以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本開示の実施の形態に従う電池劣化判定システムが適用された車両の概略構成を示す図である。図1を参照して、車両10は、電池パック100と、電池監視ユニット101と、充電器102と、インレット103と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)12と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)13と、駆動輪14と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)15と、記憶部16と、通信線18とを含む。ECU15及び記憶部16は、通信線18によって接続され、互いに情報を送受可能に構成されている。
車両10は、電池パック100に蓄えられた電力を使って走行するように構成される。また、車両10は、インレット103に接続される車両外部の電源の電力で電池パック100内の電池を充電可能に構成される。以下、車両外部の電源の電力で電池パック100内の電池を充電することを、「外部充電」と称する。車両10は、外部充電可能な態様で電池パック100を搭載する外部充電対応車両である。車両10は、電池パック100に蓄えられた電力のみを用いて走行可能な電気自動車であってもよいし、電池パック100に蓄えられた電力とエンジン(図示せず)の出力との両方を用いて走行可能なプラグインハイブリッド車両であってもよい。外部充電の給電方式は、外部電源がケーブルを介して車両へ電力を供給する方式であってもよいし、外部電源がケーブルを介さずに非接触で車両へ電力を供給する方式(ワイヤレス給電方式)であってもよい。
電池パック100は、蓄電装置としての二次電池(再充電可能な電池)と、二次電池を収容する筐体とを含んで構成される。二次電池としては、たとえばリチウムイオン電池又はニッケル水素電池を採用できる。電池パック100は、直列及び/又は並列に接続された複数のセル(二次電池)から構成される組電池を含んでいてもよい。電池パック100は、MG13が駆動輪14を駆動するための電力をPCU12へ供給する。
図2は、電池パック100内の電池の一例(複数のリチウムイオン電池から構成される組電池)の構成を詳細に示した図である。図3は、図2に示される組電池における1組のセル及びスペーサを拡大して示す図である。図2及び図3において、配列方向D1は、組電池を構成する複数のセル110が配列する方向を示し、幅方向D2は、配列方向D1と直交する方向を示す。
図2を参照して、この組電池は、複数のセル110と複数のスペーサ120とが配列方向D1に交互に積層されて構成される。すなわち、組電池は、配列方向D1に配列されている複数のセル110と、セル110同士の間に介在するスペーサ120とを備える。セル110の個数は、たとえば2個以上20個以下である。ただし、セル110の個数は、組電池に求められる出力等に応じて適宜変更できる。
セル110は、非水電解液二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)である。セル110は、正極端子131及び負極端子132を備える。また、正極端子131と負極端子132との間にはガス放出弁130が設けられている。
図2に示す複数のセル110は、電気的に直列に接続されている。詳しくは、組電池を構成する複数のセル110は、1個ずつ向きを反転させられながら配列されている。そして、一のセル110の正極端子131と、隣接する別のセル110の負極端子132とは、接続部材140(バスバー)によって電気的に接続されている。組電池の配列方向D1の両端には、拘束板141,142が配置されている。また、拘束板141と拘束板142とは、拘束バンド151を介して互いに接続されている。拘束バンド151と拘束板141,142とは、ビス152によって連結されている。ビス152を締め付けることにより、複数のセル110及びスペーサ120を、拘束バンド151及び拘束板141,142によって固定することができる。また、ビス152を締め付けることによりセル110及びスペーサ120に圧力(拘束力)が加わる。
図3を参照して、スペーサ120は、板状の本体部122と、本体部122からセル110側に突出する突起部121(たとえば、リブ)とを有する。図3には、本体部122の片側のみに突起部121が形成されている例を示しているが、本体部122の両側に突起部121が形成されていてもよい。
セル110の2つの主面F1及びF2(配列方向D1の両端の面)のうち、主面F1には突起部121が接触する。また、主面F2には、図3に示していないスペーサ120の本体部122が接触する。セル110の主面F1と本体部122との隙間には冷媒流路が形成されている。スペーサ120は、たとえば樹脂から構成される。
