図1及び図2に示すように、実施例1の半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12の上面12a及び下面12bに形成された電極、絶縁体等を備える。半導体基板12は、例えば、シリコンによって構成されている。半導体基板12は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が形成されているIGBT領域16と、ダイオードが形成されているダイオード領域18を有する。すなわち、半導体装置10は、いわゆるRC-IGBT(Reverse Conducting-IGBT)である。図1に示すように、IGBT領域16とダイオード領域18は、一方向に沿って交互に繰り返すように配置されている。
図2に示すように、半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ40が形成されている。各トレンチ40は、図2の紙面に対して垂直方向に互いに平行に伸びている。IGBT領域16とダイオード領域18のそれぞれに、複数のトレンチ40が形成されている。
IGBT領域16内の各トレンチ40の内面は、ゲート絶縁膜42に覆われている。IGBT領域16内の各トレンチ40内には、ゲート電極44が配置されている。ゲート電極44は、ゲート絶縁膜42によって半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極44の上面は、層間絶縁膜46に覆われている。
ダイオード領域18内のトレンチ40の内面は、絶縁膜52に覆われている。ダイオード領域18内の各トレンチ40内には、制御電極54が配置されている。制御電極54は、絶縁膜52によって半導体基板12から絶縁されている。制御電極54の上面は、層間絶縁膜56に覆われている。制御電極54の電位は、ゲート電極44の電位から独立して制御される。
半導体基板12の上面12aには、上部電極60が形成されている。上部電極60は、層間絶縁膜46によってゲート電極44から絶縁されており、層間絶縁膜56によって制御電極54から絶縁されている。半導体基板12の下面12bには、下部電極62が形成されている。
IGBT領域16の内部には、エミッタ領域20、上部ボディ領域22、IGBT中間領域24、下部ボディ領域26、ドリフト領域28及びコレクタ領域30が形成されている。
エミッタ領域20は、n型領域であり、半導体基板12の上面12aに露出している。エミッタ領域20は、上部電極60にオーミック接触している。エミッタ領域20は、ゲート絶縁膜42に接している。
上部ボディ領域22は、p型領域であり、エミッタ領域20の周囲に配置されている。上部ボディ領域22は、エミッタ領域20の下側でゲート絶縁膜42に接している。上部ボディ領域22は、ボディコンタクト領域22aと低濃度ボディ領域22bを有している。
ボディコンタクト領域22aは、高濃度のp型不純物を含有するp型領域である。ボディコンタクト領域22aは、半導体基板12の上面12aに露出している。ボディコンタクト領域22aは、上部電極60にオーミック接触している。ボディコンタクト領域22aは、エミッタ領域に隣接している。
低濃度ボディ領域22bは、ボディコンタクト領域22aよりもp型不純物濃度が低いp型領域である。低濃度ボディ領域22bは、エミッタ領域20とボディコンタクト領域22aの下側に形成されている。低濃度ボディ領域22bは、エミッタ領域20の下側でゲート絶縁膜42に接している。
IGBT中間領域24は、n型領域であり、上部ボディ領域22(すなわち、低濃度ボディ領域22b)の下側に形成されている。IGBT中間領域24は、上部ボディ領域22によってエミッタ領域20から分離されている。IGBT中間領域24は、上部ボディ領域22の下側でゲート絶縁膜42に接している。
下部ボディ領域26は、p型領域であり、IGBT中間領域24の下側に形成されている。下部ボディ領域26は、IGBT中間領域24によって上部ボディ領域22から分離されている。下部ボディ領域26は、IGBT中間領域24の下側でゲート絶縁膜42に接している。下部ボディ領域26は、低密度結晶欠陥範囲26aと高密度結晶欠陥範囲26bを有している。高密度結晶欠陥範囲26bの結晶欠陥密度は、低密度結晶欠陥範囲26aの結晶欠陥密度よりも高い。
