この発明の要旨は、約0℃~15℃に冷却維持した農産物保管室と飽和水蒸気発生室とを連通して飽和水蒸気発生室で生成した飽和水蒸気を農産物保管室に流入して農産物保管室に収納した果実や野菜等の農産物の各種劣化要因を除去可能に構成した農産物の鮮度保持装置において、飽和水蒸気発生室は、水蒸気生成用ケースと、空気を取込むための空気吸入機構と、空気吸入機構に連通して設けた多孔質フィルタブロックと、多孔質フィルタブロックに散水する散水機構とより構成し、しかも、多孔質フィルタブロックは、多孔質シートを波形に形成して一定の間隔を保持して多数積層して構成すると共に、積層した多孔質シートの波形の方向を同位相に整順して配設した同方向フィルタパターンに構成する場合と、波形振幅の略1/2だけ位相をずらして波形の方向を谷部と山部とが互いに対峙するように逆位相に整順して配設した異方向フィルタパターンに構成する場合と、に変更可能に構成したことを特徴とする農産物の鮮度保持装置を提供することにある。
また、飽和水蒸気発生室に吸収した多孔質フィルタブロックに散水するための散水機構は、農産物保管室の内外側のいずれかに別途配置したドレン循環装置に連通連設すると共に、ドレン循環装置は、ドレンケース内に配設したドレンパイプと、ドレンパイプに高温度外気を送風するための外気送風機構と、ドレンパイプ内へ農産物保管室の冷却に用いる冷却装置からの冷却ドレンを流通させるためのドレン流通路と、ドレンケースの底部に配設すると共にドレンパイプの下方位置に配設し、ドレンパイプの外周で外気から生成した滴下ドレンを集水するためのドレン回収トレイと、ドレン回収トレイから飽和水蒸気発生室内の多孔質フィルタブロックの散水機構へ集水ドレンを送水するためのドレン送水パイプと、より構成したことにも特徴を有する。
また、飽和水蒸気発生室内で散水機構から多孔質フィルタブロックへ散水される水の温度は、農産物保管室内の温度よりも約10~45℃の高温度に維持することにより飽和水蒸気圧を高めて飽和水蒸気発生室内を急速な加湿状態を可能とすることにも特徴を有する。
また、飽和水蒸気発生室で生成した飽和水蒸気を飽和水蒸気流通路から農産物保管室に流入するに際して、農産物保管室への飽和水蒸気の流入形態を上下の3層流とすると共に、中間層流は高湿度の上下層流に比し低湿度とすることにより、農産物保管室内での結露を可及的に抑えて農産物保管室の床面や壁面における結露現象を回避するように構成したことにも特徴を有する。
ここで、本発明に係る鮮度保持装置に保管される農産物とは、農業的手法により収穫された作物類全般を意図しており、例えば、花卉類、果実類、葉菜類、根菜類、果菜類が挙げられる。これら農産物は、前述のごとく最適な保湿条件が異なる。
すなわち、本発明に係る鮮度保持装置は、複数の異種作物類からなる農産物を同一保管室内に混同して保管しても、収穫後の農産物に生起する腐敗劣化、及び乾燥劣化と言った劣化要因に対応する保湿条件として、気体状の水分生成と液体状の水分生成とを必要に応じて適宜選択できる構成を備え、農産物の鮮度保持を実現せんとするものである。
保管室は、農産物を収納する内部空間を有した冷蔵・保冷施設であればよく、例えば、冷凍・冷蔵機能を備える輸送コンテナやトラックであってもよい。
保管室の内容積は特に限定されることはないが、例えば内容積を大型のもので約1400~1500m3、中型のもので約500~700m3、小型のもので約10~50m3のものを採用することができる。また、保管室は、高さ寸法が約3~7mであれば、対流空気の庫内循環が行われやすくなる。また、大型の保管室の場合には、同保管室内を相対湿度90~100%の飽和雰囲気に迅速にすべく、後述する飽和水蒸気発生室を2つ以上設置する。
保管室の温度は、収納保管する農産物の種類により異なるが、各種作物類に略共通した適性保存温度帯である約0~15℃に設定する。
飽和水蒸気発生室は、生成した水蒸気含有空気が保管室内全域に対流しやすい場所に設置されていればよく、例えば、保管室の床面に載置したり、壁面や天井面に配設することとしてもよい。
また、飽和水蒸気発生室の空気流入機構は、多孔質フィルタブロックを通過可能な風速を実現する気流を発生させるものであればよく、例えばその風速は0.5m/s~7.0m/sである。
空気流入機構による気流の風速が、0.5m/sより遅いと、飽和水蒸気発生室内に流入する空気が多孔質フィルタブロックを通過することができず、8.0m/sより速いと多孔質フィルタブロックが風圧で損傷する虞がある。
従って、空気流入機構は、気流の風速を0.5m/s~8.0m/s、より好ましくは2.0m/s~6.5m/sを生起するものを採用することで、後述する同方向フィルタパターン及び異方向フィルタパターンの多孔質フィルタブロックを流入空気が通過することができ、気体状の水分を含む水蒸気含有空気を生成したり、液体状の水分を含むミスト含有空気を生成することができる。
また、飽和水蒸気発生室から生成される飽和水蒸気、すなわち水蒸気含有空気の生成量は、約5~40分で保管室内を相対湿度90~100%にできる量であればよい。
すなわち、水蒸気含有空気の生成量は、ファンによる風量q(Nm3/min)と保管室の内容積Vとの関係で決定される。本実施例において、ファンによる風量qと保管室の内容積V(m3)との関係は、凡そ0.004≦V/q≦0.5となればよい。
また、多孔質フィルタブロックは、その表面積を可及的拡大させる構造としている。すなわち多孔質フィルタブロックの表面積は、1.0~3.0m2、より好ましくは1.5~2.8m2とすることで、吸水保持する水分量と同水分と流通空気との接触の機会を増して、流通空気の流速や保管室の水蒸気含有空気置換回数に応じた水蒸気含有空気を生成できる。
多孔質フィルタブロックの素材、すなわち多孔質シートの素材は、水分を保持できるものであれば疎水性繊維又は/及び親水性繊維等であってもよく、例えば、綿、麻、パルプ、絹、塩化ビニール、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、ビニロン、ゼオライト、シリカゲル、活性炭等のいずれか又はこれらの複合繊維を採用することができる。