セル110は、電極群114と、ケース115(電池ケース)とを備える。電極群114は、ケース115内に収容されている。また、図示していないが、ケース115内には、電解液も収容されている。電解液に電極群114を浸すことによって、電極群114の内部にも電解液が入る。
電極群114は、正極板111とセパレータ113と負極板112との積層体が巻回されて構成される巻回型の電極群である。正極板111と負極板112とは、セパレータ113を挟んで積層されている。なお、電極群114は、巻回型の電極群に限られず、スタック型の電極群であってもよい。
正極板111は、正極集電体(たとえば、アルミニウム箔)と、正極活物質層とを含む。正極活物質層は、たとえば正極活物質を含有する正極合材を正極集電体の表面に塗工することにより、正極集電体の両面に形成される。負極板112は、負極集電体(たとえば、銅箔)と、負極活物質層とを含む。負極活物質層は、たとえば負極活物質を含有する負極合材を負極集電体の表面に塗工することにより、負極集電体の両面に形成される。セパレータ113は、たとえば微多孔膜である。セパレータ113内に細孔が存在することで、その細孔に電解液が保持されやすくなる。
正極活物質の例としては、リチウム遷移金属酸化物(具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等)が挙げられる。正極活物質層は、正極活物質に加えて、導電材(たとえば、アセチレンブラック)、バインダ(たとえば、ポリフッ化ビニリデン)を含んでいてもよい。負極活物質の例としては、炭素系材料(具体的には、黒鉛等)が挙げられる。負極活物質層は、負極活物質に加えて、増粘材(たとえば、カルボキシメチルセルロース)、バインダ(たとえば、スチレンブタジエンゴム)を含んでいてもよい。
セパレータ113の材料の例としては、ポリオレフィン系樹脂(具体的には、ポリエチレン、又はポリプロピレン等)が挙げられる。また、セパレータ113は、HRL(Heat Resistance Layer)付きセパレータであってもよい。HRL付きセパレータの例としては、第1ポリプロピレン(PP)層と、ポリエチレン(PE)層と、第2ポリプロピレン(PP)層と、これらの層よりも耐熱性の高い多孔質耐熱層(HRL)とが積層されて一体化された絶縁フィルムが挙げられる。たとえば、PP層/PE層/PP層からなる長尺シート状のセパレータ基材の両面にHRLが形成される。
電解液は、非プロトン性溶媒と、この溶媒に溶解しているリチウム塩(たとえば、LiPF6)とを含む。非プロトン性溶媒の例としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、又はジエチルカーボネート(DEC)が挙げられる。2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。また、電解液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の例としては、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)が挙げられる。
ケース115は、たとえば角形ケースである。角形ケースの外形は、直方体(たとえば、扁平状の直方体)である。ケース115の材料の例としては、アルミニウム合金が挙げられる。
再び図1を参照して、電池監視ユニット101は、種々のセンサを含み、電池パック100内の電池の状態を監視するように構成される。電池監視ユニット101は、たとえば、電圧センサ、電流センサ、及び温度センサを含む。電圧センサは、電池パック100内の電池の電圧を検出してECU15へ出力する。電流センサは、電池パック100内の電池の電流を検出してECU15へ出力する。温度センサは、電池パック100内の電池の温度を検出してECU15へ出力する。
インレット103には、充電ケーブルのコネクタ(図示せず)が接続される。コネクタがインレット103に接続されることで、充電設備の外部電源(図示せず)から充電ケーブルを介して電池パック100へ電力を供給することが可能になる。
充電器102は、整流回路及びコンバータ(いずれも図示せず)を含んで構成される。外部電源からの交流電力は、充電ケーブル及びインレット103を通じて充電器102に送られて、充電器102の整流回路により直流電力に変換される。また、整流回路により変換された直流電力は、充電器102のコンバータにより昇圧又は降圧され、電池パック100へ供給される。また、充電器102には、充電器102の状態(電圧等)を検出するためのセンサが設けられている。
