[第1の実施形態]
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
<立体造形システム>
本発明の一実施形態に係る立体造形システムについて図面を用いて説明する。図1は一実施形態に係る立体造形システムの外観図である。立体造形システム1は、立体造形装置50、及びコンピュータ10を備える。
コンピュータ10は、例えば、PC(Personal Computer)、又はタブレット等の汎用の情報処理装置、若しくは立体造形装置50専用の情報処理装置である。コンピュータ10は、立体造形装置50に内蔵されていても良い。コンピュータ10は立体造形装置50とケーブルで接続されても良い。また、コンピュータ10はインターネットやイントラネット等のネットワークを介して立体造形装置と通信するサーバ装置であっても良い。コンピュータ10は、上記の接続又は通信により、再現する造形物のデータを立体造形装置50へ送信する。
立体造形装置50は、インクジェット方式の造形装置である。立体造形装置50は、再現する造形物のデータに基づいて造形ステージ595上の媒体Pに液体の造形剤Iを吐出する造形ユニット570を備えている。更に、造形ユニット570は、媒体Pに吐出された造形剤Iに光を照射して硬化して、造形層Lを形成する硬化手段572を有する。更に、立体造形装置50は、造形剤Iを造形層L上に吐出して硬化する処理を繰り返すことで立体の造形物を得る。
造形剤Iは、立体造形装置50によって吐出可能であり、かつ形状安定性が得られ、硬化手段572の照射する光によって硬化する材料が用いられる。例えば、硬化手段572がUV(Ultra Violet)照射装置である場合、造形剤IとしてはUV硬化インクが用いられる。
媒体Pとしては、吐出された造形剤Iが定着する任意の材料が用いられる。媒体Pは、例えば、記録紙等の紙、キャンバス等の布、或いはシート等のプラスチックである。
<立体造形装置>
図2は、一実施形態に係る立体造形装置の平面図である。図3は、一実施形態に係る立体造形装置の側面図である。図4は、一実施形態に係る立体造形装置の正面図である。内部構造を表すため、図2において立体造形装置50の筐体の上面が、図3において筐体の側面が、図4において筐体の正面が記載されていない。
立体造形装置50の筐体の両側の側面590には、ガイド部材591が保持されている。ガイド部材591には、キャリッジ593が移動可能に保持されている。キャリッジ593は、モータによってプーリ及びベルトを介して図2,4の矢印X方向(以下、単に「X方向」という。Y、Zについても同様とする。)に往復搬送される。なお、X方向を、主走査方向と表す。
キャリッジ593には、造形ユニット570がモータによって図3,4のZ方向に移動可能に保持されている。造形ユニット570には、6種の造形剤のそれぞれを吐出する6つの液体吐出ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fがX方向に順に配置されている。以下、液体吐出ヘッドを単に「ヘッド」と表す。また、ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fのうち任意のヘッドをヘッド571と表す。ヘッド571は6つに限られず、造形剤Iの数に応じて1以上の任意の数、配置される。
立体造形装置50には、タンク装着部560が設けられている。タンク装着部560には、第1の造形剤、第2の造形剤、第3の造形剤、第4の造形剤、第5の造形剤、第6の造形剤の各々を収容した複数のタンク561が装着されている。各造形剤は、6つの供給チューブ562を介して各ヘッド571に供給される。各ヘッド571は、ノズル又はノズル列を有しており、タンク561から供給された造形剤を吐出する。一実施形態において、ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fは、ノズルから、それぞれ第1の造形剤、第2の造形剤、第3の造形剤、第4の造形剤、第5の造形剤、第6の造形剤を吐出する。
造形ユニット570における、6つのヘッド571の両側にはそれぞれ硬化手段572が配置されている。硬化手段572は、ヘッド571から媒体Pへ吐出された造形剤を硬化する。硬化手段572としては、造形剤Iを硬化させることが可能であれば特に限定されないが、紫外線(UV)照射ランプ、電子線照射ランプ等のランプが挙げられる。ランプの種類としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド等が挙げられる。超高圧水銀灯は点光源であるが、光学系と組み合わせて光利用効率を高くしたUVランプは、短波長領域の照射が可能である。メタルハライドは、波長領域が広いため有効である。メタルハライドには、造形剤に含まれる光開始剤の吸収スペクトルに応じてPb、Sn、Feなどの金属のハロゲン化物が用いられる。硬化手段572には、紫外線等の照射により発生するオゾンを除去する機構が具備されていることが好ましい。なお、硬化手段572の数は2つに限られず、例えば、造形ユニット570を往復させて造形するか等に応じて、任意の数設けられる。また、2つの硬化手段572のうち1つだけ稼働させても良い。
立体造形装置50においてX方向の一方側には、ヘッド571の維持回復を行うメンテナンス機構580が配置されている。メンテナンス機構580は、キャップ582、及びワイパ583を有する。キャップ582は、ヘッド571のノズル面(ノズルが形成された面)に密着する。この状態で、メンテナンス機構580がノズル内の造形剤Iを吸引することで、ノズルに詰まった高粘度化した造形剤Iが排出される。その後、ノズルのメニスカス形成のため、ノズル面をワイパ583でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構580は、造形剤Iの吐出が行われない場合に、ヘッド571のノズル面をキャップ582で覆い、造形剤Iが乾燥することを防止する。
造形ステージ595は、2つのガイド部材592に移動可能に保持されたスライダ部を有する。これにより、造形ステージ595は、モータによってプーリ及びベルトを介してX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復搬送される。
<造形剤>
本実施形態において、上記の第1の造形剤はキープレートとしてのブラックのUV硬化インク(K)、第2の造形剤はシアンのUV硬化インク(C)、第3の造形剤はマゼンタのUV硬化インク(M)、第4の造形剤はイエローのUV硬化インク(Y)、第5の造形剤はクリアのUV硬化インク(CL)、第6の造形剤はホワイトのUV硬化インク(W)である。なお、造形剤は6つに限られず、画像再現上、必要な色の種類に応じて1以上の任意の数であれば良い。なお、造形剤の数が7以上である場合、立体造形装置50に追加のヘッド571を設けても良く、造形剤の数が5以下である場合、いずれかのヘッド571を稼働させないか、設けなくても良い。
<制御部>
次に、図5を用いて立体造形装置50の制御に関するハードウェア構成について説明する。図5は立体造形装置50のハードウェア構成図である。
立体造形装置50は、立体造形装置50の処理、及び動作を制御するための制御部500を有する。制御部500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)504、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)505、I/F(Interface)506、I/O(Input/Output)507を有する。
CPU501は、立体造形装置50の処理、及び動作の全体を制御する。ROM502は、CPU501に立体造形動作を制御するためのプログラム、その他の固定データを格納する。RAM503は、再現する造形物のデータ等を一時格納する。CPU501、ROM502、及びRAM503によって、上記プログラムに従った処理を実行する主制御部500Aが構築される。
NVRAM504は、立体造形装置50の電源が遮断されている間もデータを保持する。ASIC505は、造形物のデータに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他、立体造形装置50全体を制御するための入出力信号を処理する。
I/F506は、外部のコンピュータ10に接続され、コンピュータ10との間でデータ及び信号を送受信する。コンピュータ10から送られてくるデータには、再現する造形物のデータが含まれる。I/F506は外部のコンピュータ10に直接接続されるのでなくインターネットやイントラネット等のネットワークに接続されても良い。
I/O507は、各種のセンサ525に接続され、センサ525から検知信号を入力する。また、制御部500には、立体造形装置50に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル524が接続されている。
