JP7076093B2 - ストロンチウムを含む薄膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
(1)ストロンチウム及びシリコンの多結晶体を含有し、該多結晶体が立方晶SrSi2相を主に含有することを特徴とする薄膜。
(2)前記多結晶体が、前記立方晶SrSi2相に加えて、更に、三方晶SrSi2相を含有する上記(1)に記載の薄膜。
(3)前記立方晶SrSi2相(101)面のX線回折ピーク強度に対する、前記三方晶SrSi2相(210)面のX線回折ピーク強度の比が0.50以下である上記(1)又は(2)に記載の薄膜。
(4)前記多結晶体が、前記立方晶SrSi2相及び三方晶SrSi2相に加えて、更に、Si相を含有する上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の薄膜。
(5)前記立方晶SrSi2相(101)面のX線回折ピーク強度に対する、Si相(100)面のX線回折ピーク強度の比が0.2以下である上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の薄膜。
(6)300℃における10Ω・cm以下の電気抵抗率、20μV/K以上のゼーベック係数及び0.10×10-3W/mK2以上のパワーファクターを有する上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の薄膜。
(7)薄膜の表面粗さ(Ra)が、20nm以下である上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の薄膜。
(8)サファイア、無機ガラス、又はシリコンからなる基体上に成膜されている上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の薄膜。
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の薄膜の製造方法であり、珪化ストロンチウムをターゲットとするスパッタ法により基体上に成膜する薄膜の製造方法。
(10)珪化ストロンチウムが、含有酸素量が1.5wt%以下の珪化ストロンチウムバルク多結晶体である上記(9)に記載の薄膜の製造方法。
(11)基体温度を650℃~750℃とし、成膜におけるガス圧を10mtorr以上とする上記(9)又は(10)に記載の薄膜の製造方法。
(12)基体としてサファイア基板を用いる上記(9)~(11)のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
(13)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の薄膜を使用する熱電変換素子。
本発明の薄膜中のストロンチウム以外の例えば、カルシウム、バリウムなどアルカリ土類金属は、結晶の歪みが発生し、ゼーベック係数や電気伝導度が低下するとの理由で少ないことが好ましい。ストロンチウム以外のアルカリ土類金属の含有量は、ストロンチウム及びシリコンの合計量に対して10wt%未満であることが好ましく、5wt%以下がより好ましく、1wt%以下であることが更に好ましい。
本発明の薄膜は300℃の中温域におけるゼーベック係数の絶対値が80μV/K以上と高い性能を示す。
本発明の薄膜は、立方晶SrSi2相を有することが好ましく、これにより、薄膜がより極めて高い熱電特性を示す。より好ましくは、主相が立方晶SrSi2相となることである。
本発明の薄膜は、導電性を向上させることから三方晶SrSi2を有することが好ましい。これにより、薄膜がより低い電気抵抗率を示す。
薄膜の表面粗さ(Ra)は好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下であることが好ましい。表面が平坦であることで表層の面積が減少し、表層酸化を抑制することが可能となる。表面粗さ(Ra)は、JIS R 1683により測定される。
本発明の薄膜の製造方法は、スパッタ法を用いて成膜することが好ましい。薄膜の組成を調整する方法は特に限定しないが、各元素を別のスパッタリングターゲットとして準備し、共にスパッタする方法が挙げられる。又は、ベースとなるターゲット、例えば、シリコンターゲットの上にストロンチウム元素源の破片を設置し、スパッタすることでもよい。ストロンチウム元素、シリコン元素量の調整は、各元素を別のスパッタリングターゲットとして準備する場合は、例えば、スパッタ時の放電電力、スパッタ時のガス圧、ガス組成を調整することなどにより可能となる。各元素ターゲットの破片を使用する場合、破片の大きさ、数、設置位置などを選択することで調整することができる。
基体温度は900℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましい。過度に高温で処理すると立方晶から正方晶へ変化し、熱電特性が低下する傾向となる。立方晶と三方晶とを混在させるためには、基体温度は650℃~750℃が好ましく、680℃~740℃がより好ましい。そうすることで熱電特性の高い立方晶と電気伝導性の高い三方晶の混合した良好な熱電特性を有する結晶相となる。
成膜におけるガス圧は、10mtorr以上であることが好ましく、更に好ましくは20mtorr以上である。成膜ガス圧は、500mtorr以下が好ましく、更に好ましくは400mtorr以下である。この範囲とすることで、成膜時に安定的に放電を維持することが可能であり、粒子が基体に到達する際のエネルギーを適切に調整し、結晶性の良い膜を得ることが可能となる。