高密度結晶欠陥範囲26bは、ゲート絶縁膜42に接する範囲に配置されている。低密度結晶欠陥範囲26aは、高密度結晶欠陥範囲26bに対してゲート絶縁膜42と反対側で接している。すなわち、低密度結晶欠陥範囲26aは、2つのトレンチ40の間で、2つの高密度結晶欠陥範囲26bに挟まれた位置に配置されている。
ドリフト領域28は、n型領域であり、下部ボディ領域26の下側に形成されている。ドリフト領域28は、下部ボディ領域26によってIGBT中間領域24から分離されている。ドリフト領域28は、低濃度ドリフト領域28aとバッファ領域28bを有している。
低濃度ドリフト領域28aは、エミッタ領域20よりも低濃度のn型不純物を含有するn型領域である。低濃度ドリフト領域28aは、下部ボディ領域26の下側に形成されている。低濃度ドリフト領域28aは、下部ボディ領域26によってIGBT中間領域24から分離されている。低濃度ドリフト領域28aは、下部ボディ領域26の下側において、トレンチ40の下端部近傍のゲート絶縁膜42と接している。
バッファ領域28bは、低濃度ドリフト領域28aよりも高濃度のn型不純物を含有するn型領域である。バッファ領域28bは、低濃度ドリフト領域28aの下側に形成されている。
コレクタ領域30は、高濃度のp型不純物を含有するp型領域である。コレクタ領域30は、ドリフト領域28(すなわち、バッファ領域28b)の下側に形成されている。コレクタ領域30は、ドリフト領域28によって下部ボディ領域26から分離されている。コレクタ領域30は、半導体基板12の下面12bに露出している。コレクタ領域30は、下部電極62にオーミック接触している。
IGBT領域16内には、エミッタ領域20、上部ボディ領域22、IGBT中間領域24、下部ボディ領域26、ドリフト領域28、コレクタ領域30及びゲート電極44等によって、上部電極60と下部電極62の間に接続されたIGBTが形成されている。半導体装置10がIGBTとして動作する場合には、上部電極60がエミッタ電極であり、下部電極62がコレクタ電極である。
ダイオード領域18の内部には、上部アノード領域32、ダイオード中間領域34、下部アノード領域36及びカソード領域38が形成されている。
上部アノード領域32は、p型領域であり、半導体基板12の上面12aに露出している。上部アノード領域32は、絶縁膜52に接している。上部アノード領域32は、アノードコンタクト領域32aと低濃度アノード領域32bを有している。
アノードコンタクト領域32aは、高濃度のp型不純物を含有するp型領域である。アノードコンタクト領域32aは、半導体基板12の上面12aに露出している。アノードコンタクト領域32aは、上部電極60にオーミック接触している。
低濃度アノード領域32bは、アノードコンタクト領域32aよりも低濃度のp型不純物を含有するp型領域である。低濃度アノード領域32bは、アノードコンタクト領域32aの下側の領域を含むアノードコンタクト領域32aの周囲の領域に形成されている。低濃度アノード領域32bは、絶縁膜52に接している。低濃度アノード領域32bの一部は、アノードコンタクト領域32aに隣接する位置で半導体基板12の上面12aに露出している。
ダイオード中間領域34は、n型領域であり、上部アノード領域32(すなわち、低濃度アノード領域32b)の下側に形成されている。ダイオード中間領域34は、上部アノード領域32の下側で絶縁膜52に接している。ダイオード中間領域34は、IGBT領域16内のIGBT中間領域24と略同じ深さに形成されている。
下部アノード領域36は、p型領域であり、ダイオード中間領域34の下側に形成されている。下部アノード領域36は、ダイオード中間領域34によって上部アノード領域32から分離されている。下部アノード領域36は、ダイオード中間領域34の下側で絶縁膜52に接している。下部アノード領域36は、IGBT領域16内の下部ボディ領域26と略同じ深さに形成されている。