更に、制御部500は、CPU501又はASIC505の命令によって動作するヘッド駆動部511、モータ駆動部512、及びメンテナンス駆動部513を有する。
ヘッド駆動部511は、造形ユニット570のヘッド571へ画像信号と駆動電圧を出力することにより、ヘッド571による造形剤Iの吐出を制御する。この場合、ヘッド駆動部511は、例えば、ヘッド571内で造形剤Iを貯留するサブタンクの負圧を形成する機構、及び押圧を制御する機構へ駆動電圧を出力する。なお、ヘッド571にも、基板が搭載されており、この基板で画像信号等により駆動電圧をマスクすることで駆動信号を生成しても良い。
モータ駆動部512は、造形ユニット570のキャリッジ593をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構596のモータへ駆動信号を出力することにより、モータを駆動する。また、モータ駆動部512は、造形ステージ595をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構597のモータへ駆動電圧を出力することにより、該モータを駆動する。更に、モータ駆動部512は、造形ユニット570をZ方向に移動させるZ方向走査機構598のモータへ駆動電圧を出力することにより、該モータを駆動する。
メンテナンス駆動部513は、メンテナンス機構580へ駆動信号を出力することにより、メンテナンス機構580を駆動する。
上記各部は、アドレスバスやデータバス等により相互に電気的に接続されている。
<硬化手段>
一実施形態に係る造形剤、すなわち硬化型組成物を硬化させる手段としては、加熱硬化または活性エネルギー線による硬化が挙げられ、これらの中でも活性エネルギー線による硬化が好ましい。
一実施形態に係る造形剤を硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、α線、β線、γ線、X線等の、組成物中の重合性成分の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されない。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。また、紫外線照射の場合、環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV-LED)及び紫外線レーザダイオード(UV-LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、紫外線光源として好ましい。
<重合開始剤>
一実施形態に係る造形剤は、重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤としては、活性エネルギー線のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物(モノマーやオリゴマー)の重合を開始させることが可能なものであればよい。このような重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤、塩基発生剤等を、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができ、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。また、重合開始剤は、十分な硬化速度を得るために、造形剤の総質量(100質量%)に対し、5~20質量%含まれることが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物などが挙げられる。
また、上記重合開始剤に加え、重合促進剤(増感剤)を併用することもできる。重合促進剤としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸-2-エチルヘキシル、N,N-ジメチルベンジルアミンおよび4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのアミン化合物が好ましく、その含有量は、使用する重合開始剤やその量に応じて適宜設定すればよい。
<色材>
一実施形態に係る造形剤は、色材を含有していてもよい。色材としては、一実施形態に係る造形剤の目的や要求特性に応じて、ブラック、ホワイト、マゼンタ、シアン、イエロー、グリーン、オレンジ、金や銀等の光沢色、などを付与する種々の顔料や染料を用いることができる。色材の含有量は、所望の色濃度や組成物中における分散性等を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されないが、組成物の総質量(100質量%)に対して、0.1~20質量%であることが好ましい。なお、一実施形態に係る造形剤は、色材を含まず無色透明であってもよく、その場合には、例えば、画像を保護するためのオーバーコート層として好適である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
また、顔料の分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。 分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散物を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。
染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<有機溶媒>
一実施形態に係る造形剤は、有機溶媒を含んでもよいが、可能であれば含まない方が好ましい。有機溶媒、特に揮発性の有機溶媒を含まない(VOC(Volatile Organic Compounds)フリー)造形剤であれば、当該造形剤を扱う場所の安全性がより高まり、環境汚染防止を図ることも可能となる。なお、「有機溶媒」とは、例えば、エーテル、ケトン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、トルエンなどの一般的な非反応性の有機溶媒を意味するものであり、反応性モノマーとは区別すべきものである。また、有機溶媒を「含まない」とは、実質的に含まないことを意味し、0.1質量%未満であることが好ましい。
<その他の成分>
一実施形態に係る造形剤は、必要に応じてその他の公知の成分を含んでもよい。その他成分としては、特に制限されないが、例えば、従来公知の、界面活性剤、重合禁止剤、レべリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、定着剤、粘度安定化剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤などが挙げられる。
<粘度>
一実施形態に係る造形剤の粘度は、用途や適用手段に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、当該造形剤をノズルから吐出させるような吐出手段を適用する場合には、20℃から65℃の範囲における粘度、望ましくは25℃における粘度が3~40mPa・sが好ましく、5~15mPa・sがより好ましく、6~12mPa・sが特に好ましい。また当該粘度範囲を、上記有機溶媒を含まずに満たしていることが特に好ましい。なお、上記粘度は、東機産業株式会社製コーンプレート型回転粘度計VISCOMETER TVE-22Lにより、コーンロータ(1°34'×R24)を使用し、回転数50rpm、恒温循環水の温度を20℃~65℃の範囲で適宜設定して測定することができる。循環水の温度調整にはVISCOMATE VM-150IIIを用いることができる。
<本実施形態の全体概要>
色彩の鮮やかさと精細さを併せ持つ美術品、特に絵画で、表面の凹凸を再現しながら複製したいとする要望がある。このような絵画等の複製には、現在ではシルクスクリーン印刷やジークレー(ジクレー)印刷が主流となっている。しかしいずれも平面の画像を陰影にて立体的に見せかける方法であり、オリジナルの絵画が持つ表面の凹凸を完全に再現している訳ではない。
上述したようなUV光等の活性エネルギー線硬化型の液体、すなわち造形剤Iを吐出して立体物を造形する立体造形装置であれば、色彩の表現だけでなく、造形剤Iにより形成した造形層Lの積層を繰り返すことで、オリジナルの表面凹凸まで忠実に再現する事が可能になる。
但し、この表面凹凸を"忠実に再現する"という部分において、活性エネルギー線硬化型の造形剤吐出方式も、まだ課題を抱えている。例えば、造形剤吐出ヘッドのノズル径は非常に微小なものであり、そこから安定して造形剤Iを吐出する為には、造形剤Iの粘度をかなり低くする必要がある。粘度を落とす為には、造形剤Iを加温する等の手段が用いられ、例えば水と同程度まで粘度を落とすことで、安定した吐出が可能となる。しかし低粘度の造形剤Iは、造形層Lに着弾すると、造形剤Iの濡れ性等に応じて濡れ広がり、高低差により低い方に"垂れ"落ちる場合がある。そのため、造形層Lの端部や立体物における傾斜が大きい部分で、造形剤Iの垂れによる形状誤差が発生する場合がある。
