この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
図1に、この発明の実施形態で制御対象とする車両Veの駆動系統および制御系統の一例を示してある。図1に示す車両Veは、代表的に、原動機(ENG)1、変速機(TM)2、前輪3、後輪4、アクセルペダル5、ブレーキペダル6、ステアリングホイール7、および、コントローラ(ECU)8を備えている。
原動機(ENG)1は、車両Veの駆動力源であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関である。あるいは、同期モータや誘導モータなどの電気モータであってもよい。また、原動機1は、図2に示すように、駆動力源として内燃機関および電気モータの両方を備えたハイブリッド駆動装置(HV-Unit)であってもよい。
原動機1は、出力の調整、ならびに、始動および停止の動作などが電気的に制御されるように構成されている。ガソリンエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料の供給量、点火の実行および停止、ならびに、点火時期などが電気的に制御される。ディーゼルエンジンであれば、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、あるいは、EGRシステムにおけるスロットルバルブの開度などが電気的に制御される。また、電気モータであれば、回転数やトルク、あるいは電動機としての機能と発電機としての機能との切り替えなどが電気的に制御される。
図1に示す例では、車両Veは、原動機1が出力する駆動トルクを、変速機(TM)2を介して、前輪(駆動輪)3へ伝達するように構成されている。変速機2は、駆動トルクが伝達される入力軸(図示せず)の回転数を変速し、駆動トルクを駆動輪側へ伝達する。この発明の実施形態における変速機2は、例えば、有段式の自動変速機や無段変速機である。あるいは、手動変速機であってもよい。図1には、変速機2として、自動変速機を搭載した車両Veの一例を示してある。なお、図1,図2には、前輪3が駆動輪となる前輪駆動車の構成を示しているが、この発明の実施形態における車両Veは、後輪4が駆動輪となる後輪駆動車であってもよい。あるいは、前輪3および後輪4の両方を駆動輪とする四輪駆動車であってもよい。
この発明の実施形態で制御対象とする車両Veは、従来一般的な構成であって、運転者が駆動力を調整して車両Veの加速操作を行うためのアクセルペダル5が設けられている。アクセルペダル5が踏み込まれることにより、そのアクセルペダル5の踏み込み量(アクセル操作量)に対応してスロットルポジション(例えば、ガソリンエンジンのスロットルバルブの開度、あるいは、ディーゼルエンジンの燃料噴射量)が増大する。その結果、駆動トルクが増大し、車両Veの駆動力が増大する。反対に、アクセルペダル5の踏み込みが戻される(操作量が低減される)ことにより、そのアクセルペダル5の踏み込み量に対応してスロットルポジションが低下する。その結果、駆動トルクが減少し、車両Veの駆動力が減少する。また、駆動力が減少することに伴い、車両Veの制動力が増大する。すなわち、アクセルペダル5の踏み込みが戻されることにより、いわゆるエンジンブレーキが作用し、車両Veの制動力が増大する。例えば、内燃機関のフリクショントルクやポンピングロスが駆動トルクに対する抵抗力(制動トルク)となり、車両Veに制動力が発生する。あるいは、電気モータが回生ブレーキとして機能し、車両Veに制動力が発生する。このように、アクセルペダル5は、運転者の操作によって車両Veの駆動力および制動力を調整するアクセル装置となっている。このアクセルペダル5には、運転者によるアクセルペダル5の操作量および操作速度を検出するためのアクセルポジションセンサ9が設けられている。このアクセルポジションセンサ9により、車両Veの運転者がアクセルペダル5を所定のアクセル操作量で踏み込んだアクセルON、および、アクセル操作量が0となるアクセルOFFを検出することができる。
また、運転者が制動力を調整して車両Veの制動操作を行うためのブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6が踏み込まれることにより、車両Veのブレーキ装置(図示せず)が作動し、車両Veの制動力が発生する。このブレーキペダル6には、運転者によるブレーキペダル6の操作状態(ブレーキ装置のON・OFF、あるいは、ブレーキ操作量)を検出するブレーキスイッチ10が設けられている。なお、ブレーキスイッチ10の代わりに、運転者によるブレーキペダル6の踏み込み操作におけるストロークおよび踏力を検出するためのブレーキセンサ(図示せず)を用いることもできる。このブレーキスイッチ10により、車両Veの運転者がブレーキペダル6を所定のブレーキ操作量で踏み込んだブレーキON、および、ブレーキ操作量が0となるブレーキOFFを検出することができる。
また、運転者がステアリング装置(図示せず)を操作して車両Veの操舵を行うためのステアリングホイール7が設けられている。ステアリング装置には、ステアリングホイール7の操作に応じて作動するステアリング装置の舵角(ステアリング角)を検出するための舵角センサ11が設けられている。
上記のように構成される車両Veを制御するためのコントローラ(ECU)8が設けられている。コントローラ8は、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置である。コントローラ8には、代表的に、上記のアクセルポジションセンサ9、ブレーキスイッチ10、舵角センサ11、ならびに、車両Veの車速を検出するための速度センサ12、および、車両Veの前後加速度を検出するための加速度センサ13などの検出信号が入力される。また、ナビゲーションシステム14、および、外部データ送受信システム15との間でデータの授受が可能になっている。
外部データ送受信システム15は、例えば、車両Ve(自車両)と先行車両や周囲の車両との間の車車間通信、車両Veと道路上や道路脇の外部に設置された通信機器やサインポスト等との間の路車間通信、および、外部のデータセンター等のサーバー(図示せず)に蓄積されかつ随時更新されているいわゆるビッグデータなどからデータを取得する。また、外部データ送受信システム15は、外部センサ(図示せず)を備えることができ、外部センサを用いて、車両Veの進行方向前方における先行車両の有無や、車両Veの外部における走行環境や周辺状況などを検出し、制御データとして用いることができる。外部センサとしては、例えば、車載カメラ、RADAR[Radio Detection and Ranging]、LIDAR[Laser Imaging Detection and Ranging]、超音波センサ、および、GPS[Global Positioning System]受信装置などを設けることができる。さらに、外部データ送受信システム15は、外部のサーバー等に対して車両Veのデータを提供することができる。すなわち、車両Veで検出したデータ、あるいは、演算して加工したデータなどを、外部のサーバー等に送信して記憶・蓄積させることができる。