以下、本実施例に係る農産物の鮮度保持装置(以下、単に鮮度保持装置と称す。)について、図面を参照しながら詳説する。図1は鮮度保持装置の全体の概略的構成を示すシステム図、図2は鮮度保持装置の構成を示す模式的側面図、図3(a)及び図3(b)はそれぞれ飽和水蒸気発生室の構成を示す正面側及び背面側の外観斜視図、図4及び図5はそれぞれ飽和水蒸気発生室の内部構成を示す側面図及び正面図である。
なお、以下において、「乾燥空気」とは保管室内において冷却された空気であって飽和水蒸気発生室内を未だ通過していない状態の空気を意図する。また、飽和水蒸気発生室内に取り込まれた「乾燥空気」に気体状の水分(水蒸気)が付与された状態の空気を「湿り空気」と称し、この湿り空気のうち「飽和空気」を含む相対湿度を90%以上100%以下とした空気を「水蒸気含有空気」と称する。また、飽和水蒸気発生室内に取り込まれた「乾燥空気」に液体状の水分(ミスト)が付与された状態の空気を「ミスト含有空気」と称する。なお、飽和水蒸気発生室2内に取り込まれる空気は、「乾燥空気」だけでなく「湿り空気」や「水蒸気含有空気」、「ミスト含有空気」を含む。
[1.鮮度保持装置の概略的構成]
鮮度保持装置Aは、図1及び図2に示すように概略的には約0℃~15℃に冷却維持した農産物保管室1と飽和水蒸気発生室2とを連通し、飽和水蒸気発生室2で生成した飽和水蒸気(水蒸気含有空気G3)やミスト(ミスト含有空気G4)を農産物保管室1に流入して農産物保管室1に収納した果実や野菜等の農産物Nの各種劣化要因を除去可能に構成している。
保管室1は、農産物Nを載置収納可能な所定空間を有した方形状の保管室本体10と、同保管室本体10内に設置され、農産物Nの適正保存温度帯(約0~15℃)に冷却するための冷却装置11と、で構成している。冷却装置11は、保管室本体10の搬入搬出用扉12と対向する奥側壁部の天井面に垂設している。
保管室本体10の一側には農産物Nの搬入搬出用扉12が開閉自在に設けられており、搬入搬出用扉12近傍の保管室1内後部には飽和水蒸気発生室2が設置されている。
飽和水蒸気発生室2は、後述する多孔質フィルタブロック5の各種フィルタパターン5A、5Bに応じて、農産物Nの適性保存温度帯(約0~15℃)における飽和蒸気圧下の乾燥空気G1に対して、気体状の水分を付与することで水蒸気含有空気G3を生成したり、液体状の水分飛沫、すなわちミストを付与することでミスト含有空気G4を生成するように構成している。
かかる飽和水蒸気発生室2は、水蒸気生成用ケース3と、空気を取込むための空気吸入機構4と、空気吸入機構4に連通して設けた多孔質フィルタブロック5と、多孔質フィルタブロック5に散水する散水機構6と、を備える。
水蒸気生成用ケース3には、図3(a)~図5に示すように所定空間を有する縦長箱型状であって、その内部に水蒸気含有空気G3やミスト含有空気G4を生成するための各種機能部材を配設している。なお、水蒸気生成用ケース3の底部の4つの角部には、飽和水蒸気発生室2を移動可能とするキャスター30が4つ取り付けられている。
水蒸気生成用ケース3の寸法は、飽和水蒸気発生室2の所望とする大きさに合わせて適宜選択でき、例えば高さ約60~130cm、幅約40~80cm、奥行約30~50cmとすると利便性や気化効率の観点で好ましい。なお、本実施例の水蒸気生成用ケース3の寸法は、高さ約120cm、幅約80cm、奥行約40cmである。
空気吸入機構4は、水蒸気生成用ケース3外の空気を水蒸気生成用ケース3内に吸入するためにケース一側面に形成した空気吸入孔41と、ケース内空気を保管室1へ排出するためにケース他側面に形成した空気排出孔42と、空気排出孔42側に設けた送風ファン43とで構成している。
空気吸入孔41は、図3(b)に示すようにケース一側面としたケース背面31の上半部に矩形窓状に貫通して形成している。
具体的には、ケースの背面開口に着脱可能としたケース背面蓋31aをケース背面31とし、空気吸入孔41は、同ケース背面蓋31aの上半部でケース背面31の面積に対して開口面積を約1/4~1/3とするように開口して形成している。
また、空気排出孔42は、図3(a)に示すように空気吸入孔41に対応するように、ケース他側面であるケース正面32の上半部に矩形窓状に貫通して形成している。
具体的には、空気排出孔42は、空気吸入孔41の開口面積より狭い開口面積とし、ケース正面32の上半部でケース正面32の面積に対して開口面積を約1/5~1/4とするように開口して形成している。なお、空気排出孔42には上下方向に所定間隔を隔てて複数の帯板状の送風ガイド42aが架設されており、送風方向を調節を可能としている。
また、送風ファン43は、水蒸気生成用ケース3内側で空気排出孔42の手前側位置に設けられている。
送風ファン43は、図4に示すように駆動部44aを内蔵して回転駆動する円柱状のハブ44と、同ハブ44の外周廻りに所定間隔を隔てて設けられてハブ44と一体回転するプロペラ45と、で構成している。なお、駆動部44aは、図3(a)に示すようにケース正面32の空気排出孔42の近傍位置に設けたスイッチ46と接続して停止・駆動操作可能としている。
多孔質フィルタブロック5は、詳細については後述するが、水蒸気生成用ケース3内部において、空気吸入孔41と空気排出孔42との間で空気吸入孔41を略閉塞する位置且つ送風ファン43の後方位置にブロック面を空気吸入孔41と空気排出孔42に対し面対向して配設している。
かかる多孔質フィルタブロック5の上下方位置には、多孔質フィルタブロック5に含浸させる水を供給するための散水機構6が配設されている。
散水機構6は、図4及び図5に示すように多孔質フィルタブロック5の下方位置でケース底部33に配設した貯水槽60と、多孔質フィルタブロック5の上方位置に配設した散水パイプ61と、送水ポンプ62を介して貯水槽60から散水パイプ61へ水を引上げ循環するための循環パイプ63と、で構成している。