なお、活性エネルギー線は、以降では一例であるUV光として示す。
図6は、造形剤Iの垂れにより形状誤差が発生した立体物の一例を、概略的に説明する図である。(a)は、形状誤差が発生していない立体物を示し、(b)は造形剤Iの垂れにより形状誤差が発生した立体物を示している。
(a)では、記録台61の上に立体物62が造形されている。破線で示した立体データ63は、造形の元データとなる立体データを表している。造形層Lを積み重ねて立体物を造形するため、立体物62の勾配面は微小な段差を有する形状にはなっているが、(a)では天頂の尖った部分まで、立体データ63に沿った造形ができている。一方(b)は、記録台61の上に造形された立体物64の天頂部分の造形層Lが下方に崩れている。すなわち造形剤Iの垂れにより形状誤差が生じ、天頂の尖った部分の形状が造形できていない。
本実施形態では、積層される造形層Lの端部に、形状の変化を検知可能にするための標識となる標識造形剤Mを着弾させて標識図形Qを形成し、標識図形Qの特徴値に基づき、造形剤Iの垂れに起因する形状誤差、或いはその予兆を精度良く検知する。そして造形剤Iの垂れやその予兆があれば、造形剤Iを硬化させるUV光の強度等の造形条件を変更し、形状誤差が生じることを防止している。
なお、上記では標識図形Qを形成する箇所の例として、造形剤Iの垂れが比較的生じやすい造形層Lの端部を示し、以降でもそのように示す場合があるが、形成する箇所は必ずしもこれに限定されない。造形剤Iの垂れが発生する可能性がある箇所であれば、造形層Lにおける任意の箇所であってよい。
一実施形態に係る立体造形装置50の機能構成を、図7に示すブロック図を参照して説明する。
立体造形装置50は、標識図形形成箇所決定部700と、標識図形形成部701と、標識図形撮影部702と、特徴値抽出部703と、造形条件変更部704とを有している。
標識図形形成箇所決定部700は、積層される造形層Lの各層の端部で、標識図形Qを形成する箇所を決定する。
標識図形形成部701は、標識造形剤Mを用いて、標識図形Qを形成する。また、標識図形形成部701は、立体データ取得部705と、平面データ生成部706と、造形制御部707と、標識造形剤吐出部708と、標識造形剤硬化部709と、機構部710とを有している。
立体データ取得部705は、立体物を造形するための元データとなる立体データを取得する。立体データは、3Dスキャナーやステレオ撮影で取り込んだ立体複製データや、3次元CAD等で作成した人工データ、或いは2次元画像データに所定の法則で厚みを持たせた疑似立体データ等である。
平面データ生成部706は、立体データ取得部705により取得された立体データを多層に分割し、1層毎の平面データを生成する。生成した平面データに基づき、造形層Lが形成され、造形層Lが1層ずつ高さ方向に積層される。上述の標識図形形成箇所決定部700は、各層の平面データにおいて、標識図形Qを形成する箇所を決定する。
各層の平面データは、造形層において平面座標(XY座標)により規定される位置と、上下の造形層Lとの関係により、領域毎に、表面保護領域、着色領域、白下地領域、又は造形領域の何れかに分類される。そして領域毎に、分類に応じた造形剤Iにより造形層Lが形成される。
ここで着色領域とは、造形層Lの端部を起点に、立体物の内部に所定距離だけ入った位置までの領域、すなわち立体物の表面近傍に該当する領域をいう。表面保護領域は着色領域のさらに外側、すなわち表面側に形成され、立体物の表面を保護する領域である。上述した造形層Lの端部領域は、主にこれらの着色領域と表面保護領域に該当する。
白下地領域とは、着色領域の内側、すなわち造形層Lの端部とは反対方向にある領域で、絵画におけるキャンバス紙の白地の役割をなす領域である。造形領域とは、白下地領域のさらに内側にある領域である。なお、造形層Lの厚みは、必ずしも層毎で同じ厚みになるとは限らない。造形剤Iの発色特性に応じて、造形剤I毎に適正な厚みが異なるからである。
標識造形剤Mは、造形に用いられる造形剤Iと色等の見た目が異なる造形剤である。標識造形剤Mにより、標識図形Qが形成される。標識図形Qは、造形剤Iの垂れを検知するための標識として用いられる。図形の形状は任意でよく、円形、矩形、又は吐出して着弾した標識造形剤Mの1滴で形成されたドットであってもよい。
造形層Lにおいて造形剤Iの垂れが生じると、標識図形Qが移動、又は変形してその特徴値が変わるため、標識図形Qの特徴値、又はその変化を抽出することで、造形剤Iの垂れを検知する。なお、標識造形剤Mも、積層造形に使用する造形剤Iと同様に、UV光硬化性の造形剤を用いてよい。
造形制御部707は、機構部710と、標識造形剤吐出部708と、標識造形剤硬化部709とを制御し、標識図形形成箇所決定部700により決定された箇所に、標識図形Qを形成する。また造形制御部707は、標識図形撮影部702を制御し、造形層Lの端部に形成された標識図形Qを撮影し、標識図形Qの像を取得する。
標識造形剤吐出部708は、標識造形剤Mの滴を吐出し、造形層Lの上に着弾させる。標識造形剤Mの着弾滴により標識図形Qが形成される。標識造形剤吐出部708は、例えば造形に用いられる造形剤Iを吐出するためのヘッド571と、ヘッド駆動部511等により実現される。ヘッド571は、通常、造形剤Iの色毎に設けられ、色毎のヘッド571は各色の造形剤Iを吐出するが、この場合は、標識造形剤Mを吐出するためのヘッド571が設けられることになる。
標識造形剤硬化部709は、造形層Lの上に着弾された標識造形剤MにUV光を照射して硬化させ、着弾滴により形成された標識図形Qを硬化させる。標識造形剤硬化部709は、例えば造形に用いられる造形剤Iを硬化させるための硬化手段572とその駆動部等により実現される。硬化手段572は、例えば活性エネルギー線を照射する線源であり、より具体的にはUV光を照射する光源である。
機構部710は、標識造形剤吐出部708、標識造形剤硬化部709、又は標識図形撮影部702等を移動させ、これらの位置を変化させる。機構部710は、例えば造形に用いられるX方向走査機構596と、Y方向走査機構597と、Z方向走査機構と、これらを駆動するためのモータ駆動部512等により実現される。
標識図形形成箇所決定部700と、立体データ取得部705と、平面データ生成部706と、造形制御部707は、例えばCPUがROMに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。但しこれに限定されず、CPUで行う制御処理の一部、又は全部を、電子回路等のハードウェアで実現してもよい。
なお標識図形形成部701は、立体造形装置50が有する「造形剤を用いて造形層を形成する造形層形成手段」を用いて実現可能である。従って、標識図形形成部701は、造形層形成手段であるとも言える。但し、このように限定はされず、造形層形成手段とは別の構成で、標識図形形成部701を実現することにしてもよい。
以降では、造形層形成手段と標識図形形成部701は同じ構成を用いて実現され、また造形制御部707は、上述したような標識造形剤Mにより標識図形を形成するための制御とともに、造形剤Iにより立体物を造形するための制御を行うこととして説明する。
標識図形撮影部702は、造形途中において、標識図形形成部701により造形層Lに形成された標識図形Qを撮影し、標識図形Qの画像データを取得する。標識図形撮影部702は、例えば撮像素子と撮影レンズとを有するカメラで実現される。
特徴値抽出部703は、標識図形Qの特徴値を抽出し、特徴値の変化に基づき、造形剤Iの垂れの発生、及び造形剤Iの垂れに起因した形状誤差の発生を検知する。
また特徴値抽出部703は、標識図形像特定部711を有している。標識図形像特定部711は、標識図形撮影部702により取得された画像データから標識図形Qの画像を特定する。
特徴値抽出部703は、標識図形像特定部711により特定された標識図形Qの画像に対し、画像処理等を実行することにより、標識図形Qの特徴値を抽出する。例えば標識図形Qを円形のドットとして形成した場合、特徴値は、円形のドットの重心位置等である。抽出された結果は造形条件変更部704に出力される。
造形条件変更部704は、標識図形Qの特徴値の変化に基づき、造形剤Iの垂れの発生、及び造形剤Iの垂れに起因した形状誤差の発生を検知する。造形剤Iの垂れ等が検知された場合に、造形剤Iを用いた立体物の造形条件を変更する。造形条件は、例えば、硬化手段572から照射されるUV光の強度、プレ硬化等の硬化条件、或いはヘッド571による造形剤Iの滴の着弾位置等である。プレ硬化とは、造形層Lの中で特定の箇所のみに硬化手段572からUV光を照射し、その箇所を先に硬化させることをいう。詳細は後述する。