MG13は、回転電機であって、たとえば三相交流モータジェネレータである。MG13は、PCU12によって駆動され、駆動輪14を回転させる。また、MG13は、車両10の制動時等に回生発電を行なうことも可能である。MG13により発電された電力は、PCU12により整流されて電池パック100内の電池に充電される。
PCU12は、インバータ及びコンバータを含んで構成され(いずれも図示せず)、ECU15からの駆動信号に従ってMG13を駆動する。PCU12は、MG13の力行駆動時は、電池パック100内の電池に蓄えられた電力を交流電力に変換してMG13へ供給し、MG13の回生駆動時(車両10の制動時等)は、MG13が発電した電力を整流して電池パック100内の電池へ供給する。
ECU15は、演算装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、記憶装置と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。記憶装置は、作業用メモリとしてのRAM(Random Access Memory)と、保存用ストレージ(ROM(Read Only Memory)等)とを含む。ECU15には、各種センサ(電池監視ユニット101のセンサ等)からの信号が入力される。そして、ECU15は、制御装置として機能する。ECU15は、各センサの信号を用いて各機器(充電器102等)を制御する。記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種制御が実行される。ECU15が行なう各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
ECU15は、保存すべき情報(演算結果等)を、記憶部16(たとえば、書き換え可能な不揮発性メモリ)に出力して記憶部16に記憶させる。記憶部16は、電池状態の検出や車両10の制御に用いられる情報等を、あらかじめ記憶していてもよい。たとえば、記憶部16は、電池パック100の初期情報(電池の種類、容量、内部抵抗、電極の厚み、目付量等)をあらかじめ記憶していてもよい。
この実施の形態では、電池パック100の初期情報として、初期状態(劣化が生じていない状態)の二次電池のdQ/dV電圧特性線及びそのピーク位置(Vp)を、記憶部16が記憶している。以下、初期状態の二次電池のVpを「初期Vp」と称する場合がある。
図4は、dQ/dV電圧特性線の一例及びそのピーク位置(Vp)を示す図である。図4のグラフにおいて、横軸は、二次電池の電圧(V)を示し、縦軸は、二次電池の電圧Vの変化量dVに対する二次電池の蓄電量Qの変化量dQの割合(dQ/dV)を示している。図4中の実線k10は、dQ/dV電圧特性線を示している。図4中のVpは、dQ/dV電圧特性線のメインピークの位置を示す電圧値である。dQ/dV電圧特性線は、たとえば、充電中に検出された二次電池の電流及び電圧から求めることができる。
詳細は後述するが、記憶部16は、電池の劣化判定に用いられる対応情報(たとえば、蓄電量Qの算出に用いられるマップ等)をさらに記憶していてもよい。対応情報は、相関する複数のパラメータの関係を示す情報である。なお、対応情報は、マップでもテーブルでも数式でもモデルでもよい。また、対応情報は、複数のマップ等を組み合わせて構成されていてもよい。
ところで、システム保護などの観点から、二次電池を使用している最中にその電池の寿命が到来して電池を使用できなくなることは好ましくない。そのため、二次電池が寿命末期の状態であるか否かを判定することが求められる。
二次電池が寿命末期の状態になると、二次電池に急劣化が発生することが知られている。このため、二次電池に急劣化が発生している場合にその電池が寿命末期の状態であると判定することが考えられる。しかし、二次電池に急劣化が生じていることだけを理由に、その電池が寿命末期の状態であると判定して電池を交換してしまうと、電池の寿命を実質的に短くしてしまう可能性がある。二次電池に急劣化が生じる原因の1つであるハイレート劣化は回復可能な劣化であり、ハイレート劣化が原因で二次電池の容量が低下している場合には、ハイレート劣化に対する回復処理を行なうことで、二次電池の容量を回復させることができるからである。
二次電池に急劣化が生じている場合において、その原因がハイレート劣化であれば、回復処理により電池の容量を回復させることができるため、その電池に回復処理を行なった上で電池を使用し続けることが好ましい。他方、二次電池に急劣化が生じている原因がハイレート劣化以外の劣化であれば、その電池の回復は困難であると考えられるため、その電池の使用をやめることが好ましい。すなわち、二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じている場合に、二次電池が寿命末期の状態であると判定することが好ましい。