カソード領域38は、ドリフト領域28と繋がっているn型領域である。カソード領域38は、下部アノード領域36の下側に形成されている。カソード領域38は、下部アノード領域36によってダイオード中間領域34から分離されている。カソード領域38は、半導体基板12の下面12bに露出している。カソード領域38は、下部電極62にオーミック接触している。カソード領域38は、低濃度ドリフト領域38aと、バッファ領域38bと、カソードコンタクト領域38cを有している。
低濃度ドリフト領域38aは、下部アノード領域36の下側に形成されている。低濃度ドリフト領域38aは、下部アノード領域36によってダイオード中間領域34から分離されている。低濃度ドリフト領域38aは、下部アノード領域36の下側において、トレンチ40の下端部近傍の絶縁膜52と接している。低濃度ドリフト領域38aは、IGBT領域16内の低濃度ドリフト領域28aと略同じn型不純物濃度を有している。低濃度ドリフト領域38aは、IGBT領域16内の低濃度ドリフト領域28aと繋がっている。
バッファ領域38bは、低濃度ドリフト領域38aの下側に形成されている。バッファ領域38bは、低濃度ドリフト領域38aよりも高濃度のn型不純物を含有するn型領域である。バッファ領域38bは、IGBT領域16内のバッファ領域28bと略同じn型不純物濃度を有している。バッファ領域38bは、IGBT領域16内のバッファ領域28bと繋がっている。
カソードコンタクト領域38cは、バッファ領域38bよりも高濃度のn型不純物を含有するn型領域である。カソードコンタクト領域38cは、バッファ領域38bの下側に形成されている。カソードコンタクト領域38cは、半導体基板12の下面に露出している。カソードコンタクト領域38cは、下部電極62にオーミック接触している。カソードコンタクト領域38cは、IGBT領域16内のコレクタ領域30に隣接している。
ダイオード領域18内には、上部アノード領域32、ダイオード中間領域34、下部アノード領域36及びカソード領域38等によって、上部電極60と下部電極62の間に接続されたダイオードが形成されている。半導体装置10がダイオードとして動作する場合には、上部電極60がアノード電極であり、下部電極62がカソード電極である。すなわち、ダイオードは、IGBTに対して逆並列に接続されている。
次に、半導体装置10の動作について説明する。まず、IGBTの動作について説明する。下部電極62が上部電極60よりも高電位となる電圧が印加された状態において、ゲート電極44の電位を上昇させる場合を考える。ゲート電極44の電位が上昇すると、ゲート絶縁膜42に隣接する範囲の上部ボディ領域22と下部ボディ領域26にチャネルが形成される。すると、電子が、上部電極60から、エミッタ領域20、上部ボディ領域22のチャネル、IGBT中間領域24、下部ボディ領域26のチャネル、ドリフト領域28及びコレクタ領域30を経由して下部電極62へ向かって流れる。また、正孔が、下部電極62から、コレクタ領域30、ドリフト領域28、下部ボディ領域26、IGBT中間領域24及び上部ボディ領域22を経由して上部電極60へ向かって流れる。このときに、コレクタ領域30から上部ボディ領域22へ向かう正孔の流れが、IGBT中間領域24によって抑制される。このため、IGBT中間領域24の下側に位置する下部ボディ領域26とドリフト領域28に正孔が蓄積される。このように、半導体装置10がオンする際には、ドリフト領域28内の正孔(すなわち、少数キャリア)の濃度が高くなることにより、ドリフト領域28の抵抗が低下し、半導体装置10で生じる損失が低減される。
ここで、図3を参照して、ネガティブキャパシタンス効果について説明する。図3は、比較例の半導体装置の構成を示しており、図2におけるIGBT領域16内のトレンチ40の近傍に対応する図である。図3に示すように、この半導体装置は、トレンチ140と、トレンチ140の内面を覆うゲート絶縁膜142と、トレンチ140内に配置されるゲート電極144を有している。また、半導体基板112が、エミッタ領域120と、上部ボディ領域122(ボディコンタクト領域122a及び低濃度ボディ領域122b)と、IGBT中間領域124と、下部ボディ領域126と、ドリフト領域128を有している。半導体基板112よりも上側の構成は、図示を省略している。この半導体装置では、本実施例の半導体装置10と異なり、IGBT中間領域124のn型不純物濃度が略一定である。また、本実施例の半導体装置10と比較して、ゲート絶縁膜近傍の下部ボディ領域126の結晶欠陥密度が低い。