変更された造形条件は、造形剤Iにより立体物を造形するための造形制御部707に出力される。造形制御部707は、立体物の造形において、入力された造形条件に応じて、ヘッド571、及び硬化手段572を制御する。
特徴値抽出部703と、標識図形像特定部711と、造形条件変更部704は、例えばCPUがROMに格納されたプログラムを読み出して実行すること等により実現される。但しこれに限定されず、CPUで行う制御処理の一部、又は全部を、電子回路等のハードウェアで実現してもよい。
次に、一実施形態に係る立体造形装置の造形処理を、図8のフローチャートを用いて説明する。
まずステップS1001において、立体データ取得部705は、造形対象の立体物の元データとなる立体データを取得し、平面データ生成部706に出力する。
続いてステップS1003において、平面データ生成部706は、取得した立体データから、造形層Lの形状を表す平面データを、積層する造形層Lの数だけ生成する。生成された平面データは、造形制御部707、及び標識図形形成箇所決定部700に出力される。
続いてステップS1005において、標識図形形成箇所決定部700は、生成した各層の平面データにおいて、標識図形Qを形成する箇所を決定する。
続いてステップS1007において、造形制御部707は、造形条件を初期状態にする。つまり、造形剤Iの垂れによる形状誤差を防止するための造形条件が、適用されない状態にする。具体的には例えば、造形制御部707は、ROMに記憶され、造形条件が記録されたデータファイルを読み出し、造形条件データをRAMに記憶する。造形制御部707は、RAMを参照しながら、所定の造形条件で造形制御処理を実行する。
続いてステップS1009において、立体造形が開始される。
続いてステップS1011において、造形制御部707は、ヘッド571等を制御し、入力された平面データに基づき、所定の造形条件で、1層分の造形層Lを形成する。
1層分の造形層Lの形成が終了したら、ステップS1013において、造形制御部707は、標識図形形成箇所決定部700による決定結果を参照し、この造形層が標識図形Qを形成する造形層であるかを判断する。
ステップS1013で、標識図形Qを形成する造形層であると判断した場合は、ステップS1017において、造形制御部707は、ヘッド571等を制御し、標識図形形成箇所決定部700が決定した箇所に、標識図形Qを形成する。
続いてステップS1019において、造形制御部707は、硬化手段572等を制御してUV光を照射し、造形層Lを硬化させる。
続いてステップS1021において、造形制御部707は、標識図形撮影部702を制御し、標識図形Qを撮影する。撮影された画像データは、特徴値抽出部703に出力される。特徴値抽出部703において、標識図形像特定部711は、入力された画像データから標識図形Qの像を特定する。特定された標識図形Qの像から、特徴値抽出部703は標識図形Qの特徴値を抽出する。抽出された特徴値は、造形条件変更部704に出力される。なお撮影した画像データは、撮影像の一例である。
続いてステップS1023において、造形条件変更部704は、入力された特徴値に基づき、造形剤Iの垂れ等の発生を判断する。
ステップS1023で、造形剤Iの垂れ等が発生したと判断された場合は、ステップS1025において、造形条件変更部704は、造形層における垂れ発生箇所の造形条件を変更する。ステップS1023で、造形剤Iの垂れが発生していないと判断した場合は、ステップS1027において、造形条件変更部704は、造形層における垂れ発生箇所の造形条件を初期化する。つまり、それまでに造形条件が変更されていない場合はそのまま造形条件を変更しない。またそれまでに造形条件が変更されている場合は造形条件を初期化して元に戻す。
続いて、ステップS1029において、造形制御部707は、全ての造形層Lの形成が了したかを判断する。
ステップS1029で、全ての造形層Lの形成が終了していないと判断された場合は、造形制御部707は、ステップS1011に戻り、ヘッド571等を制御して、次の造形層L、すなわち形成の終わった造形層の上に積み重ねる造形層を形成する。この場合、造形制御部707は、造形条件が変更された場合は、変更された造形条件で造形層を形成する。
ステップS1029で、全ての造形層Lの形成が終了したと判断された場合は、造形処理は終了する。
一方、ステップS1013で、標識図形を形成する造形層ではないと判断された場合は、ステップS1015において、造形制御部707は、硬化手段572等を制御してUV光を照射し、造形層Lを硬化させる。
続いて、ステップS1029において、造形制御部707は、全ての造形層Lの形成が終了したかを判断する。
ステップS1029で、全ての造形層Lの形成が終了していないと判断された場合は、造形制御部707は、ステップS1011に戻り、ヘッド571等を制御して、次の造形層L、すなわち形成の終わった造形層の上に積み重ねる造形層を形成する。
ステップS1029で、全ての造形層Lの形成が終了したと判断された場合は、造形処理は終了する。
なお、本実施形態で、造形条件を変更するのは、造形剤Iの垂れが発生した箇所のみの造形条件である。このようにする理由は、造形剤Iの垂れが発生していない箇所の造形条件を変更すると、例えば、UV光の強度を変更する場合に、後述するレベリングが不足し、造形された立体物の表面の光沢性や発色性が低下することがあるからである。また造形剤Iの滴の着弾位置を変更する場合に、造形剤Iの垂れが発生していない箇所では、寸法が小さくなることがあるからである。
以上の処理により、積層造形において、層の端部や立体物における傾斜が大きい部分での形状誤差を防止することができる。
以上、一実施形態に係る立体造形装置50の全体構成と、ハードウェア構成と、機能構成と、処理の流れとを説明した。以降では、本実施形態の詳細について説明する。
<本実施形態の詳細>
図9は、UV光硬化性の造形剤Iによる造形の一例として、絵画が造形される様子を示している。図9(a)では、造形ステージ595上に土台層902が形成され、土台層902の上に白色の造形剤Iにより白地層903が形成されている。白地層903は、絵画におけるキャンバス紙の白地の役割をなす。白地層903の上には、着色された造形剤Iにより着色層904が形成されている。着色層904は、着色された層であり、微小な凹凸を有する絵画に該当する部分である。着色層904のさらに上に、光沢を付与するための光沢層や、着色層904の表面を保護するための表面保護層を、透明な造形剤等を用いて形成してもよい。(b)は、(a)において点線901で囲った部分の拡大図である。下から順に土台層902、白地層903、及び着色層904が示されている。
次に、ヘッドから吐出され、着弾した造形剤Iの滴の挙動を、図10を参照して説明する。図10は、ヘッド571から吐出され、基材101に着弾した造形剤Iの滴が、基材101の表面上で濡れ広がる様子を示している。基材101は造形物の土台となる部材であり、非浸透性の材料でできている。非浸透性の材料であるため、着弾した造形剤Iの基材101への浸透は、無視できるものとする。
It0は基材101に着弾した直後の造形剤Iの滴を示しており、半球に近い形状をしている。UV光硬化性の造形剤Iは、硬化処理前は液体としての挙動を示すため、着弾した滴は表面の濡れ性により基材101上で徐々に広がっていく。基材101の表面の濡れ性と造形剤の表面張力とが釣り合うところで、濡れ広がりは停止する。
濡れ広がりが停止した後の造形剤Iの滴の形状は、造形剤Iと基材101の特性により異なる。半球に近い形状になる場合もあれば、かなり潰れて扁平な形状になる場合もある。但し、扁平な形状になる場合でも、際限なく広がるわけではない。
図10において、It11とIt12は、着弾後に時間が経過し、濡れ広がりが停止した後の造形剤Iの滴を示している。It11は単一の滴によるものである。
一方で、着弾した造形剤Iの滴が濡れ広がる先に、別の着弾滴があれば、瞬時に融合して、より大きな滴を形成する。It12は、複数の造形剤Iの滴が融合した結果のものである。基材101上に十分な量の造形剤Iの滴を着弾させれば、滴同士が融合することで、均一な厚さの造形剤Iの層、すなわち造形層Lを形成する事も可能である。なお、時間をかけて、均一な厚さで平滑な表面にする工程をレベリングと呼ぶ。
次に、積層造形の工程の概略と造形剤Iの垂れの様子を、図11を用いて説明する。図11は、積層造形途中の立体物の断面形状を示している。
(a)は、造形対象となる立体物の形状を表す立体データ63を示している。この立体データ63は、積層造形の元となるデータである。(a)において、111は、立体造形装置50の解像度を示している。ここで解像度とは、立体造形装置50により形成可能な画像の解像度であり、ヘッド571により吐出された造形剤Iの滴が形成するドットの密度である。本実施形態ではドット間の最小間隔を意味している。ドット間の最小間隔とは、隣接するドットとドットの中心間の距離である。112は、造形層Lの1層分の厚み、すなわち積層高さを示している。1層分の厚みは、システム構成により可変であるが、おおよそ数十μm~数百μm程度ある。積層造形においては、立体データ63に基づき、1層毎の平面データが生成され、平面データに応じて各造形層Lが形成されて積層される。
