JP7049569B2 - pH依存的に標的分子に結合するペプチドのスクリーニング方法 - Google Patents
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Hisを多く含む分子を作製すれば、pH依存性を獲得しやすいことが予想されるが、そうすると配列自体の多様性が大きく制限されるので、pH依存的結合分子の創出の可能性も制限される。また、HisのみによるpH依存性では、pHの変化による親和性の変化が十分ではない場合もある。
また、例えばがん細胞周辺は他の場所に比較して酸性度が高いなど、生体内にはpHが異なる領域が存在するため、pH依存的に標的分子に結合できるペプチドを得ることができれば、かかるペプチドを用いて特定領域をターゲティングすることができる。
そこで、本発明は、標的分子にpH依存的に結合する分子、及び、かかる分子を選択するためのスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
さらに、そのスクリーニング方法で得られたペプチドは、わずかなpHの違いで標的分子との結合についての解離定数が数十倍変化することを確認し、本発明を確認するに至った。
即ち、本発明は、
〔1〕標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法;
〔2〕標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法;
〔3〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、側鎖にpH6~8でプロトン化状態が変化する官能基を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法;
〔4〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下から選択される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法:
3位、又は3位および5位に、NO2、Cl、Br、I、SO2R(Rは、OH、NH2、又はArを表す。)
、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、又はC6F5を表す。)、CN、CF3、若しくはC6Fを有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO2、SO2R(Rは、OH、NH2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、又はC6F5を表す)、CN、CF3、若しくはC6F5を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、若しくは4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び 2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン又はそれらのN-置換体;
〔5〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下に示す群から選択される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法:
〔7〕がん細胞で発現しているタンパク質に特異的に結合するペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法において、前記標的分子を癌細胞で発現しているタンパク質とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、方法;
〔8〕ピノサイトーシス後リサイクルされるペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法において、前記標的分子をneonatal Fc receptor(FcRn)とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、方法;
〔9〕前記標的分子が抗原またはサイトカイン受容体である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法;
〔10〕以下のアミノ酸配列を含むペプチド、または、以下のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失したアミノ酸配列を含み、FcRnに結合するペプチド:
F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]L、
QSV[Nty]PDHWS[Pal]、
F[Nty]W[Nty]IWPKNY、
VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWD、
[Pal]NFGPLWSKLS[Nna]、及び
LKS[Nty]LSWVYKS
〔式中、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。〕
〔11〕以下のアミノ酸配列を含むペプチド、または、以下のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失したアミノ酸配列を含み、FcRnに結合するペプチド:
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化していてもよい。〕
〔12〕上記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載の方法で選択されたペプチド、又は〔10〕若しくは〔11〕に記載のペプチドと、医薬との複合体;
;及び
〔13〕上記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のスクリーニング方法を行うためのキット、
に関する。
例えば、標的分子をFcRnとすれば、得られたペプチドや当該ペプチドを含むコンジュゲートは、ピノサイトーシスによって細胞に取り込まれてもエキソサイトーシスによって再度血中に放出される可能性が高く、これにより血中半減期を延長することが可能である。
また、得られたペプチドや当該ペプチドを含むコンジュゲートを、生体内において周囲と異なるpHを示す組織や臓器等に特異的に送達させることも可能である。