比較例の半導体装置では、ゲート電極144の電位が上昇すると、下部電極(図示省略)から供給される正孔Hが下部ボディ領域126とドリフト領域128に蓄積する。このとき、ゲート絶縁膜142近傍に蓄積された正孔Hによって、ゲート電極144内に電子Eが引き寄せられる。このとき、正孔Hと電子Eによって容量Cnegが形成される。このとき形成される容量Cnegには、ゲート-エミッタ間の容量Cgeとは逆向きの電荷が蓄積されるため、見かけ上のゲート-エミッタ間の容量Cgeが低下する。このように、ゲート電極144内に誘起された電子によって、ゲート-エミッタ間の容量が低下する現象が、ネガティブキャパシタンス効果である。
比較例の半導体装置では、上記のネガティブキャパシタンス効果が生じると、図4の破線200で示すように、ゲート電極144を充電する過程でゲート電圧Vgが急峻に立ち上がる。その結果、図5の破線300で示すように、半導体装置に大きな電流Icが流れる。したがって、比較例の半導体装置では、スイッチング損失が増大する。また、ゲート電圧がゲート電極144の耐圧を超えてしまい、ゲートリーク電流が増大する場合がある。また、比較例の半導体装置とダイオード(不図示)とが直列に接続される場合(例えば、インバータ)には、半導体装置がオンするとき(すなわち、ダイオードがオンからオフに切り換わり、逆回復電流Iakが流れるとき)に、図6の破線400で示すように、当該ダイオードに大きなサージ電圧Vakが印加される。
一方、本実施例の半導体装置10では、下部ボディ領域26が、低密度結晶欠陥範囲26aと、低密度結晶欠陥範囲26aよりも結晶欠陥密度が高い高密度結晶欠陥範囲26bを有している。そして、高密度結晶欠陥範囲26bは、ゲート絶縁膜42に接する範囲に配置されている。結晶欠陥は、再結合中心として機能するため、結晶欠陥密度が高い高密度結晶欠陥範囲26bでは、キャリアのライフタイムが短い。このため、コレクタ領域30から下部ボディ領域26の高密度結晶欠陥範囲26bに流入した正孔は、短時間で消滅する。その結果、高密度結晶欠陥範囲26b(すなわち、ゲート絶縁膜42近傍の下部ボディ領域26)では、正孔が蓄積され難い。
以上に説明したように、高密度結晶欠陥範囲26bによって、高密度結晶欠陥範囲26bにおける正孔の蓄積が抑制される。したがって、この半導体装置10では、ネガティブキャパシタンス効果を抑制することができる。
この結果、図4の実線210で示すように、ゲート電極44の電位を上昇させる過程において、ネガティブキャパシタンス効果によるゲート電圧の急峻な立ち上がりを抑制することができる。このため、ゲート電極44を充電する際に、ゲート電圧が大きく変動することを抑制することができる。この結果、図5の実線310で示すように、半導体装置10に大きな電流が流れることを抑制することができる。さらに、半導体装置10とダイオード(不図示)とが直列に接続される場合(例えば、インバータ)には、半導体装置10がオンするとき(すなわち、ダイオードがオンからオフに切り換わり、逆回復電流Iakが流れるとき)に、図6の実線410で示すように、当該ダイオードに大きなサージ電圧Vakが印加されることを抑制することができる。したがって、この半導体装置10の信頼性を向上することができる。
その後、ゲート電極44の電位を低下させると、チャネルが消失し、IGBTがオフする。
次に、ダイオードの動作について説明する。ダイオードをオンさせる場合には、上部電極60が下部電極62よりも高電位となる電圧を印加する。すると、上部電極60からアノードコンタクト領域32a、低濃度アノード領域32b、ダイオード中間領域34、下部アノード領域36及びカソード領域38を経由して、下部電極62へ向かって電流が流れる。その後、下部電極62と上部電極60の間の電圧を逆電圧に切り換えると、ダイオードが逆回復動作を行う。すなわち、ダイオード領域18内の低濃度ドリフト領域38aに蓄積されている正孔が、下部アノード領域36、ダイオード中間領域34及び上部アノード領域32を経由して上部電極60へ排出される。これにより、ダイオードに逆回復電流が流れる。そして、低濃度ドリフト領域38aに蓄積されている正孔が排出されると、ダイオードがオフする。