(b)は、1層目の平面データに応じて、1層目を造形するための造形剤Iの滴が解像度の間隔で着弾し、濡れ広がって1層目の平面が形成される様子を示している。白抜きの矢印は、滴が濡れ広がる方向を表している。
(c)は、(b)で形成した造形層Lを、硬化手段572によりUV光で照射する様子を示している。この工程により平面状の造形層Lは硬化する。硬化した層の上に、次の層を形成するための造形剤Iの滴を着弾させることが可能な状態になる。
(d)は、上記工程で1層目と2層目を造形し、3層目のために造形剤Iの滴を着弾させた状態を示している。2層目の上を着弾した滴が濡れ広がっている。ここで、破線の丸114で示した部分は、造形層Lの端部、すなわち立体物の表面付近に該当する部分である。表面が急な勾配を有する面等では、滴が濡れ広がる先が崖になり、滴が崖下の方向に流れる場合がある。これが造形剤Iの垂れであり、立体物に形状誤差を生じさせる原因となる。このような形状誤差は、積層工程を繰り返す事で累積され、勾配が急で、また積層の高さが高い形状ほど顕著になる。
次に、標識図形Qの一例を、図12を参照して説明する。図12は、造形途中の立体物に形成された標識図形Qの一例を示す斜視図である。造形途中の立体物121の上に、標識造形剤Mによる標識図形Qが形成されている。この場合の標識図形Qの形状は、点、すなわちドットである。また標識造形剤Mの色は黒色であり、造形に用いる造形剤Iの色の白色に対し、一目で分かる色にされている。上述したように、標識造形剤Mも、造形に用いられる造形剤Iと同じUV光硬化性の造形剤である。標識造形剤Mは、ヘッド571により吐出され、着弾後は硬化手段572からUV光が照射されて硬化する。
図12では、5角形の形状を有する造形層Lの5つの角に、それぞれ標識図形Qが形成されている。これにより、造形層Lの角で、造形剤Iの垂れが発生した場合は、標識図形Qの形状や重心位置、すなわち特徴値に変化が生じる。このような特徴値を抽出することで、造形剤Iの垂れを検知できる。なお、5角形の形状を有する造形層Lの端部の5つの角は、「標識図形を形成する箇所」の代表的な一例である。
ここで、複数の標識図形の相互の位置関係に関し、標識図形同士を近い箇所に形成すると、複数の標識図形が重なってしまい、特徴値を正確に抽出できなくなる。標識図形の重なりを防ぐため、造形層Lにおける標識図形と標識図形との間隔nは、立体造形装置50による解像度pに√2を乗じた長さより大きいこととしている。つまり、n>p√2としている。この間隔は、例えば隣接する標識図形Qの中心間の距離である。図中に示した距離122が、この間隔を例示している。
「立体造形装置50による解像度に√2を乗じた長さ」は、造形層Lの平面を完全に被覆できるドットの直径、すなわち着弾した造形剤Iによる滴の直径の理論値に基づき決められている。但し、形成する標識図形Qの数があまり増えると、各標識図形の特徴値を検出するための処理の負荷が増大する。そのため実用上は、「立体造形装置50による解像度に√2を乗じた長さ」の数倍だけの間隔を空けて標識図形Qを形成し、標識図形Qの数が増えすぎないようにすることが望ましい。
ところで、積層する造形層Lの全てに、必ずしも標識図形Qを形成しなくてもよい。例えば、これから形成する造形層の形状が、既に形成した下の造形層と変わらない場合は、形成する造形層に標識図形Qを形成しない。下の造形層に対して形状が変わる造形層のみに、標識図形を形成するようにしてもよい。これにより、標識図形Qの形成の負荷、及び標識図形Qの特徴値を抽出する処理の負荷等を抑制できる。また多くの造形層Lに標識図形Qを形成すると、造形が終了した立体物を積層方向と交差する方向から観察した場合に、標識図形Qが模様のように見えてしまう場合がある。各層の端部に形成された標識図形Qが積層方向に並ぶためである。
このような模様は、本来はあるべきでないノイズである。標識図形Qを形成する造形層Lの数を限定することで、このような模様が生じるのを防ぐことができる。例えば、標識図形Qを形成する造形層を、少なくとも1層以上空ければよい。言い換えると、標識図形Qを形成する造形層の層間隔mを、m>2とすればよい。なお層間隔は層数で表示されている。また、このような模様は、標識図形Qを形成する造形層の層間隔を2層以上にする他、各造形層Lで標識図形Qを形成する箇所を分散させることによっても、防止することができる。
次に、標識図形Qの特徴値を抽出する方法の一例を、図13を参照して説明する。
図13は、図12に示した5角形の形状を有する造形層Lを、積層方向から観察した様子を示している。但し、5角形のうちの1辺の付近のみが示されている。造形層Lの上で、5角形のうちの2つの角の付近それぞれに、円形状の黒色の標識図形Qが形成されている。白抜きの矢印で示した方向は崖の方向、すなわち造形剤の垂れが起こり易い方向である。
(a)は、標識造形剤Mを着弾させた直後の状態である。着弾直後であるため、この時点では、標識図形Qは円形状を維持している。
(b)は、着弾後にしばらく時間が経過した場合の標識図形Qaを示している。着弾直後の標識図形Qの円形状が崩れ、崖の方向に延びた楕円形状となっている。これは、造形剤Iが崖の方向に垂れていることを表している。
標識図形Qaの内部に示した白い丸131は、着弾直後の標識図形Qの重心を示している。一方、標識図形Qaの内部に示した白い四角形132は、着弾後にしばらく時間が経過した後の標識図形Qaの重心を示している。円形状の崩れに伴い、重心の位置がずれている。
標識図形撮影部702は標識図形Qaを撮影し、撮影した画像データを特徴値抽出部703に出力する。特徴値抽出部703は、入力された画像データを画像処理して、標識図形Qaの像の重心位置(X2、Y2)を抽出する。X2、及びY2は、それぞれ重心位置のX方向、Y方向における座標を表している。
特徴値抽出部703は、標識図形Qの重心位置(X1、Y1)と、標識図形Qaの像の重心位置(X2、Y2)を用い、以下の(2)式と(3)式から標識図形Qの重心位置ずれのベクトルの量m1と方向n1を算出する。
・・・・・(3)
例えば、重心位置ずれ量m1が、重心位置ずれ量の閾値以上で、かつ重心位置ずれ方向n1と崖の方向n0との差が閾値以下であれば、造形剤Iの垂れが発生したと判断する。なお、崖の方向とは、標識図形Qの重心から最短距離にある造形層Lの一端と標識図形Qの重心とを結ぶことで定められる方向を意味し、例えば(b)において、n0で示した方向である。
重心位置ずれ量と重心位置ずれ方向の閾値は、予め規定しておく。例えば、重心位置ずれ量の閾値は解像度の半分である。なお、解像度の半分という値は、立体造形装置50の装置設計の公差の設定において目安とされる値である。
重心位置ずれ方向を算出し、造形剤Iの垂れが発生したかの判断に用いることで、ヘッド571による吐出曲りや走査機構の誤差等に起因した標識図形Qの重心位置ずれと、造形剤Iの垂れに起因した標識図形Qの重心位置ずれを切り分けることができる。そして造形剤Iの垂れの検知精度を上げることができる。
一方、(c)は、直交2方向それぞれにおける標識図形Qの長さの変化を抽出し、造形剤Iの垂れを検知する方法を説明している。(c)は、(b)と同様に、着弾後にしばらく時間が経過した場合の標識図形Qbを示している。直交2方向それぞれにおける標識図形Qbの長さの変化の抽出は、例えば標識図形QbのX、Y方向それぞれの長さを用いて行う。
(c)において、Lx1、Ly1は、それぞれ着弾直後の標識図形QのX、Y方向の長さを示している。Lx2、Ly2は、それぞれ着弾後にしばらく時間が経過した場合の標識図形QbのX、Y方向の長さを示している。造形剤Iの垂れに伴い標識図形Qが変形することにより、標識図形のX、Y方向の長さが変化する。特徴値抽出部703は、次の(4)、(5)式により、長さ変化のベクトルの量p1と方向q1を算出する。
・・・・・(5)
例えば、量p1が、変化量の閾値以上で、かつ方向q1と崖の方向n0との差が、変化方向の閾値以下であれば、造形剤Iの垂れが発生したと判断する。変化量と変化方向の閾値は、予め規定しておく。
(c)の方法は、(b)に対して、標識図形Qが真円でなくてよく、サテライト滴等による画像ノイズの影響を受けにくいという利点がある。一方で、(c)の方法では、標識図形Qと標識図形Qbのそれぞれにおいて、X、Y方向の長さを検出する処理が必要になる。これに対し、(b)の方法では、着弾直後の標識図形Qの重心位置座標を予め記憶しておけば、標識図形Qaの重心位置座標のみを抽出すればよく、処理負荷が小さいという利点がある。
