JP7092294B2 - 超薄膜から成る生体組織被覆用材料、及びそれで被覆された生体組織 - Google Patents
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Description
一方で、観察試料の作成(ソフト面)においては、観察したい生体組織をガラス基板に乗せ、乾燥を防ぐための緩衝液を滴下後、カバーガラスで覆うか、アガロースなどのヒドロゲルで包埋するのが常套手段(非特許文献3)である。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で作製できる超薄膜から成る生体組織被覆用材料の提供と、それで被覆された生体組織の提供を課題とする。
〔2〕前記撥水性樹脂がパーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーである、〔1〕に記載の材料。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の材料で被覆された生体組織。
〔4〕前記生体組織が透明化されている、〔3〕に記載の生体組織。
〔5〕〔4〕に記載の生体組織がヒドロゲルでさらに被覆された、生体組織包埋体。
〔6〕フレームに張られた、〔1〕又は〔2〕に記載の材料。
〔7〕〔1〕又は〔2〕に記載の材料と、基材とを含む、生体組織被覆キット。
〔8〕前記材料で被覆されていない生体組織をさらに含む、〔7〕に記載のキット。
〔9〕前記基材がガラス基板である、〔7〕又は〔8〕に記載のキット。
すなわち、本発明の超薄膜から成る生体組織被覆用材料は、観察すべき生体組織の乾燥による変化を抑え、また観察時の顕微鏡各部の動きにより生じる被観察対象である生体組織の位置ズレやブレを押さえることができるため、従来に比べ長時間且つ組織表面から深部に至るまで精度の良い観察を可能にする。また、該生体組織被覆用材料で被覆された生体組織は、生命現象の解明という先進生命研究の場での活用のみならず、病院等の医療機関で採取された生体組織を専門の検査・分析機関に運んだ上で観察・評価する場においても、採取時の状態を少なくとも24時間以上保持できるため、高精度の検査・分析が可能となり、該検査結果をもとに診断を下す医師のみならず、患者にとっても意義がある。
本明細書において「被覆」とは、超薄膜が生体組織の全体又はその一部を覆っていること指すものとする。
としない状態)の超薄膜であり、ナノ厚特有の高接着性を発現し、反応性官能基や接着剤を使用せずに物理吸着のみで種々の界面(ガラス・プラスチックス・生体組織等)に貼付できる。
本発明に係る超薄膜は、屈折率が1.32以上1.36以下である撥水性樹脂を含むものであり、これにより、被覆された生体組織の乾燥と観察時のぶれが防止できるとともに、生体組織をその深部に至るまで高精度、高解像度で観察できるようになる。
本発明に係る超薄膜における撥水性樹脂の含有量は、総量で、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
該樹脂の撥水性は水接触角により評価でき、例えば接触角計などを用いて常法に従って測定できる。該樹脂の撥水性は、接触角計を用いて測定した水接触角が、通常90°以上、好ましくは95°以上、より好ましくは100°以上であり、一方で、通常130°以下、好ましくは125°以下、より好ましくは120°以下である。
該樹脂は好ましくはパーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーであり、製品としては、AGC旭硝子株式会社製のCYTOP(登録商標)が流通している。
膜厚が20nm以上であることにより超薄膜のハンドリングがしやすく、一方で、200nm以下であることにより超薄膜の接着性が良化する。
膜厚は、膜形成時の条件より適宜調整することができる。例えば、撥水性樹脂を溶解する溶媒や撥水性樹脂の濃度、スピンコートにより膜を形成する場合の回転数や回転時間等の条件を調整することにより、適宜調整できる。撥水性樹脂を溶解する溶媒としては、例えば、パーフルオロトリブチルアミン(PFTBA)等が挙げられる。
膜厚は、公知の方法で測定することができ、特に制限されない。例えば、シリコンウェーハ上に製造した超薄膜の表面の一部をピンセットで削り、シリコンウェーハを露出させ、触針式段差計を用いて測定する方法が挙げられる。
例えば、まず、表面が平滑な基材上に犠牲層となる高分子膜を展開し、その上に、屈折率が1.32以上1.36以下である撥水性樹脂を含む層を展開する。
該基材の素材としては、例えば、シリコン、シリコンゴム、シリカ、ガラス、マイカ、グラファイトなどのカーボン材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、エラストマーなどの高分子材料、アパタイトなどのカルシウム化合物等が挙げられる。好ましい素材はシリコンであり、好ましい基材としてはシリコンウェーハである。いずれも市販の製
品を用いることができる。