ここで、ハイレート劣化以外の劣化の例としては、負極表面への電荷担体の析出が挙げられる。たとえば、リチウムイオン電池(二次電池)の負極表面にリチウムが析出すると、電池の容量が低下する。析出したリチウムを負極から取り除くことができれば電池の容量は回復するが、リチウムを負極から取り除くことは容易ではない。一般には、電池パックからリチウムイオン電池を取り外してその電池の負極を薬剤で洗浄する(すなわち、析出したリチウムを薬剤で溶かす)ことで、リチウムを除去している。よって、こうしたリチウムの析出が原因で二次電池に急劣化が発生した場合には、その電池を使用し続けることは難しい。
二次電池の使用をやめるべき時期(ひいては、使用中の二次電池を交換又は廃棄すべき時期)を正確に検出するためには、二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かを適切に判定することが求められる。この実施の形態に従う電池劣化判定システムでは、ハイレート劣化が生じている二次電池に回復処理(電解液中のイオン濃度分布の偏りを緩和する処理)を行なった場合にdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)が変化することを利用して、二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かを適切に判定している。
詳しくは、ECU15(検出部)が、電池監視ユニット101及び充電器102等と協働して、外部電源の電力を用いた二次電池の充電中におけるdQ/dV電圧特性線のピーク位置を検出するように構成される。また、ECU15(判定部)は、ハイレート劣化に対する回復処理を二次電池に行ない、回復処理を行なう前に検出されるdQ/dV電圧特性線のピーク位置と、回復処理を行なった後に検出されるdQ/dV電圧特性線のピーク位置との位置ずれ度合い(たとえば、各ピーク位置を示す電圧値の差)を用いて、二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かを判定するように構成される。こうした構成により、二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かを適切に判定することが可能になる。以下、図5〜図10を用いて、ECU15が行なう電池の劣化判定について詳述する。
図5は、ECU15により実行される電池劣化判定の処理手順を示したフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、電池パック100内の電池について劣化判定実行要求があった時にメインルーチンから呼び出されて実行される。この要求は、ユーザの指示であってもよいし、タイマー等による開始時刻の到来であってもよい。
図5に示す処理を実行することによって、電池パック100内の電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かが判定される。図5の処理では、まず、電池の状態が検出され、次に、電池に急劣化が生じているか否かが判断される。そして、電池に急劣化が生じている場合には、ハイレート劣化に対する回復処理が行なわれ、回復処理を行なった後に検出されるdQ/dV電圧特性線のピーク位置に基づいて、上記の急劣化の原因が、ハイレート劣化であるか、あるいはそれ以外の劣化であるかが判定される。
電池パック100内の電池は、一例として、次のような構成のセル(リチウムイオン電池)を含む組電池とする。また、ハイレート劣化以外の劣化としては、リチウムイオン電池の負極表面におけるリチウムの析出を想定している。
[リチウムイオン電池の構成]
・正極:層状3元系(NCM:LiNiCoMnO2)
・負極:黒鉛系
・セパレータ:PP/PE/PP+HRL
・リチウム塩:LiPF6=1.2M
・溶媒:EC/DMC/EMC=30/40/30
・添加剤:LiPO2F2=0.08M、LiBOB=0.023M
図5を参照して、ECU15は、電池パック100内の電池のdQ/dV電圧特性線を算出するとともに、そのdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)を検出する(ステップS11)。以下、図6を用いて、Vpの検出方法について説明する。図6は、ECU15により実行されるVp検出の処理手順を示したフローチャートである。