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドを前記第2のpH条件で溶出し、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む。
例えば、標的分子をFcRnとする場合、第1のpHをエンドソーム内と同じ約5.5~6とし、第2のpHを血漿中と同じ約7.4としてもよい。また、癌細胞周辺で特異的に標的分子に結合するペプチドを同定する場合には、第1のpHを弱酸性(例えば、pH6.3~6.8)、第2のpHを弱アルカリ性(例えば、pH7.2~7.5)とするとよい。
そのほか、第1のpHを約4.0~6.5、第2のpHを約6.7~10.0とする組合せ、第1のpHを約6.7~10.0、第2のpHを約4.0~6.5とする組合せ、第1のpHを約5.5~6.5、第2のpHを約7.0~8.0とする組合せ、第1のpHを約7.0~8.0、第2のpHを約5.5~6.5とする組合せなどを用いることもできる。
本明細書においてアミノ酸は、慣用される1文字表記又は3文字表記で表される。1文字表記又は3文字表記で表されたアミノ酸は、それぞれその変異体、誘導体を含む場合もある。
また、本明細書においては、非蛋白質性アミノ酸、非天然アミノ酸、人工アミノ酸をまとめて「特殊アミノ酸」という。
かかるアミノ酸の非限定的な例としては、
3位、又は3位および5位に、NO2、Cl、Br、I、SO2R(Rは、OH、NH2、Ar等を表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、C6F5等を表す。)、CN、CF3、C6F等を有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO2、SO2R(Rは、OH、NH2、Ar等を表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、C6F5等を表す)、CN、CF3、C6F5等を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、又は4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び
2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン、又はそれら
のN-置換体等が挙げられる。
化合物(II):3-ニトロ-L-チロシン(Nty)
化合物(III):Nωニトロ-L-アルギニン(Nna)
化合物(IV):3-ピリジル-L-アラニン(Pal)
化合物(V):4-アミノ-L-フェニルアラニン(Aph)
これらのアミノ酸では、それぞれ丸で囲んだヒドロキシ基、アミノ基、窒素原子が、アニオン化またはプロトン化される結果、わずかなpHの変化で側鎖のチャージが変化する。
以下、遺伝暗号のリプログラミングについて説明する。
こうしたコドンとアンチコドンとの対応関係は、ほとんど普遍的に決定されており、64種類のコドンそれぞれに、20種類のアミノ酸のいずれか一つが割り当てられている。普遍遺伝暗号表を以下に示す。
すなわち、遺伝暗号のリプログラミングとは、任意のtRNAに所望のアミノ酸を結合させたアミノアシル化tRNAを用いることによって、コドンが上表に示したものとは異なるアミノ酸を指定できるようにすることを意味する。
遺伝暗号のリプログラミングを行って、無細胞翻訳系で発現させる場合、無細胞翻訳系の構成因子は目的に合わせて自由に選択することができる。例えば、翻訳系から特定のアミノ酸を除去すると、当該アミノ酸に対応するコドンが空きコドンになる。そこで、その空きコドンに相補的なアンチコドンを有するtRNAに所望のアミノ酸を連結し、これを加えて翻訳を行えば、当該アミノ酸がそのコドンでコードされることになり、除去したアミノ酸の代わりに当該所望のアミノ酸が導入されたペプチドが翻訳される。
フレキシザイムは、任意のtRNAに任意のアミノ酸またはヒドロキシ酸を連結(アシル化)することのできる人工RNA触媒(アシルtRNA合成酵素様活性を持つRNA触媒)である。例えば、以下の文献に記載されたものが公知である:H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), "A Versatile tRNA Aminoacylation Catalyst Based on RNA"Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662; H. Murakami, D. Kourouklis, and H. Suga, (2003), "Using a solid-phase ribozyme aminoacylation system to reprogram the genetic code" Chemistry & Biology, Vol. 10, 1077-1084; H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga
(2006) "The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359;N. Niwa, Y. Yamagishi, H. Murakami, H. Suga (2009) "A flexizyme that selectively charges amino acids activated by a water-friendly leaving group" Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 19, 3892-3894;及びWO2007/066627「多目的化アシル化触媒とその用途」)。
フレキシザイムは、原型のフレキシザイム(Fx)、及び、これから改変されたジニトロベンジルフレキシザイム(dFx)、エンハンスドフレキシザイム(eFx)、アミノフレキシザイム(aFx)等の呼称でも知られる。
フレキシザイムによれば、例えば、上述したpH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸をtRNAに連結することができる。
また、ペプチドライブラリーの各ペプチドに含まれるpH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸の数も特に限定されないが、例えば、2以上、3以上、5以上とすることができる。例えば、ペプチド全体のアミノ酸数の10%以上、20%以上、30%以上としてもよい。