犠牲層となる高分子膜の展開方法、その上への撥水性樹脂を含む層の展開方法に特に制限はなく、例えばスピンコート等の常法に従うことができる。また、膜厚は、膜形成時の条件より適宜調整することができる。例えば、濃度や、スピンコートにより膜を形成する場合の回転数や回転時間等の条件を調整することにより、適宜調整できる。
液状媒体としては、例えば、水性媒体が好ましく、水、蒸留水、塩を溶解させた水、界面活性剤を溶解させた水、緩衝液等が挙げられる。犠牲層がPVAである場合には、水、蒸留水が好ましい。
本発明に係る超薄膜がフレームに張られていれば、ピンセット等で前記フレームを掴むことができるため、該超薄膜に直接触れる必要がなくなり、該超薄膜を損傷等することなく、生体組織を被覆することができる。また、本発明に係る超薄膜は、フレームに縒れることなく張った状態でもよいし、縒れた状態でもよいが、縒れることなく張った状態が好ましい。
また、フレームは握り柄を備えることが好ましい。これにより、ピンセット等を用いることなく、前記握り柄を手で握って、生体組織を超薄膜で被覆することができるからである。
フレームの大きさは特に限定されないが、被覆する生体組織の大きさに基づいて適宜設定することができる。
フレームの素材は、それに張られる超薄膜の性質を変化させなければ特に限定されない。例えば金属やプラスチックなどが挙げられ、金属であれば、アルミニウム、鉄、銅、真鍮、ステンレスなどが挙げられる。
超薄膜で生体組織を被覆する方法は特に制限されないが、培地や緩衝液等に超薄膜を浮かべ、その上に生体組織を載置し、上方からカバーガラスやスライドガラス等で力を加えて、生体組織がカバーガラスとともに超薄膜に被覆されるようにして培地等に沈めると、超薄膜と生体組織との間に空気が入らないため好ましい。
また、生体組織が透明化されている場合、もし超薄膜による被覆をせずにヒドロゲルで被覆すると、ヒドロゲルが生体組織に浸透して生体組織は元の不透明な生体組織に戻ってしまう。しかし、生体組織からみて、超薄膜、ヒドロゲルの順に生体組織を被覆した場合には、超薄膜の存在により、ヒドロゲルやヒドロゲル内の液状媒体が生体組織に浸透しないため、生体組織は元の不透明な生体組織には戻らず、生体組織をその深部に至るまで高精度、高解像度で長時間観察することができるようになる。
生体組織をヒドロゲルでさらに被覆する方法は特に制限されない。例えば、超薄膜で被覆されていない生体組織をヒドロゲルで被覆(包埋)する常法と同様にして、超薄膜で被覆されている生体組織をヒドロゲルで被覆(包埋)する方法が挙げられる。具体的には、カバーガラスやスライドガラス等の上に超薄膜で被覆された生体組織を培養ディッシュ底面に載置し、生体組織中の細胞に影響を与えない温度のヒドロゲルで該生体組織をさらに被覆(包埋)する方法などが挙げられる。
また、本実施態様に係るキットは、前記超薄膜から成る生体組織被覆用材料で被覆されていない生体組織をさらに含んでもよい。
基材は、被覆前の生体組織と接触でき、該生体組織とともに前記超薄膜で被覆できるものであれば特に限定されない。例えば、ガラス基板、プラスチック基板等が挙げられる。
基材の形状、大きさは特に限定されず、被覆する生体組織の形状や大きさ、超薄膜の形状や大きさ等に基づいて適宜設定することができる。
図1に示すフローで超薄膜を製造した。尚、パーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーではなく、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA、Mw: 120 kDa、シグマ・アルドリッチ社製)を用いた場合を比較製造例とした。
まず、シリコン(SiO2)基板上にPVA水溶液(10 mg/mL、Mw: 22 kDa、関東化学社製)を、4000 rpmで20秒間スピンコートした。次に、10 mg/mL、20 mg/mL、40 mg/mL、60 mg/mL、又は90 mg/mLのパーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマー(AGC旭硝子株式会社製のCYTOP(登録商標))溶液(溶媒:パーフルオロトリブチルアミン(PFTBA)、AGC旭硝子株式会社製、CT-Solv.180)を同条件でスピンコートした。その後、基板ごと純水に浸漬させてPVA犠牲層を速やかに溶解し、基板の形状を維持した透明かつ平滑な超薄膜を取得した。
また、分光光度計にて超薄膜の透過率を測定したところ、紫外・可視領域(200~800 nm)において光の吸収はみられず(図4)、超薄膜が透明性を示すことが確認できた。
[実施例1]
図5に示すフローで、超薄膜で被覆された生体組織モデルを作製した。超薄膜の製造においては、パーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーの濃度(溶媒:PFTBA、AGC旭硝子株式会社製、CT-Solv.180)を10 mg/mL、20 mg/mL、40 mg/mL、60 mg/mL、又は90 mg/mLとし、4000 rpmで20秒間スピンコートして、製造例1と同様にした。