図6を参照して、ECU15は、電池パック100内の電池を充電する準備が完了したか否かを判断する(ステップS21)。ECU15は、たとえば、充電設備の外部電源(図示せず)と電池パック100内の電池とが電気的に接続されており、かつ、電池パック100内の電池の電圧が所定値以下である場合に、充電の準備が完了したと判断する。外部電源に接続された充電ケーブルのコネクタがインレット103に接続されることで、外部電源と電池パック100内の電池とが電気的に接続される。ECU15は、外部電源と電池パック100内の電池とが電気的に接続されたか否かを、充電器102の状態(電圧等)に基づいて検出できる。また、ECU15は、電池監視ユニット101からの信号(電圧センサの検出値)に基づいて、電池パック100内の電池の電圧(セル電圧)が所定値以下であるか否かを検出できる。この実施の形態では、所定値を3.2Vとする。
電池パック100内の電池の電圧が3.2V以下でない場合、ECU15は、電池パック100内の電池の電圧が3.2V以下になるように電池の放電を行なう。この際、放電電流値は1C以下(たとえば、1C)であることが好ましい。たとえば、電池の定格容量が4.0Ahの場合は、1C=4.0Aであるので4.0A以下の電流値で放電することが好ましい。電池パック100内の電池から放電される電力は、車両10に搭載されている他の電池(たとえば、図示しない予備電池)に供給してもよいし、車両10に搭載されている電子機器で消費するようにしてもよい。上記の放電は、ECU15が電池の電圧が所定値以下ではないと判断したときに自動的に実行してもよいし、ユーザの指示に基づいてECU15が実行してもよい。
なお、充電準備の完了条件は、上記に限られず任意に設定できる。たとえば、充電準備の完了を知らせる信号がユーザからECU15に入力された場合に、充電準備が完了したとECU15が判断するようにしてもよい。
ステップS21において充電の準備が完了していないと判断された場合(ステップS21においてNO)には、充電の準備が完了するまで上記ステップS21の判断が繰り返し行なわれる。ただし、ステップS21を最初に実行した時から所定時間経過しても充電の準備が完了しない場合や、ユーザから電池の劣化判定を中止する要求がECU15に入力された場合には、図5の処理及び図6の処理は中止され、処理がメインルーチンへと戻される。
ステップS21において充電の準備が完了したと判断された場合(ステップS21においてYES)には、ECU15が、充電器102等を制御して、電池パック100内の電池の外部充電を開始する(ステップS22)。これにより、外部電源から充電ケーブルを通じて電池パック100内の電池へ電力が供給される。この際、充電電流値は1C以下(たとえば、0.5C)であることが好ましい。
上記外部充電の実行中において、ECU15は、電池パック100内の電池の状態(電流及び電圧)を検出する(ステップS23)。ECU15は、外部充電開始時の電池の電圧(たとえば、ステップS21で検出された外部充電開始時の電池の電圧値)に基づいて、電池に蓄えられている電気量(蓄電量Q)を算出し、算出された蓄電量Q(外部充電開始時の蓄電量Q)を記憶部16に格納する。また、ECU15は、電池の外部充電中に、電池監視ユニット101からの信号(電流センサ及び電圧センサの検出値)に基づいて電池パック100内の電池の電流及び電圧を連続的に検出して記録する。具体的には、ECU15は、所定時間(たとえば、1秒)が経過するごとに電池の電流及び電圧を検出して、各タイミング(所定時間が経過するごとのタイミング)での検出値を記憶部16へ出力する。これにより、記憶部16には、充電中における電池の電流及び電圧の推移を示すデータが格納される。
上記外部充電の実行により、電池パック100内の電池のSOC(State Of Charge)は高くなる。そして、電池のSOCが高くなるほど(すなわち、充電時間が長くなるほど)電池の電圧が高くなる傾向がある。なお、SOCは、満充電容量に対する現在の充電容量の割合(たとえば、百分率)で定義される。
所定の充電終了条件が成立すると、ECU15は、充電器102等を制御して、上記の外部充電を終了する(ステップS24)。この実施の形態では、電池パック100内の電池のSOCが100%になった場合に充電終了条件が成立することとする。ECU15は、電池の電圧(電池監視ユニット101からの信号)に基づいてSOCを算出できる。ただしこれに限られず、ユーザの指示に基づいてECU15が上記の外部充電を終了するようにしてもよい。
充電終了後、ECU15は、充電中に検出したデータを用いて、電池パック100内の電池のdQ/dV電圧特性線を算出する(ステップS25)。