コントローラ8は、入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。それとともに、その演算結果を制御指令信号として出力し、車両Veを制御するように構成されている。例えば、アクセルポジションセンサ9で検出したアクセルペダル5の操作量、および、速度センサ12で検出した車速に基づいて、原動機1の目標駆動トルクを算出する。そして、その目標駆動トルクに基づいて、原動機1の出力を制御する。あるいは、変速機2で設定する変速比(もしくは、変速段)を制御する。また、例えば、アクセルポジションセンサ9で検出したアクセルペダル5の操作速度に基づいて、車両Veの駆動力を制御する。あるいは、ナビゲーションシステム14や外部データ送受信システム15から取得したデータに基づいて、車両Veの加速度を制御することが可能である。
このように、この発明の実施形態における車両Veは、いわゆる駆動力デマンド制御を実行することが可能である。駆動力デマンド制御では、例えば、運転者のアクセル操作に基づいて、運転者が要求する駆動力(要求駆動力)が算出される。そして、その要求駆動力を最適に実現できる原動機1の出力トルク、および、変速機2の変速比が決定され、それら原動機1および変速機2が制御される。なお、変速機2が、変速比の自動制御を行わない手動変速機であっても、原動機1の出力トルクを自動制御することにより、上記のような駆動力デマンド制御を実行することが可能である。例えば、エンジンに対するフューエルカットや点火時期の遅角制御、あるいは、モータのトルク制御(もしくは、電流制御)によって原動機1の出力トルクを自動制御し、駆動力デマンド制御を実行することが可能である。
この発明の実施形態における車両Veは、上記のように駆動力デマンド制御を実行することが可能であり、それによって車両Veの駆動力特性や加速度特性を調整することが可能である。例えば、前述した特許文献1に記載されている技術のように、自車両の減速度を制御して運転支援を実施することもできる。また、上記のように駆動力デマンド制御によって車両Veの加速度特性を調整することにより、車両Veの走行中にアクセルペダル5の操作量が0に戻された状態(アクセルOFFの状態)で発生させる減速度(自車減速度)を変更することが可能である。後述するように、この発明の実施形態における車両Veは、原動機1および変速機2の少なくともいずれかを制御することにより、上記のようなアクセルOFFの状態で発生させる減速度を、目標値として設定した変更後減速度に向けて変更することができる。ただし、従来の制御では、特に、自動制御によって自車両の加速度特性が変更されると、変更された実際の加速度特性が、本来、運転者の意図や志向に即して設定されるべき理想的な加速度特性と乖離してしまう場合がある。その結果、運転者に違和感や不安感を与えてしまい、また、余分な運転操作の手間を掛けさせてしまうおそれがある。
また、例えば、自車両が先行車両に対して追従走行する状況、あるいは、自車両が周囲の車両の流れに沿って走行する状況では、自車両の駆動力特性および加速度特性と先行車両や周囲の車両の駆動力特性および加速度特性との乖離が大きいと、運転者に余分な運転操作の手間を掛けさせてしまうおそれがある。一例として、図3のタイムチャートに示すように、自車両が周囲の車両の流れに沿って走行している状況であって、自車両の進行方向の前方に先行車両が走行している場合、時刻t11で、先行車両がアクセルOFFになると、それに伴って、所定時間後の時刻t12で、自車両もアクセルOFFにされる。具体的には、先行車両がアクセルOFFになって減速することにより、先行車に追従する自車両も、減速のためにアクセルペダル5の踏み込みが戻される。すなわち、アクセルペダル5の操作量が0に戻り、アクセルOFFの状態になる。このとき、先行車両の加速度特性と自車両の加速度特性との間の乖離が大きいと、自車両の減速が不足してしまう。例えば、図3に示すように、先行車両のアクセルOFF時の減速度よりも、自車両のアクセルOFF時の減速度が小さくなり(加速度の絶対値が小さくなり)、自車両の減速が不足してしまう。その結果、自車両の運転者は、時刻t13でブレーキ操作(ブレーキON)を行わなければならなくなる。また、アクセルOFFの操作を行った時刻t12から、ブレーキONの操作を行う時刻t13までの間に、自車両の減速が不足して先行車両と自車両との間の車間距離が縮まってしまうことにより、自車両の運転者に違和感や不安感を与えてしまう可能性もある。
そこで、この発明の実施形態におけるコントローラ8は、アクセルOFFの状態で発生する減速度を適切に設定し、運転者に違和感や不安感を与えることなく、適切な減速走行を可能にするための加速度特性補正制御を実行するように構成されている。そのような加速度特性補正制御の一例を、図4のフローチャート等に示してある。なお、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、「減速度」は、運転者がアクセルペダルを完全に戻した状態(アクセル全閉状態、または、アクセルOFFの状態)で発生する車両(自車両および他車両)の減速方向の前後加速度である。この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、「減速度」は、アクセルOFFの状態で発生する車両の前後加速度の絶対値として示してある。
図4のフローチャートは、この発明の実施形態における加速度特性補正制御の全体的なフローを示している。先ず、ステップS100で、車両(他車両)の減速度データの収集および記録が行われる。このステップS100の制御は、次のステップS200で自車両の減速度を変更する際にベースとなるデータの授受を行う処理であり、ステップS200の処理に先立って実行される。このステップS100は、図4に示すフローチャートのルーチン上で、ステップS200の直前に実行されてもよい。あるいは、次に示すように、図4に示すフローチャートとは別のルーチンで、予め実行することができる。
ステップS100で実行される具体的な制御内容を、図5のフローチャートに示してある。図5のフローチャートにおいて、先ず、車両Veの走行中に、下記の各条件a,b,c,dが全て成立するか否かが判断される(ステップS101)。
条件a:アクセルOFF(自車両のアクセルペダル5の操作量が0)、
条件b:平坦路走行中(路面勾配が0、or、所定値(≒0)以下)、
条件c:ブレーキOFF(自車両のブレーキペダル6の操作量が0)、
条件d:直進走行中(自車両のステアリング角が0、or、所定角度(≒0)以下)。
上記の条件aのアクセルOFFであるか否かは、アクセルポジションセンサ9からの検出信号に基づいて判断することができる。条件bの路面勾配は、例えば加速度センサ13の検出信号を基に算出することができる。あるいは、路面勾配を直接検出する勾配センサ(図示せず)を設け、勾配センサの検出信号から求めてもよい。条件cのブレーキOFFであるか否かは、ブレーキスイッチ10からの検出信号に基づいて判断することができる。条件dのステアリング角は、舵角センサ11からの検出信号に基づいて判断することができる。このステップS101の処理では、上記の条件bおよび条件dで、平坦路走行中であることや、直進走行中であることを成立条件とすることにより、例えば、路面勾配やコーナリングドラッグなどの走行抵抗による影響を排除している。
上記の各条件a,b,c,dが全て成立する場合に、正確な減速度データの授受を実施することが可能であると判断される。この発明の実施形態における加速度特性補正制御における「減速度データ」は、他車両(車両一般であり、自車両が含まれてもよい)の走行中にその他車両のアクセル操作量が0となる状態で発生する減速度(他車減速度)に関するデータを蓄積したもの、言い換えると、他車両のアクセル操作量がその他車両の走行中に0となる状態で発生する他車減速度に関するデータを蓄積したものである。したがって、このステップS101では、上記の各条件a,b,c,dが全て成立する場合に、運転者がアクセルペダルを完全に戻したアクセルOFFの状態(アクセル操作量が0となる状態)で発生した車両の減速度を、減速度データとして精度良く記録すること、および、正確な減速度データを取得することが可能な状態であると判断される。一方、各条件a,b,c,dのうちのいずれか一つでも成立していない場合は、正確な減速度データの授受を実施することができないと判断される。