ペプチドは環状化すると、プロテアーゼ耐性が向上したり、剛直性が増して膜透過性や標的タンパク質との親和性が向上したりする、と考えられている。例えば、ペプチドが2個以上のシステイン残基を含むよう設計すれば、翻訳された後、ジスルフィド結合により環状構造を形成できる。また、Gotoらの方法(Y. Goto, et al. ACS Chem. Biol. 3 120-129 (2008))の従い、遺伝暗号のリプログラミング技術により、N末端にクロロアセチル基を有するペプチドを合成し、ペプチド中にシステイン残基を配置しておくことによっても環状化できる。これにより、翻訳後に自発的にメルカプト基がクロロアセチル基に求核攻撃し、ペプチドがチオエーテル結合により環状化する。遺伝暗号のリプログラミング技術により、結合して環状を形成するその他のアミノ酸の組合せをペプチド内に配置して環状化してもよい。
これらの工程におけるpH以外の条件は、標的分子にあわせて当業者が適宜決定することができる。標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、結合しないペプチドを選択する工程は、pH以外の条件は同一とすることも好ましい。
この場合、標的分子に結合しないペプチドを選択する工程は、固相担体表面を第2のpH条件下で溶出し、第2のpH条件にすることによって、標的分子からはずれたものを同定することにより行うことができる。
溶出工程、及び溶出されたペプチドの同定等は、当業者が公知の方法に従って行うことができる。
標的分子とペプチドの結合の強さの定量は、タンパク質間相互作用を解析するあらゆる方法を用いて行うことができるが、例えば、結合の解離定数を求めてもよい。解離定数は、表面プラズモン共鳴を利用したBiacore(GE healthcare)やFACSにより求めることができる。
標的分子に結合するペプチドと結合しないペプチドを、例えば、標的分子との結合の解離定数が、2倍以上、10倍以上、20倍以上、または40倍以上異なるものとすることができる。
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む。
第1の態様と同じ用語は同義で用いられるので、説明を省略する。
次に、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを用いて、無細胞翻訳系により前記ペプチドを発現させることにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを製造することができる。3'末端にピューロマイシンが結合したmRNAを鋳型として無細胞翻訳反応を行うと、ピューロマイシンがリボソームのPサイトにあるペプチド鎖と結合し、ペプチド-mRNA複合体が形成されるのである。
NAディスプレイとしては、ほかに、CIS display(Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):2806-10)やCovalent Antibody Display(Nucleic Acids Res. 2005; 33(1): e10.)、SNAP Display(Methods Mol Biol. 2012;805:101-11.)等を用いることもできる。
当業者は、各ディスプレイ法に応じて、DNAとペプチドとの複合体を得ることができる。
この場合、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするDNAライブラリーを製造する際、ペプチドのコード領域の下流に、上記リンカーの一本鎖領域に相補的な領域を設ける。そして、かかるDNAライブラリーとを、リンカーの存在下、無細胞系で転写、翻訳すると、mRNAの3'末端にリンカーの一本鎖領域がハイブリダイズし、リンカーの他端のアミノ酸が翻訳産物のC末端アミノ酸に結合し、mRNA-リンカー-ペプチド複合体が形成される。
あるいは、標的分子にビオチンを結合しておき、ビオチン化標的分子とペプチド-核酸複合体ライブラリーを液相で接触させた後、ストレプトアビジン磁器ビーズを加えてビオチンとストレプトアビジンを結合させ、磁器ビーズを磁石で回収することによって行ってもよい。
核酸ライブラリーから、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する方法は、上述のとおり、各ディスプレイ法に応じて、当業者が適宜核酸を修飾し、必要なリンカーを調製して、無細胞翻訳系等で翻訳することにより行うことができる。
例えば、mRNAディスプレイの場合、まず、各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程を行う。より具体的には、選択されたペプチド-mRNA複合体群のmRNAを逆転写することによってcDNA群を得、このcDNA群を転写することによって再びmRNAライブラリーが得られる。そこで、各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させて、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造することができる。このピューロマイシン結合mRNAライブラリーを、無細胞系で翻訳することにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを得ることができる。
かかるペプチドを同定することにより、標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択することができる。
この場合、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを用いて、無細胞翻訳系により前記ペプチドを発現させ、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを製造する工程の後、逆転写酵素を用いて、上記DNA断片を伸長するようにmRNAの一本鎖部分に相補的なDNAを合成してもよい。これにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーのmRNAがDNAとのハイブリッドを形成し、より安定的に工程(a)を行うことができる。
