形成されているが、凹部446Aの数は、これに限定されず、2つ以上であってもよい。また、凹部446Aは、可動検出電極441Aの上面に貫通する貫通孔であってもよい。また、2つ以上の凹部446Aを有する場合、全ての凹部446Aが同じ形状であってもよいし、少なくとも1つの凹部446Aが他の凹部446Aと幅や深さが異なっていてもよい。また、第1領域M1も凹部446Aを有していてもよい。
このように、本実施形態では、第2領域M2は、可動検出電極441Aの下面442Aすなわち固定検出電極71と対向する面に凹部446Aを有する。これより、簡単な構成で、t1>t2とすることができる。
以上のような第3実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
<第4実施形態>
図21は、第4実施形態に係る電子機器としてのスマートフォンを示す平面図である。
図21に示すスマートフォン1200は、実施形態に記載の電子機器を適用したものである。スマートフォン1200には、慣性センサー1と、慣性センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御回路1210と、が内蔵されている。慣性センサー1によって検出された検出データは、制御回路1210に送信され、制御回路1210は、受信した検出データからスマートフォン1200の姿勢や挙動を認識して、表示部1208に表示されている表示画像を変化させたり、警告音や効果音を鳴らしたり、振動モーターを駆動して本体を振動させることができる。
このような電子機器としてのスマートフォン1200は、慣性センサー1を有する。そのため、前述した慣性センサー1の効果を享受でき、高い信頼性を発揮することができる。
なお、実施形態に記載の電子機器は、前述したスマートフォン1200の他にも、例えば、パーソナルコンピューター、デジタルスチールカメラ、タブレット端末、時計、スマートウォッチ、インクジェットプリンタ、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)等のウェアラブル端末、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器、魚群探知機、各種測定機器、移動体端末基地局用機器、車両、航空機、船舶等の各種計器類、フライトシミュレーター、ネットワークサーバー等に適用することができる。
<第5実施形態>
図22は、第5実施形態に係る電子機器としての慣性計測装置を示す分解斜視図である。図23は、図22に示す慣性計測装置が有する基板の斜視図である。
図22に示す電子機器としての慣性計測装置2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車や、ロボットなどの被装着装置の姿勢や、挙動を検出する慣性計測装置である。慣性計測装置2000は、3軸加速度センサーおよび3軸角速度センサーを備えた6軸モーションセンサーとして機能する。
慣性計測装置2000は、平面形状が略正方形の直方体である。また、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に固定部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性計測装置2000を固定することができる。なお、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンや、デジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
慣性計測装置2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300と、を有し、アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300を挿入した構成となっている。アウターケース2100の外形は、前述した慣性計測装置2000の全体形状と同様に、平面形状が略正方形の直方体であり、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、それぞれネジ穴2110が形成されている。また、アウターケース2100は、箱状であり、その内部にセンサーモジュール2300が収納されている。
センサーモジュール2300は、インナーケース2310と、基板2320と、を有している。インナーケース2310は、基板2320を支持する部材であり、アウターケース2100の内部に収まる形状となっている。また、インナーケース2310には、基板2320との接触を防止するための凹部2311や後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。このようなインナーケース2310は、接合部材2200を介してアウターケース2100に接合されている。また、インナーケース2310の下面には接着剤を介して基板2320が接合されている。
図23に示すように、基板2320の上面には、コネクター2330、Z軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340z、X軸、Y軸およびZ軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサー2350などが実装されている。また、基板2320の側面には、X軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340xおよびY軸まわりの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。そして、これら各センサーとして、本発明の慣性センサーを用いることができる。