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。まず、図7に示すように、従来公知の方法により、各トレンチ40、IGBT領域16、ダイオード領域18等を形成した、半導体基板12を準備する。次いで、図8に示すように、マスク80(例えば、シリコンマスク)を配置し、荷電粒子(例えば、ヘリウムイオン)を照射する。このとき、ゲート絶縁膜42近傍の下部ボディ領域26で荷電粒子が停止するように、荷電粒子の照射エネルギー及びマスク80の厚さを調整する。また、ゲート絶縁膜42近傍のみに荷電粒子が注入されるように、荷電粒子の照射範囲を調整する。すなわち、荷電粒子がゲート絶縁膜42近傍の下部ボディ領域26の各深さに停止するように、荷電粒子を複数回にわたって選択的に照射する。照射された荷電粒子が停止することによって、高密度の結晶欠陥(すなわち、高密度結晶欠陥範囲26b)が形成される。なお、下部ボディ領域26のうち、荷電粒子が照射されなかった範囲が低密度結晶欠陥範囲26aとなる。
その後、層間絶縁膜46、56、上部電極60、下部電極62等を形成することによって、図2に示す半導体装置10が完成する。
次に、図11を参照して、実施例3の半導体装置10bについて説明する。なお、実施例3の半導体装置10bの構成のうち、実施例1の半導体装置10と共通する構成については、説明を省略する。実施例3の半導体装置10bでは、図11に示すように、IGBT中間領域が、高濃度範囲24aと低濃度範囲24bを有している。低濃度範囲24b内のn型不純物濃度は、高濃度範囲24a内のn型不純物濃度よりも低い。
低濃度範囲24bは、ゲート絶縁膜42に接する範囲に配置されている。高濃度範囲24aは、低濃度範囲24bに対してゲート絶縁膜42と反対側で接している。すなわち、高濃度範囲24aは、2つのトレンチ40の間で、2つの低濃度範囲24bに挟まれた位置に配置されている。
本実施例の半導体装置10bでは、IGBT中間領域24が、高濃度範囲24aと、高濃度範囲24aよりもn型不純物濃度が低い低濃度範囲24bを有している。低濃度範囲24bは、ゲート絶縁膜42に接する範囲に配置されている。このため、ゲート絶縁膜42近傍においては、コレクタ領域30から上部ボディ領域22へ向かう正孔の流れが抑制され難い。したがって、この半導体装置10では、ゲート絶縁膜42近傍の下部ボディ領域26(すなわち、高密度結晶欠陥範囲26b)において、より正孔が蓄積され難い。このように、半導体装置10bでは、高密度結晶欠陥範囲26bと低濃度範囲24bによって、高密度結晶欠陥範囲26bにおける正孔の蓄積が抑制される。したがって、この半導体装置10bでは、ネガティブキャパシタンス効果をより抑制することができる。なお、本実施例のIGBT中間領域24の構成は、実施例2の半導体装置10aに用いてもよい。
なお、上述した各実施例において、IGBT領域16内の全てのトレンチ40の近傍に、高密度結晶欠陥範囲26b及びドリフト領域28の高密度結晶欠陥範囲28dが配置されていなくてもよい。すなわち、IGBT領域16内の一部のトレンチ40の近傍には、下部ボディ領域26の高密度結晶欠陥範囲26b及びドリフト領域28の高密度結晶欠陥範囲28dが配置されていなくてもよい。
また、上述した実施例2では、低密度結晶欠陥範囲28cは、高密度結晶欠陥範囲28dの周囲に配置されていればよく、低濃度ドリフト領域28a内の高密度結晶欠陥範囲28d以外の位置に結晶欠陥密度が高い範囲が設けられていてもよい。例えば、図12に示すように、低濃度ドリフト領域28a及び低濃度ドリフト領域38a内に、結晶欠陥密度が高いライフタイム制御領域50が形成されていてもよい。ライフタイム制御領域50は、低濃度ドリフト領域28aから低濃度ドリフト領域38aに跨って、半導体基板12の平面方向に層状に分布していてもよい。なお、ライフタイム制御領域50が形成される深さは、特に限定されない。また、ライフタイム制御領域50は、他の実施例の半導体装置に設けてもよい。