例えば、標的分子ががん細胞にも正常細胞にも発現しているタンパク質である場合、第1のpHを弱酸性(例えば、pH6.3~6.8)、第2のpHを弱塩基(例えば、pH7.2~7.5)として得られたペプチドは、酸性度の高いがん細胞の周辺でのみ標的分子に結合することができ、正常細胞周辺では結合しない。したがって、かかるペプチドを抗がん剤に結合させておけば、抗がん剤をがん細胞周辺に選択的に送達させることが可能である。
したがって、本願発明の方法で、膜型抗原やサイトカイン受容体を標的分子として、pH依存的に膜型抗原やサイトカイン受容体と解離できるペプチドを得ることができれば、分解を回避できる可能性がある。
F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]L、
QSV[Nty]PDHWS[Pal]、
F[Nty]W[Nty]IWPKNY、
VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWD、
[Pal]NFGPLWSKLS[Nna]、及び
LKS[Nty]LSWVYKS
〔式中、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。〕
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化していてもよい。〕
また上記ペプチドのC末端は、OH、NH2、エステル等であってもよく、PEG、アルキル鎖、ピペリジン等が結合していてもよい。
本発明のポリペプチドには、ポリペプチドの塩も含まれる。ポリペプチドの塩としては、生理学的に許容される塩基や酸との塩が用いられ、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)の付加塩、有機酸(p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、カルボン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等)の付加塩、無機塩基(水酸化アンモニウム又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等)、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
また、本発明のポリペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、リン酸化、メチル化、アセチル化、アデニリル化、ADPリボシル化、糖鎖付加などの修飾が加えられたものであってもよい。他のペプチドやタンパク質と融合させたものであってもよい。
後述する実施例で示されるとおり、この環状ペプチドとFcRnとの結合に関する解離定数は、pH7.4とpH6.0では70倍近く異なった。
まず、下記の配列を有する二本鎖DNAを調製した(以下では、Forward鎖のみを5'→3'の順で記載する。)
TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATACAT(ATG)(NNK)1(NNK)2・・・(NNK)n(TGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(TAG)GACGGGGGGCGGAAA
(ORF領域は一つのコドンを一つの( )で括った。NはA、T、G、Cのいずれか一つを、KはT、Gのいずれか一つを、それぞれ表す。nは、4-12の9種類である。
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAU(AUG)(NNK)1(NNK)2・・・(NNK)n(UGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(UAG)GACGGGGGGCGGAAA
(NはA、U、G、Cのいずれか一つを、KはU、Gのいずれか一つを、それぞれ表す。)
以下の「ピューロマイシンリンカーとの連結」から「回収したペプチドの配列情報の増幅」までのサイクルを繰り返すことで、ランダムなペプチドライブラリーからFcRnに結合するペプチドを選択した。図1にRNAディスプレイの概念図を示す。
下記の配列で表されるピューロマイシンリンカーを上記のmRNAライブラリーとアニールさせ、T4 RNA ligase で連結した(SPC18はCとOの総数が18であるPEGを表す。Puはピューロマイシンを表す)。
pdCTCCCGCCCCCCGTCC(SPC18)5CC(Pu)
リンカーと連結されたmRNAを、図2に示される改変された遺伝暗号表の下で翻訳した。本実施例の場合には、通常の20種類のアミノ酸からメチオニン、アルギニンが除去された翻訳系を構築し、代わりに、
(i) tRNAfMet CAUにα-N-クロロアセチル-3-ニトロ-D-チロシン(ClAc-D-Nty)を連結したもの、
(ii) tRNAAsnE2 CAUに3-ニトロ-L-チロシン(Nty)を連結したもの、
(iii) tRNAAsnE2 CUAにω-N-ニトロ-L-アルギニン(Nna)を連結したもの、
(iv) tRNAAsnE2 ACGに3-ピリジル-L-アラニン(Pal)を連結したもの、及び
(v) tRNAAsnE2 CCGに4-アミノ-L-フェニルアラニン(Aph)を連結したもの
の5つを、フレキシザイムを用いて調製・添加して翻訳を行った。
翻訳によって、ランダム配列中に(i)から(v)の非タンパク質性アミノ酸を含み、チオエーテル結合で環状化したペプチドライブラリーが合成され、ペプチドのC末端にPuが結合することで、mRNAとペプチドが連結される。
NHS-ビオチンを用いて化学的にビオチン化したヒト可溶型FcRnに、調製した特殊環状ペプチドライブラリーを混合し、pH 6.0のMESバッファー中で、4℃で30分間撹拌した。さらにストレプトアビジン磁気ビーズを加えて4℃で5分間撹拌した。磁石を利用して上澄みを除去し、残った磁性粒子をpH 6.0のMESバッファーで洗浄した。
ビーズにPCR用の溶液を加えて95°Cで5分間加熱し、ペプチドをビーズからはがして上澄みを回収した。
FcRnに結合して回収されてきたペプチド-mRNAを、逆転写してcDNAとし、PCRによって増幅した。得られたDNAを転写してmRNAとした。なお、ラウンド2以降では、RNAアプタマーが選択されてくることを防ぐため、mRNAとペプチドの連結直後に逆転写を実施した。
上記の一連の操作を繰り返し、FcRnに特異的に結合する配列の濃縮を行った。
セレクションの結果を図3に示す。