例えば、図6のタイムチャートに示すように、時刻t21以前の期間は、アクセルペダル5の操作量が0ではないこと(アクセルON)、また、ステアリング装置が操作されており、直進走行中でないことにより、上記の条件aおよび条件dが不成立となり、減速度データの授受は実施されない。それに対して、時刻t21から時刻t22までの期間は、アクセルOFF、ブレーキOFF、ステアリング角が0(すなわち、直進走行中)、および、平坦路走行中である、すなわち、上記の各条件a,b,c,dが全て成立している。したがって、この時刻t21から時刻t22までの期間で、減速度データの授受が実施される。その後、時刻t23でブレーキ信号がONになったこと、すなわち、ブレーキが操作されたことにより、条件cが不成立となり、減速度データの授受が終了する。
したがって、上記の各条件a,b,c,dの全てが成立していないことにより、このステップS101で否定的に判断された場合は、減速度データの授受は実施されない。そのため、この図5のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図5のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、上記の各条件a,b,c,dの全てが成立していることにより、ステップS101で肯定的に判断された場合には、ステップS102以降へ進み、減速度データの授受が実施される。
ステップS102では、車両の減速度(すなわち、アクセルOFFの状態で発生する減速方向の前後加速度)、車速、走行環境、車種、および、年式等が、データベースに記録される。この場合の車両は、車両一般のことであり、他車両および自車両(すなわち、車両Ve)の両方である。したがって、自車両を含め、データベースと相互通信が可能な通信機能を備えた全ての車両からデータベースへ上記の各種データが送信され、データベースに記録される。それにより、例えば、いわゆるビッグデータが構築される。
ステップS103では、データベースの減速度データが、例えば、車速、走行環境、および、車種や年式ごとに、それぞれ分類される。走行環境は、例えば、減速度データを収集した国や地域、場所、道路の種類、路面状況、季節、日時、および、天候など、車両の走行が想定され得る多様な環境である。データベースには可能な限り多くの減速度データが蓄積されており、それら大量の減速度データは、例えば、図7に示すように、正規分布となるように、データが収集され、蓄積されている。そして、例えば、国や地域別に分けられた減速度データが、それぞれ、車速ごと、また、車種や年式ごとのグループに分類されている。
ステップS104では、上記のようにステップS103でグループ分けされた各種の減速度データが統計的に解析され、各グループごとに、減速度データの平均値(平均減速度μ)、および、標準偏差σが算出される。算出された減速度データにおける平均減速度μ、および、標準偏差σは、例えば、構造化データとして、データベースに記憶される。あるいは、データベースの減速度データにおける平均減速度μ、および、標準偏差σに関する構造化データが更新される。その後、この図5のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
上記の図5のフローチャートで示すルーチンが終了することにより、図4の全体のフローチャートにおけるステップS200へ進む。あるいは、図4の全体のフローチャートで示すルーチンが開始されてステップS200へ進む。
ステップS200では、現在の自車両(車両Ve)の走行環境に合わせて、自車両の減速度が変更される。このステップS200で実行される具体的な制御内容を、図8のフローチャートに示してある。図8のフローチャートにおいて、先ず、車両Veの現在の走行環境における減速度データが取得される(ステップS201)。具体的には、データベース(あるいは、ビッグデータ)と通信を行い、自車両が現在走行している走行環境(例えば、地域、天候など)における減速度データの平均減速度μ1、および、標準偏差σ1が求められる。これら平均減速度μ1、および、標準偏差σ1は、過去にデータベースやビッグデータに記憶されている一般的な車両(他車両)の減速度データから算出される。
続いて、自車両の現在の減速度が、現在の走行環境における減速度データの平均値よりも小さいか否かが判断される(ステップS202)。具体的には、下記の式1が成立するか否かが判断される。
変更前減速度D1 < 平均減速度μ1-標準偏差σ1×係数B
…式1
上記の式1における自車両の変更前減速度D1は、現在設定されている車両Veの減速度であって、後述するステップS207で変更される前の(変更前の)減速度である。平均減速度μ1、および、標準偏差σ1は、上記のようにステップS201で求められたものである。係数Bは、データベースあるいはビッグデータから抽出する減速度データに対する追従度合い(感度)を調整するためのパラメータであり、ここでは、例えば「B=1」に設定される。この加速度特性補正制御において設定される自車両の加速度特性が、データベースあるいはビッグデータにおける減速度の収集データに敏感に追従し過ぎると、運転者に違和感を与えてしまう場合がある。そのため、この係数Bの値を調整することにより、そのような違和感の発生を抑制している。
上記の式1が成立しないこと、すなわち、自車両の現在の減速度が現在の走行環境における減速度データの平均値以上であることにより、このステップS202で否定的に判断された場合は、この図8のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。自車両の現在の減速度が現在の走行環境における減速度データの平均値以上である場合は、自車両の走行時に運転者がアクセルペダル5を戻してアクセルOFFにした際の減速が不足することはない。そのため、運転者が減速不足による違和感や不安感を覚えることもない。また、減速が不足することによって運転者が余分なブレーキ操作を行うこともない。したがって、この場合は、特にこの加速度特性補正制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、上記の式1が成立すること、すなわち、図9に示すように、自車両の現在の減速度が現在の走行環境における減速度データの平均値よりも小さいことにより、ステップS202で肯定的に判断された場合には、ステップS203へ進み、ステップS203以降の制御で、自車両の減速度(変更前減速度D1)を、現在の走行環境における減速度データの平均減速度μ1に向けて増大させる。
ステップS203では、変更後減速度D2が算出される。変更後減速度D2は、上記のように、自車両の変更前減速度D1を減速度データの平均減速度μ1に向けて増大させるための目標値として求められる。具体的には、下記の式2から算出される。
変更後減速度D2
=変更前減速度D1 +(平均減速度μ1-変更前減速度D1)×係数A
…式2