次に、標識図形撮影部702により標識図形Qを撮影するための構成の一例を、図14を用いて説明する。
図14は、標識図形Qを撮影するためのカメラ141を、立体造形装置50に組み込んだ場合の構成の一例を示している。カメラ141は、撮影レンズとエリアセンサとを有している。エリアセンサは、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)を用いた2次元撮像素子である。カメラ141は、標識図形撮影部の代表的な一例である。但し、これに限定されず、2次元画像、すなわち2次元の光強度データを取得できるのであれば、ラインスキャナーを1方向に走査して2次元画像を取得する構成や、フォトセンサーを直交2方向に走査して2次元画像を取得する構成等を用いてもよい。なお、ラインスキャナーは、例えば撮影レンズと1次元の撮像素子とを有する。またフォトセンサーは、例えば集光レンズとPD(Photo Diode)とを有する。
本実施形態の標識図形Qの撮影では、造形層Lが積層方向からカメラ141で撮影され、標識図形Qの撮影画像が取得される。
(a)は、ヘッド571の側方にカメラ141を取り付けた構成を示している。図の白抜き矢印の方向は、走査機構によるヘッド571の移動方向を示し、太い黒矢印の方向は、造形層Lの積層方向、すなわちヘッド571による造形剤Iの吐出方向を示している。
UV光硬化性の造形剤Iを用いた立体造形装置50は、双方向造形による生産性向上を狙い、ヘッド571の両側に硬化手段572が備えられることがあるが、その一方の硬化手段572をカメラ141に置き換えることで構成すればよい。なお、双方向造形とは、造形ユニット570を、例えば左右の両方向に移動させながら造形を行う造形方法である。
カメラ141による撮影は、標識図形Qが形成された後に行われ、得られた撮影画像から標識図形Qの変化が抽出される。
造形層Lにおいてカメラ141により撮影を行う箇所毎で、標識図形Qの重心の理想的な位置と崖の方向が予め把握され、撮影した標識図形Qの重心が理想的な位置からずれた量、及び方向が抽出される。すなわち標識図形Qの特徴値が抽出される。抽出結果に基づき、造形剤Iの垂れの発生有無が判断される。
図8、及び上記では、造形層Lを形成し、造形層Lを硬化させる前に、造形層Lの上に標識図形Qを形成して、造形層Lと標識図形Qを硬化させた後に、標識図形Qを撮影する例を示したが、これに限定されない。例えば、造形層Lを形成し、造形層Lを硬化させる前に、造形層Lの上に標識図形Qを形成して、標識図形Qを撮影した後に、造形層Lと標識図形Qを硬化させてもよい。また造形層Lを形成し、造形層Lを硬化させた後に、造形層Lの上に標識図形Qを形成し、標識図形Qを硬化させた後に標識図形Qを撮影してもよい。或いは、造形層Lを形成し、造形層Lを硬化させた後に、造形層Lの上に標識図形Qを形成し、標識図形Qを撮影した後に標識図形Qを硬化させてもよい。
(a)のように、ヘッド571の側方にカメラ141を設けることで、ヘッド571とカメラ141の相互の位置関係を維持したまま、両者を一体に移動させることができ、カメラ141の位置決めのための調整や処理を簡略化できるという効果が得られる。
(b)は、カメラ141が造形ユニット570に対し、独立して移動可能な構成の一例を示している。なお、造形ユニット570は、ヘッド571と、硬化手段572aと、硬化手段572bとを有している。硬化手段572aと硬化手段572bは、ヘッド571の両側に設けられている。図の白抜きの矢印は、造形ユニット570の移動方向を示し、太い黒矢印はカメラ141の移動方向を示している。造形ユニット570に対し、カメラ141を独立して移動させられるため、カメラ141による撮影位置を柔軟に変えて撮影することができる。
例えば、造形ユニット570は、造形層Lの形成のために移動するが、カメラ141は、造形層Lの端部に留まり、端部に形成された標識図形Qの撮影を行うといった処理が可能になる。またヘッド571の両側に硬化手段572を設けることができるため、双方向造形による生産性向上を図ることが可能という効果も得られる。
(c)は、標識図形撮影部702を、ラインスキャナー142で構成した一例を示している。ラインスキャナー142は造形ユニット570とは独立して移動可能である。
白抜き矢印で示した方向にラインスキャナー142を移動させる必要がないため、ラインスキャナー142の白抜き矢印方向への移動に伴う誤差の発生を防ぎ、また位置決めのための調整や処理を簡略化することができる。また(b)と同様に、ヘッド571の両側に硬化手段を設けることができ、双方向造形による生産性向上を図ることが可能である。
次に、標識造形剤Mについて、図15を用いて詳細に説明する。なお、上述したように、本実施形態では、標識造形剤Mに、造形に用いられる造形剤Iと同様にUV光硬化性を有する造形剤を用いている。標識造形剤Mとして、UV光硬化性を有さない造形剤等を用いてもよいが、その場合、造形層Lとの密着性を確保するための洗浄工程等、追加の工程が必要になる。
図15は、標識造形剤Mに、黒色に着色された造形剤を用いた場合を示している。黒色の造形剤は、立体物の着色領域に用いる黒色の造形剤Iと同じものであってよい。黒色の造形剤は、赤外線を可視化する赤外線カメラで観察した場合に、他の色の造形剤、特にシアン、マゼンタ、又はイエロー等の基本色の造形剤と容易に区別が可能である。
図15において、(a)は、立体物121における造形層Lの上に、シアン色の造形剤Ic、イエロー色の造形剤Iy、及びマゼンタ色の造形剤Imと、また黒色の標識造形剤Mkを着弾させ、通常のカメラ、すなわち可視光用のカラーカメラ、又はモノクロカメラで、造形層Lを撮影したときの撮影画像を示している。何れの色の造形剤Iも明確に観察されるため、標識造形剤Mにより形成した標識図形のみを区別して抽出するのは容易ではない。
(b)は、(a)と同様に各色の造形剤を着弾させた造形層Lを、赤外線カメラで撮影したときの撮影画像を示している。黒色は、他の色と比べ、赤外線の吸収量が大きいため、黒色の標識造形剤Mのみが、他の部分と比べて、より黒く撮像されている。従って黒色の標識造形剤Mにより形成した標識図形を、複雑な画像処理を行うことなく、簡単に特定することが可能になる。
造形層Lの端部には、表面層の着色のために、様々な色の造形剤が着弾するが、このような箇所でも容易に標識図形Qのみを他と区別して特定することができる。
また造形層Lの内部、すなわち表面から遠ざかる方向にある領域を形成する造形剤Iには、白色や薄い灰色や透明等の造形剤が用いられることが多いが、このような造形剤Iに対しても、黒色の標識造形剤Mによる標識図形Qは、容易に区別して特定される。
但し、造形層Lにおいて、黒色で着色したい箇所がある場合、この箇所は赤外線カメラを用いても黒色の標識造形剤Mにより形成した標識図形と同様に観察されてしまうため、標識図形Qのみを区別して特定することが難しくなる。そのため、本実施形態では、このような黒色で着色したい箇所には、黒色の造形剤Iを使用せず、シアン色と、イエロー色と、マゼンタ色の造形剤Iを着弾させ、3色を混色させる。これにより所謂コンポジットブラックとして、黒色の造形剤Iを用いずに黒色を表現する。黒色の造形剤Iを用いないため、赤外線カメラで観察したときに、黒色の標識造形剤Mによる黒と、造形剤Iによるコンポジットブラックの黒とを区別することが可能となる。
なお、標識図形Qとの区別が目的であるため、造形層Lにおける全ての黒色をコンポジットブラックで表現する必要はなく、標識図形Qと重なる箇所のみに適用すればよい。
また、標識造形剤Mの色に関し、上記では黒色の例を示したが、これに限られない。標識図形Qを形成する造形層Lの色に対して補色の関係にある色に着色された造形剤を用いてもよい。例えば赤色の造形層Lに対して、補色の関係にある緑色の標識造形剤Mを用いればよい。このようにすることで、造形層Lに対して標識造形剤Mを目立たせることができ、標識図形Qの特徴値の抽出がし易くなる。
さらに、標識造形剤Mの色を、標識図形Qを形成する造形層Lの色に対し、色相角度上で最も離れた色としてもよい。色相角度上で最も離れた色とは、例えば20色の色相環を、18度ずつ色を変えて作った場合、0度の位置にある色に対し、180度の位置にある色や、36度の位置にある色に対し、216度の位置にある色等、最も離れた位置にある関係の色をいう。標識図形Qを形成する造形層Lの色が、色相環において0度の位置にある色であれば、標識造形剤Mの色を、色相環において180度離れた位置にある色とすればよい。このようにすることで、造形層Lに対して標識造形剤Mを目立たせることができ、標識図形Qの特徴値の抽出がし易くなる。
次に、標識図形Qの特徴値に基づき、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合に、立体物の形状誤差が生じることを防止するために、造形条件を変更する方法の一例を、図16を参照して説明する。