貯水槽60は、上部開口の有底箱型状であって、多孔質フィルタブロック5に供給する水を所定容量貯溜すると共に多孔質フィルタブロック5を流下してきた余剰水を受けて貯溜する。なお、貯水槽60の貯溜容量は、約2~4Lである。
貯水槽60の底部には水蒸気生成用ケース3外部へ貯水槽60内の水を排水する排水用孔60aを貫設している。排水用孔60aの上側縁部には貯水槽60の周壁高さより低い高さの水位調節筒60bを立設すると共に排水用孔60aの下側縁部には水位調節筒60bと連通して貯水槽60の余分な水を排水する排水パイプ60cを連設しており、貯水槽60の貯溜水のオーバーフローを防止して一定水位に保持することを可能としている。
貯水槽60の上方位置には、基端で給水源に接続して貯水槽60に水を供給するための給水パイプ60dが配設されている。給水パイプ60dの中途部には、給水・止水を行うための止水弁が貯水槽60内のフロート60eの浮沈動作に連動して開閉操作可能に設けられている。
散水パイプ61は、一端を閉塞して基端で循環パイプ63と接続し、多孔質フィルタブロック5の上端面に対して平行に伸延した細長管であって、外周下部で長手方向に沿って複数の散水孔を貫設している。
循環パイプ63は、基端で貯水槽60内底部に載置した送水ポンプ62に接続して立設している。なお、送水ポンプ62は、図3(a)に示すようにケース正面32の空気排出孔42の近傍位置に設けたスイッチ64と接続している。
ケース背面31(ケース背面蓋31a)の内側面には、図3及び図4に示すようにケース背面31に設けた空気吸入孔41を密封するようにして多孔質フィルタブロック5を嵌着設置するためのフィルタ設置部34を設けている。
フィルタ設置部34は、多孔質フィルタブロック5の外形に沿う正面視上方開口コ字状に折曲した帯板枠体であり、ケース背面31から内方に向けて突出して形成している。フィルタ設置部34の底部には、散水機構6から給水され多孔質フィルタブロック5に含浸されなかった余剰水を貯水槽60へ排出する排水孔を複数貫通して形成している。
[2.多孔質フィルタブロックの構成]
次に、多孔質フィルタブロック5の構成について詳説する。図6(a)及び図6(b)は多孔質フィルタブロックの同方向フィルタパターン及び異方向フィルタパターンにおける構成を示す斜視図、図7及び図8は多孔質フィルタブロックの同方向フィルタパターン及び異方向フィルタパターンの構成を示す模式的部分拡大平面図である。
多孔質フィルタブロック5は、多孔質シート50、50’を波形に形成して一定の間隔を保持して多数積層し、多数の多孔質シート50、50’の波形上端面を散水機構6からの散水受け面とすると共に、多孔質シート50、50’のうち最上流側に配置される多孔質シート50の波形後面を空気吸入孔41から流入する空気の空気受け面に構成している。
多孔質フィルタブロック5を構成する多孔質シート50は、同一の形状及び大きさであって、左右長手方向に山折りと谷折りを交互に繰返し折曲し、複数の山部51と複数の谷部52を有した一定振幅の波形状(プリーツ状)に形成している。
多孔質シート50は、疎水性繊維と親水性繊維とを混紡して編成したものであり、複雑に織合わさった互いの繊維間に多数の微細孔を有している。
本実施例の多孔質シート50は、寸法として幅約4~7m・高さ約35~40cm・厚み約0.5~2.0mmとし、素材として塩化ビニールと難溶パルプとの配合比を約1:1とし、空隙率を約15~55vol%とし、微細孔の孔径を約10~900μmとしたものを採用している。
多孔質シート50の表面には、多孔質シート50と同じ一定振幅の波形状に形成した波形ワイヤ53が多孔質シート50の左右長手方向に沿って連設されており、多孔質シート50の波形形状を保形している。なお、波形ワイヤ53の素材は、保形性に優れたものであればよく、例えば樹脂製や金属製である。
多孔質フィルタブロック5は、空気流通方向の上流側の多孔質シート50の波形における複数の谷部52同士によりなす仮想後側平面55と、下流側の多孔質シート50’の波形における複数の山部51’同士によりなす仮想前側平面54’と、を面当接させるように、多数の多孔質シート50、50’を前後方向に配設して構成している。
また、多孔質フィルタブロック5の形態は、図6(a)に示すように積層した多数の多孔質シート50、50’の波形の方向を同位相に整順して配設した同方向フィルタパターン5Aと、図6(b)に示すように波形振幅の略1/2だけ位相をずらして波形の方向を谷部52と山部51’とが互いに対峙するように逆位相に整順して配設した異方向フィルタパターン5Bとがある。
同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5は、図7に示すように平面視で一方の多孔質シート50の位相を他方の多孔質シート50’の位相と同位相として互いの対向面同士の間に平面視略蛇形状の送風空間S1を形成する。
具体的には、同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5は、図7に示すように上流側の多孔質シート50の複数の山部51と下流側の多孔質シート50’の複数の山部51’を対向させると共に上流側の多孔質シート50の複数の谷部52と下流側の多孔質シート50’の複数の谷部52’とを対向させて、上流側の多孔質シート50と下流側の多孔質シート50’との間に平面視略蛇形状の送風空間S1を連続的に形成する。なお、送風空間S1の幅員(2つの多孔質シート50、50’の対向面同士の間隔幅)は、約5~15mmである。
また、異方向フィルタパターン5Bの多孔質フィルタブロック5は、図8に示すように平面視で一方の多孔質シート50の位相を他方の多孔質シート50’の位相に対して左右方向に略1/2振幅分ずらして互いに逆位相として互いの対向面同士の間に平面視略ひし形状の閉塞空間S2を複数区画して形成する。