上記の式2における係数Aは、自車両のアクセルOFF後のブレーキ踏み替え時間TBに基づいて、例えば、図10に示すようなマップから求められる。ブレーキ踏み替え時間TBは、図11のタイムチャートで、時刻t31から時刻t32の期間で示すように、自車両の運転者が、走行中にアクセルペダル5を戻した時点(アクセルOFF;時刻t31)から、ブレーキペダル6を踏み込む時点(ブレーキON;時刻t32)までの経過時間である。すなわち、ブレーキ踏み替え時間TBは、アクセルペダル5からブレーキペダル6への踏み替えに要した時間であって、運転者がアクセルペダル5からブレーキペダル6へ踏み替える際にアクセルOFFになる時点(時刻t31)からブレーキONになる時点(時刻t32)までの期間を示す時間である。
一般に、上記のようなブレーキ踏み替え時間TBが短いほど、運転者はブレーキ操作の煩わしさを強く感じていると推定することができる。そのため、この加速度特性補正制御では、ブレーキ踏み替え時間TBが求められ、そのブレーキ踏み替え時間TBが短いほど減速度の補正量(変更量)が大きくなる(自車両の減速度が大きくなる)ように制御される。そのために、上記のような推定を基に、また、例えば予め実施した走行実験やシミュレーション等の結果に基づいて、上記の図10に示すようなマップが生成されている。すなわち、ブレーキ踏み替え時間TBが短いほど係数Aが大きくなるように、上記の図10に示すマップが生成されている。したがって、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、ブレーキ踏み替え時間TBが短いほど、上記のような変更後減速度D2が大きくなるように制御される。
ステップS204では、変更前の加速度内分比R1(PAPi)が算出される。加速度内分比R1は、運転者によるアクセルペダル5の操作量(アクセル操作量PAP)に対応する自車両の前後加速度の変化割合であって、図12に示すように、アクセル操作量PAPに対応して変化する前後加速度を百分率で表したものである。アクセル操作量PAPは、最大のアクセル操作量PAPを100%とすると、0から100%の範囲で変化する。したがって、加速度内分比R1(PAPi)は、0から100%の範囲で第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応する前後加速度を示している。このステップS204では、後述するステップS207で自車両の加速度特性および減速度が変更される前の(変更前の)加速度内分比R1(PAPi)が求められる。具体的には、変更前の加速度内分比R1(PAPi)は、下記の式3から算出される。
変更前の加速度内分比R1(PAPi)
=(加速度特性G1(PAPi)-変更前減速度D1)
÷(最大加速度Gmax-変更前減速度D1)
…式3
上記の式3における加速度特性G1(PAPi)は、後述するステップS207で自車両の減速度が変更される前の(変更前の)加速度特性である。この加速度特性G1(PAPi)は、運転者によるアクセル操作量PAPに対応して変化する車両Veの前後加速度であって、第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応して発生する前後加速度を表している。変更前減速度D1は、後述するステップS207で変更される前の(変更前の)減速度であって、図13に示すように、アクセル操作量PAPが0の状態(アクセルOFF)で発生する車両Veの減速度(減速側の前後加速度)である。したがって、「変更前減速度D1=加速度特性G1(0)」である。また、最大加速度Gmaxは、図13に示すように、アクセル操作量PAPが100%の状態で発生する車両Veの前後加速度である。したがって、「最大加速度Gmax=加速度特性G1(0)」である。なお、最大加速度Gmaxは、前述のデータベースやビッグデータから取得することができる。あるいは、車両Veで記憶したデータを用いることもできる。
ステップS205では、変更後の加速度特性G2(PAPi)が算出される。加速度特性G2(PAPi)は、後述するステップS207で自車両の減速度と共に変更される(変更後の)加速度特性である。具体的には、この変更後の加速度特性G2(PAPi)は、下記の式4から算出される。
変更後の加速度特性G2(PAPi)
=加速度内分比R1(PAPi)×(最大加速度Gmax-平均減速度μ1)
+平均減速度μ1
…式4
上記の式4における変更後の加速度特性G2(PAPi)は、前述の図13に示すような曲線で表すことができる。あるいは、ステップS204で求められる変更前の加速度内分比R1(PAPi)に応じて、アクセル操作量と前後加速度との関係を直線(一次関数)で表すこともできる。変更後の加速度特性G2(PAPi)は、アクセル操作量および車速の全域について求められ、再設定される。
ステップS206では、自車両(車両Ve)が停止しているか否かが判断される。例えば、速度センサ12または加速度センサ13によって検出した車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であるか否かが判断される。この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、ステップS205で設定した変更後の加速度特性G2(PAPi)に基づいて自車両の減速度を変更する。ただし、走行中に減速度および加速度特性を変更してしまうと、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。そのため、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、このステップS206で自車両が走行中であるか否かを判断し、自車両が停止している場合に、自車両の減速度および加速度特性を変更する。
したがって、自車両が停止中でないことにより、このステップS206で否定的に判断された場合は、この図8のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、自車両が停止中であること、すなわち、車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であることにより、ステップS206で肯定的に判断された場合には、ステップS207へ進む。
ステップS207では、上記のステップS203で求めた変更後減速度D2、および、ステップS205で求めた変更後の加速度特性G2(PAPi)に基づいて、自車両の減速度および加速度特性が変更される。すなわち、前述のステップS201で取得された減速度データに基づいて、自車両の走行中にアクセルOFFとなった状態で発生させる減速度(自車減速度)の目標値として変更後減速度D2が設定され、その自車減速度が変更後減速度D2となるように、原動機1および変速機2の少なくともいずれかが制御される。その場合、上記の変更後減速度D2は、ブレーキ踏み替え時間TBが短いほど、大きな値となるように設定される。なお、上記のようにして、このステップS207で変更される自車両の減速度および加速度特性は、後述する「先行車両が存在する場合の加速度特性補正制御」が実行される前の段階で設定されるものであり、「先行車両が存在しない場合の加速度特性補正制御」の実行に伴って設定されるものである。
このステップS207で、自車両の減速度を変更前減速度D1から変更後減速度D2に変更することにより、現在の走行環境に即して、周囲の車両の平均的な流れに沿った適切な減速度で自車両を走行させることができる。ただし、単純に、アクセルOFF状態で発生する減速度だけを平均減速度μ1に向けて増大させる(アクセルOFF状態で発生する前後加速度の絶対値を平均減速度μ1の絶対値と一致するように増大させる)と、その後のアクセルペダル5の踏み込み操作時に、図14に示すように、加速度特性に段差が生じてしまう。その結果、運転者がアクセルペダル5を踏み込んで加速走行する際に、車両Veの前後加速度が急変し、運転者に違和感やショックを与えてしまうおそれがある。そこで、この加速度特性補正制御では、上記のステップS204で変更前の加速度内分比R1(PAPi)を求め、その加速度内分比R1(PAPi)を用いて、図15に示すように、変更後減速度D2と変更後の加速度特性G2(PAPi)とを連続的につなげている。