アルギン酸ナトリウム水溶液(20 mg/mL、関東化学社製)にブルーデキストラン(Mw: 2000 kDa、シグマ・アルドリッチ社製)を少量添加し、塩化カルシウム水溶液(20 mg/mL)を加えてゲル化させた(室温、12 h)。得られたヒドロゲルを円柱状(直径: 10 mm、厚さ: 5 mm)に切り出し、生体組織モデルとした。
製造した超薄膜を蒸留水に浮かべ、その上にアルギン酸からなるヒドロゲルを載置し、上方からカバーガラスで力を加えて、ヒドロゲルがカバーガラスとともに超薄膜に被覆されるようにして蒸留水に沈め、超薄膜で被覆された生体組織モデルを作製した。これを恒温恒湿下(室温、RH:40%)に静置し、電子天秤により経時的に重量変化を測定して水分保持率に換算し、乾燥防止効果を検討した。
アルギン酸からなるヒドロゲルを超薄膜で被覆しないこと以外は実施例1と同様にした。
パーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーの代わりに、濃度が60 mg/mL又は90 mg/mLであるポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にした。尚、溶媒には、クロロホルム(和光純薬工業株式会社製、035-02616)を用いた。
実施例1では、膜厚が大きくなるとともにゲルの乾燥を顕著に抑制でき、明らかな乾燥防止効果が見られた(図6の「CYTOP」のcontrol及び膜厚18 nmの場合以外)。被覆してから24時間後の画像が図7(ii)、(iii)、(iv)である。
比較例1-1では、水の蒸発に伴ってゲルは徐々に収縮し、10時間後には完全に乾燥した(図6の「CYTOP」のcontrol、図7(i))。
比較例1-2の透明性の高いPMMAからなる超薄膜(水接触角:68±1°)では、乾燥防止効果は確認できなかった(図6の「PMMA」)。
[実施例2-1]
透明化され、超薄膜で被覆された生体組織を作製した。超薄膜は実施例1と同様にして製造した。生体組織として、一部の神経細胞が黄色蛍光タンパク質(EYFP)で標識された遺伝子改変マウス(Thy1-YFP-H)(入手元:北海道大学電子化学研究所)の脳切片(厚さ:250 μm)を用い、透明化試薬としてScaleS(非特許文献2に従って調製)を用いて、マニュアルに従って透明化した。透明化した脳切片を実施例1と同様にして超薄膜で被覆し、顕微鏡観察した(図8)。また、共焦点顕微鏡観察(対物レンズ60倍、開口数1.49、油浸)では、脳切片の厚さを1 mm、z方向は1 μm間隔で40~44 μm、x方向とy方向は761×756 μm のタイリング撮影(4×4枚)を行った。この広範囲の視野の撮影に、従来と同様に約2時間程度を要した。共焦点顕微鏡像は図9である。
実施例2-1で製造した、透明化され、超薄膜で被覆された生体組織をさらにアガロースゲル(2.5 wt%、リン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解)で被覆し、顕微鏡観察した(図8)。共焦点顕微鏡像は図9である。
生体組織を透明化せず、超薄膜による被覆もしなかった脳切片を顕微鏡観察した(図8)。
実施例2-1と同様にして生体組織を透明化したが、超薄膜による被覆はしなかった脳切片を顕微鏡観察した(図8)。共焦点顕微鏡像は図9である。
実施例2-1と同様にして生体組織を透明化したが、超薄膜で被覆せずに、実施例2-2と同様にしてアガロースゲル(2.5 wt%)で被覆した脳切片を顕微鏡観察した(図8)。
比較例2-1では、可視光照射下、蛍光照射下でも不透明であった。
比較例2-2では、生体組織の透明性は維持されたが、2時間ほど経過すると生体組織が乾燥した。また、共焦点顕微鏡観察でも、x、y方向の画像撮影では焦点は合っているものの、z方向では神経細胞体や軸索が伸びきった不鮮明なアーティファクトが見られた。これは、撮影の間に、脳切片が乾燥してしまったことに起因する。
比較例2-3では、生体組織は透明化されたが、アガロースで被覆する際、緩衝液が生体組織に浸透して元の不透明な生体組織に戻ってしまった。
実施例2-1では、生体組織の透明性は維持され、被覆してから2-3時間経過しても、生体組織は乾燥せずに観察が可能であった。また、共焦点顕微鏡観察でも、x、y、zすべての方向で鮮明な画像が取得できた。
実施例2-2でも、生体組織の透明性は維持され、実施例2-1よりもさらに長い、被覆してから少なくとも12時間を経過しても、生体組織は乾燥せずに観察が可能であった。
Claims (5)
- 屈折率が1.32以上1.36以下である撥水性樹脂を含む超薄膜から成る、フレームと該フレームの外周面に篏合する係合リングとの間に張られた生体組織被覆用材料。
- 前記撥水性樹脂がパーフルオロ(1‐ブテニルビニルエーテル)ポリマーである、請求項1に記載の材料。
- 請求項1又は2に記載の材料と、基材とを含む、生体組織被覆キット。
- 前記材料で被覆されていない生体組織をさらに含む、請求項3に記載のキット。
- 前記基材がガラス基板である、請求項3又は4に記載のキット。
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