また、基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。制御IC2360は、MCU(Micro Controller Unit)であり、慣性計測装置2000の各部を制御する。記憶部には、加速度および角速度を検出するための順序と内容を規定したプログラムや、検出データをデジタル化してパケットデータに組込むプログラム、付随するデータなどが記憶されている。なお、基板2320にはその他にも複数の電子部品が実装されている。
<第6実施形態>
図24は、第6実施形態に係る電子機器としての移動体測位装置の全体システムを示すブロック図である。図25は、図24に示す移動体測位装置の作用を示す図である。
図24に示す移動体測位装置3000は、移動体に装着して用い、当該移動体の測位を行うための装置である。なお、移動体としては、特に限定されず、自転車、自動車、自動二輪車、電車、飛行機、船等のいずれでもよいが、本実施形態では移動体として四輪自動車を用いた場合について説明する。
移動体測位装置3000は、慣性計測装置3100(IMU)と、演算処理部3200と、GPS受信部3300と、受信アンテナ3400と、位置情報取得部3500と、位置合成部3600と、処理部3700と、通信部3800と、表示部3900と、を有している。なお、慣性計測装置3100としては、例えば、前述した慣性計測装置2000を用いることができる。
慣性計測装置3100は、3軸の加速度センサー3110と、3軸の角速度センサー3120と、を有している。演算処理部3200は、加速度センサー3110からの加速度データおよび角速度センサー3120からの角速度データを受け、これらデータに対して慣性航法演算処理を行い、移動体の加速度および姿勢を含む慣性航法測位データを出力する。
また、GPS受信部3300は、受信アンテナ3400を介してGPS衛星からの信号を受信する。また、位置情報取得部3500は、GPS受信部3300が受信した信号に基づいて、移動体測位装置3000の位置(緯度、経度、高度)、速度、方位を表すGPS測位データを出力する。このGPS測位データには、受信状態や受信時刻等を示すステータスデータも含まれている。
位置合成部3600は、演算処理部3200から出力された慣性航法測位データおよび位置情報取得部3500から出力されたGPS測位データに基づいて、移動体の位置、具体的には移動体が地面のどの位置を走行しているかを算出する。例えば、GPS測位データに含まれている移動体の位置が同じであっても、図25に示すように、地面の傾斜θg等の影響によって移動体の姿勢が異なっていれば、地面の異なる位置を移動体が走行していることになる。そのため、GPS測位データだけでは移動体の正確な位置を算出することができない。そこで、位置合成部3600は、慣性航法測位データを用いて、移動体が地面のどの位置を走行しているのかを算出する。
位置合成部3600から出力された位置データは、処理部3700によって所定の処理が行われ、測位結果として表示部3900に表示される。また、位置データは、通信部3800によって外部装置に送信されるようになっていてもよい。
<第7実施形態>
図26は、第7実施形態に係る移動体を示す斜視図である。
図26に示す自動車1500は、実施形態に記載の移動体を適用した自動車である。この図において、自動車1500は、エンジンシステム、ブレーキシステムおよびキーレスエントリーシステムの少なくとも何れかのシステム1510を含んでいる。また、自動車1500には、慣性センサー1が内蔵されており、慣性センサー1によって車体の姿勢を検出することができる。慣性センサー1の検出信号は、制御装置1502に供給され、制御装置1502は、その信号に基づいてシステム1510を制御することができる。
このように、移動体としての自動車1500は、慣性センサー1を有する。そのため、前述した慣性センサー1の効果を享受でき、高い信頼性を発揮することができる。
なお、慣性センサー1は、他にも、カーナビゲーションシステム、カーエアコン、アンチロックブレーキシステム(ABS)、エアバック、タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)、エンジンコントロール、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池モニター等の電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)に広く適用できる。また、移動体としては、自動車1500に限定されず、例えば、飛行機、ロケット、人工衛星、船舶、AGV(無人搬送車)、二足歩行ロボット、ドローン等の無人飛行機等にも適用することができる。
以上、本発明の慣性センサー、電子機器および移動体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、前述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。なお、前述した実施形態では、慣性センサーとして、角速度を検出する構成について説明したが、これに限定されず、例えば、加速度を検出する構成であってもよい。