IGBTがオフするときには、IGBTがオンしているときにドリフト領域28内に存在していた正孔が、上部ボディ領域22を介して上部電極60へ排出される。これによって、ターンオフ時にIGBTにテール電流が流れる。テール電流が大きいと、IGBTのターンオフ損失が大きくなる。しかしながら、低濃度ドリフト領域28a内にライフタイム制御領域50が形成されていることにより、IGBTがオフするときに、ドリフト領域28内の正孔がライフタイム制御領域50内で再結合により消滅する。したがって、上記の構成によると、テール電流を小さくすることができる。このため、ターンオフ損失が小さい。
また、ダイオードをオンからオフに切り換えるときには、ダイオードが逆回復動作を行い、ダイオードに逆回復電流が流れるため、損失が発生する。しかしながら、ダイオード領域18内の低濃度ドリフト領域38aに結晶欠陥密度が高いライフタイム制御領域50が形成されていることにより、ダイオードが逆回復動作をするときに、低濃度ドリフト領域38a内の正孔の多くがライフタイム制御領域50内で再結合によって消滅する。このように、上記の構成によると、ダイオードの逆回復動作時における正孔の流れ(すなわち、逆回復電流)が抑制され、損失が低減される。
また、上述した実施例3では、IGBT中間領域24が、高濃度範囲24a及び低濃度範囲24bを有しており、高濃度範囲24aのn型不純物濃度が、低濃度範囲24bのn型不純物濃度よりも高い構成であった。しかしながら、IGBT中間領域24のn型不純物濃度は、ゲート絶縁膜42から離れるにつれて徐々に低くなっていてもよい。すなわち、IGBT中間領域24では、ゲート絶縁膜42に接する位置のn型不純物濃度が最も高く、2つのトレンチ40の中間位置におけるn型不純物濃度が最も低くてもよい。
また、上述した各実施例では、図1に示すように、IGBT領域16とダイオード領域18が一方向に沿って交互に繰り返すように配置されていたが、例えば、図13~図15に示すように、IGBT領域16とダイオード領域18が他の形状で配置されていてもよい。また、本明細書が開示する技術では、半導体装置は、ダイオード領域18を有していなくてもよい。
(対応関係)
IGBT中間領域24が、中間領域の一例である。低密度結晶欠陥範囲26aが、第1範囲の一例である。高密度結晶欠陥範囲26bが、第2範囲の一例である。高濃度範囲24aが、第3範囲の一例である。低濃度範囲24bが、第4範囲の一例である。低密度結晶欠陥範囲28cが、第5範囲の一例である。高密度結晶欠陥範囲28dが、第6範囲の一例である。
本明細書が開示する技術要素について、以下に列挙する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
本明細書が開示する一例の構成では、中間領域が、第3範囲と、第3範囲よりもn型不純物濃度が低い第4範囲を有していてもよい。第4範囲が、ゲート絶縁膜に接しており、第3範囲が、第4範囲に対してゲート絶縁膜と反対側で接していてもよい。
このような構成では、ゲート絶縁膜近傍においては、コレクタ領域から上部ボディ領域へ向かう正孔の流れが抑制され難い。したがって、ゲート絶縁膜近傍の下部ボディ領域において、より正孔が蓄積され難い。したがって、このような構成によれば、オンするときに、ネガティブキャパシタンス効果によるゲート電圧の変動が生じ難い。
本明細書が開示する一例の構成では、ドリフト領域が、第5範囲と、第5範囲よりも結晶欠陥密度が高い第6範囲を有していてもよい。第6範囲が、ゲート絶縁膜に接しており、第5範囲が、第6範囲の周囲に配置されていてもよい。
このような構成では、コレクタ領域からドリフト領域の第6範囲に流入した正孔は、短時間で消滅する。第6範囲は、ゲート絶縁膜に接する範囲に配置されているため、ゲート絶縁膜の下端部近傍のドリフト領域では、正孔が蓄積され難い。したがって、このような構成によれば、オンするときに、ネガティブキャパシタンス効果によるゲート電圧の変動が生じ難い。
本明細書が開示する一例の製造方法では、半導体基板に荷電粒子を注入することによって、第2範囲を形成する工程を備えていてもよい。また、半導体基板に荷電粒子を注入することによって、第6範囲を形成する工程を備えていてもよい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。