なお、上記のような加速度内分比を用いて、この加速度特性補正制御における変更後減速度と変更後の加速度特性とを連続的につなぐ処理は、後述する図16のフローチャートで示す制御、および、後述する図17のフローチャートで示す制御においても、同様に実行される。
このように、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、データベースやビッグデータ、あるいは、自車両で記憶した過去の走行データなどを活用し、走行環境に合わせて、自車両の減速度(アクセルOFF時に発生させる減速度)が変更される。例えば、減速度データの平均値(平均減速度μ1)に合わせて、自車両の減速度が変更される。そのため、アクセルOFF時に適切な減速度を発生させることができ、周囲の車両の流れに沿って、自車両を適切に走行させることができる。また、減速不足による違和感や不安感を運転者に与えてしまうことを抑制するとともに、運転者に余分なブレーキ操作の手間を掛けさせてしまうことを抑制することができる。
上記のようにして、ステップS207で自車両の減速度が変更されると、その後、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それとともに、上記の図8のフローチャートで示すルーチンが終了することにより、図4の全体のフローチャートにおけるステップS300へ進む。
ステップS300では、自車両の進行方向の前方を走行する先行車両が存在するか否かが判断される。例えば、前述したような外部データ送受信システム15における車載カメラ、RADAR、LIDAR、超音波センサ、あるいは、GPS受信装置などから得られる先行車両情報を基に、先行車両の有無を判断することができる。一例として、自車両と同一の走行車線上で、自車両の進行方向前方の所定距離d以内に、走行中の他車両(先行車両)が存在するか否かが判断される。所定距離d以内に走行中の他車両が認められる場合に、先行車両が存在すると判断される。所定距離dは、例えば、一般的な車間距離に設定されており、車速が高いほど所定距離dを長くしてもよい。
上述の通り、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、ステップS200で減速度データの平均値(平均減速度μ1)に合わせて自車両の減速度が変更される。それにより、周囲の走行環境や周囲の車両の流れに沿って、適切な減速度で自車両を走行させることができる。ただし、自車両の進行方向の前方に先行車両が存在する場合は、その先行車両の減速度が平均減速度μ1よりも小さいと、自車両の運転者がブレーキ操作をしなければならない状況が生じる頻度が高くなってしまう。そのため、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、このステップS300で先行車両の有無を判断しており、先行車両が存在する場合に、先行車両の減速度を考慮した加速度特性補正制御を実行する。
自車両の前方に先行車両が存在しないことにより、このステップS300で否定的に判断された場合には、ステップS400へ進み、「先行車両が存在しない場合の加速度特性補正制御」が実行される。
ステップS400では、このステップS400における処理の以前に、後述する「先行車両が存在する場合の加速度特性補正制御」が、未だ実行されていない場合は、前述の図8のフローチャートにおけるステップS207で変更されて設定された自車両の減速度および加速度特性が継続して設定される。もしくは、このステップS400における処理の以前に、後述する「先行車両が存在する場合の加速度特性補正制御」が、既に実行されている場合は、自車両の減速度および加速度特性が、前述の図8のフローチャートにおけるステップS207で設定された自車両の減速度および加速度特性に変更される。
したがって、このステップS400では、前述の図8のフローチャートにおけるステップS203で求めた変更後減速度D2、および、ステップS205で求めた変更後の加速度特性G2(PAPi)に基づいて変更された自車両の減速度および加速度特性が、引き続いて設定される。もしくは、前述の図8のフローチャートにおけるステップS203で求めた変更後減速度D2、および、ステップS205で求めた変更後の加速度特性G2(PAPi)に基づいて、自車両の減速度および加速度特性が変更される。そしてその後、この図4の全体のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
一方、自車両の前方に先行車両が存在することにより、前述のステップS300で肯定的に判断された場合には、ステップS500へ進み、「先行車両が存在する場合の加速度特性補正制御」が実行される。
ステップS500では、データベースやビッグデータに、先行車両と同一車種の減速度データがあるか否かが判断される。データベースやビッグデータに、先行車両と同一車種の減速度データがあることにより、このステップS500で肯定的に判断された場合は、ステップS600へ進む。
ステップS600では、「先行車両の減速度データがある場合の加速度特性補正制御」が実行される。このステップS600で実行される具体的な制御内容を、図16のフローチャートに示してある。図16のフローチャートにおいて、先ず、先行車両の車種や年式、および、自車両の現在の走行環境に該当する先行車両の減速度データが取得される(ステップS601)。具体的には、データベースやビッグデータと通信を行い、先行車両の車種・年式および現在走行している走行環境(例えば、地域、場所、天候など)における減速度データの平均減速度μ2、および、標準偏差σ2が求められる。あるいは、自車両と先行車両との間の車車間通信により、先行車両に記憶されている過去の走行データ等から、先行車両の平均減速度μ2、および、標準偏差σ2を求めることもできる。
続いて、自車両の現在の減速度が、先行車両の減速度データの平均値よりも小さいか否かが判断される(ステップS602)。具体的には、下記の式5が成立するか否かが判断される。
変更前減速度D3 < 先行車両の平均減速度μ2-標準偏差σ2×係数B
…式5
上記の式5における自車両の変更前減速度D3は、現在設定されている車両Veの減速度であって、後述するステップS506で変更される前の(変更前の)減速度である。前述した図8のフローチャートで示すルーチンで変更後減速度D2が設定された後は、この変更前減速度D3は、前述の変更後減速度D2と一致する。平均減速度μ2、および、標準偏差σ2は、上記のようにステップS601で求められたものである。係数Bは、データベースあるいはビッグデータから抽出した減速度データに対する追従度合い(感度)を調整するパラメータであり、ここでは、例えば「B=1」に設定される。この加速度特性補正制御において設定される自車両の加速度特性が、データベースあるいはビッグデータにおける減速度の収集データに敏感に追従し過ぎると、運転者に違和感を与えてしまう場合がある。そのため、この係数Bの値を調整することにより、そのような違和感の発生を抑制している。