具体的には、異方向フィルタパターン5Bの多孔質フィルタブロック5は、上流側の多孔質シート50の複数の谷部52と下流側の多孔質シート50’の複数の山部51’と対峙当接させると共に上流側の多孔質シート50の複数の山部51と下流側の多孔質シート50’の複数の谷部52’とを対向させて、上流側の多孔質シート50と下流側の多孔質シート50’との間で、平面視略ひし形状の閉塞空間S2を左右方向に沿って複数区画して形成する。
また、多孔質フィルタブロック5は、同方向フィルタパターン5Aに構成する場合と、異方向フィルタパターン5Bに構成する場合とを変更調整自在に構成している。
すなわち、多孔質フィルタブロック5は、同方向フィルタパターン5Aと異方向フィルタパターン5Bとの各形態変化を可能とすべく、それぞれ分離可能な2つ以上の多孔質シート50、50’の仮想後側平面55と仮想前側平面54’との面当接状態を保持しつついずれか一方の多孔質シート50’を平行移動し、多孔質シート50、50’同士を相対的に同位相・逆位相に姿勢変位するフィルタ位相変更機構56を備えている。
フィルタ位相変更機構56は、図6(a)~図7に示すように多孔質フィルタブロック5を構成する多数の多孔質シート50、50’において、一方の多孔質シート50を支持して同シートを不動状態に定置固定するシート固定部57と、他方の多孔質シート50’を支持して一方の多孔質シート50の位相を基準に他方の多孔質シート50'の位相を同位相・逆位相に変位移動するシート移動部58と、で構成している。
なお、シート移動部58は、波形振幅の略1/2分スライド作動するものであればよく、例えばラック・ピニオン機構やスライドレール機構、回転軸機構等で構成することができる。また、シート移動部58は、制御部によって波形振幅の略1/2分、間欠的にスライド作動するように制御している。
特に本実施例のフィルタ位相変更機構56は、図6(a)~図7に示すように前述のフィルタ設置部34を各多孔質シート50、50’ごとに前後方向に分離し、フィルタ設置部34の後半部をシート固定部57とし、フィルタ設置部34の前半部をシート移動部58に構成している。
具体的には、フィルタ位相変更機構56は、図4、図6(a)及び図6(b)に示すように正面視上方開口のコ字状帯板枠体としたフィルタ設置部34において、ケース背面31から内方突出してケースに一体の後半部を上流側の多孔質シート50を嵌着して定置固定するシート固定部57に構成すること共に、前半部を下流側の多孔質シート50’を嵌着して上流側の多孔質シート50の位相に対して下流側の多孔質シート50’の位相を左右方向に波形振幅の略1/2スライドするシート移動部58に構成している。
また、シート移動部58は、いわゆるラック・ピニオン機構を採用しており、水蒸気生成用ケース3の内底面に敷設したラックと、同レールに沿って左右スライドする正面視上方開口のコ字状のシート載置枠と、シート載置枠の下底面に垂設されラックと噛合して回転駆動する駆動ピニオンと、で構成している。
また、他の実施例として、多孔質フィルタブロック500は、図9(a)~図10(b)に示すように略円柱状に構成してもよい。図9(a)及び図9(b)は他の実施例に係る多孔質フィルタブロックの同方向フィルタパターンにおける構成を示す斜視図及び側面図、図10(a)及び図10(b)は他の実施例に係る多孔質フィルタブロックの異方向フィルタパターンにおける構成を示す斜視図及び側面図、図11は他の実施例に係るフィルタ位相変更機構の構成を示す拡大縦断面図である。
すなわち、多孔質フィルタブロック500は、図9(a)~図10(b)に示すように軸中心に半径方向へ放射状に伸延する山部511と谷部512とを周方向について等間隔で交互に形成して波形とした正面視真円状の多数の多孔質シート510、510’を、それぞれ同軸心上に前後並設して構成している。
多孔質シート510は、円形の中心角を等分するように交互に山部511と谷部512とを半径方向に伸延し、周方向について一定振幅を有する波形状に形成している。
かかる多孔質フィルタブロック500は、図9(a)及び図9(b)に示すように積層した多孔質シート510、510’の波形の方向を同位相に整順して配設した同方向フィルタパターン500Aに構成する場合と、図10(a)及び図10(b)に示すように波形振幅の略1/2だけ位相をずらして波形の方向を谷部512’と山部511とが互いに対峙するように逆位相に整順して配設した異方向フィルタパターン500Bに構成する場合とを変更可能に構成している。
多孔質フィルタブロック500は、同方向フィルタパターン500Aでは、図9(a)及び図9(b)に示すように周方向において一方の多孔質シート50の位相を他方の多孔質シート50’の位相と同位相とし互いの対向面同士の間に外周廻り略蛇形状の送風空間S1を形成する。
また、異方向フィルタパターン500Bでは、図10(a)及び図10(b)に示すように周方向において一方の多孔質シート50の位相を他方の多孔質シート50’の位相に対して周方向に略1/2振幅分ずらして互いに逆位相とし互いの対向面同士の間に略ひし形状の閉塞空間S2を複数区画形成する。
また、同方向フィルタパターン500Aと異方向フィルタパターン500Bとを変更調整自在とするフィルタ位相変更機構560は、図11に示すように多数の多孔質シート510、510’の軸中心を貫通するように多孔質シート510、510’を周廻りに軸着するフィルタ位相変更軸561により構成している。
フィルタ位相変更軸561は、内部中空状の外軸562と同外軸562内に回転可能に設けられて駆動回転する内軸563とを有し、外軸562の先端部を一方の多孔質シート500を固定支持して不動状態とするシート固定部570とすると共に、外軸562の先端部より先端側で露出させた内軸563の先端部を他方の多孔質シート510’を内軸563と一体回転可能に固定して位相を移動させるシート移動部580とするように構成してる。なお、内軸563は、基端で駆動回転モータに連結している。