mRNAディスプレイによるFcRn結合ペプチドの取得を行った結果、ラウンド6でFcRn依存的にcDNA回収率の増加が確認できた。そこで、再度ラウンド6を実施し、pH 6.0のMESバッファーで洗浄後のビーズに、pH 7.4のMESバッファーを加え、室温で20分間撹拌後、上澄みを回収した。継続して、ラウンド7も同様の溶出を行ったところ、cDNA回収率の増加が再度確認できた。
選択されたペプチドの配列のうち、もっとも出現頻度が高かった8D-01を用い、クローンでの結合能評価を前述のmRNAディスプレイを用いて評価した。FcRnとペプチド-mRNAの相互作用時には、pH 6.0もしくはpH 7.4のMESバッファーを用いた。ペプチド-mRNAの溶出は、ビーズにPCR用の溶液を加えて95°Cで5分間加熱し、ペプチドをビーズからはがして上澄みを回収した。
結果を図4に示す。pH 6.0のバッファーでFcRnと相互作用した場合、pH 7.4のバッファーと比べ、cDNAの回収率が圧倒的に高く、バッファーのpH依存的にcDNAの回収率が変化した。
ペプチド単独でも、pH依存的にFcRnと相互作用するかを確かめるため、8D-01のC末端側のSGSGSを持たず、C末端がアミド化されたペプチド2G01Dを固相上で合成し、Biacore T100 (GEヘルスケア社)を用いて、その解離定数Kd結合定数を測定した。FcRnはアミンカップリング法でセンサーチップに固定した。2G01Dを以下に示す。
結果を下表に示す。解離定数は、pH 6.0では4.3 nM、pH 7.4では290 nMとなり、pH依存的に約70倍、解離定数が変化した。
Claims (14)
- 標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするランダムな配列を有する核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ランダムな配列を有するペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法。 - 標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したランダムな配列を有するペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法。 - 標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを製造する方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするランダムな配列を有する核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ランダムな配列を有するペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法。 - 標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを製造する方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したランダムな配列を有するペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法。 - 前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、側鎖にpH6~8でプロトン化状態が変化する官能基を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法:
3位、又は3位および5位に、NO2、Cl、Br、I、SO2R(Rは、OH、NH2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、又はC6F5を表す。)、CN、CF3、若しくはC6F5を有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO2、SO2R(Rは、OH、NH2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、又はC6F5を表す)、CN、CF3、若しくはC6F5を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、若しくは4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び
2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン又はそれらのN-置換体。 - 前記ペプチドは、環状ペプチドである、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドが、がん細胞で発現しているタンパク質に特異的に結合するペプチドであって、
前記標的分子を癌細胞で発現しているタンパク質とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。 - 前記標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドが、ピノサイトーシス後リサイクルされるペプチドであって、
前記標的分子をneonatal Fc receptor(FcRn)とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。 - 前記標的分子が抗原またはサイトカイン受容体である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
- 以下のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド:
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化している。〕 - 以下のいずれかのアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を含み、弱酸性のpHにおいてFcRnに結合し、弱塩基性のpHにおいてFcRnに結合しないペプチド:
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化している。〕 - 請求項12又は13に記載のペプチドと、医薬との複合体。
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