上記の式5が成立しないこと、すなわち、自車両の現在の減速度が先行車両の減速度データの平均値以上であることにより、このステップS602で否定的に判断された場合は、この図16のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図16のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。自車両の現在の減速度が先行車両の減速度データの平均値以上である場合は、先行車両がアクセルOFFとなって減速するのに対応して、運転者がアクセルペダル5を戻してアクセルOFFにした際の減速が不足することはない。そのため、運転者が減速不足による違和感や不安感を覚えることもない。また、減速が不足することによって運転者が余分なブレーキ操作を行うこともない。したがって、この場合は、これ以降の加速度特性補正制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、上記の式5が成立すること、すなわち、自車両の現在の減速度が先行車両の減速度データの平均値よりも小さいことにより、ステップS602で肯定的に判断された場合には、ステップS603へ進み、そのステップS603以降の制御で、自車両の減速度(変更前減速度D3)を、先行車両の減速度データを考慮して増大させる。
ステップS603では、変更前の加速度内分比R2(PAPi)が算出される。変更前の加速度内分比R2は、運転者によるアクセルペダル5の操作量(アクセル操作量PAP)に対応する自車両の前後加速度の変化割合であって、前述の図12に示したように、アクセル操作量PAPに対応して変化する前後加速度を百分率で表したものである。アクセル操作量PAPは、最大のアクセル操作量PAPを100%とすると、0から100%の範囲で変化する。したがって、加速度内分比R2(PAPi)は、0から100%の範囲で第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応する前後加速度を示している。このステップS603では、後述するステップS606で自車両の加速度特性および減速度が変更される前の(変更前の)加速度内分比R2(PAPi)が求められる。具体的には、変更前の加速度内分比R2(PAPi)は、下記の式6から算出される。
変更前の加速度内分比R2(PAPi)
=(加速度特性G3(PAPi)-変更前減速度D3)
÷(最大加速度Gmax-変更前減速度D3) …式6
上記の式6における加速度特性G3(PAPi)は、現在設定されている加速度特性であって、後述するステップS606で自車両の減速度が変更される前の(変更前の)加速度特性である。図8のフローチャートで示すルーチンで変更前の加速度特性G2(PAPi)が設定された後は、加速度特性G3(PAPi)は、前述の加速度特性G2(PAPi)と一致する。この加速度特性G3(PAPi)は、運転者によるアクセル操作量PAPに対応して変化する車両Veの前後加速度であって、第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応して発生する前後加速度を表している。変更前減速度D3は、前述の図13に示すように、アクセル操作量PAPが0の状態(アクセルOFF)で発生する車両Veの減速度(減速側の前後加速度)である。したがって、「変更前減速度D3=加速度特性G3(0)」である。また、最大加速度Gmaxは、前述の図13に示すように、アクセル操作量PAPが100%の状態で発生する車両Veの前後加速度である。したがって、この場合は、「最大加速度Gmax=加速度特性G3(0)」である。なお、最大加速度Gmaxは、前述のデータベースやビッグデータから取得することができる。あるいは、車両Veで記憶したデータを用いることもできる。
ステップS604では、変更後の加速度特性G4(PAPi)が算出される。加速度特性G4(PAPi)は、後述するステップS506で自車両の減速度と共に変更される(変更後の)加速度特性である。具体的には、この変更後の加速度特性G4(PAPi)は、下記の式7から算出される。
変更後の加速度特性G4(PAPi)
=加速度内分比R2(PAPi)×(最大加速度Gmax-平均減速度μ2)
+平均減速度μ2 …式7
上記の式7における変更後の加速度特性G4(PAPi)は、前述の図13に示すような曲線で表すことができる。あるいは、ステップS503で求められる変更前の加速度内分比R2(PAPi)に応じて、アクセル操作量と前後加速度との関係を直線(一次関数)で表すこともできる。変更後の加速度特性G4(PAPi)は、アクセル操作量および車速の全域について求められ、再設定される。
ステップS605では、自車両(車両Ve)が停止しているか否かが判断される。例えば、速度センサ12または加速度センサ13によって検出した車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であるか否かが判断される。この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、ステップS604で設定した変更後の加速度特性G4(PAPi)に基づいて自車両の減速度を変更する。ただし、走行中に減速度および加速度特性を変更してしまうと、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。そのため、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、このステップS605で自車両が走行中であるか否かを判断し、自車両が停止している場合に、自車両の減速度および加速度特性を変更する。
したがって、自車両が停止中でないことにより、このステップS605で否定的に判断された場合は、この図16のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図16のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、自車両が停止中であること、すなわち、車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であることにより、ステップS605で肯定的に判断された場合には、ステップS606へ進む。
ステップS606では、ステップS604で設定した変更後の加速度特性G4(PAPi)に基づいて、自車両の減速度が変更される。このステップS606で自車両の減速度が変更されると、その後、この図16のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それとともに、図16のフローチャートで示すルーチンが終了することにより、図4の全体のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
これに対して、図4の全体のフローチャートにおいて、データベースやビッグデータに、先行車両と同一車種の減速度データがないことにより、前述のステップS500で否定的に判断された場合には、ステップS700へ進む。なお、データがあったとしても、例えば、統計的にばらつきが大き過ぎたり、あるいは、データが正規分布に従っていなかったりすることにより、減速度データを参照することができない場合も、先行車両と同一車種の減速度データがないと判断される。
ステップS700では、「先行車両の減速度データがない場合の加速度特性補正制御」が実行される。このステップS700で実行される具体的な制御内容を、図17のフローチャートに示してある。図17のフローチャートにおいて、先ず、車両Veの走行中に、下記の各条件e,f,g,hが全て成立するか否かが判断される(ステップS701)。
条件e:先行車両がアクセルOFF(先行車両のアクセルペダルの操作量が0)、