また、空気吸入機構4は、このような多孔質フィルタブロック5に対して、空気排出孔42から、同方向フィルタパターン5Aで水蒸気含有空気G2を風速0.5m/s~7.0m/sで吐出生成し、異方向フィルタパターン5Bでミスト含有空気G3を風速1.5m/s~8.0m/sで吐出生成するように構成している。
同方向フィルタパターン5Aにおいて、0.5m/sより遅い風速とすると水分の蒸発気化が適切に行われず、7.0m/sより速い風速とすると水分の蒸発量に対しする空気量が多くなりすぎ、水蒸気含有空気G2を適切に生成できない恐れがある。
また、異方向フィルタパターン5Bにおいて、1.5m/sより遅い風速ではフィルタに含浸された液体水を飛ばすことができず、8.0m/sより速い風速では装置に異常を来す恐れがあり、ミスト含有空気G3を適切に生成できない恐れがある。
以上のように構成した鮮度保持装置Aにおいて、飽和水蒸気発生室2は、以下のようにして水蒸気含有空気G3やミスト含有空気G4を生成する。
すなわち、飽和水蒸気発生室2において、フィルタ位相変更機構56により多孔質フィルタブロック5を同方向フィルタパターン5Aとした場合には、図7に示すように上流側の多孔質シート50が空気吸入機構4により空気吸入孔41から取り入れた乾燥空気G1と最初に接触する。
かかる乾燥空気G1は、上流側の多孔質シート50の山部51で分流されて谷部52に向けて流れる左右の気流となる。
隣接する2つの両山部51、51からそれぞれ1つ谷部52へ流れ込む2つの気流は、漸次狭窄する谷部52に向かうにつれて風圧及び風速を増加した縮流となると共に同縮流が谷部52で合流して風圧を最大圧とした複雑な旋回流となり、フィルタ壁近傍を負圧とする。
すなわち、多孔質シート50壁面に沿って縮流や旋回流となった乾燥空気G1が、多孔質シート50に浸潤した液体状の水をベンチュリー効果により多孔質シート50から強制的に引き出して蒸発させる。
次いで、同乾燥空気G1は、流通方向上流側から耐えず供給されて風圧を最大圧とし、谷部52を中心に多孔質シート50内部を通過し、同方向フィルタパターン5Aにおける送風空間S1で相対湿度を増した湿り空気G2となる。なお、湿り空気G2の相対湿度は約70~80%である。
湿り空気G2は、上流側の多孔質シート50の場合と同様に、送風空間S1内で流速を失うことなく、下流側の多孔質シート50’の谷部52へ直進してベンチュリ―効果により効率的な水分蒸発作用を生起する。
すなわち、湿り空気G2は、送風空間S1における下流側の多孔質シート50’の谷部52’で風圧を最大圧とした複雑な旋回流を生成し、その旋回流のベンチュリー効果により多孔質シート50’内部に浸潤された液体状の水と十分に接触しながら同液体状の水を強制気化して相対湿度を増加する。
次いで、湿り空気G2は、流通方向上流側から耐えず供給されて風圧を最大圧とする谷部52’を中心に下流側の多孔質シート50’内部を通過し、飽和水蒸気発生室2内で相対湿度約90~100%とした水蒸気含有空気G3となる。
このように、多孔質フィルタブロック5の同方向フィルタパターン5Aでは、積層する二重フィルター構造を基本にして、上流側から下流側にかけて乾燥空気G1によりベンチュリ―効果を重畳させ、液体状の水分との接触機会を可及的増大させて水蒸気生成効率を飛躍的に向上させて相対湿度約90~100%とした水蒸気含有空気G3を生成することができる。
また、飽和水蒸気発生室2において、フィルタ位相変更機構56により多孔質フィルタブロック5を異方向フィルタパターン5Bとした場合には、図8に示すように上流側の多孔質シート50の谷部52に向かって突き進み、上述のごとく谷部52で風圧を最大圧とした複雑な旋回流を生起する。
かかる乾燥空気G1が、上流側の多孔質シート50の谷部52とこれに当接対峙する下流側の多孔質シート50’の山部51’を通過する際に、両シートに浸潤した液体状の水を風圧により物理的且つ強制的にシート外へと吹き出す。
具体的には、多孔質シート50、50’の谷部52と山部51’における無数の微細孔に担持された液体状の水が、乾燥空気G1に置換されて微細孔の粒径を可及的保持したままシート外側の下流へと押し出され、シートを通過する乾燥空気G1とともに液体状の無数の水滴飛沫が生成される。
換言すれば、異方向フィルタパターン5Bにおける乾燥空気G1は、対峙した上流側の谷部52と下流側の山部51’を介しての多孔質フィルタブロック5を即座に通過することなるため、風圧によりシートから引き出した液体状の水を気化するだけの接触機会が得られずにそのまま水の飛沫、すなわちミストを含有したミスト含有空気G4となる。なおミスト含有空気G4の相対湿度は湿り空気G2と略同じ約70~80%である。
このように、多孔質フィルタブロック5の異方向フィルタパターン5Bでは、上流側から下流側にかけて流通する乾燥空気G1を風圧により即座に通過させるとともに浸潤された液体状の水を流通方向に飛散させるミストを生成し、相対湿度70~80%のミスト含有空気G4を生成することができる。
[3.ドレン循環装置の構成]
次に、散水機構6の散水として使用する集水ドレンを生成するためのドレン循環装置7の構成について、図面を参照しながら説明する。図12はドレン循環装置の構成を示す外観斜視図、図13はドレン循環装置の内部構成を示す模式的斜視図である。
飽和水蒸気発生室2に吸収した多孔質フィルタブロック5に散水するための散水機構6は、農産物保管室1の内外側のいずれかに別途配置したドレン循環装置7に連通連設している。なお、本実施例のドレン循環装置7は、図2に示すように保管室1の外側壁上部に付設している。
ドレン循環装置7は、冷却装置11の冷却稼働に伴い冷却装置11内部で生じるドレンを更に冷却して冷媒(冷却ドレン)に利用し、同冷媒により外気を冷却して外気中の水蒸気を凝結して得られた液体状の水分を集水ドレンW3として多孔質フィルタブロック5への散水に利用できるように構成したものである。