図16は、硬化手段572からのUV光で造形層Lを硬化させるための条件を変更する例を示している。(a)と(b)とで2つの例を示している。(a)、及び(b)において、図の左側に一点鎖線で示した矢印は、時間の経過を表している。また白抜きの矢印は、ヘッド571と、硬化手段572とを有する造形ユニット570が移動する方向を示している。
図16において、硬化手段572を、572c~572kとして示したが、これは、造形ユニット570が白抜きの矢印の方向に移動することに伴い、硬化手段572の白抜きの矢印の方向おける位置が異なっていることを表している。また斜線のハッチングを施した硬化手段572d、及び572eは、UV光の照射を行っていない、すなわち硬化手段572が消灯していることを表している。一方、硬化手段572h、572j、及び572kでは、これらの図の下の黒の矢印を太く示したが、これは、強度の強いUV光を照射していることを表している。上記より他の硬化手段572c、572f、572g、及び572iは、強度が強くないUV光を照射していることを表している。
また造形剤の吐出された滴、及び着弾滴において、薄い灰色で示したものは未硬化の状態であることを示している。一方濃い灰色で示したものは、硬化した状態であることを示している。
(a)では、時間の経過に沿って上段、中段、及び下段に、3つのタイミングでの造形層の状態を示している。上段に示したタイミングでは、造形ユニット570は、白抜きの矢印の方向に移動しながら、積層方向で最も上にある造形層161の上に、造形剤Iの滴162を吐出している。造形ユニット570が通過した後の箇所には、着弾滴163が未硬化の状態で存在している。
ここで、造形層161が形成された後、造形層161の端部に標識図形Qが形成され、標識図形Qの特徴値に基づき、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合に、造形層161の上に造形剤Iを着弾させ、造形層を形成する場合を説明する。造形層161において、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所は、図において着弾滴163aが着弾している箇所である。
造形層161の上の造形層の形成において、着弾滴163aに対しては、着弾後、硬化手段572cは、着弾滴163aを硬化させるためにUV光を照射する。但し、この場合は完全に硬化させるまで照射は行わず、造形剤Iの垂れを抑制できる程度でのプレ硬化である。例えば、造形層Lを硬化させる場合のUV光の強度の半分程度である。164で示した範囲は、プレ硬化が行われる範囲を示している。
プレ硬化が終了したら、造形ユニット570は、白抜きの矢印の方向に移動し、次の箇所で造形剤Iの吐出を行う。造形層161の端部以外では、造形剤Iの垂れが発生したと判断されていないため、硬化手段572によるUV光の照射は行われない。すなわち、プレ硬化は行われない。165で示した範囲は、プレ硬化が行われない範囲を示している。
中段に示したタイミングでは、未硬化の状態にある着弾滴のレベリングが行われている様子を示している。下段に示したタイミングでは、造形層全体において、硬化手段572によりUV光の照射が行われ、造形層が硬化されている。この段階での硬化は、本来行われる硬化という意味での本硬化である。
以上説明したように、(a)では、造形層161において、造形剤Iの垂れが発生したと判断され、形状誤差が生じる可能性がある箇所では、その箇所のみに他に先立って硬化手段572からUV光を照射し、プレ硬化させる。一方で他の箇所には光を照射せず、未硬化の状態でレベリングが行われるようにする。レベリングが終わったタイミングで、層全体に、硬化手段572からUV光を照射して、層全体を硬化させる。プレ硬化させた箇所が堤防の役割をなすため、これにより、造形剤Iの垂れにより立体物の形状誤差が生じることを、防止することができる。
造形剤Iの垂れが発生したという判断は、特徴値抽出部703により抽出された標識図形Qの特徴値に基づき、造形条件変更部704が行っている。
立体造形装置50は、造形層161上で、通常は、造形剤Iを着弾させ、レベリングさせた後、UV光を照射して造形層を硬化させている。このような造形工程は「所定の造形条件」の一例である。
これに対し、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した場合は、造形条件を変更する。つまり造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所では、本硬化に対して強度を落としたUV光で、プレ硬化が行われるように造形工程、すなわち造形条件を変更する。このような変更は「造形条件の変更」の一例である。
一方で、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生していないと判断した場合は、造形条件を変更しない。或いは造形条件が変更されている場合は、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所の造形条件を元に戻す。つまり変更されていない状態に戻す。
次に(b)を説明する。(a)と同様の部分は説明を省略する。
(a)と同様に、造形層161において、着弾滴163aの箇所で、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合に、造形層161の上に造形剤Iを着弾させ、造形層を形成する場合を説明する。
造形層161の上の造形層の形成において、着弾滴163aに対しては、着弾後、硬化手段572hは、着弾滴163aを硬化させるためにUV光を照射する。この場合は、(a)と異なり、着弾滴163aを完全に硬化させる本硬化である。166で示した範囲は、局所的に本硬化が行われる範囲を示している。
局所的な本硬化が終了したら、造形ユニット570は、白抜きの矢印の方向に移動し、次の箇所で造形剤Iの吐出を行う。造形層161の端部では、硬化手段572により、造形剤Iを仮に硬化させる程度のプレ硬化を行う。プレ硬化は、本硬化より強度の低いUV光により行う。167で示した範囲は、プレ硬化が行われる範囲を示している。
中段に示したタイミングでは、プレ硬化の状態の着弾滴のレベリングが行われている。下段に示したタイミングでは、造形層全体において、硬化手段572によりUV光の照射が行われ、造形層の本硬化が行われている。
以上説明したように、(b)では、造形層161において、造形剤Iの垂れが発生したと判断され、形状誤差が生じる可能性がある箇所では、他の箇所に先立って硬化手段572からUV光を照射し、先に本硬化させている。一方で、他の箇所ではプレ硬化を行い、プレ硬化の状態でレベリングを行わせる。レベリングが終わったタイミングで、層全体に、硬化手段572からUV光を照射して、層全体を本硬化させる。硬化させた箇所が堤防の役割をなすため、これにより、造形剤Iの垂れにより立体物の形状誤差が生じることを、防止することができる。
(b)では、立体造形装置50は、造形層161上で、通常は、造形剤Iを着弾させ、UV光を照射して造形層をプレ硬化させた後、レベリングさせている。このような造形工程は「所定の造形条件」の一例である。
これに対し、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した場合は、造形条件を変更する。つまり造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所では、UV光が照射され、本硬化が行われるように造形工程、すなわち造形条件を変更する。このような変更は「造形条件の変更」の一例である。
一方で、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生していないと判断した場合は、造形条件を変更しない。或いは造形条件が変更されている場合は、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所の造形条件を元に戻す。つまり変更されていない状態に戻す。
なお、本実施形態の造形方法は、立体造形装置で実行されるプログラムとして、立体造形装置に適用することが可能であり、またプログラムが実行する処理の一部、又は全部を実現可能な電子回路等のハードウェアとして、立体造形装置に適用することも可能である。
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態の立体造形装置の一例を、図17を参照して説明する。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第2の実施形態では、標識図形Qの形成のために、メタリック発色特性を有する色に着色された標識造形剤Mを用いることにしている。図17を参照して説明する。なお、メタリック発色特性を有する色は、以降では単にメタリック色と呼ぶ。