条件f:先行車両がブレーキOFF(先行車両のブレーキペダルの操作量が0)、
条件g:自車両がアクセルOFF(自車両のアクセルペダル5の操作量が0)、
条件h:自車両がブレーキOFF(自車両のブレーキペダル6の操作量が0)。
上記の条件eの先行車両がアクセルOFFである否かは、例えば、先行車両のアクセルポジションセンサからの検出信号に基づいて判断することができる。条件fの先行車両がブレーキOFFであるか否かは、先行車両のブレーキスイッチからの検出信号に基づいて判断することができる。上記のような先行車両のアクセルポジションセンサからの検出信号、および、先行車両のブレーキスイッチからの検出信号は、それぞれ、例えば、自車両と先行車両との間の車車間通信によって取得することができる。また、条件gの自車両がアクセルOFFである否かは、アクセルポジションセンサ9からの検出信号に基づいて判断することができる。条件hの自車両がブレーキOFFであるか否かは、ブレーキスイッチ10からの検出信号に基づいて判断することができる。
なお、前述の図5のフローチャートにおけるステップS101では、路面勾配やコーナリングドラッグなどの走行抵抗による影響を排除するために、平坦路走行の状態(条件b)や直進走行の状態(条件d)を前提条件としているのに対して、このステップS701では、それら平坦路走行や直進走行の条件を省いている。この場合は、自車両が先行車両に追従して走行する状況であり、自車両と先行車両とはほぼ同一の走行環境の下で走行しているものと見なすことができる。そのため、平坦路走行や直進走行の条件を省いても、精度良く、減速度を検出することが可能である。したがって、ここでは、上記のような平坦路走行や直進走行の条件を省くことにより、その分、より早いタイミングで減速度を検出することができ、制御スピードの向上を図ることができる。
上記の各条件e,f,g,hが全て成立する場合に、自車両と先行車両との間で正確なデータの取得および比較が可能であると判断される。一方、各条件e,f,g,hのうちのいずれか一つでも成立していない場合は、自車両と先行車両との間で正確なデータの取得および比較ができないと判断される。
図18のタイムチャートに、上記のような自車両の減速度、および、先行車両の減速度、ならびに、自車両と先行車両との減速度差を検出するタイミングの一例を示してある。図18のタイムチャートにおいて、時刻t41で、先行車両がアクセルOFFおよびブレーキOFFとなる。この時点では、自車両はブレーキOFFとなっているが、未だアクセルOFFにはなっていない。すなわち、上記の条件e、条件f、および、条件hは成立しているものの、条件gが成立していない。したがって、この時点では、未だ、自車両の減速度および先行車両の減速度の検出は実施されない。
時刻t42で、自車両がブレーキOFFのままアクセルOFFになると、上記の条件e、条件f、条件g、および、条件hが全て成立する。この状態は、その後の時刻t43で、自車両がブレーキONになるまで継続する。したがって、時刻t42から時刻t43の期間で、自車両の減速度および先行車両の減速度が検出される。また、後述するように、自車両の減速度と先行車両の減速度とが比較されるとともに、それら自車両と先行車両との減速度差が求められる。
上記のように、時刻t43で、自車両のブレーキペダル6が操作されてブレーキONになると、自車両の減速度、および、先行車両の減速度の検出、ならびに、それら自車両と先行車両との減速度差の検出が終了する。なお、上記のようにして検出される自車両と先行車両との減速度差のデータは、例えば、図19に示すように、車速と関係付けされて整理される。そして、後述するように、先行車両の減速度に対して自車両の減速度が小さい場合に、この図19に示す減速度差を自車両の減速度に加算することにより、自車両の加速度特性が補正される。
前述の各条件e,f,g,hのうち、いずれか一つでも成立していないこと、すなわち、各条件e,f,g,hの全てが成立していないことにより、ステップS701で否定的に判断された場合は、この図17のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図17のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、前述の各条件e,f,g,hが全て成立していることにより、ステップS701で肯定的に判断された場合には、ステップS702へ進み、自車両の減速度および先行車両の減速度の検出、自車両と先行車両との減速度差の検出、ならびに、それら自車両の減速度と先行車両の減速度との比較が実施される。
ステップS702では、自車両の減速度および先行車両の減速度が検出されるとともに、自車両の減速度が先行車両の減速度よりも小さいか否かが判断される。具体的には、下記の式8が成立するか否かが判断される。
変更前減速度D4 < 先行車減速度D5
…式8
上記の式8における自車両の変更前減速度D4は、現在設定されている車両Veの減速度であって、後述するステップS707で変更される前の(変更前の)減速度である。前述した図8のフローチャートで示すルーチンで変更後減速度D2が設定された後は、この変更前減速度D4は、前述の変更後減速度D2と一致する。先行車減速度D5は、先行車両の現在の減速度であり、上記のように、例えば、自車両と先行車両との間の車車間通信によって取得することができる。
上記の式8が成立しないこと、すなわち、自車両の現在の減速度が先行車両の減速度以上であることにより、このステップS702で否定的に判断された場合は、この図17のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図17のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。自車両の現在の減速度が先行車両の減速度以上である場合は、先行車両がアクセルOFFとなって減速するのに対応して、運転者がアクセルペダル5を戻してアクセルOFFにした際の減速が不足することはない。そのため、運転者が減速不足による違和感や不安感を覚えることもない。また、減速が不足することによって運転者が余分なブレーキ操作を行うこともない。したがって、この場合は、これ以降の加速度特性補正制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、上記の式8が成立すること、すなわち、自車両の現在の減速度が先行車両の減速度よりも小さいことにより、ステップS702で肯定的に判断された場合には、ステップS703へ進み、そのステップS703以降の制御で、自車両の減速度(変更前減速度D4)を、先行車両の減速度を考慮して増大させる。
ステップS703では、変更後減速度D6が算出される。変更後減速度D6は、上記のように、自車両の変更前減速度D4を先行車両の減速度を考慮して増大させるための目標値として求められる。具体的には、下記の式9から算出される。
変更後減速度D6
=変更前減速度D4 +(先行車減速度D5-変更前減速度D4)
…式9
ステップS704では、変更前の加速度内分比R3(PAPi)が算出される。加速度内分比R3は、運転者によるアクセルペダル5の操作量(アクセル操作量PAP)に対応する自車両の前後加速度の変化割合であって、前述の図12に示したように、アクセル操作量PAPに対応して変化する前後加速度を百分率で表したものである。アクセル操作量PAPは、最大のアクセル操作量PAPを100%とすると、0から100%の範囲で変化する。したがって、加速度内分比R3(PAPi)は、0から100%の範囲で第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応する前後加速度を示している。このステップS704では、後述するステップS707で自車両の加速度特性および減速度が変更される前の(変更前の)加速度内分比R3(PAPi)が求められる。具体的には、変更前の加速度内分比R3(PAPi)は、下記の式10から算出される。