すなわち、ドレン循環装置7は、図13に示すように、ドレンケース70内に配設したドレンパイプ71と、ドレンパイプ71に外気を送風するための外気送風機構72と、ドレンパイプ71内へ農産物保管室1の冷却に用いる冷却装置11からの冷却ドレンR1(図13中、一点鎖線で示す。)を流通させるためのドレン流通路73と、ドレンケース70の底部に配設すると共にドレンパイプ71の下方位置に配設し、ドレンパイプ71の外周で外気から生成した滴下ドレンW2を集水するためのドレン回収トレイ74と、ドレン回収トレイ74から飽和水蒸気発生室2内の多孔質フィルタブロック5の散水機構6へ集水ドレンW3を送水するためのドレン送水パイプ75と、より構成している。
ドレンケース70は、内部中空箱形あって、その内部には外気送風機構72が設けられている。
外気送風機構72は、図12及び図13に示すようにケース一側壁下部に設けられ、外気をケース70内へ取り込むための外気吸入口72aと、ケース一側壁上部に設けられ、取り込んだ外気をケース70外へ排出するための外気排出口72bと、ケース内の所定位置に設けられ、外気をドレンパイプ71に送風すると共に外気をケース内外に吸入排出するための送風機72cと、で構成している。
また、ドレンケース70内部の両側には、左右2つのドレン流通路73、73’が内側壁に沿って設けられている。
左右側ドレン流通路73、73’は、冷却装置11のドレン排出口から排出されたドレンを冷却ドレン生成部76により冷却して生成した冷却ドレンR1をドレンパイプ71内に流通循環させる流路である。なお、ドレン流通路73’の中途部には、図1及び図13に示すように冷却ドレンR1を還流させるための循環ポンプ77を介設している。
冷却ドレン生成部76により生成された冷却ドレンR1の温度は、外気送風機構72によりケース内に取り込まれる外気の温度よりも低い温度であればよく、例えば保管室1内の室温と略同じ約0~15℃である。
また、冷媒としての冷却ドレンR1には、飽和水蒸気発生室2の散水として直接使用できないような液体、例えばコンテナやトラック、船舶など鮮度保持装置Aが搭載設置される施設から排出される工業用排水や低温海水、或いはオイルや有機溶媒成分含有の汚染水などを使用することができる。
冷却ドレン生成部76は、図1及び図13に示すように冷却装置11とドレン循環装置7との間に連通配設されるドレン流通路73のうち飽和水蒸気発生室2内部に配置された部分とし、室内の冷却空気によりドレン流通路73内を流通する冷却装置11からのドレンを冷却可能としている。
冷却ドレン生成部76は、冷却装置11で生成排出されたドレンが外気温よりも低温にできる構成のものであれば特に限定されることはなく、他の実施例として冷却装置11内にドレン流通路73の一部を内通させた部分で構成したり、また、別途ドレン冷却用の冷却装置を冷却装置11とドレン循環装置7との間に連通配設されるドレン流通路73の中途部に介設して構成してもよい。
ドレン流通路73、73’は、図1及び図13に示すように始端でケース70外の冷却装置11のドレン排出口に連通接続すると共に終端でケース70内のドレンパイプ71始端に連通接続してドレンパイプ71に冷却ドレンR1を供給する冷媒供給用ドレン流通路73と、始端でドレンパイプ71終端に連通接続すると共に終端で冷媒供給用ドレン流通路73の中途部に連通接続して熱交換後のドレンR2(図13中、破線で示す。)を冷却ドレン生成部76へ回収する冷媒回収用ドレン流通路73’とで、冷却ドレンR1を循環可能に構成している。
ドレンパイプ71は、ケース70内部両側に配設した冷媒供給・回収用の2つのドレン流通路73、73’間で、上下方向に所定間隔を隔てて複数(本実施例では3つ)設けると共に各ドレン流通路73、73’に連通連設している。
すなわち、ドレンパイプ71は、図13に示すように各ドレン流通路73、73’の間で、各ケース70内空間上部に略水平状にして各ドレン流通路73、73’に連通連設している。
ドレンパイプ71は、両端部で2つのドレン流通路73、73’に連通し、冷却ドレンを流通するドレンパイプ本体71aと、ドレンパイプ本体71aの長手方向に沿って外嵌固定した円環状の複数のフィン71bと、で構成した、いわゆる蛇腹筒状のフィンチューブである。
なお、ドレンパイプ71は、熱伝導性の高い金属製であって例えば、鉄製、銅製、ステンレス製である。また、フィン71bは、円環の外周縁を尖鋭状に形成している。
また、ドレンケース70の底部に配設したドレン回収トレイ74は、図13に示すように上部開口箱型であって内部に貯水空間を形成しており、その一側壁には回収された集水ドレンを散水機構6に送水するためのドレン送水パイプ75が連通連設されている。
すなわち、ドレン送水パイプ75は、始端でドレン回収トレイ74に連通接続すると共に終端で散水機構6の貯水槽60に連通接続してドレン回収トレイ74と散水機構6の間に介設している。
かかる構成のドレン循環装置7は、以下のようにして集水ドレンW3を生成する。すなわち、ドレン循環装置7内の外気送風機構72により外気をドレンケース70内に順次取り込みつつ、ドレンパイプ71に同外気を送風する。
かかるドレンパイプ71内には、冷却装置11から排出されたドレンを冷却ドレン生成部76により外気温より低温(0~15℃)となるように冷却生成した冷却ドレンR1が流通している。
すなわち、ドレンパイプ71は、ドレンパイプ本体71a内に流通する冷却ドレンR1の吸熱反応により外気と可及的接触面積を拡大したフィン71bを冷却して外気と冷却フィン71bとの間で熱交換を行う。
この際、冷却フィン71b表面には、外気の水蒸気が急冷されて凝集した結露現象が生じる。すなわち、冷却ドレンパイプ71を介して外気をドレン化する。
そして、冷却ドレンパイプ71(フィン71b)表面に生成された結露が、図1に示すようにフィン71bに流下して集合してフィン71bの下方に落下する滴下ドレンW2となり、かかる滴下ドレンW2をドレン回収トレイ74にて集水して集水ドレンW3とする。
最終的に、ドレン回収トレイ74内に一定量の集水貯溜された集水ドレンW3をドレン送水パイプ75を介して散水機構6の貯水槽60に送水することにより、多孔質フィルタブロック5の散水に供することができる。