ECU15は、上記の外部充電の実行中に連続的に検出された電池の電流値を用いて、電池の蓄電量Qの推移を示すデータを算出できる。詳しくは、ECU15は、外部充電の実行中に電池に流れる電流値を積算することによって、外部充電の実行中に電池に充電される電気量を算出できる。このため、ECU15は、外部充電開始時に記憶部16に格納した蓄電量Q(外部充電開始時の蓄電量Q)と上記の電流積算値(充電電気量)とに基づいて、外部充電実行中の各タイミング(所定時間が経過するごとのタイミング)での蓄電量Qを算出することができる。
外部充電実行中における電池の電圧の推移を示すデータは、前述のステップS23において記憶部16に格納される。ECU15は、上記のようにして算出された充電中における蓄電量Qの推移を示すデータと、記憶部16に格納された充電中における電池の電圧Vの推移を示すデータとを用いて、外部充電中における電池の蓄電量Qと電圧Vとの関係を示す対応情報(マップ又は数式等)を作成することができる。また、ECU15は、蓄電量Qを電圧Vで微分することにより、外部充電中の各電圧値に対応するdQ/dVの値を算出して、dQ/dV電圧特性線を作成することができる。
次いで、ECU15は、上記のようにして作成されたdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)を検出する(ステップS26)。そして、ピーク位置の検出後、処理は図5のステップS12へと戻される。
なお、dQ/dV電圧特性線の算出(ステップS25)及びピーク位置の検出(ステップS26)は、充電中にデータの取得(ステップS23)と並行して、行なわれてもよい。
次に、ECU15は、以下に示す差分値ΔdQ/dVを用いて、電池パック100内の電池に急劣化が生じているか否かを判断する。
図5を参照して、ECU15は、差分値ΔdQ/dVを算出する(ステップS12)。差分値ΔdQ/dVは、所定の電池電圧範囲内におけるdQ/dVの最大値とdQ/dVの最小値との差に相当する。この実施の形態では、所定の電池電圧範囲を規定する境界値のうち、下限値を3.2V(図6のステップS21において充電開始前の判断に用いられた電圧値)とし、上限値を初期Vpとする。すなわち、電池電圧範囲は3.2V〜初期Vpである。
図7は、差分値ΔdQ/dVの算出方法を説明するための図である。図7において、実線k11は、初期状態(以下、「状態A」と称する)の電池のdQ/dV電圧特性線を示している。実線k12は、状態Aよりも劣化が進行した状態(以下、「状態B」と称する)の電池のdQ/dV電圧特性線を示している。実線k13は、状態Bよりも劣化が進行した状態(以下、「状態C」と称する)の電池のdQ/dV電圧特性線を示している。状態Aの電池のdQ/dV電圧特性線(実線k11)のVpが、初期Vpに相当する。図7に示す例では、初期Vpが3.37Vである。
図7を参照して、状態A〜Cのいずれの状態の電池においても、電池電圧範囲「3.2V〜初期Vp」におけるdQ/dVの最小値は1.0であり、電池電圧範囲「3.2V〜初期Vp」におけるdQ/dVの最大値は、初期VpのdQ/dVである。初期VpのdQ/dVは、電池の劣化が進行するほど小さくなる傾向がある。このため、図7に示されるように、状態Bの電池のdQ/dV電圧特性線(実線k12)から算出される差分値ΔdQ/dVよりも、状態Cの電池のdQ/dV電圧特性線(実線k13)から算出される差分値ΔdQ/dVのほうが小さくなる。よって、差分値ΔdQ/dVから電池の劣化度合い(ひいては、電池の容量低下量)を推定することができる。
再び図5を参照して、ECU15は、上記のようにして算出した差分値ΔdQ/dVを用いて、電池の容量低下率Xを算出する(ステップS13)。ECU15は、まず、上記の差分値ΔdQ/dVに基づいて、電池の容量低下量(すなわち、初期状態の電池の容量から現在の電池の容量がどれだけ低下しているかを示す数値)を求める。
たとえば、差分値ΔdQ/dVと電池の容量低下量との関係を示す情報(以下、「容量低下量算出情報」と称する)を、あらかじめ実験等によって求めて記憶部16に格納してもよい。図8は、容量低下量算出情報の一例(マップ)を示す図である。
図8を参照して、実線k20で示されるように、このマップは、差分値ΔdQ/dVが小さくなるほど電池の容量低下量が大きくなるような関係を規定する。図8に示す例では、差分値ΔdQ/dVと電池の容量低下量とが略比例関係を有する。ECU15は、たとえば図8に示すようなマップを参照することで、ステップS12で算出された差分値ΔdQ/dVから、電池の容量低下量を求めることができる。
次に、ECU15は、上記のようにして求めた電池の容量低下量から、電池パック100内の電池の容量低下率Xを算出する。容量低下率X(%)は、次に示す式(1)に従って算出される。
X=100×(電池の容量低下量)/(電池の初期容量) …(1)