変更前の加速度内分比R3(PAPi)
=(加速度特性G5(PAPi)-変更前減速度D4)
÷(最大加速度Gmax-変更前減速度D4) …式10
上記の式10における加速度特性G5(PAPi)は、現在設定されている加速度特性であって、後述するステップS707で自車両の減速度が変更される前の(変更前の)加速度特性である。図8のフローチャートで示すルーチンで変更前の加速度特性G2(PAPi)が設定された後は、この加速度特性G5(PAPi)は、前述の加速度特性G2(PAPi)と一致する。加速度特性G5(PAPi)は、運転者によるアクセル操作量PAPに対応して変化する車両Veの前後加速度であって、第i番目のアクセル操作量PAPi[%]に対応して発生する前後加速度を表している。変更前減速度D4は、前述の図13に示すように、アクセル操作量PAPが0の状態(アクセルOFF)で発生する車両Veの減速度(減速側の前後加速度)である。したがって、「変更前減速度D4=加速度特性G5(0)」である。また、最大加速度Gmaxは、前述の図13に示すように、アクセル操作量PAPが100%の状態で発生する車両Veの前後加速度である。したがって、この場合は、「最大加速度Gmax=加速度特性G5(0)」である。なお、最大加速度Gmaxは、前述のデータベースやビッグデータから取得することができる。あるいは、車両Veで記憶したデータを用いることもできる。
ステップS705では、変更後の加速度特性G6(PAPi)が算出される。加速度特性G6(PAPi)は、後述するステップS707で自車両の減速度と共に変更される(変更後の)加速度特性である。具体的には、この変更後の加速度特性G6(PAPi)は、下記の式11から算出される。
変更後の加速度特性G6(PAPi)
=加速度内分比R3(PAPi)×(最大加速度Gmax-変更後減速度D6)
+変更後減速度D6
…式11
上記の式11における変更後の加速度特性G6(PAPi)は、前述の図13に示すような曲線で表すことができる。あるいは、ステップS704で求められる変更前の加速度内分比R3(PAPi)に応じて、アクセル操作量と前後加速度との関係を直線(一次関数)で表すこともできる。変更後の加速度特性G6(PAPi)は、アクセル操作量および車速の全域について求められ、再設定される。
ステップS706では、自車両(車両Ve)が停止しているか否かが判断される。例えば、速度センサ12または加速度センサ13によって検出した車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であるか否かが判断される。この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、ステップS705で設定した変更後の加速度特性G6(PAPi)に基づいて自車両の減速度を変更する。ただし、走行中に減速度および加速度特性を変更してしまうと、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。そのため、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、このステップS706で自車両が走行中であるか否かを判断し、自車両が停止している場合に、自車両の減速度および加速度特性を変更する。
したがって、自車両が停止中でないことにより、このステップS706で否定的に判断された場合は、この図17のフローチャートにおける以降の制御を実行することなく、この図17のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、自車両が停止中であること、すなわち、車速が0、または、車速の絶対値が所定車速(≒0)以下であることにより、ステップS706で肯定的に判断された場合には、ステップS707へ進む。
ステップS707では、ステップS705で設定した変更後の加速度特性G6(PAPi)に基づいて、自車両の減速度が変更される。具体的には、図20に示すように、前述の図19に示したような先行車両と自車両との減速度差が、自車両の減速度に加算される。それにより、自車両の加速度特性が補正される。
上記のようにして、ステップS707で自車両の減速度が変更されると、その後、この図17のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それとともに、図17のフローチャートで示すルーチンが終了することにより、図4の全体のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
前述したように、この発明の実施形態における加速度特性補正制御では、データベースやビッグデータ、あるいは、自車両で記憶した過去の走行データなどを活用し、走行環境に合わせて、自車両の減速度が変更される。そのため、周囲の車両の流れに沿って、適切な減速度で自車両を走行させることができる。さらに、上記の図16および図17の各フローチャートで示したように、自車両の進行方向の前方に先行車両が存在する場合には、先行車両の減速度データ、あるいは、先行車両の現在の減速度を考慮して、自車両の減速度が変更される。すなわち、「先行車両が存在する場合の加速度特性補正制御」が実行される。そのため、先行車両が存在する場合であっても、先行車両に追従し、適切な減速度で自車両を走行させることができる。
図21のタイムチャートに、この発明の実施形態における加速度特性補正制御により、自車両の加速度特性を補正して減速度を変更した場合(変更後)の車両挙動、ならびに、自車両の加速度特性および減速度を変更する以前(変更前)の車両挙動の一例を示してある。先行車両の後方を自車両が走行している場合に、図21のタイムチャートにおいて、時刻t51で先行車両がアクセルOFFになると、それに伴って、所定時間後の時刻t52で、自車両もアクセルOFFにされる。具体的には、先行車両がアクセルOFFになって減速することにより、先行車に追従する自車両も、減速のためにアクセルペダル5の踏み込みが戻される。すなわち、アクセルペダル5の操作量が0に戻り、アクセルOFFの状態になる。このとき、仮に、この発明の実施形態における加速度特性補正制御を実行することなく、先行車両の加速度特性と自車両の加速度特性との間の乖離が大きくなってしまうと、自車両の減速が不足してしまう。例えば、この図21のタイムチャートで、変更前の自車両の挙動として示すように、先行車両のアクセルOFF時の減速度よりも、自車両のアクセルOFF時の減速度が小さくなり(加速度の絶対値が小さくなり)、自車両の減速が不足してしまう。その結果、自車両の運転者は、時刻t53でブレーキ操作(ブレーキON)を行わなければならなくなる。
それに対して、この発明の実施形態における加速度特性補正制御を実行することにより、時刻t53で、自車両がアクセルOFF(ブレーキOFFも継続)になった後に、自車両の加速度特性が補正されて減速度が変更される。それにより、自車両の減速度が、先行車両の減速度と同等のレベルになる。その結果、時刻t53の時点でも、自車両の運転者はブレーキ操作を行うことなく、自車両を適切に先行車両に追従走行させることができる。すなわち、自車両の運転者に、余分な運転操作の手間を掛けさせることなく、自車両を適切に走行させることができる。