なお、冷却装置11のドレンを冷却ドレンR1として使用する場合には、該冷却ドレンR1を散水機構6からの多孔質フィルタブロック5への散水に使用することもできる。すなわち、冷媒回収用ドレン流通路73’中途部に第2のドレン送水パイプを設け、同第2のドレン送水パイプを介して冷媒回収用ドレン流通路73’と散水機構6を連通連設することもできる。
このようにドレン循環装置7により外気から得た集水ドレンW3を多孔質フィルタブロック5の散水に利用して散水機構6に供給される水源からの水を節水できる効果がある。
[4.急速加湿を可能とする構成]
次に、飽和水蒸気圧を高めて飽和水蒸気発生室2内を急速な加湿状態とするための構成について説明する。
鮮度保持装置Aは、飽和水蒸気発生室2内で散水機構6から多孔質フィルタブロック5へ散水される水の温度を、農産物保管室1内の温度よりも約10~45℃の高温度に維持することにより飽和水蒸気圧を高めて飽和水蒸気発生室2内を急速な加湿状態を可能に構成している。すなわち、鮮度保持装置Aは、図1及び図5に示すように飽和水蒸気発生室2内を急速な加湿状態にすることを可能とする急速加湿機構8を備えている。
急速加湿機構8は、図5に示すように貯水槽60と散水パイプ61とに連通連設して散水パイプ61に温水を供給するための温水供給パイプ80と、貯留水W1を加温して保管室1内の温度よりも約10~45℃高い温度の温水を生成するための温水生成用ヒータ81と、で構成している。
温水供給パイプ80は、図1及び図5に示すように始端を散水機構6の循環パイプ63の中途部に連通接続すると共に終端を散水機構6の散水パイプ61基端に連通接続している。
すなわち、温水供給パイプ80は、循環パイプ63を中途部で分岐させ、循環パイプ63と並走するように貯水槽60と散水パイプ61との間に介設している。
かかる循環パイプ63の分岐部分、すなわち温水供給パイプ80の始端には、貯水槽60の送水ポンプ62を介して送水される水の流路を循環パイプ63又は温水供給パイプ80のいずれか一方に送水切り替えするための切替弁82が配設されている。
温水生成用ヒータ81は、温水供給パイプ80の中途部に介設され、貯水槽60から送水される貯留水W1を加温して保管室1の室温0~15℃より約10~45℃高い温度、すなわち約10~60℃の温水を生成する。
温水生成用ヒータ81としては、例えば水温調節可能な電熱式ヒータを採用することができる。なお、温水生成用ヒータ81及び切替弁82は、図3(a)に示すようにケース正面32のスイッチ81aに接続して稼働・停止及び流路切替可能にしている。なお、本実施例の温水生成用ヒータ81は、貯水槽60内部に設置することとしてもよい。
かかる構成の急速加湿機構8により生成した温水を多孔質フィルタブロック5への散水に使用した場合には、飽和水蒸気発生室2内で飽和水蒸気を急速に生成する。
すなわち、切替弁82により散水機構6の貯水槽60からの貯留水W1の流路を循環パイプ63から温水供給パイプ80へ切替えると共に温水供給パイプ80の中途部の温水生成用ヒータ81により送水ポンプ62により順次引き上げられる貯留水W1を加温して約10~60℃の温水を生成する。
かかる温水は、散水パイプ61に送水されて多孔質フィルタブロック5の散水受け面へ散水されて多孔質フィルタブロック5に送風される低温の乾燥空気G1により蒸発作用を受ける。
すなわち、同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5の散水は、飽和水蒸気発生室2内の温度約0~15℃よりも約10~45℃高い約10~60℃の水温に保持されて蒸気圧が高い状態にあるために乾燥空気G1により可及的速やかに蒸発されて水蒸気含有空気G3が生成されることとなる。
なお、急速加湿機構8は、常時稼働させるものではなく、農産物保管室1内の加湿開始時や、開閉作業による農産物保管室1の水蒸気逸失時など、保管室1内部が低湿度状態となった場合に急速加湿を要する際に使用することが好ましい。
また、急速加湿機構8は、他の実施例として、温水生成用ヒータ81を中途部に備えた温水供給パイプ80を飽和水蒸気発生室2の水蒸気生成用ケース3外に設けると共に同温水供給パイプ80を介して散水機構6の貯水槽60とを連通連設して構成することもできる。
このように、装置の稼働初期や農産物の出し入れ作業に伴う飽和水蒸気逸失等、保管室1内部が低湿度雰囲気の場合に、保管室1の内部環境を飽和水蒸気発生室2により可及的速やかに飽和蒸気雰囲気へ回復維持することができ、農産物の乾燥劣化の防止を堅実とすることができる効果がある。
[5.3つの層流を生成可能とする構成]
次に、保管室1内での結露を可及的に抑えて農産物保管室の床面や壁面における結露現象を回避する構成について説明する。図14は飽和水蒸気発生室から農産物保管室へ流入される飽和水蒸気の形態を示す模式的側面図である。
鮮度保持装置Aは、飽和水蒸気発生室2で生成した飽和水蒸気を飽和水蒸気流通路から農産物保管室1に流入するに際して、農産物保管室1への飽和水蒸気の流入形態を上下の3層流とすると共に、中間層流CFは高湿度の上下層流UF、DFに比して低湿度とするように構成している。
すなわち、鮮度保持装置Aは、前述した飽和水蒸気発生室2内に配設した空気吸入機構4において、ケース他側面に形成した矩形窓状の空気排出孔42の中心に送風ファン43の回転軸を配置することより空気排出孔42の中央部に送風時に相対湿度を増した水蒸気含有空気G3の気流からなる上下層流UF、DFと同上下層流UF、DFよりも相対湿度を低くした気流からなる中間層流CFとを生成するように構成している。
具体的には、空気吸入機構4は、図14に示すように送風ファン43の回転軸C2を有する円柱状のハブ44の径断面積を矩形窓状の空気排出孔42の開口面積に対して約1/5~1/4となるように形成し、同ハブ44の回転軸C2を空気排出孔42の正面視における開口中心C1に配置すると共にハブ44後面を多孔質フィルタブロック5の前面に略面対向するように送風ファン43を配置し、空気排出孔42を送風ファン43で略閉塞するように構成している。