図17において、(a)は、立体物121における造形層Lの上に、シアン色の造形剤Ic、イエロー色の造形剤Iy、マゼンタ色の造形剤Im、及び黒色の造形剤Ikとメタリック色の標識造形剤Mmetを着弾させた様子を示している。
メタリック色の造形剤は、他の色の造形剤と比較して反射率が非常に高いという特性がある。そのため例えば、(b)に示したように、造形層Lに対して垂直に近い方向から光源171から撮影用の光を照明し、垂直に近い方向からカメラで観察すると、メタリック色の造形剤のみが他の造形剤と比較して明るく観察される。つまり照明光に対し、メタリック色の造形剤からの反射光は、正反射光の比率が大きいため明るく観察され、他の色の造形剤からの反射光は正反射光の比率が小さい、すなわち拡散反射光の比率が大きいため、暗く観察される。
従って、例えば明るさの閾値を設けることで、メタリック色の標識造形剤Mにより形成した標識図形Qを他と容易に区別して特定することが可能となる。
なお、メタリック色の標識造形剤Mを用いる場合は、標識図形Qの上に他の色の造形剤Iが着弾して、標識図形Qでの光の反射が阻害されることがないように、各造形層の造形において、メタリック色の標識造形剤Mは、最後に着弾させる、つまり他の色の造形剤Iの上に着弾させて、標識図形Qを作成する必要がある。
また撮影用の光は、白色光等、任意の波長の可視光であってよい。
さらに上記では、造形層Lに対して垂直に近い方向から撮影用の光を照明し、垂直に近い方向からカメラで観察する例を示したが、これに限られない。照明光に対するメタリック色の標識造形剤Mからの正反射光を受光できる方向からカメラで観察すればよい。例えば+45度の方向からメタリック色の標識造形剤Mに光を照明した場合は、-45度の方向からカメラで観察すればよい。
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態の立体造形装置の一例を、図18を参照して説明する。なお、第1~2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第3の実施形態では、標識図形Qの特徴値に基づき、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合に、立体物の形状誤差が生じることを防止するために、造形条件を変更する方法の一例として、造形剤Iによる着弾滴の位置を変更することにしている。図18を参照して説明する。
図18において、(a)は、造形層161の端部で、本来、造形剤Iの滴を着弾させる位置を示している。(b)は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した場合に、造形層161の端部で、立体造形装置50による解像度の半分に該当する距離だけ、滴の着弾位置をずらすことを示している。(c)は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した場合に、造形層161の端部で、着弾させる滴を1滴だけ間引くことを示している。
図18の(b)、及び(c)において、図の左側に一点鎖線で示した矢印は、時間の経過を表している。また白抜きの矢印は、ヘッド571と、硬化手段572とを有する造形ユニット570が移動する方向を示している。
吐出された造形剤Iによる滴、及び着弾滴において、薄い灰色で示したものは未硬化の状態であることを示している。一方濃い灰色で示したものは、硬化した状態であることを示している。
(b)では、時間の経過に沿って上段、中段、及び下段に、3つのタイミングでの造形層の状態を示している。上段に示したタイミングでは、造形層161の上に、滴162が吐出され、着弾滴163が未硬化の状態で存在している。
ここで、造形層161が形成された後、造形層161の端部に標識図形Qが形成され、標識図形Qの特徴値に基づき、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合に、造形層161の上に造形剤Iを着弾させ、造形層を形成する場合を説明する。造形層161において、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所は、(a)に示した着弾滴184が着弾する箇所である。
造形層161の上の造形層の形成において、本来、着弾滴184が着弾すべき箇所では、着弾させる滴の位置を、立体造形装置50の解像度の半分に該当する距離だけ、本来の位置から、端部から遠ざかるようにずらすことにしている。(b)における185は、立体造形装置50の解像度に該当する距離を表しており、186は、立体造形装置50の解像度の半分に該当する距離を表している。
中段に示したタイミングでは、未硬化の状態の着弾滴のレベリングが行われている様子を示している。下段に示したタイミングでは、造形層全体において、硬化手段572によりUV光の照射が行われ、造形層が完全に硬化される。
以上説明したように、(b)では、造形層において、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所では、着弾滴の位置を立体造形装置50の解像度の半分に該当する距離だけ、本来の位置から端部から遠ざかる方向にずらす。造形剤Iの垂れに起因して形状誤差が発生する可能性がある箇所で、造形剤Iの濡れ広がる範囲が端部から遠ざかるため、これにより、造形剤Iの垂れに起因して立体物の形状誤差が生じることを防止することができる。
造形剤Iの垂れが発生したという判断は、特徴値抽出部703により抽出された標識図形Qの特徴値に基づき、造形条件変更部704が行っている。
立体造形装置50は、造形層161上で、通常、立体造形装置50の解像度の間隔で造形剤Iを着弾させ、レベリングさせた後、UV光を照射して造形層を硬化させている。このような造形工程は「所定の造形条件」の一例である。
これに対し、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した箇所では、着弾滴の位置が、立体造形装置50の解像度の半分に該当する距離だけ、端部から遠ざかるように、造形条件を変更する。このような変更は「造形条件の変更」の一例である。
一方で、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生していないと判断した場合は、造形条件を変更しない。或いは造形条件が変更されている場合は、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所の造形条件を元に戻す。つまり変更されていない状態に戻す。
次に(c)を説明するが、(b)と同様の部分は説明を省略する。
(b)と同様に造形層161の端部で、造形剤Iの垂れが発生したと判断された場合、造形層161の上に形成する造形層の端部では、着弾滴を1滴分だけ間引くことにしている。(c)において、点線で示した187は、着弾的が1滴分だけ間引かれた様子を表している。但し、間引くだけでは、造形層161の上の造形層を形成する造形剤Iの量が減ってしまう為、不足分を補うための滴を吐出し、間引かれた滴の内側、すなわち端部から遠ざかる位置に着弾させている。188は、不足分を補うための着弾滴を示しており、他の着弾滴より造形剤Iの量が多い着弾滴になっている。
中段に示したタイミングでは、未硬化の状態の着弾滴のレベリングが行われている。下段に示したタイミングでは、造形層全体において、硬化手段572により光の照射が行われ、造形層が完全に硬化される。
以上説明したように、(c)では、造形層において、造形剤Iの垂れが発生したと判断された端部では、着弾させる滴を、1滴分だけ間引く。造形剤Iの垂れに起因して形状誤差が発生する可能性がある箇所で、造形剤Iの量が減らされるため、これにより、造形剤Iの垂れに起因して立体物の形状誤差が生じることを防止することができる。
造形剤Iの垂れが発生したという判断は、特徴値抽出部703により抽出された標識図形Qの特徴値に基づき、造形条件変更部704が行っている。
立体造形装置50は、造形層161上で、通常は、立体造形装置50の解像度の間隔で造形剤Iを着弾させ、レベリングさせた後、UV光を照射して造形層を硬化させている。このような造形工程は「所定の造形条件」の一例である。
これに対し、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生したと判断した箇所では、着弾滴が1滴分だけ間引かれるように、造形条件を変更する。このような変更は「造形条件の変更」の一例である。
一方で、造形条件変更部704は、造形剤Iの垂れが発生していないと判断した場合は、造形条件を変更しない。或いは造形条件が変更されている場合は、造形剤Iの垂れが発生したと判断された箇所の造形条件を元に戻す。つまり変更されていない状態に戻す。
以上、実施形態に係る立体造形装置、立体造形方法、及びプログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。