成膜に用いるガスは酸素の影響を抑制するために、水素を含有することが好ましい。水素を含有させることでスパッタリングターゲット中の酸素と反応させ、膜中の酸素を低減することが可能となる。
スパッタリングターゲットのバルク多結晶体は、密度が3.0g/cm3以上であることが好ましく、3.2g/cm3以上がさらに好ましい。これにより、バルク体中に開気孔が少なくなり、表面の酸化が進みにくくなる。ここで密度とは嵩密度であり、寸法計測による方法、アルキメデス法により計測できる。
バルク多結晶体は、斜方晶SrSiを主相として含むことが好ましい。これにより、多結晶体の強度がより高くなり、かつ、高い熱電特性を示す。ここで、斜方晶SrSi相が主相であることは、バルク体のXRDパターンにおいて、もっとも強いピーク強度を示す回折角を示す結晶相が斜方晶SrSi相であることを表す。
バルク多結晶体は、粒径45μm以上のSi粗粒を含まないことが好ましい。これにより、本発明の多結晶体へのSiの混入を抑制することでき、強度を向上することが可能となる。粗粒の存在は電子顕微鏡を用いた観察により確認することができる。
Si/SrSix=シリコン最大ピーク強度/珪化ストロンチウム最大ピーク強度
例えば、珪化ストロンチウムの主相が立方晶SrSi2相である場合、Si(100)に帰属されるピークと、珪化ストロンチウム立方晶SrSi2相(112)面とのピーク強度の比で表すことができる。
バルク多結晶体のSi/Sr原子量比は1.8以上2.4以下の範囲であることが好ましい。これにより、主相としてSrSi2相が存在しやすく、かつ、良好なSrSi2相を得ることが可能となる。
バルク多結晶体のSi/Sr原子量比は1.3以上1.8未満であることが好ましい。これにより、主相としてSr2Si3相が存在しやすく、かつ、良好なSr2Si3相を得ることが可能となる。
バルク多結晶体のSi/Sr原子量比は0.7以上1.3未満であることが好ましい。これにより、主相としてSrSi相が存在しやすく、かつ、良好なSrSi相を得ることが可能となる。
(合金化工程)
ストロンチウム源、珪素源を含む原料を合金化する工程である。合金化方法は特に限定されないが、極力酸素を含有させないような方法が好ましく、そのためには容器などに酸素を含有する機材をなるべく使用しない装置であるアーク溶解法が好ましい。アーク溶解法とは電極から放電させることで被処理物質を局所的に加熱し溶融する手法である。この方法は簡便に高温処理が可能となり、合金化処理方法として優れている。また、雰囲気制御もできるために、不活性ガス雰囲気中などで処理が可能であり、得られる合金の含有する酸素量をより低酸素量とすることが可能となる。
例えば、ストロンチウム源に金属ストロンチウム、珪素源にシリコンを用いた場合、ストロンチウムの融点が約780℃、沸点が約1400℃、シリコンの融点が約1400℃であることから、双方を均一に溶融するためにも、高速で昇温が可能であるアーク溶解炉は有効である。
珪素源はシリコンの単体金属、シリコン合金の少なくともいずれかであることが好ましく、特に好ましいシリコン合金として、珪化ストロンチウム合金を挙げることができる。
ここで、原料に珪化ストロンチウム合金を含む場合、当該珪化ストロンチウム合金はストロンチウム源、及び珪素源とすることもできる。
また、アーク溶解法を使用することで局所的に加熱を行うことにより、ストロンチウムと珪素の界面のみを優先的に加熱し、反応を促進することが可能となる。
平均粒径が10mmより大きくとなると、溶解時に未溶解や未反応のシリコンの残渣が残ることで珪化ストロンチウム合金体中に発生するシリコン粗粒によって割れが生じるため、珪化ストロンチウムバルク多結晶体を製造することが困難となる。また、平均粒径が小さいとアーク溶解法を使用する際に放電のエネルギーによりシリコン粉末が溶融する前に飛散し、また、表面張力により溶液中に浮遊してしまうため、安定的、かつ必要な組成比に溶解することが困難となるけ傾向があるため、シリコン粉末の平均粒径は0.1mm以上であるのが好ましい。
合金化工程で得られたストロンチウム合金を粉砕する工程である。得られる合金の酸素含有量を増加させないため、合金化工程から粉砕工程の間において、珪化ストロンチウム合金は、不活性ガス、又は乾燥ガスの雰囲気にて行うことが好ましく、粉砕も不活性ガス、乾燥ガス雰囲気にて行うことが好ましい。ドープ元素含有合金の粉末表面の酸化を防ぎ、酸素含有量を低く抑えることができるからである。粉砕は、乳鉢を使用する方法、ボールミルを使用する方法、ビーズミルを使用する方法を例示することができる。
珪化ストロンチウム合金の粉末を600℃~1100℃でホットプレス処理する工程である。この工程により、得られるバルク多結晶体がより均一となり、その熱電変換特性が安定したものとなる。ホットプレス法は粉末を加圧しながら温度を与えることで焼結を進める装置であり、加熱時に一軸加圧を行なうことで焼成時の被処理物内の元素の拡散を補助するため、拡散係数が低い元素を含有する場合、又は金属など粒子径が大きい粉末を処理する場合など、焼結しにくい材料でも焼結できる焼成法である。ホットプレス法により焼成を行なうことで密度が向上し、例えば、3.0g/cm3以上の高い密度を有する珪化ストロンチウム多結晶体を得ることが可能となる。
ホットプレス工程に供する珪化ストロンチウム合金の粒径(D50%、篩式粒度分布計)は、10μm~200μmが好ましく、更に好ましくは30μm~150μmである。そうすることで、粉末が微細となり、焼結性が向上することでバルク多結晶体の密度が向上する。ただし、10μm未満では粉末の酸化が進行しやすく、また、粉末充填時の密度が低下するため、低酸素、高密度の焼結体を得ることが困難となる。