上記式(1)における電池の初期容量は、電池パック100の初期情報として記憶部16に記憶されている。
なお、差分値ΔdQ/dVの算出(ステップS12)及び容量低下率Xの算出(ステップS13)は、前述の外部充電中にデータの取得(図6のステップS23)と並行して、行なわれてもよい。また、電池の蓄電量Q及びSOCは、電池電圧に加えて電池温度等も考慮して算出されてもよい。
ECU15は、上記のようにして算出された容量低下率Xがしきい値Thよりも大きいか否かに基づいて、電池パック100内の電池に急劣化が生じているか否かを判断する。すなわち、容量低下率Xがしきい値Thよりも大きい場合には、電池に急劣化が生じていると判断する。他方、容量低下率Xがしきい値Thよりも小さい場合には、電池に急劣化が生じていないと判断する。
再び図5を参照して、ECU15は、容量低下率Xがしきい値Thよりも大きいか否かを判断する(ステップS14)。しきい値Thは、任意に設定できる。しきい値Thは、固定値であってもよいし、車両の状況等に応じて可変であってもよい。この実施の形態では、しきい値Thを25%とする。
容量低下率Xがしきい値Th以下であると判断された場合(ステップS14においてNO)には、電池に急劣化が生じていないと判断され、処理がメインルーチンへと戻される。他方、容量低下率Xがしきい値Thよりも大きいと判断された場合(ステップS14においてYES)には、電池に急劣化が生じていると判断され、ECU15が、ハイレート劣化に対する回復処理を実行する(ステップS15)。具体的には、ECU15は、充電も放電も行なわない状態で電池パック100内の電池を所定時間(たとえば、72時間)放置することにより電池の電解液中のイオン濃度分布の偏りを緩和する。なお、ハイレート劣化に対する回復処理は、上記のような充放電の停止に限られず任意であり、たとえば、電解液中のイオン濃度分布の偏りを緩和する方向への過放電又は過充電であってもよい。
ハイレート劣化に対する回復処理が完了したら、ECU15は、再び図6に示した手順に従い、電池パック100内の電池のdQ/dV電圧特性線を算出するとともに、そのdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)を検出する(ステップS16)。そして、ECU15は、回復処理を行なう前に検出したVpと、回復処理を行なった後に検出したVpとを比較して、上記の回復処理を行なうことによってVpが変化したか(初期Vp側へ戻ったか)否かを判断する(ステップS17)。また、ECU15は、このステップS17の判断結果に基づいて、上記の急劣化の原因が、ハイレート劣化であるか、あるいはそれ以外の劣化であるかを判定する。以下、図9及び図10を用いて、この電池の劣化判定について説明する。
図9は、上記の回復処理を行なう前(ステップS11)に検出されたdQ/dV電圧特性線(実線k2)を示す図である。図10は、ハイレート劣化が生じている電池について、上記の回復処理を行なった後(ステップS16)に検出されたdQ/dV電圧特性線(実線k3)を示す図である。なお、図9及び図10において、破線k1は、初期状態の電池のdQ/dV電圧特性線を示している。
急劣化が生じている電池のdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)は、図9中の実線k2で示されるように、初期Vpよりも高くなる。ただし、急劣化の原因がハイレート劣化であれば、上記の回復処理(ステップS15)を行なうことで、電池の容量が回復する。回復処理により容量が回復した電池のdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)は、図10中の実線k3で示されるように、回復処理を行なう前(図9中の実線k2参照)よりも初期Vpに近づく。図10に示す例では、dQ/dV電圧特性線(実線k3)のVpが初期Vpと略一致している。
他方、急劣化の原因がハイレート劣化以外の劣化(たとえば、負極表面におけるリチウムの析出)であれば、上記の回復処理(ステップS15)を行なっても電池の容量はほとんど回復しない。このため、ハイレート劣化以外の劣化が生じている電池では、上記の回復処理後においても、図9中の実線k2で示されるdQ/dV電圧特性線とほとんど変わらないdQ/dV電圧特性線が検出される。
再び図5を参照して、ステップS17では、ECU15が、回復処理を行なう前(ステップS11)に検出したVpと、回復処理を行なった後(ステップS16)に検出したVp(回復後Vp)との差(絶対値)が、所定値よりも大きいか否かを判断する。そして、Vpの差が所定値よりも大きい場合には、回復処理によりVpが初期Vp側へ戻ったと判断される。他方、Vpの差が所定値よりも小さい場合には、回復処理によりVpが初期Vp側へ戻らなかったと判断される。ただしこれに限られず、上記のVpの差に加えて、記憶部16内の初期Vpも考慮して、前述の回復処理によりVpが初期Vp側へ戻ったか否かを判断するようにしてもよい。