かかる構成の飽和水蒸気発生室2において、同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5を通過して生成された水蒸気含有空気G3は、空気吸入機構4の旋回により空気排出孔42から3流層を形成した気流で排出される。
すなわち、空気吸入機構4により空気排出孔42へ送風される際の水蒸気含有空気G3の気流は、空気吸入機構4のハブ44周囲近傍を通過する中央部気流とハブ44周廻りに支持したプロペラ45周囲近傍を通過する外周側気流とに分かれる。
また、空気吸入機構4のハブ44は、内蔵した駆動部44aの回転駆動により生じた熱によりその外周面が加熱される。なお、ハブ44外周面の発熱温度は約50~70℃である。
すなわち、ハブ44に沿って流れる水蒸気含有空気G3の中央部気流は、高温度状態のハブ44による加熱蒸発作用を受け、相対湿度を約90~100%から約50~80%まで低下させた中間層流CFとなって矩形窓状の空気排出孔42の中央部から排出される。
一方、ハブ44の径方向外方のプロペラ45周囲近傍を通過する外周側気流は、ハブ44による加熱蒸発作用を受けることなく、相対湿度約90~100%を維持した高湿度の上下層流UF、DFとなって矩形窓状の空気排出孔42の上下部から排出される。
このように、高湿度とした上下層流UF、DFにより、保管室1内を飽和蒸気雰囲気に常時維持して農産物の乾燥劣化を防止できる。また、上下層流UF、DFよりも低湿度とした中間層流CFにより、飽和水蒸気発生室2近傍の農産物保管室1の床面や壁面に付着した液体状の水分を蒸発させ、カビや雑菌の繁殖となる結露等の液体状の水分を保管室1内に常在させることなく農産物の腐敗劣化を防止することができる。
[6.鮮度保持装置の性能試験]
以下、鮮度保持装置の飽和水蒸気発生室による水蒸気含有空気の生成能試験について説明する。本試験は、相対湿度25%、3~5℃、約33m3容量の略密閉状態とした小型の農産物保管室内に飽和水蒸気発生室を1台設置し、飽和水蒸気発生室稼働後、保管室内部を相対湿度90%~100%の飽和蒸気雰囲気にするまでの相対湿度の経時的変化を湿度測定器により計測して行った。
農産物保管室と連通する飽和水蒸気発生室の実験区としては、多孔質フィルタブロックを並設内蔵した検証区A、多孔質フィルタブロックを有していない検証区B、を用いた。
検証区Bでは、送風ファンのみを稼働させ、散水パイプへの送水ポンプは停止状態とした。各検証区は、風速を一定とし、湿度測定器にて保管室内の相対湿度を装置稼働から1分ごとに測定した。その結果を表1に示す。
表1によれば、検証区Aは、同方向フィルタパターンで、装置稼働直後から保管室内の相対湿度が検証区Bに比べて有意に上昇をはじめた。保管室内の相対湿度は、装置稼働から約13分前後で約90%(表1中、破線で示す。)に達し、約20分前後で100%に至った。20分後は、その後も相対湿度を100%に維持していた。
水の消費量についてみると、毎時約310~330gが気化されていた。換言すれば、検証区Aは、3~5℃の環境下で加湿能力310~330g/hを有していることが分かった。
これらの結果から算出するに、飽和水蒸気発生室が、3~5℃環境下において、室内の乾燥空気を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気とするのに必要な水量は、例えば内容積1400~1500m3の大型の保管室1で約9000g~9400g、内容積500~700m3の中型の保管室1で約4000g~4400gである。
また、異方向フィルタパターンに切り替えた際には、霧状の微細水滴を含んだミスト含有空気が、風速1.5m/s~8.0m/sで飽和水蒸気発生室の空気排出孔から約0.1m~2.0m程度飛散することが確認された。飛散したミスト水滴の大きさは約0.1~1.0mmであった。
一方、検証区Bでは、相対湿度の上昇したものの、他の検証区に比べて有意に低い値であった。すなわち、検証区Bでは、相対湿度の上昇勾配は不安定であり、最高相対湿度は65%前後に留まった。
さらに、保管室の扉開放時に水蒸気含有空気が室外へ逃げて室内湿度が低下した場合における、検証区Aの湿度回復能の検証を行った。冷却装置を停止して室内温度を外気温と略同じ13~17℃となるまで保管室の搬入搬出用扉を開放した。次いで、保管室の搬入搬出用扉を閉めて検証区Aを稼働させ、相対湿度の経時的変化を湿度測定器により測定した。その結果を表2に示す。
表2によれば、扉開放をして室温13~17℃とし、扉閉塞後、検証区Aを稼働させた保管室内の相対湿度は100%の状態から緩やかに降下をはじめ約15分後に約90%前後となった。しかし、その後の相対湿度は、略一次直線的に上昇に転じ、扉閉塞から約17分後には95%に、約22分後には100%に達した。
水の消費量についてみると、毎時約2400~2500gが気化されていた。換言すれば、検証区Aは、13~17℃の環境下で加湿能力2400~2500g/hを有していることが分かった。
これらの結果から、飽和水蒸気発生室が、3~5℃環境下で、室内の乾燥空気を相対湿度90~100%の飽和雰囲気とするのに必要な水量は、例えば内容積1400~1500m3の大型の農産物保管室で約18300g~18700g、内容積500~700m3の中型の農産物保管室で約8000g~8400gである。
このように、本発明に係る鮮度保持装置によれば、飽和水蒸気発生室により農産物保管室内を短時間で相対湿度90%以上の水蒸気含有空気で満たして飽和蒸気雰囲気にすると共に同雰囲気を維持できることが示された。
以上説明してきたように、本発明によれば、農産物保管室に保管される農産物の種類に応じて飽和水蒸気発生室から気体状の水分と液体状の水分を適宜選択して付与することができ、農産物の個々の種類に適した保湿条件を実現して農産物の劣化要因を可及的抑制すると共に比較的長期間の保管状態であっても農産物の鮮度保持を実現することができる効果がある。