ホットプレス処理における圧力は10MPa~100MPaが好ましい。これにより、多結晶体の密度をより向上させることができ、かつ、一般的に用いられるカーボン製の金型でも使用に耐えうるからである。
(結晶性の確認方法)
XRD装置(装置名:ブルカーAXS社 D8 Discover)を用いて20°~50°まで走査し、あおり角0°~90°の範囲で測定したデータを積分して得た回折図形についてピーク位置から含有される結晶相を同定した。
参考とした結晶相のJCPDSカードは、立方晶は00―020―1215であり、正方晶は00―031―1363である。また、三方晶は、Phys. Rev. B 84,184503(2011)を参考にして、点群P-3m1、164、a=3.89Å、c=5.01Åとし、(101)ピーク:31.35°、(102)ピーク:44.05°として同定した。
波長分散型蛍光X線分析装置(装置名:PANalytical社 PW2404)を用いて、元素分析を実施し、添加元素の含有率を計算した。
(膜の導電率の測定方法)
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)により室温から400℃まで加熱し各温度の膜導電率を測定した。
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)を用いて室温から400℃まで加熱した際のゼーベック係数の絶対値より判断した。正の値:p型、負の値:n型
(ゼーベック係数の測定方法)
ゼーベック係数測定装置(装置名:アルバック社 ZEM-3)を用いて室温から400℃まで加熱し各温度のゼーベック係数を算出した。
(結晶相の割合の測定方法)
EBSD(後方散乱電子回折)分析を用いて膜表面における結晶化している部分の各結晶相の面積比から算出した。
表1に示される、Si/Sr比、立方晶SrSi2相を有するバルク多結晶体からなるスパッタリングターゲット、成膜ガス圧、及び成膜を用いて、下記のスパッタリング条件にて、(0001)サファイア基板(京セラ社製5mm角、0.5mm厚み)上にスパッタ成膜試験を実施した。
(スパッタ条件)
放電方式 :RFスパッタ
成膜装置 :マグネトロンスパッタ装置
ターゲットサイズ :1.3inchφ珪化ストロンチウムターゲット
ターゲット―基板間距離:60mm
成膜圧力 :20mTorr
導入ガス :アルゴン100sccm
放電パワー :20W(2.3W/cm2)
実施例1において、成膜ガス圧、及び成膜温度を表1のように変更した以外はいずれも実施例1と同一の条件において、(0001)サファイア基板(京セラ社製5mm角、0.5mm厚み)上にスパッタ成膜試験を実施した。
実施例1の場合と同様に、得られた膜物性(Si/Sr比、膜厚、表面粗さ)を表2に示し、また、得られた膜に含まれる結晶相の種類、それらの含有比率、電気抵抗率(300℃での値)、ゼーベック係数(300℃での値)及びそこから導き出されるパワーファクターを表3に示す。また、実施例2における立方晶SrSi2の割合は99質量%であった。
なお、実施例1~4及び比較例1~5で得られた膜の金属不純物量はいずれも1wt%以下であった。また、比較例1、2については膜剥がれが生じていた。
Claims (11)
- ストロンチウム及びシリコンを含む多結晶体を含有し、
前記多結晶体が立方晶SrSi2相に加えて、三方晶SrSi 2 相を含有し、かつ前記立方晶SrSi 2 相(101)面のX線回折ピーク強度に対する、前記三方晶SrSi 2 相(210)面のX線回折ピーク強度の比が0.50以下であることを特徴とする薄膜。 - 前記多結晶体が、前記立方晶SrSi2相及び三方晶SrSi2相に加えて、更に、Si相を含有する、請求項1に記載の薄膜。
- 前記立方晶SrSi2相(101)面のX線回折ピーク強度に対する、Si相(100)面のX線回折ピーク強度の比が0.2以下である、請求項1又は2に記載の薄膜。
- 10Ω・cm以下の電気抵抗率、20μV/K以上のゼーベック係数、及び0.10×10-3W/mK2以上のパワーファクターを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の薄膜。
- 薄膜の表面粗さ(Ra)が、20nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の薄膜。
- サファイア、無機ガラス、又はシリコンからなる基体上に成膜されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の薄膜。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法であり、珪化ストロンチウムをターゲットとするスパッタ法により基体上に成膜する薄膜の製造方法。
- 珪化ストロンチウムが、含有酸素量が1.5wt%以下の珪化ストロンチウムバルク多結晶体である、請求項7に記載の薄膜の製造方法。
- 基体温度を650℃~750℃とし、成膜におけるガス圧を10mtorr以上とする、請求項7又は8に記載の薄膜の製造方法。
- 基体としてサファイア基板を用いる、請求項7~9のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の薄膜を使用する熱電変換素子。
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