なお、Vpのずれ度合いとしては、上記の差に代えて比率を採用してもよい。また、ステップS17で用いられる所定値は、任意に設定できるしきい値であり、たとえば記憶部16に記憶されている。あらかじめ実験等により劣化判定に適したしきい値を求めて記憶部16に格納してもよい。
前述の回復処理によりVpが初期Vp側へ戻ったと判断された場合(ステップS17においてNO)には、電池パック100内の電池にハイレート劣化以外の劣化は生じていないと判定され、ECU15が、電池を使用し続けるための追加の回復処理を実行する(ステップS182)。この回復処理は、ハイレート劣化に対する回復処理である。ただし、ステップS15の回復処理によって電池の容量が十分に回復していれば、ステップS182の回復処理を行なわずに電池を使用し続けてもよい。
他方、前述の回復処理によりVpが初期Vp側へ戻らなかったと判断された場合(ステップS17においてYES)には、電池パック100内の電池に回復できない(又は、回復困難な)劣化(すなわち、ハイレート劣化以外の劣化)が生じていると判定される。すなわち、ECU15は、電池パック100内の電池の使用を禁止すべく、電池にハイレート劣化以外の劣化が生じている旨を記憶部16に記録するとともにユーザに報知する(ステップS181)。たとえば、ECU15は、記憶部16内のダイアグ(自己診断)のフラグをオンする(フラグの値を0から1にする)ことにより、電池にハイレート劣化以外の劣化が生じている旨を記憶部16に記録する。これにより、電池パック100内の電池は使用できなくなる。ユーザへの報知の方法は任意であり、表示(文字または画像等)で知らせてもよいし、音(音声を含む)で知らせてもよいし、ランプを点灯(点滅を含む)させてもよい。上記のような記録および報知を行なった後、処理はメインルーチンへと戻される。
以上説明したように、上記の電池劣化判定では、ECU15が、ハイレート劣化に対する回復処理を二次電池に行なう(ステップS15)。また、ECU15は、その回復処理の前と後とでdQ/dV電圧特性線のピーク位置(Vp)を検出する。ECU15は、回復処理前(ステップS11)に検出したVpと回復処理後(ステップS16)に検出したVpとのずれ度合いが所定値よりも大きいか否かを判断する(ステップS17)。そして、Vpのずれ度合いが所定値よりも大きい場合には二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じていないと判定され、二次電池の使用は許可される(ステップS182)。また、Vpのずれ度合いが所定値よりも小さい場合には電池にハイレート劣化以外の劣化が生じていると判定され、二次電池の使用は禁止される(ステップS181)。
上記の電池劣化判定によれば、二次電池に急劣化が生じている場合において、その原因が、ハイレート劣化であるか、あるいはそれ以外の劣化であるかを適切に判定することが可能になる。また、上記の電池劣化判定により、二次電池の使用をやめるべき時期(ひいては、使用中の二次電池を交換又は廃棄すべき時期)をより正確に検出することが可能になる。すなわち、上記の電池劣化判定によれば、まだ使用可能な二次電池を交換又は廃棄してしまうことを抑制して、二次電池の使用期間を延ばすことができる。
図5のステップS14においては、容量低下率Xとしきい値Thとが同じ場合にNOと判断される。しかしこれに限られず、容量低下率Xとしきい値Thとが同じ場合にYESと判断されてステップS15に進むように、ステップS14を変更してもよい。
ハイレート劣化に対する回復処理によりVpが初期Vp側へ戻ったか否かを判断する方法は、上記ステップS17の方法に限られない。たとえば、初期Vpと回復後Vpとのずれ度合いが、所定値よりも大きいか否かを判断するようにしてもよい。そして、Vpのずれ度合いが所定値よりも小さい場合には、回復処理によりVpが初期Vp側へ戻ったと判断され、Vpのずれ度合いが所定値よりも大きい場合には、回復処理によりVpが初期Vp側へ戻らなかったと判断されるようにしてもよい。このように、回復処理前に検出したVpに代えて初期Vpを用いる場合には、回復処理前にVpを検出しなくてもよい。
二次電池にハイレート劣化以外の劣化が生じているか否かの判定及びその結果の出力までをECU15が行ない、判定後の処理(追加の回復処理等)はユーザが判定結果に応じて行なうようにしてもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。